説明

繊維強化弾性体及びその製造方法

【課題】モジュラス、引き裂き強度、生産性に優れる繊維強化弾性体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる繊維強化弾性体は、(a)ポリオレフィン、(b)第1のエラストマー、(c)平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカ及び(d)ポリアミドを有する熱可塑性樹脂からなり、成分(a)、成分(b)、成分(c)がマトリックスを構成しており、そのマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下で、アスペクト比が2以上1000以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が化学結合をしている(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と、(B)第2のエラストマーと、を混練してなる繊維強化弾性体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのビート、カーカス等のタイヤ内部部材、トレッド、サイドウォール等のタイヤ外部部材、歯付きベルト、平ベルト等の自動車用ベルト又は工業用ベルト、ホース、ゴムロール、ゴムクロール等に用いられる繊維強化弾性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜4に開示されているよう、従来、天然ゴムやポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム等にナイロン、ポリエステル等の短繊維、或いは弾性率の高い有機繊維、例えば芳香族ポリアミド短繊維、セルロース繊維等を加硫可能なゴム状ポリマーに分散させたモジュラスや強度を改善した繊維強化弾性体が製造されてきた。この際、必要に応じて加硫する方法で製造されることもある。
これらの繊維強化弾性体は、タイヤ部材や自動車ベルト、工業部材、スポーツ関連グッズ等に採用されている。
また、ナイロン等の短繊維を有する繊維強化弾性体が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−79037
【特許文献2】特開昭63−81137
【特許文献3】特開平7−278360
【特許文献4】特開平9−59435
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球環境保護の一つとして、自動車関連の対策が進められている。例えば、燃費向上のための薄肉軽量化対策、自動車性能の強化による対策、更には自動車駆動システム自体の見直しによる新システムによる環境対策、燃費向上の高機能化等があり、その為の開発も多岐に亘り、その開発速度も急進的に推し進められている。
自動車部材の開発も然りである。例えば、自動車部材の耐高出力性、耐強度、或いは高温度特性等の耐久性等が要求されている。これに対して、特許文献1〜4にかかる方法で得られる繊維強化弾性体は、モジュラス、破断強度、引き裂き強度等が不足しているという問題がある。
【0005】
一方、繊維強化弾性体は、加硫可能なゴム状ポリマーにナイロン繊維等を十分に均一に分散させることが重要である。分散が不十分なときは、モジュラス、強度等が低下する原因となる。これに対して、例えば、ナイロン繊維を加硫可能なゴム状ポリマーに分散させるために、ロール等で圧延することにより、ナイロン繊維間同士の絡みを和らげるための前処理を施したうえで、ゴム状ポリマーに分散させている。ナイロン繊維間同士の前処理を行わない場合は、バンバリー、ニーダー、押出機等の混練時間を長くしている。
しかし、上述した従来の方法は、生産性が悪く、工程が複雑となることから、コスト上昇の原因となってきた。
そこで、本発明は、これらの問題を解決し、モジュラス、引き裂き強度、生産性に優れる繊維強化弾性体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、(a)ポリオレフィン、(b)第1のエラストマー、(c)平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカ及び(d)ポリアミドを有する熱可塑性樹脂からなり、成分(a)、成分(b)、成分(c)がマトリックスを構成しており、そのマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下で、アスペクト比が2以上1000以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が化学結合をしている(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と、(B)第2のエラストマーと、を混練してなる繊維強化弾性体及びその製造方法である。
本発明において、成分(b)と成分(B)の合計量が100重量部に対して、成分(a)が1〜40重量部、成分(c)が1〜50重量部、成分(d)からなる極細な繊維の割合が1〜50重量部であることが好ましい。
【0007】
本発明は、成分(b)及び組成物(B)の少なくとも一方が加硫されているものを含む。
また、本発明は、硫黄、パーオキサイド、樹脂加硫剤等の加硫剤及び必要に応じて加硫助剤を添加して、加硫したものも含む。
【0008】
本発明の繊維強化弾性体の製造に用いられる(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物及び(B)第2のエラストマーについて説明する。
(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、以下の第1工程〜第3工程により製造する。第1工程は、成分(a)、成分(b)及び成分(c)からなるマトリックスを調整する。第2工程は、前記の第1工程で得られるマトリックスと成分(d)を溶融混練して反応をさせる。第3工程は、第2工程で得られた混練物を、成分(d)の融点以上で押出し、次いで成分(d)の融点より低い温度で延伸及び/又は圧延する。
第2工程では、溶融混練して反応を行うが、その際の結合剤は、第1工程のマトリックスを調整する工程中で練り込むか、又は成分(d)を成分(d)の融点以上で事前に前処理で混練して反応させたものを結合剤として使用する方法、のどちらでも良い。
【0009】
成分(a)ポリオレフィンは、70〜250℃の範囲の融点のものが好ましい。
また、50℃以上、特に好ましくは50〜200℃のビカット軟化点を有するものも用いられる。このようなものとして、炭素数2〜8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとスチレンやクロロスチレン、α‐メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物との共重合体、炭素数2〜8のオレフィンと酢酸ビニル共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとアクリル酸或いはそのエステルとの共重合体及び炭素数2〜8のオレフィンとビニルシラン化合物との共重合体が好ましく用いられる。
