説明

蒸気タービン翼及び蒸気タービン

【課題】耐酸化性、及び耐エロージョン性の2つの特性を同時に向上させることができ、かつ、製造工程が簡易で製造コストが安価な蒸気タービン翼及び蒸気タービンを提供する。
【解決手段】蒸気タービン3は、タービンロータ4と、タービンロータ4に植設される動翼5と、動翼5の上流側に配設される静翼6と、静翼6を支持するとともにタービンロータ4、動翼5、静翼6を内包するタービンケーシング13とを具備し、動翼5と静翼6との対により一つの段落7を形成すると共にタービンロータ4の軸方向に複数の段落7を並べて蒸気通路8を形成した構成である。静翼6表面、動翼5表面の少なくとも一部に非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度が800以上の結晶質からなる硬質粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン翼及び蒸気タービンに係り、特に蒸気タービンを構成する動翼(ブレード)、及び静翼(ノズル)の耐酸化性と耐エロージョン性を同時に向上させることができ、空力性能を維持し、性能向上を図ることのできる蒸気タービン翼及び蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、ボイラから供給された高温高圧蒸気の圧力・温度エネルギーを静翼と動翼を組合せた翼列を用いて回転エネルギーに変換する。図3は、このような蒸気タービンを用いた発電システムの概念図を示したものである。
【0003】
図3に示すように、ボイラ1で発生した蒸気は加熱器2でさらに加熱され、蒸気タービン3へ導かれる。
【0004】
蒸気タービン3は、タービンロータ4の周方向に植設された動翼(ブレード)と、ケーシングで支持される静翼(ノズル)の組み合わせからなる段落をタービンロータ4の軸方向に複数段並べて構成されている。そして、蒸気タービン3に導かれた蒸気が、蒸気通路内で膨張することにより、その高温・高圧のエネルギーがタービンロータ4に回転エネルギーとして変換される。
【0005】
上記タービンロータ4の回転エネルギーは、タービンロータ4に接続された発電機9に伝わり電気エネルギーへと変換される。一方、そのエネルギーを失った蒸気は蒸気タービン3から排出され復水器10へと導かれ、ここで海水等による冷却媒体11により冷却され凝縮して復水となる。この復水は給水ポンプ12で再びボイラ1へ供給される。
【0006】
ところで、蒸気タービン3は、供給される蒸気の温度・圧力の条件により、高圧タービン、中圧タービン、低圧タービン等に分けて構成されている。そして、上記のような発電システムの場合、特に高圧タービン、中圧タービンの段落では高温に晒されるため、蒸気タービンの動翼、静翼部品等の酸化が顕著である。
【0007】
蒸気タービンの動翼、静翼等においては、部品として組み込む際、表面に微細な粒子を吹き付けたりする等の方法により表面粗さをできるだけ小さくしている。これは、部品の表面粗さが大きい場合、翼等の表面において流体の流れが乱れ、剥離を起こすことによって翼としての空力特性が低下し、これがタービン全体の効率を低下させる原因となるためである。
【0008】
しかしながら、これらの部品は、実際のプラント中において使用された場合、初期の状態では表面粗さが小さいため高い空力性能を示すが、徐々に表面の酸化が進むことにより表面粗さが次第に大きくなり、運転時間の経過とともに翼の空力性能が徐々に低下し、タービン全体の効率も低下するという問題が指摘されている。また、この翼の表面酸化という問題に加えて、タービン中では主成分がマグネタイト(Fe34)である酸化スケール等の微小固体粒子が飛翔体として飛んでくるため、これが翼等に衝突し、いわゆる固体粒子エロージョンが発生し、これにより翼の減肉が起こる。これによっても翼の空力性能が低下し、タービン効率の低下が起こることが指摘されている。これらの問題に関連する技術として、以下のような提案がなされている。
【0009】
タービン部品の耐エロージョン性を向上させるために基材にクロム、アルミニウム、硫黄、窒素、炭素のうち、いずれか少なくとも一つ以上を選択、組み合せて拡散浸透処理を行った後、硼化処理を行い、表面にFeBの皮膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
また、基材表面に形成した窒化硬質層と、同窒化硬化層の上に物理蒸着法により形成した1層以上の物理蒸着硬質層を形成することで耐エロージョンや耐酸化特性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また、蒸気タービン動翼の蒸気通路有効部の表面に、炭化物系セラミックス(Cr32)を主体とする皮膜を高圧・高速ガス炎溶射により形成することにより固体粒子による浸食、すなわちエロージョンを低減することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
また、PVD(Physical Vapor Deposition)法により結晶構造や結晶方位を限定したCr含有窒化チタン膜を形成することにより、耐摩耗性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0013】
また、組成を厳密にコントロールしたコバルト系合金を基材に接触配置した後、レーザを用いてこれを溶解・接着する、いわゆるレーザめっきにより耐摩耗性の高い皮膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献5参照。)
【特許文献1】特開2006−176866号公報
【特許文献2】特開2006−37212号公報
【特許文献3】特開2004−232499号公報
【特許文献4】特開2002−47557号公報
【特許文献5】特開2004−270023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の提案のいずれの場合も、工程が複雑でコストが高く実用的でないという問題があった。また、耐エロージョン性と耐酸化性を同時に向上させる有効な方法はないというのが現状である。
