説明

自動吸水式消防ポンプ

【課題】吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存している状態で放水が行われて、放水量の急変や水圧の急変が生じるのを防止できる自動吸水式消防ポンプを提供する。
【解決手段】吸水検出センサ15により吸水の完了が検出されたときに今回の吸水ポンプ4の運転がエンジンの運転開始後に行われた初回の運転であるか否かを判定する吸水ポンプ運転履歴判定手段21と、この判定手段により吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときに一定時間の計測を開始するタイマ手段22とを備え、判定手段21により吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときにはタイマ手段22が一定時間の計測を完了したときに吸水ポンプ4の運転を停止させ、吸水ポンプ運転履歴判定手段21により吸水ポンプの運転がエンジンの運転開始後2回目以降に行われた運転であると判定されたときには、吸水の完了が検出されたときに吸水ポンプを直ちに停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動される放水ポンプと、放水ポンプのポンプケース内を水で満たすために吸水を行う吸水ポンプと、エンジンの運転中吸水動作を自動的に行わせるようにエンジンから吸水ポンプへの動力の伝達を制御する制御装置とを備えた自動吸水式消防ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにより駆動される可搬式の消防ポンプにおいては、放水ポンプとしてタービンポンプ等の渦巻きポンプが用いられている。この種の放水ポンプは、羽根車が収容されたポンプケースと、該ポンプケースに接続された吸い込みホース(サクションホース)及び放水ホース(デリバリホース)とを備えていて、吸い込みホースからポンプケース内に流入した水を羽根車により放水ホースに送出するようになっている。
【0003】
渦巻き式の放水ポンプにおいては、放水に先立って、ポンプケース内を水で満たしておく(呼び水を行う)必要がある。そのため、この種の消防ポンプにおいては、放水ポンプのポンプケースに止水弁を通して吸水ポンプを接続しておいて、この吸水ポンプでポンプケース内及び吸い込みホース内を吸引することにより吸水を行わせて、ポンプケース内を水で満たすようにしている。
【0004】
吸水ポンプは、通常真空ポンプからなっていて、エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を通して動力が与えられて動作する。吸水が完了した後は、吸引ポンプを停止する必要がある。そのため、この種のポンプでは、ポンプケース内の水位や圧力から吸水の完了を検出する吸水検出センサを設けて、吸水検出センサにより吸水の完了が検出されたときに、吸水センサへの動力の伝達を断ってその運転を停止するようにしている。
【0005】
またこの種の消防ポンプにおいては、運転中に空気を吸い込むなどしてポンプケース内の水が抜ける(落水する)と放水を行うことができなくなるため、消防ポンプの運転中にも、吸水ポンプを運転して吸水を行うこが必要になることがある。そのため、エンジンが運転されている状態で、吸水検出センサが吸水の完了を検出していないときに吸水ポンプを運転して吸水を行い、吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに吸水ポンプを停止させるように、エンジンから吸水ポンプに動力を伝達する動力伝達機構を吸水検出センサの出力に応じて制御することにより、吸水ポンプの運転の自動化を図った自動吸水式消防ポンプが開発されている。この種の消防ポンプは例えば特許文献1に示されている。
【0006】
自動吸水式消防ポンプを運転する際には、放水ポンプに吸い込みホース及び放水ホースを接続した後、吸い込みホースの先端を水中にセットし、放水ホースへの水の送出口に設けられた放水バルブ(デリバリバルブ)を閉じてポンプケース内と放水ホースとの連通を断ち、エンジンを始動する。エンジンの回転が確立すると制御が開始される。最初は吸水検出センサが吸水の完了を検出していないため、エンジンの出力軸と吸水ポンプとの間に設けられている動力伝達機構がオン状態にされて、吸水ポンプの運転が開始される。これにより、ポンプケース内及び吸い込みホース内が真空引きされるため、吸い込みホースを通して吸い込まれた水がポンプケース内に流入し、ポンプケース内の水位が上昇していく。ポンプケース内の圧力上昇またはポンプケース内の水位の上昇等から吸水検出センサが吸水の完了を検出すると、上記動力伝達機構がオフ状態にされ、吸水ポンプの運転が停止させられる。吸水ポンプが停止した後に放水バルブを開き、放水を開始する。
