説明

自動クラッチ制御装置

【課題】車両の旋回走行中に変速機の変速が行われるときに、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能な自動クラッチ制御装置を提供する。
【解決手段】自動クラッチ制御装置1は、エンジン10のイナーシャに変速におけるエンジン10の目標回転数変化速度を乗算した目標慣性トルクを演算し、エンジン10の現出力トルクから目標慣性トルクを減算した値を、第1、第2クラッチ2a、2bの目標伝達トルクとして演算し、目標伝達トルクが得られる第1、第2クラッチ2a、2bの第1係合量基準値Caを設定する第1基準値設定部5cと、車速V及び旋回半径Rに基づいて第1係合量基準値Caを補正して第2係合量基準値Cbを設定する第2基準値設定部5dとを備えている。そして、第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cを、車両の直進走行中の変速時において第1係合量基準値Caに制御すると共に、車両の旋回走行中の変速時において第2係合量基準値Cbに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の発進停止や変速時にクラッチの自動係合制御を行う自動クラッチ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術の自動クラッチ制御装置においては、クラッチの係合時の変速ショックを抑制するために、エンジンの回転数を所定の変化速度で変速機の入力軸の回転数に近付けて同期させることがある。このような場合には、クラッチの伝達トルクが所定の目標値となるように設定することで、エンジンの回転数の変化速度を制御することができる。このクラッチの伝達トルクは、クラッチの係合度合い(クラッチの係合量)に応じて変動するため、クラッチを動作させるアクチュエータの動作量を制御することにより調整される。
【0003】
例えば、特許文献1においては、アクセル開度及び車速に基づいて目標伝達トルクを得るためのクラッチの係合量基準値を設定している。また、特許文献2においては、アクセル開度、エンジンの駆動軸の回転数、及び変速機の入力軸の回転数に基づいて目標伝達トルクを得るためのクラッチの係合量基準値を設定している。この目標伝達トルクは、エンジンのイナーシャに変速におけるエンジンの目標回転数変化速度を乗算した目標慣性トルクを演算し、エンジンの現出力トルクから目標慣性トルクを減算した値として演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−318288号公報
【特許文献2】特開平9−112589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の自動クラッチ制御装置においては、車両の直進走行中及び旋回走行中に依らず、アクセル開度、エンジンの駆動軸の回転数、変速機の入力軸の回転数、及び車速などの情報に基づいてクラッチの目標伝達トルクを得るためのクラッチの係合量基準値を設定して変速機の変速(シフトチェンジ)が行われている。ところが、右左折やワインディング走行のように車両が旋回走行しているときに変速が行われると、運転者は、直進走行中よりも敏感にクラッチ係合の影響を感じることがある。
【0006】
例えば、右左折のように車両が慎重に低速で旋回走行しているときに変速が行われる場合、直進走行中と同様の係合量基準値でクラッチの係合が行われると、車両の前後方向の加速度が変化することによって、車両の挙動(ピッチングなど)に影響がでる。このとき、直進走行中では気にならないような車両の挙動であっても、低速で旋回走行しているときにはユーザフィーリングに悪影響を与える虞がある。すなわち、運転者は、車両が低速で旋回走行しているときには、直進走行中よりもなめらかな変速を要求していることが多い。
【0007】
また、ワインディング走行のように車両がスポーティーに高速で旋回走行しているときに変速が行われる場合、直進走行中と同様の係合量基準値でクラッチの係合が行われると、エンジンの駆動軸と変速機の入力軸との間のクラッチの伝達トルクが、運転者が求めているクラッチの伝達トルクよりも小さくなることがある。このとき、変速のダイレクト感の不足によりユーザフィーリングに悪影響を与える虞がある。すなわち、運転者は、車両が高速で旋回走行しているときには、直進走行中よりもダイレクト感のある変速を要求していることが多い。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、車両の旋回走行中に変速機の変速が行われるときに、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能な自動クラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る自動クラッチ制御装置の構成上の特徴は、車両の原動機の駆動軸と変速機の入力軸との間に介装されたクラッチと、前記クラッチの断接及び係合量を制御するクラッチアクチュエータと、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車両の旋回半径を検出する旋回半径検出手段と、
前記原動機のイナーシャに変速における該原動機の目標回転数変化速度を乗算した目標慣性トルクを演算し、該原動機の現出力トルクから該目標慣性トルクを減算した値を、前記クラッチの目標伝達トルクとして演算し、該目標伝達トルクが得られる該クラッチの第1係合量基準値を設定する第1基準値設定部と、前記車速及び前記旋回半径に基づいて前記第1係合量基準値を補正して第2係合量基準値を設定する第2基準値設定部と、
前記車両の直進走行中の変速時において、前記クラッチアクチュエータに前記クラッチの前記係合量を前記第1係合量基準値に制御する命令を送ると共に、該車両の旋回走行中の変速時において、該クラッチアクチュエータに該クラッチの該係合量を前記第2係合量基準値に制御する命令を送る変速制御部と、を備えることである。
【0010】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1に記載の自動クラッチ制御装置において、前記第2基準値設定部は、前記旋回半径が第1旋回半径であるときに、前記車速が該第1旋回半径に応じて設定される第1車速以上である場合に、前記第2係合量基準値を前記第1係合量基準値よりも大きく設定することである。
【0011】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2に記載の自動クラッチ制御装置において、前記第2基準値設定部は、前記旋回半径が第2旋回半径であるときに、前記車速が該第2旋回半径に応じて設定される第2車速未満である場合に、前記第2係合量基準値を前記第1係合量基準値よりも小さく設定することである。
【0012】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動クラッチ制御装置において、前記変速機は、同心に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、該第1入力軸に伝達された前記原動機の回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構と、該第2入力軸に伝達された該回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構とを有し、前記クラッチは、前記回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチと、該回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチとを有するデュアルクラッチであり、
前記変速制御部は、変速指令が送出されると、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうちの前記駆動軸から切り離される入力軸に対応するクラッチを切離する切離制御を行うと共に、前記変速機が変速された状態で前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうちの前記駆動軸に係合される入力軸に対応するクラッチを係合する係合制御を行うことである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、自動クラッチ制御装置は、原動機のイナーシャに変速における原動機の目標回転数変化速度を乗算した目標慣性トルクを演算し、原動機の現出力トルクから目標慣性トルクを減算した値を、クラッチの目標伝達トルクとして演算し、目標伝達トルクが得られるクラッチの第1係合量基準値を設定する第1基準値設定部と、車速及び車両の旋回半径に基づいて第1係合量基準値を補正して第2係合量基準値を設定する第2基準値設定部とを備えており、車両の直進走行中の変速時において、クラッチの係合量を第1係合量基準値に制御すると共に、車両の旋回走行中の変速時において、クラッチの係合量を第2係合量基準値に制御する。
