説明

繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物

【課題】 繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として、耐熱性および靭性を高いレベルで両立し、かつプリプレグ作業性を改良する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 一分子中に少なくとも3個のエポキシ基を有する多官能性エポキシ樹脂(A)を75〜85重量%と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)を15〜25重量%とから構成されるエポキシ樹脂成分100重量部に対して、前記エポキシ樹脂成分に可溶する熱可塑性樹脂(C)を40〜60重量部、および硬化剤(D)を配合するエポキシ樹脂組成物であって、前記多官能性エポキシ樹脂(A)が、温度25℃における粘度が1000mPa・s以下である低粘度の多官能性エポキシ樹脂を重量割合で3/5以上を含有しており、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の温度25℃における粘度が5000mPa・s以下である繊維強化複合体用エポキシ樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、耐熱性および靭性に優れた炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として広く使用されている。特に、炭素繊維を強化基材とする炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、比強度、比弾性率が高いことから、その特徴を生かして民間航空機において機体を軽量化するための構造材料として使用されている。このCFRPのマトリックス樹脂には、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンに代表される多官能性グリシジルアミンを主成分とするエポキシ樹脂と、ジアミノジフェニルスルホンを硬化剤とするエポキシ樹脂組成物を用いる例が多い。
【0003】
しかし多官能性グリシジルアミン型エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂組成物を硬化した樹脂硬化物は、弾性率および耐熱性は高いという特徴を有するが、伸びが低くて硬く、脆いという問題があった。一般にエポキシ樹脂組成物は、耐熱性が優れたものは靭性が低く、逆に靭性の高いものは耐熱性が劣るという傾向にあるため、両方の特性を備えたエポキシ樹脂組成を見出すことは難しい状況にある。
【0004】
このため、特許文献1は、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能のエポキシ樹脂に、1〜2官能のエポキシ樹脂や熱可塑性樹脂を加え、靭性と剛性とのバランス改善を提案している。しかし、低官能性エポキシ樹脂および熱可塑性樹脂の配合により、伸びや靭性の改良は見られるが、未だ十分なレベルではなく、さらに熱可塑性樹脂のためにタック性およびドレープ性等のプリプレグ作業性が著しく低下する問題が発生する。
【特許文献1】特開2004−277481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として、耐熱性および靭性を高いレベルで両立し、かつプリプレグ作業性を改良する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、一分子中に少なくとも3個のエポキシ基を有する多官能性エポキシ樹脂(A)を75〜85重量%と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)を15〜25重量%とから構成されるエポキシ樹脂成分100重量部に対して、前記エポキシ樹脂成分に可溶する熱可塑性樹脂(C)を40〜60重量部、および硬化剤(D)を配合するエポキシ樹脂組成物であって、前記多官能性エポキシ樹脂(A)が、温度25℃における粘度が1000mPa・s以下である低粘度の多官能性エポキシ樹脂を重量割合で3/5以上を含有しており、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の温度25℃における粘度が5000mPa・s以下である繊維強化複合体用エポキシ樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、特定の粘度を有するエポキシ樹脂成分および熱可塑性樹脂を特定の組成で配合することにより、樹脂硬化物の耐熱性および靭性を高いレベルで両立させながら、熱可塑性樹脂を添加することに伴うプレプレグ作業性の悪化を、改善することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物において、一分子中に少なくとも3個のエポキシ基を有する多官能性エポキシ樹脂(A)は、樹脂硬化物の耐熱性および剛性を高めるために有用であり、一分子中に3〜4のエポキシ基を持つことがより好ましい。一分子中のエポキシ基が3個未満であると、樹脂硬化物の耐熱性および剛性を高くすることができず、好ましくない。
【0009】
本発明において、多官能性エポキシ樹脂(A)は、温度25℃における粘度が1000mPa・s以下である低粘度の多官能性エポキシ樹脂を、3/5以上、好ましくは7/10〜9/10の重量割合で含有するものである。低粘度の多官能性エポキシ樹脂を含有する重量割合は、3/5以上であればよく、多官能性エポキシ樹脂(A)の全量が、低粘度の多官能性エポキシ樹脂であってもよい。
