説明

耐酸化性フィラー材料で単結晶タービンブレード先端部を溶接する方法

【課題】先端キャップ(36)を越えて延在する先端壁を有していて、該先端壁が単結晶ミクロ組織を有する第1の合金を含む先端壁(34)を備えたタービン翼形部(18)に材料を体積させる方法を提供する。
【解決手段】本方法は、先端壁(34)の少なくとも一部分に、第1の合金の耐高温酸化性よりも耐高温酸化性が大きい第2の合金を堆積させて、該先端壁(34)の結晶方位と実質的に同じ結晶方位を有する修復構造を形成するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総括的にはガスタービンエンジン部品の補修に関し、より具体的には、タービン翼形部用の先端部構造の補修に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジン用のタービンブレードは一般に、高温強度及び耐高温疲労性ための単結晶ミクロ組織を有するニッケル基又はコバルト基「超合金」の中空鋳造品で製作される。鋳造タービンブレードは、「スキーラチップ」として公知の構造を含むことが多い。スキーラチップは、タービンブレードの断面形状に一致した断面形状を有しかつタービンブレードの半径方向外側端部と一体形であるか又は該半径方向外側端部に取付けられているかいずれかの比較的小さい延長部である。タービンブレード上でスキーラチップを利用することにより、該タービンブレードとシュラウドとの間の摩擦の悪影響を効果的に減少させることができる。
【0003】
タービンブレードは、酸化性ガス環境中で高い作動温度を受ける。実働使用中に、それらタービンブレード先端部は、酸化及び熱的機械疲労のために破損することが多い。このような破損が発生した時には、先端部は、多くの場合、整備間隔の間にブレード全体を交換するのではなく補修される。タービンブレード先端部の公知の補修には、高い延性を有し、それによって溶接割れが最小になるフィラー材料を使用して、プラズマアーク又はガスタングステンアーク(GTA)溶接プロセスで高温において溶接する方法が含まれる。しかしながら、このプロセスで形成した溶接補修部は、実際には多結晶であり、単結晶ではない。従って、このような溶接補修部は、元のタービンブレードと同一の耐熱疲労性を有していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記その他の従来技術の欠点は、本発明によって解決され、本発明は、増強した耐高温酸化性並びに耐高温疲労性を有する補修領域を形成する、翼形部の先端部を補修する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様では、先端キャップを越えて延在する先端壁を有するタービン翼形部に材料を体積させる方法を提供するが、該先端壁は単結晶ミクロ組織を有する第1の合金を含む。本方法は、先端壁の少なくとも一部分に、第1の合金の耐高温酸化性よりも耐高温酸化性が大きい第2の合金を堆積させて、該先端壁の結晶方位と実質的に同じ結晶方位を有する修復構造を形成するステップを含む。
【0006】
本発明の別の態様では、先端キャップを越えて延びる先端壁を有するタービン翼形部の先端壁を交換する方法を提供するが、該タービン翼形部は単結晶ミクロ組織を有する第1の合金を含む。本方法は、タービン翼形部から先端壁を除去するステップと、先端キャップに、第1の合金の耐高温酸化性よりも耐高温酸化性が大きい第2の合金を堆積させて、翼形部の結晶方位と実質的に同じ結晶方位を有する交換先端壁を形成するステップとを含む。
【0007】
本発明の別の態様では、先端キャップを有するタービン翼形部に先端壁を設ける方法であって、タービン翼形部が単結晶ミクロ組織を有する第1の合金を含んでおり、当該方法が、先端キャップに、第1の合金の耐高温酸化性よりも耐高温酸化性が大きい第2の合金を堆積させて、翼形部の結晶方位と実質的に同じ結晶方位を有する先端壁を形成するステップを含む方法を提供する。
【0008】
本発明は、添付図面の図と関連させて行った以下の説明を参照することによって最も良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】例示的なタービンブレードの斜視図。
【図2】補修前における図1のタービンブレードの一部分の概略側面図。
【図3】洗浄及び前処理ステップ後における図1のタービンブレードの一部分の概略側面図。
【図4】レーザ溶接装置の概略図。
【図5】溶接堆積ステップ後における図1のタービンブレードの一部分の概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
