説明

粒状結晶の製造方法

【課題】 粒状結晶シリコンを製造する場合において、不純物濃度の低い粒状シリコンを安定して作製すると同時に、高い結晶性をもった粒子を低コストで製造することを目的とする。
【解決手段】 結晶材料の融液5を排出する坩堝1を高周波により加熱することにより、短時間に結晶材料の加熱を行なって融液5とし、融液5と坩堝1の構成部材との反応を抑えることで、得られる粒状結晶中の不純物濃度が低減可能であり、粒状結晶の結晶品質を向上することができる。また、その落下時の雰囲気となるガスを加熱することにより落下中の粒状の融液を加熱および冷却することによって、同じく粒状結晶の結晶品質の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒状結晶の製造方法に関し、特に光電変換装置に用いられる粒状シリコン結晶を得るのに好適な粒状結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池を始めとする光電変換装置は、性能面での効率の良さ、資源の有限性への配慮、あるいは製造コストの低さ等といった市場ニーズを捉えて開発が進められている。今後の有望な太陽電池の一つとして、光電変換手段の構成要素として粒状シリコン結晶を用いた太陽電池が注目されている。この粒状シリコン結晶を作製する方法として、シリコン原料を赤外線や高周波を用いて容器内で溶融し、この溶融物を液滴として自由落下させて粒状シリコン結晶を得る技術が知られている。
【0003】
このような方法で製造された粒状シリコン結晶は、高価な半導体グレードのシリコン材料を用いてCZ(チョクラルスキー)法で育成された単結晶シリコンや鋳造法で作製された多結晶シリコンのように、柱状の結晶を作製した後に300μm程度の薄い基板になるように研削加工する必要がないため、ダイシング工程や研削工程において高価なシリコン材料を無駄にすることがなく、シリコン材料の使用効率に優れているという特長がある。
【0004】
粒状シリコン結晶を作製するための原料としては、例えば多結晶シリコン材料を粉砕した結果として発生するシリコンの微小粒子や、流動床法によって気相合成された高純度シリコン等が用いられている。これらの原料から粒状シリコン結晶を作製するには、それら原料をサイズあるいは重量によって分別した後に、赤外線や高周波を用いて容器内で溶融し、この溶融物を液滴(粒状の融液)として自由落下させることで粒子化させるという方法(例えば、特許文献1,特許文献2および特許文献4を参照。)がある。また、溶融したシリコンを飛散させて粒子状の結晶にする方法(特許文献3を参照。)もある。
【特許文献1】国際公開第99/22048号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4188177号明細書
【特許文献3】特開平5−78115号公報
【特許文献4】米国特許第6432330号明細書
【特許文献5】米国特許第6074476号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以上のような粒状結晶の製造方法では、原料の重量の均一化や結晶中の不純物量の制御といった点から問題点がある。特に、原料の重量のバラツキは、製造される粒状結晶の大きさにそのまま反映されてしまうため、重量の不均一な原料からは、太陽電池向けの粒状シリコン結晶に有効な大きさに対応する重量のシリコン原料の粒子を粉砕や分級等の手法により効率よく得ることは困難であるという問題点があった。
【0006】
また、そのように粉砕や分級された原料に所望の特性を有する半導体材料とするべく一定の不純物を添加するためには、例えば粉砕前の原料を作製する段階で不純物を添加する方法や、粉砕後に気相中で不純物を拡散して添加する方法等がある。しかし、いずれの場合であっても、粉砕する工程において粉砕メディアからの不要な不純物が混入するコンタミ(汚染)が生じることから工程が複雑になり、また複雑で高価な設備を用いる必要があるためにコスト増加が避けられないという問題点がある。
【0007】
