説明

自動変速装置の摩擦板潤滑装置

【課題】スリップ制御又は微係合時、多板摩擦板に潤滑油を均等に供給する。
【解決手段】内摩擦板の内歯を係合するスプライン15を有するハブ13は、内周にも同様な凹凸部26が形成される。ハブ13の内周側にスリーブ21を配置し、ハブとスリーブとの間の隙間aにノズル25から潤滑油を供給する。潤滑油Oは、凹凸部の凹部26a内に溜められ、底面に軸方向に亘って複数個形成された貫通孔27から、多板摩擦板の全周及び全長に亘って均等に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速装置、特にエンジンと電気モータを駆動源とするハイブリッド駆動装置に用いられる自動変速装置に適用して好適であり、詳しくは該自動変速装置のブレーキ等の多板摩擦板に潤滑油に供給する潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速装置において、クラッチ又はブレーキ等の湿式多板摩擦板に噴射口(ノズル)から潤滑油を直接供給する摩擦板潤滑装置が案出されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1のものは、カウンタドライブギヤを挟んで、上記多板摩擦板(多板クラッチ)の反対側に潤滑油の噴射口が配置されている。ドライブレンジが選択されてエンジンがアイドル状態にある車輌の停車中に、自動変速装置の少なくとも1個の摩擦板(例えばフォワードクラッチ)を滑らせること(微係合状態)で入出力軸間の回転差を吸収することが好ましいが、車輌停車中はカウンタドライブギヤが停止しているので、該ドライブギヤの貫通孔を通して、噴射口から多板摩擦板に充分な潤滑油が供給され、車輌の走行時は回転するカウンタドライブギヤにより上記噴射口からの潤滑油の供給が妨げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−56909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の摩擦板潤滑装置は、噴射口からカウンタドライブギヤの貫通孔を介して、潤滑油が多板摩擦板の最外側のリテーニング(エンド)プレート部分に供給されるため、潤滑油を多板摩擦板に均等に供給することは困難であり、特に噴射口から離れた多板摩擦板の奥側には充分に潤滑油が行き渡り難い。
【0005】
駆動源としてエンジンの外に1個の電気モータを備え、該駆動源から自動変速装置を介して駆動車輪に伝達するハイブリッド駆動装置にあっては、電気モータの駆動により発進し、必要に応じて電気モータのトルクによりエンジンを始動する。この際、エンジンの始動には電気モータのトルクを上昇する必要があるが、その際のトルク変動を車輪へ伝達するのを防止するために自動変速装置の所定の多板摩擦板を滑らすことにより、上記トルク変動を吸収することが好ましい。このようなハイブリッド駆動装置にあっては、エンジン始動に際して上記摩擦板を滑らす制御は、度々かつ比較的長い時間行う必要があり、上述した噴射口を多板摩擦板の最外側に向いて噴射する摩擦板潤滑装置を適用しても、多板摩擦板に均等に、特にその全長及び全周に亘って充分な潤滑油を供給することができず、摩擦板の耐久性に影響を及ぼす虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、多板摩擦板に、均等に潤滑油を供給することを可能とし、もって上述した課題を解決した自動変速装置の摩擦板潤滑装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外摩擦板(12)と内摩擦板(16)とを交互に配置した多板摩擦板(B−2)と、前記内摩擦板(16)の内周に形成された歯に係合するスプライン(15)を有するハブ(13)と、を備えた自動変速装置(1)の摩擦板潤滑装置において、
前記ハブ(13)は、プレス型により外周に前記スプライン(15)を形成すると共に内周に凹凸部(26)を形成し、
該凹凸部に向けて潤滑油を吐出するノズル(25)を備え、
前記凹凸部(26)の各凹部(26a)を、前記潤滑油が溜まる油溜りとすると共に、該凹部の底面に貫通孔(27)を形成し、
前記ノズル(25)からの潤滑油を、前記凹部(26a)からなる油溜りに溜めて、前記貫通孔(27)を通して前記多板摩擦板(B−2)に供給してなる、
自動変速装置の摩擦板潤滑装置にある。
【0008】
例えば図3及び図4を参照して、前記貫通孔(27)は、前記凹凸部(26)の各凹部(26a)の底面にそれぞれかつ軸方向に複数個配置され、
