説明

船舶用インバータシステム

【課題】推進用誘導電動機と非推進用誘導電動機とを同一のインバータで切換え使用する際に、電動機定数及び速度センサーの有無、ベクトル制御、V/F制御などの最適な制御方式の電動機毎の固有の情報を制御データとしてインバータへ与える。
【解決手段】推進用プロペラ12を駆動する推進用誘導電動機9およびその他の非推進用誘導電動機10、11をそれぞれ選択的に駆動する第1および第2のインバータ7−1、7−2を有する船舶用インバータシステムにおいて、第1のインバータ7−1の制御回路および第2のインバータ7−2の制御回路にそれぞれ誘導電動機の制御データを格納する制御データ格納メモリM1〜M3を備えた記憶手段15−1、15−2と、これらの制御データ格納メモリM1〜M3に格納された制御データを切換える制御データ切換信号S1〜S3を生成出力する第1、第2の制御データ切換装置16−1、16−2を付加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進機およびその他の搭載機器用電動機を駆動するインバータを共用化した船舶用インバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケミカル船などにおいては、荷役作業の高効率化や環境負荷低減などを目的として推進用のディーゼル主機関、あるいはカーゴポンプやウィンチなどの油圧機器等を電動機に置き換え、この電動機をインバータで可変速駆動するようにした駆動システムが拡大して採用されるようになってきた。
【0003】
しかも、船舶の駆動システムの電動化を採用するにあたり留意すべきことは、推進機用インバータと非推進機用インバータとの共用化を図ってインバータの総数を減らして設備費を抑制することである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図7は、特許文献1に記載の推進機用誘導電動機および非推進機用誘導電動機を駆動するインバータを共用化してなる船舶用インバータシステムの船内電気系統図を示す。
図7において、1−1、1−2はそれぞれディーゼルエンジン2−1、2−2によって駆動される同期発電機等の発電機(以下、ディーゼル発電機という)であり、発電機用遮断器3−1、3−2を介して船内母線4に接続され、当該船内母線4を通して船舶内の電気推進機および一般負荷に電力を供給するものである。
【0005】
船内母線4には、インバータ用遮断器5を介して後述する電気推進機に電力を供給する3巻線変圧器6が接続されている。この3巻線変圧器は、インバータ用遮断器5を介して船内母線4に接続される一次巻線6−1と、第1のインバータ7−1の入力端子に接続される二次巻線6−2と、第2のインバータ7−2の入力端子に接続される三次巻線6−3とを備え、一次巻線6−1および二次巻線6−2はそれぞれデルタ(Δ)結線され、三次巻線6−3はスター(Y)結線されている。なお、二次巻線6−2および三次巻線6−3は、ほぼ同じ定格の電圧、電流を出力するように設計されている。
【0006】
前記第1のインバータ7−1の出力端子には、2個の開閉器8−1および8−2が並列に接続されており、このうち開閉器8−1には非推進機用誘導電動機である電動ウィンチ用誘導電動機10が接続され、開閉器8−2には二重に固定子巻線(図示せず)を巻装してなる推進機用誘導電動機9の一方の固定子巻線が接続されている。
【0007】
一方、前記第2のインバータ7−2の出力端子にも、同様に2個の開閉器8−3および8−4が並列に接続されており、このうち開閉器8−3には前記推進機用誘導電動機9の他方の固定子巻線が接続され、開閉器8−4には非推進機用誘導電動機であるカーゴポンプ用誘導電動機11が接続されている。
【0008】
なお、開閉器8−2および8−3は推進機用誘導電動機9に接続されることから、推進機側開閉器と呼び、開閉器8−1および8−4は非推進機用誘導電動機に接続されることから、非推進機側開閉器と呼ぶ。
【0009】
推進機用誘導電動機9は、2つの固定子巻線の双方またはいずれか一方にインバータから可変周波数・可変電圧が印加されることによって推進用プロペラ12を駆動する電気推進機を構成している。なお、13は船内負荷であり、船内負荷用遮断器14を介して、前記船内母線4に接続されている。
【0010】
