説明

耐圧容器製造方法及び繊維束巻付装置

【課題】 円筒の両端にドーム部が連設されたライナに繊維束を巻き付けることにより、強化した耐圧容器を製造する耐圧容器製造方法において、繊維束の巻き付け時にライナに作用する荷重を大幅に低減することによりライナの破損を防止する。また、この耐圧容器製造方法の実施に使用される繊維束巻付装置を提供する。
【解決手段】 ライナ10に繊維束20を巻き付ける際に、ライナ10の周囲を回転する第1可動レール3に第1ボビン群を配置し、第1可動レール3に隣接してライナ10の周囲を回転する第2可動レール4に第2ボビン群を配置し、ライナ10を軸方向に往復移動させながら、第1ボビン群と第2ボビン群とをライナ10の周囲で相互に反対方向に周回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐圧容器製造方法及び繊維束巻付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、CNG(Compressed Natural Gas)やCHG(Compressed Hydrogen Gas)等の加圧ガスや低温ガスを貯蔵・輸送したりするための耐圧容器が実用化されている。従来は、高強度でガスバリア性に優れる金属製の耐圧容器が主流であったが、金属製の耐圧容器は重量が大きいため、軽量化が求められる自動車や宇宙航行体の燃料タンクに適用することが困難であった。このため、現在においては、アルミニウムやプラスチックで調製された中空円筒状のライナの外周にFRP(Fiber Reinforced Plastics)層が形成されてなる比較的軽量の耐圧容器が提案されている。
【0003】
中空円筒状のライナの外周にFRP層を形成する方法としては、FW(Filament Winding)法がある。FW法は、1本の繊維束に予め樹脂を含浸させ、この繊維束をライナに巻き付けて繊維層を形成する方法であり、この繊維層に樹脂を含浸させ硬化させることによりFRP層が形成される。FW法を採用すると、比較的軽量でかつ高い強度を有する耐圧容器を得ることが可能となるが、1本の連続した繊維束をライナに巻き付ける作業に長時間を要してしまうという問題がある。例えば、約20MPaのCNGが充填されるCNGタンクを製造する場合には、繊維束の巻き付けに約4時間程度を要する。また、約70MPaのCHGが充填される燃料電池車用CHGタンクを製造する場合には、CHGの圧力に抗するために繊維束の巻き付け量をさらに増大させる必要があり、多大な製造時間を要することとなっていた。
【0004】
このような問題を解決するために、近年においては、ブレイダを用いて複数の繊維束を織り込んでライナの外周に織物状の繊維層を形成する方法(ブレイディング法)が提案されている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照。)。ブレイディング法を採用すると、FW法を採用した場合と比較して、耐圧容器の製造時間を短縮することができるが、ブレイディング法は本来組紐を作成する技術であり、繊維束を織り込むものであるため、本来の繊維束の強度が充分に活用できないという問題があった。
【0005】
このため、近年においては、ブレイディング法のように繊維束を織り込むことなく、FW法を基にして、複数本の繊維束をライナの外周に巻き付けて繊維層を成形する方法(以下「改良FW法」という)が提案されている。改良FW法においては、複数本の繊維束をライナに巻き付けるため、1本の繊維束をライナに巻き付ける従来のFW法と比較すると耐圧容器の製造時間を格段に短縮することができるという利点がある。
【特許文献1】特開平11−240078号公報
【特許文献2】特開平11−262955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のFW法や改良FW法においては、ライナに巻き付けられた繊維束に緩みが発生しないように、繊維束にきわめて高い張力を加えながら巻き付けを行っている。従って、複数本の繊維束をライナに巻き付ける改良FW法を採用すると、繊維束の本数倍の荷重がライナに作用することとなる。このため、ライナの強度が比較的低い場合(ライナがプラスチックで調製されている場合や、軽量化を目的としてライナの肉厚を極薄にしている場合)には、複数の繊維束に加えられた高い張力によってライナの円筒部やドーム部が破損したり、ライナのドーム部と口金との接合部が破損したりする場合があった。
【0007】
本発明の課題は、ライナに複数本の繊維束を巻き付け、この繊維束に含浸させた樹脂を硬化させて耐圧容器を製造する耐圧容器製造方法において、繊維束の巻き付け時にライナに作用する荷重を大幅に低減することにより、ライナの破損を防止することである。
【0008】
