説明

窒化アルミニウム基複合材料、その製造方法及び半導体製造装置用部材

【課題】アルミナと同等以上の耐食性や体積抵抗率を有しながらアルミナより高い熱伝導率を有する新規な材料を提供する。
【解決手段】本発明の窒化アルミニウム基複合材料は、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下であり、熱伝導率が40〜150W/mK、熱膨張係数が7.3〜8.4ppm/℃、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上であり、構成相として、AlNとMgOとを含み、更に、希土類金属酸化物、希土類金属−アルミニウム複合酸化物、アルカリ土類金属−アルミニウム複合酸化物、希土類金属酸フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム基複合材料、その製造方法及び半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置用部材として、アルミナ焼結体に電極が埋設された静電チャックやアルミナ焼結体に抵抗発熱体が埋設された加熱装置などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−196864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルミナ焼結体は、熱伝導率が約30W/mKであり、ウエハー均熱性や昇降温に対する応答性が十分とはいえなかった。またハロゲン系プラズマガスに対する耐食性や耐久性も十分とはいえなかった。このため、アルミナと同等の体積抵抗率を有し、アルミナより高い熱伝導率や耐食性を有する新規な材料が求められている。一方、静電チャックにおいて、誘電層をアルミナ焼結体で作製し、この誘電層を支持する支持基体を上述した新規な材料で作製し、両者を接合することも考えられる。その場合には、新規な材料は、25〜800℃における熱膨張係数をアルミナの7.9ppm/℃と近い値に制御する必要がある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、アルミナと同等の熱膨張係数や体積抵抗率を有しながらアルミナより高い熱伝導率や耐食性を有する新規な材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料は、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下である高純度な窒化アルミニウム基複合材料において、熱伝導率が40〜150W/mK、熱膨張係数が7.3〜8.4ppm/℃、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上であり、構成相として、AlNとMgOとを含み、更に、希土類金属酸化物、希土類金属−アルミニウム複合酸化物、アルカリ土類金属−アルミニウム複合酸化物、希土類金属酸フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。
【0007】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法は、窒化アルミニウムを49.8〜69.4vol%;酸化マグネシウムを20.2〜40.0vol%;希土類金属酸化物を0.5〜30.0vol%及び/又は希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.5〜5.7vol%含み、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下である混合物を、ホットプレスを用いて焼成するものである。この製造方法は、上述した本発明の窒化アルミニウム基複合材料を製造するのに適している。
【0008】
本発明の半導体製造装置用部材は、上述した窒化アルミニウム基複合材料を利用したもの、あるいは、上述した窒化アルミニウム基複合材料を利用した第1構造体と酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムを利用した第2構造体とが貼り合わされたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料は、アルミナ焼結体と同等の体積抵抗率を有しながらアルミナ焼結体より高い熱伝導率や耐食性を有する新規な材料のため、アルミナ焼結体の代替材料として半導体製造装置用部材に利用したり、アルミナ焼結体と接合したものを半導体製造装置用部材に利用したりすることができる。
【0010】
こうした効果が得られる理由は、窒化アルミニウムが高熱伝導性に寄与し、酸化マグネシウムが高熱膨張・高電気抵抗・高耐食性に寄与し、希土類金属酸化物、希土類金属−アルミニウム複合酸化物、アルカリ土類金属−アルミニウム複合酸化物、希土類金属酸フッ化物、酸化カルシウム又はフッ化カルシウムが窒化アルミニウムの熱伝導率の向上や低温焼成に寄与しているからと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料は、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下である高純度な窒化アルミニウム基複合材料において、熱伝導率が40〜150W/mK、熱膨張係数が7.3〜8.4ppm/℃、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上であり、構成相として、AlNとMgOとを含み、更に、希土類金属酸化物、希土類金属−アルミニウム複合酸化物、アルカリ土類金属−アルミニウム複合酸化物、希土類金属酸フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである。
