説明

窯炉設備の保護方法

【課題】外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備の保護方法において、耐用寿命を延長させるとともに、補修や補強時における作業環境を改善する。
【解決手段】外面が不定形耐火物117で被覆された窯炉設備11を保護する窯炉設備11の保護方法において、アルミナを70質量%以上含有する耐火繊維を帯状に紡織した耐火クロス20に、水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させ、スラリー含浸後の耐火クロス20を、不定形耐火物117の熱間曲げ強度の1/3以上の力で引っ張りながら窯炉設備11の外周部に1周以上巻き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯炉設備の保護方法に関し、特に、外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備を保護する窯炉設備の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量産鋼の高級化が進んでおり、真空精錬やこれに代わる炉外精錬などの各種特殊精錬法が採用されている。
【0003】
一般に、真空精錬では、真空槽の下端部に浸漬管を備えた真空脱ガス装置を用い、溶鋼を真空槽内に吸い上げ、脱ガス、脱炭を行う方法が広く採用されている。この特殊精錬法では、浸漬管を通じて真空槽内に溶鋼を吸い上げて真空と接触させ、溶鋼からの脱ガスや溶鋼成分の調整、さらには溶鋼温度の調整を行うようにしている。従来は、このような溶鋼の真空精錬に用いられる真空脱ガス装置用の浸漬管として、内張り煉瓦がマグネシア−クロム質煉瓦で、外周耐火物が高アルミナ質、高アルミナ−マグネシア質、高アルミナ−スピネル質及びジルコン質等の不定形耐火物を流して鋳込み成形したライニング構造が採用されて来た。
【0004】
また、ランスを用いたフラックス吹き込みによる特殊精錬法では、成分調整用フラックスにおける同伴ガスを不活性ガスとして溶鋼に吹き込むことにより成分調整を行う方法が広く採用されている。このようなランスでは、軸心に金属円筒パイプを配置し、金属円筒パイプ外面にスタッドを設け、その外周に不定形耐火物を設けた構造となっている。この不定形耐火物としては、上記浸漬管と同様に、メタルワイヤーを1〜5質量%添加した高アルミナ質、高アルミナ−マグネシア質、高アルミナ−スピネル質などが採用されて来た。
【0005】
このような溶銑や溶鋼に浸漬して精錬を行う窯炉設備において、その内周に設けられた内張り煉瓦や、外周に設けられた耐火物は、溶銑や溶鋼とスラグとの界面に接触するスラグライン部の溶損が激しい。そのため、キャスタブル材質の高純度化や施工厚の増厚などを行っているが十分ではない。従って、スラグライン部の溶損バランスを保つため、スラグライン部について、これまで以下のように、補修により延命する方法が種々提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、マグネシア質と、アルミナ質原料での粉体流動性を確保し、エアー搬送時にホース内で粒度間の分離をなくして吹付け作業の安定を図り、熱間での接着性と、アルミナ系の特徴である高熱間強度、容積安定性を引き出した脱ガス容器浸漬管用熱間吹付け補修材が提案されている。この吹付け補修材では、粒径1mm以下のマグネシア質原料を5〜20質量%と、残部がアルミナ質原料で1mmを超える粗粒のアルミナ質原料を10〜37質量%でカサ比重3.0〜3.3の範囲内に限定し、また、骨材中で0.075〜1mmの粒度域の量を35〜60質量%とし、マトリックス部にアルミナセメントと分散剤を、それぞれ、外掛けで2〜7質量%と0.3〜0.5質量%含有させ、粒度分離をなくし粉体流動性を高め補修後の耐用性を向上させることができる、とされている。
【0007】
また、特許文献2では、円板上に、耐火物で施工した真空脱ガス槽浸漬管の内径よりも小さい外径の円筒を接合した冶具の円板外周の近傍に、プラスチック耐火物でリング状の堰を設けると共に、該堰と円筒外周との間に流動性を有する耐火物を載置してから、該真空脱ガス槽浸漬管の下方に配置し、冶具を上昇させて前記浸漬管の内壁損傷部に耐火物を圧着させる真空脱ガス槽浸漬管の補修方法が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献3では、真空脱ガス装置シュノーケルの補修方法において、目開き0.045〜2mmの金網製円筒の中子を真空脱ガス装置の浸漬管内に挿入し、この浸漬管と中子の間に、アルミナセメントを結合剤として含む不定形耐火物の混練物を圧入充填することによる圧入補修方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−109371号公報
【特許文献2】特開2004−256882号公報
【特許文献3】特開2006−152405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で提案されている方法では、リバウンドロスが多く作業環境が悪化するだけでなく、吹付け補修材の被補修体への支持構造がなく補修材の接着力のみに依存しているため、耐用性が短く、大きな延命効果が得られない、という問題があった。
【0011】
また、窯炉設備のライニングでは、使用によるスラグまたは地金の付着が著しく、溶鋼鍋に浸漬できなくなるため、この付着物をライニングから剥離除去する必要がある。この場合、窯炉設備の外周部における不定形耐火物の損傷が特に大きく、吹き付け補修等が必須となり、その際の補修材の使用量も多大なものであった。
【0012】
これに対して、特許文献2及び特許文献3で提案されている方法では、補修部位が浸漬管下端から内面にかけての補修に限定され、浸漬管外面の補修が出来ない、という問題があった。
【0013】
