説明

繊維強化プラスチック用一方向性の強化繊維織編物及びその繊維基材と、同繊維基材の製造方法及び同繊維基材を使った繊維強化プラスチックの成形方法

【課題】樹脂の含浸性と機械的特性に優れ、安価に製造できる強化繊維用の織編物と、同強化繊維織編物からなる繊維基材、並びに、その基材を用いた強化繊維プラスチックの製造方法を提供する。
【解決手段】繊維基材の少なくとも1層に不均一な撚り部を有する強化繊維糸条をたて糸11として配した、局部的に隙間をもつ一方向性の強化繊維織編物13からなる。フィラメント数が50000〜100000本、及び/又は糸条繊度が32670〜65340dtexであり、目付が600〜1000g/m2である。成形方法は、強化繊維織編物の少なくとも1層以上を成形型9に積層し、樹脂を面方向に拡散するための媒体17を載置後、繊維基材及び媒体の全体をバッグフィルム18で覆い、次いでバッグフィルムで覆われた内部を真空状態として、積層された繊維基材の片面に熱硬化型樹脂を拡散させ、繊維基材に含浸させたのち硬化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチック用一方向性の強化繊維織編物及びその繊維基材と、同繊維基材の製造方法及び同繊維基材を使った繊維強化プラスチックの成形方法に関し、さらに詳しくは繊維方向に不規則に並んだ撚り部を有する太い強化繊維糸条を用いた繊維強化プラスチック用一方向性の強化繊維織編物と、それらの強化繊維織編物を含む繊維強化プラスチックの繊維基材及びその製造方法と、同繊維基材を用いた繊維強化プラスチックの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の繊維強化プラスチックを代表する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が、例えば特開平10−317247号公報(特許文献1)や特許第3019004号公報(特許文献2)などに開示されている。具体的には、3000〜12000フィラメントの細い炭素繊維糸条を、たて糸とよこ糸に配列した、炭素繊維織物の目付が200〜400g/m2 の薄い二方向性織物に、予め樹脂を含浸して得られるプリプレグを多数枚積層してオートクレープ成形することにより製造している。これらの成形品は性能において優れているが、たて糸本数が多く製造コストが高くなってしまい、その用途は航空機関連の構造材やスポーツ用具などの特定分野に限定され、多様な産業分野への展開を困難にしていた。
【0003】
その主な理由は、前述のとおり細い炭素繊維糸条が使われるため製造コストが高くなり、また、織物の主流が比較的薄目付織物であるため、CFRP製造工程において所定の炭素繊維量を積層するには、積層枚数が多くなり、積層するための手間も大きくなることにあった。また、プリプレグの製作工程も増加するため、プリプレグの加工コストも加わる。更に、オートクレープ成形が必要となり、大きな設備投資と労働コストが要求される。
【0004】
こうした事情を踏まえて、コストダウンを図るためには、比較的太い炭素繊維糸条を用いた炭素繊維目付が600〜1000g/m2 の炭素繊維織物を基材に用いて成形することが考えられる。また成形法としては、成形型の中に前記炭素繊維織物を積層し、熱硬化型の樹脂を加圧しながら注入するRTM成形や、前記炭素繊維織物を型の上に積層してバッグフィルムで覆い、その中を真空状態となし、熱硬化型の樹脂を注入する真空バッグ成形法がある。これらの成形法を採用すれば、コストがかなり削減される。
【0005】
しかし、比較的太い炭素繊維糸条を用い、たて糸本数を少なくして従来と同様の炭素繊維目付が600〜1000g/m2 である織物を多様な産業用途へと展開しようとする場合にも、上記特定分野と同様にCFRPの物性が重要視される。ところで、比較的太い炭素繊維糸条をたて糸とよこ糸に配列して2方向織物を得ようとすれば、炭素繊維目付の大きな織物とすることができるが、たて糸とよこ糸の交錯によって織糸に大きな屈曲(クリンプ)が生じることになり、その交錯部分の応力集中により強度及び弾性率が低下する。
【0006】
