説明

耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材およびそれを用いた電子部品

【課題】耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材、およびそれを用いた電子部品を提供する。
【解決手段】被覆層が素材側からNiまたはNi合金下地めっき層、Cu−Sn合金中間めっき層,表層のSnめっき層からなり、155℃で16時間加熱した際にCu−Sn合金中間めっき層厚さが加熱前のCu−Sn合金中間めっき層厚さの1〜1.3倍とすることにより、Cu−Sn合金層の成長を抑制し、耐ウィスカー性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅合金のリフローSnめっき材に関するものであり、当該めっき材を用いた、コネクタ、端子、スイッチ及びリードフレーム等の電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車、家電、OA機器等の各種電子機器に使用されるコネクタ、端子等の電子部品には銅合金が母材として使用され、これらは防錆、耐食性向上、電気的特性向上といった機能向上を目的としてめっき処理がなされている。めっきにはAu、Ag、Cu、Sn、Ni、はんだ及びPd等の種類があるが、特にSn又はSn合金めっきは低コストで、接触信頼性及びはんだ付け性等が良好である観点からコネクタ、端子、スイッチ及びリードフレームのアウターリード部等に多用されている。Sn又はSn合金めっきとして、従来はSn−Pb(はんだ)めっきが多く用いられてきたが、Pb(鉛)の使用が規制される予定であるため、はんだめっきの代替として、Sn(錫)、Sn−Cu(錫−銅)、Sn−Bi(錫−ビスマス)及びSn−Ag(錫−銀)めっき等のSnを主成分とした鉛フリーめっきに関する研究が近年積極的に実施されている。
しかし、前記鉛フリーめっきには、ウィスカーの発生を抑制するPbが含有されていないため、ウィスカーが発生しやすいという問題があり、その中でもSnめっきはウィスカーが発生しやすい。
【0003】
ウィスカーとはSnの針状結晶が成長したものであるが、場合によっては数十μmにも髭状の結晶組織が成長して電気的な短絡を起こすことがある。このウィスカー現象はSnの再結晶によって起こり、めっき内部応力(CuSnの成長、Snの表面酸化、母材の膨脹収縮及びコネクタ、端子等の形状によっては、プレス加工時に発生する残留応力等の種々の要因が指摘されている)と、めっき層に働く外的応力によって成長する現象であると言われており、接点に応力が集中しやすいタイプの端子、コネクタ(とりわけFPC用コネクタ)等に鉛フリーめっきを施した場合には、ウィスカーの問題がより深刻となる。
上記のようなウィスカー現象の発生を制御するためにこれまでめっき浴の改善による方法や熱処理する方法などの技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ウィスカーの発生し難いSnめっきとして、塩化第一錫、硫酸第一錫を主成分とし苛性ソーダやリン酸で浴pHを中性とした浴にハイドロキシエタンのリン酸エステルを添加した浴が提案されている。
また、非特許文献2では、リフロー錫めっきによって内部応力が緩和されてウィスカーの発生が抑えられることが報告されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭第59−15993号公報
【非特許文献2】原利久、鈴木基彦著、「錫めっき付き銅合金板条」、神戸製鋼技報、2004年4月、Vol.54、No.1、p11−12
【0006】
一方、本発明のように下地めっきとしてNiめっき、中間層としてSn−Cu合金めっき、表面めっきSnめっきをする技術(例えば特許文献3または4参照)が開示されているが、これらの技術においては、めっきの耐熱性を向上させることを目的としており、ウィスカーに関する技術の記載はなく,ウィスカーを抑制するためには、本発明のような特定のめっき技術が必要となる。
【0007】
【特許文献3】特開2002−226982号公報
【特許文献4】特開2004−68026号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ウィスカー抑制技術の開発の基礎となるその発生メカニズムの解明はまだ進行中であり、日米欧の業界団体である社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)、米国電子機器製造者協会(NEMI)及びティンテクノロジー社はんだ付け技術センター(SOLDERTEC)がウィスカー成長のメカニズムの解明及びウィスカー試験方法の標準化の確立を目指すことを2003年に合意したばかりである。
