説明

自動車用内装品の製造方法

【課題】表皮の厚みを制御可能な表皮材及び自動車用内装品を提供する。
【解決手段】
熱可塑性シート31を真空成形して所定の形状に賦形する工程を備えた自動車用内装品の製造方法において、熱可塑性シート31を昇温して可塑化し、当該可塑化した熱可塑性シート31に部分的に気体を吹き付けて部分的に性状を変化させ、その後に熱可塑性シート31を雌型成形型17に装着して真空成形を行うことを特徴とするとする自動車用内装品の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルやドアトリム等の自動車用内装品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム等の自動車用内装品は、硬質材料からなる芯材と、発泡ウレタン樹脂等からなる発泡層と、塩化ビニル系樹脂等からなる表皮材とがこの順番に積層された樹脂成型品である。このうち表皮材は、従来から、パウダースラッシュ成形、真空成形などの成形法で製造されている。特に真空成形法は、金型製作コストが安いこと、部分的デザイン変更が容易であること、大型のサイズのものや薄肉のものの成形が可能であることなどから、表皮材の成形に広く用いられている。
【0003】
真空成形法とは、シート状の熱可塑樹脂を一定温度に加熱し、目的の形状を有した成形型に押圧し、成形型に設けられた多数の小さな穴から熱可塑樹脂と成形型の間の空気を吸引することにより、熱可塑樹脂を所望の3次元形状の製品に成形する方法である。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−153550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、真空成形法は、成形品の肉厚を制御することが困難であり、肉厚を一定にすることが難しい。真空成形によって任意の部位を希望の肉厚にすることはさらに困難である。即ち、成形品の厚みを局部的に薄くしたり、局部的に厚くしたりする事は難しい。
特に自動車用内装品の場合、表皮材の厚みにより製品表面の硬度が大きく左右される。そのため、商品として付加価値を持たせるために、部分的に硬度を操作すること、例えば乗員のよく触れる部分は表皮材を薄くして柔らかくしたりする事が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、上記した問題点を解決するものであり、表皮の厚みを制御可能な表皮材及び自動車用内装品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために種々検討した結果、以下のように考察した。真空成形法による成形は、成形型が3次元形状に変化している。また、成形型は、成形性と脱型性を考慮して80〜20℃程度の温度となっている。つまり、一定の厚みの熱可塑性シートを加熱し、真空成形を行うと、加熱された熱可塑性シートが成形型に接触し、その接触部位は成形型に冷やされて伸びなくなり、製品内では厚い表皮部位となる。続いて成形型の孔から成形型と熱可塑性シートとの間の空気を吸引することにより、成形型と接触していない部位が伸ばされる。そして、その引き伸ばされた部位は、成形型と接触し冷却されて固化する。即ち、吸引により伸ばされた部位は製品内では薄い表皮部位となる。以上の知見から、発明者は、局所的に表皮材の厚みを制御する為には、任意的に可塑状態の表皮の温度を調節し、伸びやすさを制御することが必要であると考察した。
【0008】
このような考察のもと試行錯誤を繰り返し、導き出された請求項1に記載の発明は熱可塑性シートを真空成形して所定の形状に賦形する工程を備えた自動車用内装品の製造方法において、熱可塑性シートを昇温して可塑化し、当該可塑化した熱可塑性シートに部分的に気体を吹き付けて部分的に性状を変化させ、その後に熱可塑性シートを真空成形型に装着して真空成形を行うことを特徴とするとする自動車用内装品の製造方法である。
【0009】
かかる方法によれば、当該可塑化した熱可塑性シートに部分的に気体を吹き付けて部分的に性状を変化させる。
即ち、例えば、熱可塑性シートに部分的に熱可塑性シートよりも低い温度に冷却した気体を吹き付けることによって、冷却した気体を吹き付けた部分は、より伸びにくくなる。即ち、真空成形を行うにあたって、冷却した気体を吹き付けた部分は、他の部分に比べて伸び速度が下がる。即ち、厚みの減少を抑制し、他の部分に比べて厚くすることができる。
また、例えば、熱可塑性シートに部分的に熱可塑性シートよりも高い温度に加熱した気体を吹き付けることによって、吹き付けた部分は、より伸びやすくなる。即ち、真空成形を行うにあたって、吹き付けた部分は、他の部分に比べて伸び速度が上がる。それ故に、局所的に厚みを薄くすることができる。
