説明

苗移植機

【課題】エンジンや主変速機の冷却性能を向上させた苗移植機を提供する。
【解決手段】動力源としてのエンジン20の前方に配置され、このエンジン20の動力がベルト式動力伝達機構32を介して伝達される油圧式無段変速機31を備えた走行車体2と、この走行車体2の後部に昇降リンク装置70を介して取り付けられた苗植付装置3と、を有する苗移植機1において、エンジン20の後方に配置したエンジン冷却水冷却用の熱交換器22と、この熱交換器22の後方に配置し、前方の当該熱交換器22の放熱部に風を送る冷却ファン23と、油圧式無段変速機31に向けて風を送る冷却ファン33を設けて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場への苗植えを行う苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
苗移植機は、エンジン、主変速機、副変速機及び操作装置等を備えた走行車体と、この走行車体の後部に取り付けた苗植付装置と、を有している。この種の苗移植機については、例えば、下記の特許文献1及び2に開示されている。特許文献1の苗移植機においては、エンジンの冷却水を冷やす熱交換器がエンジンの機体後方に配置されており、その熱交換器の冷却効率を高めるべく、エンジンと熱交換器との間に熱交換器冷却用の冷却ファンが設けられている。また、特許文献2の苗移植機においては、エンジンとエンジン前方の主変速機(HST)との間に機体後方に向けて風を送るファンが配設されており、エンジンの冷却を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−289367号公報
【特許文献2】特開2008−099585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、苗移植機の主変速機(HST)は、作動油の油圧を利用してエンジンの動力を変速するものなので、作動油が過剰な温度上昇で劣化すると、変速効率の低下や耐久性の低下を招く虞がある。そして、従来の苗移植機は、エンジンの冷却に関する対策を施しているが、主変速機の冷却性能に関して改善の余地がある。また、例えば上記特許文献1の苗移植機においては、冷却ファンで熱交換器に送られる風がエンジンの雰囲気温の影響を受けて温度上昇する可能性が高く、エンジンの冷却性能に関しても改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、エンジンや主変速機の冷却性能を向上させることが可能な苗移植機を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、請求項1に記載の本発明は、動力源としてのエンジン(20)の前方又は後方に配置され、該エンジン(20)の動力が動力伝達機構(32)を介して伝達される主変速機(31)を備えた走行車体(2)と、該走行車体(2)の後部に昇降リンク装置(70)を介して取り付けられた苗植付装置(3)と、を有する苗移植機(1)において、前記主変速機(31)を前方に有する前記エンジン(20)の後方に配置した、又は前記主変速機(31)を後方に有する前記エンジン(20)の前方に配置したエンジン冷却水冷却用の熱交換器(22)と、前記エンジン(20)に向けて風を送り、該風を前記熱交換器(22)の放熱部に当てる第1冷却ファン(23)と、前記主変速機(31)に向けて風を送る第2冷却ファン(33)を設けたことを特徴としている。
【0007】
そして、請求項2に記載の本発明は、前記第2冷却ファン(33)で発生させた風が前記主変速機(31)を通過した後に前記熱交換器(22)及び第1冷却ファン(23)に送られることがなく、且つ当該第1冷却ファン(23)で発生させた風が前記熱交換器(22)を通過した後に到達しない位置に第2冷却ファン(33)を配置することを特徴としている。
【0008】
また、請求項3に記載の本発明は、機体左方から前記主変速機(31)に風を送る、又は機体右方から前記主変速機(31)に風を送るよう前記第2冷却ファン(33)を配置することを特徴としている。
【0009】
また、請求項4に記載の本発明は、前記動力伝達機構(32)を介して前記エンジン(20)の動力が伝達される前記主変速機(31)の入力軸(31a)に前記第2冷却ファン(33)を取り付けることを特徴としている。
【0010】
また、請求項5に記載の本発明は、前記エンジン(20)の出力軸(20a)に取り付けた第1動力伝達部材(32a)、前記主変速機(31)の入力軸(31a)に取り付けた第2動力伝達部材(32b)及び当該第1動力伝達部材(32a)と当該第2動力伝達部材(32b)とに巻き掛けた第3動力伝達部材(32c)を前記動力伝達機構(32)が備え、前記主変速機(31)の入力軸(31a)における当該主変速機(31)と前記第2動力伝達部材(32b)との間に前記第2冷却ファン(33)を取り付けることを特徴としている。
【0011】
また、請求項6に記載の本発明は、前記第1冷却ファン(23)の風向きと同じ風向きになるよう前記第2冷却ファン(33)を配置することを特徴としている。
【0012】
更に、請求項7に記載の本発明は、機体前部で且つフロアステップ(41)の床面よりも上方に配置され、補給用の苗を載せておく予備苗載台(61)と、該予備苗載台(61)を回動可能な鉛直軸(62)と、前記フロアステップ(41)の床面上における前記予備苗載台(61)の下方に配置したバッテリ(25)を設けることを特徴としている。
【0013】