そのため、上で例示したウィスカー問題を巡る背景はウィスカー抑制問題の一側面を示しているに過ぎず、ウィスカー問題の解決には難しい側面が多い。例えば、先に例示したSn、Sn−Cu、Sn−Bi及びSn−Agめっきにも一長一短があるため、これらの中でどのめっきを選択することがもっともウィスカー対策を含めてはんだめっきの代替として有効であるかということすら方向性が定まっていないのが現状である。
【0009】
そして、ウィスカーの抑制技術も多岐にわたり、上述したものの他にもNiやAgの下地による拡散バリアの形成、Au、Pd又はAgのフラッシュめっき、耐熱プリフラックス等による有機被膜処理等の技術も含めた多種多様な可能性が考えられるためウィスカー抑制技術の開発の焦点を絞るのはかなり困難な状況にある。
上記のような現状にも拘らず、急速に展開するIT化に伴う情報機器の高機能化及び小型化は否応にもウィスカー抑制技術の更なる向上を迫っており、より進んだウィスカー抑制技術の開発が求められる。新たな設備投資の少ない簡便な方法によって実施可能なウィスカー抑制技術が提供されれば、産業の発達に資するであろう。
【0010】
そこで、本発明の主要な課題は、とりわけコネクタ、端子、スイッチ及びリードフレーム等の電子部品として使用可能な銅合金条(被めっき材)に施されたSnめっきにおいて、耐ウィスカー性を有すること(ウィスカーの発生しにくく、また発生したウィスカーの長さが短いこと)を特徴とするSnめっき材を提供することであり、その材料を用いた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したような複雑なメカニズムによって発生するウィスカーを抑制する技術を開発すべく、本発明者は鋭意研究を重ねたところ、まずめっきの種類に関してはリフローSnめっきに開発の方向性を見出した。
すなわち、リフローSnめっきは一般的にSn−Cu、Sn−Bi及びSn−Agめっきに比較して同等以上の耐ウィスカー性を有する。しかも、Snめっきは外観や延性に優れ、2元系めっきに比べてめっき液の維持管理も容易で環境に対する影響も少ないという長所を有する。また、Sn−Agめっきではコスト、Sn−Biめっきでは脆性の問題があるため、耐ウィスカー性をより向上させたリフローSnめっきを開発すれば、これが鉛フリーめっきの主流となる可能性もあると考えた。
本発明者は、上記課題を解決すべく更に鋭意研究を続けたところ、銅合金リフローSnめっき条において,下地めっき層、中間めっき層、そして表層のSnめっき層の組成、種類、厚さ特性、構造が特定の条件を満たせば、ウィスカーの抑制できることを見出した。また、本発明の銅合金リフローSnめっき条は、リフロー処理前のめっきの組成、種類、厚さを特定し、適正なリフロー処理条件の選定により、製造可能となる。
【0012】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものであり、以下によって特定される。
本発明は、
(1)被覆層が素材側からNiまたはNi合金下地めっき層、Cu−Sn合金中間めっき層,表層のSnめっき層からなり、155℃で16時間加熱した際にCu−Sn合金中間めっき層厚さが加熱前のCu−Sn合金中間めっき層厚さの1〜1.3倍であることを特徴とする耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材、
(2)NiまたはNi合金下地めっき層とCu−Sn合金中間めっき層の間に、0.3μm以下のCu中間めっき層が存在する上記リフローSnめっき材、
(3)表層のSnめっき層の平均厚さが0.1μm以上1.3μm以下である上記リフローSnめっき材、
(4)下地めっき層がNi−P合金めっきである上記リフローSnめっき材、
(5)下地めっき層の厚さが0.1μm以上5.0μm以下である上記リフローSnめっき材、
(6)表層のSnめっき層の平均結晶粒径が3μm以上である上記リフローSnめっき材、
(7)表層のSnめっき層の残留応力が、0.1MPa以上50MPa以下の引張り応力である上記リフローSnめっき材、
(8)Pbが50〜2000ppm、または、Cu:3〜1000ppm、Fe:3〜1000ppm、そしてAg、Bi、Inから選択された元素の合計5〜2000ppmから1種または2種以上が表層のSnめっきに添加したこと上記リフローSnめっき材、
(9)リフロー処理前のCu中間層厚さが0.1〜0.5μmとする上記リフローSnめっき材、
(10)リフロー処理によりCu中間層を全てCu−Sn合金層に変化させ、その厚さが[リフロー処理前のCu中間層の厚さ(μm)+0.25(μm)]以上になるようした上記リフローSnめっき材、
(11)上記リフローSnめっき材を用いた電子部品、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、めっきに外的応力がかかってもウィスカーが発生しにくいリフローSnめっきを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る耐ウィスカー性の優れたリフローSnめっき材の実施の形態について説明する。
