説明

経路探索方法

【課題】階層化構造の地図データを用いて差分更新を可能にし、経路探索時間の増大を抑えられるようにする。
【解決手段】各階層がそれぞれ複数ブロックに分割され、階層が上がるにつれて道路網の情報量が少ない粗い地図データからなる階層構造の道路地図データを用いた経路探索方法において、最上位階層の直ぐ下位階層における各ブロック(10,20,30)間を最上位階層と直ぐ下位階層の道路地図データを用いて経路探索し、探索した経路が含まれる最上位階層の各ブロックを経路探索リストとしてデータ化し、前記経路探索リストに含まれる最上位階層のブロックの地図データを経路探索に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差分更新が可能な階層化構造を有する道路地図データを用いた経路探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のナビゲーション装置では、経路の探索を行う際に、高速道路、有料道路、国道、主要地方道、県道、細街路等の道路種別や、右左折禁止、一方通行等の交通規制の有無、リンク長、道路の幅員、車線数等によって、それぞれ、リンク又はリンク間(ノード)に各種のコストが設定される。そして、自車位置から目的地までの最適経路を探索する際、地図データに記憶されたリンクに沿って出発地側及び目的地側から経路の探索が行われ、出発地側からの探索と目的地側からの探索との重なり部分において、出発地側から累積されたコストと目的地側から累積されたコストとを加算し、コスト加算値が最小になる経路が誘導経路として設定される。
【0003】
経路の探索に使用する地図データは、道路網の情報量の差異に基づいて複数レベルに階層化された構造をしている。図5は従来のナビゲーション装置のもつ階層構造の地図データを示した模式図である。
図5に示す地図データは、レイヤ1、レイヤ2、レイヤ3の3層に階層化され、レイヤ3は高速自動車国道、自動車専用道路、都市高速道路、有料道路を含む地図データ、レイヤ2はそれに加えて国道や県道の一般道路を含む地図データ、レイヤ1は更に加えて細街路等のその他一般道を含む詳細地図データであり、レイヤが上がるにつれて道路網の情報量の少ない粗い地図データとなっている。
経路探索を実施するにあたっては、経路の探索に係る演算量を抑える為に、出発地と目的地付近の地域では、下位レイヤの階層(レイヤ1)の地図データを使用して詳細に計算し、経路の中間地域では、上位レイヤ(レイヤ2、レイヤ3)の階層の地図データを使用して概略的に計算し、両方の結果を統合して案内経路として出力する方法が一般的に採用されている。
【0004】
階層構造の道路地図データを用いる経路探索方法は、経路探索の高速化を図る上で極めて有効な方法であるが、経路探索の時間をより短縮するために、レイヤ3の複数ブロックからなる地図データの代わりに、レイヤ2の各ブロック間を結ぶ専用のネットワークデータをもち、出発地と目的地が設定され、対応するレイヤ2のブロックが特定されると専用のネットワークデータで高速に経路探索処理できるようにすることも行われている。
【0005】
また、道路の一部区間が変更されて道路地図データの更新が必要になった場合、階層構造の道路地図データに対して差分更新を適用すると、更新すべき地図データが複数のレイヤの道路地図データに及ぶため、差分更新が難しい。そこで、一階層構造の道路地図データを用いて、出発地から目的地までの経路を探索する経路探索方法として、経路探索の広がりに応じて、道路地図データの階層化を行い、階層化で得られた道路地図データを用いて経路探索を続けることで一階層構造の道路地図データ差分更新を行うようにしたものも提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−206938
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、一階層構造の道路地図データを用いているため、経路探索に時間がかかってしまうことは避けられない。
また、レイヤ3の複数ブロックからなる地図データの代わりに、レイヤ2の各ブロック間を結ぶ専用のネットワークデータを使用する方法では、経路探索の高速化は図れるものの、例えば、レイヤ2の地図データのブロックが、およそ100km四方としたとき、全国50ブロック程度となる。専用のネットワークデータは、レイヤ2の各ブロック間を結んだデータであり、そのため50×50程度の専用のネットワークデータが存在し、道路データの差分更新をしたときネットワークデータの差分更新処理は膨大となって差分データのダウンロード処理は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、階層構造の地図データを用いて差分更新を可能にし、経路探索に要する時間の増大も抑えられるようにすることを目的とする。
