説明

絶対変位・速度計測用センサ

【課題】 建物の振動制御に適用できるような低振動数から測定でき、小型でも大地震の変位測定にも適用でき、しかもセンサの設置状況によって測定信号に直流分が生じない絶対変位・速度計測用センサを提供すること。
【解決手段】 本発明の絶対変位・速度計測用センサ10は、筐体1に内蔵され、ばね3及びダンパ4によって支えられた重り2と、それを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータ6と、重り2と筐体1との間の速度を検出する相対速度センサ5と、重りの動きを制御するコントローラとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近年増加している3階建て、4階建ての一般住宅の路面振動による揺れを振動制御するために不可欠な振動変位測定用センサが第一の利用分野である。路面振動の卓越振動数は概ね3Hz付近にあるが、建物の固有振動数も概ね3Hz付近にあるので、建物が共振して大きな揺れを起こし、居住性を損なっている。建物のアクティブ振動制御には、その建物の絶対変位と絶対速度信号を制御用コントローラにフィードバックすることが不可欠な要件になっている。勿論、高層建物やタワー構造物の風による揺れの制御にも利用できる。
第二の利用分野はアクティブ除振装置のフィードバック制御である。除振技術にはスカイフックダンピングやスカイフックスプリング技術があるが、この技術を活用するには除振台の絶対速度や絶対変位の計測が不可欠である。
第三の利用分野は地震観測である。巨大地震が発生すると地盤が50cm程度まで揺れることが予想されるが、現状ではそのような地盤変位を計測する方法はない。この問題を解決できるのが本発明である。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2003−130628号公報
【0003】
例えば特許文献1においては、絶対速度・変位検出方法及びその方法を用いた絶対速度・絶対変位センサが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、建物の振動制御用センサとしてサイズモ型加速度センサや速度センサが用いられている。加速度センサは筐体に収められた重りとそれを支持するばねで定まる固有振動数以下が測定できる振動数であり、速度センサは固有振動数付近が測定できる振動数である。したがって、低い振動数での振動測定が可能であり、超高層ビルや長大吊橋の主塔の風による揺れの制御などに、広く使用されている。しかし、現在最も一般的な制御理論である線形2次形式最適制御理論(LQ最適制御理論)では、制御すべき制御変数は変位と速度である。そのために、建物の振動制御には絶対変位及び絶対速度の計測が不可欠であるが、両者ともに絶対変位を直接に計測することはできない。そのために積分器を加速度センサの場合は2段、速度センサの場合は1段用いているのであるが、積分器にはドリフトと言う問題がある。積分器はその内部に僅かでも直流信号が含まれていればそれが積分されて、時間の経過とともに測定すべき信号とは無関係に変動するのがドリフトである。ドリフトがあれば重りが勝手に動くことによって、制御不能に陥ることがある。この問題を解決するにはドリフトのない積分器を構築しなければならないが、そのために極めて高価なセンサとなる。
【0005】
速度センサは積分器が1段で済むので、比較的ドリフトの影響は受けにくいが、固有振動数を低く設計しなければならないので、重りが大型となり、また弱いばねを使用しなければならないので、小型化が困難であり取り扱いが難しい。
その問題を解決するために、例えば特許文献1に示されるような絶対変位・速度センサが提案されているのであるが、これは重りと筐体との間に配置された相対変位センサを用いている。相対変位の測定にはギャップセンサやひずみゲージを用いる方法や、光信号を用いる方法が用いられているが、狭い空間で安定して相対変位信号を得ることが難しく、またセンサ自体を高価にする。もう一つの問題は重りの自重の影響である。センサを設置する際、設置面に僅かでも傾けて取り付けると自重によって重りの位置が変化するので、変位信号に偏りが生ずることになる。その偏りが相対変位の直流信号となって現れるので、それが制御信号に悪い影響をもたらす。したがって、センサを設置するごとにその直流分を取り除かなければならない。
【0006】
以上に述べたことから従来技術で解決しなければならない次の1.から6.のような課題がある。
1.簡単な方法でドリフトが発生しない絶対変位・速度センサの構築
2.建物の振動制御に適用できるような低振動数から測定できる絶対変位・速度センサの構築
3.小型でも大地震の変位測定にも適用できる絶対変位センサの構築
4.センサの設置状況によって測定信号に直流分が生じない絶対変位センサの構築
5.センサの重りを安定に一方向に運動できる重りの支持方法の構築
6.簡単かつ安価な方法で上記の要件を満たす絶対変位・速度センサの構築
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶対変位・速度計測用センサは、筐体に内蔵され、ばね及びダンパによって支えられた重りと、それを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータと、重りと筐体との間の速度を検出する相対速度センサと、重りの動きを制御するコントローラとからなる。
【0008】
本発明の絶対変位・速度計測用センサの好ましい例では、当該コントローラには微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持たせ、当該速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにフィードバック制御するコントローラを構成する。
