説明

糸層形成装置、糸層形成方法と繊維強化部材の製造方法

【課題】繊維強化部材を構成する繊維糸にうねりを生じさせることなく、しかも、多様な線形でかつ多様な断面形状のマンドレルに対して、該マンドレル周面に形成された繊維糸の配列姿勢の崩れを防止しながら繊維糸の層を形成することのできる糸層形成装置と糸層形成方法、繊維強化部材の製造方法を提供する。
【解決手段】糸層形成装置100は、ブレーダー糸S3を供給する環状のブレーダー30と、第1の糸S1を供給する環状の第1の供給手段10と、第2の糸S2を供給する環状の第2の供給手段20と、マンドレルMを移動させる移動手段40と、を具備し、少なくとも第1の供給手段および第2の供給手段のいずれか一方が回転自在となっており、マンドレルMの周面に、少なくとも、第1、第2の回転手段によるそれぞれの糸配列層と、ブレーダーによる織物層と、からなる糸層の積層構造を形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば長尺のマンドレルの周面に複数の糸層を積層しながら形成する糸層形成装置と糸層形成方法、さらには、この糸層形成方法にて形成された中間体を使用して繊維強化部材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時の車両開発には、安全性、軽量化、さらには環境影響負荷低減が従来にも増して大きな開発課題となっており、現在注目されているハイブリッド車や電気自動車等に対しては、安全性を担保できる剛性と燃費向上に繋がる軽量化の双方を満足できる繊維強化部材が車両の様々な構成部材に適用されており、さらには適用に向けた研究が進められている。たとえば、繊維強化部材が適用されている車両構成部材としては、曲がりのある長尺なルーフサイドレール(Aピラー、Cピラーなど)や、プロペラシャフトなどを挙げることができる。
【0003】
この繊維強化部材(FRP)の一例として、炭素繊維強化プラスチック部材(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック部材(GFRP)を挙げることができる。これらの繊維強化部材は、所定の引張強度を備えた炭素繊維やガラス繊維などの繊維糸を使用して、金属製もしくは樹脂製のマンドレルの周面にその長手方向に延びる長手方向糸と長手方向に対して所定角度傾斜した斜向糸とを織り込むことで織組織の層を形成し、これを成形型内に載置し、RTM法をはじめとする射出成形をおこなって樹脂を含浸硬化させることにより、軽量かつ高強度(高い曲げ耐力、ねじれ耐力、せん断耐力)のFRP部材が形成されている。
【0004】
ところで、この織組織の形成にはブレーダーを使用するのが従来一般の方法であり、ブレーダーを使用してFRP部材の織組織を形成する公開技術として、特許文献1〜3を挙げることができる。
【0005】
しかし、ブレーダーを使用してマンドレル周面に織組織を形成する場合に、織組織故のうねり(もしくは糸同士の交差による蛇行)が生じてしまう。これを図4aとそのb−b矢視図である図4bを基に説明すると、図4aで示すように、マンドレルMの周面にブレーダーにて形成された繊維糸が編み込まれてなる織物層Qにおいて、その断面である図4bで示すように、交差する繊維糸同士の間で往々にしてうねりUが生じるものである。本発明者等によれば、FRP部材において、繊維糸の織組織におけるこのうねり部分に応力が集中したり、強度的な弱部になってしまうという知見が得られている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−132844号公報
【特許文献2】特開2005−219285号公報
【特許文献3】特開2006−28678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、繊維強化部材を構成する繊維糸にうねりを生じさせることなく、しかも、多様な線形でかつ多様な断面形状のマンドレルに対して、該マンドレル周面に形成された繊維糸の配列姿勢の崩れを防止しながら繊維糸の層を形成することのできる糸層形成装置と糸層形成方法、繊維強化部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による糸層形成装置は、ブレーダー糸を供給する環状のブレーダーと、前記ブレーダーに間隔を置いて配され、第1の糸を供給する環状の第1の供給手段と、第1の供給手段に間隔を置いて配され、第2の糸を供給する環状の第2の供給手段と、ブレーダーの内側および第1、第2の供給手段の内側でマンドレルを移動させる移動手段と、を具備し、少なくとも第1の供給手段および第2の供給手段のいずれか一方が回転自在となっており、少なくとも第1の供給手段と第2の供給手段のいずれか一方が回転制御され、かつ、マンドレルが移動制御されることにより、マンドレルの周面に、少なくとも、第1の供給手段、第2の供給手段によるそれぞれの糸配列層と、ブレーダーによる織物層と、からなる糸層の積層構造を形成するものである。