一方、請求項8に記載の本発明は、機体前部で且つフロアステップ(41)の床面よりも上方に配置され、補給用の苗を載せておく予備苗載台(61)と、該予備苗載台(61)を回動可能な鉛直軸(62)と、バッテリ(25)と、前記フロアステップ(41)における前記予備苗載台(61)の下方に当該フロアステップ(41)の床面と溝底との間隔が前記バッテリ(25)の高さ以上になるよう形成され、該バッテリ(25)を保持するバッテリ保持溝(43)を設けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の本発明に係る苗移植機(1)は、エンジン(20)の後方に熱交換器(22)を配置し、更にその後方に第1冷却ファン(23)を配置しているので、その第1冷却ファン(23)がエンジン(20)の雰囲気温の影響を受け難い新気を熱交換器(22)の放熱部に送ることができる。これにより、熱交換器(22)の冷却効率を上げることができ、エンジン(20)の冷却性能が向上する。
更に、第2冷却ファン(33)で主変速機(31)に風を送ることができるので、その風と主変速機(31)との熱交換が可能になり、主変速機(31)の冷却性能が向上する。
【0015】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の発明の効果に加えて、第2冷却ファン(33)が発生させた風と第1冷却ファン(23)が発生させた風が互いに干渉することを抑えることができるので、主変速機(31)や熱交換器(22)に十分な量の風が送られ、冷却能力が向上する。
【0016】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の発明の効果に加えて、第2冷却ファン(33)で発生させた風が機体左側から右側、又は機体右側から左側に向かって移動する為、第1冷却ファン(23)の配置位置が決めやすくなる。
また、第1冷却ファン(23)の風を第2冷却ファン(33)で吸い込みにくくなり、第1冷却ファン(23)及び第2冷却ファン(33)からの各々の風が機外へ排出されやすくなり、冷却能力が更に向上する。
【0017】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の発明の効果に加えて、第2冷却ファン(33)を主変速機(31)の入力軸(31a)に取り付けたことにより、第2冷却ファン(33)を駆動させる伝動機構を別途構成する必要がなく、コンパクトな構造になると共に、部品点数が削減される。
また、第2冷却ファン(33)が主変速機(31)の近くに配置されるので、主変速機(31)の熱交換を行う風の量が増える為、冷却能力が向上する。
【0018】
請求項5に記載の本発明は、請求項3又は4に記載の発明の効果に加えて、第2冷却ファン(33)を主変速機(31)と第2動力伝達部材(32b)の間に設けたことにより、第2冷却ファン(33)の発生させた風が主変速機(31)に移動することを妨げるものが無い構成となるので、冷却能力がいっそう向上する。
【0019】
請求項6に記載の本発明は、請求項1に記載の発明の効果に加えて、第1冷却ファン(23)と第2冷却ファン(33)の風を発生させる方向を同じ方向としたことにより、主変速機(31)に送られる風の量を増やすことができるので、冷却能力がいっそう向上する。
【0020】
請求項7に記載の本発明は、請求項1から請求項6の内の何れか1項に記載の発明の効果に加えて、予備苗載台(61)を回動可能に設けると共に、この予備苗載台(61)の下方で且つフロアステップ(41)の床面上にバッテリ(25)を設けたことにより、充電等を行う際にバッテリ(25)を取り外しやすくなる為、作業性が向上する。
【0021】
請求項8に記載の本発明は、請求項1から請求項6の内の何れか1項に記載の発明の効果に加えて、バッテリ(25)を保持するバッテリ保持溝(43)をフロアステップ(41)に形成したことにより、機体が揺れたりしていてもバッテリ(25)が外れにくくなるので、作業が中断されることがなく、作業能率が向上する。
また、バッテリ保持溝(43)の深さを、保持するバッテリ(25)の高さ以上としたことにより、作業者はバッテリ(25)を気にすることなくフロアステップ(41)を移動することができるので、作業能率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に係る苗移植機の実施例における側面図である。
【図2】図2は、本実施例の苗移植機の上面図である。
【図3】図3は、本実施例の苗移植機の正面図である。
【図4】図4は、本実施例の苗移植機の上面図であって、ハーネスと燃料管の配策経路について説明する図である。
【図5】図5は、本実施例の苗移植機の内部を上面から観た図であって、熱効交換機用の冷却ファンと油圧式無段変速機用の冷却ファンの配置について説明する図である。
【図6】図6は、変形例の苗移植機の内部を上面から観た図であって、熱効交換機用の冷却ファンと油圧式無段変速機用の冷却ファンの配置について説明する図である。
【図7】図7は、他の変形例の苗移植機の内部を上面から観た図であって、熱効交換機用の冷却ファンと油圧式無段変速機用の冷却ファンの配置について説明する図である。
【図8】図8は、変形例の苗移植機の正面図である。
【図9】図9は、変形例の苗移植機の上面図であって、各種操作レバーの配置について説明する図である。
【図10】図10は、他の変形例の苗移植機の上面図であって、各種操作レバーの配置について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る苗移植機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例により、この発明が限定されるものではない。
【0024】
[実施例]
本発明に係る苗移植機の実施例を図1から図10に基づいて説明する。
【0025】
図1及び図2の符号1は、本実施例の苗移植機を示す。以下においては、機体の前進方向を前方と定義し、その進行方向から観て左右を定義する。
【0026】
この苗移植機1は、機体を前進や転回等させる走行車体2と、この走行車体2の後方に配置した苗植付装置3と、に大別される。
【0027】
