説明

第13族金属窒化物結晶の製造方法、該製造方法によって得られた第13族金属窒化物結晶、半導体デバイス、および半導体デバイスの製造方法

【課題】第13族金属窒化物結晶の生成速度を大幅に向上させることができ、かつ高品質な結晶を製造することができる第13族金属窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】原料100を溶媒101に溶解して溶液を作成する工程と、溶液中で第13族金属窒化物の結晶を成長させる工程、とを備える第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、溶液中に第17族元素を含み、かつ結晶成長工程において反応容器102内の圧力が1.0atm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウムに代表される第13族金属窒化物結晶の製造方法に関連し、詳しくは、高品質の第13族金属窒化物の単結晶の製造方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は発光ダイオード及びレーザーダイオード等の電子素子に適用される物質として有用である。窒化ガリウム結晶の製造方法としては、サファイア又は炭化ケイ素等のような基板上にエピタキシャル成長を行なうMOCVD(Metal−Organic Chemical Vapor Deposition)法やHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法などの気相成長法が一般的である。しかしながら、これらの製造方法では、基板とGaNの熱膨張係数差や格子定数差に起因する結晶欠陥が多く発生するため、デバイス特性が悪いという問題がある。また、異種材料の組み合わせでは、気相成長したGaN層に反りが生じるため、歩留まりが悪くなり高コスト化にも繋がる。
【0003】
これらの問題を解決するためには、バルク単結晶成長、あるいは基板に目的の結晶と同種の材料を用いるホモエピタキシャル成長が最も適切である。近年では、格子欠陥の少ない高品質窒化ガリウム単結晶を安価に製造するための技術確立が強く望まれており、上記気相法に代わる手法として、バルク単結晶製造やホモエピタキシャル成長に好適な、各種の液相法が提案されている。例えば、窒素とGaを高温高圧下で反応させる高圧法(非特許文献1)や金属Naをフラックスとして用いるNaフラックス法(特許文献1)、また、超臨界アンモニア中でGaNを溶解析出させるアモノサーマル法(非特許文献2)などが代表的な液相法として報告されている。しかし、これらの液相法はいずれも高温高圧条件を必要としているため、安定的な製造が難しく、また製造装置も高価となることから、工業的な製造には不向きである。
【0004】
これに対し、低圧の条件下でGaN結晶が得られる手法として、第13族金属窒化物原料、金属ハロゲン化物、および窒素化合物などの混合物を加熱溶融してGaNを得る手法(特許文献2)や、リチウムの化合物を第13族金属窒化物原料の補助溶融剤として用いてGaN単結晶を成長させる手法(特許文献3)などが提案されている。これらの液相法は、反応圧力が常圧から比較的低圧である10MPa程度までであるため、安価な製造装置を用いることが可能であり、工業的な製造に適した手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−306709号公報
【特許文献2】特開2008−201653号公報
【特許文献3】中国特許公開第1288079号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Crystal Growth 178 (1977) 174頁
【非特許文献2】Acta Physica Polonica A Vol.88 (1995) 137頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2や特許文献3で提案されているこれらの低圧液相法では、特許文献1、非特許文献1、2などに開示されている高圧下の液相法に比べると、圧力が低いということに起因して反応性が低くなるため、GaN単結晶の生成速度が遅くなるという問題がある。特許文献2では、反応によって生成される副生成物を、蒸発等を利用して除去することによって、GaN単結晶の結晶成長速度を制御することができると報告されている。一方で、本発明者らの検討では、特許文献2に記載の圧力範囲(0.1MPa〜10MPa)では効果的な副生成物の除去はほとんど期待できず、よってGaN単結晶の生成速度をより速い範囲で制御することは困難であることが明らかになった。さらに、上記圧力範囲内では、副生成物の効果的な除去が進まないことで、液相内に不純物が蓄積し、これによって得られる結晶の品質が悪化してしまう恐れがあるとの新たな課題も見出された。