【0014】
上記の原動機の「イナーシャ」とは、慣性モーメント又は慣性能率ともいう。また、上記の「目標慣性トルク」とは、原動機の回転数を変化(減速又は加速)させるためにクラッチから原動機の駆動軸に伝達されるべき減速トルク又は加速トルクに相当する。また、上記の原動機の「現出力トルク」は、例えば、原動機の駆動軸の回転数やアクセル開度などの検出値、及び当該原動機の出力トルク特性に基づいて算出することができる。
【0015】
また、上記の「目標回転数変化速度」とは、変速機を所定の変速段へ変速(シフトチェンジ)する際に、原動機の駆動軸の回転数の変化速度として予め定められている周知の目標値である。原動機の駆動軸の回転数の変化速度が目標回転数変化速度となるように変速制御することにより、変速ショックを抑制しつつ変速を早期に完了することができる。
【0016】
車両が旋回走行を行う際の運転者の運転嗜好は、主として車速及び車両の旋回半径により推定することが可能であると考えられる。したがって、請求項1に係る発明のように、車速及び車両の旋回半径に基づいて設定された第2係合量基準値により車両の旋回走行中の変速時におけるクラッチ係合量を制御することによって、車両の旋回走行中に変速機の変速(シフトチェンジ)が行われる場合であっても、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となる。
【0017】
なお、第2係合量基準値は、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合わせて設定できるが、旋回走行の状況によっては、第2係合量基準値を第1係合量基準値と等しい値としても良好なユーザフィーリングを得ることが可能な場合がある。したがって、請求項1に係る発明においては、例えば、第2係合量基準値を第1係合量基準値にクラッチ係合率を掛け合わせて定める場合、クラッチ係合率を100%よりも大きく又は小さく設定することに限らず、クラッチ係合率を100%として、第2係合量基準値を第1係合量基準値と等しい値とすることも含まれている。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、第2基準値設定部は、旋回半径が第1旋回半径であるときに、車速が第1旋回半径に応じて設定される第1車速以上である場合に、第2係合量基準値を前記第1係合量基準値よりも大きく設定する。
【0019】
ここで、第1旋回半径とは、一つの(一定値の)旋回半径のみを対象としているのではなく、任意の旋回半径を対象としている。また、第1車速とは、ある第1旋回半径に対応して定められた一つの(一定値の)車速のことである。したがって、第1旋回半径及び第1車速の組み合わせが複数個定められている。
【0020】
請求項2に係る発明において、車速が第1旋回半径に応じて設定される第1車速以上である場合とは、ワインディング走行のように車両が旋回半径の大きさのわりに高速で旋回走行しているスポーティーな走行状況を想定している。このような走行状況においては、運転者は、直進走行中よりもダイレクト感のある変速を要求していることが多い。
【0021】
よって、請求項2に係る発明によれば、第2係合量基準値を第1係合量基準値よりも大きく設定することによって変速時のダイレクト感が得られ、車両の旋回走行中に変速機の変速が行われる場合であっても、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となる。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、第2基準値設定部は、旋回半径が第2旋回半径であるときに、車速が第2旋回半径に応じて設定される第2車速未満である場合に、第2係合量基準値を第1係合量基準値よりも小さく設定する。
【0023】
ここで、第2旋回半径とは、一つの(一定値の)旋回半径のみを対象としているのではなく、任意の旋回半径を対象としている。また、第2車速とは、ある第2旋回半径に対応して定められた一つの(一定値の)車速のことである。したがって、第2旋回半径及び第2車速の組み合わせが複数個定められている。
【0024】
請求項3に係る発明において、車速が第2旋回半径に応じて設定される第2車速未満である場合とは、右左折するときのように車両が旋回半径の大きさのわりに低速で旋回走行している慎重な走行状況を想定している。このような走行状況においては、運転者は、直進走行中よりもなめらかな変速を要求していることが多い。
【0025】
よって、請求項3に係る発明によれば、第2係合量基準値を第1係合量基準値よりも小さく設定することによって変速時のなめらか感が得られ、車両の旋回走行中に変速機の変速が行われる場合であっても、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となる。
【0026】
請求項4に係る発明によれば、上述した自動クラッチ制御装置が、デュアルクラッチ式の変速機に適用される。デュアルクラッチ式の変速機は、変速予定の変速段を構成するギヤ列が変速に備えて回転待機した状態となっており、変速の指令が出ると2つのクラッチを切り換えることにより変速が完了するので、変速に要する時間が極めて短く、かつ変速ショックも極めて小さい。したがって、本発明の自動クラッチ制御装置が、デュアルクラッチ式の変速機に適用されることによって、デュアルクラッチ式の変速機としての上記効果に対して、上述した請求項1〜3に係る発明の効果が相乗し、運転者の運転嗜好に合ったさらに良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となる。
【0027】
以上のように、本発明によれば、車両の旋回走行中に変速機の変速が行われるときに、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能な自動クラッチ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置を装備した車両を模式的に説明する説明図である。
【図2】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置を備えるデュアルクラッチ式の自動変速機の全体構成を説明するスケルトン図である。
【図3】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置のデュアルクラッチを模式的に説明する断面図であって、第1クラッチが係合している状態を示している。
【図4】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置のデュアルクラッチの第1及び第2クラッチの伝達トルクとストロークとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置の動作を説明するタイムチャートであって、車両が高速で旋回走行しているときのシフトアップ状況を示している。
【図6】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置の動作を説明するタイムチャートであって、車両が低速で旋回走行しているときのシフトアップ状況を示している。
【図7】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置において、第2係合量基準値を設定するための関係図であって、旋回半径毎の車速とクラッチ係合率との関係を示している。
【図8】本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置において、第2係合量基準値を設定するためのフローチャートを示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1乃至図8に基づき、本発明の一実施形態による自動クラッチ制御装置1について説明する。本実施形態は、FFタイプ(フロントエンジン・フロントドライブ方式)の車両に自動クラッチ制御装置1を装備した実施形態である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の車両のエンジンルーム内には、駆動源であるエンジン10(原動機)及び自動変速機20(変速機)が搭載されている。自動変速機20は、エンジン10により回転駆動されるデュアルクラッチ2(クラッチ)を有している。エンジン10の回転駆動力は、自動変速機20を介して左前輪TFL及び右前輪TFRに伝達される。