これらの問題点を解決する粒状結晶の製造方法として、原料へ一定の添加量となるように添加する微量不純物を予め調合して坩堝の中で一旦溶融し、その融液を容器から液滴として排出して,落下中に凝固させて粒子化すると同時に結晶化する方法がある(特許文献5を参照。)。しかしながら、このように製造されるシリコン粒子は径が1mmを超えるような大きさの粒子となり、その結晶性を上げるためには、得られたシリコン粒子を再溶融するプロセスが必要となるが、そのプロセスは、例えば一旦作製した球状のシリコン粒子の表面へ酸化皮膜を形成するといった工夫をすると同時に内部を溶融させ、その後の冷却工程においても良好な結晶性を得るのに十分な冷却の温度プロファイルの制御を必要とするプロセスであるので、そのプロセス条件を安定に維持管理して良好な結晶性の粒状シリコン結晶を得ることが困難なものであるという問題点がある。しかも、シリコン粒子を1個ずつ時間をかけて作製しており、その生産性は極めて低いものであるという問題点もある。すなわち、大量の粒状シリコン結晶を必要とする太陽電池を形成するための粒状シリコン結晶の製造方法としては不向きなものであるという問題点がある。
【0008】
本発明は以上のような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、太陽電池向けに用いられる粒状シリコン結晶を製造するのに好適な、その粒状シリコン結晶を安定して高効率に作製することができると同時に、高い結晶性を持った粒状シリコン結晶を低コストで製造可能な粒状結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、太陽電池等の光電変換装置向けに用いる粒状シリコン結晶の製造において、その生産性に関して鋭意実験と考察を重ねた結果、次のように考えるに至った。すなわち、坩堝のノズル部から結晶材料の融液を粒状に排出して落下させるとともにこの粒状の融液を落下中に加熱および冷却して凝固させることにより粒状結晶を製造する粒状結晶の製造方法においては、
(1)結晶材料の融液を溶融する時間は短いほど、不純物の混入による汚染を低減することが可能である。
(2)外部からの加熱による結晶材料の間接加熱では、加えた熱は、坩堝の周辺部の断熱材が加熱されることによって消費されるものが殆どであり、加熱時間の短縮のためには加熱温度を高くすることが必要となり、加熱温度を高くするに連れて加熱のための消費エネルギーは増大する。
(3)坩堝のノズル部からの結晶材料の融液の排出に際しては、ノズル部の先端部分における状態の観察が重要であるが、坩堝に対して外部からの加熱方法を採った場合においては、加熱源がノズルの周りを覆ってノズルが隠れてしまうため、十分な観察状態を確保できない。
ということである。
【0010】
これに対し、本発明者は、高周波による坩堝の加熱を採用することで、坩堝が直接加熱され、坩堝の周辺に断熱材やサセプタを配置する必要がないので、坩堝の周辺部の断熱材やサセプタが加熱されることによる熱損失は取り除くことができ、結晶材料の溶融に必要な熱量を短時間で供給することが可能となることに着目した。これにより、結晶材料の溶融に要する時間を短縮できることから、溶融した結晶材料と坩堝の構成部材との接触時間を短くすることによって結晶材料の融液への不純物の混入を低減することが可能となる。また、坩堝の側壁を形成するグラファイトの加熱領域を円筒形状にして、ノズル孔を形成するノズル部を平板状にすることで、ノズル近くまでを加熱領域とするとともにノズル孔から排出される融液が横から直接観察されるように工夫することで、重要な観察対象である坩堝のノズル部の先端を直接カメラ等の観察装置で観察することが容易となり、ノズル孔から排出される粒状の融液の径や速度を観察しながら坩堝を振動させることにより、加振周波数や振幅を調節して望ましい粒径を得たり、固化速度の再現性を高めて不純物分布を安定にすることによって、粒状結晶の品質の制御が容易となる。本発明者は以上の観点から本発明を案出したものである。
【0011】
本発明の粒状結晶の製造方法は、1)坩堝のノズル部から結晶材料の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に加熱および冷却して凝固させることによって粒状結晶を製造する粒状結晶の製造方法において、前記坩堝が導電性材料から成り、この坩堝を高周波加熱することによって前記結晶材料を溶融して前記融液とすることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の粒状結晶の製造方法は、2)上記1)の構成において、前記坩堝は、炭化珪素または炭素の焼結体から成ることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の粒状結晶の製造方法は、3)上記1)の構成において、前記粒状の融液に対する落下中の加熱は、加熱されたガスを用いて行なうことