説明

窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】 窒化物半導体発光素子を高精度に歩留り良く分割するするとともに、光取り出し効率の良い窒化物半導体発光素子を提供することである。
【解決手段】 サファイア基板11上にp型伝導型窒化物半導体層21及びn型伝導型窒化物半導体層20が積層されたIII族窒化物半導体発光素子10は、レーザ光遮蔽カバーを被せて窒化物半導体発光素子10の半導体層21側へレーザ光を照射し、V字型断面の溝23を形成する工程と、エッチングカバー24を被せてドライエッチングで溝23周辺の半導体層を除去する工程と、溝23を起点として窒化物半導体発光素子10を分割する工程とを備えた製造方法によって作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に少なくともp型及びn型伝導型窒化物半導体層が積層されたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に窒化物半導体はサファイア基板の上に積層される。サファイア結晶は六方晶であるため劈開性を有しない。従って、ダイヤモンドを先端に備えたスクライブポイントを用いて切断することは困難であった。
【0003】
そこで、特許文献1の製造方法では、ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第1の割溝を所望のチップ形状で線上に形成するとともに、この第1の割溝を、窒化ガリウム系化合物半導体層を貫通してサファイア基板の一部を切除する深さに形成する工程と、ウエハーのサファイア基板側から第1の線幅よりも細い線幅を有する第2の割溝を形成する工程と、第1の割溝、および第2の割溝に沿ってウエハーをチップ状に分離する工程とを具備している。
【特許文献1】特許第2861991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1等のように、ウエハーをスクライブポイントを用いて分割する手法は、スクライブポイントの摩耗が激しいのでその状態を正確に把握することが難しく、高精度に歩留り良くウエハーを分割するのは難しかった。また、分割時に基板に大きな力が加わるので、結晶の歪み等が懸念される。
【0005】
本発明は、窒化物半導体発光素子を高精度に歩留り良く分割する製造方法を提供することを目的とする。また、光取り出し効率の良い窒化物半導体発光素子を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、基板上に少なくともp型及びn型伝導型窒化物半導体層が積層されたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、前記窒化物半導体発光素子の半導体層側へレーザ光を照射し、V字型断面の溝を形成する工程と、ドライエッチングで前記溝周辺の半導体層を除去する工程と、前記溝を起点として前記窒化物半導体発光素子を分割する工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
なお、前記ドライエッチングには、塩素又は/及びフッ素を含むプラズマガスを用いることができる。
【0008】
また、前記V字型断面の溝の深さは、前記基板に到達することが望ましい。
【0009】
また、前記V字型断面の溝の幅は、該溝の深さの2倍以上であることが望ましい。
【0010】
また、前記レーザ光の照射時は、前記溝を形成する部分以外の半導体層表面をレーザ光遮蔽カバーで覆うことを特徴とする。
【0011】
また、前記レーザ光遮蔽カバーは、Ni、Al、Ti、Pd、Au、Agの中から選択される1種以上の材料よりなる。
【0012】
また、前記ドライエッチング時は、前記V字型断面の溝の幅より広い開口部を有するエッチングカバーで覆うことを特徴とする。
【0013】
また、前記エッチングカバーの開口部は、前記窒化物半導体発光素子側に向かって細くなるテーパ形状を有することが望ましい。
【0014】
また、前記ドライエッチングで除去する半導体層は、レーザ光によりダメージを受けた部分とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドライエッチングで溝にテーパを形成することにより、分割後の活性層の端部がテーパ部分に位置するので、発光した光がテーパ部分で反射し、光取り出し効率の良い窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【0016】
また、レーザ光で溝を形成し、ドライエッチングで溝を広げることにより、窒化物半導体発光素子を高精度に歩留り良く分割することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、窒化物半導体発光素子の側断面模式図である。窒化物半導体発光素子10は、サファイア基板11上に、i−GaNバッファ層12、n−GaN層13、n−AlGaNクラッド層14、i−InGaN活性層15、p−AlGaNクラッド層16、p−GaN層17が順に積層され、n−AlGaNクラッド層14が積層されていないn−GaN層13上の部分にはn電極18が形成され、p−GaN層17上にはp電極19が形成されて構成される。
【0018】
図2はレーザ光照射後の窒化物半導体発光素子の側断面模式図、図3はドライエッチング後の窒化物半導体発光素子の側断面模式図である。なお図2及び図3では、i−GaNバッファ層12、n−GaN層13、n−AlGaNクラッド層14をn型伝導型窒化物半導体層20と記し、p−AlGaNクラッド層16、p−GaN層17をp型伝導型窒化物半導体層21と記し、i−InGaN活性層15を省略している。
【0019】
以下、ウエハーの分割手法について説明する。まず、ウエハーの窒化物半導体層側にレーザ光遮蔽カバー22を被せる(図2参照)。このレーザ光遮蔽カバー22は、レーザ光を通す開口部22aを有し、Ni、Al、Ti、Pd、Au、Agの中から選択される1種以上の材料よりなる。そして特に、Niを用いることが好ましい。また、開口部22の位置で分割することになるので、開口部22aは分割後の1つの素子がp、n両電極を含むように配置する。
【0020】
次に、レーザ光遮蔽カバー22の上部からレーザ光を照射し、ウエハーにV字型断面の溝23を形成する。この溝23の深さは、サファイア基板11に到達することが分割精度の点から好ましい。また、溝23の幅は、溝23の深さの2倍以上であると分割しやすい。
【0021】
