説明

船舶の防火区画貫通部構造

【課題】船舶の防火区画貫通部構造であって、区画として鋼板等が使用されている場合でも、配管類の側面に対する熱の影響が少なく、施工が容易であり、耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供する。
【解決手段】船舶の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類5と、前記貫通孔から前記貫通孔外部に突出して設置された縁材側板3と、前記縁材側板の内側に設置された、前記貫通孔を覆う不燃閉塞板4と、前記不燃閉塞板を前記縁材側板の内側に保持する支持部材6と、前記貫通孔と前記配管類とを覆う熱膨張性耐火シート7と、前記配管類と前記熱膨張性耐火シートとの隙間を覆うシール材と、を有し、前記配管類が、前記不燃閉塞板に設置された挿通孔を挿通し、前記熱膨張性耐火シートが、前記縁材側板の外周と前記配管類とに固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の仕切り部に設けられた防火区画貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の仕切り部の一方で火災が発生した場合でも、炎や煙等が他方へ広がることを防ぐために、建築物等の仕切部には通常区画が設けられている。
この建築物内部に配管類を設置する場合には、この区画を貫通する孔を設け、この貫通孔に配管類を挿通する必要がある。
しかしながら単に配管類を前記の孔に挿通させただけでは火災等の発生時に前記貫通孔を伝わって、炎や煙等が区画の一方から他方へ拡散する問題がある。
【0003】
この問題に対応するためにこれまで様々な構造が提案されている。
従来の第一の防火区画貫通部構造として、貫通部に火炎止めバリヤを作るための装置であって、(a)前記貫通部内に配列された支持機構と、(b)前記支持機構と移動可能に連結された第1の火炎止め材料と、(c)前記第1の火炎止め材料と前記貫通部の内面との間に配列された第2の火炎止め材料と、を含む装置が提案されている(特許文献1)。
図13は従来の第一の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
図13に示される様に建築物等の仕切部に設けられた区画に形成された貫通孔に複数の配管類500が挿通している。
前記貫通孔内部には、支持レール510aを有する支持機構が、第1の火炎止め材料520に設置された穴530を貫いて設置されている。
また前記貫通孔内部には第2の火炎止め材料514が設置されている。加えてバリア534,536も設置されている。
この装置により、配管類が通る壁、床、または天井の開口部に、火炎止めを設けることができるとされる。
【0004】
また、従来の第二の防火区画貫通部構造として、中央部にケーブル貫通孔を有し、そのケーブル貫通孔を二等分する面で二つに分割された形態のブロックを構成する二つの半ブロックを組み合わせて、貫通孔に挿入する防火区画貫通部構造も提案されている(特許文献2)。
【0005】
この一方、船舶の仕切り部に設けられた防火区画貫通部構造は、船舶に使用される区画に対して鋼板等の金属材料が使用されることから、建築物の仕切り部に設けられた防火区画貫通部構造の場合とは異なる問題が生じる。
船舶に関する防火区画貫通部構造としては、船舶の仕切り部に設けられた鋼板等の区画の貫通孔に対し、前記貫通孔と同じ口径を有するSPGと呼ばれる筒状の鋼管を溶接する。そしてこのSPG内部に配管類を挿通させた後、配管類と前記SPGとの隙間を硬化型シール材により閉塞させて得られる防火区画貫通部構造が一般的である。
しかしながらこの様なSPGを使用する船舶の防火区画貫通部構造の場合、硬化型シール材が硬化するまで防火区画貫通部構造を施工する次の作業を実施することができない問題があった。
またこの問題の他にも一度防火区画貫通部構造を形成した後に新たに配管類を増設する作業が煩雑になる問題、SPGが長い場合には配管類と前記SPGとの隙間を硬化型シール材により閉塞させる作業が煩雑になったり、区画の一方側から施工を完結させることが困難になったりする問題等があった。
また鋼板等の区画の貫通孔にSPGを溶接した後に残る溶接バリ等を除去する作業も容易ではなかった。
【0006】
ところで先の第一の防火区画貫通部構造の場合には、建築物等の仕切部に設けられた区画に形成された貫通孔内部を火災等の炎や熱が通ることを防止することができるが、区画自体が加熱されることによるSPG等からの配管類側面に対する熱の影響を遮断することが十分ではない問題がある。
特に第一の防火区画貫通部構造の場合には船舶等の区画に使用される鋼板等の金属材料等の熱の伝導性のよいものが防火区画貫通部構造に使用される場合の影響が全く考慮されていない。
この様に建築物に関する防火区画貫通部構造と、船舶に関する防火区画貫通部構造とを同列に論じることは困難である。
【0007】
また先の第二の防火区画貫通部構造の場合には、貫通孔を挿通する配管類の本数が少ない場合には対応が可能であるが、貫通孔を挿通する配管類が多くなると防火区画貫通部構造を施工することができないとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−506169号公報