一方、炭素繊維糸条をたて方向に配列し、よこ方向にたて方向の糸よりも細い補助糸を使った一方向性の炭素繊維織物は、図2に示すように、たて糸11’として実質的に無撚りのマルチフィラメントが使われ、よこ糸12’にたて糸11’よりも細い補助糸が使われるのが一般的であるため、クリンプによる強度低下は少ないが、炭素繊維糸条が一方向のみに配列されるため、高目付とするほど繊維密度も大きくなり、隣接繊維糸条間の繊維空隙がなくなる。それにより、RTM成形や真空バッグ成形などの成形方法では樹脂の流れが悪くなり、樹脂含浸時に時間がかかり、炭素繊維織物13’への樹脂の含浸性が悪化
する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−317247号公報
【特許文献2】特許第3019004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述のような問題点に着目し、繊維強化プラスチックの繊維基材として太い強化繊維糸条を用いた高目付の織編物であっても、樹脂の含浸性に優れており、成形されたときの機械的特性に優れ、安価に製造できる繊維強化プラスチック用一方向性の強化繊維織編物及びそれらの織編物を含む繊維基材と、その基材及び同基材を用いた強化繊維プラスチックの製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の基本構成は、不均一な撚り部をもつ強化繊維糸条を、その少なくとも一部に含んでなる、繊維強化プラスチック用一方向性の強化繊維織編物にあり、第2の基本構成は、繊維強化プラスチックの構成材料である繊維基材が複数枚の強化繊維織編物を積層して構成されてなり、前記強化繊維織編物の少なくとも1枚が不均一な撚り部をもつ強化繊維糸条を含む、局部的に隙間を有する一方向性の強化繊維織編物からなり、前記強化繊維糸条のフィラメント数が50000〜100000本であるか、又は強化繊維糸条の繊度が32670〜65340dtexであり、その一方向性の強化繊維織編物の目付が600〜1000g/m2 であることを特徴としている。
【0010】
好ましい態様によれば、不均一な撚り部を有する前記炭素繊維糸条は、その長手方向に沿って1回/m以上の撚り部を有しており、一方向性の前記強化繊維織編物は、たて糸又はよこ糸に前記強化繊維糸条が使われ、よこ糸又はたて糸に補助糸が使われた一方向の強化繊維織編物であって、そのたて糸とよこ糸との交点が低融点ポリマーを介して接着されていることが好ましい。
【0011】
第3の基本構成は、複数のボビンに巻かれた実質的に無撚りの強化繊維糸条をたて糸用クリールに掛けボビン軸方向に縦取りして引き出して織成する前記繊維基材の製造方法にある。
【0012】
更に第4の基本構成は、一方向性の強化繊維織編物からなり、各強化繊維糸条のフィラメント数が50000〜100000本であるか、強化繊維糸条の繊度が32670〜65340dtexである前記強化繊維織編物の少なくとも1層以上含んでなる繊維基材を成形型に配し、その上面に樹脂を面方向に拡散するための媒体を載置後、繊維基材及び媒体の全体をバッグフィルムで覆い、次いでバッグフィルムで覆われた内部を真空状態とし、前記媒体を介して繊維基材の片面に熱硬化型樹脂を拡散させ、繊維基材に含浸させて硬化させることを特徴とする繊維強化プラスチックの成形方法にある。
【0013】
好ましくは、一方向性の強化繊維織編物は、たて糸又はよこ糸のフィラメント数が50000〜100000本であるか、又は強化繊維糸条の繊度が32670〜65340dtexである強化繊維糸条を用い、よこ糸又はたて糸に補助糸条を用い、前記強化繊維糸条に不均一な撚り部を付与すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を代表する一方向性炭素繊維織物の概略構成図である。
【図2】従来の一方向性炭素繊維織物の概略構成図である。
【図3】本発明に使われる炭素繊維糸条を概略で示す側面図である。
【図4】本発明の一方向性炭素繊維織物の製造工程を示す工程説明図である。
【図5】本発明の成形方法の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の代表的な実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明では基材として一方向性の炭素繊維織物について述べるが、本発明は一方向性の炭素繊維織物に限らず、一方向経編物をも含むものである。本発明における一方向炭素繊維織物とは、たて糸又はよこ糸に太い炭素繊維糸条が使われ、よこ糸又はたて糸に細い炭素繊維糸条を含む補助糸を使った織物をいう。補助糸には、ガラス繊維、アラミド繊維、黒鉛繊維、シリカ繊維など高強度、高弾性繊維からなる前記炭素繊維糸条よりも細いマルチフィラメントが使われる。また、以下の説明では、強化繊維として炭素繊維を例に挙げて説明するが、強化繊維としては他にも、例えば前記補助糸に使われる材料を使うこともできる。