【0015】
本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、耐酸化性及び耐エロージョン性の2つの特性を同時に向上させることができるとともに、製造工程が簡易で製造コストが安価な蒸気タービン翼及び蒸気タービンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、タービン性能維持のための蒸気タービン翼構造に関し、鋭意研究を重ねた結果、蒸気タービン翼に対し、非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度(Hv)が800(kg/mm2)以上の結晶質からなる硬質粒子を均一に分散した皮膜を形成することにより耐酸化性と耐エロージョン性の2つの特性を同時に満たす蒸気タービン翼が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0017】
すなわち、本発明の蒸気タービン翼の一態様は、タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンに、前記静翼又は前記動翼として使用される蒸気タービン翼であって、表面の少なくとも一部に、非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度が800以上の結晶質からなる硬質粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の蒸気タービンの一態様は、タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンであって、前記動翼表面、前記静翌表面の少なくとも一部に、非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度が800以上の結晶質からなる硬質粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐酸化性及び耐エロージョン性の2つの特性を同時に向上させることができるとともに、製造工程が簡易で製造コストが安価な蒸気タービン翼及び蒸気タービンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸気タービン及び蒸気タービン翼の構成を示すものである。図1に示すように、蒸気タービン3は、タービンロータ4と、タービンロータ4に植設される動翼(ブレード)5と、動翼5の上流側に配設される静翼(ノズル)6と、静翼6を支持するとともにタービンロータ4、動翼5及び静翼6を内包するタービンケーシング13とを具備している。そして、動翼5と静翼6との対により一つの段落7を形成するとともにタービンロータ4の軸方向に複数の段落7を並べて蒸気通路8を形成した構成となっている。また、静翼6表面、動翼5表面の少なくとも一部(本実施形態では静翼6表面、動翼5表面の全面)に、コーティング皮膜が形成されている。図2に示すように、このコーティング皮膜17は、非晶質セラミックマトリックス15中にビッカース硬度(Hv)が800(kg/mm2)以上の結晶質からなる硬質粒子16が分散して存在する構造となっており、蒸気タービン翼基材14の表面を覆うように形成されている。なお、上記の静翼6及び動翼5、及びエンドウォール、プラットホームを含む通路部8全体を総称して蒸気タービン翼という。ここで、図4に本実施形態に係る蒸気タービン翼断面の電子顕微鏡写真を示す。
【0022】
上記構成の本実施形態では、静翼6表面、動翼5、及びエンドウォール、プラットフラットホームを含む通路部8の少なくとも一部に、非晶質セラミックマトリックス中に硬質粒子が分散して存在する緻密なコーティング皮膜が形成されているので、このコーティング皮膜によって、基材が直接空気中の酸素と触れる部分が少なく、従って耐酸化性が向上し、高温保持した場合の表面粗さ変化も極めて小さい。また、この非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度が800以上の硬質粒子が分散して存在しているため、これが固体粒子によるエロージョンに対し、防御機能を発揮しタービン翼の減肉や形状変化が起こり難い。従って、耐酸化性と耐エロージョン性の2つの特性を同時に満たすことが可能で、実際にプラント中で運転した場合にも長期に亘り初期の翼形状や表面粗さを維持することができ、従って、タービン全体の効率についても初期の高いレベルを長期間維持することが可能となる。
【0023】
ここで、コーティング皮膜のマトリックスを非晶質セラミックスとしたのは、以下の理由による。すなわち、蒸気タービン翼の基材をコーティング皮膜で均一に覆うためには、コーティング皮膜の形成に、錯体や金属塩や金属アルコキシド等の溶液を用いる溶液法を用いることが望ましく、また、この方法における加熱処理工程においては基材にダメージを与えない低温で熱処理することが望ましい。そして、低温で熱処理した場合、必然的にセラミックマトリクスは非晶質となるからである。
【0024】
また、硬質粒子を結晶質としたのは、同じ組成の材料であっても一般的に非晶質と結晶質を比較した場合、結晶質のものの硬度が非晶質のものに比較して高いためである。さらにビッカース硬度を800以上としたのは、蒸気タービンのエロージョンで問題となる微小固体粒子は主成分がマグネタイト(Fe34)であり、マグネタイト(Fe34)の硬度がビッカース硬度で600〜700に相当し、ビッカース硬度が800未満の場合、耐エロージョン性を向上させるのに十分ではないからである。
【0025】
上記の硬質粒子含有量は、コーティング皮膜全体に対して、30体積%以上90体積%以下とすることが好ましい。硬質粒子のコーティング皮膜全体に対する体積比率が30体積%より小さい場合、耐エロージョンに対する効果が十分でないためであり、一方、硬質粒子のコーティング皮膜全体に対する体積比率が90体積%より大きい場合には、コーティング皮膜の基材に対する密着強度が低下し、剥がれ等の現象が生じるためである。
【0026】
