説明

芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 フレキシブル回路基板やTABテープ基板などハンダ用途に用いるプラスチック材料として好適に用いることができる芳香族ポリアミドフィルムを提供する。
【解決手段】 金属または金属化合物と芳香族ポリアミドを主成分とする単層または積層のフィルムであり、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウム、マンガンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属または金属化合物を10重量%以上70重量%以下含有される層を少なくとも1層有する芳香族ポリアミドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブル回路基板やTABテープ基板などハンダ用途に用いるプラスチック材料として好適に用いることができる芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気、電子工業分野において機器の小型軽量化、要求機能の高度化等から、フレキシブルプリント基板の使用が増加している。フレキシブルプリント基板の一般的構成は基板フィルムの片面あるいは両面に電気回路を形成し、更に回路上にカバーフィルムあるいは絶縁レジストを積層するものである。基板フィルムとしては従来、ポリイミドフィルムあるいはポリエステルフィルムが使用され、特に耐はんだ性が要求される場合には260℃程度の高温下でフィルムを扱う必要があり、主として耐熱性に優れるポリイミドフィルムが使用されている。しかし、ポリイミドフィルムは機械強度、耐屈曲性の観点から薄膜化が困難であり、このため機器の更なる小型軽量化の要求に応えることは困難である。
【0003】
芳香族ポリアミドフィルムはポリイミドに次ぐ耐熱性を備え、かつ剛性が高いことから薄膜化が容易であり、性能のみならず、コスト面においても優位なフレキシブルプリント基板の実現が期待されている。芳香族ポリアミドフィルムを使用したフレキシブルプリント基板の例が特許文献1に記載されている。しかし、該フィルムはハンダ耐熱性が十分でなく、ハンダ用途など高温下で使用するとカール等平面性が悪化する場合があった。
【0004】
一方、芳香族ポリアミドの合成において、金属化合物を添加することは広く一般的に行われているが、その多くはポリマーの溶解助剤としてのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン塩の添加、または易滑剤としての粒子添加のいずれかを目的としており、フィルムに含有された金属により機械特性や熱特性を改良使用とする例は見られなかった。
【0005】
特許文献2には溶解助剤としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン塩を添加することが開示されている。これによれば重合時の溶解性向上には効果があるが、金属は紡糸後の水洗工程で流出し、成形品中にはほとんど残存せず、耐熱性改善には効果がない。
【0006】
特許文献3には、Ia族(1族)、IIa族(2族)、IIIa族(3族)、から選ばれる金属イオンを2ppm以上2,000ppm以下含有する層を有することにより、帯電を防止する技術の開示があり、また特許文献4には、粒子添加によりフィルムに易滑性を付与する旨の技術開示があるが、これらの金属を用いても耐熱性は改善しない。
【0007】
特許文献5には芳香族ポリアミドに金属または金属化合物をポリマーに対して、0.5重量%以上10%重量以下の割合で含有させることにより、引張弾性率および引張伸度が高く、さらに表面粗さの低いフィルムを得ることが開示されている。しかし、該発明で得られるフィルムは引張弾性率、引張伸度および表面平滑性は向上するものの、耐熱性は十分とは言えず、ハンダ用途で用いたときに工程でかかる温度により平面性が悪化する問題があった。
【特許文献1】特開平6−350210号公報
【特許文献2】特公平4−23007号公報
【特許文献3】特開平8−225664号公報
【特許文献4】特開2001−273623号公報
【特許文献5】特開2004−269555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、ハンダ耐熱性を有する薄膜な芳香族ポリアミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的は、芳香族ポリアミドと、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物とを含み、これらの金属および金属化合物の総含有量が10重量%以上70重量%以下である層を少なくとも1層有している芳香族ポリアミドフィルムによって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、薄膜でありかつハンダ耐熱性を有するため、フレキシブル回路基板やTABテープ基板などハンダ用途に用いるプラスチック材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物を含み、その総含有量(フィルム重量に対する金属の含有量+金属化合物の含有量)が10重量%以上70重量%以下である層を少なくとも1層有している。耐熱性がより向上するため、この総含有量はより好ましくは12重量%以上60重量%以下、さらに好ましくは15重量%以上50重量%以下、より好ましくは15重量%以上30重量%以下である。10重量%未満であると、十分な耐熱性が得られず、ハンダ用途で使用したとき平面性が低下する場合がある。また、70重量%を超えると、原料溶液に均一に金属または金属化合物を含有せしめることができず、製膜が行いにくい場合がある。また、フィルムが得られた場合においても、凝集した金属または金属化合物により、フィルムの機械強度や伸度が低下して、フィルム破れが発生しやすくなり生産性が低下する場合がある。なお、含有されている金属の量はフレームレス−原子吸光光度法やICP−MS法により定量することができる。また、含有されている金属の価数はX線光電子分光装置(ESCA)により求めることができる。従って、フィルム中に含有される金属化合物が金属酸化物である場合には、これらの結果から、金属化合物の量を計算により求めることができる。酸化物以外の場合は、X線回折装置などを用いて金属化合物の同定を行った後に金属化合物量を求めればよい。
