荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置
【課題】帯電効果によるビーム位置ずれ量分布を精度良く算出することが可能な荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】パターン密度分布ρ(x,y)と、このパターン密度分布ρ(x,y)を用いて算出したドーズ量分布D(x,y)とを乗算して照射量分布E(x,y)を算出する(S104)。照射量分布E(x,y)とかぶり広がり分布を記述する関数g(x,y)とを用いてかぶり電子量分布F(x,y,σ)を算出する(S106)。照射量分布E(x,y)とかぶり電子量分布F(x,y,σ)を用いて、照射域及び非照射域の帯電量分布C(x,y)を算出する(S108)。帯電量分布C(x,y)と、帯電量を位置ずれ誤差に変換する応答関数r(x,y)とを用いて、位置ずれ量分布p(x,y)を算出する(S110)。
【解決手段】パターン密度分布ρ(x,y)と、このパターン密度分布ρ(x,y)を用いて算出したドーズ量分布D(x,y)とを乗算して照射量分布E(x,y)を算出する(S104)。照射量分布E(x,y)とかぶり広がり分布を記述する関数g(x,y)とを用いてかぶり電子量分布F(x,y,σ)を算出する(S106)。照射量分布E(x,y)とかぶり電子量分布F(x,y,σ)を用いて、照射域及び非照射域の帯電量分布C(x,y)を算出する(S108)。帯電量分布C(x,y)と、帯電量を位置ずれ誤差に変換する応答関数r(x,y)とを用いて、位置ずれ量分布p(x,y)を算出する(S110)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置に関する。より詳しくは、本発明は、試料の帯電効果による荷電粒子ビームの位置ずれ量の算出及び補正に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルパターニング技術の導入により、フォトマスクの位置精度の向上が要求されている。これに伴い、フォトマスク内のパターン配置精度の向上が要求されているが、電子ビーム描画装置を用いてフォトマスクのパターンを描画する際、レジスト帯電効果により、ビーム照射位置がずれてしまうことが知られている。
【0003】
このビーム照射位置ずれを補正する方法の1つとして、レジスト層上に帯電防止膜(CDL:Charge Dissipation Layer)を形成して、レジスト表面の帯電を防止する方法が知られている。しかし、この帯電防止膜は、基本的に酸の特性を有しているため、化学増幅型レジストとの相性が良くない。また、帯電防止膜を形成するために新たな設備を設ける必要があり、フォトマスクの製造コストが更に増大してしまう。このため、帯電防止膜を用いることなく、帯電効果補正(CEC:charging effect correction)を行うことが望まれている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、電界強度に基づいてビーム照射位置の補正量を算出し、該補正量に基づいてビームを照射する描画装置が提案されている。この描画装置によれば、照射量分布と帯電量分布との間に線形比例関係が成立すると仮定し、照射量分布から線形応答関数を介して位置ずれ量分布を算出するようにしている。
【0005】
然し、本発明者の更なる検討によれば、照射量分布と位置ずれ量分布との間に線形比例関係が成り立つと仮定すると、位置ずれ量分布を精度良く算出することができないことが分かった。そこで、かかる線形比例関係を用いることなく、位置ずれ量分布を高精度に求める新たなモデルを確立する必要性が生じた。
【特許文献1】特開2007−324175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、帯電効果によるビーム位置ずれ量分布を精度良く算出することが可能な荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、荷電粒子ビームを偏向し、ステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、荷電粒子ビームの照射域の帯電量分布と非照射域の帯電量分布とを算出する工程と、照射域及び非照射域の帯電量分布に基づいて、試料上の前記荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する工程と、位置ずれ量の分布に基づいて荷電粒子ビームを偏向し、試料にパターンを描画する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
この第1の態様において、照射量分布と、試料の荷電粒子ビームが照射される照射域から非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、かぶり電子量分布を算出する工程を更に含むようにしてもよい。
【0009】
この第1の態様において、試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出する工程と、パターン密度分布とドーズ量分布とに基づいて、照射量分布を算出する工程とを更に含むようにしてもよい。
【0010】
この第1の態様において、非照射域の帯電量分布を、下式(a)で表される関数CF(F)を用いて算出することができる。
CF(F)=-c1×Fα・・・(a)
(上式(a)において、Fはかぶり電子量分布、c1は定数であり、0<α<1である。)
【0011】
また、照射域の帯電量分布を、下式(b)で表される関数CE(E,F)を用いて算出することができる。
CE(E,F)=CE(E)+CFe(F)=c0-c1×Fα・・・(b)
(上式(b)において、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、c0,c1は定数であり、0<α<1である。)
【0012】
また、この第1の態様において、照射域の帯電量分布を、照射量分布及びかぶり電子量分布の多項式関数を用いて算出し、非照射域の帯電量分布を、かぶり電子量分布の多項式関数を用いて算出することが好ましい。
【0013】
より具体的には、照射域の帯電量分布を、下式(c)で表される多項式関数を用いて算出することが好ましい。
C(E,F)=(d0+d1×ρ+d2×D+d3×E)+(e1×F+e2×F2+e3×F3)・・・(c)
(上式(c)において、ρはパターン密度分布、Dはドーズ量分布、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、d0,d1,d2,d3,e1,e2,e3は定数である。)
【0014】
また、非照射部域の帯電量分布を、下式(d)で表される多項式関数を用いて算出することが好ましい。
CF(F)=f1×F+f2×F2+f3×F3・・・(d)
(上式(d)において、Fはかぶり電子量分布、f1,f2,f3は定数である。)
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の第2の態様は、荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、試料の荷電粒子ビームが照射される照射域の帯電量分布と、荷電粒子ビームが照射されない非照射域の帯電量分布とに基づいて、試料上の荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する位置ずれ量分布算出手段と、位置ずれ量の分布に基づいて偏向器を制御する偏向器制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
この第2の態様において、試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、照射域及び非照射域の帯電量分布を算出する帯電量分布算出手段を更に備えてもよい。
【0017】
この第2の態様において、照射量分布と、照射域から前記非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、かぶり電子量分布を算出するかぶり電子量分布算出手段を更に備えてもよい。
【0018】
また、この第2の態様において、試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出するドーズ量分布算出手段と、パターン密度分布及びドーズ量分布に基づいて、照射量分布を算出する照射量分布算出手段とを更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
この第1の態様によれば、照射量分布から線形応答関数を介して位置ずれ量分布を直接導くのではなく、照射量分布とかぶり電子量分布を用いて照射域及び非照射域の帯電量分布を算出し、該帯電量分布に基づいて位置ずれ量分布を算出するため、線形比例関係を考慮した場合には算出されなかった試料上のビームの位置ずれを算出することができる。従って、帯電効果によるビーム位置ずれを精度良く補正することができる。
【0020】
この第2の態様によれば、照射域及び非照射域の帯電量分布に基づいて、試料上の荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出し、該位置ずれの分布に基づいて偏向器を制御するため、帯電効果によるビーム位置ずれを精度良く補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本実施の形態における電子ビーム描画装置100の概略構成図である。
図1に示す可変成形ビーム方式の電子ビーム描画装置100は、描画部1を備えている。描画部1内には、試料2であるマスクを保持するXYステージ3が収容されている。試料2であるマスクは、ガラス基板上に酸化クロム膜とレジスト層とが順次積層されたものである。XYステージ3は、後述するステージ駆動手段46によって、X方向及びY方向に移動可能に構成されている。XYステージ3の移動位置は、レーザ干渉計4の出力に基づいて、後述するステージ位置検出手段45により検出される。
【0022】
XYステージ3の上方には、電子ビーム6の発生源である電子銃5が配置されている。電子銃5とXYステージ3との間には、照明レンズ7と、S1アパーチャ(第1アパーチャ)8と、投影レンズ9と、成形偏向器10と、S2アパーチャ(第2アパーチャ)11と、対物レンズ12と、対物偏向器13とが配置されている。
【0023】
また、電子ビーム描画装置100は、制御部20と、この制御部20に接続された記憶装置21とを備えている。記憶装置21は、後述するレイアウトデータ、位置ずれ量分布(「位置ずれ量マップ」ともいう)及び光学系誤差分布(「光学系誤差マップ」ともいう)等を記憶するものであり、例えば、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FDもしくは半導体メモリ等である。
【0024】
制御部20は、前処理計算部30を備えている。前処理計算部30は、パターン密度算出手段31と、ドーズ量分布算出手段32と、照射量分布算出手段33と、かぶり電子量分布算出手段34と、帯電量分布算出手段35と、位置ずれ量分布算出手段36とを備えている。
【0025】
パターン密度分布算出手段31は、記憶装置21から読み出されたレイアウトデータに含まれる図形データに基づいて、所定寸法でメッシュ状に仮想分割された各フレームに対して、メッシュ領域毎のパターン密度の分布を算出するものである。ドーズ量分布算出手段32は、後述の後方散乱電子の近接効果補正式を用いてドーズ量の分布を算出するものである。照射量分布算出手段33は、パターン密度の分布及びドーズ量の分布に基づいて、試料に照射される電子ビームの照射量の分布を算出するものである。かぶり電子量分布算出手段34は、照射量分布と、かぶり電子の広がりを記述する関数とに基づいて、かぶり電子量の分布を算出するものである。帯電量分布算出手段35は、後述する方法により、電子ビームが照射される照射域の帯電量の分布と、電子ビームが照射されない非照射域の帯電量の分布とを算出するものである。位置ずれ量分布算出手段36は、帯電量分布算出手段35により算出された帯電量の分布に基づいて、試料上の電子ビームの位置ずれ量の分布を算出するものである。
【0026】
制御部20は、上記前処理計算部30のほかに、ショットデータ生成手段41と、グリッドマッチング制御手段42と、成形偏向器制御手段43と、対物偏向器制御手段44と、上述したステージ位置検出手段45及びステージ駆動手段46とを備えている。
【0027】
ショットデータ生成手段41は、記憶装置21から読み出されたレイアウトデータに基づいて描画データを作成し、該描画データに基づいてショットデータを作成するものである。グリッドマッチング制御手段42は、位置ずれ量分布算出手段36により算出された位置ずれ量分布に基づいて、対物偏向器制御手段44を制御するものである。成形偏向器制御手段43は、所望の寸法及び形状(矩形もしくは三角形)のS2アパーチャ像が得られるように、成形偏向器10の位置を制御するものである。対物偏向器制御手段44は、電子ビーム6が試料2上の所望位置に照射されるように、対物偏向器13の位置を制御するものである。
【0028】
次に、上記電子ビーム描画装置100の一般的な描画動作について説明する。
電子銃5から発せられた電子ビーム6は、照明レンズ7により矩形開口部を有するS1アパーチャ8全体を照明する。S1アパーチャ8を透過したS1アパーチャ像の電子ビーム6は、投影レンズ9により鍵型開口部を有するS2アパーチャ11上に投影される。S2アパーチャ11上の第1アパーチャ像の位置は、成形偏向器10によって偏向される。そうすると、所望のビーム形状と寸法に成形される。S2アパーチャ11を透過したS2アパーチャ像の電子ビーム6は、対物レンズ12によって焦点が合わせられると共に、対物偏向器13により偏向され、XYステージ3上の試料2の所望位置に照射される。
【0029】
パターン描画時にXYステージ3が連続移動することで、図2に示すように、試料2が移動する。図2は、パターン描画時の試料2の移動方向を示す図である。試料2の描画領域Rは、複数の短冊状のストライプ領域SRに仮想分割される。1つのストライプ領域SR上をX方向に電子ビーム6が照射される。すなわち、XYステージ3をX方向に連続移動させながら、電子ビーム6のショット位置(照射域)もステージ移動に追従させる。1つのストライプ領域の描画が終了すると、XYステージ3をY方向にステップ送りする。そして、次のストライプ領域上を電子ビーム6がX方向に照射される。このときXYステージ3を逆向きのX方向に連続移動させる。