そして、例えば、部分的に熱可塑性シートよりも高い温度に加熱した気体と、部分的に熱可塑性シートよりも低い温度に加熱した気体と、を併用し、吹き付けることによって、所望の厚みに制御可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、気体は常温又は常温よりも低い温度の空気であり、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことが無い程度に弱いものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用内装品の製造方法である。
【0011】
ここでいう「実質的に伸ばすことが無い」とは、気体の風圧のみでは、熱可塑性シートが伸びないことを表す。
【0012】
かかる方法によれば、気体は常温又は常温よりも低い温度の空気であり、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことが無い程度に弱いものである。即ち、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことが無い程度に弱いものであるため、空気を吹き付けることによる伸びが生じない。即ち、真空成形を行うにあたって、伸びすぎて、所望の厚さよりも過剰に薄くなることを防止することが可能である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、真空成形型は、平面視した際に凹凸形状を有し、凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位があり、熱可塑性シートを真空成形型に装着する際に、前記変化が大きい部位となる領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項2に記載の自動車用内装品の製造方法である。
【0014】
例えば、均一の厚みの自動車用内装品を製造したい場合において、真空成形型に凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位がある場合、上述したように均一の厚みの自動車用内装品の製造は困難である。かかる方法によれば、熱可塑性シートを真空成形型に装着する際に、前記変化が大きい部位となる領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けるため、前記変化が大きい部位となる領域は他の部位よりも冷却され、真空成形の際の吸引により変化が大きい部位となる領域は他の部位より伸びず、深い部位も浅い部位もほぼ同じ程度に伸ばすことが可能となる。即ち、均一の厚みが得られる。
【0015】
自動車用内装品は、ドアトリムの表皮材であり、前記ドアトリムは、肘置き部と側面構成部を有し、肘置き部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けることが好ましい(請求項4)。
【0016】
自動車用内装品は、インストルメントパネルの表皮材であり、前記インストルメントパネルは、機器装着部と天面形成部を有し、機器装着部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けることが好ましい(請求項5)。
【0017】
請求項6に記載の発明は、気体は常温又は常温よりも高い温度の空気であり、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことができる程度に強いものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用内装品の製造方法である。
【0018】
ここでいう「実質的に伸ばすことができる」とは、気体の風圧のみによって、熱可塑性シートを伸ばすことができることを表す。
【0019】
かかる方法によれば、気体は常温又は常温よりも高い温度の空気であり、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことができる程度に強いものである。即ち、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことができる程度に強いものであるため、空気を吹き付けることによって、熱可塑性シートは伸ばされている。即ち、真空成形を行うにあたって、成形型に接触して、熱可塑性シートが固化する前にある程度伸びているので、所望の厚さよりも過剰に厚くなることを防止することが可能である。
【0020】
請求項7に記載の発明は、真空成形型は、平面視した際に凹凸形状を有し、凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位があり、熱可塑性シートを真空成形型に装着する際に、前記変化が小さい部位となる領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項6に記載の自動車用内装品の製造方法である。
