説明

自動車用ピラー

【課題】 ピラーの長手方向に対する垂直方向の断面を大きくすることなく、ピラーの剛性を向上きせかつピラーの長手方向に対する垂直方向の断面を小さくするとともに軽量化することが可能な自動車用ピラーを提供する。
【解決手段】 3次元形状の自動車用ピラー10を構成し、超塑性金属材料を用いて形成され、室内側において長手方向に連続した凹部21が形成されたピラーインナ20と、ドレイン60、ハーネス70およびアンテナ線80のうち少なくとも1つを有して成形され、前記ピラーインナ20と前記凹部21において係合する室内用カバー40と、前記ピラーインナ20の前記室内用カバー40と係合する側と反対側で前記ピラーインナ20と係合し、前記ドレイン60、ハーネス70およびアンテナ線80のうち室内用カバー40にて設けられたもの以外を有して成形された係合部材50と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用ピラーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用ピラーは衝突安全性能向上のために、材料の高強度化もしくは、長手方向に対する垂直方向の断面が大きくなる傾向があり、運転席からの視界を狭めてしまうためピラーの細径化が望まれている。そのため、ピラー用材料の高強度化等が進められているが、車体剛性の観点から単純な強度向上による細径化は困難である。
【0003】
また、自動車用のピラー、特にフロントピラーには、アンテナ線、ドレイン、ハーネスなどの付属部品の配線がなされており、ピラーを構成するピラーインナにクリップを用いて接続され、室内用カバーで覆われている。そのため、室内用カバーはそれら付属部品との干渉を避けるため大きく膨らんでしまい、結果としてピラーの長手方向に対する垂直方向の断面を小さくするのが困難である。
【0004】
また、上記ピラーの細径化と合わせての部品軽量化が望まれている。
【特許文献1】特開平2003−205856号公報
【特許文献2】特開平5−319305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、ピラーの長手方向に対する垂直方向の断面を大きくすることなく、ピラーの剛性を向上きせかつピラーの長手方向に対する垂直方向の断面を小さくするとともに軽量化することが可能な自動車用ピラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る自動車用ピラーは、3次元形状の自動車用ピラーを構成し、超塑性金属材料を用いて形成され、室内側において長手方向に連続した凹部が形成されたピラーインナと、ドレイン、ハーネスおよびアンテナ線のうち少なくとも1つを有して成形され、前記ピラーインナと前記凹部において係合する室内用カバーと、前記ピラーインナの前記室内用カバーと係合する側と反対側で前記ピラーインナと係合し、前記ドレイン、ハーネスおよびアンテナ線のうち室内用カバーにて設けられたもの以外を有して成形された樹脂製の係合部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した本発明に係る自動車用ピラーは、3次元形状の自動車用ピラーを構成し、超塑性金属材料を用いて成形され、室内側において長手方向に連続した凹部が形成されたピラーインナを有するため、凹部形状を有するピラーインナの稜線が増え、同強度、同板厚の材料との比較においても捻りモーメントの向上が可能となる。また、ピラーインナの両側で室内用カバーと係合部材が係合されることにより曲げ強度が向上する。さらにはドレイン、ハーネスまたはアンテナ線が一体となった室内用カバーとすることで、これまで、ドレイン、ハーネス、アンテナ線をピラーインナにクリップにて取り付けており、その体積分、室内カバーとピラーインナとが成す空間を大きくとる必要があったが、その空間を確保する必要がなくなり、ピラーの細径化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0009】
図1は本発明を適用した自動車のピラー近傍を示す概略図、図2は従来のピラーの長手方向に対する横断面図である。
【0010】
本発明に係る自動車用ピラー10は、図1に示すように、フロントガラス11の両サイドに配置される部材である。
【0011】
従来のピラー100は、図2に示すように、少なくともピラーアウタ101、ピラーインナ102からなる閉断面を有している。また、ピラーアウタ101とピラーインナ102の間には、一般的にレインフォース103が挟まれている。このようなピラー100の部品に対してハーネス104、ドレイン105、アンテナ線106がクリップ等の機械的接合手段により取り付けられ、これらの部品に干渉することなく室内用カバー107がピラーインナ102を覆う形態で接合されるのが一般的である。
