説明

等速ジョイントの高周波焼入装置

【目的】 等速ジョイントのカップ部とシャフト部とに対して同じ位置で高周波焼入を施すことができるようにする。
【構成】 6つの溝が形成されたカップ部WCとこのカップ部WCから突出したシャフト部WSとが一体に形成された等速ジョイントWのカップ部WCとシャフト部WSとを等速ジョイントWを移動させることなく高周波焼入する高周波焼入装置であって、カップ部WCの内部に配置されるカップ部用焼入コイル500と、カップ部WCの内側面に焼入液Lを噴射するカップ部用ジャケット550と、カップ部WCに外側から焼入液Lを噴射する外周ジャケット270と、シャフト部WSの周囲に配置されるシャフト部用焼入コイル600と、シャフト部WSに焼入液Lを噴射するシャフト部用ジャケット660と、載置した等速ジョイントWを回転駆動するワーク載置台700とを備えており、前記外周ジャケット270は略U字形状に形成されており、シャフト部用焼入コイル600は外周ジャケット270の開放271側からシャフト部WSを加熱するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の走行系に用いられる等速ジョイントのカップ部とシャフト部とに同じ場所で、等速ジョイントを移動させることなく高周波焼入を施す等速ジョイントの高周波焼入装置に関する。
【0002】
【従来の技術】等速ジョイントは、内面側に溝が形成されたカップ部と、このカップ部から突出したシャフト部とから構成されている。かかる等速ジョイントには、カップ部の内側面と、シャフト部の表面とに高周波焼入が施される。
【0003】この高周波焼入は、カップ部の内側面に高周波加熱するカップ部用焼入コイルと、カップ部の内面側に焼入液を噴射するカップ部用ジャケットと、カップ部の外周面に焼入液を噴射する外周ジャケットと、シャフト部を高周波加熱するシャフト部用焼入コイルと、シャフト部に焼入液を噴射するシャフト部用ジャケットとを有している。
【0004】そして、この種の従来の等速ジョイントの高周波焼入装置であると、シャフト部の高周波焼入が終了すると、等速ジョイントをシャフト部用焼入コイルのある位置からカップ部用焼入コイルのある位置へと移動させてカップ部の高周波焼入を行う。
【0005】等速ジョイントに対して、カップ部の高周波焼入とシャフト部の高周波焼入とが別個の位置で行われるのは次のような理由による。
【0006】外周ジャケットは、略円筒形状であって、カップ部を外側からカバーするようになっている。しかも、この外周ジャケットは、カップ部の加熱時に先に高周波焼入が施されたシャフト部にカップ部からの熱が伝わらないようにするためと、カップ部が肉薄のため加熱が外側まで達しないようにするためと、カップ部の歪を少くするため、カップ部とシャフト部との境目にも焼入液を噴射するようになっている。従って、この外周ジャケットの上端は、シャフト部にまで達している。すなわち、外周ジャケットはカップ部より背高に形成されているのである。よって、シャフト部を加熱するシャフト部用焼入コイルは、外周ジャケットが邪魔になってシャフト部を加熱する位置に設けることができないのである。このため、シャフト部に高周波焼入を施してからカップ部に高周波焼入を施すようにしている。または、カップ部に高周波焼入を施してから、シャフト部に対する高周波焼入を別の位置で施す。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このように、シャフト部の高周波焼入とカップ部の高周波焼入とを別個の位置で行うと、等速ジョイントの移動が必要となるとともに、それぞれの位置での等速ジョイントの位置決めが必要となるため、生産効率には一定の限度があった。また、高周波焼入装置を設置する大きなスペースが必要となる。さらに、異なる別個の位置でカップ部とシャフト部と焼入を行うため、コストの低減にも一定の限界があった。
