説明

自動変速機の制御装置

【課題】 走行状態を判定する信号に異常が生じたとしても、急変速の発生を防止しつつ、異常から正常への復帰時に精度の高い先読み車速に素早く収束することが可能な自動変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】 入力状態判定手段により車速センサが異常と判定されたときは、異常を判定したときの走行状態に応じた第1の代替値を用いて車速推定手段における演算を継続すると共に、第2の代替値を用いて目標変速比を演算し、車速センサが異常から正常に変化したときには、第1の代替値を実車速に戻して先読み車速の演算を行い、更に所定条件が成立したときは、第2の代替値を先読み車速に戻すことで、先読み車速による目標変速比の演算を許可するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定時間後の車速推定値に基づいて変速比を制御する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変速制御時の機械的構成要素の遅れによって、変速制御時にエンジン吹け上がり等が発生することを防止することを目的とし、所定時間後の推定車速(以下、先読み車速)を用いた変速制御を行う技術として特許文献1に記載の技術が知られている。
【特許文献1】特開平9−210159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、走行状態を判定する例えば車速センサ等からの信号値の入力が途切れるような異常が発生する場合がある。具体的には完全にセンサが故障した場合、接触不良により短時間だけ信号値が途切れるような場合(以下、瞬断と記載する。)等が考えられる。
【0004】
このとき、走行状態が急変したと誤判定し、先読み車速により変速判定するものに限らず、急なダウンシフト等が発生するおそれがある。そこで、走行状態を判定する信号値が途切れた場合には、信号値に代えて所定の値(以下、代替値)を用い、急なダウンシフトを防止することが好ましい。
【0005】
また、瞬断の場合には、センサからの信号値が復帰したにもかかわらず、代替値を使用し続けると、実際の走行状態と車両が判断している走行状態との乖離が大きくなり、適切な変速段等が得られない。従って、センサからの信号値が復帰したときは、速やかにセンサ信号値を用いて変速制御を行うことが好ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術において、走行条件を判定する信号が途切れるような異常が発生した場合、上記考え方と同様に、変速制御に代替値を用いるようにしただけでは、瞬断後に精度の高い先読み車速に復帰するのに時間がかかるという問題がある。すなわち、変速制御に使用しないからといって先読み車速の演算を停止したり、もしくはセンサの値をそのまま使用し続けて先読み車速の演算を継続すると、実車速とセンサの値との乖離が大きいため、センサからの信号値が瞬断後、正常に復帰してから精度の高い先読み車速に収束するまでに時間がかかり、適切な走行状態を得るまでに時間がかかるという問題があった。
【0007】
本発明の目的とするところは、走行状態を判定する信号に異常が生じたとしても、急変速の発生を防止しつつ、異常から正常への復帰時に精度の高い先読み車速に素早く収束することが可能な自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、入力状態判定手段により異常と判定されたときは、該異常を判定したときの走行状態に応じた第1の代替値を用いて車速推定手段における演算を継続すると共に、第2の代替値を用いて目標変速比を演算し、異常から正常に変化したときには、第1の代替値を実車速に戻し、所定条件が成立したときは、第2の代替値を先読み車速に戻すこととした。
【発明の効果】
【0009】
よって、入力状態に異常が生じたとしても急変速を防止することができる。また、異常状態であっても、異常を判定したときの走行状態に応じた第1の代替値を用いて先読み車速の演算を継続し続けるため、異常中に演算で求められる先読み車速と本来あるべき先読み車速との乖離が小さくなる。その結果、入力状態が異常から正常に復帰したときは、精度の高い先読み車速に素早く収束することが可能となり、運転者の意図に応じた良好な変速制御を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の自動変速機の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。図1は実施例1の自動変速機の制御装置を備えた車両の全体システム図である。実施例1の車両は後輪駆動車両を例に説明するが、前輪駆動車両や4輪駆動車両でもよい。
【0012】
実施例1の車両は、エンジンEと、トルクコンバータTCと、自動変速機ATとが備えられている。エンジンEから出力された駆動力はトルクコンバータTCを介して自動変速機ATの入力軸INに伝達される。自動変速機AT内には複数の遊星歯車組と複数の締結要素が備えられている。この締結要素の組み合わせにより決定された変速段により変速された駆動力は、出力軸OUTからデファレンシャルギヤDFへ伝達される。デファレンシャルギヤDFでは、左右後輪のドライブシャフトDSから左右後輪RR,RLへ駆動力が伝達される。
【0013】
自動変速機ATは、走行状態に応じて変速比を設定可能に構成されており、入力軸INの回転数を増減速して出力軸OUTに出力する。実施例1の自動変速機ATとして、前進5速後退1速の有段自動変速機が搭載されている。
【0014】
この自動変速機ATは、複数の締結要素と、ワンウェイクラッチと、オイルポンプとを内蔵しており、コントロールバルブC/V内において調圧された締結圧を各締結要素に供給する。この締結要素の組み合わせによって遊星歯車組のギヤ比を決定し、所望の変速段を達成する。