【0030】
ところで、上述したように、試料2のレジスト層に電子ビームが照射されると、レジスト帯電効果によりビーム照射位置がずれることが知られている。
【0031】
そこで、本実施の形態では、図3Aに示すようなフローに従い、電子ビーム描画装置100において位置ずれ量を考慮したパターンの描画が行われる。図3Aは、本実施の形態による描画方法を説明するためのフローチャートである。
【0032】
図3Aに示すフローによれば、先ず、記憶装置21に記憶されたレイアウトデータがパターン密度算出手段31によって読み出され、該レイアウトデータに含まれる図形データに基づいて、所定寸法(グリッド寸法)でメッシュ状に仮想分割された各フレーム(以下「メッシュ領域」という)に対して、パターン密度が算出される(ステップS100)。このステップS100では、メッシュ領域毎のパターン密度の分布ρ(x,y)が算出される。
【0033】
次に、上記ステップS100で算出されたパターン密度分布ρ(x,y)を用いて、メッシュ領域毎のドーズ量の分布D(x,y)が算出される(ステップS102)。このステップS102では、以下の後方散乱電子の近接効果補正式(1)に従ってドーズ量分布D(x,y)が算出される。
D=D0×{(1+2×η)/(1+2×η×ρ)}・・・(1)
(上式(1)において、D0は基準ドーズ量であり、ηは後方散乱率である。)
【0034】
これらの基準ドーズ量D0及び後方散乱率ηは、当該荷電粒子ビーム描画装置100のユーザにより設定される。後方散乱率ηは、電子ビーム6の加速電圧、試料2のレジスト膜厚や下地基板の種類、プロセス条件(例えば、PEB条件や現像条件)などを考慮して設定することができる。
【0035】
次に、上記ステップS100で算出されたパターン密度分布ρ(x,y)と、上記ステップS102で算出されたドーズ量分布D(x,y)とを乗算することによって、メッシュ領域毎の照射量分布E(x,y)(「照射強度分布」ともいう)が算出される(ステップS104)。
【0036】
次いで、後述する方法に従って、かぶり電子量分布F(x,y,σ)が算出される(ステップS106)。そして、帯電量分布算出手段35により、後述する方法に従って帯電量分布C(x,y)が算出される(ステップS108)。
【0037】
尚、予め算出したパターン密度分布ρ(x,y)、ドーズ量分布D(x,y)、照射量分布E(x,y)、かぶり電子量分布F(x,y,σ)、帯電量分布C(x,y)を記憶装置21に記憶しておき、各ステップで記憶装置21から読み出して取得するようにしてもよい。
【0038】
次いで、位置ずれ量分布算出手段36により、上記ステップS108で算出された帯電量分布C(x,y)に基づいて、位置ずれ量分布p(x,y)が算出される(ステップS110)。このステップS110では、帯電量分布C(x,y)と、帯電量を位置ずれ誤差に変換する応答関数r(x,y)とを畳み込み積分することによって、位置ずれ量分布p(x,y)が算出される。
【0039】
そして、上記ステップS110で算出された位置ずれ量分布p(x,y)に基づいて、グリッドマッチングが実施される(ステップS112)。このステップS112において後述するように対物偏向器13の制御が行われた後、電子ビーム6が試料2に照射され、パターンが描画される(ステップS114)。
【0040】
尚、図3Aに示すフローに代えて、図3Bに示すフローに従って描画してもよい。図3Aと図3Bとは、ステップS102、103が異なっており、その他のステップは同一である。図3AのステップS102では、パターン密度分布ρ(x,y)に基づいてドーズ量分布D(x,y)を算出しているが、図3BのステップS103では、パターン密度分布ρ(x,y)に関係なく固定のドーズ量分布D(x,y)を取得している。図3BのステップS104では、ステップS103で取得された固定のドーズ量分布D(x,y)と、ステップS100で算出されたパターン密度分布ρ(x,y)とを乗算することによって照射量分布E(x,y)が求められる。
【0041】
このように、パターン密度分布ρ(x,y)によらず、固定のドーズ量分布D(x,y)を用いて照射量分布E(x,y)を算出してもよい。図4において、◆は、パターン密度ρに応じて変化するドーズ量を示し、□は、パターン密度に関係なく固定されたドーズ量(21μC/cm2)を示している。
【0042】
次に、図5を参照して、上記ステップS112において実施されるグリッドマッチングの流れを説明する。
【0043】
図5に示すように、位置ずれ量分布算出手段36により算出された位置ずれ量分布は、記憶装置21に記憶される。その後、この記憶装置21に記憶された位置ずれ量分布と、予め作成され記憶装置21に記憶された光学系誤差分布とが、グリッドマッチング制御手段42により読み出される。グリッドマッチング制御手段42は、位置ずれ量分布のメッシュ毎の各データと、光学系誤差分布のメッシュ毎の各データとを合成し、合成したデータを対物偏向器制御手段44に出力する。対物偏向器制御手段44は、入力されたデータに基づき、電子ビーム6の偏向位置を制御する。すなわち、位置ずれ量分布と光学系誤差分布とを考慮した補正位置へと対物偏向器13の位置が制御される。
【0044】
試料上のパターンの配置精度を向上させるためには、グリッドマッチングを精度良く行う必要があり、そのためには位置ずれ量分布p(x,y)(「位置ずれ量分布」ともいう)を高精度に算出する必要がある。
【0045】
次に、位置ずれ量分布p(x,y)の算出方法について説明する。
【0046】
先ず、図6を参照して、本実施の形態に対する比較例による位置ずれ量分布の算出方法について説明する。
【0047】
本比較例では、ある照射量分布E(x,y)に対して、電子(帯電量)の広がり分布を記述する関数g’(x,y)があると仮定する。この関数g’(x,y)として、例えば、図7に示すように、電子ビーム照射域では正に帯電し、非照射域では負に帯電するガウス分布のモデルを用いることができる。そして、照射量分布E(x,y)と広がり分布関数g’(x,y)とを畳み込み積分(convolution)することにより帯電量分布C(x,y)が求められる。
【0048】
次いで、この帯電量分布C(x,y)を位置ずれ量分布p(x,y)に変換する応答関数r(x,y)を仮定する。ここで、ビームの位置ずれは、ビーム照射位置(x,y)から帯電位置(x’,y’)までの距離の関数として表すことができるため、応答関数を「r(x-x’,y-y’)」のように記述することができる。
【0049】
図8は、この応答関数r(x,y)を計算するために仮定したモデルを示す図である。図8に示すように、共に0Vにアースされた2つの平行平板51、52が、互いに距離Lだけ離間して配置されている。上部平板51は、描画部1壁面、具体的には、対物レンズ12のブロックに相当し、下部平板52は、フォトマスクのクロム層に相当する。2つの平板51、52は、完全な導電体として考慮される。点電荷源55は、膜厚hのレジスト53の表面に位置する。導電性クロム層52は静的ポテンシャル計算では鏡とみなすことができるので、鏡像電荷54が等距離“−h”だけクロム層52の下に位置する。実際の帯電55とミラー帯電54は、双極子56としてペアで働く。導電性の上部平板51も鏡とみなすことができるので、無限数の双極子56の1対は“2L”のピッチで配置される。実際の計算では、双極子56の数はある実際的な限界で切り捨てられる。50keVで加速された電子57の軌道は、運動方程式を解くことで計算され、レジスト53表面到達時の電子位置の最終的なずれは与えられた入射位置に対するビーム位置誤差として得られる。
【0050】
この仮定によれば、位置ずれ量分布p(x,y)は、応答関数r(x,y)と帯電量分布C(x,y)とを畳み込み積分することによって求められる。すなわち、位置ずれ量分布p(x,y)は、応答関数r(x,y)と帯電分布関数g’(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することによって求められる。
【0051】
ここで、照射量分布E(x,y)と位置ずれ量分布p(x,y)との間には線形比例関係が成立すると仮定すると、図6に示すように、線形応答関数R(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することによって位置ずれ量分布p(x,y)を求めることができる。すなわち、本比較例によれば、照射量分布E(x,y)から線形応答関数R(x,y)を介して位置ずれ量分布p(x,y)が直接導かれるため、帯電量分布C(x,y)の計算をスキップすることができる。
【0052】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記比較例により求められた位置ずれ量分布p(x,y)は、実験結果と相違することが分かった。
【0053】
図9A、図9B及び図10を参照して、上記比較例による位置ずれ量分布の算出方法を検証する。
【0054】
上記比較例による位置ずれ量分布の算出方法を検証するにあたって、先ず、図9Aに示すように、照射量分布e(x)として1次ステップ関数を与えた。この関数によれば、照射域での照射量が1であり、非照射域での照射量が0である。
【0055】
上記比較例では、図9Bに示すように、この照射量分布e(x)と線形応答関数R(x)との畳み込み積分により位置ずれ量分布p(x)を求めている。従って、この位置ずれ量分布p(x)を微分することによって線形応答関数R(x)を求めることができる。位置ずれ量分布p(x)の微分により求められた線形応答関数R1(x)は、図10に示すように、望ましい応答関数R2(x)とは異なり、照射域と非照射域との境で回転対称となっていないことが判った。従って、上記比較例における線形比例関係の仮定が成立しないことが判った。
【0056】
そこで、本発明者は、線形応答関数R(x)を用いることなく、位置ずれ量分布を算出するための新たなモデルを見出した。
【0057】
本発明者は、先ず、レジスト帯電効果を測定した。図11は、レジスト帯電効果を測定するために用いたテストレイアウトを示す図である。尚、図11においては、各部の内容をより分かりやすくするために、縮尺を変えて示している。
【0058】
図11に示すテストレイアウトTLは、ピッチL1が1mmであり、1辺の長さL2が80mmであるグリッド(81×81グリッド)60上に第1ボックスアレイ62を照射量12μC/cm2で描画した後、当該レイアウトTLの中央に1辺の長さL3が40mmであるパターン密度100%の照射パッド63を照射量21μC/cm2で描画し、さらに、第1ボックスアレイ62と同じグリッド60上に第2ボックスアレイ64を照射量12μC/cm2で描画することにより得られる。
【0059】
図12に拡大して示すように、第1ボックスアレイ62は、例えば、1辺の長さL4が4μmである正方形のパターンである。また、第2ボックスアレイ64は、例えば、1辺の長さL5が14μmであり、第1ボックスアレイ62よりも大きいサイズで中央がくり抜かれている枠状のパターンである。
【0060】
ここで、照射パッド63のパターン密度を100%、75%、50%、25%のように変化させて、上記のテストレイアウトTLをそれぞれ形成した。図13A乃至図13Dは、パターン密度が100%、75%、50%、25%である照射パッド63A、63B、63C、63Dをそれぞれ示している。
【0061】
図13Aに示す照射パッド63Aは、距離L6だけ相互に離間する矩形状の複数のパターン630によって構成されている。この距離L6は、例えば、20μmである。図13Bに示す照射パッド63Bは、上記距離L6だけ相互に離間する複数のパターン631によって構成されている。各パターン631は、短辺の長さL7が例えば4μmである複数のラインパターン631aを交差させてなるものである。図13Cに示す照射パッド63Cは、上記距離L6だけ相互に離間する複数のパターン632によって構成されている。各パターン632は、複数の正方形のパターン632aを有する。このパターン632aの一辺の長さL8は、例えば4μmである。図13Dに示す照射パッド63Dは、上記距離L6だけ相互に離間する複数のパターン633によって構成されている。各パターン633は、上記パターン632を構成するパターン632aの数が半分にされたものである。
【0062】
上記描画した第1及び第2ボックスアレイ62、64の位置をレジストイメージ測定法を用いてそれぞれ測定し、第2ボックスアレイ64の位置から第1ボックスアレイ62の位置を差し引くことにより、照射パッド63の帯電効果による位置ずれを測定することができる。なお、本実施の形態では、測定時間を短縮するため、図11に示す81×81グリッドのうち、2mmピッチの41×41グリッド上に描画された2つのボックスアレイ62、64の位置ずれを測定した。
【0063】
ここで、本実施の形態では、図4に示すように、パターン密度ρに関係なくドーズ量Dを固定(21μC/cm2)にした場合と、パターン密度ρに応じてドーズ量Dを変化させた場合とのそれぞれについて、4種類の化学増幅型レジストA乃至Dについて、上記のようにパターン密度を100%、75%、50%、25%と変えてテストレイアウトTLをそれぞれ形成し、テストレイアウト毎に位置ずれの測定を行った。
【0064】
帯電効果による位置ずれの測定結果を図14A乃至図14Cに示す。図14A乃至図14Cは、ドーズ量Dが固定である場合において、3種類のレジストA、B、Cについて、照射域と非照射域の境界近傍の位置ずれと、非照射域の外周の位置ずれとを概略的に示している。
【0065】
図14A乃至図14Cに示すように、3種類のレジストA、B、Cの何れについても、非照射域の外周では、外側に膨らむように同様な位置ずれ71A、71B、71Cを起こしている。
【0066】
これに対し、照射域と非照射域との境界近傍では、図14A及び図14Bに示すように、レジストA、Bの場合は、共に照射域の内側に向かって位置ずれ70A、70Bを起こしている。これらの位置ずれ70A、70Bは、レジストAの場合の位置ずれ70Aが上下と左右でほぼ対称であるのに対して、レジストBの場合の位置ずれ70Bが上下非対称である点で相違する。また、これらレジストA、Bの場合とは異なり、レジストCの場合の位置ずれ70Cは、図14Cに示すように、照射域内側への位置ずれがほとんど見られない。
【0067】