また、本発明の課題は、前記した耐圧容器製造方法を実施する際に使用される繊維束巻付装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、円筒部とこの円筒部の両端に連設されたドーム部とこのドーム部の頂部に凸状に設けられた口金とを有するライナの外周に繊維束を巻き付けて繊維層を形成し、この繊維層に含浸させた樹脂を硬化させて外殻を形成することにより耐圧容器を製造する方法であって、複数のボビンを有してなる第1ボビン群を前記ライナの周囲に周回自在に配置する第1ボビン群配置工程と、複数のボビンを有してなる第2ボビン群を前記第1ボビン群に隣接させて前記ライナの周囲に周回自在に配置する第2ボビン群配置工程と、前記ライナを軸方向に往復移動させながら、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で所定の方向に周回させるとともに前記第1ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第1繊維層を形成する第1繊維層形成工程と、前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で前記第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに前記第2ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第2繊維層を形成する第2繊維層形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、第1ボビン群をライナのライナの周囲に周回自在に配置するとともに、第2ボビン群を第1ボビン群に隣接させてライナの周囲に周回自在に配置する。次いで、ライナを軸方向に往復移動させながら、第1ボビン群をライナの周囲で所定の方向に周回させるとともに第1ボビン群から繊維束を供給して、ライナの外周に繊維束を巻き付けて第1繊維層を形成する。続いて、第2ボビン群をライナの周囲で第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに第2ボビン群から繊維束を供給して、ライナの外周に繊維束を巻き付けて第2繊維層を形成する。
【0011】
すなわち、第1ボビン群及び第2ボビン群から供給される繊維束をライナの外周に巻き付ける際に、第1ボビン群から供給される繊維束の巻付方向と、第2ボビン群から供給される繊維束の巻付方向と、を逆転させる。従って、第1ボビン群から供給される繊維束の巻き付け時における張力を、第2ボビン群から供給される繊維束の巻き付け時における張力によって打ち消すことができるので、ライナに作用する荷重を大幅に低減することができる。この結果、ライナの円筒部及びドーム部の破損や、ライナのドーム部と口金との接合部の破損を防止することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐圧容器製造方法において、強化繊維及び繊維状熱可塑性樹脂によって前記繊維束を構成し、前記第1繊維層形成工程及び前記第2繊維層形成工程で、前記ライナの外周に前記繊維束を巻き付けた直後に、前記繊維状熱可塑性樹脂を加熱して溶融させて前記強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、その後自然冷却により熱可塑性樹脂を硬化させることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程で、ライナの外周に繊維束を巻き付けた直後に、繊維束を構成する繊維状熱可塑性樹脂を加熱して溶融させることにより、繊維束を構成する強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、その後自然冷却により熱可塑性樹脂を硬化させる。従って、巻き付け時における張力を維持した状態で繊維束をライナに固定することができるので、巻き付け後の繊維束の緩みを未然に防止することができる。この結果、耐圧容器の強度を高めることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の耐圧容器製造方法において、前記第1繊維層形成工程で、前記第1繊維層の形成位置が前記ライナの前記口金の根元部に到達した時点で前記ライナの移動を停止させ、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で略半周周回させた後、前記ライナを軸に沿って逆方向に移動させながら前記第1繊維層の形成を続行することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか一項に記載の耐圧容器製造方法において、前記第2繊維層形成工程で、前記第2繊維層の形成位置が前記ライナの前記口金の根元部に到達した時点で前記ライナの移動を停止させ、前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で略半周周回させた後、前記ライナを軸に沿って逆方向に移動させながら前記第2繊維層の形成を続行することを特徴とする。
【0016】
