能動型振動騒音制御装置
【課題】消音性能を向上させることが可能な能動型振動騒音制御装置を提供する。
【解決手段】いわゆる適応制御を用いるANC装置12では、前輪用サスペンション14aと後輪用サスペンション14bの特性の相違に基づく補正フィルタ76を用いて、前輪参照信号Sb又は後輪参照信号Sbd1を補正することで後輪打消音CSrを予測する。
【解決手段】いわゆる適応制御を用いるANC装置12では、前輪用サスペンション14aと後輪用サスペンション14bの特性の相違に基づく補正フィルタ76を用いて、前輪参照信号Sb又は後輪参照信号Sbd1を補正することで後輪打消音CSrを予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、路面入力に基づく振動騒音を打消音により打ち消す能動型振動騒音制御装置に関し、より詳細には、いわゆる適応制御を用いて前記振動騒音の打消しを行う能動型振動騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の振動騒音に関連して音響を制御する装置として、能動型騒音制御装置(Active Noise Control Apparatus)(以下「ANC装置」という。)が知られている。一般的なANC装置では、振動騒音に対する逆位相の打消音を車室内のスピーカから出力することにより、前記振動騒音を低減する。また、振動騒音と打消音の誤差は、乗員の耳位置近傍に配置されたマイクロフォンにより残留騒音として検出され、その後の打消音の決定に用いられる。ANC装置には、例えば、エンジンの作動(振動)に応じて車室内に生ずる騒音(エンジンこもり音)を低減するものや、車両走行中における車輪と路面との接触によって車室内に生ずる騒音(ロードノイズ)を低減するものがある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献2では、前輪側の振動を前輪側のピックアップ(1)により検出する。そして、前輪側の振動に起因する振動騒音に対する相殺音を、ピックアップ(1)からの出力(参照信号)に基づいて生成する。また、前輪側のピックアップ(1)からの出力(参照信号)を、車速に応じて遅延回路(4)で遅延させる。そして、後輪側の振動に起因する振動騒音に対する相殺音を、遅延させた参照信号に基づいて生成する(例えば、要約、図1、段落[0018]〜[0026]参照)。
【0004】
特許文献3では、前輪から車体に入力される振動を前輪側の加速度センサ(14、16)により検出する。また、各加速度センサ及び車速センサ(26)の検出結果に基づいて、後輪から車体に入力される振動をリア振動推定部(20)で推定する。そして、推定された後輪側の振動とマイクロフォン(30)の検出結果に基づいて打消音を出力する(要約、図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−361721号公報
【特許文献2】特開平06−083369号公報
【特許文献3】特開2007−216787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように特許文献2及び特許文献3では、前輪側の振動及び車速に基づいて後輪側の振動を推定し、前輪側及び後輪側の振動騒音の両方に対応する打消音を出力する。換言すると、後輪側の振動は、前輪側から所定時間遅れて同一のものが発生することが前提とされている。
【0007】
しかしながら、車両の前輪用サスペンションと後輪用サスペンションとは必ずしも同一のものが用いられる訳ではない。例えば、前輪側には車両の軌道を変更するための転舵機構が設けられるが、後輪側にはそのような転舵機構は設けられないのが通常である。また、前輪駆動車であれば、前輪側にドライブシャフトが配置され、後輪側にはドライブシャフトが設けられない。さらに、前輪側にはサブフレームが設けられるが、後輪側にはサブフレームが設けられない構成も存在する。さらにまた、車両の前輪側と後輪側とで重量配分が異なる場合、サスペンションのばね特性及び減衰特性は前輪側と後輪側とで相違させる必要が生じる。従って、前輪側の振動を単に遅延させて後輪側の振動を推定するのみでは、後輪側の打消音を精度よく出力することができないおそれがある。
【0008】
この発明は、このような問題を考慮してなされたものであり、消音性能を向上させることが可能な能動型振動騒音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る能動型振動騒音制御装置は、車両の前輪への路面入力に基づく前輪振動を検出し、当該前輪振動を示す前輪参照信号を出力する前輪振動検出手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車両の前輪と後輪が同一地点を通過する時間差である遅延時間を前記車速に基づいて求める遅延時間算出手段と、前記前輪振動を前記遅延時間の分遅延させた予測後輪振動を示す後輪参照信号を出力する後輪参照信号出力手段と、前記前輪振動に起因する前輪振動騒音を消音対象位置において打ち消す前輪打消音を前記前輪参照信号に基づいて出力すると共に、前記予測後輪振動に起因する後輪振動騒音を前記消音対象位置において打ち消す後輪打消音を前記後輪参照信号に基づいて出力する打消音出力手段とを備えるものであって、前記後輪参照信号出力手段は、さらに、前記車両の前輪用サスペンションと後輪用サスペンションの特性の相違に基づく補正フィルタを用いて、前記前輪参照信号又は前記後輪参照信号を補正することで前記後輪打消音を予測することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、前輪側と後輪側のサスペンションの特性の相違を考慮して、前輪参照信号から後輪打消音を精度よく予測することが可能となる。
【0011】
前記後輪参照信号出力手段は、前記前輪参照信号の振幅に応じて、前記補正フィルタを切り替えてもよい。前輪参照信号の振幅が変化すると、例えば、サスペンションのばね特性が変化する。上記構成によれば、前輪参照信号の振幅に応じて補正フィルタを切り替える。このため、サスペンションのばね特性に応じて後輪打消音を出力可能となり、後輪打消音の予測精度を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、前輪側と後輪側のサスペンションの特性の相違を考慮して、前輪参照信号から後輪打消音を精度よく予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態に係る能動型騒音制御装置を搭載した車両の概略的な構成図である。
【図2】前記実施形態において車輪への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路の一例を示す図である。
【図3】前記車両に設けられた加速度センサユニットとその周辺の概略構成図である。
【図4】前記能動型騒音制御装置の機能ブロック図である。
【図5】前記能動型騒音制御装置における制御信号生成部の機能ブロック図である。
【図6】前輪側及び後輪側の振動の周波数と振幅の関係の一例を示す図である。
【図7】前輪側及び後輪側の振動の周波数と両振動の振幅の差の関係の一例を示す図である。
【図8】前記実施形態において打消音を生成するフローチャートである。
【図9】前記制御信号生成部の第1変形例の機能ブロック図である。
【図10】前記制御信号生成部の第2変形例の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[A.一実施形態]
1.全体及び各部の構成
(1)全体構成
図1は、この発明の一実施形態に係る能動型騒音制御装置12(以下「ANC装置12」という。)を搭載した車両10の概略的な構成を示す図である。車両10は、ガソリン車や電気自動車(燃料電池車を含む。)等の車両とすることができる。
【0015】
車両10は、ANC装置12に加え、複数の前輪用サスペンション14aと、複数の後輪用サスペンション14bと、前輪側のサスペンション14aに設けられた複数の加速度センサユニット16と、車両10の車速V[km/h]を検出する車速センサ18と、スピーカ20と、マイクロフォン22とを有する。
【0016】
ANC装置12は、加速度センサユニット16からの加速度信号Sx、Sy、Szと、車速センサ18が検出した車速Vと、マイクロフォン22からの誤差信号eとに基づいて第2合成制御信号Scc2を生成する。第2合成制御信号Scc2は、図示しない増幅器で増幅された後、スピーカ20に出力される。スピーカ20は、第2合成制御信号Scc2に対応する打消音CSを出力する。
【0017】