ここで例示する走行車体2は、4つの車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrが駆動輪となる所謂四輪駆動車とする。尚、この走行車体2は、常に全ての車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrで駆動力を発生させるフルタイム四輪駆動車であってもよく、二輪駆動と四輪駆動とを切り替え可能なパートタイム四輪駆動車であってもよい。
【0028】
この走行車体2は、図1及び図2に示すように、機体の略中央に配置されたメインフレーム11、このメインフレーム11の上に搭載されたエンジン20、及び、このエンジン20の動力を駆動輪と苗植付装置3とに伝える動力伝達装置30を備える。つまり、この苗移植機1においては、そのエンジン20の動力が走行車体2を前進又は後進させる為のみならず、苗植付装置3を駆動させる為にも使用される。
【0029】
エンジン20は、ディーゼル機関やガソリン機関等の熱機関であって、出力軸20aから動力を出力する。この走行車体2においては、その出力軸20aが機体左方又は機体右方に向けて突出されるようにエンジン20を搭載する。この例示では、機体左方に出力軸20aを突出させている。
【0030】
また、このエンジン20は、機体左右方向において略中央に配置する。そして、このエンジン20は、作業者が乗車時に足を載せるフロアステップ41よりも上方に突出させた状態で配置する。この例示では、そのフロアステップ41の床面よりも出力軸20aが下方に来るように配置している。
【0031】
ここで、そのフロアステップ41は、機体前部とエンジン20の後部との間に渡って設けられており、メインフレーム11上に取り付けられている。このフロアステップ41は、その一部を格子状にして、靴に付いた泥を圃場に落とせるようにしている。また、このフロアステップ41の後方には、後輪Wrl,Wrrのフェンダを兼ねたリアステップ42が設けられている。このリアステップ42は、機体上方で且つ機体後方に向けて傾斜させた傾斜面を有しており、エンジン20の左右夫々の側方に配置される。このリアステップ42の傾斜面には、後述する各種の操作レバーが配設される。
【0032】
この例示においては、そのリアステップ42の傾斜面からもエンジン20を上方に突出させている。これが為、このエンジン20は、フロアステップ41とリアステップ42とから上方に突出している部分をエンジンカバー21で覆っている。この走行車体2においては、リアステップ42とエンジンカバー21とによって、エンジン20の後部側に開口部が形成される。
【0033】
また、このエンジン20は、水冷式とする。これが為、このエンジン20には、機関本体の熱を奪った内部循環の冷却水を冷やす熱交換器22が配設されている。この熱交換器22は、エンジン20の後方に配置し、且つ、機体前後方向に風が放熱部を通過できるように配置する。この熱交換器22は、上述したリアステップ42で挟まれた位置に配置され、上記の開口部から風を取り入れることができる。
【0034】
このエンジン20では、その放熱部へと風を積極的に取り入れる為、熱交換器22の後方に冷却ファン23を設けている。この冷却ファン23は、駆動時に前方の放熱部へと風を送り込むものである。従って、この走行車体2においては、冷却ファン23がエンジン20の雰囲気温の影響を受け難い新気を上記の開口部から取り込むことができるので、熱交換器22の冷却効率を上げ、エンジン20の冷却性能を向上させることができる。この冷却ファン23の駆動源としては、専用のモータ(図示略)を用いてもよく、ベルトやプーリ、歯車等の動力伝達機構(図示略)を介して伝えられたエンジン20の動力を用いてもよい。
【0035】
この走行車体2では、そのエンジンカバー21の上部に操縦席51が設置されている。そして、この操縦席51の前方で且つ機体前部には、フロントカバー52が配設されている。このフロントカバー52は、フロアステップ41の床面から上方に突出させた状態で配置されており、そのフロアステップ41の機体前部側を左右に分断する。
【0036】
このフロントカバー52の内部には、各種の操作装置やエンジン用燃料の燃料タンク等が配設されている。また、このフロントカバー52の上部には、その操作装置を作動させる操作レバー等や計器類、ハンドル53が配設されている。そのハンドル53は、作業者が前輪Wfl,Wfrを操舵操作する為のものであり、フロントカバー52内の操作装置等を介して前輪Wfl,Wfrを転舵させる。
【0037】
また、フロアステップ41におけるフロントカバー52の左右夫々の側方に位置する部分には、補給用の苗を載せておく予備苗載台61,61が配置されている。この予備苗載台61,61は、図3に示すように、フロアステップ41の床面から突出させた支持軸(鉛直軸)62によって回転自在に支持される。この予備苗載台61,61の回動は、作業者の手によって行われる。
【0038】
また、フロアステップ41の床面上には、エンジン20等に電力を供給するバッテリ25が載置されている。このバッテリ25は、図示しないバッテリ受け等の保持具によってフロアステップ41に取り付ける。このようにバッテリ25をフロアステップ41の床面上に配置することで、この苗移植機1は、従来はフロントカバー52内に配置されていたが、これよりもバッテリ25へのアクセスが容易になるので、バッテリ25の保守作業性が向上し、バッテリ25の点検や着脱等の作業が容易になる。また、この配置に依れば、フロントカバー52内の空間が増えるので、フロントカバー52内に配置されている操作装置等の保守作業性も向上する。
【0039】
ここで、このバッテリ25は、剥き出しで搭載されることになるので、少なくとも端子部分を防水性のある絶縁体で覆うことが好ましい。
【0040】
