説明

膀胱癌における治療標的としてのp38α

本発明はp38インヒビターにより膀胱癌を処置するための方法及び組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGFR3突然変異に関連する病理の処置のため、及び、より一般的には膀胱癌又は腫瘍の処置のための、医薬の分野、特に組成物及び方法に関する。
【0002】
発明の背景
FGFR3(繊維芽細胞増殖因子受容体3)は、胚発生及び組織の恒常性の多くの局面に関与する構造的に関連するチロシンキナーゼ受容体のファミリー(FGFR1−4)に属する。これらの受容体は、増殖、分化、遊走、及びアポトーシスを含む様々な生物学的過程を制御する。それらは病態にも関与しており、多くの研究で発生遺伝病及び良性又は悪性腫瘍におけるそれらの重要性が強調されてきた。FGFRは、2つ又は3つの免疫グロブリン様ドメイン、細胞膜貫通領域、及びチロシンキナーゼ活性を伴う細胞質内ドメインからなる細胞外リガンド結合ドメインを有する。細胞外ドメインへのリガンド結合によってFGFRの二量化が導かれ、細胞内チロシンのトランスリン酸化による受容体の活性化が誘発される。細胞内ドメインは、次に、様々な細胞内シグナル伝達タンパク質と相互作用し、それをリン酸化する。選択的mRNAスプライシングは、FGFRの異なる領域に影響を及ぼす。FGFR1−3の膜近傍Ig様ドメインの第2部分は2つの相互に排他的なエクソンによりコード化され、異なるリガンド特異性及び組織分布を有する2つの異なるアイソフォームb及びcをもたらす。FGFR3bが上皮細胞において主に発現されるのに対し、FGFR3cは軟骨細胞を含む間葉由来細胞において大部分が見出される。
【0003】
FGFR3における特定の生殖細胞系点突然変異は、様々な常染色体優性のヒト骨障害に関連付けられる。これらの全ての突然変異は、ヌクレオチド置換の位置及び性質に依存して、様々な機構により自己活性化された受容体を生成する。
【0004】
FGFR3の同じ活性化突然変異は良性及び悪性腫瘍において同定されている。良性腫瘍として皮膚(脂漏性角化症及び表皮母斑)及び膀胱(膀胱乳頭腫)における腫瘍が挙げられる。悪性腫瘍として血液癌、多発性骨髄腫、ならびに膀胱及び頚部の癌が挙げられる。FGFR3突然変異の頻度は多発性骨髄腫及び頚癌において低いが(腫瘍の2%未満がこれらの突然変異を呈する)、しかし、膀胱癌においてずっと高い(50%前後)。多発骨髄腫において発現する主なFGFR3アイソフォームである突然変異型FGFR3cの形質転換特性が明確に実証されている。突然変異型FGFR3bアイソフォームが主に良性腫瘍又は低悪性能の腫瘍において見いだされるとの事実にもかかわらず、本発明者らは近年、NIH−3T3細胞及び膀胱癌細胞株において突然変異型FGFR3bの発癌性を明確に実証した。実際に、膀胱腫瘍におけるFGFR3の最も共通の突然変異型であるFGFR3b−S249CはNIH−3T3細胞を形質転換でき、ヌードマウスに皮下注射した場合にそれらの足場非依存性増殖及び腫瘍形成を誘発し、そして、siRNAを使用したMGH−U3細胞におけるFGFR3b−Y375Cノックダウンは細胞増殖を低下させ、足場非依存性増殖を抑制した(Bernard-Pierrot, 2006, Carcinogenesis 4: 740-747)。それにもかかわらず、突然変異型FGFR3受容体のこれらの発癌性に関連する(関与する)分子機構は解明されなかった。
【0005】
膀胱癌は、発生率の観点から、男性において4番目、女性において9番目の癌である。患者1人当たり、それは社会にとって最も費用のかかる癌である。しかし、FGFR3突然変異に関連する病理の利用可能な処置の数は非常に限られており、新しい処置が必要とされる。
【0006】
本発明者からの2005年4月のアメリカ癌学会(AACR)の要約では、突然変異型FGFR3−S249CによるトランスフェクトNIH−3T3実験細胞株に関連するインビトロでの結果が開示されている。FGFR3−S249CはERK1/2及びP13キナーゼを活性化し、それはp38 MAPキナーゼ経路を特異的に活性化する。それぞれP13キナーゼ及びp38 MAPキナーゼのインヒビターであるLY294002又はSB203580によるトランスフェクト細胞株の処置によって、細胞の形質転換した表現型及び軟寒天においてコロニーを形成するそれらの能力が抑制される。従って、著者らは、P13キナーゼ経路及びp38経路の両方がFGFR3−S249C誘発性の細胞形質転換を達成するために必要とされると結論付けた。著者らの目的は発癌機構の発見であった。任意の処置のためにこれらのインヒビターの1つを使用するとの示唆はない。加えて、これらのデータは実験モデル細胞株でのインビトロの結果のみに関し、当業者はそのようなインビトロでの結果から何らかの可能な治療効果を推定することが不可能であることを知っている。最後に、p38のアイソフォームについての情報はない。
【0007】
発明の概要
本発明者らは、以下の理由から、p38αが、FGFR3突然変異に関連する病理、より一般的には膀胱癌又は腫瘍のための治療標的であることを確証した:
−p38αアイソフォームは突然変異型FGFR3により誘発される増殖に関与する唯一のアイソフォームである。
−p38αインヒビターは突然変異型FGFR3に特異的と思われる。実際に、それらは3T3細胞における活性化された野生型FGFR3により誘発される増殖を遮断しない
−ヒトのサンプルを使用し、膀胱腫瘍サンプルの大半がリン酸化p38αを発現したことが示されており、それは活性化p38αである。
FGFR3突然変異を保有する全ての膀胱腫瘍サンプルがリン酸化p38αを発現した。興味深いことに、FGFR3について突然変異のない一部のヒトのサンプルもリン酸化p38を発現しており、ヒトの膀胱腫瘍において、p38αの役割がFGFR3突然変異を伴う腫瘍に限定されないことを示唆する。例えば、RAS突然変異を呈する全てのヒトの膀胱腫瘍もp38αの強いリン酸化を呈した。
−p38αインヒビターは、膀胱腫瘍細胞株における突然変異型FGFR3により誘発される軟寒天中での増殖及びコロニー形成能を遮断する。
−p38αインヒビターはインビボで増殖を遮断し、特にそれらはヌードマウスにおける膀胱腫瘍の異種移植片の増殖及び皮膚マウス腫瘍モデルにおける腫瘍細胞の増殖も低減する。
−p38αインヒビターはいくつかのFGFR3突然変異、特にS249C及びY375Cについて効率的である。
【0008】
従って、p38αインヒビターは、病的細胞に及ぼすそれらの標的効果のため、FGFR3突然変異に関連する病理に対する魅力的な処置である。特に、p38αインヒビターは膀胱腫瘍に対する魅力的な処置であるが、それは、FGFR3が突然変異した腫瘍に対する薬物を使用して膀胱腫瘍の50%を処置できたのに対し、p38αに対する薬物を故に使用してFGFR3が突然変異した腫瘍を含む膀胱腫瘍の75%を処置できたためである。
【0009】
従って、本発明は、任意にFGFR3又はRASの突然変異に関連する膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。本発明は、また、治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む、任意にFGFR3又はRASの突然変異に関連する膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関する。
【0010】
特定の態様において、p38αインヒビターは、
【表1】


