船外機のシフト装置
【課題】操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置において、シフト装置の剛性を高めることでシフトの応答性を向上させる。
【解決手段】操船者によるシフト操作に基づいてプロペラ42が軸着されたプロペラシャフト64の回転方向を切り換える船外機のシフト装置110であって、エンジンユニットからの出力をドライブシャフト60から前記プロペラシャフト64に変換するギア機構を備えるロアケース79の直上に、前記プロペラシャフト64の回転方向を切り換えるためのシフトアクチュエータ111を配設した。
【解決手段】操船者によるシフト操作に基づいてプロペラ42が軸着されたプロペラシャフト64の回転方向を切り換える船外機のシフト装置110であって、エンジンユニットからの出力をドライブシャフト60から前記プロペラシャフト64に変換するギア機構を備えるロアケース79の直上に、前記プロペラシャフト64の回転方向を切り換えるためのシフトアクチュエータ111を配設した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶もしくは舟艇の推進機関あるいは推進システムの主なものとして船外機、船内外機及び船内機等がある。このうち船外機はアウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジン、その捕機類、駆動系のギアやシャフト及びスクリュー等が一体化して構成されており、一般には船体船尾のトランサムボードに搭載される。
【0003】
船外機には、操船者によるシフト操作に基づいてシフト用電動アクチュエータを駆動させプロペラを正転または逆転に切り換えるシフト装置を備えたものがある。
特許文献1には、シフト用電動アクチュエータがエンジンカバー内に配置された船外機のシフト装置が開示されている。このシフト装置では、アクチュエータ出力軸の回転がリンク機構を介してクラッチシャフトに伝達され、更にドライブシャフトハウジング内で鉛直方向に配置されたクラッチロッドからギアケース内で鉛直方向に配置されたシフトロッドに伝達される。そのシフトロッドの回転がクラッチドックを駆動させることで、プロペラシャフトが正転または逆転し、シフトの切り換えが行われる。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1と同様にシフト用電動モータがエンジンカバー内に配置されたシフト装置が開示されている。このシフト装置でも、シフト用電動モータの出力軸がシフトロッドに伝達され、シフトロッドの回転に応じてクラッチがスライドすることにより、シフトの切り換えが行われる。
また、特許文献3には、コントロールボックスの操作が指令ユニット、制御盤及び中間駆動ユニットを介してシフトレバーに伝達される機関制御装置が開示されている。この機関制御装置では、コントロールボックスの操作レバーを操作されると、プッシュプルケーブルを介して指令ユニットの移動子が移動することで特定のスイッチのオンが制御盤に伝達される。制御盤は中間駆動ユニットのモータを回転させることで、プッシュプルケーブルを介してシフトレバーを移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−298093号公報
【特許文献2】特開2006−264361号公報
【特許文献3】特開平3−249339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1および2のシフト装置では、エンジンケース内に配置されたシフト用電動アクチュエータからギアケース内のクラッチドックに至るまでの離間した両者間をリンク機構およびシフトロッド等で連結している。そのためシフト装置の剛性が低くなってしまうと共にシフトの応答性が良くないという問題がある。また、リンク機構を構成する部品が多くなってしまうと、部品間のガタが集積してしまい、シフトのヒステリシス誤差が大きくなってしまう。即ち、シフト用電動アクチュエータの作動量とドグクラッチとの作動量とが往復で異なってしまうために、シフト用電動アクチュエータを大きく作動させる必要が生じ、シフト用電動アクチュエータに無駄な作動が生じてしまうという問題がある。
【0007】
また、特許文献1および2の船外機では、シフト用電動アクチュエータからクラッチドックに至るまでに、ステアリング軸内に配置されたシフトロッドを介して連結されている。ここで、船外機の各構成をステアリング操作するときの懸架する側(固定部側)と懸架される側(可動部側)とに分けると、シフトロッドは可動部側に含まれ、ステアリング軸は固定部側に含まれる。従って、ステアリング操作するときに、可動部側のシフトロッドと固定部側のステアリング軸とが干渉しまうという問題がある。なお、干渉を防止するために、可動部側と固定部側との間に硬めのマウントを採用することも考えられるが、防振性やステアリング操作の応答性に影響を与えてしまう。
【0008】
また、特許文献3に示す機関制御装置では、コントロールボックスから指令部ユニット、中間駆動ユニットからシフトレバーまでがプッシュプルケーブルを介して接続されている。そのため、シフト装置の剛性が低くなってしまうと共にシフトの応答性が良くないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置において、シフト装置の剛性を高めることでシフトの応答性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る船外機のシフト装置は、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置であって、エンジンからの出力をドライブシャフトから前記プロペラシャフトに変換するギア機構を備えるロアケースの直上に、前記プロペラシャフトの回転方向を切り換えるためのシフトアクチュエータを配設したことを特徴とする。
また、前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、前記シフトアクチュエータは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする。
また、前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、前記シフト装置は、前記ロアケース内の鉛直方向に沿って配置され、前記シフトアクチュエータの動きを前記ギア機構のフォワードギアおよびリバースギアのいずれかに伝達するための軸回転式のシフトロッドを有し、前記シフトロッドは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする。
前記シフトロッドの軸線がステアリング軸からオフセットされていることを特徴とする。
前記シフト装置は、前記ロアケースの直上に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第1のデテント機構と、前記ロアケース内に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第2のデテント機構と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置において、シフト装置の剛性を高めることでシフトの応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の船外機を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の船外機の外観を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の船外機の外観を示す前面図である。
【図4】本実施形態のエンジンケース内部の構成を示す斜視図である。
【図5】本実施形態のエンジンケース内部の主要構成の分解斜視図である。
【図6】本実施形態のエンジンユニットの構成及び配置を示す斜視図である。
【図7】本実施形態の動力伝達機構の構成及び配置を示す斜視図である。
【図8】本実施形態のフレームの構成及び配置を示す斜視図である。
【図9】本実施形態のスイベルブラケットまわりを示す部分斜視図である。
【図10】本実施形態の動力伝達系の構成を示す縦断面図である。
【図11】本実施形態のロアケース内の構成を示す断面図である。
【図12】本実施形態のステアリング機構の構成を示す縦断面図である。
【図13】本実施形態のステアリング機構の舟艇直進時の側面図である
【図14A】舟艇直進時における図13のI−I線断面図である。
【図14B】舟艇直進時における図13のII−II線断面図である。
【図15A】舟艇左旋回時における図13のI−I線断面図である。
【図15B】舟艇左旋回時における図13のII−II線断面図である。
【図16】本実施形態のシフト駆動ケース内の構成を示す平面図である。
【図17A】シフト駆動ケース内における図16のIII−III線断面図である。
【図17B】シフト駆動ケース内における図16のIV−IV線断面図である。
【図17C】シフト駆動ケース内における図16のV−V線断面図である。
【図18】本実施形態のシフトアクチュエータの構成を示す図である。
【図19】本実施形態の第1のデテント機構の構成を示す図である。
【図20】本実施形態のシフトヨークまわりの構成を示す斜視図である。
【図21】本実施形態のロアケース内の構成を示す拡大断面図である。
【図22】ロアケース内における図21のVI−VI線断面図である。
【図23】第2の実施形態の船外機の構成を示す側面図である。
【図24】本実施形態のロアケース内の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る船外機10を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示している。この例では船舶は典型的には中小型とし、船体1の後部にトランサムボード2(船尾板)を有するものとする。船外機10は図示のようにトランサムボード2を利用して搭載される。なお、以下で参照する各図の要所において、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。また、必要に応じて船体の左右方向(船幅方向)をそれぞれ矢印L、矢印Rにより示す。
【0014】
ここで先ず図1に示す船体1では、船体1の底部に船床3が敷設され、この船床3の後端にトランサムボード2が配置される。船床3の中央部付近において操船者の操縦席4が設けられ、操縦席4にはハンドル5を始めとする操縦に必要な装置及び機器類、計器類等が配設される。操船者はハンドル5を用いてステアリング操作を行い、図示しないシフトレバーを用いてシフト操作を遠隔で行うことができる。船外機10は動力、推進機、ステアリング装置及びシフト装置等が一体的に装備され、所謂オールインワンタイプとして構成され、船体1側に燃料タンク、バッテリ等の通常の備品があれば運転可能である。
【0015】
なお、船舶としてこの図示例のものに限定されず、その他トランサムボードの後側に船外機搭載用のブラケット等を具備した船体もあり、つまり船体の船尾に船尾板又はこれに相当する部位もしくは部材を有するタイプのものに対して、本実施形態の船外機10は有効に適用可能である。
【0016】
図2及び図3は船外機10の外観を示し、図2は船外機10の斜視図、図3は船外機10の前面図である。船外機10は樹脂製エンジンケース100を有している。エンジンケース100内部には後述する動力源であるエンジンユニット(エンジン)が収容されている。エンジンケース100の後部下方にはプロペラ42が配置され、エンジンユニットによってプロペラ42を回転駆動する。
【0017】
エンジンケース100は、船体1の船尾部(典型的にはトランサムボード2とする)と略同一の幅を有する筐体として構成される(図1も参照)。本実施形態ではエンジンケース100の基本的な形態は概略直方体とし、該直方体の長手方向が船幅方向としている。エンジンケース100はエンジンユニット及びその周辺部品もしくは部材を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口を覆うケースカバー102とを有する。ケースカバー102は、ケース本体101の後部上端付近にてヒンジ105を介して回動可能に結合する。ケースカバー102をヒンジ105のまわりに回動させて開成することで、エンジンケース100内が開放され、内部にアクセス可能となる。また、ケースカバー102をケース本体101に対して閉じた際、ケースカバー102をその閉合状態に固定保持するロック機構106を有している。
【0018】
エンジンケース100内に収容されるエンジンユニット及びその周辺部品等について説明する。本実施形態の船外機10はそのパワーユニットとして内燃機関を主動力とし、これを作動させて推進機を駆動する。図4は船外機10におけるエンジンケース100内部の構成例を示し、図5はエンジンケース100内の主要構成の分解斜視図である。エンジンケース100内において、パワーユニットを構成するエンジンユニット11が、コンパクト且つ重量バランス良く配置収容される。本実施形態のパワーユニットは一対のエンジンユニット11を有している。一対のエンジンユニット11は、その筐体の長手方向を船幅方向として、エンジンケース100の左右方向中央部を挟んで左右に振分けて配置される。各エンジンユニット11には、吸気系12及び排気系13が接続されると共に、それぞれの出力端(クランクシャフト)に動力伝達機構14が連結される。動力伝達機構14はエンジンユニット11の後側にて左右方向中央部で推進機15と結合される。これらの船外機構成部材は図5のようにフレーム16上に搭載支持される。
【0019】
具体的に説明すると、エンジンユニット11において、本実施形態では水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンを使用する。なお、エンジン気筒数等は必要に応じて適宜変更可能であり、本実施形態に限定されるものではない。
図6に示すように、エンジンユニット11は、クランクケース17、シリンダブロック18、シリンダヘッド19及びシリンダヘッドカバー20が順次重なるように一体的に結合され、最下部にオイルパン21が付設される。各エンジンユニット11のクランクシャフトは船幅方向(左右方向)に沿って配置され、その軸端に結合するエンジン出力軸が左右両外側に位置するように配置される。即ち、右側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は右側に、左側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は左側になるように配置される。
【0020】