【0010】
具体例としては、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸プロピル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・アクリル酸2‐エチルヘキシル共重合体、エチレン・アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体、アエチレン・ビニルシラン共重合体、エチレン・スチレン共重合体及びプロピレン・スチレン共重合体等がある。
【0011】
これらの成分(a)のポリオレフィンの中でも特に好ましいのは、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体が挙げられ、中でもメルトフローインデックスが0.2〜50g/10分の範囲のもが好ましく、これら1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせても良い。
【0012】
次に、成分(b)第1のエラストマーについて説明する。(b)第1のエラストマーは、ガラス転移温度が0℃以下のものが好ましく、より好ましくは−20℃以下のものが好ましい。
このようなものとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ニトリル・クロロピレンゴム、ニトリル・イソプレンゴム、アクルレート・ブタジエンゴム、ビニルピリジン・ブタジエンゴム、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・クロロピレンゴム、スチレン・イソプレンゴム、カルボキシル化スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシル化アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体、カルボキシル化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、カルボキシル化スチレン・イソプレンブロック共重合体等のジエン系ゴム、スチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・ブテンゴム、エチレン・ブテン・ジエン三元共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系エラストマー、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、ポリ塩化三フッ素エチレン、フッ素ゴム、水素化ニトリル・ブタジエンゴム等のポリメチレン型の主鎖を有するゴム、エピクロロヒドリン共重合体、エチレンオキサイド・エピクロロヒドリン・アリルグリシジルエーテル共重合体、プロピレンオキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体等の、主鎖に酸素原子を有するゴム、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルブチルシロキサン等のシリコンゴム、ニトロソゴム、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン等の主鎖に炭素原子の他窒素原子及び酸素原子を有するゴム、等が挙げられる。また、これらのゴムをエポキシ等で変性したものや、シラン変性したもの、マレイン化したものも好ましい。
【0013】
成分(c)の平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下の球状シリカは、金属粉末の爆燃現象を利用して真球状酸化物微粒子を製造する方法(Vaporized Metal Combustion Method)が好ましい(以下、VMC法と略する)。
具体的には、金属粉末を酸素の気流中に分散させ、着火することで酸化させ、その反応熱で金属及び酸化物を蒸気又は液体にし、冷却することで、微細な酸化物粒子となる方法により製造されるシリカである。
VMC法から製造されるシリカは、真球状態の微粒子球状で、平均粒子径が0.2μmから2.0μmのシリカ群であり、シリカ同士の凝集構造をとらない。また、水分吸着も少なく、1000ppm以下を特徴とするものを用いる。
即ち、繊維強化熱可塑性組樹脂成物は、VMC法から製造されるシリカの平均粒子径は1μm以下、より好ましくは平均粒子径0.5μmものを使用しており、本開発の繊維強化弾性体に使用される。
【0014】
シリカは、シラノール基を所有している。繊維強化熱可塑性樹脂組成物では、VMC法は10μmol/m以下のシラノール基濃度のものを用いられている。10μmol/m以上のシラノール基濃度は、高活性であり反応が進むため、繊維強化熱可塑性樹脂組成物には不適であるため使用されていない。
成分(c)のシラノール基はカップリング剤としての機能を持っており、シランカップリング剤のアルコキシ基と或いはシランカップリング剤に水分を介してアルコキシ基からシラノール基の構造を形成したものとは容易に反応をする。また、成分(d)のアミド基とも縮合反応をするために、好ましく用いられているものを使用する。
特に、成分(c)は、シランカップリング剤との併用、或いはシランカップリング剤と有機過酸化物の3成分の混合物等として用いることも好ましい。
【0015】
成分(c)のシリカ中の水分量は、水分量としては1000ppm以下が好ましい。シリカ粒子の水分量については、表面付着、結晶水等を全て含めての含有量が1000ppm以下のものが好ましい。より好ましくは800ppm以下、特に好ましくは400ppm以下である。
成分(c)の平均粒子径については、1μm以下が好ましい。
【0016】
シリカは、VMC法の他にも、湿式沈降法、湿式ゲル法、乾式法、粉末溶融法等があるが、VMC法以外の方法だと、いずれも水分を吸着しやすく1000ppmを超える水分量となることがある。また、乾燥後に水分量を1000ppm以下として用いても、シリカ群の凝集による不定形形状となる。粉末溶融法で得られるシリカは凝集体を形成しない傾向は強いが、平均粒子径が10μmを超えるものが多く観られる。また、粒径分布も幅広く、最大粒径が50μmを超えるものもある。
【0017】
シリカを(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物に使用の際に、粒子径が1μm以上であれば、押出物を調整する第3工程における、延伸及び/又は圧延する際に異物の傾向となり、成分(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの極細な繊維の形成が不能となり好ましくない。また延伸/圧延後に繊維が得られたとしてもアスペクト比が2以上1000以下の範囲外も増加するため好ましくない。
