説明

芳香族ポリアミド樹脂組成物およびその発泡体

【課題】耐熱性、発泡性に優れた芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを発泡させた発泡体を提供する。
【解決手段】本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物を含有してなる樹脂組成物であって、(該樹脂組成物の融点+20)℃にて測定したときの溶融張力が60〜500mNであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、発泡性に優れた芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを発泡させた発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66に代表される脂肪族の汎用ポリアミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性、剛性、摺動性、成形性などの優れた性質を有しているため、広範な用途に使用されてきた。しかし自動車分野を中心に、近年、さらなる耐熱性の向上が要求されており、従来の脂肪族ポリアミド樹脂では対応できなくなりつつある中、より高耐熱の芳香族ポリアミド樹脂の需要が高まっている。さらに、発泡剤により芳香族ポリアミド樹脂を発泡させた発泡体は、その軽量性、緩衝性などを活かして、緩衝材、包装材、建材などの分野において需要が高まっている。
【0003】
しかしながら、芳香族ポリアミド樹脂は、元来、溶融粘度、溶融張力ともに低い樹脂であるため、改質せずに発泡させることは困難である。したがって、このような芳香族ポリアミド樹脂の発泡体への応用は限られていた。
【0004】
上記のような問題を解決するため、架橋剤や発泡剤を添加し、単軸押出機中でポリアミド樹脂を増粘させながら発泡剤を溶解させて押出発泡させる方法が知られている。この方法によれば、10倍までの発泡倍率を有する発泡体を得ることができる(例えば、特許文献1)。しかしながら、特許文献1は、融点280℃未満の脂肪族ポリアミド樹脂について言及しているものであり、このような脂肪族ポリアミド樹脂に用いられる架橋剤は、いずれも実質的に分子量1000以下の低分子量化合物である。従って、安定性や揮発性などの観点から、このような低分子量化合物と高融点の芳香族ポリアミド樹脂とを反応させることは困難であった。
【0005】
また、芳香族ポリアミド樹脂を十分増粘させるためには、二軸押出機で温度を高くし、かつ高剪断状態で溶融押出する方法が効果的である。しかしながら、発泡倍率をさらに高くするためには、単軸押出機で出口付近の温度を下げ、かつ低剪断状態で溶融押出することが必要である。すなわち、増粘による発泡適性を付与しながら、押出発泡を1段階で行う場合には、押出条件に問題があった。また、特に架橋剤としてエポキシ化合物を用いた場合には、増粘反応に時間がかかるため、増粘と押出発泡を1段階で行うには実質上無理があった。
【0006】
また、半芳香族ポリアミド樹脂の射出発泡成形においては、発泡剤として、二酸化炭素や窒素などの超臨界流体を溶解させることが知られている。この場合には、1.25倍までの発泡倍率の発泡体を得ることができる(例えば、特許文献2)。また、全芳香族ポリアミド樹脂について、有機溶剤と二酸化炭素を溶解させることが知られており、この場合には、3倍までの発泡倍率の発泡体を作製することができる(例えば、特許文献3)。
【0007】
しかしながら、特許文献2および特許文献3において開示された技術により得られる発泡体は、発泡倍率が低く、優れた軽量性が求められる用途への展開が困難であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04−356541号公報
【特許文献2】特開2005−132941号公報
【特許文献3】特開2003−301062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、高倍率で発泡し、軽量性が求められる用途にも用いることができる発泡体を得ることができ、さらに耐熱性に優れる芳香族ポリアミド樹脂組成物、および該芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる発泡体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリアミド樹脂と、多官能化合物とを反応させてなる芳香族ポリアミド樹脂組成物とし、かつ(芳香族ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃)の温度にて測定した溶融張力を60〜500mNの範囲のものとすることにより、優れた発泡性と耐熱性とを有する樹脂組成物となることを見出し、かかる知見に基づき本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物を含有してなる芳香族ポリアミド樹脂組成物であって、(該芳香族ポリアミド樹脂組成物の融点+20)℃にて測定したときの溶融張力が60〜500mNであることを特徴とする芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(2)多官能化合物が、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