【0008】
以上のように、低圧での液相法は工業化が容易であるという利点がある反面、GaNの生成速度が高圧液相法に比べて遅くなってしまうという大きな問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは、GaNに代表される第13族金属窒化物結晶の液相成長法において、工業的に容易に製造が可能となり、かつ結晶の生成速度が既存の低圧法よりも速くなる製造方法について鋭意検討した。その結果、気相部の圧力を常圧(1atm)未満の状態に保つことで、上記課題が一挙に解決されることを見出した。
すなわち本発明は、原料を溶媒に溶解して溶液を作成する工程と、前記溶液中で第13族金属窒化物の結晶を成長させる工程(結晶成長工程)、とを含む第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、該溶液中に第17族元素を含み、かつ該結晶成長工程において反応容器内の圧力が1.0atm未満である第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
また本発明の別の要旨は、原料を溶媒に溶解して溶液を作成する工程と、前記溶液中で第13族金属窒化物の結晶を成長させる工程(結晶成長工程)、とを含む第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、該結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.5atm未満である第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
【0010】
また本発明は、前記溶媒が溶融塩である前記第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
また本発明は、前記原料が第13族金属複合窒化物からなる前記第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
また本発明は、前記結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.3atm未満である前記第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
【0011】
また本発明は、前記結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.1atm未満である前記第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
また本発明は、反応容器内の気液界面の面積(S)と溶液の体積(V)との比(S/V)を任意の値に制御する前記第13族金属窒化物結晶の製造方法に関する。
また本発明は、前記S/Vが0.01cm−1〜1cm−1の範囲にある前記第13族金属窒化物結晶の製造方法。
さらに本発明は、前記の製造方法により製造された、第13族金属窒化物結晶にも関する。
【0012】
さらに本発明は、前記第13族金属窒化物結晶を含む半導体デバイスにも関する。
さらに本発明は、前記の製造方法により第13族金属窒化物結晶を製造する工程を有する、半導体デバイスの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、第13族金属窒化物結晶の生成速度を既存の低圧法よりも大幅に増加させることができる。また溶液中の不純物の除去速度を増加することができるので、得られる結晶中への不純物の混入も抑えることができるため、高品質な結晶を得ることが可能となる。すなわち、本発明を用いれば、高品質な第13族金属窒化物結晶を大量かつ低コストで製造することが可能となり、工業的な実施の容易性も大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1〜3及び比較例1で用いた結晶成長装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の第13族金属窒化物結晶の製造方法は、
工程1)原料を溶媒に溶解して溶液を作成する工程
工程2)前記溶液中で第13族金属窒化物結晶を成長させる工程(以下、結晶成長工程と称する場合がある)
を備えており、少なくとも工程2において反応容器内の圧力が常圧(1.0atm)未満である。
【0016】