【0012】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは25℃から260℃までのサンプルの寸法変化率の絶対値の1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。1%を超えるとハンダ用途で使用したとき平面性が低下する場合がある。また、平面性が低下しなくても、寸法変化により回路が断線する場合がある。さらに、近年環境に対する配慮から鉛フリーのハンダが用いられることがあるが、この場合フィルムに求められる耐熱特性はさらに高く、25℃から280℃までの寸法変化率の絶対値が1%以下であることが好ましい。フィルムの寸法変化率を低減するには、フィルム中に、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物を含有させることが有効である。特に銅または銅酸化物を含有させると寸法変化率の低減や耐熱性の向上に効果があるため好ましい。
【0013】
この場合、銅または酸化銅を含み、これらの銅および酸化銅の総含有量が15重量%以上50重量%以下である層を少なくとも1層有しているフィルムとすることが好ましい。
【0014】
なお、上記の寸法変化率は、例えば、TMA、SS6000(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定することが可能である。
【0015】
本発明の芳香族ポリアミドは化学式(I)および化学式(II)で示される構造であると、極性溶媒に溶解可能となり、フィルム中に金属や金属化合物を含有させることが容易となるため好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
X:任意のハロゲン原子
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、少なくとも一方向のヤング率(引張り弾性率)が10〜20GPaであることが加工時、使用時に負荷される力に対して抵抗でき、平面性が一層良好となるため好ましい。また少なくとも一方向のヤング率が10GPa以上であることによりフィルムの薄膜化が可能になる。
【0019】
全ての方向のヤング率が10GPa未満であると、薄膜した場合、加工時に変形を起こすことがある。また、ヤング率が20GPaを超えると、フィルムの靱性が低下し、製膜、加工が困難になることがある。少なくとも一方向のヤング率は、より好ましくは、11〜20GPaであり、さらに好ましくは、12〜20GPaである。
【0020】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムにおいては、特に長手方向、幅方向共に10GPa以上、さらには、全ての方向のヤング率が10GPa以上であることが好ましい。
【0021】
なお、上記のヤング率は、例えばロボットテンシロンRTA−100(オリエンテック社製)を用いて測定することができる。測定条件は、試料幅10mm、試料長50mm、引張速度300mm/分、23℃、65%RHである。
【0022】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、25℃/75RH%での吸湿率が5%以下、より好ましくは4%以下、更に好ましくは2%以下であると、使用時、加工時の湿度変化による特性の変化が少なくなるため好ましい。ここでいう吸湿率は、以下に述べる方法で測定する。まず、フィルムを約0.5g採取し、脱湿のため120℃で3時間の加熱を行った後、吸湿しないようにして25℃まで降温し、その降温後の重量を0.1mg単位まで正確に秤量する(この時の重量をW0とする)。次いで、25℃で75RH%の雰囲気下に48時間静置し、その後の重量を測定し、これをW1として、以下の式を用いて吸湿率を求める。
【0023】
吸湿率(%)=((W1−W0)/W0)×100
なお、吸湿率は低い方が好ましいが、現実的には下限は0.03%程度である。
【0024】
また、本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、JIS−C2318に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断点伸度が、5〜200%、より好ましくは10〜100%であると成形、加工時の破断が少なくなるため好ましい。
【0025】
また、本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、1kHzでの比誘電率が4以下であることが好ましい。さらに好ましくは3.5以下であり、最も好ましくは2以下である。比誘電率が小さいことにより本発明のフィルムを電子回路基板として使用する場合に信号の遅延を少なくできる。
【0026】
本発明のフィルムは、例えば、次のような方法で製造できるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