【0010】
温度25℃における粘度が1000mPa・s以下である低粘度の多官能性エポキシ樹脂は、温度25℃で液状であり、流動性を確保して、プリプレグの十分なタック性およびドレープ性を保持するために有用である。
【0011】
低粘度の多官能性エポキシ樹脂において、温度25℃における粘度は、1000mPa・s以下、好ましくは850mPa・s以下、より好ましくは550〜700mPa・sである。低粘度の多官能性エポキシ樹脂の温度25℃における粘度が、上記範囲を超えると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり、そのエポキシ樹脂組成物をマトリックスとするプリプレグのタック性およびドレープ性等の作業性が低下する虞がある。また、粘度が550mPa・s未満であると、エポキシ樹脂組成物を硬化する際に、揮発性が高くなり、十分な耐熱性および剛性を有する樹脂硬化物が得られ難くなる虞があり、好ましくないる。
【0012】
本発明において、多官能性エポキシ樹脂(A)は、低粘度の多官能性エポキシ樹脂以外に、一分子中に少なくとも3個のエポキシ基を有する多官能性エポキシ樹脂を、2/5未満の重量割合で含有していてもよい。すなわち、多官能性エポキシ樹脂(A)中に、温度25℃における粘度が1000mPa・sを超える高粘度の多官能性エポキシ樹脂を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。多官能性エポキシ樹脂(A)が、高粘度の多官能性エポキシ樹脂を含有する場合、高粘度の多官能性エポキシ樹脂の重量割合が2/5未満、好ましくは1/6以上2/5未満である。高粘度の多官能性エポキシ樹脂の重量割合が、2/5を超えると、流動性およびプリプレグの作業性が低下し、好ましくない。重量割合が1/6以上2/5未満であると、流動性およびプリプレグ作業性を損なうことなく、樹脂硬化物の耐熱性および機械強度を向上、または維持させることができ、好ましい。
【0013】
多官能性エポキシ樹脂(A)は、好ましくはグリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を挙げることができ、とりわけグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂のなかでも、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルm−キシリレンジアミン、N,N−ジグリシジルアニリン等が好ましく、特に、低粘度の多官能性エポキシ樹脂として、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール樹脂が好ましく、粘度が高い多官能性エポキシ樹脂として、耐熱性が高いためN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが、好ましい。
【0014】
本発明の樹脂組成物に使用する多官能性エポキシ樹脂(A)の配合量は、75〜85重量%、好ましくは75〜80重量%、より好ましくは75重量%以上80重量%未満である。多官能性エポキシ樹脂(A)の配合量が、上記未満であると樹脂硬化物の耐熱性および剛性が低下する虞があり、上記範囲を超えると樹脂硬化物の強度、伸びおよび靭性が低下する虞がある。
【0015】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に使用するビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)は、伸びおよび靭性を改善する役割を果たすものである。
【0016】
本発明において、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)は、温度25℃で液状であり、液状であることは、流動性を確保して、プリプレグの十分なタック性、ドレープ性を保持するために有用である。
【0017】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の温度25℃における粘度は、5000mPa・s以下、好ましくは4000mPa・s以下、より好ましくは1000〜3000mPa・sである。上記範囲を超えると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり、そのエポキシ樹脂組成物をマトリックスとするプリプレグのタック性およびドレープ性等の作業性が低下する虞がある。また、粘度が1000mPa・s未満であると、樹脂硬化物の伸びおよび靭性が低下する虞がある。
【0018】
なお、多官能性エポキシ樹脂(A)およびビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の粘度は、BH型回転粘度計を用いた粘度測定値であり、具体的には、エポキシ樹脂の入った缶を温度25℃の恒温槽に入れ、BH型回転粘度計の負荷が安定した目盛りをもって、測定値とした値である。なお、粘度が高いエポキシ樹脂を測定する場合には、例えば、恒温槽の温度50℃として、測定温度50℃の値とする。
