説明

積層電子部品およびその製造方法

【課題】Ni、Cu、またはAlを主成分とする内部電極を用いた場合に、内部電極と外部電極との良好な接合を形成でき、両者の低抵抗接続を実現可能な積層電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】積層電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有するPTCサーミスタであり、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。内部電極2は、Ni、Cu、またはAlを主成分として含んでおり、この内部電極2には、金属成分としてAg、および、Agに対して1質量%以上60質量%以下のZnを含む外部電極5,5が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスからなる素体と内部電極の積層構造を備える積層電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなる積層電子部品の内部電極材料としては、Ag、Ag−Pdなどが用いられてきた。しかしながら、これらの内部電極材料は高価であるため、より安価な材料である卑金属のNiが広く用いられるようになっている。他方、積層電子部品の外部電極材料としては、従来から導電性に優れ低温で焼成可能なAgが多用されており、例えば、このAgからなる外部電極(下地電極)上に、めっきによりNi層およびSn層からなる端子電極を形成して、積層電子部品を得る方法が広く行なわれている。
【0003】
このような積層電子部品の1つであるPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ(温度上昇に伴って抵抗値が上昇する正温度特性を有するサーミスタ)の製造技術として、例えば、特許文献1には、内部電極材料としてNi系金属を用い、外部電極材料としてAgを用いる技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−31471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のような電極材料を用いた場合、NiとAgとは、相互の固溶性が十分ではないため、内部電極と外部電極との接合が不十分となってしまい、これに起因して両者の接続抵抗(接触抵抗)が不都合な程度に上昇してしまうという問題がある。また、内部電極として、Ni以外にもCuやAlを主成分として用いる製造技術も検討されているが、これらのCuやAlも、Niと同様に、従来の外部電極材料であるAgとの良好な接合を形成することが困難な傾向にあるため、上述したNiと同様に、接合不十分による接続抵抗の上昇が生じてしまう。
【0006】
かかる不都合を解消すべく、近年、Niに対して全率固溶するCuを外部電極として用いる技術が注目されている。ところが、Cuは比較的酸化されやすいため、例えば、Cuを含有する導電性ペーストを焼成して外部電極を形成する際には、還元雰囲気下で焼成する必要があり、製造コストが増大してしまうといった不都合がある。また、例えば、PTCサーミスタを製造する場合には、還元雰囲気下で焼成するとPTC特性が得られなくなってしまう。その焼成後に、セラミックス素体を酸化する工程を行ってもCuが酸化して抵抗が増大し素子の特性が大幅に劣化する。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Ni、Cu、またはAlを主成分とする内部電極を用いた場合に、内部電極と外部電極との良好な接合を形成でき、両者の低抵抗接続を実現できる積層電子部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、外部電極の材料組成に着目して鋭意研究を行なった結果、金属成分としてNi、Cu、またはAlを主として含む内部電極との接続抵抗を極めて低く抑えることができる成分及び組成を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明による積層電子部品は、主としてセラミックスからなる素体と、金属成分としてNi、Cu、またはAlを主として含み、かつ、素体内に設けられた少なくとも1つの内部電極とを有する積層体と、金属成分としてAg、および、1質量%以上60質量%以下、好ましくは、10質量%以上60質量%以下、より好ましくは、20質量%以上60質量%以下、更に好ましくは20質量%以上40質量%以下のZnを含み、かつ、内部電極に接続された外部電極とを備える。
【0009】
このような構成を有する積層電子部品において、内部電極と外部電極との接続性が格別に向上される作用機序の詳細については、未だ不明な点があるものの、外部電極におけるZnの含有量が、1質量%以上であると、外部電極に含まれるAgと内部電極との接合部位に、Znが供給され、内部電極と外部電極との間に空隙が生じてしまうことが抑制されることにより、両者の接合密度及び強度が高められ(接合面積が増大し)、その結果、接続抵抗を十分に低下させ得ることが確認された。一方、外部電極におけるZnの含有量が、60質量%以下であると、上述の如く、外部電極の表面にNi/Sn等の端子電極をめっきするときに、めっき液による外部電極の腐食を抑止できる傾向にある。