芳香族ポリアミドを得る方法は芳香族ポリアミドに用いられる種々の方法が利用可能であり、例えば、低温溶液重合法、界面重合法、溶融重合法、固相重合法などを用いることができる。低温溶液重合法つまり酸ジクロライドとジアミン類から得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。また、イソシアネートとカルボン酸との反応は、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行なわれる。この時、低分子量物の生成を抑制するため、反応を阻害するような水、その他の物質の混入は避けるべきであり、効率的な攪拌手段をとることが好ましい。
【0028】
本発明の芳香族高分子の製造において、使用する非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0029】
また、ポリマーの固有粘度(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5以上であることが好ましい。
【0030】
成形体を得るためのポリマー原液には溶解助剤として無機塩例えば塩化カルシウム、塩化マグネシム、塩化リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウムなどを添加することも可能である。無機塩としては1族(アルカリ金属)、2族(アルカリ土類金属)のハロゲン塩が好ましい。
【0031】
単量体として芳香族ジ酸クロリドと芳香族ジアミンを用いると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には周期律表I族かII族のカチオンと水酸化物イオン、炭酸イオンなどのアニオンとからなる塩に代表される無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。また、基材フィルムの湿度特性を改善する目的で、塩化ベンゾイル、無水フタル酸、酢酸クロリド、アニリン等を重合の完了した系に添加し、ポリマーの末端を封鎖してもよい。
【0032】
ポリマー原液としては、中和後のポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、また、一旦、ポリマーを単離後、有機溶媒に再溶解したものを用いてもよい。
【0033】
上記ポリマー原液に金属化合物を添加し、溶解させた物を製膜原液とする。添加の方法としては、粉末、あるいは溶液状態の金属化合物の直接添加や、溶媒中に分散させて、溶液あるいはスラリー状態での添加などが挙げられ、添加方法に制限は無い。
【0034】
原液中のポリマー濃度は好ましくは2〜40重量%、更に好ましくは5〜35重量%、特に好ましくは10〜25重量%である。かかる範囲を下回れば吐出を大きく取る必要があり経済的に不利であり、超えれば吐出量あるいは溶液粘度の関係で細い繊維状成形体あるいは薄いフィルム状成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0035】
芳香族ポリアミドフィルム中に金属または金属化合物を含有せしめる方法としては、金属や金属化合物の粒子を重合前の原料にあらかじめ添加する方法、重合後のポリマー原液に添加し撹拌混合する方法など特に限定はされない。特に、金属や金属化合物の前駆体をポリマー溶液中に溶解させておいて、その製膜過程において粒子を形成せしめると、生成する粒子の粒度分布が小さくなるため好ましい。さらに、形成される金属または金属化合物の粒子の平均粒径が0.001〜10nmであると、機械強度や表面平滑性に優れたフィルムを得ることが可能となる。
【0036】
粒子生成の前駆体として用いる金属化合物は、芳香族ポリアミド溶液に溶解し、さらに400℃以下の温度で加熱および/または化学的な方法(化学反応)で分解して金属または金属化合物の粒子に転化できるものが好ましい。
【0037】
前駆体としての金属化合物は、金属アセチルアセトナート(金属ペンタンジオン錯体)、金属カルボキシレート、金属硝酸塩、金属オキシ塩酸塩、金属塩化物等が例示できる。金属アルコキシドとしては銅ジメトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、等が例示できるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明において金属アセチルアセトナートとしては、アルミニウム(III)アセチルアセトナート、パラジウム(II)アセチルアセトナート、銅(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、マンガン(III)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート、酸化バナジウム(IV)アセチルアセトナート、などが挙げられるが、これに限定されるものではない。金属アセチルアセトナートは、添加後、分解点温度以上に加熱することにより、2,4−ペンタンジオンが脱離し、金属または金属酸化物の粒子の形成が可能となる。
【0039】
上記のような方法で、金属または金属化合物の含有量がその層中において、フィルム重量に対して10重量%以上70重量%以下となるように調整すればよいが、該金属または金属化合物の含有量(または添加量)が多くなり、特に含有量が20重量%を超えるような場合は、均一な製膜原液を得ることが困難になる場合がある。このような場合は、金属または金属化合物を一端溶媒に混合した後ポリマー溶液と混合、撹拌すること、また、撹拌時の温度を80℃〜150℃とすることが有効である。さらに、高温下で溶媒の揮発を防止するため加圧してもよい。
【0040】
上記のように調製された製膜原液は、乾式法、乾湿式法、湿式法、半乾半湿式法等によりフィルム化が行われるが、表面形態を制御しやすい点で、乾湿式法が好ましく、以下乾湿式法を例にとって説明する。
【0041】