【0016】
一般的に炭素繊維糸条を用いて織物を織成する際、炭素繊維糸条を直接供給する場合と、複数本の炭素繊維糸条を部分整経して必要本数分をたて糸用供給ビームに巻き返して供給する場合の2つの供給方法が用いられているが、その殆どはボビンから炭素繊維糸条を直接供給する方法が採用されている。その大きな理由として部分整経工程が不要になることと、織物の長尺化が可能であることがある。また、炭素繊維糸条をボビンから直接供給する方法として、炭素繊維糸条が巻かれたボビンからボビン軸方向に対して垂直方向に糸条を引き出す横取り方法が一般的である。何故ならば、縦取りにより解舒する方法は、ボビンから1巻き引き出すごとにたて糸に1回の撚りが掛かってしまうため、この撚りが掛かった部分が捩れて部分的に収束することから、たて糸の糸幅が均一な織物が得られないという問題がある。
【0017】
この現象は、用いる炭素繊維糸条が太いほど顕著に現れるため、前述の問題を解消するためには横取り供給が多く採用されている。しかし、本発明のようにフィラメント数50000本以上の太い糸条を用いて高目付の一方向性織物や編物を得る場合、たて糸の引き出し方法を通常の横取りにより供給しようとすると、無撚りに近い状態で供給され、その供給工程を通過する際にガイド類などと擦過して糸条が開繊される。そのため、高目付織物を得ようとした場合、たて糸の隣接糸条間の隙間は殆どなくなり、RTM成形などで樹脂を含浸しようとすると含浸に長時間を要するという問題があった。
【0018】
そこで本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、たて糸の引き出し方法として従来の横取りではなく縦取りを採用し、意図的に解舒撚りを施しながら糸条を引き出し、糸条の長手方向に撚り部を形成して織物を得ても、糸条間に局部的に隙間をもつ織物が得られることを発見した。該織物を使ってRTM成形などで成形すれば樹脂は隙間を流れやすくなり、含浸時間が大幅に短縮される。
【0019】
また、フィラメント数が3000本や12000本程度のコスト高となる細い炭素繊維糸条では200〜400g/cm2 程度の織物目付が主流となるが、このように織物目付が小さいと、もともと糸条間に隙間が存在する。既に隙間が存在している織物にあって、たて糸を更に縦取りで供給すると、糸条が解舒撚りによる収束のため、糸条間の隙間が更に大きくなり、織物の外観品位が低下し好ましくない。これに反して、フィラメント数が50000本以上で糸条繊度が32670〜65340dtexの太い繊維糸条を用いて高目付の織物を製造すると、本発明の縦取り供給法が非常に有効で且つ経済的な手段となることが判明した。
【0020】
一般的に、縦取りではボビンから糸条を1巻き引き出す毎に1回の解舒撚りが施されることは周知である。この解舒撚りは繊維糸条が太いほど長手方向に沿って撚り部が外見上に顕著に現れる。ただし、数10回/m以上の撚りを積極的に付与する施燃工程を通せば、繊維糸条の長手方向にほぼ均一に撚り部が形成されるが、本発明のような解舒撚り程度では繊維糸条の長手方向に均一に撚りが形成されることは少ない。織物や編物の製造のように織成速度及び編成速度が比較的遅く、ガイド類による擦過或いは張力などの影響を受けやすい場合、撚り部の形成状態は、図1及び図3に示すように、むしろ、撚り部14のある部位と撚りのない部位(非撚り部)15とが糸条長手方向にランダムに発生しやすくなるばかりでなく、撚り部14、非撚り部15の長さや、撚り部14の収束状態も不均一になる。このような繊維糸条形態で織物が形成されるため、撚り部14の繊維糸条幅は非撚り部15より狭くなり、図1に示すように、織成された織物において隣接する糸条間に隙間が形成される。
【0021】