からなる群より選択する。好ましい態様において、p38αインヒビターはp38αに特異的である。例えば、特異的p38αインヒビターは、
【表2】


からなる群より選択できる。
【0011】
別の特定の態様において、p38αインヒビターはp38αに対して向けたsiRNAである。
【0012】
別の特定の態様において、p38αインヒビターはアンチセンス、リボザイム、又は抗体である。
【0013】
好ましい態様において、リン酸化p38αは、処置する被験体からのサンプルにおいて検出される。特に、膀胱癌又は腫瘍からのサンプルはリン酸化p38αを呈する。より特定の態様において、膀胱癌又は腫瘍はFGFR3又はRASの突然変異に関連する。
【0014】
好ましい態様において、処置する被験体は、好ましくは病理により罹患した組織において、突然変異型FGFR3を有する。
【0015】
特定の態様において、FGFR3突然変異は、
【表3】


からなる群より選択される(コドン番号はFGFR3bアイソフォームに対応する)。
【0016】
好ましい態様において、p38αインヒビターは経口、局所、又は非経口で投与する。
【0017】
本発明は、また、被験体からのサンプルにおいてFGFR3もしくはRASが突然変異を有するか否か、又は、リン酸化p38αを検出できるか否かを決定すること、及び、突然変異型FGFR3もしくはRASを有する、又は、リン酸化p38αを検出できる被験体を選択することを含む、p38αインヒビターにより処置するのに適した膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を選択するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1:FGFR3b−S249C誘発性のNIH−3T3細胞形質転換はp38依存性である。図1A)NIH−3T3対照細胞(Neo1.5、Neo2.3)、FGFR3−S249C発現細胞(S249C1.1、S249C1.2)、及び野生型FGFR3発現細胞(R3b1.1, R3b1.3)を24時間血清飢餓させ、適宜、50μg/mlヘパリンの存在下において20ng/ml FGF1で刺激した。75μgの全細胞ライセートタンパク質を、以下の特異的抗体を使用してイムノブロットした:抗ホスホ−p38(Pp38)抗体、抗p38抗体、抗ホスホ−Akt(PAkt)抗体、抗Akt抗体、抗ホスホ−p42/p44(ERK1/2)(Pp42/p44)抗体、及び抗p42/p44抗体。
【図1B】図1:FGFR3b−S249C誘発性のNIH−3T3細胞形質転換はp38依存性である。図1B)30μMのSU5402(FGFRインヒビター)で24時間処置したS249C1.2細胞及び未処置細胞の細胞ライセート(75 μgタンパク質)を抗ホスホ−p38(Pp38)抗体及び抗p38抗体でイムノブロットした。
【図1C】図1:FGFR3b−S249C誘発性のNIH−3T3細胞形質転換はp38依存性である。図1C)30μMのSU5402又は20μMのSB203580(p38インヒビター)で48時間処置したNIH−3T3対照細胞(neo1.5)及びFGFR3−S249Cを発現するNIH−3T3細胞(クローンS249C1.2)の形態学的分析。
【図1D】図1:FGFR3b−S249C誘発性のNIH−3T3細胞形質転換はp38依存性である。図1D)30μMのSU5402又は20μMのSB203580の存在下又は不在でのFGFR3−S249C発現細胞(S249C1.2)の軟寒天アッセイ。21日後、直径が50μmより大きいコロニーをカウントした。データは3回実施した2つの独立した実験での平均値であり、標準誤差を示す。
【図2A】図2:p38欠乏又は抑制によってMGH−U3細胞増殖及び形質転換がインビボ及びインビボで抑制される。図2A)FGFR3抑制又は欠乏によってMGH−U3細胞におけるp38活性化が抑制される。30μMのSU5402(FGFRインヒビター)で24時間処置したMGH−U3細胞、未処置細胞、及びsiRNAトランスフェクト細胞(トランスフェクションから72時間後)の細胞ライセート(75μgタンパク質)を抗ホスホ−p38(Pp38)抗体及び抗p38抗体でイムノブロットした。
【図2B】図2:p38欠乏又は抑制によってMGH−U3細胞増殖及び形質転換がインビボ及びインビボで抑制される。図2B)挿入図、siRNAトランスフェクトMGH−U3細胞(トランスフェクションから72時間後)の細胞ライセート(50μg)を抗p38抗体又は抗Akt抗体でイムノブロットした。p38抑制又は欠乏によってMGH−U3細胞増殖が抑制された。MTT取り込みを、SB203580での処置又は200nMのp38α siRNAでのトランスフェクションから72時間後に評価した。
【図2C】図2:p38欠乏又は抑制によってMGH−U3細胞増殖及び形質転換がインビボ及びインビボで抑制される。図2C)SB203580を使用したp38抑制、又はsiRNAを使用したp38α欠乏によってMGH−U3細胞の足場非依存性増殖が抑制された。結果は3回実施した2つの独立した実験での平均値であり、標準誤差を示す。
【図2D】図2:p38欠乏又は抑制によってMGH−U3細胞増殖及び形質転換がインビボ及びインビボで抑制される。図2D)p38抑制によってMGH−U3異種移植片の増殖が抑制される。マウス(n=5/群)にSB203580又はPBSを毎日腫瘍内投与した。0日目は、腫瘍容積が約50 mm3であった細胞接種後6日目に相当する。腫瘍直径をキャリパーにより一定間隔で測定し、腫瘍容積を算出した。実験終了時、腫瘍の重量を測定した。結果は平均値+/−SE(n=10個の腫瘍)である。統計分析はウィルコクソンの対応のない検定(Wilcoxon unpaired test)を使用して実施した。*,p<0.05;**p<0.01,***p<0.001。
【図3A】図3:FGFR3b−S249Cによるp38活性化が、K5−FGFR3−S249Cトランスジェニックマウスにおける口吻腫瘍の表皮細胞増殖を誘発するために必要とされる。図3A)K5−FGFR3−S249Cトランスジェニックマウス(T)及び同腹仔対照マウス(C)の表現型。
【図3B】図3:FGFR3b−S249Cによるp38活性化が、K5−FGFR3−S249Cトランスジェニックマウスにおける口吻腫瘍の表皮細胞増殖を誘発するために必要とされる。図3B)ホスホ−p38(Pp38)抗体及びp38抗体を使用した75μgの口吻全ライセートのイムノブロット分析。T、トランスジェニックマウス、C、同腹仔対照マウス。
【図3C】図3:FGFR3b−S249Cによるp38活性化が、K5−FGFR3−S249Cトランスジェニックマウスにおける口吻腫瘍の表皮細胞増殖を誘発するために必要とされる。図3C)トランスジェニックマウス(T)の口吻をアセトン又は100μMのSU5402で2週間に毎日処置した。75μgの口吻全ライセートをホスホ−p38(Pp38)を使用してイムノブロットした。
【図3D】図3:FGFR3b−S249Cによるp38活性化が、K5−FGFR3−S249Cトランスジェニックマウスにおける口吻腫瘍の表皮細胞増殖を誘発するために必要とされる。図3D)トランスジェニックマウス(T)又は同腹仔対照マウス(C)の口吻をアセトン又は100μMのSB203580で2週間に毎日処置した。表皮基底細胞の増殖をBrdU標識により評価した。SB203580で処置した、又は未処置のトランスジェニックマウスの口吻での典型的な標識を描写する、倍率x100。結果は平均値+/− SD(n=5匹のマウス)である。統計分析は対応のないスチューデントのt検定(unpaired student t test)を使用して実施した、***p<0.001。
【図4A】図4:ヒト膀胱腫瘍におけるp38活性化 P38リン酸化は、異なる病期及び悪性度、FGFR3及びRASの突然変異状態のヒト膀胱腫瘍におけるウエスタンブロットにより分析した。50μgの全ヒト膀胱腫瘍ライセートを抗ホスホ−p38(Pp38)抗体及び抗p38抗体(Cell Signaling Technologies)でイムノブロットした。典型的なウエスタンブロットを示し(図4A)、全ての結果を表中にまとめる(図4B)。FGFR3及びRASの突然変異状態を図4A(+=突然変異あり、−=突然変異なし)及び図4B(黒色=突然変異なし、薄灰色=突然変異あり)の両方において示す。
【図4B】図4:ヒト膀胱腫瘍におけるp38活性化 P38リン酸化は、異なる病期及び悪性度、FGFR3及びRASの突然変異状態のヒト膀胱腫瘍におけるウエスタンブロットにより分析した。50μgの全ヒト膀胱腫瘍ライセートを抗ホスホ−p38(Pp38)抗体及び抗p38抗体(Cell Signaling Technologies)でイムノブロットした。典型的なウエスタンブロットを示し(図4A)、全ての結果を表中にまとめる(図4B)。FGFR3及びRASの突然変異状態を図4A(+=突然変異あり、−=突然変異なし)及び図4B(黒色=突然変異なし、薄灰色=突然変異あり)の両方において示す。
【0019】
発明の詳細な説明
定義
「含む」を使用する場合、これは好ましくは「本質的になる」、より好ましくは「からなる」により置換できる。
【0020】
本明細書内全体で「膀胱癌又は腫瘍の処置」又は同様のものをp38αインヒビターに関して言及する場合はいつでも、それは以下を意味する:
a)方法が、膀胱癌又は腫瘍の処置を可能にする用量(=治療的有効量)において、そのような処置を必要とする被験体、特にヒトに、p38αインヒビター(好ましくは薬学的に許容可能な担体物質)を(少なくとも1回の処置のために)投与する工程を含む、膀胱癌又は腫瘍の処置の(=処置するための)方法;
b)膀胱癌又は腫瘍の処置のためのp38αインヒビターの使用;又は該処置における(特にヒトにおける)使用のためのp38αインヒビター;
c)膀胱癌又は腫瘍の処置のための薬学的製剤の製造のためのp38αインヒビターの使用;
d)膀胱癌又は腫瘍の処置のために適切であるp38αインヒビターの用量を含む薬学的製剤;及び/又は
e)膀胱癌又は腫瘍の処置における同時、分割、又は連続使用のための併用製剤としてp38αインヒビター及び他の薬物を含む産物。
【0021】
本明細書内全体で「FGFR3突然変異に関連する病理の処置」又は同様のものをp38αインヒビターに関して言及する場合はいつでも、それは以下を意味する:
a)方法が、病理の処置を可能にする用量(=治療的有効量)において、そのような処置を必要とする被験体、特にヒトに、p38αインヒビター(好ましくは薬学的に許容可能な担体物質)を(少なくとも1回の処置のために)投与する工程を含む、FGFR3突然変異に関連する病理の処置の(=処置するための)方法;
b)FGFR3突然変異に関連する病理の処置のためのp38αインヒビターの使用;又は該処置における(特にヒトにおける)使用のためのp38αインヒビター;
c)FGFR3突然変異に関連する病理の処置のための薬学的製剤の製造のためのp38αインヒビターの使用;
d)FGFR3突然変異に関連する病理の処置のために適切であるp38αインヒビターの用量を含む薬学的製剤;及び/又は
e)FGFR3突然変異に関連する病理の処置における同時、分割、又は連続使用のための併用製剤としてp38αインヒビター及び他の薬物を含む産物。
【0022】
従って、本発明は、FGFR3突然変異に関連する病理、特に膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。本発明は、また、治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む、FGFR3突然変異に関連する病理、特に膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関する。好ましい態様において、p38αインヒビターはp38αに特異的である。p38αインヒビターは好ましくは以下に詳述するインヒビターである。
【0023】
好ましい態様において、病理は、多発骨髄腫、癌(悪性上皮腫瘍)、良性上皮腫瘍、及び先天性軟骨形成不全症からなる群より選択される。特定の態様において、上皮腫瘍は、膀胱、頚部、肺、乳房、結腸、及び皮膚腫瘍、好ましくは膀胱癌及び良性皮膚腫瘍からなる群より選択される。好ましい態様において、良性皮膚腫瘍は、脂漏性角化症又は表皮母斑である。特定の態様において、先天性軟骨形成不全症は、軟骨形成不全症、軟骨無形成症、発育遅延及び黒色表皮腫を伴う重度軟骨無形成症、ならびに致死性骨異形成症からなる群より選択される。好ましい態様において、先天性軟骨形成不全症は軟骨無形成症である。より好ましい態様において、病理は膀胱癌である。
【0024】