【特許文献2】特開2002−010449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、船舶の防火区画貫通部構造であって、区画として鋼板等が使用されている場合でも、配管類の側面に対する熱の影響が少なく、施工が容易であり、耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、熱膨張性耐火シートが、船舶の区画の貫通孔に立設された縁材側板の外周と前記配管類とに固定されている防火区画貫通部構造が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]船舶の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記貫通孔から前記貫通孔外部に突出して設置された縁材側板と、
前記縁材側板の内側に設置された、前記貫通孔を覆う不燃閉塞板と、
前記不燃閉塞板を前記縁材側板の内側に保持する支持部材と、
前記貫通孔と前記配管類とを覆う熱膨張性耐火シートと、
を有し、
前記配管類が、前記不燃閉塞板に設置された挿通孔を挿通し、
前記熱膨張性耐火シートが、前記縁材側板の外周と前記配管類とに固定されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0012】
また本発明は、
[2]前記貫通孔の縦および横の大きさが、それぞれ10〜1000mmの範囲であり、
前記区画表面から前記縁材側板の端部までの距離が、1000mm以下の範囲である、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0013】
また本発明は、
[3]シール材が、前記配管類と前記熱膨張性耐火シートとの隙間を覆う、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0014】
また本発明は、
[4]前記配管類と前記熱膨張性耐火シートとの隙間を覆うシール材が、無機繊維マット材、樹脂発泡材、樹脂シーリング材、パテ材および樹脂吹き付け材からなる群より選ばれる少なくとも一つである、上記[3]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0015】
また本発明は、
[5]結束具が、前記配管類を覆う熱膨張性耐火シートの上から前記配管類全体を束ねている、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防火区画貫通部構造は、前記貫通孔を覆う不燃閉塞板が前記縁材側板の内側に設置されていることから、区画の一方で火災等が発生した場合であっても他方へ煙が拡散したり延焼が生じたりすることを防止することができる。これにより耐火性に優れる。
【0017】
また本発明の防火区画貫通部構造は、前記熱膨張性耐火シートが、前記縁材側板の外周と前記配管類とに固定されていることから、火災等の熱が鋼板等の区画を伝わって前記縁材側板が加熱された場合には前記熱膨張性耐火シートが膨張する。
膨張した熱膨張性耐火シートは断熱層を形成するため、前記縁材側板側から配管類が加熱されることを防止することができる。これにより配管類の側面に対する熱の影響を抑えることができる。
【0018】
また本発明の防火区画貫通部構造は、支持部材を使用することにより前記不燃閉塞板を前記縁材側板の内側に保持することができるから、区画の一方側から施工することが可能となり施工性に優れる。
【0019】
また本発明の防火区画貫通部構造は、配管類の多少に関わらず容易に施工できることから施工性に優れる。
また防火区画貫通部構造の施工後に配管類を追加撤去する場合であっても、前記貫通孔を覆う不燃閉塞板を取り替える等の操作により追加撤去することが可能となることから施工性に優れる。
【0020】
また本発明の防火区画貫通部構造は、前記熱膨張性耐火シートが前記縁材側板の外周に固定されていることから、前記縁材側板を鋼板等に溶接等した際に生じる溶接バリを覆うことができるから溶接バリを除去する必要がなく、溶接バリの除去時間を短縮することが可能になり施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に使用する縁材側板を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明に使用する不燃閉塞板を例示した模式平面図である。
【図3】本発明に使用する支持部材を説明するための模式斜視図である。
【図4】本発明に使用する支持部材を説明するための模式斜視図である。
【図5】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図6】縁材側板の内側に支持部材に設置した状態を示す模式断面図である。
【図7】貫通孔を覆う不燃閉塞板を前記縁材側板の内側に設置した構造を説明するための模式断面図である。
【図8】熱膨張性耐火シートが設置された構造を説明するための模式断面図である。
【図9】配管類と熱膨張性耐火シートとの隙間をシール材により覆った構造を説明するための模式断面図である。
【図10】実施例2の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図11】実施例3の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図12】実施例4の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図13】従来の第一の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は船舶の防火区画貫通部構造に関するものであるが、最初に本発明に使用する配管類について説明する。