図15A乃至図15D、図16A乃至図16D、図17A乃至図17Dは、3種類のレジストA、B、Cについて、パターン密度によらずドーズ量が一定(21μC/cm2)である場合の11列平均のX方向の位置ずれを示す図である。これらの図15A乃至図17Dは、それぞれ81×81グリッドの第31列、第33列、…、第49列、第51列の11列平均のX方向の位置ずれ量をプロットしたものである。図15A、図16A、図17Aは、照射パッド63のパターン密度が25%である場合の位置ずれ量を示し、図15B、図16B、図17Bは、照射パッド63のパターン密度が50%である場合の位置ずれ量を示している。また、図15C、図16C、図17Cは、照射パッド63のパターン密度が75%である場合の位置ずれ量を示し、図15D、図16D、図17Dは、照射パッド63のパターン密度が100%である場合の位置ずれ量を示している。
【0068】
図15A乃至図17Dに示される結果によれば、パターン密度が高いほど位置ずれ量が多くなり、また、同じパターン密度でもレジストの種類が異なると位置ずれ量が異なることが判った。
【0069】
ところで、図18は、レジストAについて、パターン密度ρが25%でありドーズ量Dが固定の21μC/cm2である場合の上記X方向の位置ずれ量と、パターン密度ρが100%でありドーズ量Dが5.25μC/cm2である場合の上記X方向の位置ずれ量とを併せて示している。ここで、上述したようにパターン密度ρとドーズ量Dを乗算することによって照射量Eが求められるため、これら2つの場合の照射量Eは同じである。このため、これら2つの場合の位置ずれ量は同等になると考えられるが、図18に示すように両者の位置ずれ量は異なっている。これは、パターン密度ρによらずドーズ量Dが21μC/cm2に固定された場合と、パターン密度ρに応じて変化するドーズ量(5.25μC/cm2)である場合との違いによるものであると考えられる。従って、位置ずれ量分布を精度良く算出するためには、照射量分布の算出精度を高める必要があり、そのためには、図3AのステップS102で実施されるようにパターン密度ρに応じてドーズ量分布D(x,y)を算出することが好適である。
【0070】
次に、上記測定結果を説明することが可能な位置ずれ量分布を算出するために、図3A及び図3Bに示すステップS106で実施されるかぶり電子量分布F(x,y,σ)の算出方法について説明する。
【0071】
上記ステップS106では、先ず、照射量分布E(x,y)に対して、かぶり電子の広がり分布を記述する関数g(x,y)があると仮定する。この関数g(x,y)は、上記比較例と同様に、図7に示すようなガウス分布のモデルであり、次式(2)のように表すことができる。
g(x,y)=(1/πσ2)×exp{-(x2+y2)/σ2}・・・(2)
【0072】
そして、次式(3)のように、広がり分布関数g(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することにより、かぶり電子量分布(「かぶり電子量強度」ともいう。)F(x,y,σ)が求められる。
F(x,y,σ)=∬g(x-x″,y-y″)E(x″,y″)dx″dy″・・・(3)
【0073】
次に、図3A及び図3Bに示すステップS108で実施される帯電量分布C(x,y)の算出について説明する。
【0074】
上記ステップS108では、先ず、照射量分布E(x,y)及びかぶり電子量分布F(x,y,σ)から帯電量分布C(x,y)を求めるための関数C(E,F)を仮定した。この仮定した関数C(E,F)を、次式(4)のように、照射電子が寄与する変数CE(E)と、かぶり電子が寄与する変数CF(F)とに分離した。
C(E,F)=CE(E)+CF(F)・・・(4)
【0075】
さらに、照射域の関数は、変数CF(F)=0、すなわちC(E,F)=CE(E)と仮定した。一方、非照射域の関数は、変数CE(E)=0、すなわち、C(E,F)=CF(F)と仮定した。また、図19Aに示すように、照射域内は均一に帯電すること、すなわち、CE(E)=coと仮定した。このcoは、定数であり、例えば、1である。また、非照射域では、図19Bに示すように、かぶり電子量強度Fが大きくなるほど、帯電CF(F)が飽和する。そこで、非照射域の変数CF(F)を次式(5)のように表すこととした。
CF(F)=-c1×Fα・・・(5)
【0076】
上式(5)中のαは、0<α<1の条件を満たす。本発明者の実験によれば、α=0.3-0.4のときに、最も実験結果に近くなり、好適であることが分かった。この好適なαの範囲は、使用する電子ビーム描画装置に応じて変えることができる。
【0077】
ここで、上式(5)のように関数CF(F)を規定した理由について説明する。
【0078】
位置ずれ測定結果は、図15A乃至図17Dに示すように、4種類のパターン密度(100%、75%、50%、25%)について得られている。かぶり電子量強度Fは、パターン密度100%のときのかぶり電子量強度FをF100とすると、各パターン密度での強度は、パターン密度に比例してそれぞれF100,0.75×F100,0.5×F100,0.25×F100となる。しかし、CF(F)は、未知の関数である。このため、CF(F100),CF(0.75×F100),CF(0.5×F100),CF(0.25×F100)は強度比例せず、しかも各パターン密度で分布形状が互いに異なる可能性がある。このように各パターン密度での分布形状が異なると、パターン密度毎にCF(F)を規定しなければならず、解析上不便である。
【0079】
そこで、任意のFに対して、パターン密度が変化しても、相似形の分布形状が得られる関数CF(F)とした。すなわち、関数CF(F)が次式(6)の関係を満たすように規定した。次式(6)におけるaはパターン密度であり、Aは定数である。
CF(aF)/CF(F)=A・・・(6)
【0080】
相似形の関数であれば、CF(F)全体の強度は比例しなくても、分布形状が変わらない。強度については、上記パラメータc0,c1の組み合わせにより調整することができる。よって、CF(F)をパターン密度毎に規定する必要はなく、1つのσに対して1つのCF(F)を規定するだけでよいため、解析を簡単にすることができる。
【0081】
次に、図20を参照して、上記パラメータc0,c1,σiの最適な組み合わせを決定する。
図20に示すように、照射域については、coという大きさのステップ形状の帯電量分布CE(E)を仮定し、この帯電量分布CE(E)と予め計算しておいた応答関数r(x)を畳み込み積分することによって、位置ずれ量p0(x)を算出する(ステップS200)。
【0082】
また、非照射域については、あるαとかぶり電子広がり半径(以下「かぶり半径」という)σを仮定してCF(F)を計算する(ステップS202)。このCF(F)を複数のかぶり半径σに対して求める。例えば、かぶり半径σは1mm〜24mmまで1mm間隔で仮定される。そして、かぶり半径σ1〜σiに対しての帯電量分布CF(F)と応答関数rを用いて、位置ずれ量p1(x)〜pi(x)を求める。
【0083】
これらの照射域及び非照射域の位置ずれ量p(x)を合成すると、次式(7)のように表される(ステップS204)。
p(x)=c0×p0(x)+c1×pi(x)・・・(7)
【0084】
そして、上式(7)が実験結果を最も良く適合(フィッティング)するパラメータc0,c1,σの組み合わせを求める。図21A乃至図21D、図22A乃至図22D、図23A乃至図23Dは、レジストA、B、Cについてのフィッティング結果を示す図である。図21A、図22A、図23Aは、照射パッド63のパターン密度が25%である場合のフィッティング結果を示し、図21B、図22B、図23Bは、照射パッド63のパターン密度が50%である場合のフィッティング結果を示している。また、図21C、図22C、図23Cは、照射パッド63のパターン密度が75%である場合のフィッティング結果を示し、図21D、図22D、図23Dは、照射パッド63のパターン密度が100%である場合のフィッティング結果を示している。
【0085】
図21A乃至図23Dに示される結果を用いることで、上記比較例に比べて精度良く位置ずれ量分布を求めることができた。
【0086】
図24A乃至図24Cは、レジストA、B、Cについて、フィッティングにより求められたパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【0087】
ところで、図24A乃至図24Cに示すように、同じ種類のレジストを使用する場合でも、パターン密度が異なると最適なかぶり半径σが異なってしまうことが分かった。物理的に、パターン密度に依存してかぶり半径σが変化しないことが望ましい。また、レジストAについては良好なフィッティング結果が得られたものの、レジストB,CについてはレジストAほど良好なフィッティング結果が得られなかった。本発明者の検討によれば、これらの結果は、照射部の帯電をCE(E)=coとフラットに仮定したことによるものと考えられる。
【0088】
そこで、本発明者は、照射域の帯電量分布についてもかぶり電子の影響を記述するように、上記モデルを修正した。かかるモデルでは、照射域での帯電量分布を次式(8)のように表した。但し、非照射部の帯電量分布は、上記モデルと同様とした。
C(E,F)=CE(E)+CFe(F)=c0-c1×Fα・・・(8)
【0089】
修正されたモデルについて求められたパラメータc0,c1,σの組み合わせを図25A及び図25Bに示す。図25A及び図25Bは、レジストB、CについてのパラメータC0,C1,σの組み合わせを示している。図25A及び図25Bに示すように、修正されたモデルは、かぶり半径σがパターン密度依存性をなお有している。さらに、フィッティングにより求められたc1は、上記式(4)の曲線に乗らなければならないが、乗らないことが判った。
【0090】
そこで、本発明者は、これらを解決する新たな一般化モデルを構築した。
【0091】
先ず、非照射域の帯電量分布CF(F)とかぶり電子量強度Fとの関係を、次式(9)のような多項式関数によって表した。次式(9)において、f1,f2,f3は、定数である。
CF(F)=f1×F+f2×F2+f3×F3・・・(9)
【0092】
次に、図24A乃至図25Bに示したパラメータ群を用いて、各パターン密度についてy=0における帯電量分布C(x,0)を算出した。算出した帯電量分布C(x,0)を図26に示す。図24A乃至図25Bに示すパラメータ群を用いるのは、パターン密度に依存して最適なかぶり半径σが変化するものの、各パターン密度での分布形状は正しいためである。
【0093】
なお、y=0に限定せず、2次元で帯電量分布C(x,y)を算出することにより、以下に行うフィッティングの精度を向上させることができる。
【0094】
そして、図26に示す非照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(9)のCF(F)とが最も適合するような最適なかぶり半径σを求める。図27Aに示すようにかぶり半径σが過小である場合や、図27Cに示すようにかぶり半径σが過大である場合には、良好なフィッティング結果が得られない。つまり、かぶり半径σが過小もしくは過大となると、各パターン密度のデータが相互に離れてしまうため、上記パラメータf1,f2,f3を求めることができない。これに対して、図27Bに示すように最適なかぶり半径σが求められると、良好なフィッティング結果が得られ、上記パラメータf1,f2,f3を求めることができる。
【0095】
次に、上記求めた最適なかぶり半径σを用いて、照射域のかぶり電子量分布Fを求める。そして、照射域の帯電量分布C(E,F)を照射量分布Eと、上式(9)で求められたかぶり電子量分布Fとを用いて、次式(10)のような多項式関数によって表した。次式(10)では、かぶり電子が寄与する帯電量分布CFe(F)が考慮されている。
C(E,F)=CE(E)+CFe(F)
=(d0+d1×ρ+d2×D+d3×E)+(e1×F+e2×F2+e3×F3)・・・(10)
【0096】
そして、図26に示す照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(10)の帯電量分布C(E,F)とが最も適合するようなパラメータd0,d1,d2,d3,e1,e2,e3を求める。ここで、フィッティング結果を図28に示す。
【0097】
これらの照射域及び非照射域の帯電量分布のフィッティングにより求められたパラメータd0,d1,d2,d3,e1,e2,e3,f1,f2,f3,σの最適な組み合わせを、図29に示す。図29に示すように、最適なかぶり半径σは、レジストの種類に応じて、8mm〜16mmの範囲から選択される。この一般化モデルでは、上記した相似形の関数を用いたモデルとは異なり、パターン密度が変化しても、最適なかぶり半径σは変わらない。尚、図29に示すように、同じ種類のレジストAについて、パターン密度ρによらずドーズ量Dを固定した場合の最適なかぶり半径σ(=13mm)と、パターン密度ρに応じて後方散乱電子の近接効果補正式(1)に従ってドーズ量Dを変化させた場合の最適なかぶり半径σ(=8mm)とが異なることが判った。
【0098】
なお、レジストの膜厚が異なると最適なかぶり半径σが異なるため、膜厚が異なるレジストを別のレジストとして、上記方法に従って個別に最適なかぶり半径σを求めるようにしてもよい。
【0099】
このようにして求めた帯電量分布C(x,y)を用いて、図3A及び図3Bに示すステップS110において、位置ずれ量分布p(x,y)を算出する。図30A乃至図30Cは、レジストA、B、Cについて、本実施の形態による一般化モデルで求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。図中、一般化モデルで求められた位置ずれ量分布を実線で示し、実験データを破線で示している。また、図30A乃至図30Cでは、図14A乃至図14Cと同様に、照射域と非照射域の境界近傍の位置ずれと、非照射域外周の位置ずれとを概略的に示している。各レジストA、B、Cについて、求めた位置ずれ量分布と、実験データとが略一致している。図30A乃至図30Cに示すように、本発明者が確立した一般化モデルを用いて位置ずれ量分布を求めることで、位置ずれ量分布を精度良く算出することができる。
【0100】
そして、この位置ずれ量分布を用いて、図5に示すようにグリッドマッチングを行うことにより、帯電効果によるビーム位置ずれが補正される。図31は、グリッドマッチング前後におけるビーム照射位置ずれ量を示す図である。図31において斜線で示されるように、グリッドマッチング後に残存するビーム照射位置ずれ量は、帯電防止膜を用いた場合と同等のレベルまで低減される。
【0101】
ところで、レジストA、Dのように、ある種類のレジストでは、照射部の帯電量分布のうちかぶり電子の寄与CFe(F)=0とすることにより、良好なフィッティング結果が得られることが分かった。これは、図29に示すレジストA、Dについてのパラメータe1=e2=e3=0であることからも分かる。このようなタイプのレジストA、Dに対しても、本発明者が構築した一般化モデルは対応可能である。
