説明

自動変速機の変速制御装置

【課題】係合側油圧の学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上できる自動変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】トランスミッションECUは、ダウンシフト指示を取得すると、エンジンをトルクアップし、タービン回転数NT[A]を取得する(ステップS12)。そして、計測時間Tの経過後に、タービン回転数NT[B]を取得し(ステップS14)、タービン回転数の変化勾配を実ΔNTとして算出する(ステップS15)。また、車速およびエンジントルクTeに基づいて目標ΔNTを算出する(ステップS16)。トランスミッションECUは、実ΔNTが目標ΔNT以上であるならば、今回の係合側油圧Pから補正油圧ΔP'を減算した値を次回の係合側油圧とし(ステップS18)、実ΔNTが目標ΔNT未満であるならば、今回の係合側油圧Pに補正油圧ΔPを加算した値を次回の係合側油圧とする(ステップS19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に関し、特に、ダウンシフト時に動力源のトルクアップを実行する自動変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の摩擦係合装置を有する自動変速機の変速制御装置においては、摩擦係合装置の解放および係合による変速制御を実行する際に、解放側の摩擦係合装置に供給する解放側油圧と係合側の摩擦係合装置に供給する係合側油圧とを最適化し、変速時における車両のドライバビリティを向上するようになっている。
【0003】
この種の自動変速機の変速制御装置として、ダウンシフト時の変速制御において、動力源に対しトルクアップを指示して、ダウンシフトに必要な時間を短縮するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来の特許文献1に記載の変速制御装置においては、シフトレバーからダウンシフトの指示が入力されると、解放側油圧の減少を開始するとともに、動力源に対しトルクアップを指示し、トルクコンバータを介して動力源の出力軸と接続される自動変速機の入力軸回転数を上昇させることにより、入力軸回転数を変速終了時における同期回転数に近づけ、変速時間を短縮するようになっている。
【0005】
また、トルクアップを実行する際に、動力源としての内燃機関を構成する複数の気筒のうち、一部の気筒による動力の発生を停止させることにより、内燃機関におけるポンピングロスを低減させ、これにより動力源の出力軸回転数の上昇を速め、変速応答性を向上させるようになっていた。
【0006】
また、この種の自動変速機の変速制御装置として、変速の進行度合いに応じて係合油圧を変更するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この従来の特許文献2に記載の変速制御装置においては、パワーオンアップシフト時に、解放側油圧を低下させることにより自動変速機の入力軸回転数を上昇させるとともに、係合側油圧を所定の増加率で増加させるようになっている。このとき、入力軸回転数が目標回転数と一致するよう、目標回転数と実際の入力軸回転数との偏差に応じた油圧制御により係合側油圧を調整するようになっている。これにより、係合側の摩擦係合装置をスムーズに係合させるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−144738号公報
【特許文献2】特開平06−11028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の特許文献1に記載の自動変速機の変速制御装置にあっては、トルクアップ時における動力源の出力回転数の上昇を速めるようになっているものの、係合側油圧の最適化を考慮したものではなかった。そのため、車両の走行環境の変化に起因して変速時における係合側油圧の最適値がばらつくような場合においても、係合側油圧を最適化するようなものではなく、変速特性にばらつきが生じてしまうことがあった。
【0010】
また、従来の特許文献2に記載の自動変速機の変速制御装置にあっては、変速制御の進行度合いにおいて係合側油圧を制御するようになっているものの、変速時に動力源をトルクアップする制御を考慮するようなものではなかった。そのため、変速時において最適となる係合側油圧は、内燃機関から出力されるトルクのばらつきに対して変動するにもかかわらず、走行環境の変化に起因したトルクのばらつきを考慮せずに係合側油圧を設定するため、結果として、実際に係合側の摩擦係合装置に供給される油圧が変速をスムーズに行うための最適値と一致しない可能性があった。
【0011】
したがって、いずれの場合においてもトルクアップを実行する変速時において係合側油圧を精度よく学習するというものではなく、結果として変速特性にばらつきが発生し、変速フィーリングが損なわれるなどドライバビリティが悪化する場合が生じていた。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、係合側油圧の学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができる自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、上記目的達成のため、(1)動力源に入力軸を介して接続され、複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合されることにより変速比の異なる複数のギヤ段が成立させられる自動変速機に対し、前記複数の油圧係合装置のうち所定の解放側摩擦係合装置を解放する一方、所定の係合側摩擦係合装置を係合するとともに前記動力源をトルクアップさせるダウンシフトの変速制御を実行する自動変速機の変速制御装置において、前記ダウンシフトの指示を検出する指示検出手段と、前記指示検出手段によりダウンシフト指示が検出された際に車速を検出する車速検出手段と、前記指示検出手段によるダウンシフト指示の検出をトリガとして前記動力源に対するトルクアップを実行し、前記トルクアップにおけるトルク量を制御するトルクアップ制御手段と、前記ダウンシフトにおいて、前記入力軸回転数に対し予め定められた目標変化速度に応じて係合側摩擦係合装置に供給する係合側油圧を制御する油圧制御手段と、前記ダウンシフトにおける前記入力軸回転数の実変化速度を算出する変化速度算出手段と、前記トルクアップの実行中に前記動力源から出力されるトルク量を算出するトルク量算出手段と、前記トルク量算出手段により算出されたトルク量と前記車速検出手段により検出された車速とに応じて、前記入力軸回転数の目標変化速度を設定する目標変化速度設定手段と、前記実変化速度と前記目標変化速度との偏差を学習し、学習した前記偏差に応じて前記係合側油圧を補正する油圧補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この構成により、ダウンシフトにおけるトルクアップの実行中において、走行環境の変化に起因して動力源から出力されるトルク量が要求したトルク量からずれた場合においても、動力源から実際に出力されたトルク量に応じて係合側油圧の学習を実行することができる。