【特許文献1】特開2000−279541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動吸水式消防ポンプにおいては、吸水検出センサが吸水の完了を検出していても、場合によっては、吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存していることがある。特に貯水槽に挿入された吸い込みホースが山なりに曲がっている場合には、エンジンの運転を開始した後最初に行われる吸水ポンプの運転が終了した時点で、吸い込みホース内に空気が残存している可能性がある。万一吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存している状態で放水が行われると、空気が排出される際に水圧や放水量が急変して、放水ノズルに大きな力が加わり、筒先員に危険を及ぼすおそれがある。
【0008】
また吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存していると、放水バルブを開いた際にポンプケース内の圧力が低下して、吸水検出センサにより吸水が完了していないことが検出されることがある。この場合、吸水ポンプの運転が再開されるため、エンジンの負荷が急に重くなってエンジンの回転速度が低下し、水圧が急に低下する。このとき機関員がエンジンの回転速度を上昇させる操作を行うと水圧が再び上昇し、その後吸水の完了が検出されて吸水ポンプがエンジンから切り離されると、エンジンの負荷が軽くなるためその回転速度が上昇して水圧が上昇する。
【0009】
上記のように、従来の自動吸水式消防ポンプでは、吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存している状態で放水が行われて放水ノズルから放出される水の量が急変したり、水圧が急変したりして、放水ノズルに大きな力が加わり、筒先員に不快感を与えたり、筒先員に危険を及ぼしたりすることがあった。
【0010】
本発明の目的は、吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存している状態で放水が行われて、放水量が急変したり、水圧が急変したりする事態が生じるのを防ぐことができるようにした自動吸水式消防ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、エンジンにより駆動されて吸い込みホースからポンプケース内に吸い上げた水を放水ホースに送出する放水ポンプと、エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を介して動力が伝達されてポンプケース内を水で満たすための吸水を行う吸水ポンプと、吸水が完了したことを検出する吸水検出センサと、エンジンが運転されている状態で吸水検出センサが吸水の完了を検出していないときに吸水ポンプを運転し、吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに吸水ポンプを停止させるための制御を行う吸水ポンプ制御装置とを備えた自動吸水式消防ポンプを対象とする。
【0012】
本発明においては、吸水ポンプ制御装置が、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を備えている。
【0013】
上記のように、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を設けておくと、吸水の完了が検出された後も、一定時間吸水ポンプが運転を継続するため、その間に吸い込みホース内及び(または)ポンプケース内に残存していた空気を吸水ポンプを通して排出することができる。従って、放水を開始した後に空気が放水ホースを通して放出されたり、一度吸水の完了が検出された直後に吸水が完了していないとの検出がされて吸水ポンプの運転が再開されたりするのを防ぐことができ、放水ノズルから放出される水の量が急変したり、水圧が急変したりして、筒先員に不快感を与えたり、危険を及ぼしたりする事態が生じるのを防ぐことができる。
【0014】
本発明の好ましい態様では、吸水ポンプ制御装置が、エンジンの運転開始後に行われた初回の吸水ポンプの運転により吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出したタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を備えていて、エンジンの運転が開始された後に行われる吸水ポンプの2回目以降の運転により吸水検出センサが吸水の完了を検出したときには吸水ポンプを直ちに停止させるように構成されている。
【0015】
