説明

蓄電池

【課題】自動二輪車に搭載するのに適した蓄電池を提供する。
【解決手段】隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納される合成樹脂製の電槽1と、前記電槽1上方の開口部を閉じるとともに、前記極板群から延びる極柱5が挿入されて溶接されるブッシング6及び上面の一部に設けられた端子4を備えた合成樹脂製の蓋2とを有し、かつ前記ブッシング6に前記端子4を接続するための導通部7が端子4及びブッシング6と一体成形されて端子部8を形成するとともに、前記端子部8のうちの少なくともブッシング6の下側部分6Bと前記導通部7とがインサート成型によって蓋2に埋め込まれ、前記端子部8の端子4をPb−Ca−Sn合金、前記導通部7とブッシング6をPb−Sn合金とし、前記ブッシング6にPb−Ca合金からなる極柱5を挿入して溶接してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電池に関し、特に自動二輪車に搭載するのに適した蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に搭載される蓄電池は、四輪自動車用の蓄電池と比べて、それを搭載するための空間が限られ、走行時の衝撃や振動の影響を受けやすいことから、電槽は堅牢で、出力取出し用の端子は上方への突出が小さいものが一般的であり、原動機付自転車と言われる50ccクラスのものに搭載される機種を除けば、250ccクラスまでのものに搭載される機種の汎用性が最も高くなっている。
【0003】
また、自動二輪車に搭載される蓄電池は、上記した250ccクラスのものでも、これを超えるクラスのものでも、それぞれの負荷が要求するだけの十分な出力電流が取り出せる端子にする必要があるが、上記したクラスを超える排気量の自動二輪車に搭載される蓄電池では、寸法を大きくすることができないという制約の下で、取り出す出力電流が大きくなることによる対策が考慮されたものが求められている。
【0004】
取り出す出力電流が大きい蓄電池の構造としては、極板群から延びる極柱が挿入されて溶接されるブッシングが蓋に設けられ、蓋の上面の一部に形成された切欠き部に、前記ブッシングに接続される板端子を配して、板端子の上面が蓋の上面より突出しない構成のものが知られている。このような構成の蓄電池には特許文献1に示すものがある。特許文献1に示された蓄電池は、真鍮製の板端子の一端を垂直下方に折り曲げて垂直板部とし、その端部を蓋の上面に設けた凹部に嵌合させて固着するとともに、他端をコ字状に折り曲げてから水平方向に延出させて水平板部とし、その端部に形成した貫通孔に鉛合金製のブッシングを嵌合させて溶接したものである。
【特許文献1】特開2003−077454号公報
【0005】
上記特許文献1に開示された蓄電池では、極柱をブッシングに溶接する作業の他に、板端子の一端の垂直板部を蓋の上面に設けた凹部に嵌合させて固着する作業、板端子の他端の水平板部の貫通孔にブッシングを嵌合させて溶接する作業が必要であるため、製造に要する工数が増大するという問題があった。また、ブッシングと端子とを導電接続する板端子の材質を真鍮製にしていることで、ブッシングと端子とを接続する強度は確保できるが、ブッシングに溶接される板端子が外部に露出しているため、蓋にインサート成型されたブッシングの界面を通って電解液が上方に移動すると、外部に露出した板端子に容易に達して、板端子を変色あるいは腐食させるという問題があった。さらに、真鍮製の板端子が鉛合金製のブッシングと溶接されているため、鉛をリサイクルする際に、板端子とブッシングとを分離する必要があることから、リサイクルの工数が増大するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、製造やリサイクルに要する工数の増大が防止でき、端子の変色あるいは腐食が長期間に渡って防止できる、自動二輪車に搭載されるのに適した蓄電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、上記した課題を解決するもので、極柱が挿入されて溶接されるブッシングを端子に接続するための導通部が端子及びブッシングと一体成形された端子部を備えた蓄電池であって、前記端子部の端子をPb−Ca−Sn系合金とするとともに、前記ブッシングの少なくとも極柱と溶接される部分をPb−Sn系合金とし、前記ブッシングにPb−Ca系合金からなる極柱を挿入して溶接したことを特徴(請求項1)とし、また、隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納される合成樹脂製の電槽と、前記電槽上方の開口部を閉じるとともに、前記極板群から延びる極柱が挿入されて溶接されるブッシング及び上面の一部に設けられた端子を備えた合成樹脂製の蓋とを有し、かつ前記ブッシングに前記端子を接続するための導通部が端子及びブッシングと一体成形されて端子部を形成するとともに、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とがインサート成型によって蓋に埋め込まれた蓄電池であって、前記端子部の端子をPb−Ca−Sn系合金とするとともに前記ブッシングの少なくとも極柱と溶接される部分をPb−Sn系合金とし、前記ブッシングにPb−Ca系合金からなる極柱を挿入して溶接したことを特徴(請求項2)とし、また、前記蓄電池において、蓋を上方から覆うとともに裏面にリブを設けた合成樹脂製の補助蓋を有し、該リブに対向して蓋上面にリブを設け、この蓋上面のリブが前記ブッシング周縁の一部又は全部を包囲するように設けられてなることを特徴(請求項3)とする。
【発明の効果】
【0008】
すなわち、上記した構成にすることにより、端子、ブッシング及び導通部を一体化した端子部をインサート成型によって蓋に埋め込むことができるから、端子を蓋に固定する作業が不要になるだけでなく、部品点数の削減を図ることができ、作業性の改善にも寄与する。しかも、ブッシングの下側部分と導通部とをインサート成型によって蓋に埋め込んでいるから、ブッシングと蓋の界面を伝って電解液が蓋の上面(後述する空間K)や導通部を伝って端子、すなわち電池外部に達し難くできる。さらに、端子にPb−Ca−Sn系合金を使用したことで強度の向上を図ることができ、ブッシングをPb−Sn系合金とすることで、Pb−Ca系合金からなる極柱との溶接性を良好にすることができる。そして、端子部全体に鉛系合金を使用したことから、リサイクルの工数低減にも寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をその実施形態に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
図1に、特に自動二輪車に搭載するのに適した鉛蓄電池(以下、単に蓄電池という)の斜視図の要部を示すが、この蓄電池を他の目的に使用することを妨げるものではない。図1に示した如く、この蓄電池10は、平面視矩形状の合成樹脂製の電槽1と、この電槽1の上方の開口を閉じるための平面視矩形状の合成樹脂製の蓋2と、この蓋2の上面全体を覆う合成樹脂製の補助蓋9とを備えたものであるが、後述するように、蓋に埋め込まれたブッシング6の端縁を覆って合成樹脂Rを被着した部分には補助蓋9が位置しないようにしてもよい。
【0011】
前記蓋2は4つの角部のうち、一方の長辺の両側となる2つの角部に、それぞれ切欠き部3、3を形成し、各切欠き部3、3に正極及び負極を構成する端子4、4をそれぞれ配置(図では右側が正極端子、左側が負極端子である)し、さらに、凹凸部2Eを設け、該凹凸部2Eは前面2E1が端子4、4の前板部4B、4Bより突出し、上面2E2が端子4、4の天板部4A、4Aより突出するようにして、端子4、4間を金属片が橋絡することで発生する短絡を防止するようにしている。前記端子4、4にはPb−0.1%Ca−0.6Sn合金を用いた。
【0012】
図2に、蓋2の平面形状を説明するために、図1における補助蓋9を除去した平面図を示し、図3に、端子4、4の蓋2の内部における構造を説明するために、その一方の端子4を含む部位の断面図を示している(図2では排気弁を符号11で示しているが、図1では省略している)。これらの図は、蓋2には天板部2Dの長辺の両側に、極板群(図示せず)から延びる極柱5が挿入されて溶接されるブッシング6が、端子4の底部4F及び連結部4Gにおいて前記ブッシング6の上側部分6Aに接続される導通部7とともにインサート成型されていることを示している。前記導通部7は前述した組成からなる端子4及びPb−2.0%Sn合金からなるブッシング6とともに端子部8を形成しているが、このような異種材料からなる端子部8の作製方法は後述する。なお、図3の5Aは極板群(図示せず)を構成する複数の正極板又は複数の負極板をそれぞれ一体化して正極又は負極の極柱5の下端に接続されるストラップである。