説明

結晶化領域に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法および結晶化領域に設けられた薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度を計算及び抽出するための物理解析モデル。

【課題】Poly−Si TFTについてユニバーサルプロットを適用し、移動度を決めている結晶粒界について物理解析するモデルを提供する。
【解決手段】 Poly−Si TFTの移動度μを解析する物理解析モデルを提供するものである。該TFTの移動度μおよびVg−Id特性を測定し、測定された移動度μおよびVg−Id特性からクーロン散乱移動度μ(Coulomb)、フォノン散乱移動度μ(phonon)、そして表面ラフネス散乱μ(surface)の3つの移動度と実効電界Eeffを算出する。実効電界Eeffから自由キャリア密度nを求め、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)と自由キャリア密度nとの相関特性を用いてクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求めることを含む物理解析モデル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化領域に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法および薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度を計算及び抽出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;以下TFTと略す)の電気特性の指標の一つである移動度は3つの散乱要因からなることが知られている。即ち、半導体薄膜内部の欠陥や不純物に起因するクーロン散乱、半導体薄膜を構成する原子の振動に起因するフォノン散乱、そして半導体薄膜表面の構造的乱れに起因する表面ラフネス散乱である。
【0003】
上記クーロン散乱移動度μ(Coulomb)は、自由電子やホールなどのキャリアが、半導体膜薄膜中に存在する負や正に荷電した不純物原子からクーロン反発力を受けて散乱され、進路を曲げられることに起因する平均自由行程の逆数で定義される移動度である。また、フォノン散乱移動度μ(phonon)は、自由電子やホールなどのキャリアが、半導体薄膜を構成する原子からなる格子(Si基板の場合はSi格子)の熱的な振動によって、衝突、散乱され、進路を曲げられることに起因した平均自由行程の逆数で定義される移動度である。また、表面ラフネス散乱移動度μ(surface)は、自由電子やホールなどのキャリアが、半導体薄膜表面を流れる時に、表面の凸凹によって散乱され進路を曲げられることに起因する平均自由行程の逆数で定義される移動度である。
【0004】
図1に示すように、横軸を実効電界Eeffで、縦軸を測定された実効移動度(μeff)でプロットしたユニバーサルプロット(Universal plot)と呼ばれるプロットを行うと(点線10参照)、各散乱要因によって移動度の電界依存性の傾きが異なるために、移動度がどのメカニズムで決まっているかを解析することができる。なお、実効電界EeffとはTFTのチャネル領域内において主としてゲート電圧によって生ずる電界であり、TFTのチャネル領域を流れる電流の方向に対して垂直方向の電界である。
【0005】
図1のユニバーサルプロットにおいて、低電界領域ではクーロン散乱を主要因とする移動度μ11が、中電界領域ではフォノン散乱を主要因とする移動度μ12が、高電界領域では表面ラフネス散乱を主要因とする移動度μ13が支配的であり、TFTの移動度μは、これら3つの散乱移動度の逆数和で表されることが知られている。
【0006】
1/μ=1/μ+1/μ+1/μ … (1)
ゲート電圧が高い場合はゲートからの高電界によって電子は表面に打ちつけられるため表面ラフネス散乱が支配的となり、ゲート電圧が中程度の場合は格子の振動によるフォノン散乱が支配的となり、ゲート電圧が低い場合は不純物散乱が支配的(即ちクーロン散乱が支配的)となるためである。
【非特許文献1】S. Takagi et al. : IEEE Trans. Electron Device, Vol.41, No.12, pp2357-2362 (1994).
【非特許文献2】B.PODOR 「Electron Mobility in Deformed Germanium」Phys.stat.sol.16、K167(1966)
【非特許文献3】T.Katou et al. IDW/AD ’05予稿集 pp.1219-1200 (2005) Fabrication of Si Thin-Films with Arrays of Long and Narrow Grains for Next Generation TFTs
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1に示すようなユニバーサルプロットと呼ばれる解析手法は、半導体として単結晶であるバルクSiを使用したトランジスタや、SOI(Siricon On Insulator)を用いたトランジスタでは実験値に近いモデルとして実用されてきた。しかし半導体層として多結晶Si膜を用いたPoly−Siでは解析の事例がなく、実験値に近いモデルとして実用できなかった。即ち、多結晶シリコン薄膜トランジスタ(Poly−Si TFT)においては、結晶が多結晶からなることと活性層が薄膜であることから、上記のようなユニバーサルプロットの解析式をそのまま用いることが出来ないため、このような手法で解析されることはなかった。また、バルクSiやSOIは単結晶でありばらつきについて考える必要がないため、Poly−Si TFTでは重大な問題となる移動度のばらつく要因がどの散乱要因にあるのかについても調べられていなかった。
【0008】
従って、従来のバルクSiやSOIのトランジスタの物理モデルに従ってTFTの電気特性を計算するようなデバイスシミュレーターで計算した電気特性は、実際のPoly−Si TFTに対して測定した電気特性と一致しない場合が多々あった。この不一致は仮定しているバルクSiやSOIでの物理モデルが現実のPoly−Si TFTの物理モデルと異なるために起こることが判った。このため、Poly−Si TFTにおける移動度の解析手法については、Poly−Si TFT独特の構造(活性層が薄膜半導体層である事、多結晶であるため粒界や粒内欠陥が活性層に存在すること)や移動度がばらつく要因に注目して解析する必要があることが判った。
【0009】
本出願人は、現在実用されている液晶テレビや携帯電話などの表示画面をデジタル時代に対応した高品質な画質を実現するための半導体薄膜の大粒径の結晶化技術、この結晶化領域に高品質な画質を実現するための薄膜トランジスタ等のデバイスを使用した高品質な回路設計技術、およびデバイスや回路などの設計を高精度で行うための物理解析モデルやシミュレーション技術を開発している。
【0010】
本発明は、Poly−Si TFTなどの結晶化領域に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を高精度でシュミレーションすることができる薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法および結晶化領域に設けられた薄膜トランジスタの移動度μチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度を計算及び抽出するための物理解析モデルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法は、絶縁基板上に設けられた多結晶半導体薄膜、
この多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法であって、
予め定められた基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタの電流―電圧特性値又は容量―電圧特性値の測定値を入力装置から入力して記憶するステップと、
CPUは記憶された前記電流―電圧特性値又は容量―電圧特性値の測定値を読み出し予め定められた演算式により前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタのコンダクタンスをそれぞれ求めるステップと、
前記CPUは前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタのコンダクタンスから予め定められた演算式により移動度をそれぞれ求めるステップと、
前記CPUは前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタの移動度を予め定められた演算式で補間近似するステップと、
前記CPUは前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタの各移動度μの逆数の差値を求めクーロン散乱移動度を算出するステップと、
前記CPUは前記逆数の差値から求められたクーロン散乱移動度の実験値と、予め定められた演算式により求められるクーロン散乱移動度の計算値が合致するように演算式中のクーロン散乱中心密度を算出するステップと、
前記CPUは算出した前記クーロン散乱中心密度を、前記シミュレータに反映させ、前記薄膜トランジスタの電気特性をシミュレーションするステップと、
前記CPUは前記シミュレータがシミュレーションした電気特性を出力するステップと
を具備してなることを特徴とする。
【0012】
この発明の薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求める方法は、絶縁基板上に設けられた多結晶半導体薄膜、この多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法であって、
薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求める方法であって、
(1)ゲート電圧Vgを変えて薄膜トランジスタ及び基準となるTFTの各移動度を測定するステップと、
(2)ゲート電圧Vgに対する前記薄膜トランジスタ及び前記基準となるTFTの実効電界Eeffを、
Eeff = (Qd+η×Qi) ・・・・・ 式(1)
式(1)の計算式を用いてCPUにより計算するステップと、
なお Qd:空乏層電荷
Qi:反転層電荷
η:定数
(3)前記CPUは、前記薄膜トランジスタ及び前記基準となるTFTの実効電界Eeffを横軸に、測定された移動度を縦軸にとってプロットし、任意の実効電界Eeffにおける移動度を補間近似から求めるステップと、
(4)任意の実効電界Eeffにおいて、前記薄膜トランジスタの移動度μ(poly)の逆数から前記基準となるTFTの移動度μ(ref)の逆数を引き算し、その逆数をとった移動度μ(Coulomb)を、
μ(Coulomb)={1/μ(poly)−1/μ(ref)}-1 ・・・・・式(2)