従って、窯炉設備の外面側の補修のためには、これまでのところ、上記特許文献1のように補修材を窯炉設備の外面側に吹き付ける方法を採用せざるを得ない。しかし、この場合、上述したように大きな延命効果が得られないことに加え、補修材として乾式粉末を使用することから、補修や補強作業時の発塵が激しく、作業環境が悪いため、作業効率が悪く、作業者は過大な負担を強いられる、という問題があった。また、発生する粉塵が周囲の環境を汚染しないように発塵対策を講じる必要があり、集塵装置を別途設けるなどしていたが、このためのコストや手間がかかる、という問題もあった。
【0014】
以上のように、浸漬管のスラグライン部等の補修方法について上述した種々の方法が提案されているが、窯炉設備の外面側の不定形耐火物に発生する亀裂や熱による損耗のため、局部的な耐火物の脱落や剥離損耗が発生することから、安定した耐用が望めない。そのため、浸漬管等の窯炉設備の耐用寿命を延長させること、及び、補修や補強時の作業環境の改善が望まれていた。
【0015】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備の保護方法において、耐用寿命を延長させるとともに、補修や補強時における作業環境を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討を行った結果、耐火繊維を帯状に紡織した耐火クロスに水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させた後に、耐火クロスに窯炉設備外面の耐火物の強度以上の力を加えながら、この耐火クロスを窯炉設備の外周に一周以上巻き付けることにより、窯炉設備の耐用寿命を延長させるとともに、補修や補強時の作業環境を改善できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明によれば、外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備を保護する窯炉設備の保護方法が提供される。本発明に係る窯炉設備の保護方法では、融点が1800℃以上の耐火繊維を帯状に紡織した耐火クロスに、水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させ、前記スラリー含浸後の前記耐火クロスを、前記不定形耐火物の熱間曲げ強度の1/3以上の力で引っ張りながら前記窯炉設備の外周部に1周以上巻き付けることにより、窯炉設備を保護する。
【0018】
ここで、耐火繊維の融点を1800℃以上とするためには、前記耐火繊維が、アルミナを70質量%以上含有するようにすることが好ましい。
【0019】
また、前記窯炉設備の保護方法では、前記スラリー含浸後の前記耐火クロスを、前記窯炉設備の外周部に発生した損傷部を少なくとも覆うように巻き付けることが好ましい。
【0020】
また、前記窯炉設備の保護方法において、前記スラリーは、硬化促進剤をさらに含んでいてもよい。
【0021】
以上のような本発明に係る窯炉設備の保護方法によれば、耐火繊維を帯状に紡織した耐火クロスに、水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させることにより、補修材として乾式粉末を使用することがなくなり、補修や補強時の粉塵がほとんど発生しないので、集塵装置を別途設ける必要もない。
【0022】
また、本発明に係る窯炉設備の保護方法によれば、上記スラリーを含浸させた耐火クロスを、窯炉設備の外面に被覆されている耐火物の熱間曲げ強度の1/3(熱間の引張強度に相当)以上の力で引っ張りながら窯炉設備の外周部に1周以上巻き付けることにより、窯炉設備の外周耐火物部における亀裂の発生や拡大を防止でき、また、スラグ成分が外周耐火物に浸透することを防止できる。これにより、外周耐火物における局部的な耐火物の脱落や剥離損耗の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備の保護方法において、補修や補強時の粉塵がほとんど発生しないので、補修や補強時の作業環境を改善するとともに、別途集塵装置を設けなくても周囲の環境を保護することが可能となる。また、本発明によれば、外周耐火物における局部的な耐火物の脱落や剥離損耗の発生を防止することができるので、外周耐火物の損傷速度が低減され、窯炉設備の耐用寿命を延長させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的な真空脱ガス装置の概略的な構成を示す説明図である。
【図2】図1の破線で囲んだ部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る浸漬管に耐火クロスを巻き付けた状態の外観を示す説明図である。
【図4】図3に示す浸漬管11の垂直断面図である。
【図5】図3に示す浸漬管11の水平断面図である。
【図6】同実施形態に係る耐火クロスの巻き付け手段の一例としてのクロス巻き付け装置の構成を示す斜視図である。
【図7】同実施形態に係る耐火クロスの巻き付け手段の一例としてのクロス巻き付け装置の構成を示す上面図である。
【図8】外周の不定形耐火物に亀裂や剥離損耗が発生した浸漬管に対して、同実施形態に係る耐火クロスを巻き付けた状態を示す正面図である。
【図9】外周の不定形耐火物に亀裂や剥離損耗が発生した浸漬管に対して、同実施形態に係る耐火クロスを巻き付けた状態を示す水平断面図である。
【図10】実施例で使用したアルミナ−マグネシア成形体の構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
(真空脱ガス装置の構成について)
以下、本発明の一実施形態に係る窯炉設備の保護方法について詳細に説明するが、以下の説明では、本発明を適用する窯炉設備が真空脱ガス装置用である場合を例に挙げる。そこで、まず、本発明の一実施形態について説明する前提として、図1及び図2を参照しながら、一般的な真空脱ガス装置及びこの真空脱ガス装置用の浸漬管の概略的な構成について説明する。図1は、一般的な真空脱ガス装置10の概略的な構成を示す説明図であり、図2は、図1の破線で囲んだ部分の拡大断面図である。なお、図1には、真空脱ガス装置の一例として、所謂RH方式の真空脱ガス槽を用いるものを示しているが、本発明を適用可能な窯炉設備としては、溶銑や溶鋼に浸漬して精錬を行う窯炉設備であればよく、例えば、RH方式以外の真空脱ガス槽を用いる真空脱ガス装置用浸漬管、ガス又は粉体吹き込み用のランス、CAS浸漬管、タンディッシュ堰、ロングノズルなどが挙げられる。