【0031】
運転者がアクセルペダル50を踏み込んだときのアクセル操作量は、アクセル開度センサ51によってアクセル開度Aとして検出される。ECU(Engine Control Unit)10aは、アクセル開度Aの情報、後述するTCU(Transmission Control Unit)5からの各種情報、及び後述する各回転数センサ111、211、221の各情報を取得している。そして、ECU10aは、これらの車両情報に基づいて、スロットル開度や燃料噴射量を調整してエンジン10の駆動を制御している。エンジン10の駆動軸11の回転数Neの情報は、駆動軸回転数センサ111により検出されて、ECU10aに送られる。
【0032】
運転者は、シフトレバー60を操作することによって、自動変速機20の変速段(ギヤ位置)を自動又は手動で選択することができる。運転者がシフトレバー60を操作したときシフト位置の情報は、シフト位置センサ61によって検出される。TCU5とECU10aとは、CAN(Controller Area Network)通信によって相互に情報を交換可能となっている。TCU5の変速制御部5eは、シフト位置センサ61によって検出されたシフト位置の情報、ECU10aからの変速指令や取得した車両情報などに基づいて、自動変速機20の変速制御を行う。自動変速機20の入力軸21及び22の各回転数Ntの情報は、自動変速機20内の入力軸回転数センサ211及び221により検出されて(図2示)、ECU10aに送られる。
【0033】
自動クラッチ制御装置1は、第1クラッチ2a及び第2クラッチ2bを有するデュアルクラッチ2と、第1クラッチアクチュエータ3a及び第2クラッチアクチュエータ3bと、前後左右の4つの車輪TFL、TFR、TRL、TRRのそれぞれの車輪速度を検出する車速センサ4FL、4FR、4RL、4RR(車速検出手段、旋回半径検出手段)と、TCU5とを備えている。
【0034】
TCU5は、車速検出部5a(車速検出手段)と、旋回半径検出部5b(旋回半径検出手段)と、第1基準値設定部5cと、第2基準値設定部5dと、変速制御部5eとを備えている。自動クラッチ制御装置1の動作については後ほど詳述することとし、まずは、図2及び3に基づいて、自動変速機20の全体構成について説明する。
【0035】
図2に示すように、自動変速機20は、前進7段、後進1段のFFタイプのデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)である。自動変速機20は、図示しないケースに回転可能に指示された回転軸である第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸23、第2副軸24、及び出力軸25を有している。
【0036】
また、自動変速機20は、第1入力軸21に伝達されたエンジン10の回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構である第1歯車切換ユニット30A1及び第3歯車切換ユニット30B1と、第2入力軸22に伝達されたエンジン10の回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構である第2歯車切換ユニット30A2、第4歯車切換ユニット30B2とを有している。
【0037】
第2入力軸22は、筒状に形成されており、第1入力軸21を同軸的に囲んで、第1入力軸21に対して相対回転可能に設けられている。ここで、第1入力軸21の車両左側(図2中左方)の端部は、第2入力軸22の車両左側の端部よりも突出する長さに形成されている。第1副軸23、第2副軸24及び出力軸25は、両入力軸21、22に対して平行に配置されている。
【0038】
自動変速機20の車両右側(図2中右方)には、エンジン10の駆動軸11により回転駆動されるデュアルクラッチ2が配設されている。デュアルクラッチ2は、車両が停車している状態で、エンジン10が停止中及び起動中の場合に、クラッチ係合状態を解除するノーマルオープンタイプを構成している。
【0039】
デュアルクラッチ2は、摩擦クラッチである第1クラッチ2aと第2クラッチ2bとを備えている。そして、それぞれ第1、第2クラッチ2a、2bがエンジン10の駆動軸11に連結されている。第1クラッチ2aは、第1入力軸21に連結されており、第2クラッチ2bは、第2入力軸22に連結されている。
【0040】
デュアルクラッチ2は、TCU5の変速制御部5eからの命令に基づいて、第1クラッチ2aが係合しており第2クラッチ2bが係合していない図3に示す作動状態、第2クラッチ2bが係合しており第1クラッチ2aが係合していない作動状態、及び第1、第2クラッチ2a、2bの係合がともに解除された不作動状態のうちのいずれかの状態に制御される。
【0041】
第1クラッチ2aは、TCU5の変速制御部5eからの命令に基づいて第1クラッチアクチュエータ3aにより断接及び係合量Cが制御され、図3に示すクラッチ係合状態において、エンジン10の回転駆動力を第1入力軸21に伝達する。また、第2クラッチ2bは、TCU5の変速制御部5eからの命令に基づいて第2クラッチアクチュエータ3bにより断接及び係合量Cが制御され、クラッチ係合状態において、エンジン10の回転駆動力を第2入力軸22に伝達する。
【0042】
図3に基づいて、デュアルクラッチ2の詳細構造について説明する。デュアルクラッチ2は、第1、第2クラッチディスク2a1、2b1、センタプレート2c、第1、第2プレッシャプレート2a2、2b2、及び第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3を有している。
【0043】
第1クラッチディスク2a1は、エンジン10の回転駆動力を第1入力軸21に伝達し、第2クラッチディスク2b1は、エンジン10の回転駆動力を第2入力軸22に伝達する。第1クラッチディスク2a1は、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク2b1は、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
【0044】
センタプレート2cは、第1クラッチディスク2a1と第2クラッチディスク2b1との間にその面が第1、第2クラッチディスク2a1、2b1の面と平行に対向して配置されている。センタプレート2cは、第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられ、エンジン10の駆動軸11に連結されて、エンジン10の駆動軸11と一体に回転する。
【0045】
第1、第2プレッシャプレート2a2、2b2は、センタプレート2cとの間でそれぞれ第1、第2クラッチディスク2a1、2b1を挟持し、第1、第2クラッチディスク2a1、2b1と圧着可能に配置されている。
【0046】
第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3は、円環状に形成されている。第1ダイアフラムスプリング2a3は、センタプレート2cを挟んで、入力軸方向に第1プレッシャプレート2a2と反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部と第1プレッシャプレート2a2とは円筒状の連結部2a4によって連結されている。また第1ダイアフラムスプリング2a3はセンタプレート2cから延在している腕部2c1の先端部に支持されている。
【0047】
このような状態において、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部がエンジン10方向に付勢するばね力によって連結部2a4をエンジン10側に付勢すると、第1プレッシャプレート2a2が第1クラッチディスク2a1から離間する。
【0048】
また、第1ダイアフラムスプリング2a3の内径部をエンジン10側に向かって押圧すると、第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部のエンジン10方向へのばね力は減衰する。それとともにセンタプレート2cから延在している腕部2c1の先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング2a3の外径部は、エンジン10とは反対方向に移動される。これらによって第1プレッシャプレート2a2は、第1クラッチディスク2a1方向に移動し、やがてセンタプレート2cとの間で第1クラッチディスク2a1を挟持して圧着する。そして完全に係合してエンジン10の回転駆動力が第1入力軸21に伝達される(図3示)。