車両10の車室内に発生する振動騒音は、図示しないエンジンの振動に伴って生じる振動騒音(エンジンこもり音NZe)と、車両10の走行中に車輪24(前輪24a、後輪24b)と路面Rとが接触し、車輪24が振動することに伴って生じる振動騒音(ロードノイズNZr)とを複合した振動騒音(複合騒音NZc)である。本実施形態のANC装置12によれば、複合騒音NZcのうちロードノイズNZrの成分を打消音CSが打ち消し、消音効果を得ることができる。また、ロードノイズNZrには、左右の前輪24aから入力される振動に起因するもの(前輪ロードノイズNZrf)と、左右の後輪24bから入力される振動に起因するもの(後輪ロードノイズNZrr)とが含まれる。なお、車輪24への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路は、例えば、図2のようなものである。
【0018】
また、ANC装置12には、ロードノイズNZrの消音機能に加え、エンジンこもり音NZeの消音機能を持たせることもできる。すなわち、ANC装置12に従前のエンジンこもり音用の構成(例えば、特許文献1)を併せ持たせることも可能である。
【0019】
さらに、図1では図示していないが、加速度センサユニット16は左右の前輪24aに設けられており(図4参照)、各加速度センサユニット16は、2つの前輪24a(左前輪、右前輪)に対応して設けられている。さらに、図1、図4及び図5では、スピーカ20及びマイクロフォン22をそれぞれ1つずつしか示していないが、発明の理解の容易化のためであり、ANC装置12の用途に応じて複数のスピーカ20及びマイクロフォン22を用いることもできる。その場合、その他の構成要素の数も適宜変更される。
【0020】
(2)前輪用サスペンション14a及び加速度センサユニット16
図3に示すように、各加速度センサユニット16は、前輪用サスペンション14aの中でも、前輪24aのホイール32に連結されたナックル30に設けられている。サスペンション14aは、ナックル30に加え、連結部材38a、38bを介してナックル30及びボディ36に連結されたアッパーアーム34と、連結部材44a、44bを介してナックル30及びサブフレーム42に連結されたロアアーム40と、ダンパスプリング48を介してボディ36に連結され、連結部材50を介してロアアーム40に連結されたダンパ46とを有する。ボディ36とサブフレーム42は連結部材52を介して連結されている。また、ナックル30の内部には、ドライブシャフト54が回転自在に挿入されている。
【0021】
図4に示すように、各加速度センサユニット16は、振動加速度Axを検出する加速度センサ60xと、振動加速度Ayを検出する加速度センサ60yと、振動加速度Azを検出する加速度センサ60zとを有する。加速度センサ60xに検出される振動加速度Axは、車両10の前後方向(図1中、X方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。加速度センサ60yに検出される振動加速度Ayは、車両10の左右方向(図3のY方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。加速度センサ60zに検出される振動加速度Azは、車両10の上下方向(図1中、Z方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。
【0022】
各加速度センサユニット16は、各ナックル30で検出した振動加速度Ax、Ay、Azを示す加速度信号Sx、Sy、SzをANC装置12に出力する。ANC装置12では、アナログ/デジタル(A/D)変換した加速度信号Sx、Sy、Szを参照信号として打消音CSを生成する。以下では、加速度信号Sx、Sy、Szを参照信号Sbともいう。
【0023】
(3)ANC装置12
(a)全体構成
ANC装置12は、スピーカ20からの打消音CSの出力を制御するものであり、マイクロコンピュータ56、メモリ58(図1)等を備える。マイクロコンピュータ56は、打消音CSを決定する機能(打消音決定機能)等の機能をソフトウェア処理により実行可能である。
【0024】
図4は、ANC装置12の機能ブロック図である。図4に示すように、ANC装置12は、加速度センサ60x、60y、60z毎に設けられた制御信号生成部62と、前輪24aの加速度センサユニット16毎に設けられた第1加算器64と、第2加算器66とを有する。制御信号生成部62、第1加算器64及び第2加算器66は、マイクロコンピュータ56及びメモリ58により構成される。
【0025】
なお、本実施形態において、加速度センサ60x、60y、60zから出力される加速度信号Sx、Sy、Szはアナログ信号であり、ANC装置12におけるアナログ/デジタル変換器(図示せず)によりアナログ/デジタル(A/D)変換された後に制御信号生成部62に入力される。加えて、第2加算器66から出力されるデジタル信号としての第2合成制御信号Scc2は、ANC装置12におけるデジタル/アナログ変換器(図示せず)によりデジタル/アナログ(D/A)変換された後にスピーカ20に入力される。
【0026】
また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68と呼ぶ。図4では、一番上の制御信号生成ユニット68のみ内部を示し、その他の制御信号生成ユニット68は内部を省略して示している。
【0027】
(b)制御信号生成部62
図5は、制御信号生成部62の1つの機能ブロック図である。図5に示す制御信号生成部62は、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62も同様の構成を備える。
【0028】
図5に示すように、制御信号生成部62は、適応フィルタ処理部70a、70bと、遅延設定部72と、遅延量算出部74と、補正フィルタ76と、第3加算器78とを有する。
【0029】
適応フィルタ処理部70aは、前輪24aから入力された振動(実測値)に対応して設けられるものであり、図示しないアナログ/デジタル変換器でA/D変換された加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)に基づいて適応フィルタ制御を行う。適応フィルタ処理部70aは、適応フィルタ80aと、参照信号補正部82aと、フィルタ係数更新部84aとを有する。
【0030】
適応フィルタ80aは、例えば、FIR(Finite impulse response:有限インパルス応答)型又は適応ノッチ型のフィルタであり、参照信号Sbに対してフィルタ係数Wfを用いた適応フィルタ処理を行って、前輪24aから入力される路面振動(実測値)に対応する前輪ロードノイズNZrfを低減するための打消音CS(前輪打消音CSf)の波形を示す前輪制御信号Scr1を出力する。
【0031】
参照信号補正部82aは、参照信号Sbに対して伝達関数処理を行うことで補正参照信号Sr1を生成する。補正参照信号Sr1は、フィルタ係数更新部84aにおいてフィルタ係数Wfを演算する際に用いられる。また、伝達関数処理は、スピーカ20からマイクロフォン22への打消音CSの伝達関数Ce(フィルタ係数)に基づき参照信号Sbを補正する処理である。この伝達関数処理で用いられる伝達関数Ceは、スピーカ20からマイクロフォン22への打消音CSの実際の伝達関数Cの測定値又は予測値である。
【0032】
フィルタ係数更新部84aは、フィルタ係数Wfを逐次演算・更新する。フィルタ係数更新部84aは、適応アルゴリズム演算{例えば、最小二乗法(LMS)アルゴリズム演算}を用いてフィルタ係数Wfを演算する。すなわち、参照信号補正部82aからの補正参照信号Sr1とマイクロフォン22からの誤差信号eに基づいて、誤差信号eの二乗e2をゼロとするようにフィルタ係数Wfを演算する。フィルタ係数更新部84aにおける具体的な演算については、例えば、特許文献1に記載のものを用いることができる。
【0033】
遅延設定部72は、遅延量算出部74で算出された遅延量nの遅延を参照信号Sbに与えた第1遅延参照信号Sbd1を出力する。
【0034】
遅延量算出部74は、遅延設定部72で用いる遅延量nを算出する。具体的には、次の式(1)を用いて遅延量nを算出する。
n=[Lwb/{V×1000/(60×60)}]/Pc (1)(但し、小数点以下切捨て)
【0035】
上記式(1)において、Lwbは、車両10のホイールベース(前輪24aの回転軸と後輪24bの回転軸との距離)[m]であり、Vは、車速センサ18からの車速[km/h]であり、Pcは、演算周期[sec]である。また、式(1)中の数字「1000/(60×60)」は車速Vを時速から秒速[m/sec]に変換するための係数であり、当初より車速Vを秒速で定義すれば不要である。また、式(1)において、小数点以下を切り捨てる代わりに、小数点以下を切り上げてもよい。或いは、小数点以下を四捨五入してもよい。