前記配管類は、船舶の仕切り部に設けられた床、天井、壁等の区画の貫通孔を挿通するものである。
前記配管類としては、例えば、冷媒管、熱媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の気体移送用管類、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等のケーブル類等、またこれらの液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等を内部に挿通させるためのスリーブ等が挙げられる。
これらの中でも施工性の観点から冷媒管、熱媒管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類やケーブル類が好ましく、冷媒管、熱媒管であればさらに好ましい。
【0023】
前記配管類は、液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類、スリーブ等の一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0024】
前記配管類の形状については特に限定はないが、例えば、前記配管類の長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等の形状が挙げられる。これらの中でも、断面形状が円形、四角形等であるものが施工性に優れることから好ましい。
【0025】
前記配管類の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの距離が最も大きい辺の長さを基準として、通常、1〜1000mmの範囲であり、好ましくは5〜750mmの範囲である。
【0026】
前記配管類が液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等の場合には、通常0.5mm〜10cmの範囲であり、好ましくは1mm〜5cmの範囲である。
また前記配管類がスリーブの場合には、通常10〜1000mmの範囲であり、好ましくは50〜750mmの範囲である。
【0027】
前記配管類の素材については特に限定はないが、例えば、金属材料、無機材料、有機材料等の一種もしくは二種以上からなるものを挙げることができる。
前記金属材料としては、例えば、鉄、鋼、ステンレス、銅、二以上の金属を含む合金等を挙げることができる。
【0028】
また無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等を挙げることができる。
また有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂等を挙げることができる。
前記素材は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0029】
本発明に使用する配管類は、前記金属材料管、無機材料管および有機材料管等の一種以上であるが、前記金属材料管、無機材料管および有機材料管等の二種以上を内筒や外筒に使用した積層管として使用することもできる。
前記配管類は金属材料管、有機材料管等が取扱い性の面から好ましく、具体的には鋼管
、銅管、合成樹脂管等であればさらに好ましい。
【0030】
本発明に使用する配管類は、船舶の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものであるが、前記区画としては、船舶の防火区画や船室に設けられた床、天井、壁等の鋼板等が挙げられる。
これらの区画に貫通孔を設けることにより、前記貫通孔に前記配管類を挿通させることが可能である。
【0031】
図1は本発明に使用する縁材側板を説明するための模式断面図である。
図1に例示される様に、区画としての鋼板1に長方形の貫通孔2が設けられている。前記区画は船舶に使用される素材であれば特に限定はないが、通常は鋼板等の金属材料が使用される。
また前記貫通孔2は、通常縦および横の大きさがそれぞれ10〜1000mmの範囲であれば好ましい。
この貫通孔2から前記貫通孔2の外部に突出して縁材側板3が設置されている。前記縁材側板3は貫通孔2側の鋼板1の内周面に溶接されている。
前記鋼板1および縁材側板3の厚みはそれぞれ通常1.6mm〜12mmの範囲であり、3.2mm〜6mmの範囲であれば好ましい。
前記鋼板1表面から前記縁材側板3の端部までの距離は、通常0mm〜1000mmの範囲であり、10mm〜150mmの範囲であれば好ましい。
【0032】
次に本発明に使用する不燃閉塞板について説明する。
前記不燃閉塞板としては、例えば、無機繊維を成形した無機繊維ボード、耐熱パネル等を挙げることができる。
【0033】
前記無機繊維ボードとしては、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等の無機繊維を焼結剤、熱可塑性樹脂、接着剤等を使用して成形して得られるボード等が挙げられる。
【0034】
また前記耐熱パネルとしては、例えば、セメント系パネル、無機セラミック系パネル等が挙げられる。