【0049】
また、第2ダイアフラムスプリング2b3は、センタプレート2cの腕部2c1のエンジン10側に配置され、第2プレッシャプレート2b2を挟んで、入力軸方向に第2クラッチディスク2b1と反対側に配置されている。第2ダイアフラムスプリング2b3の外径部は、ばね力がセンタプレート2cの腕部2c1を自動変速機20側に向かって付勢するよう配置されている。これにより通常時においては、第2プレッシャプレート2b2は、第2クラッチディスク2b1に圧着されない(図3示)。
【0050】
そして、第2ダイアフラムスプリング2b3の内径部をエンジン10側に向かって押圧すると、腕部2c1に接触する第2ダイアフラムスプリング2b3の外径部を支点として押圧部近傍がエンジン10方向へ移動する。これによって第2プレッシャプレート2b2がダイアフラムスプリング2b3に押され第2クラッチディスク2b1方向に移動し、やがてセンタプレート2cとの間で第2クラッチディスク2b1を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン10の回転駆動力が第2入力軸22に伝達される。
【0051】
上述した第1ダイアフラムスプリング2a3の内径部、及び第2ダイアフラムスプリング2b3の内径部の押圧は、第1、第2クラッチアクチェータ3a、3bによって行う。第1、第2クラッチアクチェータ3a、3bは、それぞれ直流電動モータ3a1、3b1と、直流電動モータ3a1、3b1の作動によってボールねじ構造により直線運動するロッド3a2、3b2と、ロッド3a2、3b2の直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング2a3、2b3の各内径部に伝達する伝達部3a3、3b3と、ロッド3a2、3b2の直線運動のストローク量を検出するストロークセンサ3a4、3b4とを有している。
【0052】
そして、ストロークセンサ3a4、3b4により検出されたロッド3a2、3b2の直線運動のストローク量に関する情報(係合量Cに関する情報)は、図1に示すように、TCU5の変速制御部5eに送られる。
【0053】
図2に示すように、自動変速機20は、第1入力軸21又は第2入力軸22と第1副軸23との間に設けられる第1歯車変速機構30Aと、第1入力軸21又は第2入力軸22と第2副軸24との間に設けられる第2歯車変速機構30Bと、第1副軸23と出力軸25とを連結する第1リダクションギヤ列39a、39cと、第2副軸24と出力軸25とを連結する第2リダクションギヤ列39b、39cとを備えている。
【0054】
第1歯車変速機構30Aは、第1入力軸21と第1副軸23との間に設けられる第1歯車切換ユニット30A1(第1シフト機構)と、第2入力軸22と第1副軸23との間に設けられる第2歯車切換ユニット30A2(第2シフト機構)とにより構成されている。
【0055】
第1歯車切換ユニット30A1は、第7速ギヤ列37a、37bと、第5速ギヤ列35a、35bと、第1切換クラッチ40Aとにより構成されている。第7速ギヤ列37a、37bは、第1入力軸21に固定された第7速駆動ギヤ37aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第7速従動ギヤ37bとにより構成されている。第5速ギヤ列35a、35bは、第1入力軸21に固定された第5速駆動ギヤ35aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第5速従動ギヤ35bとにより構成されている。
【0056】
第1切換クラッチ40Aは、クラッチハブLと、第7速係合部材S7と、第5速係合部材S5と、シンクロナイザリングOと、スリーブMとにより構成されている。クラッチハブLは、第7速従動ギヤ37bと第5速従動ギヤ35bとの軸方向間となる第1副軸23にスプライン固定されている。第7速係合部材S7及び第5速係合部材S5は、第7速従動ギヤ37b及び第5速従動ギヤ35bのそれぞれに、例えば圧入などにより固定されている。シンクロナイザリングOは、クラッチハブLと軸方向両側の各係合部材S7、S5との間にそれぞれ介在されている。スリーブMは、クラッチハブLの外周に軸方向移動自在にスプライン係合されている。
【0057】
この第1切換クラッチ40Aは、第7速従動ギヤ37b及び第5速従動ギヤ35bの一方と第1副軸23との係合を可能とし、かつ、第7速従動ギヤ37b及び第5速従動ギヤ35bの両者を第1副軸23に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0058】
第1切換クラッチ40AのスリーブMは、中立位置ではいずれの係合部材S7、S5とも係合されていない。シフトフォークNによりスリーブMが第7速従動ギヤ37b側にシフトされれば、スリーブMは、まずそちら側のシンクロナイザリングOにスプライン係合して第1副軸23と第7速従動ギヤ37bとの回転を同期させ、次いで第7速係合部材S7の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸23と第7速従動ギヤ37bとを一体的に連結して第7速段を形成する。また、シフトフォークNによりスリーブMが第5速従動ギヤ35b側にシフトされれば、同様にして第1副軸23と第5速従動ギヤ35bとの回転を同期させた後に、この両者を一体的に連結して第5速段を形成する。
【0059】
第2歯車切換ユニット30A2は、第6速ギヤ列36a、36bと、第2速ギヤ列32a、32bと、後進段駆動ギヤ38aと、第2切換クラッチ40Bとにより構成されている。第6速ギヤ列36a、36bは、第2入力軸22に固定された第6速駆動ギヤ36aと第1副軸23に回転自在に設けられた第6速従動ギヤ36bとにより構成されている。第2速ギヤ列32a、32bは、第2入力軸22に固定された第2速駆動ギヤ32aと第1副軸23に回転自在に設けられた第2速従動ギヤ32bとにより構成されている。
【0060】
後進段駆動ギヤ38aは、第2速従動ギヤ32bに一体に形成されており、第2速従動ギヤ32bよりも車両右側(図2中右方)に設けられ、第1副軸23に回転自在に設けられている。この後進段駆動ギヤ38aは、第2副軸24に回転自在に設けられている後進段従動ギヤ38bに噛合している。
【0061】
第2切換クラッチ40Bは、実質的に第1切換クラッチ40Aと同じ構造よりなっている。第2切換クラッチ40Bにおいては、第6速係合部材S6及び第2速係合部材S2がそれぞれ第6速従動ギヤ36b及び第2速従動ギヤ32bに固定されている点が第1切換クラッチ40Aと相違する。この第2切換クラッチ40Bは、第1切換クラッチ40Aと同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0062】
第2切換クラッチ40Bにおいて第6速段及び第2速段を形成する動作は、実質的に第1切換クラッチ40Aにおいて第7速段及び第5速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0063】
第2歯車変速機構30Bは、第1入力軸21と第2副軸24との間に設けられる第3歯車切換ユニット30B1(第1シフト機構)と、第2入力軸22と第2副軸24との間に設けられる第4歯車切換ユニット30B2(第2シフト機構)とにより構成されている。
【0064】
第3歯車切換ユニット30B1は、第1速ギヤ列31a、31bと、第3速ギヤ列33a、33bと、第3切換クラッチ40Cとにより構成されている。第1速ギヤ列31a、31bは、第1入力軸21に固定された第1速駆動ギヤ31aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第1速従動ギヤ31bとにより構成されている。第3速ギヤ列33a、33bは、第1入力軸21に固定された第3速駆動ギヤ33aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第3速従動ギヤ33bとにより構成されている。
【0065】
第3切換クラッチ40Cは、実質的に第1切換クラッチ40Aと同じ構造よりなっている。第3切換クラッチ40Cにおいては、第1速係合部材S1及び第3速係合部材S3がそれぞれ第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bに固定されている点が第1切換クラッチ40Aと相違する。この第3切換クラッチ40Cは、第1切換クラッチ40Aと同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0066】