好ましい態様において、FGFR3突然変異に関連する病理、特に膀胱癌又は腫瘍を患う被験体は、FGFR3突然変異、特に活性化FGFR3突然変異を有する。特定の態様において、FGFR3突然変異は、病理に罹患した組織において検出される。FGFR3突然変異を以下でさらに詳述する。あるいは、FGFR3突然変異は、特にp38α活性化を通して、例えばリン酸化p38αを検出することにより間接的に検出できる。
【0025】
従って、本発明は、FGFR3突然変異に関連しうる疾患、特に膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関し、被験体からのサンプルにおいてFGFR3が突然変異を有するか否かを決定すること、及び、突然変異型FGFR3を有する被験体に治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む。あるいは、本発明は、FGFR3突然変異に関連しうる疾患、特に膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関し、被験体からのサンプルにおいてp38αが活性化されているか否かを決定すること、及び、活性化p38αを有する被験体に治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む。活性化p38αはリン酸化p38αである。それは、例えば実施例において詳述される通りに、リン酸化p38αに対して特異的な抗体で検出できる。
【0026】
本発明は、さらに、突然変異型FGFR3を有する被験体において、FGFR3突然変異に関連する病理、特に膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。特定の態様において、本発明は、突然変異型FGFR3を有する被験体において膀胱癌を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。それは、また、突然変異型FGFR3を有する被験体において良性皮膚癌を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。
【0027】
本発明は、また、被験体からのサンプルにおいてFGFR3が突然変異を有するか否かを決定すること、及び、突然変異型FGFR3を有する被験体を選択することを含む、p38αインヒビターにより処置するのに適した被験体を選択するための方法に関する。
【0028】
本発明の方法及び使用の好ましい態様において、FGFR3の突然変異は活性化突然変異である。
【0029】
好ましい態様において、疾患は、多発骨髄腫、癌(悪性上皮腫瘍)、良性上皮腫瘍、及び先天性軟骨形成不全症からなる群より選択される。特定の態様において、上皮腫瘍は、膀胱、頚部、肺、乳房、結腸、及び皮膚の腫瘍、好ましくは膀胱癌及び良性皮膚腫瘍からなる群より選択される。好ましい態様において、良性皮膚腫瘍は、脂漏性角化症又は表皮母斑である。特定の態様において、先天性軟骨形成不全症は、軟骨形成不全症、軟骨無形成症、発育遅延及び黒色表皮腫を伴う重度軟骨無形成症、ならびに致死性骨異形成症からなる群より選択される。好ましい態様において、先天性軟骨形成不全症は軟骨無形成症である。より好ましい態様において、疾患は膀胱癌である。
【0030】
FGFR3突然変異の存在を決定する工程は、当業者に周知の任意の方法により実施される。FGFR3突然変異は、適切なプローブ及び/又はプライマーにより核酸レベルで、あるいは適切な抗体によりポリペプチドレベルで検出できる。例えば、そのような方法は特許出願書WO00/68424において記載されており、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0031】
サンプルは、組織、骨髄、及び血液や尿などの体液からなる群より選択できる。皮膚腫瘍の場合、サンプルは好ましくは皮膚生検又は血液サンプルである。膀胱癌の場合、サンプルは、好ましくは、膀胱腫瘍生検、血液サンプル、又は尿サンプルである。軟骨形成不全症の場合、サンプルは血液サンプルである。
【0032】
被験体は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくヒトでありうる。
【0033】
加えて、本発明は、場合によりFGFR3又はRASの突然変異に関連する膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。本発明は、また、治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む、任意にFGFR3又はRASの突然変異に関連する膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関する。好ましい態様において、p38αインヒビターはp38αに特異的である。p38αインヒビターは好ましくは以下に詳述するインヒビターである。
【0034】
好ましい態様において、処置する被験者はリン酸化p38αを呈する。特に、膀胱癌又は腫瘍からのサンプルは、活性化(即ち、リン酸化)p38αを呈する。p38αの活性化は、例えば、リン酸化p38αを検出することにより検出できる。より特定の態様において、膀胱癌又は腫瘍は、FGFR3又はRASの突然変異を呈する、又は、それに関連する。FGFR3突然変異を以下でさらに詳述する。FGFR3又はRASの突然変異は、特にp38α活性化を通して、例えばリン酸化p38αを検出することにより間接的に検出できる。
【0035】
従って、本発明は、膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関し、被験体からのサンプルにおいてFGFR3又はRASが突然変異を有するか否か、又は、リン酸化p38αを検出できるか否かを決定すること、及び、突然変異型FGFR3又はRASを有する被験体に治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む。あるいは、本発明は、膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を処置するための方法に関し、被験体からのサンプルにおいてp38αがリン酸化されているか否かを決定すること、及び、リン酸化p38αを有する被験体に治療的有効量のp38αインヒビターを投与することを含む。活性化p38αはリン酸化p38αである。それは、例えば実施例において詳述される通りに、リン酸化p38αに対して特異的な抗体で検出できる。
【0036】
本発明は、さらに、突然変異型FGFR3又はRASを有する被験体において、膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。特定の態様において、本発明は、突然変異型FGFR3を有する被験体において、膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。それは、また、活性化p38αを有する被験体において、膀胱癌又は腫瘍を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用に関する。
【0037】
本発明は、また、被験体からのサンプルにおいてFGFR3又はRASが突然変異を有するか否かを決定すること、及び、突然変異型FGFR3又はRASを有する被験体を選択することを含む、p38αインヒビターにより処置するのに適した膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を選択するための方法に関する。あるいは、本発明は、被験体からのサンプルにおいてp38αがリン酸化されているか否かを決定すること、及び、リン酸化p38αを有する被験体を選択することを含む、p38αインヒビターにより処置するのに適した膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を選択するための方法に関する。
【0038】
本発明の方法及び使用の好ましい態様において、FGFR3の突然変異は活性化突然変異である。
【0039】
FGFR3又はRASの突然変異の存在を決定する工程は、当業者に周知の任意の方法により実施する。FGFR3又はRASの突然変異は、適切なプローブ及び/又はプライマーにより核酸レベルで、あるいは適切な抗体によりポリペプチドレベルで検出できる。例えば、そのような方法は特許出願書WO00/68424において記載されており、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0040】
サンプルは、膀胱組織、及び血液や尿などの体液からなる群より選択できる。サンプルは、好ましくは、膀胱腫瘍生検、血液サンプル、又は尿サンプルである。
【0041】
被験体は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくヒトでありうる。
【0042】
膀胱腫瘍は膀胱癌又は膀胱腺腫でありうる。
【0043】
膀胱腫瘍のための最も共通の病期分類システムはTNM(tumour(腫瘍)、node(結節)、metastasis(転移))システムである。この病期分類システムでは、腫瘍がどれだけ深く膀胱中に増殖したか、リンパ節中に癌が存在するか否か、及び、癌が身体の任意の他の部分に広がったか否かを考慮に入れる。好ましい態様において、膀胱腫瘍は膀胱癌である。好ましい態様において、処置する膀胱癌はT期である。加えて、T期の膀胱癌はサブステージ(substage)を有しうる:
CIS−非常に初期の癌細胞が膀胱内膜の最内層においてのみ検出される;
Ta−癌は膀胱内膜の最内層中にのみある;
T1−癌が膀胱内膜下の結合組織中に増殖している;
T2−癌が結合組織を通じて筋肉中に増殖している;
T2a−癌が浅筋中に増殖している;
T2b−癌が深筋中に増殖している;
T3−癌が筋肉を通じて脂肪層中に増殖している;
T3a−脂肪層中の癌が顕微鏡下でのみ見ることができる;
T3b−脂肪層中の癌が試験で見ることができる、又は、医師により触診できる;
T4−癌が膀胱外に広がっている;
T4a−癌が前立腺、子宮、又は腟に広がっている;
T4b−癌が骨盤壁及び腹壁に広がっている。
【0044】
従って、本発明により処置できる膀胱腫瘍又は癌は、表在性(Ta、T1)又は浸潤性(T2からT4)でありうる。特定の態様において、本発明により処置できる膀胱癌は、任意の、及び、全てのTサブステージでありうる。
【0045】
しかし、膀胱癌の他の病期、特にN期及びM期も本発明で予定される。
【0046】
本発明は、さらに、FGFR3突然変異に関連する病理を処置するために適した化合物を同定/スクリーニングするための方法に関し、突然変異型FGFR3を発現する細胞を候補化合物と接触させること、及び、軟寒天中での細胞の増殖及び/又はコロニー形成能を低減又は抑制する候補化合物を選択することを含む。
【0047】
本発明は、また、FGFR3突然変異に関連する病理を処置するために適した化合物を同定/スクリーニングするための方法に関し、候補化合物を、突然変異型FGFR3発現細胞を伴う異種移植片を有する胸腺欠損ヌードマウスへ投与すること、一定期間後に異種移植片の腫瘍のサイズを測ること、及び、腫瘍増殖を低減又は遮断する候補化合物を選択することを含む。
【0048】
本発明は、さらに、FGFR3突然変異に関連する病理を処置するために適した化合物を同定/スクリーニングするための方法に関し、候補化合物を突然変異型FGFR3発現トランスジェニック非ヒト動物へ投与すること、及び、腫瘍細胞の増殖を低減又は抑制する候補化合物を選択することを含む。
【0049】
p38インヒビター
マイトジェン活性化タンパク質キナーゼp38は、本来は、リポ多糖(LPS)で刺激した単球から単離されたセリン/スレオニンキナーゼである。4つのアイソフォーム、即ちp38α、p38β、p38γ、及びp38δが存在する。p38αは、MAPK14(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ14)、CSBP、又はSAPK2A(GeneID: 1432 ; Uniprot Q16539)と呼ぶこともできる。このアイソフォームは炎症での治療標的である。従って、多くのp38αインヒビターが開発されてきた。
【0050】
p38αインヒビターは、小分子、siRNA(例、US2005/0239731;WO04/097020;WO03/072590)、アンチセンス、リボザイム、又は抗体でありうる。
【0051】
好ましい態様において、p38αインヒビターは、例えば実施例において記載するsiRNAである。
【0052】
好ましい態様において、p38αインヒビターは小分子である。本発明において使用できるp38αインヒビターの例は、それらに限定されないが、
【表4】