式(2)の計算式を用いて前記CPUにより算出するステップと、
(5)任意の実効電界Eeffにおける自由キャリア密度nを、
n={ε0εsi×Eeff / q - Qd}/(η×tinv) ・・・・・式(3)
なお、tinv:チャネル領域における反転層厚さ
式(3)の演算式を用いて前記CPUにより計算するステップと、
(6)前記CPUは、薄膜トランジスタの自由キャリア密度nを横軸に、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を縦軸にとってプロットするステップと、
(7)前記CPUは、ステップ(6)で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性と、
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2
・・・・・式(4)
ここで
ε0:真空の誘電率 [F/cm]
εsi:Siの誘電率
a:格子定数 [cm]
k:ボルツマン定数
T:温度
q:電荷量(=1.7×1019) [C]
f:ダングリングボンドの占有確率
n:自由キャリア密度 [/cm3]
m:有効質量(=m0×mn)
n:電子の有効質量
式(4)の計算式を用いて計算したクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性が一致するように、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)を決めるステップ
とを含むことを特徴とする。
【0013】
この発明の上記シミュレーションする方法において、前記基準となるトランジスタの移動度は、バルクSiに形成されたトランジスタの移動度、SOI基板に形成されたトランジスタの移動度、または多結晶シリコンに形成された薄膜トランジスタで移動度が高いもののうちいずれか1つの移動度であること、あるいはそれらのフォノン散乱移動度であることを特徴とする。
【0014】
この発明の上記シミュレーションする方法において、前記基準となるトランジスタの移動度及び薄膜トランジスタの移動度には、実効移動度を用いることを特徴とする。
【0015】
この発明の上記シミュレーションする方法において、前記基準となるトランジスタの移動度及び薄膜トランジスタの移動度には、電界効果移動度を用いることを特徴とする。
【0016】
この発明の多結晶半導体薄膜に形成された薄膜トランジスタの電気特性をシミュレーションするための物理解析モデルは、プログラムされたコンピューターによって、多結晶半導体薄膜に形成された薄膜トランジスタの電気特性をシミュレーションするための物理解析モデルであって、
多結晶半導体薄膜に形成された薄膜トランジスタの移動度を、クーロン散乱移動度、フォノン散乱移動度、そして表面ラフネス散乱移動度の3つの移動度の逆数和によって決める計算式と、
前記薄膜トランジスタの移動度の最大値を、主としてクーロン散乱移動度μ(Coulomb)によって決める計算式と、
前記クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、クーロン散乱中心密度によって決める計算式とを含むことを特徴とする物理解析モデル。
【0017】
この発明の上記物理解析モデルにおいて、前記プログラムされたコンピューターは、前記クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、予め定められた基準となるトランジスタの移動度μ(ref)および多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの移動度μ(poly)の逆数の差で表される下記式(5)
μ(Coulomb)={1/μ(poly)−1/μ(ref)}-1 ・・・・・式(5)
を用いて計算することを特徴とする。
【0018】
この発明の上記物理解析モデルにおいて、前記プログラムされたコンピューターは、前記基準となるTFTの移動度μ(ref)として、バルクSiのトランジスタの移動度、SOI基板に形成されたトランジスタの移動度、または多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの移動度が高いもののうちいずれか1つの移動度を用いて、あるいはそれらのフォノン散乱移動度を用いて演算することを特徴とする。
【0019】
この発明の上記物理解析モデルにおいて、前記プログラムされたコンピューターは、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、下記式(6)
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2
・・・・・式(6)
ここで
ε0:真空の誘電率 [F/cm]
εsi:Siの誘電率
a:格子定数 [cm]
k:ボルツマン定数
T:温度
N(Coulomb):クーロン散乱中心密度
q:電荷量(=1.7×10-19) [C]
f:ダングリングボンドの占有確率
n:自由キャリア密度 [/cm3]
m:有効質量(=m0×mn)
mn:電子の有効質量
を用いて計算することを特徴とする。
【0020】
この発明の上記物理解析モデルにおいて、前記プログラムされたコンピューターは、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、下記式(7)
μ(Coulomb)= A / N(Coulomb) ・・・・・式(7)
ここで
A:比例係数
を用いて計算することを特徴とする。
【0021】
この発明の上記物理解析モデルにおいて、前記プログラムされたコンピューターは、前記クーロン散乱中心密度に、結晶粒界密度、結晶内欠陥密度、転位密度、積層欠陥密度、界面準位密度、ダングリングボンドを伴う欠陥の密度、ドナー密度、アクセプター密度のうち少なくとも一つを用いて計算することを特徴とする。
【0022】
この発明の上記物理解析モデルにおいて、前記プログラムされたコンピューターは、前記(1)式で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)と、前記(2)式または前記(3)式で計算したクーロン散乱移動度μ(Coulomb)が一致するように前記クーロン散乱中心密度N(Coulombを算出することを特徴とする。
【0023】
本発明は、上記の方法または物理モデルを含むことを特徴とする、ソフトウェア、シミュレーションソフトである。
【0024】
本発明は、上記のソフトウェア、シミュレーションソフトを含むことを特徴とする、ハードウェア装置、シミュレーション装置である。
【0025】
この明細書において、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)とは、自由電子やホールなどのキャリアが、半導体膜中に存在する負や正に荷電した不純物原子からクーロン反発力を受けて散乱され進路を曲げられることに起因した平均自由行程の逆数で定義される移動度である。
【0026】
フォノン散乱移動度とは、自由電子やホールなどのキャリアが、半導体膜を構成する原子からなる格子(Si基板の場合はSi格子)の熱的な振動によって衝突、散乱され進路を曲げられることに起因した平均自由行程の逆数で定義される移動度である。
【0027】
表面ラフネス散乱移動度とは、負や正に荷電した不純物原子のように、自由電子やホールなどのキャリアに対してクーロン力を及ぼすようなものの総称である。
【0028】
結晶粒界とは、成長してきた結晶粒と成長してきた結晶粒がぶつかったところにできる不連続な結晶格子面である。
【0029】
結晶内欠陥は、結晶粒の中に存在する転位、点欠陥などの欠陥もダンブリングボンド(Si結合手で相手がいない結合手)からなるため、電子をトラップしてクーロン散乱中心になりやすい。
【0030】
多結晶半導体薄膜は、プラズマCVD法により成膜された多結晶半導体薄膜や非晶質半導体薄膜を結晶化して大粒径の結晶化粒が1又は多数個形成された結晶化領域も含む。
【0031】
薄膜トランジスタの電気特性とは、移動度特性、ソース領域およびドレイン領域とゲート電極間の耐圧特性、電流が流れ始めるゲート電圧であるオン電流特性などの特性である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の演算ステップ及び解析式によって、これまでのバルクSiやSOIでの物理解析モデルでは考慮されていなかった多結晶シリコン薄膜トランジスタ特有の構造(活性層が薄膜である事、多結晶であるため粒界が存在すること)や移動度のピーク値ばらつきの要因(クーロン散乱中心密度)を考慮した正確な物理モデルをソフトウェアやシミュレーションソフトに組み込むことが出来るので、多結晶シリコン薄膜トランジスタ特性のシミュレーション結果の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明では、多結晶シリコン薄膜に形成された薄膜トランジスタ(Poly−Si TFTと略す)特有の構造(活性層が薄膜である事、多結晶であるため粒界が存在すること)を考慮したユニバーサルプロットの解析式を導入した事を第一の特徴とする。また、移動度がばらつく要因を解析式に組み込むために、クーロン散乱中心であるダングリングボンドにトラップされたキャリアの概念を解析モデル内に導入した事を第二の特徴とする。[非特許文献2]に記載されているように、ゲルマニウムなどの単結晶では、結晶内の転位(Dislocation)にトラップされた電子によるクーロン散乱モデルが知られているが、Poly−Siではこのようなモデルを考えた事例はこれまでなかった。本発明では多結晶Siの結晶粒界や、結晶内欠陥、転位、積層欠陥、隣接する結晶粒の傾きが5度以内の亜粒界なども、単結晶の転位(Dislocation)と同じようにダングリングボンドにトラップされた電子による散乱である事に着目し、このディスロケーション(Dislocation)散乱モデルの解析式をPoly−Si TFTの結晶粒界や、結晶内欠陥、転位、積層欠陥、亜粒界などの解析モデルに当てはめることが出来ると仮定して導入した。
【0034】
また、本発明は上記ディスロケーション散乱モデルを応用した解析式から算出したPoly−Si TFTのクーロン散乱移動度と、実験から求めたクーロン散乱移動度が一致するように、解析式からクーロン散乱中心を抽出することを第3の特徴とする。クーロン散乱中心密度を求めるためには、通常はTFTの電気特性を測定した後、これを剥離解析してチャネル領域をSEMやTEM等で観察しなければ求めることが出来ない。しかも写真から読み取るためクーロン散乱中心密度の算出は困難である。しかし、本発明の演算ステップや解析式を用いれば電気特性を測定するだけでクーロン散乱中心密度を求めることが出来るので、非常に精度良く簡単にクーロン散乱中心密度を求めることが出来、シミュレーションの精度も向上する。
【0035】