次に吸気系12において、図4に示すようにエンジンユニット11相互間に単一のエアクリーナ22が配置される。一方、図6に示すように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側にそれぞれインテークマニホールド23が結合される。これらのインテークマニホールド23とエアクリーナ22との間がそれぞれインテークパイプ24を介して接続される。また、エアクリーナ22の前面部からエンジンケース100前部の船体1側まで吸気管25が延出され(図5を参照)、その先端の空気取込み口から空気を取り込むようになっている。空気取込み口は、船体1において波、しぶき及び雨等に曝されることがない部屋もしくはスペースに設置される。各エンジンユニット11では、単一の吸気管25から複数(ここでは4つ)のインテークマニホールド23に分岐する。
【0021】
排気系13において、図5等に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側にそれぞれエキゾーストマニホールド26が結合される。各エキゾーストマニホールド26はそれぞれ単一のエキゾーストパイプ27に接続される。エキゾーストパイプ27には排気ホース28が接続され、排気ホース28にはマフラ29が接続される。このマフラ29には排気ホース30が接続され、この排気ホース30に取り付けられた排気出口31から排気ガスが排出されるようになっている。
【0022】
マフラ29は、エンジンケース100のケース本体101の下面外側に設置される。この場合、マフラ29及び排気ホース30等はケース本体101の下面から実質的に突出しないように配置されると共に、ケース本体101の後面左右両側の下部付近に配置された排気出口31から左右バランス良く水中に排気される。
【0023】
動力伝達機構14はエンジンユニット11の出力を推進機15へと伝達する。動力伝達機構14において、左右のエンジンユニット11のエンジン出力軸には図7に示されるように減速機32が連結される。減速機32のケーシング33内に回転自在に軸支されたギア群を有し、その出力軸にタイロッド34が連結される。左右のタイロッド34は相互に同心且つ水平で左右方向に配置され、左右中央部で中間減速機35と連結する。各タイロッド34は両端でそれぞれユニバーサルジョイント36,37を介して、減速機32及び中間減速機35と連結する。
【0024】
本実施形態において中間減速機35は、それぞれタイロッド34に連結する一対の入力側ベベルギアとこれらの入力側ベベルギアに噛合する出力側ベベルギアとを含む。出力側ベベルギアは、ドライブシャフトケース38内のドライブシャフトと連結し、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及びスイベルブラケット39が、相互に一体的に結合する。ドライブシャフトは中間減速機35から下方へ延出する。これらのスイベルブラケット39等はベアリング40を介して、後述するようにケース本体101に回動可能に支持される。
【0025】
推進機15は図7等に示されるように、ドライブシャフトケース38の下方に配置される。推進機15は全体としてフィン状を呈し、推進機15のケーシングを構成するロアケース79を含んでいる。ロアケース79内には、プロペラ駆動用のギア機構を内蔵するギアケース41を有している。ギアケース41の後端部にはプロペラ42が装架される。ドライブシャフトはドライブシャフトケース38内を通って更に下方へ延出し、ギアケース41内まで延設される。ギアケース41内には最終減速機が構成され、この最終減速機を介してプロペラ42を回転駆動することができる。
【0026】
更に、推進機15に対するチルト機構及びステアリング機構を備えている。船外機10のうち、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及び推進機15全体がチルト機構によってチルト軸Tのまわりに上下方向に回動可能である。図7に示すように、チルト軸Tはタイロッド34と同軸に設定され、図7の矢印Aで示すように推進機15はチルト軸Tのまわりにチルト動作することができる。なお、チルト機構において所謂、パワートリムチルト(PTT)等と称する駆動装置を備え、電動油圧式のチルト機構が構成されるものであってよい。
【0027】
また、船外機10のうち、後述するドライブシャフトハウジング及び推進機15全体がステアリング機構によって図7の矢印Bで示すようにステアリング軸Sのまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である(ヨーイング)。ステアリング機構では、例えば電動油圧式に油圧駆動されるステアリングシリンダを有し、油圧ポンプを油圧源としてステアリングロッドに沿って往復動させることで推進機15が左右方向に回動、即ちステアリング動作することができる。
【0028】
上述した船外機10の主要構成部材は図4のようにフレーム16上に搭載支持される。フレーム16は鋼管等の材料を用いて、図8に示されるようにエンジンケース100を構成する筐体の直方体に略沿った外形となるように形成される。フレーム16の所定部位にはエンジンユニット11を搭載支持するための複数のエンジンマウント43が配設され、これらのエンジンマウント43を介してエンジンユニット11がフレーム16上に取り付けられる。また、フレーム16の後部には、上述したスイベルブラケット39等を支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取り付けられる。
【0029】
更に、フレーム16の前面部には複数のトランサムボルト45が前方に向けて取り付けられる。フレーム16にはエンジンユニット11を始めとする船外機構成部材が搭載されるが、それらを搭載したフレーム16はエンジンケース100内に収容される。トランサムボルト45はそのようなエンジンケース100のケース本体101の前面部を貫通してトランサムボード2に締結され、これによりエンジンケース100全体をトランサムボード2に締着固定することができる。
【0030】
エンジンケース100は、図2に示されるようにケース本体101の後面側において、その後面部から底面部へかけての領域において、船幅方向中央部にはケース本体101の内方へ凹むように形成された凹部103が設けられている。この凹部103まわりには、推進機15や、チルト機構及びステアリング機構等が配設される。また、図3に示すようにケース本体101の前面部には、トランサムボード2との間で穴を共あけするかたちで、複数の貫通孔104が形成されている。即ち、エンジンに燃焼用空気を供給するための吸気管25を挿通させるための貫通孔104A、燃料タンクからエンジンに燃料を供給するための燃料パイプを挿通させるための貫通孔104B、エンジンケース100内を換気するための換気空気用筒体を通すための貫通孔104C等が形成される。更に、エンジンケース100内の装置もしくは機器類又は部材と船体1側の操縦装置との間を、電気的(制御信号等を含む)あるいは機械的に接続するコード又はケーブル類を挿通させるための貫通孔104Dが形成される。
【0031】
上述したようにエンジンユニット11はエンジンマウント43を介して、フレーム16に搭載支持される。ここで、フレーム16は具体的には図8に示されるように左右のサイドフレーム46、船幅方向で凹部103に略対応するインナフレーム47、前部のフロントフレーム48、後部のリヤフレーム49、上部のアッパフレーム50及び下部のロアフレーム51等を含み、パイプ材及び板材、更には厚肉部により構成される。これらの部材は溶接、ボルト結合等によって組み合わされ、相互に結合される。
【0032】
ケース本体101の後面側に形成された凹部103に対応して、ケース本体101内側のフレーム16も凹状に形成される。この場合、リヤフレーム49やロアフレーム51の凹部103に対応する部位を下方に延長し、あるいは斜めに傾斜させることで、図8から分かるようにトラス構造を有する。図9等に示すようにスイベルブラケット39の下部において、その左右両側には推進機15がチルト動作する際にケース本体101側に接触するようにしたパッド52が付設される。一方、フレーム16のトラス構造部位には、パッド52に対応するパッド53が付設される。これらのパッド52,53を設けることで、推進機15を左右両側からガイドするようにしている。
【0033】
上述したようにスイベルブラケット39はベアリング40を介して、フレーム16に回動可能に支持される。また、フレーム16の後部には図8に示したように、スイベルブラケット39を回動可能に支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取付支持される。フレーム16の後部中央には、メインブラケット44を取り付けるための一対のドーナツ状のフランジ部54が設けられている。メインブラケット44は平面視でコ字状に形成され、コ字の左右両辺部にベアリング40を装着するベアリングハウジング55を有する。図8にはケース本体101は図示されていないが、メインブラケット44とフランジ部54の間に挟まれるようにケース本体101、より具体的には凹部103の側壁が介在する。
【0034】
図10はスイベルブラケット39を介して支持される、中間減速機35から推進機15へと至る動力伝達経路に沿った構成例を示している。スイベルブラケット39の左右両肩部には、チルト軸Tと同軸とした中空円筒状のチルト懸架部56が形成されている。このチルト懸架部56にはベアリング40が装着され、ベアリング40が更に上述のように両側からベアリングハウジング55内に嵌着される。このようにスイベルブラケット39はチルト懸架部56にて、ベアリング40を介してチルト軸Tのまわりに回動可能に支持され、これによりスイベルブラケット39全体が円滑にチルト動作することができる。
【0035】
また、各チルト懸架部56の内部にはチルト軸Tと同軸に、中間減速機35に対する一対の入力軸57がベアリング58を介して回転自在に支持される。入力軸57の一端側には、ユニバーサルジョイント37を介してタイロッド34が連結される。また、各入力軸57の他端側には、ピニオンギアであるベベルギア59が取り付けられる。一方、スイベルブラケット39と一体的に結合するドライブシャフトケース38内にはドライブシャフト60が回転可能に挿通支持されており、ドライブシャフト60の上端に取り付けられたベベルギア61がベアリング62を介して回転自在に支持される。ベベルギア61は、相互に対向配置されたベベルギア59双方に噛合する。このように中間減速機35において、タイロッド34から入力軸57へ入力された動力は、ベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。
【0036】
ドライブシャフト60は更に、ロアケース79内部を貫通してギアケース41まで延出し、その下端にピニオンギアであるベベルギア63が固定されている。図11はロアケース79を右側から見た断面図である。図11に示すように、ギアケース41内にはプロペラシャフト64が前後方向に沿って配置され、ベアリングハウジング65内に保持されたベアリング66等を介して回転可能に支持される。ドライブシャフト60の下端部には、プロペラシャフト64と同心且つ遊嵌状態で前後一対のフォワード(前進)ギア67及びリバース(後進)ギア68が、それぞれベアリング69及びベアリング70を介して回転自在に支持される。これらフォワードギア67及びリバースギア68は、ドライブシャフト60の下端に固定されたベベルギア63と常時噛合する。ベベルギア63、フォワードギア67及びリバースギア68によりギア機構を構成する。本実施形態では、フォワードギア67は前方Fr側に、リバースギア68は後方Rr側にそれぞれ配置され、これらの間にドッグクラッチ71が配設される。
【0037】
ドッグクラッチ71は概略中空円筒状を呈し、プロペラシャフト64に対してその軸方向に沿って所定ストロークスライド可能に嵌合する。ドッグクラッチ71の軸方向両端面には、フォワードギア67及びリバースギア68のそれぞれ内周部に設けた係合部67a、68aと係合可能な係合部71a、71bを有する。ドッグクラッチ71は、図11に示されるニュートラル状態位置から前後いずれかにスライドすることで、フォワードギア67又はリバースギア68に係合する。
【0038】
ドッグクラッチ71を介してフォワードギア67からプロペラシャフト64への動力伝達経路が形成されることで、プロペラシャフト64に軸着されたプロペラ42が右回転し、船外機10は前進する。また、リバースギア68からプロペラシャフト64への動力伝達経路が形成されることで、プロペラシャフト64に軸着されたプロペラ42が左回転し、船外機10が後進する。このようなドッグクラッチ71のスライドは、操船者によるシフト操作を介してシフト装置によって行われる。シフト装置の具体的な構成は後述する。
【0039】
次に、図10に示すように、ドライブシャフトケース38内には、ドライブシャフト60と同軸なドライブシャフトハウジング72が支持機構によって回転自在に支持されている。ドライブシャフトハウジング72内にはドライブシャフト60が貫通する。ドライブシャフトハウジング72の下部にはロアケース79が結合されている。
【0040】
ドライブシャフトハウジング72は概して筒状に形成され、その上端と下端付近にはそれぞれベアリング73,74を介してドライブシャフトケース38、即ちスイベルブラケット39に回転可能に支持される。ベアリング73,74によりドライブシャフトハウジング72の支持機構を構成する。ドライブシャフトハウジング72は上述のようにロアケース79が一体的に結合し、後述するステアリング機構の作動によりドライブシャフトハウジング72及びロアケース79がステアリング軸Sのまわりに回動してステアリング動作が行われる。即ち、本実施形態の船外機10は、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸線とが一致するように構成されている。また、ドライブシャフトハウジング72の上端には、スラスト受け75が配置される。また、スラスト受け75の上下にはベアリング76、77が装着されると共に、ドライブシャフトハウジング72の下部付近にはベアリング78が装着され、これらのスイベル垂直軸スラストベアリングによりスラスト方向荷重を受けるようにしている。
【0041】
図12は、ステアリング機構80まわりの構成例を示している。先ず、上述のようにスイベルブラケット39の中央部にはドライブシャフトケース38内に筒状のドライブシャフトハウジング72が配置され、その上部に中間減速機35が配置される。ドライブシャフトハウジング72の下部にはシフト駆動ケース79aを介してロアケース79が一体的に結合されている。ロアケース79とシフト駆動ケース79aとはメンテナンスを行うためにボルト等を用いて着脱可能に構成されている。シフト駆動ケース79aは、水平方向に沿って後方に延出するような扁平形状であって、後述するシフトアクチュエータ等を収容している。シフト駆動ケース79aはドライブシャフトハウジング72と一体にステアリング軸Sのまわりに回動可能に支持されるため、ロアケース79、即ち推進機15もシフト駆動ケース79aと共にステアリング軸Sのまわりに右左旋可能となる。