潤滑油が、前記貫通孔(27)を通して前記多板摩擦板(B−2)の全周に亘ってかつ軸方向全長に亘って供給されてなる。
【0009】
例えば図3及び図4を参照して、前記ハブ(13)の内周側に、所定隙間(a)を存して、該ハブ(13)と一体にスリーブ(21)を配置し、
前記ノズル(25)から、前記ハブ(13)とスリーブ(21)との間の前記所定隙間(a)に潤滑油を供給してなる。
【0010】
例えば図3を参照して、前記スリーブ(21)の内径側に、プラネタリギヤ(PU)が配置され、
該プラネタリギヤ(PU)は、軸(2,40)に形成された潤滑油路(36a,36b)からの潤滑油により潤滑されてなる。
【0011】
例えば図3を参照して、前記ハブ(13)とスリーブ(21)は、一端を一体に固定して前記所定隙間(a)が閉塞されると共に、他端を、前記スリーブ(21)が前記ハブ(13)に対して所定長さ(b)突出し、
前記所定長さ突出した前記スリーブ(21)の外径側の空間(A)に向けて潤滑油が噴射されるように前記ノズル(25)を配置してなる。
【0012】
例えば、図1,図2及び図5を参照して、前記自動変速装置(1)の入力軸(2)のエンジン出力軸(5)側に、電気モータ(3)及びクラッチ(6)を配置し、
前記多板摩擦板が、前記自動変速装置の少なくとも1速時に係合するブレーキ(B−2)であり、
前記電気モータ(3)によりエンジンを始動する際、前記ブレーキ(B−2)をスリップ制御して前記自動変速装置の入出力部の回転差を吸収し、
前記ブレーキ(B−2)のスリップ制御にタイミングを合せて前記ノズル(25)から潤滑油を吐出してなる。
【0013】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、ハブの外周にスプラインを形成すると共にプレス型により内周にも凹凸部を形成して、ノズルから該凹凸部に潤滑油を供給して上記凹凸部の凹部を油溜りとし、上記凹部の底面に形成した貫通孔を介して、多板摩擦板に潤滑油を供給するので、多板摩擦板は、略々均等に潤滑油が供給されて、例えばスリップ制御及び微係合時においても上記多板摩擦板の耐久性を確保して、正確な制御を行うことができ、かつ必要時にのみ適切に摩擦板に潤滑油を供給することを可能にして、引き摺りトルク低減を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る本発明によると、貫通孔は、凹凸部の各凹部の底面にそれぞれかつ軸方向に複数個配置されるので、潤滑油が、多板摩擦板の全周に亘ってかつ軸方向全長に亘って略々均等に供給することができる。
【0016】
請求項3に係る本発明によると、ハブの内周側にスリーブを配置して、ハブとスリーブとの間の所定隙間に向けてノズルから潤滑油を供給するので、潤滑油は、例えばハブが低回転で遠心力が充分に作用しない場合でも、凹部からなる油溜りに保持されて、確実に多板摩擦板に供給される。
【0017】
請求項4に係る本発明によると、スリーブの内径側には、軸に形成された潤滑油路からの潤滑油により潤滑されるプラネタリギヤが配置されており、該プラネタリギヤからの潤滑油が、その外径側にある前記多板摩擦板に向けて飛散されることになり、かつ該プラネタリギヤからの潤滑油は、軸の回転数等によりその供給量が変化するが、該飛散された潤滑油が上記多板摩擦板にかかることが、上記スリーブにより阻止される。従って、例えばスリップ制御及び微係合時等にあって高い精度で滑りを管理する必要がある多板摩擦板にあっても、上記プラネタリギヤからの流量が変化する潤滑油の供給が阻止され、ノズルからの潤滑油が、安定した高い信頼性により上記多板摩擦板に供給される。
【0018】
請求項5に係る本発明によると、スリーブの先端をハブの先端より長く突出して、該突出したスリーブの外径側の空間に向けてノズルから潤滑油が噴射されるので、ノズルからの潤滑油は、外に漏れることなく略々確実に比較的狭い所定隙間に供給することができ、潤滑油を無駄にすることなく高い効率で多板摩擦板に潤滑油を供給することができる。
【0019】
請求項6に係る本発明によると、自動変速装置と電気モータとを有するハイブリッド駆動装置に適用して、電気モータでエンジンを始動する際、1速で係合するブレーキをスリップ制御して入出力部の回転差を吸収すると共に、該スリップ制御を行うブレーキに均等に潤滑油を供給して、エンジン始動を確実かつ正確に行うことができると共に、始動時のショックを減少することができる。また、上記ブレーキへの潤滑油の供給は、スリップ制御にタイミングを合せて行うので、該ブレーキへの潤滑油の供給は、必要時にのみ行われて、潤滑油の無駄がなく、燃費性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る自動変速装置を示すスケルトン図。