明細書の実施例に記載の発明は、Poly−Si TFTの移動度μを決める物理解析モデルであって、TFTの移動度μが、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)、フォノン散乱移動度μ(phonon)、表面ラフネス散乱μ(surface)の3つの移動度によって決まるモデルと、移動度μのピーク値μ_maxが、主としてクーロン散乱移動度μ(Coulomb)に決まるモデルと、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)がクーロン散乱中心N(Coulomb)であるダングリングボンドにトラップされた電子による散乱を仮定したモデルとを含むことを特徴とする物理解析モデルに係る。
【0036】
本発明は、Poly−Si TFTの移動度μの逆数から基準となるTFTの移動度の逆数を引き算し、その逆数をとった移動度μ(Coulomb)を算出する(μ(Coulomb)={1/μ(poly)−1/μ(ref)}-1)物理解析モデルを備える。かかる方法によって、ユニバーサルプロットの低電界側領域においてクーロン散乱移動度μ(Coulomb)とフォノン散乱移動度とが混合した移動度から、フォノン散乱移動度のみを差し引いて、移動度特性のピーク値のばらつきの原因であるクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のみを抽出することができる。これにより正確な物理モデルが得られる。
【0037】
また基準となるTFTの移動度μ(ref)としては、バルクSiトランジスタ、SOI基板に形成されたトランジスタ、またはPoly−Si TFTにおける電気的特性の良いもののうちいずれか1つの移動度を用いること、あるいはそれらのフォノン散乱移動度を用いることとする。
【0038】
さらに、本発明の実施例においては、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)が、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)の逆数に比例する物理解析モデルを提供される。
【0039】
また、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)が、
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2}… (2)
(2)式で示されるような物理解析モデルが提供される。かかる物理解析モデルによって、これまでのバルクSiやSOIでの物理解析モデルでは考慮されていなかった結晶粒界、結晶内欠陥、転位、積層欠陥、亜粒界などによるクーロン散乱による移動度のピーク値のばらつきが反映されるので、Poly−Si TFTのシミュレーション精度をより向上させることが出来る。なお、ε0は真空の誘電率、εsiはSiの誘電率、aは格子定数、kはボルツマン定数、Tは温度、N(Coulomb)はクーロン散乱中心密度、qは電荷量、fはダングリングボンドの占有確率、nは自由キャリア密度、mは有効質量、mnは電子の有効質量である。
【0040】
上記演算において、クーロン散乱中心密度は、結晶粒界密度、結晶内欠陥密度、転位密度、積層欠陥密度、亜粒界密度、界面準位密度、ドナー・アクセプター密度のうち少なくとも一つあるとすることができる。かかる方法によって、移動度のピーク値のばらつきの原因であるクーロン散乱中心密度の要因を複数のパラメータで表現し、TFT作成プロセスに応じたパラメータを設定できる。このためより正確な計算結果が得られる。
【0041】
また本発明に関する実施例に記載の発明は、CPUによりPoly−Si TFTのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求める方法であって、
(1)Poly−Si TFT及び基準となるTFTの実効電界Eeffを、
Eeff = (Qd+η×Qi) … (3)
η= 0.5、(ここで、Qd = q×Na×tsi、Qi = Cox×(Vg-Vth))
(3)式から計算するステップと、
(2) CPUはゲート電圧Vgを変えてPoly−Si TFT及び基準となるTFTの各移動度を測定するステップと、
(3) CPUはPoly−Si TFT及び基準となるTFTの実効電界Eeffを横軸に、移動度μを縦軸にとってプロットし、任意の実効電界Eeffにおける移動度μを補間近似から求めるステップと、
(4) CPUは任意の実効電界Eeffにおいて、Poly−Si TFTの移動度μの逆数から基準となるTFTの移動度の逆数を引き算し、その逆数をとった移動度μ(Coulomb)を算出するステップと、
(5) CPUは任意の実効電界Eeffにおける自由キャリア密度nを、n={ε0εsi×Eeff / q - Qd}/(η×tinv)という式から計算するステップと、
(6) CPUはPoly−Si TFTの自由キャリア密度nを横軸に、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を縦軸にとってプロットするステップと、
(7) CPUは上記ステップ(6)で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性と、式μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2}で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性が一致するように、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)を決めるステップを含む方法に係る。
【0042】
また、本発明は、上記実験値に合致するように算出したクーロン散乱中心N(Coulomb)の結果をシミュレーターに反映させ、上記シミュレータにより前記多結晶半導体領域に設けられる薄膜トランジスタの電気特性をシミュレーションする。
【0043】
これら本発明の演算ステップ及び解析式によって、これまでのバルクSiやSOIでの物理解析モデルでは考慮されていなかった多結晶シリコン薄膜トランジスタ特有の構造(活性層が薄膜である事、多結晶であるため粒界が存在すること)や移動度のピーク値ばらつきの要因(クーロン散乱中心密度)を考慮した正確な物理モデルをソフトウェアやシミュレーションソフトに組み込むことが出来るので、多結晶シリコン薄膜トランジスタ特性のシミュレーション結果の精度をより向上させることができる。
【0044】
上記物理モデルまたは方法を含むソフトウェア、シミュレーションソフトによって、poly−Si TFTの移動度のピーク値のばらつきを考慮した正確な物理モデルをソフトウェアやシミュレーションソフトに組み込むことができる。このため、多結晶半導体TFT特性のシミュレーション結果の精度を向上させることができる。
【0045】
さらに上記ソフトウェアやシミュレーションソフトを用い、poly−Si TFTの移動度のピーク値のばらつきを考慮した正確な物理モデルを組み込んだハードウェアやシミュレーション装置が得られるので、多結晶半導体TFT特性のシミュレーション結果の精度を向上させることができる。
【0046】
解析対象となるPoly−Si TFTの実施の形態について述べる。多結晶半導体薄膜(Poly−Si)は、プラズマCVD法により成膜された多結晶半導体膜や非単結晶半導体膜を加熱例えばエキシマレーザー光を非単結晶半導体膜例えば非晶質シリコン薄膜に照射し走査して、照射領域に微結晶粒の集合からなる多結晶シリコン層(Poly−Si)にしたものや、光強度分布を有するエキシマレーザ光を非晶質シリコン薄膜に照射し走査して、照射領域を横方向に結晶成長した大粒径の結晶化領域の集合からなる多結晶シリコン層(Poly−Si)などを含む。Poly−Si TFTは、Poly−Si薄膜に形成された薄膜トランジスタである。
【0047】
図2は、非単結晶半導体膜例えば膜厚が30nm〜100nmの非晶質シリコン薄膜に光強度分布を有するエキシマレーザ光を照射して横方向に結晶成長させて大粒径の結晶粒を形成するPMELA法(Phase Modulated ELA法、即ち位相変調ELA法)で結晶化した結晶化半導体薄膜20と、この結晶化半導体薄膜20に形成された薄膜トランジスタ(TFT)19を模式的に示したものである。
【0048】
結晶化半導体薄膜20は、細長い結晶粒21が幅方向に互いに隣接して配置された結晶粒列であり、図2において中央の結晶成長開始点から左右方向に結晶成長した結晶粒列である。上記PMELA法は、例えば本出願人が開発した特開2007−103911に記載された結晶化法である。結晶化半導体薄膜20の結晶粒の形状は、細長い結晶粒2正方形状、長方形状、楕円状などいずれの形状でもよい。
【0049】
このTFT19は、チャネル領域25、ソース領域32、ドレイン領域33が複数の結晶粒21の列内に形成されている。このTFT19は、結晶化された領域の中央付近に、結晶の成長方向22(即ち結晶粒界の生成方向)とTFT19のチャネル長の方向が平行になるように配置された例である。チャネル領域25には結晶粒界24が存在する例である。
【0050】
次に、解析対象となるPoly−Si TFT19の電気特性例えば電流―電圧特性又は容量―電圧特性の測定方法の実施例について説明する。チャネル領域25に結晶粒界24を含むTFTの電気特性の評価は、Id−Vg特性もしくはId−Vd特性、またはC−V特性を測定し、TFTの移動度μを算出することにより行うことができる。移動度μは、通常、実効移動度(μeff)を用いるが、必要に応じて電界効果移動度(μFE)を用いても良い。この移動度の測定には、例えば、半導体パラメータアナライザーを用いる場合とSplit C−V法を用いる場合がある。
【0051】
図3に移動度の測定方法として例えば半導体パラメータアナライザー31を用いた場合の電界効果移動度(μFE)測定方法および実効移動度(μeff)の測定方法を示す。
【0052】
電界効果移動度(μFE)の測定方法
半導体パラメータアナライザーを用いる場合の測定方法の例を図3を参照してステップ順に説明する。
【0053】
(i)上記TFT19のソース電極32、ドレイン電極33、ゲート電極34に上記アナライザ31の触針35を接触させ、ゲート電極34にゲート電圧(Vg)、ドレイン電極33にドレイン電圧(Vd)をかけ、ソース電極32を接地した場合のソース−ドレイン間を流れるドレイン電流(Id)を半導体パラメータアナライザー31で測定する。
【0054】
TFT19がnチャネル型MOSトランジスタ(NMOSと略す)の場合、ドレイン電極33にはVdが+10mV〜+100mV程度の一定値の電圧を印加し、ゲート電極34にはVgを−5Vから+15V程度でスイープさせる。
【0055】
TFT19がpチャネル型MOSトランジスタ(PMOSと略す)の場合、ドレイン電極34にはVdが−10mV〜−100mV程度の一定値の電圧を印加し、ゲート電極34へのVgは+5Vから−15V程度でスイープさせる。
【0056】
(ii)測定されたId、Vgのデータから、各ゲート電圧における相互コンダクタンスgmを下記式で求める。
【0057】
gm=ΔId/ΔVg … (3)
(iii)上記gmから、電界効果移動度(μFE)を下記式で求める。
【0058】
μFE=L/W*gm/Cox/(Vd−Rsd*Id) … (4)