【0042】
本実施形態のステアリング機構80において、その駆動源として油圧シリンダを使用する。図13は船外機の上部の側面図であり、図14Aは図13に示すI−I線断面を下側から見た図であり、図14Bは図13に示すII−II線断面を上側から見た図である。ステアリング機構80は、ドライブシャフトケース38の上部付近で後方へ突設されたステー82に、左右水平方向に延設された固定ロッド83が挿通支持される。固定ロッド83の両端部に取り付けたアーム84を介して、固定ロッド83と平行に固定シャフト85が配置される。この固定シャフト85に油圧シリンダ81がスライド可能に装着される。油圧シリンダ81は操船者のステアリング操作によって固定シャフト85に沿って左右にスライドする。
【0043】
油圧シリンダ81には、その両端部に取り付けられたブラケット86を介して、スイベルアーム87が付設される。スイベルアーム87はその支軸88によりブラケット86とピン結合し、支軸88のまわりに回動可能である。一方、図12に示すように、ドライブシャフトケース38の後側で水平方向に、ステアリングサブシャフト89を支持するためのハウジング90が配置される。ステアリングサブシャフト89はハウジング90内で回転可能に支持され、その上下端部にそれぞれステアリングレバー91,92が取り付けられる。上側のステアリングレバー91は連結ピン93を介してスイベルアーム87とピン結合される。油圧シリンダ81が固定シャフト85に沿って往復動するのに対応して、ステアリングレバー91はスイベルアーム87を介して、ステアリングサブシャフト89のまわりに右又は左に回動する。
【0044】
下側のステアリングレバー92は連結ピン94を介してスイベルアーム95とピン結合される。シフト駆動ケース79a上には、連結ピン96を介して相互に折曲可能に結合するステアリングアーム97a,97bからなるステアリングアーム97が配置される。上側のステアリングアーム97aは支軸98を介してスイベルアーム95とピン結合される。上下のそれぞれステアリングレバー91,92は同期回動し、この回動によりスイベルアーム95等を介してシフト駆動ケース79a、従ってロアケース79、推進機15が右又は左に旋回する。
【0045】
例えば、船外機10をステアリング操作せず、即ち舟艇が直線走行する場合、ステアリング機構80は図14A及び図14Bに示すように中立状態とし、推進機15及びプロペラ42が真っ直ぐ後方を向いている。このとき、上下のステアリングレバー91,92は共に後方を向く。
例えば、船外機10を左にステアリング操作し、即ち舟艇が左方へ旋回する場合、図15Aのようにステアリングレバー91は左に回動することで、ステアリングサブシャフト89を介して下側のステアリングレバー92も図15Bのように左に回動する。そして、ステアリングレバー92の回動によりスイベルアーム95を介してロアケース79、従って推進機15が左に旋回する。船外機10を右に転舵し、即ち舟艇が右方へ旋回する場合、左方へ旋回する方向と反対側に回動することで、ロアケース79、従って推進機15が右に旋回する。
【0046】
ここで、本実施形態の船外機10の基本的作動において、エンジンケース100の内部に並置された2基のエンジンユニット11の出力は動力伝達機構14を経て、エンジンケース100の外部に配置された推進機15へと伝達される。より具体的にはエンジンユニット11が始動すると、その動力は先ず減速機32へ入力され、次にその出力端からユニバーサルジョイント36を介してタイロッド34へ伝達される。エンジン動力は更に、タイロッド34から中間減速機35へ伝達されるが、中間減速機35において入力軸57からベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。ドライブシャフト60の駆動力はギアケース41内の最終減速機において、ベベルギア63、フォワードギア67及びリバースギア68を介してプロペラシャフト64、更にプロペラ42へと伝達され、プロペラ42が回転する。
【0047】
次に、本実施形態のシフト装置110の具体的な構成について説明する。
図11に示すように、本実施形態のシフト装置110は、ドッグクラッチ71を前後にスライドさせるためのシフトアクチュエータ111を有している。シフトアクチュエータ111は、ロアケース79の直上のシフト駆動ケース79a内の後側に配置されると共に、ドライブシャフトハウジング72を支持する支持機構としての下側のベアリング74よりも下側に配置される。従って、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までを鉛直方向に近接して配置することができる。
【0048】
図16は、シフト駆動ケース79aの上面カバー79bを取り外した状態を示す平面図である。シフト駆動ケース79aは、平面視で略三角形状に形成され、左右のうち右側が側方に延出するように広く形成されている。図17A〜図17Cは、図16に示すIII−III線、IV−IV線、V−V線を切断した断面図である。図18は、シフトアクチュエータ111を下方から見た底面図である。
【0049】
図18に示すように、シフトアクチュエータ111は、アクチュエータケース112内に配置されたステッピングモータ113、ウォームホイール115及びセクタギア117、アクチュエータケース112の外部に配置されたドライブレバー116を含んで構成されている。ステッピングモータ113は、出力軸が前側に延出され、その先端にウォームギア114が結合され、そのウォームギア114がウォームホイール115に噛合する。ウォームホイール115はドライブレバー116に一体的に結合されたセクタギア117に噛合する。従って、ステッピングモータ113を正転または逆転させることで、ウォームギア114、ウォームホイール115及びセクタギア117を介してドライブレバー116が図18に示す矢印方向に揺動する。
【0050】
ドライブレバー116から後述するシフトロッド126まではリンク機構が介して連結されている。図16に示すように、ドライブレバー116の先端には前方略斜め右側に延出する第1のコネクティングロッド118が回動自在に軸支されている。更に、第1のコネクティングロッド118には平面視L字状の中間ベルクランク119の一方端が回動自在に軸支されている。図17Bに示すように、中間ベルクランク119はシフト駆動ケース79a及び上面カバー79b内にそれぞれ配置された樹脂製の軸受部120、121によって軸部119aを中心に水平方向に回動自在に軸支されている。
【0051】
一方、中間ベルクランク119の他方端には前方略斜め左側に延出する第2のコネクティングロッド122が回動自在に軸支されている。更に、第2のコネクティングロッド122にはドリブンレバー123が回動自在に軸支されている。図17Cに示すように、ドリブンレバー123はシフト駆動ケース79a及び上面カバー79b内にそれぞれ配置された樹脂製の軸受部124及び軸受部125によって軸部123aを中心に水平方向に回動自在に軸支されている。ドリブンレバー123の軸部123a内には、軸部123aの軸方向に沿って下方向に延出するシフトロッド126が連結されている。シフトロッド126の周囲にはシフト駆動ケース79a内に結合されたシール部材127及びロアケース79内に結合されたシール部材128が密着されている。シフトロッド126はその軸線まわりに回動自在に軸支された、いわゆる軸回転式である。軸部123aとシフトロッド126とは軸方向に沿ってスプラインで接続されているので、シフトロッド126はドリブンレバー123と同期して回動できると共にドリブンレバー123の軸部123aから軸方向に沿って取り外すことができる。
【0052】
ここで、図16に示すように、シフトアクチュエータ111からシフトロッド126までは、第1のコネクティングロッド118、中間ベルクランク119及び第2のコネクティングロッド122からなるリンク機構によって、ドライブシャフト60との干渉を回避するようにドライブシャフト60の右側を経由して連結されている。
【0053】
また、シフト駆動ケース79a内には中間ベルクランク119の回動を規制するためのデテント機構(第1のデテント機構)130が配設されている。図19は、中間ベルクランク119の周辺であってデテント機構130の一部を透過させた状態を示す平面図である。図19に示すように、デテント機構130は、中間ベルクランク119に近接して配置され、デテントホルダ131、スプリング132、ボール133、デテント溝119c等を含んで構成されている。図19に示すように、中間ベルクランク119の軸部119aには平板状の係止片119bが一体的に結合され、係止片120bの外周の一部にボール133の曲率半径と略同一のデテント溝119cが形成されている。デテント溝119cは、ドッグクラッチ71がフォワードギア67及びリバースギア68のいずれにも係合しないニュートラル状態位置のときにボール133が嵌まり込む位置に形成されている。デテントホルダ131内に収容されたスプリング132がボール133を付勢し、ボール133が係止片119bのデテント溝119c内に嵌まり込むことで中間ベルクランク119の回動が規制される。
【0054】
中間ベルクランク119の回動が規制されることで、ドライブレバー116、第1のコネクティングロッド118、第2のコネクティングロッド122及びドリブンレバー123の動きも規制される。また、操船者によるシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111からスプリング132の付勢力以上の出力が第1のコネクティングロッド118を介して中間ベルクランク119に伝達されることで、ボール133がデテント溝119cから離間し、中間ベルクランク119が回動される。なお、デテント機構130は、シフト駆動ケース79a内であって、例えばドライブレバー116やドリブンレバー123等に近接して配置してもよい。
【0055】
また、図17Bに示すように、中間ベルクランク119の下側にはスロットルポジションセンサ135がセンサカバー79cによってシフト駆動ケース79aの下側から覆われた状態で配設固定されている。スロットルポジションセンサ135は、中間ベルクランク119の回転角度を検出する。また、図19に示すように、中間ベルクランク119の上側にはニュートラル判定スイッチ136がデテントホルダ131に固定されている。ニュートラル判定スイッチ136は、ドッグクラッチ71のニュートラル状態位置を中間ベルクランク119を介して判定する。
【0056】
このように、シフト駆動ケース79a内には、シフト装置110の電装系部品、即ちシフトアクチュエータ111、スロットルポジションセンサ135及びニュートラル判定スイッチ136が配設される。図16に示すように各電装系部品に接続される各ケーブル137a〜137cは、シフト駆動ケース79aの左側面に結合されたワイヤカバー138内およびチューブ139内を通って上方に向かって配線されている。ワイヤカバー138とチューブ139との間及びシフト駆動ケース79aとワイヤカバー138との間には、それぞれクランプ140及び図示しないガスケットによってシフト駆動ケース79a内の水密性が確保される。
【0057】
図11に戻り、上述したシフトロッド126は、ロアケース79内で鉛直方向に延出され、その軸まわりに回動可能に軸支されている。シフトロッド126の下端部には後述するシフトヨークが固定され、プロペラシャフト64と同軸方向に配置されたシフトスライダ143に係合している。
【0058】
図20は、シフトヨーク141及びシフトスライダ143の関係を示す斜視図である。図20に示すように、シフトヨーク141は、シフトロッド126の下部に固定されたアダプタ142下面の外周付近から一部が下側に突出することで形成される。一方、シフトスライダ143は、略円筒状を呈し、側周面にはシフトロッド126の下端部が挿入し得るように、挿入孔143aが円筒軸方向と直交方向に貫通形成される。また、挿入孔143aと繋がるように左右両側に、シフトヨーク141を収容可能に形成された係合部143bを有する。シフトロッド126をシフトスライダ143の挿入孔143aに挿入した状態では、シフトヨーク141が左右いずれかの係合部143bに収容される。シフトスライダ143の後側には後述するコネクタロッド144と連結するための連結部143cが形成される。
【0059】
シフトヨーク141がシフトスライダ143の係合部143bに収容された状態では、図20の矢印に示すように、シフトロッド126が水平方向に沿って左右いずれかに回動することで、係合部143bがシフトヨーク141に押圧され、シフトスライダ143は軸方向の前後いずれかにスライドする。
【0060】
図21は、図11の一部拡大図であり、図22は図21に示すVI−VI線を切断した断面図である。図21および図22に示すように、シフトスライダ143に連結されたコネクタロッド144はプロペラシャフト64内に挿入される。コネクタロッド144の一端側(前側Fr側)は、上述したシフトスライダ143の連結部143cに連結されるので、シフトスライダ143に同期してプロペラシャフト64内を前後方向にスライドする。一方、コネクタロッド144の他端側(後方Rr側)には係止ピン145が直交方向に結合される。係止ピン145は、プロペラシャフト64とプロペラシャフト64の外周に嵌合するドッグクラッチ71とを係止する。従って、コネクタロッド144、プロペラシャフト64及びドッグクラッチ71は、常に一体で回転する。
【0061】
図21に示すように、係止ピン145が貫通するプロペラシャフト64の貫通孔64aは、その軸方向に長孔になっている。従って、ドッグクラッチ71は、コネクタロッド144の前後方向のスライドに連動してプロペラシャフト64に対して、図21に示すニュートラル状態位置から前後いずれかにスライドする。即ち、ドッグクラッチ71がニュートラル状態位置から前後いずれかにスライドし、フォワードギア67又はリバースギア68に係合することで、シフトの切り換えが行われる。
【0062】
また、図21に示すように、ロアケース79にはドッグクラッチ71のスライドを規制するためのデテント機構(第2のデテント機構)150が配設されている。デテント機構150は、コネクタロッド144とプロペラシャフト64との間に配置され、スプリング151、ボール152a〜152c、デテント溝64b〜64d等を含んで構成されている。コネクタロッド144内には、その軸方向に沿ってスプリング151が内挿され、その両端にボール152a、152bが配設されている。一方のボール152aは、係止ピン145に当接し、他方のボール152bは小径な一対のボール152cに当接する。
【0063】
