説明

蓄電素子

【課題】優れた電解液の吸い上げ性能を発揮することができる蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄電素子は、それぞれ集電体の一端部を除いた表面に活物質層が形成された正極及び負極が、セパレータを介在させつつ巻回もしくは積層された発電要素であって、正極及び負極の少なくとも一方の一端部が、活物質層非形成部として、極の異なる電極の側端から突出した発電要素と、該発電要素が一端部の突出方向を横向きにして収容されたケースと、該ケース内に貯留された電解液とを備え、活物質層非形成部は、多孔質である電解液吸い上げ層であって、一端部の突出方向と直交する方向に沿って形成された電解液吸い上げ層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ集電体の表面に活物質層が形成された正極及び負極が、セパレータを介在させつつ巻回もしくは積層された発電要素を備える蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等)やキャパシタ(電気二重層キャパシタ等)といった放充電可能な蓄電素子が採用されている。例えば、この種の電池として、正極集電体の一端部を除いた表面に正極活物質層が形成された正極と、負極集電体の一端部を除いた表面に負極活物質層が形成された負極とが、セパレータを介在させつつ巻回もしくは積層された発電要素であって、正極及び負極のそれぞれ一端部が、活物質層非形成部として、極の異なる電極の側端から突出した発電要素を備え、該発電要素が前記一端部の突出方向を横向きにしてケース内に収容された構造の電池が知られている。
【0003】
ところで、産業機器電源用、無人搬送車用、EV(electric vehicle:電気自動車)用、HEV(hybrid electric vehicle:ハイブリッドカー)用、航空機用、船舶用、鉄道用などの高出力用途に用いられる電池は、抵抗を下げるために、発電要素から外部端子までの距離を短くする必要がある。工数削減や信頼性向上の観点も合わせて考えると、発電要素の活物質層非形成部を束ねて集電部材と溶接する構造が最適である。また、気密不良の防止など信頼性を向上させるためには、ケースの開口部は一箇所に集約されている必要がある。さらに、円筒形電池や積層電池は、発電要素とケースとが密着する構造のため、ケース内に余剰の電解液を貯留するスペースがなく、そのため、長期使用中に液枯れを起こしやすい。
【0004】
以上のことから、長期使用される高出力用途の電池の構造は、角型で、発電要素の活物質層非形成部を束ねて集電部材と溶接する構造が好ましい。しかしながら、このような構造の電池は、電解液の吸い上げ性能が高くないという問題があった。
【0005】
そこで、正極の一端部のそれぞれ端部間の間隔及び/又は負極の一端部のそれぞれ端部間の間隔を十分小さくすることにより、ケースの底部に貯留された電解液を毛細管現象で吸い上げて正極及び負極間に供給するようにし、これにより、長期使用に伴う正極及び負極間の電解液の液枯れを防止して電池寿命の向上を図ろうとする考え方の電池が提案された(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1記載の電池においては、発電要素の構造上、正極の一端部のそれぞれ端部間の間隔及び/又は負極の一端部のそれぞれ端部間の間隔を狙いの設計値に合わせることが難しい。また、各間隔を均一にすることも難しい。従って、特許文献1記載の電池には、そもそも電解液の吸い上げ性能が高くはないことに加え、電解液の吸い上げ性能が電池毎に異なり、そのため、電池寿命に個体差が生じるという問題がある。
【0007】
また、仮に、前記間隔を狙いの設計値に合わせること、各間隔を均一にすることが製造時にはできたとしても、発電要素は、振動や衝撃などの外力や活物質の膨張・収縮による内部応力により変形する。従って、特許文献1記載の電池には、前記間隔が経年変化し、電解液の吸い上げ性能が低下するという問題がある。特に、発電要素を集電部材で吊り下げる形態を採る特許文献1記載の電池では、振動や衝撃などの外力が発電要素と集電部材との溶接部に集中する場合がある。かかる場合、前記間隔を一定に保つことは極めて困難である。
【0008】
さらに、特許文献1記載の電池においては、発電要素の上部と集電部材とが溶接され、溶接部における発電要素は圧縮されている。そのため、前記間隔が発電要素の上部にまで保たれているとは限らない。従って、特許文献1記載の電池には、電解液を発電要素の上部にまで供給することができないおそれがある。
【0009】
この種の問題は、電池に限られず、キャパシタ(電気二重層キャパシタ等)についても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−113920号公報(段落0009、段落0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、かかる問題に鑑みてなされたもので、優れた電解液の吸い上げ性能を発揮することができる蓄電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る蓄電素子は、
それぞれ集電体の一端部を除いた表面に活物質層が形成された正極及び負極が、セパレータを介在させつつ巻回もしくは積層された発電要素であって、正極及び負極の少なくとも一方の一端部が、活物質層非形成部として、極の異なる電極の側端から突出した発電要素と、