【0102】
また、電子ビームが照射されることで、レジストが一瞬だけ導電性を有するEBIC(electron beam induced conductivity)という物理効果が知られている。上記一般化モデルは、該EBICにも対応可能である。すなわち、EBICは電子ビームが照射されなければ起きない現象であるため、電子ビームが照射されるまでは非照射域として電荷が蓄積される。かかる蓄積された電荷は、電子ビームの照射により下地に逃げる。このため、かぶり電子によるCFe(F)は一旦リセットされ、ゼロから蓄積され始める。さらに、電子ビームが一度照射されると、導電性が僅かに残る場合がある。この場合には、電子ビームが照射される前に比して、電子ビームが照射された後の方がかぶり電子の帯電量が少なくなる。上記一般化モデルでは、非照射域を記述するパラメータf1,f2,f3から、照射域を記述するパラメータe1,e2,e3にシフトすることにより、かかる帯電量の減少に対応することができる。
【0103】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施の形態における電子ビーム描画装置100の概略構成図である。
【図2】パターン描画時の試料2の移動方向を示す図である。
【図3A】本発明の実施の形態による描画方法を説明するためのフローチャートである。
【図3B】本発明の実施の形態による描画方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】パターン密度に応じてドーズ量を変化させる場合と、パターン密度に関係なくドーズ量を固定する場合とを示す図である。
【図5】グリッドマッチングの流れを説明するための概略図である。
【図6】本発明の実施の形態に対する比較例による位置ずれ量分布の算出方法を説明するための図である。
【図7】広がり分布を記述する関数g’(x,y)を示す図である。
【図8】応答関数を計算するために仮定したモデルを示す図である。
【図9A】比較例の検証時に与えられた1次ステップ関数を示す図である。
【図9B】比較例により求められた位置ずれ量分布p(x)を示す図である。
【図10】比較例の検証時に求められた線形応答関数R1(x)を示す図である。
【図11】レジスト帯電効果を測定するためのテストレイアウトを示す図である。
【図12】第1及び第2ボックスアレイを拡大して示す図である。
【図13A】パターン密度が100%である照射パッドを示す図である。
【図13B】パターン密度が75%である照射パッドを示す図である。
【図13C】パターン密度が50%である照射パッドを示す図である。
【図13D】パターン密度が25%である照射パッドを示す図である。
【図14A】化学増幅型レジストAについての位置ずれの測定結果を示す概略図である。
【図14B】化学増幅型レジストBについての位置ずれの測定結果を示す概略図である。
【図14C】化学増幅型レジストCについての位置ずれの測定結果を示す概略図である。
【図15A】レジストA、パターン密度25%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図15B】レジストA、パターン密度50%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図15C】レジストA、パターン密度75%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図15D】レジストA、パターン密度100%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16A】レジストB、パターン密度25%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16B】レジストB、パターン密度50%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16C】レジストB、パターン密度75%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16D】レジストB、パターン密度100%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17A】レジストC、パターン密度25%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17B】レジストC、パターン密度50%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17C】レジストC、パターン密度75%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17D】レジストC、パターン密度100%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図18】レジストAについて、パターン密度ρが25%であり、ドーズ量Dが21μC/cm2である場合の位置ずれ量と、パターン密度ρが100%であり、ドーズ量Dが5.25μC/cm2である場合の位置ずれ量とを示す図である。
【図19A】照射域の帯電量分布の関数を示す図である。
【図19B】非照射域の帯電量分布の関数を示す図である。
【図20】パラメータc0,c1,σiの最適な組み合わせを求める方法を説明するための図である。
【図21A】レジストA、パターン密度25%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図21B】レジストA、パターン密度50%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図21C】レジストA、パターン密度75%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図21D】レジストA、パターン密度100%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22A】レジストB、パターン密度25%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22B】レジストB、パターン密度50%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22C】レジストB、パターン密度75%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22D】レジストB、パターン密度100%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23A】レジストC、パターン密度25%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23B】レジストC、パターン密度50%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23C】レジストC、パターン密度75%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23D】レジストC、パターン密度100%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図24A】レジストAについてのパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図24B】レジストBについてのパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図24C】レジストCについてのパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図25A】レジストBについて修正されたモデルで求められたパラメータc0,c1,σの組み合わせを示す図である。
【図25B】レジストCについて修正されたモデルで求められたパラメータc0,c1,σの組み合わせを示す図である。
【図26】帯電量分布C(x,0)を示す図である。
【図27A】かぶり半径σが過小であるときのフィッティング結果を示す図である。
【図27B】かぶり半径σが最適であるときのフィッティング結果を示す図である。
【図27C】かぶり半径σが過大であるときのフィッティング結果を示す図である。
【図28】照射域の帯電量分布C(x,0)と、帯電量分布C(E,F)とのフィッティング結果を示す図である。
【図29】パラメータd0,d1,d2,d3,e1,e2,e3,f1,f2,f3,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図30A】レジストAについて、本実施の形態による一般化モデルによって求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。
【図30B】レジストBについて、本実施の形態による一般化モデルによって求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。
【図30C】レジストCについて、本実施の形態による一般化モデルによって求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。
【図31】グリッドマッチング後に残存するビーム照射位置ずれ量を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 描画部
2 試料
3 ステージ
6 電子ビーム
13 対物偏向器
20 制御部
21 記憶装置
31 パターン密度分布算出手段
32 ドーズ量分布算出手段
33 照射量分布算出手段
34 かぶり電子量分布算出手段
35 帯電量分布算出手段
36 位置ずれ量分布算出手段
42 グリッドマッチング制御手段
44 対物偏向器制御手段
100 電子ビーム描画装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置に関する。より詳しくは、本発明は、試料の帯電効果による荷電粒子ビームの位置ずれ量の算出及び補正に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルパターニング技術の導入により、フォトマスクの位置精度の向上が要求されている。これに伴い、フォトマスク内のパターン配置精度の向上が要求されているが、電子ビーム描画装置を用いてフォトマスクのパターンを描画する際、レジスト帯電効果により、ビーム照射位置がずれてしまうことが知られている。
【0003】
このビーム照射位置ずれを補正する方法の1つとして、レジスト層上に帯電防止膜(CDL:Charge Dissipation Layer)を形成して、レジスト表面の帯電を防止する方法が知られている。しかし、この帯電防止膜は、基本的に酸の特性を有しているため、化学増幅型レジストとの相性が良くない。また、帯電防止膜を形成するために新たな設備を設ける必要があり、フォトマスクの製造コストが更に増大してしまう。このため、帯電防止膜を用いることなく、帯電効果補正(CEC:charging effect correction)を行うことが望まれている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、電界強度に基づいてビーム照射位置の補正量を算出し、該補正量に基づいてビームを照射する描画装置が提案されている。この描画装置によれば、照射量分布と帯電量分布との間に線形比例関係が成立すると仮定し、照射量分布から線形応答関数を介して位置ずれ量分布を算出するようにしている。
【0005】
然し、本発明者の更なる検討によれば、照射量分布と位置ずれ量分布との間に線形比例関係が成り立つと仮定すると、位置ずれ量分布を精度良く算出することができないことが分かった。そこで、かかる線形比例関係を用いることなく、位置ずれ量分布を高精度に求める新たなモデルを確立する必要性が生じた。
【特許文献1】特開2007−324175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、帯電効果によるビーム位置ずれ量分布を精度良く算出することが可能な荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、荷電粒子ビームを偏向し、ステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、荷電粒子ビームの照射域の帯電量分布と非照射域の帯電量分布とを算出する工程と、照射域及び非照射域の帯電量分布に基づいて、試料上の前記荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する工程と、位置ずれ量の分布に基づいて荷電粒子ビームを偏向し、試料にパターンを描画する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
この第1の態様において、照射量分布と、試料の荷電粒子ビームが照射される照射域から非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、かぶり電子量分布を算出する工程を更に含むようにしてもよい。
【0009】
この第1の態様において、試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出する工程と、パターン密度分布とドーズ量分布とに基づいて、照射量分布を算出する工程とを更に含むようにしてもよい。
【0010】
この第1の態様において、非照射域の帯電量分布を、下式(a)で表される関数CF(F)を用いて算出することができる。
CF(F)=-c1×Fα・・・(a)
(上式(a)において、Fはかぶり電子量分布、c1は定数であり、0<α<1である。)
【0011】
また、照射域の帯電量分布を、下式(b)で表される関数CE(E,F)を用いて算出することができる。
CE(E,F)=CE(E)+CFe(F)=c0-c1×Fα・・・(b)
(上式(b)において、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、c0,c1は定数であり、0<α<1である。)
【0012】
また、この第1の態様において、照射域の帯電量分布を、照射量分布及びかぶり電子量分布の多項式関数を用いて算出し、非照射域の帯電量分布を、かぶり電子量分布の多項式関数を用いて算出することが好ましい。
【0013】
より具体的には、照射域の帯電量分布を、下式(c)で表される多項式関数を用いて算出することが好ましい。