【0012】
図3に本発明の実施形態に係る自動車用ピラーの横断面図を示す。
【0013】
本発明に係る自動車用ピラー10は、長手方向に垂直な断面においてT型形状の凹部21を有するピラーインナ20を有しており、ピラーインナ20の長手方向に延びる両端部22が、凹部21が形成される側と反対側でピラーアウタ30と連結されている。なお、ピラーインナ20の凹部21はT型形状ではなくても、長手方向に垂直な断面において凹部21と連続して凹部21の深さ方向と交差する方向に後述する塑性変形による変形部を有していれば、他の形状でも良く、例えばL字型や十字型とすることもできる。
【0014】
ピラーアウタ30は、例えば板厚0.8mmの自動車用軟鋼板であり、ピラーインナ20は、例えば超塑性現象を発現する2相ステンレス材で、加工前の板厚1.2mmのものが使用される。また、前述のピラーインナ20の材料として、他の超塑性金属材料を使用することもできる。超塑性金属材料としては、アルミ、チタン、鉄、マグネシウムの元素を主とする超塑性金属材料があり、例えば上記材料において急冷凝固による微細結晶粒を有するアルミ材料、微細析出物が均一分散されかつ結晶粒を微細に制御したチタン、鉄系合金等が挙げられる。
【0015】
ピラーインナ20の成形方法は、超塑性金属材料をそれぞれの材料の変態温度もしくは再結晶化温度から、これらの温度から300℃を減じた温度までの範囲の任意の温度に材料を加熱し、さらに加熱装置を備えた可動型による熱間成形もしくは、不活性ガスを使用したブロー成形装置により材料に塑性変形を与えて所定の形状に成形して行う。この場合、歪速度の範囲は10−5〜10S−1の範囲とし、少なくとも50%を越える伸びが得られる加熱温度と歪速度領域での加工が必要である。本実施形態における2相ステンレス合金においては、加熱温度750℃、歪速度10−3−1にてブロー成形を実施する。その際の流体の成形圧は、例えば約10Mpaである。このような成形方法により、これまで複雑な加工および複数回の加工で成形されていた形状を容易に加工することが可能となる。
【0016】
ピラーインナ20の凹部21が形成される側には、凹部21に嵌合して係合される凸部41を有する室内用カバー40が設けられる。室内用カバー40の凸部41には、ドレイン60、ハーネス70およびアンテナ線80のうち少なくとも1つが一体的に成形され、本実施形態では例えばアンテナ線80が設けられている。室内用カバー40の材質には、曲げ弾性率700Mpaポリプロピレン材を使用している。
【0017】
ピラーインナ20の凹部21が形成される側の反対側には、凹部21を挟むように2つの溝部22が形成され、この溝部22に嵌合して係合される係合部材50が設けられている。
【0018】
係合部材50の材質には、室内用カバー40と同様のポリプロピレン材を使用している。なお、室内用カバー40および係合部材50には、他の樹脂等を材料として用いてもよい。
【0019】
係合部材50の溝部22に嵌る部位には、ドレイン60、ハーネス70およびアンテナ線80のうち室内用カバー40に設けられたもの以外が、ピラーインナ20と係合する部位近傍に配置して内蔵されており、本実施形態では、ドレイン60およびハーネス70が設けられている。
【0020】
上述のように、ピラー10は、超塑性金属材料を用いて成形され、室内側において長手方向に連続した凹部21が形成されたピラーインナ20を有するため、ピラーインナ20の稜線が増え、同強度、同板厚の材料との比較においても捻りモーメントの向上が可能となる。
【0021】
また、ピラーインナ20の両側で室内用カバー40および係合部材50が係合されているため、ピラー10全体での曲げ強度が向上する。
【0022】
また、ピラー10の長手方向に対して垂直な断面のピラーインナ20の凹部21がT字形状有し、もしくは長手方向に垂直な断面において凹部21と連続して凹部21の深さ方向と交差する方向に変形部が形成された他の形状を有することにより、ピラーインナ20の稜線が増えて捻りモーメントを向上させることができ、また室内用カバー40および係合部材50とピラーインナ20との係合力を高めて、ピラー10全体での曲げ強度をさらに向上させることができる。
【0023】
また、前記ピラーインナ20が、ドレイン60、ハーネス70およびアンテナ線80のうち少なくとも1つ(本実施形態ではアンテナ線80)と一体的に設けられた室内用カバー40と、ドレイン60、ハーネス70およびアンテナ線80のうち室内用カバー40にて一体的に設けられたもの以外(本実施形態ではドレイン60およびハーネス70)を内蔵した係合部材50とがピラーインナ20と係合しているため、これまで、ドレイン60、ハーネス70、アンテナ線80をピラーインナ20にクリップにて取り付けており、その体積分、室内カバー40とピラーインナ20との間に形成される空間を大きくとる必要があったが、その空間を確保する必要がなくなり、ピラー10の細径化が可能となり、部品軽量化も可能となる。