【0012】
ここで、希土類金属酸化物としては、Sc23,Y23,La23,CeO2,Pr23,Nd23,Pm23,Sm23,Eu23,Gd23,Tb23,Dy23,Ho23,Er23,Tm23,Yb23,Lu23が挙げられるが、このうち、Y23,Dy23,Ho23,Er23,Tm23,Yb23,Lu23が好ましく、Y23やYb23が特に好ましい。希土類金属−アルミニウム複合酸化物としては、例えば希土類金属がYの場合には、YAG(Y3Al512),YAL(YAlO3),YAM(Y4Al29)などが挙げられる。アルカリ土類金属−アルミニウム複合酸化物としては、アルカリ土類金属がMgの場合にはMgAl24などが挙げられ、Caの場合にはCa3Al26などが挙げられる。上述した希土類金属の酸フッ化物としては、ScOF,YOF,LaOF,CeOF,PrOF,NdOF,PmOF,SmOF,EuOF,GdOF,TbOF,DyOF,HoOF,ErOF,TmOF,YbOF,LuOFが挙げられるが、このうち、YOFやYbOFが好ましい。
【0013】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料は、前出の群を、RE23,RE3Al512,REAlO3,RE4Al29,REOF(REは希土類金属),CaO,CaF2,MgAl24,Ca3Al26 からなる群としてもよい。希土類金属はYやYbが好ましい。
【0014】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料は、熱伝導率が40〜150W/mKと高いため、ヒーターなどで温度調節する場合の昇温・降温に対する応答性が良好になる。また、熱膨張係数が7.3〜8.4ppm/℃であり、アルミナの熱膨張係数とあまり差がないため、アルミナ焼結体との接合が容易になるし接合後の剥がれなども生じにくい。更に、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上であるため、高絶縁性が要求される材料(例えば静電チャックの材料)としても利用することができる。更にまた、フッ素系プラズマによるエッチングレートがアルミナより遅いため(アルミナの0.2〜0.6倍)、耐久性が高く、半導体製造装置用部材として好適に使用できる。
【0015】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料において、開気孔率は0.5%以下であることが好ましく、窒化アルミニウムの粒径が3μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法は、窒化アルミニウムを35〜75vol%;酸化マグネシウムを20〜50vol%;希土類金属酸化物、希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.5〜30vol%含む混合物をホットプレスを用いて焼成するものとしてもよいが、好ましくは、窒化アルミニウムを49.8〜69.4vol%;酸化マグネシウムを20.2〜40.0vol%;希土類金属酸化物を0.5〜30.0vol%及び/又は希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.5〜5.7vol%含み、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下である混合物を、ホットプレスを用いて焼成するものである。
【0017】
窒化アルミニウムの含有量は、35〜75vol%が好ましく、49.8〜69.4vol%がより好ましい。75vol%を超えると、熱膨張係数が小さくなりすぎてアルミナ焼結体との接合が困難になるため好ましくない。また、35vol%未満だと、熱伝導率が十分向上しないため好ましくない。
【0018】
酸化マグネシウムの含有量は、20〜50vol%が好ましく、20.2〜40.0vol%がより好ましい。50vol%を超えると、熱伝導率及び強度が低くなると共に、熱膨張係数が大きくなりすぎてアルミナ焼結体との接合が困難になるため好ましくない。また、20vol%未満だと、耐食性が低くなると共に、熱膨張係数が小さくなりすぎてアルミナ焼結体との接合が困難になるため好ましくない。
【0019】
希土類金属酸化物、希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の含有量は、0.5〜30vol%が好ましい。30vol%を超えると、熱伝導率及び強度が低くなるため、好ましくない。また、0.5vol%未満だと、熱伝導率の向上と低温焼成に十分寄与しなくなるため好ましくない。ここで、希土類金属としてはイットリウム又はイッテリビウムが好ましい。なお、希土類金属酸化物の含有量は、0.5〜30.0vol%が好ましく、希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の含有量は、0.5〜5.7vol%が好ましい。希土類金属酸化物は、主に熱伝導率の向上に寄与し、希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、フッ化アルミニウムは、主に低温焼結に寄与し、酸化カルシウムは、熱伝導率の向上と低温焼結の両方に寄与する。