前記極柱5にはPb−0.1%Ca合金を用いた。また、ブッシング6と極柱5とは、ブッシング6の上側部分6Aの内径を下側部分6Bの内径より小さいテーパ状に形成し、極柱5の下端側の外径を上端側の外径より大きいテーパ状に形成することによって、極柱5をブッシング6に挿通しやすくするだけでなく、ブッシング6に極柱5を挿入する際の位置ずれを生じ難くしている。また、これにより、ブッシング6の上側部分6Aにおける極柱5との間隙が小さくなって該部分の溶接が容易になり、極柱5の表面に沿って這い上がってくる電解液がブッシング6の上側部分6Aから空間K内に移動しないようにすることができる。なお、図3のBで示した部分はブッシング6と極柱5とがバーナー等で溶接された溶接部分を示している。
【0013】
また、図1及び図3の9で示した部分は補助蓋で、蓋2の天板部2Dに露出しているブッシング6の上側部分6Aと極柱5を覆うように蓋2に被せられる、矩形状のものである。図1〜図3に示した如く、蓋2の天板部2Dは底面2Bから上方に立ち上げた平面視矩形状の縦板部2Cの上端2Aよりも少し低い位置にあり、その上面の外周縁に、縦板部2Cに対してほぼ平行になる環状のリブ2Rが形成されるとともに、該リブ2Rは前述したブッシング6の上側部分6Aと極柱5の露出部分を囲んで円弧部2rを形成している。
【0014】
そして、図3に示した如く、前記補助蓋9は、その外周縁に形成されたスカート部9Sをリブ2Rと縦板部2Cとの間に形成された溝2Mに入れ、リブ2R及び円弧部2rに対応する位置に形成されたリブ9R及び円弧部9rを溶融状態でリブ2R及び円弧部2rに当接させて溶着することで、リブ2R及び円弧部2rとリブ9R及び円弧部9rとで囲まれた内側の空間Kを密閉状態にすることで、ブッシング6の下側部分6Bと蓋2との界面を通って空間Kに電解液が移動してきても、あるいは極柱5とブッシング6との溶接部分Bに微小な空隙が生じた場合に、この微小な空隙を伝って空間Kに電解液が移動してきても、該空間Kからリブ2Rとリブ9Rとの溶着部や円弧部2rと円弧部9rとの溶着部に生じる微小な隙間を通って外部(補助蓋9の表面、すなわち蓄電池10の外部)に漏出しないようにすることができる。なお、この空間Kに合成樹脂Rを注入しておけば、該空間Kに電解液が移動してくることも防止することができる。また、合成樹脂Rを注入するのはリブ9Rとリブ2Rとの溶着前、円弧部9rと円弧部2rとの溶着前にするのがよいが、空間Kに対応する補助蓋9の一部に開口を設けておいて、前述した溶着後に該開口から樹脂を注入してもよい。前記合成樹脂Rとしてはエポキシ樹脂のような熱硬化樹脂が好ましい。なお、円弧部2rと円弧部9rは必ずしも円弧状である必要はない。
【0015】
また、図3に示した如く、導通部7が前記端子4及びブッシング6と一体成形されてなる端子部8は、前述した如く、端子4にPb−Ca−Sn合金を用いているから、端子4の強度を向上させることができ、自動二輪車の電装品から引き出されたケーブルを接続し、自動二輪車の走行によって受ける振動を原因とするストレスが端子に加わっても、端子が折損するといった事故を防止することができるとともに、ブッシング6にPb−Sn合金を用いることで、たとえば、COSによってPb−Ca合金からなる極柱5を形成した場合、この極柱5との溶接性を向上することができ、溶接部分Bに微小な空隙が生じて空間Kに電解液が移動してくるといった問題の発生を抑えることができる。
【0016】
上記した端子部8は、図4(a)に示した如く、端子4の全体がPb−Ca−Sn合金に、ブッシング6の少なくとも上側部分6AがPb−Sn合金になるようにするのがよい。このような端子部8は、たとえば、図4(b)に示したような方法で作製することができる。すなわち、図4(b)に示した如く、端子部8を作製する金型に、端子4の形成用の鉛合金溶湯を注入する注入口40と、ブッシング6の形成用の鉛合金溶湯を注入する注入口60とを設けておき、前記注入口40からPb−Ca−Sn合金溶湯を、前記注入口60からPb−Sn合金溶湯を、同時又は時間をずらして注入し、端子4全体(破線4aで囲まれた部分)にPb−Ca−Sn合金を拡散させ、ブッシング6の少なくとも上側部分6A(破線6aで囲まれた部分)にPb−Sn合金を拡散させると、端子4側のPb−Ca−Sn合金がブッシング6側に流れてきて両方の合金が溶融状態で混じり合って導通部7を形成することができる。このように形成された導通部7はPb−Ca−Sn合金の性質とPb−Sn合金の性質を有した導電性の共融相になっていることが考えられる。
