説明

美白化粧料及びメラニン生成抑制剤

【目的】メタロチオネインを安定化し、メラノサイトのチロシナーゼ活性を抑制することを特徴とする美白化粧料及びメラニン生成抑制剤を提供する。
【構成】(A)メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質と、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質とを含有することを特徴とする美白化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内のメラノサイト自身のメタロチオネイン産生を誘導する物質と、メタロチオネインの分解を抑制する物質とを含有することにより、メラノサイトのチロシナーゼ活性を抑制することを特徴とする美白化粧料及びメラニン生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚が紫外線を浴びたり、炎症を起こしたりした場合、細胞内ではサイトカイン、ケモカインなどの様々な情報伝達物質が放出される。これらの物質の中で、メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)、エンドセリン、ヒスタミン、一酸化窒素などの因子がメラノサイトのチロシナーゼ活性を上昇させることが報告されている。
【0003】
チロシナーゼ活性が上昇した場合、当然のことながらメラニン合成が高まり、その結果、皮膚の色素沈着、しみ、くすみといった症状が現れる。そのため、チロシナーゼ活性上昇を防ぐためには、チロシナーゼ活性阻害剤やメラノサイトを活性化させる物質の抑制剤の使用が考えられる。
【0004】
一方、細胞内で産生される抗酸化物質であるメタロチオネインは炎症時に生じるフリーラジカルのスカベンジャーの働きがあると報告されている(非特許文献1参照)。またメラノサイトにおいては、メタロチオネイン産生誘導することにより、チロシナーゼ活性が抑制されることが報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、メタロチオネインの生体内での役割について、いまだ未解明な部分が多い。
【非特許文献1】Hanada K. et al., Dermatologica, Vol.179(suppl.1), p.143, 1989
【非特許文献2】Sasaki M. et al., Experimental Dermatology, Vol.13, p.465, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、メラノサイトにおいて、メタロチオネイン産生誘導させることによる、チロシナーゼ活性が抑制される効果について検討を重ねたところ、メタロチオネイン産生誘導をやめるとメタロチオネインは時間の経過とともに、比較的短い時間で分解され、細胞内から消失してしまい、チロシナーゼ活性の抑制効果がなくなってしまうことを明らかにした。しかし、現在のところ、メタロチオネインの分解のメカニズムに関しては未解明な部分が多く、またメタロチオネインの分解を抑制する試みは行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はメラノサイト内にメタロチオネインを産生誘導する物質に加え、その分解を抑制する物質を配合することにより、産生されたメタロチオネインを安定化し、メラノサイトのチロシナーゼ活性を抑制することを特徴とする美白化粧料及びメラニン生成抑制剤にある。
【0007】
すなわち本発明の請求項1は、(A)メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質と、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質とを含有することを特徴とする美白化粧料である。
【0008】
また本発明の請求項2は、(A)メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質と、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質とを含有することを特徴とするメラニ
ン生成抑制剤である。
【0009】
また本発明の請求項3は、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質が、白芥子から得られる抽出物であることを特徴とする請求項1記載の美白化粧料である。
【0010】
また本発明の請求項4は、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質が、白芥子から得られる抽出物であることを特徴とする請求項2記載のメラニン生成抑制剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、メラノサイトのチロシナーゼ活性を抑制することができ、皮膚の色素沈着、しみ、くすみの改善ができる美白化粧料及びメラニン生成抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について記述する。
【0013】
本発明に用いられるメタロチオネイン産生誘導物質としては、メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質であれば特に限定されるものではなく、具体的には、塩化亜鉛や、亜鉛を含有する酵母エキス、トウヒ(Citrus aurantium)エキスなどを挙げることができる。亜鉛を含有する酵母エキスとしては、イーストリキッドZB(一丸ファルコス社製)などが好ましいものとして挙げられ、またトウヒエキスとしては、トウヒリキッドB(一丸ファルコス社製)などが好ましいものとして挙げられる。
【0014】
本発明に用いられる(A)メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質の配合量は、美白化粧料又はメラニン生成抑制剤の総量を基準とし、(抽出物の場合は固形分換算で)0.00001〜3.0質量%(以下単に「%」で表す)が好ましく、特に好ましくは0.0001〜1.0%である。
【0015】
本発明に用いられるメタロチオネイン分解抑制物質としては、メラノサイトのメタロチオネイン分解を抑制する物質であれば特に限定されるものではなく、具体的には、アブラナ科ブラシカ属の白芥子(ハクガイシ)の種子、葉、茎、根、又は全草より得られる抽出物などを挙げることができる。その抽出溶媒としては、精製水や、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどのポリオール類、エタノールなどの低級アルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ヘキサン、クロロホルム、ベンゼンなどの炭化水素系溶剤、又はこれらの混液を挙げることができる。
【0016】
本発明に用いられる(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質の配合量は、美白化粧料又はメラニン生成抑制剤の総量を基準とし、(抽出物の場合は固形分換算で)0.00001〜3.0%が好ましく、特に好ましくは0.0001〜1.0%である。
【0017】
本発明の美白化粧料及びメラニン生成抑制剤の使用形態としては、皮膚外用剤があり、例えば、軟膏、ローション、乳液、クリームなどに適用できる。
【0018】
また本発明の美白化粧料及びメラニン生成抑制剤は、抗酸化剤、抗炎症剤、ビタミン及びその誘導体、美白剤、細胞賦活剤など他の有効成分を配合することもできる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の試験例及び実施例を示す。尚、試験例及び実施例にて用いた白芥子抽出物の製造方法は以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
白芥子抽出物の製造
白芥子の種子の粉砕物100gと精製水1000gとを混合してpHを約5に調整し、室温下で24時間抽出したのち、これをろ過して抽出液(固形分含量:約1質量%)を得た。
【0021】
[試験例1]メラノサイト内のメタロチオネイン量
(1)方法
メラノサイトをMCDB153培地にて150×10個/mLに調整し、60mmシャーレに4mLずつ播種し、95%空気(v/v)−5%(v/v)炭酸ガスの雰囲気下、37℃、1日間静置培養した。
【0022】
培養上清を吸引除去し、塩化亜鉛50μmol/L添加した培地を4mLずつ各シャーレに加えた。このシャーレを95%空気(v/v)−5%(v/v)炭酸ガスの雰囲気下、37℃、2日間静置培養し、メタロチオネインをメラノサイト内に産生誘導させた。
【0023】
塩化亜鉛の入った培養上清を吸引除去し、白芥子抽出物を1%添加した培地、及び無添加の培地を4mLずつ各シャーレに加えた。このシャーレを95%空気(v/v)−5%(v/v)炭酸ガスの雰囲気下、37℃静置培養した。
【0024】
2日間培養後、培養メラノサイトから蛋白質を抽出し、ウエスタンブロット解析を行った。バンドの濃さをデンシトメーターで解析した。
【0025】
(2)結果
塩化亜鉛の入った培地を除いた直後のメタロチオネイン量を100として、メタロチオネイン量を示した。結果を図1に示す。
【0026】
図1より塩化亜鉛を加えて産生されたメタロチオネインは、塩化亜鉛を除いた培地に交換することにより、2日後には培地交換直後に比べて約2割程度にタンパク量が減少した。
しかしながら、白芥子抽出物を添加した培地に交換したものでは、メタロチオネインは培地交換直後に比べて約4割程度タンパク質が残っており、分解を抑制していることがわかった。
【0027】
次に、本発明の美白化粧料及びメラニン生成抑制剤の実施例を示す。尚、実施例に示す%とは質量%である。実施例に記載の皮膚色明度回復試験法、官能テスト(美肌効果)は下記の通りである。
【0028】
(1)皮膚色明度回復試験法
被験者20名の背部皮膚にUV−B領域の紫外線を最小紅斑量の2倍照射し、試料塗布部位と非塗布部位を設定して各々の皮膚の基準明度(V0値,V0’値)を測定した。引き続いて塗布部位には試料を1日2回ずつ15週間連続塗布した後、3,6,9,12,15週間後の塗布部位及び非塗布部位の皮膚の明度(Vn値,Vn’値)を測定し、下記の判定基準にしたがって皮膚色の回復を評価した。尚、皮膚の明度(マンセル表色系V値)は高速分光色彩計で測定して得られたX,Y,Z値より算出した。また評価は被験者20名ついて、3週間後の評価点の平均値で示した。