通常、放水活動中に何らかの原因で落水して吸水検出センサにより吸水が完了していないとの検出がされたときには、吸水検出センサにより吸水の完了が検出されるまで吸水ポンプを運転すれば、確実に吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存しない状態にすることができるため、吸水検出センサが吸水の完了を検出した後の吸水ポンプの運転は必要がない。即ち、エンジンの運転を開始した後に行われる2回目以降の吸水ポンプの運転終了時には、吸水ポンプを停止させるタイミングを吸水の完了が検出されたタイミングよりも遅らせる必要はない。
【0016】
本発明の好ましい態様では、吸水ポンプ制御装置を、吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに予め定めた一定時間の計測を開始するタイマ手段を備えて、このタイマ手段が一定時間の計測を完了したときに吸水ポンプの運転を停止させるように構成する。
【0017】
本発明の他の好ましい態様では、吸水ポンプ制御装置に、吸水検出センサにより吸水の完了が検出された時に今回の吸水ポンプの運転がエンジンの運転開始後に行われた初回の運転であるか否かを判定する吸水ポンプ運転履歴判定手段と、吸水ポンプ運転履歴判定手段により吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときに予め定めた一定時間の計測を開始するタイマ手段と、吸水ポンプ運転履歴判定手段により吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときには、タイマ手段が一定時間の計測を完了したときに吸水ポンプの運転を停止させ、吸水ポンプ運転履歴判定手段により吸水ポンプの運転がエンジンの運転開始後2回目以降に行われた運転であると判定されたときには吸水ポンプを直ちに停止させるように動力伝達機構を制御する動力伝達機構制御手段とが設けられる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を設けて、吸水の完了が検出された後も、一定時間吸水ポンプが運転を継続するようにしため、その間に吸い込みホース内及び(または)ポンプケース内に残存していた空気を吸水ポンプを通して排出することができる。従って、放水を開始した後に空気が放水ホースを通して放出されたり、一度吸水の完了が検出された直後に吸水が完了していないとの検出がされて吸水ポンプの運転が再開されたりするのを防ぐことができ、放水ノズルから放出される水の量が急変したり、水圧が急変したりして、筒先員に不快感を与えたり、危険を及ぼしたりする事態が生じるのを防ぐことができる。
【0019】
本発明において、エンジンの運転を開始した後に行われる初回の吸水ポンプの運転終了時にのみ吸水ポンプを停止させるタイミングを吸水の完了が検出されたタイミングよりも遅らせる制御を行わせるようにした場合には、放水活動が中断する時間を長くすることなく、放水ノズルから空気が排出されたり、放出される水の量が急変したりする事態が生じるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図1ないし図5を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図2に示したように、自動吸水式消防ポンプは、ポンプケース1Aと、ポンプケース1A内に収容された羽根車(図示せず。)とを備えてエンジン2により駆動される放水ポンプ(デリバリポンプ)1と、ポンプケース1Aに止水弁3を通して接続された吸水ポンプ4と、ポンプケース1Aに接続された吸い込みホース(サクションホース)5と、ポンプケース1Aに放水バルブ(デリバリバルブ)6を通して接続された放水ホース(デリバリホース)7とを備えている。
【0021】
図3に示されているように、吸い込みホース5は、その先端が水源(図示の例では水槽)8内の水8a中に挿入される。放水ホース7は、放水ポンプ1から遠く離れた箇所まで延びるように設けられていて、その先端には放水ノズル9が接続されている。吸水ポンプ4はエンジンによりオンオフ制御が可能な動力伝達機構10を通して動力が伝達されて動作する。
【0022】
動力伝達機構10は、Vベルトを用いてエンジンの回転を吸引ポンプ4の回転軸に伝達するベルト伝動機構と、ソレノイドを有して、該ソレノイドが非励磁のときにベルト伝動機構のベルトを緩めてエンジンから吸引ポンプへの動力の伝達をオフにし、ソレノイドが励磁された時にベルト伝動機構のベルトを緊張させて、エンジンから吸引ポンプへの動力の伝達をオンにする切換機構とを備えている。
【0023】