【0015】
また、変速時には、変速前変速段を達成する締結要素である解放側締結要素を徐々に解放し、変速後変速段を達成する締結要素である締結側締結要素を徐々に締結するいわゆる掛け替え制御によって変速を行う。
【0016】
エンジンコントローラECUは、各種入力情報に基づいてスロットルバルブTVOの開度や、燃料噴射量、点火タイミング、吸排気量等を制御し、エンジンEの回転数及び出力トルク等を制御する。
【0017】
自動変速機コントローラATCUは、走行状態を表す各種入力情報に基づいて自動変速機ATの変速段を決定すると共に、各変速段(もしくは変速比)を達成するためのアクチュエータに対して制御指令信号を出力する。
【0018】
自動変速機コントローラATCU内には、変速比演算用の車速を演算する車速演算部4が設けられている。この車速演算部4内には、所定時間未来の車速である先読み車速VSP2を推定する車速推定部4aが設けられている。車速演算部4では、走行状態や入力信号等に応じて推定された先読み車速VSP2、もしくは後述する重み付け車速VSP0、もしくは車速センサ1により検出された実車速VSP、もしくは後述する代替値VSPFSEN、もしくは後述する擬似車体速VIのいずれかを変速比演算用の車速SftVSPとして出力する。
【0019】
また、自動変速機コントローラATCU内には、変速比演算用の車速SftVSPを含む各種走行状態を表す入力信号に基づいて目標変速比を演算する目標変速比演算部5と、演算された目標変速比に基づいて締結要素の締結・解放状態を制御する変速比制御部6と、車速センサ1により検出された信号値が正常か否かを判定する入力状態判定部7とが設けられている。入力状態判定部7では、車速センサ1からの信号が例えば0.1sec途絶えたときは瞬断を含めた一次異常と判定し、更に継続して例えば3sec途絶えたときは、瞬断以外の二次異常と判定するように構成されている。
【0020】
更に、自動変速機コントローラATCUには、運転者の選択したシフトレバーの位置を表すインヒビタスイッチISWのレンジ位置信号、車速センサ1からの実車速VSP、運転者の操作したアクセルペダル開度APOを検出するAPOセンサ2からのアクセルペダル開度信号、車両の加速度を検出する加速度センサ3からの加速度信号、エンジン回転数センサE1により検出されたエンジン回転数信号、入力軸INの回転数を検出するタービン回転数センサE2により検出されたタービン回転数信号、スロットルバルブ開度センサE3により検出されたスロットルバルブ開度信号、エンジンコントローラECUで推定されたエンジントルク信号値がそれぞれ運転状態を表す信号として入力される。更に、車両に搭載されたアンチロックブレーキ制御システム等で使用される車輪速センサWSに基づいて演算された擬似車体速VIである擬似車体速信号が入力される。尚、擬似車体速VIとは、例えば従動輪の車輪速平均値や、セレクトローにより選択された車輪速である。
【0021】
ここで、インヒビタスイッチISWは、前進走行レンジ位置(D,L,1,2等)、後退走行レンジ位置(R)、ニュートラルレンジ位置(N)、パーキングレンジ位置(P)を表す信号を出力するものであり、実施例において走行レンジとは、前進走行レンジと後退走行レンジの両レンジを含むものとする。
【0022】
図2は目標変速比演算部5内に設定された変速マップである。この変速マップは、横軸に車速VSP、縦軸にアクセルペダル開度APOを設定している。ここで、変速比演算用車速SftVSPとアクセルペダル開度APOによって決定される点を運転点と記載する。この運転点が変速マップ内に設定された領域に応じた変速段が選択される。
【0023】
図2の変速マップ中、太い実線は、実際に変速が完了するのに理想的なタイミングを表す理想変速線である。また、各太い実線の図2中左側に設定された細い実線は、理想変速線において実際の変速が完了するために変速指令を出力する変速線である。運転点が車速VSPの増減やアクセルペダル開度APOの増減によって移動し、例えば、アクセルペダル開度APOが3/8のときに車速の上昇に伴って1→2変速線を跨ぎ、1速の領域から2速の領域に移動すると、アップシフト変速がなされ、1→2理想変速線において変速が完了する。この理想変速線と変速線との関係については後で詳述する。
【0024】
理想変速線は、アクセルペダル開度APOが小さい領域ではアップシフトしやすいように各変速段の領域が狭く設定され、アクセルペダル開度APOが大きい領域では、極力低変側変速段を維持するように各変速段の領域が広く設定されている。
【0025】
尚、実際にはダウンシフト線やコースト走行制御線や、スリップロックアップ制御線等が設定されているが、省略して記載する。特に、ダウンシフト線に関しては、変速ハンチング防止の観点からアップシフト線よりも低車速側に設定されるのが一般であるが、ここでは、説明を簡略化するため、アップシフト線とダウンシフト線は同じ位置に設定されているものとする。
【0026】
変速マップは、アクセルペダル開度軸方向において三つの領域に分割されている。開度0〜4/8の間(0≦APO<4/8)は、車速センサ1により検出された実車速VSPをそのまま用いて変速制御を行う通常制御領域である。開度7/8〜8/8の間(7/8≦APO)は、後述する先読み車速VSP2を用いて変速制御を行う先読み制御領域である。開度4/8〜7/8の間(4/8≦APO<7/8)は、アクセルペダル開度APOに応じて先読み車速VSP2と実車速VSPに重みをつけた重み付け車速VSP0を用いて変速制御を行う重み付け制御領域である。
【0027】
通常制御領域にあっては、実車速VSPが変速線を跨いだときに変速指令を出力する。この領域の変速線は、理想変速線に基づいて予め設定された値であり、走行状態である運転点が変速線を跨ぐと、所定時間後に理想変速線に到達し、そのタイミングに変速が完了する。尚、アクセルペダル開度APOが0〜1/8の間では、変速指令から変速完了までの遅れが僅かであることから、変速線と理想変速線とが同じ位置に設定されている。