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の粒状結晶の製造方法は、4)上記3)の構成において、前記ガスは、抵抗加熱により加熱されることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の粒状結晶の製造方法は、5)上記3)または4)の構成において、前記ガスにアルゴンガスを用いることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の粒状結晶の製造方法は、6)上記3)の構成において、前記加熱されたガスは、前記粒状の融液の落下方向に対し、角度を持たせて導入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粒状結晶の製造方法によれば、1)坩堝のノズル部から結晶材料の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に加熱および冷却して凝固させることによって粒状結晶を製造する粒状結晶の製造方法において、前記坩堝が導電性材料から成り、この坩堝を高周波加熱することによって前記結晶材料を溶融して前記融液とすることから、坩堝が高周波加熱によって直接加熱され、坩堝の周辺部に断熱材を用いる必要がないので、坩堝の周辺部の断熱材が加熱されることによる熱損失は取り除くことができ、結晶材料の溶融に必要な熱量を短時間で供給することができる。また、結晶材料の溶融に要する時間を短縮できることから、溶融した結晶材料と坩堝の構成部材との接触時間を短くすることによって結晶材料の融液への不純物の混入を低減することができる。さらに、ノズル孔から排出される粒状の融液が横から直接観察されるようにできるので、ノズル孔からの粒状の融液の径や速度を観察しながら、例えば坩堝を振動させることにより、加振周波数や振幅を調節して望ましい粒径に調節したり、固化速度の再現性を高めて不純物分布を安定にすることによって、粒状結晶の品質の制御を容易とすることができる。
【0018】
また、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、2)前記坩堝が、炭化珪素または炭素の焼結体から成るときには、高周波電力を効率よく吸収して熱に変換できるとともに、良導電材料であることから熱伝導がよく、坩堝全体を均一な温度に加熱することができる。また、高純度材料の入手が容易であり、粒状結晶との反応が少ないので、粒状結晶への金属等の不純物汚染を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、3)前記粒状の融液に対する落下中の加熱を、加熱されたガスを用いて行なうときには、粒子が固化する温度プロファイルをガスの供給量ならびに位置をパラメータとして制御することにより、加熱または冷却の過程を比較的自由に設定することができるので、粒子の固化速度を調整することで粒状結晶の結晶性を改善することができる。
【0020】
また、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、4)前記ガスが、抵抗加熱により加熱されるときには、例えば複雑な形状で構成した抵抗加熱源の長い隙間の中を、ガスを通過させることにより充分な熱量を付与できるので、落下中の粒状の融液に吹き付けるのに必要な大量のガスを加熱することができる。
【0021】
また、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、5)前記ガスにアルゴンガスを用いるときには、粒状結晶の表面に酸化物や窒化物等の被膜が形成されないようになるのと、周辺の部材の構成材料として用いられるグラファイトや炭化珪素と反応しないので、粒状結晶の表面が清浄なままの状態で粒状結晶が得られるとともに、周辺の部材の消耗を低減することができる。
【0022】
また、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、6)前記加熱されたガスを、前記粒状の融液の落下方向に対し、角度を持たせて導入するときには、それぞれの粒状の融液の落下の方向を排出方向から傾けることができるので、落下中の粒状の融液が散乱されて、落下中の衝突による粒状結晶同士の合体を有効に回避することができる。
【0023】