吸水ポンプ4は、真空ポンプからなっていて、放水バルブ6が閉じ、止水バルブ3が開いている状態で、エンジン2から動力伝達機構10を通して動力が伝達されて動作し、吸い込みホース5内及びポンプケース1A内を真空引きすることにより、吸い込みホース5を通して吸い込んだ水をポンプケース1A内に流入させて、ポンプケース1A内を水で満たす。ポンプケース内の圧力は吸水の進行に伴って上昇していく。吸水ポンプ4の吸い込み口には気水分離装置(図示せず。)が設けられていて、吸水ポンプ(真空ポンプ)4内に水が侵入することがないように、吸水ポンプ4に流入する空気中から水分が分離される。後記する吸水検出センサにより吸水の完了が検出されると吸水ポンプ4の運転が停止されるとともに止水バルブ3が閉じられ、次いで放水バルブ6が開かれて放水が開始される。
【0024】
図1は本実施形態で用いるハードウェアの構成例を概略的に示したものである。同図において11はCPU,ROM,RAM,タイマ等を備えたマイクロコンピュータ11Aと、入力インタフェース11Bと、出力インタフェース11Cとを備えたコントローラ、12はバッテリである。バッテリ12から電源スイッチ13を通してコントローラ11に電源電圧が与えられている。マイクロコンピュータ11Aには、エンジンに取り付けられたピックアップコイル14の出力信号Vpと、吸水検出センサ15の出力信号Vsとが入力インタフェース11Bを通して入力されている。16はエンジンの回転を吸水ポンプ4に伝達するためにエンジンと吸水ポンプとの間に設けられた動力伝達機構10内のソレノイド、17は、トランジスタなどの半導体スイッチ素子または電磁リレーなどのオンオフ制御が可能なスイッチ素子からなっていて、コントローラ11から出力インタフェース11Cを通して駆動信号Vdが与えられたときにオン状態になってバッテリ12からソレノイド16に電流を流すソレノイド駆動用スイッチである。スイッチ17がオン状態にされてソレノイド16が励磁された時に、動力伝達機構10がオン状態になってエンジン2の回転が吸水ポンプ4に伝達され、スイッチ17がオフ状態にされてソレノイド16が非励磁状態にされたときに動力伝達機構10がオフ状態になって吸水ポンプ4がエンジン2から切り離される。
【0025】
ピックアップコイル14は、エンジンに取りつけられた信号発生器内に設けられていて、エンジンの所定のクランク角位置でパルス信号を発生する。マイクロコンピュータ11Aはピックアップコイル14が出力するパルス信号からエンジンの回転速度の情報や、エンジンのクランク角位置情報などを得て、エンジンの点火時期の制御や、エンジンの回転が確立したか否かの判定などを行う。
【0026】
吸水検出センサ15は、ポンプケース内への吸水が完了したか否かを検出するセンサで、本実施形態では、この吸水検出センサ15が、ポンプケース1A内の圧力を検出して、検出した圧力が設定値以上になったときオン状態になる圧力検出スイッチからなっている。マイクロコンピュータ11Aは、吸水検出センサを構成する圧力検出スイッチがオフ状態にあるときに吸水が完了していないこと(または放水ポンプから落水したこと)を検出し、吸水検出センサを構成する圧力検出スイッチがオン状態になったときに、吸水が完了したことを検出する。
【0027】
マイクロコンピュータ11Aは、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、エンジン2が運転されている状態で吸水検出センサ15が吸水の完了を検出していないときに吸水ポンプ4を運転し、吸水検出センサ15が吸水の完了を検出したときに吸水ポンプ4を停止させるための制御を行う吸水ポンプ制御装置を構成する。
【0028】
本発明においては、この吸水ポンプ制御装置に、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を設ける。図4は、遅延手段を備えた吸水ポンプ制御装置20の構成を、放水ポンプ1,エンジン2、吸水ポンプ4及び動力伝達機構10及び吸水検出センサ15とともに示したものである。
【0029】
本実施形態の吸水ポンプ制御装置20は、吸水検出センサ15により吸水の完了が検出されたときに、今回の吸水ポンプ4の運転がエンジン2の運転開始後に行われた初回の運転であるか否かを判定する吸水ポンプ運転履歴判定手段21と、吸水ポンプ運転履歴判定手段21により今回の吸水ポンプ4の運転が初回の運転であると判定されたときに予め定めた一定時間の計測を開始するタイマ手段22と、吸水ポンプ運転履歴判定手段21により吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときには、タイマ手段22が一定時間の計測を完了したときに吸水ポンプ4の運転を停止させ、吸水ポンプ運転履歴判定手段21により吸水ポンプの運転がエンジンの運転開始後2回目以降に行われた運転であると判定されたときには吸水ポンプ4を直ちに停止させるように動力伝達機構10を制御する動力伝達機構制御手段23とにより構成されている。吸水ポンプ制御装置20を構成する各手段はマイクロコンピュータ11Aにより構成される。