このように船内電気系統が構成された船舶を定格航行する場合、第1の推進機側開閉器8−2および第2の推進機側開閉器8−3を閉じることにより、第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2をそれぞれ第1の推進機側開閉器8−2および第2の推進機側開閉器8−3を介して推進用誘導電動機9に接続し、第1の非推進機側開閉器8−1および第2の非推進機側開閉器8−4を開いてそれぞれ第1のインバータ7−1とウィンチ用電動機10との間、および第2のインバータ7−2とカーゴポンプ用電動機11との間を断路する。
【0011】
この回路状態で、第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2から推進用誘導電動機9の別々の固定子巻線にそれぞれ電圧を印加すると、推進用誘導電動機9はそれぞれの固定子巻線と回転子の間で駆動トルクが生じるので、1つの固定子巻線に電圧が印加させる場合に比べて倍に近い駆動トルクで推進用プロペラ12を駆動し、船舶を推進させる。
【0012】
このとき、第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2の運転に必要な電力は、船内母線4からインバータ用遮断器5および変圧器6の回路を経て給電される。また、第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2に接続される電動機負荷以外の船内負荷13が消費する電力は船内母線4より船内負荷用遮断器14を介して給電される。
【0013】
電気推進装置およびその他の船内負荷13が消費する電力はディーゼル発電機1−1ないし1−2が発電し、発電装置用遮断器3−1ないし3−2を介して船内母線4へ供給される。
【0014】
一方、船舶の非定格航行時には第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2の両方から電圧を印加して推進用誘導電動機9を駆動しなくても、第1のインバータ7−1もしくは第2のインバータ7−2のいずれか一方から推進用誘導電動機9を駆動することによって船舶を推進させるのに十分な推進力を得ることができる。
【0015】
例えば上記の定格航行時から推進用誘導電動機9とカーゴポンプ用電動機11とを同時に駆動する非定格航行に移行する場合には、第2の推進機側開閉器8−3を開いて第2のインバータ7−2と推進用誘導電動機9との間を断路し、第2の非推進機側開閉器8−4を閉じて第2のインバータ7−2とカーゴポンプ用電動機11とを接続する。推進用誘導電動機9は第1のインバータ7−1により駆動され、カーゴポンプ用電動機11は第2のインバータ7−2により駆動される。
【0016】
また、上記の定格航行時から推進用誘導電動機9と電動ウィンチ用電動機10とを同時に駆動する非定格航行に移行する場合には、第1の推進機側開閉器8−2を開いて第1のインバータ7−1と推進用誘導電動機9との間を断路し、第1の非推進機側開閉器8−1を閉じて第1のインバータ7−1と電動ウィンチ用電動機10とを接続し、推進用誘導電動機9は第2のインバータ7−2により駆動し、電動ウィンチ用電動機10は第1のインバータ7−1により駆動する。
【特許文献1】特許第3524592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前記特許文献1によれば、上記のように推進用誘導電動機9を駆動するインバータと非推進用誘導電動機とを共用する基本的な構成を実現することが可能である。しかしながら一般的に誘導電動機の駆動に使用されるインバータには、電動機を所要の周波数・電圧・電力で駆動するために電動機固有の情報を制御データとして予め設定しておく必要がある。従って、あるインバータで駆動する誘導電動機が2種類以上存在する場合には、上述の電動機固有の情報である制御データもそれぞれ切換える必要がある。
【0018】
しかし、上記特許文献1にはそのような電動機固有の情報を切換える方法について全く記載されておらず、したがって、上記特許文献1に記載されている内容ではインバータを切換えて2種類以上の誘導電動機を選択的に駆動することは難しい。
【0019】
