説明

荷電粒子ビームを用いたフォトマスクの欠陥修正方法及び欠陥修正装置

【課題】 荷電粒子ビームを用いたフォトマスク欠陥修正において、孤立パターンのチャージアップを、パターンを傷つけることなく、効率よく抑止する。
【解決手段】 導電性プローブ1の先端に集束イオンビーム誘起化学気相成長金属膜で導電性のコイルバネ3を形成し、コイルバネ3によりマスクパターンとの接触圧を緩和して孤立したパターン4との導通を取り、チャージアップが起こらないようにしてから集束イオンビーム7で欠陥修正を行う。適切なバネ定数になるように、供給する原料ガス圧やビーム電流や走査方向・速度を制御して集束イオンビーム誘起化学気相成長で作製するコイルバネ3の太さ及び半径を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム装置を用いたフォトマスクの孤立パターンの欠陥の修正方法及び装置に関するものであり、特に孤立パターン修正時のチャージアップの抑止方法、機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化要求に対してリソグラフィは縮小投影露光装置の光源の波長の短波長化と高NA化で対応してきた。縮小投影露光装置の転写の原版で無欠陥であることが要求されるフォトマスクの欠陥修正は、従来レーザーや集束イオンビーム(FIB)を用いて行われてきた。しかし、レーザーでは分解能が不十分で最先端の微細なパターンの欠陥は修正できず、集束イオンビームでは、縮小投影露光装置の光源の波長の短波長化により、プライマリービームとして使用するガリウムの注入によるガラス部のイメージングダメージ(透過率の低下)が問題となってきている。このため、微細なパターンの欠陥が修正できて、かつ、イメージングダメージのない欠陥修正技術が求められている。最近、集束イオンビームでも低加速電圧を用いてガリウム注入層を薄くし、この薄いガリウム注入層を洗浄で取り去ることで透過率を回復する方法が提案されている(非特許文献1)。またイオンビームを用いない(原理的にガリウムに注入のない)で、電子ビームを用いたフォトマスク欠陥修正装置も開発されている(非特許文献2)。
【0003】
しかしフォトマスクはガラス上に、光を遮るための金属膜を堆積したものなので、イオンビーム照射で過剰な電荷によりチャージアップが発生する。電子ビームを照射してイオンビームのプラス電荷を中和してチャージアップを緩和することができるが、金属膜パターンの面積が小さい場合(孤立したパターン)はチャージアップを完全に除去することは困難である。チャージアップが起こると二次電子像の像質の低下やドリフトが発生して加工精度を低下させてしまうという問題があった。チャージアップの問題は電子ビームを用いてフォトマスク欠陥修正する場合にも残る。アースされた先鋭な導電性プローブを孤立したパターンに接触させることでチャージアップをなくすことができるが、接触させ方が難しく、接触が弱いと導通が十分にとれずチャージアップ改善しないし、接触が強いとパターンを傷つけてしまうという問題があった。
【0004】
最近FIBを用いた集束イオンビーム誘起化学気相成長(FIB-CVD)膜によりナノスプリングと呼ばれる微小なバネが形成することができるようになってきている。原料ガス圧やビーム電流や走査方向・速度を制御することで容易に集束イオンビーム誘起化学気相成長膜の成長方向を制御することが可能でナノスプリング以外にも様々なナノ形状が形成されている。またナノスプリングのバネの半径を制御することによりバネ定数の制御も可能なことが示されている(非特許文献3)。
【非特許文献1】Y. Itou, et al. Proc. of SPIE 599259924Y-1-59924Y-8(2005)
【非特許文献2】K. Edinger, H. Becht, J. Bihr, V. Boegli, M. Budach, T. Hofmann, H. P. Coops, P. Kuschnerus, J. Oster, P. Spies, and B. Weyrauch, J. Vac. Sci. Technol. B22 2902-2906(2004)
【非特許文献3】中松健一郎、神田一浩、春山雄一、皆藤孝、松井真二、第54回応用物理学会関係講演会講演予稿集 793(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は荷電粒子ビーム装置を用いたフォトマスクの孤立パターンの欠陥修正時のチャージアップに起因する問題点を克服し、孤立パターンを傷つけることなく、かつ、効率よくチャージアップを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