【0008】本発明は上記事情に鑑みて創案されたもので、等速ジョイントのカップ部とシャフト部とに対して同じ位置で、等速ジョイントを移動させることなく高周波焼入を施すことができる等速ジョイントの高周波焼入装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係る等速ジョイントの高周波焼入装置は、カップ部とこのカップ部から突出したシャフト部とが一体に形成された等速ジョイントのカップ部とシャフト部とを等速ジョイントを移動させることなく高周波焼入する高周波焼入装置であって、カップ部の内部に配置されるカップ部用焼入コイルと、カップ部の内側面に焼入液を噴射するカップ部用ジャケットと、カップ部に外側から焼入液を噴射する外周ジャケットと、シャフト部の周囲に配置されるシャフト部用焼入コイルと、シャフト部に焼入液を噴射するシャフト部用ジャケットと、載置した等速ジョイントを回転駆動するワーク載置台とを備えており、前記外周ジャケットは略U字形状に形成されており、シャフト部用焼入コイルは外周ジャケットの開放側からシャフト部を加熱するようになっている。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置の概略的正面図、図2は本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置の概略的平面図、図3は本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置に用いられるカップ部用焼入コイルの概略的斜視図、図4は本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置に用いられるシャフト部用焼入コイルの概略的斜視図、図5は本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【0011】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置は、6つの溝が形成されたカップ部WCとこのカップ部WCから突出したシャフト部WSとが一体に形成された等速ジョイントWのカップ部WCとシャフト部WSとを高周波焼入する高周波焼入装置であって、カップ部WCの内部に配置されるカップ部用焼入コイル500と、カップ部WCの内側面に焼入液Lを噴射するカップ部用ジャケット550と、カップ部WCに外側から焼入液Lを噴射する外周ジャケット270と、シャフト部WSの周囲に配置されるシャフト部用焼入コイル600と、シャフト部WSに焼入液Lを噴射するシャフト部用ジャケット660と、載置した等速ジョイントWを回転駆動するワーク載置台700とを備えており、前記外周ジャケット270は略U字形状に形成されており、シャフト部用焼入コイル600は外周ジャケット270の開放271側からシャフト部WSを加熱するようになっている。
【0012】前記カップ部用焼入コイル500は、図1及び図3に示すように、一対の給電導体510と、両端がこれら給電導体510に接続されたスパイラル状の加熱導体520とを有している。一方の給電導体510は、加熱導体520の内側を通過するようになっている。また、加熱導体520の径は、カップ部WCの内径より若干小さく設定されている。
【0013】このカップ部用焼入コイル500は、中空の角パイプを折曲形成したものであって、内部に冷却液が流通するようになっている。
【0014】かかるカップ部用焼入コイル500の中心、すなわち加熱導体520の中心位置には、カップ部WCの内側面に焼入液Lを噴射するカップ部用ジャケット550が配置されている。このカップ部用ジャケット550の先端は、焼入液Lを噴射する噴射孔551となっている。かかるカップ部用ジャケット550は、噴射孔551がカップ部WCの底部に対向するようにカップ部WCに挿入されるので、ここから噴射された焼入液Lはカップ部WCの内側面の全面に注がれることになる。
【0015】一方、シャフト部用焼入コイル600は、図1及び図4に示すように、半導体開放鞍型の焼入コイルである。すなわち、一対の給電導体610と、この給電導体610にそれぞれ接続された一対の略1/4円弧状の第1の円弧状導体620と、この第1の円弧状導体620にそれぞれ接続された一対の加熱導体630と、この加熱導体630を接続する略1/2円弧状の第2の円弧状導体640とを有している。
【0016】かかるシャフト部用焼入コイル600の各導体610、620、630、640は中空パイプから構成され、その内部に冷却液が流通されるようになっている。従って、冷却液は、一方の給電導体610→一方の第1の円弧状導体620→一方の加熱導体630→第2の円弧状導体640→他方の加熱導体630→他方の第1の円弧状導体620→他方の給電導体610の順に流れる。
【0017】シャフト部用ジャケット660は、シャフト部WSに焼入液Lを噴射するものであって、シャフト部用焼入コイル600の両側に設置されている。しかも、このシャフト部用ジャケット660は、シャフト部WSより若干高い位置にあり、焼入液Lを斜め下方向に噴射するようになっている。