【図2】本自動変速装置の係合表。
【図3】本自動変速装置において、本発明に係る摩擦板潤滑装置を含む部分を切取った断面図。
【図4】(A)は、本摩擦板潤滑装置を示す正面断面図、(B)は、そのA部分の拡大図。
【図5】本摩擦板潤滑装置の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、自動変速装置1の入力軸2には電気モータ3のロータ3aが連結されており、該ロータ3aの軸とエンジン出力軸5との間にはクラッチ6及びトーションダンパ7が介在している。従って、本自動変速装置1は、1モータタイプのハイブリッド駆動装置Hとして適用され、上記電気モータ2は、車輌駆動源として、またエンジンを駆動するスタータ(セルモータ)として、更にエンジン動力又は車輌の慣性力を電気エネルギに変換するオルタネータ(ジェネレータ)として機能する。なお、入力軸2とエンジン出力軸5との間に、上記クラッチ6及びトーションダンパ7を配置しているが、これは、ロックアップクラッチ付のトルクコンバータでもよく、この場合、該ロックアップのクラッチが上記クラッチ6の機能を担う。
【0022】
自動変速装置1の上記入力軸2は、電気モータ3,クラッチ6及びエンジン出力軸5と同軸上に配置され、該入力軸2上において、プラネタリギヤSPと、プラネタリギヤユニットPUとが備えられている。上記プラネタリギヤSPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を備えており、該キャリヤCR1に、サンギヤS1及びリングギヤR1に噛合するピニオンP1を有している、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。
【0023】
また、該プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2、及びリングギヤR2を有し、該キャリヤCR2に、サンギヤS2及びリングギヤR2に噛合するロングピニオンPLと、サンギヤS3に噛合するショートピニオンPSとを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0024】
上記プラネタリギヤSPのサンギヤS1は、ミッションケース9に一体的に固定されている不図示のボス部に接続されて回転が固定されている。また、上記リングギヤR1は、上記入力軸2の回転と同回転(以下「入力回転」という。)になっている。さらに、上記キャリヤCR1は、上記固定されたサンギヤS1と該入力回転するリングギヤR1とにより、入力回転が減速された減速回転になるとともに、クラッチC−1及びクラッチC−3に接続されている。
【0025】
上記プラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、ブレーキB−1に接続されてミッションケース9に対して固定自在となっているとともに、上記クラッチC−3に接続され、該クラッチC−3を介して上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。また、上記サンギヤS3は、クラッチ(摩擦係合要素)C−1に接続されており、上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。
【0026】
さらに、上記キャリヤCR2は、入力軸2の回転が入力されるクラッチC−2に接続され、該クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、ブレーキ(多板摩擦板)B−2に接続されて、該ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、上記リングギヤR2は、カウンタギヤ11に接続されており、該カウンタギヤ11は、不図示のカウンタシャフト、ディファレンシャル装置を介して駆動車輪に接続されている。
【0027】
上記構成の自動変速装置1は、図1のスケルトンに示す各クラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2が、図2の係合表に示す組み合わせで係脱されることにより、前進1速段(1st)〜前進6速段(6th)、及び後進1速段(Rev)を達成している。
【0028】
