説明

繊維強化熱可塑性樹脂組成物及び繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】分散性、成形性、剛性、強度の補強性に優れる繊維強化熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、(a)ポリオレフィン5を100重量部と、(b)ガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマー7を10〜600重量部と、(c)平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下の球状のシリカ3を10〜500重量部と、(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマー1の極細繊維を1〜400重量部と、(e)シランカップリング剤を0.1〜20重量部と、からなる組成物であり、成分(a)、成分(b)及び成分(c)からなるマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が、成分(e)を介して化学結合をしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム、ポリオレフィンとシリカからなるマトリックスに、主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの繊維強化熱可塑性樹脂組成物であり及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムや樹脂の弾性率や強度を向上させるために炭素繊維やガラス繊維、或いは弾性率の高い有機繊維、例えば芳香族ポリアミドに、セルロース繊維などのチョップドされた繊維を配合することが広く利用されていた。しかしながら、繊維の分散性、繊維−マトリックス間の化学結合の問題から必ずしも十分な性能が発現しなかったり、加工性の問題から成形品の生産性が悪かったり、外観が悪いため、工業的な利用分野は特定の分野に限定されていた。
【0003】
特許文献1、特許文献2及び非特許文献1には、ポリオレフィンとゴム状ポリマーをマトリックスとしてイン・ストウ・ファイバー・フォーメイション(in situ fiber formation)の技法を用いて、マトリックス中に極細なナイロン繊維を形成させた組成物が開示されている。
【0004】
この組成物をゴム種あるいは樹脂などに配合することにより優れた機械的性質を有する短繊維強化複合体を得ることが可能である。
自動車部材、工業材料などにおいて前記の一連の短繊維強化複合体は、既に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−238189号公報
【特許文献2】特開平9−59431号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本レオロジー学会誌vol.25 No.275〜282頁(1997年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年、自動車部材或いは工業部材などでは、高性能化に伴い材料の高出力、高応力などの高弾性、耐久性の更なる性能向上が求められている。
これに対して、上述の従来技術にかかる短繊維強化複合体では、成形性、剛性、強度の補強に劣るという不都合があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題を解決して、分散性、成形性、剛性、強度の補強性に優れる繊維強化熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、(a)ポリオレフィンを100重量部と、(b)ガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマーを10〜600重量部と、(c)平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下の球状のシリカを10〜500重量部と、(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの極細繊維を1〜400重量部と、(e)シランカップリング剤を0.1〜20重量部と、からなる組成物であり、成分(a)、成分(b)及び成分(c)からなるマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が、成分(e)を介して化学結合をしている繊維強化熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
ゴム、ポリオレフィンと球状シリカからなるマトリックスに、繊維状に分散した主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの繊維径が1μm以下の繊維強化熱可塑性樹脂組成物は分散性の向上、成形性の向上、剛性、機械的性質も向上する補強性に優れる繊維強化熱可塑性樹脂組成物として提供できる。
【0011】
この補強性に優れる繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、ゴムや樹脂へ補強材として加えることにより、剛性、弾性率の高い機械的性質を向上することが可能となり、成形や加工性も改善され、成形品の生産性が向上、或いは外観が良好なものが得られるようになり、自動車部材、工業材料など工業的利用分野に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の繊維強化熱可塑性樹脂組成物にかかる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】比較例1の繊維強化熱可塑性樹脂組成物にかかる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】比較例2の繊維強化熱可塑性樹脂組成物にかかる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例1の繊維強化熱可塑性樹脂組成物にかかる透