したがって、ダウンシフト時に動力源がトルクアップされる変速を実行する場合においても、係合側油圧に対する学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができる。
【0015】
また、上記(1)に記載の自動変速機の変速制御装置において、(2)前記トルクアップ制御手段は、前記ダウンシフトの指示が検出されてから所定の時間が経過した場合に、前記トルクアップにおけるトルク量の減少を開始することを特徴とする。
【0016】
この構成により、変速制御の開始から所定の時間が経過すると、入力軸回転数の変化速度が係合側油圧により制御される寄与度合いがトルクアップにより制御される寄与度合いより増加するので、油圧制御による精度の高い変速制御を実行することが可能となる。
【0017】
また、上記(2)に記載の自動変速機の変速制御装置において、(3)前記トルクアップ制御手段は、前記入力軸回転数が前記ダウンシフト終了後の同期回転数に達する前に前記トルクアップが終了するようトルク量を減少させることを特徴とする。
【0018】
この構成により、ダウンシフト終了時近傍の時点においては、入力軸回転数の変化速度が係合側油圧に対する制御のみに依存することとなるため、油圧制御による精度の高い変速制御を実行することが可能となる。
【0019】
また、上記(1)から(3)に記載の自動変速機の変速制御装置において、(4)前記トルク量算出手段は、前記トルクアップ制御手段によりトルクアップが開始された後であり、かつ、トルク量の減少が開始される前に前記動力源から出力されたトルク量を算出することを特徴とする。
【0020】
この構成により、実変化速度に影響を与えるトルクアップ時におけるトルク量が正確に算出されるので、目標変化速度設定手段により設定される目標変化速度が実トルク量の走行状態に応じた変動を含んだ状態で目標変化速度を設定することが可能となる。したがって、油圧補正手段による実変化速度と目標変化速度との偏差の学習が正確となり、結果として、係合側油圧に対する学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができる。
【発明の効果】
【0021】
ダウンシフト時に動力源がトルクアップされる変速を実行する場合においても、係合側油圧に対する学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動変速機の変速制御装置を搭載した車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る自動変速機の構成を示す骨子図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る自動変速機の作動表である。
【図4】本発明の実施の形態に係る油圧制御回路の概略構成を示す回路図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るトランスミッションECUの制御タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る目標ΔNT設定マップを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る変速制御処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る自動変速機の変速制御装置について、図1ないし図7を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の変速制御装置を搭載した車両を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の構成を示す骨子図である。
【0025】
本実施の形態においては、本発明に係る自動変速機の変速制御装置をFF(Front engine Front drive)車両に適用した場合について説明する。
【0026】
図1に示すように、車両1は、動力源としてのエンジン2と、トルクコンバータ3と、複数の油圧式摩擦係合装置を有する変速機構4と、トルクコンバータ3および変速機構4を油圧で制御するための油圧制御回路9と、エンジン2を制御するためのエンジンECU(Electronic Control Unit)11と、油圧制御回路9を制御するためのトランスミッションECU12と、によって構成されている。
【0027】
エンジン2は、図示しないインジェクタから噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関を構成している。この燃焼室内における燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、出力軸としてのクランクシャフトが回転させられる。なお、内燃機関の代わりに外燃機関を用いてもよい。
【0028】
トルクコンバータ3は、エンジン2から変速機構4にトルクを増大してエンジン2の動力を伝達するようになっており、後述するように、エンジン2の出力軸と連結されるポンプインペラー(以下、単にインペラーという)と、変速機構4の入力軸と連結されるタービンランナー(以下、単にタービンという)と、ワンウェイクラッチによって一方向の回転が阻止されているステータとを有している。インペラーとタービンとは、流体を介して動力を伝達するようになっている。
【0029】
さらに、トルクコンバータ3は、車両1の高速走行時において、インペラーとタービンとを機械的に直結することによりエンジン2から変速機構4への動力の伝達効率を上げるためのロックアップクラッチ47(図2参照)を有している。
【0030】