以上のように、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、シリコン融液を排出する坩堝を高周波により加熱することにより、短時間に結晶材料の原料の加熱を行ない、坩堝の構成部材との反応を抑えることで、結晶材料に混入する不純物濃度を低減することが可能となり、不純物が形成する欠陥からくる準位を低減させることで少数キャリアの再結合確率を低減させることができ、キャリアのライフタイムを長くすることによって、変換効率を向上させることができるように粒状結晶の品質を向上することができるものである。
【0024】
また、その結晶材料の粒状の融液を落下中に加熱および冷却して凝固させる際に、落下中の加熱をその雰囲気となるガスを加熱することにより行なうことによって、例えばガスを何度も循環させて使用することで、消耗材を減らし、加熱および冷却の熱量調整が少なくてもよくなるので、結晶品質の向上とともに低コスト化も図ることができるものである。
【0025】
また、本発明の粒状結晶の製造方法は、大容量の高周波電源を用い、高周波加熱によって坩堝を直接加熱することにより、結晶材料の溶融および排出を多数回繰り返す場合において、溶融時間の短縮による生産性の大幅な向上と、溶融時間の短縮による不純物混入の低減とにより、他の方法に比べ短時間に高品質の粒状結晶を製造可能であることから、生産性の極めて高いものである。
【0026】
以上より、太陽電池を始めとする光電変換装置に用いられる粒状シリコン結晶の製造において好適な製造方法となり、得られる粒状シリコン結晶の結晶品質の向上と生産性向上とを同時に確保することが可能となるものである。これにより、簡便に高効率の光電変換装置向けの粒状シリコン結晶を大量に製造することができ、粒状シリコン結晶ひいては光電変換装置の製造コストを抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の粒状結晶の製造方法の実施の形態の一例における坩堝の例を示す断面図であり、図1において、1は全体として坩堝、2は本体部材、3はノズル部材、4はノズル孔、5は結晶材料の融液である。
【0029】
坩堝1は、円筒状の本体部材2とこの本体部材2の底部に取り付けられる円盤状のノズル部材3とで構成される。
【0030】
坩堝1の本体部材2は、例えばシリコンとの反応を抑えるための内壁部材2aとこの内壁部材2aの外側に配設される外壁部材2bおよび2cとから構成される。この外側部材2bおよび2cは、強度を確保するために設ける。この内壁部材2aと外壁部材2bおよび2cとは、それぞれ鋳込み成形法やホットプレス法等で緻密化された焼結体で構成されている。シリコンとの反応を抑えるには、酸化アルミニウム、炭化珪素、グラファイト等が適するが、加工のしやすさの点ではホットプレスで焼結したグラファイト等が適する。
【0031】
なお、外壁部材2bおよび2cは、無機物の融点での熱収支および膨張を考慮して設計する必要がある。後述するように、この坩堝1は例えば石英管の内側に配置され、その石英管の外には高周波コイルが配置されて、この高周波コイルによる高周波加熱によって主に外壁部材2cを加熱して、坩堝1内の結晶材料の融液5の温度を制御している。これら熱源との距離や雰囲気ガスへの熱放散を考慮した外形形状を保持するために、外壁部材2bおよび2cには上記材料が適している。なお、外壁部材2bの厚みは通常3mm〜15mmが好ましい。また、この例において、外壁部材2bおよび2cは、ねじ部6によって両者の間の下方にノズル部材3を挟持して組み立てられる構造となっている。
【0032】
内壁部材2aは、ノズル部3とともに結晶材料の融液5を保持するものであるため、結晶材料である例えばシリコンの融点よりも溶融温度が高い材料から成るものであることが必要である。さらに、内壁部材2aは、溶融して活性な状態となっているシリコン等の融液5に直接接触しており、粒状結晶への不純物混入の汚染源としての可能性が最も高いものであるため、シリコン等の融液5との反応性が外壁部材2bよりも低い材料から成るものが好ましい。結晶材料にシリコン(珪素)を用いる場合であれば、内壁部材2aに用いるシリコンとの反応性が低い材料としては、石英が好適である。
【0033】
また、坩堝1の先端側にはノズル孔4を有するノズル部材3が設けられている。つまり、一方端に小径部を有する坩堝1の外壁部材2aとは別体に金属融液を排出するためのノズル孔4を有するノズル部材3を設け、このノズル部材3を坩堝1の本体部材2の先端小径部の内側に配設したものである。このノズル部材3は、炭化珪素,炭素、窒化珪素、酸化アルミニウム,立方晶窒化ホウ素,石英またはダイヤモンドの焼結体が適しており、中でも炭化珪素あるいは炭素の焼結体が望ましい。