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】比較例1の繊維強化熱可塑性樹脂組成物にかかる透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態にかかる繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、(a)ポリオレフィンを100重量部と、(b)ガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマーを10〜600重量部と、(c)平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下の球状のシリカを10〜500重量部と、(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの極細繊維を1〜400重量部と、(e)シランカップリング剤を0.1〜20重量部と、からなる組成物でアスペクト比が2以上1000以下あり、成分(a)、成分(b)及び成分(c)からなるマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が、成分(e)を介して化学結合をしている。
【0014】
成分(a)は、ポリオレフィンであって、70〜250℃の範囲の融点のものが好ましい。
また、50℃以上、特に好ましくは50〜200℃のビカット軟化点を有するものも用いられる。このようなものとして、炭素数2〜8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとスチレンやクロロスチレン、α―メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物との共重合体、炭素数2〜8のオレフィンと酢酸ビニル共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとアクリル酸或いはそのエステルとの共重合体及び炭素数2〜8のオレフィンとビニルシラン化合物との共重合体が好ましく用いられる。
【0015】
具体例としては、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸プロピル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン・アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体、エチレン・ビニルシラン共重合体、エチレン・スチレン共重合体及びプロピレン・スチレン共重合体などがある。
【0016】
これらの成分(a)のポリオレフィンの中でも特に好ましいのは、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体が挙げられ、中でもメルトフローインデックスが0.2〜50g/10分の範囲のもが好ましく、これら1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0017】
次に、成分(b)のガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマーについて説明する。ガラス転移温度は0℃以下のものであり、より好ましくは−20℃以下のものが好ましい。
このようなものとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ニトリル・クロロピレンゴム、ニトリル・イソプレンゴム、アクルレート・ブタジエンゴム、ビニルピリジン・ブタジエンゴム、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・クロロピレンゴム、スチレン・イソプレンゴム、カルボキシル化スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシル化アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体、カルボキシル化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、カルボキシル化スチレン・イソプレンブロック共重合体等のジエン系ゴム、スチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・ブテンゴム、エチレン・ブテン・ジエン三元共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系エラストマー、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、ポリ塩化三フッ素エチレン、フッ素ゴム、水素化ニトリル・ブタジエンゴム等のポリメチレン型の主鎖を有するゴム、エピクロロヒドリン共重合体、エチレンオキサイド・エピクロロヒドリン・アリルグリシジルエーテル共重合体、プロピレンオキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体等の、主鎖に酸素原子を有するゴム、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルブチルシロキサン等のシリコンゴム、ニトロソゴム、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン等の主鎖に炭素原子の他窒素原子及び酸素原子を有するゴム、等が挙げられる。また、これらのゴムをエポキシなどで変性したものや、シラン変性したもの、マレイン化したものも好ましい。
【0018】
成分(c)の平均粒子径1μm以下、水分含有量1000ppm以下のシリカは、金属粉末の爆燃現象を利用して真球状酸化物微粒子を製造する方法(Vaporized Metal Combustion Method)が好ましい(以下 VMC法と略する)。
具体的には、金属粉末を酸素の気流中に分散させ、着火することで酸化させ、その反応熱で金属及び酸化物を蒸気又は液体にし、冷却することで、微細な酸化物粒子となる方法により製造されるシリカである。
【0019】