つまり、本発明の第1の様態としては、工程1、2を含む第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、前記溶液中に第17族元素を含み、かつ結晶成長工程において反応容器内の圧力が1.0atm未満である。
また、本発明の第2の様態としては、工程1、2を含む第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.5atm未満である。
【0017】
ここで反応容器内の圧力とは、工程1にて作成された溶液を有する反応容器において、該反応容器の内側の気相部の圧力のことを指す。
工程1、工程2の順序は特に限定されず、順次行ってもよいし、同時に行ってもよい。また、結晶の生成速度を制御する観点から、各工程の始め、あるいは途中から圧力を常圧未満にしてもよく、途中で圧力を変動させてもよい。
【0018】
結晶成長工程において反応容器内の圧力を常圧未満とすることで、第13族金属窒化物結晶の生成反応に伴って生じる副生成物の反応系外への除去が、常圧以上の圧力の場合よりも飛躍的に促進される。つまり、溶液内の副生成物の蓄積量を大きく低減させることができることから、A)原料の溶解量が増加する、及び/またはB)副生成物の存在に起因する逆反応が生じにくくなるといった理由で、第13族金属窒化物結晶の生成速度を常圧以上の圧力の場合と比べて著しく速くすることができる。
【0019】
また同時に、結晶成長工程を常圧未満の減圧下で行うことによって、得られる結晶への副生成物の取り込み量も少なくなるため、不純物の少ない高品質な第13族金属窒化物結晶を得ることができる。
(第13族金属窒化物結晶)
本発明の製造方法で得られる第13族金属窒化物結晶としては、通常、B、Al、Ga、In等の周期表第13族元素の単独金属の窒化物結晶(例えば、GaN、AlN、InN)が挙げられ、合金族の窒化物結晶(例えば、GaInN,GaAlN)も含まれる。本発明は、このうち、特にGaを含む金属窒化物結晶を得る場合に好適である。得られる第13族金属窒化物結晶は、自然発生の核からなる自発結晶であってもよいし、溶液中に
種結晶を配置し、該種結晶上に成長する結晶であってもよい。
【0020】
以下、工程1、工程2の各工程について、詳細に説明する。
工程1)原料を溶媒に溶解して溶液を作成する工程
(原料)
本発明の製造方法で用いられる原料として、特に限定はされないが、例えば、第13族金属元素を含む物質、窒素元素を含む物質、第13族金属元素および窒素元素を含む化合物などをあげることができる。また、複数種の原料を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
第13族金属元素を含む物質としては、金属ガリウム、金属アルミニウム、金属インジウムなどの金属単体の他、GaAl、GaInなどの第13族金属合金を挙げることができる。
窒素元素を含む物質としては、Nガス、NHガスなどのガスの他、LiN、NaN、KN、Mg、Ca、Ba、Srなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の窒化物を挙げることができる。
【0022】
第13族金属元素および窒素元素を含む化合物としては、GaN、AlN、InNなどの第13族金属窒化物の他、AlGaN、InGaN、AlGaInNなどの第13族金属合金の窒化物、またLiGaN、CaGa、CaGaN、BaGa、MgGaNなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属と第13族金属との複合窒化物を挙げることができる。
【0023】
上記の中でも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と第13族金属との複合窒化物は、後述する溶媒としての溶融塩に溶解した場合に、Naフラックス法などのアルカリメタル金属法に比べて、第13族金属窒化物結晶が生成するために十分な量のNを溶液または融液中に含ませることができるため好ましく、中でもLiGaNは、後述する溶融塩への溶解度が高く、かつ比較的合成しやすいため、特に好ましい。
【0024】
原料の形態としては、特に限定はされない。固体の原料については、粉末状でも粒状でも塊状でもよい。例えば、LiGaNの粒状原料は、秤量が容易であり、かつ溶液を混合した場合に原料が液中を舞い上がらないため好ましい。もちろん、液体の原料を使用しても良く、例えば、金属ガリウム等、常温で固体の原料が、反応温度で液体になっても構わない。
【0025】
(溶媒)