【0028】
重み付け制御領域では、重み付け車速が変速線を跨いだときに変速指令を出力する。重み付け車速とは、先読み車速VSP2と実車速VSPとをアクセルペダル開度APOに応じて重み付けして算出した値である。具体的には、重み付け車速VSP0とすると、
VSP0=VSP2{(APO−4/8)/(3/8)}+VSP{(7/8−APO)/(3/8)}
により算出される。この重み付け車速VSP0が変速線を跨いだときに変速指令を出力する。すると、運転点が理想変速線に到達するタイミングで変速が完了する。
【0029】
重み付け制御領域における変速線は、アクセルペダル開度APO=7/8のときの理想変速線のポイントと、アクセルペダル開度APO=4/8のときの変速線のポイントとを直線で接続した値に設定されている。
【0030】
すなわち、高開度では、重み付け車速VSP0のうち、先読み車速成分が多く、実車速成分が少ないため、理想変速線に近いところに変速線を設定する。低開度では、重み付け車速VSP0のうち、先読み車速成分が少なく、実車速成分が多いため、通常制御のように実車速VSPのみを用いた場合の変速線に近いところに変速線を設定する。
【0031】
このように、重み付け車速VSP0を演算することで、先読み制御から通常制御への移行をスムーズに行うことが可能となる。
【0032】
先読み制御領域では、理想変速線と同じ位置に変速線が設定されている。そして、先読み車速VSP2によって定まる所定時間未来の走行状態である推定運転点が変速線を跨いだときに変速指令を出力する。すると、運転点が理想変速線に到達するタイミングで変速が完了する。
【0033】
〔変速線と理想変速線との関係〕
ここで、変速線と理想変速線との関係について説明する。上述したように、自動変速機ATは、締結要素の締結・解放によって変速動作が行われる。このとき、解放側締結要素を解放し、締結側締結要素を締結する。
【0034】
一般的な変速動作は、締結側締結要素をガタ詰めするプリチャージフェーズ、解放側締結要素の締結圧を若干抜きつつ締結側締結要素に締結圧を供給するトルクフェーズ、解放側締結要素の締結圧を減少させつつ締結側締結要素の締結圧を増大させてギヤ比の変化を促進するイナーシャフェーズ、そして、変速の完了により締結側締結要素の締結圧を完全締結圧とする変速終了フェーズを経ることで行われる。
【0035】
入力トルクが大きい場合、特にイナーシャフェーズにおいて変速の進行を促進することが難しく、エンジントルクダウン制御等によって変速速度を制御する技術等も知られている。しかしながら、一般に入力トルクが大きいほど変速時間が長くなる傾向にある。言い換えると、機械的な動作応答性や、入力トルクに基づく遅れ要素が存在する。
【0036】
一方、各変速段における車速守備範囲とドライバビリティには相関があると言われており、特にアップシフトがリズミカルな変速になるには、所望のタイミングで変速が完了することが望ましい。この変速が完了するタイミングが理想変速線である。
【0037】
ここで、運転点が理想変速線に到達してから変速を開始していては、上記遅れ要素等によって実際に変速が完了するタイミングは理想変速線とは異なるタイミング(例えば高車速側)となり、予定しているドライバビリティを得ることができない。そこで、変速線を設定し、実際に変速が完了するタイミングと運転点が理想変速線に到達するタイミングとが一致するようにしている。
【0038】
〔先読み車速〕
次に、先読み車速について説明する。上述した変速線は、あくまで理想変速線に基づいて規定されるものであり、実際の走行環境等による影響を考慮したものとは言えない。例えば、アクセルペダル開度APOが大きくても、車両負荷が大きい走行環境では、実際に車速VSPが上昇して理想変速線を横切る時間が長くなり、一方、車両負荷が小さい走行環境では理想変速線を横切る時間が短くなる。この状態にそれぞれ対応するには、走行環境を検出し、その走行環境に応じた複数の変速線を設定しなければならず、制御の複雑化やメモリ容量の増大を招く。
【0039】
このように、走行環境に応じてタイミングを適切に設定することが要求され、この要求は、特に変速時間が長くなりがちなアクセルペダル開度APOの大きい領域で特に要求される。
【0040】
そこで、実際の車速センサ1により検出された実車速VSPに基づいて所定時間未来の車速を推定し、この推定した車速である先読み車速VSP2を用いた推定運転点と変速線との関係により変速制御を行うこととした。具体的には、先読み車速VSP2に応じた推定運転点が理想変速線と同じ位置に設定された変速線を跨いだときに変速指令を出力する。すると、走行環境に応じたタイミングで変速指令が出力され、実車速VSPに応じた運転点が所定時間経過後に理想変速線に到達したタイミングで変速が完了する。
【0041】
図3は車速推定部4aにおける先読み車速推定処理を表す制御ブロック図である。車速推定部4aは積分器403と一次遅れ406で構成されており、先読み車速VSP2に基づいて推定された現在の車速である推定車速VSP1と実車速VSPとが一致すれば、先読み車速VSP2は遅れ要素に応じた時間だけ未来の車速となる。以下に各部の詳細を説明する。
【0042】
車速偏差演算部401では、車速偏差Verrを実車速VSPと推定車速VSP1とから次式に基づいて演算する。
(式1)
Verr=VSP−VSP1
【0043】
フィードバックゲイン乗算部402では、演算された車速偏差VerrにフィードバックゲインkF/Bを乗算する。
【0044】
積分器403では、kF/B・Verrを下記式により積分し、積分演算値Vを演算する。
(式2)
V=kF/B(1/s)
ただし、sはラプラス演算子である。
【0045】
(加速成分について)