VMC法から製造されるシリカは、真球状態の微粒子球状で、平均粒子径が0.2μmから2.0μmのシリカ群であり、シリカ同士の凝集構造をとらない。また、水分吸着も少なく、1000ppm以下を特徴とするものを本実施の形態で使用する。
【0020】
本実施の形態で使用するVMC法から製造されるシリカの平均粒子径は1μm、より好ましくは0.5μmである。水分含有量としては、水分含有量1000ppm以下のシリカは、カップリング剤として有効であり、本発明では、使用する成分(c)の適度な量が、カップリング剤としての機能性を発現すると考えている。例えば成分(c)のシラノール基はカップリング剤としての機能を持っており、成分(e)のアルコキシ基と或いは成分(e)に水分を介してアルコキシ基からシラノール基の構造を形成しものとは容易に反応をする。成分(d)のアミド基とも縮合反応をする。前記のように本発明の中で成分(c)は有効に反応に作用する。
【0021】
特に、成分(c)は、成分(e)との併用、或いは成分(e)と有機過酸化物の3成分の混合物等として用いることが好ましい。
また、シリカは、シラノール基を所有しており、製法の中で乾式法及びVMC法は10μmol/m以下のシラノール基濃度であり、本製造には好ましい。シラノール基濃度が高いと過剰な反応がすすむことが考えられる。
【0022】
本実施の形態の重要な因子として、シリカ中の水分量があり、水分量としては1000ppm以下が好ましい。シリカ粒子の水分量については、表面付着、結晶水などを全て含めての含有量が1000ppm以下のものが好ましくい。より好ましくは800ppm以下、特に好ましくは400ppm以下である。
【0023】
シリカの水分量が1000ppmを超えると、成分(a)、成分(b)、成分(c)からなるマトリックス中に、成分(d)を、成分(a)及び成分(d)のいずれもの融点以上での温度による溶融混練し押出を行う押出物を調整する工程(本発明の第2工程)において、多量の水分と成分(d)の主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーのアミド基が優先的に加水分解反応を起こし、アミノ基と、有機酸となり、成分(d)の分子量が低下することによる溶融粘度の低下となる。複合化する際のミクロ相分離の原理に基づく、重要な因子である成分(a)、成分(b)、成分(c)のマトリックス成分とドメインとなる(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの間の粘度バランス比が大幅に崩れ、繊維径サイズが1μm以上、或いは数十μmのフィルム状となり、繊維径が1μm以下のアスペクト比が2以上1000以下の熱可塑性樹脂組成物を得ることが不可能となる。或いは熱可塑性樹脂組成物の製造不能となる。例え得られたとしても、補強材としての効果が著しく劣る熱可塑性樹脂組成物となり好ましくない。
【0024】
成分(c)の平均粒子径については、1μm以下が好ましい。平均粒子径が1μmを超えると、押出物を調整する工程(本発明の第3工程)における、延伸及び/又は圧延する際に異物の傾向となり、成分(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの極細な繊維の形成が不能となり好ましくない。また延伸/圧延後に繊維が得られたとしてもアスペクト比が2以上1000以下の範囲外も増加するため好ましくない。
【0025】
また、シリカの形態がシリカ群の凝集による不定形形状や塊状など真球粒子以外の形状では、成分(d)の融点より低い温度で延伸及び/又は圧延する第3工程において、繊維を形成するうえで不安定な工程となり好ましくない。
【0026】
シリカは、VMC法の他にも、湿式沈降法、湿式ゲル法、乾式法、粉末溶融法などがあるが、VMC法以外の方法だと、いずれも水分を吸着しやすく1000ppmを超える水分量となることがある。また、乾燥後に水分量を1000ppm以下として用いても、シリカ群の凝集による不定形形状となる。粉末溶融法で得られるシリカは凝集体を形成しない傾向は強いが、平均粒子径が10μmを超えるものが多く観られる。また、粒径分布も幅広く、最大粒径が50μmを超えるものもあり、これは第3工程での延伸/圧延時の工程において異物となり、安定した延伸/圧延ができないことから、極細な繊維熱可塑性樹脂組成物及びその製造には不適である。
前記理由より、成分(c)のシリカとしては、VMC法で製造される微細な酸化物のシリカが好ましい。
【0027】
次に、成分(d)の主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマー(以下ポリアミドと略する)について説明をする。
融点は130〜350℃の範囲のものが用いられ、しかも成分(a)のオレフィンの融点よりも高いものであり、より好ましくは160〜265℃の範囲のものが好ましい。かかる成分(d)としては、押出し及び圧延によって強靭な繊維を与えるポリアミドが好ましい。
【0028】
ポリアミドの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−ナイロン66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6、キシリレジアミンとアジピン酸との重縮合体、キシリレジアミンとピメリン酸との重縮合体、キシリレジアミンとスペリン酸との重縮合体、キシリレジアミンとアゼライン酸との重縮合体、キシリレジアミンとテレフタル酸との重縮合体、オクタメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、デカメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、ウンデカメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、ドデカメチレンジアミンとテレフタル酸との重縮合体、テトラメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、オクタメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、デカメチレンジアミンとイソフタル酸との重縮合体、ウンデカメチレンジアミンとイソフタル酸との重縮合体及びドデカメチレンジアミンとイソフタル酸との重縮合体などが挙げられる。