【0034】
以上のように、本発明の粒状結晶の製造方法に用いる粒状結晶作製用の坩堝1は、坩堝1の本体部材2とノズル部材3とを別部材で形成して、それを組み立てることができる構造にすることで、磨耗等の損傷が激しいノズル部材3のみを差し替えることが可能となり、高価な坩堝1の本体部材2は繰り返して使用することができる。そして、本体部材2を内壁部材2aと外壁部材2bおよび2cとで構成していることにより、本体部材2の変形が少ないものとすることができるので、本体部材2に損傷が見られた場合にも容易に部材の交換を行なうことができる。
【0035】
図2は本発明の粒状結晶の製造方法の実施の形態の一例における坩堝1周辺の構成例を示す断面図であり、図2において、1は坩堝、7は高周波コイル、8は石英管、9は雰囲気(ガス)、10は監視カメラである。なお、この坩堝1の構成は図1に示した例と同じであるが、図2においては図示を省略している。
【0036】
本発明の粒状結晶の製造方法においては、通常の単結晶引き上げ製造装置のような坩堝1内での精確な温度分布の制御を必要としないため、坩堝1を直接高周波加熱する方法が採用可能である。
【0037】
内側の上部に坩堝1を収容した石英管8の外側の坩堝1に対応する位置に設けられた高周波コイル7より発生した高周波エネルギーは、坩堝1の外壁部材2cの表面で消費されて熱エネルギーに変換される。この熱により坩堝1内の結晶材料を溶融させて融液5とする。特許文献2の例においては、加熱源は坩堝を取り巻くグラファイトサセプタであったが、本発明では、坩堝1が高周波加熱によって直接加熱され、グラファイトサセプタ等を用いないので、坩堝1の周辺部材の加熱による熱損失は排除することができ、結晶材料の溶融に必要な熱量を短時間で供給することができる。また、結晶材料の溶融に要する時間を短縮できることから、溶融した結晶材料の融液5と坩堝1の構成部材(内壁部材2aおよびノズル部材3)との接触時間を短くすることによって、その構成部材から結晶材料の融液5への不純物の混入を低減することができる。
【0038】
例えば、結晶材料がシリコンであれば、内壁部材2aの石英やノズル部材3に微量に含まれるFe,Al,Mo,Va等の元素の溶出や、石英との反応による一酸化珪素の溶け込みや、外壁部材2bおよび2cのグラファイトと雰囲気ガス中の酸素とで発生する一酸化炭素や二酸化炭素の融液5への溶け込みによる酸素や炭素不純物の混入を抑制することができる。
【0039】
このような坩堝1に投入された結晶材料の原料、例えばシリコン原料を高周波加熱等の加熱により溶融させ、溶解したシリコン融液5の上部をアルゴンガス等で例えば0.5MPa以下で加圧してノズル部材3のノズル孔4から押し出すことにより、シリコン融液5を排出して、多数の粒状の融液11にする。多数の粒状のシリコン融液11は、石英管8内の雰囲気9中を自由落下すると、落下中に凝固して単結晶シリコンまたは多結晶シリコンの粒状シリコン結晶となって、石英管8の下方に配置された容器(図示せず)に収容される。
【0040】
従来の抵抗加熱装置やサセプタを加熱する高周波加熱方式では、それらの加熱に必要な部材が坩堝のノズル孔を隠してしまい、融液5が排出される様子を直接観察できなかったが、本発明の粒状結晶の製造方法においては、高周波加熱によって坩堝1を直接加熱する方式のため、ノズル孔4の周辺に加熱のための部材を配置する必要がないので、粒状結晶の形状や分布を決定する主要因になる、ノズル孔4から排出される融液5により形成されるノズル孔4直下の液柱(図示せず)を監視カメラ10により横方向から直接捉えて観察することが可能となる。さらに、この融液5に振動を与えて単分散球の状態の粒状結晶を得るときには、ノズル孔4から排出される融液の液注および粒状の融液11の径や速度を観察しながら、加振周波数や振幅を調節して望ましい粒径を得ることができ、粒状の融液11の固化速度の再現性を高めて不純物分布を安定にすることによる粒状結晶の品質の制御を容易とすることができる。
【0041】
次に、図2における13は雰囲気(ガス)9を加熱するための抵抗加熱ヒーターを、14はそれによって加熱されたガスによる粒状の融液11の散乱方向を示している。このガス加熱部の例を図3に示す。図3は本発明の粒状結晶の製造方法の実施の形態の一例における加熱ガス部の例を示す断面図であり、図3において、8は石英管、9は雰囲気(ガス)、11は粒状の融液、12は加熱ガス、13は抵抗加熱ヒーター、14は粒状の融液11の散乱方向である。
【0042】