なお、たて糸11を引き出す方向は時計回り、或いは反時計回りどちらでも差し支えないが、時計回りで引き出すとZ撚りが付与され、反時計回りで引き出すとS撚りが付与される。よって、引き出し時のトラブルを避けるためにどちらか一方に統一して引き出した方が好ましい。従来から、このような撚り部の有無が織物の成形時の樹脂含浸性に影響を与えることは広く知られている。特に、フィルムに樹脂を塗布した樹脂フィルムを織物にあてがい樹脂を含浸させるホットメルト法では、前記撚り部の有無によって含浸性に大きな影響を受けるが、ウェット法やRTM成形などのように比較的粘度の低い樹脂を使用する成形法では、撚り部の有無よりも織物における糸条間の隙間の有無によって樹脂の含浸性が左右される。
【0022】
次に一方向性の強化繊維織物の製造方法について、図4に基づいて、簡単に説明する。炭素繊維糸条が巻かれたボビン1を織物13のたて糸11に必要な本数を縦取りで同一方向に引き出せるようにクリール2に掛ける。該繊維糸条の引き出しを縦取りとするため、クリール2をボビン1が回転しないように固定する。ボビン軸方向に引き出される該繊維糸条はガイド類3、コーム4などを経て、シート状に配列された後、たて糸11を送り出すニップロール装置5へと供給される。このたて糸11がボビン1から引き出されるとき、ボビン1から1巻き引き出されるごとにたて糸には1回の撚りがかかる。
【0023】
引き続いて、たて糸11を上下に開口するヘルド6及び目付を規制する筬7へと順次引き込む。次いで、よこ糸12となる補助糸がたて糸11の開口8内に挿入され、筬7により打込まれてたて糸11とよこ糸12である補助糸は交錯して織物13が形成された後、加熱装置10により加熱され、よこ糸12である補助糸とたて糸11の交点で低融点ポリマーを介して接着され、巻取ロールに巻き取られる。なお、よこ糸12である補助糸は、既述したとおり、たて糸より細い糸条でガラス繊維、アラミド繊維など特に限定されない。
【0024】
このとき、前記補助糸に低融点ポリマーからなる熱融着繊維(図示を省略)を引き揃え、或いは樹脂接着、合燃、カバリングなどにより複合糸とし、これをよこ糸12とする。複合糸の複合の仕方は格別制限されない。また、加熱装置10による加熱方法としては熱ロールによる圧着或いは非接触式の遠赤外線ヒーターなど限定するものではない。以上のように製織された織物13はたて糸11に用いた炭素繊維糸条が長手方向に沿って撚り部14と非撚り部15とが不均一なピッチで形成される。このとき、撚り部14は図3に示すように非撚り部15よりも収束した状態となり、糸幅が細いため、図1に示すような、隣接する糸条間に隙間をもつ織物が得られる。ここで、熱融着繊維を構成する低融点ポリマーとしては、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0025】
次に、本発明のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形法を説明する。図5は本発明のCFRPの成形法を説明する断面図である。同図において、成形型9に離型剤を塗布し、その成形型9の上に繊維基材となる本実施形態に係る炭素繊維織物13が所定の方向に所定の枚数が積層され、その上に樹脂が硬化した後に引き剥がして除去されるシート、いわゆるピールプライ16を積層し、更にその上に繊維基材である炭素繊維織物13の全面に樹脂を拡散させるための媒体17を置く。また、炭素繊維織物13の炭素繊維軸方向の両端に樹脂を繊維基材に堆積させるスパイラルチューブ21を配置し、そのスパイラルチューブ21の一端に真空ポンプの吸引口23を取り付け、それら全体をバッグフィルム18で覆い、空気が漏れないようにシール材20でバッグフィルム18の周囲を成形型9に接着する。樹脂タンクから注入される樹脂の導入口25をスパイラルチューブ21の他端に連結させる。
【0026】
樹脂タンクには、RTM成形に適した低粘度の樹脂(例えば、硬化剤を所定量添加した常温でシロップ状の熱硬化型の熱硬化性樹脂など)を入れておく。真空ポンプを作動して、バッグフィルム18で覆われた繊維基材を構成する炭素繊維織物13を、真空圧力が70〜76cmHg程度の真空状態にした後、バルブ26を開放して樹脂を注入する。バッグフィルム18で覆われた中が真空状態であり、炭素繊維織物13の繊維軸方向より媒体17の面方向が樹脂の流通抵抗が小さいため、まず樹脂は媒体の全面に拡散されたのち、次いで繊維基材である炭素繊維織物13の厚さ方向へと含浸が進行する。しかし、この含浸度合いは繊維基材として用いる炭素繊維織物13の形態にかなり影響される。当然ながら糸条間に隙間をもつ該織物ほど厚さ方向への樹脂の含浸は速く完了する。
