説明

紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物

【課題】 印刷時強度が良好な塗工紙が得られ、かつラテックス粘度が低い共重合体ラテックスを提供する。
【解決手段】 異なる単量体組成からなる少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目と2段目の単量体組成が規定範囲に入る単量体組成物を重合して得られる共重合体ラテックスであって、組成の違う構造を有する多層構造型重合体粒子であり、そのラテックスフィルムの超薄切片(厚み70〜80μm)をオスミウム染色後電顕観察した際に、オスミウムに濃く染色された部分が部分的連続層(不均一なミクロドメイン構造)を形成することを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、粘度が低く取り扱い性に優れる共重合体ラテックスであり、該ラテックスをバインダーとして含有する紙塗工用組成物を塗工して得られる塗工紙の印刷時強度が優れる紙塗工用共重合体ラテックスおよび紙塗工用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月間紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等においては、そのほとんどが全ての頁に塗工紙を使用している。
一般に紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。その中でもスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスは、品質設計の自由度が大きく、今日では紙塗工用組成物に最も適したバインダーとして広く使用されており、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの性能が紙塗工用組成物の性能や塗工紙作成時の操業性あるいは最終的な塗工紙製品の表面強度、印刷光沢などの品質に影響することが知られている。
【0003】
一方、近年は塗工紙の製造においても低コスト化が進められ、塗料配合物の中でも比較的高価な共重合体ラテックスに関してはラテックスの性能を向上させて、その分合部数を減らす事で製造コスト低減に大きく寄与するため、ラテックスの性能により印刷時強度を向上させるなどラテックスが塗工紙品質や塗工紙の製造コストに及ぼす影響はますます重要視されている。また、ラテックスによる印刷時強度の向上はラテックスの粘着性が高くなりやすく操業汚れが懸念されるため、印刷時強度と粘着性のバランスや、汚れが付着しても簡単に洗い流す事のできる組成物の再分散性の向上などが塗工操業性において重要な課題となっている。
また、一般的に印刷時強度の向上にはラテックスの粒子径を小さくし接着表面積を増やしたり、官能基量を増やす事で塗料の安定性を確保し接着剤の効果を十分に引き出す事が重要であるが、これらに相反してラテックス粘度が上昇し、共重合体ラテックスの製造段階や運搬工程、保管工程、また紙塗工用組成物の調合工程において共重合体ラテックスの取り扱いが困難になるケースが増えており、高い品質を維持したまま如何にラテックス粘度を下げるかが問題となっている。
【0004】
上記課題を解決するため、例えば特開平6−263925号公報(特許文献1)では、使用するエチレン性不飽和アミド単量体とエチレン性不飽和カルボン酸の使用量、およびラテックスの粒子径を規定することでラテックスの粘度が低く塗料安定性に優れる共重合体ラテックスが紹介されている。
また、特開2004−182943号公報(特許文献2)では、微量の2、2、4―トリメチル−1、2−ジヒドロキノリン重合体、ベンゾチアジルスルフェンアミド誘導体又はビスフェノール誘導体の少なくとも1種の存在下で乳化重合することで小粒子径かつ低粘度の共重合体ラテックスの重合技術が紹介されている。
しかし、これらの様々な改良技術は、未だ塗工紙に求められる良好な印刷時強度と共重合体ラテックスの取り扱い性を両立させるには不十分であり、高い品質を維持したまま如何にラテックスの粘度を下げるかが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−263925号公報
【0006】
【特許文献2】特開2004−182943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、印刷時強度が良好な塗工紙が得られ、かつラテックス粘度が低い共重合体ラテックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、紙塗工用共重合体ラテックス及び紙塗工用組成物に関するものである。詳しくは、異なる単量体組成からなる少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体の合計が13〜32重量%(全単量体合計100重量%)であり、さらに2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%(全単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスであって、ラテックス粒子が組成の違う構造を有する多層構造型重合体粒子であり、該ラテックスをフィルム化したその超薄切片をオスミウム染色して電顕観察した際に、オスミウムに濃く染色された部分が部分的連続層(以下、不均一なミクロドメイン構造という)を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、印刷時強度が良好な塗工紙が得られ、かつラテックス粘度が低い共重合体ラテックスが得られ、共重合体ラテックスの製造段階や運搬工程、保管工程、また紙塗工用組成物の調合工程において良好な共重合体ラテックスの取り扱い性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明範囲外の共重合体ラテックスのフィルムの電顕観察写真。(比較例3)
【図2】本発明の共重合体ラテックスのフィルムの電顕観察写真。(実施例2)