また、このバッテリ25は、フロアステップ41を移動する作業者の邪魔にならない位置に配置することが好ましい。その為に、このバッテリ25は、左右何れか一方の予備苗載台61,61の下方に配置する。このバッテリ25は、その予備苗載台61,61が支持軸62を中心に回動可能なので、例えば、作業者の走行車体2への円滑な乗降性を確保するのであれば、乗降時の回動位置における予備苗載台61,61の下方に配置すればよく、予備苗載台61,61への苗の供給作業の円滑化を図るのであれば、供給作業時の回動位置における予備苗載台61,61の下方に配置すればよい。この例示では、エンジン20の補機類(スタータモータ26等)が機体左側に配置されているので、後述するハーネス28(バッテリハーネスや信号線等)の配策を考慮して、機体左側の予備苗載台61の下に配置している。これが為、エンジン20の補機類が機体右側に配置されている場合には、ハーネス28の配策経路を考慮するのであれば、バッテリ25を機体右側の予備苗載台61の下に配置すればよい。この配置により、バッテリ25は、フロアステップ41を移動する作業者の邪魔にならず、且つ、巻き上げられた泥の付着を抑えることもできる。尚、このバッテリ25は、防水や防汚等の為の保護カバーを施した上で配置してもよい。
【0041】
一方、ハーネス28の配策経路を考慮しないときには、エンジン20の補機類の配置に関係なくバッテリ25の配置を決めればよい。例えば、フロントカバー52内には燃料タンク27が配設されるが、その燃料タンク27が機体中心に対して左右何れか一方にずらして配置される場合には、燃料タンク27の配置とは左右逆側の予備苗載台61の下にバッテリ25を配置すればよい。これにより、苗移植機1は、機体の左右の重量バランス差を縮めることができる。
【0042】
このような予備苗載台61の下方へのバッテリ25の配置は、上方に存在している予備苗載台61が邪魔になり、バッテリ25の保守作業性を低下させる虞がある。しかしながら、前述したように支持軸62を中心に予備苗載台61が回動できるので、この予備苗載台61をバッテリ25の上方から外すことにより、バッテリ25の保守作業性を低下が免れる。つまり、予備苗載台61を移動させることで、保守作業時のバッテリ25へのアクセスが容易になる。従って、この配置に依れば、バッテリ25の保守作業性を向上させつつ、保守作業時以外の通常作業時の作業者の作業性をバッテリ25が阻害しない。図3には、予備苗載台61の下方にバッテリ25が存在している状態(図3の実線)と、この予備苗載台61を機体内側に移動してバッテリ25の保守作業性を向上させた状態(図3の二点鎖線)と、を示している。尚、この機体左側の予備苗載台61は、バッテリ25の上方から外れるのであれば、バッテリ25が下方に存在している状態から機体外側へと張り出すように回動できるものであってもよく、また、機体前方や機体後方に回動できるものであってもよい。
【0043】
ところで、エンジン20には、制御信号やバッテリ25の電力等が送られる。これが為、この走行車体2においては、エンジン20等の電力供給対象のものとバッテリ25との間にバッテリハーネスが配策され、また、例えばエンジン20等とフロントカバー52内等の操作装置との間に信号線が配策されている。更に、エンジン20には、燃料タンク27との間に燃料管29が配策されており、この燃料管29を介して燃料タンク27内の燃料が供給される。
【0044】
走行車体2においては、これらのバッテリハーネスや信号線(以下、「ハーネス28」と云う。)や燃料管29が縦横無尽に配策されていると、保守作業の際に作業者が方々動き回らなければならず、その作業性の点で好ましくない。これが為、そのハーネス28や燃料管29は、機体左側又は機体右側の何れか一方に配策することが望ましい(図4)。この例示では、エンジン20の補機類とバッテリ25が機体左側に配置されているので、これに合わせてハーネス28と燃料管29を機体左側に配策する。このようにハーネス28や燃料管29を機体の左右何れか一方に纏めて配策することで、ハーネス28や燃料管29を点検や交換、着脱等する際の保守作業の作業性が向上する。更に、このハーネス28や燃料管29は、フロアステップ41とメインフレーム11の下方に配策することが望ましい(図4)。但し、その際には、メインフレーム11が上方に存在していなければ、フロアステップ41の格子状部分の下方を避けてハーネス28と燃料管29を配策することが好ましい。メインフレーム11が上方に存在していれば、その格子状部分から泥が下に落ちてきても、その泥がメインフレーム11で止まりハーネス28や燃料管29に付着しないからである。
【0045】
一方、そのハーネス28や燃料管29は、エンジン20の補機類やバッテリ25の配置に拘わらず、後述する主変速機(油圧式無段変速機31)やミッションケース34内の副変速機の保守作業性が向上する位置に配策してもよい。例えば、その主変速機等を機体の左右何れか一方から保守作業するのであれば、ハーネス28と燃料管29は、その保守作業の邪魔にならないように、その保守作業の作業者の位置に対して機体の左右逆側に配策すればよい。
【0046】
動力伝達装置30には、主変速機としての油圧式無段変速機31と、この油圧式無段変速機31にエンジン20の動力を伝えるベルト式動力伝達機構32と、が設けられている。
【0047】
その油圧式無段変速機31とは、HST(Hydro Static Transmission)と云われる静油圧式の無段変速機である。この油圧式無段変速機31においては、エンジン20の動力で駆動する油圧ポンプによって油圧を発生させ、その油圧を油圧モータで機械的な力(回転力)に変換して出力する。
【0048】
この油圧式無段変速機31は、エンジン20よりも前方で且つフロアステップ41の床面よりも下方に配置する。この例示では、機体上面から観て、エンジン20の前方に油圧式無段変速機31を配置している。また、この油圧式無段変速機31は、エンジン20の前端部に対して機体前後方向に間隔を空けて配置する。そして、この油圧式無段変速機31は、例えば、エンジン20の出力軸20aを機体左方に突出させていれば機体左側に配置し、その出力軸20aを機体右方に突出させていれば機体右側に配置する。この例示では、出力軸20aが機体左方に突出しているので、機体左側に油圧式無段変速機31を配置する。
【0049】