また、シリカの形態がシリカ群の凝集による不定形形状や塊状等の真球粒子以外の形状では、成分(d)の融点より低い温度で延伸及び/又は圧延する第3工程において、繊維を形成するうえで不安定な工程となり好ましくない。
前記の理由より、成分(c)のシリカとしては、VMC法で製造される微細な酸化物のシリカを使用して製造された繊維強化熱可塑性樹脂組成物を好ましく用いる。
【0018】
次に、成分(d)ポリアミドを有する熱可塑性樹脂について説明する。まず、主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマー(以下ポリアミドと略する)について説明をする。
融点は130〜350℃の範囲のものが用いられ、しかも成分(a)のオレフィンの融点よりも高いものであり、より好ましくは160〜265℃の範囲のものが好ましい。かかる成分(d)としては、押出し及び圧延によって強靭な繊維を与えるポリアミドが好ましい。
【0019】
ポリアミドの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−ナイロン66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6、キシリレジアミンとアジピン酸との重縮合体、キシリレジアミンとピメリン酸との重縮合体、キシリレジアミンとスペリン酸との重縮合体、キシリレジアミンとアゼライン酸との重縮合体、キシリレジアミンとテレフタル酸との重縮合体、オクタメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、デカメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、ウンデカメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、ドデカメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、テトラメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、オクタメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、デカメチレンジアミンとイソフタル酸との重縮合体、ウンデカメチレンジアミンとイソフタル酸との重縮合体及びドデカメチレンジアミンとイソフタル酸との重縮合体等が挙げられる。
【0020】
これらのポリアミドの内、特に好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−ナイロン66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、及びナイロン12からなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリアミドが挙げられる。これらのポリアミドの分子量は10,000〜200,000の範囲を有しているものが好ましい。
【0021】
成分(d)は、その殆どが極細な繊維として上記マトリックス中に分散している。具体的には、80重量%、好ましくは90重量%以上が極細な繊維として分散する。
成分(d)の繊維としては、平均繊維径が1μm以下、より好ましくは0.01〜0.8μmの範囲である。アスペクト比は2以上1000以下、より好ましくは10〜500である。
【0022】
そして、成分(d)は、成分(a)、成分(b)、成分(c)のいずれとも、界面で結合している。これは、例えば以下のように方法で確認できる。成分(a)及び成分(b)を溶解する溶媒メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等で繊維強化熱可塑性樹脂組成物をソックスレー等の還流器で還流し、成分(a)及び成分(b)を除去する。残った成分(c)及び成分(d)を、次に1,2−ジクロロベンゼンで攪拌を行った後、静かに放置し、浮遊する繊維と沈殿するシリカの分離を行い、回収した繊維をさらにアセトン洗浄したのち、乾燥後秤量をし、この重量をWcとする。
そして、組成物中の成分(d)の重量をWcoに対する割合Wc/Wcoを求め、これを結合量として求める。
この方法で得られた結合量数値から、成分(d)が成分(a)、成分(b)、成分(c)と何らかの形で結合していると考えることができる。得られた数値は、成分(d)と成分(a)、成分(b)、成分(c)との間の結合率は1〜30重量%、特に5〜25重量%の範囲が好ましい。
【0023】
(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物の成分の割合は、成分(a)ポリオレフィンを100重量部と、成分(b)ガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマーを10〜600重量部と、成分(c)平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下の球状のシリカを10〜500重量部と、成分(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの極細繊維を1〜400重量部からなる組成物が好ましい。
【0024】
成分(b)が600重量部を超えると粘着性が強く、ハンドリング性に劣り、ペレット化が困難な繊維強化熱可塑性樹脂組成物となり好ましくない。
成分(c)が10重量部以下であると弾性率が低くなり好ましくない。一方、500重量部を超えると、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の成分(d)の極細な繊維を形成するうえで、好ましくなく、アスペクト比が2以上1000以下の占める割合が著しく低下するため、弾性率等の機械特性の再現性が悪く品質に悪影響を与える。
成分(d)の割合が、400重量部超えると繊維強化熱可塑性樹脂組成物中で成分(d)の極細な繊維を形成しない。
このような繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いても、応力の高い繊維強化弾性体が得られない。
【0025】
以下に、(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物に使用する結合剤について説明する。結合剤の量は、成分(d)に対する結合剤の割合が、成分(d)と結合剤の合計量100重量%としたとき、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%である。結合剤の量が0.1重量%以下のときは、強固な結合が得られておらず、耐クリープ性に劣る組成物となり好ましくない。一方、結合剤が20重量%以上のときは、成分(d)のうち大半が微細な球状或いは卵状のアスペクト比2以下となり極細な繊維を形成しない。このためモジュラスに優れた組成物が得られない。
【0026】