【0019】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の配合量は、15〜25重量%、好ましくは20〜25重量%、より好ましくは20重量%を超えて25重量%以下である。ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の配合量が、上記未満であると樹脂硬化物の伸びおよび靭性が低下する虞があり、上記範囲を超えると樹脂硬化物の耐熱性および剛性が低下する虞がある。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、上記(A)および(B)のエポキシ樹脂から構成されるエポキシ樹脂成分の合計は、100重量%であり、熱可塑性樹脂(C)は、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、それぞれの配合量を重量規定するものである。
【0021】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に使用する熱可塑性樹脂(C)は、エポキシ樹脂成分との相溶性または親和性が高く、エポキシ樹脂成分に可溶する熱可塑性樹脂である。具体的には、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリールエーテル、ポリアリールスルホン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンエーテル等が、好ましく挙げられ、とりわけポリエーテルスルホン樹脂(PES)が、エポキシ樹脂成分に可溶であり、樹脂硬化物の耐熱性を高いレベルで維持しながら、靭性および伸び等の物性を向上させることができるため、好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂(C)をエポキシ樹脂成分に溶解させる方法は、特に制限はないが、好ましくは、エポキシ樹脂成分を、温度120〜130℃に設定したプラネタリミキサを用いて、均一な溶液になるまで撹拌・混合してから、熱可塑性樹脂(C)を、この溶液中に加え、熱可塑性樹脂(C)の粉体が均一に溶解するまで約1〜3時間、撹拌・混合する。
【0023】
本発明に使用する熱可塑性樹脂(C)は、微細粒子であることが好ましい。熱可塑性樹脂(C)を微細粒子とすることにより、エポキシ樹脂成分に可溶化する際に、均一に溶解することができるため、樹脂硬化物の剛性および靭性を高いレベルで両立させることができ、好ましい。熱可塑性樹脂(C)の微細粒子大きさは、エポキシ樹脂成分に均一に可溶化することができれば特に制限がないが、平均粒子径が、好ましくは200μm以下、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは30〜100μmである。平均粒子径が、上記範囲を超えると、熱可塑性樹脂(C)の粒子を、エポキシ樹脂成分に均一に溶解できない場合があり、好ましくない。
【0024】
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(C)の配合量は、上記(A)および(B)のエポキシ樹脂成分100重量部に対して、40〜60重量部、好ましくは43〜57重量部、より好ましくは46〜54重量部である。熱可塑性樹脂(C)の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の伸びおよび靭性を改良する十分な効果が得られない虞があり、上記範囲を超えると樹脂硬化物の剛性が低下するとともに、さらにエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなるため、そのエポキシ樹脂組成物を用いて作製したプリプレグにおけるタック性やドレープ性等の作業性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0025】
本発明において、硬化剤(D)は、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、ポリメルカプタン等が好ましく挙げられる。とりわけ樹脂硬化物の耐熱性向上の観点からジアミノジフェニルスルホンを使用することが好ましい。具体的には、3,3’ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)および/または4,4’ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)が好ましい。硬化剤(D)は、3,3’−DDSおよび4,4’−DDSのいずれか一方を使用してもよいし、両者をともに使用してもよい。
【0026】
本発明の樹脂組成物において、硬化剤(D)の配合量は、上記(A)および(B)のエポキシ樹脂成分のエポキシ当量に対して、硬化剤が有する活性水素当量の比が、好ましくは0.7当量以上、より好ましくは0.7〜0.9当量、さらに好ましくは0.75〜0.85当量である。硬化剤(D)の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の十分な耐熱性を得ることができない虞があり、上記範囲を超えるとエポキシ樹脂の架橋点数は増加するが、架橋密度が低下して、樹脂硬化物の剛性および耐熱性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0027】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、特定の粘度を有するエポキシ樹脂成分および熱可塑性樹脂を特定の組成で配合することにより、樹脂硬化物の耐熱性および靭性を高いレベルで両立させながら、熱可塑性樹脂を添加することに伴うプレプレグ作業性の悪化を、大幅に改善することができるものである。