コネクタロッド144の周面には、一対のボール152cの一部を周面から突出させるための一対のボール孔144aが対向して形成されている。従って、ボール152cは、スプリング151によってボール152bを介して押圧され、常にコネクタロッド144の周面から突出する方向に付勢される。一方、プロペラシャフト64の内周面には、その軸方向に離間してボール152cの曲率半径と略同一のデテント溝64b〜64dが形成されている。デテント溝64bはプロペラシャフト64の前端に至るまで形成され、デテント溝64c、64dは内周面に沿った環状に形成されている。
【0064】
デテント溝64b〜64dのうち、中央のデテント溝64cは、ドッグクラッチ71がニュートラル状態位置のときにボール152cが嵌まり込む位置に形成されている。また、前側のデテント溝64bは、ドッグクラッチ71がフォワードギア67に係合する位置に形成され、後側のデテント溝64dは、ドッグクラッチ71がリバースギア68に係合する位置に形成されている。スプリング151がボール152bを介してボール152cを付勢し、ボール152cがデテント溝64b〜64cのいずれかに嵌まり込むことでコネクタロッド144、即ちドッグクラッチ71のスライドが規制される。
【0065】
コネクタロッド144のスライドが規制されることで、シフトスライダ143、シフトヨーク141及びシフトロッド126の動きも規制される。また、操船者によるシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111からスプリング151の付勢力以上の出力がシフトロッド126及びシフトスライダ143を介してコネクタロッド144に伝達されることで、ボール152cがデテント溝64b〜64cのいずれから離間し、ドッグクラッチ71がスライドする。なお、デテント機構150は、ロアケース79内であって、シフトロッド126からドッグクラッチ71に至る経路までの間に配置してもよい。
【0066】
上述したように構成される船外機10では、操船者によるシフトレバーを介したフォワード(前進)及びリバース(後進)のシフト操作を、図示しないECUが受信する。ECUはシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111を介してドライブレバー116を左右いずれかに回動させる。ドライブレバー116はリンク機構を介してドリブンレバー123、即ちシフトロッド126を回動させる。シフトロッド126はシフトヨーク141を介してシフトスライダ143を前後いずれかにスライドさせることで、コネクタロッド144を介してドッグクラッチ71を連動してスライドさせる。ドッグクラッチ71がスライドし、フォワードギア67又はリバースギア68に係合することでプロペラシャフト64、即ちプロペラ42の回転方向が切り換えられることでシフトが切り換えられる。
【0067】
上述したように構成されるシフト装置110によれば、シフトアクチュエータ111をロアケース79の直上に配置したので、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までを近接して配置することができる。即ち、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までの距離が短くなるために、両者間を連結するリンク機構の剛性が向上する。リンク機構の剛性が向上することで、シフトアクチュエータ111からの駆動がドッグクラッチ71に正確且つ迅速に伝達され、シフト操作の応答性を向上させることができる。また、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までの距離を短くすれば、両者間を連結するリンク機構の部品数を少なくすることができる。従って、部品間のガタの集積が削減され、シフトのヒステリシス誤差を少なくすることができ、シフトの切り換えを正確に行うことができる。
【0068】
また、上述したように本実施形態のシフト装置110では、シフトアクチュエータ111を、ドライブシャフトハウジング72を軸支する支持機構としてのベアリング74よりも下側に配置した。船外機10の各構成をステアリング操作するときの懸架する側(固定部側)と懸架される側(可動部側)とに分けると、ドライブシャフトハウジング72、シフト駆動ケース79a及びロアケース79等(いわゆるバネ下部)は可動部側に含まれ、フレーム16、エンジンユニット11、スイベルブラケット39及びドライブシャフトケース38等(いわゆるバネ上部)は固定部側に含まれる。ここで、本実施形態のシフト装置110は、固定部側と可動部側とに跨って配置されておらず、可動部側のみに配置される。従って、ステアリング操作したときにシフト装置110が可動部側に対して干渉することがない。
【0069】
また、上述したように本実施形態のシフト装置110では、シフトロッド126を、ドライブシャフトハウジング72を軸支する支持機構としてのベアリング74よりも下側に配置した。従って、本実施形態のシフトロッド126は、固定部側と可動部側とに跨って配置されておらず、可動部側に配置される。従って、ステアリング操作したときにシフトロッド126が可動部側に対して干渉することがない。
【0070】
また、上述したように本実施形態の船外機10では、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸とが一致し、シフトロッド126の軸線はステアリング軸Sからオフセットされている。従って、ステアリング軸Sをロアケース79の揚力中心に近接させることができるので、ステアリング機構80によるステアリング動作の負担を低減させることができる。
【0071】
また、上述したように本実施形態の船外機10では、メンテナンスのためにロアケース79とシフト駆動ケース79aとを着脱させることができる。このとき、電気系部品であるシフトアクチュエータ111、スロットルポジションセンサ135、ニュートラル判定スイッチ136は、シフト駆動ケース79a内に配置され、ロアケース79内に配置されていない。従って、ロアケース79とシフト駆動ケース79aとを着脱させるときに、電気系部品のケーブル137a〜137cの結合及び離脱をする必要なく、着脱の作業性が向上する。また、シフト駆動ケース79aのドリブンレバー123と、ロアケース79のシフトロッド126とはスプラインで接続されているので、ロアケース79とシフト駆動ケース79aとの着脱をドリブンレバー123とシフトロッド126との間で容易に行うことができる。
【0072】
また、上述したように本実施形態のシフト装置110では、リンク機構の一つである中間ベルクランク119の近接した位置に、少なくともシフトのニュートラル状態位置で作動する第1のデテント機構130を配置している。また、シフト装置110では、ロアケース79のプロペラシャフト64内に少なくともシフトのニュートラル状態位置で作動する第2のデテント機構150を配置している。従って、シフト駆動ケース79aとロアケース79とを離脱した状態から再び結合する場合において、第1のデテント機構130及び第2のデテント機構150の両方をニュートラル状態位置にしておくことで、シフトのストロークを調整したりする作業が不要となり、両者の結合の作業性が向上する。
【0073】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る船外機について説明する。なお、第1の実施形態と同様な構成は、同一符号を付してその説明を省略する。
図23は、本実施形態に係る船外機200の一部断面を示す側面図である。なお、図23では、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。船外機200はエンジンホルダ201を備え、このエンジンホルダ201の上方にエンジン202が設置される。エンジン202は、その内部にクランクシャフト203が略垂直に配設されたバーティカル(縦)型の水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンである。
【0074】
エンジンホルダ201の下方には潤滑オイルを貯留するオイルパン204が付設される。船外機200にはブラケット装置205が取り付けられ、このブラケット装置205を介して船外機200がトランサムボード2に装着される。ブラケット装置205は、クランプブラケット206、スイベルブラケット207及びステアリングシャフト208を備えている。スイベルブラケット207とクランプブラケット206とが相対的に回動することで、後述する推進機15を含む船外機200本体がチルト軸Tまわりに上下方向に回動可能である。また、ステアリングシャフト208とスイベルブラケット207とが相対的に回動することで、推進機15を含む船外機200本体がステアリング軸Sまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である。
【0075】
エンジン202及びエンジンホルダ201の周囲は、エンジンケース209によって覆われる。また、オイルパン204の周囲及びその下部にはドライブシャフトハウジング210が設置される。エンジンホルダ201、オイルパン204及びドライブシャフトハウジング210内にはエンジン202の出力軸であるドライブシャフト211が略垂直に配置されている。ドライブシャフトハウジング210の下方には推進機15が配置される。推進機15は全体としてフィン状を呈し、推進機15のケーシングを構成するロアケース79を含んでいる。ロアケース79内には、プロペラ駆動用のギア機構を内蔵するギアケース41を有している。ドライブシャフトハウジング210とロアケース79との間にはシフト駆動ケース79aが一体的に結合されている。ロアケース79とシフト駆動ケース79aとはメンテナンスを行うためにボルト等を用いて着脱可能に構成される。ロアケース79内の構成は、第1の実施形態と同様であり、その説明は省略する。
【0076】
次に、本実施形態のシフト装置220は、ドッグクラッチ71を前後にスライドさせるためのシフトアクチュエータ111が、ロアケース79の直上のシフト駆動ケース79a内の後側に配置されている。図24は、シフト駆動ケース79a内の構成を示す断面図である。図24に示すように、シフトアクチュエータ111は、ドライブレバー116からドライブシャフト211の軸線を中心として回動可能に軸支されたスイング部材221を介してドリブンレバー222に連結されている。
【0077】
ドリブンレバー222は軸部222aを中心に水平方向に回動可能に軸支されている。ドリブンレバー222の軸部222a内には、軸部222aの軸方向に沿って下方向に延出するシフトロッド126が連結されている。軸部222aとシフトロッド126とは軸方向に沿ってスプラインで接続されている。なお、シフトロッド126からドッグクラッチ71までは、第1の実施形態と同様、シフトヨーク141、アダプタ142、シフトスライダ143、コネクタロッド144及び係止ピン145を介して接続される。
【0078】
上述したように構成される船外機200では、操船者によるシフトレバーを介したフォワード(前進)及びリバース(後進)のシフト操作を、図示しないECUが受信する。ECUはシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111を介してドライブレバー116を左右いずれかに回動させる。ドライブレバー116はスイング部材221を介してドリブンレバー123、即ちシフトロッド126を回動させる。シフトロッド126はシフトヨーク141を介してシフトスライダ143を前後いずれかにスライドさせることで、コネクタロッド144を介してドッグクラッチ71を連動してスライドさせる。ドッグクラッチ71がスライドし、フォワードギア67又はリバースギア68に係合することでプロペラシャフト64、即ちプロペラ42の回転方向が切り換えられることでシフトが切り換えられる。
【0079】
上述したように構成されるシフト装置220によれば、シフトアクチュエータ111をロアケース79の直上に配置したので、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までを近接して配置することができる。従って、第1の実施形態と同様に、シフトアクチュエータ111からの駆動がドッグクラッチ71に正確且つ迅速に伝達され、シフト操作の応答性を向上させることができる。
【0080】
また、船外機200の各構成をステアリング操作するときの懸架する側(固定部側)と懸架される側(可動部側)とに分けると、エンジン202、ドライブシャフトハウジング210、シフト駆動ケース79a及びロアケース79等(いわゆるバネ下部)は可動部側に含まれ、クランプブラケット206、スイベルブラケット207等(いわゆるバネ上部)は固定部側に含まれる。ここで、本実施形態のシフト装置220は、固定部側と可動部側とに跨って配置されておらず、可動部側のみに配置される。従って、ステアリング操作したときにシフト装置220が可動部側に対して干渉することがない。
【0081】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10:船外機 11:エンジンユニット 42:プロペラ 60:ドライブシャフト 63:ベベルギア 64:プロペラシャフト 67:フォワードギア 68:リバースギア 72:ドライブシャフトハウジング 79:ロアケース 110:シフト装置 111:シフトアクチュエータ 74:ベアリング 126:シフトロッド 130:第1のデテント機構 150:第2のデテント機構 200:船外機 210:ドライブシャフトハウジング 220:シフト装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶もしくは舟艇の推進機関あるいは推進システムの主なものとして船外機、船内外機及び船内機等がある。このうち船外機はアウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジン、その捕機類、駆動系のギアやシャフト及びスクリュー等が一体化して構成されており、一般には船体船尾のトランサムボードに搭載される。
【0003】
船外機には、操船者によるシフト操作に基づいてシフト用電動アクチュエータを駆動させプロペラを正転または逆転に切り換えるシフト装置を備えたものがある。
特許文献1には、シフト用電動アクチュエータがエンジンカバー内に配置された船外機のシフト装置が開示されている。このシフト装置では、アクチュエータ出力軸の回転がリンク機構を介してクラッチシャフトに伝達され、更にドライブシャフトハウジング内で鉛直方向に配置されたクラッチロッドからギアケース内で鉛直方向に配置されたシフトロッドに伝達される。そのシフトロッドの回転がクラッチドックを駆動させることで、プロペラシャフトが正転または逆転し、シフトの切り換えが行われる。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1と同様にシフト用電動モータがエンジンカバー内に配置されたシフト装置が開示されている。このシフト装置でも、シフト用電動モータの出力軸がシフトロッドに伝達され、シフトロッドの回転に応じてクラッチがスライドすることにより、シフトの切り換えが行われる。
