説明

繊維強化熱可塑性樹脂の成形方法

【課題】 大型或いは複雑な形状の成形物を含む種々の形状の成形物の製造に適用可能であり、熱可塑性樹脂と強化用繊維との界面におけるボイドの発生を充分なレベルまで抑制することが可能で、かつ、高温・高圧力を必要とせずに成形が可能な、繊維強化熱可塑性樹脂の注入成形方法を提供する。
【解決の手段】 1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)と、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)とを、それぞれ溶融状態で、予め強化用繊維が内部に配置された型内に注入し、前記強化用繊維に含浸させる工程(I)、及び、前記強化用繊維に含浸された前記化合物(A)と化合物(B)とを、前記型内において重付加反応により直鎖状に重合させ、前記化合物(A)と化合物(B)とが重合してなる熱可塑性樹脂を成形する工程(II)を有する繊維強化熱可塑性樹脂の成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂の注入成形方法に関し、詳細には、直鎖状に重合する2官能化合物を型内で強化用繊維に含浸させ、そのまま型内で2官能化合物を重合させることにより繊維強化熱可塑性樹脂を成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)は、熱可塑性樹脂を強化用繊維で補強して強度を向上させた複合材であり、熱硬化性樹脂を強化用繊維で補強した繊維強化熱硬化性樹脂では困難なリユース、リサイクル及び2次加工が可能となること等から、近年、種々の用途に用いられている。このようなFRTPは、一般に熱可塑性樹脂と強化用繊維を混練する方法により成形され製造される(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂と強化用繊維を混練する場合に、次のような問題が知られている。すなわち、高分子量の熱可塑性樹脂を強化用繊維に含浸させるために、高圧・高温で熱可塑性樹脂を溶融させて流動性や繊維との濡れ性を確保する必要がある。その結果、高圧・高温により、ガラス繊維等の強化用繊維が損傷して複合材中の強化用繊維は短繊維となり、損傷により繊維自体の強度も低下し、最終的にこの複合材を使用して成形したFRTPの強度特性の低下をもたらす。さらに、熱可塑性樹脂が高分子量であることにより、強化用繊維に熱可塑性樹脂が充分に含浸されず、熱可塑性樹脂と強化用繊維との界面にボイドが生じる。また、高温で長時間保持されることにより熱可塑性樹脂が分解又は劣化する不都合がある。さらに、熱硬化性樹脂と強化用繊維との複合体の製造と比較して、非常に大きな成形エネルギーが必要になる。また、すでに重合が終了した熱可塑性樹脂の段階で強化用繊維への含浸を行うことから、強化用繊維のカップリング剤等との化学反応が起こらず、強化用繊維と熱可塑性樹脂の界面での化学的接着が発生せず、複合化効率が大幅に低下してしまう。
【0004】
一方、注入成形法は、予め強化用繊維が内部に配置された成形型の内部の空間に液状樹脂を注入して樹脂を硬化させた後、脱型して成形体を得るものであり、大型或いは複雑な形状の成形物を含む種々の形状の成形物の製造に適用可能であり、繊維強化複合材を成形する際に精度の再現性が高い方法として知られている。注入成形法は、型内で強化用繊維に含浸させた状態で成形するため、注入樹脂は注入時に低粘度であることが望ましく、また、型内で固化させて成形体を脱型できることが望ましいことから、従来、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されている。これは、熱硬化性樹脂が、成形型に注入する時には、非常に低粘度のモノマーの状態であり、繊維と含浸後に、重合・硬化して高分子の状態に変化できるからである。
【0005】
反応性化合物を強化用繊維と混合してから重合することにより繊維強化された熱可塑性プラスチックを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術では、まず、反応性化合物を含浸させて乾燥させたプリプレグを製造し、その後、これを熱プレスして重合反応を行い、成形体を製造している。また、重合性ラクタム溶融物を強化用繊維に含浸させてポリラクタム複合材を製造する方法も知られている(例えば、特許文献2、3参照。)。しかしながら、ラクタム類は本来、開環重合をするものであって、その反応機構の特性からして未反応モノマーが残存し易く、成形体の耐水性、耐溶剤性、耐薬品性を損なうのみならず、残存モノマーの経時脱離により成形体の経時劣化をもたらす。また、短時間に高分子量化させることが困難であり、成形時間が長くなりがちである。さらに、特許文献3の技術ではカプロラクタムの脱離を生じるので、注入成形には好ましくない。
【0006】
【非特許文献1】林 毅編 「複合材料工学」 株式会社日科技連出版社 (1971年)
【特許文献1】国際公開第2004/060981号パンフレット
【特許文献2】特開平9−208712号公報