【0028】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分を必須とするものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて上記(A)〜(D)成分以外の公知の硬化剤、熱硬化性樹脂、充填剤、安定剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0029】
本発明のプリプレグは、強化繊維基材に本発明のエポキシ樹脂組成物を含浸させることによって得られる。強化繊維基材は、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができる。これらの強化繊維のうち、炭素繊維を強化繊維基材に使用することが、特に好ましい。
【0030】
プリプレグ中のエポキシ樹脂組成物の割合は、好ましくは30〜50質量%、より好ましくは32〜42質量%である。エポキシ樹脂組成物の割合がこの範囲であれば、プリプレグを熱硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料の耐熱性および靭性を高いレベルで両立することができる。
【0031】
本発明のプリプレグを製造する方法は、本発明のエポキシ樹脂組成物を離型紙の上に薄いフィルム状に塗布したいわゆる樹脂フィルムを、強化繊維基材の上下に配置し、加熱及び加圧することでエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させるホットメルト法を、好ましく挙げることができる。本発明のプリプレグは、前記特定のエポキシ樹脂組成物を使用することから、タック性およびドレープ性に優れており、プリプレグ作業性が良好であることから、プリプレグの生産効率を向上させることができる。
【0032】
本発明のプリプレグを通常のオートクレーブ成形またはホットプレス成形等の熱硬化成形することにより、繊維強化複合材料を製造することができる。このようにして得られた繊維強化複合材料は、耐熱性および靭性を高いレベルで両立する優れた特性を有するものである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例および比較例中に示される一方向プリプレグおよび一方向繊維強化成形板の作製方法およびプリプレグ作業性の評価、炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度の測定、層間せん断強度、0°引張強度、面内せん断強度の測定は、次のとおり実施した。
【0035】
〔一方向プリプレグの作製方法〕
エポキシ樹脂組成物を用いて離型紙上に樹脂フィルムを形成し、このフィルムを一方向配列炭素繊維(東邦テナックス社製IM−600)に、樹脂含有量が35重量%となるように加熱加圧して転写し、樹脂目付190g/mの一方向プリプレグを得た。
【0036】
〔一方向繊維強化成形板の作製方法〕
得られた一方向プリプレグを[0°]の方向に10枚積層し、この積層物に真空パックを適用してオートクレーブ内で、温度180℃で2時間加熱し、硬化させて一方向繊維強化成形板を作製した。この間、オートクレーブ内を圧空で0.32MPaに加圧した。
【0037】
〔エポキシ樹脂の粘度測定方法〕
エポキシ樹脂の入った缶を温度25℃の恒温槽に入れ、BH型回転粘度計を用いてエポキシ樹脂の粘度を、前述の方法により測定した。なお、高粘度のエポキシ樹脂を測定する場合には、測定温度を50℃とした。
【0038】
〔炭素繊維強化複合材料(CFRP)のガラス転移温度〕
得られた一方向繊維強化成形板を、3mm×3mmの寸法に加工し、熱機械分析装置(TMA装置)により、試験片加工直後のガラス転移温度を、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0039】
〔プリプレグの作業性−タック性・ドレープ性の評価〕
各プリプレグを触手により、タック性およびドレープ性を10段階評価した。評点方法は、標準的なタック性・ドレープ性を有するプリプレグを別途準備し、これの評点を5とした相対評価により決定した。粘着性の強いプリプレグのタック性に高い得点、および柔軟性の高いプリプレグのドレープ性に高い得点を与えた。
【0040】
〔90°引張強度〕
得られた一方向繊維強化成形板を、所定の寸法に加工して、EN−2597に準拠して、90°引張強度を測定した。
【0041】
〔層間せん断強度〕
得られた一方向繊維強化成形板を、所定の寸法に加工して、EN−2563に準拠して、層間せん断強度を測定した。
【0042】
〔CFRPの面内せん断強度〕
プリプレグを[+45°/−45°]の方向に鏡面対称に16枚積層し、この積層物に真空パックを適用してオートクレーブ内で、温度180℃で2時間加熱し、硬化させて成形板を作製した。この間、オートクレーブ内を圧空で0.32MPaに加圧した。得られた成形板を、所定の寸法に加工して、ASTM D−3518に準拠して、面内せん断強度を測定した。
【0043】
実施例1〜7および比較例1〜4において、以下に示す原材料を使用した。
・多官能性エポキシ樹脂(A)
樹脂A−1:N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製MY−0510)温度25℃における粘度550〜850mPa・s。
樹脂A−2:N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製MY−721)温度50℃における粘度3600〜5000mPa・s。