C(E,F)=(d0+d1×ρ+d2×D+d3×E)+(e1×F+e2×F2+e3×F3)・・・(c)
(上式(c)において、ρはパターン密度分布、Dはドーズ量分布、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、d0,d1,d2,d3,e1,e2,e3は定数である。)
【0014】
また、非照射部域の帯電量分布を、下式(d)で表される多項式関数を用いて算出することが好ましい。
CF(F)=f1×F+f2×F2+f3×F3・・・(d)
(上式(d)において、Fはかぶり電子量分布、f1,f2,f3は定数である。)
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の第2の態様は、荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、試料の荷電粒子ビームが照射される照射域の帯電量分布と、荷電粒子ビームが照射されない非照射域の帯電量分布とに基づいて、試料上の荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する位置ずれ量分布算出手段と、位置ずれ量の分布に基づいて偏向器を制御する偏向器制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
この第2の態様において、試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、照射域及び非照射域の帯電量分布を算出する帯電量分布算出手段を更に備えてもよい。
【0017】
この第2の態様において、照射量分布と、照射域から前記非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、かぶり電子量分布を算出するかぶり電子量分布算出手段を更に備えてもよい。
【0018】
また、この第2の態様において、試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出するドーズ量分布算出手段と、パターン密度分布及びドーズ量分布に基づいて、照射量分布を算出する照射量分布算出手段とを更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
この第1の態様によれば、照射量分布から線形応答関数を介して位置ずれ量分布を直接導くのではなく、照射量分布とかぶり電子量分布を用いて照射域及び非照射域の帯電量分布を算出し、該帯電量分布に基づいて位置ずれ量分布を算出するため、線形比例関係を考慮した場合には算出されなかった試料上のビームの位置ずれを算出することができる。従って、帯電効果によるビーム位置ずれを精度良く補正することができる。
【0020】
この第2の態様によれば、照射域及び非照射域の帯電量分布に基づいて、試料上の荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出し、該位置ずれの分布に基づいて偏向器を制御するため、帯電効果によるビーム位置ずれを精度良く補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本実施の形態における電子ビーム描画装置100の概略構成図である。
図1に示す可変成形ビーム方式の電子ビーム描画装置100は、描画部1を備えている。描画部1内には、試料2であるマスクを保持するXYステージ3が収容されている。試料2であるマスクは、ガラス基板上に酸化クロム膜とレジスト層とが順次積層されたものである。XYステージ3は、後述するステージ駆動手段46によって、X方向及びY方向に移動可能に構成されている。XYステージ3の移動位置は、レーザ干渉計4の出力に基づいて、後述するステージ位置検出手段45により検出される。
【0022】
XYステージ3の上方には、電子ビーム6の発生源である電子銃5が配置されている。電子銃5とXYステージ3との間には、照明レンズ7と、S1アパーチャ(第1アパーチャ)8と、投影レンズ9と、成形偏向器10と、S2アパーチャ(第2アパーチャ)11と、対物レンズ12と、対物偏向器13とが配置されている。
【0023】
また、電子ビーム描画装置100は、制御部20と、この制御部20に接続された記憶装置21とを備えている。記憶装置21は、後述するレイアウトデータ、位置ずれ量分布(「位置ずれ量マップ」ともいう)及び光学系誤差分布(「光学系誤差マップ」ともいう)等を記憶するものであり、例えば、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FDもしくは半導体メモリ等である。
【0024】
制御部20は、前処理計算部30を備えている。前処理計算部30は、パターン密度算出手段31と、ドーズ量分布算出手段32と、照射量分布算出手段33と、かぶり電子量分布算出手段34と、帯電量分布算出手段35と、位置ずれ量分布算出手段36とを備えている。
【0025】
パターン密度分布算出手段31は、記憶装置21から読み出されたレイアウトデータに含まれる図形データに基づいて、所定寸法でメッシュ状に仮想分割された各フレームに対して、メッシュ領域毎のパターン密度の分布を算出するものである。ドーズ量分布算出手段32は、後述の後方散乱電子の近接効果補正式を用いてドーズ量の分布を算出するものである。照射量分布算出手段33は、パターン密度の分布及びドーズ量の分布に基づいて、試料に照射される電子ビームの照射量の分布を算出するものである。かぶり電子量分布算出手段34は、照射量分布と、かぶり電子の広がりを記述する関数とに基づいて、かぶり電子量の分布を算出するものである。帯電量分布算出手段35は、後述する方法により、電子ビームが照射される照射域の帯電量の分布と、電子ビームが照射されない非照射域の帯電量の分布とを算出するものである。位置ずれ量分布算出手段36は、帯電量分布算出手段35により算出された帯電量の分布に基づいて、試料上の電子ビームの位置ずれ量の分布を算出するものである。
【0026】
制御部20は、上記前処理計算部30のほかに、ショットデータ生成手段41と、グリッドマッチング制御手段42と、成形偏向器制御手段43と、対物偏向器制御手段44と、上述したステージ位置検出手段45及びステージ駆動手段46とを備えている。
【0027】
ショットデータ生成手段41は、記憶装置21から読み出されたレイアウトデータに基づいて描画データを作成し、該描画データに基づいてショットデータを作成するものである。グリッドマッチング制御手段42は、位置ずれ量分布算出手段36により算出された位置ずれ量分布に基づいて、対物偏向器制御手段44を制御するものである。成形偏向器制御手段43は、所望の寸法及び形状(矩形もしくは三角形)のS2アパーチャ像が得られるように、成形偏向器10の位置を制御するものである。対物偏向器制御手段44は、電子ビーム6が試料2上の所望位置に照射されるように、対物偏向器13の位置を制御するものである。
【0028】
次に、上記電子ビーム描画装置100の一般的な描画動作について説明する。
電子銃5から発せられた電子ビーム6は、照明レンズ7により矩形開口部を有するS1アパーチャ8全体を照明する。S1アパーチャ8を透過したS1アパーチャ像の電子ビーム6は、投影レンズ9により鍵型開口部を有するS2アパーチャ11上に投影される。S2アパーチャ11上の第1アパーチャ像の位置は、成形偏向器10によって偏向される。そうすると、所望のビーム形状と寸法に成形される。S2アパーチャ11を透過したS2アパーチャ像の電子ビーム6は、対物レンズ12によって焦点が合わせられると共に、対物偏向器13により偏向され、XYステージ3上の試料2の所望位置に照射される。
【0029】
パターン描画時にXYステージ3が連続移動することで、図2に示すように、試料2が移動する。図2は、パターン描画時の試料2の移動方向を示す図である。試料2の描画領域Rは、複数の短冊状のストライプ領域SRに仮想分割される。1つのストライプ領域SR上をX方向に電子ビーム6が照射される。すなわち、XYステージ3をX方向に連続移動させながら、電子ビーム6のショット位置(照射域)もステージ移動に追従させる。1つのストライプ領域の描画が終了すると、XYステージ3をY方向にステップ送りする。そして、次のストライプ領域上を電子ビーム6がX方向に照射される。このときXYステージ3を逆向きのX方向に連続移動させる。
【0030】
ところで、上述したように、試料2のレジスト層に電子ビームが照射されると、レジスト帯電効果によりビーム照射位置がずれることが知られている。
【0031】
そこで、本実施の形態では、図3Aに示すようなフローに従い、電子ビーム描画装置100において位置ずれ量を考慮したパターンの描画が行われる。図3Aは、本実施の形態による描画方法を説明するためのフローチャートである。
【0032】
図3Aに示すフローによれば、先ず、記憶装置21に記憶されたレイアウトデータがパターン密度算出手段31によって読み出され、該レイアウトデータに含まれる図形データに基づいて、所定寸法(グリッド寸法)でメッシュ状に仮想分割された各フレーム(以下「メッシュ領域」という)に対して、パターン密度が算出される(ステップS100)。このステップS100では、メッシュ領域毎のパターン密度の分布ρ(x,y)が算出される。
【0033】
次に、上記ステップS100で算出されたパターン密度分布ρ(x,y)を用いて、メッシュ領域毎のドーズ量の分布D(x,y)が算出される(ステップS102)。このステップS102では、以下の後方散乱電子の近接効果補正式(1)に従ってドーズ量分布D(x,y)が算出される。
D=D0×{(1+2×η)/(1+2×η×ρ)}・・・(1)
(上式(1)において、D0は基準ドーズ量であり、ηは後方散乱率である。)
【0034】
これらの基準ドーズ量D0及び後方散乱率ηは、当該荷電粒子ビーム描画装置100のユーザにより設定される。後方散乱率ηは、電子ビーム6の加速電圧、試料2のレジスト膜厚や下地基板の種類、プロセス条件(例えば、PEB条件や現像条件)などを考慮して設定することができる。
【0035】
次に、上記ステップS100で算出されたパターン密度分布ρ(x,y)と、上記ステップS102で算出されたドーズ量分布D(x,y)とを乗算することによって、メッシュ領域毎の照射量分布E(x,y)(「照射強度分布」ともいう)が算出される(ステップS104)。
【0036】
次いで、後述する方法に従って、かぶり電子量分布F(x,y,σ)が算出される(ステップS106)。そして、帯電量分布算出手段35により、後述する方法に従って帯電量分布C(x,y)が算出される(ステップS108)。
【0037】
尚、予め算出したパターン密度分布ρ(x,y)、ドーズ量分布D(x,y)、照射量分布E(x,y)、かぶり電子量分布F(x,y,σ)、帯電量分布C(x,y)を記憶装置21に記憶しておき、各ステップで記憶装置21から読み出して取得するようにしてもよい。
【0038】
次いで、位置ずれ量分布算出手段36により、上記ステップS108で算出された帯電量分布C(x,y)に基づいて、位置ずれ量分布p(x,y)が算出される(ステップS110)。このステップS110では、帯電量分布C(x,y)と、帯電量を位置ずれ誤差に変換する応答関数r(x,y)とを畳み込み積分することによって、位置ずれ量分布p(x,y)が算出される。
【0039】
そして、上記ステップS110で算出された位置ずれ量分布p(x,y)に基づいて、グリッドマッチングが実施される(ステップS112)。このステップS112において後述するように対物偏向器13の制御が行われた後、電子ビーム6が試料2に照射され、パターンが描画される(ステップS114)。
【0040】
尚、図3Aに示すフローに代えて、図3Bに示すフローに従って描画してもよい。図3Aと図3Bとは、ステップS102、103が異なっており、その他のステップは同一である。図3AのステップS102では、パターン密度分布ρ(x,y)に基づいてドーズ量分布D(x,y)を算出しているが、図3BのステップS103では、パターン密度分布ρ(x,y)に関係なく固定のドーズ量分布D(x,y)を取得している。図3BのステップS104では、ステップS103で取得された固定のドーズ量分布D(x,y)と、ステップS100で算出されたパターン密度分布ρ(x,y)とを乗算することによって照射量分布E(x,y)が求められる。
【0041】
このように、パターン密度分布ρ(x,y)によらず、固定のドーズ量分布D(x,y)を用いて照射量分布E(x,y)を算出してもよい。図4において、◆は、パターン密度ρに応じて変化するドーズ量を示し、□は、パターン密度に関係なく固定されたドーズ量(21μC/cm2)を示している。
【0042】
次に、図5を参照して、上記ステップS112において実施されるグリッドマッチングの流れを説明する。
【0043】
図5に示すように、位置ずれ量分布算出手段36により算出された位置ずれ量分布は、記憶装置21に記憶される。その後、この記憶装置21に記憶された位置ずれ量分布と、予め作成され記憶装置21に記憶された光学系誤差分布とが、グリッドマッチング制御手段42により読み出される。グリッドマッチング制御手段42は、位置ずれ量分布のメッシュ毎の各データと、光学系誤差分布のメッシュ毎の各データとを合成し、合成したデータを対物偏向器制御手段44に出力する。対物偏向器制御手段44は、入力されたデータに基づき、電子ビーム6の偏向位置を制御する。すなわち、位置ずれ量分布と光学系誤差分布とを考慮した補正位置へと対物偏向器13の位置が制御される。
【0044】
試料上のパターンの配置精度を向上させるためには、グリッドマッチングを精度良く行う必要があり、そのためには位置ずれ量分布p(x,y)(「位置ずれ量分布」ともいう)を高精度に算出する必要がある。
【0045】
次に、位置ずれ量分布p(x,y)の算出方法について説明する。
【0046】
先ず、図6を参照して、本実施の形態に対する比較例による位置ずれ量分布の算出方法について説明する。
【0047】
本比較例では、ある照射量分布E(x,y)に対して、電子(帯電量)の広がり分布を記述する関数g’(x,y)があると仮定する。この関数g’(x,y)として、例えば、図7に示すように、電子ビーム照射域では正に帯電し、非照射域では負に帯電するガウス分布のモデルを用いることができる。そして、照射量分布E(x,y)と広がり分布関数g’(x,y)とを畳み込み積分(convolution)することにより帯電量分布C(x,y)が求められる。
【0048】
次いで、この帯電量分布C(x,y)を位置ずれ量分布p(x,y)に変換する応答関数r(x,y)を仮定する。ここで、ビームの位置ずれは、ビーム照射位置(x,y)から帯電位置(x’,y’)までの距離の関数として表すことができるため、応答関数を「r(x-x’,y-y’)」のように記述することができる。