【0029】
これらのポリアミドの内、特に好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−ナイロン66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、及びナイロン12からなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリアミドが挙げられる。これらのポリアミドの分子量は10,000〜200,000の範囲を有しているものが好ましい。
【0030】
本実施の形態で使用される成分(e)シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β―メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセチルシラン、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β―(3,4−エポキシクロヘキシル)エチルメトキシシラン、γ―グルシドキプロピルトリメトキシシラン、γ―グルシドキプロピルメチルジメトキシシラン、γ―グルシドキプロピルメチルジエトキシシラン、γ―グルシドキプロピルエチルジメトキシシラン、γ―グルシドキプロピルエチルジエトキシシラン、N―β―(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N―β―(アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N―β―(アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N―β―(アミノエチル)アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N―β―(アミノエチル)アミノプロピルエチルジエトキシシラン、γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N―フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−「N−(β−メタクリロキシエチル)−N,N−ジメチルアンモニューム(クロライド)」プロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、及びスチルジアミノシランなどが挙げられる。好ましくは、アルコキシ基などから水素原子を奪って脱離しやすい及び又は極性基とアミノ基、メルカプト基、ビニル基を有するシランカップリング剤が好適である。
【0031】
成分(e)とともに有機過酸化物を併用することが出来る。有機過酸化物としては、1分間の半減期温度が、成分(a)の融点或いは成分(d)の融点のいずれか高い温度ないし、この温度より20℃程度高い温度範囲のものが好ましい。具体的には1分間半減期温度が80〜270℃程度のものが好適である。
【0032】
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、4,4−ジ−t−ブチルーパーオキシバレリン酸n−ブチルエステル、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン)プロパン、パーオキシネオデカン酸2,2,4−トリメチルペンチル、パーオキシオデカン酸2,2,4−トリメチルペンチル、パーオキシシネオデカン酸α―クミル、パーオキシネオヘキサン酸t−ブチル、パーオキシピバリン酸t−ブチル、パーオキシ酢酸t−ブチル、パーオキシラウリル酸t−ブチル、パーオキシ安息香酸t−ブチル、パーオキシイソフタル酸t−ブチルなどが挙げられる。中でも1分間半減期温度が、溶融混練温度ないしこの温度より20℃程度高い温度の範囲であるもの、具体的には1分半減期温度が80〜270℃のものが好適である。
【0033】
成分(e)と有機過酸化物とを併用することにより、成分(a)の分子鎖上にラジカルが形成され、このラジカルが成分(e)と反応することにより、成分(a)及び/又は成分(b)と成分(d)との間の反応が促進されると考えられる。このときの有機過酸化物の使用量は、成分(a)100重量部に対して0.01〜2.0重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部が好適である。
【0034】
但し、成分(b)に天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などを用いるときは、有機過酸化物を用いなくてもよい。前記のゴムは、混練時にメカノケミカル反応によって主鎖中の分子に切断が起こり、主鎖末端に−COO・基が発生し、過酸化物となり、有機過酸化物と同等の作用をするものと考えられるため有機過酸化物を用いなくてもよい。
【0035】
また、有機過酸化物の使用量は、0.01〜2.0重量部の範囲であるが範囲外では、0.01重量部以下であれば反応の促進が著しく劣るため好ましくない。また2.0重量部以上を加えたときには、成分(a)、成分(b)、成分(d)などの単独若しくは各成分間で反応が過度に促進され、分子量は高分子か或いは単味成分若しくは各成分間において反応による架橋が著しく進みゲル化(塊状)状態となり、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造が困難となる。
【0036】
本発明の組成物において、成分(a)、成分(b)、成分(c)からなるマトリックスを形成している。このマトリックスは成分(b)が成分(a)成分及び成分(c)中に島状に分散した構造を採っていてもよく、また、その逆に成分(a)が成分(b)及び成分(c)中に島状に分散した構造を採っていてもよい。そして、成分(a)と成分(b)及び成分(c)の3成分間で互いに結合していることが好ましい。
成分(d)は、その殆どが極細な繊維として上記マトリックス中に分散している。具体的には、80重量%、好ましくは90重量%以上が極細な繊維として分散する。
成分(d)の繊維としては、平均繊維径が1μm以下、より好ましくは0.01〜0.8μmの範囲である。アスペクト比は2以上1000以下、より好ましくは10〜500である。