【0036】
式(1)からわかるように、本実施形態での遅延量nは、同じ参照信号Sbを用いる場合、後輪24b用に用いる参照信号Sb(第1遅延参照信号Sbd1)は、前輪24a用に用いる参照信号Sbの演算周期Pcからいくつ遅らせるかを示す。本実施形態において、上記式(1)のうち可変であるのは車速Vのみである。このため、上記式(1)における演算の代わりに、車速Vと遅延量nとの関係を規定したマップを予めメモリ58に記憶しておき、今回の車速Vに応じて遅延量nを設定することも可能である。
【0037】
補正フィルタ76は、例えば、FIR型又はIIR(Infinite impulse response:無限インパルス応答)型のフィルタであり、予め設定された伝達関数F1に応じて第1遅延参照信号Sbd1を信号処理して第2遅延参照信号Sbd2を出力する。具体的には、次の方法により伝達関数F1を予め設定する。
【0038】
すなわち、車両10を出荷する前に、後輪用サスペンション14bにも図3のように加速度センサユニット16を取り付ける。そして、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bそれぞれにおいて加速度センサユニット16の出力を検出する。図6には、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bに取り付けた加速度センサ60xからの加速度信号Sxの周波数と振幅Af、Arとの関係の一例が示されている。後輪側のデータ(振幅Ar)は、前輪側のデータ(振幅Af)を取得した時点から遅延量nだけ遅延させた時点で取得したものである。図7には、周波数毎の振幅Afと振幅Arの偏差Dが示されている。
【0039】
本実施形態では、図7のような偏差Dを実測値として求め、この偏差DのうちロードノイズNZrが発生し易い周波数又は周波数帯域の偏差Dを補正するように補正フィルタ76の伝達関数F1(特にゲイン)を設定する。
【0040】
なお、上記のように、遅延量nは、車両10のホイールベースLwb、車速V及び演算周期Pcから求めるものであるが、前輪打消音CSf及び後輪打消音CSrが乗員の耳位置に到達する時間差は、それ以外の要因(例えば、振動の伝達経路、及びスピーカ22が複数ある場合、スピーカ22から乗員の耳位置までの距離)によっても変化する。そこで、補正フィルタ76では、ゲインのみではなく、当該時間差を反映した位相の調整を行うこともできる。
【0041】
適応フィルタ処理部70bは、後輪24bから入力される振動(推定値)に対応して設けられるものであり、適応フィルタ処理部70aと同様の構成を有する。但し、適応フィルタ処理部70bでは、参照信号Sbの代わりに、第2遅延参照信号Sbd2を用いる。従って、適応フィルタ処理部70bの適応フィルタ80bから出力される後輪制御信号Scr2は、後輪24bから入力される路面振動(推定値)に対応する後輪ロードノイズNZrrを低減するための後輪打消音CSrの波形を示す。
【0042】
第3加算器78は、適応フィルタ処理部70a、70bからの前輪制御信号Scr1及び後輪制御信号Scr2を合成して制御信号Scrを生成する。
【0043】
(c)第1加算器64
各第1加算器64は、各制御信号生成部62から出力された制御信号Scrを合成し、第1合成制御信号Scc1を生成する。
【0044】
(d)第2加算器66
第2加算器66は、各制御信号生成ユニット68の第1加算器64から出力された第1合成制御信号Scc1を合成し、第2合成制御信号Scc2を生成する。第2合成制御信号Scc2は、図示しないD/A変換器でD/A変換された後、スピーカ20に入力される。
【0045】
(4)スピーカ20
スピーカ20は、ANC装置12(マイクロコンピュータ56)からの第2合成制御信号Scc2に対応する打消音CSを出力する。これにより、ロードノイズNZr(前輪ロードノイズNZrfと後輪ロードノイズNZrrを合計したもの)の消音効果が得られる。
【0046】
(5)マイクロフォン22
マイクロフォン22は、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差を残留騒音として検出し、この残留騒音を示す誤差信号eをANC装置12(マイクロコンピュータ56)に出力する。
【0047】
2.各部における処理(打消音CSの生成)
次に、本実施形態における打消音CSの生成の流れについて説明する。図8は、打消音CSを生成するフローチャートである。
【0048】
ステップS1において、各加速度センサユニット16の加速度センサ60x、60y、60zは、X軸方向の振動加速度Ax、Y軸方向の振動加速度Ay及びZ軸方向の振動加速度Azを検出し、振動加速度Ax、Ay、Azを示す加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)を生成する。
【0049】
ステップS2において、制御信号生成部62は、図示しないA/D変換器によりA/D変換された加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)と、車速センサ18からの車速Vと、マイクロフォン22からの誤差信号eとに基づき、適応フィルタ処理を実施することにより制御信号Scrを生成する。上記のように、制御信号Scrは、前輪制御信号Scr1と後輪制御信号Scr2を加算したものである。
【0050】
ステップS3において、第1加算器64は、各制御信号生成部62から出力された制御信号Scrを合成して、第1合成制御信号Scc1を生成する。
【0051】
ANC装置12は、上記ステップS1〜S3を、前輪24aの加速度センサユニット16それぞれに対応して行う。
【0052】
ステップS4において、第2加算器66は、各第1加算器64から出力された第1合成制御信号Scc1を合成して第2合成制御信号Scc2を生成する。
【0053】
ステップS5において、スピーカ20は、第2合成制御信号Scc2に基づく打消音CSを出力する。なお、第2加算器66からスピーカ20に入力される際、第2合成制御信号Scc2は、図示しないD/A変換器によりD/A変換され且つ図示しない増幅器により振幅調整される。
【0054】
ステップS6において、マイクロフォン22は、ロードノイズNZrを含む複合騒音NZcと打消音CSとの差を残留騒音として検出し、この残留騒音に対応する誤差信号eを出力する。この誤差信号eは、ANC装置12のその後の適応フィルタ処理で用いられる。
【0055】
ANC装置12では、以上のステップS1〜S6を演算周期Pc毎に繰り返す。
【0056】
3.本実施形態における効果
以上のように、本実施形態によれば、前輪用サスペンション14aと後輪用サスペンション14bの特性の相違を考慮して、参照信号Sb(前輪参照信号)から後輪打消音CSrを精度よく予測することが可能となる。
【0057】
[B.この発明の応用]
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下に示す構成を採ることができる。
【0058】
1.加速度センサユニット16
上記実施形態では、2つの前輪24aそれぞれについて加速度センサユニット16を設けたが、一方の前輪24aにのみ加速度センサユニット16を設ける構成も可能である。また、上記実施形態では、各加速度センサユニット16において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3軸の方向の振動の振動加速度Ax、Ay、Azを検出したが、これに限らず、1軸もしくは2軸の方向又は4軸以上の方向の振動の加速度を検出してもよい。
【0059】
上記実施形態では、振動加速度Ax、Ay、Azを加速度センサ60x、60y、60zにより直接検出したが、変位センサによりナックル30の変位[mm]を検出し、この変位に基づいて振動加速度Ax、Ay、Azを演算することもできる。同様に、荷重センサの検出値を用いて振動加速度Ax、Ay、Azを求めてもよい。さらに、例えば、前輪24aの近傍に別のマイクロフォンを設け、当該マイクロフォンで振動騒音を検出し、当該振動騒音を示す信号を加速度信号Sx、Sy、Szの代わりに用いることもできる。
【0060】
上記実施形態では、各加速度センサユニット16をナックル30に設けたが、ハブ等のその他の部位に設けることも可能である。
【0061】
2.後輪打消音CSrの推定方法
(1)第1変形例