前記セメント系パネルとしては、例えば、硬質木片セメント板、無機繊維含有スレート板、軽量気泡コンクリート板、モルタル板、プレキャストコンクリート板等が挙げられる。
前記無機セラミック系パネルとしては、例えば、石膏ボード、けい酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、ミネラルウール板、窯業系板等が挙げられる。
【0035】
ここで前記石膏ボードとしては、具体的には焼石膏に鋸屑やパーライト等の軽量材を混入し、両面に厚紙を貼って成形したもので、例えば、普通石膏ボード(JIS A6901準拠:GB−R)、化粧石膏ボード(JIS A6911準拠:GB−D)、防水石膏ボード(JIS A6912準拠:GB−S)、強化石膏ボード(JIS A6913準拠:GB−F)、吸音石膏ボード(JIS A6301準拠:GB−P)等が挙げられる。
【0036】
前記無機繊維ボード、耐熱パネル等は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0037】
図2は本発明に使用する不燃閉塞板を例示した模式平面図である。
図2(a)に例示される様に、前記不燃閉塞板4に配管類5(図示せず)を挿通させるための挿通孔30が設けられている。
前記不燃閉塞板4の外形は、先の図1に例示した鋼板1に形成された貫通孔2に対して、前記鋼板1と平行な面を基準としてほぼ同一の形状を有している。
このため前記不燃閉塞板4によりほぼ隙間なく前記貫通孔2を覆うことができる。
なお、前記不燃閉塞板4の形状は貫通孔2の形状に応じて適宜変更することができる。
【0038】
また図2(b)に例示した様に前記不燃閉塞板4に切断面を形成することにより、前記不燃閉塞板4を複数の不燃閉塞板部材4a、4b、4cに分割することができる。これらの不燃閉塞板部材4a、4b、4cを前貫通孔2内部に挿入することにより、前記不燃閉塞板4を前記縁材側板3の内側に容易に設置することができる。
【0039】
次に本発明に使用する支持部材について説明する。
図3および図4は本発明に使用する支持部材を説明するための模式斜視図である。
図3(a)に例示される様に、本発明に使用する支持部材6は、前記縁材側板3に係止させるための係止部6aと、前記不燃閉塞板4を前記縁材側板3の内側に保持するための保持部6bと、前記係止部6aおよび保持部6b同士を連結するための吊下部6cとを有するものである。
本発明に使用する支持部材6は、係止部6a、保持部6bおよび吊下部6cを有するものであればその形状に限定はなく、例えば、図3(b)に例示される様に、支持部材6を複数組み合わせてなる支持部材60の形状を有するものであってもよい。
また前記支持部材6および60の変形例として、例えば図4(c)、(d)に例示される様に、前記縁材側板3の片方に係止させて使用するための係止部6aを有するものであってもよい。
【0040】
前記支持部材の素材については特に限定はないが、例えば、先に説明した配管類と同様のものを使用することができる。
【0041】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、エポキシ樹脂やゴム等の樹脂成分、リン化合物、中和された熱膨張性黒鉛、無機充填材等を含有する熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、ガラスクロス等の無機繊維シート、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等の一種もしくは二種以上を積層したものを使用することができる。
【0042】
前記無機繊維シートに使用する無機繊維としては、例えば、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。
前記無機繊維層は、前記無機繊維を用いた無機繊維クロスを使用することが好ましい。
また前記無機繊維シートに使用する無機繊維は、金属箔をラミネートしたものを使用することが好ましい。
金属箔ラミネート無機繊維の具体例としては、例えば、アルミニウム箔ラミネートガラスクロス、銅箔ラミネートガラスクロス等がさらに好ましい。
【0043】
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、例えば金属箔層、熱膨張性樹脂層および無機繊維層等を積層すること等により得ることができる。これらの積層には溶融同時押出、熱プレス等の他、接着剤により各層を貼着する手段等を挙げることができる。本発明に使用する熱膨張性耐火シートは金属箔層が最外面にあることが好ましい。
【0044】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートは市販品を使用することができ、例えば積水化学工業社製フィブロック(商品名。エポキシ樹脂やゴムを樹脂成分とし、リン化合物、熱膨張性黒鉛および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物)等を入手して使用することが可能である。
【0045】
また本発明に使用するシール材としては、無機繊維マット材、樹脂発泡材、樹脂シーリング材、パテ材および樹脂吹き付け材等の一種もしくは二種以上を挙げることができる。
【0046】