【0017】
上記した端子部8の作製方法を図5(a1)〜(a4)、(b1)〜(b4)により説明する。図5(a1)〜(a4)は端子4を形成するためのPb−Ca−Sn合金溶湯とブッシング6を形成するためのPb−Sn合金溶湯を同時に注入する場合を示した図であり、図5(b1)〜(b4)は端子4を形成するためのPb−Ca−Sn合金溶湯を、ブッシング6を形成するためのPb−Sn合金溶湯より先に注入する場合を示した図である。図5(a1)〜(a4)では、端子部8を作製する金型の、端子4が作製される部分に注入されるPb−Ca−Sn合金溶湯の液面とブッシング6が作製される部分に注入されるPb−Sn合金溶湯の液面とが、図5(a1)に示した如く、ほぼ同時に上昇するので、図5(a2)、(a3)に示した如く、ブッシング6側の合金溶湯によってブッシング6側から導通部7が形成され、図5(a4)に示した如く、端子4側の合金溶湯がオーバーフローしたところで、両方の合金が混じり合って導通部7に共融相71が形成される。これに対し、図5(b1)〜(b4)では、端子部8を作製する金型の、端子4が作製される部分に注入されるPb−Ca−Sn合金溶湯の液面が、図5(b1)、(b2)に示した如く、先に上昇して、図5(b3)、(b4)に示した如く、端子4側でオーバーフローした合金溶湯がブッシング6側に流れ込んでブッシング6の下側部分6Bに共融相6B1が形成される。図5の(a1)〜(a4)又は(b1)〜(b4)のいずれの作製方法であっても、端子4は全体がPb−Ca−Sn合金であるので、その強度を確保することができ、ブッシング6は少なくとも上側部分6AがPb−Sn合金であるので、それと極柱5との溶接性を良好にすることができる。両者の違いは、図5(a1)〜(a4)では導通部7に共融相71が形成されるのに対し、図5(b1)〜(b4)ではブッシング6の下側部分6Bに共融相6B1が形成される点、及び図5(a1)〜(a4)ではブッシング6の下側部分がPb−Sn合金であるのに対し、図5(b1)〜(b4)ではブッシング6の下側部分が共融相6B1である点であるが、前者の場合は導通部7が鉛合金であることに変わりがないことから導電性についての差異はなく、後者の場合はブッシング6の上側部分6AがPb−Sn合金であることから溶接性に差異はないので、いずれの作製方法であってもよい。
【0018】
上記した端子部8は、図3に示した如く、ブッシング6の上側部分6Aを除いた下側部分6Bと導通部7とがインサート成型によって蓋2に埋め込まれている。前記導通部7は前記ブッシング6の下側部分6Bから水平方向に延びる第1水平板部7Aと、この第1水平板部7Aの端部から下方に垂下する垂下部7Bと、この縦板部7Bの下端から水平方向に延びて前記端子4の底部4F及び連結部4Gに接続される第2水平板部7Cとからなっており、前記共融相は少なくとも第2水平板部7Cと端子4の下部(底部4F及び連結部4G)に形成される。また、前記ブッシング6には下側部分6Bの外側に上下方向に沿って複数の環状の突起部6Tが設けられ、前記導通部7の第1水平板部7Aには突起部7Tが設けられている。これにより、蓋2の上部の空間K内に電解液が移動してくるのを阻止するとともに、移動してきた電解液も端子4、4に達するのを阻止することができる。すなわち、前記突起部7Tを設けることで導通部7の沿面距離を長くすることができるが、突起部7Tに代えて環状の窪み部としてもよい。この突起部7T(または窪み部)は第1水平板部7Aと垂下部7Bの境界付近に設けると、電解液の移動を初期段階で抑えることができて好ましいが、膨出部2F内部の垂下部7Bに設けてもよい。また、図では突起部7Tを2箇所に設けているが、1箇所あるいは2箇所以上にしてもよく、複数の突起部7Tの各々の外周縁の異なる位置に切欠きまたは凹部を設けることで、導通部7の構成材料の量を減らして沿面距離を長く保つようにしてもよい。また、ブッシング6に設けた複数の環状の突起部6Tのうち、空間Kに最も近い突起部6T1はその外径を他の突起部のそれより大きくするとともに、その一部を導通部7の第1水平板部7Aに連なるようにすることで、溶接時の熱が蓋2に伝わって蓋2が軟化するのを防止している。また、第1水平板部7Aの表面(端子4の天板部4Aと平行な面)は必ずしも水平でなくてもよく、円弧状又は楕円弧状に膨出させてもよい。このような形状は第1水平板部7Aの表面に限らず、垂下部7Bの表面(端子4の前板部4Bと平行な面)や第2水平板部7Cの表面(端子4の天板部4Aと平行な面)も同様である。このように膨出させることで、インサート成型を確実に行うことができる。