本発明の製造方法で用いられる溶媒としては、特に限定はされない。例えば塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物;塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウムなどのアルカリ土類金属ハロゲン化物などの溶融塩や、窒化リチウム、窒化ナトリウム、窒化カリウムなどのアルカリ金属窒化物;窒化マグネシウム、窒化カルシウム、窒化ストロンチウム、窒化バリウムなどのアルカリ土類金属窒化物;ガリウム、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの金属の融液を用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、任意の組み合わせ、かつ任意の量比で用いることができる。
【0026】
上記溶媒の中で、原料として前述したLiGaNなどの複合窒化物を用いる場合に、これを溶解するために好ましい溶媒は、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム
、塩化セシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化セシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウムなどの第17族元素を含む金属ハロゲン化物の溶融塩、もしくはこれらの金属ハロゲン化物の混合溶融塩である。混合溶融塩を用いる場合は、2種類以上の塩を別々の固体として反応系内に導入し、加熱溶融させて作成することも可能であるが、共晶塩を用いる場合であれば、それを加熱溶融させて作成することが、系内の均一性の観点から望ましい。
【0027】
前記溶融塩に水等の不純物が含まれている場合は、反応性気体を吹き込んで予め溶融塩を精製しておくことが望ましい。反応性気体としては、例えば、塩化水素、ヨウ化水素、臭化水素、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができ、溶媒として塩化物の溶融塩を用いる場合には、反応性気体として特に塩化水素を用いることが好ましい。
【0028】
(溶液)
前記溶媒に前記原料を溶解もしくは混合して、結晶成長工程に供する溶液を作成することができる。原料を溶解させる方法としては特に制限はないが、溶媒作成後に原料を固体、液体、もしくは気体の状態で溶媒中に加えてもよいし、溶媒源となる固体をあらかじめ原料と混合しておき、加熱して溶液を作成してもよい。加熱する温度は、200〜1500℃であることが好ましく、400〜1000℃がより好ましい。また、加熱する時間は1〜100時間が好ましく、より好ましくは1〜10時間である。
【0029】
また、溶媒と原料は任意の比率で混合できるが、原料の溶解度以上の量の原料を溶媒中に混合することが、より好ましい。具体的には、溶液中の原料合計濃度は、通常0.0001mol%〜99.9mol%であり、好ましくは0.001mol%〜10mol%、さらに好ましくは0.001mol%〜0.1mol%である。
本発明で用いられる溶液は、低温かつ常圧以下でも原料を容易に溶解することができることから第17族元素を含むことが好ましく、特に塩素を含む化合物が安価であり容易に入手できるためより好ましい。
【0030】
工程2)前記溶液中で第13族金属窒化物結晶を成長させる工程(結晶成長工程)
(結晶成長方法)
本発明の結晶成長工程における結晶成長方法は、大きくは液相エピタキシャル法(Liquid Phase Epitaxy)に該当する。液相エピタキシャル法の中では、さらに数種類の結晶成長方法があるが、本発明はこれらの中から任意に方法を選定して用いることができる。具体的には、フラックス法で主に用いられている温度差 (Gradient Transport)法、徐冷(Slow Cooling)法、温度サイクル (Temperature Cycling)法、るつぼ加速回転 (Accelerated Crucibl Rotation Technique)法、トップシード (Top−Seeded Solution Growth)法、溶媒移動法やその変形である溶媒移動浮遊帯域 (Trabeling−Solvent Floating−Zone)法、蒸発法などを用いることができる。また、これらの方法を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0031】
さらに本発明においては、前記結晶成長工程において、結晶生成速度をさらに増加させるために、結晶成長中における反応容器内の気相部の圧力を常圧未満に保持することが必要である。