【0030】
マイクロコンピュータ11Aは、消防ポンプの運転員が電源スイッチ13をオンにしたときに起動して、メインルーチンを開始し、エンジンの回転速度の演算、エンジンの点火時期の演算、エンジンの回転が確立したか否かの判定等を行う。エンジンの回転速度は、ピックアップコイル14が発生するパルス信号の周期から演算される。エンジンの回転が確立したか否かの判定は、エンジンの回転速度が設定された始動完了判定速度以上になったか否かを見ることにより行われ、エンジンの回転速度が始動完了判定速度以上になったときにエンジン運転確立フラグがセットされる。またエンジンの回転速度が始動完了判定速度よりも低くなってエンジンが停止したと判定されたときにエンジン運転確立フラグがリセットされる。
【0031】
マイクロコンピュータ11Aはまた、演算された点火時期が検出された時に図示しないポートからエンジン用点火装置(図示せず。)に信号を与えて点火動作を行わせる。
【0032】
マイクロコンピュータはまた、微少時間毎にメインルーチンに割り込みをかけて、図5に示す処理を実行する。図5に示した処理が開始されると、先ずステップS101でエンジンの回転が確立しているか否か(エンジン運転確立フラグがセットされているか否か)を確認し、エンジンの回転が確立していないときにはメインルーチンに戻る。
【0033】
ステップS101でエンジンの回転が確立していることが確認されたときには、ステップS101に進んで吸水検出センサ15を構成する圧力検出スイッチがオン状態にあるか否か(吸水が完了しているか否か)を判定する。その結果吸水検出センサを構成するスイッチがオン状態にあると判定されたときにはメインルーチンに戻り、吸水検出センサがオン状態にない(オフ状態にある)と判定されたときにはステップS103に進んで、図1のスイッチ17をオン状態にすることによりソレノイド16を励磁し、吸水ポンプ4の運転を開始させる。図5には特に示してないが、吸水ポンプ4を運転する際には、放水バルブ6を閉じておく。
【0034】
ステップS103で吸水ポンプの運転を開始した後、ステップS104で吸水検出センサがオン状態にあるか否かを判定し、オン状態にない場合には、何もしないでメインルーチンに戻る。吸水が完了していない状態では、図5の処理が行われる毎にステップS104で吸水検出センサがオン状態にないと判定されるため、吸水ポンプの運転が継続される。また吸水が完了している状態では、図5の処理が行われる毎にステップS102で吸水検出センサがオン状態にあると判定されるため、ステップS103は実行されず、吸水ポンプは停止状態に保たれる。
【0035】
吸水が完了すると、図5の処理のステップS104で吸水検出センサがオン状態にあると判定されるため、ステップS105に進み、今回の吸水ポンプの運転がエンジン始動後初回の運転であるか否かを判定する。その結果初回の運転であると判定されたときには、ステップS106に進み、吸水ポンプ継続運転タイマをスタートさせて、このタイマに設定された一定時間の計測を開始させる。このタイマが計測する一定時間は、吸水検出センサにより吸水の完了が検出された状態で、吸い込みホース5内やポンプケース1A内に残存していることがある空気を吸水ポンプ4を通して排出させるのに十分な時間に設定する。吸水ポンプ継続運転タイマに計測させる時間は通常数秒(例えば3秒)程度でよい。
【0036】
ステップS106で吸水ポンプ継続運転タイマをスタートさせた後、ステップS107で吸水ポンプ継続タイマが一定時間の計測を完了したか否かを判定し、完了していない場合にはメインルーチンに復帰する。ステップS107で吸水ポンプ継続タイマが一定時間の計測を完了していると判定されたときには、ステップS108に進んで吸水ポンプの運転を停止し、メインルーチンに復帰する。
【0037】
ステップS105で今回の吸水ポンプの運転がエンジンの始動開始後初回の運転ではないと判定されたときには、ステップS108に移行して、直ちにスイッチ17をオフ状態にすることによりソレノイド16を非励磁とし、吸水ポンプ4の運転を停止させる。吸水ポンプ4を停止した際には、止水バルブ3を閉じて、ポンプケース1Aから吸水ポンプ4側に水が流入するのを阻止する。吸水ポンプ4を停止させ、止水バルブ3を閉じた後、放水バルブ6が開かれて放水が開始される。
【0038】
図5に示したアルゴリズムによる処理を行う場合には、ステップS105により、吸水ポンプ運転履歴判定手段21が構成され、ステップS106によりタイマ手段22が構成される。またステップS105ないしS108により動力伝達機構制御手段23が構成される。更にステップS106及びS107により、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段が構成される。
【0039】