ここで、ベルト式動力伝達機構32は、エンジン20の出力軸20aに取り付けた第1プーリ(第1動力伝達部材)32a、油圧式無段変速機31の入力軸31aに取り付けた第2プーリ(第2動力伝達部材)32b、第1プーリ32aと第2プーリ32bとに巻き掛けたベルト(第3動力伝達部材)32c及びベルト32cの張力を調整するテンションプーリ(張力調整部材)32dを備える。これが為、油圧式無段変速機31は、入力軸31aを機体左方に向けて突出させて配置する。尚、出力軸20aが機体右方に突出している場合には、機体右側に配置した油圧式無段変速機31の入力軸31aを機体右方に向けて突出させればよい。
【0050】
また、この動力伝達装置30には、油圧式無段変速機31を外部から冷却する冷却ファン33も取り付けられている。この冷却ファン33は、回転に伴い発生した風を油圧式無段変速機31の筐体に当てるものである。油圧式無段変速機31は、この冷却ファン33によって冷却性能が高くなるので、過度の温度上昇に伴う作動油の劣化等が防止され、変速効率や耐久性が向上する。
【0051】
ところで、この冷却ファン33により作り出された風は、油圧式無段変速機31から熱を奪い、温度が上昇して油圧式無段変速機31の背面側(この説明では冷却ファン33の風が当たる部分を正面とする)に抜けていく。これと同様に、熱交換器22用の冷却ファン23についても、作り出された風は、放熱部の通過と共に温度上昇し、機体前方に抜けていく。これが為、油圧式無段変速機31との間で熱交換された温風が熱交換器22や熱交換器22用の冷却ファン23に送られてしまうと、その熱交換器22においては、新気よりも暖められた空気が放熱部を通過することになり、熱交換率の低下を招く虞がある。また、熱交換器22の放熱部を通過した温風が油圧式無段変速機31用の冷却ファン33に送られてしまったときには、新気よりも暖められた空気が冷却ファン33から油圧式無段変速機31に供給されるので、油圧式無段変速機31の冷却性能の低下を招く虞がある。
【0052】
そこで、熱交換器22及び冷却ファン(第1冷却ファン)23と油圧式無段変速機31用の冷却ファン(第2冷却ファン)33とは、夫々の熱交換後の空気が他方の冷却装置に供給されない場所に配置する。つまり、熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33は、油圧式無段変速機31との間で熱交換された空気がエンジン20用の冷却装置としての熱交換器22や冷却ファン23に送られることなく、且つ、熱交換器22との間で熱交換された空気が油圧式無段変速機31用の冷却装置としての冷却ファン33に送られることがない場所に配置する。
【0053】
この例示では熱交換器22と冷却ファン23をエンジン20の後方に配置しているので、これらを例えばエンジンと油圧式無段変速機との間に配置していた従来の構成と比較して、熱交換器22や冷却ファン23は、油圧式無段変速機31から離れた位置に存在しており、この油圧式無段変速機31との間で熱交換された温風の影響を受け難くなっている。そして、冷却ファン33の風向きが機体後方に向かないように当該冷却ファン33を配置することで、熱交換器22や冷却ファン23には、油圧式無段変速機31との間で熱交換された空気が更に供給され難くなる。この油圧式無段変速機31用の冷却ファン33は、その風向きが機体側方、機体前方又は機体に対して斜め前方を向くように配設する。また、油圧式無段変速機31の機体上下方向に大きな隙間を作れるのであれば、冷却ファン33は、その風向きが機体下方又は機体上方を向くように配設してもよい。また、油圧式無段変速機31との間で熱交換された空気が熱交換器22や冷却ファン23に届かないのであれば、そして、その空気と熱交換器22を通過した空気とが互いの流動を妨げないのであれば、油圧式無段変速機31用の冷却ファン33は、その風向きが機体に対して斜め後方に向くよう配設してもよい。この例示では、風向きが機体右方に向くように(つまり熱交換器22用の冷却ファン23の風向きと直交するように)冷却ファン33を配置している。
【0054】
このような熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33の配置により、油圧式無段変速機31用の冷却ファン33から送り出された空気は、油圧式無段変速機31との間で熱交換された後、熱交換器22と冷却ファン23に到達せずに機体外部へと放出される。従って、熱交換器22には新気が供給されるようになるので、この熱交換器22と冷却ファン23は、エンジン20の冷却効率を上げることが可能になり、このエンジン20の冷却性能を向上させることができる。一方、その熱交換器22の放熱部を通過した熱交換後の空気は、図5に示すように、その一部がエンジン20とエンジンカバー21の間を通ってエンジン20の前方に送り出され、エンジンカバー21に沿って油圧式無段変速機31とエンジン20の前端部との間の隙間へと送られる。その際、この例示では、その隙間において、油圧式無段変速機31用の冷却ファン33から送り出された空気の一部が機体左方から機体右方へと流れている。これが為、その隙間に送り出された熱交換器22での熱交換後の空気(特にエンジン20の左方、上方及び下方を流れてきた空気)は、図5に示すように、その隙間を流動する冷却ファン33からの空気の流れに乗って、機体右方へと流れていく。従って、冷却ファン33には熱交換器22で熱交換された温風が供給されないので、この冷却ファン33は、新気を油圧式無段変速機31に供給でき、この油圧式無段変速機31の冷却性能を向上させることができる。また、その合流した空気と冷却ファン33から送り出された残りの空気は、エンジン20の右方を流れてきた空気に乗って機体前方に流れていく。故に、熱交換後の温風がエンジン20や油圧式無段変速機31の周囲に籠もり難いので、そのエンジン20や油圧式無段変速機31においては、雰囲気温の上昇を抑えることができ、各々の冷却性能を高めることができる。
【0055】