【0021】
例えば、均一の厚みの自動車用内装品を製造したい場合において、真空成形型に凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位がある場合、上述したように均一の厚みの自動車用内装品の製造は困難である。かかる方法によれば、熱可塑性シートを真空成形型に装着する際に、前記変化が小さい部位となる領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けるため、変化が小さい部位となる領域は他の部位よりも加熱され、真空成形の際の吸引により変化が小さい部位となる領域は他の部位より伸び易く、深い部位も浅い部位もほぼ同じ程度に伸ばすことが可能となる。即ち、均一の厚みが得られる。
【0022】
自動車用内装品は、ドアトリムの表皮材であり、前記ドアトリムは、肘置き部と側面構成部を有し、側面構成部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けることが好ましい(請求項8)。
【0023】
自動車用内装品は、インストルメントパネルの表皮材であり、前記インストルメントパネルは、機器装着部と天面形成部を有し、天面形成部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けることが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0024】
本発明の自動車用内装品の製造方法によれば、当該可塑化した熱可塑性シートに部分的に気体を吹き付けて部分的に性状を変化させる。即ち、例えば、熱可塑性シートに部分的に熱可塑性シートよりも高い温度に加熱した気体を吹き付けることによって、吹き付けた部分は、より伸びやすくなる。即ち、真空成形を行うにあたって、吹き付けた部分は、他の部分に比べて伸び速度が上がる。それ故に、局所的に厚みを薄くすることができる。また、例えば、熱可塑性シートに部分的に熱可塑性シートよりも低い温度に冷却した気体を吹き付けることによって、冷却した気体を吹き付けた部分は、より伸びにくくなる。即ち、真空成形を行うにあたって、冷却した気体を吹き付けた部分は、他の部分に比べて伸び速度が下がる。即ち、厚みの減少を抑制し、他の部分に比べて厚くすることができる。
そして、例えば、部分的に熱可塑性シートよりも高い温度に加熱した気体と、部分的に熱可塑性シートよりも低い温度に加熱した気体と、を併用し、吹き付けることによって、所望の厚みに制御可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の製造方法によって製造されるドアトリムの概念図であり、一部が破断断面図となっている。
【図2】本発明の第1実施形態の成形装置の概念図である。
【図3】本発明の第1実施形態の成形方法の説明図であり、(a)熱可塑性シートの固定手段への設置時、(b)熱可塑性シートを加熱処理時、(c)熱可塑性シートに対して局所的に圧縮空気を噴射時、(d)雌型成形型に熱可塑性シートを設置時、(e)冷却処理時、(f)表皮材の脱型時である。
【図4】図3の成形方法を表したフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態の成形工程における熱可塑性シートの挙動を表す概念図である。
【図6】本発明の第2実施形態の成形工程における熱可塑性シートの挙動を表す概念図である。
【図7】本発明の製造方法によって製造されるインストルメンタルパネルの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、インストルメントパネルやドアトリムやコンソールボックス等の自動車用内装品の製造方法に関するものである。特にドアトリムやインストルメントパネルを製造するにあたって好適である。そこで、以下の説明では、ドアトリム50を製造する際の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の製造方法を用いたドアトリム50は、図1のように従来と同様、硬質の芯材101と、ポリウレタン発泡体等からなる発泡層102と、表皮材30とがこの順に積層されている。
本発明の製造方法は、これらの中でも、表皮材30の成形方法に特徴を有する。
ドアトリム50は、図1のように肘置き部51と側面構成部52を有している。肘置き部51は、使用者の肘を載置可能な部位であり、その周囲に配される側面構成部52に対して突出している。即ち、表皮材30を成形するにあたって、肘置き部51は、成形型の凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位となり、側面構成部52は、成形型の凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位となる。