上記のように、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を設けておくと、吸水の完了が検出された後も、一定時間吸水ポンプ4が運転を継続するため、その間に吸い込みホース5内及び(または)ポンプケース1A内に残存していた空気を吸水ポンプを通して排出することができる。従って、放水を開始した後に空気が放水ホース7を通して放出されたり、一度吸水の完了が検出された直後に吸水が完了していないとの検出がされて吸水ポンプの運転が再開されたりするのを防ぐことができ、放水ノズルから放出される水の量が急変したり、水圧が急変したりして、筒先員に不快感を与えたり、危険を及ぼしたりする事態が生じるのを防ぐことができる。
【0040】
上記の実施形態では、吸水ポンプ制御装置20が、エンジンの運転開始後に行われた初回の吸水ポンプの運転により吸水検出センサが吸水の完了を検出したときにのみ、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出したタイミングより一定時間だけ遅らせるが、エンジンの運転が開始された後に行われる吸水ポンプの2回目以降の運転により吸水検出センサが吸水の完了を検出したときには吸水ポンプを直ちに停止させるように構成されている。
【0041】
通常、放水活動中に何らかの原因で落水して吸水検出センサ15により吸水が完了していないとの検出がされたときには、直ちに吸水ポンプ4の運転を開始して、吸水検出センサ15により吸水の完了が検出されるまで吸水ポンプ4を運転すれば、確実に吸い込みホース内やポンプケース内に空気が残存しない状態にすることができるため、吸水検出センサが吸水の完了を検出した後の吸水ポンプの継続運転は特に必要がない。従って、エンジンの運転を開始した後に行われる2回目以降の吸水ポンプの運転終了時には、吸水ポンプを停止させるタイミングを吸水の完了が検出されたタイミングよりも遅らせる必要はない。
【0042】
しかしながら、本発明は上記の実施形態のように構成する場合に限定されるものではなく、吸水ポンプ運転履歴判定手段21を設けずに、エンジンを始動した後、2回目以降に行われる吸水ポンプの運転により吸水の完了が検出された場合にも、吸水ポンプを停止させるタイミングを、吸水検出センサが吸水の完了を検出したタイミングより一定時間だけ遅らせて、一定時間の間に吸水ポンプの継続運転を行わせるようにしてもよい。このように構成するには、図5のステップS105を省略すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態で用いるハードウェアの構成例を概略的に示した構成図である。
【図2】消防ポンプの構成を模式的に示した構成図である。
【図3】消防ポンプから放水を行っている状態を模式的に示した説明図である。
【図4】本実施形態でマイクロコンピュータにより構成される手段を含む消防ポンプの全体的な構成を示したブロック図である。
【図5】図4に示された手段を構成するためにマイクロコンピュータが実行する処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 放水ポンプ
2 エンジン
3 止水バルブ
4 吸水ポンプ
5 吸い込みホース
6 放水バルブ
7 放水ホース
10 動力伝達装置
20 吸水ポンプ制御装置
21 吸水ポンプ運転履歴判定手段
22 タイマ手段
23 動力伝達機構制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されて吸い込みホースからポンプケース内に吸い上げた水を放水ホースに送出する放水ポンプと、前記エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を介して動力が伝達されて前記ポンプケース内を水で満たすための吸水を行う吸水ポンプと、前記吸水が完了したことを検出する吸水検出センサと、前記エンジンが運転されている状態で前記吸水検出センサが吸水の完了を検出していないときに前記吸水ポンプを運転し、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに前記吸水ポンプを停止させるための制御を行う吸水ポンプ制御装置とを備えた自動吸水式消防ポンプにおいて、
前記吸水ポンプ制御装置は、前記吸水ポンプを停止させるタイミングを、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出するタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を備えていること、
を特徴とする自動吸水式消防ポンプ。
【請求項2】