【0019】
前記端子部8は、図3に示した如く、下端に、インサート成型時にアンカー効果を発揮させるアンカー部4Tを一体成形している。このアンカー効果は、端子4の下端にアンカー部4Tが一体成形され、その平板状の底部4Fから下方に一体的に延びる連結部4Gの下端に一体形成されて、その平面視寸法が連結部4Gの寸法より大きくなるようにすることで奏されるが、具体的には、端子4に外部リード線を装着したボルトを螺着させる際に、その応力によって蓋2の底面2Bに埋め込まれた端子4の抜けを防止するものである。なお、アンカー部4Tの平面視形状としては長円にするのが好ましいが、前述の寸法を満たすものであれば、その形状は限定されない。
【0020】
これにより、端子4は、アンカー部4T、導通部7及びブッシング6が蓋に埋設することができるから、蓋2と端子部8とを強固に一体化できる。そして、このようなアンカー効果を奏させる点や端子4の強度を確保できる点からも、端子4の材質をPb−Ca−Sn合金にするのが好ましく、同じ体積の端子4で強度が確保できることで端子の小型化を図ることができる。なお、電槽1、蓋2及び補助蓋9の材料としては、上記したインサート成型に適しており、蓋2と補助蓋9との熱溶着に適したポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が好ましい。
【0021】
図6に本発明の他の実施形態に係る蓄電池に係る蓋2の平面形状を示し、図7に同その一方の端子4を含む部位の断面図を示しているが、図2、図3との相違点についてのみ説明する。すなわち、図6から明らかなように、円弧部2rを設けた部分のリブ2Rが一部省略されていることを特徴としている。リブ2Rの一部を、蓋2の縦板部2C側で省略することで、蓋に埋め込まれたブッシング6の端縁を覆って被着した合成樹脂Rの表面は外部と連なることになるが、このように合成樹脂Rを被着することで、蓋2の上面への電解液の移動を抑制することができる。
【0022】
なお、図3及び図7は、いずれも補助蓋9が、蓋2に埋め込まれたブッシング6の端縁を覆って被着した合成樹脂R、排気弁11及びセルごとに設けた排気口を一括して覆った図であるが、合成樹脂Rが被着された部分に補助蓋を設けないで、合成樹脂Rを露出させた状態にしてもよい。
【0023】
なお、図1において、端子4は、長方形状の天板部4Aを有し、この天板部4Aの4辺のうちの正面視において右側となる辺以外の3辺からは下方に垂下する前板部4B、後板部4C及び左板部4Dを有し、正面視において右側となる辺からは下方に垂下する右板部4Eを有している。前記天板部4Aと前板部4Bには、ボルト(図示せず)を貫通させるための貫通孔4K1、4K2が形成され、前記右板部4Eには、端子4の内部にナット(図示せず)を挿入するための開口部が形成されている。このような貫通孔4K1、4K2と開口部とを形成したのは、車両の電装品に接続するための外部リード線の接続位置に応じた蓄電池の搭載形態にしたうえで、蓄電池と外部リード線とが最適な接続形態になるように、開口部からナットを挿入させるとともに外部リード線を装着したボルトを前記貫通孔4K1、4K2のいずれかから挿通して螺着させるためである。なお、ここに述べた端子4の形状は一例であり、他の形状のものであってもよい。
【0024】
上記した実施形態は、端子4の全体がPb−Ca−Sn合金で形成され、ブッシング6の少なくとも上側部分6AがPb−Sn合金で形成される場合で説明したが、端子4のPb−Ca−Sn合金は、たとえばAlなどの第4の元素を含むものや、不純物レベルの他の元素を含むものを包括したPb−Ca−Sn系合金であることを妨げるものではなく、ブッシング6の少なくとも上側部分6AのPb−Sn合金は、意図的にCaを含まない第3の元素を含むものや、不純物レベルの他の元素を含むものを包括したPb−Sn系合金であることを妨げるものではない。なお、ブッシング6の少なくとも極柱と溶接される部分をPb−Sn系合金であるとしたのは、ブッシング6に挿入されたPb−Ca系合金からなる極柱がブッシング6の上側部分6Aで溶接される際にその溶接性が向上できればよいことによるもので、ブッシング6全体がPb−Sn系合金であってもよい。