スクライブポイントを用いる場合に比べてレーザ光には以下のような利点がある。刃物のように摩耗がないため、定常的な溝を形成できる。溝の断面形状を所望の形状に制御できる。溝の深さを深くすることができる。このように、レーザ光は利点が多いが、形成された溝の両脇の約50μmは加工残さや熱反応層が生じるという不利な点もある。
【0022】
なお、基板裏面から溝加工した場合、半導体層表面の分割部分(形成した溝の真反対側の半導体層)以外の部分にレーザの影響(加工)が及び、チップ化して発光させた際の光がその部分で乱反射し、外部に出る光を減少させる原因になる可能性がある。
【0023】
溝23が形成されると、次にレーザ光遮蔽カバー22に替えてエッチングカバー24を被せる。このエッチングカバー24は、溝23の幅より広い開口部24aを有する。開口部24aは、窒化物半導体発光素子10側に向かって細くなるテーパ形状とすることが望ましい。
【0024】
エッチングカバー24を被せた後、塩素又は/及びフッ素を含むプラズマガスを用いてドライエッチングを行い、開口部24aのテーパ形状に沿って溝23周辺の窒化物半導体層20、21を除去する。これにより、溝23はテーパを有したまま幅が広くなる。ここで溝23周辺とは、レーザ光によってダメージを受けた窒化物半導体層20、21の部分であり、つまり加工残さと熱反応層である。加工残さや熱反応層は色の違いにより目視で見分けることができる。なお、ダメージを受けた窒化物半導体層20、21を全て除去してもよいし、その一部を除去するだけでもよい。また、上記のエッチングカバー24はレーザ光遮光カバー22と兼用してもよい。
【0025】
そしてドライエッチング後、溝23を起点としてウエハーを分割し、窒化物半導体発光素子10を得る。このようにして分割された窒化物半導体発光素子10は、図1に示すように、溝23の側壁部分が傾斜角θを有する。この傾斜角θが適切に形成されることにより、活性層を含む接合部をヒートシンクに近づけて組み立てるジャンクションダウン型の素子の場合、活性層の端部が傾斜角θを有することになるので光取り出し効率が向上する。図4に、光路を記した窒化物半導体発光素子10の側断面模式図を示す。図中、光路を矢印で示している。i−InGaN活性層15から発光した光が、溝23の側壁で全反射する確率が高くなるため、光取り出し効率が向上する。この観点から、傾斜角θは好ましくは30〜90°であり、更に好ましくは30〜60°である。
【0026】
i−InGaN活性層15の端部が、傾斜を有する場合と、垂直な場合とについてサファイア基板11表面での発光強度を測定した。図5に、サファイア基板11表面で測定した明るさに対する試料数(piece)のグラフを示す。明らかに、傾斜した端面の窒化物半導体発光素子(図5の■)の発光強度が、垂直な端面の窒化物半導体発光素子(図5の◆)の発光強度よりも強いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の窒化物半導体発光素子は、青色LEDとして利用でき、LED照明、フルカラーディスプレイ、自動車用ヘッドランプ等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】窒化物半導体発光素子の側断面模式図である。
【図2】レーザ光照射後の窒化物半導体発光素子の側断面模式図である。
【図3】ドライエッチング後の窒化物半導体発光素子の側断面模式図である。
【図4】光路を記した窒化物半導体発光素子の側断面模式図である。
【図5】サファイア基板表面で測定した明るさに対する試料数のグラフである。
【符号の説明】
【0029】
10 窒化物半導体発光素子
20 n型伝導型窒化物半導体層
21 p型伝導型窒化物半導体層
22 レーザ光遮蔽カバー
23 溝
24 エッチングカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくともp型及びn型伝導型窒化物半導体層が積層されたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記窒化物半導体発光素子の半導体層側へレーザ光を照射し、V字型断面の溝を形成する工程と、
ドライエッチングで前記溝周辺の半導体層を除去する工程と、
前記溝を起点として前記窒化物半導体発光素子を分割する工程とを備えたことを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記ドライエッチングには、塩素又は/及びフッ素を含むプラズマガスを用いることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記V字型断面の溝の深さは、前記基板に到達することを特徴とする請求項1又は2記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記V字型断面の溝の幅は、該溝の深さの2倍以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光の照射時は、前記溝を形成する部分以外の半導体層表面をレーザ光遮蔽カバーで覆うことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光遮蔽カバーは、Ni、Al、Ti、Pd、Au、Agの中から選択される1種以上の材料よりなることを特徴とする請求項5記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記ドライエッチング時は、前記V字型断面の溝の幅より広い開口部を有するエッチングカバーで覆うことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記エッチングカバーの開口部は、前記窒化物半導体発光素子側に向かって細くなるテーパ形状を有することを特徴とする請求項7記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記ドライエッチングで除去する半導体層は、レーザ光によりダメージを受けた部分であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−19586(P2006−19586A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197088(P2004−197088)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)鳥取三洋電機株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】