そこで、本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、推進用誘導電動機と非推進用誘導電動機とを同一のインバータで切換えて使用する際に、電動機定数及び速度センサーの有無、ベクトル制御・V/F制御などの最適な制御方式の選択情報といった電動機毎の固有の情報を制御データとしてインバータへ与えるようにした船舶用インバータシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、複数の固定子巻線を巻装し、回転子の軸と結合した推進用プロペラを駆動する推進用誘導電動機と、入力端子を船内母線にそれぞれ接続されると共に、出力端子をそれぞれ個別に設けた推進機側開閉器を介して前記推進用誘導電動の各固定子巻線に接続される複数のインバータと、前記複数のインバータの各出力端子にそれぞれ前記推進機側開閉器とは別に設けられた非推進機側開閉器を介して接続される非推進用誘導電動機とを備え、前記船内母線から前記複数のインバータ、前記推進機側開閉器または非推進機側開閉器を介して前記推進用誘導電動機または非推進用誘導電動機に交流電力を供給するようにした船舶用インバータシステムにおいて、
前記複数のインバータの制御回路には、前記推進用誘導電動機および前記非推進用誘導電動機を制御するために必要な誘導電動機毎の固有の情報を制御データとして予め格納しておくメモリを有する記憶手段を設け、前記複数のインバータの出力端子側に接続された推進機側開閉器または非推進機側開閉器の開閉状態信号を入力し、当該入力した推進機側開閉器または非推進機側開閉器の開閉状態信号に対応した制御データ切換信号を生成し出力する制御データ切換装置を設け、前記制御データ切換装置は、前記インバータが前記推進用誘導電動機に接続されている場合には前記記憶手段に格納されている当該推進用誘導電動機に係わる制御データを前記制御データ切換信号により選択して前記インバータの制御回路に入力し、前記インバータが前記非推進用誘導電動機に接続されている場合には前記記憶手段に格納されている当該非推進用誘導電動機に係わる制御データを前記制御データ切換信号により選択して前記インバータの制御回路に入力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インバータで駆動する推進用誘導電動機および非推進用誘導電動機を備えた船舶用インバータシステムにおいて、インバータを推進用誘導電動機および非推進用誘導電動機に最適な運用方法で共用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図7に記載されている電気部品と同じ電気部品には同一符号を付けることにより、重複した説明は割愛するものとする。
【0023】
図1は、本発明の実施形態による船舶用インバータシステムの船内電気系統図である。
図1の船内電気系統図が図7の船内電気系統図と相違する点は、第1のインバータ7−1の制御回路および第2のインバータ7−2の制御回路(なお、制御回路の詳細については図2を参照して説明する)にそれぞれ誘導電動機の固有情報である制御データを格納する制御データ格納メモリM1〜M3を備えた記憶手段15−1、15−2を付加したこと、さらに、これらの記憶手段15−1、15−2の制御データ格納メモリM1〜M3に格納されている制御データを切換える制御データ切換信号S1〜S3を生成し出力する第1、第2の制御データ切換装置16−1、16−2を付加したことである。その他の構成については同一であるので、説明を省略する。
【0024】
図2は、前記第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2の内部構成の一例を詳細に示す回路構成図である。
本実施形態で採用する第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2は、同一仕様で設計・製作されたものであり、それぞれ主回路7−1Mと7−2M、制御回路7−1Cと7−2Cとは同一である。以下、第1のインバータ7−1を代表して説明する。
【0025】
インバータの主回路7−1Mは、ダイオード素子を三相ブリッジ接続することにより入力した三相交流を直流に変換する順変換器20と、IGBT等の制御整流素子を三相ブリッジ接続して直流を任意周波数・任意電圧の三相交流に変換する逆変換器21と、両変換器20および21間に接続された平滑用コンデンサ22とから構成されている。
【0026】
一方、インバータの制御回路7−1Cは、逆変換器21の出力側から電圧、電流を取り込むベクトル制御回路23と、制御データを格納する制御データ格納メモリM1〜M3を備えた記憶手段15−1と、制御データ切換装置16−1から出力された制御データ切換信号S1〜S3に応じて記憶手段15−1の制御データ格納メモリM1〜M3に格納されている制御データを前記ベクトル制御回路23に入力する選択手段25と、IGBTにゲート信号を与えて逆変換器21の動作を制御するゲート回路24等を備えている。