前記ブレーキB−2は、1速及びリバース時に作動するブレーキであり、発進時に係合すると共に、電気モータ3によるエンジンの始動時にスリップ制御する。即ち、車輌は、クラッチC−1を係合すると共にブレーキB−2を係合することにより1速状態となる。該1速状態にあっては、クラッチC−1の係合により、入力軸2の回転が減速されてプラネタリギヤPUのサンギヤS3に伝達され、ブレーキB−2によりキャリヤCR2が停止していることにより、更に減速されてリングギヤR2からカウンタギヤ11に出力される。該1速による車輌の発進時、通常、クラッチ6が切断されると共にエンジンは停止しており、電気モータ3により駆動される。
【0029】
そして、該車輌発進後の上記1速状態でエンジン(出力軸5を図示)が始動される。この際、ブレーキB−2をスリップ制御することにより、キャリヤCR2を回転し、サンギヤS3及びリングギヤR2の回転差を吸収する。
【0030】
上記ブレーキB−2のスリップ制御により、入出力軸間の回転差を吸収した状態で、電気モータ3のトルクを上げると共に、クラッチ6を繋いで、エンジンを始動する。
【0031】
図3は、上記スリップ制御されるブレーキB−2部分を示す図であり、ブレーキ(多板摩擦板)B−2は、ケース9の内スプライン9aに係合する歯を外周に有する外摩擦板(ブレーキプレート)12と、ハブ13のスプライン15に係合する歯を内周に有する内摩擦板(ブレーキディスク)16とが交互に軸方向に並んで配置されており、これら外摩擦板12の先端にスナップリング19で抜止めされたエンドプレート12aが配置されていると共に、油圧ピストン側にプレッシャプレート12bが配置されている。
【0032】
ハブ13は、前記キャリヤCR2のケース20に溶接等により一体に固着されており、該ケース20内には前記キャリヤCR2のピニオンPL,PSが配置されていると共に、ピニオンにはリングギヤR2及びサンギヤS2,S3が噛合している。上記キャリヤケース20には、上記ハブ13の内側にて所定隙間aを隔ててスリーブ21が一体に固着されており、ハブ13及びスリーブ21は、該固定された一端にて上記所定隙間aが閉塞されている。従って、ハブ13とスリーブ21は、同軸状に配置された円筒部材からなり、ハブ13を外周側にしてかつスリーブ21を内周側にして軸方向に平行に延び、スリーブ21の先端21aはハブ13の先端13aより所定長さbだけ長く突出し、かつ僅かに外径方向に折曲している。そして、ケース9の所定位置には、潤滑油を噴射するノズル25が、その噴射口25aを上記所定長さbからなる空間Aに向けて、上記ハブ13とスリーブ21の隙間aに潤滑油を吐出するように配置されている。
【0033】
即ち、スリーブ21の内径側には、前記プラネタリギヤPUを構成するキャリヤCR2、リングギヤR2、サンギヤS2,S3が配置されており、該プラネタリギヤPUは、入力軸2及びロングピニオン軸40等に形成された潤滑油路36a,36bからの潤滑油により潤滑される。
【0034】
前記ハブ13は、図4(A)に示すように、そのスプライン15が所定板厚tのプレス型により成形され、その凹凸は、外周に内摩擦板16の歯と係合するスプライン15として形成されていると共に、内周面にも同様な凹凸部26が全周に亘ってかつ軸方向形成されている。該凹凸部26の凹部26aの底面にはそれぞれかつ軸方向に所定間隔で小孔(貫通孔)27が貫通して多数形成されており、図4(B)に示すように、上記凹部26aは潤滑油Oが溜る油溜りとなり、該油溜り26aの潤滑油Oが上記小孔27を通って、ブレーキB−2の摩擦板12,16に供給される。また、ハブの先端13aは、図3に示すように、上記油溜りとなる凹部26aの端が蓋されるように折曲して、円環状の鍔部となっている。
【0035】
前記ノズル25は、所定角度位置αに1個、例えば上下方向の直径(垂直)線v−vに対してハブ13の正転方向(車輌の前進時に回転する方向)に100°〜120°、好ましくは105°〜112°の範囲に配置される。
【0036】
油圧回路は、図5に示すように、自動変速装置1の入力軸(又はエンジン出力軸)2に連動して駆動される機械式オイルポンプ29と電動オイルポンプ30を有しており、これらポンプによる油圧は、コントローラからの電気信号SUCにより制御されるレギュレータバルブ31により潤滑油圧LPに調圧される。該潤滑油圧LPは、ソレノイドバルブSo1により切換えられるバルブ32によりオイルクーラ35への油路Eと上記ノズル25に導かれるブレーキB−2潤滑用油路Fとに切換えられる。該切換えバルブ32は、該ソレノイドバルブSo1のOFF時にあっては、油路Eからオイルクーラ35を介して自動変速装置1のギヤトレイン用潤滑路36及び電気モータ3の冷却、潤滑路37へ潤滑油を供給し、ソレノイドバルブSo1のON時、上記ブレーキB−2潤滑用油路Fを介してブレーキB−2潤滑用ノズル25に潤滑油を供給する。上記ソレノイドバルブSo1は、コントローラが上記ブレーキB−2をスリップ制御を行う旨の電気信号、例えばエンジンを始動するためのイグニッションコイルへの通電、クラッチ6を接続する旨の信号に連動して、ONされる。また、上記オイルクーラへの油路EとブレーキB−2潤滑油路Fとの間はオリフィス39を介して連通している。