、多官能カルボジイミド化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能カルボン酸無水物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)の芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(3)芳香族ポリアミド樹脂組成物中の芳香族ポリアミド樹脂の含有量が90〜99.9質量%、多官能化合物の含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とする(1)または(2)の芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれかの芳香族ポリアミド樹脂組成物を発泡させてなる発泡体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物は、芳香族ポリアミド樹脂を主原料とするものであって、高倍率で発泡し、軽量性や耐熱性に優れた発泡体を得ることができる。また、本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物から得られた発泡体は、耐熱性に優れるとともに、軽量性に優れ、緩衝材、包装材、建材等の各種の用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)は、芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物を含有している。
【0014】
本発明に用いられる芳香族ポリアミド樹脂とは、構造単位中に芳香族骨格を有するポリアミド樹脂である。本発明においては、芳香ポリアミド樹脂を用いることにより、脂肪族ポリアミド樹脂などの他のポリアミド樹脂を用いる場合と比較して、耐熱性を向上させることができる。芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6T/6I、ポリアミド9Tのような、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸および/またはイソフタル酸との重縮合物;ポリアミド6T/66のような、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンと炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸とテレフタル酸および/またはイソフタル酸との重縮合物;ポリアミド6T/6のような、炭素数4〜12の脂肪族アミノカルボン酸と炭素数4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸および/またはイソフタル酸との重縮合物;などが挙げられる。さらに、上記の重縮合物の変性体でも良い。なかでも、耐熱性と取扱い性のバランスの観点から、ポリアミド6T/6I、変性ポリアミド6T、ポリアミド6T/66、ポリアミド6T/6、ポリアミド9Tが好ましく用いられる。これらの芳香族ポリアミド樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上混合して用いられてもよい。
【0015】
芳香族ポリアミド樹脂の融点は、耐熱性の観点から、280℃以上が好ましく、300℃以上がさらに好ましい。
【0016】
本発明において、芳香族ポリアミド樹脂組成物中の芳香族ポリアミド樹脂の含有量は、90〜99.9質量%であることが好ましく、中でも92〜99.9質量%であることがより好ましく、95〜99質量%であることがさらに好ましい。含有量が90質量%未満であると、芳香族ポリアミド樹脂組成物の均一性が失われて発泡させにくくなったり、耐熱性が損なわれたりする場合があり、一方99.9質量%を超えると、多官能化合物の配合量が少なくなり配合効果が得られなかったりする場合がある。
【0017】
芳香族ポリアミド樹脂は、一般的には溶融張力が低く、発泡適性を有していない。これに対して、本発明においては、該芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物とを反応させて溶融張力を増大させることによって、発泡適性を有した樹脂組成物を得ることができる。
【0018】
つまり、本発明において、多官能化合物は、芳香族ポリアミド樹脂とともに用いることにより、樹脂組成物の溶融張力を増大させものであり、官能基を多数有する化合物である。中でも1分子鎖あたり2〜100個の官能基を有する化合物が好ましい。
【0019】
具体的には、本発明で用いる多官能化合物としては、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、多官能カルボジイミド化合物、多官能カルボン酸無水物が好ましく、これらを、単独または2つ以上を組み合わせて使用できる。なかでも、反応性、反応温度、汎用性、コストの観点から、多官能エポキシ化合物が好ましく用いられる。
【0020】