また本発明においては、あらかじめよく乾燥した反応容器に原料と溶媒を充填し、不活性ガス雰囲気下で加熱溶融させて溶液または融液を作成し結晶成長を行うことができる。この場合、より高品質の第13族金属窒化物結晶を得るために、できるだけ水や酸素の混
入を回避すべきである。従って、原料や溶媒、ないし、混合物中の含有酸素原子量を、通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下に留めるべきである。また、吸湿性のものを使用する場合は、充填前に加熱脱気するなどして十分乾燥し、かつ、各成分の混合、充填についても、酸素や水分を極力排した不活性ガス雰囲気下で速やかに行うべきである。
【0032】
(種結晶)
本発明の製造方法では、育成する結晶の方位を定めて大型の単結晶を効率よく得る理由から、結晶成長のための種結晶を用いて、種結晶上に第13族金属窒化物結晶を成長させることが好ましい。
種結晶の形状は特に制限されず、平板状であっても、棒状であっても、塊状であってもよいが、実際には市販の平板状の種基板を使用することが殆どである。種結晶が平板状である場合は、角形であっても円形(ディスク)であってもよい。種結晶の大きさは、反応容器に入る大きさであれば特に制限されない。種結晶の数は、1個でも複数個でもよい。また、ホモエピタキシャル成長用の種結晶であってもよいし、ヘテロエピタキシャル成長用の種結晶であってもよい。具体的には、気相成長させたGaN、InGaN、AlGaN等の第13族金属窒化物の種結晶を挙げることができる。また、サファイア、シリカ、ZnO、BeO等の金属酸化物や、SiC、Si等の珪素含有物や、GaAs等の気相成長等で基板として用いられる材料を挙げることもできる。これらの種結晶の材料は、本発明で成長させる第13族金属窒化物結晶の格子定数に可能な限り近いものを選択することが好ましく、得られる第13族金属窒化物結晶と同一の結晶であるホモエピタキシャル成長用の種結晶がより好ましい。
【0033】
(圧力)
本発明において、第13族金属窒化物結晶の成長を効果的に行なうための反応容器内の気相部の圧力範囲は、後述の副生成物を除去して結晶成長速度を増加させる観点から、常圧(1.0atm)未満であることが必要である。
本発明の第1の様態においては、反応容器内の圧力が1.0atm未満であれば、圧力範囲に特に制限はないが、好ましくは0.5atm未満であり、より好ましくは0.3atm未満、さらに好ましくは0.1atm未満である。
本発明の第2の様態においては、反応容器の圧力が0.5atm未満であればよく、好ましくは0.3atm未満、より好ましくは0.1atm未満である。
【0034】
本発明において、前記結晶成長工程にて反応容器内の圧力を常圧未満とすることで、一定の蒸気圧を持つ副生成物は蒸発し易くなり、よって溶液からの副生成物の除去は、常圧以上の圧力の場合よりも飛躍的に促進されることとなる。よって、溶液内から除去したい副生成物の蒸気圧に鑑みて、反応容器内の圧力を適宜設定することが好ましい。
反応容器内を常圧未満に保つ方法としては特に制限はないが、結晶成長中に真空ポンプを用いて反応容器内を常圧未満に保つ方法、工程1であらかじめ反応容器内を所望の圧力まで真空引きし密閉しておく方法、などが挙げられる。中でも、真空ポンプを用いて反応容器内を常圧未満に保つ方法は、反応容器内の圧力を一定に保つことが容易に実施できるため、より好ましい。この場合、結晶製造装置内には反応容器内の圧力を測定することができる圧力計、および反応容器内の圧力を調節することができるバルブなどを設置することができる。
【0035】
また結晶成長装置内には、除去した副生成物を捕集するための機構が設けられていてもよく、捕集機構としては冷却トラップが好ましい。
(温度)
本発明において、第13族金属窒化物結晶の成長を効果的に行なうための温度は、通常200〜1500℃であり、好ましくは400〜1000℃、さらに好ましくは、600
〜800℃である。
【0036】
(副生成物)
本発明における副生成物とは、第13族金属窒化物結晶を生成する際に別途生じる物質を指す。前記複合窒化物を前記原料として用いる場合、アルカリ金属窒化物やアルカリ土類金属窒化物、もしくは原料とは異なる組成の複合窒化物、などを副生成物として挙げることができる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他遷移金属やこれらの金属からなる合金も副生成物として挙げることができる。
【0037】
溶液内への前記副生成物の蓄積は、第13族金属窒化物結晶の生成速度を低下させるだけでなく、結晶の品質を悪化させる要因にもなることから、これらの副生成物は、反応容器内を減圧状態にすることで、結晶成長中に系外へ除去されることが望ましい。
(溶液の混合)