【0009】
本発明の糸層形成装置は、ブレーダーと、2つの環状の供給手段を組み合わせてなる装置であり、マンドレルの周面に対して、一方の供給手段を停止もしくは回転させた姿勢で炭素繊維やガラス繊維等からなる糸が所定方向(マンドレルの軸方向(長手方向)や軸方向に傾斜した方向)に配列された第1の糸からなる糸配列層を形成し、他方の供給手段を停止もしくは回転させた姿勢で第2の糸からなる別途の糸配列層を形成してこれらを積層させ、さらにブレーダーを作動させてブレーダー糸からなる織物層を形成するものである。
【0010】
ここで、糸配列層は、ブレーダー糸のごとく繊維糸が織り込まれたものではなく、繊維糸が所定方向に配列して層を形成したものであり、したがって、織物層の場合のうねりは生じ得ない。
【0011】
しかし、特に曲がりをもったマンドレル等の周面に糸配列層のみを形成したのでは、糸配列層がずれてしまい、形成時の糸配列層の姿勢を保持することが困難であることから、たとえば2層に積層された糸配列層の周面をブレーダーによる織物層で包囲することにより、糸配列層の位置ずれを防止することができる。
【0012】
ブレーダーは、多数のギアが関連した姿勢でその周方向に内蔵され、さらに周方向にギヤの回転軸を避けるようなボビン移動溝を備えていて、ギヤ同士の回転によってボビンが該移動溝内を移動しながらブレーダー糸を供給することにより、ブレーダー内を通過するマンドレル周面に織物層を形成するものである。
【0013】
それに対して、環状の供給手段は、たとえば、環状でその周方向に複数のボビンを移動不可の姿勢で具備する回転体(供給体)と、該回転体を回転駆動するサーボモータ等のアクチュエータとから構成され、供給手段の回転によってその環状内部を通過するマンドレル周面に糸配列層を形成するものである。
【0014】
また、2つの供給手段(第1の供給手段、第2の供給手段)はそれぞれ独立して、正方向と逆方向を選択的に回転できるようになっている。したがって、移動手段によるマンドレルの移動速度と、供給手段の回転速度を所望に制御することで、マンドレル周面への糸配列層の傾斜角度(マンドレルの軸方向に対する角度)を所望に調整することができる。
【0015】
上記する第1、第2の供給手段と、ブレーダーのそれぞれの回転速度、回転タイミング、さらには移動手段によるマンドレルの送り速度や、マンドレルの往復移動制御などは、これらを作動させる(ブレーダーの場合はボビンを移動させるギヤを作動する)アクチュエータと有線もしくは無線で接続されたパーソナルコンピュータ(制御部とこれを作動するCPUが少なくとも内蔵されている)にて実行制御することができる。
【0016】
ここで、使用されるマンドレルは、軽量でかつ高強度なABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂)をはじめとする樹脂素材であってもよいし、強度の高い金属製であってもよい。
【0017】
このマンドレルへの各糸配列層の繊維方向の組み合わせは特に限定されるものではないが、その一例として、マンドレルの軸方向に対して+45度方向、−45度方向の組み合わせ、一方が+45度方向で他方が0度方向(軸方向)の組み合わせ、双方ともに0度方向(ともに軸方向)の組み合わせなどを挙げることができる。
【0018】
なお、0度方向の糸配列層を形成する場合には、供給手段を停止させておく(回転させないようにしておく)だけで、マンドレルの移動に応じて非回転姿勢の回転手段のボビンから繊維糸が引き出され、マンドレル周面に0度方向に繊維糸が配設される。
【0019】
本発明の糸層形成装置によれば、複数の供給手段とブレーダーとを組み合わせただけの極めて簡素な装置によって、うねりのない複数の糸配列層と、この糸配列層の位置ずれを防止する織物層と、をマンドレル周面に積層姿勢で形成することができる。また、フィラメントワインディング法のように、マンドレル自体を回転させながらその周面に糸を巻きつける方法ではないため、マンドレルに曲がりがある場合でも、さらには、マンドレルの断面形状が変化する場合でも、マンドレル周面への高精度な繊維糸層の形成を容易に実行することができる。