多官能エポキシ化合物としては、低分子の多官能エポキシ化合物であるポリグリシジルエーテル化合物(例えば、阪本薬品工業社製「SR−TMP」、ナガセケムテックス社製「デナコールEX−521」など)、ポリエチレンを主成分とする多官能エポキシ化合物(例えば、住友化学社製「ボンドファストE」)、アクリルを主成分とする多官能エポキシ化合物(例えば、東亞合成社製「レゼダGP−301」、東亞合成社製「ARUFON UG−4000」、三菱レイヨン社製「メタブレンKP−7653」など)、アクリル・スチレン共重合体を主成分とする多官能エポキシ化合物(例えば、BASF社製「Joncryl−ADR−4368」、東亞合成社製「ARUFON UG−4040」など)、シリコーン・アクリル共重合体を主成分とする多官能エポキシ化合物(例えば、「メタブレンS−2200」など)、ポリエチレングリコールを主成分とする多官能エポキシ化合物(例えば、日油社製エピオール「E−1000」など)などが挙げられる。
【0021】
多官能イソシアネート化合物としては、モノメリックMDI(MDI:メチレンビス(4,1−フェニレン)ジイソシアネート)、ポリメリックMDI(例えば、日本ポリウレタン工業社製「ミリオネートMR−200」、BASF社製「ルプラネートM20S」など)、芳香族ポリイソシアネート(例えば、日本ポリウレタン工業社製「ミリオネートMT」など)などが挙げられる。
【0022】
多官能カルボジイミド化合物としては、芳香族ポリカルボジイミド(例えば、ラインケミー社製「スタバックゾールP」、「スタバックゾールP−400」など)、脂肪族(脂環族)ポリカルボジイミド(例えば、日清紡績社製「カルボジライトLA−1」など)が挙げられる。
【0023】
多官能オキサゾリン化合物としては、1,3−フェニレン−ビスオキサゾリンなどの芳香族ポリオキサゾリン、オキサゾリン含有ポリマー(例えば、日本触媒社製「エポクロス」など)などが挙げられる。
【0024】
多官能カルボン酸無水物としては、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0025】
また、上記したような多官能化合物の分子量は2000〜200000であることが好ましく、2000〜100000がより好ましく、5000〜50000がさらに好ましい。分子量が2000未満であると、溶融混練により芳香族ポリアミドと反応させる際に分解したり、揮発したり、均一に分散しなかったりといった問題が生じ、操業性や製造性が低下する場合がある。一方、分子量が200000を超えると、溶融張力増大効果が小さかったり、均一に分散しなかったりする場合がある。
【0026】
なお、上記の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した重量平均分子量を用いることができる。測定の際に用いられる溶離液は、試料の溶離液への溶解性を考慮して選択されるが、例えば、クロロホルム、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0027】
本発明の樹脂組成物中の多官能化合物の含有量は、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.2〜7質量%であることがより好ましく、0.3〜5質量%であることがさらに好ましい。多官能化合物の含有量が、0.1質量%未満であると、配合する効果が得られず、一方、10質量%を超えると、溶融時の流動性が乏しく取扱性が困難となるという問題がある。
【0028】
そして、本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物は、(芳香族ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃)の温度にて測定した溶融張力が60〜500mNであることが必要であり、100〜400mNが好ましく、100〜300mNがより好ましい。溶融張力が60mN未満の樹脂組成物では、発泡工程において破泡が多くなり、発泡体を得ることが困難となる。一方、500mNを超える樹脂組成物では、高粘度すぎて溶融押出するのが困難となる。
【0029】
なお、溶融張力は以下のような方法で測定される。すなわち、あらかじめ乾燥させたペレット状の樹脂組成物を、(芳香族ポリアミド樹脂組成物の融点+20℃)の温度に設定したキャピロメータ(東洋精機製作所社製、商品名「キャピログラフ 1C」)のシリンダー内に充填し、シリンダーの上にピストンを載せて5分間予熱する。その後、シリンダーの下部のダイ(径1mm×長さ10mm)から、10mm/分のピストン速度で押し出したストランドを、初期速度1mm/分で引き取り、張力計で張力を検出する。引取速度を徐々に上げていきストランドが破断したときの張力を、溶融張力(mN)の値とする。
【0030】
また、本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物には、この樹脂組成物を発泡体としたときに、より微細な気泡を得る目的で、あらかじめ気泡調整剤を添加しても良い。あるいは、発泡時に気泡調整剤を添加しても良い。気泡調整剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。このような気泡調整剤は、発生する気泡を小さくする観点から、平均粒径が100μm以下のものが好ましい。
【0031】
気泡調整剤の添加量(含有量)としては、樹脂組成物に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満であると、発泡体の気泡が粗大となり外観が損なわれる場合がある。一方、5質量%を超えると、押出発泡時に破泡が頻繁に起こり、独立気泡率が低下したり、外観が損なわれたりする場合がある。
【0032】