【0009】
本発明の絶対変位・速度計測用センサの好ましい例では、当該アクチュエータ及び相対速度センサは永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからなり、重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために挟み込むように配置される。
【0010】
本発明の絶対変位・速度計測用センサの好ましい例では、重りの重力による偏りに拘わらず、重りが一方向に動けるように支持することのみを目的として取り付けられた一対のばねを有する。
【0011】
本発明の絶対変位・速度計測用センサの好ましい例では、当該相対加速度信号のネガティブフィードバック制御と当該相対変位信号のポジティブフィードバック制御とをすることによって、振動の計測範囲を低い振動数まで拡大するようになっている。
【0012】
本発明の絶対変位・速度計測用センサの好ましい例では、当該相対加速度信号のネガティブフィードバック制御によって、小型ながら大変位を計測できるようになっている。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では下記の各項目毎に示される手段を有する。
1.筐体と重り間の相対速度信号を検出する相対速度センサを設け、その相対速度を微分、および積分することによって加速度信号、および変位信号を作る。更に、それらの3種類の信号によってアクチュエータを駆動するフィードバック制御系を構築する。そのフィードバック系では、たとえ回路内の積分器によってドリフトが発生してもそれを抑制する機能があるので、一切ドリフトは発生しない。
2.相対変位のポジティブフィードバックによれば、ばねの働きを弱める機能がある。また、相対加速度のネガティブフィードバックによって、アクティブに重りの質量を増加させる機能がある。これらの2種類のフィードバックを効果的に活用して固有振動数を低下させ、低い振動数から測定が可能な絶対変位・速度センサを構築する。
3.相対加速度のネガティブフィードバックによって、アクティブに重りの質量を増加させる機能は、固有振動数を低下させると共に、相対変位も抑制する。これは筐体が取り付けられた変位測定面が大きく振動しても重りの動きを小さくすることの発見である。この発見によって、小型でも大地震の変位測定にも適用できる。
4.筐体と重り間の相対速度信号を検出する相対速度センサを設け、それを元に変位信号が測定できるようにすれば、常にセンサの設置時がゼロ信号となるので、測定信号に直流分は生じない。
5.重りは、一方向にのみ動くようにしなければ、正確に一方向の相対速度信号を得ることはできないので、重りは両側から支持する一対のばねをを有するとよい。
6.本発明によれば簡単かつ安価な方法で上記の要件を満たす絶対変位・速度センサの構築をすることができる。
【0014】
一般的に振動制御に適しているとされるサイズモ変位センサの測定範囲はセンサ自身の固有振動数以上のゲイン、位相が共に一定となったところからであり、低周波の測定が困難であるという問題があった。本発明ではサーボ機構を取り入れ、センサの状態量をフィードバックすることで、固有振動数を下げ、低周波の測定を可能にする作用がある。積分回路や微分回路をフィードバック系の中に組み込んでいるために、加速度センサから2度積分によって絶対変位を得る従来の方式固有のドリフト問題は本発明の絶対変位・速度センサでは起こらない。
【発明の効果】
【0015】
振動面に試作したセンサを取り付け、測定面の変位uと相対変位信号eの間の比の周波数応答を図4に示す。図4では、相対変位と相対速度はポジティブフィードバック、相対加速度はネガティブフィードバックを行って、全てのフィードバック制御を行っている。フィードバックを行わない場合は、強い減衰が含まれているが固有振動数が約5Hz(位相遅れが90度となる振動数)と読み取れる。これに相対速度のポジティブフィードバックを加えると減衰を減らすこともできる。本発明の効果は、相対変位と相対速度と相対加速度の全てのフィードバックを行うことによって、固有振動数が約5Hzから固有振動数は1Hzまで低下されている。相対速度のポジティブフィードバックを行った時の使用できる測定範囲が10Hzから100Hzまでであったものが、全てのフィードバックによって2Hzから80Hzまでに拡大されている。ゲインも約20dB低下しており、更にセンサのストロークの10倍の変位測定が可能になったことを示している。勿論、更に低い固有振動数を定めることもできる。本発明によって、固有振動数を0.5Hzまで下げた事例もある。その場合の振動制御用センサとして使用できる振動数は0.8Hz以上となる。このような周波数特性のセンサは上述の第一、第二の利用分野に使用可能になっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態の例を、図に示す例に基づいて更に詳細に説明する。尚、本発明は、これら例に何等限定されないのである。
【0017】
図5に、従来のサイズモ型センサの信号原理図を示す。従来のサイズモ型センサ30は、内部質量mをバネ32とダンパ33が支える構造になっており、測定面変位uと内部質量の絶対変位xによる、相対変位(u−x)を検出する。そして、検出時に検出器による増幅ゲインKがかけられ、信号は電気信号に変換される。この信号が相対変位信号となり、これを微分回路34によって微分し相対速度信号を得る。
【0018】
このセンサの固有振動数ωn、減衰比ζは以下のように数式1で表される。
【0019】
【数1】