前記無機繊維マット材としては、例えば、 グラスウール、ロックウール、セラミックウール、石膏繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、スラグ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維等の無機繊維を抄紙等して得られるマット材等が挙げられる。
【0047】
前記樹脂発泡材としては、例えば、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、ポリ塩化ビニルフォーム、EPDMフォーム、NBRフォーム等の合成樹脂フォーム等が挙げられる。
【0048】
前記樹脂シーリング材としては、例えば、JIS A6024により規定されている建築補修用注入エポキシ樹脂シーリング材等が挙げられる。
【0049】
前記パテ材としては、例えば、JIS A5758により規定されている建築用シーリング材、JIS A6914により規定されている石膏ボード用目地処理材、モルタル等が挙げられる。
前記パテ材は、クロロプレンゴム等のゴムやシリコーン等に充填材、難燃剤等を配合してなるパテ、コーキング等であれば好ましい。
【0050】
前記樹脂吹き付け材としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、EPDM樹脂、NBR樹脂等を有機溶剤等に溶解、分散させた液等が挙げられる。これらの溶解液、分散液等を吹き付けることにより、樹脂吹き付け材を任意の場所に形成することができる。
【0051】
次に本発明について図面に基づき実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
図5は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1では船舶の仕切り部に設けられた区画として、鋼板1が使用されている。
実施例1に使用した前記鋼板1の厚みは4.5mmである。
前記鋼板1には長方形の貫通孔2が形成されてる。
実施例1では前記長方形の貫通孔2の横幅は500mmである。また前記貫通孔2の奥行(図示せず)は75mmである。
また前記貫通孔2の断面形状は長方形のものに限定されず、円形、四角形以外の多角形状、楕円形状等の形状であっても施工が可能である。
【0053】
また前記貫通孔2から前記貫通孔2の外部に突出して縁材側板3が設置されている。前記縁材側板3は貫通孔2側の鋼板1の内周面に溶接されている。
前記鋼板1の厚みは4.5mmである。縁材側板3の厚みは4.5mmであり、前記鋼板1表面から前記縁材側板3の端部までの距離は30mmである。
【0054】
また貫通孔2を配管類5が複数挿通している。
前記配管類5は電線ケーブル等の通信ケーブル等であり、直径は5mm〜60mmの範囲である。
【0055】
図6は前記縁材側板の内側に支持部材に設置した状態を示す模式断面図である。
実施例1に使用した支持部材6の形状は先の図3(a)に示したものと同様であり、図5の手前側と奥側に合計2個使用している。
前記支持部材6のうち、係止部6aが前記縁材側板3の上端に係止している。また前記係止部6aは吊下部6cを介して保持部6bとつながっていて、前記保持部6bにより不燃閉塞板4を保持することができる構造となっている。
【0056】
図7は貫通孔を覆う不燃閉塞板を前記縁材側板の内側に設置した構造を説明するための模式断面図である。
実施例1に使用した不燃閉塞板4は図2に図示した形状と同様であり、配管類5が挿通する部分に挿通孔が設けられている。また前記不燃閉塞板4は不燃閉塞板部材4a、4b、4cに分割されていて、貫通孔2内部に挿入して、前記支持部材6の保持部6bに設置することができる。
これにより、前記貫通孔2を隙間なく閉塞させることができる。
【0057】
図8は熱膨張性耐火シートが設置された構造を説明するための模式断面図である。
図8に表わされる様に熱膨張性耐火シート7が前記不燃閉塞板4の外周と前記配管類5とに固定されている。
熱膨張性耐火シート7を前記不燃閉塞板4の外周と前記配管類5とに固定する手段としては、例えば、接着剤、粘着剤、粘着テープ、溶接ピン、埋め込みボルト等による手段を挙げることができる。
この様にして図8に例示される様に前記熱膨張性耐火シート7により前記貫通孔2と前記配管類5とを覆うことができる。
【0058】
図9は配管類と熱膨張性耐火シートとの隙間をシール材により覆った構造を説明するための模式断面図である。
実施例1ではシール材としてポリエチレンフォーム8が使用されている。前記ポリエチレンフォームは柔軟性を有するため、複数の配管類5が存在する場合でもその表面形状に追随して配管類5と熱膨張性耐火シート7との隙間を閉塞させることができる。
【0059】
実施例1の防火区画貫通部構造は前記熱膨張性耐火シート7が前記縁材側板3の外周と前記配管類5とに固定されていることから、火災等の熱が鋼板1の区画を伝わって前記縁材側板3が加熱された場合には、先のポリエチレンフォーム8が融け落ちた場合でも前記熱膨張性耐火シート7が膨張する。
膨張した熱膨張性耐火シート7は断熱層を形成するため、前記縁材側板側3から配管類5が加熱されることを防止することができる。これにより配管類5の側面に対する熱の影響を抑えることができる。
また前記配管類5を炎が伝わってきた場合でもいち早く熱膨張性耐火シート7が膨張するため、前記配管類5の周囲に設置された熱膨張性耐火シート7による膨張残渣が配管類5の周囲を封じ込めるためさらなる延焼や煙等の拡散を防止することができる。