本発明は、各階層がそれぞれ複数ブロックに分割され、階層が上がるにつれて道路網の情報量が少ない粗い地図データからなる階層構造の道路地図データを用いた経路探索方法において、最上位階層の直ぐ下位階層における各ブロック間を最上位階層と直ぐ下位階層の道路地図データを用いて経路探索し、探索した経路が含まれる最上位階層の各ブロックを経路探索リストとしてデータ化し、前記経路探索リストに含まれる最上位階層のブロックの地図データを経路探索に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、出発地と目的地が設定されたとき探索に利用すべき最上位階層のブロックが予めリスト化されており、道路データの更新があってもこのリスト自体は殆ど更新の必要がないため道路データの差分更新が可能となり、さらにリスト化されているブロックのみ用いて探索すればよいため、経路探索に要する時間の増大を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本実施形態に係る車載機ナビゲーション装置の例を示す図である。出発地や目的地の情報を入力するキーボード、マウス、タッチパネル、操作キー等からなる入力装置1、現在位置に関する情報を検出する現在位置検出装置2、地図データ、各階層が複数ブロックからなる階層構造の道路データ、最上位階層の直ぐ下位階層における各ブロックに対して経路探索に必要な最上位階層のブロックをリスト化した経路探索リスト、交差点データ、経路の探索に必要なナビゲーション用データ、経路案内に必要な表示/音声の案内データ、さらに地図の表示、経路探索、音声案内等の案内を行うためのプログラム(アプリケーション及び/又はOS)等を記憶した情報記憶装置3、ナビゲータ処理手段として地図の表示処理、経路探索処理、経路案内に必要な表示/音声案内処理、さらにシステム全体の制御を行う中央処理装置4、車両の走行に関する情報である、例えば道路情報、交通情報を送受信したり、車両の現在位置に関する情報を検出したり、さらに現在位置に関する情報を送受信したりする情報送受信装置5、経路案内に関する情報を出力するディスプレイやスピーカその他の出力装置6から構成されている。
【0010】
図2は経路探索リストの生成を説明する図で、図2(a)はブロック間同士、図2(b)は同一ブロック内の場合を示し、図3は経路探索リストを示す図である。
本実施形態では、図5に示したように、道路地図データは、レイヤ1、レイヤ2、レイヤ3の3層に階層化され、レイヤ3は高速自動車国道、自動車専用道路、都市高速道路、有料道路を含む地図データ、レイヤ2はそれに加えて国道や県道の一般道路を含む地図データ、レイヤ1は更に加えて細街路等のその他一般道を含む詳細道路地図データであり、レイヤが上がるにつれて道路網の情報量が少ない粗い地図データとなっている。このような階層構造の道路データを使用し、従来、高速化を図るためにレイヤ3の地図データの代わりに、レイヤ2のブロック間を結ぶ専用のネットワークデータを使用していたが、この方法では道路データの差分更新が困難なため、本実施形態ではこのような専用のネットワークデータを使用せず、レイヤ3の地図データを用いる。
【0011】
レイヤ3に含まれる地図データのブロックは全国10数ブロックであることが一般的であり、全てのブロックを利用して経路探索を行ったのでは、各ブロックのエリアが広いためレスポンスが低下してしまうことになる。そこで、本実施形態では、予めレイヤ2の全ての各ブロック間同士、或いは各ブロック内についての経路探索を行い、探索された経路が含まれるレイヤ3の各ブロック、例えばその番号を経路探索リストとして生成する。そして、出発地、目的地が設定されたとき、レイヤ3における経路探索は、経路探索リストにある番号のブロックのみ用いることで探索のレスポンスを上げるようにする。
【0012】
図2(a)において、例えば、レイヤ2に属するブロック10、ブロック20の境界を横切る道路や境界上の交差点等の境界ノードがそれぞれ、11、12……17、21、22……27と仮定し、ブロック10、ブロック20の各境界ノード間の経路探索をレイヤ3の道路データを用いて行う。この探索処理をレイヤ2のデータだけで行ったのではデータが詳細すぎて探索結果を記憶するために多くの容量を必要とし、一方、レイヤ3のレベルのブロック間で行ったのでは、ブロックのエリアが広すぎて余分なエリアのデータまで使用して保持することになってしまう。そこで、レイヤ2の全てのブロック間の経路探索をレイヤ2とレイヤ3の道路データを用いて行う。この例では、ブロック10、ブロック20の境界ノードがそれぞれ7個あるため、境界ノード間について7×7の49通りについて探索処理を行い、このとき探索された経路が含まれるレイヤ3のブロックの番号等を経路探索リストとしてデータ化してもっておく。
【0013】
図2(b)は同一ブロックエリア内についての経路探索リストを生成する場合である。同一ブロックエリアの場合にもブロック内の道路を経由するよりもレイヤ3の道路を経由した方が探索コストが小さい場合があり得るので、全ての同一ブロックの境界ノード間についての経路探索をレイヤ3の道路データを用いて行う。例えば、レイヤ2に属するブロック30の境界ノードを31、32、……37としたとき、これら各境界ノード間の経路探索をレイヤ3の道路データを用いて行う。この例では、境界ノードが7個あるため、7×6/2の21通りについて探索処理を行い、このとき探索された経路が含まれるレイヤ3のブロックの番号をデータ化してもっておく。
【0014】