【0020】
サイズモ型変位センサの測定範囲はセンサ自身の固有振動数以上のゲイン、位相ともに一定となる範囲である。したがって、センサ自身の固有振動数を下げることができれば低周波領域での測定が可能になる。ここで、センサの固有振動数を下げるには、数式1からわかるように、内部質量を大きくするかバネ定数を弱くする必要がある。しかし、これにはセンサが脆弱になり構造的欠陥を生み、また、大型化してしまう欠点がある。
そこで本例では、従来のサイズモ型センサにサーボ機構を取り入れ、センサの状態量をフィードバックすることにより、センサのバネ要素、減衰要素、質量要素をアクティブにコントロールし、構造的に低下させることなく固有振動数を下げ、減衰比を調整する。
【0021】
その本例の絶対変位・速度信号センサの原理を図1に示す。本センサ10は測定面に取り付ける筐体1に質量mの重り2が内装されている。測定面の変位はu、重りの変位をxとする。この重りはばね定数kの支持ばね3と減衰係数cのダンパ4によって筐体1内で支持される。安定に支持するために一対のばねとダンパによって重り2を挟み込むように支持することが望ましい。この重り2の相対速度は永久磁石で作られた磁気回路とその内部に納められたムービングコイル21よりなる相対速度センサ5によって検出する。重り2をアクティブに駆動するアクチュエータ6の構造も速度センサと同一構造にすることが望ましい。そのことによって重り2を挟む対称構造が形成され、重り2を安定して一方向に動かすことができる。相対速度センサ5によって検出された相対速度信号v(v=du/dt−dx/dt)は増幅器Kによって電圧の速度信号eに変換され、微分回路7を通って絶対加速度信号eが作られる。また積分回路8を通って相対変位信号eを得る。R、C、R、Cは微分回路7と積分回路8の時定数T=R、T=Rを定める抵抗とコンデンサである。このコントローラ内では、速度信号に速度ゲイン定数Kを乗じ、相対加速度信号に加速度ゲイン定数Kを乗じ、相対変位信号に変位ゲイン定数Kを乗じて、それらを加算して制御信号eを作り、力係数Kを有するアクチュエータ6を駆動する。
【0022】
相対加速度をネガティブフィードバックし、相対速度と相対変位をポジティブフィードバックした時の測定面変位uに対する変位信号eの伝達関数は、数式2で表される。
【0023】
【数2】