【0018】また、カップ部WCの周囲には、外周ジャケット270が設置されている。この外周ジャケット270は、カップ部WCの加熱時の過熱を防止するためのものである。かかる外周ジャケット270は、平面視略U字形状に形成されている。すなわち、この外周ジャケット270は、一方が開放されているものである。
【0019】さらに、この外周ジャケット270の高さは、シャフト部WSにカップ部WCの熱が伝わらないようにするため、かつ焼入液Lの流れをよくし、均一に冷却するために斜め下方向に噴射しているため、、カップ部WCの高さより若干高く設定されている。従って、この外周ジャケット270から噴射される焼入液Lの一部は、シャフト部WSの基端側にも噴射されるようになっている。
【0020】なお、外周ジャケット270から噴射される焼入液Lは、カップ部の外周面に対して垂直やや下向きに当たるようになっている。
【0021】ワーク載置台700は、ワークである等速ジョイントWを載置するものである。かかるワーク載置台700は、カップ部用焼入コイル500やカップ部用ジャケット550が通過するための開口711が開設された回転台710と、この回転台710の下面側に設けられるベアリング720と、このベアリング720を受ける固定台730と、前記回転台710の縁部に設けられたギア713に噛合する出力ギア820と、この出力ギア820を回転駆動する駆動部810とを有している。従って、回転台710は、回転可能になっている。
【0022】前記回転台710の開口711を取り囲むようにしてリング状の絶縁性のスペーサ712が設けられている。このスペーサ712の上に等速ジョイントWのカップ部WCの下端部分が載置されることによって、等速ジョイントWがワーク載置台700の上に載置されるのである。なお、ワーク載置台700は、等速ジョイントWを過熱した際のコンセントリングの役目(すなわち、等速ジョイントWの下端部分の加熱を防止する役目)をも果たす。また、このスペーサ712の外側には、等速ジョイントWを固定する固定治具714が設けられている。
【0023】なお、固定台730には、カップ部用焼入コイル500やカップ部用ジャケット550を通過させるための開口731が開設されている。
【0024】従って、シャフト部WSをワークセンター830で支持された等速ジョイントWは、駆動部810によって回転台710とともに回転するようになる。なお、駆動部810は、インバータモータにより、シャフト部WSとカップ部WCを焼入する際、回転を変化させることができる。
【0025】次に、上述したような等速ジョイントの高周波焼入装置による高周波焼入作業について説明する。
【0026】まず、図外のワーク搬入装置によって等速ジョイントWがワーク載置台700の上に搬送されてくる。そして、カップ部WCの内周面にカップ部用焼入コイル500が挿入されるとともに、シャフト部WSの周囲にシャフト部用焼入コイル600が配置される。なお、等速ジョイントWのカップ部WCの下端部分は、スペーサ712の上に載置される。また、この作業中は、等速ジョイントWはワーク載置台700によって回転されている。
【0027】この状態で、シャフト部用焼入コイル600にシャフト部用カレントトランス900から出力端子910を介して電流を供給し、シャフト部WSを加熱する。この際、外周ジャケット270の開放371側からシャフト部用焼入コイル600がスライドしてセットされるので、外周ジャケット270の高さがカップ部WCの高さより若干高くても、シャフト部用焼入コイル600は確実にシャフト部WSを加熱することができる。
【0028】シャフト部WSの加熱が開始されるのと同時に外周ジャケット270からカップ部WCの外周面に焼入液Lを噴射するようにしてもよいし、しなくともよい。これは、等速ジョイントWに要求されるスペックに応じて適宜変更する。
【0029】シャフト部WSの加熱が終了する(T2 )のと同時に、シャフト部用ジャケット660から焼入液Lを噴射してシャフト部WSを冷却し、シャフト部WSに高周波焼入を施す。
【0030】また、シャフト部WSの冷却と同時に、所定時間T2 からカップ部用焼入コイル500にカップ部用カレントトランス930から出力端子940を介して電流の供給を開始する。
【0031】カップ部用焼入コイル500に電流を供給してから所定時間T3 になると、カップ部用焼入コイル500への給電が停止される。これと同時に、カップ部用ジャケット550から焼入液Lが噴射され、カップ部WCの高周波焼入が行われる。この時点(T3 )では、シャフト部用ジャケット660からの焼入液Lの噴射は継続され、カップ部用ジャケット550からの焼入液Lの噴射中(T4 )において、シャフト部用ジャケット660からの焼入液Lの噴射が終了する。