【0010】
さらに、本発明による積層電子部品の製造方法は、本発明の積層電子部品を有効に製造するための方法であり、主としてセラミックスからなる素体内に、金属成分としてNi、Cu、またはAlを主として含む少なくとも1つの内部電極を設けて積層構造体を形成する工程と、その積層構造体を焼成して積層体(焼結体)を形成する工程と、金属成分としてAg、および、1質量%以上60質量%以下のZnを含む導電性ペーストを、得られた積層体の内部電極と電気的に接続されるように、その積層体に塗布する工程と、導電性ペーストを焼成して外部電極を形成する工程とを有する。
【0011】
このような方法では、導電性ペーストとしてAgおよびZnを含むものを用いてそれを焼成するので、焼成時にペースト中のZnが、外部電極に含まれるAgと内部電極との接合部位に十分にかつ良好に拡散し、内部電極と外部電極との接合性が向上されるものと推定される。ただし、作用はこれに限定されない。また、導電性ペーストが、金属成分としてCuを含まないので、大気焼成が可能となる。これにより、焼成時の雰囲気制御が簡易になり、金属成分としてCuを含む場合に必要とされる還元雰囲気下での焼成が不要となる。またセラミック積層PTCのように還元雰囲気で特性が大幅に変化する材料に対しても焼付法で信頼性の高い電極を安価に形成することが出来るようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層電子部品およびその製造方法によれば、外部電極または導電性ペーストの金属成分としてAg以外に所定量のZnが含まれていることから、内部電極に含まれるNi、Cu、またはAlと、外部電極に含まれるAgとの良好な接合を形成でき、両者の接続抵抗を格別に低減することができるとともに、めっき液による外部電極の腐食を抑止できる。さらに、本発明の積層電子部品の製造方法によれば、導電性ペーストの大気焼成によって外部電極を形成できるので、製造コストの増大を防止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明による積層電子部品の第1実施形態の概略構造を示す断面図である。
積層電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有するPTCサーミスタであり、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。
【0015】
積層体4の両側面には、それらの側面を覆うように外部電極5,5が設けられており、各外部電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0016】
ここで、図2は、積層電子部品1の外部電極5,5の外側に、さらに、めっきにより端子電極7,7が形成された構造を示す概略断面図である。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、外部電極5側から積層形成されたNi層7aおよびSn層7bを含む2層構造を有する。Ni層7aは、Sn層7bと外部電極5との接触を防止して、Snによる外部電極5の腐食を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、Sn層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0017】
本実施形態のように積層電子部品1としてPTCサーミスタを作製する場合には、先述のとおり、素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックスからなる必要があり、より具体的には、例えば、チタン酸バリウム系セラミックスからなるものである。このチタン酸バリウム系セラミックスにおいて、必要に応じて、Baの一部をCa、Sr、Pbなどで置換しても、あるいは、Tiの一部をSn、Zrなどで置換してもよい。また、チタン酸バリウム系半導体セラミックスを得るために添加するドナー元素としては、La、Y、Sm、Ce、Dy、Gd等の希土類元素や、Nb、Ta、Bi、Sb、W等の遷移元素を用いることができる。さらにかかるチタン酸バリウム系半導体セラミックスに、必要に応じてSiO2やMn等を適宜添加して用いてもよい。
【0018】
このように素体2をチタン酸バリウム系半導体セラミックスで形成することにより、キュリー温度で電気抵抗が急上昇するというPTCサーミスタの特性(PTC特性)が良好に得られる。このようなPTCサーミスタの用途としては、過電流保護、定温度発熱体、過熱検知などが挙げられる。
【0019】
素体2を形成するために用いられるチタン酸バリウム系セラミックス粉末の合成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、水熱法、加水分解法、共沈法、固相法、ゾルゲル法等を用いることができ、必要に応じて仮焼が施されてもよい。
【0020】
一方、内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする点から、Ni、Cu、またはAlを主成分とする材料が用いられ、これらの合金または複合材料であってもよく、低温焼成可能な素体2を用いることにより、Ni(融点:1450℃)に比べて融点の低いCu(融点1083℃)およびAl(融点660℃)を用いることができる。