【0060】
なお、実施例1の場合は船舶の区画が水平区画である床や天井の場合に該当するが、前記船舶の区画が垂直区画である壁等の場合にも本発明の防火区画貫通部構造を得ることができる。
以下の実施例についても同様である。
【実施例2】
【0061】
実施例2は実施例1の変形例であり、図10は実施例2の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1の場合にはシール材としてポリエチレンフォーム8が使用されていたが、実施例2の場合はシール材としてパテ9(クロロプレンゴム等のゴムやシリコーン等に充填材、難燃剤等を配合してなるパテ)が使用されている点が異なる。
それ以外は実施例1の場合と全く同様である。
前記パテ9は柔軟性を有するため、複数の配管類5が存在する場合でもその表面形状に合わせて配管類5と熱膨張性耐火シート7との隙間を閉塞させることができる。
【実施例3】
【0062】
実施例3は実施例1の変形例であり、図11は実施例3の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1の場合にはシール材としてポリエチレンフォーム8が使用されていたが、実施例3の場合はシール材として吹き付けウレタン材10(ウレタン樹脂を有機溶剤に溶解して吹き付けて硬化させたもの)が使用されている点が異なる。
それ以外は実施例1の場合と全く同様である。
前記吹き付けウレタン材10は所望の場所に吹き付けることにより吹き付けウレタン材10を形成することができるため、複数の配管類5が存在する場合でもその表面形状に合わせて配管類5と熱膨張性耐火シート7との隙間を閉塞させることができる。
【実施例4】
【0063】
実施例4は実施例1の変形例であり、図12は実施例4の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1の場合には結束具を使用していないが、実施例4の場合には熱膨張性耐火シート7の上から金属ベルト20による結束具により配管類5を束ねている点が異なる。
それ以外は実施例1の場合と全く同様である。
なお 本発明に使用する結束具としては、例えば金属ベルト、無機繊維ベルト、布製ベルト等を挙げることができる。結束具を固定するには、例えば、結束具の長手方向の一端を結束具の長手方向の他端に係止させる構造を有するものを使用すればよい。
実施例4に示される様に、結束具を使用することにより効率よく本発明の防火区画貫通部構造を施工することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 鋼板
2 貫通孔
3 縁材側板
4 不燃閉塞板
4a、4b、4c 不燃閉塞板部材
5、500 配管類
6、60、61、62 支持部材
6a 係止部
6b 保持部
6c 吊下部
7 熱膨張性耐火シート
7a、7b 熱膨張性耐火シート片
8 ポリエチレンフォーム
9 パテ
10 吹き付けウレタン材
20 金属ベルト
30 挿通孔
500 配管類
510a 支持レール
514 第2の火炎止め材料
520 第1の火炎止め材料
530 穴
534,536 バリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記貫通孔から前記貫通孔外部に突出して設置された縁材側板と、
前記縁材側板の内側に設置された、前記貫通孔を覆う不燃閉塞板と、
前記不燃閉塞板を前記縁材側板の内側に保持する支持部材と、
前記貫通孔と前記配管類とを覆う熱膨張性耐火シートと、
を有し、
前記配管類が、前記不燃閉塞板に設置された挿通孔を挿通し、
前記熱膨張性耐火シートが、前記不燃閉塞板の外周と前記配管類とに固定されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。
【請求項2】
前記貫通孔の縦および横の大きさが、それぞれ10〜1000mmの範囲であり、
前記区画表面から前記縁材側板の端部までの距離が、1000mm以下の範囲である、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項3】
シール材が、前記配管類と前記熱膨張性耐火シートとの隙間を覆う、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項4】
前記配管類と前記熱膨張性耐火シートとの隙間を覆うシール材が、無機繊維マット材、樹脂発泡材、樹脂シーリング材、パテ材および樹脂吹き付け材からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項3に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項5】
結束具が、前記配管類を覆う熱膨張性耐火シートの上から前記配管類全体を束ねている、請求項1〜4のいずれかに記載の防火区画貫通部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−250553(P2011−250553A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119938(P2010−119938)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】