トルクコンバータ3と、変速機構4とは、自動変速機5を構成している。自動変速機5は、所望のギヤ段を形成することにより、図示しないクランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。自動変速機5の出力ギヤから出力される動力は、図示しないディファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して、図示しない左右の前輪に伝達される。変速機構4については、後で詳細に説明する。
【0031】
油圧制御回路9は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5を有している。また、油圧制御回路9は、作動油の油温を測定するための油温センサ33を有している。
【0032】
エンジンECU11は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力インターフェースを有している。エンジンECU11は、CPUによって、後述するアクセルセンサやスロットルセンサから入力された信号や、ROMに記憶されたマップなどに基づきエンジンの回転数を制御するようになっている。また、後述するように、トランスミッションECU12からの指令に基づいて、ダウンシフト時におけるエンジン2のトルクアップ制御、すなわちブリッピングを実行するようになっている。
【0033】
トランスミッションECU12は、図示しないCPU、RAM、ROMおよび入出力インターフェースを有している。トランスミッションECU12のROMには、車速およびスロットル開度と変速機構4のギヤ段とを対応させたマップが記憶されている。したがって、トランスミッションECU12は、CPUによって、後述する車速センサやスロットルセンサから入力された信号とROMに記憶されたマップに基づき変速機構のギヤ段を決定するようになっている。
【0034】
トランスミッションECU12は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5の作動状態を変化させ、ライン圧を元圧とする作動油圧により変速機構4の摩擦係合装置を選択的に係合あるいは解放させるようになっている。これらの摩擦係合装置の係合および解放の組み合わせによって、変速機構4の入力軸と出力軸との回転数の比が変更され、ギヤ段が構成されるようになっている。また、トランスミッションECU12は、後述するように、ダウンシフト時において係合側の摩擦係合装置に供給される係合側油圧の学習を実行し、次回のダウンシフト時における係合側油圧を補正するようになっている。
【0035】
なお、トランスミッションECU12は、後述するように、本発明に係る変速制御装置、指示検出手段、トルクアップ制御手段、油圧制御手段、変化速度算出手段、トルク量算出手段、目標変化速度設定手段および油圧補正手段を構成する。
【0036】
車両1は、さらに、エンジン2の出力軸回転数NEを検出するためのエンジン回転数センサ21と、エンジン2の吸入空気量を検出するための吸入空気量センサ22と、エンジン2に吸入される空気の温度を検出するための吸入空気温度センサ23と、スロットルバルブ31の開度を検出するためのスロットルセンサ24と、車速センサ25と、エンジンの冷却水温を測定するための冷却水温センサ26と、ブレーキセンサ27と、シフトレバー28の操作位置を検出するための操作位置センサ29と、トルクコンバータ3のタービン回転数、すなわち自動変速機の入力軸回転数NTを検出するためのタービン回転数センサ30とを備えている。
【0037】
エンジン回転数センサ21は、クランクシャフトの回転に基づいて、エンジン2の回転数を検出するようになっている。
【0038】
スロットルセンサ24は、例えば、スロットルバルブ31のスロットル開度に応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されている。スロットルセンサ24は、この出力電圧をスロットルバルブ31のスロットル開度を表す信号としてエンジンECU11およびトランスミッションECU12に出力するようになっている。
【0039】
車速検出手段を構成する車速センサ25は、変速機構4の出力軸回転数を表す信号をエンジンECU11およびトランスミッションECU12に出力するようになっており、エンジンECU11およびトランスミッションECU12は、この信号に基づいて車速を算出するようになっている。
【0040】
冷却水温センサ26は、例えば、水温に応じて抵抗値が変化するサーミスタにより構成されており、エンジン2の冷却水温に応じて変化した抵抗値に基づく信号をエンジンECU11およびトランスミッションECU12に出力するようになっている。
【0041】
ブレーキセンサ27は、車両1に備えられた図示しないブレーキペダルが運転者により所定の踏込み量で踏込まれたとき、OFF状態からON状態に切り換わる信号(踏力スイッチ信号)をエンジンECU11およびトランスミッションECU12に送信するようになっている。
【0042】
操作位置センサ29は、シフトレバー28の位置を検出し、検出結果を表す信号をトランスミッションECU12に送信するようになっている。トランスミッションECU12は、シフトレバー28の位置に対応したレンジの中から最適となる変速機構4のギヤ段を形成するようになっている。また、操作位置センサ29は、運転者の操作に応じて、運転者が任意のギヤ段を選択できるマニュアルポジションにシフトレバー28が位置していることを検出するようになっている。
【0043】
アクセル開度センサ32は、例えばホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されており、車両1に搭載されたアクセルペダル34が運転者により操作されると、アクセルペダル34の位置が示すアクセル開度を表す信号をエンジンECU11に出力するようになっている。
【0044】
図2に示すように、トルクコンバータ3は、エンジンの出力軸41と連結されるインペラー43と、変速機構4の入力軸48と連結されるタービン44と、ワンウェイクラッチ45によって一方向の回転が阻止されているステータ46とを有している。インペラー43とタービン44とは、流体を介して動力を伝達するようになっている。
【0045】
変速機構4の入力軸48は、トルクコンバータ3のタービン44に接続されている。したがって、変速機構4の入力軸48は、トルクコンバータ3の出力軸としても機能する。変速機構4は、遊星歯車機構の第1セット50と、遊星歯車機構の第2セット60と、出力ギヤ70と、ギヤケース71に固定されたB1ブレーキ72、B2ブレーキ73およびB3ブレーキ74と、C1クラッチ75と、C2クラッチ76と、ワンウェイクラッチF77とによって構成されている。ここで、後述するように、B3ブレーキ74は、ダウンシフト時に係合される係合側摩擦係合装置を構成し、C2クラッチ76は、ダウンシフト時に解放される解放側摩擦係合装置を構成する。