【0028】
本発明の表皮材30は、真空成形法を用いて成形する。
真空成形法は、成形型に雄型の金型を用いる雄型成形(以下、ドレープフォーミングとも言う)と、成形型に雌型の金型を用いる雌型成形(以下、ストレートフォーミングとも言う)とに分類されるが、本発明はいずれにおいても使用できる。本実施形態では、説明の都合上、キャビティを有した雌型の成形型を使用する場合について、説明する。即ちストレートフォーミングについて説明する。
【0029】
本発明の製造方法の説明に先立ち、まず表皮材30を成形に用いる成形装置1について説明する。
【0030】
成形装置1は、図2に示すように、可塑化手段2と、温度調節手段3と、第2冷却手段5と、成形型6と、固定部材12を有している。
【0031】
以下に、成形装置1の各構成について説明する。
まず、可塑化手段2について説明する。
可塑化手段2は、被可塑物である熱可塑性シート31を可塑状態にするものである。可塑化手段2は、2枚の板状のヒーター7、8を有している。ヒーター7、8は一方に対して所定の間隔を空けて平行に配されている。ヒーター7、8間には、熱可塑性シート31の出し入れが可能となっている。ヒーター7、8は、熱可塑性シート31の大きさよりも大きく熱可塑性シート全体を加熱可能となっている。ヒーターは公知のヒーターを採用可能であるが、遠赤外線を利用したセラミックヒーターであることが好ましい。
【0032】
続いて、温度調節手段3について説明する。
温度調節手段3は、所定の温度に制御された圧縮空気を噴射することが可能な装置である。温度調節手段3は、冷却ノズル10を有している。その冷却ノズル10は、冷却ノズル10の先端(噴射側)に向かうにつれてテーパー状に先細りしており、局所的に圧縮空気を噴射することが可能となっている。また、温度調節手段3は、噴射量及び噴射速度を制御可能である。即ち、成形時において、熱可塑性シート31の所望の位置に噴射量及び噴射速度で噴射可能となっている。
【0033】
続いて、第2冷却手段5について説明する。
第2冷却手段5は、所定の温度に制御された冷却媒体を噴霧可能な装置である。第2冷却手段5は、噴霧ノズル11を有している。その噴霧ノズル11は、噴霧ノズル11の先端(噴霧側)に向かうにつれてテーパー状に広がっており、噴出部分には複数の噴霧孔が設けられている。即ち、噴霧ノズル11は、噴霧孔から広範囲に冷却媒体を噴霧可能となっている。用いる冷却手段としては、特に限定されないが、例えば、水を用いることができる。
【0034】
続いて、成形型6について説明する。
成形型6は、キャビティ20を有した雌型成形型17と、真空ポンプ18と、雌型成形型17のキャビティ20と真空ポンプ18とを結んだ空気吸引通路21と、を有している。
【0035】
雌型成形型17は、所望の表皮材の形状とほぼ同一形状を有したキャビティ20を有しており、表皮材30の形状を決定する部材である。
即ち、雌型成形型17は、凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位(成形後、肘置き部51に対応)と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位(成形後、側面構成部52に対応)を有している。
また、キャビティ20には複数の小孔22を有しており、その小孔22は、空気吸引通路21と接続されている。図1では、理解を容易にする為、小孔22の数を2つとして表したが、実際は多数箇所設けられている。
また、雌型成形型17は、温度調節機能を有しており、温調水を循環させることによって、所望の温度に制御可能となっている。
【0036】
真空ポンプ18は、成形時に熱可塑性シート31と雌型成形型17との間の隙間の空気を吸引するものであり、ロータリーポンプ等の公知ものが使用できる。
【0037】
空気吸引通路21は、成形時に熱可塑性シート31と雌型成形型17との間の隙間に存在する空気が通過する通路であり、真空ポンプ18に接続されている。
【0038】
固定部材12は、熱可塑性シート31を固定する部材である。本実施形態の固定部材12は、2つのクランプ15、16を有している。
クランプ15、16は所定の間隔に配されており、少なくとも、左右方向及び/又は前後方向と、上下方向に移動可能となっている。クランプ15、16は、熱可塑性シート31を固定可能となっており、クランプ15、16の間隔は、熱可塑性シート31の間隔によって決まる。
以上が、本実施形態の成形装置1の構成である。
【0039】
次に、本実施形態に係る自動車用内装品の製造方法について、図4のフローチャートを基準に説明する。
【0040】
まず、準備工程を行う。
熱可塑性シート31をクランプ15、16に設置する(図3(a))(STEP1)。
熱可塑性シート31は、文字通りシート状の形状をしている。熱可塑性シート31は、その材質が熱可塑性樹脂であれば、特に限定されるものではないが、例えば、オレフィン系エラストマー(TPO)樹脂やポリ塩化ビニル(PVC)樹脂とABS樹脂の複合樹脂などが採用できる。