【0027】
図2において、第1のインバータ7−1の制御回路7−1Cに設けられている記憶手段15−1の制御データ格納メモリM1〜M3には、それぞれ予め複数の誘導電動機を駆動するための固有情報である制御データが格納されている。
【0028】
例えば、制御データ格納メモリM1には、推進用誘導電動機9を駆動する場合に必要な定格回転速度、定格周波数、定格電圧、定格容量、定格電流等、推進用誘導電動機9にとって固有の情報が制御データとして格納されており、また、制御データ格納メモリM2にはウィンチ用誘導電動機10を駆動する場合に必要な定格回転速度、定格周波数、定格電圧、定格容量、定格電流等、ウィンチ用誘導電動機10にとって固有の情報が制御データとして格納されている。
【0029】
なお、図1の船内電気系統図の場合、第1のインバータ7−1からカーゴポンプ用誘導電動機11を駆動するようには結線されていないが、インバータとしての汎用化を図るため、すなわち、第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2の部品の共通化を図るために、カーゴポンプ用誘導電動機11を駆動する場合に必要な定格回転速度、定格周波数、定格電圧、定格、定格容量、定格電流などのカーゴポンプ用誘導電動機11にとって固有の情報を制御データとして格納している制御データ格納メモリM3も備えている。同様に、図1の船内電気系統図では、第2のインバータ7−2からウィンチ用誘導電動機10を駆動することは無いが、ウィンチ用誘導電動機10を駆動する場合の定格回転速度、定格周波数、定格電圧、定格容量、定格電流等のウィンチ用誘導電動機10にとって固有の情報が制御データとして格納されている制御データ格納メモリM2を備えている。
【0030】
そして、制御データ切換装置16−1は、第1の非推進機側開閉器8−1または第1の推進機側開閉器8−2から開閉器「入」情報を入力すると、「入」状態の開閉器に応じて切換信号S1またはS2を出力する。なお、後述する図3で示すように、共通するインバータに接続されている第1の非推進機側開閉器8−1または第1の推進機側開閉器8−2、第2の推進機側開閉器8−3または第2の非推進機側開閉器8−4が同時に閉路することがないようにインターロックが組まれている。
【0031】
そして、例えば、第1の推進機側開閉器開閉器8−2が閉路した場合、制御データ切換装置16−1から切換信号S1のみが出力されて制御データ格納メモリM1に格納されている制御データが制御回路7−1Cのベクトル制御回路23に入力される。一方、第1の非推進機側開閉器8−1が閉路した場合、制御データ切換装置16−1から切換信号S2のみが出力されて制御データ格納メモリM2に格納されている制御データが第1のインバータ7−1の制御回路7−1Cのベクトル制御回路23に入力される。
【0032】
この結果、第1のインバータ7−1では、選択された開閉器の「入」情報に基づいて、ベクトル制御回路23が動作し、第1のインバータ7−1に接続された誘導電動機を最適なベクトル制御を行う。
【0033】
以上の説明は第1のインバータ7−1側についてであるが、第2のインバータ7−2側についても同じように説明することができる。
すなわち、制御データ切換装置16−2は、第2の推進機側開閉器8−3または第2の非推進機側開閉器8−4から開閉器「入」情報を入力すると、「入」状態の開閉器に応じて制御データ切換装置16−2から切換信号S1またはS3のいずれかが出力される。例えば、第2の推進機側開閉器開閉器8−3が閉路した場合、制御データ切換装置16−2から切換信号S1のみが出力されて制御データ格納メモリM1に格納されている制御データが制御回路7−2Cのベクトル制御回路23に入力される。一方、第2の非推進機側開閉器8−4が閉路した場合、制御データ切換装置16−2から切換信号S3のみが出力されて制御データ格納メモリM3に格納されている制御データが制御回路7−2Cのベクトル制御回路23に入力される。
【0034】
この結果、第2のインバータ7−2においても、選択された開閉器の「入」情報に基づいて、ベクトル制御回路23が動作し、第2のインバータ7−2に接続された誘導電動機を最適なベクトル制御を行う。
【0035】
図3は、図示しない制御盤等に設けられて、開閉器8−1〜開閉器8−4を「入」または「切」するための制御回路を示す。