また、特許文献3には、コントロールボックスの操作が指令ユニット、制御盤及び中間駆動ユニットを介してシフトレバーに伝達される機関制御装置が開示されている。この機関制御装置では、コントロールボックスの操作レバーを操作されると、プッシュプルケーブルを介して指令ユニットの移動子が移動することで特定のスイッチのオンが制御盤に伝達される。制御盤は中間駆動ユニットのモータを回転させることで、プッシュプルケーブルを介してシフトレバーを移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−298093号公報
【特許文献2】特開2006−264361号公報
【特許文献3】特開平3−249339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1および2のシフト装置では、エンジンケース内に配置されたシフト用電動アクチュエータからギアケース内のクラッチドックに至るまでの離間した両者間をリンク機構およびシフトロッド等で連結している。そのためシフト装置の剛性が低くなってしまうと共にシフトの応答性が良くないという問題がある。また、リンク機構を構成する部品が多くなってしまうと、部品間のガタが集積してしまい、シフトのヒステリシス誤差が大きくなってしまう。即ち、シフト用電動アクチュエータの作動量とドグクラッチとの作動量とが往復で異なってしまうために、シフト用電動アクチュエータを大きく作動させる必要が生じ、シフト用電動アクチュエータに無駄な作動が生じてしまうという問題がある。
【0007】
また、特許文献1および2の船外機では、シフト用電動アクチュエータからクラッチドックに至るまでに、ステアリング軸内に配置されたシフトロッドを介して連結されている。ここで、船外機の各構成をステアリング操作するときの懸架する側(固定部側)と懸架される側(可動部側)とに分けると、シフトロッドは可動部側に含まれ、ステアリング軸は固定部側に含まれる。従って、ステアリング操作するときに、可動部側のシフトロッドと固定部側のステアリング軸とが干渉しまうという問題がある。なお、干渉を防止するために、可動部側と固定部側との間に硬めのマウントを採用することも考えられるが、防振性やステアリング操作の応答性に影響を与えてしまう。
【0008】
また、特許文献3に示す機関制御装置では、コントロールボックスから指令部ユニット、中間駆動ユニットからシフトレバーまでがプッシュプルケーブルを介して接続されている。そのため、シフト装置の剛性が低くなってしまうと共にシフトの応答性が良くないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置において、シフト装置の剛性を高めることでシフトの応答性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る船外機のシフト装置は、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置であって、エンジンからの出力をドライブシャフトから前記プロペラシャフトに変換するギア機構を備えるロアケースの直上に、前記プロペラシャフトの回転方向を切り換えるためのシフトアクチュエータを配設したことを特徴とする。
また、前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、前記シフトアクチュエータは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする。
また、前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、前記シフト装置は、前記ロアケース内の鉛直方向に沿って配置され、前記シフトアクチュエータの動きを前記ギア機構のフォワードギアおよびリバースギアのいずれかに伝達するための軸回転式のシフトロッドを有し、前記シフトロッドは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする。
前記シフトロッドの軸線がステアリング軸からオフセットされていることを特徴とする。
前記シフト装置は、前記ロアケースの直上に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第1のデテント機構と、前記ロアケース内に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第2のデテント機構と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置において、シフト装置の剛性を高めることでシフトの応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の船外機を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の船外機の外観を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の船外機の外観を示す前面図である。
【図4】本実施形態のエンジンケース内部の構成を示す斜視図である。
【図5】本実施形態のエンジンケース内部の主要構成の分解斜視図である。
【図6】本実施形態のエンジンユニットの構成及び配置を示す斜視図である。
【図7】本実施形態の動力伝達機構の構成及び配置を示す斜視図である。
【図8】本実施形態のフレームの構成及び配置を示す斜視図である。
【図9】本実施形態のスイベルブラケットまわりを示す部分斜視図である。
【図10】本実施形態の動力伝達系の構成を示す縦断面図である。
【図11】本実施形態のロアケース内の構成を示す断面図である。
【図12】本実施形態のステアリング機構の構成を示す縦断面図である。
【図13】本実施形態のステアリング機構の舟艇直進時の側面図である
【図14A】舟艇直進時における図13のI−I線断面図である。
【図14B】舟艇直進時における図13のII−II線断面図である。
【図15A】舟艇左旋回時における図13のI−I線断面図である。
【図15B】舟艇左旋回時における図13のII−II線断面図である。
【図16】本実施形態のシフト駆動ケース内の構成を示す平面図である。
【図17A】シフト駆動ケース内における図16のIII−III線断面図である。
【図17B】シフト駆動ケース内における図16のIV−IV線断面図である。
【図17C】シフト駆動ケース内における図16のV−V線断面図である。
【図18】本実施形態のシフトアクチュエータの構成を示す図である。
【図19】本実施形態の第1のデテント機構の構成を示す図である。
【図20】本実施形態のシフトヨークまわりの構成を示す斜視図である。
【図21】本実施形態のロアケース内の構成を示す拡大断面図である。
【図22】ロアケース内における図21のVI−VI線断面図である。
【図23】第2の実施形態の船外機の構成を示す側面図である。
【図24】本実施形態のロアケース内の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る船外機10を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示している。この例では船舶は典型的には中小型とし、船体1の後部にトランサムボード2(船尾板)を有するものとする。船外機10は図示のようにトランサムボード2を利用して搭載される。なお、以下で参照する各図の要所において、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。また、必要に応じて船体の左右方向(船幅方向)をそれぞれ矢印L、矢印Rにより示す。
【0014】
ここで先ず図1に示す船体1では、船体1の底部に船床3が敷設され、この船床3の後端にトランサムボード2が配置される。船床3の中央部付近において操船者の操縦席4が設けられ、操縦席4にはハンドル5を始めとする操縦に必要な装置及び機器類、計器類等が配設される。操船者はハンドル5を用いてステアリング操作を行い、図示しないシフトレバーを用いてシフト操作を遠隔で行うことができる。船外機10は動力、推進機、ステアリング装置及びシフト装置等が一体的に装備され、所謂オールインワンタイプとして構成され、船体1側に燃料タンク、バッテリ等の通常の備品があれば運転可能である。
【0015】
なお、船舶としてこの図示例のものに限定されず、その他トランサムボードの後側に船外機搭載用のブラケット等を具備した船体もあり、つまり船体の船尾に船尾板又はこれに相当する部位もしくは部材を有するタイプのものに対して、本実施形態の船外機10は有効に適用可能である。
【0016】
図2及び図3は船外機10の外観を示し、図2は船外機10の斜視図、図3は船外機10の前面図である。船外機10は樹脂製エンジンケース100を有している。エンジンケース100内部には後述する動力源であるエンジンユニット(エンジン)が収容されている。エンジンケース100の後部下方にはプロペラ42が配置され、エンジンユニットによってプロペラ42を回転駆動する。
【0017】
エンジンケース100は、船体1の船尾部(典型的にはトランサムボード2とする)と略同一の幅を有する筐体として構成される(図1も参照)。本実施形態ではエンジンケース100の基本的な形態は概略直方体とし、該直方体の長手方向が船幅方向としている。エンジンケース100はエンジンユニット及びその周辺部品もしくは部材を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口を覆うケースカバー102とを有する。ケースカバー102は、ケース本体101の後部上端付近にてヒンジ105を介して回動可能に結合する。ケースカバー102をヒンジ105のまわりに回動させて開成することで、エンジンケース100内が開放され、内部にアクセス可能となる。また、ケースカバー102をケース本体101に対して閉じた際、ケースカバー102をその閉合状態に固定保持するロック機構106を有している。
【0018】
エンジンケース100内に収容されるエンジンユニット及びその周辺部品等について説明する。本実施形態の船外機10はそのパワーユニットとして内燃機関を主動力とし、これを作動させて推進機を駆動する。図4は船外機10におけるエンジンケース100内部の構成例を示し、図5はエンジンケース100内の主要構成の分解斜視図である。エンジンケース100内において、パワーユニットを構成するエンジンユニット11が、コンパクト且つ重量バランス良く配置収容される。本実施形態のパワーユニットは一対のエンジンユニット11を有している。一対のエンジンユニット11は、その筐体の長手方向を船幅方向として、エンジンケース100の左右方向中央部を挟んで左右に振分けて配置される。各エンジンユニット11には、吸気系12及び排気系13が接続されると共に、それぞれの出力端(クランクシャフト)に動力伝達機構14が連結される。動力伝達機構14はエンジンユニット11の後側にて左右方向中央部で推進機15と結合される。これらの船外機構成部材は図5のようにフレーム16上に搭載支持される。
【0019】
具体的に説明すると、エンジンユニット11において、本実施形態では水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンを使用する。なお、エンジン気筒数等は必要に応じて適宜変更可能であり、本実施形態に限定されるものではない。
図6に示すように、エンジンユニット11は、クランクケース17、シリンダブロック18、シリンダヘッド19及びシリンダヘッドカバー20が順次重なるように一体的に結合され、最下部にオイルパン21が付設される。各エンジンユニット11のクランクシャフトは船幅方向(左右方向)に沿って配置され、その軸端に結合するエンジン出力軸が左右両外側に位置するように配置される。即ち、右側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は右側に、左側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は左側になるように配置される。
【0020】
次に吸気系12において、図4に示すようにエンジンユニット11相互間に単一のエアクリーナ22が配置される。一方、図6に示すように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側にそれぞれインテークマニホールド23が結合される。これらのインテークマニホールド23とエアクリーナ22との間がそれぞれインテークパイプ24を介して接続される。また、エアクリーナ22の前面部からエンジンケース100前部の船体1側まで吸気管25が延出され(図5を参照)、その先端の空気取込み口から空気を取り込むようになっている。空気取込み口は、船体1において波、しぶき及び雨等に曝されることがない部屋もしくはスペースに設置される。各エンジンユニット11では、単一の吸気管25から複数(ここでは4つ)のインテークマニホールド23に分岐する。
【0021】
排気系13において、図5等に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側にそれぞれエキゾーストマニホールド26が結合される。各エキゾーストマニホールド26はそれぞれ単一のエキゾーストパイプ27に接続される。エキゾーストパイプ27には排気ホース28が接続され、排気ホース28にはマフラ29が接続される。このマフラ29には排気ホース30が接続され、この排気ホース30に取り付けられた排気出口31から排気ガスが排出されるようになっている。
【0022】
マフラ29は、エンジンケース100のケース本体101の下面外側に設置される。この場合、マフラ29及び排気ホース30等はケース本体101の下面から実質的に突出しないように配置されると共に、ケース本体101の後面左右両側の下部付近に配置された排気出口31から左右バランス良く水中に排気される。
【0023】
動力伝達機構14はエンジンユニット11の出力を推進機15へと伝達する。動力伝達機構14において、左右のエンジンユニット11のエンジン出力軸には図7に示されるように減速機32が連結される。減速機32のケーシング33内に回転自在に軸支されたギア群を有し、その出力軸にタイロッド34が連結される。左右のタイロッド34は相互に同心且つ水平で左右方向に配置され、左右中央部で中間減速機35と連結する。各タイロッド34は両端でそれぞれユニバーサルジョイント36,37を介して、減速機32及び中間減速機35と連結する。
【0024】
本実施形態において中間減速機35は、それぞれタイロッド34に連結する一対の入力側ベベルギアとこれらの入力側ベベルギアに噛合する出力側ベベルギアとを含む。出力側ベベルギアは、ドライブシャフトケース38内のドライブシャフトと連結し、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及びスイベルブラケット39が、相互に一体的に結合する。ドライブシャフトは中間減速機35から下方へ延出する。これらのスイベルブラケット39等はベアリング40を介して、後述するようにケース本体101に回動可能に支持される。