【図3】本発明の共重合体ラテックスのフィルムの電顕観察写真。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明の共重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
【0012】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0013】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)を挙げられ、これらを上記請求項の範囲で使用することができる。
【0014】
上記脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体およびエチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられる。
【0015】
アルケニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレンの使用が好ましい。
【0016】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0017】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0018】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0019】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0020】
本発明の共重合体ラテックスは、少なくとも2段以上の多段重合にて重合される組成の違う構造を有する多層構造型重合体粒子であり、該ラテックスをフィルム化し、その超薄切片(厚み70〜80nm)をオスミウム染色して電顕にて観察した際に、粒子中のオスミウムに濃く染色された部分が不均一なミクロドメイン構造を形成するものである。ここで、本発明の共重合体ラテックスフィルムの超薄切片の厚みは、ミクロトームの設定値を超薄切片の厚みとする。
一般に、コアシェル構造などの異層構造ラテックスは、フィルムを作成する際に、連続したシェルの海にコアシェル粒子中のコアが1つ1つ島として存在しているような海島構造を形成したり、ハニカム構造を形成したりすることは周知である。本発明の共重合体ラテックスは、粒子中のオスミウムに淡く染色される部分を海にして、粒子中のオスミウムに濃く染色される部分が複数個集まったような部分的連続層が島として存在する海島構造(本発明では不均一なミクロドメイン構造という)のフィルムを形成するものである。一般にオスミウムに濃く染色される部分は、脂肪族共役ジエン単量体由来の構造単位が多い部分であるといわれている。このジエン由来の構造単位が多いすなわち衝撃緩和力が強い部分が、比較的ジエンの少ない海構造の中に一つ一つ小さいサイズで存在するよりも、複数個集まってラテックス粒子より大きいサイズになることで、フィルムの衝撃緩和力がより大きくなり、塗工紙にした際の印刷時強度が良好になるものである。かつ、このようなフィルムを形成するような多段重合方法によれば、理由はいまだに解明できていないものの、ラテックス粘度を大幅に低減できることが判明した。
【0021】
本発明の共重合体ラテックスは、異なる単量体組成からなる少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体の合計が13〜32重量%(全単量体合計100重量%)であり、さらに2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%(全単量体合計100重量%)であることが必要である。上記に示した1段目及び2段目以降の単量体組成範囲及び単量体合計量の範囲外では、共重合体ラテックスフィルムの超薄切片のオスミウム染色後の観察において、オスミウムに濃く染色された部分が不均一なミクロドメイン構造をとらないため、ラテックス粘度も下がらず、かつ印刷時の強度も劣る。
【0022】
1段目に添加するエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、3.6重量%以上であると塗工紙の印刷時強度の発現がさらに良好となるため好ましい。さらに好ましくは4.1重量%以上である。
また、エチレン系不飽和カルボン酸単量体は全体量の60重量%が1段目の重合工程で添加されるのが好ましく、60重量%未満では塗工紙の印刷時の強度発現が劣る傾向があり好ましくない。
【0023】
3段以上の重合工程を有する際には、2段目以降に使用されるシアン化ビニル単量体の55重量%以上が最終段より前の重合工程で添加されることが、ラテックスフィルムのベタツキ性(粘着性)や印刷時の強度発現が優れる点で好ましい。
また、2段目の単量体合計が10〜66重量%、3段目以降の単量体合計が2〜62重量%であると、より塗工紙の印刷時の強度発現が良好となるため好ましい。
【0024】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の乳化剤(界面活性剤)を使用することができる。例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。
【0025】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、公知の連鎖移動剤(分子量調整剤)を制限されることなく使用することができる。例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0026】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの使用が好ましい。重合開始剤の量は特に制限されないが、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0027】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。
【0028】
本発明における共重合体ラテックスの粒子径は、特に制限がないが50〜150nmであることが好ましい。数平均粒子径が50nm未満では白紙光沢が劣る傾向があり、また150nmを超えると塗工紙の印刷時強度が低下する傾向がある。