【0020】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法において、前記混合物中の遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素の含有量は、1000ppm以下である。例えば窒化ホウ素は熱伝導率の向上を妨げるものであるが、ここではホウ素の含有量が1000ppm以下であるため、その影響はほとんどない。また、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素はプラズマ腐食により半導体製造用装置内に飛散して、プラズマを不安定にしたり、半導体製品を汚染して歩留まり低下を引き起こす可能性があるが、上記元素が1000ppm以下であるため、その影響はほとんどない。
【0021】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法では、ホットプレスを用いて焼成するため、高密度まで緻密化することが可能となり、ひいては熱伝導率を高めることができる。
【0022】
また、AlNにY23、YF3、CaF2、CaOなどの添加剤を添加した場合、高温で焼成した方が添加剤がAlN粒内の固溶酸素を粒界にトラップするため熱伝導率が高くなる。一方で、AlNにMgOを添加した場合、MgOはAlN粒内に固溶するため、低温で焼成する方が熱伝導率は向上する。このため、AlNにY23とMgOを添加した場合は焼成温度が高すぎると熱伝導率が低下するため、1800℃以下で焼成することが好ましく、1350〜1600℃で焼成することがより好ましく、1400〜1600℃で焼成することが更に好ましい。このため、低温で緻密化できるホットプレスが好ましい。ホットプレスのプレス圧力は50〜300kgf/cm2が好ましい。また、ホットプレス焼成の時間は、適宜設定すればよいが、1〜5時間が好ましい。ホットプレス焼成は、真空又は不活性雰囲気下で行うが、常温から所定温度(例えば1000℃とか1100℃)に至るまでは真空雰囲気とし、所定温度から焼成温度に至るまでの間及びその焼成温度で保持する間は不活性雰囲気としてもよい。なお、所定温度と焼成温度とは同じ温度であってもよい。ここで、不活性雰囲気とは、焼成に影響を与えないガス雰囲気であればよく、例えば窒素雰囲気、ヘリウム雰囲気、アルゴン雰囲気などが挙げられる。
【0023】
また、常圧焼成した場合、緻密化しにくく、密度を高めるために焼成温度を高くする必要があるが、構成相中のAlNとMgO量が減少し、MgAl24が生成するため、熱伝導率や耐食性が低下する。この原因は不明であるが、常圧焼成では下記式の反応が起こっていると推測される。一方、ホットプレスを使用した場合、下記式の反応を抑制できることが分かった。これは、ホットプレスだと密閉された型内で焼成するため、気体が関与する反応を抑制できることおよび低温で緻密化できるからだと推測される。
2AlN+4MgO=MgAl24+3Mg+N2
【0024】
本発明の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法において、混合物を構成する原料粒子の2つ以上が複合化されて複合粉末となっていてもよい。例えば、複合粉末が窒化アルミニウム粒子の表面に希土類金属酸化物が複合化されている粒子であってもよいし、酸化マグネシウム粒子の表面に希土類金属酸化物が複合化されている粒子であってもよい。
【0025】
本発明の半導体製造装置用部材は、上述した窒化アルミニウム基複合材料を利用したもの、あるいは、上述した窒化アルミニウム基複合材料を利用した第1構造体と酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムを利用した第2構造体とが貼り合わされたものである。第1構造体と第2構造体とを貼り合わせるには、例えば、予め焼結した第2構造体の片面を研磨する。次に、その研磨した面に電極ペーストを印刷する。続いて、第2構造体の電極ペーストを印刷した面上に第1構造体の原料粉末を成形して第1構造体の成形体としたあとホットプレス焼結を1350〜1600℃で行うことにより、第1構造体と第2構造体が貼り合わされると共に、間に平板電極が形成された半導体製造装置用部材とする。
【実施例】
【0026】
実施例1〜34および比較例1〜7について、表1に示す配合比で窒化アルミニウムとマグネシアとその他の添加剤とからなる原料粉を調合した。なお、窒化アルミニウム粉、マグネシア粉、イットリア粉は、いずれも市販粉末を使用した。具体的には以下のとおり。AlN(トクヤマ製Hグレード、含有する不純物を下記表2に示す)、MgO(協和化学工業製T、純度99.4%以上、含有する不純物を下記表2に示す)、Y23(信越化学社製UU−HP、純度99.9%以上)、CaF2(高純度化学社製、純度99.9%以上)、Yb23(信越化学社製、純度99.9%以上)、YbF3(高純度化学社製、純度99.9%以上)、YF3(高純度化学社製、純度99.9%以上)、MgF2(高純度化学社製、純度99.9%以上)、AlF3(高純度化学社製、純度99.9%以上)、CaCO3(白石工業製、Silver−W)。