【0037】
そして、成分(d)は、成分(a)、成分(b)、成分(c)のいずれとも、界面で結合している。成分(d)と成分(a)、成分(b)、成分(c)との間の結合率は1〜30重量%、特に5〜25重量%の範囲が好ましい。
【0038】
次に、繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製法について説明する。
第1工程のマトリックスの調整方法は、成分(a)、成分(b)、成分(c)、及び成分(e)の溶融混練する方法であり、成分(a)を成分(e)と成分(a)の融点以上の温度の溶融混練を行い、次いで成分(b)、成分(c)を成分(a)の融点以上の温度の溶融混練する方法が挙げられる。溶融混練は、樹脂やゴムなどに通常用いられる混練装置を用いて行うことが出来る。例えば、バンバリー型ミキサー、ニーダー、加圧型ニーダー、ニーダーエキストルーダー、オープンロール、短軸押出機、二軸押出機などである。特に好ましいのは、短時間で且つ連続的に溶融混練ができる二軸押出機である。
【0039】
結合剤の量は、成分(a)100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲が好ましい、より好ましくは0.2〜15重量部の範囲である。
【0040】
結合剤としては、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体、有機過酸化物、或いはシリカ中のシラノール基などが挙げられる。本開発における好ましいものとしては、シランカップリング剤、有機過酸化物、或いはVMC法の製法で得られたシリカ(シラノール基)などである。
【0041】
次に、第2工程について説明する。第1工程で得られる成分(e)などの結合剤を調合した成分(a)、成分(b)、成分(c)の溶融混練したマトリックス成分と成分(d)の溶融混練反応を行う第2工程は、樹脂やゴム等の混練に使用される装置により変性する。具体的な装置としては、バンバリー型ミキサー、ニーダー、加圧型ニーダー、ニーダーエキストルーダー、オープンロール、短軸押出機、二軸押出機などである。特に好ましいのは、第1工程と同様に、短時間で且つ連続的に溶融混練ができる二軸押出機である。
【0042】
第2工程の溶融混練温度は、成分(a)及び成分(d)のいずれの融点以上の温度で溶融混練し、押出物として調整する。
成分(d)の融点以下の温度で溶融、混練すると、混練物は成分(a)、成分(b)、成分(c)のマトリックス中に成分(d)が混練、分散されず好ましくない。
【0043】
成分(d)に対する結合剤の割合は、成分(d)と結合剤の合計量100重量%としたとき、0.1〜20重量%、好ましくは0.2〜15重量%である。結合剤の量が0.1重量%以下のときは、強固な結合が得られておらず、耐クリープ性に劣る組成物となり好ましくない。一方、結合剤が20重量%以上のときは、成分(d)のうち大半が微細な球状或いは卵状のアスペクト比2以下となり極細な繊維を形成しない。やはり同様にクリープ性に劣る組成物しか出来ない。
【0044】
次に、第3工程の説明をする。第3工程は、上記の第2工程の押出物を成分(d)の融点より低い温度で延伸及び/又は圧延するものであり、第2工程で得られた混練物を紡糸口金、或いはインフレーションダイ又はTダイからの延伸又は圧延する。
【0045】
第3工程では、紡糸、押出によって、第2工程における混練物中の成分(d)の微粒子が繊維に変形する工程である。したがって、紡糸、押出、のいずれも成分(d)の融点以上の温度で行わなければならない。具体的には、成分(d)の融点、或いは融点よりも20℃高い温度の範囲で行うことが好ましい。繊維を形成するために、前記の混練物を引き続き延伸又は圧延によって延伸処理を行い、より強固な繊維とする。したがって、延伸及び圧延は成分(d)の融点よりも低い温度で実施する。
【0046】
第3工程は、例えば、第2工程の混練物を押出機の紡糸口金から押出して紐状乃至糸状に紡糸し、これをドラフトを掛けつつボビンなどを取り付けた巻き取機でなど巻き取るなどで実施する。ドラフトとは押出機などの紡糸口金から出てくる混練物の押出し速度よりも巻き取り速度を速くし、巻き取ることを意味する。
ドラフト比=(巻き取り速度)/(紡糸口金からでる混練物速度)、ドラフト比は1.5〜100の範囲が好ましく、より好ましくは2〜50の範囲である。
【0047】
この他、第2工程の押出し物を圧延ロールなどで連続的に圧延することでもできる。例えば、混練押出し物をインフレーション用ダイやTダイから押出しながら、ドラフトを掛けながらロールなどで巻き取りことによっても実施できる。
上記の工程において、ドラフトを掛けて極細な繊維を形成した熱可塑性樹脂組成物は、紐状、糸状、テープ状、ペレットなど色々な製品形態とすることができる。
【0048】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
特開平7−238189号、特開平9−59431号の発明においては、ポリオレフィンとゴム種及びポリアミド間の結合は、シランカップリング剤の珪素を介して、それぞれの界面間で結合を形成しているのに対して、本実施の形態では、ポリオレフィン、ゴム種、シリカ及びポリアミド間を化学結合させている。具体的には、前記の各成分間をシランカップリング剤とシリカを用いての2種のカップリング剤を介しての多種結合剤成分による化学結合(ハイブリッド結合)としている。
【0049】
第1工程においては、成分(a)、成分(b)、成分(c)と混合して調合を行い、変性したマトリックスとする。その際に成分(e)シランカップリング剤を用いて変性を行う。
そのことにより、成分(a)と成分(b)及び成分(c)の成分間の界面において、(1)シランカップリング剤の珪素介しての結合、(2)シランカップリング剤とシリカの相乗効果による結合、シランカップリング剤の珪素とシリカの二酸化珪素のシラノール基間での縮合反応による結合が進行し、前記の(1)と(2)の2種の結合により各成分間の界面の化学結合が進むと考える。このように本実施の形態では結合様式が2種に亘るのに対して、特開平7−238189号及び特開平9−59431号の技術のようにシランカップリング剤の珪素による1種のみの結合とは異なる。