ここで、Lはチャネル長、Wはチャネル幅、CoxはPoly−Si TFT19のゲート酸化膜の容量、Rsdはソース・ドレイン間の寄生抵抗である。Poly−Si TFT19では、ソース・ドレイン間の寄生抵抗が大きいので、正確な解析のためにはこの寄生抵抗を考慮した解析式を用いる必要がある。
【0059】
実効移動度(μeff)の測定方法
この測定は、例えば次のステップ順に実行する。
【0060】
(i)図3に示すように上記TFT19のソース電極32、ドレイン電極33、ゲート電極34に上記アナライザ31の触針35を接触させ、ゲート電極34にゲート電圧(Vg)、ドレイン電極33にドレイン電圧(Vd)を印加し、ソース電極32を接地した場合のソース−ドレイン間を流れるドレイン電流(Id)を半導体パラメータアナライザー31で測定する。
【0061】
上記TFT19がNMOSの場合、Vdとしては+10mV〜+100mV程度の一定値の電圧を印加、Vgとしては−5Vから+15V程度までスイープさせる。上記TFT19がPMOSの場合、Vdとしては−10mV〜−100mV程度の一定値を印加、Vgとして +5Vから−15V程度までスイープさせる。
【0062】
(ii)測定したId、Vgのデータから、各ゲート電圧における相互コンダクタンスgdを下記式で求める。
【0063】
gd=ΔId/ΔVd≒Id/Vd≒Id/(Vd−Rsd*Id)… (5)−3
ここで、Rsdはソース・ドレイン間の寄生抵抗である。Poly−Si TFT19では、ソース・ドレイン間の寄生抵抗が大きいので、正確な解析のためにはこの寄生抵抗を考慮した解析式を用いる必要がある。
【0064】
(iii) 各ゲート電圧における相互コンダクタンスgdから、実効移動度(μeff)を下記式で求める。
【0065】
μeff=L/W*gd/Cox/(Vg−Vth)= L/W*Id/(Vd−Rsd*Id)/Cox/(Vg−Vth) … (6)−4
なおVthはTFT19がオン状態になる時のゲート電圧である。
【0066】
次に、移動度の測定方法にSplit C−V法を用いた場合の実効移動度(μeff)の測定方法の例を図4を参照してステップ順に説明する。
【0067】
(i)TFT19のソース電極32、ドレイン電極33、ゲート電極34に上記アナザイザー31の触針35を接触させ、ソース電極32とドレイン電極33を短絡する。
【0068】
ゲート電極34にゲート電圧(Vg)をかけた場合のゲート−チャンネル間の容量(Cgc)をLCRメータ37で測定する。 TFT19がNMOSの場合、Vdは+10mV〜+100mV程度の一定値の電圧を印加し、Vgは −5Vから+15V程度までスイープさせる。TFT19がPMOSの場合、Vdは−10mV〜−100mV程度の一定値の電圧を印加し、Vgは +5Vから−15V程度までスイープさせる。
【0069】
(ii)測定したゲート−チャンネル間の容量Cgcのデータから、各ゲート電圧における反転層電荷Qiを下記式で求める。
【0070】
Qi=∫Vgacc*Cgc … (7)−5
ここで、Vgaccは強い蓄積が起こるゲート電圧である。
【0071】
(iii)Qiから、実効移動度(μeff)を下記式で求める。
【0072】
μeff=L/W*Id/Qi /(Vd−Rsd*Id) … (8)−6
以上説明したように、電界効果移動度μFE、実効移動度μeffは種々の方法で実験値として求めることができる。ユニバーサルプロットでは、移動度にμeffを用いることが一般的である。しかし、Id-Vg測定から求めた低電界領域のμeffは、理想的な値との誤差が大きくなるため、簡便なId-Vg測定だけで済ます場合はμFEを用いる。
【0073】
図5に本発明の物理解析モデルに使用される解析装置43の構成図例を示す。本装置43は物理解析モデル演算装置44と、バス58に接続されたプロセスシュミレータ46、デバイスシュミレータ48、パラメータ抽出/回路シュミレータ50、そして入力装置52、出力装置54、およびメモリ56を含む。
【0074】
移動度を測定するためには外部装置に半導体パラメータアナライザー41、SplitC-Vメーター42がを用いられる。半導体パラメータアナライザ41はTFT19に予め定められた測定電圧を印加してTFT特性(Id−Vg測定データ)を測定する。Split C−Vメーター42はTFT19に予め定められた測定電圧を印加して容量−電圧特性(C−V測定データ)を測定する。
【0075】
物理解析モデル演算装置44のCPUは、本発明の物理計算モデルに従って、外部装置半導体パラメータアナライザー41、SplitC―Vメーター42で測定したデータ(Id−Vg測定データ、C−V測定データ等)から、予めメモリに記憶された演算式により移動度μおよび実効電界Eeffを算出する。また物理解析モデル演算装置44のCPUは、Poly−Si TFT19の移動度μ(poly)と基準となるTFTの移動度μ(ref)からクーロン移動度μ(Coulomb)を、また実効電界Eeffから自由キャリア密度nを算出する。そしてクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性を計算し、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)を算出する。
【0076】
また物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順によりメモリから演算プログラムを読み出しデバイスシミュレータ48やパラメータ抽出/回路シュミレータ50で使われる物理パラメータ、例えばSpiceパラメータ、を抽出する。Spiceパラメータは欠陥の量を出力する関数における定数を含む。
【0077】
物理解析モデル演算装置44は、上記演算処理を行うCPU(Central Processing Unite)および演算処理に使用されるプログラム、演算処理に係る種々のデータを記憶するメモリを含む。
【0078】
プロセスシュミレータ46は、入力した構造ファイルやメッシュ情報ファイル、ドーピング情報ファイルから、実際にできるTFTの構造や不純物濃度プロファイルなどを物理計算モデルに従ってシュミレーションするための装置である。ここで入力した構造ファイルはTFTのゲート長、ゲートコンタクト間距離、各レイヤーの膜厚などの情報が記述されたファイルである。メッシュ情報ファイルはシミュレーションの計算を実施する最小単位寸法の情報が記述されたファイルである。ドーピング情報ファイルはTFTのチャネル領域やソース・ドレイン領域などの各レイヤーの不純物濃度情報が記述されたファイルである。
【0079】
多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求める例えばデバイスシュミレータ48は、プロセスシュミレータ46の結果あるいは入力した構造ファイルやメッシュ情報ファイル、ドーピング情報ファイルから、TFTの電気特性を物理解析モデルに従ってシュミレーションするための装置である。本発明により得られたクーロン散乱中心密度をデバイスシュミレータ48に入力することによりPoly−Si TFT19の電気特性例えばI−V特性をより高精度に予測することができる。あるいは、本発明である物理解析モデル自身が、デバイスシミュレータ48内に組み込まれていても良い。この場合、デバイスシミュレータ48が入力された情報を基にCPUは物理解析モデル装置44の代わりに演算を行う。また、デバイスシミュレータ48は、回路解析に必要なSpiceパラメータを導出し、メモリに記憶することができる。Spiceパラメータは、TFT19の所定の電気特性例えばI−V特性、を表す多項式の各定数を含む。
【0080】
パラメータ抽出/回路シミュレータ50は、デバイスシミュレータ48の演算結果、例えば上記Spiceパラメータ、あるいは外部装置の半導体パラメータアナライザー41、SplitC-Vメーター42による実測結果(実験値)から、回路の電気特性、例えば回路の入出力特性や周波数特性を導出することができる。回路シミュレータ50は物理解析モデル演算装置44と協同して、または一体となってシミュレーションすることができる。
【0081】
入力装置52は、物理解析モデルや構造ファイル、メッシュ情報ファイル、ドーピング情報ファイル、Spiceパラメータなどを入力、編集するための、例えばワークステーションのキーボードなどである。出力装置54は各種シミュレーションの結果を表示する、例えばディスプレイなどである。メモリ56は外部装置の半導体パラメータアナライザー41、SplitC-Vメーター42で測定したデータ、物理計算モデルのプログラム、各種シミュレーションの結果を記憶する装置である。
【0082】
この実施例においては、以下のステップ(a)〜(f)によりクーロン散乱中心密度N(Coulomb)について解析することができる。
【0083】
(a) Poly−Si TFT19及び基準となるTFTの実効電界Eeffを、
Eeff=(Qd+η×Qi) … (9)−7
η=0.5、Qd=q×Na×tsi、Qi=Cox×(Vg−Vth)
という式から計算する。
【0084】
(b) Poly−Si TFT19及び基準となるTFTの実効電界Eeffを横軸に、移動度μを縦軸にとってプロットし、任意の実効電界Eeffにおける移動度μを補間近似から求める。移動度μ特性は、通常、実効移動度μeffを用いるが、必要に応じて電界効果移動度μFEを用いても良い。
【0085】
(c)CPUは、 任意の実効電界Eeffにおいて、Poly−Si TFT19の移動度μの逆数から基準となるTFTの移動度の逆数を引き算し、その逆数をとった移動度μ(Coulomb)を算出する。
【0086】
(d) CPUは、任意の実効電界Eeffにおける自由キャリア密度nを、
n={εεsi×Eeff/q−Qd}/(η×tinv) … (10)−8
という式から計算する。
【0087】
(e) CPUは、Poly−Si TFTの自由キャリア密度nを横軸に、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を縦軸にとってプロットする。
【0088】
(f) CPUは、(e)で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性と、
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2
… (11)−9
という式で計算したμ(Coulomb)のn依存性が一致するように、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)を決定する。
【0089】
図6Aおよび図6Bは本発明による物理解析モデル演算装置44のCPUにより実行される解析方法のより詳しい実施例を説明するためのフローチャートである。
【0090】
図6Aにおいて、
(a) CPUは、物理解析の対象であるPoly−Si TFT19の移動度μ(poly)を算出する。
【0091】
(a1)Poly−Si TFT19を準備する。
【0092】
(a2)半導体パラメータアナライザ41を用いてPoly−Si TFT19のId-Vg特性またはId-Vd特性を測定しId-VgデータまたはId-Vdデータを取得する。図7参照(Id-Vdは図示せず。)。