坩堝1のノズル孔4から排出された粒状の融液11は、石英管8内の雰囲気(ガス)9中を落下中に冷却され固化して粒状結晶となるが、その固化時に加熱ヒーター等で加熱することにより粒状結晶の結晶性が向上することはよく知られている。本発明の粒状結晶の製造方法においては、落下中の粒状の融液11に対して、加熱のみならず冷却も、結晶材料の凝固温度よりも高温の加熱ガス12または凝固温度よりも低温の加熱ガス12を用いて調整することが好ましい。
【0043】
坩堝1のノズル孔4より排出された粒状の融液11は、石英管8の中を落下しながら熱を放散して冷却され凝固して固化にいたる。粒状の融液11が固化する位置は、通常はノズル孔4の下0.5m〜1.5mであり、その位置は粒状の融液11の粒径に依存する。そこで、望ましい粒径の粒状の融液11が固化する付近に加熱ガス12を吹き付けることにより、粒状の融液11が固化する温度プロファイルを、結晶材料の凝固温度(例えば、シリコンであれば1414℃)以上の温度の加熱ガス12で加熱する、または凝固温度(シリコンであれば1414℃)未満の温度の加熱ガス12で冷却することによって、自由に設定することができるので、粒状の融液11の固化速度の調整が容易に行なえるものとなる。
【0044】
雰囲気(ガス)9を加熱するグラファイト製の抵抗加熱ヒーター13は、図3に示したように、抵抗加熱ヒーター13内を通過する雰囲気(ガス)9の経路をジグザグ状に長く設定するとともに、通過する隙間を狭くすることで、大量の雰囲気(ガス)9を容易に加熱して、下方のノズルから加熱ガス12として噴き出すようにしている。
【0045】
石英管8内の雰囲気(ガス)9および加熱ガス12に用いるガスとしては、酸素や窒素を用いると、得られる粒状結晶の表面に酸化物や窒化物等の被膜を形成したり、坩堝1を構成するグラファイトや炭化珪素等と反応してそれらを消耗させたり窒化物を形成したりするので好ましくない。本発明の粒状結晶の製造方法では、不活性ガスであるアルゴンガスまたはヘリウムガスまたはその混合ガスが適している。不活性ガスであれば、表面が清浄なままで粒状の融液11から粒状結晶が得られるとともに、坩堝1の構成部材等の消耗を抑制することができる。また、これら不活性ガスを雰囲気ガスとして用いることで、一定以上の温度のガスを石英管8内で循環させることができ、付与する熱量も少なくてすむので、コストを低減することができる。
【0046】
また、抵抗加熱ヒーター13により加熱された加熱ガス12を、粒状の融液11の落下方向に対し、図2および図3に示すように角度を持たせて導入するときには、それぞれの粒状の融液11を落下方向から加熱ガス12の噴出方向に傾けることができ、散乱方向14に散乱させることができるので、落下する粒状の融液11が散乱されて、衝突による粒状の融液11同士の合体を回避することができる。このような散乱方向14の設定に当たっては、落下方向に対して加熱ガス12の噴出方向に角度を設けて、一定方向に吹き付けるだけではなく、加熱ガス12が渦を形成するように噴出してもよく、これによっても粒状の融液11を効果的に散乱させることができる。
【0047】
以上のように、本発明の粒状結晶の製造方法によれば、粒状結晶の融液5を排出する坩堝1を高周波によって加熱することにより、短時間に結晶材料の原料の加熱を行なって融液5とすることができ、融液5と坩堝1の構成部材との反応を抑えることで、結晶材料に混入する不純物濃度を低減することが可能となり、不純物が形成する欠陥に起因する準位を低減させることで少数キャリアの再結合確率が減り、ライフタイムが長くなることによって、変換効率を向上させることができるように粒状結晶の結晶品質を向上することができる。
【0048】
また、その結晶材料の粒状の融液5を落下中に加熱および冷却して凝固させる際に、落下中の加熱をその雰囲気となるガス9を加熱することにより行なうことによって、ガス9を何度も循環させて使用することで消耗材を減らし、加熱および冷却の熱量調整が少なくてすむようになるので、安定した製造を行なうことができるようになるとともに、低コスト化を図ることができるものとなる。
【0049】
このようにして作製された粒状結晶である粒状シリコン結晶は、太陽電池等の光電変換装置に用いる光電変換素子を形成するために使用される。これら粒状シリコン結晶は、本発明の粒状結晶の製造方法によって製造されていることから、坩堝1を多数回使用することができるとともに、不純物の少ない高品質のシリコンを得ることができるので、低コストで高変換効率の光電変換装置を得ることができるものとなる。
【0050】