また、本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、主成分である芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物以外に他の樹脂成分を含有しても良い。
【0033】
他の樹脂成分としては、脂肪族ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフッ化ビニリデン,ポリスルホン、PPS、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、PPO、ポリエーテルケトン、ポリブタジエン等のエラストマーなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0034】
上記の芳香族ポリアミド樹脂以外の他の樹脂成分の配合量は、樹脂組成物の均一性や耐熱性を維持する観点から、樹脂組成物全体に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
また、本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、架橋剤、鎖延長剤、末端封鎖剤、充填材、強化材等を添加することも可能である。これらの添加剤は一般に重合時、溶融混練時、あるいは押出発泡時に加えられる。
【0036】
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばホスファイト系有機化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、リン化合物あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0037】
末端封鎖剤としては、本発明にて用いられる多官能化合物以外のカルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。分散剤としては、流動パラフィン、ミネラルオイル、クレオソート油、潤滑油、シリコーンオイルなどの工業用オイル、あるいはコーン油、大豆油、菜種油、パーム油、亜麻仁油、ホホバ油などの植物油、あるいはイオン性およびノニオン性の界面活性剤等が挙げられる。
【0038】
充填材としては、無機充填材、有機充填剤が挙げられる。無機充填材としては、タルク、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0039】
本発明の樹脂組成物を作製する方法は、芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物が均一に混練されるものであれば特に限定されず、例えば、通常の押出機を使用した溶融混練法を用いることができる。
【0040】
次に、本発明の発泡体について説明する。本発明の発泡体は、本発明の芳香族ポリアミド樹脂組成物を発泡剤により発泡させて得られるものである。発泡剤としては、熱分解型発泡剤、物理発泡剤などを用いることができる。
【0041】
熱分解型発泡剤は、分解温度以上に加熱されることによりガスを発生して、樹脂を発泡させる発泡剤である。その具体例としては、アゾジカルボンアミドやバリウムアゾジカルボキシレートに代表されるアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)やヒドラジカルボンアミドに代表されるヒドラジン化合物、テトラゾール化合物、あるいは炭酸水素ナトリウムなどの無機系の発泡剤などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、分解温度の高いテトラゾール化合物が好ましい。
【0042】
熱分解型発泡剤を樹脂組成物に配合する方法は、特に限定されないが、例えば、熱分解型発泡剤を樹脂組成物とともに押出機に供給する方法などが挙げられる。
物理発泡剤は、化学反応を伴わずに、温度変化や圧力変化により膨張したガスによって、樹脂を発泡させる発泡剤である。物理発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、水等の無機化合物や、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンなどの各種炭化水素、フロン化合物、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、エタノールやメタノール等の各種アルコール類に代表される有機溶媒などを挙げることができる。
【0043】
物理発泡剤を樹脂組成物に配合する方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を押出機に供給し、押出機の途中から物理発泡剤を注入する方法などが挙げられる。
【0044】
上述の発泡剤の配合量は、樹脂組成物に対して0.05〜10質量%が好ましく、0.1〜6質量%がさらに好ましい。発泡剤の配合量が0.05質量%未満であると、十分に発泡した(発泡倍率が高い)発泡体が得られない場合がある。一方、発泡剤の配合量が10質量%を超えると、破泡が起こる場合や、発泡体内部で気泡の合一が起こり、発泡体の外観が損なわれる場合がある。
【0045】