所定時間乗算部407では、加速度センサ3により検出された車両加速度に推定しようとする所定時間後の時間tを乗算し、加速成分atを演算する。
【0046】
フィードフォワードゲイン乗算部408では、演算された加速成分atにフィードフォワードゲインkF/Fを乗算する。
【0047】
速度変換部409では、at・kF/Fに次式に示す一時遅れ要素を作用させ、加速成分車速Vaを演算する。
(式3)
G(s)=1/(Ts+1)
ただし、Tは設計者が目標とする先読み時間に相当する時定数である。
【0048】
車速加算部404では、積分演算値Vと加速成分車速Vaを次式により加算し、位相補償前先読み車速VSP22を演算する。
(式4)
VSP22=V+Va
【0049】
位相補償器405では、位相補償前先読み車速VSP22に次式に示す一次/一次位相補償Gh(s)を施し、先読み車速VSP2を演算する。
(式5)
Gh(s)=(T2s+1)/(T1s+1)
ここで、T1,T2は位相補償定数である。
【0050】
この位相補償器405の導入により、系の安定性や応答性を表す一次遅れ極、固有振動数、減衰率という三つの未知数に対し、位相補償定数T1,T2,フィードバックゲインkF/Bの三つの設計要素を設定できる。これにより、設計者の希望する系を設計することができる。尚、詳細については特開平9−210159号公報に開示されているため、省略する。
【0051】
一次遅れ406では、先読み車速VSP2を入力とし、次式に示すような一時遅れG(s)により算出される。
(式3)
G(s)=1/(Ts+1)
ただし、Tは設計者が目標とする先読み時間に相当する時定数である。
【0052】
言い換えると、先読み車速VSP2に遅れ要素を作用させ、所定時間前の状態に戻す。これにより、先読み車速VSP2に基づいて現時点での車速を推定する(推定車速VSP1)。この推定車速VSP1と実車速VSPとが一致しているときは、先読み車速VSP2は正確であり、不一致のときは、車速偏差Verrに応じて先読み車速VSP2が修正される。
【0053】
〔変速制御に用いる車速設定処理〕
次に、変速制御に用いる車速設定処理について説明する。図4は車速設定処理を表すフローチャートである。
【0054】
ステップS1では、アクセルペダル開度APOが7/8以上かどうかを判断し、この範囲内にあるときはステップS2へ進み、それ以外のときはステップS3へ進む。
ステップS2では、先読み車速VSP2を用いた先読み制御を実行する。
【0055】
ステップS3では、アクセルペダル開度APOが4/8以上、7/8未満かどうかを判断し、この範囲内にあるときはステップS4へ進み、それ以外のときはステップS5へ進む。
ステップS4では、重み付け車速VSP0を用いた重み付け制御を実行する。
ステップS5では、実車速VSPを用いた通常制御を実行する。
【0056】
次に、上記制御に基づく作用について説明する。図5は実施例1の運転点(推定運転点を含む)の変化を変速マップ上に表した図である。実施例1の変速制御では、図5に示すように、アクセルペダル開度APOが7/8以上の領域からアクセルペダルを解放すると、アクセルペダル開度APOが7/8を下回った段階で重み付け車速VSP0と変速線との関係に基づいて変速指令が出力される。
【0057】
重み付け車速VSP0は、実車速VSPとの間で、アクセルペダル開度APOに応じて重み付けされていることから、図5に示すように、変速線を跨ぐことなく、徐々に実車速VSP側に移行しながら変化する。
【0058】
そして、アクセルペダル開度APOが4/8を下回った段階で実車速VSPと変速線との関係に基づいて変速指令が出力される。よって、変速指令としては、1速→2速へのアップシフト指令が出力されるのみであり、運転者の意図とは異なる複数の変速指令が出力されることがない。よって、違和感なく運転者の意図に沿った変速制御を達成する。
【0059】
〔車速センサ故障時対応処理〕
次に、上記構成において、車速センサ1に異常が生じた場合の対応を表す車速センサ故障時対応処理について説明する。図6は車速センサ故障時対応処理を表すフローチャートである。
【0060】
ステップS1では、車速センサ1に一次異常が発生したかどうかを判定し、一次異常が発生したと判定したときはステップS2へ進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。ここで、車速センサ1の一次異常か否かの判定は、車速センサ1からの信号値である実車速VSPが例えば0.1secの間継続的に途絶えたか否かにより判定する。
【0061】
ステップS2では、一次異常対応制御処理を実行する。具体的には、車速センサ1からのセンサ信号値が途絶える直前の実車速VSPを代替値VSPFSENとして保持し、この代替値VSPFSENを用いて車速推定部4aにおける先読み車速VSP2の演算を継続する。更に、車速演算部4では、変速比演算用車速SftVSPとして代替値VSPFSENを出力する。尚、車速センサ1の信号値は図外のメモリに数周期分、更新しながら記憶されており、その記憶された信号値を代替値VSPFSENとして使用する。
【0062】
ステップS3では、車速センサ1からの途絶えていたセンサ信号値が自動変速機コントローラATCUへ再び入力され始めたか否かを判定し、再び入力され始めたと判断したときはステップS31へ進み、センサ信号値からの信号が未だ途絶えているときはステップS7へ進む。
【0063】
ステップS31では、車速推定部4aにおける先読み車速VSP2の演算を行うにあたり、代替値VSPFSENから復帰した車速センサ1の実車速VSPに変更して演算を継続する。
【0064】
ステップS4では、第1タイマのカウントを開始する。そしてステップS5では、第1タイマ値が所定時間(例えば4sec)経過したか否かを判定し、所定時間経過したと判定したときはステップS6へ進み、それ以外のときは継続してカウントする。