【0025】
上記した実施例は高さの制限が課せられることが多い二輪車用蓄電地を例示して説明したが、極柱が挿入されて溶接されるブッシングを端子に接続するための導通部が端子及びブッシングと一体成形された端子部を備えた二輪車用以外の蓄電池、すなわち四輪車用や産業用にも適用することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上記した如く、本発明に係る蓄電池は、空間Kに移動してきた電解液が、端子あるいは補助蓋の表面(蓄電池の外部)達することを阻止できるとともに、特に、自動二輪車のような強い振動を受けても端子が折損するといった事故防止に寄与でき、端子部のリサイクル時にも、その工数低減にも寄与できるから、その産業上の利用可能性が大である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る蓄電池の上面を示した斜視図である。
【図2】同補助蓋の装着前の平面図である。
【図3】同補助蓋の装着後の端子部の要部断面図である。
【図4】同端子部の作製方法の説明図である。
【図5】同端子部の作製過程の説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る蓄電池の補助蓋の装着前の平面図である。
【図7】同補助蓋の装着後の端子部の要部断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…電槽、2…蓋、2A…上端、2B…底面、2C…縦板部、2D…天板部、2E…凹凸部、2F…膨出部、2M…溝部、2R…リブ、2r…円弧部、3…切欠き部、4…端子、4A…天板部、4B…前板部、4C…後板部、4D…左板部、4E…右板部、4F…底部、4G…連結部、4J…開口部、4K1、4K2…貫通孔、4T…アンカー部、5…極柱、6…ブッシング、6A…上側部分、6B…下側部分、6T…突起部、7…導通部、7A…第1水平板部、7B…垂下部、7C…第2水平板部、7T…突起部、8…端子部、9…補助蓋、9R…リブ、9r…円弧部、9S…スカート部、10…蓄電池、B…溶接部分、K…空間 R…合成樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極柱が挿入されて溶接されるブッシングを端子に接続するための導通部が端子及びブッシングと一体成形された端子部を備えた蓄電池であって、前記端子部の端子をPb−Ca−Sn系合金とするとともに、前記ブッシングの少なくとも極柱と溶接される部分をPb−Sn系合金とし、前記ブッシングにPb−Ca系合金からなる極柱を挿入して溶接したことを特徴とする蓄電池。
【請求項2】
隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納される合成樹脂製の電槽と、前記電槽上方の開口部を閉じるとともに、前記極板群から延びる極柱が挿入されて溶接されるブッシング及び上面の一部に設けられた端子を備えた合成樹脂製の蓋とを有し、かつ前記ブッシングに前記端子を接続するための導通部が端子及びブッシングと一体成形されて端子部を形成するとともに、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とがインサート成型によって蓋に埋め込まれた蓄電池であって、前記端子部の端子をPb−Ca−Sn系合金とするとともに前記ブッシングの少なくとも極柱と溶接される部分をPb−Sn系合金とし、前記ブッシングにPb−Ca系合金からなる極柱を挿入して溶接したことを特徴とする蓄電池。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄電池において、蓋を上方から覆うとともに裏面にリブを設けた合成樹脂製の補助蓋を有し、該リブに対向して蓋上面にリブを設け、この蓋上面のリブが前記ブッシング周縁の一部又は全部を包囲するように設けられてなることを特徴とする蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−118199(P2010−118199A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289388(P2008−289388)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】