請求項3又は4に記載の発明によれば、第1・第2繊維層形成工程で、第1・第2繊維層の形成位置がライナの口金の根元部に到達した時点でライナの移動を停止させる。そして、第1・第2ボビン群をライナの周囲で略半周周回させることにより、第1・第2ボビン群を構成する各ボビンを周回前の位置に対して口金を挟んで略相対する位置に配置した後、ライナを軸に沿って逆方向に移動させながら第1・第2繊維層の形成を続行する。従って、ライナの移動方向を逆転させる際に繊維束を切断したり、繊維束を大きく屈曲させて折り返したりする必要がないので、繊維強化複合材製の外殻の強度を高めることができ、ひいては、耐圧容器の強度を高めることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか一項に記載の耐圧容器製造方法において、前記ライナの前記ドーム部の外周に繊維束を巻き付ける際に、前記第1ボビン群から供給される繊維束の巻付角度と、前記第2ボビン群から供給される繊維束の巻付角度と、を異ならせることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、ライナのドーム部の外周に繊維束を巻き付ける際に、第1ボビン群から供給される繊維束の巻付角度と、第2ボビン群から供給される繊維束の巻付角度と、を異ならせるので、繊維束同士の干渉を防ぐことができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、耐圧容器用のライナの外周に繊維束を巻き付けて繊維層を形成する繊維束巻付装置であって、前記ライナを軸方向に往復移動させるライナ移動手段と、前記ライナの周囲に配置された複数のボビンを有してなる第1ボビン群と、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で所定の方向に周回させる第1周回手段と、前記第1ボビン群に隣接して前記ライナの周囲に配置された複数のボビンを有してなる第2ボビン群と、前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で前記第1ボビン群と逆方向に周回させる第2周回手段と、前記ライナを軸方向に往復移動させながら、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で所定の方向に周回させるとともに前記第1ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第1繊維層を形成し、かつ、前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で前記第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに前記第2ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第2繊維層を形成するように前記ライナ移動手段、前記第1周回手段及び前記第2周回手段を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、制御装置がライナ移動手段及び第1周回手段を制御することにより、ライナを軸方向に往復移動させながら、第1ボビン群をライナの周囲で所定の方向に周回させるとともに第1ボビン群から繊維束を供給して、ライナの外周に繊維束を巻き付けて第1繊維層を形成することができる。また、制御装置がライナ移動手段及び第2周回手段を制御することにより、第2ボビン群をライナの周囲で第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに第2ボビン群から繊維束を供給して、ライナの外周に繊維束を巻き付けて第2繊維層を形成することができる。
【0021】
すなわち、第1ボビン群及び第2ボビン群から供給される繊維束をライナの外周に巻き付ける際に、第1ボビン群から供給される繊維束の巻付方向と、第2ボビン群から供給される繊維束の巻付方向と、を逆転させることができる。従って、第1ボビン群から供給される繊維束の巻き付け時における張力を、第2ボビン群から供給される繊維束の巻き付け時における張力によって打ち消すことができるので、ライナに作用する荷重を大幅に低減することができる。この結果、ライナの円筒部及びドーム部の破損や、ライナのドーム部と口金との接合部の破損を防止しながら、耐圧容器用のライナに繊維束を巻き付けて繊維層を形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ライナの周囲に配置された第1ボビン群と、この第1ボビン群に隣接するように配置された第2ボビン群と、から供給される繊維束をライナに巻き付ける際に、第1ボビン群から供給される繊維束の巻付方向と、第2ボビン群から供給される繊維束の巻付方向と、を逆転させるので、第1ボビン群から供給される繊維束の巻き付け時における張力を、第2ボビン群から供給される繊維束の巻き付け時における張力によって打ち消すことができる。この結果、ライナに作用する荷重を大幅に低減することができ、ライナの円筒部及びドーム部の破損や、ライナのドーム部と口金との接合部の破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図を用いて詳細に説明する。
【0024】