【0065】
ステップS6では、正常復帰処理を実行する。具体的には、アクセルペダル開度APOが4/8よりも大きいときには、車速演算部4から出力する変速比演算用車速SftVSPとして代替値VSPFSENから先読み車速VSP2もしくは重み付け車速VSP0に切り換えて出力することを許可する。尚、車速推定部4aでは既に所定時間(例えば4sec)の間、復帰した実車速VSPを用いて先読み車速VSP2が演算されており、十分に精度の高い値に収束しているため、運転者に違和感を与えることはない。また、アクセルペダル開度APOが4/8未満のときには、変速比演算用車速StfVSPとして代替値VSPFSENから実車速VSPに切り換えて車速演算部4から出力する。
【0066】
ステップS7では、車速センサ1に二次異常が発生したかどうかを判定し、二次異常が発生したと判定したときはステップS8に進む。ここで、車速センサ1の二次異常か否かの判定は、車速センサ1からの信号値が3secの間継続的に途絶えたか否かにより判定する。そして、3sec以上途絶えた状態が継続したときは車速センサ1の二次異常と確定してステップS9へ進む。
【0067】
ステップS8では、二次異常対応制御処理を実行する。具体的には、車速推定部4aにおける先読み車速VSP2の演算を禁止する。これは、実際の車速と先読み車速VSP2の演算に使用する代替値VSPFSENとの乖離が大きくなるため、この時間以上先読み車速VSP2の演算を継続してしまうと、本来あるべき先読み車速VSP2との乖離が大きくなり、収束するのに時間がかかるからである。
【0068】
同時に、車輪速センサWSに基づく擬似車体速VIを変速比演算用車速SftVSPとして出力する。更に、目標変速比演算部5において、APOセンサ2により検出されたアクセルペダル開度の信号値と通常制御領域の閾値である4/8との間でセレクトローを行い、この選択されたアクセルペダル開度を用いて目標変速比を演算する。言い換えると、アクセルペダル開度に4/8の上限を設定して目標変速比を演算する。
【0069】
ここで、上限を設定する理由について説明する。変速マップにおける重み付け制御領域や先読み制御領域では、先読み車速VSP2が演算されていることを条件として変速線が設定されている。そのため、先読み車速VSP2が不適切な状態では、最適な変速制御を達成することはできない。すなわち、先読み車速VSP2が演算されないときは、実車速に基づいて制御する通常制御領域で変速制御を行うことが好ましい。そこで、アクセルペダル開度に通常制御領域の上限値と同じ上限を設定し、常に通常制御領域における変速制御が成されるようにする。
【0070】
ステップS9では、車速センサ1からの途絶えていたセンサ信号値が自動変速機コントローラATCUへ再び入力され始めたか否かを判定し、再び入力され始めたと判断したときはステップS10へ進み、未だ途絶えているときはステップS8の二次異常対応制御処理を継続する。
【0071】
ステップS10では、車速センサ1により検出された実車速VSPが復帰許可車速VSPa(5km/h)以下か否かを判定し、復帰許可車速VSPa以下のときはステップS11へ進み、それ以外のときはステップS8の二次異常対応制御処理を継続する。尚、復帰許可車速以下であれば、基本的にはアクセルペダル開度にかかわらず目標変速比として第1速が選択されるはずであり、突然変速がなされるようなことがなく、運転者に違和感を与えることがない。
【0072】
ステップS11では、APOセンサ2により検出されたアクセルペダル開度APOが復帰許可開度4/8未満か否かを判定し、復帰許可開度4/8未満のときはステップS12へ進み、それ以外のときはステップS8の二次異常対応制御処理を継続する。この復帰許可開度4/8も、上述のステップS8において説明したように、先読み車速VSP2を使用しない領域であることから運転者に違和感を与えることがない。
【0073】
ステップS12では、正常復帰処理を実行する。具体的には、禁止された先読み車速VSP2の演算を再開すると共に、この演算された先読み車速VSP2を用いた通常の変速制御に復帰する。このように、変速が行われないような低車速領域で、かつ、先読み車速VSP2を使用せず、実車速VSPのみ使用する領域で正常復帰させることで、スムーズに正常復帰させることができる。尚、その後、アクセルペダル開度APOが大きくなり、先読み車速VSP2を使用する場合であっても、低車速・低アクセルペダル開度の状態から既に先読み車速VSP2の演算を開始している。このことから、演算開始時においても先読み車速VSP2が実車速VSPと大きく乖離することはなく、短時間でも十分に収束した先読み車速VSP2を用いることができる。
【0074】
〔一次異常からの正常復帰〕
次に上記フローチャートの特にステップS1からステップS3→ステップS31からステップS6へ進む際の作用について説明する。図7は車速センサ1の信号に瞬断が生じた場合のタイムチャートである。具体的には車速センサ1に一次異常が発生し、その後、二次異常に移行することなく正常に復帰した場合のタイムチャートである。尚、説明のため、瞬断が生じたとしても、瞬断したときの車速センサ1の信号を用いて先読み車速VSP2の演算を継続した場合を比較例として対比する。図7中、太い実線は車速センサ1のセンサ信号値を表し、太い一点鎖線は先読み車速VSP2を演算するのに用いる車速信号を表し、細い点線は比較例における先読み車速VSP2を表し、細い実線は実施例1における先読み車速VSP2を表し、また、細い二点鎖線は実際の車体速に対する真の所定時間未来の車速VSP*を表し、細い一点鎖線は変速比演算用車速を表す。
【0075】
時刻t1において、0.1sec以上、車速センサ1の信号が途絶えると一次異常と判定して、変速比演算用車速SftVSPは、信号が途切れる直前の実車速VSPである記憶された代替値VSPFSENが設定され、同時に、先読み車速VSP2の演算に使用する車速も代替値VSPFSENが設定される。