【0027】
図1に示すように、真空脱ガス装置10は、上昇管11(以降、浸漬管11という場合がある。)及び下降管12(以降、浸漬管12という場合がある。)の2本の浸漬管と、真空槽13と、排気ダクト15と、を主に備える。
【0028】
上昇管11及び下降管12の2本の浸漬管は、それぞれ、上端部がフランジ(図示せず)を介して真空槽13の底部と接続されており、下端部側から取鍋5内の溶鋼Mに浸漬される。次いで、真空槽13の上部に設けられた排気ダクト15から真空槽13のガスを吸引して真空槽13内を減圧する。真空槽13内が減圧されることによって、取鍋5内の溶鋼Mが真空槽13内に吸い上げられる。
【0029】
また、上昇管11の内周部には不活性ガス吹き込みノズル(図示せず。)が設けられており、上昇管11内の溶鋼Mに不活性ガスが吹き込まれる。その結果、上昇管11内の溶鋼Mの比重が下降管12内の溶鋼Mと比較して相対的に減少するので、上昇管11内の溶鋼Mが上昇し、下降管12内の溶鋼Mが下降を開始する。従って、図1の矢印に示すように、取鍋5内の溶鋼Mが上昇管11の内部11aから真空槽13内へ、さらに下降管12の内部12aを通って取鍋5内へと循環するようになる。真空槽13内の溶鋼Mの表面は減圧雰囲気に接触するので、ここで溶鋼M中のガス成分が減圧雰囲気中に移動し、脱ガスが行われる。溶鋼Mが循環する間に真空槽13内で脱ガスが行われ、取鍋5内の溶鋼M中のガス成分が除去される。
【0030】
次に、図1の破線Aで囲んだ部分の拡大図である図2を参照しながら、浸漬管(ここでは、浸漬管11を例に挙げる。)の詳細な構造について説明する。図2に示すように、真空脱ガス装置10用の浸漬管11は、芯金111と、内側定形煉瓦113と、スタッド115と、不定形耐火物117と、を主に備える。
【0031】
芯金111は、円筒形状を有し、その下端部に、浸漬管11の内側方向に突出して形成された内側定形煉瓦支持部112を有する。内側定形煉瓦113は、芯金111よりも直径の小さな円筒形状を有し、芯金111の内周側に設置され、その下端部が内側定形煉瓦支持部112により支持されており、浸漬管11の内周側における溶鋼Mの流路を形成する。また、スタッド115は、芯金111の外周側に、芯金111の長さ方向の上部側から下部側にかけて複数設けられており、芯金111の外周側に設置される不定形耐火物117を保持している。不定形耐火物117は、図示してはいないが、芯金111と内側定形煉瓦113との間に充填されるとともに、図2に示すように、芯金111の外周側及び下端部の外側に設置される。
【0032】
(本発明の一実施形態に係る窯炉設備の保護方法について)
このとき、上述したように、浸漬管11、12の外周に設けられた不定形耐火物117は、溶鋼MとスラグSとの界面に接触するスラグライン部11b(図1参照)の溶損が激しい。そこで、本発明の一実施形態に係る窯炉設備の保護方法においては、主に、このスラグライン部11bにおける不定形耐火物117を保護することにより、浸漬管11、12の外周に設けられた不定形耐火物117における亀裂の発生または拡大や、スラグ成分が不定形耐火物117に浸透することを効果的に防止している。これにより、内側定形煉瓦支持部112のような支持構造が設けられていない浸漬管11、12の外周側の不定形耐火物117において、地金の付着やスラグによる溶損を低減し、局部的な耐火物の脱落や剥離損耗の発生を防止し、浸漬管11、12の耐用寿命を延長させることができる。また、後述するように、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法では、補修材として乾式粉末を用いないことから、作業環境改善にも大きく寄与するものである。
【0033】
すなわち、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法は、外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備を保護する方法であって、以下の(1)及び(2)の工程を含むものである。
(1)融点が1800℃以上の耐火繊維を帯状に紡織した耐火クロスに、水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させる。
(2)スラリー含浸後の耐火クロスを、窯炉設備(ここでは、浸漬管11、12)の外周部及び下端部に設けられた不定形耐火物117の熱間曲げ強度の1/3以上の力で引っ張りながら、窯炉設備の外周部(特に、スラグライン部等のスラグや地金が付着しやすい部分)を覆うように1周以上巻き付ける。
【0034】
以下、図3〜図5を参照しながら、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法における上記工程(1)及び工程(2)について、詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る浸漬管11に耐火クロス20を巻き付けた状態の外観を示す説明図である。図4は、図3に示す浸漬管11の垂直断面図であり、図5は、図3に示す浸漬管11の水平断面図である。
【0035】
<工程(1)について>
まず、上記工程(1)では、耐火繊維として融点が1800℃以上のものを使用する。一般に、溶銑や溶鋼に浸漬するような窯炉装置に使用する耐火繊維としては、アルミナ(Al)を主成分とし、残部がSiOやその他の成分からなる材質が使用される。また、窯炉装置の使用環境を考えると、耐火繊維としては、融点が概ね1850℃を超えるものを使用することが好ましい。このような高い融点を有する耐火繊維としては、アルミナを70質量%以上含有するものが挙げられるので、本実施形態では、耐火繊維としてアルミナを70質量%以上含有するものを使用することが好ましい。