上記実施形態では、後輪24b用の適応フィルタ処理部70bに入力する参照信号として、第2遅延参照信号Sbd2を用いた。第2遅延参照信号Sbd2は、第1遅延参照信号Sbd1(後輪参照信号)に基づいて補正フィルタ76が生成するものであり、第1遅延参照信号Sbd1は、参照信号Sb(前輪参照信号)に基づいて遅延設定部72が生成するものである。また、遅延設定部72で用いる遅延量nは、遅延量算出部74で算出する。上述のように、遅延設定部72で用いる遅延量nは、車速Vに基づいて設定可能なものであり、また、補正フィルタ76で用いる伝達関数F1は固定値である。このため、遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76の機能を1つの構成要素にまとめることも可能である。
【0062】
図9には、車両10の第1変形例である車両10Aの能動型騒音制御装置12a(以下「ANC装置12a」と称する。)の制御信号生成部62aの1つの機能ブロック図である。図9に示す制御信号生成部62aは、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62aも同様の構成を備える。また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62a及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68aと呼ぶ。
【0063】
図5のANC装置12では遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76を用いて第2遅延参照信号Sbd2を生成したが、図9のANC装置12aではフィルタ特性設定部90と補正フィルタ92とを用いて遅延参照信号Sbdを生成する。この遅延参照信号Sbdは、前記実施形態の第2遅延参照信号Sbd2に対応する。
【0064】
フィルタ特性設定部90は、車速センサ18からの車速Vと補正フィルタ92で用いる伝達関数F2との関係を規定したフィルタマップ94を有する。フィルタマップ94における車速Vと伝達関数F2との関係は、前記実施形態の遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76における処理を反映したものである。すなわち、伝達関数F2は、ホイールベースLwb、車速V及び演算周期Pcから定まる遅延量nと、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bの特性の相違に基づく伝達関数F1の両方を反映した値に設定される。
【0065】
補正フィルタ92は、例えば、FIR型又はIIR型のフィルタであり、フィルタ特性設定部90が設定する伝達関数F2に応じて参照信号Sbを信号処理して遅延参照信号Sbdを出力する。
【0066】
第1変形例に係るANC装置12aによっても、前記実施形態に係るANC装置12と同様の効果を得ることができる。
【0067】
(2)第2変形例
上記実施形態では、前輪参照信号(参照信号Sb)と車速Vとに基づいて第2遅延参照信号Sbd2を算出し、第1変形例では、前輪参照信号(参照信号Sb)と車速Vとに基づいて遅延参照信号Sbdを算出した。しかし、後輪24b用の適応フィルタ処理部70bに入力する参照信号は、その他の因子を加えて算出することもできる。
【0068】
図10には、車両10の第2変形例である車両10Bの能動型騒音制御装置12b(以下「ANC装置12b」と称する。)の制御信号生成部62bの1つの機能ブロック図である。図10に示す制御信号生成部62bは、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62bも同様の構成を備える。また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62b及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68bと呼ぶ。
【0069】
図9のANC装置12aはフィルタ特性設定部90及び補正フィルタ92を用いて遅延参照信号Sbdを生成したが、図10のANC装置12bは振幅判定部100、フィルタ特性設定部102及び補正フィルタ104を用いて遅延参照信号Sbdを生成する。
【0070】
振幅判定部100は、前輪参照信号(参照信号Sb)の振幅Afを判定し、フィルタ特性設定部102に出力する。
【0071】
フィルタ特性設定部102は、車速センサ18からの車速Vと補正フィルタ104で用いる伝達関数F3との関係を振幅Af毎に規定したフィルタマップ106を有する。フィルタマップ106における車速Vと伝達関数F3との関係は、前記実施形態の遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76における処理を振幅Af毎に反映したものである。すなわち、伝達関数F3は、ホイールベースLwb、車速V及び演算周期Pcから定まる遅延量nと、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bの特性の相違に基づく伝達関数F1の両方を振幅Af毎に反映した値に設定される。
【0072】
補正フィルタ104は、例えば、FIR型又はIIR型のフィルタであり、フィルタ特性設定部102が設定する伝達関数F3に応じて参照信号Sbを信号処理して遅延参照信号Sbdを出力する。
【0073】
第2変形例に係るANC装置12bによっても、前記実施形態に係るANC装置12と同様の効果を得ることができる。
【0074】
さらに、第2変形例では、参照信号Sb(前輪参照信号)の振幅Afに応じて、補正フィルタ104の伝達関数F3を切り替える。振幅Afが変化すると、例えば、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bのばね特性が変化する。第2変形例によれば、参照信号Sbの振幅Afに応じて補正フィルタ104の伝達関数F3を切り替える。このため、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bそれぞれのばね特性に応じて後輪打消音CSrを出力可能となり、後輪打消音CSrの予測精度を向上することが可能となる。
【0075】
(3)補正フィルタ76、92、104の伝達関数F1、F2、F3
上記実施形態、第1変形例及び第2変形例では、参照信号Sbのゲイン及び位相を調整するための伝達関数F1、F2、F3を用いたが、参照信号Sbの調整方法はこれに限らない。例えば、参照信号Sbのゲイン又は位相の一方のみを調整してもよい。
【0076】
3.その他
上記実施形態では、制御信号生成部62毎に遅延量算出部74を設けたが、これに限らない。例えば、ANC装置12に1つの遅延量算出部74を設け、1つの遅延量算出部74から各制御信号生成部62に遅延量nを設定することもできる。
【符号の説明】
【0077】
10、10A、10B…車両
12、12a、12b…能動型騒音制御装置
14a…前輪用サスペンション 14b…後輪用サスペンション
18…車速センサ
20…スピーカ(打消音出力手段の一部)
24a…前輪 24b…後輪
60x、60y、60z…加速度センサ(前輪振動検出手段)
70a、70b…適応フィルタ処理部(打消音出力手段の一部)
72…遅延設定部(後輪参照信号出力手段)
74…遅延量算出部(遅延時間算出手段)
76、92、104…補正フィルタ CSf…前輪打消音
CSr…後輪打消音 Sb…参照信号(前輪参照信号)
Sbd1…第1遅延参照信号(後輪参照信号)
【技術分野】
【0001】
この発明は、路面入力に基づく振動騒音を打消音により打ち消す能動型振動騒音制御装置に関し、より詳細には、いわゆる適応制御を用いて前記振動騒音の打消しを行う能動型振動騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の振動騒音に関連して音響を制御する装置として、能動型騒音制御装置(Active Noise Control Apparatus)(以下「ANC装置」という。)が知られている。一般的なANC装置では、振動騒音に対する逆位相の打消音を車室内のスピーカから出力することにより、前記振動騒音を低減する。また、振動騒音と打消音の誤差は、乗員の耳位置近傍に配置されたマイクロフォンにより残留騒音として検出され、その後の打消音の決定に用いられる。ANC装置には、例えば、エンジンの作動(振動)に応じて車室内に生ずる騒音(エンジンこもり音)を低減するものや、車両走行中における車輪と路面との接触によって車室内に生ずる騒音(ロードノイズ)を低減するものがある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献2では、前輪側の振動を前輪側のピックアップ(1)により検出する。そして、前輪側の振動に起因する振動騒音に対する相殺音を、ピックアップ(1)からの出力(参照信号)に基づいて生成する。また、前輪側のピックアップ(1)からの出力(参照信号)を、車速に応じて遅延回路(4)で遅延させる。そして、後輪側の振動に起因する振動騒音に対する相殺音を、遅延させた参照信号に基づいて生成する(例えば、要約、図1、段落[0018]〜[0026]参照)。