本発明の結晶成長工程において、溶液を攪拌する方法としては特に制限はない。溶液中に種結晶を配置し、該種結晶を回転させて攪拌を行う方法、溶液中に任意の形状の攪拌翼を配置して該攪拌翼を回転させて攪拌を行う方法、溶液が入った反応容器を揺動や回転をすることにより攪拌を行う方法、溶液中へガスを導入することにより攪拌を行う方法、溶液に温度差をつけることで生じる対流を利用して攪拌を行う方法、などを挙げることができる。これらの方法によって攪拌を行うことにより、溶液全体の原料濃度勾配を低減させることが可能となり、特に反応容器中の特定の箇所に固定した種結晶上に結晶を成長させる場合、継続的に種結晶近傍に原料を供給でき、種結晶上での結晶成長を促進することができるので好ましい。
【0038】
中でも種結晶を回転させて攪拌を行う方法は、種結晶自身が回転することによって、種結晶と溶液または融液との境界層(種結晶の境膜)を薄くし、種結晶上の結晶成長速度を高める効果があるため好ましい。
攪拌する方法としては、これらの方法を単独で行ってもよいし、組み合わせて行ってもよい。また、いずれの場合も、溶液中に任意の形状のバッフルを取り付けて、流れを制御することができる。
【0039】
(種結晶の回転)
本発明において、前記種結晶を回転させて、溶液を攪拌することができる。種結晶の回転による攪拌方法は、特に制限されず、例えば、種結晶を金属製のワイヤーなどで攪拌棒に取り付け、種結晶を溶液に浸漬し、攪拌棒を回転させることにより種結晶を回転させて溶液を攪拌することができる。種結晶の回転は、溶液中のどの位置にあってもよい。反応容器内の溶液の、中央で回転していてもよいし、端の内壁に近いところで回転していてもよい。種結晶が平板状である場合、反応容器内に配置する際の種結晶の主面の向きは、制限されず、例えば、反応容器の底に対し、垂直であっても平行であっても斜めであってもよい。種結晶を溶液中で回転させる際も、同様に、種結晶の主面の向きは制限されず、例えば、種結晶が回転する軸に対し垂直であっても平行であっても斜めであってもよい。ここで、本明細書で種結晶の主面とは、種結晶の中で一番広い面のことを指す。
【0040】
回転する種結晶の数は、一個でも複数個でもよい。複数個使用する場合に、互いの種結晶の位置関係は特に制限されない。種結晶が平板状である場合は、互いの主面を向かい合わせて設置してもよいし、互いの側面を向かい合わせて設置してもよい。複数個の種結晶の回転方法は、同一の回転条件でもよいし、一部の種結晶を違う条件で回転させてもよい。
【0041】
(回転数)
本発明において、前述した種結晶や任意の形状の攪拌翼を、溶液中で回転させることに
より、溶液を攪拌することができる。回転速度は、反応容器の大きさ、種結晶や攪拌翼の大きさなど攪拌の諸条件により最適値は異なるが、実用的には0.5rpm以上であることが好ましく、より好ましくは20rpm以上、さらに好ましくは50rpm以上であって、好ましくは1000rpm以下、より好ましくは500rpm以下、さらに好ましくは300rpm以下である。
【0042】
回転数が下限値以上であると、溶液中の濃度勾配を小さくしやすく、また、回転数がさらに増加していくと、種結晶の境膜がより薄くなり結晶成長速度が大きくなるので好ましい。ただし、回転数が上限値を超えると、装置への負荷が高まり連続運転が継続できなくなる他、接続部が緩む等して空気が混入する可能性が高くなるため、望ましくない。
(部材)
本発明で使用する部材とは、例えば、反応容器、種結晶保持棒、攪拌翼、バッフル、ガス導入管等、反応容器とそれに付随するものを広く指すものとする。これらの部材の材質は、熱的及び化学的に安定であれば、特に制限はなく、金属(Ni、Ta、Ti、Pd、Pt、Au、Nb、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Irなど)でも酸化物(Y、ZrO、CaO、La、MgO、Al、SiOなど)でも窒化物(BN、TiN、ZrN、HfN、SiNなど)でも炭化物(WC、TaC、SiCなど)でもよい。
【0043】
特に、本発明において、原料に複合窒化物を使用し、かつ溶媒に溶融塩を使用する場合は、部材の材質は、上記記載の中でも、周期表第4族元素(Ti、Zr、Hf)を主成分として含む金属であることが好ましい。また、これらの部材の表面は、前記周期表第4族元素の窒化物からなることがより好ましい。
(溶液量と気液界面積)
本発明において、前記溶液の量は任意に決めることができるが、前記副生成物を効果的に除去するためには、気液界面積(S)と溶液の体積(V)との比率(S/V)を気相部の圧力に従って適当な値になるように調節することが望ましい。
【0044】