図3において、SW1、SW2、SW3およびSW4は、それぞれ図1で示した開閉器8−1、8−2、8−3および8−4を開閉操作するための押しボタンスイッチであり、8−1C〜8−4Cは開閉器8−1〜開閉器8−4を「入」または「切」するコイルである。符号aは常開接点、bは常閉接点を示す。また、この制御回路では、共用するインバータに接続される第1の非推進機側開閉器8−1と第1の推進機側開閉器8−2、および第2の推進機側開閉器8−3と第2の非推進機側開閉器8−4とが誤って同時に選択されて閉じることが無いように、開閉器8−1および8−2間、開閉器8−3および8−4間にはそれぞれ相手方の開閉器のb接点8−2b、8−1b、8−4b、8−3bを介挿してインターロックを組んでいる。
【0036】
図4は制御データ切換装置16−1の動作チャートである。
図4において、制御データ切換装置16−1は第1の非推進機側開閉器8−1および第1の推進機側開閉器8−2と連動して動作し、第1の非推進機側開閉器8−1が閉じた場合に制御データ切換信号S2を、第1の推進機側開閉器8−2が閉じた場合には制御データ切換信号S1をインバータ7−1に出力する様子を示す。
【0037】
一方、図5は制御データ切換装置16−2の動作チャートである。
図5において、制御データ切換装置16−2は第2の推進機側開閉器8−3および第2の非推進機側開閉器8−4と連動して動作し、第2の推進機側開閉器8−3が閉じた場合には制御データ切換信号S1を、第2の非推進機側開閉器8−4が閉じた場合には制御データ切換信号S3をインバータ7−2に出力する様子を示す。
【0038】
図6は、船舶が定格航行時、あるいは非定格航行時、または停止時の各状態において、前記各押しボタンスイッチSW1、SW2、SW3およびSW4のオン指令またはオフ指令(on/off)に対応して選択されるインバータ、開閉器、制御データ切換信号、および選択される制御データ格納メモリの関係を一覧形式に纏めた図である。
【0039】
次に、以上説明した図1乃至図6を参照して、本実施形態の作用を説明する。
(1)船舶の定格航行時
船舶の定格航行時は、大きな推進力が必要なため、押しボタンスイッチSW2およびSW3を閉じることによって第1の推進機側開閉器8−2および第2の推進機側開閉器8−3を閉じ、インバータ7−1および7−2をそれぞれ第1の推進機側開閉器8−2および第2の推進機側開閉器8−3を介して推進用誘導電動機9の別々の固定子巻線に接続する。このとき、インターロックが働いて第1の非推進機側開閉器8−1および第2の非推進機側開閉器8−4は開いたままであり、インバータ7−1とウィンチ用電動機10、およびインバータ7−2とカーゴポンプ用電動機11とが接続することは無い。
【0040】
このとき、第1の制御データ切換装置16−1は、第1の推進機側開閉器8−2が閉じたことに連動して第1のインバータ7−1に対して制御データ切換信号S1を出力する。同様に、第2の制御データ切換装置16−2は、第2の推進機側開閉器8−3が閉じたことに連動して第2のインバータ7−2に対して制御データ切換信号S1を出力する。
【0041】
第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2は、制御回路7−1Cおよび制御回路7−2Cに制御データ切換信号S1を入力すると、それぞれ推進用誘導電動機9を駆動するために必要な情報として制御データ格納メモリM1に格納されている制御データをそれぞれのベクトル制御回路23に入力する。
【0042】
第1のインバータ7−1および第2のインバータ7−2のベクトル制御回路23は2つの固定子巻線にそれぞれ制御データ格納メモリM1に格納されている制御データに基づいた周波数の電圧および電流による交流電力を供給して推進用誘導電動機9の回転子を所定の回転速度で駆動する。この回転子が駆動されることによって回転子の軸に結合した推進用プロペラ12が駆動されて船舶の推進力を得る。
【0043】
(2)船舶の非定格航行時(i)
船舶の非定格航行時において、推進用誘導電動機9と電動ウィンチ用誘導電動機10とを同時に駆動する必要のある場合には、押しボタンスイッチSW1を閉じることによって第1の推進機側開閉器8−2を開くとともに、第1の非推進機側開閉器8−1を閉じ、第1のインバータ7−1を推進用誘導電動機9から切り離すとともに電動ウィンチ用誘導電動機10に接続する。
【0044】
第2のインバータ7−2については、押しボタンスイッチSW3を閉じることによって第2の推進機側開閉器8−3を閉じるとともに、第2の非推進機側開閉器8−4を開いて、第2のインバータ7−2をカーゴポンプ用誘導電動機11から切り離すとともに推進用誘導電動機9に接続する。