様々な図全体を通して同じ符号が同様の要素を表している図面を参照すると、図1及び図2は、例示的なタービンブレード10を示す。タービンブレード10は、従来通りのダブテール12を含み、ダブテール12は、ロータディスク(図示せず)内のダブテールスロットの相補形タングと係合して、運転時にディスクが回転する時に該ディスクに対してブレード10を半径方向に保持するタングを備えたあらゆる好適な形態を有することができる。ブレードシャンク14が、ダブテール12から半径方向外向きに延びかつプラットフォーム16で終端しており、プラットフォーム16は、シャンク14から横方向外向きに突出しかつ該シャンク14を囲んでいる。中空翼形部18が、プラットフォーム16から半径方向外向きに延びる。翼形部18は、前縁24及び後縁26において互いに接合された凹面形の正圧側面外側壁20及び凸面形の負圧側面外側壁22を含む外側壁を有する。後縁26は、図示した孔28のような後縁冷却通路を組入れることができる。翼形部18は、根元部30及び先端部32を有する。翼形部18の半径方向最外側部分は、「スキーラチップ」とも呼ばれる周辺先端壁34を形成する。先端キャップ36が、翼形部18の内部を閉鎖しかつ先端部32から半径方向内側に僅かな距離だけ凹設した状態で位置している。翼形部18は、高温ガスストリームからエネルギーを取出しかつロータディスクの回転を生じさせるのに適したあらゆる構成を取ることができる。ブレード10は、ガスタービンエンジン内の高い作動温度において許容可能な強度を有するニッケル基超合金(例えば、Rene80、Rene142、Rene N4、Rene N5)のような公知のタイプの好適な「超合金」で一体形鋳造品として形成されるのが好ましい。ブレード10は、単結晶(「SX」)のような選択した結晶ミクロ組織で形成されることになる。
【0011】
タービンブレード10の内部は、大部分が中空であり、かつサーペンタイン通路を形成した壁、リブ、乱流促進器(「タービュレータ」)などのような幾つかの公知のタイプの内部冷却機構を含む。このタービンブレード10は高圧タービンブレードであるが、本発明の原理は、あらゆるタイプのタービン翼形部に適用可能である。
【0012】
運転中に、タービンブレード10は、酸化環境を構成する高温燃焼ガスの流れに曝される。実働使用の期間の後に、タービンブレード10には、例えば符号「C」で示す疲労割れ及び例えば符号「O」(図2参照)で示す酸化による材料喪失のような欠損部が生じる。
【0013】
そのような欠損部を補修する先端部補修方法の最初のステップは、存在する可能性があるあらゆる皮膜材料(耐腐食性又は耐熱性皮膜)を先端部32から剥取ることである。皮膜材料は、グリットブラスト、化学薬品浴などのようなあらゆる好適な方法を使用して或いはそのような方法の組合せによって剥取ることができる。剥取るステップの後に、先端部32は、必要に応じてフッ化物イオン洗浄のようなプロセスを使用して清浄化することができる。
【0014】
次に、あらゆる損傷部分は、必要に応じて切断するか又は手当して欠損部からあらゆる異物を除去し、かつ清浄接合表面を備えまたその後の補修のための適切なアクセスを有する空隙「V」を各欠損部位内に設けるようにする。これは、それに限定されないが研削又は切削のような機械加工法を含む様々な方法を使用して達成することができる。一部の用途では、先端壁から、1以上の層を除去することができる。他の用途では、先端壁から、1以上の選択領域を除去することができる。図3には、このステップの結果を示す。
【0015】
次に、空隙Vは、レーザ溶接を使用して充填することができる。レーザ溶接用の好適な装置の実施例は、本出願と同一の出願人による、Schell他の米国特許第5622638号に開示されており、かつ図4に概略的に示す。この装置は、レーザ38、密閉形ビーム送給導管40、レーザ集束光学装置42、部品位置決めシステム44、部品位置及びレーザ経路制御用のビジョンシステム46、オプションの予熱ボックス(図示せず)、並びに粉末チューブ50を備えた粉末供給システム48を含む。装置の個々の部品の作動及び協調は、コンピュータシステム制御装置52により制御される。
【0016】
図4に示す装置を使用して、1回又はそれ以上のパス(通過)で空隙V内に溶融合金粉末を堆積させる。それに代えて、粉末は、堆積させ、次に加熱して、該粉末を溶融させかつ先端壁34に対して融着させることができ、或いはフィラー合金は、ワイヤの形態で供給することができる。粉末合金組成物は、翼形部18の基体合金よりも良好な高温における耐酸化性を有する材料であるのが好ましい。好適な粉末組成物の1つの非限定的な実施例は、重量%で以下の、つまり0.01〜0.03%のC、7.4〜7.8%のCr、2.9〜3.3%のCo、5.3〜5.6%のTa、7.6〜8.0%のAl、3.7〜4.0%のW、0.01〜0.02%のB、0.12〜0.18%のHf、1.5〜1.8%のRe、0.5〜0.6%のSi、残部Ni及び不可避不純物の近似組成を有するニッケル基合金である。
【0017】
正確なプロセスパラメータは、特定の用途に合せて変化させることができる。例えば、レーザビームは、任意の周波数で連続して又はパルスとして作動させることができ、またレーザデューティサイクルは、0〜100%とすることができる。レーザ出力は、約50W〜約1200Wとすることができる。レーザ波長は、約0.01〜100ミクロンとすることができる。平行移動速度は、約0.01cm/秒〜約100cm/秒とすることができる。粉末供給量は、約0.1g/分〜約10g/分とすることができる。この図示した実施例では、パルスレーザビームは、200Wのピーク出力、5Hzのパルス周波数及び50%デューティサイクルの状態で使用している。平行移動速度は、およそ0.57cm/秒(0.225インチ/秒)である。
【0018】
図5に示すように、レーザ溶接プロセスにより、各欠損部の位置において先端壁34に冶金学的結合した凝固溶接充填体「F」が形成される。プロセスパラメータの適正な制御により、このプロセスは、翼形部18の残部の結晶方位と同一の結晶方位(例えば、単結晶)を溶接充填体F内に生成する。レーザ溶接プロセスが終了すると、機械加工、研削、被覆などの公知のプロセスによって、溶接充填体Fをさらに成形して、先端壁34を元の寸法及び状態に戻すことができる。
【0019】