例えば、結晶成長中に気相部の圧力が徐々に上昇していくような場合には、S/Vを徐々に増加させるように気液界面積Sを大きくしていくことで、副生成物の除去を一定の効率で行なうことができる。
具体的に、S/Vの値は通常0.001cm−1〜10cm−1の範囲をとることができるが、好ましくは0.01cm−1〜1cm−1であり、より好ましくは0.1cm−1〜1cm−1である。
【0045】
また、結晶生成速度を制御する目的で、工程2の途中で前記溶液を追加することができる。さらには、工程2の途中において、前述の部材材質からなる浮き状の塊を溶液に浮かせることで気液界面積を調節し、結晶生成速度を制御することもできる。
(反応容器の形状)
反応容器の形状は特に制限されず、円筒型でも角型でも円筒型の中央を抜いた(もしくは円筒型の中央により径の小さな円柱を置いた)ドーナツ型でもよい。
【0046】
また前記S/Vの値を調節する目的で、結晶成長中に気液界面積が変化していくような形状(例えば錐型)をとってもよい。反応容器が円筒型の場合、種結晶を入れるために、その内径は1cm以上であることが好ましく、内径2cm以上であることより好ましい。内径の上限は特に制限されないが、容器製作を含め実用可能な範囲として、内径200cm以下が好ましく、より好ましくは100cm以下である。
【0047】
(不活性ガス雰囲気)
前記結晶成長における不活性ガス雰囲気下に使用する不活性ガスの種類としては特に制
限はないが、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等が好適に使用される。中でも、窒素ガスは、本発明の目的物である第13族金属窒化物結晶の分解を防ぐ効果があるため好ましい。また、反応容器の中に酸素や水分を選択的に吸収するスキャベンジャーの役割を果たす物質(例えば、チタンなどの金属片)を同伴させてもよい。
【0048】
(半導体デバイスの製造方法)
本発明の製造方法は、半導体デバイスの製造方法における第13族金属窒化物結晶を製造する工程に用いることができる。その他の工程における原料、製造条件および装置は一般的な半導体デバイスの製造方法で用いられる原料、条件および装置をそのまま適用できる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
Arボックス内にて以下の作業を行なった。まず、Ti製の反応容器102(外径29mm、内径25mm、高さ180mm)の中に、原料100としてLiGaNを1.00gと、溶媒101としてLiClを7.00g、およびNaClを3.00g、とを順次投入した。次に、Ti製の反応容器を石英製の反応管103(外径40mm、内径36mm、高さ500mm)の中に入れ、反応管内が密閉状態となるように蓋をした。
次に、反応管をArボックスから取り出して、これを電気炉108に固定した後、真空ポンプを用いて不活性ガス導入管107を通じながら反応管内を0.1Torr未満の減圧状態とした。
【0050】
その後、真空ポンプを停止して、不活性ガス導入管107からNを導入して反応管内をN雰囲気とし、次いで反応管のガス排気管104のノズル105を開いて、Nを100cm/minで流通させた。その後、電気炉を用いて、Ti製の反応容器の内部が室温から745℃になるまで1時間かけて昇温し、LiClおよびNaClを溶融させた。
【0051】
745℃まで昇温後、不活性ガス導入管からのNの導入を停止し、ガス排気口を開いて再度真空ポンプで反応管内を減圧とし、反応管内の圧力が0.1atmになったところでガス排気口を閉じ、反応管内の圧力を0.1atmに保ったまま745℃にて103時間(hr)保持して、GaN結晶を成長させた。
減圧保持後、電気炉による加熱を停止してから反応管を電気炉から取り出し、室温下で反応管を急冷した。次に、反応管内からTi製の反応容器を取り出し、Ti製の反応容器を温水に浸けて、反応容器の内部に固化していたLiClおよびNaClを溶かした。その後、温水中に塩酸水溶液を加えて未反応分のLiGaNを溶解させ、温水中に残ったGaN粉末結晶を沈降分離により取り出した。
【0052】
取り出したGaN粉末結晶を乾燥させて重量を測定したところ、GaN結晶の総生成量は409.7mgであり、溶液の気液界面積当りの生成速度に換算すると0.81mg/hr/cmであった。
[実施例2]
GaN結晶の生成速度に対する減圧度の影響を確認するために、745℃まで昇温後の反応管103内の圧力を0.001atmとし、保持時間を27hrとした以外は実施例1と同様の手法を用いてGaN粉末結晶を生成させた。
【0053】
得られたGaN結晶の総生成量は194.0mgであり、溶液の気液界面積当りの生成速度に換算すると1.46mg/hr/cmであった。