【0049】
図8は、この応答関数r(x,y)を計算するために仮定したモデルを示す図である。図8に示すように、共に0Vにアースされた2つの平行平板51、52が、互いに距離Lだけ離間して配置されている。上部平板51は、描画部1壁面、具体的には、対物レンズ12のブロックに相当し、下部平板52は、フォトマスクのクロム層に相当する。2つの平板51、52は、完全な導電体として考慮される。点電荷源55は、膜厚hのレジスト53の表面に位置する。導電性クロム層52は静的ポテンシャル計算では鏡とみなすことができるので、鏡像電荷54が等距離“−h”だけクロム層52の下に位置する。実際の帯電55とミラー帯電54は、双極子56としてペアで働く。導電性の上部平板51も鏡とみなすことができるので、無限数の双極子56の1対は“2L”のピッチで配置される。実際の計算では、双極子56の数はある実際的な限界で切り捨てられる。50keVで加速された電子57の軌道は、運動方程式を解くことで計算され、レジスト53表面到達時の電子位置の最終的なずれは与えられた入射位置に対するビーム位置誤差として得られる。
【0050】
この仮定によれば、位置ずれ量分布p(x,y)は、応答関数r(x,y)と帯電量分布C(x,y)とを畳み込み積分することによって求められる。すなわち、位置ずれ量分布p(x,y)は、応答関数r(x,y)と帯電分布関数g’(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することによって求められる。
【0051】
ここで、照射量分布E(x,y)と位置ずれ量分布p(x,y)との間には線形比例関係が成立すると仮定すると、図6に示すように、線形応答関数R(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することによって位置ずれ量分布p(x,y)を求めることができる。すなわち、本比較例によれば、照射量分布E(x,y)から線形応答関数R(x,y)を介して位置ずれ量分布p(x,y)が直接導かれるため、帯電量分布C(x,y)の計算をスキップすることができる。
【0052】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記比較例により求められた位置ずれ量分布p(x,y)は、実験結果と相違することが分かった。
【0053】
図9A、図9B及び図10を参照して、上記比較例による位置ずれ量分布の算出方法を検証する。
【0054】
上記比較例による位置ずれ量分布の算出方法を検証するにあたって、先ず、図9Aに示すように、照射量分布e(x)として1次ステップ関数を与えた。この関数によれば、照射域での照射量が1であり、非照射域での照射量が0である。
【0055】
上記比較例では、図9Bに示すように、この照射量分布e(x)と線形応答関数R(x)との畳み込み積分により位置ずれ量分布p(x)を求めている。従って、この位置ずれ量分布p(x)を微分することによって線形応答関数R(x)を求めることができる。位置ずれ量分布p(x)の微分により求められた線形応答関数R1(x)は、図10に示すように、望ましい応答関数R2(x)とは異なり、照射域と非照射域との境で回転対称となっていないことが判った。従って、上記比較例における線形比例関係の仮定が成立しないことが判った。
【0056】
そこで、本発明者は、線形応答関数R(x)を用いることなく、位置ずれ量分布を算出するための新たなモデルを見出した。
【0057】
本発明者は、先ず、レジスト帯電効果を測定した。図11は、レジスト帯電効果を測定するために用いたテストレイアウトを示す図である。尚、図11においては、各部の内容をより分かりやすくするために、縮尺を変えて示している。
【0058】
図11に示すテストレイアウトTLは、ピッチL1が1mmであり、1辺の長さL2が80mmであるグリッド(81×81グリッド)60上に第1ボックスアレイ62を照射量12μC/cm2で描画した後、当該レイアウトTLの中央に1辺の長さL3が40mmであるパターン密度100%の照射パッド63を照射量21μC/cm2で描画し、さらに、第1ボックスアレイ62と同じグリッド60上に第2ボックスアレイ64を照射量12μC/cm2で描画することにより得られる。
【0059】
図12に拡大して示すように、第1ボックスアレイ62は、例えば、1辺の長さL4が4μmである正方形のパターンである。また、第2ボックスアレイ64は、例えば、1辺の長さL5が14μmであり、第1ボックスアレイ62よりも大きいサイズで中央がくり抜かれている枠状のパターンである。
【0060】
ここで、照射パッド63のパターン密度を100%、75%、50%、25%のように変化させて、上記のテストレイアウトTLをそれぞれ形成した。図13A乃至図13Dは、パターン密度が100%、75%、50%、25%である照射パッド63A、63B、63C、63Dをそれぞれ示している。
【0061】
図13Aに示す照射パッド63Aは、距離L6だけ相互に離間する矩形状の複数のパターン630によって構成されている。この距離L6は、例えば、20μmである。図13Bに示す照射パッド63Bは、上記距離L6だけ相互に離間する複数のパターン631によって構成されている。各パターン631は、短辺の長さL7が例えば4μmである複数のラインパターン631aを交差させてなるものである。図13Cに示す照射パッド63Cは、上記距離L6だけ相互に離間する複数のパターン632によって構成されている。各パターン632は、複数の正方形のパターン632aを有する。このパターン632aの一辺の長さL8は、例えば4μmである。図13Dに示す照射パッド63Dは、上記距離L6だけ相互に離間する複数のパターン633によって構成されている。各パターン633は、上記パターン632を構成するパターン632aの数が半分にされたものである。
【0062】
上記描画した第1及び第2ボックスアレイ62、64の位置をレジストイメージ測定法を用いてそれぞれ測定し、第2ボックスアレイ64の位置から第1ボックスアレイ62の位置を差し引くことにより、照射パッド63の帯電効果による位置ずれを測定することができる。なお、本実施の形態では、測定時間を短縮するため、図11に示す81×81グリッドのうち、2mmピッチの41×41グリッド上に描画された2つのボックスアレイ62、64の位置ずれを測定した。
【0063】
ここで、本実施の形態では、図4に示すように、パターン密度ρに関係なくドーズ量Dを固定(21μC/cm2)にした場合と、パターン密度ρに応じてドーズ量Dを変化させた場合とのそれぞれについて、4種類の化学増幅型レジストA乃至Dについて、上記のようにパターン密度を100%、75%、50%、25%と変えてテストレイアウトTLをそれぞれ形成し、テストレイアウト毎に位置ずれの測定を行った。
【0064】
帯電効果による位置ずれの測定結果を図14A乃至図14Cに示す。図14A乃至図14Cは、ドーズ量Dが固定である場合において、3種類のレジストA、B、Cについて、照射域と非照射域の境界近傍の位置ずれと、非照射域の外周の位置ずれとを概略的に示している。
【0065】
図14A乃至図14Cに示すように、3種類のレジストA、B、Cの何れについても、非照射域の外周では、外側に膨らむように同様な位置ずれ71A、71B、71Cを起こしている。
【0066】
これに対し、照射域と非照射域との境界近傍では、図14A及び図14Bに示すように、レジストA、Bの場合は、共に照射域の内側に向かって位置ずれ70A、70Bを起こしている。これらの位置ずれ70A、70Bは、レジストAの場合の位置ずれ70Aが上下と左右でほぼ対称であるのに対して、レジストBの場合の位置ずれ70Bが上下非対称である点で相違する。また、これらレジストA、Bの場合とは異なり、レジストCの場合の位置ずれ70Cは、図14Cに示すように、照射域内側への位置ずれがほとんど見られない。
【0067】
図15A乃至図15D、図16A乃至図16D、図17A乃至図17Dは、3種類のレジストA、B、Cについて、パターン密度によらずドーズ量が一定(21μC/cm2)である場合の11列平均のX方向の位置ずれを示す図である。これらの図15A乃至図17Dは、それぞれ81×81グリッドの第31列、第33列、…、第49列、第51列の11列平均のX方向の位置ずれ量をプロットしたものである。図15A、図16A、図17Aは、照射パッド63のパターン密度が25%である場合の位置ずれ量を示し、図15B、図16B、図17Bは、照射パッド63のパターン密度が50%である場合の位置ずれ量を示している。また、図15C、図16C、図17Cは、照射パッド63のパターン密度が75%である場合の位置ずれ量を示し、図15D、図16D、図17Dは、照射パッド63のパターン密度が100%である場合の位置ずれ量を示している。
【0068】
図15A乃至図17Dに示される結果によれば、パターン密度が高いほど位置ずれ量が多くなり、また、同じパターン密度でもレジストの種類が異なると位置ずれ量が異なることが判った。
【0069】
ところで、図18は、レジストAについて、パターン密度ρが25%でありドーズ量Dが固定の21μC/cm2である場合の上記X方向の位置ずれ量と、パターン密度ρが100%でありドーズ量Dが5.25μC/cm2である場合の上記X方向の位置ずれ量とを併せて示している。ここで、上述したようにパターン密度ρとドーズ量Dを乗算することによって照射量Eが求められるため、これら2つの場合の照射量Eは同じである。このため、これら2つの場合の位置ずれ量は同等になると考えられるが、図18に示すように両者の位置ずれ量は異なっている。これは、パターン密度ρによらずドーズ量Dが21μC/cm2に固定された場合と、パターン密度ρに応じて変化するドーズ量(5.25μC/cm2)である場合との違いによるものであると考えられる。従って、位置ずれ量分布を精度良く算出するためには、照射量分布の算出精度を高める必要があり、そのためには、図3AのステップS102で実施されるようにパターン密度ρに応じてドーズ量分布D(x,y)を算出することが好適である。
【0070】
次に、上記測定結果を説明することが可能な位置ずれ量分布を算出するために、図3A及び図3Bに示すステップS106で実施されるかぶり電子量分布F(x,y,σ)の算出方法について説明する。
【0071】
上記ステップS106では、先ず、照射量分布E(x,y)に対して、かぶり電子の広がり分布を記述する関数g(x,y)があると仮定する。この関数g(x,y)は、上記比較例と同様に、図7に示すようなガウス分布のモデルであり、次式(2)のように表すことができる。
g(x,y)=(1/πσ2)×exp{-(x2+y2)/σ2}・・・(2)
【0072】
そして、次式(3)のように、広がり分布関数g(x,y)と照射量分布E(x,y)とを畳み込み積分することにより、かぶり電子量分布(「かぶり電子量強度」ともいう。)F(x,y,σ)が求められる。
F(x,y,σ)=∬g(x-x″,y-y″)E(x″,y″)dx″dy″・・・(3)
【0073】
次に、図3A及び図3Bに示すステップS108で実施される帯電量分布C(x,y)の算出について説明する。
【0074】
上記ステップS108では、先ず、照射量分布E(x,y)及びかぶり電子量分布F(x,y,σ)から帯電量分布C(x,y)を求めるための関数C(E,F)を仮定した。この仮定した関数C(E,F)を、次式(4)のように、照射電子が寄与する変数CE(E)と、かぶり電子が寄与する変数CF(F)とに分離した。
C(E,F)=CE(E)+CF(F)・・・(4)
【0075】
さらに、照射域の関数は、変数CF(F)=0、すなわちC(E,F)=CE(E)と仮定した。一方、非照射域の関数は、変数CE(E)=0、すなわち、C(E,F)=CF(F)と仮定した。また、図19Aに示すように、照射域内は均一に帯電すること、すなわち、CE(E)=coと仮定した。このcoは、定数であり、例えば、1である。また、非照射域では、図19Bに示すように、かぶり電子量強度Fが大きくなるほど、帯電CF(F)が飽和する。そこで、非照射域の変数CF(F)を次式(5)のように表すこととした。
CF(F)=-c1×Fα・・・(5)
【0076】
上式(5)中のαは、0<α<1の条件を満たす。本発明者の実験によれば、α=0.3-0.4のときに、最も実験結果に近くなり、好適であることが分かった。この好適なαの範囲は、使用する電子ビーム描画装置に応じて変えることができる。
【0077】
ここで、上式(5)のように関数CF(F)を規定した理由について説明する。
【0078】
位置ずれ測定結果は、図15A乃至図17Dに示すように、4種類のパターン密度(100%、75%、50%、25%)について得られている。かぶり電子量強度Fは、パターン密度100%のときのかぶり電子量強度FをF100とすると、各パターン密度での強度は、パターン密度に比例してそれぞれF100,0.75×F100,0.5×F100,0.25×F100となる。しかし、CF(F)は、未知の関数である。このため、CF(F100),CF(0.75×F100),CF(0.5×F100),CF(0.25×F100)は強度比例せず、しかも各パターン密度で分布形状が互いに異なる可能性がある。このように各パターン密度での分布形状が異なると、パターン密度毎にCF(F)を規定しなければならず、解析上不便である。
【0079】
そこで、任意のFに対して、パターン密度が変化しても、相似形の分布形状が得られる関数CF(F)とした。すなわち、関数CF(F)が次式(6)の関係を満たすように規定した。次式(6)におけるaはパターン密度であり、Aは定数である。
CF(aF)/CF(F)=A・・・(6)
【0080】
相似形の関数であれば、CF(F)全体の強度は比例しなくても、分布形状が変わらない。強度については、上記パラメータc0,c1の組み合わせにより調整することができる。よって、CF(F)をパターン密度毎に規定する必要はなく、1つのσに対して1つのCF(F)を規定するだけでよいため、解析を簡単にすることができる。
【0081】
次に、図20を参照して、上記パラメータc0,c1,σiの最適な組み合わせを決定する。
図20に示すように、照射域については、coという大きさのステップ形状の帯電量分布CE(E)を仮定し、この帯電量分布CE(E)と予め計算しておいた応答関数r(x)を畳み込み積分することによって、位置ずれ量p0(x)を算出する(ステップS200)。
【0082】
また、非照射域については、あるαとかぶり電子広がり半径(以下「かぶり半径」という)σを仮定してCF(F)を計算する(ステップS202)。このCF(F)を複数のかぶり半径σに対して求める。例えば、かぶり半径σは1mm〜24mmまで1mm間隔で仮定される。そして、かぶり半径σ1〜σiに対しての帯電量分布CF(F)と応答関数rを用いて、位置ずれ量p1(x)〜pi(x)を求める。
