説明

端末スプライス部の防水処理方法および防水処理構造

【課題】端末スプライス部を覆うキャップを小径化すると共に作業性および防水性を向上させる。
【解決手段】熱収縮チューブ11の一端開口部11aに止栓12を挿入配置し、この状態で熱収縮チューブ11を熱収縮して先端閉鎖部11cを備えたキャップ10を設け、キャップ10内に他端の開口11bから流動性を有する熱硬化促進性止水剤13を注入しておき、複数の電線W端末から露出させた芯線Waを溶接して形成された端末スプライス部Yを、キャップ10の他端開口部11bより挿入して熱硬化促進性止水剤13中に浸漬させ、その後、キャップ10全体を所要温度で加熱して熱収縮させると共に熱硬化促進性止水剤13を熱硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末スプライス部の防水処理方法および防水処理構造に関し、詳しくは、複数の電線端末から露出させた芯線同士を接続した端末スプライス部に対して防水処理を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に配索されるワイヤハーネスの各電線を互いに電気的に接続する必要がある場合には、図6に示すように、複数本の電線W端末から露出させた各芯線Wa同士を溶接により接続して端末スプライス部Yを形成している。ワイヤハーネスを車両に搭載する際に、この端末スプライス部Yが被水領域に配置される場合には、防水処理を施す必要が生じる。
現在はその防水処理方法として、図6に示すように、キャップ1に止水剤2を注入機(図示せず)により定量注入した後、各電線Wの端末スプライス部Yをキャップ1内に挿入し、止水剤2を硬化させることで端末スプライス部Yを密閉して防水を図っている。
【0003】
しかしながら、キャップ1内に止水剤2を注入する際に、注入機の能力上、キャップ1の内径にある程度の大きさが必要となり、また、端末スプライス部Yの仕様差は大きく様々なサイズに対応可能なキャップ1を用いる必要があることから、キャップ外径は端末スプライス部Yに比べて大きくなる。端末スプライス部Yが細い仕様の場合でも、このような大きいキャップ1を用いることになるので、端末スプライス部Yを外装品に収納する場合に邪魔となりスペース効率が悪化する問題が生じる。特に、端末スプライス部Yをコルゲートチューブ内に収納する場合には、内径の大きいコルゲートチューブを用いる必要があるためコストアップとなる。また、キャップ1の内径が大きくなると、注入する止水剤2の使用量も増加して止水剤2のコストアップにも繋がる。
【0004】
特開平10−108345号公報では、図7に示すように、複数本の電線Wの芯線同士を接続した圧着部3aを有する電線接続部3に、一端をホットメルト5で封止した熱収縮チューブ4を被覆し、熱収縮チューブ4の内側にブチルゴム6を充填する。その後、加熱処理を行うことで熱収縮チューブ4を収縮させると共に、ブチルゴム6の粘度を低下させて拡散させることにより、電線接続部3を密封して防水処理を行っている。
しかしながら、流動性の小さいブチルゴム6を充填材として利用しているため、熱収縮チューブ4の内側にブチルゴム6を充填する際に作業性が悪くなる問題がある。また、充填されたブチルゴム6の熱収縮チューブ4内での配置や加熱度合いによっては、電線W相互間や熱収縮チューブ4との隙間などの隅々までブチルゴム6が行きわたらずに防水性が低下する恐れもある。
【特許文献1】特開平10−108345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、端末スプライス部を覆うキャップを小径化すると共に、作業性および防水性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、熱収縮チューブの一端開口部に止栓を挿入配置し、この状態で熱収縮チューブを熱収縮して先端閉鎖部を備えたキャップを設け、
前記キャップ内に他端の開口から流動性を有する止水剤を注入し、次いで、
複数の電線端末から露出させた芯線を溶接して形成された端末スプライス部を、前記キャップの他端開口部より挿入して前記止水剤中に浸漬させ、
その後、前記キャップ全体を所要温度で加熱して、前記熱収縮チューブを熱収縮させると共に前記止水剤の硬化を促進させている端末スプライス部の防水処理方法を提供している。
【0007】
前記方法とすると、キャップとして熱収縮チューブを用いているので、加熱による熱収縮で端末スプライス部にキャップがフィットするため、加熱後の熱収縮チューブの外径を最小限に抑えることができる。したがって、端末スプライス部の外装品も小型化できると共に、注入する止水剤の使用量も最小限に抑えることができ、コストダウンを図ることが可能となる。かつ、端末スプライス部を被覆するキャップが小型化することで外観も良好になる。
【0008】
さらに、加熱前には熱収縮チューブの内径を大きくしておくことが可能であるので、止水剤のキャップへの注入作業が行い易く作業性が良好になる。また、止水剤は溶融状態で注入するため流動性が大きく、キャップへの注入作業が更に行い易くなる利点があると共に、電線相互間や熱収縮チューブとの隙間の隅々まで確実に止水液を行き渡らせることができ防水性も向上する。さらに、熱収縮チューブを熱収縮させるための加熱により、止水剤の硬化促進も同時に行うことができるので、作業工数の増加も防止できる。
また、熱収縮チューブの一端開口部に止栓を挿入配置した状態で熱収縮チューブの一端側を熱収縮させることで、止栓を一端開口部に密嵌させることができ、先端閉鎖部の気密性が向上する。
なお、硬化前の流動性を有する止水剤は、50Pa・S以下の低粘度であることが望ましい。
【0009】
また、前記キャップ全体に対して1回の加熱を行うことにより、前記熱収縮チューブの収縮が完了し、その後、前記止水剤が硬化すると好ましい。
例えば、前記キャップに注入する止水剤として、2液混合型のエポキシ樹脂を用いていると好ましい。2液混合型エポキシ樹脂は、常温雰囲気下において低粘度であり浸透性が良く取り扱いも容易である。
なお、止水剤としては、前記2液を混合することにより硬化を開始して加熱により硬化が促進される熱硬化促進性止水剤の他に、常温で液状である1液の熱硬化促進性止水剤を用いても好適である。
【0010】