【0029】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含量にはなんら制限はないが、ゲル含量が60〜100重量%が好ましい。ゲル含量が60重量%未満では塗工紙の印刷時強度が低下する傾向がある。特に好ましくは65〜95重量%である。
【0030】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも出来る。
【0031】
本発明の紙塗工用組成物は、公知の顔料、例えば、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することができる。
また、紙塗工用組成物中の本発明の共重合体ラテックスの含有量は顔料100重量部(固形分)に対して2〜15重量部(固形分)を使用することが好ましい。共重合体ラテックスの含有量が2重量部以下では顔料を充分に接着できず好ましくなく、15重量部を超えると塗料中に占める共重合体ラテックスの製造コストの上昇を招く。より好ましくは2.5〜12部重量部(固形分)である。
【0032】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。さらに、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックスなどの合成ラテックス等を本発明の共重合体ラテックスと併用してもよい。
【0033】
本発明の紙塗工用組成物を調整する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(アルギン酸ナトリウムなど)を必要に応じて添加しても良い。
【0034】
さらに、紙塗工用組成物を塗工用紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。また、塗工後、表面を乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0036】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
温度40℃、湿度85%の雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。
ゲル含量(%)=Y/X*100
【0037】
共重合体ラテックスの数平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0038】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0039】
ラテックスの粘度の測定及び評価
共重合体ラテックスの固形分を50%に調整した際のラテックスの粘度を、JIS K6838の測定方法に準じて測定した。得られた粘度について、下記のとおり判定した。
◎:300mPa・s以下
○:301〜800mPa・s
△:801〜2000mPa・s
×:2001mPa・s以上
【0040】
共重合体ラテックスの超薄切片の観察・撮影
40℃、65%の条件下で十分に乾燥させたラテックスフィルムからクライオミクロトーム(ライカ製:ミクロトーム(EM UC6/FC6型))を用いて−85℃で超薄切片を切り出す。ミクロトームの厚みの設定値は70nmとした。その後、得られた超薄切片を四酸化オスミウム(OsO4)で染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子製:JEM−1400)を用いてフィルム切片(粒子断面)を観察・撮影した。
図2や3に示すような不均一なミクロドメイン構造の形成が確認された場合は、○とし、例えば図1に示したような均一なハニカム構造のように、図2や3に示すような不均一なミクロドメイン構造の形成が観察されなかった場合は、×として、観察結果を表1及び表2に示した。
【0041】
共重合体ラテックス(A)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表1に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が80%を越えた時点で、2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行い最終の重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスAを得た。
共重合体ラテックス(B、G〜J)の合成
各段の単量体組成を表1および表2に記載の内容に変更して、ラテックスAと同様に重合を行いラテックスB、およびG〜Jを得た。
共重合体ラテックス(C〜E、K、M〜N)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表1および表2に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が50%を越えた時点で、2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行う。2段目を添加後、重合転化率が80%を越えた時点で3段目の各単量体および他の化合物を加えて、最終重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスC〜E、K、M〜Nを得た。
共重合体ラテックス(F)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表1に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が50%を越えた時点で、次いで2段目の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を行う。2段目の単量体を添加後、重合転化率が80%を越えた時点で3段目の各単量体および他の化合物を加えて、重合転化率が85%を越えた時点で4段目の各単量体および他の化合物を加えて最終の重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスFを得た。