【0032】さらに、シャフト部用ジャケット660からの焼入液Lの噴射が終了した後に時間T5 において、外周ジャケット270からの焼入液Lの噴射が終了する。
【0033】その後、等速ジョイントWを図示しないワーク搬出装置によって搬出し、次の新たな等速ジョイントWがワーク搬入装置によって搬入され、同様のサイクルで高周波焼入が施される。なお、カップ部用ジャケット500からの焼入液Lは、開口711、731を介して外部に排出される。
【0034】
【発明の効果】本発明に係る等速ジョイントの高周波焼入装置は、カップ部とこのカップ部から突出したシャフト部とが一体に形成された等速ジョイントのカップ部とシャフト部とを等速ジョイントを移動させることなく高周波焼入する高周波焼入装置であって、カップ部の内部に配置されるカップ部用焼入コイルと、カップ部の内側面に焼入液を噴射するカップ部用ジャケットと、カップ部に外側から焼入液を噴射する外周ジャケットと、シャフト部の周囲に配置されるシャフト部用焼入コイルと、シャフト部に焼入液を噴射するシャフト部用ジャケットと、載置した等速ジョイントを回転駆動するワーク載置台とを備えており、前記外周ジャケットは略U字形状に形成されており、シャフト部用焼入コイルは外周ジャケットの開放側からシャフト部を加熱するようになっている。
【0035】従って、この等速ジョイントの高周波焼入装置によると、シャフト部の高周波焼入とカップ部の高周波焼入とを同じ位置で移動させることなく行うことができるので、従来のような等速ジョイントの移動やそれぞれの位置での等速ジョイントの位置決めが不必要となるため、生産効率をより向上させることが可能となる。また、高周波焼入装置の設置スペースも削減することができるとともに、コストの低減にも寄与するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置の概略的正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置の概略的平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置に用いられるカップ部用焼入コイルの概略的斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置に用いられるシャフト部用焼入コイルの概略的斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの高周波焼入装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
270 外周ジャケット
500 カップ部用焼入コイル
550 カップ部用ジャケット
600 シャフト部用焼入コイル
660 シャフト部用ジャケット
W 等速ジョイント
WS シャフト部
WC カップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カップ部とこのカップ部から突出したシャフト部とが一体に形成された等速ジョイントのカップ部とシャフト部とを等速ジョイントを移動させることなく高周波焼入する高周波焼入装置において、カップ部の内部に配置されるカップ部用焼入コイルと、カップ部の内側面に焼入液を噴射するカップ部用ジャケットと、カップ部に外側から焼入液を噴射する外周ジャケットと、シャフト部の周囲に配置されるシャフト部用焼入コイルと、シャフト部に焼入液を噴射するシャフト部用ジャケットと、載置した等速ジョイントを回転駆動するワーク載置台とを具備しており、前記外周ジャケットは略U字形状に形成されており、シャフト部用焼入コイルは外周ジャケットの開放側からシャフト部を加熱することを特徴とする等速ジョイントの高周波焼入装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開2000−199016(P2000−199016A)
【公開日】平成12年7月18日(2000.7.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−1493
【出願日】平成11年1月6日(1999.1.6)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】