【0004】
特許文献3では、前輪から車体に入力される振動を前輪側の加速度センサ(14、16)により検出する。また、各加速度センサ及び車速センサ(26)の検出結果に基づいて、後輪から車体に入力される振動をリア振動推定部(20)で推定する。そして、推定された後輪側の振動とマイクロフォン(30)の検出結果に基づいて打消音を出力する(要約、図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−361721号公報
【特許文献2】特開平06−083369号公報
【特許文献3】特開2007−216787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように特許文献2及び特許文献3では、前輪側の振動及び車速に基づいて後輪側の振動を推定し、前輪側及び後輪側の振動騒音の両方に対応する打消音を出力する。換言すると、後輪側の振動は、前輪側から所定時間遅れて同一のものが発生することが前提とされている。
【0007】
しかしながら、車両の前輪用サスペンションと後輪用サスペンションとは必ずしも同一のものが用いられる訳ではない。例えば、前輪側には車両の軌道を変更するための転舵機構が設けられるが、後輪側にはそのような転舵機構は設けられないのが通常である。また、前輪駆動車であれば、前輪側にドライブシャフトが配置され、後輪側にはドライブシャフトが設けられない。さらに、前輪側にはサブフレームが設けられるが、後輪側にはサブフレームが設けられない構成も存在する。さらにまた、車両の前輪側と後輪側とで重量配分が異なる場合、サスペンションのばね特性及び減衰特性は前輪側と後輪側とで相違させる必要が生じる。従って、前輪側の振動を単に遅延させて後輪側の振動を推定するのみでは、後輪側の打消音を精度よく出力することができないおそれがある。
【0008】
この発明は、このような問題を考慮してなされたものであり、消音性能を向上させることが可能な能動型振動騒音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る能動型振動騒音制御装置は、車両の前輪への路面入力に基づく前輪振動を検出し、当該前輪振動を示す前輪参照信号を出力する前輪振動検出手段と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車両の前輪と後輪が同一地点を通過する時間差である遅延時間を前記車速に基づいて求める遅延時間算出手段と、前記前輪振動を前記遅延時間の分遅延させた予測後輪振動を示す後輪参照信号を出力する後輪参照信号出力手段と、前記前輪振動に起因する前輪振動騒音を消音対象位置において打ち消す前輪打消音を前記前輪参照信号に基づいて出力すると共に、前記予測後輪振動に起因する後輪振動騒音を前記消音対象位置において打ち消す後輪打消音を前記後輪参照信号に基づいて出力する打消音出力手段とを備えるものであって、前記後輪参照信号出力手段は、さらに、前記車両の前輪用サスペンションと後輪用サスペンションの特性の相違に基づく補正フィルタを用いて、前記前輪参照信号又は前記後輪参照信号を補正することで前記後輪打消音を予測することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、前輪側と後輪側のサスペンションの特性の相違を考慮して、前輪参照信号から後輪打消音を精度よく予測することが可能となる。
【0011】
前記後輪参照信号出力手段は、前記前輪参照信号の振幅に応じて、前記補正フィルタを切り替えてもよい。前輪参照信号の振幅が変化すると、例えば、サスペンションのばね特性が変化する。上記構成によれば、前輪参照信号の振幅に応じて補正フィルタを切り替える。このため、サスペンションのばね特性に応じて後輪打消音を出力可能となり、後輪打消音の予測精度を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、前輪側と後輪側のサスペンションの特性の相違を考慮して、前輪参照信号から後輪打消音を精度よく予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態に係る能動型騒音制御装置を搭載した車両の概略的な構成図である。
【図2】前記実施形態において車輪への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路の一例を示す図である。
【図3】前記車両に設けられた加速度センサユニットとその周辺の概略構成図である。
【図4】前記能動型騒音制御装置の機能ブロック図である。
【図5】前記能動型騒音制御装置における制御信号生成部の機能ブロック図である。
【図6】前輪側及び後輪側の振動の周波数と振幅の関係の一例を示す図である。
【図7】前輪側及び後輪側の振動の周波数と両振動の振幅の差の関係の一例を示す図である。
【図8】前記実施形態において打消音を生成するフローチャートである。
【図9】前記制御信号生成部の第1変形例の機能ブロック図である。
【図10】前記制御信号生成部の第2変形例の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[A.一実施形態]
1.全体及び各部の構成
(1)全体構成
図1は、この発明の一実施形態に係る能動型騒音制御装置12(以下「ANC装置12」という。)を搭載した車両10の概略的な構成を示す図である。車両10は、ガソリン車や電気自動車(燃料電池車を含む。)等の車両とすることができる。
【0015】
車両10は、ANC装置12に加え、複数の前輪用サスペンション14aと、複数の後輪用サスペンション14bと、前輪側のサスペンション14aに設けられた複数の加速度センサユニット16と、車両10の車速V[km/h]を検出する車速センサ18と、スピーカ20と、マイクロフォン22とを有する。
【0016】
ANC装置12は、加速度センサユニット16からの加速度信号Sx、Sy、Szと、車速センサ18が検出した車速Vと、マイクロフォン22からの誤差信号eとに基づいて第2合成制御信号Scc2を生成する。第2合成制御信号Scc2は、図示しない増幅器で増幅された後、スピーカ20に出力される。スピーカ20は、第2合成制御信号Scc2に対応する打消音CSを出力する。
【0017】
車両10の車室内に発生する振動騒音は、図示しないエンジンの振動に伴って生じる振動騒音(エンジンこもり音NZe)と、車両10の走行中に車輪24(前輪24a、後輪24b)と路面Rとが接触し、車輪24が振動することに伴って生じる振動騒音(ロードノイズNZr)とを複合した振動騒音(複合騒音NZc)である。本実施形態のANC装置12によれば、複合騒音NZcのうちロードノイズNZrの成分を打消音CSが打ち消し、消音効果を得ることができる。また、ロードノイズNZrには、左右の前輪24aから入力される振動に起因するもの(前輪ロードノイズNZrf)と、左右の後輪24bから入力される振動に起因するもの(後輪ロードノイズNZrr)とが含まれる。なお、車輪24への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路は、例えば、図2のようなものである。
【0018】
また、ANC装置12には、ロードノイズNZrの消音機能に加え、エンジンこもり音NZeの消音機能を持たせることもできる。すなわち、ANC装置12に従前のエンジンこもり音用の構成(例えば、特許文献1)を併せ持たせることも可能である。
【0019】
さらに、図1では図示していないが、加速度センサユニット16は左右の前輪24aに設けられており(図4参照)、各加速度センサユニット16は、2つの前輪24a(左前輪、右前輪)に対応して設けられている。さらに、図1、図4及び図5では、スピーカ20及びマイクロフォン22をそれぞれ1つずつしか示していないが、発明の理解の容易化のためであり、ANC装置12の用途に応じて複数のスピーカ20及びマイクロフォン22を用いることもできる。その場合、その他の構成要素の数も適宜変更される。
【0020】
(2)前輪用サスペンション14a及び加速度センサユニット16