【特許文献3】特開平5−178985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の現状に鑑みて、大型或いは複雑な形状の成形物を含む種々の形状の成形物の製造に適用可能であり、熱可塑性樹脂と強化用繊維との界面におけるボイドの発生を充分なレベルまで抑制することが可能で、かつ、高温・高圧力を必要とせずに成形が可能な、繊維強化熱可塑性樹脂の注入成形方法及び該方法で成形された繊維強化プラスチックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)と、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)とを予め強化用繊維が内部に配置された型内に注入し、前記強化用繊維と混合する工程(I)、及び、前記強化用繊維と混合された前記化合物(A)と化合物(B)とを、前記型内において重付加反応により直鎖状に重合させ、前記化合物(A)と化合物(B)とが重合してなる熱可塑性樹脂を成形する工程(II)を有することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形方法である。
本発明はまた、上記成形方法で成形されてなる繊維強化プラスチックでもある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形方法は、上述の構成により、あらかじめ型内に配置された強化用繊維に低粘度の上記化合物(A)及び化合物(B)(本明細書中、合わせて単に反応性化合物ともういう。)を注入し、その後ポリマーにするため、低圧力で成形することができ、大きなプレス機や射出装置は必要ではない。このため、大型或いは複雑な形状の成形物を低エネルギーで成形でき、従来の射出成形や大型のプレス機を使用した熱可塑性樹脂の成形方法と比較すると、経済的にも、環境的にも、大きな優位性がある。すなわち、本発明では、エポキシ化合物を注入型内部で強化用繊維に混合・含浸させる時点では、低粘度の化合物(モノマー等)の状態を保持し、繊維への混合・含浸が十分に完了した後に、直鎖状に重付加反応のみが優先的に進行して実質的に3次元架橋を伴わないように反応性化合物(エポキシ化合物を含む)を選定することにより、非常に低いエネルギーで強化用繊維とエポキシ樹脂とが複合化でき、複合化レベルの高い高品質な熱可塑性複合材料を得ることが可能になる。
また、強化用繊維と複合される時には、反応性化合物が低粘度であるため、強化用繊維との濡れ性が極めて良好で、繊維束間にボイドが残存することがなく、高品質な複合材料が得られる。このため、ボイドの発生が問題となるような様々な複雑な形状の成形物を容易且つ欠陥なく製造することが可能になる。
【0010】
さらに、低分子な状態の熱可塑性樹脂と強化用繊維が濡れた状態になり、その後、強化用繊維と熱可塑性樹脂とが濡れた状態のまま樹脂の重合が進むため、強化用繊維のカップリング剤との化学反応が十分に行われ、強固な結合が可能となる。
さらにまた、本発明では、熱可塑性樹脂を低分子な状態で強化用繊維と混合することで、従来のFRTPのような繊維の損傷による強度低下がなく、繊維と樹脂が濡れた状態で反応が進み界面の化学結合が強固になる。
本発明の成形方法では、3次元架橋反応をする熱硬化性樹脂を使用したFRPの一般的な注入成形法(RTM法、VARTM法、RTMV法、RRIM法等)を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、成形型(後述のとおり、通常、分離可能な一対の型からなり、これら一対の型によりその内部に成形材料を導入し得る空間が形成される。)の型内にあらかじめ強化用繊維を配置し、型を閉鎖したのち、適切な位置に設けた注入孔から型内に重合反応により熱可塑性エポキシ樹脂を形成する上記化合物(A)及び化合物(B)を、比較的低い圧力で注入し、上記反応性化合物が未だ実質的に重合していない状態で強化用繊維に混合・含浸させ(工程(I))、その後、そのまま型内において、強化用繊維に混合・含浸した上記化合物(A)及び化合物(B)の重合反応を生じせしめて、強化用繊維が配された熱可塑性樹脂を得る(工程(II))。
【0012】
上記工程(I)において、上記化合物(A)及び化合物(B)を型に注入する際に、それぞれ溶融状態であることが好ましい。もっとも、上記化合物(A)及び化合物(B)は、少なくとも、上記工程(II)で重合する際に溶融状態にある必要があり、その際に充分に強化用繊維に含浸し得るので、注入可能であり強化用繊維に混合可能であるかぎり、上記工程(I)では必ずしも溶融状態である必要はない。
【0013】
また、型内を減圧して樹脂の注入を行なうことにより、より複合化レベルの高い成形品を得ることが可能となる。以下、順に工程を説明する。なお、本明細書中、熱可塑性エポキシ樹脂とは、エポキシ化合物又はエポキシ化合物と反応しうる化合物とエポキシ化合物との直鎖状の重合体又は共重合体をいう。
【0014】