上記の原液を口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を飛散させ、薄膜を乾燥する。乾燥温度は100℃以上210℃以下が好ましく、120℃以上190℃以下がより好ましい。乾燥時間は、0.5分以上12分以下が好ましく、1分以上10分以下がより好ましい。
【0042】
次いで、乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて、湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行われる。フィルムを支持体から剥離するときのポリマー濃度は30重量%以上60重量%以下であることが好ましく、40重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。ポリマー濃度が30重量%未満の場合は、フィルムの自己支持性が不十分で破れやすくなることがあり、60重量%を超えると、延伸が充分に行えない場合がある。
【0043】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、支持体から剥離されて湿式工程に導入される間に、ゲルフィルムの状態でフィルムの長手方向に延伸されることが好ましい。延伸倍率は1.05倍以上4倍以下が好ましく、更に1.05倍以上2倍以下が好ましい。長手方向の延伸倍率が1.05倍未満では長手方向のヤング率が不十分なことがあり、4倍を超えると伸度の低いもろいフィルムとなることがある。
【0044】
湿式工程を経たフィルムは水分を乾燥後、フィルムの幅方向に延伸が行われる。延伸温度は150℃以上400℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは220℃以上280℃以下である。延伸温度がこの範囲より低いと延伸時にフィルムが破れやすく、かつカールが大きくなることがある。また高すぎると分子が配向しにくくなりヤング率が低下することがある。
【0045】
幅方向の延伸倍率は0.8倍以上4倍以下であることが好ましく、より好ましくは1倍以上2倍以下である。幅方向の延伸倍率が0.8倍未満では幅方向のヤング率が不十分なことがあり、4倍を超えると伸度の低いもろいフィルムとなったり、長手方向のヤング率が大きく低下することがある。
【0046】
延伸倍率は面倍率で0.8倍以上8倍以下(面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1以下はリラックスを意味する。)の範囲内、より好ましくは1.2倍以上6倍以下の範囲とすることが優れた機械物性のフィルムを安定して製膜できる点で好ましい。
【0047】
フィルムの延伸中あるいは延伸後に熱処理が行われるが、熱処理温度は150℃以上400℃以下の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、180℃以上320℃以下であり、更に好ましくは200℃以上260℃以下である。熱処理温度が150℃未満の場合、フィルムのヤング率が低下することがある。一方、400℃を超えるとフィルムの結晶化が進みすぎて堅くてもろいフィルムとなったりすることがある。
【0048】
また、芳香族ポリアミドフィルム中に金属または金属化合物を含有せしめる方法として、金属や金属化合物の前駆体をポリマー溶液中に溶解させておいて、その製膜過程において粒子を形成せしめる方法を用いる場合は、この熱処理工程で金属または金属化合物の粒子が生成するようにするとよい。前駆体が金属や金属化合物の粒子に変化する温度は、使用する金属の種類により様々であり、熱処理温度は適宜選択されるべきであるが、十分に金属化合物が生成することから、200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上である。
【0049】
また、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することが有効であり、50℃/秒以下の速度で冷却することが有効である。
【0050】
本発明のフィルムは単層フィルムであってもよいが、積層フィルムであっても構わない。特に金属および金属化合物の含有量が多くなると、凝集粒子によりフィルム表面が粗れる場合があるが、金属および金属化合物を含有する層の少なくとも片面に金属および金属化合物を5重量%以下含有する層を積層すると、積層面の表面平滑性を向上させることができるため好ましい。また、積層は、フィルムに高い絶縁性が求められる場合にも有効な手段である。なお、上記の積層中の金属および金属化合物の含有量は0重量%であってもよい。
【0051】
また、上記の積層中の金属または金属化合物としては、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0052】
積層フィルムとする場合には、例えば2層の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、少なくとも一方にアルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物を添加した後、積層する。更に3層以上の場合も同様である。これら積層の方法としては、例えば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成しておいてその上に他の層を形成する方法などを用いればよい。