図3に示すように、各加速度センサユニット16は、前輪用サスペンション14aの中でも、前輪24aのホイール32に連結されたナックル30に設けられている。サスペンション14aは、ナックル30に加え、連結部材38a、38bを介してナックル30及びボディ36に連結されたアッパーアーム34と、連結部材44a、44bを介してナックル30及びサブフレーム42に連結されたロアアーム40と、ダンパスプリング48を介してボディ36に連結され、連結部材50を介してロアアーム40に連結されたダンパ46とを有する。ボディ36とサブフレーム42は連結部材52を介して連結されている。また、ナックル30の内部には、ドライブシャフト54が回転自在に挿入されている。
【0021】
図4に示すように、各加速度センサユニット16は、振動加速度Axを検出する加速度センサ60xと、振動加速度Ayを検出する加速度センサ60yと、振動加速度Azを検出する加速度センサ60zとを有する。加速度センサ60xに検出される振動加速度Axは、車両10の前後方向(図1中、X方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。加速度センサ60yに検出される振動加速度Ayは、車両10の左右方向(図3のY方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。加速度センサ60zに検出される振動加速度Azは、車両10の上下方向(図1中、Z方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。
【0022】
各加速度センサユニット16は、各ナックル30で検出した振動加速度Ax、Ay、Azを示す加速度信号Sx、Sy、SzをANC装置12に出力する。ANC装置12では、アナログ/デジタル(A/D)変換した加速度信号Sx、Sy、Szを参照信号として打消音CSを生成する。以下では、加速度信号Sx、Sy、Szを参照信号Sbともいう。
【0023】
(3)ANC装置12
(a)全体構成
ANC装置12は、スピーカ20からの打消音CSの出力を制御するものであり、マイクロコンピュータ56、メモリ58(図1)等を備える。マイクロコンピュータ56は、打消音CSを決定する機能(打消音決定機能)等の機能をソフトウェア処理により実行可能である。
【0024】
図4は、ANC装置12の機能ブロック図である。図4に示すように、ANC装置12は、加速度センサ60x、60y、60z毎に設けられた制御信号生成部62と、前輪24aの加速度センサユニット16毎に設けられた第1加算器64と、第2加算器66とを有する。制御信号生成部62、第1加算器64及び第2加算器66は、マイクロコンピュータ56及びメモリ58により構成される。
【0025】
なお、本実施形態において、加速度センサ60x、60y、60zから出力される加速度信号Sx、Sy、Szはアナログ信号であり、ANC装置12におけるアナログ/デジタル変換器(図示せず)によりアナログ/デジタル(A/D)変換された後に制御信号生成部62に入力される。加えて、第2加算器66から出力されるデジタル信号としての第2合成制御信号Scc2は、ANC装置12におけるデジタル/アナログ変換器(図示せず)によりデジタル/アナログ(D/A)変換された後にスピーカ20に入力される。
【0026】
また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68と呼ぶ。図4では、一番上の制御信号生成ユニット68のみ内部を示し、その他の制御信号生成ユニット68は内部を省略して示している。
【0027】
(b)制御信号生成部62
図5は、制御信号生成部62の1つの機能ブロック図である。図5に示す制御信号生成部62は、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62も同様の構成を備える。
【0028】
図5に示すように、制御信号生成部62は、適応フィルタ処理部70a、70bと、遅延設定部72と、遅延量算出部74と、補正フィルタ76と、第3加算器78とを有する。
【0029】
適応フィルタ処理部70aは、前輪24aから入力された振動(実測値)に対応して設けられるものであり、図示しないアナログ/デジタル変換器でA/D変換された加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)に基づいて適応フィルタ制御を行う。適応フィルタ処理部70aは、適応フィルタ80aと、参照信号補正部82aと、フィルタ係数更新部84aとを有する。
【0030】
適応フィルタ80aは、例えば、FIR(Finite impulse response:有限インパルス応答)型又は適応ノッチ型のフィルタであり、参照信号Sbに対してフィルタ係数Wfを用いた適応フィルタ処理を行って、前輪24aから入力される路面振動(実測値)に対応する前輪ロードノイズNZrfを低減するための打消音CS(前輪打消音CSf)の波形を示す前輪制御信号Scr1を出力する。
【0031】
参照信号補正部82aは、参照信号Sbに対して伝達関数処理を行うことで補正参照信号Sr1を生成する。補正参照信号Sr1は、フィルタ係数更新部84aにおいてフィルタ係数Wfを演算する際に用いられる。また、伝達関数処理は、スピーカ20からマイクロフォン22への打消音CSの伝達関数Ce(フィルタ係数)に基づき参照信号Sbを補正する処理である。この伝達関数処理で用いられる伝達関数Ceは、スピーカ20からマイクロフォン22への打消音CSの実際の伝達関数Cの測定値又は予測値である。
【0032】
フィルタ係数更新部84aは、フィルタ係数Wfを逐次演算・更新する。フィルタ係数更新部84aは、適応アルゴリズム演算{例えば、最小二乗法(LMS)アルゴリズム演算}を用いてフィルタ係数Wfを演算する。すなわち、参照信号補正部82aからの補正参照信号Sr1とマイクロフォン22からの誤差信号eに基づいて、誤差信号eの二乗e2をゼロとするようにフィルタ係数Wfを演算する。フィルタ係数更新部84aにおける具体的な演算については、例えば、特許文献1に記載のものを用いることができる。
【0033】
遅延設定部72は、遅延量算出部74で算出された遅延量nの遅延を参照信号Sbに与えた第1遅延参照信号Sbd1を出力する。
【0034】
遅延量算出部74は、遅延設定部72で用いる遅延量nを算出する。具体的には、次の式(1)を用いて遅延量nを算出する。
n=[Lwb/{V×1000/(60×60)}]/Pc (1)(但し、小数点以下切捨て)
【0035】
上記式(1)において、Lwbは、車両10のホイールベース(前輪24aの回転軸と後輪24bの回転軸との距離)[m]であり、Vは、車速センサ18からの車速[km/h]であり、Pcは、演算周期[sec]である。また、式(1)中の数字「1000/(60×60)」は車速Vを時速から秒速[m/sec]に変換するための係数であり、当初より車速Vを秒速で定義すれば不要である。また、式(1)において、小数点以下を切り捨てる代わりに、小数点以下を切り上げてもよい。或いは、小数点以下を四捨五入してもよい。
【0036】
式(1)からわかるように、本実施形態での遅延量nは、同じ参照信号Sbを用いる場合、後輪24b用に用いる参照信号Sb(第1遅延参照信号Sbd1)は、前輪24a用に用いる参照信号Sbの演算周期Pcからいくつ遅らせるかを示す。本実施形態において、上記式(1)のうち可変であるのは車速Vのみである。このため、上記式(1)における演算の代わりに、車速Vと遅延量nとの関係を規定したマップを予めメモリ58に記憶しておき、今回の車速Vに応じて遅延量nを設定することも可能である。
【0037】
補正フィルタ76は、例えば、FIR型又はIIR(Infinite impulse response:無限インパルス応答)型のフィルタであり、予め設定された伝達関数F1に応じて第1遅延参照信号Sbd1を信号処理して第2遅延参照信号Sbd2を出力する。具体的には、次の方法により伝達関数F1を予め設定する。
【0038】
すなわち、車両10を出荷する前に、後輪用サスペンション14bにも図3のように加速度センサユニット16を取り付ける。そして、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bそれぞれにおいて加速度センサユニット16の出力を検出する。図6には、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bに取り付けた加速度センサ60xからの加速度信号Sxの周波数と振幅Af、Arとの関係の一例が示されている。後輪側のデータ(振幅Ar)は、前輪側のデータ(振幅Af)を取得した時点から遅延量nだけ遅延させた時点で取得したものである。図7には、周波数毎の振幅Afと振幅Arの偏差Dが示されている。
【0039】