1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)としては、例えば、カテコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、t−ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエーテル等のベンゼン環を1個有する一核体芳香族ジエポキシ化合物類、ジメチロールシクロヘキサンジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセニルカルボキシレート、リモネンジオキシド等の脂環式エポキシ化合物類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ化合物及びこれらが部分縮合したオリゴマー混合物(ビスフェノール型エポキシ樹脂)、3,3′,5,5′−テトラメチルビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、3,3′,5,5′−テトラメチルビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルジグリシジルエーテル等が挙げられる。ヒドロキノンジグリシジルエーテル、メチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、2、5−ジ−t−ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、ビフェニル型又はテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂類、ビスフェノールフルオレン型又はビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂等の、単独では結晶性を示し、室温で固形であっても200℃以下の温度で融解し液状となるエポキシ樹脂は使用することができる。
【0015】
1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)としては、例えば、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン等のベンゼン環1個を有する一核体芳香族ジヒドロキシ化合物類、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、ビス(ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン等のビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレン等の縮合環を有する化合物、ジアリルレゾルシン、ジアリルビスフェノールA、トリアリルジヒドロキシビフェニル等のアリル基を導入した2官能フェノール化合物等が挙げられる。
【0016】
化合物(A)の少なくとも一部及び/又は化合物(B)の少なくとも一部として、フルオレン骨格を有する化合物を使用することができ、この場合、重合された樹脂の溶融温度を調節して高温溶融性の樹脂とすることができる。
【0017】
前記化合物(A)と前記化合物(B)との配合量は、化合物(A)1モルに対して化合物(B)0.9〜1.1モルが好ましく、0.95〜1.05モルがより好ましい。
【0018】
本発明において用いられる強化用繊維は、アスペクト比が1000以上(更に好ましくは5000以上)であり、繊維編組物(織物、編物、組物)、チョップドストランドマット、連続繊維マットの形態を有する基材であることが好ましい。上記のような基材を用いることにより、熱可塑性樹脂の補強度を向上させることができ、優れた機械的特性を発揮する繊維強化熱可塑性樹脂の成形・製造が可能になる。
【0019】
強化用繊維としては、例えば、アラミド繊維等の有機繊維や、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維を用いることができるが、炭素繊維やガラス繊維を用いることが好ましい。
【0020】
ガラス繊維としては、ガラス繊維モノフィラメント、ガラス繊維ストランド、ガラス繊維ロービング、ガラス繊維ヤーン等の長繊維;ガラス繊維チョップドストランド、ガラス繊維ロービングの切断物等のガラス繊維チョップド繊維等を用いることができ、ガラス繊維ミルドファイバー等を含んでいてもよい。
【0021】
また、ガラス繊維織物、ガラス繊維組物、ガラス繊維編物、ガラス繊維不織布等のガラス繊維編組物をも適用可能である。なお、ガラス繊維はエポキシシランカップリング剤やアクリルシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理を行ったものでもよい。
【0022】
ガラス繊維としては、ガラス繊維ロービングの切断物又はガラス繊維織物が好ましく、ガラス繊維ロービングの切断物は、直径3〜100μmのガラス繊維モノフィラメントが100〜2000本束ねられたガラス繊維束を、10〜200本更に束ねたものであって、繊維長が10cm以上(より好ましくは、50cm以上)のものが好ましい。