その後、クランプ15、16に固定した熱可塑性シート31をヒーター7、8同士の間に挿入し、目標温度まで加熱する(図3(b))(STEP1)。即ち、熱可塑性シート31を可塑状態にする。
この時の目標温度は熱可塑性シート31の可塑温度によって異なるが、可塑温度以上が好ましい。例えば、TPO樹脂の場合、120℃から180℃に加熱することが好ましく、140℃から160℃に加熱することがより好ましい。本実施形態では150℃で加熱している。
以上が準備工程である。
【0041】
続いて、前処理工程に移る。
可塑状態になった熱可塑性シート31に冷却した圧縮空気を所定時間の間、局所的に噴射する(図3(c))(STEP5)。
この時の圧縮空気の条件は、熱可塑性シート31の温度未満であれば特に限定されないが、−5℃〜40℃であることが好ましく、0℃〜35℃であることがより好ましい。5℃〜30℃であることが特に好ましい。
また、圧縮空気の噴射時間は1秒から10秒であることが好ましく、1秒から3秒であることがより好ましい。
熱可塑性シート31の圧縮空気の噴射部位の温度を他の部位の温度の10〜40%低下させることが好ましい。
また、熱可塑性シート31の圧縮空気の噴射部位の温度を可塑温度以上に維持していることが好ましい。
【0042】
ここで、圧縮空気の噴射位置について詳説する。
可塑状態の熱可塑性シート31は熱を帯びていることによって、可塑性を有している。即ち、熱を奪うことによって、硬化する。上述したように圧縮空気は、熱可塑性シート31の温度より低い温度になっており、冷却機能を発揮する。即ち、可塑状態の熱可塑性シート31に対して伸び率を抑えたいところに部分的に噴射することによって、伸び率を低く抑えることができる。本実施形態では、雌型成形型17の最も底が深い位置(ドアトリム50の腕置き部51)の投影面上に噴射している。それ故に表皮材30の伸びを均一にすることができる。
また、この時の圧縮空気の風圧は熱可塑性シート31を実質的に伸ばすことが無い程度となっている。ここでいう「実質的に伸ばすことが無い」とは、圧縮空気の風圧のみでは、熱可塑性シートが伸びないことを表す。
以上が、前処理工程である。
【0043】
続いて、成形工程に移る。
所定の温度に制御した雌型成形型17に可塑状態の熱可塑性シート31を押し当てる(図3(d))。
この時、あらかじめ雌型成形型17に温調水を循環させ、雌型成形型17の温度は40〜60℃に制御することが好ましく、45℃〜55℃に制御していることがより好ましい。
【0044】
そして、雌型成形型17に可塑状態の熱可塑性シート31を押し当てながら、同時に空気吸引通路21から熱可塑性シート31と雌型成形型17の間の空気を吸引する(STEP8)。成形型の形状に重力と吸引力により、雌型成形型17内に熱可塑性シート31がはまり込む(図3(d)から図3(e))。
【0045】
この時の熱可塑性シート31の挙動について図5を用いて詳説する。なお、理解を容易にするために、圧縮空気を噴射した位置を黒ベタで表す。圧縮空気を噴射した位置を冷却部位とも表す。
まず、熱可塑性シート31を雌型成形型17に押し当てて、吸引し始めると、熱可塑性シート31の自重によりドローダウンし、クランプ15、16のほぼ中央を最下端として下がる。(図5(a)から図5(b))
その後、圧縮空気を噴射した位置(以下、冷却部位とも言う)は、他の部位に比べて伸び速度が低いため、最下端が中心よりも冷却部位側に(左側)にずれて下がり、雌型成形型17のキャビティ20の壁面に接触する(図5(b)から図5(c))。そして、キャビティ20の壁面との接触部位は雌型成形型17に冷却されて、雌型成形型17に固定される。その後、接触部位以外の部位が、さらに吸引されて伸ばされて、雌型成形型17のキャビティ20内に行き渡る(STEP9)。
【0046】
雌型成形型17のキャビティ20内に可塑状態の熱可塑性シート31が行き渡ると第2冷却手段5を雌型成形型17上に設置し、冷却水を霧状に噴霧することで熱可塑性シート31を冷却する(図3(e))(STEP10)。
この時、冷却水の温度は雌型成形型17の温度よりも低ければ特に限定されるものではないが、0℃から10℃であることが好ましい。
【0047】
冷却後、固化した表皮材30の表面に付着した冷却水を圧縮空気で吹き飛ばして(STEP11)、脱型する(図3(f))(STEP12)。
以上が、成形工程である。
【0048】
その後、このように成形された表皮材30を、公知の手法によって、芯材101と一体化させ、発泡層102を注入し、自動車用内装品に加工する。
【0049】
本実施形態の製造方法を用いると、所望の厚さに制御でき、例えば、均一の表皮材30を成形できる。
【0050】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様のものは同じ付番を付して説明を省略する。