【0024】
また、ピラーインナ20を介して室内用カバー40と相対する係合部材50に設けられたドレイン60、ハーネス70またはアンテナ線80がピラーインナ20と係合する部位近傍に配置されることにより、車両室内側にドレイン60、ハーネス70またはアンテナ線80を取り付けるためのスペースを最小限にすることができ、ピラー10の長手方向に対して垂直な断面の室内用カバー40までを含む面積を最小限にすることが可能となる。
【0025】
また、本実施形態により、ピラー10の長手方向に対する断面は図2の従来構浩と比較した場合、少なくとも断面積で10%以上の縮小効果が得られる。さらには、従来の構造に比べて捻りモーメントで10%、曲げ強度においても10%程度の向上が可能である。
【0026】
また、図2に示す従来構造におけるハーネス70、ドレイン60およびアンテナ線80と、ピラーインナ20および室内用カバー40との接合では、作業工程数が少なくとも3工程以上あるのに対して、本発明の実施形態では作業工程数は2工程となり、大幅な作業工程数の低減が可能である。
【0027】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、ピラーインナ20の凹部21の形状は、長手方向に連続的に変化してもよく、また、レインフォース等の他の部品が取り付けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した自動車のピラー近傍を示す概略図である。
【図2】従来のピラーの長手方向に対する横断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る自動車用ピラーの横断面図を示す。る。
【符号の説明】
【0029】
10 自動車用ピラー、
20 ピラーインナ、
21 凹部、
22 溝部、
30 ピラーアウタ、
40 室内用カバー、
41 凸部、
50 係合部材、
60 ドレイン、
70 ハーネス、
80 アンテナ線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元形状の自動車用ピラーを構成し、超塑性金属材料を用いて形成され、室内側において長手方向に連続した凹部が形成されたピラーインナと、
ドレイン、ハーネスおよびアンテナ線のうち少なくとも1つを有して成形され、前記ピラーインナと前記凹部において係合する室内用カバーと、
前記ピラーインナの前記室内用カバーと係合する側と反対側で前記ピラーインナと係合し、前記ドレイン、ハーネスおよびアンテナ線のうち室内用カバーにて設けられたもの以外を有して成形された樹脂製の係合部材と、
を有することを特徴とする自動車用ピラー。
【請求項2】
前記ピラーインナの凹部の、前記ピラーの長手方向に対して垂直な断面の形状が、前記長手方向に垂直な断面において凹部の深さ方向と交差する方向に当該凹部と連続して変形部を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用ピラー。
【請求項3】
前記ドレイン、ハーネスおよびアンテナ線のうち前記係合部材に設けられた部品が、前記係合部材において前記ピラーインナと係合する部位近傍に配置されていることを特徴とする請求項請求項1または2に記載の自動車のピラー。
【請求項4】
前記ピラーインナには、アルミ、チタン、鉄、マグネシウムの元素を主元素とする超塑性合金材料が使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用ピラー。
【請求項5】
インナバネルの凹部は、塑性変形時の歪速度を10−5〜10s−1の範囲とし、塑性変形時の超塑性金属材料は、超塑性金属材料の変態温度もしくは再結晶化温度から、これらの温度から300℃を減じた温度までの範囲の任意の温度に加熱されて塑性加工されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用ピラー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−38813(P2007−38813A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224474(P2005−224474)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】