まず、図1を用いて、本実施の形態に係る耐圧容器製造方法で使用される繊維束巻付装置1について説明する。繊維束巻付装置1は、図1に示すように、ロボットアーム2、第1可動レール3、第2可動レール4、第1可動レール3及び第2可動レール4に取り付けられる複数のボビン5、第1可動レール3や第2可動レール4を駆動する図示されていないレール駆動装置、ロボットアーム2やレール駆動装置を制御する図示されていない制御装置、等を備えて構成されている。
【0025】
ロボットアーム2は、図1(a)に示すように、耐圧容器用のライナ10の両端を保持するチャックを備えている。また、ロボットアーム2は、ライナ10の軸方向(図1(a)のX1方向又はX2方向)に移動するように構成されており、その移動速度や位置は制御装置によって制御されるようになっている。ロボットアーム2がチャックでライナ10の両端を保持した状態で移動することにより、ライナ10を軸方向に移動させることができる。すなわち、ロボットアーム2は本発明におけるライナ移動手段である。
【0026】
第1可動レール3は、図1(a)、(b)に示すように、ライナ10の軸方向に対して直角な第1仮想平面P1上にかつライナ10の周囲に設けられた環状のレールであって、ライナ10の周方向(図1(b)におけるR1方向)に回転移動するように構成されている。第2可動レール4は、図1(a)、(c)に示すように、ライナ10の軸方向に対して直角で第1仮想平面P1に隣接する第2仮想平面P2上にかつライナ10の周囲に設けられた環状のレールであって、第1可動レール3と逆方向(図1(c)におけるR2方向)に回転移動するように構成されている。
【0027】
ボビン5は、図1(b)、(c)に示すように、第1可動レール3及び第2可動レール4に一定間隔をおいて取り付けられている。第1可動レール3に取り付けられた複数のボビン5は、本発明における第1ボビン群を構成し、第1可動レール3とともに図1(b)におけるR1方向に回転移動(周回)する。また、第2可動レール4に取り付けられた複数のボビン5は、本発明における第2ボビン群を構成し、第2可動レール4とともに図1(c)におけるR2方向に回転移動(周回)する。ボビン5には、ライナ10の外周に繊維層を形成するための繊維束が巻き付けられる。
【0028】
第1可動レール3及び第2可動レール4は、各々図1(a)に示した枠部材6によって支持されており、図示されていないレール駆動手段により駆動される。そして、制御装置がこのレール駆動手段を制御することにより、第1可動レール3及び第2可動レール4の回転速度が制御されるようになっている。第1可動レール3及びこれを駆動するレール駆動手段は、本発明における第1周回手段を構成する。また、第2可動レール4及びこれを駆動するレール駆動手段は、本発明における第2周回手段を構成する。
【0029】
制御装置は、ロボットアーム2の移動速度や位置を制御するとともに、レール駆動装置を制御することによって第1可動レール3及び第2可動レール4の回転速度を制御する。また、制御装置は、各ボビン5に設けられた図示されていないフィードアイの位置を制御する。
【0030】
次に、図1〜図5を用いて、前記した繊維束巻付装置1等を用いた耐圧容器製造方法について説明する。
【0031】
まず、所定の成形装置を用いて、耐圧容器用のライナ10を成形する(ライナ成形工程)。本実施の形態においては、ガスバリア性に優れるとともに寸法安定性・耐薬品性に優れる液晶樹脂を用いてブロー成形法によりライナ10を成形している。ライナ10は、図1(a)及び図2に示すように、円筒部11と、この円筒部11の両端に形成されたドーム部12と、を有しており、ドーム部12の頂部には、金属製の口金13が凸状に取り付けられている。
【0032】
次いで、複数の炭素繊維からなる炭素繊維束に繊維状熱可塑性樹脂を組み込んで繊維束20を調製する(繊維束調製工程)。繊維束20は、図1に示した繊維束巻付装置1の各ボビン5に巻き付けられ、後述する第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程で使用される。繊維束20に組み込まれる熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイト、ポリエチレンテレフタレート、等を採用することができ、本実施の形態においては高密度ポリエチレンを採用している。
【0033】
次いで、図1(a)に示すように、繊維束巻付装置1のロボットアーム2のチャックでライナ10の両端に設けられた口金13を保持することにより、ライナ10を所定の位置に固定する。そして、図1(b)に示すように、繊維束巻付装置1の第1可動レール3に取り付けられた第1ボビン群を構成する各ボビン5と、第2可動レール4に取り付けられた第2ボビン群を構成する各ボビン5と、から繊維束20を供給し、これら繊維束20の端部を、ライナ10の円筒部11の周囲に取り付ける。この際、ハンダゴテ等を用いて繊維束20の端部の熱可塑性樹脂を加熱溶融してライナ10の円筒部11に融着する(繊維束融着工程)。
【0034】