油圧式無段変速機31用の冷却ファン33は、専用のモータ(図示略)を駆動源に用いてもよいが、ここではエンジン20の動力を利用して回転させる。その為に、この冷却ファン33は、油圧式無段変速機31の入力軸31aに取り付け、この入力軸31aのエンジン20からの動力伝達に伴う回転と共に回転させて、その回転による風を油圧式無段変速機31の筐体に送らせる。
【0056】
ここで、この冷却ファン33は、図5に示すように、油圧式無段変速機31の筐体と第2プーリ32bとの間に配置することが好ましい。これにより、油圧式無段変速機31は、冷却ファン33から送られる風が第2プーリ32bに遮られることが無くなり、多量の風を油圧式無段変速機31の筐体に当てることができるので、更なる冷却性能の向上、延いては耐久性の更なる向上が図れる。
【0057】
この動力伝達装置30においては、ベルト式動力伝達機構32と油圧式無段変速機31とを介して出力されたエンジン20の動力がミッションケース34に伝達される。そのミッションケース34は、メインフレーム11の前部に取り付けられる。そして、その伝達された動力は、ミッションケース34内の副変速機(図示略)に伝わって変速され、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrへの走行用動力と苗植付装置3への駆動用動力とに分けて出力される。
【0058】
走行用動力は、その一部が機体左右の前輪ファイナルケース35,35を介して前輪Wfl,Wfrに伝達され、残りが機体左右の後輪ギヤケース36,36を介して後輪Wrl,Wrrに伝達される。その夫々の前輪ファイナルケース35,35は、ミッションケース34の左右夫々の側方に配設されており、ハンドル53の操舵操作に応じて駆動し、前輪Wfl,Wfrを転舵させる。前輪Wfl,Wfrは、車軸を介して夫々の前輪ファイナルケース35,35に連結されている。尚、夫々の後輪ギヤケース36,36には、車軸を介して後輪Wrl,Wrrが連結されている。一方、駆動用動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチ(図示略)に伝達され、この植付クラッチの係合時に植付伝動軸(図示略)によって苗植付装置3へ伝動される。
【0059】
この走行車体2においては、前述したリアステップ42に作業者の各種の操作レバーが配設されている。この走行車体2では、操縦席51を挟んで左右何れか一方に油圧式無段変速機31を操作する為のレバー(以下、「HSTレバー」と云う。)54と株間切換レバー55とを配置する。また、リアステップ42には、植付条数に合わせた複数本(ここでは3本)の畦クラッチレバー56も配置される。畦クラッチレバー56は、その内の1本がHSTレバー54等と同じ側に配置されており、残りがHSTレバー54等とは左右逆側に配置されている。図2の例示では、機体右側に操縦席51側からHSTレバー54、畦クラッチレバー56及び株間切換レバー55の順に配置し、機体左側に2本の畦クラッチレバー56を配置している。
【0060】
苗植付装置3は、昇降リンク装置70を介して走行車体2の後部に取り付ける。その昇降リンク装置70は、走行車体2の後部と苗植付装置3とを連結させる平行リンク機構71を備えており、油圧昇降シリンダ72の伸縮動作によって苗植付装置3を昇降させる。この昇降リンク装置70は、その昇降動作によって、苗植付装置3を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(対地植付位置)まで下降させたりする。
【0061】
この苗植付装置3は、6条植のものとして例示する。この苗植付装置3は、苗載タンク81、植付機構82及びフロート83を備える。その苗載タンク81とは、機体左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面81aを有しており、夫々の苗載せ面81aに土付きのマット状苗が載置されるものである。植付機構82とは、苗載タンク81に載置された苗を圃場に植え付ける為のものである。この植付機構82は、2条毎に1つずつ配設されており、2条分の植付爪82aを備えている。フロート83とは、走行車体2の移動と共に、圃場面上を滑走して整地するものである。
【0062】
以上示したように、この実施例の苗移植機1は、上述した熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33の配置によって、熱交換器22と油圧式無段変速機31とに夫々新気を冷却ファン23,33から導入でき、また、夫々の熱交換後の空気が互いの流動を邪魔しないので、エンジン20と油圧式無段変速機31の冷却性能を向上させることができる。
【0063】
[変形例1]
ところで、前述した実施例における油圧式無段変速機31用の冷却ファン33は、油圧式無段変速機31の筐体と第2プーリ32bとの間に配置することで、油圧式無段変速機31の冷却性能の向上を図っている。ここで、駆動中のベルト式動力伝達機構32においては、第1及び第2のプーリ32a,32bとベルト32cとの間で摩擦熱が発生しており、その発熱量如何では第1及び第2のプーリ32a,32b並びにベルト32c(特にベルト32c)の耐久性の低下を招く虞がある。これが為、これらが摩擦熱によって耐久性の観点から好ましくない温度にまで上昇してしまう可能性がある場合には、図6に示すように、その第2プーリ32bを油圧式無段変速機31の筐体と冷却ファン33との間に配置し、冷却ファン33から送られる風で、油圧式無段変速機31と共に第2プーリ32bやベルト32cも冷却できるようにしてもよい。この配置に依れば、先の実施例の構成に対して、部品点数を増加させることなく、原価の増大を抑えてベルト式動力伝達機構32の耐久性を向上させることができる。更に、この配置にする際には、テンションプーリ32dにも冷却ファン33からの風が当たるように、テンションプーリ32dを第2プーリ32bに近づけて配置することが望ましい。これにより、ベルト式動力伝達機構32は、更なる耐久性の向上が図れる。
【0064】