本実施形態では、図7のような偏差Dを実測値として求め、この偏差DのうちロードノイズNZrが発生し易い周波数又は周波数帯域の偏差Dを補正するように補正フィルタ76の伝達関数F1(特にゲイン)を設定する。
【0040】
なお、上記のように、遅延量nは、車両10のホイールベースLwb、車速V及び演算周期Pcから求めるものであるが、前輪打消音CSf及び後輪打消音CSrが乗員の耳位置に到達する時間差は、それ以外の要因(例えば、振動の伝達経路、及びスピーカ22が複数ある場合、スピーカ22から乗員の耳位置までの距離)によっても変化する。そこで、補正フィルタ76では、ゲインのみではなく、当該時間差を反映した位相の調整を行うこともできる。
【0041】
適応フィルタ処理部70bは、後輪24bから入力される振動(推定値)に対応して設けられるものであり、適応フィルタ処理部70aと同様の構成を有する。但し、適応フィルタ処理部70bでは、参照信号Sbの代わりに、第2遅延参照信号Sbd2を用いる。従って、適応フィルタ処理部70bの適応フィルタ80bから出力される後輪制御信号Scr2は、後輪24bから入力される路面振動(推定値)に対応する後輪ロードノイズNZrrを低減するための後輪打消音CSrの波形を示す。
【0042】
第3加算器78は、適応フィルタ処理部70a、70bからの前輪制御信号Scr1及び後輪制御信号Scr2を合成して制御信号Scrを生成する。
【0043】
(c)第1加算器64
各第1加算器64は、各制御信号生成部62から出力された制御信号Scrを合成し、第1合成制御信号Scc1を生成する。
【0044】
(d)第2加算器66
第2加算器66は、各制御信号生成ユニット68の第1加算器64から出力された第1合成制御信号Scc1を合成し、第2合成制御信号Scc2を生成する。第2合成制御信号Scc2は、図示しないD/A変換器でD/A変換された後、スピーカ20に入力される。
【0045】
(4)スピーカ20
スピーカ20は、ANC装置12(マイクロコンピュータ56)からの第2合成制御信号Scc2に対応する打消音CSを出力する。これにより、ロードノイズNZr(前輪ロードノイズNZrfと後輪ロードノイズNZrrを合計したもの)の消音効果が得られる。
【0046】
(5)マイクロフォン22
マイクロフォン22は、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差を残留騒音として検出し、この残留騒音を示す誤差信号eをANC装置12(マイクロコンピュータ56)に出力する。
【0047】
2.各部における処理(打消音CSの生成)
次に、本実施形態における打消音CSの生成の流れについて説明する。図8は、打消音CSを生成するフローチャートである。
【0048】
ステップS1において、各加速度センサユニット16の加速度センサ60x、60y、60zは、X軸方向の振動加速度Ax、Y軸方向の振動加速度Ay及びZ軸方向の振動加速度Azを検出し、振動加速度Ax、Ay、Azを示す加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)を生成する。
【0049】
ステップS2において、制御信号生成部62は、図示しないA/D変換器によりA/D変換された加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)と、車速センサ18からの車速Vと、マイクロフォン22からの誤差信号eとに基づき、適応フィルタ処理を実施することにより制御信号Scrを生成する。上記のように、制御信号Scrは、前輪制御信号Scr1と後輪制御信号Scr2を加算したものである。
【0050】
ステップS3において、第1加算器64は、各制御信号生成部62から出力された制御信号Scrを合成して、第1合成制御信号Scc1を生成する。
【0051】
ANC装置12は、上記ステップS1〜S3を、前輪24aの加速度センサユニット16それぞれに対応して行う。
【0052】
ステップS4において、第2加算器66は、各第1加算器64から出力された第1合成制御信号Scc1を合成して第2合成制御信号Scc2を生成する。
【0053】
ステップS5において、スピーカ20は、第2合成制御信号Scc2に基づく打消音CSを出力する。なお、第2加算器66からスピーカ20に入力される際、第2合成制御信号Scc2は、図示しないD/A変換器によりD/A変換され且つ図示しない増幅器により振幅調整される。
【0054】
ステップS6において、マイクロフォン22は、ロードノイズNZrを含む複合騒音NZcと打消音CSとの差を残留騒音として検出し、この残留騒音に対応する誤差信号eを出力する。この誤差信号eは、ANC装置12のその後の適応フィルタ処理で用いられる。
【0055】
ANC装置12では、以上のステップS1〜S6を演算周期Pc毎に繰り返す。
【0056】
3.本実施形態における効果
以上のように、本実施形態によれば、前輪用サスペンション14aと後輪用サスペンション14bの特性の相違を考慮して、参照信号Sb(前輪参照信号)から後輪打消音CSrを精度よく予測することが可能となる。
【0057】
[B.この発明の応用]
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下に示す構成を採ることができる。
【0058】
1.加速度センサユニット16
上記実施形態では、2つの前輪24aそれぞれについて加速度センサユニット16を設けたが、一方の前輪24aにのみ加速度センサユニット16を設ける構成も可能である。また、上記実施形態では、各加速度センサユニット16において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3軸の方向の振動の振動加速度Ax、Ay、Azを検出したが、これに限らず、1軸もしくは2軸の方向又は4軸以上の方向の振動の加速度を検出してもよい。
【0059】
上記実施形態では、振動加速度Ax、Ay、Azを加速度センサ60x、60y、60zにより直接検出したが、変位センサによりナックル30の変位[mm]を検出し、この変位に基づいて振動加速度Ax、Ay、Azを演算することもできる。同様に、荷重センサの検出値を用いて振動加速度Ax、Ay、Azを求めてもよい。さらに、例えば、前輪24aの近傍に別のマイクロフォンを設け、当該マイクロフォンで振動騒音を検出し、当該振動騒音を示す信号を加速度信号Sx、Sy、Szの代わりに用いることもできる。
【0060】
上記実施形態では、各加速度センサユニット16をナックル30に設けたが、ハブ等のその他の部位に設けることも可能である。
【0061】
2.後輪打消音CSrの推定方法
(1)第1変形例
上記実施形態では、後輪24b用の適応フィルタ処理部70bに入力する参照信号として、第2遅延参照信号Sbd2を用いた。第2遅延参照信号Sbd2は、第1遅延参照信号Sbd1(後輪参照信号)に基づいて補正フィルタ76が生成するものであり、第1遅延参照信号Sbd1は、参照信号Sb(前輪参照信号)に基づいて遅延設定部72が生成するものである。また、遅延設定部72で用いる遅延量nは、遅延量算出部74で算出する。上述のように、遅延設定部72で用いる遅延量nは、車速Vに基づいて設定可能なものであり、また、補正フィルタ76で用いる伝達関数F1は固定値である。このため、遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76の機能を1つの構成要素にまとめることも可能である。
【0062】
図9には、車両10の第1変形例である車両10Aの能動型騒音制御装置12a(以下「ANC装置12a」と称する。)の制御信号生成部62aの1つの機能ブロック図である。図9に示す制御信号生成部62aは、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62aも同様の構成を備える。また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62a及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68aと呼ぶ。
【0063】
図5のANC装置12では遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76を用いて第2遅延参照信号Sbd2を生成したが、図9のANC装置12aではフィルタ特性設定部90と補正フィルタ92とを用いて遅延参照信号Sbdを生成する。この遅延参照信号Sbdは、前記実施形態の第2遅延参照信号Sbd2に対応する。
【0064】