<めっき母材>
めっき母材は、銅合金条からなる。通常、本発明の銅合金条は電気・電子機器の接続端子等に用いられるので、電気伝導率の高いもの(例えば、IACS(International Anneild Copper Standerd:国際標準軟銅の導電率を100としたときの値)が15〜80%程度)を用いることができる。
【0015】
<下地めっき>
下地めっき層は母材表面に形成され、本発明ではNiまたはNi合金めっきが下地めっき層として施される。
母材成分のCuは表層めっきのSnと相互拡散し、経時的にCu−Sn合金が生成されるが、特にCu6Sn5合金はCuやSnに比較して体積が大きいため、めっき内部に圧縮応力を発生させ、ウィスカーの発生を促進させる。
下地めっき層のNiまたはNi合金めっきは、母材からSnめっきへのCuの拡散を防止バリアとなる。
Ni合金めっきとしては、Ni−P、Ni−Co、Ni−Fe、Ni−Cr、Ni−Bめっきなどが利用できるが、特にNi−P合金めっきの場合はPの一部が中間層または表面めっきに拡散し、ウィスカー発生を抑制するとともに,表面めっきの酸化を防止しはんだ付け性の劣化を抑えるため、本発明の下地めっきとして好ましい。Pの濃度は0.1〜10%が好ましく、0.1%以下では効果が得られず,10%以上の場合にはめっき層が硬くなり、プレス加工性の低下などの弊害がある。
下地めっき層の厚さは、通常0.1μm以上5μm以下になるように形成する。NiおよびNi合金めっきは一般的に行われている方法、例えばワット浴やスルファミン酸浴、あるいは合金めっきの場合はこれらのめっき浴に亜りん酸などを添加してめっきする。
【0016】
<中間層>
中間層のめっきとして下地めっきの上にCuめっきを施し,表層のSnめっき後リフロー(加熱、溶融)処理し、Cu−Sn合金(化合物)を生成させるが、リフロー処理前のCuめっきの厚さは0.1μm以上、0.5μm以下とする。リフロー処理にて生成する、このCu−Sn合金層は下地めっき層の構成元素であるNiのSnへの拡散を防止する働きがあり、厚さが0.1μm未満の場合は、NiのSnへの拡散を防止することができない。
一方、中間層のCuはリフロー処理において大部分がSnと反応(合金化)し、リフロー処理後は殆ど経時的に変化しないことが望まれる。例えば合金化が経時的に進行すると、めっき層中に圧縮応力を生み出すCuSn合金が新たに生成され、結果的にウィスカーが発生しやすくなるからである。
【0017】
リフロー処理前のCu厚さは0.5μm以下が望ましく、より好ましくは0.3μm以下である。Cu厚さが0.5μmを超えると、リフロー処理後においても厚い中間Cuめっき層が残存し、コネクタ、端子等に加工後も、経時的にSnとの合金化反応が進み、圧縮応力が生成し、ウィスカーが発生してしまう。
リフロー処理後におけるCu−Sn合金層の厚さは[リフロー処理前のCu中間層の厚さ(μm)+0.25(μm)]以上にすることが必要であり、このためには、リフロー処理温度と時間を最適な範囲に設定する必要がある。Cu−Sn合金層の平均厚さは、まず[合金層+Sn]層のうちSn層のみを陽極電解法により除去し、次に残留した合金層厚さを蛍光X線で測定する。例えば、リフロー処理後のCu−Sn合金層厚さを測定し、その値が[リフロー処理前のCu中間層の厚さ(μm)+0.25(μm)]未満であれば、リフロー処理温度を上げるか、あるいは、リフロー処理する時間を長くするなどして、リフロー処理条件を最適化する。
【0018】
先述したように、リフロー処理後の中間層のCu−Sn合金層は殆ど経時的に成長しないことが必要であるが、この成長のしにくさは、リフローSnめっき材を155℃で16時間加熱することにより確認できる。すなわち、155℃で16時間加熱後のCu−Sn合金層の厚さが、加熱前の厚さの1.3倍以下であれば、新たに生成するCu−Sn合金は殆どなく、ウィスカーは生成しにくくなる。より好ましくは1.2倍以下であることが望ましい。Cu中間層はリフロー処理によりその大部分がCu−Sn合金になるが、上記の条件(加熱後の厚さが加熱前の1.3倍以下)を満たすのであれば、Cu中間層が多少残存していてもかまわない。
中間層のCuめっきは一般的に行われている方法、例えば硫酸浴を用いて行うが,Cuめっき液に適当な添加剤やCu以外の金属塩を添加し、例えばCu−SnやCu−Ni合金めっきにしても本発明のめっきと同一な構成が得られるのであればかまわない。
【0019】
<表面めっき>
中間層の上に表層めっきとしてSnめっきを施す。リフロー処理後の表層Snめっきの平均厚さは0.1μm以上1.3μm以下であり、好ましくは0.2μm以上1.1μm以下である。Sn層厚さが0.1μm未満でははんだ付け性が悪くなり、1.3μmを超える場合はウィスカーが発生しやすくなる。