【0036】
さらに、このような耐火繊維を帯状に紡織して、浸漬管11等の窯炉設備の外周部に巻き付け可能な形態とし、これを本実施形態に係る耐火クロス20(図3等を参照)として使用する。
【0037】
次いで、紡織された耐火クロス20に、水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させる。ここで、本実施形態で使用する水硬性バインダとしては、例えば、リン酸アルミニウム、アルミナセメント、ケイ酸ソーダなどが挙げられるが、耐火繊維の結晶化抑制の観点からアルカリ成分を含有せず、高融点のリン酸アルミニウム、アルミナセメントが好ましい。
【0038】
また、水硬性バインダとして、リン酸アルミニウムのような結合剤を使用した場合には、上記スラリー中に、硬化促進剤をさらに添加することが好ましい。このような硬化促進剤としては、例えば、マグネシア、消石灰等がある。このような硬化促進剤の添加方法としては、例えば、浸漬管11、RH方式以外の真空脱ガス槽を用いる真空脱ガス装置用浸漬管、ガス又は粉体吹き込み用のランス、CAS浸漬管、タンディッシュ堰、ロングノズル等の窯炉設備に耐火クロス20を巻き付けた後に、耐火クロス20が巻き付けられた浸漬管11等の窯炉設備ごと、マグネシア微粉等の硬化促進剤を懸濁させた水溶液に浸漬させ、その後フレーム等により乾燥をさせる方法がある。あるいは、耐火クロス20が巻き付けられた浸漬管11、RH方式以外の真空脱ガス槽を用いる真空脱ガス装置用浸漬管、ガス又は粉体吹き込み用のランス、CAS浸漬管、タンディッシュ堰、ロングノズル等の窯炉設備の外表面に、マグネシア微粉等の硬化促進剤を懸濁させた水溶液を吹き付けた後に、フレーム等により乾燥をさせる方法でもよい。
【0039】
また、耐火粉末を分散させるバインダとして、水硬性のバインダを使用することとしたのは、例えば、浸漬管11に耐火クロス20を巻き付けた場合には、浸漬管11が溶鋼M中に浸漬されると、溶鋼の熱により耐火クロス20に含浸された水硬性バインダが高温で焼き締まる。これにより、水硬性バインダの体積が小さくなり、耐火クロス20が浸漬管11を締め付ける力が発生し、耐火クロス20が浸漬管11に固着され、耐火クロス20が浸漬管11から脱落しなくなる。
【0040】
また、本実施形態では、後述するように、耐火クロス20の巻き始めと巻き終わりに、耐火クロス20を浸漬管11に固定するために、耐火クロス20にビス21(図3等を参照)を打ち込むのであるが、通常、このビス21の材質としては、ステンレス鋼や、アルミナ質、ムライト質、炭化ケイ素質、窒化ケイ素質などのセラミックビスが使用される。従って、耐火クロス20により外面が被覆された浸漬管11が溶鋼M中に浸漬されると、ビス21は溶鋼M中に溶解してしまうが、前述のように、水硬性バインダの焼き締まりにより、耐火クロス20が浸漬管11を締め付ける力が発生することから、ビス21が消失しても、耐火クロス20が浸漬管11から脱落することはない。
【0041】
以上のように、本実施形態における水硬性バインダは、浸漬管11の外面側の不定形耐火物117と耐火クロス20との固着機能や、耐火クロス20を複数回巻き付けた場合(耐火クロス20を複数層重ねた場合)の相互に接触する耐火クロス20間の固着機能を有する。
【0042】
なお、上記スラリー中に添加する耐火粉末としては、例えば、アルミナ微粉、ムライト微粉等を使用することができる。このような耐火粉末をスラリー中に添加することにより、スラリーを含浸させた耐火クロス20の耐火性能を向上させることができる。
【0043】
このように、乾式の耐火粉末を補修材として浸漬管11等の窯炉設備に吹き付けるのではなく、耐火粉末を水硬性バインダ中に分散させたスラリーを含浸させた耐火クロス20を窯炉設備の外面に巻き付けることにより、補修材として乾式粉末を使用することがなくなり、補修や補強時の粉塵がほとんど発生しないので、集塵装置を別途設ける必要もない。従って、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法によれば、補修や補強時の作業環境を改善するとともに、別途集塵装置を設けなくても周囲の環境を保護することが可能となる。
【0044】
<工程(2)について>
次に、上記工程(2)では、図3〜図5に示すように、上記スラリー含浸後の耐火クロス20を浸漬管11の外周部又は下端部を覆うように1周以上巻き付ける。耐火クロス20を浸漬管11に巻き始める際には、耐火クロス20の巻き付け位置の位置合わせをした上で、耐火クロス20の巻き付け中にその位置がずれたり、巻き付け後に耐火クロス20が浸漬管11から脱落したりしないように、耐火クロス11の一端部(巻き始め側の端部)と、浸漬管11における耐火クロス20の巻き始め位置とをビス21等で固定する。なお、図5に示すように、耐火クロス20の浸漬管11への巻き付け終了後にも、耐火クロス20の位置がずれたり、巻き付け後に耐火クロス20が浸漬管11から脱落したりしないように、耐火クロス11の他端部(巻き終わり側の端部)と、浸漬管11における耐火クロス20の巻き終わり位置とをビス21(図5の右側のビス21)等で固定する。この際、耐火クロス20を1周を超えて巻き付けている場合には、最も外側に位置する耐火クロス20及びその内側に位置する耐火クロス20を貫通するようにビス21等で固定する。
【0045】
このビス21の材質は、耐火クロス20の施工時(巻き付け時)に、耐火クロス20を浸漬管11の外面側に固定できるものであれば特に限定はされないが、例えば、ステンレス鋼製のもの等を使用できる。ビス21としてステンレス鋼製のものを使用した場合には、耐火クロス20の巻き付け後の浸漬管11を溶鋼M中に浸漬した際に、ビス21が溶解して、ビス21中の金属成分が溶鋼M中に添加されることとなるが、溶鋼Mの全体量と比較して、ビス21中の金属成分量は微小なものなので、溶鋼Mの成分やスラグSの成分等への影響はほとんど無い。