【0021】
他方、外部電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布および焼成により得られる。外部電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分および金属成分を含む外部電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。
【0022】
本実施形態において、外部電極5は、金属成分としてAg、および、Znを含むものであり、このZnが、内部電極3の構成成分であるNi、Cu、またはAlと、外部電極5に含まれるAgとの接合部位に介在することにより、内部電極3と外部電極5との間の接合面積が増大され、これにより、接続抵抗を十分に低下させることができるとともに、内部電極3と外部電極5との機械的な接合強度をも高めることが可能となる。
【0023】
ここで、外部電極5に含まれるZnの量は、Agに対して1〜60質量%、好ましくは、Agに対して10〜60質量%、より好ましくは、Agに対して20〜60質量%、更に好ましくはAgに対して20〜40質量%(Znの質量%=100×A/(A+B)ここでA:一定量のペーストに含まれるZnの重量、B:一定量のペーストに含まれるAgの重量)とされる。
【0024】
この外部電極5におけるZnの含有量が、Agに対して1質量%以上であると、外部電極に含まれるAgと内部電極との接合部位にZnが供給され、内部電極と外部電極との間に空隙が生じてしまうことが抑制され、これにより両者の接合密度及び強度が高められ(接合面積が増大し)、その結果、接続抵抗を十分に低減できる傾向にある。このZnの含有量が、Agに対して好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であれば、更に優れた接続抵抗の低減効果を得ることが可能となる。
【0025】
一方、外部電極5におけるZnの含有量が、Agに対して60質量%以下であると、外部電極5の表面にNi/Snからなる端子電極7をめっきするときに、めっき液による外部電極5の腐食を抑止できる傾向にあり、その結果、内部電極3と外部電極5との接続抵抗を十分に低く、かつ、両者の機械的な接続強度(固着強度)を十分に高く維持することができる。その含有量が、好ましくは、40質量%以下であると、その効果が一層高められ、その結果、内部電極3と外部電極5との固着強度をより一層向上できることが確認された。
【0026】
次に、上記の本実施形態に係る積層電子部品1の製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。図3〜図7は、積層電子部品1を製造する手順の一例を示す工程図である。
【0027】
まず、出発原料として、BaCO3、TiO2および硝酸Sm溶液を所定量混合し、純水およびジルコニアボールとともにポリエチレン製ポットに入れて5時間粉砕混合した後、混合液を蒸発乾燥させて、得られた混合粉を1100度で仮焼成する。
【0028】
次に、仮焼粉に対して、再び、純水およびジルコニアボールを用いて、5〜30時間ボールミルによる粉砕を行なった後、蒸発乾燥を行い、チタン酸バリウム半導体セラミック粉末を得る。例えば、組成が(Ba0.9985Gd0.00150.995(Ti0.9985Nb0.0015)O3からなるチタン酸バリウム半導体セラミック粉末を得る。
【0029】
次いで、得られた粉末に、有機溶剤、有機バインダおよび可塑剤等を添加して、セラミックスラリーとした後、ドクターブレード法により成形して、図3に示すシート状の素体2、いわゆるセラミックグリーンシートを得る。
【0030】
さらに、図4に示すように、シート状の素体2上に、Ni、Cu、またはAlを金属成分として含有する導電性ペーストをスクリーン印刷することにより、内部電極3のパターンを形成する。
【0031】
次に、図5に示すように、内部電極3が形成された複数の素体2と内部電極3が形成されていない複数の素体2とを交互に積層し、それを更に加圧して積層構造体40を得る。
【0032】
それから、図6に示すように、積層構造体40を切断することにより個々の積層構造体41に分割する。切断後の積層構造体41の側面からは、内部電極3の端部が露出した状態とされている。
【0033】
次に、積層構造体41を、大気中で脱バインダ処理した後、H2/N2=3/100の強還元雰囲気中において1300℃で2時間焼成を行い、焼結された積層体4を得る。その後、大気中において600℃〜1000℃の温度で1時間再酸化処理を施す。
【0034】
次いで、図7に示すように、積層体4の側面に、Agと、Znを含む導電性ペーストを塗布し、大気中において600℃〜1000℃の温度で1時間〜数時間で焼成して外部電極5を形成する。
【0035】