導電性プローブ先端に集束イオンビーム誘起化学気相成長金属膜で導電性のコイルバネを形成したものを孤立パターンの接地に用いる。このコイルバネを孤立パターンに押し付け接触圧を緩和しながら導通を取る。
【0007】
適切なバネ定数になるように供給する原料ガス圧やビーム電流や走査方向・速度を制御して集束イオンビーム誘起化学気相成長で作製するコイルバネの太さ及び半径を制御する。
【発明の効果】
【0008】
導電性プローブの先端に設けられた導電性のコイルバネを孤立パターンに接触させて導通を取ることにより孤立パターンのチャージアップを防止できる。チャージアップのない状態で観察・欠陥修正が行えるので孤立パターンでも加工精度の高い欠陥修正を行うことができる。
【0009】
バネ定数を適切にすることにより、コイルバネとマスクパターンとの接触圧を適切に調整でき、パターンを傷つけることなく孤立パターンとの導通を取ることができ、欠陥修正中のチャージアップを抑止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に集束イオンビームを用いた場合の本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
欠陥を有するフォトマスクを、遮光膜原料ガス銃、金属デポジション膜原料ガス銃、及びガスアシストエッチング用のガス銃を有する集束イオンビーム鏡筒を有するフォトマスク欠陥修正装置に導入する。次に、光学式の欠陥検査装置で見つかった欠陥位置が視野中心に来るようにXYステージを移動する。
【0012】
図1は、本発明におけるフォトマスク欠陥修正装置を用いて孤立パターンの黒欠陥を修正する場合を説明する概略断面図である
先ず本発明におけるフォトマスク欠陥修正装置について説明する。フォトマスクの孤立パターン4の黒欠陥8上方に集束イオンビーム7を照射するための集束イオンビーム鏡筒14が設けられている。集束イオンビーム鏡筒14からの集束イオンビーム7の照射位置にエッチングガスを吹き付けるためのガス銃9が設けられている。チャージ除去機構は、導電性プローブ1と、導電性コイルバネ3と、導電性プローブ駆動機構2とからなる。導電性プローブ1は導電性プローブ駆動機構2にフォトマスクに向かって斜め下向きに取り付けられている。導電性コイルバネ3は、導電性プローブの先端下に、そのバネ軸がフォトマスク面に垂直になる方向に取り付けられている。導電性プローブ駆動機構2は、導電性プローブ1を3次元駆動する。
【0013】
次に本フォトマスク欠陥修正装置を用いた黒欠陥修正方法について説明する。
ガラス基板6上に正常パターン4と孤立パターン5が形成されたフォトマスクの孤立パターン4に集束イオンビーム鏡筒14から集束イオンビーム7を照射して欠陥を含む領域を観察する。この時、図示されない電子ビーム照射装置からの数100eVの電子ビームによる電荷中和を行っても孤立パターン4がチャージアップして見えない場合には、導電性のコイルバネ3の下端が孤立したパターン4の直上位置にくるように導電性プローブ駆動機構2のXY駆動量、方向を調整する。次に、導電性プローブ駆動機構2により導電性プローブ1をZ方向下方に少しずつ動作させてコイルバネ3を孤立マスクパターン4に接触させ、Z方向動作量を調整することによりコイルバネ3と孤立マスクパターン4との接触圧を調整して導通を取る。導電性プローブ1はアース電位に落とされているので、この導通を取ることでチャージアップのないイメージが取れるようになる。このチャージアップのないイメージで孤立パターン4の欠陥の認識を行い、黒欠陥8の場合は、物理スパッタ、もしくはアシストエッチングガス銃9から沃素やフッ化キセノンをアシストガスとして導入し黒欠陥部分のみ10〜30kVに加速したイオンビーム7を選択照射し、ガスアシストエッチングで黒欠陥8を除去修正する。
【0014】
図2は孤立パターンの白欠陥を修正する場合を説明する概略断面図である。
上記黒欠陥を修正する場合と同様にしてチャージアップのないイメージを得て孤立パターン4の欠陥認識を行う。該欠陥が白欠陥11の場合は遮光膜原料ガス導入用ガス銃10からナフタレンやフェナントレンのような炭素含有遮光膜原料ガスを導入し、10〜30kVに加速したイオンビーム7を白欠陥部分のみ選択照射して集束イオンビーム誘起化学気相成長で欠損部分に遮光膜12を堆積して白欠陥11を修正する。
