説明

耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナット

【課題】 冷間加工を行うことなく耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナットを提供する。
【解決手段】 C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.50重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:7.50重量%〜10.50重量%、Cr:18.00重量%〜20.00重量%、N:0.15重量%〜0.30重量%、Nb:0.15重量%以下、残部Fe及び不可避不純物からなり、熱間鍛造水冷した組織を有することを特徴とする。
当該鋼材を安定オーステナイト域の温度にて鍛練比2S以上でナット素形状に熱間加工し、1010°C〜1150°Cの範囲の温度から50°C以下の温度に水冷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナットに関し、特に冷間加工を行うことなく製造できるようにした耐食性に優れた非磁性高強度のナット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造物の製作にはねじ締結が不可欠である。このねじ締結に使用されるボルト・ナットのセットのうち、ナットは日本工業規格JISB1181規格により製造されることが多い。この規格ではナットの材料による区分として鋼及びステンレス鋼が規定されている。
【0003】
非磁性で耐食性に優れたステンレス鋼ナットの製造にはJISG4303に規定されるSUS304が一般に使われる。このSUS304の鋼種特性として一般鋼と比較して耐力が低く、引っ張り強さも低い点が挙げられる。そのため、耐力を要ししかも耐食性を要求される用途では冷間加工によって加工硬化させたSUS304製のナットが多く使われる(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107041号公報
【特許文献2】特開2007−302991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、冷間加工による方法では加工に大きな荷重を必要とし、設備が大型になるという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑み、冷間加工を行うことなく耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナットを製造するようにしたナット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明に係る耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナットは、C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.50重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:7.50重量%〜10.50重量%、Cr:18.00重量%〜20.00重量%、N:0.15重量%〜0.30重量%、Nb:0.15重量%以下、残部Fe及び不可避不純物からなり、熱間加工水冷を行った組織を有することを特徴とする。
【0008】
C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.50重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:7.50重量%〜10.50重量%、Cr:18.00重量%〜20.00重量%、N:0.15重量%〜0.30重量%、Nb:0.15重量%以下、残部Fe及び不可避不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼はJISG4303ステンレス棒鋼表2に規定するSUS304N2である。
【0009】
このSUS304N2では溶体化処理状態の鋼中のN(窒素)はC(炭素)と同様にオーステナイト組織中に浸入型元素として固溶した状態で存在する。同時に、Nの一部はNbと窒化物を形成して再結晶時の核となるが、多くはオーステナイト組織中で浸入型元素として、結晶格子を歪ませ、強度アップを招来する。
【0010】
また、SUS304N2鋼中のN(窒素)はC(炭素)と異なり、クロム炭化物の生成や結晶粒界のクロム欠乏層の生成によって耐食性を劣化(いわゆる鋭敏化)させることはない。
【0011】
鋼に加工熱処理を併用した処理を施すことにより強化したり、靭性を改善する処理は加工熱処理と呼ばれ広く実施されている。本発明においてはSUS304N2鋼を使用し加工熱処理を組み合わせる。本発明の加工熱処理は安定オーステナイト域の温度、例えば1200℃以上に加熱した鋼材を熱間で加工中の温度低下の少ない横型高速鍛造機内でアプセット、成形及び孔抜きの3工程でJISB1181規格のナット形状に成形する。熱間成形により鋼材のメタルフローは大きく変化し加工歪を受ける。
【0012】
熱間加工が終了後、熱間での加工歪を持つ状態から急速に再結晶が進むが、加工直後の加熱による余熱を持つ状態で1010°C〜1150°Cの範囲の温度、例えば1050°C直上の温度から50°C以下の温度に水冷することにより、再結晶の進行を停止させ、さらに熱間成形による加工歪と含まれる窒素原子の相乗効果により結晶格子に歪を持った状態の組織として通常鋼材の溶体化処理より得られる硬さよりさらに硬い組織を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製品ナットのメタルフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施例1]
SUS304N2鋼を1200°C以上の温度に加熱し、熱間加工中の温度低下の少ない横型高速鍛造機内でアプセット、成形及び孔抜きの3工程を行い、鍛造比2S 以上でJIS1181規格のナット形状に成形し、1050°C直上の温度から50°C以下の温度に水冷した。その後、雌ねじ加工を行い、酸洗及びバレル研磨の表面処理を行って製品ナットを製造した。
【0015】
[表面硬さの比較]
鋼種選定と加工熱処理を組み合わせて得られる製品ナットの座面硬さを従来のSUS304のそれと比較した。硬さの測定方法HRBによる。結果を表1に示す。