【0093】
半導体パラメータアナライザ41は、取得したId-VgデータまたはId-Vdデータを入力装置52から物理解析モデル演算装置44に出力する。
【0094】
(a3) 物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、入力されたId-VgデータまたはId-Vdデータから、(3)式および(5)式により各Vgにおけるゲート電圧における相互コンダクタンスgdもしくは相互コンダクタンスgmを求める。
【0095】
(a4) 物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、求めたgdもしくはgmから移動度μ(poly)(μeffもしくはμFE)を計算し、実効電界Eeffに対してユニバーサルプロットを行なう。
【0096】
Vgに対する実効移動度μeffもしくはμFEは、以下の(12)(13)式により算出することができる。Vthは測定されたVg−Id特性から求められる。
【0097】
μeff=(L/W)*gd*(1/Cox)*1/(Vg−Vth)
= (L/W)*Id/(Vd−Rsd*Id) *(1/Cox)*1/(Vg−Vth)
… (12)
もしくは
μFE=L/W*gm/Cox/(Vd−Rsd*Id) … (13)
実効電界Eeffは、上記(9)式即ち、
Eeff = (Qd+η×Qi)
として示され、ゲート電極と半導体層の間の垂直方向の電界の強さを表す。Qdは空乏層電荷の量であり、Qiは反転層電荷の量である(Qd = q×Na×tsi、Qi = Cox×(Vg-Vth))。
【0098】
なお、実効電界Eeffの算出において係数ηを0.5とする理由は、(100)面バルクSiにおいて、η=0.5の時に、Eeff 対μeff の関係が、結晶化半導体薄膜20の不純物濃度やゲート酸化膜の厚さによらない1本のカーブに乗る(ユニバーサルな関係を満たす)ためである。面方位(110)や(111)によっては1/2でなく1/3の時にユニバーサルになる。またTFT19がPMOSにおいても1/2でなく1/3である。本発明のようなPoly−SiTFT19では、いろいろな面方位を含んでいるので、1/2〜1/3が混ざるはずだが、簡易的に1/2で代用する。
【0099】
上記 Qd =q×Na×tsiの導き方を説明する。基板のアクセプター濃度Na[/cm3]に、結晶化半導体薄膜20の膜厚[cm]を掛ければ、単位面積当たりのアクセプターの密度[/cm2]になる。それに電荷素量qを掛ければ、単位面積当たりのアクセプターによる電荷量[C/cm2]になる。なお、qは電荷素量(=1.9×1019C)を示し定数であり、Naはボディ濃度(=例えば1.5×1015 /cm)であり変数であり、tsiは結晶化半導体薄膜20であるSi膜厚 [cm]であり変数である。
【0100】
次に、反転層電荷Qi=Cox×(Vg−Vth)の導き方について説明する。反転層電荷Qiはゲート酸化膜を介したキャパシタに誘起される電荷に相当するので、Q=CVの関係より、ゲート酸化膜容量Cox[F/cm]に、ゲート酸化膜に印加される電圧Vg-Vth[V]を掛ければ、反転層の電荷量[C/cm2]になる。なお、Coxはゲート酸化膜容量 [F/cm]で変数であり、Vgはゲート電圧 [V]で変数であり、Vthは閾値電圧 [V] で変数である。
【0101】
(a5) 物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリからデータを読み出し、基準となるTFTと同じ実効電界Eeffにおける移動度μ(poly)を補間近似から求める。
【0102】
任意の実効電界Eeffにおける移動度μを補間近似から求めるステップは、Poly−Si TFT19及び基準となるTFTの実効電界Eeffを横軸に、移動度μを縦軸にとってプロットすることにより行なう。
【0103】
上記補間近似を行なう理由について説明する。通常TFT19の移動度μ(poly)および基準となるTFTの移動度μ(ref)を同じゲート電圧を用いてそれぞれ別個に測定し、各μ(poly)およびμ(ref)のEeff依存性を計算する。この場合、Eeffの値は
上記(9)式から求めたEeff = q×Na×tsi+η× Cox×(Vg−Vth)
という式から計算される。このため、同じゲート電圧を用いてもPoly−Si TFT19及び基準となるTFTの閾値電圧Vthやゲート酸化膜厚などは微妙に異なるため、実効電界Eeffも異なる値となる。次のステップにおいて、1/μ(Coulomb) = 1/μ(poly)−1/μ(ref)を計算するためには、同じ実効電界Eeffにおけるμ(poly)およびμ(ref)同士を引き算しなければならない。このため、データの補間近似より同じ実効電界Eeffにおける移動度μ(poly)およびμ(ref)を求める必要があるからである。
【0104】
(b)上記(a)とは別個に、基準となるTFTの移動度μ(ref)を算出する。測定、解析に使用される装置は上記(a)と同じものが使用し得る。
【0105】
(b1)基準となるTFT(例えばSOI−TFT)を準備する。
【0106】
(b2) 半導体パラメータアナライザ31は、図3に示す要領でPoly−Si TFT19のId-Vg特性またはId-Vd特性を測定しId-VgデータまたはId-Vdデータを取得する。半導体パラメータアナライザ31は、測定値のId-VgデータまたはId-Vdデータを入力装置52を介して物理解析モデル演算装置44に出力する。
【0107】
(b3) 物理解析モデル演算装置44のCPUは、入力されたId-VgデータまたはId-Vdデータから、(3)式および(5)式により各ゲート電圧Vgにおける相互コンダクタンスgdもしくは相互コンダクタンスgmを求める。
【0108】
(b4)求めたgdもしくはgmから基準となるTFTの移動度μ(poly)(μeffもしくはμFE)を上記(12)(13)式から計算する。
【0109】
また同様に実効電界Eeffを求め、実効電界Eeffに対してユニバーサルプロットを行なう。
【0110】
(b5) Poly−SiTFT19と同じ実効電界Eeffにおける移動度μ(ref)を補間近似から求める。
【0111】
(c)次に物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、実験値から求めたPoly−Si TFT19のクーロン移動度μA(Coulomb)および自由キャリア密度nを求める。
【0112】
(c1)等しい実効電界Eeffにおいて、ステップ(a)で算出したPoly−Si TFT19の移動度μ(poly)の逆数から、ステップ(b)で算出した基準となるTFT(例えば単結晶であるバルクSiを半導体層として使用したFETや、SOIを用いたTFT、結晶粒の大きい良好な品質のPoly−Si膜を半導体層に用いたTFTなど)の移動度μ(ref)の逆数を引き算し、その逆数をとってクーロン移動度μA(Coulomb)を算出する。
【0113】
μA(Coulomb)={1/μ(poly)−1/μ(ref)}-1・・・・・・・(14)
かかる物理解析モデルを提供することによって、ユニバーサルプロットの全領域にわたって、Poly−SiTFT19に起因する散乱移動度のみを抽出することができる。このためより正確な物理モデルが得られる。
【0114】
(c2) 実効電界Eeffにおける自由キャリア密度nを下記式から計算する。
【0115】
n={ε0εsi×Eeff/q−Qd}/(η×tinv) … (15)
(c3) 自由キャリア密度nを横軸に、式(14)から求めたクーロン散乱移動度μA(Coulomb)縦軸にとってプロットする。
【0116】
(d)一方、物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、Dislocationモデルに基づく理論値から求めたクーロン移動度μB(Coulomb)を求める。
【0117】
(d1)まずディスロケーションモデルに基づき下記の計算式(B)でμB(Coulomb)を計算する。
【0118】
μB(Coulomb)={30(2π)1/2・(ε0εsi)2・a2・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q3・f2・(ε0εsi・kT/q2/n)1/2・m1/2}・・・・・・・(16)
ここで、ε0:真空の誘電率 [F/cm]、εsi:Siの誘電率、a:格子定数 [cm]、q:電荷量(=1.7×1019) [C]、f:ダングリングボンドの占有確率、n:自由キャリア密度 [/cm3] である。図10に示す実施例ではクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の値が2×1010/cm、5×1010/cm、そして1×1011/cmの場合について計算している。
【0119】
(d2) 自由キャリア密度nを横軸に、式(16)から求めたクーロン散乱移動度μB(Coulomb)を縦軸にとってプロットする。
【0120】
図6Bにおいて、
(e) 続いて物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)の算出を行なう。
【0121】
(e1) モデル式(16)のパラメータであるクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の値を振って、実験結果((14)式)から求めたμA(Coulomb)とモデル式((16)式)から求めたμB(Coulomb)が一致するように、モデル式(16)のクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の値を決める。
【0122】
なお、クーロン散乱中心は、結晶粒界、結晶内欠陥、転位、積層欠陥、亜粒界、界面準位、ドナー・アクセプターのうち少なくとも一つであると考えられる。かかる物理解析モデルを考えることによって、ピーク移動度ばらつきの原因であるクーロン散乱中心密度Nをより一層正確に表現し、TFT作成プロセスに応じた原因を設定できる。このためより柔軟で正確な物理モデルが得られる。
【0123】
ここで隣接する結晶粒21の結晶粒界は、成長してきた結晶粒21と成長してきた結晶粒21がぶつかったところにできる不連続な結晶格子面を含む。かかる結晶粒界は、ダングリングボンド(Si結合手で相手がいない結合手)からなるため、電子をトラップしてクーロン散乱中心になりやすい。結晶内欠陥は、例えば結晶粒21の中に存在する転位、点欠陥、などの欠陥。結晶内欠陥もダングリングボンド(Si結合手で相手がいない結合手)等を含む。このため電子をトラップしてクーロン散乱中心になりやすい。ここで界面準位は、結晶化半導体薄膜20とゲート酸化膜の界面において、Si結合手が存在しないことに起因して生じる準位を含む。界面準位もダングリングボンド(Si結合手で相手がいない結合手)からなるため、電子をトラップしてクーロン散乱中心になりやすい。
【0124】
(f)次にデバイスシミュレータ48は、Poly−Si TFT19のTFT特性を予測する。