【0037】
本摩擦板潤滑装置は以上のような構成を有するので、車輌走行時は、機械式オイルポンプ29により油圧が発生し、また車輌停止時は、電動ポンプ30により油圧が発生し、レギュレータバルブ31により調圧された潤滑油圧が、油路Eを通ってオイルクーラ35を循環しつつ、自動変速装置1を潤滑(36)すると共に電気モータ3を冷却する(37)。なおこの際、ブレーキB−2にもオリフィス39を介して潤滑油が少量供給される。そして、自動変速装置1の1速においてエンジンを作動する際、ブレーキB−2に所定低圧が供給されて、スリップ制御すると共に、クラッチ6を係合して、電気モータ3によりエンジンが始動される。この際、電気モータ3は所定トルク及び回転数を出力し、クラッチ6をスリップしつつ滑らかにエンジンを始動すると共に、ブレーキB−2をスリップ制御して、入出力軸の回転差を吸収しかつ出力部11に始動ショックの少ない滑らかなトルクを出力する。
【0038】
そして、上記ブレーキB−2がスリップ制御を必要とするタイミングに合せて、ソレノイドバルブSo1がONされて、潤滑油圧LPがブレーキB−2用潤滑油路Fに供給される。該油路Fの潤滑油は、ノズル25の噴射口25aから空間Aに吐出され、ハブ13とスリーブ21との比較的狭い隙間aに殆ど漏すことなく供給される。図4(A)に所定角度位置αにてノズル噴射口25aから供給される潤滑油は、重力とスリップ制御に基づくハブ13及びスリーブ21の回転による遠心力とにより、ハブ13内周面の凹凸部26の凹部26aからなる油溜りに入って軸方向に拡がり、更に上記遠心力により油溜り26a内に張り付いて、小孔27から徐々に摩擦板12,16に向って排出される。小孔27の孔径は、スリップ制御において略々ハブ13が1回転したときに各油溜り26aの潤滑油がなくなるように設定されている。従って、多板ブレーキB−2は、その全周に亘ってかつ軸方向全長に亘って、略々均等にかつ充分な量の潤滑油が供給されて、該ブレーキのスリップ制御が度々生じ、かつ比較的長時間に亘っても、摩擦板12,16の耐久性には影響を与えることはなく、スリップ制御が支障なく行われる。
【0039】
この際、上記油溜りとなる凹部26aは、その先端13aが蓋されており、凹部26aに溜められた潤滑油Oは、遠心力等により先端から飛散することはなく、潤滑油は、無駄になることなく高い効率でブレーキB−2に供給される。また、例えハブ13の回転速度が低く、充分な遠心力が潤滑油Oに作用しなくても、比較的狭い隙間aに拡散した潤滑油は、空間Aから外方に漏れることは少なく、小孔27からブレーキB−2に供給される。
【0040】
また、上記多板ブレーキB−2のスリップ制御中にあっては、切換えバルブ32がブレーキB−2用潤滑油路Fに切換えられて、油路Eを介してギヤトレイン用潤滑油路36への潤滑油の供給は停止されているが、該ギヤトレイン用潤滑油路36へは、その前に充分な潤滑油が供給されており、上記スリップ制御中にあっても、図3に示す潤滑油路36a,36bからプラネタリギヤPUに供給された潤滑油は、遠心力により径方向油路から外径方向飛散され続ける。該回転軸2,40の回転速度等により流量が変化する潤滑油はプラネタリギヤPUの外径側を覆うように配置されているスリーブ21により阻止されて、上記スリーブ21とハブ13との間の油溜り26aに供給されることはない。従って、多板ブレーキB−2には、油路Fを経由したノズル25からの潤滑油のみが供給されることになり、多板ブレーキB−2は、その全周及び全長に亘って均等に行き渡った適正な量の潤滑油供給によりスリップ制御される。
【0041】
エンジンの始動が完了すると、上記ブレーキB−2のスリップ制御が解除されると共に、上記ソレノイドバルブSo1はOFFとなり、ノズル25から大量の潤滑油による摩擦板潤滑は停止され、油路Eに充分な潤滑油が供給されると共に、オリフィス39を介して少量の潤滑油がブレーキB−2に供給される。従って、切換えバルブ32がブレーキB−2用潤滑油路Fに切換えられ、本摩擦板潤滑装置が作動する状態は、スリップ制御等の潤滑必要時に限られ、潤滑油が無駄になることはなく、燃費向上に役立っている。