【0023】
ガラス繊維織物としては、5〜500TEX(好ましくは22〜68TEX)のガラス繊維束を経糸及び緯糸として用い、織り密度が、経方向で16〜64本/25mm、緯方向で15〜60本/25mmになるように織られたものであることが好ましい。そして、ガラス繊維織物を構成するガラス繊維束は、ガラス繊維モノフィラメント(フィラメント径は3〜23μmが好ましい)が50〜1200本集束されてなるものが好ましい。
【0024】
上記ガラス繊維のガラス組成としては、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラス等が挙げられ、なかでもEガラスが好ましい。また、ガラス繊維モノフィラメントの断面は円形でも、楕円形等の扁平形状でもよい。
【0025】
上記炭素繊維はコールタールピッチや石油ピッチを原料にした「ピッチ系」と、ポリアクリロニトリルを原料とする「PAN系」と、セルロース繊維を原料とする「レーヨン系」の3種類があり、どの炭素繊維でも本発明に用いることができる。
【0026】
本発明の注入成形方法においては、樹脂の注入・混合・含浸に先駆け、所定の混合割合・所定形態の繊維強化材を、均一にかつ設定された方向に型内に配置する。この工程は強化繊維の賦形工程になる。この時の強化材の配置には、2次元的、3次元的な配置が可能である。また、注入成形法では強化材の賦形だけを先行させ、強化材を予備加工したプリフォームを使用してもよい。
【0027】
成形体における強化用繊維の配合比率は、繊維の種類により異なり得るが、例えば、ガラス繊維の場合には、成形体に対して、強化用繊維10〜75重量%が好ましく、25〜70重量%がより好ましい。強化用繊維の量が10重量%未満であると、成形品の物性が低くなったり、そりやうねりが大きくなる傾向にあり、75重量%を超すと、繊維に樹脂が未含浸となる傾向にある。他の種類の強化用繊維についても、上記配合量を参考にしつつ、当業者に知られている配合を容易に用いることができる。
【0028】
注入圧力としては、原料混合物を、好ましくは溶融状態で、注入可能な圧力であればよく、型内を減圧するか否かにも依存するが、一般には、型内を減圧しない場合は、例えば、0.01MPa〜1MPa程度の注入圧力を使用でき、また、減圧下に注入する場合は10KPa〜100KPa程度を使用できる。
【0029】
注入成形型としては、樹脂の注入、成形、成形体の脱型の過程を経て成形体を得るものであればよく、通常、分離可能な一対の型からなり、これら一対の型によりその内部に成形材料を導入し得る空間が形成される。本発明においては、予め強化用繊維をその内部に配置しておき、型を閉鎖して樹脂の注入に備える。型は、高剛性のもの、又は、低剛性のものであり得、高剛性のものは内圧を生じる条件で使用可能である。低剛性のものは減圧下の注入・成形に使用可能であり、例えば、第一の型及び第二の型を有しており、上記第一の型及び第二の型のいずれかが樹脂(例えば、PVA、ナイロン等)又はゴムのフィルムからなる型は、上記第一の型及び第二の型で囲まれた型の内部を減圧した状態で化合物(A)と化合物(B)とを注入する。注入型には、化合物(A)と化合物(B)の重合を進行させ、また重合後成形品を冷却して脱型を行ないやすくするために、加熱及び冷却のための温度制御機能が具備されていることが望ましい。また、熱硬化性樹脂を使用したFRPの一般的な注入成形法(RTM法、VARTM法、RTMV法、RRIM法等)を適用することができる。
【0030】
上記化合物(A)と化合物(B)とは、次に例示するように重付加反応により直鎖状に重合することができる。直鎖状に重合したことは、溶剤への可溶性、熱溶融性等で確かめることができる。なお、本発明の目的を阻害しないかぎり、一部に架橋構造が存在することを排除するものではない。
【0031】
【化1】

【0032】
この反応には重合触媒を使用することができる。上記重合触媒としては、リン系触媒の他、1,2−アルキレンベンズイミダゾール(TBZ)、及び2−アリール−4,5−ジフェニルイミダゾール(NPZ)が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いられる。リン系触媒は、再流動性を向上させるので好適である。
【0033】
上記リン系触媒としては、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン−トリフェニルボラン錯体、トリ−m−トリルホスフィン−トリフェニルボラン錯体等が挙げられる。これらの中では、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン−トリフェニルボラン錯体が好ましい。
【0034】
重合触媒の使用量は、通常は、上記化合物(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部、更には0.4〜6重量部、特には1〜5重量部であるのが、短時間重合性と可使時間とのバランスが優れている点から好ましい。