【0125】
(f1)このため デバイスシミュレータ48にクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の値を反映させる。
【0126】
(f2) デバイスシミュレータ48はTFT特性を予測する。
【0127】
(g)続いてデバイスシミュレータ48はPoly−Si TFT19のSpiceパラメータの抽出する。
【0128】
(g1) ステップ(e)で算出したクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の値からSpiceパラメータの値を抽出する。
【0129】
(g2) デバイスシミュレータ48は抽出したSpiceパラメータの値を回路シミュレータ50に出力する。
【0130】
(h)次に回路シミュレータ50は、Poly−Si TFT19を用いた回路特性を予測する。
【0131】
(h1) デバイスシミュレータ48は、回路シミュレータ50にクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の値を反映させる。
【0132】
(h2) 回路シミュレータ50は、回路特性を予測する。
【0133】
ここで、ステップ(e)、(f)、(g)、(h)の処理は上述のようにステップ(e)→(f)→(g)→(h)と連続的に行ってもよいし、ステップ(e)→(f)、ステップ(e)→(g)、ステップ(e)→(h)のように単独で行うことも出来る。
【0134】
なお、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)が、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)の逆数に比例する物理解析モデルを提供することによって、移動度のピーク値のばらつきの原因であるクーロン散乱移動度μ(Coulomb)からクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を簡易に計算できる。このため、移動度のばらつきを考慮した正確でかつ高速計算に使える物理モデルが得られる。
【0135】
クーロン散乱移動度μ(Coulomb)がクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の逆数(1/N(Coulomb))に比例する理由は、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)の説明において述べたように、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)は、負や正に荷電した不純物原子からクーロン力による反発(散乱)を受けるほど小さくなる。従って反発の元となるクーロン散乱中心N(Coulomb)が大きいほどμ(Coulomb)は小さくなるので、その逆数に比例するのである。
【0136】
かかる方法によって、物理解析モデル演算装置44のCPUは、Poly−Si TFT19の移動度のピーク値のばらつきの原因であるクーロン散乱移動度を抽出し、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、そのクーロン散乱移動度からクーロン散乱中心密度を正確に計算することができる。このため、移動度のピーク値のばらつきを考慮した正確な物理モデルを組み込んだソフトウェア、シミュレータなどによるPoly−Si TFT特性のシミュレーション結果の精度を向上させることができる。
【0137】
以下に、実際に試作したPoly−Si TFT19について測定を行い、本解析モデルに従って解析を行い、クーロン散乱中心密度を抽出した実施例を示す。本実施例においては、Id−Vg測定から移動度として電界効果移動度μFEを算出しこれを用いた場合で、かつ基準となるTFTとしてSOI基板に形成したトランジスタを使用した場合について示す。
【0138】
図7はPMELA法で作成された複数のPoly−Si TFT19のId-Vg特性である。この測定には、図3に示すような半導体パラメータアナライザ31を用いて測定している。これは図6Aのステップ(a2)に相当する。この実施例では結晶化Si薄膜の膜厚は100 nm、Poly−Si TFT19のチャネル領域25のチャネル長Lとチャネル幅Wの寸法はL/W=1μm/2μmである。測定用Poly−Si TFT19の個数は80個である。 図7より、ドレイン電流(Id)の立ち上がり部であるゲート電圧(Vg)が-1〜1V付近にかけて、ドレイン電流(Id)の立ち上がりの急峻性(Swing値:S値と呼ぶ)がばらついていることが分かる。またTFT19がオン状態になる時のゲート電圧(閾値電圧:Vthと呼ぶ)もばらついていることが分かる。この実施例においては、Id×(L/W)が1×10-7Aになる時のゲート電圧を閾値電圧Vthと定義している。
【0139】
図8は同じTFT19についての電界効果移動度μFE−Vg特性を表している。μFEは図7のId−Vg特性からゲート電圧での相互コンダクタンスgmを上記(3)式(4)式から、gm=ΔId/ΔVgとして求め、μFE=L/W*gm/Cox/(Vd−Rsd*Id)として求めることができる。これは図6Aのステップ(a3)及び(a4)に相当する。ここで、Lはチャネル長、Wはチャネル幅、CoxはPoly−Si TFTのゲート酸化膜の容量、Rsdはソース・ドレイン間の寄生抵抗である。
【0140】
図8より、電界効果移動度μFEも非常にばらついていることが分かる。発明者らは図8に示すような電界効果移動度μFEのばらつきの原因について詳しく解析した。図1に示すように、移動度は3つの散乱要因からなることが知られている。即ちクーロン散乱11、フォノン散乱12、表面ラフネス散乱13である。図1に示すように、横軸を実効電界Eeffにより、縦軸を電界効果移動度μFEでプロットした所謂ユニバーサルプロットと呼ばれるプロットを行うと、電界効果移動度μFEがどのメカニズムで決まっているかを解析することができる。即ち、低電界領域ではクーロン散乱が、中電界領域ではフォノン散乱が、高電界領域では表面ラフネス散乱が支配的である事が知られている。
【0141】
図9は試作されたPoly−Si TFT80個のTFT特性のうち、移動度が良いTFT(○印;PMELA(Best)として示す)、平均的なTFT(□印;PMELA(Ave)とし示す)、悪いTFT(△印;PMELA(Worest)として示す)の3種類をユニバーサルプロットした結果である。また、基準となるSOIのトランジスタについても同時にユニバーサルプロットしている。これらは図6Aのステップ(a4)、(b4)に相当する。図9から分かるように、中〜高電界領域にかけてのPoly−Si TFTの3種類の移動度には、3種類の間であまり差がみられないが、低電界領域の移動度の落ち込みは、電界効果移動度μFEが悪いTFTほど大きい。即ち、低電界領域におけるクーロン散乱による移動度に律速されて電界効果移動度μFEのピーク値が下がっていることが分かった。つまり、Poly−Si TFT19の移動度特性のピーク値のばらつきの主因は、低電界領域のクーロン散乱移動度がばらついているために生じていることが分かった。一方、中〜高電界領域のフォノン散乱移動度、表面ラフネス散乱移動度のカーブはそれほどばらついておらず、これらはピーク移動度のばらつきに与える影響が小さい事も分かった。
【0142】
このように、本発明のようなPoly−Si TFT19特有の物理解析モデルを構成することによって、Poly−Si TFT19に特有の移動度特性のピーク値のばらつきの原因がクーロン散乱移動度にあることが初めて明らかになった。また、このPoly−Si TFT19特有の物理解析モデルを用いることによって、移動度特性のピーク値のばらつきの原因を考慮した物理モデルによるシミュレーションが可能になる。
【0143】
次に、これらPMELA法で作成したTFTの電界効果移動度μFE(poly)の逆数から、完全結晶であると推定できるSOIの電界効果移動度μFE(SOI)の逆数を引き算して、先程述べたクーロン散乱による移動度μ(Coulomb)成分だけを取り出す。
【0144】
この計算の際には、
1/μ(Coulomb)=1/μ(poly)−1/μ(SOI) … (17)
という関係式を用いる。これは図6Aのステップ(c1)に相当する。ただし、この操作を行う前にPoly−Si TFT19の電界効果移動度μFE (poly)と基準となるSOITFTの移動度μ(ref)を引き算出来るように、共通の実効電界Eeffにおける移動度を補間近似から求める操作を予め行っている。これは図6Aのステップ(a5)、(b5)に相当する。
【0145】
なお、Poly−Si TFT19の電界効果移動度μFE (poly)は、
μFE (poly)=gm×(L/W)/Cox/(Vd−Rsd*Id) … (17)
として求められる。これは図6Aのステップ(a4)に相当する。なお、gmは図7に示すような測定されたId−Vg特性における線形領域(図7において0V以上の部分)における相互コンダクタンス(=ΔId/ΔVg)であり、LはPoly−Si TFT19のチャネル長、WはPoly−Si TFT19のチャネル幅、CoxはPoly−Si TFTのゲート酸化膜の容量、Vdは印加ドレイン電圧である。
【0146】
また基準となるSOITFTの移動度μ(ref)も、(17)式から同様にμ(ref)=gm×(L/W)/Cox/(Vd−Rsd*Id)として求められる。これは図6Aのステップ(b4)に相当する。ここで、gmは線形領域における相互コンダクタンス(=ΔId/ΔVg)、Lは基準となるTFTのチャネル長、Wは基準となるTFTのチャネル幅、Coxは基準となるTFTのゲート酸化膜の容量、Vdは印加ドレイン電圧である。
【0147】
基準となるTFTとして、SOI(またはバルクSi)などを用いたFETを基準とする理由は、これらのTFTは移動度が非常に高く、Poly−Si TFT19の性能を高めていく上で究極の目標(理想)となる移動度であるためである。Poly−Siの特性の良いものも、それに準ずると考えられるためである。従って、特性の良くないμ(poly)の逆数から、特性の良いμ(ref)の逆数を引き算すると、両者の差(理想状態と現実の差)を生み出している散乱機構の要因だけを取り出すことができる。
【0148】
なお、より望ましくは、Poly−Si TFT19の移動度μ(poly)から、μ(ref)のフォノン散乱移動度だけを引く事が望ましい。これは、移動度μ(poly)、μ(ref)は上で述べたように3つの成分(クーロン散乱移動度、フォノン散乱移動度、表面ラフネス散乱移動度)からなっているため
1/μ(Coulomb)=1/μ(poly)−1/μ(SOI) … (18)
という関係式から得られるクーロン散乱移動度は、実際にはフォノン散乱移動度の成分が一部混ざっているためである。従って、より厳密にクーロン散乱移動度のみを取り出すためには、Poly−Si TFTの移動度μ(poly)から、μ(ref)のフォノン散乱移動度を引くことが望ましい。物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、クーロン散乱移動度のみを取り出すために(18)式の演算を実行する。