【0020】
また、本発明による糸層形成方法は、ブレーダー糸を供給する環状のブレーダーと、前記ブレーダーに間隔を置いて配され、第1の糸を供給する環状の第1の供給手段と、第1の供給手段に間隔を置いて配され、第2の糸を供給する環状の第2の供給手段と、ブレーダーの内側および第1、第2の供給手段の内側でマンドレルを移動させる移動手段と、を具備し、少なくとも第1の供給手段および第2の供給手段のいずれか一方が回転自在となっている糸層形成装置を使用して、マンドレルの周面に積層された複数の糸層を形成する糸層形成方法であって、移動手段にてマンドレルを移動させながら第1の供給手段を停止もしくは回転駆動させて、前記第1の糸を前記マンドレルの周面にその軸方向もしくは軸方向に傾斜した方向に配設して第1の糸配列層を形成する工程と、第2の供給手段を停止もしくは回転駆動させて、前記第2の糸を前記マンドレルの周面にその軸方向もしくは軸方向に傾斜した方向に配設して第1の糸配列層の上に第2の糸配列層を形成する第2の工程と、ブレーダーを駆動させ、第2の糸配列層の上に織物層を形成する第3の工程と、からなるものである。
【0021】
本発明の糸層形成方法は、上記する糸層形成装置を使用してマンドレルの周面に複数の糸配列層と織物層との積層構造を形成する方法である。
本形成方法によれば、要求される強度特性に応じて、第1、第2の糸配列層と織物層との積層構造を複数備えた部材を製造することもできる。たとえば、一方の供給手段によって第1の糸配列層を形成する第1の工程、他方の供給手段によって第2の糸配列層を形成する第2の工程、ブレーダーによって織物層を形成する第3の工程を1セットとした際に、2以上のセットを実行することでより多層の積層構造を形成することが可能となる。なお、各セットごとに、糸配列層の角度を変化させることもできる。
【0022】
本発明の糸層形成方法によれば、マンドレルが曲がりを有していたり、あるいは断面形状が複雑であったり、形状変化するような場合であっても、マンドレルの周面で回転する、もしくは非回転の供給手段によって容易にうねりのない糸配列層を形成することができ、さらには、この糸配列層の周面にブレーダーにて織物層を形成することで糸配列層を外側から押さえ付けることができ、糸配列層の配列姿勢のくずれを効果的に防止することができる。
【0023】
さらに、本発明による繊維強化部材の製造方法は、前記糸層形成方法により、マンドレルの周面に複数の糸層が積層してなる中間体を製造し、次いで、該中間体を成形型内に移載し、射出成形して繊維強化部材を製造するものである。
ここで、射出成形とは、一般的な射出成形のほかに、RTM法や射出圧縮法などを含む広義の意味である。
【0024】
なお、成形型のキャビティ内を真空雰囲気としながらエポキシ樹脂等の射出樹脂を充填して加圧成形する、公知のRTM法においては、キャビティ内の真空吸引に先んじて、マンドレル内部に内圧を付与するための風船や多数のビーズを入れておくといった措置を講じてもよい。
【0025】
また、最終的に成形される繊維強化部材は、その中央のマンドレルが部材要素として残置されるものであってもよいし、たとえば水溶性のマンドレルを使用し、射出成形後に水槽に浸漬させてマンドレルを溶かすことにより、樹脂が硬化してなる繊維層のみからなる繊維強化部材としてもよい。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の糸層形成装置やこれを使用してなる糸層形成方法によれば、マンドレルの線形や断面形状(の複雑性、変化など)如何に関わらず、その周面にうねりのない糸配列層とこれを外部から押さえ付けてその配列姿勢を保持する織物層を形成することができる。この糸層形成方法によって形成された中間体を成形型内で射出成形することにより、曲げ耐力、ねじり耐力、せん断耐力などの強度特性に優れた、高品質な繊維強化部材(繊維強化プラスチック部材:FRP部材)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1aは、本発明の糸層形成装置の概要を説明した側面図であり、図1bは、図1aのb−b矢視図である。この糸層形成装置100は、環状のブレーダー30と、該ブレーダー30に離間配置された環状の第1の供給体10と、該第1の供給体10に離間配置された環状の第2の供給体20と、これらの環状内にマンドレルMを移動させる移動装置40と、から大略構成されている。