Snめっきは、それ自体公知の方法により行うことができるが、例えば有機酸浴(例えばフェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴及びアルカノールスルホン酸浴)、硼フッ酸浴、ハロゲン浴、硫酸浴、ピロリン酸浴等の酸性浴、或いはカリウム浴やナトリウム浴等のアルカリ浴を用いて電気めっきすることができる。
これらのめっき浴に各種金属塩を添加し、Snに金属元素を添加しためっきとすることによりウィスカーの発生、成長を抑制することができる。以下これら合金元素の効果について説明する。
【0020】
Snめっき中にPb(鉛)を50〜2000ppm好ましくは100〜1000ppm添加することによりである。PbはSnめっきに10%(100000ppm)程度添加することによりウィスカーを抑制できることは従来知られていたが、本発明のめっきの構成において、より低い濃度のPbでもウィスカーを抑制できることを見出した。Snめっきへの微量Pb添加することにより、Snめっきが「粒界すべり」を起こしやすくなり、外的応力がかかっても、応力が緩和されるためである。Pbの添加は、Snめっき浴にPbO(酸化鉛)、メタンスルホン酸鉛などを添加することによる得ることができる。
【0021】
また,Snめっき中に微量添加元素としてCu、Fe、Ag、Bi、Inのなかから1種もしくは2種以を添加してウィスカーを抑制することができる。これらの元素は、Snめっき中に添加することにより、Snの拡散を抑え、その結果Cu−Sn合金の成長を抑制し,本発明のウィスカー発生の抑制効果をさらに大きくすることが可能となる。
リフロー処理後のSn層中のCu濃度は3〜1000ppmであり、好ましくは10〜500ppmである。Snめっきへの微量Cu添加はSnめっき浴に硫酸銅やメタンスルホン酸銅を添加することにより得ることができる。
リフロー処理後のSn層中のFe濃度は3〜1000ppmであり、好ましくは10〜500ppmである。Snめっきへの微量Fe添加はSnめっき浴に硫酸鉄やメタンスルホン酸鉄を添加することにより得ることができる。
さらに、Snめっきに添加元素としてAg,Bi,Inの中から選択された元素は合計5〜2000ppm添加することができる。Snめっきへのこれら元素の微量添加は、Ag,Bi,Inの金属塩をSnめっき浴中に添加することにより得ることができる。
【0022】
本発明では、リフロー処理後の表層のSn層内のSn結晶粒径が大きい場合に、ウィスカーが発生しにくくなり、さらに改善されることも見出した。ウィスカー発生はSnの拡散が駆動力になるが、拡散は結晶粒界が経路になるため、結晶粒界が大きく,その結果粒界の面積が小さくなるほどSnが拡散しにくくなる。表層のSn層内のSnの平均結晶粒径が3μm以上の場合、ウィスカーの発生、成長は遅くなる傾向がある。本発明で規定しているめっきの平均結晶粒径を得るためには、リフロー処理温度を300〜450℃に、リフロー処理時間を5〜30秒に、さらにリフロー処理した直後にめっき材を40〜60℃の湯に浸漬させて冷却することにより得ることができる。リフロー処理の温度、時間は、その銅合金素材の厚さ,表層のSnめっきの厚さにより条件が異なり、表層のSnめっきの平均結晶粒径が3μm以上となる条件を適宜選択する。
Snの粒径はめっき断面を観察することにより確認することができ、リフローSnの場合、球状ではなく,角形や細長い形状あるいは円盤状のものが観察され。本発明では,結晶粒の中で最も長い部分を測定し粒径とした。そして、平均結晶粒径は以下にて算出した。
まずめっきをFIB(Focused Ion Beam)で切断し、断面SIM(Secondary Ion Micrography) 像(5000〜40000倍)を写真撮影する。この写真をもとに、粒輪郭(楕円)の長径を粒径として,粒径の大きいものから3個選び、その平均値を平均結晶粒径とした。
【0023】
本発明は、リフロー処理後の表層のSnめっき層内の残留応力の影響についても見出した。Sn層の残留応力を引張り応力にして、かつその大きさが0.1Pa以上50MPaにすることにより、ウィスカーの発生がさらに抑制される。予めSnめっき層の残留応力を引張り応力にする理由は、電子部品にプレス加工されたときに表層のSnめっきに外的応力がかかったとしても、Snめっき層内に残留する引張り応力と相殺され、Snめっき層内に圧縮応力が発生しにくいからである。Snめっき層内の引張り応力が0.1MPa未満の場合にはその効果が小さく、外的応力によりSnめっき層内に圧縮応力が発生してウィスカーが発生しやすくなり、また50MPaを超える場合にはウィスカー抑制効果が飽和する一方で、めっきした材料に反りが発生しやすくなるなどの問題が発生する。
本発明で規定しているめっきの残留応力を得るためには、リフロー処理温度を300〜450℃に、リフロー処理時間を5〜30秒に、さらにリフロー処理した直後にめっき材を40〜60℃の湯に浸漬させて冷却することにより得ることができる。リフロー処理の温度、時間は、上記したSnめっき層の平均結晶粒径の制御と同様に上記の範囲から、所望の残留応力が得られる最適条件が選択される。