上記した方法は、組成変更により先端部の耐酸化性を高めることによって補修先端部の実働使用寿命を増大させる。言い換えると、レーザ堆積させた新規な先端部材料は、基体金属の耐酸化性よりも優れた耐酸化性を有する。このことは、実働使用中に補修先端部構造を「焼損」に対して耐性があるものにする。さらに、その単結晶ミクロ組織を備えたレーザ溶接補修先端部は、従来技術のアーク溶接プロセスで生成した多結晶溶接ミクロ組織と比較した時に、より良好な耐熱疲労割れ性を備えることになる。
【0020】
以上の説明は、ガスタービンエンジン翼形部及びその先端部構造を補修する方法を説明している。本発明の特定の実施形態について説明してきたが、本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱せずにそれらの実施形態に対して様々な修正を加えることができることは、当業者には明らかであろう。従って、本発明の好ましい実施形態及び本発明を実施するための最良の形態についての上記の説明は、例示の目的で示すものであって、限定を目的とするものではない。
【符号の説明】
【0021】
C 割れ
O 酸化
V 空隙
F 凝固溶接充填体
10 タービンブレード
12 ダブテール
14 ブレードシャンク
16 プラットフォーム
18 中空翼形部
20 正圧側面外壁
22 負圧側面外壁
24 前縁
26 後縁
28 孔
30 根元部
32 先端部
34 先端壁
36 先端キャップ
38 レーザ
40 ビーム送給導管
42 レーザ集束光学装置
44 部品位置決めシステム
46 ビジョンシステム
48 粉末供給システム
50 粉末チューブ
52 コンピュータシステム制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン翼形部(18)に材料を体積させる方法であって、該タービン翼形部(18)が先端キャップ(36)を越えて延在する先端壁(34)を有していて、該先端壁(34)が単結晶ミクロ組織を有する第1の合金を含んでおり、当該方法が、
先端壁(34)の少なくとも一部分に、第1の合金の耐高温酸化性よりも耐高温酸化性が大きい第2の合金を堆積させて、該先端壁(34)の結晶方位と同じ結晶方位を有する修復構造を形成するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記堆積ステップを実施する前に、先端壁(34)に対して表面前処理プロセスを行なうステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記堆積ステップを実施する前に、先端壁(34)の一部分を除去するステップをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記除去ステップが、先端壁(34)内に空隙を形成し、前記堆積ステップが、空隙内に第2の合金を堆積させて溶接充填体を形成する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記除去ステップが、機械加工作業を行なって先端壁(34)内に存在する少なくとも1つの欠損部を除去するステップを含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記堆積ステップが、先端壁(34)に粉末を塗工するステップと、粉末にエネルギー源を加えて該粉末を硬化させて修復構造を形成するステップとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記エネルギー源がレーザを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記除去ステップで先端壁(34)内に空隙を形成し、前記堆積ステップが、
空隙内に粉末を導入するステップと、
レーザを使用して粉末の露出層を焼結するステップと、
溶接充填体が完成するまで導入するステップ及び焼結するステップを反復するステップと
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記除去ステップで先端壁(34)内に空隙を形成し、前記堆積ステップが、
レーザを使用して粉末を溶融させるステップと、
溶融粉末を空隙内に堆積させるステップと、
溶融粉末を冷却かつ凝固させて修復構造を形成せしめるステップと
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記堆積ステップが、先端壁(34)のそれぞれの部分の近傍に第2の合金を含むフィラーワイヤを供給するステップと、フィラーワイヤにエネルギー源を加えて、先端壁(34)に対して該フィラーワイヤを被覆接合させるステップとを含む、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記エネルギー源がレーザを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法で形成された修復構造を含む、タービン翼形部(18)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−52686(P2011−52686A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182721(P2010−182721)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】