第3切換クラッチ40Cにおいて第1速段及び第3速段を形成する動作は、実質的に第1切換クラッチ40Aにおいて第7速段及び第5速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0067】
第4歯車切換ユニット30B2は、第4速ギヤ列34a、34bと、後進段従動ギヤ38bと、第4切換クラッチ40Dとにより構成されている。第4速ギヤ列34a、34bは、第2入力軸22に固定された第4速駆動ギヤ34a(上述した第6速駆動ギヤ36aを兼ねる)と、第2副軸24に回転自在に設けられた第4速従動ギヤ34bとにより構成されている。後進段従動ギヤ38bは、第2副軸24に回転自在に設けられている。
【0068】
第4切換クラッチ40Dは、実質的に第1切換クラッチ40Aと同じ構造よりなっている。第4切換クラッチ40Dにおいては、第4速係合部材S4及び後進係合部材SRがそれぞれ第4速従動ギヤ34b及び後進段従動ギヤ38bに固定されている点が第1切換クラッチ40Aと相違する。この第4切換クラッチ40Dは、第1切換クラッチ40Aと同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0069】
第4切換クラッチ40Dにおいて第4速段及び後進段を形成する動作は、実質的に第1切換クラッチ40Aにおいて第7速段及び第5速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0070】
次に、自動変速機20の動作について説明する。自動変速機20の第1、第2歯車変速機構30A、30B及びデュアルクラッチ2は、アクセル開度A、エンジン10の駆動軸11の回転数Ne、自動変速機20の両入力軸21、22の回転数Nt、車速Vなどの車両の作動状態に応じて、TCU5の変速制御部5eからの命令に基づいて作動する。不作動状態において、第1、第2歯車変速機構30A、30Bの第1〜第4切換クラッチ40A〜40Dは中立位置にあり、デュアルクラッチ2の第1、第2クラッチ2a、2bの係合はともに解除されている。
【0071】
停車状態においてエンジン10を起動させた場合にも、上記不作動状態と同様の状態を維持する。そして、停車状態においてエンジン10を起動させた後に、自動変速機20のシフトレバー60を前進位置とすれば、TCU5の変速制御部5eは、第3切換クラッチ40Cの第1速係合部材S1を係合させて第2副軸24と第1速従動ギヤ31bとを一体的に連結して第1速段を形成する命令を自動変速機20に送る。このとき、その他の各切換クラッチ40A、40B及び40Dは中立位置にある。
【0072】
この状態でアクセル開度Aが増大してエンジン10の駆動軸11が所定の回転数を越えれば、TCU5の変速制御部5eは、図3に示すようにアクセル開度Aに合わせてデュアルクラッチ2の第1クラッチ2aの係合量Cを徐々に増加させて係合力(クラッチの伝達トルクTc)を徐々に増加させる命令を第1クラッチアクチェータ3aに送る。これにより駆動軸11の駆動トルク(現出力トルクTe)は、第1クラッチ2aから第1入力軸21、第1速ギヤ列31a、31b、第3切換クラッチ40Cの第1速係合部材S1、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に伝達され、車両は第1速で走行し始める。
【0073】
アクセル開度Aが増大するなどして車両の走行状況が第2速走行に適した状態となれば、TCU5の変速制御部5eは、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2を係合させて第1副軸23と第2速従動ギヤ32bとを一体的に連結して第2速段を形成する命令を自動変速機20に送る。その後、TCU5からの命令により、デュアルクラッチ2を第1クラッチ2a側から第2クラッチ2b側に切り換える。次いで、TCU5からの命令により、第3切換クラッチ40Cを中立位置にする。
【0074】
これにより駆動軸11の駆動トルク(現出力トルクTe)は、第2クラッチ2bから第2入力軸22、第2速ギヤ列32a、32b、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2、第1副軸23、第1リダクションギヤ列39a、39cを介して出力軸25に伝達され、車両は第2速で走行し始める。
【0075】
同様にして、TCU5は、第3速〜第7速では、車両の走行状況に応じた変速段(ギヤ位置)を順次選択するとともに、第1クラッチ2a及び第2クラッチ2bの係合状態を交互に選択して、その走行状況に適した変速段での走行が行われるように自動変速機20の動作を制御する。
【0076】
エンジン10を起動させた停車状態において自動変速機20のシフトレバー60を後進位置とすれば、TCU5の変速制御部5eは、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SRを係合させて第2副軸24と後進段従動ギヤ38bとを一体的に連結して後進段を形成する命令を自動変速機20に送る。このとき、その他の各切換クラッチ40A、40B及び40Cは中立位置にある。
【0077】
この状態でアクセル開度Aが増大してエンジン10の駆動軸11の回転数Neが所定の回転数を越えれば、TCU5の変速制御部5eは、アクセル開度Aに合わせてデュアルクラッチ2の第2クラッチ2bの係合量Cを徐々に増加させて係合力(クラッチの伝達トルクTc)を徐々に増加させる命令を第2クラッチアクチェータ3bに送る。これにより駆動軸11の駆動トルク(現出力トルクTe)は、第2クラッチ2bから第2入力軸22、第2速ギヤ列32a、32b、後進段ギヤ列38a、38b、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SR、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に伝達され、車両は後進を開始する。
【0078】
第1、第2クラッチ2a、2bの係合がともに解除された停車状態において自動変速機20のシフトレバー60を駐車位置とすれば、TCU5の変速制御部5eは、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2を係合させるとともに、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SRを係合させる命令を自動変速機20に送る。
【0079】
第2速係合部材S2の係合により、第2入力軸22から、第2速ギヤ列32a、32b、第2切換クラッチ40Bの第2速係合部材S2、第1副軸23、第1リダクションギヤ列39a、39cを介して出力軸25に一方向の回転力が伝達される状態となる。一方、後進係合部材SRの係合により、第2入力軸22から、第2速ギヤ列32a、32b、後進段ギヤ列38a、38b、第4切換クラッチ40Dの後進係合部材SR、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に他方向(反対方向)の回転力が伝達される状態となる。
【0080】
したがって、第2速ギヤ列32a、32b及び第1リダクションギヤ列39a、39cによる噛み合いと、後進段ギヤ列38a、38b及び第2リダクションギヤ列39b、39cによる噛み合いの、2重噛み合いがなされて、パーキングロックがなされる。
【0081】
次に、自動クラッチ制御装置1の動作について説明する。上述したように、デュアルクラッチ2の第1、第2クラッチ2a、2bは、アクセル開度A、エンジン10の駆動軸11の回転数Ne、自動変速機20の両入力軸21、22の回転数Nt、車速Vなどの車両の作動状態に応じて、TCU5の変速制御部5eからの命令に基づいて作動する。
【0082】
本実施形態の自動クラッチ制御装置1においては、車両の直進走行中の変速時において、第1係合量基準値Caを、第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cの基準値として、デュアルクラッチ2を制御する。また、車両の旋回走行中の変速時において、車速V及び車両の旋回半径Rに基づいて第1係合量基準値Caを補正することにより定められた第2係合量基準値Cbを、第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cの基準値として、デュアルクラッチ2を制御する。
【0083】