【0046】
また、耐火クロス20の巻き付け周数については、少なくとも浸漬管11等の窯炉設備の外周部の1周分を覆うようにすれば足りるが、要求される補強又は補修の度合いや、補修の場合には損傷部の大きさや損傷の程度などに応じて、耐火クロス20の巻き付け回数を決めればよい。
【0047】
また、耐火クロス20を、浸漬管11等の窯炉設備の外周部に設けられた不定形耐火物117の熱間曲げ強度の1/3以上の力で引っ張りながら、浸漬管11等に巻き付けることとしているのは、以下の理由による。すなわち、浸漬管11等の窯炉設備の外周部に施工された不定形耐火物117の破壊強度の指標となる引張強度以上の力で締め付けることにより、当該不定形耐火物117における亀裂や熱損耗による不定形耐火物117の剥離等の発生が防止され、あるいは、既に発生している亀裂の拡大や不定形耐火物117の剥離が防止される。従って、耐火クロス20を不定形耐火物117の引張強度以上の力で引っ張りながら、浸漬管11等の外周部に巻き付ければよい。ここで、一般に、不定形耐火物の熱間における引張強度の測定を行うことはできない。そこで、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法においては、不定形耐火物の熱間における引張強度を、不定形耐火物熱間曲げ強度から推定している。具体的には、不定形耐火物の引張強度を、当該不定形耐火物の熱間曲げ強度(通常、1450℃程度で測定される。)の1/3の値で代用している。なお、本発明者は、この値を不定形耐火物の熱間における引張強度として評価しても、実用上、問題がないことを確認している。また本発明の技術分野でも通常使用されており、かつ、その値が信憑性の高いものとして認められているものである。また、不定形耐火物の熱間曲げ強度については、JIS R2656に準じて測定することができる。
【0048】
なお、一般に、窯炉設備の外周部に使用される不定形耐火物の引張強度(熱間曲げ強度の1/3の値)は、5〜10MPa程度(1100〜1200℃)であることから、不定形耐火物117における亀裂や不定形耐火物117の剥離等の発生防止、あるいは、既に発生している亀裂の拡大や不定形耐火物117の剥離防止等の効果を十分に担保するという観点から、耐火クロス20を引っ張る力は、50MPa以上であることが好ましい。
【0049】
また、耐火クロス20を引っ張る力の上限値は、耐火クロス20の破壊が起こらないようにするという観点から、当該耐火クロス20の引張強度以下の力とする。
【0050】
また、耐火クロス20の引張力の方向は、この引張力を掛ける目的が不定形耐火物117における亀裂や不定形耐火物117の剥離等の発生防止、あるいは、既に発生している亀裂の拡大や不定形耐火物117の剥離防止であることに鑑みれば、帯状の耐火クロス20の幅方向ではなく、長さ方向である。
【0051】
<耐火クロスの巻き付け手段について>
続いて、図6及び図7を参照しながら、本実施形態において、耐火クロス20を浸漬管11に巻き付ける際の巻き付け手段の一例について説明する。図6は、本実施形態に係る耐火クロス20の巻き付け手段の一例としてのクロス巻き付け装置30の構成を示す斜視図であり、図7は、同実施形態に係る耐火クロス20の巻き付け手段の一例としてのクロス巻き付け装置30の構成を示す上面図である。なお、図6及び図7では、浸漬管11の外周部に耐火クロス20を巻き付ける場合を例として示している。
【0052】
図6及び図7に示すように、クロス巻き付け装置30は、支持台31と、回転テーブル33と、クロス巻取り部35と、巻取り駆動部37と、を主に備える。
【0053】
回転テーブル33は、支持台31上に回転可能に固定された、例えば略円盤状のテーブルであり、この回転テーブル33上の円周側に、鉛直方向に長さを有する略円柱状のクロス巻取り部35が設置されている。クロス巻取り部35には、帯状の耐火クロス20が巻き取られており、クロス巻取り部35の下端部には、クロス巻取り部35を水平方向に回転させるための巻き取り駆動部37が設けられている。この巻き取り駆動部37としては、例えば、回転モータなどを使用することができる。また、巻き取り駆動部37は、クロス巻取り部35を鉛直方向に上下動させる機構を有していてもよい。これにより、耐火クロス20を巻き付ける鉛直方向の位置を調整することができる。
【0054】
このような構成を有するクロス巻き付け装置30を用いて耐火クロス20を浸漬管11に巻き付けるためには、まず、クロス巻取り部35に巻き取られている耐火クロス20の一端部を、ビス21により浸漬管11の巻き付け位置に固定する。次いで、回転テーブル33を、例えば、図6、7に示すR方向に回転させると、クロス巻取り部35に巻き取られている耐火クロス20が、クロス巻取り部35から解かれるとともに、浸漬管11に巻き付けられていく。このとき、巻取り駆動部37がクロス巻取り部35を、例えば、図6、7に示すR方向に回転させることにより、耐火クロス20に、耐火クロス20がクロス巻取り部35から解かれるのを妨げる力、すなわち、浸漬管11からクロス巻取り部35の方向への引張力Tが掛けられる。この耐火クロス20に掛けられる引張力Tは、例えば、クロス巻取り部35に設けられた応力センサ(図示せず。)などを用いて、浸漬管11の外周部の不定形耐火物117の熱間曲げ強度の1/3以上の力となるように制御される。
【0055】
<本実施形態に係る窯炉設備の保護方法を窯炉設備の補強に用いる場合について>
次に、図8及び図9を参照しながら、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法を窯炉設備の補強に用いる場合について説明する。図8は、外周の不定形耐火物117に亀裂や剥離損耗が発生した浸漬管11に対して、耐火クロス20を巻き付けた状態を示す正面図である。図9は、外周の不定形耐火物117に亀裂や剥離損耗が発生した浸漬管11に対して、耐火クロス20を巻き付けた状態を示す水平断面図である。
【0056】