【0027】
ここで、媒体17としては繊維径0.2〜0.5mm程度のポリエチレンやポリプロピレンなどのモノフィラメントを用いたメッシュ調シートや、ラッセル編で形成されたシートなどを使用するが、何ら限定するものではない。また、真空ポンプは少なくとも樹脂の含浸が完了するまで運転し、バッグフィルム18の中を真空状態に保つことが好ましい。樹脂の含浸が完了した後、ピールプライ16を剥いで、媒体17やバッグフィルム18などを除去し、成形型9から脱型することによってCFRP成形品が得られる。
【0028】
なお、本発明に用いるピールプライ16は樹脂を通過させることが必要であり、ナイロン繊維織物やポリエステル繊維織物、ガラス繊維織物などを用いることができる。該織物の織密度の少ないものほど隙間が大きいため、樹脂の通過は容易である反面、樹脂が硬化して最後に剥がした時に繊維基材の表面に凹凸が発生する。そのため、できるだけ樹脂の通過が良く、表面に凹凸の発生しにくいものを選択することが好ましい。また、バッグフィルム18は気密性であることが必要であり、ナイロンフィルム、ポリエステルフィルムなどを用いることができる。
【0029】
次に本発明の繊維強化プラスチックに関する実施例を以下に説明する。
(実施例1、「本発明織物」)
フィラメント数50000本、糸条繊度32670dtexのマルチフィラメントの炭素繊維糸条をたて糸とし、解舒方向を反時計回りにたて取りして引き出せるようにクリール上にボビンを掛け、222dtexのガラス繊維に東レ(株)製の熱融着繊維(ナイロン)を複合させた補助糸をよこ糸として、たて糸密度5.5本/2.54cm、よこ糸密度を5本/2.54cmで平組織となるよう織成し、引き続き加熱装置で加熱し、炭素繊維織物目付720g/m2 の一方向炭素繊維織物を作製した。なお、加熱は融着繊維を複合させたよこ糸を挿入後、織機上に取り付けた加熱ロールで前記よこ糸の融着繊維を溶融し、炭素繊維糸条とガラス繊維とを熱融着繊維を介して接着する方法で実施した。得られた織物は、解舒撚りにより炭素繊維糸条の長手方向に任意の部位に撚り部と非撚り部が形成され、これらの形態を有する糸条が配列されることで隣接する糸条間に、図1に示すような隙間が形成された。
【0030】
(比較例1、「比較織物」)
本発明と同様にフィラメント数50000本、糸条繊度32670dtexのマルチフィラメントの炭素繊維糸条をたて糸とし、該たて糸に解舒撚りが入らないようによこ取りにて引き出せるようにクリールに掛け、222dtexのガラス繊維に東レ(株)製の熱融着繊維(ナイロン)を複合させた補助糸をよこ糸として、たて糸密度5.5本/2.54cm、よこ糸密度を5本/2.54cmで平組織となるよう織成し、引き続き加熱装置で加熱し、炭素繊維織物目付720g/m2 の一方向炭素繊維織物を作製した。なお、加熱は熱融着繊維を複合させたよこ糸を挿入後、織機上に取り付けた120℃の加熱ロールで該よこ糸の熱融着繊維を溶融し、炭素繊維糸条とガラス繊維を熱融着繊維を介して接着する方法で実施した。得られた織物は、図2に示すように炭素繊維糸条の撚り部や糸条間の隙間が殆どない織物であった。
【0031】
(実施例2及び比較例2、「成形方法」)
上記実施例1にて得られた、幅、長さが各50cmの本発明の一方向炭素繊維織物を3枚準備し、離型剤を塗布した成形型の上に、前記炭素繊維織物を繊維基材として3枚を同方向に積層した。繊維基材の上にピールプライとしてエアテック製のナイロン織物を置き、その上に媒体としてポリエチレンからなる厚み0.8mm、開口寸法が2.5mm×2.2mmのメッシュシート1枚を繊維基材の全面を覆うように置いた。繊維基材の繊維軸方向の両端にスパイラルチューブを配列し、スパイラルチューブの一端に真空ポンプの吸引口を取り付け、他端に樹脂の導入口を取り付け、それらの全体をナイロンフィルムからなるバッグフィルムで覆い、真空状態が保てるようにバッグフィルムと成形型及び樹脂導入口、吸引口の取付け口をシール剤で接着した。次に真空ポンプでバッグフィルムで覆われた内部を76cmHgの真空状態にした後、バルブを開放して樹脂粘度260mPa・sの熱硬化型エポキシ樹脂を注入し、オーブン中で40℃で24時間加熱保持した後、更に80℃で2時間加熱し、樹脂が十分硬化したのち常温まで冷却し、バッグフィルム、メッシュシート、ピールプライを剥がし成形板を得た。また比較例2として、本発明織物を比較織物に変更し、成形方法は実施例2と同様の手順にて前記比較織物を基材として成形板を成形した。