・ビスフェノール型エポキシ樹脂(B)
樹脂B−1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(常温液状型、東都化成社製YDF−170)温度25℃における粘度2000〜5000mPa・s。
樹脂B−2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(常温液状型、東都化成社製YD−8125)温度25℃における粘度4000〜5000mPa・s。
・熱可塑性樹脂(C)
樹脂C−1:ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学社製スミカエクセルPES5003P)衝撃粉砕により、平均粒子径45μmの微細粒子品。
・硬化剤(D)
硬化剤D−1:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(小西化学工業社製3,3’−DAS)
【0044】
実施例1〜7
表1に示す配合のエポキシ樹脂(A)および(B)の全量を、温度125℃に設定したプラネタリミキサを用いて、均一な溶液になるまで撹拌・混合した。次に熱可塑性樹脂(C)の全量を、この溶液中に加え、樹脂(C)の粉体が均一に溶解するまで約2時間、撹拌・混合した。その後、このプラネタリミキサの温度を95℃に設定し、樹脂温度が均一になったところで、硬化剤(D)を投入して、約1時間、撹拌・混合してエポキシ樹脂組成物を調整した。
【0045】
なお(A)および(B)のエポキシ樹脂成分の単位は、重量%であり、これらの合計は、100重量%である。(C)成分の配合は、(A)および(B)のエポキシ樹脂成分100重量部に対する重量部により表した。また(D)成分の配合は、エポキシ樹脂成分のエポキシ基当量に対する硬化剤の当量により表した。
【0046】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いてプリプレグおよび繊維強化成形板を作成した。さらに、前記の方法でガラス転移温度、炭素繊維強化複合材料の層間せん断強度、0°引張強度、面内せん断強度、プリプレグのタック性およびドレープ性を前記の方法で測定した。その測定結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例1〜4
エポキシ樹脂組成物を表2のように変更したことを除き、実施例と同様に調製して、各種評価を行った。その測定結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物(実施例1〜7)は、特定の粘度を有するエポキシ樹脂成分および熱可塑性樹脂を特定の組成で配合することにより、樹脂硬化物の耐熱性および靭性を高いレベルで両立させながら、タック性およびドレープ性のプリプレグ作業性にも優れ、その実用的価値が高いことが確認された。一方、本発明のいずれかの要件を満たさない比較例では、伸びおよび靭性の改良効果が不十分であるか、プリプレグ作業性に劣ることが確認された。
【0051】
したがって、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いることで、樹脂硬化物の耐熱性および靭性を高いレベルで両立できること、さらに作業性が良好なプリプレグが得られることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に少なくとも3個のエポキシ基を有する多官能性エポキシ樹脂(A)を75〜85重量%と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)を15〜25重量%とから構成されるエポキシ樹脂成分100重量部に対して、前記エポキシ樹脂成分に可溶する熱可塑性樹脂(C)を40〜60重量部、および硬化剤(D)を配合するエポキシ樹脂組成物であって、前記多官能性エポキシ樹脂(A)が、温度25℃における粘度が1000mPa・s以下である低粘度の多官能性エポキシ樹脂を重量割合で3/5以上を含有しており、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(B)の温度25℃における粘度が5000mPa・s以下である繊維強化複合体用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(C)が、平均粒子径200μm以下の微細粒子である請求項1に記載の繊維強化用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(C)が、ポリエーテルスルホン樹脂である請求項1または2に記載の繊維強化用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤(D)が3,3’ジアミノジフェニルスルホンおよび/または4,4’ジアミノジフェニルスルホンであり、該硬化剤の配合量が前記エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対して0.7当量以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を使用する炭素繊維プリプレグ。

【公開番号】特開2006−291095(P2006−291095A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115806(P2005−115806)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】