【0024】
また、速度信号eの伝達関数は、数式3で表される。
【0025】
【数3】

【0026】
数式2より、固有振動数ωn、減衰比ζを求めると以下の数式4及び数式5のようになる。
【0027】
【数4】

【0028】
【数5】

【0029】
図2は、相対変位フィードバックの効果を示す周波数応答図である。相対変位のポジティブフィードバックを行うことによって、固有振動数が小さくなっている。逆に、Kが負となるネガティブフィードバックをおこなうと固有振動数は大きくなる。絶対変位センサとして使用できる範囲はゲインが0dB、つまりu=eであるから、eを測定すれば測定面の絶対変位uが測定できたことになる。ゲインが0dBの範囲が絶対変位センサとしての使用範囲であるから、相対変位のポジティブフィードバックによって、測定範囲が低周波に広げられたことになる。このことを別な観点から見れば、重りに動的な不動な状態を作りだすことによって、重りから測定面の変位を観測しているので、あたかも重りが地球を回る衛星から地上の動きを観察するGPSの役割をしている。
【0030】
相対加速度のネガティブフィードバックをすることによって固有振動数を低下することができたが、このフィードバックには別の効果がある。測定面の変位uと相対加速度フィードバックをかけたときの相対変位u−xとの振幅比は数式6で表される。
【0031】
【数6】

【0032】
斯かる振幅比は数式6で表されるようになるので、相対加速度をネガティブフィードバックすれば測定可能振幅を広げることが可能になる。図3は相対加速度フィードバックの効果を示す周波数応答でもある。相対加速度のネガティブフィードバックによって、固有振動数は低下し、ゲインも低下している。このゲインの低下の意味は、数式6で表されるように、相対加速度のネガティブフィードバックゲインを大きくするに伴い分母が大きくなるので、小さな相対変位で大きな測定面変位が測定できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のセンサの原理に関する説明図である。
【図2】変位フィードバックの効果に関する説明図である。
【図3】相対加速度フィードバックの効果に関する説明図である。
【図4】本発明の効果を示す全てのフィードバックを行った周波数応答に関する説明図である。
【図5】サイズモ型変位センサに関する説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 筐体
2 重り
3 支持ばね
4 ダンパ
5 相対速度センサ
6 アクチュエータ
7、34 微分回路
8 積分回路
10 絶対速度・絶対変位センサ
21 ムービングコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に内蔵され、ばね及びダンパによって支えられた重りと、それを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータと、重りと筐体との間の速度を検出する相対速度センサと、重りの動きを制御するコントローラとからなる絶対変位・速度計測用センサ。
【請求項2】
コントローラには微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持たせ、速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにフィードバック制御するコントローラを構成することを特徴とする請求項1に記載の絶対変位・速度計測用センサ。
【請求項3】
アクチュエータ及び相対速度センサは永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからなり、重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために挟み込むように配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶対変位・速度計測用センサ。
【請求項4】
重りの重力による偏りに関わらず、重りが一方向に動けるように支持することのみを目的として取り付けられた一対のばねを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の絶対変位・速度計測用センサ。
【請求項5】
相対加速度信号のネガティブフィードバック制御と相対変位信号のポジティブフィードバック制御とをすることによって、振動の計測範囲を低い振動数まで拡大することを特徴とする請求項2に記載の絶対変位・速度計測用センサ。
【請求項6】
相対加速度信号のネガティブフィードバック制御によって、小型ながら大変位を計測できることを特徴とする請求項5に記載の絶対変位・速度計測用センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−190943(P2008−190943A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24262(P2007−24262)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 社団法人 日本機械学会 〔刊行物名〕 「No.06−7 D&D2006 機械力学・計測制御部門講演会講演論文アブストラクト集」 〔発行年月日〕 2006年(平成18年)8月4日
【出願人】(390006389)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】