【0032】
成形の評価結果を表1に示したが、本発明織物を使用した成形では糸条に撚り部と非撚り部が混在しているため長手方向における糸条間に隙間が形成され、該隙間が樹脂の流路となり完全含浸するまでにかかった時間はわずかに14分であった。一方、比較織物を同様に使用した成形では長手方向での糸条間の隙間が殆どなく、表層部位の樹脂拡散は本発明織物と差異はなかったが、糸条間に殆ど隙間がないため樹脂の流れは極めて遅く、比較織物に樹脂が完全に含浸するまでに24分程を要した。
【0033】
【表1】

【0034】
以上の説明からも明らかなように、本発明では撚り部と非撚り部とが不均一に混在する糸条を用いた一方向性の強化繊維織編物を繊維強化プラスチックの繊維基材とすることで、太い強化繊維糸条を使った目付が高い強化繊維織編物であっても、同織編物の強化繊維糸条間に成形時の樹脂流路となる隙間が形成され、樹脂の含浸速度を向上させることができるため、経済的に有利な上に、特にRTM成形や真空バッグ成形に適する複合材料用の繊維基材となる。
【符号の説明】
【0035】
1 ボビン
2 クリール
3 ガイド
4 コーム
5 ニップロール装置
6 ヘルド
7 筬
8 開口
9 成形型
10 加熱装置
11 たて糸
12 よこ糸(補助糸)
13 (一方向性の強化繊維)織物(基材)
14 撚り部
15 非撚り部
16 ピールプライ
17 媒体
18 バッグフィルム
20 シール材
21 スパイラルチューブ
23 真空ポンプの吸引口
25 樹脂の導入口
26 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一な撚り部をもつ強化繊維糸条を、その少なくとも一部に含んでなる、繊維強化プラスチック用一方向性の強化繊維織編物。
【請求項2】
繊維強化プラスチックの構成材料である繊維基材が複数枚の強化繊維織編物を積層して構成されてなり、前記強化繊維織編物の少なくとも1枚が不均一な撚り部をもつ強化繊維糸条を含む、局部的に隙間を有する一方向性の強化繊維織編物からなり、前記強化繊維糸条のフィラメント数が50000〜100000本であるか、又は強化繊維糸条の繊度が32670〜65340dtexであり、その一方向性の強化繊維織編物の目付が600〜1000g/m2 である、繊維基材。
【請求項3】
不均一な撚り部を有する前記強化繊維糸条が長手方向に沿って1回/m以上の撚り部を有してなる、請求項2記載の繊維基材。
【請求項4】
前記強化繊維織編物は、たて糸又はよこ糸に前記強化繊維糸条が使われ、よこ糸又はたて糸に補助糸が使われてなり、そのたて糸とよこ糸との交点が低融点ポリマーを介して接着されてなる、請求項2又は3に記載の繊維基材。
【請求項5】
複数のボビンに巻かれた実質的に無撚りの強化繊維糸条をたて糸用クリールに掛けボビン軸方向に縦取りして引き出して織成する、請求項2〜4のいずれかに記載の繊維基材の製造方法。
【請求項6】
一方向性の強化繊維織編物からなり、各強化繊維糸条のフィラメント数が50000〜100000本であるか、強化繊維糸条の繊度が32670〜65340dtexである前記強化繊維織編物を少なくとも1層以上含んでなる繊維基材を成形型に配し、その上面に樹脂を面方向に拡散するための媒体を載置後、繊維基材及び媒体の全体をバッグフィルムで覆い、次いでバッグフィルムで覆われた内部を真空状態とし、前記媒体を介して繊維基材の片面に熱硬化型樹脂を拡散させ、繊維基材に含浸させて硬化させる、繊維強化プラスチックの成形方法。
【請求項7】
一方向性の強化繊維織編物は、たて糸又はよこ糸のフィラメント数が50000〜100000本であるか、又は強化繊維糸条の繊度が32670〜65340dtexである強化繊維糸条を用い、よこ糸又はたて糸に補助糸条を用い、前記強化繊維糸条に不均一な撚り部を付与する、請求項6記載の繊維強化プラスチックの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−246827(P2011−246827A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118693(P2010−118693)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】