【0046】
第1セット50は、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。第1セット50は、サンギヤS(UD)51と、ピニオンギヤ52と、リングギヤR(UD)53と、キャリアC(UD)54とを有している。
【0047】
サンギヤS(UD)51は、入力軸48を介してトルクコンバータ3のタービン44に連結されている。ピニオンギヤ52は、キャリアC(UD)54に回転自在に支持されている。ピニオンギヤ52は、サンギヤS(UD)51およびリングギヤR(UD)53と係合している。
【0048】
リングギヤR(UD)53は、B3ブレーキ74によりギヤケース71に固定可能となっている。キャリアC(UD)54は、B1ブレーキ72によりギヤケース71に固定可能となっている。
【0049】
第2セット60は、ラビニヨ型の遊星歯車機構により構成されている。第2セット60は、サンギヤS(D)61と、ショートピニオンギヤ62と、キャリアC(1)63と、ロングピニオンギヤ64と、キャリアC(2)65と、サンギヤS(S)66と、リングギヤR(1)(R(2))67とを有している。
【0050】
サンギヤS(D)61は、キャリアC(UD)54に連結されている。ショートピニオンギヤ62は、キャリアC(1)63に回転自在に支持されている。ショートピニオンギヤ62は、サンギヤS(D)61およびロングピニオンギヤ64と係合している。キャリアC(1)63は、出力ギヤ70に連結されている。
【0051】
ロングピニオンギヤ64は、キャリアC(2)65に回転自在に支持されている。ロングピニオンギヤ64は、ショートピニオンギヤ62、サンギヤS(S)66およびリングギヤR(1)(R(2))67と係合している。キャリアC(2)65は、出力ギヤ70に連結されている。
【0052】
サンギヤS(S)66は、C1クラッチ75を介して入力軸48に連結可能となっている。リングギヤR(1)(R(2))67は、B2ブレーキ73により、ギヤケース71に固定可能となっており、C2クラッチ76により入力軸48に連結可能となっている。また、リングギヤR(1)(R(2))67は、ワンウェイクラッチF77に連結されており、ギヤ段が1速で、かつ駆動時において回転不能となる。
【0053】
図3は、本発明の実施の形態に係る自動変速機の作動表である。
図3において、「○」は係合を表している。「×」は解放を表している。「◎」はエンジンブレーキ時のみの係合を表している。また、「△」は駆動時のみの係合を表している。この作動表に示された組み合わせで、油圧制御回路9(図1参照)に設けられたリニアソレノイドバルブSL1〜SL5および図示しないトランスミッションソレノイドの励磁、非励磁によって各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、1速〜6速の前進ギヤ段と、後進ギヤ段が形成される。
【0054】
本実施の形態においては、自動変速機5は、4速(4th)のギヤ段を形成すると、作動表に示されているように、C1クラッチ75およびC2クラッチ76が係合された状態となる。この状態から、例えば運転者のシフトレバー28(図1参照)の操作により3速(3rd)のギヤ段へのダウンシフトが指示されると、トランスミッションECU12は、自動変速機5を制御して、C2クラッチ76を解放するとともに、B3ブレーキ74を係合する掴みかえを実行するようになっている。
【0055】
したがって、4速から3速へのダウンシフトにおいては、本実施の形態に係るB3ブレーキ74は、ダウンシフト時に係合される係合側摩擦係合装置を構成し、C2クラッチ76は、ダウンシフト時に解放される解放側摩擦係合装置を構成する。また、その他の変速段間のダウンシフトにおいても同様に、解放状態から係合状態に移行する摩擦係合装置が本発明に係る係合側摩擦係合装置を構成し、係合状態から解放状態に移行する摩擦係合装置が本発明に係る解放側摩擦係合装置を構成する。
【0056】
シフトレバー28(図1参照)は、車両の後方から前方に向かって、ドライブレンジ(以下、単にDレンジという)に対応するDポジション、中立レンジに対応するNポジション、後進レンジに対応するRポジション、駐車レンジに対応するPポジションを取るようになっている。
【0057】
シフトレバー28(図1参照)がDレンジに位置する場合には、ギヤ段が1速から6速のうち、いずれかを形成するようになっており、前述したように、トランスミッションECU12が、これらのギヤ段の中から車速やスロットル開度に基づいてギヤ段を選択するようになっている。
【0058】
シフトレバー28(図1参照)は、さらに、自動変速機5(図1参照)のギヤ段を手動変速モードにおいてシフトするためのマニュアルポジションを表すMポジション、アップシフトを指示するためのプラスポジション(+ポジション)およびダウンシフトを指示するためのマイナスポジション(−ポジション)を取るようなっている。Mポジションは、Dポジションの横に位置しており、シフトレバー28(図1参照)は、Dポジションから横に移動されると、図示しないばねにより、Mポジションに保持されるようになっている。
【0059】
図4は、本発明の実施の形態に係る油圧制御回路の概略構成を示す回路図である。
【0060】
図4に示すように、オイルポンプ38から圧送された作動油は、リリーフ型の第1調圧バルブ40により調圧され、第1ライン圧PL1となる。オイルポンプ38は、例えばエンジン2によって回転駆動される機械式ポンプにより構成されている。
【0061】
第1ライン圧PL1を有する作動油は、シフトレバー28(図1参照)に連動させられるマニュアルバルブ39に供給される。シフトレバー28が前進レンジに対応するポジションに位置する場合には、第1ライン圧PL1と等しい前進ポジション圧PDを有する作動油が、マニュアルバルブ39からリニアソレノイドバルブSL1〜SL5へ供給されるようになっている。