【0053】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムには、表面形成、加工性改善などを目的として10重量%以下の無機質または有機質の添加物を含有させてもよい。表面形成を目的とした添加剤としては例えば、無機粒子ではSiO2、TiO2、Al23、CaSO4、BaSO4、CaCO3、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば、架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、ポリアミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆等の処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0054】
ただし、本発明の芳香族ポリアミドフィルムを得る方法は、上記方法に限定されるものではない。
【0055】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは薄膜でありかつハンダ耐熱性を有するためフレキシブル回路基板やTABテープのベースフィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0057】
本発明の物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法による。
【0058】
(1)フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し平均値を求めた。
【0059】
(2)寸法変化
温度23℃、相対湿度65%に24時間静置させたフィルムをTMA、SS6000(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、25℃から400℃まで昇温速度10℃/分で測定し、各温度におけるサンプルの初期長に対する試料寸法変化率の絶対値を求めた。測定時の加重は120g/mm2とし、サンプルの初期長は15mm、幅は4mmとした。表には25℃から260℃までの寸法変化率の最大値を記載した。
【0060】
(3)金属または金属化合物の価数
フィルムの任意の場所をX線光電子分光装置(ESCA)で観察した。
【0061】
装置 :ESCALAB220iXL
励起X線:monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
X線径 :1mm
X線出力:10kV 20mA
光電子脱出角度:90°(検出深さ:〜10nm)
データ処理:C1sメインピーク位置を284.6eVに合わせた。9-point smoothing
それぞれの元素のピークから金属の価数を求めた。
【0062】
(4)金属の含有量
フィルム0.7グラムを精秤し、白金製坩堝中で550℃以上に加熱して灰化させた。この灰分を硝酸及びフッ化水素酸で溶解した後希硝酸で定容とした。この定容液をICP発光分析法あるいは原子吸光光度法により定量した。
【0063】
(5)耐ハンダ平面性評価
耐ハンダ性はJIS−C−6471(1990)に従い、サンプルを105℃で1時間調整後、260℃のハンダ浴に5秒間浮かべてハンダテストを行った。
【0064】
サンプルは50mm四方の正方形にカットしたフィルムを用いた。
【0065】
ハンダテスト後のフィルムの外観(平面性)を参考例1のブランクと比較し、ブランクと平面性が同等以下の場合は×、平面性が良好なものを○、ブランクに比べ平面性は改善しているが、カールやうねりがあるものを△と評価した。
【0066】
(6)耐ハンダ寸法安定性評価
耐ハンダ性はJIS−C−6471(1990)に従い、サンプルを105℃で1時間調整後、260℃のハンダ浴に5秒間浮かべてハンダテストを行った。
【0067】
サンプルはフィルムを50mm四方の正方形にカットし、ハンダテストを行った。
【0068】
ハンダテスト後のフィルムの隣り合う2辺について寸法を測定し、寸法変化の平均値(L1(mm))を求めた。下式により寸法変化率(T(%))を計算し、以下の基準で評価した。
【0069】
T(%)=(|50−L1|/50)×100
○:T<3
△:3≦T<5
×:5≦T
(参考例1)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン6.060g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル1.502g、N−メチル−2−ピロリドン129.5mlを入れ窒素雰囲気下、氷冷下で攪拌した。10分から30分後にかけて2−クロルテレフタル酸ジクロリド11.693gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム3.512gで中和して透明なポリマー溶液aを得た。
【0070】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは端部がカールし、平面性を保った部分の面積は70%程度であった。また、寸法変化率は5%であった。
【0071】
(実施例1)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、銅アセチルアセトナート5gを添加して60℃で2時間撹拌した。
【0072】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。また、ESCA分析により銅アセチルアセトナートが2価の酸化銅微粒子に変化していることを確認した。ハンダテスト後のサンプルは平面性、寸法安定性ともに良好であった。
【0073】
(実施例2)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、銅アセチルアセトナート3gを添加して60℃で2時間撹拌した。
【0074】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性はやや悪化したが、寸法安定性は良好であった。