【0083】
これらの照射域及び非照射域の位置ずれ量p(x)を合成すると、次式(7)のように表される(ステップS204)。
p(x)=c0×p0(x)+c1×pi(x)・・・(7)
【0084】
そして、上式(7)が実験結果を最も良く適合(フィッティング)するパラメータc0,c1,σの組み合わせを求める。図21A乃至図21D、図22A乃至図22D、図23A乃至図23Dは、レジストA、B、Cについてのフィッティング結果を示す図である。図21A、図22A、図23Aは、照射パッド63のパターン密度が25%である場合のフィッティング結果を示し、図21B、図22B、図23Bは、照射パッド63のパターン密度が50%である場合のフィッティング結果を示している。また、図21C、図22C、図23Cは、照射パッド63のパターン密度が75%である場合のフィッティング結果を示し、図21D、図22D、図23Dは、照射パッド63のパターン密度が100%である場合のフィッティング結果を示している。
【0085】
図21A乃至図23Dに示される結果を用いることで、上記比較例に比べて精度良く位置ずれ量分布を求めることができた。
【0086】
図24A乃至図24Cは、レジストA、B、Cについて、フィッティングにより求められたパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【0087】
ところで、図24A乃至図24Cに示すように、同じ種類のレジストを使用する場合でも、パターン密度が異なると最適なかぶり半径σが異なってしまうことが分かった。物理的に、パターン密度に依存してかぶり半径σが変化しないことが望ましい。また、レジストAについては良好なフィッティング結果が得られたものの、レジストB,CについてはレジストAほど良好なフィッティング結果が得られなかった。本発明者の検討によれば、これらの結果は、照射部の帯電をCE(E)=coとフラットに仮定したことによるものと考えられる。
【0088】
そこで、本発明者は、照射域の帯電量分布についてもかぶり電子の影響を記述するように、上記モデルを修正した。かかるモデルでは、照射域での帯電量分布を次式(8)のように表した。但し、非照射部の帯電量分布は、上記モデルと同様とした。
C(E,F)=CE(E)+CFe(F)=c0-c1×Fα・・・(8)
【0089】
修正されたモデルについて求められたパラメータc0,c1,σの組み合わせを図25A及び図25Bに示す。図25A及び図25Bは、レジストB、CについてのパラメータC0,C1,σの組み合わせを示している。図25A及び図25Bに示すように、修正されたモデルは、かぶり半径σがパターン密度依存性をなお有している。さらに、フィッティングにより求められたc1は、上記式(4)の曲線に乗らなければならないが、乗らないことが判った。
【0090】
そこで、本発明者は、これらを解決する新たな一般化モデルを構築した。
【0091】
先ず、非照射域の帯電量分布CF(F)とかぶり電子量強度Fとの関係を、次式(9)のような多項式関数によって表した。次式(9)において、f1,f2,f3は、定数である。
CF(F)=f1×F+f2×F2+f3×F3・・・(9)
【0092】
次に、図24A乃至図25Bに示したパラメータ群を用いて、各パターン密度についてy=0における帯電量分布C(x,0)を算出した。算出した帯電量分布C(x,0)を図26に示す。図24A乃至図25Bに示すパラメータ群を用いるのは、パターン密度に依存して最適なかぶり半径σが変化するものの、各パターン密度での分布形状は正しいためである。
【0093】
なお、y=0に限定せず、2次元で帯電量分布C(x,y)を算出することにより、以下に行うフィッティングの精度を向上させることができる。
【0094】
そして、図26に示す非照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(9)のCF(F)とが最も適合するような最適なかぶり半径σを求める。図27Aに示すようにかぶり半径σが過小である場合や、図27Cに示すようにかぶり半径σが過大である場合には、良好なフィッティング結果が得られない。つまり、かぶり半径σが過小もしくは過大となると、各パターン密度のデータが相互に離れてしまうため、上記パラメータf1,f2,f3を求めることができない。これに対して、図27Bに示すように最適なかぶり半径σが求められると、良好なフィッティング結果が得られ、上記パラメータf1,f2,f3を求めることができる。
【0095】
次に、上記求めた最適なかぶり半径σを用いて、照射域のかぶり電子量分布Fを求める。そして、照射域の帯電量分布C(E,F)を照射量分布Eと、上式(9)で求められたかぶり電子量分布Fとを用いて、次式(10)のような多項式関数によって表した。次式(10)では、かぶり電子が寄与する帯電量分布CFe(F)が考慮されている。
C(E,F)=CE(E)+CFe(F)
=(d0+d1×ρ+d2×D+d3×E)+(e1×F+e2×F2+e3×F3)・・・(10)
【0096】
そして、図26に示す照射域の帯電量分布C(x,0)と、上式(10)の帯電量分布C(E,F)とが最も適合するようなパラメータd0,d1,d2,d3,e1,e2,e3を求める。ここで、フィッティング結果を図28に示す。
【0097】
これらの照射域及び非照射域の帯電量分布のフィッティングにより求められたパラメータd0,d1,d2,d3,e1,e2,e3,f1,f2,f3,σの最適な組み合わせを、図29に示す。図29に示すように、最適なかぶり半径σは、レジストの種類に応じて、8mm〜16mmの範囲から選択される。この一般化モデルでは、上記した相似形の関数を用いたモデルとは異なり、パターン密度が変化しても、最適なかぶり半径σは変わらない。尚、図29に示すように、同じ種類のレジストAについて、パターン密度ρによらずドーズ量Dを固定した場合の最適なかぶり半径σ(=13mm)と、パターン密度ρに応じて後方散乱電子の近接効果補正式(1)に従ってドーズ量Dを変化させた場合の最適なかぶり半径σ(=8mm)とが異なることが判った。
【0098】
なお、レジストの膜厚が異なると最適なかぶり半径σが異なるため、膜厚が異なるレジストを別のレジストとして、上記方法に従って個別に最適なかぶり半径σを求めるようにしてもよい。
【0099】
このようにして求めた帯電量分布C(x,y)を用いて、図3A及び図3Bに示すステップS110において、位置ずれ量分布p(x,y)を算出する。図30A乃至図30Cは、レジストA、B、Cについて、本実施の形態による一般化モデルで求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。図中、一般化モデルで求められた位置ずれ量分布を実線で示し、実験データを破線で示している。また、図30A乃至図30Cでは、図14A乃至図14Cと同様に、照射域と非照射域の境界近傍の位置ずれと、非照射域外周の位置ずれとを概略的に示している。各レジストA、B、Cについて、求めた位置ずれ量分布と、実験データとが略一致している。図30A乃至図30Cに示すように、本発明者が確立した一般化モデルを用いて位置ずれ量分布を求めることで、位置ずれ量分布を精度良く算出することができる。
【0100】
そして、この位置ずれ量分布を用いて、図5に示すようにグリッドマッチングを行うことにより、帯電効果によるビーム位置ずれが補正される。図31は、グリッドマッチング前後におけるビーム照射位置ずれ量を示す図である。図31において斜線で示されるように、グリッドマッチング後に残存するビーム照射位置ずれ量は、帯電防止膜を用いた場合と同等のレベルまで低減される。
【0101】
ところで、レジストA、Dのように、ある種類のレジストでは、照射部の帯電量分布のうちかぶり電子の寄与CFe(F)=0とすることにより、良好なフィッティング結果が得られることが分かった。これは、図29に示すレジストA、Dについてのパラメータe1=e2=e3=0であることからも分かる。このようなタイプのレジストA、Dに対しても、本発明者が構築した一般化モデルは対応可能である。
【0102】
また、電子ビームが照射されることで、レジストが一瞬だけ導電性を有するEBIC(electron beam induced conductivity)という物理効果が知られている。上記一般化モデルは、該EBICにも対応可能である。すなわち、EBICは電子ビームが照射されなければ起きない現象であるため、電子ビームが照射されるまでは非照射域として電荷が蓄積される。かかる蓄積された電荷は、電子ビームの照射により下地に逃げる。このため、かぶり電子によるCFe(F)は一旦リセットされ、ゼロから蓄積され始める。さらに、電子ビームが一度照射されると、導電性が僅かに残る場合がある。この場合には、電子ビームが照射される前に比して、電子ビームが照射された後の方がかぶり電子の帯電量が少なくなる。上記一般化モデルでは、非照射域を記述するパラメータf1,f2,f3から、照射域を記述するパラメータe1,e2,e3にシフトすることにより、かかる帯電量の減少に対応することができる。
【0103】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施の形態における電子ビーム描画装置100の概略構成図である。
【図2】パターン描画時の試料2の移動方向を示す図である。
【図3A】本発明の実施の形態による描画方法を説明するためのフローチャートである。
【図3B】本発明の実施の形態による描画方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】パターン密度に応じてドーズ量を変化させる場合と、パターン密度に関係なくドーズ量を固定する場合とを示す図である。
【図5】グリッドマッチングの流れを説明するための概略図である。
【図6】本発明の実施の形態に対する比較例による位置ずれ量分布の算出方法を説明するための図である。
【図7】広がり分布を記述する関数g’(x,y)を示す図である。
【図8】応答関数を計算するために仮定したモデルを示す図である。
【図9A】比較例の検証時に与えられた1次ステップ関数を示す図である。
【図9B】比較例により求められた位置ずれ量分布p(x)を示す図である。
【図10】比較例の検証時に求められた線形応答関数R1(x)を示す図である。
【図11】レジスト帯電効果を測定するためのテストレイアウトを示す図である。
【図12】第1及び第2ボックスアレイを拡大して示す図である。
【図13A】パターン密度が100%である照射パッドを示す図である。
【図13B】パターン密度が75%である照射パッドを示す図である。
【図13C】パターン密度が50%である照射パッドを示す図である。
【図13D】パターン密度が25%である照射パッドを示す図である。
【図14A】化学増幅型レジストAについての位置ずれの測定結果を示す概略図である。
【図14B】化学増幅型レジストBについての位置ずれの測定結果を示す概略図である。
【図14C】化学増幅型レジストCについての位置ずれの測定結果を示す概略図である。
【図15A】レジストA、パターン密度25%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図15B】レジストA、パターン密度50%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図15C】レジストA、パターン密度75%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図15D】レジストA、パターン密度100%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16A】レジストB、パターン密度25%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16B】レジストB、パターン密度50%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16C】レジストB、パターン密度75%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図16D】レジストB、パターン密度100%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17A】レジストC、パターン密度25%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17B】レジストC、パターン密度50%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17C】レジストC、パターン密度75%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図17D】レジストC、パターン密度100%の場合のX方向の位置ずれ量をプロットした図である。
【図18】レジストAについて、パターン密度ρが25%であり、ドーズ量Dが21μC/cm2である場合の位置ずれ量と、パターン密度ρが100%であり、ドーズ量Dが5.25μC/cm2である場合の位置ずれ量とを示す図である。
【図19A】照射域の帯電量分布の関数を示す図である。
【図19B】非照射域の帯電量分布の関数を示す図である。
【図20】パラメータc0,c1,σiの最適な組み合わせを求める方法を説明するための図である。
【図21A】レジストA、パターン密度25%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図21B】レジストA、パターン密度50%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図21C】レジストA、パターン密度75%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図21D】レジストA、パターン密度100%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22A】レジストB、パターン密度25%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22B】レジストB、パターン密度50%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22C】レジストB、パターン密度75%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図22D】レジストB、パターン密度100%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23A】レジストC、パターン密度25%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23B】レジストC、パターン密度50%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23C】レジストC、パターン密度75%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図23D】レジストC、パターン密度100%の場合のフィッティング結果を示す図である。