【0149】
次に、ディスロケーション散乱モデルを応用して、μ(Coulomb)からクーロン散乱中心密度N(Coulomb)が各TFTにどの程度含まれているのかを抽出する。ディスロケーション散乱モデルは、ディスロケーションによる移動度μdislが、ディスロケーション密度(Ndisl)に反比例するというモデルである。
【0150】
μdisl ∝(Ndisl)-1
ディスロケーション散乱も、クーロン散乱も、トラップに捕獲された電子が負に荷電して、伝導キャリアを散乱するという同じメカニズムなので適用可能である。図11に、ゲルマニウムなどの単結晶におけるディスロケーション散乱モデルを、Poly−Siに応用した場合の概念図を示す。ディスロケーションモデルによる転位が、Poly−Siの場合には結晶粒界や結晶粒内欠陥に相当すると仮定している。この場合、ディスロケーション密度(Ndisl)が、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)に相当する。従って以下の式が成り立つ。
【0151】
μ(Coulomb)∝N(Coulomb)-1
ディスロケーション散乱モデルとの類推から、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)は、(11)式即ち
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2} … (11)
として計算できることがわかった。物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、(11)式の演算によりクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求める。
【0152】
図10は、実際にクーロン散乱移動度μ(Coulomb)からクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を抽出した例である。横軸の自由キャリア密度nは、(15)式即ち下記式から計算している。
【0153】
n={ε0εsi×Eeff/q−Qd}/(η×tinv) … (15)
これは、図6Aのステップ(c2)に相当する。物理解析モデル演算装置44のCPUは、予め定められた手順でメモリから演算式を読み出し、(15)式の演算により自由キャリア密度nを求める。
【0154】
図中の記号(○印、□印、△印)は、移動度の高いTFT(○印)、移動度中程度のTFT(□印)、移動度の低いTFT(△印)の各々において、1/μ(Coulomb)=1/μ(poly)−1/μ(SOI)という関係式から求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)の実験結果を自由キャリア密度nに対してプロットした例である。これは図6Aのステップ(c3)に相当する。3本の直線は、(11)式に従うものであり、自由キャリア濃度nに対するクーロン散乱中心密度N(Coulomb)をプロットしたものである。これは図6Aのステップ(d2)に相当する。3本の直線は上の式においてN(Coulomb)の値を2×1010/cm、5×1010/cm、1×1011/cmとした場合である。
【0155】
移動度の高いTFT(○印)はクーロン散乱中心密度N(Coulomb)2×1010/cmの直線に対応することがわかる。移動度中程度のTFT(□印)はクーロン散乱中心密度N(Coulomb)5×1010/cmの直線に対応することがわかる。移動度の低いTFT(△印)はクーロン散乱中心密度N(Coulomb)1×1011/cmの直線に対応することがわかる。即ち移動度が高いTFTほどクーロン散乱中心密度N(Coulomb)は小さく、移動度が低いTFTほどクーロン散乱中心密度N(Coulomb)が高くてクーロン散乱の影響を受けやすく移動度が低下していることが分かる。このようにしてクーロン散乱移動度μ(Coulomb)の算出結果と理論式とを対応させることによりクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求めることができる。これは図6Bのステップ(e)に相当する。測定結果に一致するn−μ(Coulomb)直線は自由キャリア密度の低い部分(図10においては凡そ1017/cm〜1018/cmの部分)の特性に関して例えば最小二乗法を適用して求めることができる。このように抽出したクーロン散乱密度を、デバイスシミュレーションや、回路シミュレーションに取り入れる事で、Poly−Si TFT19のシミュレーションの精度を向上させることが出来る。
【0156】
以下に、本発明のモデルから求めたクーロン散乱中心密度Nの妥当性や現実の値との整合性について検証を行った結果を示す。
【0157】
図12は、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)とクーロン散乱移動度μ(Coulomb)との関係を調べた結果である。結晶化Si薄膜20のSi膜厚が100 nm、50 nm、40 nm、30 nmの各膜厚でのクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を抽出し、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)との関係を調べた。クーロン散乱移動度μ(Coulomb)は、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)に対し約−1乗で変化している。これは、Dislocation散乱モデル式(μdisl ∝ Ndisl’-1)と一致しており、このモデルがクーロン散乱中心密度N(Coulomb)の抽出に適用可能であるという本発明の正当性を示している。
【0158】
図13は、非特許文献3のT.Katou et al. IDW/AD ’05予稿集 pp.1219-1200 (2005) Fabrication of Si Thin-Films with Arrays of Long and Narrow Grains for Next Generation TFTs のFig.4に記載されている図である。この図は、PMELA−Si薄膜をSEMで観察し、PMELA−Si薄膜の結晶粒幅Wgを示したグラフである。このグラフより、結晶粒幅WgはSi膜厚が100nmの場合で約0.7μm、Si膜厚が50nmの場合で約0.3μm、Si膜厚が40nmの場合で約0.25μm、Si膜厚が30nmの場合で約0.2μmである。1μm当たりの結晶粒界の本数は1/Wgとして求めることができるので、1μm当たりの結晶粒界の本数はSi膜厚が100nmの場合で1.4×104/cm、Si膜厚が50nmの場合で3.3×104/cm、Si膜厚が40nmの場合で4×104/cm、Si膜厚が30nmの場合で5×104/cmとなる。
【0159】
図14に、試作したPMELA−Si薄膜のSEM像について観測した結晶粒幅Wgから求めた単位面積当たりの結晶粒界の本数と、本発明の散乱モデルから求めたクーロン散乱中心密度N(Coulomb)との関係を示す。SEM像から求めた結晶粒界の本数1/Wgと、散乱モデルから求めたクーロン散乱中心密度N(Coulomb)との間には図14に示すように良い相関が見られる。即ちこの結果は、散乱モデルから求めたクーロン散乱中心密度は、ほぼ実際の結晶粒界の本数に対応していることを示しており、本発明(モデル)の正当性を証明していると言える。
【0160】
図15は、Si膜厚100nmのTFTのVth及びS値と、抽出したクーロン散乱中心密度N(Coulomb)との相関を調べた結果である。Vth及びS値も、移動度と同様に、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)によって大きく影響を受けている事が分かる。従って、これらクーロン散乱中心密度を考慮していない従来のバルクSiやSOIの物理モデルを用いて幾らデバイスシミュレーションや回路シミュレーションを行ってもPoly−Si TFTの電気特性を再現することは出来ないことは明白である。Poly−Si TFTの電気特性の正確なシミュレーションを行うには、本発明のようなクーロン散乱中心密度を考慮した物理モデルを用いる必要がある。本発明における物理モデルを使うことで、Poly−Si TFTの電気特性を正確で高精度に予測することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明による物理解析モデルを使用することにより、Poly−Si TFTの電気特性についての物理解析が正確で高精度に行えるようになった。物理解析モデルは、例えば、液晶表示装置(液晶ディスプレイ)やEL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどに用いられるPoly−Si TFTの特性を予想するデバイスシミュレータや、それらPoly−Si TFTによって構成される集積回路の入出力特性、周波数特性などを予想する回路シミュレータなどのシミュレーション装置や計算装置などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】バルクSi−TFTまたはSОI−TFTのユニバーサルプロットを示す図である。
【図2】PMELA法により結晶化した半導体薄膜とそこに形成されたTFTを模式的に示す図である。
【図3】半導体パラメータアナライザーを用いた場合の移動度の測定方法を示す図である。
【図4】Split C−V法を用いた場合の実効移動度(μeff)の測定方法を示す図である。
【図5】本発明による物理解析モデルに使用される解析装置を示す図である。
【図6A】本発明による物理解析モデルのフローチャートを示す図の一部である。
【図6B】本発明による物理解析モデルのフローチャートを示す図の一部である。
【図7】PMELA法で作成したPoly−Si TFTの電気特性(Id−Vg特性)を示す図である。
【図8】PMELA法で作成したPoly−Si TFTの電気特性(Vg−移動度特性(μFE))を示す図である。
【図9】PMELA法で作成したPoly−Si TFTの電気特性(ユニバーサルプロット)を示す図である。
【図10】クーロン散乱移動度にディスロケーション散乱モデルを適用してクーロン散乱中心密度を抽出した例を示す図である。
【図11】単結晶におけるディスロケーション散乱モデルを、Poly−Siに応用した場合の概念図である。
【図12】クーロン散乱移動度とクーロン散乱中心密度の相関を示す図である。
【図13】SEM観察より求めたPMELA−Si薄膜の結晶粒幅Wgを示す図である。
【図14】ディスロケーション散乱モデルから求めたクーロン散乱中心密度N(Coulomb)とSEM像から求めた結晶粒界本数[/cm]の関係を示す図である。
【図15】Si膜厚100nmにおけるS値およびVthと、クーロン散乱中心密度(N(Coulomb))の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0163】