【0035】
上記化合物(A)、化合物(B)及び重合触媒の混合物が室温で液状であると強化用繊維への含浸工程において加温を必要としないか、あるいは混合物の重合開始に伴う増粘を著しく引き起こさない程度の加温により、十分粘度が低下して強化用繊維への含浸が容易になる点から好ましい。
【0036】
また、上記化合物(A)及び化合物(B)がそれぞれ単独で固形であっても、上記化合物(A)、化合物(B)及び重合触媒の混合物が200℃以下の温度で加温した場合の粘度が1000mPa・s以下となるような組み合わせは、加温できるタンクとスタティックミキサーとを備えた2液混合装置を用いることにより、本発明に適用できる。
【0037】
本発明にはまた、反応遅延剤を用いることができる。2液混合及び強化用繊維への含浸工程では、樹脂を均一液状化するとともに粘度をできるだけ低下させる必要性から、しばしば加温されるため、強化用繊維への樹脂の含浸が完了する前に重合反応が開始され、粘度が上昇し、含浸不良を引き起こす可能性がある。それを防止するために、粘度低下のための加温時には反応を遅らせ、含浸後の重合反応の際には反応を阻害しない反応遅延剤が好適に使用される。そのような遅延剤としては、トリ−n−ブチルボレート、トリ−n−オクチルボレート、トリ−n−ドデシルボレート等のトリアルキルボレート類、トリフェニルボレート等のトアリールボレート類が使用できる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、室温で液状であるため混和性に優れ、且つ80℃以下での反応を著しく遅延する点から、トリ−n−オクチルボレートが好ましい。
【0038】
反応遅延剤の使用量は、リン系触媒のリン原子1モルに対しホウ酸エステルのホウ素原子が0.1〜2.0モルとなるように、更には0.5〜1.2モル、特には0.7〜1.0モルであるのが、含浸可能時間が長く且つ短時間重合が可能である点から好ましい。
【0039】
本発明においては、更に、任意の添加成分として、有機パウダーや水酸化アルミ等の無機パウダーによる充填材や公知の難燃剤等を添加してもよい。また、本発明の目的を阻害しない範囲で溶剤を、例えば、粘度調節等の目的で、使用してもよい。上記溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン類、メチルセロソルブ、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類がある。これらの中では、アセトンが重合時に飛びやすい点から好ましい。使用量は樹脂成分100重量部に対し0.1〜15重量部が好ましく、より好ましくは4〜8重量部である。少なすぎるとフェノール類が析出し、多すぎると重合後も樹脂中に溶剤が残留することによる物性低下が大きくなる。
【0040】
上記重合触媒、反応遅延剤、添加剤等は、予め型に注入する以前に反応性化合物のいずれか、又は、両方に、添加しておくことができる。
【0041】
本発明の成形方法における重合反応においては、樹脂の注入後、含浸及び重合は型内で進行するため、型の設定温度近傍での重合条件となる。型の温度は温水加熱などによる80℃程度から蒸気加熱、電気加熱ヒーター等による200℃程度までが一般的である。使用する反応性化合物、重合触媒、反応遅延剤の種類にしたがって、重合反応を生じさせる温度域が異なるが、通常、重合温度としては、100〜200℃、重合時間としては、3分〜20分程度である。また、樹脂が型内部に注入されてから重合が進み始める時間は、注入樹脂の型内部充填時間よりも長いことが好ましい。この場合の重合が進み始める目安は、注入時の樹脂粘度が2倍に増加するまでの時間が目安となる。すなわち、樹脂が注入されてから、樹脂の粘度が2倍に増加する間に、すべての樹脂の注入が終了していることが望ましい。
【0042】
重合反応工程(II)において得られる繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体は、重合温度近傍のTgを有しているため、冷却工程を経て脱型されるか、あるいは重合終了後直ぐに脱型する場合には、成形品形状に近似した形状保持冶具等で固定し、成形品の温度が下がるまで保持することが望ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の記載は専ら説明のためであって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
まず、以下の表1に示す使用原料を同表記載の重量部にて混合して、反応性化合物の混合物(以下、ベースCという)を得た。なお、得られた混合物は、混合物作製時及び室温に保管している状態では重合反応を生じなかった。表1中の略号の意味は以下のとおり。
AER260 旭化成社製ビスフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq)
BPA−M 三井化学社製ビスフェノールA(水酸基当量:114g/eq)