【0076】
時刻t2において、車速センサ1が一次異常から正常に復帰した(途絶えていた信号が再び入力された)と判定されると、変速比演算用車速SftVSPは代替値VSPFSENがそのまま継続して設定されると共に、先読み車速VSP2の演算に使用する車速は即座に正常復帰した実車速VSPに戻される。同時に、第1タイマのカウントが開始される。
【0077】
ここで、時刻t1から時刻t2の間において、比較例のように車速センサ1の信号を用いて先読み車速VSP2の演算を継続した場合、車速偏差Verrが大きくなり、それに伴って先読み車速VSP2も大きく低下してしまう。更に、比較例において、時刻t2以降、車速センサ1の信号が突然正常な値に復帰すると、やはり、一旦大きく低下した先読み車速VSP2との間での車速偏差Verrが大きくなる。すると、先読み車速VSP2は、この車速偏差Verrに起因する積分要素によって未来車速VSP*から大きくオーバーシュートしてしまい、収束性が悪化していることが分かる。
【0078】
これに対し、実施例1では、代替値VSPFSENを用いて先読み車速VSP2を演算しているため、車速偏差Verrが多少増加するものの、比較例ほど大きくなることはない。更に、時刻t2以降において車速センサ1の信号が突然正常な値に復帰しても、車速偏差Verrが小さい。よって、先読み車速VSP2が未来車速VSP*を大きくオーバーシュートすることがなく、良好な収束性を確保できる。
【0079】
時刻t3において、第1タイマのカウント値が所定時間(例えば4sec)に到達すると、先読み車速VSP2は十分に収束したと判断する。そして、変速比演算用車速SftVSPは、代替値VSPFSENから先読み車速VSP2,実車速VSP,重み付け車速VSP0のいずれかに切り換えられ、通常制御に復帰する。尚、いずれの車速に切り換えられるかは、そのときのアクセルペダル開度APOに応じて適宜選択される。
【0080】
ここで、上述したように、比較例では収束性が悪く大きな振幅を持っていることから、仮にアクセルペダル開度APOが大きい状態で先読み車速VSP2を変速比演算用車速SftVSPとして設定すると、変速ハンチングを起こすおそれがある。
【0081】
これに対し、実施例1では、第1タイマとして設定した所定時間(例えば4sec)経過することで十分に収束した先読み車速VSP2を用いているため、変速ハンチング等を招くことがなく、運転者に違和感を与えることなく安定した変速比制御を達成できる。
【0082】
以上説明したように、実施例1では、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)車両のエンジン(駆動源)側に接続される入力軸INと車両の駆動輪側に接続される出力軸OUTとの間の速度比を変更する自動変速機ATの制御装置において、車両の走行速度である実車速VSPを検出する車速センサ1(車速検出手段)と、実車速VSPと推定車速VSP1との車速偏差Verrを演算する車速偏差演算部401と、車速偏差Verrを所定ゲインにより積分演算した積分演算結果に基づいて目標とする所定時間未来の車速である先読み車速VSP2を推定する車速加算部404,位相補償器405(先読み車速演算部)と、該先読み車速VSP2を含む走行状態に基づいて所定の遅延動作を行う遅れ要素により推定車速VSP1を演算する一次遅れ406(推定車速演算部)と、から構成された車速推定部4a(車速推定手段)と、先読み車速VSP2に基づいて目標変速比を演算する目標変速比演算部5(目標変速比演算手段)と、目標変速比に基づいて自動変速機ATを制御する変速比制御部6(変速制御手段)と、車速センサ1により検出された信号が正常か否かを判定する入力状態判定部7(入力状態判定手段)と、を備え、入力状態判定部7により一次異常(異常)と判定されたときは、車速推定部4aにおいて実車速VSPに代えて、この一次異常を判定したときの走行状態に応じた代替値VSPFSEN(第1の代替値)に基づいて先読み車速VSP2の演算を継続すると共に、目標変速比演算部5においては、先読み車速VSP2に代えて、一次異常を判定したときの走行状態に応じた代替値VSPFSEN(第2の代替値)に基づいて目標変速比を演算し、入力状態判定部7の判定が一次異常から正常に変化したときは、車速推定部4aにおいて代替値VSPFSEN(第1の代替値)に代えて実車速VSPに基づいて演算すると共に、所定条件が成立したときは、目標変速比演算部5において代替値VSPFSEN(第2の代替値)に代えて先読み車速VSP2に基づいて目標変速比を演算することとした。
【0083】
よって、入力状態に異常が生じたとしても急変速を防止することができる。また、異常状態であっても、異常を判定したときの走行状態に応じた代替値VSPFSEN(第1の代替値)を用いて先読み車速VSP2の演算を継続し続けるため、異常中に演算で求められる先読み車速VSP2と本来あるべき先読み車速VSP2との乖離が小さくなる。その結果、入力状態が異常から正常に復帰したときは、精度の高い先読み車速VSP2に素早く収束することが可能となり、運転者の意図に応じた良好な変速制御を達成できる。
【0084】
(2)代替値VSPFSEN(第1の代替値)は、入力状態判定部7により異常と判定される直前の実車速VSPとした。よって、車速センサ1の信号が瞬断等によって突然0に低下したとしても、車速偏差Verrが大きくなることを抑制することができ、正常への復帰時において先読み車速VSP2を素早く収束させることができる。
【0085】
(3)一次異常から正常への復帰に係る所定条件は、入力状態判定部7の判定が一次異常から正常に変化してからの所定時間4sec(第1の所定時間)経過とした。よって、先読み車速VSP2を適正な値に十分収束させることができ、違和感を与えることなく正常復帰することができる。
【0086】