【0025】
推進機15は図7等に示されるように、ドライブシャフトケース38の下方に配置される。推進機15は全体としてフィン状を呈し、推進機15のケーシングを構成するロアケース79を含んでいる。ロアケース79内には、プロペラ駆動用のギア機構を内蔵するギアケース41を有している。ギアケース41の後端部にはプロペラ42が装架される。ドライブシャフトはドライブシャフトケース38内を通って更に下方へ延出し、ギアケース41内まで延設される。ギアケース41内には最終減速機が構成され、この最終減速機を介してプロペラ42を回転駆動することができる。
【0026】
更に、推進機15に対するチルト機構及びステアリング機構を備えている。船外機10のうち、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及び推進機15全体がチルト機構によってチルト軸Tのまわりに上下方向に回動可能である。図7に示すように、チルト軸Tはタイロッド34と同軸に設定され、図7の矢印Aで示すように推進機15はチルト軸Tのまわりにチルト動作することができる。なお、チルト機構において所謂、パワートリムチルト(PTT)等と称する駆動装置を備え、電動油圧式のチルト機構が構成されるものであってよい。
【0027】
また、船外機10のうち、後述するドライブシャフトハウジング及び推進機15全体がステアリング機構によって図7の矢印Bで示すようにステアリング軸Sのまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である(ヨーイング)。ステアリング機構では、例えば電動油圧式に油圧駆動されるステアリングシリンダを有し、油圧ポンプを油圧源としてステアリングロッドに沿って往復動させることで推進機15が左右方向に回動、即ちステアリング動作することができる。
【0028】
上述した船外機10の主要構成部材は図4のようにフレーム16上に搭載支持される。フレーム16は鋼管等の材料を用いて、図8に示されるようにエンジンケース100を構成する筐体の直方体に略沿った外形となるように形成される。フレーム16の所定部位にはエンジンユニット11を搭載支持するための複数のエンジンマウント43が配設され、これらのエンジンマウント43を介してエンジンユニット11がフレーム16上に取り付けられる。また、フレーム16の後部には、上述したスイベルブラケット39等を支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取り付けられる。
【0029】
更に、フレーム16の前面部には複数のトランサムボルト45が前方に向けて取り付けられる。フレーム16にはエンジンユニット11を始めとする船外機構成部材が搭載されるが、それらを搭載したフレーム16はエンジンケース100内に収容される。トランサムボルト45はそのようなエンジンケース100のケース本体101の前面部を貫通してトランサムボード2に締結され、これによりエンジンケース100全体をトランサムボード2に締着固定することができる。
【0030】
エンジンケース100は、図2に示されるようにケース本体101の後面側において、その後面部から底面部へかけての領域において、船幅方向中央部にはケース本体101の内方へ凹むように形成された凹部103が設けられている。この凹部103まわりには、推進機15や、チルト機構及びステアリング機構等が配設される。また、図3に示すようにケース本体101の前面部には、トランサムボード2との間で穴を共あけするかたちで、複数の貫通孔104が形成されている。即ち、エンジンに燃焼用空気を供給するための吸気管25を挿通させるための貫通孔104A、燃料タンクからエンジンに燃料を供給するための燃料パイプを挿通させるための貫通孔104B、エンジンケース100内を換気するための換気空気用筒体を通すための貫通孔104C等が形成される。更に、エンジンケース100内の装置もしくは機器類又は部材と船体1側の操縦装置との間を、電気的(制御信号等を含む)あるいは機械的に接続するコード又はケーブル類を挿通させるための貫通孔104Dが形成される。
【0031】
上述したようにエンジンユニット11はエンジンマウント43を介して、フレーム16に搭載支持される。ここで、フレーム16は具体的には図8に示されるように左右のサイドフレーム46、船幅方向で凹部103に略対応するインナフレーム47、前部のフロントフレーム48、後部のリヤフレーム49、上部のアッパフレーム50及び下部のロアフレーム51等を含み、パイプ材及び板材、更には厚肉部により構成される。これらの部材は溶接、ボルト結合等によって組み合わされ、相互に結合される。
【0032】
ケース本体101の後面側に形成された凹部103に対応して、ケース本体101内側のフレーム16も凹状に形成される。この場合、リヤフレーム49やロアフレーム51の凹部103に対応する部位を下方に延長し、あるいは斜めに傾斜させることで、図8から分かるようにトラス構造を有する。図9等に示すようにスイベルブラケット39の下部において、その左右両側には推進機15がチルト動作する際にケース本体101側に接触するようにしたパッド52が付設される。一方、フレーム16のトラス構造部位には、パッド52に対応するパッド53が付設される。これらのパッド52,53を設けることで、推進機15を左右両側からガイドするようにしている。
【0033】
上述したようにスイベルブラケット39はベアリング40を介して、フレーム16に回動可能に支持される。また、フレーム16の後部には図8に示したように、スイベルブラケット39を回動可能に支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取付支持される。フレーム16の後部中央には、メインブラケット44を取り付けるための一対のドーナツ状のフランジ部54が設けられている。メインブラケット44は平面視でコ字状に形成され、コ字の左右両辺部にベアリング40を装着するベアリングハウジング55を有する。図8にはケース本体101は図示されていないが、メインブラケット44とフランジ部54の間に挟まれるようにケース本体101、より具体的には凹部103の側壁が介在する。
【0034】
図10はスイベルブラケット39を介して支持される、中間減速機35から推進機15へと至る動力伝達経路に沿った構成例を示している。スイベルブラケット39の左右両肩部には、チルト軸Tと同軸とした中空円筒状のチルト懸架部56が形成されている。このチルト懸架部56にはベアリング40が装着され、ベアリング40が更に上述のように両側からベアリングハウジング55内に嵌着される。このようにスイベルブラケット39はチルト懸架部56にて、ベアリング40を介してチルト軸Tのまわりに回動可能に支持され、これによりスイベルブラケット39全体が円滑にチルト動作することができる。
【0035】
また、各チルト懸架部56の内部にはチルト軸Tと同軸に、中間減速機35に対する一対の入力軸57がベアリング58を介して回転自在に支持される。入力軸57の一端側には、ユニバーサルジョイント37を介してタイロッド34が連結される。また、各入力軸57の他端側には、ピニオンギアであるベベルギア59が取り付けられる。一方、スイベルブラケット39と一体的に結合するドライブシャフトケース38内にはドライブシャフト60が回転可能に挿通支持されており、ドライブシャフト60の上端に取り付けられたベベルギア61がベアリング62を介して回転自在に支持される。ベベルギア61は、相互に対向配置されたベベルギア59双方に噛合する。このように中間減速機35において、タイロッド34から入力軸57へ入力された動力は、ベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。
【0036】
ドライブシャフト60は更に、ロアケース79内部を貫通してギアケース41まで延出し、その下端にピニオンギアであるベベルギア63が固定されている。図11はロアケース79を右側から見た断面図である。図11に示すように、ギアケース41内にはプロペラシャフト64が前後方向に沿って配置され、ベアリングハウジング65内に保持されたベアリング66等を介して回転可能に支持される。ドライブシャフト60の下端部には、プロペラシャフト64と同心且つ遊嵌状態で前後一対のフォワード(前進)ギア67及びリバース(後進)ギア68が、それぞれベアリング69及びベアリング70を介して回転自在に支持される。これらフォワードギア67及びリバースギア68は、ドライブシャフト60の下端に固定されたベベルギア63と常時噛合する。ベベルギア63、フォワードギア67及びリバースギア68によりギア機構を構成する。本実施形態では、フォワードギア67は前方Fr側に、リバースギア68は後方Rr側にそれぞれ配置され、これらの間にドッグクラッチ71が配設される。
【0037】
ドッグクラッチ71は概略中空円筒状を呈し、プロペラシャフト64に対してその軸方向に沿って所定ストロークスライド可能に嵌合する。ドッグクラッチ71の軸方向両端面には、フォワードギア67及びリバースギア68のそれぞれ内周部に設けた係合部67a、68aと係合可能な係合部71a、71bを有する。ドッグクラッチ71は、図11に示されるニュートラル状態位置から前後いずれかにスライドすることで、フォワードギア67又はリバースギア68に係合する。
【0038】
ドッグクラッチ71を介してフォワードギア67からプロペラシャフト64への動力伝達経路が形成されることで、プロペラシャフト64に軸着されたプロペラ42が右回転し、船外機10は前進する。また、リバースギア68からプロペラシャフト64への動力伝達経路が形成されることで、プロペラシャフト64に軸着されたプロペラ42が左回転し、船外機10が後進する。このようなドッグクラッチ71のスライドは、操船者によるシフト操作を介してシフト装置によって行われる。シフト装置の具体的な構成は後述する。
【0039】
次に、図10に示すように、ドライブシャフトケース38内には、ドライブシャフト60と同軸なドライブシャフトハウジング72が支持機構によって回転自在に支持されている。ドライブシャフトハウジング72内にはドライブシャフト60が貫通する。ドライブシャフトハウジング72の下部にはロアケース79が結合されている。
【0040】
ドライブシャフトハウジング72は概して筒状に形成され、その上端と下端付近にはそれぞれベアリング73,74を介してドライブシャフトケース38、即ちスイベルブラケット39に回転可能に支持される。ベアリング73,74によりドライブシャフトハウジング72の支持機構を構成する。ドライブシャフトハウジング72は上述のようにロアケース79が一体的に結合し、後述するステアリング機構の作動によりドライブシャフトハウジング72及びロアケース79がステアリング軸Sのまわりに回動してステアリング動作が行われる。即ち、本実施形態の船外機10は、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸線とが一致するように構成されている。また、ドライブシャフトハウジング72の上端には、スラスト受け75が配置される。また、スラスト受け75の上下にはベアリング76、77が装着されると共に、ドライブシャフトハウジング72の下部付近にはベアリング78が装着され、これらのスイベル垂直軸スラストベアリングによりスラスト方向荷重を受けるようにしている。
【0041】
図12は、ステアリング機構80まわりの構成例を示している。先ず、上述のようにスイベルブラケット39の中央部にはドライブシャフトケース38内に筒状のドライブシャフトハウジング72が配置され、その上部に中間減速機35が配置される。ドライブシャフトハウジング72の下部にはシフト駆動ケース79aを介してロアケース79が一体的に結合されている。ロアケース79とシフト駆動ケース79aとはメンテナンスを行うためにボルト等を用いて着脱可能に構成されている。シフト駆動ケース79aは、水平方向に沿って後方に延出するような扁平形状であって、後述するシフトアクチュエータ等を収容している。シフト駆動ケース79aはドライブシャフトハウジング72と一体にステアリング軸Sのまわりに回動可能に支持されるため、ロアケース79、即ち推進機15もシフト駆動ケース79aと共にステアリング軸Sのまわりに右左旋可能となる。
【0042】
本実施形態のステアリング機構80において、その駆動源として油圧シリンダを使用する。図13は船外機の上部の側面図であり、図14Aは図13に示すI−I線断面を下側から見た図であり、図14Bは図13に示すII−II線断面を上側から見た図である。ステアリング機構80は、ドライブシャフトケース38の上部付近で後方へ突設されたステー82に、左右水平方向に延設された固定ロッド83が挿通支持される。固定ロッド83の両端部に取り付けたアーム84を介して、固定ロッド83と平行に固定シャフト85が配置される。この固定シャフト85に油圧シリンダ81がスライド可能に装着される。油圧シリンダ81は操船者のステアリング操作によって固定シャフト85に沿って左右にスライドする。
【0043】
油圧シリンダ81には、その両端部に取り付けられたブラケット86を介して、スイベルアーム87が付設される。スイベルアーム87はその支軸88によりブラケット86とピン結合し、支軸88のまわりに回動可能である。一方、図12に示すように、ドライブシャフトケース38の後側で水平方向に、ステアリングサブシャフト89を支持するためのハウジング90が配置される。ステアリングサブシャフト89はハウジング90内で回転可能に支持され、その上下端部にそれぞれステアリングレバー91,92が取り付けられる。上側のステアリングレバー91は連結ピン93を介してスイベルアーム87とピン結合される。油圧シリンダ81が固定シャフト85に沿って往復動するのに対応して、ステアリングレバー91はスイベルアーム87を介して、ステアリングサブシャフト89のまわりに右又は左に回動する。
【0044】
下側のステアリングレバー92は連結ピン94を介してスイベルアーム95とピン結合される。シフト駆動ケース79a上には、連結ピン96を介して相互に折曲可能に結合するステアリングアーム97a,97bからなるステアリングアーム97が配置される。上側のステアリングアーム97aは支軸98を介してスイベルアーム95とピン結合される。上下のそれぞれステアリングレバー91,92は同期回動し、この回動によりスイベルアーム95等を介してシフト駆動ケース79a、従ってロアケース79、推進機15が右又は左に旋回する。
【0045】
例えば、船外機10をステアリング操作せず、即ち舟艇が直線走行する場合、ステアリング機構80は図14A及び図14Bに示すように中立状態とし、推進機15及びプロペラ42が真っ直ぐ後方を向いている。このとき、上下のステアリングレバー91,92は共に後方を向く。