TOTP 北興化学工業社製トリ−o−トリルホスフィン(分子量:304)
トリ−n−オクチルボレート 東京化成社製(分子量:398)
【0045】
【表1】

【0046】
120℃に均一に加熱保持した金型13の内部(雄雌型のクリアランスt=4.0mm)に、強化用繊維である炭素繊維織物(平織りカーボンクロス、東レ株式会社製C06343、厚さ:0.25mm、重量:195g/m2)を18枚セットし、型締めを行なった。上記で得られたベースCを図1に示す加温樹脂槽01に充填し、100℃に保った。加温樹脂槽03にはBPA−Mのみを充填し、BPA−Mの融点(155℃)を超える160℃に保ち、完全に融解した状態とした。加温樹脂槽01からの加熱したベースC及び加温樹脂槽03からのBPA−Mを配合比率が重量比で107.93:60になるように流量計09、10で調整し、ギアポンプ04、05により、樹脂配管06、08を通してスタティックミキサー11に送り込み、ベースCとBPA−Mを混合した後、金型13の注入口12から金型内部に注入した。注入圧力は0.1MPaで、注入は約5分で完了した。注入終了後、型温度を160℃に上げ、10分間160℃で保持した後に冷却工程に移行した。冷却は水冷で行い、約10分で型の内部温度が80℃まで冷却され脱型を行なった。
【0047】
脱型して得られた炭素繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体のガラス繊維含有率は50体積%であり、表面や断面には気泡等は観察されず、美麗な面状態であった。なお、この成形体は、160〜180℃で1分間加熱させるだけで再溶融したため、容易に曲げ加工が可能であり、架橋構造を有さない直鎖状ポリマーであることが確認できた。
【0048】
次に、得られた炭素繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体(以下「熱可塑CFRP」という。)の平坦部から幅300mm×長さ300mm×厚み4mmに平板をカットし、曲げ試験と動的粘弾性試験の測定を行った。
【0049】
比較例1
熱硬化性エポキシ樹脂を母材としたCFRP、以下、「RefCFRP」という。)の粘弾性特性、曲げ強度を測定し比較した。RefCFRPの詳細な成形条件と材料仕様は下記のとおりである。
油化シェルエポキシ株式会社製(株)製ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(商品名:エピコート828):新日本理化株式会社製液状メチルテトラヒドロフタル酸無水物(商品名:MT−500TZ):化薬アクゾ株式会社製2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールオクチル酸塩(商品名:S−Cure661)を重量部で100:80:1の比率で混合・攪拌し、その混合液をHLU法にてドライの状態の炭素繊維織物(平織りカーボンクロス、東レ株式会社製C06343、厚さ:0.25mm、重量:195g/m2)18枚に含浸・積層し、平板をセットした加熱プレスにて、100℃にて1時間、その後、150℃にて3時間、成形圧力1.0MPaでプレス成形を行った。RefCFRP積層板の仕上がり寸法と繊維体積含有率は、プレス時に4mmのスペーサーを挟んでプレスすることで、実施例1の注入成形法で成形した熱可塑CFRPと同じになるように調整した。厚さt=4mm、繊維体積含有率は50%であった。
【0050】
粘弾性試験:
測定は、JIS K7244−5に準じた動的粘弾性試験にて行った。試験片形状は、厚みh=4mm、幅b=10mm、長さl=20mmである。試験機は動的粘弾性測定機DMS−6100(セイコーインスツルメンツ製)を用い、両端部を完全固定とし、試料中央部を5mm幅でクランプし曲げによる正弦的ひずみを加えた。試験条件は、測定温度−50〜250℃とし、昇温速度を2℃/min、加振周波数は1Hzで測定を行った。
曲げ試験:
静的な曲げ強度と弾性率の測定は、JIS K 7017に準じて3点曲げ試験を行った。試験片形状は、高さh=4mm、幅b=15mm、長さl=80mmで曲げスパンは60mmである。測定温度は25℃である。
【0051】
貯蔵弾性率(E’)の測定結果とtanδの測定結果を図3(実施例1)、図4(比較例1)に示す。貯蔵弾性率(E’)については、実施例1の熱可塑CFRPと比較例1のRefCFRPはほぼ同程度の値を示し、E’が急激に低下する温度(概ねTgに相当する)はRefCFRPが若干高い値を示した。
【0052】
損失(tanδ)の温度分散結果からは、RefCFRPの場合、通常の熱硬化性樹脂が示すとおり、Tgに達するとtanδが急激に増大し、Tg以上では元の低い値に復帰した(図4)のに対し、熱可塑CFRPの場合、Tgに達するとtanδが急激に増大するが、それ以上の高温になっても若干低下するものの元のtanδ値に復帰することなく高い値を維持した(図3)。これは、熱可塑CFRPが母材のTg以上で粘性的性質が大きくなり、溶融(再液状化)していることを示している。
【0053】