なお、繊維束融着工程における融着温度は、繊維束20を構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、ライナ10の耐熱温度以下の範囲内で設定するようにする。本実施の形態においては、高密度ポリエチレンの溶融温度が130℃であり、液晶樹脂の耐熱温度が280℃であるため、140℃以上200℃以下の範囲内で融着温度を設定している。
【0035】
次いで、繊維束巻付装置1の制御装置がロボットアーム2及びレール駆動手段を制御することにより、ライナ10を図1(a)のX1方向及びX2方向に移動(往復移動)させながら、第1ボビン群をライナ10の周囲で図1(b)のR1方向に周回させるとともに第1ボビン群から繊維束20を供給し、ライナ10の円筒部11及びドーム部12の外側に繊維束20を巻き付けて第1繊維層を形成する(第1繊維層形成工程)。また、繊維束巻付装置1の制御装置は、第2ボビン群をライナ10の周囲で第1ボビン群と逆方向(図1(c)のR2方向)に周回させるとともに第2ボビン群から繊維束20を供給し、ライナ10の円筒部11及びドーム部12の外側に繊維束20を巻き付けて第2繊維層を形成する(第2繊維層形成工程)。
【0036】
第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程において、繊維束巻付装置1の制御装置は、図2に示すように第1繊維層及び第2繊維層の形成位置がライナ10の口金13の根元部に到達した時点でライナ10の移動を停止させ、各ボビン5をライナ10の周囲で略半周周回させる。
【0037】
このような各ボビン5の動作を、第1繊維層形成工程で使用される一のボビン5を例に挙げて図3を用いて具体的に説明する。ボビン5は、第1可動レール3に取り付けられて図3の矢印R1方向に回転し、ライナ10の第1繊維層を形成するものとする。
【0038】
第1繊維層形成工程において、繊維束巻付装置1の制御装置はロボットアーム2を制御して、第1繊維層がライナ10の口金13の根元部に到達した時点でライナ10の移動を停止させるとともに、レール駆動手段を制御して、ボビン5を図3の矢印R1方向にθ°だけ周回させる。θの値は、ボビン5を、周回前の位置に対して口金13を挟んで略相対する位置に配置させるような値であり、例えば約180°〜約225°の範囲で適宜設定することができる。
【0039】
そして、このように一のボビン5を含む第1ボビン群をライナ10の周囲で略半周周回させて、第1ボビン群を構成する各ボビン5を、周回前の位置に対して口金13を挟んで略相対する位置に配置した後、ライナ10を逆方向(図1(a)の矢印X2方向)に移動させながら第1繊維層の形成を続行する。以上のような手順を繰り返すことにより、ライナ10の円筒部11及びドーム部12の外側全体に所定厚さの第1繊維層を形成する。
【0040】
また、第2繊維層形成工程においても前記手順を繰り返すことにより、ライナ10の円筒部11及びドーム部12の外側全体に所定厚さの第2繊維層を形成するようにする。
【0041】
なお、ライナ10のドーム部12の外周に繊維束20を巻き付ける際には、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度と、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度と、を異ならせるようにする。ここで、図4等を用いて、巻付角度の決定方法について具体的に説明する。
【0042】
まず、ライナ10を図1(a)の矢印X1方向に移動させながら、ライナ10のドーム部12に繊維束を巻き付ける場合(第1ボビン群から供給される繊維束20がライナ10の口金13の根元部に到達する一方、第2ボビン群から供給される繊維束20はライナ10の口金13の根元部に到達しない場合)について説明する。
【0043】
図4に示すように、ライナ10の胴体部11の半径をrCとし、第1ボビン群から供給される繊維束20が巻き付けられていない領域の半径(口金13の半径)をr1とし、第2ボビン群から供給される繊維束20が巻き付けられていない領域の半径をr2とした場合に、第2ボビン群が第1ボビン群との物理的な干渉を避けた所定の位置に配置されるようにr2を決定する。r2は、ライナ10のドーム部12の形状と、第2ボビン群の折り返し位置と、によって決定することができる。そして、これらr1、r2及びrCの値と以下の式とを用いて、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度「θ1」と、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度を「θ2」と、を決定する。
sinθ1=r1/rC
sinθ2=r2/rC
【0044】
繊維束巻付装置1の制御装置は、レール駆動手段を介して第1ボビン群及び第2ボビン群の周回速度を制御することにより、これら巻付角度「θ1」及び「θ2」を実現させるようにする。また、繊維束巻付装置1の制御装置は、第1ボビン群から供給される繊維束20が巻き付けられていない領域の半径がr1に達し、かつ、第2ボビン群から供給される繊維束20が巻き付けられていない領域の半径がr2に達した時に、ライナ10の移動を停止させ、各ボビン5をライナ10の周囲で略半周周回させた後、ライナ10を逆方向に移動させる。これにより、第1ボビン群から供給される繊維束と、第2ボビン群から供給される繊維束と、が干渉せずに折り返すことが可能となる。