例えば、船外機10を左にステアリング操作し、即ち舟艇が左方へ旋回する場合、図15Aのようにステアリングレバー91は左に回動することで、ステアリングサブシャフト89を介して下側のステアリングレバー92も図15Bのように左に回動する。そして、ステアリングレバー92の回動によりスイベルアーム95を介してロアケース79、従って推進機15が左に旋回する。船外機10を右に転舵し、即ち舟艇が右方へ旋回する場合、左方へ旋回する方向と反対側に回動することで、ロアケース79、従って推進機15が右に旋回する。
【0046】
ここで、本実施形態の船外機10の基本的作動において、エンジンケース100の内部に並置された2基のエンジンユニット11の出力は動力伝達機構14を経て、エンジンケース100の外部に配置された推進機15へと伝達される。より具体的にはエンジンユニット11が始動すると、その動力は先ず減速機32へ入力され、次にその出力端からユニバーサルジョイント36を介してタイロッド34へ伝達される。エンジン動力は更に、タイロッド34から中間減速機35へ伝達されるが、中間減速機35において入力軸57からベベルギア59及びベベルギア61を介してドライブシャフト60へ伝達され、これによりドライブシャフト60が回転駆動される。ドライブシャフト60の駆動力はギアケース41内の最終減速機において、ベベルギア63、フォワードギア67及びリバースギア68を介してプロペラシャフト64、更にプロペラ42へと伝達され、プロペラ42が回転する。
【0047】
次に、本実施形態のシフト装置110の具体的な構成について説明する。
図11に示すように、本実施形態のシフト装置110は、ドッグクラッチ71を前後にスライドさせるためのシフトアクチュエータ111を有している。シフトアクチュエータ111は、ロアケース79の直上のシフト駆動ケース79a内の後側に配置されると共に、ドライブシャフトハウジング72を支持する支持機構としての下側のベアリング74よりも下側に配置される。従って、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までを鉛直方向に近接して配置することができる。
【0048】
図16は、シフト駆動ケース79aの上面カバー79bを取り外した状態を示す平面図である。シフト駆動ケース79aは、平面視で略三角形状に形成され、左右のうち右側が側方に延出するように広く形成されている。図17A〜図17Cは、図16に示すIII−III線、IV−IV線、V−V線を切断した断面図である。図18は、シフトアクチュエータ111を下方から見た底面図である。
【0049】
図18に示すように、シフトアクチュエータ111は、アクチュエータケース112内に配置されたステッピングモータ113、ウォームホイール115及びセクタギア117、アクチュエータケース112の外部に配置されたドライブレバー116を含んで構成されている。ステッピングモータ113は、出力軸が前側に延出され、その先端にウォームギア114が結合され、そのウォームギア114がウォームホイール115に噛合する。ウォームホイール115はドライブレバー116に一体的に結合されたセクタギア117に噛合する。従って、ステッピングモータ113を正転または逆転させることで、ウォームギア114、ウォームホイール115及びセクタギア117を介してドライブレバー116が図18に示す矢印方向に揺動する。
【0050】
ドライブレバー116から後述するシフトロッド126まではリンク機構が介して連結されている。図16に示すように、ドライブレバー116の先端には前方略斜め右側に延出する第1のコネクティングロッド118が回動自在に軸支されている。更に、第1のコネクティングロッド118には平面視L字状の中間ベルクランク119の一方端が回動自在に軸支されている。図17Bに示すように、中間ベルクランク119はシフト駆動ケース79a及び上面カバー79b内にそれぞれ配置された樹脂製の軸受部120、121によって軸部119aを中心に水平方向に回動自在に軸支されている。
【0051】
一方、中間ベルクランク119の他方端には前方略斜め左側に延出する第2のコネクティングロッド122が回動自在に軸支されている。更に、第2のコネクティングロッド122にはドリブンレバー123が回動自在に軸支されている。図17Cに示すように、ドリブンレバー123はシフト駆動ケース79a及び上面カバー79b内にそれぞれ配置された樹脂製の軸受部124及び軸受部125によって軸部123aを中心に水平方向に回動自在に軸支されている。ドリブンレバー123の軸部123a内には、軸部123aの軸方向に沿って下方向に延出するシフトロッド126が連結されている。シフトロッド126の周囲にはシフト駆動ケース79a内に結合されたシール部材127及びロアケース79内に結合されたシール部材128が密着されている。シフトロッド126はその軸線まわりに回動自在に軸支された、いわゆる軸回転式である。軸部123aとシフトロッド126とは軸方向に沿ってスプラインで接続されているので、シフトロッド126はドリブンレバー123と同期して回動できると共にドリブンレバー123の軸部123aから軸方向に沿って取り外すことができる。
【0052】
ここで、図16に示すように、シフトアクチュエータ111からシフトロッド126までは、第1のコネクティングロッド118、中間ベルクランク119及び第2のコネクティングロッド122からなるリンク機構によって、ドライブシャフト60との干渉を回避するようにドライブシャフト60の右側を経由して連結されている。
【0053】
また、シフト駆動ケース79a内には中間ベルクランク119の回動を規制するためのデテント機構(第1のデテント機構)130が配設されている。図19は、中間ベルクランク119の周辺であってデテント機構130の一部を透過させた状態を示す平面図である。図19に示すように、デテント機構130は、中間ベルクランク119に近接して配置され、デテントホルダ131、スプリング132、ボール133、デテント溝119c等を含んで構成されている。図19に示すように、中間ベルクランク119の軸部119aには平板状の係止片119bが一体的に結合され、係止片120bの外周の一部にボール133の曲率半径と略同一のデテント溝119cが形成されている。デテント溝119cは、ドッグクラッチ71がフォワードギア67及びリバースギア68のいずれにも係合しないニュートラル状態位置のときにボール133が嵌まり込む位置に形成されている。デテントホルダ131内に収容されたスプリング132がボール133を付勢し、ボール133が係止片119bのデテント溝119c内に嵌まり込むことで中間ベルクランク119の回動が規制される。
【0054】
中間ベルクランク119の回動が規制されることで、ドライブレバー116、第1のコネクティングロッド118、第2のコネクティングロッド122及びドリブンレバー123の動きも規制される。また、操船者によるシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111からスプリング132の付勢力以上の出力が第1のコネクティングロッド118を介して中間ベルクランク119に伝達されることで、ボール133がデテント溝119cから離間し、中間ベルクランク119が回動される。なお、デテント機構130は、シフト駆動ケース79a内であって、例えばドライブレバー116やドリブンレバー123等に近接して配置してもよい。
【0055】
また、図17Bに示すように、中間ベルクランク119の下側にはスロットルポジションセンサ135がセンサカバー79cによってシフト駆動ケース79aの下側から覆われた状態で配設固定されている。スロットルポジションセンサ135は、中間ベルクランク119の回転角度を検出する。また、図19に示すように、中間ベルクランク119の上側にはニュートラル判定スイッチ136がデテントホルダ131に固定されている。ニュートラル判定スイッチ136は、ドッグクラッチ71のニュートラル状態位置を中間ベルクランク119を介して判定する。
【0056】
このように、シフト駆動ケース79a内には、シフト装置110の電装系部品、即ちシフトアクチュエータ111、スロットルポジションセンサ135及びニュートラル判定スイッチ136が配設される。図16に示すように各電装系部品に接続される各ケーブル137a〜137cは、シフト駆動ケース79aの左側面に結合されたワイヤカバー138内およびチューブ139内を通って上方に向かって配線されている。ワイヤカバー138とチューブ139との間及びシフト駆動ケース79aとワイヤカバー138との間には、それぞれクランプ140及び図示しないガスケットによってシフト駆動ケース79a内の水密性が確保される。
【0057】
図11に戻り、上述したシフトロッド126は、ロアケース79内で鉛直方向に延出され、その軸まわりに回動可能に軸支されている。シフトロッド126の下端部には後述するシフトヨークが固定され、プロペラシャフト64と同軸方向に配置されたシフトスライダ143に係合している。
【0058】
図20は、シフトヨーク141及びシフトスライダ143の関係を示す斜視図である。図20に示すように、シフトヨーク141は、シフトロッド126の下部に固定されたアダプタ142下面の外周付近から一部が下側に突出することで形成される。一方、シフトスライダ143は、略円筒状を呈し、側周面にはシフトロッド126の下端部が挿入し得るように、挿入孔143aが円筒軸方向と直交方向に貫通形成される。また、挿入孔143aと繋がるように左右両側に、シフトヨーク141を収容可能に形成された係合部143bを有する。シフトロッド126をシフトスライダ143の挿入孔143aに挿入した状態では、シフトヨーク141が左右いずれかの係合部143bに収容される。シフトスライダ143の後側には後述するコネクタロッド144と連結するための連結部143cが形成される。
【0059】
シフトヨーク141がシフトスライダ143の係合部143bに収容された状態では、図20の矢印に示すように、シフトロッド126が水平方向に沿って左右いずれかに回動することで、係合部143bがシフトヨーク141に押圧され、シフトスライダ143は軸方向の前後いずれかにスライドする。
【0060】
図21は、図11の一部拡大図であり、図22は図21に示すVI−VI線を切断した断面図である。図21および図22に示すように、シフトスライダ143に連結されたコネクタロッド144はプロペラシャフト64内に挿入される。コネクタロッド144の一端側(前側Fr側)は、上述したシフトスライダ143の連結部143cに連結されるので、シフトスライダ143に同期してプロペラシャフト64内を前後方向にスライドする。一方、コネクタロッド144の他端側(後方Rr側)には係止ピン145が直交方向に結合される。係止ピン145は、プロペラシャフト64とプロペラシャフト64の外周に嵌合するドッグクラッチ71とを係止する。従って、コネクタロッド144、プロペラシャフト64及びドッグクラッチ71は、常に一体で回転する。
【0061】
図21に示すように、係止ピン145が貫通するプロペラシャフト64の貫通孔64aは、その軸方向に長孔になっている。従って、ドッグクラッチ71は、コネクタロッド144の前後方向のスライドに連動してプロペラシャフト64に対して、図21に示すニュートラル状態位置から前後いずれかにスライドする。即ち、ドッグクラッチ71がニュートラル状態位置から前後いずれかにスライドし、フォワードギア67又はリバースギア68に係合することで、シフトの切り換えが行われる。
【0062】
また、図21に示すように、ロアケース79にはドッグクラッチ71のスライドを規制するためのデテント機構(第2のデテント機構)150が配設されている。デテント機構150は、コネクタロッド144とプロペラシャフト64との間に配置され、スプリング151、ボール152a〜152c、デテント溝64b〜64d等を含んで構成されている。コネクタロッド144内には、その軸方向に沿ってスプリング151が内挿され、その両端にボール152a、152bが配設されている。一方のボール152aは、係止ピン145に当接し、他方のボール152bは小径な一対のボール152cに当接する。
【0063】
コネクタロッド144の周面には、一対のボール152cの一部を周面から突出させるための一対のボール孔144aが対向して形成されている。従って、ボール152cは、スプリング151によってボール152bを介して押圧され、常にコネクタロッド144の周面から突出する方向に付勢される。一方、プロペラシャフト64の内周面には、その軸方向に離間してボール152cの曲率半径と略同一のデテント溝64b〜64dが形成されている。デテント溝64bはプロペラシャフト64の前端に至るまで形成され、デテント溝64c、64dは内周面に沿った環状に形成されている。
【0064】
デテント溝64b〜64dのうち、中央のデテント溝64cは、ドッグクラッチ71がニュートラル状態位置のときにボール152cが嵌まり込む位置に形成されている。また、前側のデテント溝64bは、ドッグクラッチ71がフォワードギア67に係合する位置に形成され、後側のデテント溝64dは、ドッグクラッチ71がリバースギア68に係合する位置に形成されている。スプリング151がボール152bを介してボール152cを付勢し、ボール152cがデテント溝64b〜64cのいずれかに嵌まり込むことでコネクタロッド144、即ちドッグクラッチ71のスライドが規制される。
【0065】
コネクタロッド144のスライドが規制されることで、シフトスライダ143、シフトヨーク141及びシフトロッド126の動きも規制される。また、操船者によるシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111からスプリング151の付勢力以上の出力がシフトロッド126及びシフトスライダ143を介してコネクタロッド144に伝達されることで、ボール152cがデテント溝64b〜64cのいずれから離間し、ドッグクラッチ71がスライドする。なお、デテント機構150は、ロアケース79内であって、シフトロッド126からドッグクラッチ71に至る経路までの間に配置してもよい。
【0066】
上述したように構成される船外機10では、操船者によるシフトレバーを介したフォワード(前進)及びリバース(後進)のシフト操作を、図示しないECUが受信する。ECUはシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111を介してドライブレバー116を左右いずれかに回動させる。ドライブレバー116はリンク機構を介してドリブンレバー123、即ちシフトロッド126を回動させる。シフトロッド126はシフトヨーク141を介してシフトスライダ143を前後いずれかにスライドさせることで、コネクタロッド144を介してドッグクラッチ71を連動してスライドさせる。ドッグクラッチ71がスライドし、フォワードギア67又はリバースギア68に係合することでプロペラシャフト64、即ちプロペラ42の回転方向が切り換えられることでシフトが切り換えられる。
【0067】