[変形例2]
前述した実施例において、熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33は、油圧式無段変速機31との間で熱交換された空気がエンジン20用の冷却装置としての熱交換器22や冷却ファン23に送られることなく、且つ、熱交換器22との間で熱交換された空気が油圧式無段変速機31用の冷却装置としての冷却ファン33に送られることがなく、そして、熱交換後の夫々の空気がエンジン20や油圧式無段変速機31の周囲に籠もらない位置関係にして配置している。この配置はエンジン20や油圧式無段変速機31の冷却性能を向上させる上で好ましいものであるが、熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33は、次のような配置によってエンジン20等の冷却性能の向上を図ってもよい。
【0065】
この変形例は、熱交換器22用の冷却ファン23と油圧式無段変速機31用の冷却ファン33の夫々の風向きが同一方向又は略同一方向(例えば数度程度のずれの範囲内)で、且つ、熱交換器22用の冷却ファン23から送出された風の流動範囲内に油圧式無段変速機31用の冷却ファン33が存在するように、熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33を配置したものである。図7には、夫々の冷却ファン23,33の風向きを同一方向にしたものを例示している。ここでは、先の実施例に対して熱交換器22と熱交換器22用の冷却ファン23の配置を変更せずに説明する。これが為、冷却ファン33は、エンジン20の前端部と油圧式無段変速機31との間の隙間に配置する。この冷却ファン33は、専用のモータ(図示略)を用いて駆動させる。この変形例に依れば、冷却ファン33は、熱交換器22を経てエンジン20の前方に流れ出た温風(特にエンジン20の左側を流動してきた温風)を油圧式無段変速機31に供給することになる。しかしながら、この変形例では、夫々の冷却ファン23,33の風向きが同一又は略同一の方向を向いているので、エンジン20や油圧式無段変速機31の周囲の空気の流動効率が良く、この周囲に温風を籠もらせることなく機体前方に流すことができる。従って、熱交換器22と夫々の冷却ファン23,33は、このような配置であっても、エンジン20や油圧式無段変速機31の冷却性能を向上させることができる。
【0066】
[変形例3]
前述した実施例においてはバッテリ25をフロアステップ41の床面上に載置しているが、この変形例のバッテリ25は、左右何れか一方の予備苗載台61,61の下方に配置することに変わりはないが、図8に示すように、上面がフロアステップ41の床面から食み出ないよう当該フロアステップ41に埋設する。その為、フロアステップ41には、バッテリ25を保持するバッテリ保持溝43が設けられる。このバッテリ保持溝43は、その溝深さ(溝底とフロアステップ41の床面との間の間隔)をバッテリ25の高さ(端子部分も含む)と同じ深さにする。または、この溝深さは、そのバッテリ25の高さよりも深くする。この変形例に依れば、先の実施例と同等の保守作業性やバッテリ25の取り付け位置の視認性を確保しつつ、バッテリ25に作業者や物がぶつかる可能性を更に軽減できる。これが為、この苗移植機1においては、外力や走行時の振動によるバッテリ25の脱落の回避が可能になり、電力供給が不可になることに伴う作業の中断を防ぐことができる。
【0067】
ここで、バッテリ25の端子部分は、バッテリハーネスに物が引っ掛かる等してバッテリハーネスが脱落することを防ぐのであれば、フロアステップ41の床面から突出させないようにすることが好ましい。しかし、バッテリハーネスの取付作業性を優先する場合には、バッテリ25の端子部分をフロアステップ41の床面から突出させてもよい。
【0068】
[変形例4]
前述した実施例の走行車体2においては、HSTレバー54及び株間切換レバー55と1本の畦クラッチレバー56とが混在していると共に、これらとは左右逆側に2本の畦クラッチレバー56が配設されているので、例えば畦クラッチレバー56の操作の際に近くのHSTレバー54や株間切換レバー55を誤って操作してしまう可能性がある。これが為、この変形例の走行車体2では、操縦席51を挟んで左右何れか一方にHSTレバー54と株間切換レバー55とを配置し、他方に全ての畦クラッチレバー56を配置する。図9の例示では、HSTレバー54と株間切換レバー55を機体右側に配置し、全ての畦クラッチレバー56を機体左側に配置している。このように、この苗移植機1においては、畦クラッチレバー56を作業者の左右何れか一方に纏めて配置しているので、畦クラッチレバー56を操作する際のHSTレバー54の誤操作を防ぐことができる。また、この苗移植機1においては、植付作業中に操作することのない株間切換レバー55をHSTレバー54と同じ側に配置しているので、畦クラッチレバー56を操作する際の株間切換レバー55の誤操作も防ぐことができる。
【0069】
[変形例5]
また、HSTレバー54、株間切換レバー55及び畦クラッチレバー56は、図10に示すように、操縦席51を挟んで左右何れか一方に集中させて配置してもよい。その際には、3本の畦クラッチレバー56を纏めて配置することが好ましい。この配置に依れば、例えば、或るときは右側の畦クラッチレバーを操作し、また或るときは左側の畦クラッチレバーを操作するという状況が無くなるので、これら各種操作レバーの誤操作を防ぐことができる。また、これら各種操作レバーを作業者の利き腕に合わせて配置すれば、その作業者の操作性が向上する。
【0070】
[変形例6]