発泡体を製造する際の発泡方法には、公知慣用の方法を適用することができる。例えば、押出機を用いて、樹脂組成物をスリット状ノズルから押出発泡してシート状(発泡シート)にしたり、丸形ノズルから押出発泡してストランド形状(発泡ストランド)にしたりして発泡体を得ることができる。さらに、該発泡シートや発泡ストランドを切断することで、発泡体の形状を粒子状とすることができる。また、得られた押出発泡体をそのまま熱成形したり、切断して発泡粒子とした後に金型内で成形したりすることもできる。
【0046】
また、本発明の発泡体を得る方法としては、あらかじめ樹脂組成物の粒子を作製し、炭化水素、有機溶媒、水など上記に示した発泡剤を加圧下にて含浸させた後、温度や圧力の変化で発泡させて発泡粒子を作製し、次いで該発泡粒子を金型内で成形する方法も適用できる。
【0047】
本発明の発泡体の製造に用いる押出機としては、公知慣用の発泡押出機を好適に使用することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、複数の押出機を連結させたタンデム型の押出機が挙げられる。
【0048】
本発明の発泡体は、包装材、梱包材、緩衝材、断熱材、保温材、保冷材、消音材、吸音材、防音材、制振材、建材、クッション材、資材、容器などに利用することができる。具体例としては、ソファ、ベッドマット、椅子、寝具、マットレス、電灯カバー、ぬいぐるみ、スリッパ、クッション、ヘルメット、カーペット、枕、靴、ポーチ、マット、クラッシュパッド、スポンジ、文具、玩具、DIY用品、パネル、畳芯材、マネキン、自動車内装部材・クッション、カーシート、デッドニング、ドアトリム、サンバイザー、自動車用制振材・吸音材、スポーツ用マット、フィットネス用品、スポーツ用プロテクター、ビート板、グラウンドフェンス、レジャーシート、医療用マットレス、医療用品、介護用品、リハビリ用品、建築用断熱材、建築目地材、面戸材、建築養生材、反射材、工業用トレー、チューブ、パイプカバー、エアコン断熱配管、ガスケット芯材、コンクリート型枠、土木目地、つらら防止パネル、保護材、軽量土、盛土、人工土壌、梱包材・包装資材、梱包資材、ラッピング、生鮮品・野菜・果物等の梱包材・包装材、電子機器等の梱包材・緩衝包装材、生鮮品・野菜・果物等の保温・保冷箱、カップラーメン・弁当箱等の食品容器、食用トレー、飲料容器、農業用資材、発泡模型、スピーカ用振動板などが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、実施例及び比較例中の特性値の測定及び評価は以下のように行った。
(1)溶融張力
得られた芳香族ポリアミド樹脂組成物の溶融張力を前記の方法で測定した。
(2)芳香族ポリアミド樹脂の融点
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて25℃から400℃に+10℃/分で昇温し、40℃で10分間保持した。その後0℃まで−10℃/分で降温し、10分間保持した。再び400℃まで+10℃/分で昇温した。2回目の昇温時のチャートからピークトップを読み取り、融点を求めた。
【0050】
(3)発泡性能
芳香族ポリアミド樹脂組成物(発泡前)および発泡体の質量を測定し、さらにそれらの見かけ体積を、湿式電子比重計(アルファ・ミラージュ社製、商品名「EW−300SG」)を用いて測定した。樹脂組成物と発泡体について、見かけ体積と質量の比から見かけ密度を算出した。そして、発泡倍率を以下の式より算出した。
発泡体の発泡倍率=(樹脂組成物の見かけ密度)/(発泡体の見かけ密度)
さらに、以下の基準で発泡性能を評価した。
○:発泡倍率が5倍以上である。
×:発泡倍率が5倍未満である。
(4)加熱寸法安定性(耐熱性)
得られた発泡シートを、210℃で24時間、熱風乾燥機により加熱処理した。加熱処理前後の発泡シートの長さと幅を測定し、長さおよび幅における寸法変化率を以下の式より算出した。
寸法変化率(%)=〔(Y−X)/X〕×100
X:加熱処理前の発泡シートの長さ、または幅
Y:加熱処理後の発泡シートの長さ、または幅
寸法変化率の値により、以下の2段階の基準で評価した。
○:長さ変化率及び幅変化率ともに±3%未満である
×:長さ変化率、幅変化率の少なくとも一方が±3%以上である
【0051】
以下に、実施例及び比較例において用いた各種原料を示す。
(1)ポリアミド樹脂
〔芳香族ポリアミド樹脂〕
A:ポリアミド9T(クラレ社製「ジェネスタ N1000A」)(融点:305℃、溶融張力:20mN)
B:変性ポリアミド6T(三井化学社製「アーレンE」)(融点:320℃、溶融張力:15mN)
〔脂肪族ポリアミド樹脂〕
C:ポリアミド6(ユニチカ社製「A1030BRL」)(融点:220℃、溶融張力:5mN)
【0052】
(2)多官能化合物
・多官能エポキシ化合物
D:エポキシ基含有アクリル系ポリマー(日油社製「ブレンマー CP−50M」、重量平均分子量:10000)
E:エポキシ基含有スチレン/アクリル共重合体(BASF社製「Joncryl ADR 4368」、重量平均分子量:6800)
F:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(日油社製「エピオール E−1000」、重量平均分子量:1100)
G:トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(阪本薬品工業社製「SR−TMP」、重量平均分子量:254)
H:エポキシ変性アクリル(東亞合成製、「ARUFON UG−4070」、重量平均分子量:9700)
・多官能カルボジイミド化合物