なお,めっき層の残留応力を測定する手段としては、テストストリップによるめっき膜残留応力測定方法(薄い金属板の片面にめっきを行い、めっき後の板の反り量を測定して残留応力を測定)、X線回折法によるめっき膜残留応力測定方法がある。
【0024】
以上説明したように、本発明の方法により銅合金条にめっきした材料、あるいはこのめっき材をプレス加工した端子等は、優れた耐ウィスカー性(低ウィスカー性)を有する。一方、銅合金条をプレス加工した端子等に、本発明の方法でリフローSnめっきを施しためっき端子等も同様に耐ウィスカー性を有する。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(1)リフローSnめっき試料の作製
めっき母材として、厚さ0.29mmの黄銅板に、Niめっき(スルファミン酸浴を基本として各合金元素の塩や亜りん酸を添加、陰極電流密度:4A/dm、めっき直後のめっき厚さ:0.5μm),中間層のCuめっき(硫酸浴、陰極電流密度:2A/dm、めっき直後のめっき厚さ:0.05〜1.0μm)、及びSnめっき(メタンスルホン酸浴を基本として各添加元素の塩を添加,陰極電流密度4A/dm,めっき直後のめっき厚さ:1.0〜1.5μm)を順に行った。次に、この試料を加熱しリフロー処理(300〜350℃で10秒程度)して評価に供した。また本実施例では、母材として黄銅条を端子にプレス加工したものを母材として、これに上記の各めっきを施した試料も作製した(表1、実施例3)。
各実施例に使用した試料を表1及び表2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
(2)Cu−Sn合金層平均厚さ測定方法
まず表面めっきのSn層を除去し、除去した後に残留するCu−Sn合金層の厚さは蛍光X線膜厚計を用いて測定する。なお表面めっき中のSn層は、電解液としてコクール社製R−50を用い、リフローSnめっきを陽極として電解して除去した。Cu−Sn合金の種類(組成)は、めっき断面を電子線マイクロアナライザで分析して決定した。
【0029】
(3)ウィスカー評価方法
銅合金条に本発明のめっきを施した板材(前めっき材)のウィスカーの評価は、Snめっき表面に圧子(直径1.4mmのステンレス球)を接触させ、1.5Nの荷重をかけて168時間室温で、空気雰囲気中に放置させ、試料を取り出しSEMでその表面を観察した(図1)。
また銅合金条を端子にプレス加工し、この端子にめっきしたもの(後めっき材)の評価は、端子とSnめっきしたFFC(フレキシブルフラットケーブル)とを嵌合(接点圧1.5N)させ、168時間室温で放置させ、試料を取り出しSEMでその表面を観察した。
ウィスカー平均長さは、まずSEMにより試料表面0.2mm×0.4mmの視野を観察し,ウィスカー発生部位付近を1000〜2000倍の倍率で撮影し、写真の中のウィスカーから最も長いものを3本選び、それら長さの平均値とした。
【0030】
(4)はんだ付け性評価方法
フラックスとして市販のRMA級フラックスを用い、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。なお測定用には、リフローSnめっき材を155℃で16時間加熱した試料を用いた。
【0031】
(5)各試料(実施例、比較例)の評価結果
各試料の評価結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
発明例No.1〜17においては、平均ウィスカー長さが15μm以下と短く、耐ウィスカー性が良好であった。表層のSnめっき層の平均結晶粒径、残留応力が本発明の範囲内である、発明例1〜6は、10μm以下の平均ウィスカー長さとなる。微量元素を添加した発明例7〜13では、平均ウィスカー長さはさらに短くなり,良好な結果が得られている。
比較例No.18は、従来のCu下地のみを施したリフローSnめっきであり、本発明例に比較するとウィスカーが長くなっている。
比較例No.19は、従来のNi下地のみを施し、中間層のCu−Sn合金層がない例であり、本発明例に比較するとウィスカーが長くなっている。
比較例No.20は、リフロー処理を行わないめっきであり、表面めっきの平均粒径が3μm未満であり、表面めっきの残留応力は圧縮応力になっている。ウィスカー長さは、本発明例に比較すると長くなっている。なおリフロー処理無しの場合も、FIBによるめっき断面観察で結晶粒を観察することができ、その形状はリフロー処理めっきに比べ小さく、球形に近い形状を示す。
比較例No.21は、フロー時の温度が低く、リフロー処理後のCu−Sn層(中間層)の厚さが、[リフロー処理前のCu中間層の厚さ(μm)+0.25(μm)]の値よりも小さい。また、リフロー処理したSnめっき材を155℃で16時間加熱した際に,Cu−Sn合金層の厚さが,加熱前のCu−Sn層厚さの1.3倍を超えている。このようなめっきは、例えばリフロー処理時の加熱時間を短くした場合にも得られる。ウィスカー長さは、本発明例に比較すると長くなっている。