【0075】
(実施例3)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、ニッケルアセチルアセトナート5gを添加して60℃で2時間撹拌した。
【0076】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性はやや悪化したが、寸法安定性は良好であった。
【0077】
(実施例4)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、マンガンアセチルアセトナート5gを添加して60℃で2時間撹拌した。
【0078】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性はやや悪化したが、寸法安定性は良好であった。
【0079】
(実施例5)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、粒径50μmの酸化銅(II)粉体1.6gを添加して60℃で2時間撹拌した。
【0080】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性、寸法安定性ともにやや悪化した。
【0081】
(実施例6)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、銅アセチルアセトナート14gを14mlのN−メチル−2−ピロリドンと混合した後添加して90℃で2時間撹拌した。
【0082】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性、寸法安定性ともに良好であった。
【0083】
(実施例7)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、銅アセチルアセトナート20gを20mlのN−メチル−2−ピロリドンと混合した後添加して90℃で2時間撹拌した。
【0084】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性はやや悪化したが、寸法安定性は良好であった。
【0085】
(比較例1)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、銅アセチルアセトナート1gを添加して60℃で2時間撹拌した。
【0086】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに300℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示した。ハンダテスト後のサンプルは平面性は悪化し、寸法変化率も4%とやや悪化した。
【0087】
(比較例2)
参考例1で得られたポリマー溶液aのうち100gを、別の攪拌機を備えた300mlセパラブルフラスコに入れ、銅アセチルアセトナート25gを25mlのN−メチル−2−ピロリドンと混合した後添加して90℃で20時間撹拌を行ったが、添加量が多いため、均一なポリマー溶液が得られず、製膜できなかった。
【0088】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドと、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物とを含み、これらの金属および金属化合物の総含有量が10重量%以上70重量%以下である層を少なくとも1層有している芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項2】
銅または酸化銅を含み、これらの銅および酸化銅の総含有量が15重量%以上50重量%以下である層を少なくとも1層有している、請求項1に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項3】
25℃から260℃までの寸法変化率の絶対値が1%以下である、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項4】
芳香族ポリアミドと、アルミニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、銅、パラジウムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物とを含み、これらの金属および金属化合物の総含有量が5重量%以下である層を積層してなる、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項5】
芳香族ポリアミドが化学式(I)および化学式(II)で示される構造を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【化1】

【化2】

X:任意のハロゲン原子
【請求項6】
金属化合物をポリアミド溶液に溶解せしめた後に、加熱および/または化学反応により、金属の粒子または金属化合物の粒子を生成せしめる、請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
ポリアミド溶液に溶解せしめる金属化合物が金属アセチルアセトナートである、請求項6に記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの少なくとも片面に導電層を設けてなるフレキシブル回路基板。

【公開番号】特開2006−290978(P2006−290978A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111647(P2005−111647)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】