【0062】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、C1クラッチ75、C2クラッチ76、B1ブレーキ72、B2ブレーキ73、B3ブレーキ74にそれぞれ対応するよう配設されている。トランスミッションECU12は、ソレノイド電流によってこれらのリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御することにより、油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3を調節し、C1クラッチ75、C2クラッチ76、B1ブレーキ72、B2ブレーキ73、B3ブレーキ74の係合および解放を切り換えたり、係合圧を調節したりする。
【0063】
以下、本発明の実施の形態に係る自動変速機の変速制御装置を構成するトランスミッションECUの特徴的な構成について図1を参照して説明する。また、以下の説明においては、シフトレバー28によるダウンシフトの指示に応じて、車両1が4速のギヤ段から3速のギヤ段にダウンシフトする場合を例に説明する。
【0064】
トランスミッションECU12は、シフトレバー28がマイナスポジションに移動した場合に、操作位置センサ29を介してダウンシフトの指示を表す信号を検出するようになっている。したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係る指示検出手段を構成する。
【0065】
また、トランスミッションECU12は、ダウンシフトの指示を表す信号を検出すると、エンジン2がトルクアップを実行するよう、エンジンECU11に対してトルクアップの実行指示を送信する。また、トランスミッションECU12は、後述するように、ダウンシフトの指示を検出してから所定の時間が経過すると、トルク量の減少を開始し、変速が終了する前にトルクアップが終了するようエンジンECU11を介してエンジン2を制御するようになっている。
【0066】
したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係るトルクアップ制御手段を構成する。
【0067】
また、トランスミッションECU12は、ダウンシフトの指示を表す信号を検出すると、後述するタイミングにおいて、入力軸回転数、すなわちタービン回転数NTを予め設定された変化速度の目標値に近づけるよう、係合側摩擦係合装置に対する係合圧を制御するようになっている。具体的には、トランスミッションECU12は、ダウンシフトの指示を表す信号を検出すると、解放側摩擦係合装置を構成するC2クラッチ76に対する油圧PC2を即座に低下させるとともに、係合側摩擦係合装置を構成するB3ブレーキ74に対する係合圧PB3を制御してタービン回転数の変化速度を予め設定された目標値に近づけるようになっている。このとき、トランスミッションECU12は、後述する変速制御処理(図7参照)に基づいて係合圧を補正するようになっている。
【0068】
したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係る油圧制御手段を構成する。
【0069】
また、トランスミッションECU12は、タービン回転数センサ30から入力されるタービン回転数NTを所定の時間間隔で取得するようになっている。また、トランスミッションECU12は、ダウンシフトの変速制御中における後述する2つの時点T2、T4(図5参照)においてタービン回転数センサ30からそれぞれ取得したタービン回転数NTの差をとり、この差をT2からT4までの時間で割ることにより、タービン回転数NTの実変化速度を算出するようになっている。
【0070】
したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係る変化速度算出手段を構成する。
【0071】
また、トランスミッションECU12は、上述したトルクアップの実行中において、エンジン2から出力されるトルク量を算出するようになっている。
【0072】
具体的には、トランスミッションECU12は、スロットルセンサ24からスロットル開度を表す信号を入力するとともに、エンジン回転数センサ21からエンジン回転数NEを表す信号を入力する。そして、トランスミッションECU12は、スロットル開度およびエンジン回転数NEと、ROMに記憶されているトルク量マップとに基づいて、エンジン2から出力されるトルク量を算出するようになっている。なお、トルク量マップは、車両1に搭載されるエンジン2に対する実験的な測定により求められており、予めROMに記憶されている。
【0073】
したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係るトルク量算出手段を構成する。
【0074】
また、トランスミッションECU12は、算出したトルク量と車速とに応じて、タービン回転数NTの目標変化速度を設定するようになっている。具体的には、トランスミッションECU12は、上記のようにトルク量を算出するとともに車速センサ25から車速を表す信号を取得すると、後述するように、目標ΔNT設定マップ(図6参照)を参照してタービン回転数NTに対する目標変化速度を表す目標ΔNTを設定するようになっている。
【0075】
したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係る目標変化速度設定手段を構成する。
【0076】
また、トランスミッションECU12は、上記のように算出したタービン回転数NTの実変化速度と目標変化速度との偏差を算出し、この偏差を学習値としてRAMに記憶するようになっている。そして、トランスミッションECU12は、次回のダウンシフトの変速制御を実行する際に、この学習値に応じて係合側摩擦係合装置を構成するB3ブレーキ74に対する係合圧PB3を補正するようになっている。学習値に対応する係合圧の補正量は、予め実験的な測定により求められており、補正量マップとしてROMに記憶されている。
【0077】
したがって、本実施の形態に係るトランスミッションECU12は、本発明に係る油圧補正手段を構成する。
【0078】
図5は、本発明の実施の形態に係るトランスミッションECUの制御タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【0079】
ここで、グラフ(a)は、シフトレバー28により指示される指示変速段の変化を表している。また、グラフ(b)は、ダウンシフトにおけるタービン回転数NTの変化を表している。また、グラフ(c)は、係合側油圧の変化を表しており、本実施の形態においては、B3ブレーキ74に対する係合圧PB3の変化を表している。また、グラフ(d)は、トランスミッションECU12がエンジンECU11を介してエンジン2に要求したトルクアップ要求量の変化を表している。また、グラフ(e)は、トルクアップ要求量に応じて実際にエンジン2から出力されたトルク量の変化を表している。