エンジンにより駆動されて吸い込みホースからポンプケース内に吸い上げた水を放水ホースに送出する放水ポンプと、前記エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を介して動力が伝達されて前記ポンプケース内を水で満たすための吸水を行う吸水ポンプと、前記吸水が完了したことを検出する吸水検出センサと、前記エンジンが運転されている状態で前記吸水検出センサが吸水の完了を検出していないときに前記吸水ポンプを運転し、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに前記吸水ポンプを停止させるための制御を行う吸水ポンプ制御装置とを備えた自動吸水式消防ポンプにおいて、
前記吸水ポンプ制御装置は、
前記エンジンの運転開始後に行われた初回の吸水ポンプの運転により前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに、前記吸水ポンプを停止させるタイミングを、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したタイミングより一定時間だけ遅らせる遅延手段を備え、
前記エンジンの運転が開始された後に行われる前記吸水ポンプの2回目以降の運転により前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときには前記吸水ポンプを直ちに停止させるように構成されていること、
を特徴とする自動吸水式消防ポンプ。
【請求項3】
エンジンにより駆動されて吸い込みホースからポンプケース内に吸い上げた水を放水ホースに送出する放水ポンプと、前記エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を介して動力が伝達されて前記ポンプケース内を水で満たすための吸水を行う吸水ポンプと、前記吸水が完了したことを検出する吸水検出センサと、前記エンジンが運転されている状態で前記吸水検出センサが吸水の完了を検出していないときに前記吸水ポンプを運転し、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに前記吸水ポンプを停止させるための制御を行う吸水ポンプ制御装置とを備えた自動吸水式消防ポンプにおいて、
前記吸水ポンプ制御装置は、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに予め定めた一定時間の計測を開始するタイマ手段を備えて、前記タイマ手段が前記一定時間の計測を完了したときに前記吸水ポンプの運転を停止させるように構成されていること、
を特徴とする自動吸水式消防ポンプ。
【請求項4】
エンジンにより駆動されて吸い込みホースからポンプケース内に吸い上げた水を放水ホースに送出する放水ポンプと、前記エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を介して動力が伝達されて前記ポンプケース内を水で満たすための吸水を行う吸水ポンプと、前記吸水が完了したことを検出する吸水検出センサと、前記エンジンが運転されている状態で前記吸水検出センサが吸水の完了を検出していないときに前記吸水ポンプを運転し、前記吸水検出センサが吸水の完了を検出したときに前記吸水ポンプを停止させるための制御を行う吸水ポンプ制御装置とを備えた自動吸水式消防ポンプにおいて、
前記吸水ポンプ制御装置は、
前記吸水検出センサにより吸水の完了が検出された時に今回の吸水ポンプの運転が前記エンジンの運転開始後に行われた初回の運転であるか否かを判定する吸水ポンプ運転履歴判定手段と、
前記吸水ポンプ運転履歴判定手段により前記吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときに予め定めた一定時間の計測を開始するタイマ手段と、
前記吸水ポンプ運転履歴判定手段により前記吸水ポンプの運転が初回の運転であると判定されたときには、前記タイマ手段が前記一定時間の計測を完了したときに前記吸水ポンプの運転を停止させ、前記吸水ポンプ運転履歴判定手段により前記吸水ポンプの運転がエンジンの運転開始後2回目以降に行われた運転であると判定されたときには前記吸水ポンプを直ちに停止させるように前記動力伝達機構を制御する動力伝達機構制御手段と、
を備えていることを特徴とする自動吸水式消防ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−282888(P2007−282888A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114379(P2006−114379)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000109945)トーハツ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】