調合後の原料粉末にイソプロピルアルコールを溶媒として加え、ナイロン製のポット及び玉石を用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、110℃で乾燥して、焼成用原料粉末を得た。次に、焼成用原料粉末を金型を用い一軸加圧成形し、直径φ50mm、厚さ20mmの円盤状成形体を作製した。なお、成形時の圧力は200kgf/cm2とした。得られた成形体を黒鉛モールドに収納し、ホットプレス焼成を行い、焼結体を得た。ホットプレス焼成の条件は、プレス圧力を200kgf/cm2とし、焼成温度を1400〜1800℃とした。この焼成温度を2時間保持したのち冷却した。なお、室温から1000℃までは炉内を真空雰囲気とし、1000℃から最高温度までは1.5kgf/cm2の条件で窒素ガスを導入し、窒素雰囲気とした。なお、実施例22では、窒化アルミニウムとイットリア粉末とを粒子複合化装置(ホソカワミクロン製のノビルタ)により複合化して、窒化アルミニウム粒子の表面にイットリア粉末が付着した複合粉末とした後にマグネシアと混合した以外は、同様のプロセスで作製した。酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムとの貼り合わせは、予め焼結して、片面を研磨した直径φ50mm、厚さ5mmの酸化アルミニウムまたは酸化イットリウム上に、上記混合粉末の円盤状成形体を成形し、1400〜1800℃でホットプレス焼結を行うことにより作成した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
下記の評価項目について評価した。その結果を表3及び表4に示す。なお、表4中、YALはYAlO3、YAMはY4Al29を示す。
(1)開気孔率:アルキメデス法にて測定した。
(2)嵩密度:アルキメデス法にて測定した。
(3)四点曲げ強度:JIS R1601に従った四点曲げ試験により評価した。
(4)破壊靱性:圧入荷重9.8N、メディアンクラック適応式(JIS R 1607)により測定した。
(5)熱伝導率:レーザーフラッシュ法により測定した。
(6)熱膨張係数(40℃−800℃):ディラトメーターにより測定した。
(7)体積抵抗率:直流三端子法で、JIS C2141に従い測定した。
(8)AlNの粒径(微構造観察):研磨面をSEMで観察し、平均粒径を求めた。
(9)比エッチングレート(対アルミナ):下記条件でプラズマ耐食試験を行うことにより求めた。
ガスフロー:NF3/O2/Ar=75/35/140sccm、
真空度:0.05Torr、
ICP:800W、バイアス:450W、
インナー石英管外温度:24−99℃、
試験時間:5hrs、
エッチングレートの測定:マスク面と暴露面の段差測定(段差計使用)、
比エッチングレート:アルミナ焼結体のエッチングレートに対する作製した焼結体のエッチングレートの比。
(10)構成相:粉末X線回折法により結晶相を同定した。
(11)実施例31で得られた窒化アルミニウム基複合材料につき、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の含有率をICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)により測定したところ、重量割合でFe,Ni,Crは何れも測定限界の100ppm以下,Li,Na,Kも測定限界の100ppm以下,Bも測定限界の100ppm以下であり、いずれも1000ppm以下であった。このことから、焼成段階で遷移金属、アルカリ金属、ホウ素が混入してくるおそれはなく、焼成前の混合物に不純物として含まれる量を超えることはないことを確認した。各実施例で用いた原料は、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素が重量割合でいずれも1000ppm以下であったため、得られる窒化アルミニウム基複合材料でもこれらの重量割合は1000ppm以下になる。
(12)酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムとの貼り合わせの可否評価は、各材料の界面を含む試験片を鏡面まで研磨し、界面をSEMにより500倍で観察して、クラックがない場合を○、クラックがある場合を×として評価した。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表3,4に示すように、実施例1〜13では、構成相にAlNとMgOと希土類金属−アルミニウム複合酸化物(YAL又はYAM)を含むため、アルミナと同等の体積抵抗率(1×1014Ωcm以上)、熱膨張係数(7.3〜8.4ppm/℃)を有しながらアルミナより高い熱伝導率(40W/mK以上)を有していた。また、構成相にMgOを含んでいるため、アルミナよりも耐食性に優れる。これに対して、比較例1,2では、構成相にAlNとMgOのみを含むため熱伝導率が27,38W/mKと低く、また、比較例3〜5では、構成相にAlNとY23とYAMを含むもののMgOを含まないため、熱膨張係数が6.5ppm/℃以下と低いうえ体積抵抗率も1×1014Ωcm未満であった。
【0033】