【0045】
一方、ライナ10を図1(a)の矢印X2方向に移動させながらライナ10のドーム部12に繊維束を巻き付ける場合(第2ボビン群から供給される繊維束20がライナ10の口金13の根元部に到達したときに、第1ボビン群から供給される繊維束20はライナ10の口金13の根元部に到達しない場合)には、前記した場合とは逆に、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度を「θ1」とし、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度を「θ2」とする。
【0046】
以上のように、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度は、一方のドーム部12においては「θ1」となり、他方のドーム部12においては「θ2」となる。また、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度は、一方のドーム12においては「θ2」となり、他方のドーム部12においては「θ1」となる。これに対応させて、繊維束巻付装置1の制御装置は、図5に示すように、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度を「θ1」から「θ2」へと連続的に一定の変化率で変化させるとともに、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度を「θ2」から「θ1」へと連続的に一定の変化率で変化させるようにする。
【0047】
また、第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程においては、繊維束20をライナ10に巻き付けた直後(繊維束20がライナ10の表面に接触した直後)に、高温空気やレーザ等を用いて、繊維束20を構成する熱可塑性樹脂を加熱して溶融させ、炭素繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させ、その後自然冷却により熱可塑性樹脂を硬化させる。これにより、巻き付けた直後の繊維束20をライナ10に固定することができ、第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程が終了した時点でライナ10の周囲に外殻が形成される。
【0048】
なお、第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程における加熱温度は、繊維束20を構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、ライナ10の耐熱温度以下の範囲内で設定するようにする。本実施の形態においては、高密度ポリエチレンの溶融温度が130℃であり、液晶樹脂の耐熱温度が280℃であるため、140℃以上200℃以下の範囲内で融着温度を設定している。以上の工程群を経ることにより、所望の耐圧容器を得ることができる。
【0049】
以上説明した実施の形態に係る耐圧容器製造方法においては、第1ボビン群を、ライナ10の軸方向に対して直角な第1仮想平面P1上にかつライナ10の周囲に配置するとともに、第2ボビン群を、ライナ10の軸方向に対して直角で第1仮想平面P1に隣接する第2仮想平面P2上にかつライナ10の周囲に配置する。次いで、ライナ10を軸方向に往復移動させながら、第1ボビン群をライナ10の周囲で所定の方向に周回させるとともに第1ボビン群から繊維束20を供給して、ライナ10の外周に繊維束20を巻き付けて第1繊維層を形成する。また、第2ボビン群をライナ10の周囲で第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに第2ボビン群から繊維束20を供給して、ライナ10の外周に繊維束20を巻き付けて第2繊維層を形成する。
【0050】
すなわち、第1ボビン群及び第2ボビン群から供給される繊維束20をライナ10の外周に巻き付ける際に、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付方向と、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付方向と、を逆転させる。従って、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻き付け時における張力を、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻き付け時における張力によって打ち消すことができるので、ライナ10に作用する荷重を大幅に低減することができる。この結果、ライナ10の円筒部11及びドーム部12の破損や、ライナ10のドーム部12と口金13との接合部の破損を防止することができる。