なお、以上の実施の形態の例では、結晶材料に主にシリコンを用いた例について説明したが、本発明の粒状結晶の製造方法に用いる結晶材料としては、シリコンの他にもゲルマニウムや錫等があり、それらの粒状結晶は、高純度が好ましい半導体部品の形成等に好適に用いられる。
【実施例1】
【0051】
上述のように構成された坩堝を、Ar不活性ガス雰囲気に維持可能な炉の中にセットして、全体の温度を設定する。この坩堝へ同じく不活性雰囲気に保たれた経路を通じて原料を供給して完全に溶融させた。開口したノズル孔をもつノズル部材を作製して結晶材料であるシリコン原料の溶融と粒状の融液の排出と、それによる粒状結晶の作製を行ないその粒状結晶の純度評価を行なった。試験は次のように行なった。
【0052】
不活性雰囲気中で1450℃の温度に維持した状態の坩堝へシリコン原料を充填して溶解した。坩堝は、内径19mmφ、外径25mmφ、長さ143mmの寸法に加工されたグラファイトで構成されている。十分に溶解した状態となった原料にガス圧力をかけて、ノズル孔より一気に全量吐出して排出した。このとき、溶融方法と溶融時間と回収された粒状シリコン結晶中に含まれる、アルミおよび鉄の不純物濃度を測定し比較を行なった。結果を表1に示す。
【表1】

【0053】
この結果、高周波加熱により作製したシリコン材料中の不純物濃度は、比較例である抵抗加熱による場合に比較して、明らかに不純物濃度が低く、材料としての品質が良好であった。
【実施例2】
【0054】
上記実施例にて高周波加熱により坩堝を加熱して、ノズル孔から排出し作製した粒状の融液の落下中の加熱方法とその加熱に用いるガス種のみを変更して粒状シリコン結晶を作製した。作製した粒状シリコン結晶を研磨して断面を出した後、エッチングにより結晶性を評価した。表2に結果を示す。
【表2】

【0055】
表2に示すように、落下時の雰囲気ガスの加熱を行なった場合に比べ、非加熱であった場合には明らかに粒界をもつ多結晶粒子の比率が高く、雰囲気の加熱効果による粒状結晶の結晶品質が向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の粒状結晶の製造方法の実施の形態の一例における坩堝の例を示す断面図である。
【図2】本発明の粒状結晶の製造方法の実施の形態の一例における坩堝周辺の構成例を示す断面図である。
【図3】本発明の粒状結晶の製造方法におけるガス加熱部の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・坩堝
2・・・本体部材
2a・・・内壁部材
2b,2c・・・外壁部材
3・・・ノズル部材
4・・・ノズル孔
5・・・結晶材料の融液
6・・・外壁部材のねじ部
7・・・高周波コイル
8・・・石英管
9・・・雰囲気(ガス)
11・・・粒状の融液
12・・・加熱ガス
13・・・抵抗加熱ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝のノズル部から結晶材料の融液を粒状に排出して落下させるとともに、この粒状の融液を落下中に加熱および冷却して凝固させることによって粒状結晶を製造する粒状結晶の製造方法において、前記坩堝が導電性材料から成り、該坩堝を高周波加熱することによって前記結晶材料を溶融して前記融液とすることを特徴とする粒状結晶の製造方法。
【請求項2】
前記結晶材料はシリコンであり、前記坩堝は炭化珪素または炭素の焼結体から成ることを特徴とする請求項1に記載の粒状結晶の製造方法。
【請求項3】
前記粒状の融液に対する落下中の加熱は、加熱されたガスを用いて行なうことを特徴とする請求項1に記載の粒状結晶の製造方法。
【請求項4】
前記ガスは、抵抗加熱により加熱されることを特徴とする請求項3に記載の粒状金属の製造方法。
【請求項5】
前記ガスにアルゴンガスを用いることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の粒状結晶の製造方法。
【請求項6】
前記加熱されたガスは、前記粒状の融液の落下方向に対し、角度を持たせて導入することを特徴とする請求項3に記載の粒状結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−151717(P2006−151717A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342330(P2004−342330)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】