共重合体ラテックス(L)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水140部と表2に示す1段目に記載の各単量体および他の化合物を加えて70℃にて重合を開始し、重合転化率が96%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムを用いてpHを7に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスLを得た。
【0042】
紙塗工用組成物の作製と評価
下記に示した配合処方に従って共重合体ラテックスA〜Nを用い、水酸化ナトリウムでpH9.5に調整し、紙塗工用組成物を作製した。
(紙塗工用組成物の配合処方)
配合処方
微粒カオリン 40部
重質炭酸カルシウム 60部
変性デンプン 1部
共重合体ラテックス 5部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 67%
【0043】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m2)に、上記の紙塗工用組成物を片面あたりの塗被量が10g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗工し乾燥した後、線圧60kg/cm、温度50℃の条件でカレンダー処理を行って塗工紙を得た。得られた塗工紙を各試験に供して評価し、その結果を表1および表2に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1に示すとおり、本発明による共重合体ラテックスA〜Fはいずれも塗工紙の印刷時強度が良好で、かつ、ラテックスの粘度が低い。
【0047】
表2に示すとおり、比較例1は、実施例1に対して1段目のシアン化ビニル系単量体とエチレン性不飽和カルボン酸単量体がいずれも本発明範囲の下限以下、比較例2は、比較例1からさらに1段目に添加する脂肪族共役ジエン系単量体が本発明範囲の下限以下であり、フィルムが不均一なミクロドメイン構造を形成しないことから、塗工紙の印刷時強度が劣り、ラテックス粘度が高い。
実施例2に比較して、比較例3では1段目に添加する単量体合計が32重量%を超えており、比較例4では2段目のシアン化ビニル系単量体合計が30重量%を超えており、いずれもフィルムが不均一なミクロドメイン構造を形成しておらず、塗工紙の印刷時強度が劣り、ラテックス粘度が高い。
比較例5では、1段目のエチレン性不飽和単量体が20重量%を超え、かつ1段目の単量体合計が32重量%を超えており、比較例6では、1段重合の共重合体ラテックスであり、いずれも本発明範囲外でることからフィルムが不均一なミクロドメイン構造を形成しておらず、著しくラテックス粘度が高く、塗工紙の印刷時強度も劣る。
実施例3に対して、比較例7では2段目以降の脂肪族共役ジエン系単量体が60重量%を超えており、比較例8では、2段目以降のシアン化ビニル系単量体が5重量%未満であり、いずれもフィルムが不均一なミクロドメイン構造を形成しておらず、塗工紙の印刷時強度が劣り、ラテックス粘度が高い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
上記のとおり、本発明の共重合体ラテックスは、印刷時強度が良好な塗工紙が得られ、かつラテックス粘度を大幅に下げることが可能なため、共重合体ラテックスの製造段階や運搬工程、保管工程、また紙塗工用組成物の調合工程における共重合体ラテックスの取り扱いにおいて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる単量体組成から構成される少なくとも2段の重合工程を有し、かつ、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル系単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体3.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜22.3重量%から構成される単量体の合計が13〜32重量%(全単量体合計100重量%)であり、さらに2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%(全単量体合計100重量%)を重合して得られる共重合体ラテックスであって、組成の違う構造を有する多層構造型重合体粒子であり、かつラテックスフィルムの超薄切片(厚み70〜80μm)をオスミウム染色後電顕観察した際に、オスミウムに濃く染色された部分が部分的連続層(不均一なミクロドメイン構造)を形成することを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックス。
【請求項2】
異なる単量体組成からなる少なくとも3段の重合工程を有し、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体4.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜21.3重量%から構成される単量体合計13〜32重量%を重合し、2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計68〜87重量%を重合することを特徴とする請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体全使用量の60重量%以上が1段目の重合工程で添加され、最終段の重合工程では添加されないことを特徴とする請求項1または2に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体ラテックスを含有する紙塗工用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195973(P2011−195973A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61675(P2010−61675)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】