図8及び図9に示すように、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法を窯炉設備の補強に用いる場合には、例えば、浸漬管11の外周部に発生した損傷部(例えば、浸漬管11のスラグライン部に発生する亀裂41や損耗剥離部43などの損傷部を少なくとも覆うように、スラリー含浸後の耐火クロス20を浸漬管11の外周に巻き付けることが好ましい。このように、耐火クロス20を亀裂41や損耗剥離部43などの損傷部を覆うように巻き付けることにより、不定形耐火物117の熱間曲げ強度の1/3(引張強度に相当)以上の力が不定形耐火物117に掛かるので、浸漬管11の外周部の不定形耐火物117に発生した亀裂41の幅拡大を効果的に防止することができる。また、耐火クロス20を亀裂41や損耗剥離部43などの損傷部を覆うように巻き付けることにより、既に発生している剥離損耗部43にさらにスラグ成分や溶鋼成分が浸透することを防止できるので、剥離損耗部43の範囲拡大や、剥離損耗部43からの不定形耐火物117の剥落を効果的に防止することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法は、これまで達成し得なかった以下のような課題が十分に解決できる極めて簡単で迅速な方法である。
【0058】
第1に、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法によれば、支持構造を有しない円筒状窯炉設備(例えば、真空脱ガス装置10の浸漬管11,12)の外面に対して、耐火粉末及び水硬性スラリーを含むスラリーを含浸させた帯状耐火クロス20を引張力を掛けながら締め付けるため、従来は十分に保護することができなかった円筒状窯炉設備の外周部を保護することができる。これにより、円筒状窯炉設備の外周部(特に、スラグライン部)や下端部における亀裂部からのスラグ、メタルのライニング内部への浸透が抑制され、不定形耐火物117における亀裂や剥離損耗などの損傷の発生及び拡大や不定形耐火物117の表面剥落を防止できる。
【0059】
さらに、浸漬管11等の窯炉設備の外周部の不定形耐火物117に発生した損傷部を少なくとも覆うように、上記耐火クロス20を引張力を掛けながら締め付けるため、損傷部からのスラグ成分や溶鋼成分の窯炉設備のライニング内部への浸透が抑制され、亀裂幅の増大及び損耗剥離や、不定形耐火物117の表面剥落等を効果的に防止できる。
【0060】
従って、円筒状窯炉設備の損傷速度が低減され、安定した耐用を望むことができるので、窯炉設備の耐用寿命を延長させることができる。なお、窯炉設備の安定した耐用を望むことができることから、窯炉設備の補修回数が減り、補修材となる耐火粉末の使用量(耐火物使用原単位)も削減することができる。
【0061】
第2に、耐火クロス20を、窯炉設備の外周部の不定形耐火物117の熱間曲げ強度の1/3以上の引張力を掛けながら、窯炉設備の外周に締め付け、フープ状態での一体成形構造となるため、補修成形体の支持構造が無い円筒状窯炉設備の外面に対しても、耐火クロス20のズレや脱落、外周の不定形耐火物117の剥離等が発生することを防止できる。
【0062】
第3に、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法を窯炉設備の補修に用いる場合には、損傷部の大きさや程度に合わせた帯状の耐火クロス20を選択することにより、過剰な補修やリバウンドロスを回避できる。また、損傷部に最小限の耐火物の施工量で補修が可能となり、耐火物使用原単位の削減にも貢献できる。
【0063】
第4に、本実施形態に係る窯炉設備の保護方法では、耐火粉末及び水硬性スラリーを含むスラリーを含浸させた帯状耐火クロス20を使用することにより、補修材として乾式粉末を使用する必要が無いため、発塵せずに作業環境をクリーンに保つことが可能となる。例えば、粒径10μm以下の浮遊粉塵濃度の環境基準値0.1mg/mを十分にクリアすることができる。
【0064】
第5に、従来のように、耐火物の乾式粉末を窯炉設備の外周部に吹き付ける方法で必要であったような吹き付け機、圧送機などの機器整備及び圧縮空気、材料搬送用の用役ホース類の事前準備や片付け作業が不要となり、作業者の負荷軽減と省力化が可能となる。
【実施例】
【0065】
以上、本発明に係る窯炉設備の保護方法の好適な実施の形態について詳細に説明したが、続いて、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0066】
(供試体を用いた比較実験)
初めに、外径50mmφ、長さ300mmのアルミナ−マグネシア成形体を用いた実験を行った。この実験では、耐火クロスの種類(材質)及び耐火クロスに掛ける引張強度を変化させて外周部における亀裂の発生の程度及びメタル差込の有無を比較した。以下、本実験の詳細を述べる。
【0067】
初めに、熱間曲げ強度が24MPa(引張強度8MPaに相当)のアルミナ−マグネシア質キャスタブルに、純水6質量%を外掛けで添加し、万能ミキサーにて5分間混練後、内径50mmφの発砲スチロール枠に流し込み、図10に示す外径50mmφ、長さ300mmの円筒状のアルミナ−マグネシア成形体を4本作製した。この成形体を脱枠して本実験の供試体50とした。
【0068】
次に、4本の供試体50を110℃で24時間乾燥後、電気炉にて800℃で5時間焼成した後、常温まで放冷した。その後、1本の供試体50は何も外周面に処置の無い供試サンプルとした(比較例3)。一方、表1中のアルミナセメント溶液を30質量%含む高アルミナセメントスラリーを、表2に示す厚み0.5mm、幅50mmのB材質の帯状耐火クロスに予め十分に浸しておき、図10に示すように、この耐火クロス20を1本の供試体50の外周面に、50MPaの引張力を掛けて3重に巻いた後、同一材質の耐火クロスにて上下を縛り付け、110℃で24時間乾燥し、供試サンプルとした(実施例1)。同様に、表1中の高アルミナセメントスラリーを予め十分に浸しておいた表2に示す厚み0.5mm、幅50mmのC材質の帯状耐火クロスを、1本の供試体50の外周面に、2MPaの引張力を掛けて3重に巻いた後、同一材質の耐火クロスにて上下を縛り付け、110℃で24時間乾燥し、供試サンプルとした(比較例1)。さらに、表1中の高アルミナセメントスラリーを予め十分に浸しておいた表2に示す厚み0.5mm、幅50mmのA材質の帯状耐火クロスを、1本の供試体50の外周面に、5MPaの引張力を掛けて3重に巻いた後、同一材質の耐火クロスにて上下を縛り付け、110℃で24時間乾燥し、供試サンプルとした(比較例2)。