上記の硬質粒子としては、例えば、酸化物セラミックス、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、硼化物セラミックス等を使用することができる。ここで酸化物セラミックスとしては、ビッカース硬度が800以上であるという観点から、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化クロム、酸化イットリウム、酸化セリウム、ムライト、スピネル等が例示される。また、炭化物セラミックスとしては、炭化珪素、炭化クロム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化ボロン、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化バナジウム等が例示される。また、窒化物セラミックスとしては、窒化珪素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化クロム、窒化アルミニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化バナジウム等が例示される。また、硼化物セラミックスとしては硼化チタン、硼化ジルコニウム、硼化ハフニウム、硼化タンタル、硼化モリブデン、硼化クロム、硼化ニオブ、硼化タングステン等が例示される。
【0027】
また、上記の例示した材料の中でも、酸化アルミニウムを硬質粒子の材料として好適に使用することができる。酸化アルミニウムの結晶は、ビッカース硬度が1700〜2300程度であり、セラミックの中でも硬い粒子に属する。また、化学的安定性、水や水分に対する安定性、熱的安定性等においても優れている。さらに多くの分野で使用されているため、微細で高純度の粉末が比較的安価に入手可能である。また、粒度分布や粒子の形状についても多くの種類のものが入手可能であり、状況に応じて適切な粒子を選択することができるためである。
【0028】
また、炭化珪素も硬質粒子の材料として好適に使用することができる。炭化珪素の結晶は、ビッカース硬度が2500前後であり、セラミックの中でも極めて硬い粒子であると同時に酸化アルミニウムと同様に化学的安定性、水や水分に対する安定性、熱的安定性、空気中における酸化特性等においても優れている。また、多くの分野で使用実績があるため、微細で高純度の粉末が比較的安価に入手可能である。また、粒度分布や粒子の形状についても多くの種類のものが入手可能であり、適切な粒子を選択することができるためである。
【0029】
上記硬質粒子は、平均粒子径を10nm以上500nm以下とすることが好ましい。平均粒子径が10nmより小さい場合は、粒子の凝集が顕著になり、マトリックス中に硬質粒子を均一に分散することが極めて困難となり、一方、平均粒子径が500nmより大きいと、コーティング皮膜の初期の表面粗さが大きくなり、当初の目的である表面粗さが小さいことによる空力性能の向上という点で目的を達成し難いからである。
【0030】
また、コーティング皮膜を構成する非晶質セラミックとしては、化学的安定性、水や水分に対する安定性、熱的安定性、空気中における酸化特性、さらには化学溶液法による皮膜形成の際の溶液の安定性等を総合的に考慮すると、酸化ジルコニウム、酸化チタン、及び酸化アルミニウムを好適に使用することができる。
【0031】
上記コーティング皮膜を構成する非晶質セラミックの前駆体溶液としでは、酸化ジルコニウムの前駆体溶液、又は酸化チタンの前駆体溶液、又は酸化ケイ素の前駆体、又は酸化アルミニウムの前駆体溶液等を使用することができる。酸化ジルコニウムの前駆体溶液としては、ジルコニウムのアルコキシドを加水分解して得られる酸化ジルコニウムゾルや、ジルコンフッ化水素酸、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコンフッ化カリウム、ジルコンフッ化ナトリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム等のジルコニウム金属塩又はジルコニウム錯体が挙げられる。酸化チタンの前駆体溶液としては、チタンのアルコキシドを加水分解して得られる酸化チタンゾルや、チタンフッ化水素酸、乳酸チタン、酒石酸チタン、酢酸チタン、塩化酸化チタン、ペルオキソチタン酸等のチタン金属塩又はチタン錯体が挙げられる。酸化ケイ素の前駆体溶液としては、シランカップリング剤、ケイ酸メチル、ケイ酸エチル、ケイ酸プロピル、ケイ酸ブチルなどの有機ケイ素化合物を加水分解して得られるシリカゾルや、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウムなどのケイ酸塩が挙げられる。酸化アルミニウムの前駆体溶液としては、アルミニウムのアルコキシドを加水分解して得られる酸化アルミニウムゾル、又は原料として水溶性の硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどを用い、沈殿剤として炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどを用いて、公知の沈殿法により調製して得られるゾルが挙げられる。
【0032】
コーティング皮膜の膜厚は、0.03μm以上10μm以下とすることが好ましい。膜厚が0.03μmより薄い場合、コーティング皮膜が基材を均一に覆うことができず、部分的に基材が露出してしまい、耐酸化性が急激に低下する。一方、膜厚が10μmより厚い場合、皮膜の基材に対する密着強度が低下するため、皮膜にき裂が生じ、耐酸化性が低下し、また、基材からの剥離等の問題が発生するからである。
【0033】