図3は経路探索リストのデータ構造を示す図であり、O11、O12……Omk……をレイヤ2の出発地側ブロックの境界ノード、D11、D12……Dni……を目的地側ブロックの境界ノードとしたとき、各境界ノード対ごとに、探索経路が含まれるレイヤ3のブロック番号L3b1、L3b2……L3bi……をリスト化して保持しておく。例えば、境界ノード対O11−D11に対してはブロック番号L3b1、L3b2、L3b9、境界ノード対Omk−Dniに対してはブロック番号L3b8、L3b9、L3b12が探索リストであり、これら境界ノード間についてはこのブロックのみ探索対象とすればよいことが分かる。
【0015】
階層構造の道路地図データを用いた探索では、出発地と目的地付近の地域では、下位レイヤの階層の地図データを使用して詳細に計算し、経路の中間地域では、上位レイヤの階層の地図データを使用して概略的に計算し、両方の結果を統合して案内経路として出力する。下位階層から上位階層に上げる場合、下位階層を構成するブロック内での探索でそのブロックの境界ノードまで達すると、その境界ノードが含まれる上位階層のブロックのノードに上げて探索が続けられる。本実施形態では、出発地、目的地が決まって出発地側、目的地側のレイヤ2のブロックが特定されると、各ブロックの境界ノード間について、図3に示した経路探索リストを参照し、リスト化されたレイヤ3のブロックのみ探索対象とすることで探索のレスポンスを上げることができる。また、出発地側、目的地側のレイヤ2のブロックが同一の場合も、各境界ノード間について、図3に示した経路探索リストを参照し、ブロック外を通る経路についてはリスト化されたレイヤ3のブロックのみ探索対象とすることで探索のレスポンスを上げることができる。
【0016】
図4はレイヤ2の同一ブロック内でつながる経路がある場合の探索処理を説明する図である。
出発地Sと目的地Gがレイヤ2の同一ブロック40のエリア内に存在する場合を想定する。図の黒丸が出発地側境界ノード、白丸が目的地側境界ノードでそれぞれここに到達するまでの探索コストをもっている。出発地側境界ノードの中で探索コストが最小なのはノード41で、探索コストは200、目的地側境界ノードの中で探索コストが最小なのはノード42で、探索コストは150と仮定する。一方、ブロックエリア内で出発地Sと目的地Gをつなぐ経路Rが探索され、その探索コストが300と仮定する。この場合、ノード41と42の探索コストの合計は350となり、経路Rのコストより大きい。このように、レイヤ2の同一ブロック内でつながった経路が探索され、このブロックの出発地側境界ノード中での最小コストと、目的地側境界ノード中での最小コストとの和より、ブロック内でつながる経路のコストが小さいときには、経路探索リストを使用した経路探索処理を継続しても最善のルートは見つからないため探索処理を終了する。
【0017】
なお、上記説明では3階層構造の道路地図データを用いる場合について説明したが、階層数はこれに限定されるものではなく、最上位階層の直ぐ下位階層における各ブロック間を最上位階層と直ぐ下位階層の道路地図データを用いて経路探索して経路探索リストを求めるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る車載機ナビゲーション装置の例を示すブロック図である。
【図2】経路探索リストの生成を説明する図である。
【図3】経路探索リストのデータ構造を示す図である。
【図4】同一ブロック内でつながる経路がある場合の探索処理を説明する図である。
【図5】階層構造の地図データを示した模式図である。
【符号の説明】
【0019】
1…入力装置、2…現在位置検出装置、3…情報記憶装置、4…中央処理装置、5…情報送受信装置、6…出力装置、10…レイヤ2のブロック、11〜17…境界ノード、20…レイヤ2のブロック、21〜27…境界ノード、30…レイヤ2のブロック、31〜37…境界ノード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各階層がそれぞれ複数ブロックに分割され、階層が上がるにつれて道路網の情報量が少ない粗い地図データからなる階層構造の道路地図データを用いた経路探索方法において、
最上位階層の直ぐ下位階層における各ブロック間を最上位階層と直ぐ下位階層の道路地図データを用いて経路探索し、
探索した経路が含まれる最上位階層の各ブロックを経路探索リストとしてデータ化し、
前記経路探索リストに含まれる最上位階層のブロックの地図データを経路探索に用いることを特徴とする経路探索方法。
【請求項2】
出発地と目的地が前記最上位階層の直ぐ下位階層のブロック内に存在し、該ブロック内でつながった経路が探索され、前記ブロックの出発地側境界ノード中での最小コストと、目的地側境界ノード中での最小コストとの和より、前記探索された経路のコストが小さいとき、前記経路探索リストを使用した経路探索処理を終了することを特徴とする請求項1記載の経路探索方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−156940(P2009−156940A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332416(P2007−332416)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】