【図24A】レジストAについてのパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図24B】レジストBについてのパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図24C】レジストCについてのパラメータc0,c1,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図25A】レジストBについて修正されたモデルで求められたパラメータc0,c1,σの組み合わせを示す図である。
【図25B】レジストCについて修正されたモデルで求められたパラメータc0,c1,σの組み合わせを示す図である。
【図26】帯電量分布C(x,0)を示す図である。
【図27A】かぶり半径σが過小であるときのフィッティング結果を示す図である。
【図27B】かぶり半径σが最適であるときのフィッティング結果を示す図である。
【図27C】かぶり半径σが過大であるときのフィッティング結果を示す図である。
【図28】照射域の帯電量分布C(x,0)と、帯電量分布C(E,F)とのフィッティング結果を示す図である。
【図29】パラメータd0,d1,d2,d3,e1,e2,e3,f1,f2,f3,σの最適な組み合わせを示す図である。
【図30A】レジストAについて、本実施の形態による一般化モデルによって求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。
【図30B】レジストBについて、本実施の形態による一般化モデルによって求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。
【図30C】レジストCについて、本実施の形態による一般化モデルによって求められた位置ずれ量分布と実験データとのフィッティング結果を示す図である。
【図31】グリッドマッチング後に残存するビーム照射位置ずれ量を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 描画部
2 試料
3 ステージ
6 電子ビーム
13 対物偏向器
20 制御部
21 記憶装置
31 パターン密度分布算出手段
32 ドーズ量分布算出手段
33 照射量分布算出手段
34 かぶり電子量分布算出手段
35 帯電量分布算出手段
36 位置ずれ量分布算出手段
42 グリッドマッチング制御手段
44 対物偏向器制御手段
100 電子ビーム描画装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを偏向し、ステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、
試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、荷電粒子ビームの照射域の帯電量分布と非照射域の帯電量分布とを算出する工程と、
前記照射域及び非照射域の帯電量分布に基づいて、前記試料上の前記荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する工程と、
前記位置ずれ量の分布に基づいて前記荷電粒子ビームを偏向し、前記試料にパターンを描画する工程とを含むことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記照射量分布と、前記試料の荷電粒子ビームが照射される照射域から非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、前記かぶり電子量分布を算出する工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出する工程と、
前記パターン密度分布と前記ドーズ量分布とに基づいて、前記照射量分布を算出する工程とを更に含むことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記非照射域の帯電量分布を、下式(a)で表される関数CF(F)を用いて算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム描画方法。
CF(F)=-c1×Fα・・・(a)
(上式(a)において、Fはかぶり電子量分布、c1は定数であり、0<α<1である。)
【請求項5】
前記照射域の帯電量分布を、下式(b)で表される関数CE(E,F)を用いて算出することを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム描画方法。
CE(E,F)=CE(E)+CFe(F)=c0-c1×Fα・・・(b)
(上式(b)において、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、c0,c1は定数であり、0<α<1である。)
【請求項6】
前記照射域の帯電量分布を、下式(c)で表される多項式関数を用いて算出し、
C(E,F)=(d0+d1×ρ+d2×D+d3×E)+(e1×F+e2×F2+e3×F3)・・・(c)
(上式(c)において、ρはパターン密度分布、Dはドーズ量分布、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、d0,d1,d2,d3,e1,e2,e3は定数である。)
前記非照射部域の帯電量分布を、下式(d)で表される多項式関数を用いて算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム描画方法。
CF(F)=f1×F+f2×F2+f3×F3・・・(d)
(上式(d)において、Fはかぶり電子量分布、f1,f2,f3は定数である。)
【請求項7】
荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
前記試料の荷電粒子ビームが照射される照射域の帯電量分布と、荷電粒子ビームが照射されない非照射域の帯電量分布とに基づいて、前記試料上の荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する位置ずれ量分布算出手段と、
前記位置ずれ量の分布に基づいて前記偏向器を制御する偏向器制御手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、前記照射域及び非照射域の帯電量分布を算出する帯電量分布算出手段を更に備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項9】
前記照射量分布と、前記照射域から前記非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、前記かぶり電子量分布を算出するかぶり電子量分布算出手段を更に備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項10】
前記試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出するドーズ量分布算出手段と、
前記パターン密度分布及びドーズ量分布に基づいて、前記照射量分布を算出する照射量分布算出手段とを更に備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項1】
荷電粒子ビームを偏向し、ステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、
試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、荷電粒子ビームの照射域の帯電量分布と非照射域の帯電量分布とを算出する工程と、
前記照射域及び非照射域の帯電量分布に基づいて、前記試料上の前記荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する工程と、
前記位置ずれ量の分布に基づいて前記荷電粒子ビームを偏向し、前記試料にパターンを描画する工程とを含むことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記照射量分布と、前記試料の荷電粒子ビームが照射される照射域から非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、前記かぶり電子量分布を算出する工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出する工程と、
前記パターン密度分布と前記ドーズ量分布とに基づいて、前記照射量分布を算出する工程とを更に含むことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記非照射域の帯電量分布を、下式(a)で表される関数CF(F)を用いて算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム描画方法。
CF(F)=-c1×Fα・・・(a)
(上式(a)において、Fはかぶり電子量分布、c1は定数であり、0<α<1である。)
【請求項5】
前記照射域の帯電量分布を、下式(b)で表される関数CE(E,F)を用いて算出することを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム描画方法。
CE(E,F)=CE(E)+CFe(F)=c0-c1×Fα・・・(b)
(上式(b)において、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、c0,c1は定数であり、0<α<1である。)
【請求項6】
前記照射域の帯電量分布を、下式(c)で表される多項式関数を用いて算出し、
C(E,F)=(d0+d1×ρ+d2×D+d3×E)+(e1×F+e2×F2+e3×F3)・・・(c)
(上式(c)において、ρはパターン密度分布、Dはドーズ量分布、Eは照射量分布、Fはかぶり電子量分布、d0,d1,d2,d3,e1,e2,e3は定数である。)
前記非照射部域の帯電量分布を、下式(d)で表される多項式関数を用いて算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム描画方法。
CF(F)=f1×F+f2×F2+f3×F3・・・(d)
(上式(d)において、Fはかぶり電子量分布、f1,f2,f3は定数である。)
【請求項7】
荷電粒子ビームを偏向器により偏向させてステージ上の試料にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
前記試料の荷電粒子ビームが照射される照射域の帯電量分布と、荷電粒子ビームが照射されない非照射域の帯電量分布とに基づいて、前記試料上の荷電粒子ビームの位置ずれ量の分布を算出する位置ずれ量分布算出手段と、
前記位置ずれ量の分布に基づいて前記偏向器を制御する偏向器制御手段とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記試料に照射される荷電粒子ビームの照射量分布と、かぶり電子量分布とを用いて、前記照射域及び非照射域の帯電量分布を算出する帯電量分布算出手段を更に備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項9】
前記照射量分布と、前記照射域から前記非照射域に広がるかぶり電子の広がり分布とに基づいて、前記かぶり電子量分布を算出するかぶり電子量分布算出手段を更に備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項10】
前記試料の所定領域毎のパターン密度分布に基づいて、ドーズ量分布を算出するドーズ量分布算出手段と、
前記パターン密度分布及びドーズ量分布に基づいて、前記照射量分布を算出する照射量分布算出手段とを更に備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図21D】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図22D】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図25A】
【図25B】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図27C】
【図28】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図30C】
【図31】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図17D】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図21C】
【図21D】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図22D】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図25A】
【図25B】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図27C】
【図28】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図30C】
【図31】
【公開番号】特開2009−260250(P2009−260250A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331585(P2008−331585)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】
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