結合剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノボラック型アルキルフェノール、ホルムアルデヒド初期縮合体、レゾール型アルキルフェノールホルムアルデヒド初期縮合体、ノボラック型ホルムアルデヒド初期縮合体、レゾール型ホルムアルデヒド初期縮合体、不飽和カルボン酸及びその誘導体等の通常使用するものを用いることができる。特に好ましいのは、シランカップリング剤である。
【0027】
上記カップリング剤を具体的に挙げると、シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β‐メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセチルシラン、γ‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β‐(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメトキシシラン、γ‐グルシドキプロピルトリメトキシシラン、γ‐グルシドキプロピルメチルジメトキシシラン、γ‐グルシドキプロピルメチルジエトキシシラン、γ‐グルシドキプロピルエチルジメトキシシラン、γ‐グルシドキプロピルエチルジエトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N‐β‐(アミノエチル)アミノプロピルエチルジエトキシシラン、γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐フェニル−γ‐アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−「N−(β−メタクリロキシエチル)−N,N−ジメチルアンモニューム(クロライド)」プロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、及びスチルジアミノシラン等が挙げられる。好ましくは、メタクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基のいずれかを有するシランカップリング剤が好適である。
【0028】
シランカップリング剤とともに有機過酸化物を併用することができる。有機過酸化物の使用量は、成分(a)100重量部に対して0.01〜2.0重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部が好適である。
【0029】
有機過酸化物としては、1分間の半減期温度が、成分(a)の融点或いは成分(d)の融点のいずれか高い温度からこの温度より20℃程度高い温度範囲のものが好ましい。具体的には1分間半減期温度が80〜270℃程度のものが好適である。
シランカップリング剤と有機過酸化物とを併用することにより、成分(a)の分子鎖上にラジカルが形成され、このラジカルがシランカップリング剤と反応することにより、成分(a)及び成分(b)の少なくとも一方と、成分(d)との各成分間の反応が促進されると考えられる。
【0030】
但し、成分(b)に天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体等を用いるときは、有機過酸化物を用いなくてもよい。前記のゴムは、混練時にメカノケミカル反応によって主鎖中の分子に切断が起こり、主鎖末端に−COO・基が発生し、過酸化物となり、有機過酸化物と同等の作用をするものと考えられるため有機過酸化物を用いなくてもよい。
【0031】
有機過酸化物の使用量は、0.01〜2.0重量部の範囲であるが、範囲外では、0.01重量部以下であれば反応の促進が著しく劣るため好ましくない。また2.0重量部以上を加えたときには、成分(a)、成分(b)、成分(d)等の単独若しくは各成分間で反応が過度に促進され、分子量は高分子か或いは単味成分若しくは各成分間において反応による架橋が著しく進みゲル化(塊状)状態となり、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造が困難となる。
【0032】
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、4,4−ジ−t−ブチルーパーオキシバレリン酸n−ブチルエステル、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパン、パーオキシネオデカン酸2,2,4−トリメチルペンチル、パーオキシオデカン酸2,2,4−トリメチルペンチル、パーオキシシネオデカン酸α‐クミル、パーオキシネオヘキサン酸t−ブチル、パーオキシピバリン酸t−ブチル、パーオキシ酢酸t−ブチル、パーオキシラウリル酸t−ブチル、パーオキシ安息香酸t−ブチル、パーオキシイソフタル酸t−ブチル等が挙げられる。中でも1分間半減期温度が、溶融混練温度ないしこの温度より20℃程度高い温度の範囲であるもの、具体的には1分半減期温度が80〜270℃のものが好適である。
【0033】
本発明の組成物(A)において、成分(a)、成分(b)、成分(c)からなるマトリックスを形成している。このマトリックスは成分(b)、成分(c)が成分(a)成分中に島状に分散した構造を採っていてもよく、また、その逆に成分(a)、成分(c)が成分(b)中に島状に分散した構造を採っていてもよい。そして、成分(a)と成分(b)及び成分(c)の3成分間で互いに結合していることが好ましい。
【0034】
次に、(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製法について説明する。第1工程のマトリックスの調整方法としては、成分(a)、成分(b)、成分(c)、及び結合剤の溶融混練する方法は、成分(a)を結合剤と成分(a)の融点以上の温度の溶融混練を行い、ついで成分(b)、成分(c)を成分(a)の融点以上の温度の溶融混練する方法が挙げられる。溶融混練は、樹脂やゴム等に通常用いられる混練装置を用いて行うことができる。例えば、バンバリー型ミキサー、ニーダー、加圧型ニーダー、ニーダーエキストルーダー、オープンロール、短軸押出機、二軸押出機等である。特に好ましいのは、短時間で且つ連続的に溶融混練ができる二軸押出機である。
【0035】
第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得られた成分(a)、成分(b)、成分(c)及び結合剤を溶融混練したマトリックス成分と成分(d)を溶融混練する。又は、第1工程で成分(a)、成分(b)、成分(c)を溶融混練したマトリックス成分と、予め成分(d)の融点以上で混練反応させた成分(d)を溶融混練する。
第2工程は、樹脂やゴム等の混練に使用される装置により変性する。具体的な装置としては、バンバリー型ミキサー、ニーダー、加圧型ニーダー、ニーダーエキストルーダー、オープンロール、短軸押出機、二軸押出機等である。特に好ましいのは、第1工程と同様に、短時間で且つ連続的に溶融混練ができる二軸押出機である。
【0036】
第2工程の溶融混練温度は、成分(a)及び成分(d)のいずれの融点以上の温度で溶融混練し、押出物として調整する。