評価点 判断基準
各週間の皮膚明度の回復値の差が下式を満足する試料
5 ΔV−ΔV’≧0.12
4 0.12>ΔV−ΔV’≧0.08
3 0.08>ΔV−ΔV’≧0.04
2 0.04>ΔV−ΔV’≧0
1 0>ΔV−ΔV’

ΔV …塗布部位の回復値 (Vn−V0)
ΔV’…非塗布部位の回復値(Vn’−V0’)
【0029】
(2)官能試験
被験者20名が試料を10日間連用した後の試料の特性を評価した。評価は、平滑性、美白効果、弾力性のアンケート項目に対し、「美白効果が感じられた」と回答した人数で示した。
【0030】
実施例1〜4、比較例1〜2[スキンクリーム]
表1の組成により本発明のスキンクリームを下記の製法により調製した。各々について前記の試験を実施し、その結果を表2、表3に示した。
(組成)
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
(調製方法)
(A)、(B)を70℃にて均一に溶解し、(A)を攪拌しながら(B)を(A)に注入して乳化分散した後、攪拌しながら温度50℃まで冷却して(C)、(D)を加え、さらに攪拌しながら温度30℃まで冷却して調製する。
【0035】
(特性)
本発明の実施例1〜4のスキンクリームは、前記諸試験において良好な結果を示した。一方、比較例1〜2のスキンクリームは、十分な効果が認められず、本発明の実施例に比べて劣っていた。
【0036】
実施例5[乳液]
表4の組成により本発明の乳液を下記の製法により調製した。
(組成)
【0037】
【表4】

【0038】
(調製方法)
(A)、(B)を70℃にて均一に溶解し、(A)を攪拌しながら(B)を(A)に注入して乳化分散した後、攪拌しながら温度50℃まで冷却して(C)、(D)を加え、さらに攪拌しながら温度30℃まで冷却して調製する。
【0039】
(特性)
この実施例5の乳液は、前記諸試験において良好な結果を示した。
【0040】
実施例6[スキンローション]
表5の組成により本発明のスキンローションを下記の製法によって調製した。
(組成)
【0041】
【表5】

【0042】
(調製方法)
(A)、(B)の各成分をそれぞれ混合溶解し、(B)を(A)に加えて混合攪拌した後、(C)を加えて混合攪拌して調製した。
【0043】
(特性)
この実施例6のスキンローションは、前記諸試験において良好な結果を示した。
【0044】
尚、上記実施例における香料は、下記香料処方のものを用いた。
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】塩化亜鉛によってメラノサイトに産生させたメタロチオネインの蛋白質量の、白芥子抽出物による分解抑制を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質と、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質とを含有することを特徴とする美白化粧料。
【請求項2】
(A)メラノサイトのメタロチオネイン産生を誘導する物質と、(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質とを含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質が、白芥子から得られる抽出物であることを特徴とする請求項1記載の美白化粧料。
【請求項4】
(B)メタロチオネインの分解を抑制する物質が、白芥子から得られる抽出物であることを特徴とする請求項2記載のメラニン生成抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−199649(P2006−199649A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14527(P2005−14527)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】