【0015】
図3は、導電性プローブ先端にコイルバネを作製する方法を説明する概略断面図である。
導電性プローブ1先端に形成する集束イオンビーム誘起化学気相成長金属膜のコイルバネは以下のように形成する。導電性プローブ1を、プローブ軸方向の水平成分回りに、その先端が上方、集束イオンビーム鏡筒の方向を向くように回転させ、該先端に上方からイオンビームを照射すると共に金属デポジション膜原料ガス導入用のガス銃13から原料ガスとしてW(CO)6(ヘキサカルボニルタングステン)またはC9H16Pt((トリメチル)メチルシクロペンタジエニルプラチナ(Trimethyl)methylcycropentadienyl-platinum)などの金属デポジション膜原料ガスを供給する。この時、原料ガス圧、ビーム電流、あるいはイオンビームの走査方向・速度を制御して適切な太さ及び半径になるように制御してコイルバネ3を作製する。作製後再び導電性プローブ1を回転させコイルバネ3を下に向ける。
【0016】
以上集束イオンビームでフォトマスクの孤立パターンの欠陥を修正する場合を説明したが、本発明は同様にチャージアップしないように低加速電圧の電子ビームを用いてフォトマスクの孤立パターンの欠陥修正する場合にも適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】孤立パターンの黒欠陥を修正する場合を説明する概略断面図である。
【図2】孤立パターンの白欠陥を修正する場合を説明する概略断面図である。
【図3】導電性プローブ先端にコイルバネの作製方法を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 導電性プローブ
2 導電性プローブ駆動機構
3 コイルバネ
4 孤立パターン
5 正常パターン
6 ガラス基板
7 集束イオンビーム
8 黒欠陥
9 アシストエッチングガス銃
10 遮光膜原料ガス銃
11 白欠陥
12 堆積した遮光膜
13 金属デポジション膜原料ガス銃
14 集束イオンビーム鏡筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性プローブ先端に導電性のコイルバネを形成し、前記導電性プローブをX,Y,あるいはZ方向に駆動し前記コイルバネを孤立したパターンに接触させることにより孤立パターンのチャージアップを抑止しながら、孤立パターンの欠陥を荷電粒子ビームを用いて修正することを特徴とする荷電粒子ビームを用いたフォトマスクの欠陥修正方法。
【請求項2】
前記コイルバネは集束イオンビーム誘起化学気相成長金属膜である請求項1記載のフォトマスク欠陥修正方法。
【請求項3】
前記コイルバネの太さ及び半径を制御することにより、該コイルバネと孤立パターンとの接触圧を調整することを特徴とする請求項2に記載のフォトマスクの欠陥修正方法。
【請求項4】
フォトマスクの孤立パターンの欠陥位置に荷電粒子ビームを照射するための荷電粒子ビーム鏡筒と、
該荷電粒子ビーム鏡筒からの荷電粒子ビームの照射位置にエッチングガスまたはデポジション用のガスを吹き付けるためのガス銃と、
導電性プローブと該導電性プローブの先端に取り付けられ前記孤立パターンに接触するための導電性コイルバネと導電性プローブを3次元駆動するための導電性プローブ駆動機構とを有するチャージ除去機構と、
からなるフォトマスク欠陥修正装置。
【請求項5】
前記荷電粒子ビーム鏡筒は集束イオンビーム鏡筒であり、前記導電性プローブはフォトマスクに向かって斜め下向きに取り付けられ、前記導電性プローブ駆動機構は、前記導電性プローブをプローブ軸方向水平成分周りに回転させる回転機構を有する請求項4記載のフォトマスク欠陥修正装置。
【請求項6】
前記コイルバネは、前記導電性プローブを回転させ該導電性プローブの先端が集束イオンビーム鏡筒側に向くようにし、該先端に前記ガス銃からのデポジション用ガスを吹きつけると共に前記集束イオンビーム鏡筒からの集束イオンビームを照射して誘起化学気相成長により形成されたものである請求項5記載のフォトマスク欠陥修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−86428(P2009−86428A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257456(P2007−257456)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】