上記のコーティング皮膜を形成する方法としては、非晶質セラミックマトリックスとなるセラミックスの前駆体と硬質粒子とを含む溶液を塗布する工程と、加熱処理によりセラミックスの前駆体を分解する工程とを有する方法(溶液法)を好適に使用することができる。この方法は、プロセスが簡易で、コストが安価であり、極めて実用性に富む方法であると同時に、マトリックス中に硬質粒子を分散することが容易で高い密着強度が得られる。なお、上記溶液を塗布する工程では、例えば、ディッピング、スプレー、スピンコーティング、ロールコーティング、バーコート等の塗布方法を使用することができる。また、加熱処理における加熱方法としては、電気炉中に保持後、タービン翼全体を加熱する方法、赤外線等によりタービン翼の表面部分のみを加熱する方法等が例示されるが、これらの加熱方法に限定されるものではない。なお、上記の加熱処理は80℃以上、600℃以下程度で行うことが好ましい。加熱処理温度が80℃より低いとセラミックスの前駆体の加熱分解が不十分となり、緻密な皮膜が得られず、また、皮膜が不安定で経時変化や剥がれ等の問題が発生するためであり、一方、加熱処理温度が600℃より高いと蒸気タービン翼の基材である金属の組織が変化してしまい、疲労強度やクリープ強度等の特性が低下してしまうためである。
【0034】
(実施例1)
実施例1として、酢酸ジルコニウム8%の水溶液に、粒径30nmで金属不純物量がppbレベルの高純度炭化珪素ナノ粒子粉末を添加した。添加量は最終的に炭化珪素ナノ粒子がコーティング皮膜全体の50体積%になるように調整した。この混合溶液を樹脂製ポットミル、及び鉄球を樹脂コートしたボールを用いて24時間混合した後、真空脱泡処理を行い、コーティング用のスラリーとした。
【0035】
このコーティング液を、50mm×50mm×5mmの板状の高クロム鋼表面にディピングにより塗布し、塗布後、常温で約1時間乾燥した後、大気中400℃で10分間加熱処理してコーティング皮膜を形成した。
【0036】
このときのコーティング皮膜の膜厚は、約0.5μmで、コーティング皮膜は、アモルファスの酸化ジルコニウムマトリックス中に粒径30nmの炭化珪素の硬質粒子が分散した構造の皮膜であった。
【0037】
このコーティング皮膜に対し、耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。耐酸化試験は大気中にて500℃で500時間保持後、重量変化と表面粗さ変化を測定した。また、耐エロージョン試験については、平均粒径75μmの酸化鉄(Fe34:マグネタイト)粉末を用いて常温にて固体粒子衝突速度100m/s、衝突角度60度の条件にて実施した。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0038】
(実施例2)
実施例2として、スラリー中に配合する硬質粒子を平均粒径0.1μmの酸化アルミニウムした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0039】
(実施例3)
実施例3として、スラリー中に配合する炭化珪素の量を減量し、添加量は最終的に炭化珪素がコーティング皮膜全体の30体積%になるように調整した他は実施例1とまったく同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0040】
(実施例4)
実施例4として、スラリー中に配合する炭化珪素の量を増量し、添加量は最終的に炭化珪素がコーティング皮膜全体の90体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0041】
(実施例5)
実施例5として、スラリー中に配合する炭化珪素の平均粒径量を0.3μmとした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0042】
(実施例6)
実施例6として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7%の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を酸化ジルコニウムの前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1とまったく同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0043】
(実施例7)
実施例7として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7%のペルオキソチタン酸水溶液を酸化チタンの前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1とまったく同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0044】
(実施例8)
実施例8として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7%のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解して得られたシリカゾルを酸化ケイ素の前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1とまったく同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0045】
(実施例9)
実施例9として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7%のアルミニウムのアルコキシドを加水分解して得られた酸化アルミニウムゾルを酸化アルミニウムの前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1とまったく同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず、また、耐エロージョン試験についても顕著な重量変化が認められなかった。
【0046】
(比較例1)
比較例1として、スラリー中に配合する粒子を、ビッカース硬度が約400である白金粉末とした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず良好な耐酸化性を示したのに対し、耐エロージョン試験については、顕著な重量減が認められた。
【0047】
(比較例2)