以下、車両の旋回走行中に自動変速機20の変速が行われる場合を想定して、第1係合量基準値Caを補正することにより定められた第2係合量基準値Cbによるデュアルクラッチ2の制御について説明する。
【0084】
上述したとおり、自動クラッチ制御装置1のTCU5は、車速検出部5aと、旋回半径検出部5bと、第1基準値設定部5cと、第2基準値設定部5dと、変速制御部5eとを備えている(図1示)。
【0085】
車速検出部5a(車速検出手段)には、左前輪車速センサ4FL(車速検出手段)で検出した左前輪TFLの車輪速度VFL、右前輪車速センサ4FR(車速検出手段)で検出した右前輪TFRの車輪速度VFR、左後輪車速センサ4RL(車速検出手段)で検出した左後輪TRLの車輪速度VRL、及び右後輪車速センサ4RR(車速検出手段)で検出した右後輪TRRの車輪速度VRRに関する情報が送られる。そして、車速検出部5aにおいて車輪速度VFL、VFR、VRL、VRRの平均値として車速Vが算出される。
【0086】
旋回半径検出部5b(旋回半径検出手段)には、左後輪車速センサ4RL(旋回半径検出手段)で検出した左後輪TRLの車輪速度VRL、及び右後輪車速センサ4RR(旋回半径検出手段)で検出した右後輪TRRの車輪速度VRRに関する情報が送られる。そして、旋回半径検出部5bにおいて左後輪TRLの車輪速度VRLと右後輪TRRの車輪速度VRRとの差から旋回半径Rが算出される。
【0087】
第1基準値設定部5cは、次のように第1係合量基準値Caを設定する。まずは、目標伝達トルクTcaを[数1]により演算する。この「目標伝達トルクTca」は、シフトアップに際して低速段側クラッチを切離制御した後に、このトルクに高速段側クラッチの伝達トルクTcを制御する場合に、または、シフトダウンに際して高速段側クラッチを切離制御した後に、このトルクに低速段側クラッチの伝達トルクTcを制御する場合に、変速ショックを抑制した変速が可能となる基準の伝達トルクである。
【0088】
[数1]
Tca =Te−Ie・ΔNea
Tca :目標伝達トルク
Te :現出力トルク
Ie :イナーシャ
ΔNea:目標回転数変化速度
【0089】
第1基準値設定部5cは、まず、エンジン10のイナーシャIe(慣性モーメント又は慣性能率ともいう)に目標回転数変化速度ΔNeaを乗算して目標慣性トルクIe・ΔNeaを算出する。この「目標慣性トルクIe・ΔNea」とは、エンジン10の駆動軸11の回転数Neを好適に変化(減速又は加速)させるために第1、第2クラッチ2a、2bからエンジン10の駆動軸11に伝達されるべき減速トルク又は加速トルクに相当する。
【0090】
「目標回転数変化速度ΔNea」は、変速制御において、エンジン回転数Neの変化速度として予め定められている周知の目標値である。エンジン10の駆動軸11の回転数Neの変化速度が目標回転数変化速度ΔNeaとなるように変速制御することにより、変速ショックを抑制しつつ変速を早期に完了することができる。
【0091】
次に、第1基準値設定部5cは、エンジン10の現出力トルクTeから目標慣性トルクIe・ΔNeaを減算して目標伝達トルクTchを算出する。このエンジン10の「現出力トルクTe」は、例えば、エンジン10の駆動軸11の回転数Neやアクセル開度Aなどの検出値、及びエンジン10の出力トルク特性に基づいて算出することができる。
【0092】
次に、第1基準値設定部5cは、図4に示す伝達トルクTcとクラッチストロークLとの関係に基づいて、目標伝達トルクTchに対応した目標クラッチストロークLaを求める。そして、目標クラッチストロークLaとタッチ点でのクラッチストロークL0との差である第1係合量基準値Caを求める。
【0093】
第2基準値設定部5dには、車速検出部5aで算出した車速Vと、旋回半径検出部5bで算出した旋回半径Rと、第1基準値設定部5cで設定した第1係合量基準値Caとが送られる。第2基準値設定部5dにおいて第1係合量基準値Caにクラッチ係合率αを掛け合わせることにより第2係合量基準値Cb(=α・Ca)を設定する。図7に示すように、運転者の運転嗜好を勘案した上で、旋回半径R毎の車速Vとクラッチ係合率αとの関係が予め定められており、車速V及び旋回半径Rに対応したクラッチ係合率αを求めることが可能となっている。図7の関係図については後ほど詳しく述べる。
【0094】
変速制御部5eには、第1基準値設定部5cで設定した第1係合量基準値Caと、第2基準値設定部5dで設定した第2係合量基準値Cbとが送られる。車両の直進走行中の変速時においては、変速制御部5eは、第1、第2クラッチアクチュエータ3a、3bに第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cを第1係合量基準値Caに制御する命令を送る。また、車両の旋回走行中の変速時においては、変速制御部5eは、第1、第2クラッチアクチュエータ3a、3bに第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cを第2係合量基準値Cbに制御する命令を送る。
【0095】
車両の旋回走行中の変速時において、デュアルクラッチ2の第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cを第2係合量基準値Cbに制御する具体例について、図5及び6を参照して説明する。図5及び6は、自動クラッチ制御装置1の動作を説明するタイムチャートであって、図5は、車両が高速で旋回走行しているときのシフトアップ状況、図6は、車両が低速で旋回走行しているときのシフトアップ状況を示している。
【0096】
図5における車両が高速で旋回走行している状況とは、ワインディング走行のように車両が旋回半径Rの大きさのわりに速い車速Vで旋回走行しているスポーティーな走行状況を想定している。このような走行状況においては、運転者は、直進走行中よりもダイレクト感のある変速を要求していることが多い。
【0097】
車両の走行状況は、主として車速V及び旋回半径Rに代表されることから、ある旋回半径Rを第1旋回半径R1としたときに、第1旋回半径R1においてスポーティーな旋回走行状況であると判定される車速Vの下限値を第1車速V1とする。この第1旋回半径R1及び第1車速V1の組み合わせは、テスト走行等により設計者によって複数個定められているものとする。
【0098】
図5に示すように、車両は一定の車速Vで旋回走行しており、時間の経過に伴って徐々に旋回半径Rが大きくなって、時刻t1において、旋回半径Rが第1旋回半径R1に達したとする。そして時刻t1において、TCU5の変速制御部5eから自動変速機20の第1、第2歯車変速機構30A、30B及びデュアルクラッチ2にシフトアップの命令が送られたとする。
【0099】
時刻t1において、車速Vが第1旋回半径R1に対応した第1車速V1以上である場合には、車両がスポーティーな旋回走行中であり、運転者がダイレクト感のある変速を要求していると判定して、クラッチ係合率α>100%として、第2係合量基準値Cbを第1係合量基準値Caよりも大きく設定する。そして、時刻t2において、第1、第2クラッチ2a、2bの切り換えが開始される。
【0100】
時刻t2において、完全係合の状態でエンジン10の駆動力を第1入力軸21に伝達していた第1クラッチ2aの係合の解除が始まり、時刻t4において、第1クラッチ2aの係合が完全に解除される。一方、時刻t2よりも少し遅れた時刻t3において、第2クラッチ2bの係合が始まり、時刻t4において、第2クラッチ2bの係合量Cが第2係合量基準値Cbとなる。その後、時刻t5までの間、第2クラッチ2bの係合量Cが第2係合量基準値Cbに維持される。
【0101】
第2クラッチ2bの係合が始まる時刻t3までの間、エンジン10の駆動軸11は、第1入力軸21の回転数Nt1と同じ回転数Neで回転している。また、第2入力軸22には、第2クラッチ2bの係合が解除されている状態で、出力軸25の回転が伝達されているため、第2入力軸22は、第1入力軸21よりも低い回転数Nt2で回転している。そして、時刻t3から時刻t5までの間に、エンジン10の駆動軸11の回転数Neが、第2入力軸22の回転数Nt2に同期していく。シフトアップが完了した時刻t5以降は、第2クラッチ2bの係合が完全係合の状態となる。
【0102】
以上のように、第2クラッチ2bの係合量Cを第1係合量基準値Caよりも大きい第2係合量基準値Cbに制御することによって、エンジン10の駆動軸11と自動変速機20の第2入力軸22との間のクラッチの伝達トルクTcが上述した目標伝達トルクTcaよりも大きくなり、運転者が求めているクラッチの伝達トルクTcを満足するものとなる。これにより、運転者は、スポーティーな旋回走行状況において、変速のダイレクト感を味わうことができる。