10…ユニバーサルプロット、 11…クーロン散乱、 12…フォノン散乱、 13…表面ラフネス散乱、 20…結晶化半導体薄膜、 21…結晶粒、 22…成長方向、 23…成長開線、 24…結晶粒界、 25…チャネル領域、 31…半導体パラメータアナライザー、 32…ソース電極、 33…ドレイン電極、 34…ゲート電極、 35…針、 37…LCRメータ、 41…半導体パラメータアナライザ、 42…C−Vメーター、 43…装置、 44…物理解析モデル演算装置、 46…プロセスシュミレータ、 48…デバイスシミュレータ、 50…回路シミュレータ、 52…入力装置、 54…出力装置、 56…メモリ、 58…バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に設けられた多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法であって、
予め定められた基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタの電流―電圧特性値又は容量―電圧特性値の測定値を入力装置から入力して記憶するステップと、
CPUは記憶された前記電流―電圧特性値又は容量―電圧特性値の測定値を読み出し予め定められた演算式により前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタのコンダクタンスをそれぞれ求めるステップと、
前記CPUは前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタのコンダクタンスから予め定められた演算式により移動度をそれぞれ求めるステップと、
前記CPUは前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタの移動度を予め定められた演算式で補間近似するステップと、
前記CPUは前記基準となるトランジスタおよび前記薄膜トランジスタの各移動度μの逆数の差値を求めクーロン散乱移動度を算出するステップと
前記CPUは前記逆数の差値から求められたクーロン散乱移動度の実験値と、予め定められた演算式により求められるクーロン散乱移動度の計算値が合致するように演算式中のクーロン散乱中心密度を算出するステップと、
前記CPUは算出した前記クーロン散乱中心密度を、前記シミュレータに反映させ、前記薄膜トランジスタの電気特性をシミュレーションするステップと、
前記CPUは前記シミュレータがシミュレーションした電気特性を出力するステップと
を具備してなることを特徴とする薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法。
【請求項2】
絶縁基板上に設けられた多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法において、
薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度N(Coulomb)を求める方法であって、
(1)ゲート電圧Vgを変えて薄膜トランジスタ及び基準となるTFTの各移動度を測定するステップと、
(2)ゲート電圧Vgに対する前記薄膜トランジスタ及び前記基準となるTFTの実効電界Eeffを、
Eeff = (Qd+η×Qi) ・・・・・ 式(1)
式(1)の計算式を用いてCPUにより計算するステップと、
なお Qd:空乏層電荷
Qi:反転層電荷
η:定数
(3)前記CPUは、前記薄膜トランジスタ及び前記基準となるTFTの実効電界Eeffを横軸に、測定された移動度を縦軸にとってプロットし、任意の実効電界Eeffにおける移動度を補間近似から求めるステップと、
(4)任意の実効電界Eeffにおいて、前記薄膜トランジスタの移動度μ(poly)の逆数から前記基準となるTFTの移動度μ(ref)の逆数を引き算し、その逆数をとった移動度μ(Coulomb)を、
μ(Coulomb)={1/μ(poly)−1/μ(ref)}-1 ・・・・・式(2)
式(2)の計算式を用いて前記CPUにより算出するステップと、
(5)任意の実効電界Eeffにおける自由キャリア密度nを、
n={ε0εsi×Eeff / q - Qd}/(η×tinv) ・・・・・式(3)
なお、tinv:チャネル領域における反転層厚さ
式(3)の演算式を用いて前記CPUにより計算するステップと、
(6)前記CPUは、薄膜トランジスタの自由キャリア密度nを横軸に、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を縦軸にとってプロットするステップと、
(7)前記CPUは、ステップ(6)で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性と、
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2
・・・・・式(4)
ここで
ε0:真空の誘電率 [F/cm]
εsi:Siの誘電率
a:格子定数 [cm]
k:ボルツマン定数
T:温度
q:電荷量(=1.7×1019) [C]
f:ダングリングボンドの占有確率
n:自由キャリア密度 [/cm3]
m:有効質量(=m0×mn)
n:電子の有効質量
式(4)の計算式を用いて計算したクーロン散乱移動度μ(Coulomb)のn依存性が一致するように、クーロン散乱中心密度N(Coulomb)を決めるステップ
とを含むことを特徴とする多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるクーロン散乱中心密度N(Coulomb)をシミュレ−ションする方法。
【請求項3】
前記基準となるトランジスタの移動度は、バルクSiに形成されたトランジスタの移動度、SOI基板に形成されたトランジスタの移動度、または多結晶シリコンに形成された薄膜トランジスタで移動度が高いもののうちいずれか1つの移動度であること、あるいはそれらのフォノン散乱移動度であることを特徴とする請求項1又は2記載の薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法。
【請求項4】
前記基準となるトランジスタの移動度及び薄膜トランジスタの移動度には、実効移動度を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法。
【請求項5】
前記基準となるトランジスタの移動度及び薄膜トランジスタの移動度には、電界効果移動度を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタの電気特性を求めるシミュレータによりシミュレーションする方法。
【請求項6】
プログラムされたコンピューターによって、多結晶半導体薄膜に形成された薄膜トランジスタの電気特性をシミュレーションするための物理解析モデルであって、
多結晶半導体薄膜に形成された薄膜トランジスタの移動度を、クーロン散乱移動度、フォノン散乱移動度、そして表面ラフネス散乱移動度の3つの移動度の逆数和によって決める計算式と、
前記薄膜トランジスタの移動度の最大値を、主としてクーロン散乱移動度μ(Coulomb)によって決める計算式と、
前記クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、クーロン散乱中心密度によって決める計算式とを含むことを特徴とする物理解析モデル。
【請求項7】
前記プログラムされたコンピューターは、前記クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、予め定められた基準となるトランジスタの移動度μ(ref)および多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの移動度μ(poly)の逆数の差で表される下記式(5)
μ(Coulomb)={1/μ(poly)−1/μ(ref)}-1 ・・・・・式(5)
を用いて計算することを特徴とする請求項7記載の物理解析モデル。
【請求項8】
前記プログラムされたコンピューターは、前記基準となるTFTの移動度μ(ref)として、バルクSiのトランジスタの移動度、SOI基板に形成されたトランジスタの移動度、または多結晶半導体薄膜に設けられた薄膜トランジスタの移動度が高いもののうちいずれか1つの移動度を用いて、あるいはそれらのフォノン散乱移動度を用いて演算することを特徴とする請求項6記載の物理解析モデル。
【請求項9】
前記プログラムされたコンピューターは、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、下記式(6)
μ(Coulomb)={30(2π)1/2・(εεsi)・a・(kT)3/2}/{N(Coulomb)・q・f・(εεsi・kT/q/n)1/2・m1/2
・・・・・式(6)
ここで
ε0:真空の誘電率 [F/cm]
εsi:Siの誘電率
a:格子定数 [cm]
k:ボルツマン定数
T:温度
N(Coulomb):クーロン散乱中心密度
q:電荷量(=1.7×10-19) [C]
f:ダングリングボンドの占有確率
n:自由キャリア密度 [/cm3]
m:有効質量(=m0×mn)
mn:電子の有効質量
を用いて計算することを特徴とする請求項6に記載の物理解析モデル。
【請求項10】
前記プログラムされたコンピューターは、クーロン散乱移動度μ(Coulomb)を、下記式(7)
μ(Coulomb)= A / N(Coulomb) ・・・・・式(7)
ここで
A:比例係数
を用いて計算することを特徴とする請求項6に記載の物理解析モデル。
【請求項11】
前記プログラムされたコンピューターは、前記クーロン散乱中心密度に、結晶粒界密度、結晶内欠陥密度、転位密度、積層欠陥密度、界面準位密度、ダングリングボンドを伴う欠陥の密度、ドナー密度、アクセプター密度のうち少なくとも一つを用いて計算することを特徴とする請求項6項記載の物理解析モデル。
【請求項12】
前記プログラムされたコンピューターは、前記(1)式で求めたクーロン散乱移動度μ(Coulomb)と、前記(2)式または前記(3)式で計算したクーロン散乱移動度μ(Coulomb)が一致するように前記クーロン散乱中心密度N(Coulomb)を算出することを特徴とする請求項6に記載の物理解析モデル。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の方法または物理モデルを含むことを特徴とする、ソフトウェア、シミュレーションソフト。
【請求項14】
請求項13に記載のソフトウェア、シミュレーションソフトを含むことを特徴とする、ハードウェア装置、シミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−253043(P2009−253043A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99584(P2008−99584)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】