【0051】
また、以上説明した実施の形態に係る耐圧容器製造方法においては、第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程で、ライナ10の外周に繊維束20を巻き付けた直後に、繊維束20を構成する繊維状熱可塑性樹脂を加熱して溶融させることにより、繊維束20を構成する強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、その後自然冷却により熱可塑性樹脂を硬化させる。従って、巻き付け時における張力を維持した状態で繊維束20をライナ10に固定することができるので、巻き付け後の繊維束20の緩みを未然に防止することができる。この結果、耐圧容器の強度を高めることができる。
【0052】
また、以上説明した実施の形態に係る耐圧容器製造方法においては、第1繊維層形成工程及び第2繊維層形成工程で、第1繊維層及び第2繊維層の形成位置がライナ10の口金13の根元部に到達した時点でライナ10の移動を停止させる。そして、第1ボビン群及び第2ボビン群をライナ10の周囲で略半周周回させることにより、第1ボビン群及び第2ボビン群を構成する各ボビン5を周回前の位置に対して口金13を挟んで略相対する位置に配置した後、ライナ10を軸に沿って逆方向に移動させながら第1繊維層及び第2繊維層の形成を続行する。従って、ライナ10の移動方向を逆転させる際に繊維束20を切断したり、繊維束20を大きく屈曲させて折り返したりする必要がないので、外殻の強度を高めることができ、ひいては、耐圧容器の強度を高めることができる。
【0053】
また、以上説明した実施の形態に係る耐圧容器製造方法においては、ライナ10のドーム部12の外周に繊維束20を巻き付ける際に、第1ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度と、第2ボビン群から供給される繊維束20の巻付角度と、を異ならせるので、繊維束同士の干渉を防ぐことができる。
【0054】
なお、以上の実施の形態においては、ライナ10の周方向に回転移動する「可動レール」を採用し、この可動レールに複数のボビンを取り付けて、可動レールとボビン群とを一体的に回転移動させる例を示したが、固定されたレール上をボビン群のみが回転移動するような構成を採用することもできる。
【0055】
また、以上の実施の形態においては、強化繊維束(複数の炭素繊維からなる炭素繊維束)に繊維状熱可塑性樹脂を組み込むことにより繊維束を調製した例を示したが、強化繊維束のみをライナ10の外周に巻き付けて繊維層を形成し、この繊維層に熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含浸させ、硬化させてもよい。かかる場合には、接着剤を用いて、ボビン5から供給した強化繊維束の端部をライナ10の周囲に接着した後、巻き付けを開始するようにする。
【0056】
また、以上の実施の形態においては、強化繊維束と熱可塑性樹脂とから構成される繊維束を用いて外殻を形成した例を示したが、熱可塑性樹脂に代えて「熱硬化性樹脂」を採用することもできる。かかる場合には、ボビンからライナに向けて強化繊維束のみを供給し、この強化繊維束をライナに巻き付ける直前に、熱硬化性樹脂を強化繊維束に含浸させるようにする。粘着性(タック性)を有する熱硬化性樹脂を強化繊維束に予め含浸させると、ボビンからライナに向けた強化繊維束の供給が困難となるからである。なお、熱硬化性樹脂の硬化には硬化炉等を用いるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係る繊維束巻付装置の側面図、(b)は(a)のB−B部分の断面図、(c)は(a)のC−C部分の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る耐圧容器製造方法の第1繊維層形成工程において、第1繊維層の形成位置がライナの口金の根元部に到達した状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る耐圧容器製造方法の第1繊維層形成工程におけるボビンの周回動作を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る耐圧容器製造方法においてライナのドーム部に繊維束を巻き付ける際の巻付角度を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る耐圧容器製造方法においてライナ全体に繊維束を巻き付ける際の巻付角度の変化を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 繊維束巻付装置
2 ロボットアーム(ライナ移動手段)
3 第1可動レール(第1周回手段)
4 第2可動レール(第2周回手段)
5 ボビン
10 ライナ
11 円筒部
12 ドーム部
13 口金