【0080】
トランスミッションECU12は、時刻T0において、シフトレバー28からダウンシフトの変速指示を表す信号を取得すると(グラフ(a)参照)、C2クラッチ76に供給される解放側油圧を速やかに"0"にまで低下させる。また、トランスミッションECU12は、タービン回転数センサ30から取得したタービン回転数をタービン回転数NT[0]としてRAMに記憶する。また、トランスミッションECU12は、車速センサ25から車速を表す信号を取得する。なお、車速を表す信号の取得は、例えばトルクアップ時に実行されるようにしてもよい。
【0081】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T1において、係合側油圧を所定のファーストフィル圧に上昇し、作動油を急速充填させる(グラフ(c)参照)。
【0082】
そして、トランスミッションECU12は、エンジンECU11に対してエンジン2のトルクアップを要求する(グラフ(d)参照)。具体的には、トランスミッションECU12は、現在のギヤ段、要求ギヤ段、現在の車速などのパラメータに基づいて、予めROMに記憶されているトルクアップ要求量を参照し、トルクアップ要求量を算出するようになっている。そして、トランスミッションECU12は、算出したトルクアップ要求量を表す信号をエンジンECU11に送信する。
【0083】
エンジンECU11は、トルクアップ要求量を表す信号を取得すると、このトルクアップ要求量に応じてスロットルバルブ31の開度を制御し、エンジン2から出力されるトルク量を増大させるようになっている。このとき、エンジン2から実際に出力される実トルク量、すなわちエンジントルクTeは、車両1の走行環境の変化に起因して変動する(グラフ(e)参照)。
【0084】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T2において、係合側油圧を所定の定圧待機圧に保持し(グラフ(c)参照)、この時の係合圧でタービン回転数NTを上昇させ(グラフ(b)参照)ダウンシフトを進行させる。
【0085】
このとき、トランスミッションECU12は、エンジン回転数センサ21およびスロットルセンサ24からエンジン回転数およびスロットル開度を表す信号をそれぞれ取得し、ROMに記憶されているエンジントルクマップを参照することにより、エンジントルクTeを算出しRAMに記憶する。なお、この算出されたエンジントルクTeは、後述するように目標ΔNTの算出に用いられる。
【0086】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T3において、タービン回転数NTの変化勾配ΔNTの算出を開始する。具体的には、トランスミッションECU12は、タービン回転数センサ30から入力されるタービン回転数が、RAMに記憶されているタービン回転数NT[0]に所定値αを加えた値に達したならば、この時点の直後にタービン回転数センサ30から取得されたタービン回転数を、タービン回転数NT[A]としてRAMに記憶する。同時に、トランスミッションECU12は、タイマによる計時を開始する。所定値αは、タービン回転数センサ30の検出精度などに基づいて、実際にはタービン回転数NTが上昇を開始していないにもかかわらず、トランスミッションECU12によりタービン回転数NTが上昇を開始したと誤判定をすることを防止できる値に設定されている。
【0087】
なお、トランスミッションECU12は、時刻T0から所定の時間が経過した時点においてタービン回転数NT[A]を取得するようにしてもよい。この場合、トランスミッションECU12は、時刻T0において、タービン回転数NT[A]を取得するための計時をタイマにより開始するようにする。
【0088】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T4において、エンジンECU11に対し、トルクアップの減少開始を要求する。エンジンECU11は、トルクアップ要求量が時刻T6において"0"となるよう(グラフ(d)参照)スロットルバルブ31を制御する。ここで、時刻T6とは、タービン回転数NTが変速後の同期回転に達する直前の時点を意味する。
【0089】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T3から計測時間Tが経過し、時刻T5に達すると、この時のタービン回転数をタービン回転数NT[B]としてRAMに記憶する。これにより、トランスミッションECU12は、RAMに記憶されているタービン回転数NT[A]およびNT[B]と、計測時間Tとを用いて、タービン回転数NTの変化速度を実ΔNTとして算出することが可能となる。
【0090】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T6において、タービン回転数NTが変速後ギヤ段の同期回転数付近に達したならば、係合側油圧の増加を開始する(グラフ(c)参照)。
【0091】
次に、トランスミッションECU12は、時刻T7において、タービン回転数NTが変速後ギヤ段の同期回転速度に到達し変速が終了したと判断したならば、係合側油圧を第1ライン圧PL1まで上昇させ(グラフ(c)参照)、変速制御を終了する。
【0092】
そして、トランスミッションECU12は、今回の変速制御において取得した実ΔNTと、後述する目標ΔNT設定マップ(図6参照)とに基づいて、実ΔNTと目標ΔNTとの偏差を算出し、学習値としてRAMに記憶するようになっている。そして、トランスミッションECU12は、RAMに記憶された学習値に応じて、次回のダウンシフトにおける係合側油圧を補正する。
【0093】
図6は、本発明の実施の形態に係る目標ΔNT設定マップを示す図である。
【0094】
目標ΔNT設定マップは、エンジントルクTeおよび車速と、目標ΔNTとを対応付けたものであり、予めROMに記憶されている。
【0095】
トランスミッションECU12は、図6(a)に示すエンジントルクTe=Te1に対応するマップと、図6(b)に示すエンジントルクTe=Te2に対応するマップと、の2つのマップをROMに記憶するようになっている。ここで、エンジントルクTe1とは、ダウンシフト時の実エンジントルクとして車両の走行環境に基づき想定され得る最小のエンジントルクを表しており、エンジントルクTe2とは、ダウンシフト時の実エンジントルクとして車両の走行環境に基づき想定され得る最大のエンジントルクを表している。