【0050】
次に、本実施の形態の第2工程においては、成分(d)と第1工程で得られた変性したマトリックス成分と溶融混練を行う。この際に、成分(d)と変性したマトリックス成分は、化学結合をする。成分(d)のアミド基は、変性マトリックス中のシランカップリング剤のアルコキシ基や水分と化学変化を起こしたシラノール基が結合する。一方、シリカのシラノール基などとも結合する。また、成分(d)の末端には−COOHや−NHを形成しており、これらもシランカップリング剤やシリカのシラノール基と有効に反応する。
【0051】
これに対して、特開平7−238189号、特開平9−59431号の従来技術ではシランカップリング剤による化学結合であるが、本実施の形態は、シランカップリング剤単独による/又はシリカのシラノール基を介しての2種以上の結合点を有し、より強化された極細な繊維を保有する繊維強化熱可塑性樹脂組成物及びその安定した製造方法を提供できる。
【0052】
本実施の形態で得られた熱可塑性樹脂組成物を天然ゴムや合成ゴム等の加硫可能なゴムと混練することにより、繊維強化ゴムとなる。また、オレフィンなど加えて磨耗性、耐久性などの改質された樹脂を提供できる。
但し、この場合の混練は、成分(a)の融点以上の温度、成分(d)の融点以下の温度範囲で混練をする必要がある。
【0053】
以下、実施例及び比較例を示して、本実施の形態についてさらに具体的に説明するが、これらは本発明に限定するものではない。実施例及び比較例において、繊維強化熱可塑性樹脂の物性の測定方法は以下のとおりとした。
【0054】
走査型電子顕微鏡(SEM)観察;日本電子(株)製 JSM−5800LVで観察した。
SEM観察の試料は次のようにして作成した。まず、成分(a)ポリオレフィン及び成分(b)ゴム状ポリマーを溶解する溶媒キシレンで繊維強化熱可塑性樹脂組成物をソックスレーなどの還流器で還流し、ポリオレフィン及びゴム状ポリマーを除去した。次に、残った成分(c)シリカ及び成分(d)ポリアミドを、1,2−ジクロロベンゼンで攪拌を行った後、静かに放置し、浮遊する繊維を回収し、さらに回収した繊維をアセトン洗浄した後、SEM観察用試料とした。
【0055】
透過型電子顕微鏡(TEM)観察;日立製作所(株)製 H−7100FAで観察した。実施の形態の第3工程で得られるストランドをウルトラミクロトームでトリミング・面出し、ルテニューム(Ru)金属酸化物による蒸気染色を施し、超薄切片作製後、TEM観察測定を行なった。
紡糸時糸切れの確認法;本実施の形態の第3工程において、第2工程の混練物を押出機の紡糸口金から押出して紐状乃至糸状に紡糸し、これをドラフトを掛けつつボビンを取り付けた巻き取機で巻き取り紐状乃至糸状に紡糸時の状態観察を目視で確認した。
【0056】
平均繊維径;走査型電子顕微鏡観察写真において、その上及び下2cmの箇所に横線を描き、線と接触する繊維の400本分について径を測定し、その平均を求め平均径とした。
密度;ASTM D1505に準拠し測定した。
引張弾性率;バイロンDDV−II型 (オリエンテック社製)にて23℃で複素弾性率を測定した。
引張強度;ASTM D638に準拠し測定した。
耐クリープ性;長さLの試料に5MPaの荷重をかけ、1時間後の長さLを測定し、次式(1)を用いて算出した。
耐クリープ性=(L−L)/L × 100・・・(式1)
【0057】
ポリアミド平均繊維径:ゴム種に合わせて溶媒を選択し、ソックスレー抽出器を用いて、任意の温度下で還流して、繊維強化熱可塑性樹脂組成物中のゴム状及びポリオレフィンを抽出し、除去し残った繊維を、更に1,2−ジクロロベンゼン溶剤で攪拌後、浮遊する繊維と沈殿するシリカに分離し、繊維を回収し、更にアセトン溶剤で洗浄した後、走査型電子顕微鏡で観察し、上述した「平均繊維径」と同じ方法で、電子顕微鏡画像から繊維径を測定し、その平均径を求めた。
【0058】
結合率:以下のような方法で測定した数値で表した。
成分(a)及び成分(b)を溶解する溶媒メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等で繊維強化熱可塑性樹脂組成物をソックスレーなどの還流器で還流し、成分(a)及び成分(b)を除去する。残った成分(c)及び成分(d)を、次に1,2−ジクロロベンゼンで攪拌を行った後、静かに放置し、浮遊する繊維と沈殿するシリカの分離を行い、回収した繊維をさらにアセトン洗浄したのち、乾燥後秤量をし、この重量をWcとした。
そして、組成物中の成分(d)の重量をWcoに対する割合Wc/Wcoを求め、これを結合量とした。
【0059】
次に、実施例について説明する。実施例1〜3は、成分(a)として高密度ポリエチレン(HDPE)「京葉ポリエチレン(株)製、M3800、MFR8グラム/10min、融点125℃、密度0.922g/c」、成分(b)としてゴム状ポリマーEPDM 「JSR(株)製 EP−22」、成分(c)として「(株)アドマテックス製 VMC製法シリカSO−C2、平均粒子径0.5μm」(以下シリカ1と略記する。)、成分(d)として「宇部興産(株)製宇部ナイロン1030B、融点215〜220℃、分子量30,000」を用いた。
【0060】
まず、成分(a)100重量部、成分(b)100重量部、成分(c)40重量部、成分(e)のγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1重量部及び有機過酸化物ジクミルパーオキサイドを0.1重量部をバンバリーミキサーを用いて、成分(a)の融点以上の温度で混練を行い、排出温度170℃で排出後、成分(a)の融点温度以上に設定したフィーダールーダーでペレット化を行い変性物を得た。これをマトリックス成分とした。
【0061】
次に、マトリックスと成分(d)を50、100、150重量部に変量し、240℃に設定した二軸押出機で混練を行い、二軸押出機の先端のノズルから押し出されるストランド状物を、引き取り機でノズルからでるストランド(紐状)の速度の10倍比(ドラフト比10)で引き取り延伸を行い、物性測定を行った。その結果及び各実施例の材料(成分)を表1に示す。
【0062】
実施例4は、実施例3と同様な材料を用いたが、成分(c)のシリカ1を40から80重量部に増量を行った。
【0063】