(4)目標変速比演算部5は、所定の走行条件が成立したときは実車速VSPに基づいて目標変速比を演算し、所定の走行条件以外のときは先読み車速VSP2に基づいて目標変速比を演算する構成であり、入力状態判定部7により異常と判定されてから3sec(第2の所定時間)が経過したときは、車速推定部4aにおける先読み車速VSP2の演算を禁止し、入力状態判定手段の判定が異常から正常に変化し、かつ、所定の走行条件が成立したときは、車速推定手段4aにおける先読み車速VSP2の演算の禁止を解除することとした。
【0087】
二次異常のように、ある程度継続的に車速センサ1の信号が途絶える状況の場合、先読み車速VSP2の演算を継続してしまうと、本来あるべき先読み車速VSP2との乖離が大きくなることから、演算を禁止することで乖離を防止することができる。また、変速マップにおける重み付け制御領域や先読み制御領域では、先読み車速VSP2が演算されていることを条件として変速線が設定されている。そのため、先読み車速VSP2が不適切な状態では、最適な変速制御を達成することはできない。すなわち、先読み車速VSP2が演算されないときは、実車速に基づいて制御する通常制御領域で変速制御を行うことが好ましい。また、先読み車速VSP2の演算を開始しても、すぐには収束しない可能性がある。そこで、先読み車速VSP2を直接的に制御に使用しない領域において正常復帰させることで、変速比制御に使用する車速値が復帰時に不連続となることがなく、予想外の変速の発生を防止してスムーズに正常復帰させることができる。
【0088】
(5)二次異常から正常へ復帰する所定条件を、アクセルペダル開度が4/8未満であることとした。
【0089】
よって、アクセルペダル開度が低く、先読み車速VSP2を直接的に制御に使用しない領域において正常復帰させることで、変速比制御に使用する車速値が復帰時に不連続となることがなく、予想外の変速の発生を防止してスムーズに正常復帰させることができる。
【0090】
(6)二次異常から正常へ復帰する所定条件を、実車速VSPが復帰許可車速VSPa(例えば5km/h)以下であることとした。
【0091】
よって、変速等が発生しない領域で復帰させることが可能となり、突然変速がなされるようなことがなく、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0092】
以上、実施例1について説明したが、本発明の範囲であれば、他の構成であっても含まれる。例えば、実施例1では車速センサ1の信号の瞬断等について示したが、先読み車速の演算に他の走行状態を表す他のセンサ(エンジン回転数、タービン回転数、スロットル開度、トルク信号、加速度センサ等)の入力信号を使っている場合、これらの他のセンサに異常が生じた場合にも同様に適用できる。
【0093】
例えば、本実施例では、先読み車速VSP2は加速度センサ3の値を用いて演算しているため、加速度センサ3の値が瞬断等した場合にもやはり精度が悪化するおそれがある。このときも、瞬断直前の加速度を保持しておき、該センサの異常中には該保持された加速度を使って先読み車速VSP2の演算を継続させ、該加速度センサ2からの信号が再び入力されるようになったら、再入力から所定時間経過後に先読み車速VSP2を使って目標変速比を演算する構成としてもよい。
【0094】
また、実施例1では、車速センサ1からの信号が所定時間継続的に途切れた場合、先読み車速VSP2の演算を禁止することとしたが、先読み車速の演算に他の走行状態を表す入力信号を使っている場合には、他のセンサの入力信号に異常が生じた場合にも、同様に所定時間継続的に途切れたときに先読み車速演算を禁止することとしてもよい。
【0095】
同様に、通常制御に復帰する条件として、アクセルペダル開度に限らず、上記他の走行状態を表す入力信号を含めて許可するようにしてもよい。
【0096】
また、実施例1では、車速センサ1の一次異常のときに、先読み車速VSP2の演算に用いる第1の代替値と、変速比制御用車速としての第2の代替値とを、同じ代替値VSPFSENとして設定したが、例えば、一方に所定のオフセット値等を与え異なる値であってもよい。
【0097】
また、実施例1では有段式自動変速機に適用したが、無段変速機に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】実施例1の自動変速機の制御装置を備えた車両の全体システム図である。
【図2】実施例1の変速比制御部内に設定された変速マップである。
【図3】実施例1の車速推定部における先読み車速推定処理を表す制御ブロック図である。
【図4】実施例1の車速設定処理を表すフローチャートである。
【図5】実施例1の変速制御を表す説明図である。
【図6】実施例1の車速センサ故障時対応処理を表すフローチャートである。
【図7】実施例1の車速センサの信号に瞬断が生じた場合のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0099】
1 車速センサ
2 APOセンサ
3 加速度センサ
4a 車速推定部
5 変速比制御部
ATCU 自動変速機コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源側に接続される入力軸と車両の駆動輪側に接続される出力軸との間の速度比を変更する自動変速機の制御装置において、
車両の走行速度である実車速を検出する車速検出手段と、
前記実車速と推定車速との偏差を演算する車速偏差演算部と、該車速偏差を所定ゲインにより積分演算した積分演算結果に基づいて目標とする所定時間未来の車速である先読み車速を推定する先読み車速演算部と、該先読み車速に基づき所定の遅延動作を行う遅れ要素により前記推定車速を演算する推定車速演算部と、から構成された車速推定手段と、
前記先読み車速を含む走行状態に基づいて目標変速比を演算する目標変速比演算手段と、