上述したように構成されるシフト装置110によれば、シフトアクチュエータ111をロアケース79の直上に配置したので、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までを近接して配置することができる。即ち、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までの距離が短くなるために、両者間を連結するリンク機構の剛性が向上する。リンク機構の剛性が向上することで、シフトアクチュエータ111からの駆動がドッグクラッチ71に正確且つ迅速に伝達され、シフト操作の応答性を向上させることができる。また、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までの距離を短くすれば、両者間を連結するリンク機構の部品数を少なくすることができる。従って、部品間のガタの集積が削減され、シフトのヒステリシス誤差を少なくすることができ、シフトの切り換えを正確に行うことができる。
【0068】
また、上述したように本実施形態のシフト装置110では、シフトアクチュエータ111を、ドライブシャフトハウジング72を軸支する支持機構としてのベアリング74よりも下側に配置した。船外機10の各構成をステアリング操作するときの懸架する側(固定部側)と懸架される側(可動部側)とに分けると、ドライブシャフトハウジング72、シフト駆動ケース79a及びロアケース79等(いわゆるバネ下部)は可動部側に含まれ、フレーム16、エンジンユニット11、スイベルブラケット39及びドライブシャフトケース38等(いわゆるバネ上部)は固定部側に含まれる。ここで、本実施形態のシフト装置110は、固定部側と可動部側とに跨って配置されておらず、可動部側のみに配置される。従って、ステアリング操作したときにシフト装置110が可動部側に対して干渉することがない。
【0069】
また、上述したように本実施形態のシフト装置110では、シフトロッド126を、ドライブシャフトハウジング72を軸支する支持機構としてのベアリング74よりも下側に配置した。従って、本実施形態のシフトロッド126は、固定部側と可動部側とに跨って配置されておらず、可動部側に配置される。従って、ステアリング操作したときにシフトロッド126が可動部側に対して干渉することがない。
【0070】
また、上述したように本実施形態の船外機10では、ステアリング軸Sとドライブシャフト60の軸とが一致し、シフトロッド126の軸線はステアリング軸Sからオフセットされている。従って、ステアリング軸Sをロアケース79の揚力中心に近接させることができるので、ステアリング機構80によるステアリング動作の負担を低減させることができる。
【0071】
また、上述したように本実施形態の船外機10では、メンテナンスのためにロアケース79とシフト駆動ケース79aとを着脱させることができる。このとき、電気系部品であるシフトアクチュエータ111、スロットルポジションセンサ135、ニュートラル判定スイッチ136は、シフト駆動ケース79a内に配置され、ロアケース79内に配置されていない。従って、ロアケース79とシフト駆動ケース79aとを着脱させるときに、電気系部品のケーブル137a〜137cの結合及び離脱をする必要なく、着脱の作業性が向上する。また、シフト駆動ケース79aのドリブンレバー123と、ロアケース79のシフトロッド126とはスプラインで接続されているので、ロアケース79とシフト駆動ケース79aとの着脱をドリブンレバー123とシフトロッド126との間で容易に行うことができる。
【0072】
また、上述したように本実施形態のシフト装置110では、リンク機構の一つである中間ベルクランク119の近接した位置に、少なくともシフトのニュートラル状態位置で作動する第1のデテント機構130を配置している。また、シフト装置110では、ロアケース79のプロペラシャフト64内に少なくともシフトのニュートラル状態位置で作動する第2のデテント機構150を配置している。従って、シフト駆動ケース79aとロアケース79とを離脱した状態から再び結合する場合において、第1のデテント機構130及び第2のデテント機構150の両方をニュートラル状態位置にしておくことで、シフトのストロークを調整したりする作業が不要となり、両者の結合の作業性が向上する。
【0073】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る船外機について説明する。なお、第1の実施形態と同様な構成は、同一符号を付してその説明を省略する。
図23は、本実施形態に係る船外機200の一部断面を示す側面図である。なお、図23では、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。船外機200はエンジンホルダ201を備え、このエンジンホルダ201の上方にエンジン202が設置される。エンジン202は、その内部にクランクシャフト203が略垂直に配設されたバーティカル(縦)型の水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンである。
【0074】
エンジンホルダ201の下方には潤滑オイルを貯留するオイルパン204が付設される。船外機200にはブラケット装置205が取り付けられ、このブラケット装置205を介して船外機200がトランサムボード2に装着される。ブラケット装置205は、クランプブラケット206、スイベルブラケット207及びステアリングシャフト208を備えている。スイベルブラケット207とクランプブラケット206とが相対的に回動することで、後述する推進機15を含む船外機200本体がチルト軸Tまわりに上下方向に回動可能である。また、ステアリングシャフト208とスイベルブラケット207とが相対的に回動することで、推進機15を含む船外機200本体がステアリング軸Sまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である。
【0075】
エンジン202及びエンジンホルダ201の周囲は、エンジンケース209によって覆われる。また、オイルパン204の周囲及びその下部にはドライブシャフトハウジング210が設置される。エンジンホルダ201、オイルパン204及びドライブシャフトハウジング210内にはエンジン202の出力軸であるドライブシャフト211が略垂直に配置されている。ドライブシャフトハウジング210の下方には推進機15が配置される。推進機15は全体としてフィン状を呈し、推進機15のケーシングを構成するロアケース79を含んでいる。ロアケース79内には、プロペラ駆動用のギア機構を内蔵するギアケース41を有している。ドライブシャフトハウジング210とロアケース79との間にはシフト駆動ケース79aが一体的に結合されている。ロアケース79とシフト駆動ケース79aとはメンテナンスを行うためにボルト等を用いて着脱可能に構成される。ロアケース79内の構成は、第1の実施形態と同様であり、その説明は省略する。
【0076】
次に、本実施形態のシフト装置220は、ドッグクラッチ71を前後にスライドさせるためのシフトアクチュエータ111が、ロアケース79の直上のシフト駆動ケース79a内の後側に配置されている。図24は、シフト駆動ケース79a内の構成を示す断面図である。図24に示すように、シフトアクチュエータ111は、ドライブレバー116からドライブシャフト211の軸線を中心として回動可能に軸支されたスイング部材221を介してドリブンレバー222に連結されている。
【0077】
ドリブンレバー222は軸部222aを中心に水平方向に回動可能に軸支されている。ドリブンレバー222の軸部222a内には、軸部222aの軸方向に沿って下方向に延出するシフトロッド126が連結されている。軸部222aとシフトロッド126とは軸方向に沿ってスプラインで接続されている。なお、シフトロッド126からドッグクラッチ71までは、第1の実施形態と同様、シフトヨーク141、アダプタ142、シフトスライダ143、コネクタロッド144及び係止ピン145を介して接続される。
【0078】
上述したように構成される船外機200では、操船者によるシフトレバーを介したフォワード(前進)及びリバース(後進)のシフト操作を、図示しないECUが受信する。ECUはシフト操作に応じてシフトアクチュエータ111を介してドライブレバー116を左右いずれかに回動させる。ドライブレバー116はスイング部材221を介してドリブンレバー123、即ちシフトロッド126を回動させる。シフトロッド126はシフトヨーク141を介してシフトスライダ143を前後いずれかにスライドさせることで、コネクタロッド144を介してドッグクラッチ71を連動してスライドさせる。ドッグクラッチ71がスライドし、フォワードギア67又はリバースギア68に係合することでプロペラシャフト64、即ちプロペラ42の回転方向が切り換えられることでシフトが切り換えられる。
【0079】
上述したように構成されるシフト装置220によれば、シフトアクチュエータ111をロアケース79の直上に配置したので、シフトアクチュエータ111からドッグクラッチ71までを近接して配置することができる。従って、第1の実施形態と同様に、シフトアクチュエータ111からの駆動がドッグクラッチ71に正確且つ迅速に伝達され、シフト操作の応答性を向上させることができる。
【0080】
また、船外機200の各構成をステアリング操作するときの懸架する側(固定部側)と懸架される側(可動部側)とに分けると、エンジン202、ドライブシャフトハウジング210、シフト駆動ケース79a及びロアケース79等(いわゆるバネ下部)は可動部側に含まれ、クランプブラケット206、スイベルブラケット207等(いわゆるバネ上部)は固定部側に含まれる。ここで、本実施形態のシフト装置220は、固定部側と可動部側とに跨って配置されておらず、可動部側のみに配置される。従って、ステアリング操作したときにシフト装置220が可動部側に対して干渉することがない。
【0081】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10:船外機 11:エンジンユニット 42:プロペラ 60:ドライブシャフト 63:ベベルギア 64:プロペラシャフト 67:フォワードギア 68:リバースギア 72:ドライブシャフトハウジング 79:ロアケース 110:シフト装置 111:シフトアクチュエータ 74:ベアリング 126:シフトロッド 130:第1のデテント機構 150:第2のデテント機構 200:船外機 210:ドライブシャフトハウジング 220:シフト装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置であって、
エンジンからの出力をドライブシャフトから前記プロペラシャフトに変換するギア機構を備えるロアケースの直上に、前記プロペラシャフトの回転方向を切り換えるためのシフトアクチュエータを配設したことを特徴とする船外機のシフト装置。
【請求項2】
前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、
前記シフトアクチュエータは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の船外機のシフト装置。
【請求項3】
前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、
前記シフト装置は、前記ロアケース内の鉛直方向に沿って配置され、前記シフトアクチュエータの動きを前記ギア機構のフォワードギアおよびリバースギアのいずれかに伝達するための軸回転式のシフトロッドを有し、
前記シフトロッドは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の船外機のシフト装置。
【請求項4】
前記シフトロッドの軸線がステアリング軸からオフセットされていることを特徴とする請求項3に記載の船外機のシフト装置。
【請求項5】
前記シフト装置は、
前記ロアケースの直上に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第1のデテント機構と、
前記ロアケース内に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第2のデテント機構と、を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の船外機のシフト装置。
【請求項1】
操船者によるシフト操作に基づいてプロペラが軸着されたプロペラシャフトの回転方向を切り換える船外機のシフト装置であって、
エンジンからの出力をドライブシャフトから前記プロペラシャフトに変換するギア機構を備えるロアケースの直上に、前記プロペラシャフトの回転方向を切り換えるためのシフトアクチュエータを配設したことを特徴とする船外機のシフト装置。
【請求項2】
前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、
前記シフトアクチュエータは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の船外機のシフト装置。
【請求項3】
前記船外機は、前記ロアケースに一体的に設けられ且つ前記ドライブシャフトを収容するドライブシャフトハウジングが支持機構を介してステアリング方向に回転可能に軸支され、
前記シフト装置は、前記ロアケース内の鉛直方向に沿って配置され、前記シフトアクチュエータの動きを前記ギア機構のフォワードギアおよびリバースギアのいずれかに伝達するための軸回転式のシフトロッドを有し、
前記シフトロッドは、前記支持機構よりも下側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の船外機のシフト装置。
【請求項4】
前記シフトロッドの軸線がステアリング軸からオフセットされていることを特徴とする請求項3に記載の船外機のシフト装置。
【請求項5】
前記シフト装置は、
前記ロアケースの直上に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第1のデテント機構と、
前記ロアケース内に配置され、シフトのニュートラル状態位置で作動する第2のデテント機構と、を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の船外機のシフト装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2012−254702(P2012−254702A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128528(P2011−128528)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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