【0042】
なお、上記説明は、エンジン始動時のブレーキB−2のスリップ制御について説明したが、車輌停止時に、エンジンにより電気モータ3を回転して充電する際にも本摩擦板潤滑装置を同様に作動してもよい。即ち、車輌停止時、1速状態にしてブレーキB−2は、スリップ制御(トルクを有する)又は待機圧状態として発進に備えているが、この際も、ノズル25から充分な量の潤滑油を供給して、ブレーキB−2をスリップして、入出力軸の回転差を吸収する。
【0043】
また、本実施の形態は、ハブ13の内周側にスリーブ21を配置して、潤滑油の飛散を防止して確実に摩擦板に供給するように構成してあるが、上述したエンジン始動時等のハブ13が回転している状態では、遠心力により油溜り26aに潤滑油が保持されるので、スリーブを備えないものでも適用可能である。また、本摩擦板潤滑装置は、ハイブリッド駆動装置の自動変速装置に限らず、例えば先行技術としての前記特許文献1に示すように、エンジンのみを駆動源とする自動変速装置における微係合状態にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 自動変速装置
2 (入力)軸
3 電気モータ
5 エンジン出力軸
6 クラッチ
B−2 多板摩擦板(ブレーキ)
9 ケース
12 外摩擦板
13 ハブ
15 スプライン
16 外摩擦板
21 スリーブ
25 ノズル
26 凹凸部
26a 凹部(油溜り)
27 貫通孔(小孔)
36 ギヤトレイン潤滑路
36a,36b 潤滑油路
40 (ピニオン)軸
PU プラネタリギヤ
a 所定隙間
b 所定長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外摩擦板と内摩擦板とを交互に配置した多板摩擦板と、前記内摩擦板の内周に形成された歯に係合するスプラインを有するハブと、を備えた自動変速装置の摩擦板潤滑装置において、
前記ハブは、プレス型により外周に前記スプラインを形成すると共に内周に凹凸部を形成し、
該凹凸部に向けて潤滑油を吐出するノズルを備え、
前記凹凸部の各凹部を、前記潤滑油が溜まる油溜りとすると共に、該凹部の底面に貫通孔を形成し、
前記ノズルからの潤滑油を、前記凹部からなる油溜りに溜めて、前記貫通孔を通して前記多板摩擦板に供給してなる、
自動変速装置の摩擦板潤滑装置。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記凹凸部の各凹部の底面にそれぞれかつ軸方向に複数個配置され、
潤滑油が、前記貫通孔を通して前記多板摩擦板の全周に亘ってかつ軸方向全長に亘って供給されてなる、
請求項1記載の自動変速装置の摩擦板潤滑装置。
【請求項3】
前記ハブの内周側に、所定隙間を存して、該ハブと一体にスリーブを配置し、
前記ノズルから、前記ハブとスリーブとの間の前記所定隙間に潤滑油を供給してなる、
請求項1又は2記載の自動変速装置の摩擦板潤滑装置。
【請求項4】
前記スリーブの内径側に、プラネタリギヤが配置され、
該プラネタリギヤは、軸に形成された潤滑油路からの潤滑油により潤滑されてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の自動変速装置の摩擦板潤滑装置。
【請求項5】
前記ハブとスリーブは、一端を一体に固定して前記所定隙間が閉塞されると共に、他端を、前記スリーブが前記ハブに対して所定長さ突出し、
前記所定長さ突出した前記スリーブの外径側の空間に向けて潤滑油が噴射されるように前記ノズルを配置してなる、
請求項3又は4記載の自動変速装置の摩擦板潤滑装置。
【請求項6】
前記自動変速装置の入力軸のエンジン出力軸側に、電気モータ及びクラッチを配置し、
前記多板摩擦板が、前記自動変速装置の少なくとも1速時に係合するブレーキであり、
前記電気モータによりエンジンを始動する際、前記ブレーキをスリップ制御して前記自動変速装置の入出力部の回転差を吸収し、
前記ブレーキのスリップ制御にタイミングを合せて前記ノズルから潤滑油を吐出してなる、
請求項1ないし5のいずれか記載の自動変速装置の摩擦板潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172798(P2012−172798A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37170(P2011−37170)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】