【0069】
次に、高周波誘導炉にて溶鋼温度を1550℃の温度に調整し、各供試サンプル50(実施例1、比較例1〜3)の下端から長さ100mmを溶鋼中へ5分間浸漬し、その後、3分間溶鋼から引き上げ放冷した。このサイクルを10回繰り返した後、各供試サンプル50を室温まで冷却し、溶鋼への浸漬部分の水平切断面観察を行った。その結果を表3に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
上記比較実験の結果、表3に示すように、耐火粉末と高アルミナセメントバインダを含浸させた耐火クロスを、アルミナ−マグネシア質キャスタブルの熱間曲げ強度(24MPa)の1/3(8MPa)以上の引張力(50MPa)を加えて巻き付けた実施例1では、亀裂の発生が抑制され(1本のみ)、最大亀裂幅も小さく、キャスタブルへのメタルの差込も発生しなかった。一方、耐火クロスを使用していない比較例3については、亀裂発生本数も多く、最大亀裂幅も大きく、全ての亀裂部にメタル差込が発生していた。また、耐火クロスに加える引張力がキャスタブルの熱間曲げ強度の1/3よりも小さな比較例1及び比較例2については、耐火クロスを巻き付けた分、最大亀裂幅及びメタル差込の程度が、耐火クロスを使用していない比較例3と比べてやや抑制されているが、実施例1と比べると、最大亀裂幅も大きく、メタル差込も発生しやすかった。さらに、亀裂発生本数については、比較例3とほぼ同様であり、亀裂の発生の抑制効果は非常に低いことがわかった。
【0074】
以上の結果から、本発明に係る窯炉設備の保護方法のように、窯炉設備の外周の不定形耐火物の熱間曲げ強度の1/3以上の引張力を加えて、窯炉設備の外周に耐火クロスを巻き付けることにより、亀裂の発生や発生した亀裂への溶鋼成分の浸透が効果的に抑制されていることがわかる。
【0075】
なお、本実験では、実施例1、比較例1及び比較例2で、耐火クロスの材質が異なっているが、表2に示すように、比較例2で使用したA材質の方が比較例1で使用したC材質よりも融点が高いため、熱衝撃の影響を受けにくい。従って、比較例2において、比較例1よりも亀裂発生本数がわずかに少ないのは、耐火クロスの引張力が比較例1よりも高いことに加え、耐火クロスを構成する耐火繊維の融点が比較例1よりも高いことも影響している可能性があると推測される。
【0076】
(実機における比較実験)
次に、真空脱ガス処理装置用の浸漬管を用いた実験を行った。この実験では、浸漬管の外周の不定形耐火物に発生した損傷部の補修方法を変えたときの浸漬管の耐用寿命及び環境粉塵濃度の比較を行った。以下、本実験の詳細を述べる。
【0077】
本実験で用いた真空脱ガス処理装置は、350tの容量を有し、真空槽下部に設けられた浸漬管については、内側定形煉瓦として、使用厚120mmのマグネシア−クロム質煉瓦を用い、寸法が内径600mm、外径900mm、高さ750mmのものを使用した。また、以下の実施例2、比較例4〜6で使用した浸漬管外周部のキャスタブルとしては、熱間曲げ強度が24MPaのアルミナ−マグネシア質キャスタブルを使用した。
【0078】
<実施例2>
まず、本発明の適用例としての実施例2においては、アルミナ含有量80質量%の表2中のA材質の耐火繊維を紡織し、幅600mmで、長さ12m、厚み2mmの帯状に加工した耐火クロスに、上記表1中のリン酸アルミニウム溶液を予め十分に浸しておいた。次いで、リン酸アルミニウム溶液を含浸させた耐火クロスの端部に、外径6mmφで長さ40mmのステンレス製ビスネジを、耐火クロスの幅方向にそれぞれ150mmの間隔をあけてセットした。さらに、浸漬管外周部のキャスタブルに、耐火クロスの端部にセットしたネジを打ち込み、耐火クロスに80MPaの引張力を掛けながら、該耐火クロスを浸漬管外周部に約4周巻きつけて、キャスタブルの損傷部を補修した。その後、44μm以下の粒度を有するマグネシア微粉を30質量%懸濁させた水溶液に、耐火クロスを巻き付けた浸漬管ごと浸漬し、浸漬管外周部に巻き付けた耐火クロスの表面に硬化促進剤としてのマグネシアをディップした。その後、10分間上部バーナーによるフレームで乾燥を施し、浸漬管を実炉使用した。
【0079】
<比較例4>
本比較例では、実施例2における耐火クロスを使用する代わりに、補修材として、アルミナ質粉末をアルミナセメントに分散させたスラリーを、実施例2と同一設備の浸漬管外周部のキャスタブルに外部から吹き付ける吹付け法(特許文献1を参照)により、キャスタブルを補修し、浸漬管を実炉使用した。
【0080】
<比較例5>
本比較例では、実施例2における耐火クロスを使用する代わりに、アルミナマグネシア質の補修材をリン酸ソーダに分散させたスラリーを、実施例2と同一設備の浸漬管外周部のキャスタブルに圧着させる圧着法(特許文献2を参照)により、キャスタブルを補修し、浸漬管を実炉使用した。
【0081】
<比較例6>
本比較例では、実施例2における耐火クロスを使用する代わりに、マグネシア質粉末をアルミナセメントに分散させたスラリーを、実施例2と同一設備の浸漬管外周部のキャスタブルに圧入する圧入法(特許文献3を参照)により、キャスタブルを補修し、浸漬管を実炉使用した。
【0082】
なお、上記実施例2、比較例4〜6における真空脱ガス装置の操業条件としては、処理温度が各キャンペーンの平均で1585℃であり、処理時間が24分間であった。
【0083】