前記先端閉鎖部の止栓は前記熱収縮チューブと同じ材料から成形したものを用いていると、熱収縮チューブの一端開口部と止栓との親和性が良好で気密性が良くなるため好ましい。
【0011】
また本発明は、前記記載の方法で形成された端末スプライス部の防水処理構造を提供している。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、熱収縮チューブの使用により加熱後のキャップを小型化できるので、端末スプライス部の外装品が小さくて済み、止水剤の使用量も低減され、コストダウンが図られる。さらに、加熱前の止水剤は液状で流動性が大きいため、キャップへの注入作業の作業性および防水性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図5は本実施形態の端末スプライス部の防水処理手順を示す図面である。
図1に示すように、下端に若干熱収縮させた一端開口部11aを有すると共に上端に他端開口部11bを有する熱収縮チューブ11を用意し、一端開口部11aに止栓12を挿入配置し、その状態から熱収縮チューブ11の下端側を加熱する。すると、図2に示すように、熱収縮チューブ11の下端側がさらに熱収縮されることで、止栓12が一端開口部11aに溶融接着されて密着し、先端閉鎖部11cを有するキャップ10が形成される。止栓12は熱収縮チューブ11と同じ材質を用いている。熱収縮チューブ11としては、住友電工ファインポリマー株式会社製のスミチューブ(R)を用いている。
【0014】
図3に示すように、前記キャップ10の他端開口部11bから熱硬化促進性止水剤13を注入する。具体的には、熱硬化促進性止水剤13に二液混合型エポキシ液剤を用いており、第1ディスペンサ14から本剤を適量注入すると共に、第2ディスペンサ15から硬化剤を適量注入する。この際、後工程における熱収縮チューブ11の熱収縮量を考慮して、他端開口部11bと空間Sをあけた状態となるように熱硬化促進性止水剤13を注入量を予め少なくしておく。
次に、図4に示すように、複数本の電線Wの端末から露出させた各芯線Wa同士を溶接により接続した端末スプライス部Yを、キャップ10の他端開口部11bより挿入して熱硬化促進性止水剤13中に浸漬させる。本実施形態では熱硬化促進性止水剤13として常温雰囲気下でも低粘度であるエポキシ液剤を使用しているため、端末スプライス部Yや芯線Waやキャップ10との隙間に熱硬化促進性止水剤13が確実に浸透される。
【0015】
その後、図5に示すように、キャップ10全体を加熱して熱収縮させることで、熱収縮チューブ11を小径化し電線Wにフィットさせると同時に、熱硬化促進性止水剤13を硬化促進させる。即ち、二液混合型エポキシ液剤は本剤と硬化剤を混合し放置しておくと硬化するが、キャップ全体10の加熱により該放置時間が短縮され、熱収縮チューブ11の硬化後に熱硬化促進性止水剤13が速やかに硬化する。この際、熱収縮チューブ11の熱収縮によりキャップ10内の容積が縮小されることで、熱硬化促進性止水剤13の液面が上昇し、端末スプライス部Yの周囲が完全に防水される。なお、この加熱処理における加熱温度は110℃〜150℃とし、加熱時間は3〜10としている。
【0016】
前記方法とすると、端末スプライス部Yを包囲するキャップ10が小径化されるので、キャップ10を外装するコルゲートチューブ等も小型化できるコストダウンを図ることができる。また、熱硬化促進性止水剤13はキャップ10の熱収縮量を見越して少ない使用量で済むため、止水剤コストも低減できる。さらに、熱硬化促進性止水剤13であるエポキシ液剤は二液混合型としているため、熱収縮チューブ11の加熱により急速に硬化を促進させることが可能となり、液剤が硬化するまでの放置時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態の端末スプライス部の防水処理の第1工程を示す断面図である。
【図2】第2工程を示す断面図である。
【図3】第3工程を示す断面図である。
【図4】第4工程を示す断面図である。
【図5】第5工程を示す図面である。
【図6】従来例を示す図面である。
【図7】別の従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0018】
10 キャップ
11 熱収縮チューブ
11a 一端開口部
11b 他端開口部
11c 先端閉鎖部
12 止栓
13 熱硬化促進性止水剤
14 第1ディスペンサ
15 第2ディスペンサ
S 空間
W 電線
Wa 芯線
Y 端末スプライス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮チューブの一端開口部に止栓を挿入配置し、この状態で熱収縮チューブを熱収縮して先端閉鎖部を備えたキャップを設け、
前記キャップ内に他端の開口から流動性を有する止水剤を注入し、次いで、
複数の電線端末から露出させた芯線を溶接して形成された端末スプライス部を、前記キャップの他端開口部より挿入して前記止水剤中に浸漬させ、
その後、前記キャップ全体を所要温度で加熱して、前記熱収縮チューブを熱収縮させると共に前記止水剤の硬化を促進させている端末スプライス部の防水処理方法。
【請求項2】
前記キャップ全体に対して1回の加熱を行うことにより、前記熱収縮チューブの収縮が完了し、その後、前記止水剤が硬化する請求項1に記載の端末スプライス部の防水処理方法。
【請求項3】
前記キャップに注入する止水剤として、2液混合型のエポキシ樹脂を用いている請求項1または請求項2に記載の端末スプライス部の防水処理方法。
【請求項4】
前記先端閉鎖部の止栓は前記熱収縮チューブと同じ材料から成形したものを用いている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の端末スプライス部の防水処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法で形成された端末スプライス部の防水処理構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−81319(P2006−81319A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263025(P2004−263025)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】