表1
SUS304N2 SUS304
103.4 95.7
103.7 95.9
104.2 96.9
平均 103.77 96.17

ステンレスナットの座面硬さは鍛造後の表面処理(酸洗、バレル研磨)の影響をうけ、座面も含めて最表面は加工効果の影響で固くなるが、その影響を受けた状態で本発明によるナットは通常のSUS304よりロックウェルBスケールで7.6ポイント硬い硬さが得られる。
【0016】
[内部硬さの比較]
鋼種選定と加工熱処理を組み合わせて得られる製品ナットの内部硬さを従来のSUS304のそれと比較した。硬さの測定方法HRBによる。結果を表2に示す。

表2
表面硬さ 内部硬さ
SUS304N2 103.77 98.5
SUS304 96.17 89.0

本発明によるナットは通常のSUS304よりロックウェルBスケールで9.5ポイント硬い硬さが得られる。
【0017】
[保証荷重試験の比較]
ナットの強度比較方法としてJISBlO528項に保証荷重試験方法を規定する。この規定により軸方向圧縮応力をかけた時の降伏応力(十分に硬いマンドレルに試験機で荷重をかけたときナットが永久変形をはじめるとき万能試験機の荷重が上がらなくなるときの応力)を通常のSUS304と比較した。結果を表3に示す。

表3
降伏荷重KN 降伏応力N/mm2
SUS304N2 340 1122
SUS304 239 789

本発明によるナットは通常のSUS304より42%高い降伏応力が得られる。
【0018】
[保証荷重試験での二面幅の変化の比較]
JISBl054−2に規定するA2−80保証荷重応力をかけた時のナットの二面幅の変化を測定した。結果を表4に示す。

表4
保証荷重応力
800N/mm2
SUS304N2 十0.10mm
SUS304 十0.62mm

ナットに圧縮荷電をかけた時、座面側の二面幅は広がる。この二面幅の変化はナットの強度を定量的に評価する指標として有効である。A2−80規定の保証荷重応力をかけたとき本発明によるナットの座面側の二面幅の変化は通常のSUS304の6分の1程度に小さくなり、実質的にほとんど変化しない。
【0019】
JISBl181附属書2表1に規定する8Tの保証荷重応力をかけた時のナットの変化の比較を比較した。結果を表5に示す。

表5
保証荷重応力
785N/mm2
SUS304N2 十0.10mm
SUS304 十0.60mm

上記8T規格の保証荷重応力をかけたとき本発明によるナットの座面側の二面幅の変化は通常のSUS304の6分の1程度に小さくなり、実質的規格外れに至ることはない。
【0020】
本発明の製品ナットのメタルフローを図1に示す。メタルフローが大きく変化し加工歪を受けていることが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.50重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:7.50重量%〜10.50重量%、Cr:18.00重量%〜20.00重量%、N:0.15重量%〜0.30重量%、Nb:0.15重量%以下、残部Fe及び不可避不純物からなり、熱間加工水冷した組織を有することを特徴とする、耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナット。
【請求項2】
熱間加工が安定オーステナイト域の温度で行われ、1010°C〜1150°Cの範囲の温度から50°C以下の温度に水冷されてなる、請求項1記載の耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナット。
【請求項3】
C:0.08重量%以下、Si:1.00重量%以下、Mn:2.50重量%以下、P:0.045重量%以下、S:0.030重量%以下、Ni:7.50重量%〜10.50重量%、Cr:18.00重量%〜20.00重量%、N:0.15重量%〜0.30重量%、Nb:0.15重量%以下、残部Fe及び不可避不純物からなる窒素入りオーステナイト系ステンレス鋼を素材とし、当該鋼材を安定オーステナイト域の温度にて鍛練比2S 以上でナット素形状に熱間加工し、1010°C〜1150°Cの範囲の温度から50°C以下の温度に水冷するようにしたことを特徴とする、耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナットの製造方法。
【請求項4】
熱間加工が、アップセット、成形及び孔抜きの3工程からなる請求項3記載の、耐食性に優れた非磁性高強度ステンレス鋼ナットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−94195(P2011−94195A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249982(P2009−249982)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(591209246)濱中ナット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】