【0028】
ブレーダー30をより詳細に説明した図2を参照して説明すると、環状を呈するブレーダー30の内部には、その周方向に多数のギヤが内蔵されており、そのギヤ回転軸32,…を回避するように8の字状に蛇行するボビン移動溝33が形成されており、この移動溝33に沿ってブレーダー糸S3が巻装された複数のボビン31,…が移動することにより、マンドレルMの周面に織物層を形成するものである。
【0029】
図1aに戻り、環状を呈する第1の供給体10には、その周方向に炭素繊維糸が巻装された複数のボビン11,…が固定された姿勢で配設されており、同様に、環状を呈する第2の供給体20にも、その周方向に炭素繊維糸が巻装された複数のボビン21,…が固定された姿勢で配設されている。なお、第1の供給体10、第2の供給体20、ブレーダー30はともに固有のサーボモータ(図示略)を有しており、各サーボモータが作動することで供給体やギヤの回転速度や回転タイミング(回転開始、回転停止など、)が所望に制御されるものである。
【0030】
第1の供給体10の外径は第2の供給体20よりも小径となっており、図示のごとく、マンドレルMが矢印Y1方向に移動する際に、まず、内側の第1の供給体10が矢印X1方向に回転することでマンドレルMの周面に炭素繊維糸を配列させてなる第1の糸配列層を形成し、これに続いて、外側の第2の供給体20が矢印X2方向に回転することで第1の糸配列層の上に第2の糸配列層を形成する。
【0031】
なお、図示例では、第1の供給体10の回転方向と第2の供給体20の回転方向が逆転しているが、双方の回転方向を同方向に制御することもできるし、場合によっては、いずれか一方の供給体の回転を停止させたり、双方の供給体を停止させることもできる。マンドレルMの移動の際に供給体を停止させることで、マンドレルMの周面にその軸方向に配向した糸配列層が形成される。
【0032】
マンドレルMの移動に応じて供給体を回転させ、マンドレルMの軸方向に対して傾斜配向する炭素繊維糸からなる糸配列層とすることにより、この糸配列層は、最終成形品である繊維強化部材(CFRP部材)に対して主としてねじり剛性を付与する層となる。
【0033】
これに対して、マンドレルMの移動の際に供給体を停止させ、マンドレルMの軸方向に配向した炭素繊維糸からなる糸配列層を形成することにより、この糸配列層は、CFRP部材に対して主として曲げ剛性や引張剛性を付与する層となる。
【0034】
マンドレルMを移動させる移動装置40は、2条のレール41,41に沿って移動するスライドガイド42,42上に立設して、該レール41,41間に跨る門柱43を2基備え(図1b参照)、一方の門柱43の中桟43aに装着されたナット49が移動するスクリューシャフト45と、該スクリューシャフト45を回転駆動するサーボモータ46と、該スクリューシャフト45をベアリング機構47にて回転自在に支持する2つの門柱48,48と、から構成されている。
【0035】
マンドレルMは、門柱43,43に装着された把持具44,44に支持される。サーボモータ46の回転駆動に応じてスクリューシャフト45が回転すると(Z1方向)、ナット49および一方の門柱43がレール41,41上を移動し(Z2方向)、マンドレルMを介して他方の門柱43もレール41,41上を移動する。
【0036】
また、図1bで示すように、ナット49およびスクリューシャフト45は、門柱43の中央下方に配された中桟43aの中央に位置しており、レール41と離れた位置に配設されている。
【0037】
図示する移動装置40により、マンドレルMは、スライドガイド42を介してサーボモータ46の回転駆動に応じてレール41上をスムースに移動することができる。
【0038】
なお、上記する第1の供給体10、第2の供給体20、ブレーダー30に内蔵されたギヤのそれぞれの回転速度や回転タイミング、さらには移動装置40のサーボモータ46によるマンドレルMの送り速度や、マンドレルMの往復移動制御などは、これらを駆動するサーボモータ(アクチュエータ)と、有線もしくは無線で接続された不図示のパーソナルコンピュータ(制御部とこれを作動するCPUが少なくとも内蔵されている)にて実行制御される。
【0039】