【0034】
比較例No.22は、表面めっきのSn層厚さが0.1μm未満のめっきであり、はんだ付け性が悪い(濡れ性)。
比較例No.23は、表面めっきのSn層厚さが1.3μmを超える場合であり、ウィスカーが長く成長した。
比較例No.24は、リフロー処理前のCu中間層厚さが0.1μm未満の場合であり、下地めっき層のNiのSnへの拡散が防止できず、ウィスカーが長く成長した。
【0035】
比較例No.25は、リフロー処理前のCu中間層厚さが0.5μmを越すめっきであり、リフロー処理後のCu−Sn合金層厚さは、[リフロー処理前のCu中間層の厚さ(μm)+0.25(μm)]の値に比較して小さい値になり、かつ、リフロー処理したSnめっき材を155℃で16時間加熱した際に,Cu−Sn合金層の厚さが,加熱前のCu−Sn層厚さの1.3倍を超えている。ウィスカー長さは、本発明例に比較すると長くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】めっき表面にステンレス球を押し当ててウィスカーを発生させてウィスカー発生状況を評価する装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆層が素材側からNiまたはNi合金下地めっき層、Cu−Sn合金中間めっき層,表層のSnめっき層からなり、155℃で16時間加熱した際にCu−Sn合金中間めっき層厚さが加熱前のCu−Sn合金中間めっき層厚さの1〜1.3倍であることを特徴とする耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項2】
被覆層が素材側からNiまたはNi合金下地めっき層、0.3μm以下のCu中間めっき層、Cu−Sn合金中間めっき層、表層のSnめっき層からなり、155℃で16時間加熱した際にCu−Sn合金中間めっき層厚さが加熱前のCu−Sn合金中間めっき層厚さの1〜1.3倍であることを特徴とする耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項3】
表層のSnめっき層の平均厚さが0.1μm以上1.3μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項4】
下地めっき層がNi−P合金めっきであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項5】
下地めっき層の厚さが0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項6】
表層のSnめっき層の平均結晶粒径が3μm以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項7】
表層のSnめっき層の残留応力が引張り応力であり,かつその大きさが0.1MPa以上50MPa以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項8】
表層のSnめっき層に、微量添加元素としてPbを50〜2000ppm添加したことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項9】
表層のSnめっき層に、微量添加元素としてCu:3〜1000ppm、Fe:3〜1000ppm、そしてAg、Bi、Inから選択された元素の合計5〜2000ppmから1種または2種以上添加したことを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項10】
リフロー処理前のCu中間層厚さが0.1〜0.5μmであることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項11】
リフロー処理によりCu中間層を全てCu−Sn合金層に変化させ、その厚さが[リフロー処理前のCu中間層の厚さ(μm)+0.25(μm)]以上になるようにリフロー処理したことを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材。
【請求項12】
請求項1〜11何れかに記載の耐ウィスカー性に優れた銅合金リフローSnめっき材を用いた電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−321177(P2007−321177A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150084(P2006−150084)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】