I:カルボジイミド(日清紡績社製「カルボジライト LA−1」、重量平均分子量:5000)
【0053】
(3)発泡剤
K:二酸化炭素
(4)気泡調整剤
L:微粉タルク(林化成社製、商品名「MW−HST」、平均粒径:2.5μm)
【0054】
実施例1
二軸押出混練機(池貝社製、「PCM−30」)(スクリュー径:29mm、L/D:30、ノズル;4mm×3孔、上流側温度;260℃、中流および下流側温度:320℃、ダイス出口温度:320℃)を用い、十分乾燥した99.4質量部のAと、0.6質量部のDとを供給し、吐出速度3kg/hで押し出した。ストランドを切断してペレット状とし、芳香族ポリアミド樹脂組成物Mを得た。
【0055】
実施例2〜7、比較例1〜2
芳香族ポリアミド樹脂の種類、多官能化合物の種類、およびこれらの配合量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリアミド樹脂組成物N〜Uを得た。なお、実施例2においては、押出機の温度を以下のように変更した。
上流側温度:260℃、中流〜下流側温度:330℃、ダイス出口温度:330℃
【0056】
比較例3
芳香族ポリアミド樹脂に代えて、脂肪族ポリアミド樹脂Cを用いた以外は、実施例1と同様にして脂肪族ポリアミド樹脂組成物Vを得た。なお、押出機の温度を以下のように変更した。
上流側温度:210℃、中流〜下流側温度:240℃、ダイス出口温度:240℃
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜7および比較例1〜3で得られた樹脂組成物M〜Vの特性値を表1に示す。
【0059】
実施例8
二軸押出発泡機(池貝社製、「PCM−30」)(スクリュー径:29mm、L/D:30、ダイ;0.8mmt×33mmスリット、上流側温度;330℃、中流および下流側温度;290℃、ダイス出口温度;280℃)を用い、99質量部のMと1質量部の微粉タルクとを供給し、吐出速度5kg/hで押し出した。液化炭酸ガス注入装置(昭和炭酸社製)を用いて、押出機途中から二酸化炭素を注入することにより押出発泡させてシート形状の発泡体を製造した。このとき得られた発泡シートの発泡倍率は7倍であった。
【0060】
実施例8〜14、比較例4〜8
表2に示すように、樹脂組成物N〜V、あるいは芳香族ポリアミド樹脂A〜Bを用いたこと以外は実施例8と同様にして押出発泡し、発泡シートを得た。このとき得られた発泡シートの評価結果を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
表1、2から明らかなように、芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物とを反応させて得た実施例1〜7の芳香族ポリアミド樹脂組成物は、いずれも溶融張力が60mN以上であった。これらを押出発泡に供した実施例8〜14では、いずれも発泡倍率5倍以上の良好な発泡体が得られ、かつ加熱寸法安定性も良く耐熱性に優れていた。
【0063】
芳香族ポリアミド樹脂と低分子量の多官能化合物とを反応させて得た比較例1〜2の芳香族ポリアミド樹脂組成物は、Aと比較して溶融張力がやや上昇するものの、うまく増粘しないため溶融張力が十分に上昇しなかった。このため発泡性能に劣るものであり、これらを押出発泡に供した比較例4〜5では、発泡倍率の低い発泡体しか得られなかった。
【0064】
芳香族ポリアミド樹脂に代えて、脂肪族ポリアミド樹脂Cと多官能化合物とを反応させて得た比較例3の脂肪族ポリアミド樹脂組成物は、溶融張力が十分で、これを押出発泡に供した比較例6では、発泡倍率7倍の良好な発泡体が得られた。しかし、脂肪族ポリアミド樹脂からなるため、加熱寸法安定性に劣り、耐熱性が不十分であった。
【0065】
多官能化合物を用いずに、芳香族ポリアミド樹脂をそのまま押出発泡に供した比較例7〜8では、樹脂組成物の溶融張力が低いものであったため発泡性能に劣るものであり、発泡倍率の低い発泡体しか得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド樹脂と多官能化合物を含有してなる芳香族ポリアミド樹脂組成物であって、(該芳香族ポリアミド樹脂組成物の融点+20)℃にて測定したときの溶融張力が60〜500mNであることを特徴とする芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
多官能化合物が、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、多官能カルボジイミド化合物、多官能オキサゾリン化合物、多官能カルボン酸無水物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリアミド樹脂組成物全体を100質量部として、芳香族ポリアミド樹脂を90〜99.9質量部および多官能化合物を0.1〜10質量部含むことを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミド樹脂組成物を発泡させてなる発泡体。

【公開番号】特開2011−256290(P2011−256290A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132522(P2010−132522)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】