からなる群より選択される。他のp38αインヒビターが、以下の特許及び特許出願において記載される:
【表5】




それらの開示は全てが、その全体において参照により本明細書に組み入れられる。
【0053】
アイソフォームαに対して選択的なp38αインヒビターが本発明において好ましい。そのようなp38αの特異性によって、他のp38アイソフォームの抑制に起因する任意の潜在的な副作用が回避される。「に対して選択的」により、インヒビターが、p38の他のアイソフォームの少なくとも1つ、好ましくは3つの他のアイソフォームよりもp38αの抑制においてより効率的であることを意図する。より好ましくは、選択的p38αインヒビターは、処置のために使用する治療的有効量で、他のアイソフォームに対する抑制効果をほとんど有さず、さらにより好ましくは全く抑制効果を有さない。特定の態様において、インヒビターのIC50は、p38αでのIC50と比較して、他のp38アイソフォームで少なくとも5、10、50、100、500、1000、5000、又は10000倍高い(IC50は、p38αキナーゼ活性の50%抑制を有するために必要な用量である)。本発明において使用できるp38αインヒビターの例は、それらに限定されないが、
【表6】


からなる群より選択される。
【0054】
p38αインヒビターの治療的有効量は、投与方法、被験体の年齢、体重、性別、及び全般的な健康状態に応じて変動する。所与の適用のために治療的有効量を決定するための、当技術分野において公知の多くの方法が存在しうることが認められる。
【0055】
p38αインヒビターの治療的有効量は、好ましくは、細胞増殖、好ましくは癌細胞増殖を抑制するため、及び/又は腫瘍増殖を低減又は遮断するため、及び/又は形質転換の表現型を低減又は抑制するため、及び/又は軟寒天中での細胞のコロニー形成能を低減又は抑制するために十分な量である。
【0056】
適切な用量は0.01から1000mg/日まででよい。例えば、AMG 548の用量は、経口投与による0.1mgから1000mg/日まで、好ましくは1から500mg/日の間でよい。BIRB796の用量は、経口投与による0.1mgから500mg/日まで、好ましくは10から200mg/日の間でよい。
【0057】
p38αインヒビターの治療的有効量は、1日に1回、2回、3回、又は4回投与できる。あるいは、p38αインヒビターの治療的効果量は、毎日、隔日、又は週に1、2、もしくは3回投与できる。
【0058】
p38αインヒビターは、経口、非経口、吸入噴霧により、局所、直腸、経鼻、口腔、経膣により、又は埋込型リザーバー(implanted reservoir)を介して投与できる。本明細書において使用する「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、腫瘍内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、及び病巣内を含む。好ましくは、p38αインヒビターは、経口、腹腔内、腫瘍内、関節内、滑液嚢内、局所、又は静脈内投与する。
【0059】
本発明において使用するp38αインヒビターは、薬学的に許容可能な担体を一般的に含む薬学的組成物として製剤化できる。薬学的に許容可能な担体は、処置する哺乳動物に生理学的に許容可能であり、それが共に投与される薬物の治療特性を保持している担体を意図する。例えば、薬学的に許容可能な担体は生理食塩水でありうる。他の薬学的に許容可能な担体は、当業者に公知であり、例えば、“Remington: The Science and Practice of Pharmacy (20th ed., ed. A. R. Gennaro AR., 2000, Lippincott Williams & Wilkins)”において記載されている。
【0060】
良性皮膚癌では、局所投与が好ましい。皮膚への局所的な適用では、p38αインヒビターは、担体中に懸濁又は溶解した活性成分を含む、適した軟膏と共に製剤化されるであろう。本発明の化合物の局所投与のための担体として、限定はされないが、鉱油、液化石油、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、及び水が挙げられる。あるいは、p38αインヒビターは、担体中に懸濁又は溶解した活性成分を含む、適したローション又はクリームと共に製剤化できる。適した担体として、限定はされないが、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、及び水が挙げられる。局所−経皮パッチ及びイオン注入投与も本発明に含まれる。
【0061】
経口投与に適したp38αインヒビターは、所定量の活性成分をそれぞれ含むカプセル剤、分包剤、又は錠剤などの別々の単位として;粉末又は顆粒として;水性液体又は非水性液体中の溶液又は懸濁剤として;又は水中油型乳濁剤もしくは油中水型乳濁剤として、又はリポソーム中に梱包して、及びボーラスなどとして提供してよい。ソフトゼラチンカプセルはそのような懸濁剤を含めるために有用となりうるが、それは化合物の吸収速度を増大するために有益となりうる。
【0062】
非経口投与に適した組成物として、対象とするレシピエントの血液と等張の製剤を与える抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び溶質を含みうる水性及び非水性の滅菌注射液;ならびに懸濁剤及び増粘剤を含みうる水性及び非水性の滅菌注射液が挙げられる。製剤は単回用量又は複数回用量の容器中、例えば、密封アンプル及びバイアル中で提供でき、使用直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)条件下で保存できる。即時注射液及び懸濁剤は、滅菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製できる。
【0063】
FGFR3突然変異に関連する病理
FGFR3は繊維芽細胞増殖因子受容体3を指す。特に、FGFR3が癌及び良性皮膚腫瘍におけるFGFR3bアイソフォームであるのに対し、それは骨格病理においてFGFR3cの好ましいアイソフォームである。FGFR3−IIIbアイソフォームのヌクレオチド配列は、欧州特許第1 208 231 B1号において記載される。FGFR3−IIIcアイソフォームのヌクレオチド配列は、GenebankにおいてNM_000142と呼ばれる配列である。
【0064】
FGFR3突然変異は、好ましくは、活性化突然変異である。「活性化突然変異」により、本明細書において突然変異の活性化機能を意図し、それは、受容体リン酸化又はカルシウム流入としての間接的効果、標的配列のリン酸化などの活性化シグナルの観察により決定できる。特定の態様において、標的配列はp38αである。
【0065】
活性化FGFR3突然変異は、一般的に、FGFR3の免疫グロブリン様ドメインII及びIIIの間の接合部をコード化するエクソン7中、膜貫通ドメインをコード化するエクソン10中、チロシンキナーゼドメインIをコード化するエクソン15中、及び/又はC末端部分をコード化するエクソン中にある。好ましくは、前記突然変異は、
【表7】