以降の工程としては、図2に示すように、外部電極5の表面に、電気めっきによりNi層7aおよびSn層7bを順次堆積させて端子電極7を形成する。例えば、Ni層7aの形成では、バレルめっき方式を採用し、ワット浴を用いてNiを2μm析出させる。また、Sn層7bの形成では、バレルめっき方式を採用し、中性錫めっき浴を用いて、Snを4μm析出させる。それから、端子電極7上または図示しない配線基板の電極上にはんだを形成し、そのはんだを溶融させて端子電極7と基板の電極とを電気的に接続する。
【0036】
かかる積層電子部品1の製造方法によれば、大気雰囲気にて外部電極5用の導電性ペーストを焼成できる。これにより、還元雰囲気で焼成する場合に比べて、雰囲気制御が簡易になるので、製造コストを低下させることができる。また、前記のとおり、特に、PTCサーミスタを作製する際には、外部電極形成用の導電性ペーストを還元雰囲気で焼成すると、積層体がPTC特性を発現しなくなるが、本発明によれば、積層体4のPTC特性を維持しつつ外部電極5を形成することができる。
【0037】
なお、上述したとおり、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。例えば素体2はセラミックスであればよく、半導体セラミックスである必要はない。例えば、積層電子部品1,9として積層セラミックコンデンサを作製する場合には、素体2は、絶縁性のセラミックスからなるものを用いることができる。さらに、内部電極3は、少なくとも1つ以上形成すればよい。またさらに、端子電極7は必ずしも必須ではない。
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
(実施例1)
上述した製造手順と同様にして、組成が(Ba0.9985Gd0.00150.995(Ti0.9985Nb0.0015)O3からなる素体2と、Niからなる複数の内部電極3を有する3.2mm×1.6mm×0.5mmサイズの積層体4を作製し、この積層体4の側面に、ZnおよびAgの含有割合が種々異なる導電性ペーストを塗布し、大気雰囲気中において600℃で焼成して外部電極5を形成することにより、本発明による積層電子部品としてのPTCサーミスタを得た。
【0040】
(実施例2)
素体2としてPb(Zn1/3Nb2/30.1(Ti0.43Zr0.47)O3に副成分としてTa25を0.2質量%添加したものを用い、内部電極3としてCuからなるものを用い、外部電極5形成用の導電性ペーストにおけるZn量を、Agに対して40質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして本発明による積層電子部品としてのPTCサーミスタを得た。
【0041】
(比較例1)
外部電極5形成用の導電性ペーストとして、Agに対してPdを30質量%含むものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして従来の積層電子部品としてのPTCサーミスタを得た。
【0042】
(比較例2)
外部電極5形成用の導電性ペーストとして、Agに対してCuを30質量%含むものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして従来の積層電子部品としてのPTCサーミスタを得た。
【0043】
(試験評価1)
実施例1で得られた種々のPTCサーミスタについて、めっき液への浸漬試験後のZn空孔率(%)および温度サイクル試験(ヒートショックテスト)での故障発生率(%)を測定した。めっき液への浸漬試験では、PTCサーミスタを50℃のワット浴に3時間浸漬し、めっき後のZn空孔率を、以下の式により算出した。
Zn空孔率=100×(浸漬試験前のPTCサーミスタ重量−浸漬試験後のPTCサーミスタ重量)/((外部電極形成後のPTCサーミスタ重量―外部電極形成前のPTCサーミスタ重量)×外部電極中のZnの含有割合)
【0044】
また、温度サイクル試験では、温度範囲−40℃〜85℃で700サイクル実施する条件で、各PTCサーミスタにつき100個のサンプルを用いて試験を行なった。なお、温度サイクル試験では、室温での抵抗が試験実施前に比して30%上昇したチップを故障とみなした。
【0045】
実施例1のPTCサーミスタにおける測定結果を表1にまとめて示す。表1においてZnの含有割合は、Agに対する質量%である。また、図8は、表1のデータをグラフ化したものである。図8において、Aは浸漬試験後のZnの空孔率(%)を示し、Bは温度サイクル試験での故障発生率(%)を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1および図8より、Znの含有割合が1質量%未満の場合には、温度サイクル試験での故障発生率が比較的高いことが確認された。これは、Zn量の不足により、内部電極3と外部電極5との接合部位に生じた空隙がZnで十分に充填されず、両者の接合面積が過度に少なくなってしまうことによるものと推定される。
【0048】
逆に、Znの含有割合が60質量%を超過すると、空孔率が3%を超える程にめっき液による腐食が顕著となる傾向にあることが確認された。好ましくは、Znの含有割合が40質量%以下であれば、浸漬試験後の空孔率を1%未満に抑えることができることも判明した。
【0049】
次に、導電性ペースト中のZnの含有割合が異なる外部電極5が形成された実施例1のPTCサーミスタについて、接触抵抗値および固着強度を測定した。
【0050】