また、表2に3点曲げ試験の結果を示す。この結果より、本発明の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂は、3次元架橋する熱硬化性エポキシ樹脂をマトリックスとするRefCFRPと比較しても、非常に高い機械的特性を有していることが判明した。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の成形方法で製造される複合材は、常温付近(例えば、20℃〜100℃)では、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂(FRP)と同等の機械的特性を示しながら、高温(例えば、160℃以上)では容易に液状化し、2次加工やリユース、リサイクルが可能な繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体を得ることができる。また、化合物(A)の少なくとも一部及び/又は化合物(B)の少なくとも一部として、フルオレン骨格を有する化合物を使用することにより耐熱性を向上させた繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体を得ることができ、自動車用途、例えば、プラットフォーム、ボンネット、バンパー、ドア、ルーフ、シート、スポイラー、トラック運転室屋根のスポイラー、バス車体等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂の注入成形装置を示す図である。
【図2】実施例1の本発明の繊維強化熱可塑性樹脂(熱可塑CFRP)の粘弾性試験結果を示す図である。
【図3】比較例1のRefCFRPの粘弾性試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
01、03 加温樹脂槽
02 洗浄タンク
06、08 樹脂配管
07 洗浄剤配管
04、05 ギヤポンプ
09、10 流量計
11 スタティックミキサー
12 注入口
13 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)と、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)とを予め強化用繊維が内部に配置された型内に注入し、前記強化用繊維と混合する工程(I)、及び、前記強化用繊維と混合された前記化合物(A)と化合物(B)とを、前記型内において重付加反応により直鎖状に重合させ、前記化合物(A)と化合物(B)とが重合してなる熱可塑性樹脂を成形する工程(II)を有することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形方法。
【請求項2】
工程(I)において、化合物(A)と化合物(B)とを、それぞれ溶融状態で、予め強化用繊維が内部に配置された型内に注入し、前記強化用繊維に含浸させる請求項1記載の成形方法。
【請求項3】
化合物(A)と化合物(B)との重合触媒及び反応遅延剤を使用する請求項1又は2記載の成形方法。
【請求項4】
リン系重合触媒とホウ酸エステル系反応遅延剤とを使用する請求項3記載の成形方法。
【請求項5】
化合物(A)の少なくとも一部及び/又は化合物(B)の少なくとも一部が、フルオレン骨格を有する化合物である請求項1〜4のいずれか記載の成形方法。
【請求項6】
化合物(A)を第1の樹脂槽で加熱溶融し、化合物(B)を第2の樹脂槽で加熱溶融し、第1の樹脂槽から供給される化合物(A)と第2の樹脂槽から供給される化合物(B)とを型内に注入する直前に混合してから注入する請求項2〜5のいずれか記載の成形方法。
【請求項7】
化合物(A)と化合物(B)とを、内部が減圧された型内に注入する請求項1〜6のいずれか記載の成形方法。
【請求項8】
前記型は、第一の型及び第二の型を有しており、前記第一の型及び第二の型のいずれかが樹脂又はゴムのフィルムからなり、前記第一の型及び第二の型で囲まれた型の内部を減圧した状態で化合物(A)と化合物(B)とを注入する請求項7記載の成形方法。
【請求項9】
化合物(A)と化合物(B)とを重合させる温度は100〜250℃である請求項1〜8のいずれか記載の成形方法。
【請求項10】
強化用繊維は、ガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維である請求項1〜9のいずれか記載の成形方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか記載の成形方法で成形されてなる繊維強化プラスチック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−321897(P2006−321897A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146100(P2005−146100)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】