からなる群より選択される。コドン及び突然変異型ヌクレオチド(nt位置)に、上皮細胞における優勢型であるFGFR3−IIIb cDNAのオープンリーディングフレームに従って番号を付ける。より好ましくは、FGFR3突然変異は、R248C、S249C、G372C、K652E、及びY375Cからなる群より選択される。さらにより好ましくは、FGFR3突然変異はS249C又はY375Cである。
【0066】
RASタンパク質
RASは、シグナル伝達、特にFGF受容体を含むチロシンキナーゼ受容体のシグナル伝達に関与するタンパク質(HRAS、KRAS、NRAS)のファミリーを指す(Eswarakumar VP, Lax I, Schlessinger J, 2005, Cellular signaling by fibroblast growth factor receptors. Cytokine Growth Factor Rev. 16: 139-49)。それらは2つの異なる状態、GTPに結合した活性状態及びRASのGTPase活性のためにGTPがGDPに変換された不活性状態で存在する。膀胱癌を含む癌において、全て3つのRAS遺伝子の突然変異型が記載されている。これらの突然変異型はより低いGTPase活性を有し、そのためそれらは活性状態のままである。膀胱癌におけるRAS突然変異(HRAS、KRAS、及びNRAS突然変異)の17%の推定率は、Sanger InstituteのCosmicデータベース(www.sanger.ac.uk/genetics/CGP/cosmic/)から推定できる。例えば、RAS突然変異は、HRAS突然変異G12S及びG13V、KRAS突然変異G12C及びG12DならびにNRAS突然変異M72Iの間で選択できる。しかし、突然変異に加えて、RASの過剰発現も検討する。
【0067】
RASは以下の配列により例示できる:
【表8】

【0068】
HRAS、KRAS、及びNRASの異なる活性化突然変異に関する参考文献は、www.sanger.ac.uk/genetics/CGP/cosmic/及びSchubbertら(2007)の概説(Schubbert S, Shannon K, Bollag G, 2007. Hyperactive Ras in developmental disorders and cancer. Nat Rev Cancer. 7: 295-308)において見出すことができる。
【0069】
実施例
以下の実施例は、本発明をさらに例示するために有用であり、しかし、同時に、その任意の限定を構成しない。それとは逆に、手段を様々な他の態様、改変、及びその同等物に加えることができ、それらは、本明細書における記載を読んだ後に、当業者に、本発明の精神及び/又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、それら自体を示唆しうることが明確に理解されるはずである。
【0070】
材料&方法
細胞培養及びトランスフェクション
野生型FGFR3bアイソフォーム(クローンR3b1.1、R3b1.3)を発現する、もしくは突然変異型FGFR3b−S249C受容体(クローンS249C1.1、S249C 1.2)を発現するトランスフェクトしたNIH−3T3細胞、又は、対照pcDNAI−Neoプラスミド(クローンNeo1.5、Neo2.1)でトランスフェクトしたNIH−3T3細胞を先に樹立し{Bernard-Pierrot, 2006, Carcinogenesis 4, 740-747}、10%ウシ新生児血清、2mMグルタミン、100u/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、400μg/ml G418を伴うDMEM中で培養した。ヒト膀胱癌細胞株MGH−U3{Lin, 1985 #96}を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、2mMグルタミンを伴うDMEM/F12中で培養した。全ての細胞を37℃で5% COを含む空気中で培養した。
【0071】
siRNAトランスフェクションのために、MGH−U3細胞を8000個細胞/cmの密度で6ウェル又は24ウェルプレート中に播種し、製造者のプロトコールに従い、Oligofectamine(登録商標)試薬(Invitrogen, Cergy Pontoise, France)を使用して200nM siRNAでトランスフェクトした。FGFR3 siRNAs、p38α(MAPK14)siRNAs、及び対照として使用したナンセンスsiRNAは化学的に合成した(Ambion, Huntingdon, United Kingdom)。p38α siRNAに関して、本発明者らは、Silencer(登録商標)検証済みsiRNA(Ambion):p38α siRNA1(siRNA ID: 1312)及びp38α siRNA2(siRNA ID: 1217)を使用した。他のsiRNAでは、センス鎖の配列は:
【表9】