【0045】
すると、第1の制御データ切換装置16−1は第1の非推進機側開閉器8−1が閉じたことに連動して第1のインバータ7−1に対して制御データ切換信号S2を出力する。第1のインバータ7−1は、制御回路7−1Cに制御データ切換信号S2が入力されると、電動ウィンチ用誘導電動機10を駆動するために必要な情報として制御データ格納メモリM2に格納されている制御データをベクトル制御回路23に入力する。
【0046】
第1のインバータ7−1のベクトル制御回路23は入力された制御データに基づいた周波数の電圧および電流による交流電力を電動ウィンチ用誘導電動機10の固定子巻線に供給して電動ウィンチ用誘導電動機10の回転子を所定の回転速度で駆動する。この回転子を駆動することによってウィンチが駆動され荷役作業が行われる。
【0047】
同様に第2の制御データ切換装置16−2は、第2の推進機側開閉器8−3が閉じたことに連動して第2のインバータ7−2に対して制御データ切換信号S1を出力する。第2のインバータ7−2は、制御回路7−2Cに制御データ切換信号S1が入力されると推進用誘導電動機9を駆動するために必要な情報として制御データ格納メモリM1に格納されている制御データをベクトル制御回路23に入力する。
【0048】
第2のインバータ7−2のベクトル制御回路23は入力された制御データに基づいた周波数の電圧および電流による交流電力を推進用誘導電動機9の一方の固定子巻線に供給して推進用誘導電動機9の回転子を駆動する。この回転子の駆動によって推進用プロペラ12が駆動されて船舶の推進力を得る。
【0049】
(3)船舶の非定格航行時(ii)
船舶の非定格航行時において、推進用誘導電動機9とカーゴポンプ用誘導電動機11を同時に駆動する場合には、押しボタンスイッチSW2を閉じることによって第1の推進機側開閉器8−2を閉じるとともに、第1の非推進機側開閉器8−1を開いて、第1のインバータ7−1を電動ウィンチ用誘導電動機10から切り離すとともに推進用誘導電動機9に接続する。
【0050】
第2のインバータ7−2については、押しボタンスイッチSW4を閉じることによって第2の推進機側開閉器8−3を開くとともに、第2の非推進機側開閉器8−4を閉じて、第2のインバータ7−2を推進用誘導電動機9から切り離すとともにカーゴポンプ用誘導電動機11に接続する。
【0051】
第1の制御データ切換装置16−1は、第1の推進機側開閉器8−2が閉じたことに連動して第1のインバータ7−1に対して制御データ切換信号S1を出力する。
同様に、制御データ切換装置16−2は、第2の非推進機側開閉器8−4が閉じたことに連動してインバータ7−2に対して制御データ切換信号S3を出力する。
【0052】
第1のインバータ7−1は制御回路7−1Cに制御データ切換信号S1を入力すると、推進用誘導電動機9を駆動するために必要な情報として制御データ格納メモリM1に格納されている制御データをベクトル制御回路23に入力する。
【0053】
第1のインバータ7−1のベクトル制御回路23は入力された制御データに基づいた周波数の電圧および電流による交流電力を推進用誘導電動機9の一方の固定子巻線に供給して回転子を駆動する。この回転子の駆動によって推進用プロペラ12が駆動されて船舶の推進力を得る。
【0054】
一方第2のインバータ7−2は、制御回路7−2Cに制御データ切換信号S3を入力すると、カーゴポンプ用誘導電動機11を駆動するために必要な情報として制御データ格納メモリM3の制御データをベクトル制御回路23に入力する。
【0055】
第2のインバータ7−2のベクトル制御回路23は入力された制御データに基づいた周波数の電圧および電流による交流電力カーゴポンプ用誘導電動機11の固定子巻線に供給して回転子を駆動する。この回転子の駆動によってカーゴポンプが最適に駆動される。
【0056】
(4)船舶の停止時
船舶の停止時には、推進用誘導電動機9を駆動する必要はないため、前述した非定格航行時(i)、(ii)と同様にして、第1の制御データ切換装置16−1は制御データ格納メモリM2に格納されている制御データを第1のインバータ7−1の制御回路7−1Cのベクトル制御回路23に入力し、第2の制御データ切換装置16−2は制御データ格納メモリM3に格納されている制御データを第2のインバータ7−2の制御回路7−2Cのベクトル制御回路23に入力することで、第1のインバータ7−1により電動ウィンチ用誘導電動機10を駆動することができ、第2のインバータ7−2によりカーゴポンプ用誘導電動機11を駆動することが可能である。