フィルタ特性設定部90は、車速センサ18からの車速Vと補正フィルタ92で用いる伝達関数F2との関係を規定したフィルタマップ94を有する。フィルタマップ94における車速Vと伝達関数F2との関係は、前記実施形態の遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76における処理を反映したものである。すなわち、伝達関数F2は、ホイールベースLwb、車速V及び演算周期Pcから定まる遅延量nと、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bの特性の相違に基づく伝達関数F1の両方を反映した値に設定される。
【0065】
補正フィルタ92は、例えば、FIR型又はIIR型のフィルタであり、フィルタ特性設定部90が設定する伝達関数F2に応じて参照信号Sbを信号処理して遅延参照信号Sbdを出力する。
【0066】
第1変形例に係るANC装置12aによっても、前記実施形態に係るANC装置12と同様の効果を得ることができる。
【0067】
(2)第2変形例
上記実施形態では、前輪参照信号(参照信号Sb)と車速Vとに基づいて第2遅延参照信号Sbd2を算出し、第1変形例では、前輪参照信号(参照信号Sb)と車速Vとに基づいて遅延参照信号Sbdを算出した。しかし、後輪24b用の適応フィルタ処理部70bに入力する参照信号は、その他の因子を加えて算出することもできる。
【0068】
図10には、車両10の第2変形例である車両10Bの能動型騒音制御装置12b(以下「ANC装置12b」と称する。)の制御信号生成部62bの1つの機能ブロック図である。図10に示す制御信号生成部62bは、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62bも同様の構成を備える。また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62b及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68bと呼ぶ。
【0069】
図9のANC装置12aはフィルタ特性設定部90及び補正フィルタ92を用いて遅延参照信号Sbdを生成したが、図10のANC装置12bは振幅判定部100、フィルタ特性設定部102及び補正フィルタ104を用いて遅延参照信号Sbdを生成する。
【0070】
振幅判定部100は、前輪参照信号(参照信号Sb)の振幅Afを判定し、フィルタ特性設定部102に出力する。
【0071】
フィルタ特性設定部102は、車速センサ18からの車速Vと補正フィルタ104で用いる伝達関数F3との関係を振幅Af毎に規定したフィルタマップ106を有する。フィルタマップ106における車速Vと伝達関数F3との関係は、前記実施形態の遅延設定部72、遅延量算出部74及び補正フィルタ76における処理を振幅Af毎に反映したものである。すなわち、伝達関数F3は、ホイールベースLwb、車速V及び演算周期Pcから定まる遅延量nと、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bの特性の相違に基づく伝達関数F1の両方を振幅Af毎に反映した値に設定される。
【0072】
補正フィルタ104は、例えば、FIR型又はIIR型のフィルタであり、フィルタ特性設定部102が設定する伝達関数F3に応じて参照信号Sbを信号処理して遅延参照信号Sbdを出力する。
【0073】
第2変形例に係るANC装置12bによっても、前記実施形態に係るANC装置12と同様の効果を得ることができる。
【0074】
さらに、第2変形例では、参照信号Sb(前輪参照信号)の振幅Afに応じて、補正フィルタ104の伝達関数F3を切り替える。振幅Afが変化すると、例えば、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bのばね特性が変化する。第2変形例によれば、参照信号Sbの振幅Afに応じて補正フィルタ104の伝達関数F3を切り替える。このため、前輪用サスペンション14a及び後輪用サスペンション14bそれぞれのばね特性に応じて後輪打消音CSrを出力可能となり、後輪打消音CSrの予測精度を向上することが可能となる。
【0075】
(3)補正フィルタ76、92、104の伝達関数F1、F2、F3
上記実施形態、第1変形例及び第2変形例では、参照信号Sbのゲイン及び位相を調整するための伝達関数F1、F2、F3を用いたが、参照信号Sbの調整方法はこれに限らない。例えば、参照信号Sbのゲイン又は位相の一方のみを調整してもよい。
【0076】
3.その他
上記実施形態では、制御信号生成部62毎に遅延量算出部74を設けたが、これに限らない。例えば、ANC装置12に1つの遅延量算出部74を設け、1つの遅延量算出部74から各制御信号生成部62に遅延量nを設定することもできる。
【符号の説明】
【0077】
10、10A、10B…車両
12、12a、12b…能動型騒音制御装置
14a…前輪用サスペンション 14b…後輪用サスペンション
18…車速センサ
20…スピーカ(打消音出力手段の一部)
24a…前輪 24b…後輪
60x、60y、60z…加速度センサ(前輪振動検出手段)
70a、70b…適応フィルタ処理部(打消音出力手段の一部)
72…遅延設定部(後輪参照信号出力手段)
74…遅延量算出部(遅延時間算出手段)
76、92、104…補正フィルタ CSf…前輪打消音
CSr…後輪打消音 Sb…参照信号(前輪参照信号)
Sbd1…第1遅延参照信号(後輪参照信号)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪への路面入力に基づく前輪振動を検出し、当該前輪振動を示す前輪参照信号を出力する前輪振動検出手段と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車両の前輪と後輪が同一地点を通過する時間差である遅延時間を前記車速に基づいて求める遅延時間算出手段と、
前記前輪振動を前記遅延時間の分遅延させた予測後輪振動を示す後輪参照信号を出力する後輪参照信号出力手段と、
前記前輪振動に起因する前輪振動騒音を消音対象位置において打ち消す前輪打消音を前記前輪参照信号に基づいて出力すると共に、前記予測後輪振動に起因する後輪振動騒音を前記消音対象位置において打ち消す後輪打消音を前記後輪参照信号に基づいて出力する打消音出力手段とを備える能動型振動制御装置であって、
前記後輪参照信号出力手段は、さらに、前記車両の前輪用サスペンションと後輪用サスペンションの特性の相違に基づく補正フィルタを用いて、前記前輪参照信号又は前記後輪参照信号を補正することで前記後輪打消音を予測する
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記後輪参照信号出力手段は、前記前輪参照信号の振幅に応じて、前記補正フィルタを切り替える
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項1】
車両の前輪への路面入力に基づく前輪振動を検出し、当該前輪振動を示す前輪参照信号を出力する前輪振動検出手段と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車両の前輪と後輪が同一地点を通過する時間差である遅延時間を前記車速に基づいて求める遅延時間算出手段と、
前記前輪振動を前記遅延時間の分遅延させた予測後輪振動を示す後輪参照信号を出力する後輪参照信号出力手段と、
前記前輪振動に起因する前輪振動騒音を消音対象位置において打ち消す前輪打消音を前記前輪参照信号に基づいて出力すると共に、前記予測後輪振動に起因する後輪振動騒音を前記消音対象位置において打ち消す後輪打消音を前記後輪参照信号に基づいて出力する打消音出力手段とを備える能動型振動制御装置であって、
前記後輪参照信号出力手段は、さらに、前記車両の前輪用サスペンションと後輪用サスペンションの特性の相違に基づく補正フィルタを用いて、前記前輪参照信号又は前記後輪参照信号を補正することで前記後輪打消音を予測する
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記後輪参照信号出力手段は、前記前輪参照信号の振幅に応じて、前記補正フィルタを切り替える
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−148722(P2012−148722A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10334(P2011−10334)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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