実施例5は、実施例1〜3と同様な材料を用いたが、成分(c)のシリカ1を100重量部、及び成分(d)のナイロン6を250重量部に増量した。
【0064】
実施例6は、成分(a)として、PP「(株)プライムポリマー製 ポリプロピレンJ704UG、MFR5グラム/10min」を用いたほかは、実施例3と同様に行った。
【0065】
実施例7は、成分(b)として、HNBR「日本ゼオン(株)製zetpol2020L、ムーニー粘度中央値57.5」を用いた他は、実施例3と同様にマトリックス調整方法及び二軸押出機による混練を行った。ドラフト比は5とした。
【0066】
実施例8は、成分(b)のHNBRを500重量部、成分(c)のシリカ1を200重量部、成分(d)を350重量部と大幅に増量した。また、結合剤10重量部成分(e)のγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1重量部、有機過酸化物ジクミルパーオキサイドを0.3重量部に増量した他は実施例7と同様に行った。
【0067】
実施例9は、成分(a)として高密度ポリエチレン、成分(b)として天然ゴム150重量部とした他は実施例3と同様に行った。天然ゴム(NR)は、天然ゴムSMR−Lを用いた。
【0068】
実施例10は、成分(a)としてLDPE「宇部丸善ポリエチレン(株)製 F522 MFR5g/10min」を用いた他は、実施例4と同様に行った。
【0069】
次に、比較例について説明する。比較例1は、成分(c)のシリカを使用しない他は実施例1と同様に行った。
【0070】
比較例2は、成分(c)のシリカは、「東ソー(株)製 ニプシールVN3、沈降製法、シリカ二次凝集構造」(以下シリカ2と略記する。)を40重量部使用した他は実施例1と同様に行った。本比較に使用したシリカ2の水分量はいずれも5000ppm近く以上ある。
【0071】
比較例3は、比較例2のシリカ2を80重量部とした。
【0072】
比較例4は、成分(c)のシリカとして、「TATSUMORI LTD製MSR−8030 平均粒径11μm」(以下シリカ3と略記する。)を40重量部使用した他は、比較例2と同様に行った。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例と比較例との対比を説明する。
表1から明らかなように、本実施例1〜10は、物性評価の欄の引張弾性率が329〜784であり、引張強度が16〜30であり、耐クリープ性が1〜13であり、比較例1〜4と比較して剛性及び強度に優れている。
【0075】
また、実施例1〜10では、紡糸時の糸切れがなかったと共に、SEM観察写真観察ではいずれも極細繊維であり、平均繊維径は0.2〜0.4μmであった。
これに対して、シリカを混入していない比較例1では、引張弾性率が287であり、引張強度が12であり、耐クリープ性は14であり、実施例1〜10よりも劣っていた。これは、本実施例1〜10に比較して、結合率が低いためと考える。
【0076】
シリカ2を混入した比較例2では、紡糸時糸切れが頻発した。これは、使用したシリカ2の水分量はいずれも5000ppm近く以上あるためである。また、得られたストランドのナイロンをSEM観察したところフィルム状であった。
シリカ2を80重量部とした比較例3は、延伸紡糸の際に自重落下を繰り返し紡糸が出来なかった。
【0077】
比較例4では、平均粒径が11μmのシリカ3を用いたが、シリカ3の粒径が大きいため異物となり、第3工程の延伸工程の紡糸時に糸切れが頻発した。また、得られたストランドのナイロンをSEM観察したところ、0.1μm〜4μmと幅広い繊維と繊維形状がでこぼこの不規則な紐状の繊維であった。
即ち、シリカを用いる場合でも、吸水性の高い二次凝集体を形成するシリカは、実施例1〜10の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得ることができなかった。
【0078】
次に、電子顕微鏡写真について説明する。
図1〜図3は走査型電子顕微鏡(SEM)の写真の図であり、図1は実施例1、図2は比較例1、図3は比較例2にかかるSEMの写真の図である。
これらの写真は、実施例1、比較例1及び比較例2において、各々繊維強化熱可塑性樹脂組成物中より、成分(a)の高密度ポリエチレン、成分(b)のEPDMをホットキシレン溶媒にて溶解させ、成分(d)ポリアミド(ナイロン)繊維およびシリカの残存物を回収し、さらに1,2−ジクロロベンゼン溶剤にて強力に攪拌し、放置後浮遊する繊維の形態を観察した電子顕微鏡写真である。
【0079】
図2から明らかなように、比較例1では、極細ナイロン繊維のみが観察される。
図3から明らかなように、比較例2は、第2工程の溶融混練反応の際に、成分(d)のナイロンがシリカ中の水分と加水分解を起こし、極細な繊維形態を形成せず、フィルム状を観察したものであり、極細は繊維強化熱可塑性樹脂の形態を成していない。
これに対して、図1から明らかなように、実施例1は、極細なナイロン繊維とその繊維状に付着するシリカSを観察したものである。強力に攪拌しシリカを分離除去したが、電子顕微鏡の写真の図にシリカSの付着が確認できた。また、EPDMのゴム状物の残存物Zが付着することも確認できた。ゴム状物の残存物Zはナイロンと反応したゴム部が変性され、EPDMの良溶媒であるホットキシレンでの溶解が困難となるためゴム状物Zが観察されたと考える。
【0080】
図4及び図5は透過型電子顕微鏡(TEM)の写真の図であり、図4は実施例1、図5は比較例1にかかるTEMの写真の図である。
これらの図4及び図5において、白色球状物1はナイロン繊維断面、黒色球状物3はシリカ、灰色不定形状物5はポリエチレン、黒色不定形物7はEPDMである。尚、比較例1には、シリカ3は混入していない。
【0081】
図5に示す比較例1では、白色球状物のナイロン繊維1(断面)の界面に、灰色不定形状物のポリエチレン5と黒色不定形物のEPDM7がマトリックスとして存在している。マトリックス成分のEPDM7とポリエチレン5間およびナイロン繊維1の界面とも、界面間の相互作用(相溶性、結合力)が弱いため、界面間がはっきりとした構造形態で観察される。
一方、実施例1は、マトリックス成分のポリエチレン(白色不定形物、白色針状物)5とEPDM(灰色不定形物)7間の界面は明確に分離しておらず、ぼやけて見える。これは、比較例1と比べ、相互作用が強力となったことを意味する。