以上のようにして、実施例2及び比較例4〜6で実炉使用した浸漬管の耐用寿命、及び、実施例2及び比較例4〜6の各補修方法における作業環境の評価を行った。浸漬管の耐用寿命の評価については、繰り返し使用後における幅5mm以上の大きな亀裂の発生本数と、地金の差込状況に関する浸漬管の解体調査を行うことにより行った。また、作業環境の評価については、補修作業時において、粒径10μm以下の浮遊粉塵濃度の環境基準値0.1mg/mをクリアしていたか否かによって行った。以上の評価の結果を下記表4に示す。なお、表4中の「浸漬管耐用回数」とは、表4中の「5mm以上の大亀裂本数」の亀裂及び表4中の「地金差込状況」が発生するまでに浸漬管を使用した回数を意味する。ただし、実施例2については、後述するように250回で浸漬管の使用を計画止めしているので、表4には、「250回以上」と記載してある。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示すように、補修材の耐火粉末と水硬性のリン酸アルミニウム及び硬化促進剤(マグネシア)を含むスラリーを耐火クロスを、キャスタブルの熱間曲げ強度の1/3の引張力を掛けながら、浸漬管外周部に巻き付けた実施例2においては、補修回数1回のみで、浸漬管を250回使用しても、5mm以上の大亀裂の本数が3本しかなく、地金の差込も無いことから、使用を計画止めした。従って、実施例2における浸漬管の耐用回数は250回以上であり、大きな延命効果が得られることがわかった。また、実施例2では、1回当たりの補修材の平均使用量も110kgと、比較例4〜6と比較して非常に少なく、しかも、補修を1回しか行わなかったことから、補修材としての耐火物の使用原単位を大幅に削減することができた。さらに、実施例2では、補修材として乾式粉末を使用しないことから、粒径10μm以下の浮遊粉塵濃度についても0.03mg/mと非常に低く、環境基準値である0.1mg/mを十分にクリアできており、環境改善にもつながることがわかった。
【0086】
一方、比較例4では、吹付け補修材の被補修体への支持構造がなく補修材の接着力のみに依存しているため、浸漬管の耐用回数が120回と短く、また、幅5mm以上の亀裂も35本発生し、地金の差込も15箇所に発生しており、耐用性が短く、大きな延命効果が得られないことがわかった。また、リバウンドロスが多いため、補修回数も42回と多くなり、補修材としての耐火物の使用原単位が大幅に増加するとともに、粒径10μm以下の浮遊粉塵濃度については、0.34mg/mと本実験中で最も高く、集塵装置等を設ける必要があることがわかった。
【0087】
また、比較例5及び比較例6についても、浸漬管の外周部の補修が十分にできていないために、浸漬管の耐用回数が少なく、また、浸漬管外周部における幅5mm以上の亀裂本数及び地金の差込箇所も多いものとなり、耐用性が短く、大きな延命効果が得られないことがわかった。また、リバウンドロスはないために、補修回数は少なくて済むものの、補修材の1回当たりの平均使用量が多くなってしまうため、耐火物の使用原単位が大幅に増加することもわかった。なお、圧着法を使用した比較例5の場合に、粒径10μm以下の浮遊粉塵濃度が、吹き付け法を使用した比較例4や圧入法を使用した比較例6と比べ低いものの、実施例2と比べて高くなったのは、圧着材を型枠に充填する際に浮遊粉塵が発生するためである。また、圧入法を使用した比較例6の場合に、粒径10μm以下の浮遊粉塵濃度が、実施例2と比べて高くなったのは、施工位置で圧入材の混練作業を伴うので、混練機への粉末装填時に多くの浮遊粉塵が発生するためである。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0089】
例えば、上述した実施形態においては、窯炉設備として真空脱ガス装置用浸漬管を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な窯炉設備としては、真空脱ガス装置には限られず、例えば、フラックス吹き込みによる特殊精錬法に用いるランス等であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
5 取鍋
10 真空脱ガス装置
11 浸漬管(上昇管)
11b スラグライン部
12 浸漬管(下降管)
13 真空槽
15 排気ダクト
20 耐火クロス
21 ビス
30 クロス巻き付け装置
31 支持台
33 回転テーブル
35 クロス巻取り部
37 巻き取り駆動部
41 亀裂
43 損耗剥離部
111 芯金
112 内側定形煉瓦支持部
113 内側定形煉瓦
115 スタッド
117 不定形耐火物
S スラグ
M 溶鋼



【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面が不定形耐火物で被覆された窯炉設備を保護する窯炉設備の保護方法であって、
融点が1800℃以上の耐火繊維を帯状に紡織した耐火クロスに、水硬性バインダと耐火粉末を含むスラリーを含浸させ、
前記スラリー含浸後の前記耐火クロスを、前記不定形耐火物の熱間曲げ強度の1/3以上の力で引っ張りながら前記窯炉設備の外周部に1周以上巻き付けることを特徴とする、窯炉設備の保護方法。
【請求項2】
前記耐火繊維は、アルミナを70質量%以上含有することを特徴とする、請求項1に記載の窯炉設備の保護方法。
【請求項3】
前記スラリー含浸後の前記耐火クロスを、前記窯炉設備の外周部に発生した損傷部を少なくとも覆うように巻き付けることを特徴とする、請求項1または2に記載の窯炉設備の保護方法。
【請求項4】
前記スラリーは、硬化促進剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の窯炉設備の保護方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−185595(P2010−185595A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28331(P2009−28331)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】