比較例2として、スラリー中に配合する炭化珪素の量を減量し、添加量は最終的に炭化珪素がコーティング皮膜全体の20体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法で皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行った。その結果、耐酸化試験については、重量増、及び表面粗さ変化は認められず良好な耐酸化性を示したのに対し、耐エロージョン試験については、顕著な重量減が認められた。
【0048】
(比較例3)
比較例3として、スラリー中に配合する炭化珪素の量を増量し、添加量は最終的に炭化珪素がコーティング皮膜全体の95体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法で皮膜を形成した。その結果、皮膜の剥がれが生じ、耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行うことができなかった。
【0049】
(比較例4)
比較例4として、スラリー中に配合する炭化珪素の平均粒径を0.8μmとした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成した。その結果、皮膜の剥がれが生じ、耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行うことができなかった。
【0050】
(比較例5)
比較例5として、最終的に形成するコーティング皮膜の厚さを12μmとした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成した。その結果、コーティング皮膜の剥がれが生じ、耐酸化試験、及び耐エロージョン試験を行うことができなかった。
【0051】
以上説明したように、上記実施例に係る蒸気タービン翼では、耐酸化性と耐エロージョン性の2つの特性を同時に満たすことができる。したがって、実際にプラント中で運転した場合も長期に亘り初期の翼形状や表面粗さを維持することができ、当初の翼の空力特性が低下することがなく、タービン全体の効率についても初期の高いレベルを長期間維持することが可能となる。また、製造工程が簡易で製造コストも安価である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンの要部構成を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン翼の要部構成を拡大して模式的に示す断面図。
【図3】蒸気タービン発電システムにおけるランキンサイクルの概念図。
【図4】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン翼断面の電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0053】
3……蒸気タービン、4……タービンロータ、5……動翼(ブレード)、6……静翼(ノズル)、7……段落、8……蒸気通路部、13……ケーシング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンに、前記静翼又は前記動翼として使用される蒸気タービン翼であって、
表面の少なくとも一部に、非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度が800以上の結晶質からなる硬質粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることを特徴とする蒸気タービン翼。
【請求項2】
前記硬質粒子が、前記コーティング皮膜全体に対して30体積%以上90体積%以下含まれていることを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン翼。
【請求項3】
前記硬質粒子が、酸化物セラミックス、又は炭化物セラミックス、又は窒化物セラミックス、又は硼化物セラミックスから構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の蒸気タービン翼。
【請求項4】
前記硬質粒子が、酸化アルミニウムから構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の蒸気タービン翼。
【請求項5】
前記硬質粒子が、炭化珪素から構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の蒸気タービン翼。
【請求項6】
前記硬質粒子は、平均粒子径が10nm以上500nm以下とされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項7】
前記非晶質セラミックマトリックスが、酸化ジルコニウム、又は酸化チタン、又は酸化ケイ素、又は酸化アルミニウムから構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項8】
前記コーティング皮膜は、膜厚が0.03μm以上10μm以下とされていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項9】
前記コーティング皮膜は、前記非晶質セラミックマトリックスとなるセラミックスの前駆体と前記硬質粒子とを含む溶液を塗布する工程と、加熱処理により前記セラミックスの前駆体を分解する工程とによって形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項10】
タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンであって、
前記動翼表面、前記静翌表面の少なくとも一部に、非晶質セラミックマトリックス中にビッカース硬度が800以上の結晶質からなる硬質粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−156286(P2010−156286A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335314(P2008−335314)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】