20 繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部とこの円筒部の両端に連設されたドーム部とこのドーム部の頂部に凸状に設けられた口金とを有するライナの外周に繊維束を巻き付けて繊維層を形成し、この繊維層に含浸させた樹脂を硬化させて外殻を形成することにより耐圧容器を製造する方法であって、
複数のボビンを有してなる第1ボビン群を前記ライナの周囲に周回自在に配置する第1ボビン群配置工程と、
複数のボビンを有してなる第2ボビン群を前記第1ボビン群に隣接させて前記ライナの周囲に周回自在に配置する第2ボビン群配置工程と、
前記ライナを軸方向に往復移動させながら、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で所定の方向に周回させるとともに前記第1ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第1繊維層を形成する第1繊維層形成工程と、
前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で前記第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに前記第2ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第2繊維層を形成する第2繊維層形成工程と、
を備えることを特徴とする耐圧容器製造方法。
【請求項2】
前記繊維束を強化繊維及び繊維状熱可塑性樹脂によって構成し、
前記第1繊維層形成工程及び前記第2繊維層形成工程で、
前記ライナの外周に前記繊維束を巻き付けた直後に、前記繊維状熱可塑性樹脂を加熱して溶融させて前記強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、その後自然冷却により熱可塑性樹脂を硬化させることを特徴とする請求項1に記載の耐圧容器製造方法。
【請求項3】
前記第1繊維層形成工程で、
前記第1繊維層の形成位置が前記ライナの前記口金の根元部に到達した時点で前記ライナの移動を停止させ、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で略半周周回させた後、前記ライナを軸に沿って逆方向に移動させながら前記第1繊維層の形成を続行することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐圧容器製造方法。
【請求項4】
前記第2繊維層形成工程で、
前記第2繊維層の形成位置が前記ライナの前記口金の根元部に到達した時点で前記ライナの移動を停止させ、前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で略半周周回させた後、前記ライナを軸に沿って逆方向に移動させながら前記第2繊維層の形成を続行することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の耐圧容器製造方法。
【請求項5】
前記ライナの前記ドーム部の外周に繊維束を巻き付ける際に、前記第1ボビン群から供給される繊維束の巻付角度と、前記第2ボビン群から供給される繊維束の巻付角度と、を異ならせることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の耐圧容器製造方法。
【請求項6】
耐圧容器用のライナの外周に繊維束を巻き付けて繊維層を形成する繊維束巻付装置であって、
前記ライナを軸方向に往復移動させるライナ移動手段と、
前記ライナの周囲に配置された複数のボビンを有してなる第1ボビン群と、
前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で所定の方向に周回させる第1周回手段と、
前記第1ボビン群に隣接して前記ライナの周囲に配置された複数のボビンを有してなる第2ボビン群と、
前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で前記第1ボビン群と逆方向に周回させる第2周回手段と、
前記ライナを軸方向に往復移動させながら、前記第1ボビン群を前記ライナの周囲で所定の方向に周回させるとともに前記第1ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第1繊維層を形成し、かつ、前記第2ボビン群を前記ライナの周囲で前記第1ボビン群と逆方向に周回させるとともに前記第2ボビン群から繊維束を供給して、前記ライナの外周に繊維束を巻き付けて第2繊維層を形成するように前記ライナ移動手段、前記第1周回手段及び前記第2周回手段を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする繊維束巻付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−82276(P2006−82276A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267163(P2004−267163)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】