このように、減圧度を上げることでGaNの生成速度が増加することが確認された。
[実施例3]
GaN結晶の生成速度に対する減圧度の影響を確認するために、Ti製の反応容器102が外径34mm、内径30mm、高さ200mmであり、745℃まで昇温後の反応管103内の圧力を0.5atmとし、保持時間を96hrとした以外は実施例1と同様の手法を用いてGaN粉末結晶を生成させた。
【0054】
得られたGaN結晶の総生成量は383.7mgであり、溶液の気液界面積当りの生成速度に換算すると0.57mg/hr/cmであった。
[比較例1]
GaN結晶の生成速度について実施例1および実施例2と比較するために、745℃まで昇温後の反応管103内の圧力を1atm(常圧)とし、保持時間を94hrとした以外は実施例1と同様の手法でGaN粉末結晶を生成させた。
【0055】
得られたGaN結晶の総生成量は106.0mgであり、溶液の気液界面積当りの生成速度に換算すると0.23mg/hr/cmであった。
このように、常圧下におけるGaN結晶の生成速度は、減圧下に比べて1/2〜1/7程度に留まることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明を利用することにより、高品質な第13族金属窒化物結晶を既存の液相法よりも安価に製造することができる。さらには、Naフラックス法やアモノサーマル法などの高温高圧を要する他の手法に比べると、本発明は製造時における安全性が高いため、工業的な生産の容易性も大幅に向上する。
【符号の説明】
【0057】
100 原料
101 溶媒
102 反応容器
103 反応管
104 ガス排気管
105 バルブ
106 バルブ
107 ガス導入管
108 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を溶媒に溶解して溶液を作成する工程と、前記溶液中で第13族金属窒化物の結晶を成長させる工程(結晶成長工程)、とを含む第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、該溶液中に第17族元素を含み、かつ該結晶成長工程において反応容器内の圧力が1.0atm未満であることを特徴とする第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
原料を溶媒に溶解して溶液を作成する工程と、前記溶液中で第13族金属窒化物の結晶を成長させる工程(結晶成長工程)、とを含む第13族金属窒化物結晶の製造方法であって、該結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.5atm未満であることを特徴とする第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が溶融塩である、請求項1または2に記載の第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記原料が第13族金属複合窒化物からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.3atm未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記結晶成長工程において反応容器内の圧力が0.1atm未満である、請求項5に記載の第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
反応容器内の気液界面の面積(S)と溶液の体積(V)との比(S/V)を任意の値に制御する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記S/Vが0.01cm−1〜1cm−1の範囲にある、請求項7に記載の第13族金属窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、第13族金属窒化物結晶。
【請求項10】
請求項9に記載の第13族金属窒化物結晶を含む、半導体デバイス。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により第13族金属窒化物結晶を製造する工程を有する、半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256055(P2011−256055A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129234(P2010−129234)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】