であった。本発明者らは、両方のFGFR3 siRNAがMGH−U3細胞においてFGFR3タンパク質の80−90%の欠乏を導くことを先に示していた{Bernard-Pierrot, 2005}。彼らは、トランスフェクションから72時間後のMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)の取り込みを測定し(24ウェルプレート)、細胞増殖/生存を評価し、又は、溶解バッファーでそれらを溶解した(6ウェルプレート)。
【0072】
形態分析
NIH−3T3細胞を異なるインヒビターSB203580及びSU5402(Calbiochem, Merck Eurolab, Fontenay Sous Bois, France)の存在下で48時間培養し、位相差顕微鏡を使用して写真を撮った。
【0073】
イムノブロット分析
トランスフェクトしたNIH−3T3細胞をPBSで1回洗浄し、24時間血清飢餓した。必要な場合、細胞を50μg/mlヘパリンの存在下で、37℃で、20ng/ml FGF1で5分間刺激した。それらを次に溶解バッファー(50mM Tris−HCl (pH 7.4)、150mM NaCl、1% NP−40、0.25%デオキシコール酸ナトリウム、1mM EDTA、1mM NaVO、5mM NaF、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、及び1μg/mlペプスタチン)中で溶解し、ライセートを遠心分離により清澄化した。上精のタンパク質濃度をBiorad Bradford Protein Assay Kit(BioRad, Ivry sur Seine, France)で決定した。全細胞ライセートからのタンパク質(75μgタンパク質)を10%ポリアクリルアミドゲルでのSDS−PAGEにより分離し、25mM Tris(pH 8.3)、200mMグリシン、10%エタノール中で Immobilon−P膜にエレクトロトランスファーし、p38(#9212)、Akt(#9272)、p42/p44(#9102)、及び3つのタンパク質のリン酸化(ホスホAKT (Thr308) #9275;ホスホp42/p44(thr202/tyr204)# 9101;ホスホp38(thr180/tyr182)(Cell Signaling Technology , Ozyme, Montigny le Bretonneux, France)に対する抗体を使用して分析した。
【0074】
MGH−U3全細胞ライセート(75μg)をp38、ホスホ−p38、及びAktに対する抗体を使用して同様に分析した。
【0075】
軟寒天アッセイ
NIH−3T3では、30,000個のトランスフェクト細胞を、トリプリケートで、10% NCSを添加し、寒天で凝固したDMEMを含む12ウェルプレートの各々のウェルに加えた。MGH−U3では、20,000個の非トランスフェクト又はsiRNAトランスフェクト細胞を、トリプリケートで、10%FCS及び寒天を添加したMEMを含む12ウェルプレートのウェルに加えた。必要な場合、両方の細胞型を、寒天中及び培養液中での異なるインヒビターの存在下又は不在において培養した。同量のインヒビターを週1回培養液に加えた。
【0076】
プレートをNIH−3T3細胞及びMGH−U3細胞についてそれぞれ21日間又は14日間インキュベートし、次に、測定格子を備えた位相差顕微鏡を使用して、直径が50μmより大きいコロニーを陽性と記録した。
【0077】
ヌードマウスにおける腫瘍形成
10匹の6週齢雌Swiss nu/nuマウスをCurie Instituteの動物施設において特定病原体除去条件で飼育した。それらの世話及び収容は、French National Ethics Committee(Ministere de l'Agriculture et de la Foret, Direction de la Sante et de la Protection Animale, Paris, France)の施設ガイドラインに従い、許可を受けた研究者により管理された。各マウスの各側腹部(背部)に4 x 10個細胞/部位を皮下注射した。腫瘍が50mm(+/− 10)に達した時、マウスを無作為に5匹のマウスの2群に分けた。100μlの20μM SB203580又は当容積のPBSを毎日腫瘍中に投与した。腫瘍形成を25日までモニターし、腫瘍のサイズをノギスで測定した:2つの垂直直径を使用して、式ab/2により腫瘍容積を推定し、式中、aは最大径、bは最小径である。
【0078】
トランスジェニックマウス
表皮の基底細胞において突然変異型受容体FGFR3b−S249Cを発現するトランスジェニックマウス(K5−FGFR3−S249C)を先に樹立した(Logie et al 2005, Hum. Mol. Genet. 14, 1153-1160)。40μlの100μM SU5402もしくは100μM SB203580又は賦形剤(アセトン)を2週間毎日、口吻に表皮腫瘍を発生した3から4ヵ月齢のトランスジェニックマウス又は対照同腹仔マウスの口吻に適用した。屠殺の2時間前に、マウスに0.25mg/g体重のBrdu(Sigma, Saint-Quentin Falavier, France)を注射(腹腔内)した。Brdu免疫組織化学的検査を、パラフィン包埋した口吻組織上で、製造業者の指示に従いBrdU in situ検出キット(BD Pharmingen, San Diego, CA, USA)で実施した。基底表皮層からの500個の細胞中のBrdU標識細胞数を、各々のマウスについて決定した。全口吻細胞ライセート(75μg)を、上記の通りに、p38及びホスホ−p38(Pp38)に対する抗体を使用して分析した。
【0079】
結果
FGFR3b−S249C誘発性のNIH−3T3細胞形質転換は、p38 MAPキナーゼ依存的である。
本発明者らは、突然変異型FGFR3bに反して、そのリガンドの1つにより活性化された野生型FGFR3bでさえ、両方の受容体のリン酸化レベルが同様であったにもかかわらず、NIH−3T3細胞を形質転換しなかったことを先に示している{Bernard-Pierrot, 2005}。本発明者らは、(突然変異型及びリガンド刺激された)2つの受容体が異なる伝達経路を活性化できうるとの仮説を立て、観察された形質転換活性における差を説明している。
【0080】
本発明者らは、変異FGFR3−S249Cを発現するNIH−3T3細胞(S249C1.1及びS249C1.2)及び野生型受容体を発現するFGF1刺激されたクローン(R3b1.1及びR3b1.3)における3つのシグナル伝達経路の活性化を初めて検討した(図1A)。
【0081】
変異FGFR3−S249Cを発現するクローン(S249C1.1及びS249C1.2)及び野生型受容体を発現するFGF1刺激されたクローン(R3b1.1及びR3b1.3)の両方が、Akt及びERK1/2(p42/p44)をリン酸化できたが、しかし、突然変異型受容体がこれらの経路の持続性の活性化を誘発したのに対し、刺激された受容体がこれらの経路の一過性の活性化を誘発したことは注目すべきである(データ未掲載)。この矛盾によって、観察された2つの受容体の形質転換能における差を説明できた。さらに、興味深いことに、本発明者らは、変異受容体を発現しているクローンにおいてのみp38の強いリン酸化を検出し、FGF1により刺激したFGFR3発現クローンにおいてはされず(図1A)(クローンを48時間中にFGF1により刺激し、FGFR3の持続性の活性化を模倣した場合でさえ(データ未掲載))、突然変異型FGFR3によるp38MAPキナーゼ経路の特異的活性化及びFGFR3−S249C誘発性の細胞形質転換におけるこの経路の関与を示唆した。
【0082】
p38活性化が、安定的に樹立したFGFR3−S249C発現NIH−3T3クローンにおけるFGFR3活性化に起因したことを確認するために、本発明者は、FGFRチロシンキナーゼインヒビターであるSU5402で処置した2つのFGFR3−S249C発現クローン(S249C1.1及びS249C1.2)におけるp38リン酸化を研究した。予測された通り、FGFR3−S249C発現クローンにおけるp38リン酸化は30μM SU5402の存在下で抑制され、p38活性化がFGFR3−S249C活性化にまさしく依存していることを実証した(図1B)。
【0083】