【0103】
図6における車両が低速で旋回走行している状況とは、右左折するときのように車両が旋回半径Rの大きさのわりに低速で旋回走行している慎重な走行状況を想定している。このような走行状況においては、運転者は、直進走行中よりもなめらかな変速を要求していることが多い。
【0104】
前述のとおり、車両の走行状況は、主として車速V及び旋回半径Rに代表されることから、ある旋回半径Rを第2旋回半径R2としたときに、第2旋回半径R2において慎重な旋回走行状況であると判定される車速Vの上限値を第2車速V2とする。この第2旋回半径R2及び第2車速V2の組み合わせは、テスト走行等により設計者によって複数個定められているものとする。
【0105】
図6に示すように、車両は一定の車速Vで旋回走行しており、時間の経過に伴って徐々に旋回半径Rが小さくなって、時刻t1において、旋回半径Rが第2旋回半径R2に達したとする。そして時刻t1において、TCU5の変速制御部5eから自動変速機20の第1、第2歯車変速機構30A、30B及びデュアルクラッチ2にシフトアップの命令が送られたとする。
【0106】
時刻t1において、車速Vが第2旋回半径R2に対応した第2車速V2未満である場合には、車両が慎重な旋回走行中であり、運転者がなめらかな変速を要求していると判定して、クラッチ係合率α<100%として、第2係合量基準値Cbを第1係合量基準値Caよりも小さく設定する。そして、時刻t2において、第1、第2クラッチ2a、2bの切り換えが開始される。
【0107】
第1、第2クラッチ2a、2bの切り換え、及びエンジン10の駆動軸11の回転の同期については、上述した図5の説明と同様であるため、説明を省略する。
【0108】
以上のように、第2クラッチ2bの係合量Cを第1係合量基準値Caよりも小さい第2係合量基準値Cbに制御することによって、エンジン10の駆動軸11と自動変速機20の第2入力軸22との間のクラッチの伝達トルクTcが上述した目標伝達トルクTcaよりも小さくなり、運転者が求めているクラッチの伝達トルクTcを満足するものとなる。これにより、運転者は、慎重な旋回走行状況において、変速のなめらか感を味わうことができる。
【0109】
図7は、自動クラッチ制御装置1において、上述した第2係合量基準値Cbを設定するための関係図の一例であって、旋回半径R毎の車速Vとクラッチ係合率α(=Cb/Ca)との関係を示している。図7における一点鎖線は、直進走行中の変速時のクラッチ係合率αを示しており、車速Vの大きさによらずクラッチ係合率α=100%となっている。図7に示すように、車両の旋回半径RがR、R、R(R<R<R)である場合の第2係合量基準値Cbの設定について説明する。
【0110】
旋回半径Rが小さい旋回半径Rである場合には、運転者は、なめらかな変速を要求することがあるが、ダイレクト感のある変速を要求することはないものとする。このとき、旋回半径Rは、本発明における第2旋回半径に該当し、旋回半径Rに対応した第2車速V2が定められている。そして、車速Vが第2車速V2未満である場合には、車速Vに比例してクラッチ係合率α<100%とし、車速Vが第2車速V2以上である場合には、クラッチ係合率α=100%とする。
【0111】
旋回半径Rが大きい旋回半径Rである場合には、運転者は、ダイレクト感のある変速を要求することがあるが、なめらかな変速を要求することはないものとする。このとき、旋回半径Rは、本発明における第1旋回半径に該当し、旋回半径Rに対応した第1車速V1が定められている。そして、車速Vが第1車速V1以上である場合には、車速Vに比例してクラッチ係合率α>100%とし、車速Vが第1車速V1未満である場合には、クラッチ係合率α=100%とする。
【0112】
旋回半径Rが旋回半径R及び旋回半径Rの中間の旋回半径Rである場合には、運転者は、車速Vに応じて、ダイレクト感のある変速及びなめらかな変速のいずれかを要求することがあるものとする。このとき、旋回半径Rは、本発明における第1旋回半径及び第2旋回半径の両方に該当する。車速Vが第1車速V1以上である場合には、車速Vに比例してクラッチ係合率α>100%とする。また、車速Vが第2車速V2未満である場合には、車速Vに比例してクラッチ係合率α<100%とする。そして、車速Vが第2車速V2以上かつ第1車速V1未満である場合には、クラッチ係合率α=100%とする。
【0113】
図8は、自動クラッチ制御装置1において、第2係合量基準値Cbを設定するためのフローチャートを示している。このフローチャートは、上述した旋回半径Rが旋回半径Rである場合のように、運転者が、車速Vに応じて、ダイレクト感のある変速及びなめらかな変速のいずれかを要求することがある場合を想定したものである。
【0114】
図8に示すフローチャートは、シフト命令設定開始により開始して、シフト命令設定完了により終了する。すなわち、図5及び6に示した時刻t1において瞬時に実行される。フローチャートの開始後、ステップS1において、車速V及び旋回半径Rを検出すると共に、上述した手順により目標伝達トルクTcaが得られるクラッチ係合量Cである第1係合量基準値Caを設定する。ステップS2において、例えば、図7に示した第2係合量基準値Cbを設定するための関係図から、検出した旋回半径R(本発明における第1旋回半径及び第2旋回半径の両方に該当する)に対応した車速Vとクラッチ係合率αとの関係図を選定する。
【0115】
ステップS3において、車速Vが旋回半径Rに対応した第1車速V1以上である場合には、ステップS4において、クラッチ係合率α>100%とする。ステップS3において、車速Vが第1車速V1未満である場合には、ステップS5に進む。ステップS5において、車速Vが旋回半径Rに対応した第2車速V2未満である場合には、ステップS6において、クラッチ係合率α<100%とする。ステップS5において、車速Vが第2車速V2以上である場合には、ステップS7に進んでクラッチ係合率α=100%とする。
【0116】
ステップS4、S6及びS7のいずれかにおいてクラッチ係合率αが決定された後、ステップS8において、第1係合量基準値Caにクラッチ係合率αを掛け合わせることにより第2係合量基準値Cb(=α・Ca)を設定した後、フローチャートを終了とする。
【0117】
このような本実施形態によれば、自動クラッチ制御装置1は、エンジン10のイナーシャIeに変速におけるエンジン10の目標回転数変化速度ΔNeaを乗算した目標慣性トルクIe・ΔNeaを演算し、エンジン10の現出力トルクTeから目標慣性トルクIe・ΔNeaを減算した値を、第1、第2クラッチ2a、2bの目標伝達トルクTcaとして演算し、目標伝達トルクTcaが得られる第1、第2クラッチ2a、2bの第1係合量基準値Caを設定する第1基準値設定部5cと、車速V及び車両の旋回半径Rに基づいて第1係合量基準値Caを補正して第2係合量基準値Cbを設定する第2基準値設定部5dとを備えている。
【0118】
そして、車両の直進走行中の変速時において、第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cを第1係合量基準値Caに制御すると共に、車両の旋回走行中の変速時において、第1、第2クラッチ2a、2bの係合量Cを第2係合量基準値Cbに制御している。
【0119】
車両が旋回走行を行う際の運転者の運転嗜好は、主として車速V及び車両の旋回半径Rにより推定することが可能であると考えられることから、本実施形態のように、車速V及び車両の旋回半径Rに基づいて設定された第2係合量基準値Cbにより車両の旋回走行中の変速時におけるクラッチ係合量Cを制御することによって、車両の旋回走行中に自動変速機20の変速が行われる場合であっても、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となっている。
【0120】
また、本実施形態によれば、第1係合量基準値Caにクラッチ係合率αを掛け合わせることにより第2係合量基準値Cbを設定する場合、図7及び8に示したように、ある旋回半径R(図7においてはR)において、車速Vが第1車速V1以上である場合には、クラッチ係合率α>100%としている。また、車速Vが第2車速V2未満である場合には、クラッチ係合率α<100%としている。そして、車速Vが第2車速V2以上かつ第1車速V1未満である場合には、クラッチ係合率α=100%としている。
【0121】
したがって、車両の旋回走行の状況に応じて、運転者がダイレクト感のある変速を要求している場合であっても、なめらかな変速を要求している場合であっても、運転者の運転嗜好に合った良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となっている。