このパーソナルコンピュータ内には、第1の糸配列層、第2の糸配列層ごとに、所望の炭素繊維糸の配向角度が入力されており、これらの配向角度を達成するための、マンドレルMの移動速度や第1の供給体10、第2の供給体20の回転速度が計算され、さらには、供給体やブレーダーを作動させるサーボモータの回転開始のタイミングなどが設定されており、上記計算結果に基づいて各アクチュエータの移動制御や回転制御が実行されるものである。
【0040】
この糸層形成装置100を使用して、マンドレルMの周面に第1の供給体10によってできる糸配列層と、第2の供給体20によってできる糸配列層と、ブレーダー30によってできる織物層との積層構造を形成する糸層形成方法について概説する。
【0041】
マンドレルMの移動方向前端には、第1の供給体10の各ボビン11から引き出された炭素繊維糸S1の端部、第2の供給体20の各ボビン21から引き出された炭素繊維糸S2の端部、ブレーダー30の各ボビン31から引き出されたブレーダー糸S3の端部を貼着しておき、マンドレルMを所定速度で移動させる。
【0042】
マンドレルMの移動に応じて、まず、第1の供給体10を回転制御して、マンドレルMの周面にたとえば、マンドレルMの軸方向に+45度方向に炭素繊維糸S1を配向させてなる第1の糸配列層を形成し、これに後続するようにして第2の供給体20を回転制御して、第1の糸配列層の上に−45度方向に炭素繊維糸S2を配向させてなる第2の糸配列層を積層していく。
【0043】
さらに、この第2の供給体20の作動に後続するようにしてブレーダー30のギヤを作動させて各ボビン31を移動制御し、第2の糸配列層の外側にブレーダー糸S3が織り込まれてなる織物層を形成する。なお、図1において、右側から左側への一度の移動で、この第1の糸配列層、第2の糸配列層、織物層の積層構造が形成されるが、この後に、マンドレルMを右側へ戻し、右側から左側への移動を再度実行しながら同様の操作を実行することで、より多層の積層構造を形成することができる。
【0044】
図3は、マンドレルの周面に形成される糸配列層と織物層の積層構造の実施の形態を説明した模式図であり、説明を容易とするために、各層ともに途中で破断してその内側の層を視認できるような図としている。なお、図3a,b以外にも、各積層ユニットを構成する第1、第2の糸配列層の配向方向の組み合わせや、積層ユニットの数などは任意に設定できる。
【0045】
図3aで示す実施の形態は、マンドレルMの周面から順に、その軸方向Pに対してθ1(たとえば+45度)方向に配向した第1の糸配列層L1と、次いで、θ2(たとえば−45度方向)に配向した第2の糸配列層L2と、織物層L3とからなる第1の積層ユニットU1を形成し、この上に、さらに、+45度方向に配向した第1の糸配列層L1と、次いで、−45度方向に配向した第2の糸配列層L2と、織物層L3とからなる第2の積層ユニットU2を形成したものである。
【0046】
一方、図3bは、マンドレルMの周面から順に、その軸方向Pに対して+45度方向に配向した第1の糸配列層L1と、次いで、0度方向(軸方向)に配向した第2の糸配列層L2’と、織物層L3とからなる第1の積層ユニットU1’を形成し、この上に、さらに、−45度方向に配向した第1の糸配列層L1’と、次いで、0度方向(軸方向)に配向した第2の糸配列層L2’と、織物層L3とからなる第2の積層ユニットU2’を形成したものである。
【0047】
マンドレルMの周面に所望の積層数で、所望の配向を備えた糸配列層と織物層を具備する中間体を形成した後、これを不図示の成形型内に移載し、RTM法をはじめとする射出成形を実施することにより、糸配列層と織物層の内部にエポキシ樹脂等が含浸硬化してなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が製造される。
【0048】
上記する糸層形成方法によってできる糸配列層と織物層の積層構造によれば、織物層の場合に生じ易いうねりをもたない糸配列層がマンドレルMの周面に形成されることで、炭素繊維糸層の内部で強度的な弱部が形成されることはなく、曲げ耐力、引張耐力、ねじり耐力、せん断耐力などの強度特性に優れた炭素繊維強化プラスチックを製造することができる。
【0049】
さらには、糸配列層のみでは、マンドレルの周面にこの配列姿勢を保持するのが困難であるが、糸配列層の外側で該糸配列層を押し付ける織物層が形成されることにより、糸配列層の配列姿勢を所望に維持することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)は本発明の糸層形成装置の概要を説明した側面図であり、(b)は(a)のb−b矢視図である。