細胞形質転換におけるFGFR3−S249C誘発性p38リン酸化の機能的意義を評価するために、彼らは、p38MAPキナーゼに特異的な化学インヒビターであるSB203580がクローンS249C1.2の形態及び足場非依存性増殖に及ぼす効果を評価した。対照として、本発明者らはFGFRチロシンキナーゼ活性のインヒビターであるSU5402の効果も評価した。30μM SB203580又は30μM SU5402でのFGFR3−S249C発現細胞の処置によって、それらの形質転換の表現型が逆転したが(図1C)、両方の薬物は対象である細胞表現型には効果を有さなかった(データ未掲載)。両方の処置によって軟寒天アッセイにおいてコロニーを形成するFGFR3−S249C発現細胞の能力も抑制された(図1D)。これらの結果によって、FGFR3−S249C発現NIH−3T3細胞の形質転換がFGFRチロシンキナーゼ活性に起因すること、及び、それがp38依存的であることが実証される。
【0084】
FGFR3b−Y375Cによるp38活性化には、MGH−U3細胞の増殖及び形質転換が必要とされる。
本発明者らは、次に、突然変異型FGFR3誘発性の細胞形質転換におけるp38 MAPキナーゼのこの関与が、NIH−3T3細胞に特異的であり、上皮細胞株において生物学的により有意であるのではないかと考えた。彼らは、膀胱癌細胞であるMGH−U3の腫瘍特性が突然変異型受容体活性(FGFR3b−Y375C)に依存することを先に実証していたため{Bernard-Pierrot, 2005}、彼らは突然変異型FGFR3がこの細胞株においてp38活性化を誘発するか否かを調べた。
【0085】
免疫ブロット分析によってMGH−U3細胞におけるp38の強いリン酸化が示され(図2A)、このp38活性化がFGFR3−Y375C活性に起因することを実証したが、それは、SU5402でのFGFR3チロシンキナーゼ抑制又はsiRNA処置後のFGFR3発現における低下によってp38リン酸化が抑えられたためである(図2A)。
【0086】
FGFR3b−Y375Cによるp38活性化の役割を調べるために、本発明者らは、MGH−U3細胞の増殖及び足場非依存性増殖に及ぼすp38MAPキナーゼインヒビターSB203580の効果を評価した。対照として、彼らはFGFRチロシンキナーゼ活性のインヒビターであるSU5402の効果も評価した。MTTの取り込みによって、両方のインヒビターでの膀胱癌細胞における40から50%の増殖抑制が実証され(図2B)、SB203580処置細胞は軟寒天上で対照細胞の3分の1のコロニーを形成した(図2C)。しかし、SB203580が特異的にp38α(MAPK14)及びp38β(MAPK11)を抑制する場合でさえ、この特異性についてのいくらかの疑念が生じうる。それ故、観察されたp38不活化の効果を確認するために、本発明者らは、MGH−U3細胞増殖及び形質転換に及ぼすsiRNAを使用したp38α(MAPK14)欠乏の効果を評価した。実際に、MGH−U3細胞はp38β(MAPK11)mRNAを発現せず(データ未掲載)、SB203580を使用して観察された効果がp38α(MAPK14)活性の抑制に起因すると考えられた。免疫ブロット分析によって、トランスフェクションから48時間後、両方のp38α siRNAsが90から100%のp38α発現抑制を誘発することが示された(挿入図、図2B)。p38α siRNAトランスフェクト細胞での50から60%の増殖抑制(図2B)及び70から80%の足場非依存性増殖(図2C)が観察された。このように、p38α発現又は活性における低下は、インビトロでMGH−U3膀胱癌細胞における細胞増殖及び細胞形質転換の抑制を導く。
【0087】
さらに、SB203580での腫瘍内処置によって無胸腺ヌードマウスにおけるMGH−U3異種移植片の増殖が有意に低減され、それ故、インビボでのMGH−U3細胞形質転換におけるp38活性化の関与が実証された(図2D)。
【0088】
FGFR3b−S249Cによるp38活性化は、K5−FGFR3−S249Cトランスジェニックマウスの表皮性口吻腫瘍における基底上皮細胞の過剰増殖を誘発するために必要とされる。
本発明者らはトランスジェニックマウスモデルを先に樹立しており、それにおいて、彼らはケラチン(keratine)5プロモーターを使用して表皮の基底細胞に対して突然変異型FGFR3bであるFGFR3b−S249Cの発現を標的とした{Logie, 2005, Hum. Mol. Genet. 14, 1153-1160}。これらのマウスは、特に口吻で良性の表皮性腫瘍を発生した(図3A)。本発明者は、このように、このモデルにおいて、腫瘍細胞の増殖が突然変異型FGFR3bによるp38活性化にも起因しうるのではないかと考えた。最初に、本発明者らは、免疫ブロット分析により、p38がトランスジェニックマウスの口吻ライセート中でリン酸化されたのに対し、リン酸化は対照同腹仔マウスの口吻においては観察されないことを示し、FGFR3−S249C発現がトランスジェニックマウスの口吻においてp38活性化を導くことを示唆する(図3B)。この結果を検証するために、トランスジェニックマウスの口吻をFGFRチロシンキナーゼインヒビターであるSU5402で処置し、p38のリン酸化状態を評価した。免疫ブロット分析によってFGFR3抑制時でのp38リン酸化における低下が示され、故に、突然変異型FGFR3がトランスジェニックマウスの口吻細胞においてp38経路をまさしく活性化することを実証した(図3C)。次に、本発明者らは、p38MAPキナーゼインヒビターであるSB203580での口吻処置によって、BrdU標識により評価された通り、トランスジェニックマウスの腫瘍細胞の増殖における有意な低下が誘発されるのに対し、それは対照マウスでの基底表皮細胞の増殖に及ぼす効果を有さないことを実証した(図3D)。まとめると、それらの結果によって、基底表皮細胞における突然変異型FGFR3b によるP38MAPキナーゼ経路の活性化及び我々の皮膚マウス腫瘍モデルにおける表皮腫瘍細胞の増殖におけるその関与が明確に指摘された。
【0089】
ヒト膀胱腫瘍におけるP38活性化
本発明者らは、異なるインビトロ及びインビボのモデルにおいて、突然変異型FGFR3発現がp38MAPキナーゼの活性化を導き、それは突然変異型FGFR3が細胞形質転換を誘発するために必要とされることを明確に実証した。
【0090】
それ故、彼らは、突然変異型FGFR3もヒト膀胱腫瘍においてp38MAPキナーゼ活性化を導くのではないかと考えた。従って、彼らは、抗ホスホ−p38抗体及び抗p38抗体を使用したウエスタン−ブロットにより、異なる病期及び悪性度、FGFR3又はRASの突然変異状態のヒト膀胱腫瘍において、p38のリン酸化状態を調べた(図4)。全てのFGFR3突然変異型腫瘍がp38の強いリン酸化を呈したが、しかし、興味深いことに、FGFR3突然変異のない腫瘍のほぼ半分もp38MAPキナーゼの強い活性化を呈した。印象的なのは、RAS突然変異を呈する全ての腫瘍が、p38MAPキナーゼの強い活性化を呈した。RAS突然変異を有し、リン酸化p38を示す5サンプル中の2つがHRAS突然変異G12S及びG13Vを有し、他の2つがKRAS突然変異G12C及びG12Dを有し、1つがNRAS突然変異M72Iを有する。いかなる理論にも束縛されることなく、RASはFGFR3経路に属すると考えられ、それは1)異なるチロシンキナーゼ受容体の公知の伝達経路、2)両方のタンパク質の突然変異が独占的であるためである。それ故、FGFR3突然変異よりも一般的に、ヒト膀胱腫瘍中のFGFR3経路における変化は、p38α活性化に関連付けられる可能性が高いと思われる。
【0091】
従って、p38α活性化がFGFR3突然変異よりも多くのヒト膀胱腫瘍において観察され、それ故、p38αインヒビターがFGFR3突然変異型腫瘍においてだけでなく、これら全ての腫瘍において使用できた。
【0092】
本発明者らは、3つの異なるモデルにおいて、突然変異型FGFR3発現がp38 MAPキナーゼ活性化を導き、それは突然変異型FGFR3が細胞形質転換を誘発するために必要とされることを明確に実証した。本発明者らが、p38α及びβアイソフォームにより特異的なインヒビターであるSB203580を使用したことから、これが、NIH−3T3細胞及びトランスジェニックマウス表皮におけるFGFR3−S249C形質転換活性に関与するこれらの2つのp38アイソフォームの1つであることが推測できた。本発明者らは、特異的siRNAを使用して、p38αがMGH−U3細胞の形質転換に関与することを実証した。加えて、p38αがヒト膀胱尿路上皮において発現する主な形状であるとの事実(Affymetrix U95、データ未掲載)によって、p38αが標的とするタンパク質であることが実証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膀胱腫瘍又は癌を処置するための医薬を調製するためのp38αインヒビターの使用。
【請求項2】
p38αインヒビターが、
【表10】


からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
p38αインヒビターが、p38αに特異的である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
特異的p38αインヒビターが、
【表11】


からなる群において選択される、請求項3記載の使用。
【請求項5】
p38αインヒビターが、p38αに対して向けたsiRNAである、請求項1記載の使用。
【請求項6】
p38αインヒビターが、アンチセンス、抗体及びリボザイムからなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項7】
リン酸化p38αが、処置する被験体からのサンプルにおいて検出される、請求項1−6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
膀胱癌が、FGFR3又はRASの突然変異に関連する、請求項7記載の使用。
【請求項9】
処置する被験体が、好ましくは病理に罹患した組織において突然変異型FGFR3を有する、請求項1−8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
FGFR3突然変異が、
【表12】


からなる群より選択される、請求項1−9のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
p38αインヒビターが、経口、局所、又は非経口で投与される、請求項1−10のいずれか一項記載の使用。
【請求項12】
被験体からのサンプルにおいてFGFR3又はRASが突然変異を有するか否かを決定すること、及び、突然変異型FGFR3又はRASを有する被験体を選択すること、を含む、p38αインヒビターにより処置するのに適した膀胱癌又は腫瘍を患う被験体を選択するための方法。
【請求項13】
FGFR3突然変異が、
【表13】


からなる群より選択される、請求項12記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図3B】
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【図3C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2010−529953(P2010−529953A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508810(P2010−508810)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056070
【国際公開番号】WO2008/142031
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(500026533)アンスティテュ・キュリ (20)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(591140123)
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE − HOPITAUX DE PARIS
【出願人】(509319214)ユニヴェルシテ・パリ・12 (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS 12
【Fターム(参考)】