実施例14〜22では、構成相にAlNとMgOとYAMとCaF2を含むかAlNとMgOとCaF2を含むため、アルミナと同等の体積抵抗率、熱膨張係数を有しながらアルミナより高い熱伝導率を有していた。また、構成相にMgOを含んでいるため、アルミナよりも耐食性に優れる。更に、原料粉末にCaF2を加えたため、実施例1〜13に比べて低温で焼結することができた。なお、比較例6,7では、原料の組成を実施例20〜22と同じにしたが、ホットプレス焼成ではなく常圧で焼成したため緻密化しなかった。また、実施例18,19では体積抵抗率を測定していないが、実施例1〜17の結果からCaF2の添加の有無にかかわらず体積抵抗率は大きく変わらないこと、比較例2ではAlNとMgOのみを用いて体積抵抗率が1×1014Ωcm以上だったことからすると、実施例18,19の体積抵抗率は比較例2と同等すなわち1×1014Ωcm以上であると予測される。
【0034】
実施例23〜25,27〜34では、構成相にAlNとMgOに加えて、イットリウム−アルミニウム複合酸化物、イッテルビウム−アルミニウム複合酸化物及びマグネシウム−アルミニウム複合酸化物のいずれかと、酸化イットリウム及び酸化イッテルビウムのいずれかを含み、実施例26では、構成相にAlNとMgOに加えて、酸化カルシウムとカルシウム−アルミニウム複合酸化物を含んでいるため、アルミナと同等の体積抵抗率、熱膨張係数を有しながらアルミナより高い熱伝導率を有していた。また、構成相にMgOを含んでいるため、アルミナよりも耐食性に優れる。更に、原料にYF3,YbF3,MgF2,AlF3又はCaOを加えたため、実施例1〜13に比べて低温で焼結することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下である高純度な窒化アルミニウム基複合材料において、
熱伝導率が40〜150W/mK、熱膨張係数が7.3〜8.4ppm/℃、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上であり、構成相として、AlNとMgOとを含み、更に、希土類金属酸化物、希土類金属−アルミニウム複合酸化物、アルカリ土類金属−アルミニウム複合酸化物、希土類金属酸フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
窒化アルミニウム基複合材料。
【請求項2】
前記群は、RE23,RE3Al512,REAlO3,RE4Al29,REOF(REは希土類金属),CaO,CaF2,MgAl24,Ca3Al26 からなる、
請求項1記載の窒化アルミニウム基複合材料。
【請求項3】
希土類金属がイットリウム又はイッテルビウムである、
請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム基複合材料。
【請求項4】
開気孔率が0.5%以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料。
【請求項5】
窒化アルミニウムの粒径が3μm以下である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料。
【請求項6】
フッ素系プラズマによるエッチングレートがアルミナの0.2〜0.6倍である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料。
【請求項7】
窒化アルミニウムを49.8〜69.4vol%;酸化マグネシウムを20.2〜40.0vol%;希土類金属酸化物を0.5〜30.0vol%及び/又は希土類金属フッ化物、アルカリ土類金属フッ化物、酸化カルシウム及びフッ化アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を0.5〜5.7vol%含み、遷移金属、アルカリ金属、ホウ素の各元素がそれぞれ1000ppm以下である混合物を、ホットプレスを用いて焼成することにより、窒化アルミニウム基複合材料を製造する、
窒化アルミニウム基複合材料の製造方法。
【請求項8】
焼成温度が1350〜1600℃である、
請求項7に記載の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記混合物を構成する原料粒子の2つ以上が複合化されて複合粉末となっている、
請求項7又は8に記載の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記複合粉末が窒化アルミニウム粒子の表面に希土類金属酸化物が複合化されている粒子である、
請求項7〜9のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記複合粉末が酸化マグネシウム粒子の表面に希土類金属酸化物が複合化されている粒子である、
請求項7〜10のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料を利用した、半導体製造装置用部材。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム基複合材料を利用した第1構造体と、酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムを利用した第2構造体とが貼り合わされた、半導体製造装置用部材。

【公開番号】特開2010−248054(P2010−248054A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216178(P2009−216178)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】