【0082】
更に、図4から以下のことが観察できる。
(1)シリカ(黒色球状物)3を介してナイロン繊維5同士間のカップリングが観察され、「ナイロン繊維/シリカ/ナイロン繊維」の強い相互作用を発現している(図4に(A)で示す)。
(2)シリカ3とナイロン繊維5、5間が直接接触する構造が確認できる。また、ポリエチレン(白色針状物;PEの結晶体ラメラ)を介してシリカとナイロン繊維間をカップリングしており、「シリカ/ナイロン繊維」、「シリカ/ポリエチレン/ナイロン繊維」のそれぞれの相互作用を発現している(図4に(B)で示す)。
【0083】
(3)シリカ3の球状物の界面にマトリックスのEPDM7が周囲を取り囲んでおり、その界面は明確に分離しておらず、相互作用が強い。
(4)シリカ3の球状物の界面からマトリックスへ向けて、ポリエチレン5のラメラ体が針状に存在しており、アンカー効果としての補強効果が存在する(図4に(C)で示す)。アンカー効果は、針状ポリエチレン5が多数の突起を有しており、マトリックスにアンカーとして作用する。
【0084】
(5)さらには、ナイロン繊維1、1間をポリエチレン5が介在し、カップリングしていることが観察される(図4に(D)で示す)。
(6)マトリックスの成分中にポリエチレン5が針状のラメラ体としてアンカーを打ったような構造をしており、アンカー効果期待できる。
図4に示す実施例1のTEM写真について、上記(1)〜(6)の項目で実施の形態の特性を説明したが、これらの特性は、図5に示す比較例1とは大きく異なることが明らかである。
【0085】
以上のとおり、TEM観察の構造形態から、シリカを用いた繊維強化熱可塑性樹脂は、カップリングやアンカー効果などの強い相互作用が発現される。このため、磨耗、疲労性などの耐久性、高弾性、高引き裂き強度などの機械特性、線膨張などの改善ができる。これらは、薄肉化、軽量化、あるいは寸法安定性などの生産性の向上に寄与するものである。
【符号の説明】
【0086】
1 ナイロン
3 シリカ
5 ポリエチレン
7 EPDM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオレフィンを100重量部と、(b)ガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマーを10〜600重量部と、(c)平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下の球状のシリカを10〜500重量部と、(d)主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの極細繊維を1〜400重量部と、(e)シランカップリング剤を0.1〜20重量部と、からなる組成物であり、
成分(a)、成分(b)及び成分(c)からなるマトリックス中に成分(d)が平均径1μm以下の極細な繊維として分散しており、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の各成分が、成分(e)を介して化学結合をしていることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
繊維状に分散した(d)成分の主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーの繊維径が1μm以下であり、アスペクト比が2以上1000以下であることを特徴とする請求項第1項の繊維強化熱可塑性樹脂組成物である。
【請求項3】
成分(a)ポリオレフィンと、成分(b)ガラス転移温度が0℃以下のゴム状ポリマーと、成分(c)平均粒子径1μm以下で水分含有量1000ppm以下のシリカ及び成分(e)シランカップリング剤を成分(a)の融点以上で溶融混練し、又は成分(e)で処理した成分(a)、成分(b)、成分(c)を成分(a)の融点以上で溶融混練し、又は成分(e)で処理した成分(a)、成分(b)、成分(c)を成分(a)の融点以上で溶融混練し、又は成分(e)で処理した成分(c)、成分(a)、成分(b)、成分(c)を成分(a)の融点以上で溶融混練してからなるマトリックス成分を調整する第1工程と、
上記マトリックス成分と成分(d)の主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリマーを成分(a)及び成分(d)のいずれもの融点以上の温度による溶融混練し押出を行い、押出物を調整する第2工程と、
上記押出物を成分(d)の融点より低い温度で延伸及び/又は圧延する第3工程とからならなることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
成分(a)を100重量と、成分(b)を10〜600重量部と、成分(c)を10〜500重量部及び成分(d)1〜400重量部を使用することを特徴とする請求項第3項記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
成分(a)が、50℃以上のビカット軟化点、又は70〜250℃の融点を有することを特徴とする請求項第3項又は第4項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
成分(d)が、130〜350℃の範囲の融点を有することを特徴とする請求項第3項又は第4項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
成分(c)が、球状であることを特徴とする請求項第3項又は第4項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−25872(P2012−25872A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166891(P2010−166891)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(502392434)大丸産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】