【図2】糸層形成装置におけるブレーダーを詳細に説明した斜視図である。
【図3】(a)、(b)ともに、マンドレルの周面に形成される糸配列層と織物層の積層構造の実施の形態を説明した模式図である。
【図4】(a)はマンドレルの周面に織物層が形成されてなる従来の繊維強化部材の樹脂含浸前の状態を説明した図であり、(b)は(a)のb−b矢視図である。
【符号の説明】
【0052】
10…第1の供給体(供給手段)、11…ボビン、20…第2の供給体(供給手段)、21…ボビン、30…ブレーダー、31…ボビン、32…ギヤ回転軸、33…ボビン移動溝、40…移動装置、41…レール、42…スライドガイド、43…門柱、43a…中桟、44…把持具、45…スクリューシャフト、46…サーボモータ、47…ベアリング機構、48…門柱、49…ナット、100…糸層形成装置、S1…炭素繊維糸(第1の繊維糸)、S2…炭素繊維糸(第2の繊維糸)、S3…ブレーダー糸、L1…第1の糸配列層、L2…第2の糸配列層、L3…織物層、U1…第1のユニット、U2…第2のユニット、θ1、θ2…繊維糸の配向角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーダー糸を供給する環状のブレーダーと、
前記ブレーダーに間隔を置いて配され、第1の糸を供給する環状の第1の供給手段と、
第1の供給手段に間隔を置いて配され、第2の糸を供給する環状の第2の供給手段と、
ブレーダーの内側および第1、第2の供給手段の内側でマンドレルを移動させる移動手段と、を具備し、
少なくとも第1の供給手段および第2の供給手段のいずれか一方が回転自在となっており、
少なくとも第1の供給手段と第2の供給手段のいずれか一方が回転制御され、かつ、マンドレルが移動制御されることにより、マンドレルの周面に、少なくとも、第1の供給手段、第2の供給手段によるそれぞれの糸配列層と、ブレーダーによる織物層と、からなる糸層の積層構造を形成する、糸層形成装置。
【請求項2】
第1の供給手段が停止もしくは回転駆動して、前記第1の糸を前記マンドレルの周面にその軸方向もしくは軸方向に傾斜した方向に配設して第1の糸配列層を形成し、
第2の供給手段が回転駆動もしくは停止して、前記第2の糸を前記マンドレルの周面にその軸方向もしくは軸方向に傾斜した方向に配設して第1の糸配列層の上に第2の糸配列層を形成し、
ブレーダーが駆動して、第2の糸配列層の上に織物層が形成されるように制御されている、請求項1に記載の糸層形成装置。
【請求項3】
ブレーダー糸を供給する環状のブレーダーと、前記ブレーダーに間隔を置いて配され、第1の糸を供給する環状の第1の供給手段と、第1の供給手段に間隔を置いて配され、第2の糸を供給する環状の第2の供給手段と、ブレーダーの内側および第1、第2の供給手段の内側でマンドレルを移動させる移動手段と、を具備し、少なくとも第1の供給手段および第2の供給手段のいずれか一方が回転自在となっている糸層形成装置を使用して、マンドレルの周面に積層された複数の糸層を形成する糸層形成方法であって、
移動手段にてマンドレルを移動させながら第1の供給手段を停止もしくは回転駆動させて、前記第1の糸を前記マンドレルの周面にその軸方向もしくは軸方向に傾斜した方向に配設して第1の糸配列層を形成する工程と、
第2の供給手段を停止もしくは回転駆動させて、前記第2の糸を前記マンドレルの周面にその軸方向もしくは軸方向に傾斜した方向に配設して第1の糸配列層の上に第2の糸配列層を形成する第2の工程と、
ブレーダーを駆動させ、第2の糸配列層の上に織物層を形成する第3の工程と、からなる、糸層形成方法。
【請求項4】
前記第1の工程〜第3の工程を1セットとした場合に、2セット以上を実行してマンドレルの周面に糸層の積層構造を形成する、請求項3に記載の糸層形成方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の糸層形成方法により、マンドレルの周面に複数の糸層が積層してなる中間体を製造し、
次いで、該中間体を成形型内に移載し、射出成形して繊維強化部材を製造する、繊維強化部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−59575(P2010−59575A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226197(P2008−226197)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】