前述した実施例においてはエンジン20と油圧式無段変速機31とを繋ぐ動力伝達機構にベルト式動力伝達機構32を用いたが、この動力伝達機構は、図示しないが、例えば、エンジン20の出力軸20aに取り付けた第1歯車(第1動力伝達部材)、油圧式無段変速機31の入力軸31aに取り付けた第2歯車(第2動力伝達部材)、第1歯車と第2歯車とに巻き掛けたチェーン(第3動力伝達部材)及びチェーンの張力を調整するチェーンテンショナ(張力調整部材)を備えたものに置き換えてもよい。この場合においても、例えば図5の例示の構成を基本構成とするのであれば、油圧式無段変速機31用の冷却ファン33は、油圧式無段変速機31と第2歯車との間に配置すればよい。また、図6の例示の構成を基本構成とするときには、冷却ファン33の風が第2歯車とチェーンテンショナとに当たるようチェーンテンショナを第2歯車に近づけて配置すればよく、この動力伝達機構(特にチェーンやチェーンテンショナ)の冷却性能を上げることができる。
【0071】
[変形例7]
前述した実施例においてはエンジン20よりも前方(機体前側)で且つフロアステップ41の床面よりも下方に油圧式無段変速機31を配置したが、その油圧式無段変速機31は、エンジン20よりも後方(機体後側)で且つフロアステップ41の床面よりも下方に配置してもよい。この場合、熱交換器22及び冷却ファン23は、エンジン20よりも機体前側に配置し、機体前側から機体後側に向けて風を送って、エンジン20を冷却するものとする。そして、この場合でも、その熱交換器22及び冷却ファン23と油圧式無段変速機31用の冷却ファン33とは、夫々の熱交換後の空気が他方の冷却装置に供給されない場所に配置する。従って、このような配置にしても、熱交換器22と油圧式無段変速機31とに夫々新しい空気を各冷却ファン23,33から導入でき、また、夫々の熱交換後の空気が互いの流動を邪魔しないので、前述した実施例と同様にエンジン20と油圧式無段変速機31の冷却性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0072】
2 走行車体
3 苗植付装置
11 メインフレーム
20 エンジン
20a 出力軸
21 エンジンカバー
22 熱交換器
23,33 冷却ファン
25 バッテリ
26 スタータモータ
27 燃料タンク
28 ハーネス
29 燃料管
31 油圧式無段変速機
31a 入力軸
32 ベルト式動力伝達機構
32a 第1プーリ
32b 第2プーリ
32c ベルト
32d テンションプーリ
34 ミッションケース
41 フロアステップ
42 リアステップ
43 バッテリ保持溝
51 操縦席
52 フロントカバー
54 HSTレバー
55 株間切換レバー
56 畦クラッチレバー
61 予備苗載台
62 支持軸
70 昇降リンク装置
Wfl,Wfr,Wrl,Wrr 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてのエンジンと、該エンジンの前方又は後方に配置され、該エンジンの動力が動力伝達機構を介して伝達される主変速機を備えた走行車体と、該走行車体の後部に昇降リンク装置を介して取り付けられた苗植付装置と、を有する苗移植機において、
前記主変速機を前方に有する前記エンジンの後方に配置した、又は前記主変速機を後方に有する前記エンジンの前方に配置したエンジン冷却水冷却用の熱交換器と、
前記エンジンに向けて風を送り、該風を前記熱交換器の放熱部に当てる第1冷却ファンと、
前記主変速機に向けて風を送る第2冷却ファンを設けたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記第2冷却ファンは、該第2冷却ファンで発生させた風が、前記主変速機を通過した後に前記熱交換器及び前記第1冷却ファンに送られることがなく、且つ前記第1冷却ファンで発生させた風が前記熱交換器を通過した後に到達しない位置に配置したことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記第2冷却ファンは、機体左方から前記主変速機に風を送る、又は機体右方から前記主変速機に風を送る配置構成としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の苗移植機。
【請求項4】
前記第2冷却ファンは、前記動力伝達機構を介して前記エンジンの動力が伝達される前記主変速機の入力軸に取り付けたことを特徴とする請求項3記載の苗移植機。
【請求項5】
前記動力伝達機構は、前記エンジンの出力軸に取り付けた第1動力伝達部材、前記主変速機の入力軸に取り付けた第2動力伝達部材及び当該第1動力伝達部材と当該第2動力伝達部材とに巻き掛けた第3動力伝達部材を備え、
前記第2冷却ファンは、前記主変速機の入力軸における当該主変速機と前記第2動力伝達部材との間に取り付けたことを特徴とする請求項3又は4に記載の苗移植機。
【請求項6】
前記第2冷却ファンは、前記第1冷却ファンの風向きと同じ風向きになるよう配置したことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項7】
機体前部で且つフロアステップの床面よりも上方に配置され、補給用の苗を載せておく予備苗載台と、
該予備苗載台を回動可能な鉛直軸と、
前記フロアステップの床面上における前記予備苗載台の下方に配置したバッテリと、
を設けたことを特徴とする請求項1から6の内の何れか1項に記載の苗移植機。
【請求項8】
機体前部で且つフロアステップの床面よりも上方に配置され、補給用の苗を載せておく予備苗載台と、
該予備苗載台を回動可能な鉛直軸と、
バッテリと、
前記フロアステップにおける前記予備苗載台の下方に当該フロアステップの床面と溝底との間隔が前記バッテリの高さ以上になるよう形成され、該バッテリを保持するバッテリ保持溝と、
を設けたことを特徴とする請求項1から6の内の何れか1項に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−11294(P2013−11294A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143393(P2011−143393)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】