成分(d)の融点以下の温度で溶融、混練しても、混練物は成分(a)、成分(b)、成分(c)のマトリックス中に成分(d)が混練、分散されず著しく好ましくない。
【0037】
次に、第3工程の説明をする。第3工程では、上記の第2工程の押出物を成分(d)の融点より低い温度での延伸及び/又は圧延するが、第2工程で得られた混練物を紡糸口金、或いはインフレーションダイ又はTダイからの延伸又は圧延する。
この第3工程は、紡糸、押出によって、第2工程における混練物中の成分(d)の微粒子が繊維に変形する工程である。したがって、紡糸、押出、のいずれも成分(d)の融点以上の温度で行わなければならない。具体的には成分(d)の融点、或いは融点よりも20℃高い温度の範囲で行うことが好ましい。繊維を形成するために、前記の混練物を引き続き延伸又は圧延によって延伸処理を行い、より強固な繊維とする。したがって、延伸及び圧延は成分(d)の融点よりも低い温度で実施する。
【0038】
第3工程は、例えば、第2工程の混練物を押出機の紡糸口金から押出して紐状乃至糸状に紡糸し、これをドラフトを掛けつつボビン等を取り付けた巻き取機等で巻き取る。ドラフトとは押出機等の紡糸口金から出てくる混練物の押出し速度よりも巻き取り速度を速くし、巻き取ることを意味する。
ドラフト比=巻き取り速度/紡糸口金からでる混練物速度
ドラフト比は1.5〜100の範囲が好ましく、より好ましくは2〜50の範囲である。
【0039】
この他、第2工程の押出し物を圧延ロール等で連続的に圧延することでもできる。例えば、混練押出し物をインフレーション用ダイやTダイから押出しながら、ドラフトを掛けながらロール等で巻き取る。
第3工程において、ドラフトを掛けて極細な繊維を形成した熱可塑性樹脂組成物は、紐状、糸状、テープ状、ペレット等色々な製品形態とすることができるが、好ましくはペレット形状がより好ましい。何故ならば、繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、ペレットとすることにより、追加のエラストマー、即ち第2のエラストマーと均一に混練ができるからである。
【0040】
次に、(B)第2のエラストマーについて説明する。第2のエラストマー、即ち追加のエラストマーとしては、先に繊維強化熱可塑性樹脂組成物の成分(b)の第1のエラストマーとして用いられるものと同様のものが用いられる。従って、室温でゴム状のポリマーで、所謂エラストマーと呼ばれる高分子ならどのようなのでも第2のエラストマーとして用いるが、好ましいものとしては、ガラス転移温度は0℃以下のものであり、より好ましくは−20℃以下のエラストマーが挙げられる。
【0041】
第2のエラストマーとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ニトリル・クロロピレンゴム、ニトリル・イソプレンゴム、アクルレート・ブタジエンゴム、ビニルピリジン・ブタジエンゴム、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・クロロピレンゴム、スチレン・イソプレンゴム、カルボキシル化スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシル化アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体、カルボキシル化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、カルボキシル化スチレン・イソプレンブロック共重合体等のジエン系ゴム、スチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・ブテンゴム、エチレン・ブテン・ジエン三元共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系エラストマー、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、ポリ塩化三フッ素エチレン、フッ素ゴム、水素化ニトリル・ブタジエンゴム等のポリメチレン型の主鎖を有するゴム、エピクロロヒドリン共重合体、エチレンオキサイド・エピクロロヒドリン・アリルグリシジルエーテル共重合体、プロピレンオキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体等の、主鎖に酸素原子を有するゴム、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルブチルシロキサン等のシリコンゴム、ニトロソゴム、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン等の主鎖に炭素原子の他窒素原子及び酸素原子を有するゴム、等が挙げられる。第2のエラストマーとしてはこれらのゴムを1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
第2のエラストマーは、第1のエラストマーと同一であってもよく異なっていてもよい。
【0042】
本発明の繊維強化弾性体においては、第1のエラストマーと第2のエラストマーの合計量100重量部に対して、ポリオレフィンの割合が1〜40重量部、好ましくは2〜30重量部、平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカが1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部、ポリアミドを有する熱可塑性ポリマーからなる極細な繊維の割合が1〜50重量部、好ましくは2〜35重量部である。
ポリオレフィンの割合が40重量部よりも多いと、ゴム弾性のない繊維強化弾性体となり好ましくない。一方、1重量部より少ないと繊維強化弾性体の物性は、特に耐疲労性が著しい方向性を持つようになり、繊維の配向と直角の物性が低くなるから好ましくない。シリカの量が50重量部を超えると、繊維の配向が困難となり、繊維の配向と直角のモジュラス等の物性がばらつき、品質が不安定となる。シリカが1重量より低いとモジュラスが低くなり好ましくない。極細な繊維が50重量部より多いと伸びの小さな繊維強化弾性体しか得られない。一方、1重量部より少ないとモジュラスの低い繊維強化弾性体しか得られない。
【0043】
本発明の繊維強化弾性体は、前述の(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と(B)第2のエラストマーを混練して製造する。得られる繊維強化弾性体中の第1と第2のエラストマーの合計量に対するポリオレフィン、平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカ及び極細な繊維の割合が上記の範囲内であれば、第2のエラストマーは限定されないが、(B)第2のエラストマーと(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物との重量比が20/1〜0.1/1、特に10/1〜0.5/1の範囲が、混練操作が行いやすく好ましい。
【0044】