前記目標変速比に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御手段と、
前記車速検出手段により検出された信号が正常か否かを判定する入力状態判定手段と、
を備え、
前記入力状態判定手段により異常と判定されたときは、前記車速推定手段において前記実車速に代えて、該異常を判定したときの走行状態に応じた第1の代替値に基づいて前記先読み車速の演算を継続すると共に、前記目標変速比演算手段においては、前記先読み車速に代えて第2の代替値に基づいて目標変速比を演算し、
前記入力状態判定手段の判定が異常から正常に変化したときは、前記車速推定手段において前記第1の代替値に代えて前記実車速に基づいて演算すると共に、所定条件が成立したときは、前記目標変速比演算手段において前記第2の代替値に代えて前記先読み車速に基づいて目標変速比を演算する
ことを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機の制御装置において、
前記車速推定手段は、前記実車速に加えて走行状態を表す他の信号を用いて前記先読み車速を演算する手段であり、
前記入力状態判定手段は、前記他の信号が正常か否かを判定する手段であり、
前記入力状態判定手段により前記他の信号が異常と判定されたときは、前記車速推定手段において前記他の信号に代えて、該異常を判定したときの走行状態に応じた第3の代替値に基づいて前記先読み車速の演算を継続すると共に、前記目標変速比演算手段において前記先読み車速に代えて前記第2の代替値に基づいて目標変速比を演算し、
前記入力状態判定手段の判定が異常から正常に変化したときは前記車速推定手段において前記第3の代替値に代えて前記他の信号に基づいて演算し、かつ、所定条件が成立したときは、前記目標変速比演算手段において前記第2の代替値に代えて前記先読み車速に基づいて目標変速比を演算すること
を特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機の制御装置において、
前記第1の代替値は、前記入力状態判定手段により異常と判定される直前の実車速であることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1つに記載の自動変速機の制御装置において、
前記所定条件は、前記入力状態判定手段の判定が異常から正常に変化してからの第1の所定時間経過であることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載の自動変速機の制御装置において、
前記目標変速比演算手段は、所定の走行条件が成立したときは前記実車速に基づいて目標変速比を演算し、前記所定の走行条件以外のときは前記先読み車速に基づいて目標変速比を演算する手段であり、
前記入力状態判定手段により異常と判定されてから第2の所定時間が経過したときは、前記車速推定手段における前記先読み車速の演算を禁止し、
前記入力状態判定手段の判定が異常から正常に変化し、かつ、前記所定の走行条件が成立したときは、前記車速推定手段における先読み車速の演算の禁止を解除すること
を特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の自動変速機の制御装置において、
アクセルペダル開度を検出するアクセルペダル開度検出手段を有し、
前記所定の走行条件は、前記アクセルペダル開度が所定値未満であること
を特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の自動変速機の制御装置において、
前記所定の走行条件は、前記実車速が所定車速以下であること
を特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項8】
車両の駆動源側に接続される入力軸と車両の駆動輪側に接続される出力軸との間の速度比を変更する自動変速機の制御装置において、
車両の走行速度である実車速信号及び走行速度以外の走行状態を表す他の信号を検出する車両状態検出手段と、
前記実車速信号と推定車速との偏差を演算する車速偏差演算部と、該車速偏差を所定ゲインにより積分演算した積分演算結果及び前記他の信号に基づいて目標とする所定時間未来の車速である先読み車速を推定する先読み車速演算部と、該先読み車速に基づき所定の遅延動作を行う遅れ要素により前記推定車速を演算する推定車速演算部と、から構成された車速推定手段と、
前記先読み車速と前記他の信号とに基づいて目標変速比を演算する目標変速比演算手段と、
前記目標変速比に基づいて前記自動変速機を制御する変速制御手段と、
前記車両状態検出手段により検出された実車速信号又は前記他の信号が正常か否かを判定する入力状態判定手段と、
を備え、
前記入力状態判定手段により異常と判定されたときは、前記車速推定手段において前記異常と判定された信号に代えて、該異常と判定されたときの走行状態に応じた第1の代替値に基づいて前記先読み車速の演算を継続すると共に、前記目標変速比演算手段において前記先読み車速に代えて第2の代替値に基づいて目標変速比を演算し、
前記入力状態判定手段の判定が異常から正常に変化したときは前記車速推定手段において前記第1の代替値に代えて該正常に変化した信号に基づいて前記先読み車速を演算し、所定条件が成立したときは、前記目標変速比演算手段において前記第2の代替値に代えて前記先読み車速に基づいて目標変速比を演算すること
を特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−236254(P2009−236254A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85122(P2008−85122)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】