外部電極5の接触抵抗値は、以下のようにして測定した。まず、積層体4の側面に外部電極5を形成し、積層体4の表面をレジストで覆い端子電極7をめっき形成した後に、25℃での抵抗値R1を測定した。次に、比較参照のために同様にして作製した積層体4に、外部電極5の代わりにInGaを室温で塗布して25℃での抵抗値R2を測定した。そして、両者の差R1−R2を内部電極3と外部電極5との接触抵抗値として算出した。
また、固着強度は、外部電極5が形成されたPTCサーミスタを、標準ランド寸法のガラスエポキシ基板に鉛フリーはんだにてはんだ付けを行い、規格番号EIAJET−7403(表面実装部品の機会強度試験方法)に準じて測定した。
【0051】
実施例1のPTCサーミスタについての接触抵抗値および固着強度の測定結果を表2にまとめて示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示す結果より、良品の接触抵抗値を5Ωとすると、Znの含有割合が20質量%以上60質量%以下であると好ましいことが確認された。Znの含有割合が20質量%未満では、Zn量の不足により、内部電極3中のNiとZnとの接合面積が少なくなり、抵抗が増大してしまう傾向にあると推測される。また、Znの含有割合が60質量%を超えると、めっき液によるZnの腐食量が増大してしまい、その結果、内部電極3のNiとZnとの接合面積が減少してしまい、抵抗が増大する傾向にあると推測される。さらに、Znが60質量%を超えると、めっき液によるZnの侵食が顕著となり、固着強度が不都合な程度に低下してしまうこと、および、この固着強度の観点からは、Znの含有割合が40質量%以下であればより好適であることも確認された。
【0054】
(試験評価2)
実施例2で得られたPTCサーミスタについて、外部電極5の接触抵抗値および固着強度を、上記の試験評価1と同様にして測定した。その結果、実施例2のPTCサーミスタの外部電極5の接触抵抗値は0.02Ωであり、固着強度は12Nであった。
【0055】
(試験評価3)
比較例1及び2で得られた各PTCサーミスタについて、外部電極の接触抵抗値を、上記の試験評価1と同様にして測定した。その結果、比較例1のPTCサーミスタの外部電極の接触抵抗は2.2Ωであり、比較例2のPTCサーミスタの外部電極の接触抵抗値は35922Ωであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなる積層電子部品等、および、それらを備える機器、装置、システム、設備等、ならびに、それらの製造に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による積層電子部品の第1実施形態の概略構造を示す断面図である。
【図2】積層電子部品の外部電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図3】積層電子部品を製造する手順の一例を示す工程図である。
【図4】積層電子部品を製造する手順の一例を示す工程図である。
【図5】積層電子部品を製造する手順の一例を示す工程図である。
【図6】積層電子部品を製造する手順の一例を示す工程図である。
【図7】積層電子部品を製造する手順の一例を示す工程図である。
【図8】Znの含有割合に対する、めっき後のZn空孔率および温度サイクル試験での故障発生率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1,9…積層電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体(焼結体)、5…外部電極、7…端子電極、7a…Ni層、7b…Sn層、8…オーバーコート層、10…単位構造、40,41…積層構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてセラミックスからなる素体と、金属成分としてNi、Cu、またはAlを主として含み、かつ、前記素体内に設けられた少なくとも1つの内部電極と、を有する積層体と、
金属成分としてAg、および、1質量%以上60質量%以下のZnを含み、かつ、前記内部電極に接続された外部電極と、
を備える積層電子部品。
【請求項2】
前記外部電極は、20質量%以上60質量%以下のZnを含むものである、
請求項1記載の積層電子部品。
【請求項3】
主としてセラミックスからなる素体内に、金属成分としてNi、Cu、またはAlを主として含む少なくとも1つの内部電極を設けて積層構造体を形成する工程と、
前記積層構造体を焼成して積層体を形成する工程と、
金属成分としてAg、および、1質量%以上60質量%以下のZnを含む導電性ペーストを、前記積層体の内部電極と電気的に接続するように、前記積層体に塗布する工程と、
前記導電性ペーストを焼成して外部電極を形成する工程と、
を有する積層電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−206430(P2009−206430A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49827(P2008−49827)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】