(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と(B)第2のエラストマーの混練温度は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の極細な繊維を構成する成分(d)のポリアミドを有する熱可塑性樹脂の融点より低く、成分(a)のポリオレフィンの融点より高い温度が必要である。成分(d)のポリアミドを有する熱可塑性樹脂の融点より高い温度で混練すると、繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の極細な繊維が融解して球状の粒子等に変形するため好ましくない。また、成分(a)のポリオレフィンより低い温度で混練すると、(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の極細な繊維の分散が悪く、繊維強化弾性が得られない。
(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と(B)第2のエラストマーの混練温度は、成分(d)のポリアミドを有する熱可塑性樹脂の融点以下、好ましくは融点の温度より20℃以下が好ましく、成分(a)のポリオレフィンの融点より高い温度、好ましくは10℃以上の高い温度である。
【0045】
尚、前記の混練の際に、カーボンブラック等のゴム補強剤、プロセス油等のゴム軟化剤、加硫剤、加硫助剤、老化防止剤等を投入し混練する。この混練時に温度が上昇するが、成分(d)のポリアミドを有する熱可塑性樹脂の融点より高くならないように、必要に応じて温度を制御する。好ましくは145〜180℃で、混練時間は限定されるものでないが、好ましくは1〜10分である。このとき各種加硫剤及び加硫助剤を一緒に室温〜100℃で必要量をそれぞれ混練しても良い。十分分散させてシート状に引き出す。得られたシートを成形・加硫すると繊維強化弾性体の加硫物が得られる。このときの加硫剤の量は、第1と第2のエラストマーの合計量100重量部に対して0.1〜5.0重量部、特に0.5〜3.0重量部の範囲が好ましい。加硫助剤の量は、第1と第2のエラストマーの合計量100重量部に対して0.01〜2.0重量部、特に0.1〜1.0重量部が好ましい。
【0046】
加硫剤としては、公知の加硫剤、例えば硫黄、有機過酸化物、樹脂加硫剤等が用いられる。加硫助剤としては、アルデヒド・アンモニア類、アルデヒド・アミン類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカルバメート類、キサンテート等が用いられる。
本発明の繊維強化弾性体組成物に加硫剤等を添加した場合の加硫温度は、100〜180℃程度が好ましい。但し、加硫温度は、繊維強化弾性体組成物中の極細な繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度である必要性がある。この熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加硫を行うと、(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物の調整の段階で形成された繊維が溶解してしまい、モジュラスの高い繊維強化弾性体組成物が得られないからである。
【0047】
本発明の繊維強化弾性体組成物には、この他カーボンブラック、ホワイトカーボン、活性炭酸カルシウム、超微粒子珪酸マグネシュウム、クレー、亜鉛華、珪藻土、再生ゴム、粉末ゴム、エボナイト等の各種の充填剤、アミン・アルデヒド、アミン・ケトン類、アミン類、フェノール類、イミダゾール類、含硫黄系酸化防止剤、含燐系酸化防止剤等の安定剤、及び各種顔料を含んでもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明について具体的に説明するが本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。実施例及び比較例において、繊維強化熱可塑性樹脂組成物、繊維強化弾性体は以下のようにして測定した。
【0049】
(1)繊維強化熱可塑性組成物中の成分(d)の分散形状の観察
各サンプルのゴムの良溶媒、例えば第1のエラストマーがEPDMのときはo‐ジクロロベンゼンとキシレンの混合溶媒(重量比50:50)中で、100℃で還流して成分(a)オレフィン、成分(b)の第1のエラストマーを抽出、除去し、更にo‐ジクロロベンゼンで攪拌した後、静かに放置し、沈殿するシリカと浮遊する繊維に分離し、浮遊する繊維を回収し電子顕微鏡で観察した。
一方、水添化アクリロニトリルブタジエンゴム(以下 HNBR と記載)を第1のエラストマーとして用いた繊維強化熱可塑性組成物については、溶剤メチルエチルケトンを50℃の加温下で攪拌し、HNBRを除去したのちは、前述の天然ゴムの繊維回収方法と同様な操作方法で繊維を回収後、電子顕微鏡で観察した。
【0050】
(2)繊維強化弾性体のモジュラス、引っ張り強度、及び破断伸びの測定
繊維強化弾性体を3号ダンベルに打ち抜いて、これをJISK6251に準拠して測定した。
【0051】
「繊維強化熱可塑性樹脂組成物の調整」
(サンプル1)
成分(a)として、高密度ポリエチレン(京葉ポリエチレン製 HDPE M3800 MFR(g/10min)8)、成分(b)として、HNBR(日本ゼオン製 Zetpol2010L ムーニー粘度57.5 密度(g/cc)0.950)、成分(c)としてシリカ(アドマテックス製 SO−C2 VMC製法 シリカ二次未凝集構造 平均粒子径0.5μm )、成分(d)としてポリアミド(以下ナイロン66と記載)(宇部興産製 宇部ナイロン2026B 融点265℃ )を用いた。
成分(a)HDPE100重量部、成分(b)HNBR100重量部、及び成分(c)シリカ40重量部を、当該成分(b)100重量部に対し0.75重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び当該成分(a)に対して0.1重量部のジクミルパーオキサイドを、バンバリーミキサーを用いて、成分(a)の融点以上の170℃の温度で溶融混練した後、フィーダールーダーを用いてペレットとした。得られたペレットをマトリックス成分とした。
【0052】
次いで、得られたペレット240重量部中の当該HNBR100重量部に対して成分(d)であるナイロン66の100重量部を、280℃に加温した二軸押出機で溶融混練を行った後紐状に押出し、その後引き取り機を用いて、ドラフト比5で引き取りつつペレタイザーでペレット化した。
得られたペレットを、溶剤メチルエチルケトンを50℃の加温下で攪拌し、HNBRを除去したのちは、o‐ジクロロベンゼンとキシレンの混合溶媒(重量比50:50)中で100℃で還流して成分(a)オレフィンを抽出、除去し、更にo‐ジクロロベンゼンで攪拌した後、静かに放置し、沈殿するシリカと浮遊する繊維に分離し、浮遊する繊維を回収し電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径0.2μmの繊維であることが確認できた。