【0096】
トランスミッションECU12は、車速センサ25から車速を表す信号を取得すると、図6(a)に示すマップと図6(b)に示すマップから、それぞれ目標ΔNTを取得する。次に、トランスミッションECU12は、上述した方法により算出されたエンジントルクTeの、エンジントルクTe1およびTe2に対する比を算出する。そして、算出された比を上記のように取得した2つの目標ΔNTに対して適用することにより得られる目標ΔNTを、エンジントルクTeに対する目標ΔNTとする。
【0097】
なお、本実施の形態に係る目標ΔNT設定マップにおける目標ΔNTの値は、Te1よりTe2の場合において高くなるように設定されており、また、車速が上がるほど高くなるように設定されている。したがって、図6に示すマップにおいては、A1<A2、B1<B2、C1<C2の関係が成立しているとともに、図6(a)に示すマップにおいてはA1<B1<C1の関係が、図6(b)に示すマップにおいてはA2<B2<C2の関係が、それぞれ成立している。
【0098】
図7は、本発明の実施の形態に係る変速制御処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下の処理は、トランスミッションECU12がシフトレバー28からダウンシフトの変速要求を取得したときに実行が開始されるとともに、CPUによって処理可能なプログラムを実現する。
【0099】
トランスミッションECU12は、まず、計測開始条件が成立しているか否かを判断する(ステップS11)。具体的には、トランスミッションECU12は、シフトレバー28から操作位置センサ29を介してダウンシフトの変速要求を取得したときに、タービン回転数センサ30からタービン回転数を表す信号を取得し、タービン回転数NT[0]としてRAMに記憶する。また、トランスミッションECU12は、上述した方法によりエンジン2に対するトルクアップを実行する。
【0100】
そして、トランスミッションECU12は、タービン回転数センサ30から取得した信号が、NT[0]+αとなった時点において、計測開始条件が成立したと判断する。
【0101】
トランスミッションECU12は、計測開始条件が成立したと判断した場合には(ステップS11でYes)、ステップS12に移行する。一方、トランスミッションECU12は、計測開始条件が成立していないと判断した場合には(ステップS11でNo)、このステップを繰り返す。
【0102】
なお、上述したように、トランスミッションECU12は、この時点において、エンジン回転数センサ21およびスロットルセンサ24からそれぞれ入力されるエンジン回転数およびスロットル開度と、予めROMに記憶されているエンジントルクマップに基づいて、トルクアップによりエンジン2から出力されているエンジントルクTeを算出する。
【0103】
次に、トランスミッションECU12は、タービン回転数NT[A]を取得する(ステップS12)。具体的には、トランスミッションECU12は、上記のステップS11において計測開始条件が成立したと判断すると、タービン回転数センサ30からタービン回転数を取得し、タービン回転数NT[A]としてRAMに記憶する。このとき、トランスミッションECU12は、タイマによる計時を開始する。
【0104】
次に、トランスミッションECU12は、計測終了条件が成立したか否かを判断する(ステップS13)。具体的には、トランスミッションECU12は、ステップS12において開始したタイマによる計時が計測時間Tを経過したか否かを判断する。
【0105】
トランスミッションECU12は、タイマによる計時が所定の計測時間Tを経過したと判断すると、ステップS14に移行する。一方、トランスミッションECU12は、タイマによる計時が計測時間Tを経過していないと判断した場合には、このステップを繰り返す。
【0106】
次に、トランスミッションECU12は、タービン回転数センサ30からタービン回転数を取得し、タービン回転数NT[B]としてRAMに記憶する(ステップS14)。
【0107】
次に、トランスミッションECU12は、タービン回転数NTの変化勾配ΔNTを算出する(ステップS15)。具体的には、トランスミッションECU12は、RAMに記憶されているタービン回転数NT[A]およびNT[B]を取得する。そして、以下の式(1)にしたがって、タービン回転数NTの変化勾配ΔNTを実ΔNTとして算出する。
ΔNT = (NT[B] − NT[A]) / T (1)
【0108】
次に、トランスミッションECU12は、車速およびブリッピング中のエンジントルクTeに基づいて目標ΔNTを算出する(ステップS16)。具体的には、トランスミッションECU12は、車速センサ25から出力された車速を表す信号と、ステップS11においてRAMに記憶したトルクアップ中、すなわちブリッピング中のエンジントルクTeとを取得すると、図6に示したマップに基づいて、目標ΔNTを算出する。このとき、トランスミッションECU12は、取得した車速に対応する目標ΔNTを図6(a)および図6(b)に示すマップからそれぞれ取得する。そして、RAMに記憶されているエンジントルクTeに対応する目標ΔNTを、図6(a)および図6(b)に示すマップから取得した目標ΔNTを補間することにより算出する。なお、補間の方法としては、上述した比例を用いる方法に限らず、2次関数やその他の関数を用いた公知の補間の方法を用いてもよい。
【0109】
次に、トランスミッションECU12は、ステップS15において算出された実ΔNTがステップS16において算出された目標ΔNT以上であるか否かを判断する(ステップS17)。
【0110】
トランスミッションECU12は、実ΔNTが目標ΔNT以上であると判断したならば(ステップS17でYes)、今回のダウンシフトにおける係合側油圧Pから補正油圧ΔP'を減算した値を、次回のダウンシフトにおける係合側油圧とする(ステップS18)。補正油圧ΔP'は、実ΔNTと目標ΔNTとの差、すなわち目標偏差に応じて設定されるようになっている。目標偏差に対する補正油圧ΔP'は、予め実験的な測定によって定められており、補正油圧マップとしてROMに記憶されている。
【0111】
一方、トランスミッションECU12は、実ΔNTが目標ΔNT未満であると判断したならば(ステップS17でNo)、今回のダウンシフトにおける係合側油圧Pに補正油圧ΔPを加算した値を、次回のダウンシフトにおける係合側油圧とする(ステップS19)。
【0112】