【0051】
第2実施形態の製造方法は、第1実施形態とは前処理工程が異なる。
【0052】
第2実施形態の前処理工程では、可塑状態になった熱可塑性シート31に加熱した圧縮空気を所定時間の間、局所的に噴射する。
この時の圧縮空気の条件は、熱可塑性シート31の温度以上であれば特に限定されないが、60℃〜160℃であることが好ましく、60℃〜155℃であることがより好ましい。60℃〜150℃であることが特に好ましい。
また、圧縮空気の噴射時間は1秒から10秒であることが好ましく、1秒から3秒であることがより好ましい。
熱可塑性シート31の圧縮空気の噴射部位の温度を他の部位の温度の10〜40%上昇させることが好ましい。
この時の圧縮空気の風圧は、第1実施形態の前処理工程の圧縮空気の風圧よりも大きい。言い換えると、第2実施形態の方が噴出の勢いが強い。具体的には、この時の圧縮空気の風圧は、熱可塑性シート31を実質的に伸ばすことができる程度となっている。
ここでいう「実質的に伸ばすことができる」とは、圧縮空気の風圧のみによって、熱可塑性シートが伸ばすことができることを表す。
【0053】
ここで、圧縮空気の噴射位置について詳説する。
可塑状態の熱可塑性シート31に勢いよく圧縮空気を噴射する。圧縮空気の勢いによって、熱可塑性シート31が伸ばされる。即ち、可塑状態の熱可塑性シート31に対して伸び率を高くしたいところに部分的に噴射することによって、伸び率を高くすることができる。また、圧縮空気が噴射された部分は熱可塑性シート31の厚みが薄くなっている。本実施形態では、雌型成形型17の最も底が浅い位置(ドアトリム50の側面構成部52)の投影面上に噴射している。それ故に表皮材30の伸びを均一にすることができる。
【0054】
加熱した圧縮空気を噴射した場合の成形工程の熱可塑性シート31の挙動について図6を用いて詳説する。なお、理解を容易にするために、圧縮空気を噴射した位置を黒ベタで表す。圧縮空気を噴射した位置を加熱部位とも表す。
まず、熱可塑性シート31を雌型成形型17に押し当てて、吸引し始めると、熱可塑性シート31の自重によりドローダウンするが、圧縮空気を噴射した位置(以下、加熱部位と言う)は、圧縮空気により伸ばされており、他の部位に比べて伸び速度が高いため、最下端が中心よりも加熱部位側に(右側)にずれて下がり、雌型成形型17のキャビティ20の壁面に接触する(図6(a)から図6(b))。
そして、キャビティ20の壁面との接触部位は雌型成形型17に冷却されて、雌型成形型17に固定される(図6(b)から図6(c))。その後、接触部位以外の部位が、さらに吸引されて伸ばされて、雌型成形型17のキャビティ20内に行き渡る(図6(c)から図6(d))。
【0055】
上記した実施形態ではドアトリム50について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、インストルメントパネルでも適用できる。具体的には、インストルメントパネル60は、図7のように、機器装着部61と天面形成部62を備えている。そして、上記した実施形態において、機器装着部61が肘置き部51に対応し、天面形成部62が側面構成部52に対応する。即ち、第1実施形態では、前処理工程に圧縮空気による冷却処理において、機器装着部61に冷却された圧縮空気を局所的に噴射する。第2実施形態では、前処理工程に圧縮空気による加熱処理において、天面形成部62に加熱された圧縮空気を局所的に噴射する。
【0056】
上記した実施形態では前処理工程に圧縮空気による加熱処理のみ又は冷却処理のみを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、加熱処理と冷却処理を併用してもよい。即ち、伸び率を高めたい位置には加熱された圧縮空気を局所的に噴射し、伸び率を低く抑えたいところに冷却された圧縮空気を局所的に噴射してもよい。
【実施例】
【0057】
本発明の具体的な実施例および実施例に対する比較例の通常成形の成形手順と、これらの評価結果を説明する。
【0058】
〔実施例1〕
以下の手順により、表皮材30を成形した。
まず、熱可塑性シート31をクランプ部材15、16にセットした。その後、ヒーター7、8の間の加熱空間に熱可塑性シート31を挿入し、150℃まで加熱した。また、同時に、雌型成形型17に温調水を循環させ、50℃に温調した。なお、雌型成形型17にはアルミ製の成形型を用いた。なお、熱可塑性シート31には厚み1.4mmのTPOシートを用いた。
その後、0.6MPa、約15℃の条件で圧縮空気を冷却ノズル10から熱可塑性シート31に2秒間噴射して局所的に表皮温度を約100℃まで冷却した。