【0122】
また、本実施形態によれば、自動クラッチ制御装置1が、デュアルクラッチ式の自動変速機20に適用されている。デュアルクラッチ式の自動変速機20は、変速予定の変速段を構成するギヤ列が変速に備えて回転待機した状態となっており、変速の指令が出ると第1、第2クラッチ2a、2bを切り換えることにより変速が完了するので、変速に要する時間が極めて短く、かつ変速ショックも極めて小さい。したがって、デュアルクラッチ式の自動変速機20としての上記効果に対して、上述した自動クラッチ制御装置1としての効果が相乗し、運転者の運転嗜好に合ったさらに良好なユーザフィーリングが得られる変速を行うことが可能となる。
【0123】
本発明の自動クラッチ制御装置1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができることは言うまでもない。
【0124】
例えば、本実施形態において、図7は、第2係合量基準値Cbを設定するための関係図の一例であり、関係図は図7に限定されない。図7の関係図においては、車速Vに対してクラッチ係合率αを直線比例させているが、これに限らず、車速Vに対してクラッチ係合率αを曲線比例させることにより第2係合量基準値Cbを設定することもできる。また、図7の関係図の代わりに、車速Vの範囲毎にクラッチ係合率αが定められたマップを活用して、段階的に定められたクラッチ係合率αにより第2係合量基準値Cbを設定することもできる。
【0125】
また、図7において、旋回半径Rが旋回半径Rであるとき、車速Vが第2車速V2以上かつ第1車速V1未満である場合には、クラッチ係合率α=100%として、第1係合量基準値Caと第2係合量基準値Cbとを等しい値としている。しかし、第2車速V2と第1車速V1とを等しい値として、第1係合量基準値Caと第2係合量基準値Cbとが等しい値となる区間を設けない形態とすることもできる。
【0126】
また、本実施形態においては、旋回半径Rを左後輪TRLの車輪速度VRLと右後輪TRRの車輪速度VRRとの差から算出している。しかし、旋回半径Rの算出方法は、これに限定されず、舵角センサやヨーレイトセンサ等のように旋回半径Rと相関のある各種センサの検出値により算出することもできる。また、車両の横加速度、車載のカメラから得られる画像、車載のカーナビゲーションシステムから得られる道路情報及び現在値等に基づいて旋回半径Rを算出することもできる。
【0127】
また、本実施形態においては、車両の旋回走行中に自動変速機20のシフトアップが行われる場合について述べたが、自動変速機20のシフトダウンが行われる場合についても本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0128】
また、本実施形態においては、自動クラッチ制御装置1をFFタイプ(フロントエンジン・フロントドライブ方式)の車両に装備しているが、自動クラッチ制御装置1をFRタイプ(フロントエンジン・リアドライブ方式)の車両に装備することもできる。
【0129】
また、本実施形態においては、自動クラッチ制御装置1をデュアルクラッチ式の自動変速機(DCT)に適用しているが、自動クラッチ制御装置1を自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT:例えば、特開2008−75814号公報参照)に適用することもできる。また、従来のマニュアルトランスミッションのクラッチ操作のみを自動化した変速機に自動クラッチ制御装置1を適用することもできる。
【符号の説明】
【0130】
1 … 自動クラッチ制御装置 2 … デュアルクラッチ
2a … 第1クラッチ 2b … 第2クラッチ
3a … 第1クラッチアクチュエータ 3b … 第2クラッチアクチュエータ
4FL… 左前輪車速センサ(車速検出手段)
4FR… 右前輪車速センサ(車速検出手段)
4RL… 左後輪車速センサ(車速検出手段、旋回半径検出手段)
4RR… 右後輪車速センサ(車速検出手段、旋回半径検出手段)
5a … 車速検出部(車速検出手段)
5b … 旋回半径検出部(旋回半径検出手段)
5c … 第1基準値設定部 5d … 第2基準値設定部
5e … 変速制御部 10 … エンジン(原動機)
11 … 駆動軸 20 … 自動変速機(変速機)
21 … 第1入力軸 22 … 第2入力軸
30A1… 第1歯車切換ユニット(第1シフト機構)
30A2… 第2歯車切換ユニット(第2シフト機構)
30B1… 第3歯車切換ユニット(第1シフト機構)
30B2… 第4歯車切換ユニット(第2シフト機構)
C … 係合量 Ca … 第1係合量基準値
Cb … 第2係合量基準値 R … 旋回半径
R1 … 第1旋回半径 R2 … 第2旋回半径
Tca… 目標伝達トルク V … 車速
V1 … 第1車速 V2 … 第2車速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の原動機の駆動軸と変速機の入力軸との間に介装されたクラッチと、
前記クラッチの断接及び係合量を制御するクラッチアクチュエータと、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記車両の旋回半径を検出する旋回半径検出手段と、
前記原動機のイナーシャに変速における該原動機の目標回転数変化速度を乗算した目標慣性トルクを演算し、該原動機の現出力トルクから該目標慣性トルクを減算した値を、前記クラッチの目標伝達トルクとして演算し、該目標伝達トルクが得られる該クラッチの第1係合量基準値を設定する第1基準値設定部と、
前記車速及び前記旋回半径に基づいて前記第1係合量基準値を補正して第2係合量基準値を設定する第2基準値設定部と、
前記車両の直進走行中の変速時において、前記クラッチアクチュエータに前記クラッチの前記係合量を前記第1係合量基準値に制御する命令を送ると共に、該車両の旋回走行中の変速時において、該クラッチアクチュエータに該クラッチの該係合量を前記第2係合量基準値に制御する命令を送る変速制御部と、
を備えることを特徴とする自動クラッチ制御装置。
【請求項2】
前記第2基準値設定部は、前記旋回半径が第1旋回半径であるときに、前記車速が該第1旋回半径に応じて設定される第1車速以上である場合に、前記第2係合量基準値を前記第1係合量基準値よりも大きく設定する請求項1に記載の自動クラッチ制御装置。
【請求項3】
前記第2基準値設定部は、前記旋回半径が第2旋回半径であるときに、前記車速が該第2旋回半径に応じて設定される第2車速未満である場合に、前記第2係合量基準値を前記第1係合量基準値よりも小さく設定する請求項1又は2に記載の自動クラッチ制御装置。
【請求項4】
前記変速機は、同心に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、該第1入力軸に伝達された前記原動機の回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構と、該第2入力軸に伝達された該回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構とを有し、
前記クラッチは、前記回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチと、該回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチとを有するデュアルクラッチであり、
前記変速制御部は、変速指令が送出されると、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうちの前記駆動軸から切り離される入力軸に対応するクラッチを切離する切離制御を行うと共に、前記変速機が変速された状態で前記第1クラッチ及び前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうちの前記駆動軸に係合される入力軸に対応するクラッチを係合する係合制御を行う請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動クラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44373(P2013−44373A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182132(P2011−182132)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】