【0057】
なお、以上説明した実施形態では、インバータの制御回路7−1C,7−2Cにベクトル制御回路23を設けたが、本発明は、これに限定されるものではなく、ベクトル制御回路23に替えてV/F制御回路を設けたものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態を示す船舶用インバータシステムを用いた船内電気系統図。
【図2】本発明の実施形態に係る第1のインバータおよび第2のインバータの一例を詳細に示す回路構成図。
【図3】本発明の実施形態に係る開閉器を「入」または「切」制御するための制御回路図。
【図4】本発明の実施形態に係る第1の制御データ切換装置の動作チャート。
【図5】本発明の実施形態に係る第2の制御データ切換装置の動作チャート。
【図6】船舶の定格航行時、非定格航行時、停止時の各状態において、各押しボタンスイッチのオン/オフ指令に対応して選択されるインバータ、開閉器、制御データ切換信号、および使用する制御データ格納メモリの関係を一覧形式に纏めた図。
【図7】従来の船舶用インバータシステムを用いた船内電気系統図。
【符号の説明】
【0059】
−1、1−2…発電機、2−1、2−2…ディーゼルエンジン、3−1,3−2…発電機用遮断器、4…船内母線、5…インバータ用遮断器、6…変圧器、7−1,7−2…インバータ、8−1〜8−4…開閉器、9…推進用誘導電動機、10…電動ウィンチ用誘導電動機、11…カーゴポンプ用誘導電動機、12…推進用プロペラ、13…船内負荷、14…船内負荷用遮断器、15−1,15−2…制御データ格納メモリ(M1,M2,M3)16−1,16−2…制御データ切換装置、S1,S2,S3…制御データ切換信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の固定子巻線を巻装し、回転子の軸と結合した推進用プロペラを駆動する推進用誘導電動機と、
入力端子を船内母線にそれぞれ接続されると共に、出力端子をそれぞれ個別に設けた推進機側開閉器を介して前記推進用誘導電動の各固定子巻線に接続される複数のインバータと、
前記複数のインバータの各出力端子にそれぞれ前記推進機側開閉器とは別に設けられた非推進機側開閉器を介して接続される非推進用誘導電動機とを備え、
前記船内母線から前記複数のインバータ、前記推進機側開閉器または非推進機側開閉器を介して前記推進用誘導電動機または非推進用誘導電動機に交流電力を供給するようにした船舶用インバータシステムにおいて、
前記複数のインバータの制御回路には、前記推進用誘導電動機および前記非推進用誘導電動機を制御するために必要な誘導電動機毎の固有の情報を制御データとして予め格納しておくメモリを有する記憶手段を設け、
前記複数のインバータの出力端子側に接続された推進機側開閉器または非推進機側開閉器の開閉状態信号を入力し、当該入力した推進機側開閉器または非推進機側開閉器の開閉状態信号に対応した制御データ切換信号を生成し出力する制御データ切換装置を設け、
前記制御データ切換装置は、前記インバータが前記推進用誘導電動機に接続されている場合には前記記憶手段に格納されている当該推進用誘導電動機に係わる制御データを前記制御データ切換信号により選択して前記インバータの制御回路に入力し、前記インバータが前記非推進用誘導電動機に接続されている場合には前記記憶手段に格納されている当該非推進用誘導電動機に係わる制御データを前記制御データ切換信号により選択して前記インバータの制御回路に入力することを特徴とする船舶用インバータシステム。
【請求項2】
前記複数のインバータは、それぞれ同一仕様に基づいて製作された主回路および制御回路を備えることを特徴とする請求項1記載の船舶用インバータシステム。
【請求項3】
前記インバータの制御回路は、ベクトル制御回路を備え当該ベクトル制御回路に前記推進用誘導電動機に係わる制御データまたは非推進用誘導電動機に係わる制御データを受けることを特徴とする請求項1または2記載の船舶用インバータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−158119(P2010−158119A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335429(P2008−335429)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000195959)西芝電機株式会社 (172)
【Fターム(参考)】