その後、冷却した熱可塑性シート31を雌型成形型17に押し当て、同時に雌型成形型17側から熱可塑性シート31と雌型成形型17の間の空気を吸引した。雌型成形型17の内部のキャビティ20内に重力により、熱可塑性シート31が満たされるのを確認した後、約10℃の冷却水を霧状に噴霧し、冷却した。冷却後、固化した表皮の表面に付着した冷却水を圧縮空気で吹き飛ばし、脱型した。
【0059】
〔比較例1〕
実施例1に準じて、表皮材を成形したが、比較例1においては、表皮材を加熱後、圧縮空気で表皮材を局所的に冷却しなかったことが、実施例1と異なっていた。
【0060】
〔厚み測定〕
実施例1及び比較例1の表皮材を部分的に切り出して、0.01mmまで測定可能なダイヤルシックネスゲージで測定した。
【0061】
測定結果を表1に記す。なお、理解を容易にするため、実施例1の平均厚みで規格化している。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1の表皮材は比較例1の表皮材よりも最小厚みが厚くなり、表皮材の厚みが均一化していた。
【符号の説明】
【0064】
6 成形型
31 熱可塑性シート
50 ドアトリム
51 肘置き部
52 側面構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性シートを真空成形して所定の形状に賦形する工程を備えた自動車用内装品の製造方法において、
熱可塑性シートを昇温して可塑化し、当該可塑化した熱可塑性シートに部分的に気体を吹き付けて部分的に性状を変化させ、その後に熱可塑性シートを真空成形型に装着して真空成形を行うことを特徴とするとする自動車用内装品の製造方法。
【請求項2】
気体は常温又は常温よりも低い温度の空気であり、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことが無い程度に弱いものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項3】
真空成形型は、平面視した際に凹凸形状を有し、凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位があり、
熱可塑性シートを真空成形型に装着する際に、前記変化が大きい部位となる領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項2に記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項4】
自動車用内装品は、ドアトリムの表皮材であり、前記ドアトリムは、肘置き部と側面構成部を有し、肘置き部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項5】
自動車用内装品は、インストルメントパネルの表皮材であり、前記インストルメントパネルは、機器装着部と天面形成部を有し、機器装着部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも低い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項6】
気体は常温又は常温よりも高い温度の空気であり、気体の風圧は熱可塑性シートを実質的に伸ばすことができる程度に強いものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項7】
真空成形型は、平面視した際に凹凸形状を有し、凹凸の深さ又は高さの変化が大きい部位と凹凸の深さ又は高さの変化が小さい部位があり、
熱可塑性シートを真空成形型に装着する際に、前記変化が小さい部位となる領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項6に記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項8】
自動車用内装品は、ドアトリムの表皮材であり、前記ドアトリムは、肘置き部と側面構成部を有し、側面構成部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項6又は7に記載の自動車用内装品の製造方法。
【請求項9】
自動車用内装品は、インストルメントパネルの表皮材であり、前記インストルメントパネルは、機器装着部と天面形成部を有し、天面形成部が構成される領域の一部または全部に常温又は常温よりも高い温度の空気を吹き付けることを特徴とする請求項6又は7に記載の自動車用内装品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228823(P2012−228823A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98578(P2011−98578)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(304053957)日本IAC株式会社 (46)
【Fターム(参考)】