以上のように、本発明の実施の形態に係る自動変速機の変速制御装置においては、ダウンシフトにおけるトルクアップの実行中において、走行環境の変化に起因してエンジン2から出力されるトルク量が要求したトルク量からずれた場合においても、エンジン2から実際に出力されたトルク量に応じて係合側油圧の学習を実行することができる。したがって、ダウンシフト時に動力源がトルクアップされる変速を実行する場合においても、係合側油圧に対する学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができる。
【0113】
また、変速制御の開始から所定の時間が経過すると、入力軸回転数の変化速度が係合側油圧により制御される寄与度合いがトルクアップにより制御される寄与度合いより増加するので、油圧制御による精度の高い変速制御を実行することが可能となる。
【0114】
また、実変化速度に影響を与えるトルクアップ時におけるトルク量が正確に算出されるので、目標変化速度が実トルク量の走行状態に応じた変動を含んだ状態で目標変化速度を設定することが可能となる。したがって、目標変化速度と実変化速度との偏差の学習が正確となり、結果として、係合側油圧に対する学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができる。
【0115】
なお、以上の説明においては、動力源としてエンジンを搭載した車両に本発明の自動変速機の変速制御装置を適用する場合について説明した。しかしながら、動力源としてモータジェネレータを搭載した車両、あるいはエンジンおよびモータジェネレータを搭載した車両に本発明の自動変速機の変速制御装置を適用するようにしてもよい。
【0116】
また、以上の説明においては、目標ΔNTを、図6(a)および図6(b)に示す2つの目標ΔNT設定マップから取得した目標ΔNTを補間することにより算出する場合について説明した。しかしながら、トランスミッションECU12は、ROMに2以上の目標ΔNT設定マップを記憶させておき、算出されたエンジントルクTeに最も近いエンジントルクに対応する目標ΔNT設定マップに基づいて目標ΔNTを設定するようにしてもよい。
【0117】
以上のように、本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、ダウンシフト時に動力源のトルクアップを実行する場合においても、係合側油圧の学習精度を高め、変速時のドライバビリティを向上することができるという効果を奏するものであり、シフトレバーによるダウンシフト指示が可能な自動変速機の変速制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0118】
1 車両
2 エンジン(動力源)
3 トルクコンバータ
4 変速機構
9 油圧制御回路
11 エンジンECU
12 トランスミッションECU(変速制御装置、指示検出手段、トルクアップ制御手段、油圧制御手段、変化速度算出手段、トルク量算出手段、目標変化速度設定手段、油圧補正手段)
21 エンジン回転数センサ
22 吸入空気量センサ
23 吸入空気温度センサ
24 スロットルセンサ
25 車速センサ(車速検出手段)
26 冷却水温センサ
27 ブレーキセンサ
28 シフトレバー
29 操作位置センサ
30 タービン回転数センサ
31 スロットルバルブ
33 油温センサ
41 エンジンの出力軸
43 インペラー
44 タービン
45 ワンウェイクラッチ
46 ステータ
48 入力軸
70 出力ギヤ
71 ギヤケース
72 B1ブレーキ
73 B2ブレーキ
74 B3ブレーキ(係合側摩擦係合装置)
75 C1クラッチ
76 C2クラッチ(解放側摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源に入力軸を介して接続され、複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合されることにより変速比の異なる複数のギヤ段が成立させられる自動変速機に対し、前記複数の油圧係合装置のうち所定の解放側摩擦係合装置を解放する一方、所定の係合側摩擦係合装置を係合するとともに前記動力源をトルクアップさせるダウンシフトの変速制御を実行する自動変速機の変速制御装置において、
前記ダウンシフトの指示を検出する指示検出手段と、
前記指示検出手段によりダウンシフト指示が検出された際に車速を検出する車速検出手段と、
前記指示検出手段によるダウンシフト指示の検出をトリガとして前記動力源に対するトルクアップを実行し、前記トルクアップにおけるトルク量を制御するトルクアップ制御手段と、
前記ダウンシフトにおいて、前記入力軸回転数に対し予め定められた目標変化速度に応じて係合側摩擦係合装置に供給する係合側油圧を制御する油圧制御手段と、
前記ダウンシフトにおける前記入力軸回転数の実変化速度を算出する変化速度算出手段と、
前記トルクアップの実行中に前記動力源から出力されるトルク量を算出するトルク量算出手段と、
前記トルク量算出手段により算出されたトルク量と前記車速検出手段により検出された車速とに応じて、前記入力軸回転数の目標変化速度を設定する目標変化速度設定手段と、
前記実変化速度と前記目標変化速度との偏差を学習し、学習した前記偏差に応じて前記係合側油圧を補正する油圧補正手段と、を備えることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記トルクアップ制御手段は、前記ダウンシフトの指示が検出されてから所定の時間が経過した場合に、前記トルクアップにおけるトルク量の減少を開始することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前記トルクアップ制御手段は、前記入力軸回転数が前記ダウンシフト終了後の同期回転数に達する前に前記トルクアップが終了するようトルク量を減少させることを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記トルク量算出手段は、前記トルクアップ制御手段によりトルクアップが開始された後であり、かつ、トルク量の減少が開始される前に前記動力源から出力されたトルク量を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−164084(P2010−164084A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4811(P2009−4811)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】