【0053】
(サンプル2)
成分(c)のナイロン66の割合を、成分(b)のHNBR100重量部に対して240重量部に増量した以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2を調整してペレット化した。
得られたペレットをサンプル1と同様にして、繊維を観察したところ平均繊維径0.3μmの繊維であることを確認した。
【0054】
(サンプル3)
成分(c)のシリカの割合を、成分(b)のHNBR100重量部に対して100重量部に増量し、サンプル2と同様にして、サンプル3を調整してペレット化した。
得られたペレットをサンプル1と同様にして、繊維を観察したところ平均繊維径0.3μmの繊維であることを確認した。
【0055】
(サンプル4)
成分(c)のシリカを未添加とした以外は、サンプル3と同様にして、サンプル4を調整してペレット化した。
得られたペレットをサンプル1と同様にして、繊維を観察したところ平均繊維径0.2μmの繊維であることを確認した。
【0056】
(サンプル5)
成分(a)をLDPE(宇部丸善ポリエチレン製 F522 MFR5グラム/10min.)50重量部とし、成分(b)の第1エラストマーをEPDM(JSR EP−22 ムーニー粘度42 密度(g/cc)0.86) 100重量部、成分(c)のシリカ50重量部とし、成分(d)のポリアミド6(以下ナイロン6 と記載)を100重量部として、サンプル3と同様にして、サンプル5を調整し、ペレット化した。
得られたペレットをo‐ジクロロベンゼンとキシレンの混合溶媒(重量比50:50)中で、100℃で還流して成分(a)HDPE、成分(b)の第1のエラストマーのEPDMを抽出、除去し、更にo‐ジクロロベンゼン中で攪拌した後、静かに放置し、沈殿するシリカと浮遊する繊維に分離し、浮遊する繊維を回収し、繊維を観察したところ平均繊維径0.2μmの繊維であることを確認した。
【0057】
(サンプル6)
成分(c)のシリカを使用しなかった以外は、サンプル5と同様にし、サンプル6を調整し、ペレット化した。
得られたペレットを、サンプル5と同様にして、繊維を観察したところ平均繊維径0.2μmの繊維であることを確認した。
サンプル1〜6の組成表を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
(実施例1〜6)
以下に、実施例1〜6及び比較例1、2を、表2を参照しつつ説明する。
表2に示すように、実施例1〜6及び比較例1、2中に示す繊維強化熱可塑性樹脂組成物、第2のエラストマー(HNBR)等の成分重量部及びカーボンブラック(FEF)、亜鉛華1号、ステアリン酸、老化防止剤(ナウガードXL−1、ノクラックMBZ)及び加硫剤パーオキサイド(パーカドクス14/40)等を表2に示す配合処方で加硫した。
配合手順は、160℃にセットしたブラベンダープラストグラフにHNBRと繊維強化熱可塑性樹脂組成物を投入し30秒間素練りし、次いでカーボンブラック(FEF)、亜鉛華1号、ステアリン酸、老化防止剤を投入し、4分間混練後、80℃にセットしたオープンロール上でパーオキサイドを配合した。得られた配合物を160℃で30分間加硫して繊維強化弾性体組成物の加硫物を得た。
繊維強化熱可塑性樹脂組成物中のHNBRと第2のエラストマーとして添加したHNBRの合計100重量部に対するナイロン66の繊維の割合は、5重量部〜30重量部の範囲であった(実施例1〜6)。
実施例1〜6の加硫物は、全てナイロン66の極細な繊維がHNBR中に均一に分散していた。
【0061】
「加硫物物性」
表2から明らかなように、実施例1〜6の繊維強化弾性体の加硫物物性において、引っ張り物性の100%伸長のモジュラスは8.5〜23.8MPaであった。
一方、比較例1の配合処方及び配合手順は、実施例1〜6と同様に行った。その際の、引っ張り物性の100%伸長のモジュラスは5.7MPaであり、実施例1〜6と比べ低モジュラスであった。これは表2中のサンプル4には成分(c)のシリカを含有していないため(表1参照)、架橋密度が低いためと考える。
比較例2は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物を使わずに、第2のエラストマーのHNBRを100重量部に増やしたほかは、実施例1と同様にして弾性体を調整した。得られた弾性体の引っ張り物性の100%伸長のモジュラスは3.9MPaであり、実施例1〜6と比べ著しく低い値であった。
【0062】
【表3】

【0063】
(実施例7〜9)
表3に示すように、実施例7〜9及び比較例3、4中に示す繊維強化熱可塑性樹脂組成物(サンプル)、第2のエラストマー(EPDM)等の成分重量部及びカーボンブラック(HAF)、ナフテン油、亜鉛華1号、ステアリン酸、加硫促進剤TS、M及び硫黄等の配合処方で加硫した。
配合手順は、140℃にセットしたブラベンダープラストグラフにEPDMと繊維強化熱可塑性樹脂組成物を投入し30秒間素練りし、次いでカーボンブラック(HAF)、ナフテン油、亜鉛華1号、ステアリン酸、を投入し、4分間混練後、60℃にセットしたオープンロール上で加硫促進剤TS、M、及び硫黄を配合した。得られた配合物を160℃で15分間加硫して繊維強化弾性体組成物の加硫物を得た。
【0064】
実施例7〜9は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物中のEPDMと第2のエラストマーとして添加したEPDMの合計100重量部に対するナイロン6の繊維の割合は、7重量部〜15重量部の範囲であった。
電子顕微鏡で観察したところ、実施例7〜9の加硫物は、全てナイロン6の極細な繊維がEPDM中に均一に分散していた。
【0065】
実施例10は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物中のEPDMと、第2のエラストマーとして添加したEPDM80重量部とブチルゴム「IIR」(日本ブチル株式会社 ブチル365 ML1+8(125℃)38)10重量部を加え合計100重量部とした他は、実施例7と同様に行い繊維強化弾性体を得た。
実施例10の加硫物も、全てナイロン6の極細な繊維が、繊維強化熱可塑性樹脂組成物中のEPDMと第2のエラストマーのEPDM及びブチルゴムの合計量100重量部中に均一に分散していた。
【0066】
「加硫物物性」
表3から明らかなように、実施例7〜10の繊維強化弾性体の加硫物の引っ張り物性における100%伸長の繊維方向に対する並行方向のモジュラスは7.3〜9.7MPaであった。繊維垂直方向の100%伸長モジュラスは、4.5〜5.7MPaであった。引張り強さは、12.6〜14.6MPaであった。
引き裂き強度については、繊維の配向方向に対して平行方向は50〜53N/mmであり、一方、繊維の配向方向に対して垂直方向は54〜58N/mmであった。
繊維の配向方向に対する垂直方向は平行方向に比べ引き裂き強度が高かった。これは、引き裂き時に配向した極細な繊維が引き裂きを抑制する効果が発現したためと考える。
【0067】
比較例3の配合処方及び配合手順は、実施例7と同様に行った。繊維垂直方向の100%伸長モジュラスの繊維方向に対して並行方向のモジュラスは6.2MPaであった。繊維垂直方向の100%伸長モジュラスは、3.9MPaであった。引張り強さは、10.5MPaであった。いずれも実施例7〜10と比べ低い値であった。
【0068】
比較例3の引き裂き強度については、繊維の配向方向に対して平行方向は43N/mmであり、一方、繊維の配向方向に対して垂直方向は48N/mmであった。引き裂き強度は、繊維の配向方向に対して垂直方向及び平行方向共に、実施例7〜10と比べると低かった。この理由として、実施例7〜10に使用の繊維強化熱可塑性樹脂組成物のサンプル5は、成分(c)のシリカを使用しており、このシリカのシラノールが繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の成分(a)のLDPE、成分(b)のEPDM、成分(d)のナイロン6等と化学反応し、架橋密度が高くなり引き裂き強度が改良したものと考える。
【0069】
比較例4は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物を使わずに、第2のエラストマーのEPDMを100重量部に増やした他は、実施例7と同様にして弾性体を調整した。得られた弾性体の引っ張り物性の100%伸長のモジュラスは2.8MPaであり、実施例7〜10と比べ著しく低い値であった。引張り強さにつては、11.5MPaであった。いずれも実施例7〜10と比べ低い値であった。
比較例4の引き裂き強度については、41〜43N/mmであり、実施例7〜10と比べ著しく低い値であった。
【0070】
また、表3から明らかなように、硬度については、実施例7〜10は76〜82であり、所定の硬度を得ることができたから、剛性にも優れている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオレフィン、
(b)第1のエラストマー、
(c)平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカ、
(d)ポリアミドを有する熱可塑性樹脂、
からなり、成分(a)、成分(b)、成分(c)がマトリックスを構成しており、そのマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下で、アスペクト比が2以上1000以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が化学結合をしている(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と、
(B)第2のエラストマーと、を混練してなることを特徴とする繊維強化弾性体。
【請求項2】
成分(b)と組成物(B)の合計量が100重量部に対して、成分(a)が1〜40重量部、成分(c)が1〜50重量部、成分(d)からなる極細な繊維が1〜50重量部であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化弾性体。
【請求項3】
成分(b)及び組成物(B)の少なくとも一方が加硫されていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化弾性体。
【請求項4】
組成物(A)において、成分(a)、成分(b)、成分(c)のマトリックス中に、成分(d)の80%以上が極細な繊維として分散していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維強化弾性体。
【請求項5】
組成物(A)がシランカップリング剤を有し、組成物(A)において、成分(d)の極細な繊維が、成分(a)と、成分(b)と、成分(c)との少なくともいずれか一つの成分に、シランカップリング剤及び成分(c)の少なくとも一方を介して化学結合していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維強化弾性体。
【請求項6】
成分(d)の融点が130〜350℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維強化弾性体。
【請求項7】
成分(a)が、50℃以上の軟化点又は70〜250℃の範囲の融点を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の繊維強化弾性体。
【請求項8】
成分(b)及び組成物(B)の少なくとも一方は、加硫可能なゴムであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の繊維強化弾性体。
【請求項9】
成分(b)及び組成物(B)の少なくとも一方が熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の繊維強化弾性体。
【請求項10】
(a)ポリオレフィン、
(b)第1のエラストマー、
(c)平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカ及び
(d)ポリアミドを有する熱可塑性樹脂からなり、
成分(a)、成分(b)、成分(c)がマトリックスを構成しており、そのマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下で、アスペクト比が2以上1000以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が化学結合をしている(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と、
(B)第2のエラストマーと、を混練することを特徴とする繊維強化弾性体の製造方法。
【請求項11】
(a)ポリオレフィン、
(b)第1のエラストマー、
(c)平均粒子径1μm以下で水分量1000ppm以下の球状のシリカ及び
(d)ポリアミドを有する熱可塑性樹脂からなり、
成分(a)、成分(b)、成分(c)がマトリックスを構成しており、そのマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下で、アスペクト比が2以上1000以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が化学結合をしている(A)繊維強化熱可塑性樹脂組成物と、
(B)第2のエラストマーと、
(C)加硫剤と、
を混練し、次に加熱することを特徴とする繊維強化弾性体の製造方法。

【公開番号】特開2012−77223(P2012−77223A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224774(P2010−224774)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(502392434)大丸産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】