該発電要素が一端部の突出方向を横向きにして収容されたケースと、
該ケース内に貯留された電解液とを備え、
活物質層非形成部は、多孔質である電解液吸い上げ層であって、一端部の突出方向と直交する方向に沿って形成された電解液吸い上げ層を有する。
【0013】
かかる構成によれば、ケース内に貯留された電解液は、電解液吸い上げ層によって吸い上げられ、そして、巻回もしくは積層された正極及び負極間に供給される。
【0014】
ここで、本発明に係る蓄電素子の一態様として、
電解液吸い上げ層のヤング率は、0.01〜300GPaである
のが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、電解液吸い上げ層が圧縮等の応力で変形しにくい特性を備えることで、電解液吸い上げ層は、振動や衝撃などの外力や活物質の膨張・収縮による内部応力等の環境要因に左右されにくくなる。そのため、蓄電素子の使用に伴う経年変化に関わらず、電解液の吸い上げ性能は安定する。
【0016】
また、本発明に係る蓄電素子の他態様として、
活物質層非形成部は、活物質層から離間した部位を束ねることにより、当該部位に向かって収束する傾斜部となっており、
電解液吸い上げ層は、該傾斜部に形成される
構成を採用することができる。
【0017】
かかる構成によれば、傾斜部における隣り合う活物質層非形成部が形成する三角形状空間に電解液吸い上げ層が配置される。そのため、電解液の保持力が高まり、電解液の吸い上げ性能が向上する。
【0018】
また、本発明に係る蓄電素子の別の態様として、
電解液吸い上げ層は、活物質層やセパレータに接するように形成される
のが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、電解液吸い上げ層が電解液の供給先に直接繋がる。そのため、電解液の供給効率を高めることができる。
【0020】
また、本発明に係る蓄電素子のさらに別の態様として、
活物質層及び電解液吸い上げ層は、それぞれバインダを含み、
電解液吸い上げ層におけるバインダの質量比率は、活物質層におけるバインダの質量比率よりも高い
ようにすることができる。
この場合、電解液吸い上げ層におけるバインダの質量比率は、26〜80質量%である、のが好ましい。
さらには、電解液吸い上げ層におけるバインダの質量比率は、40〜60質量%である、のがより好ましい。
バインダの質量比率が高いほど、電解液吸い上げ層が吸い上げる電解液の量が増える。従って、バインダの質量比率が高いほど、電解液の供給効率を高めることができる。
【0021】
また、本発明に係る蓄電素子の別の態様として、
電解液吸い上げ層の多孔度は、活物質層の多孔度よりも高い
ようにすることができる。
この場合、電解液吸い上げ層の多孔度は、42〜73%である、のが好ましい。
電解液吸い上げ層の多孔度が高いほど、電解液吸い上げ層における空隙が多くなる。従って、電解液吸い上げ層の多孔度が高いほど、電解液吸い上げ層に電解液が浸透しやすくなり、浸透速度が向上する。その結果、電解液の供給効率を高めることができる。
【0022】
本発明に係る蓄電素子の設置方法は、
上記した何れかの蓄電素子を、発電要素の一端部の突出方向が水平方向又は略水平方向となるようにして、設置する。
【0023】
本発明に係る装置は、
上記した何れかの蓄電素子を、発電要素の一端部の突出方向が水平方向又は略水平方向となるようにして、設置した状態で備える。
【発明の効果】
【0024】
以上の如く、本発明に係る蓄電素子によれば、多孔質である電解液吸い上げ層により、優れた電解液の吸い上げ性能を発揮することができる。また、電解液吸い上げ層として、圧縮等の応力で変形しにくい材質を選定したとすれば、蓄電素子の使用に伴う経年変化によって電解液の吸い上げ性能が低下するのを好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る電池の斜視図を示す。
【図2】同電池を分解した斜視図を示す。
【図3】同電池をさらに分解した斜視図を示す。
【図4】(a)は、発電要素を構成する正極の各要素を説明するための説明図、(b)は、同発電要素を構成する負極の各要素を説明するための説明図、(c)は、正極、負極及びセパレータの幅方向における配置関係を説明するための説明図、を示す。
【図5】(a)は、同発電要素の横断面図、(b)は、同発電要素の端部に正極集電部材及び負極集電部材を接合した状態の横断面図、を示す。
【図6】発電要素における電解液の流動状態を説明するための説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である電池について、図面を参酌しつつ説明する。本実施形態に係る電池は、非水電解質二次電池、より詳しくは、リチウムイオン二次電池である。図1〜図3に示す如く、ケース本体2と、該ケース本体2の上端開口部を塞いで密閉する蓋板3とでケース1が構成されている。ケース1内には、発電要素4が収納されている。蓋板3には、発電要素4と電気的に接続された端子構造10が設けられている。
【0027】
ケース1は、ケース本体2、蓋板3ともに、アルミニウム又はアルミニウム合金や鋼等の金属部材である。ケース本体2としては、長円筒形状にされた巻回型の発電要素4を収納すべく、幅方向に偏平な有底角筒体が用いられる。蓋板3は、ケース本体2の上端開口部に対応した長方形状の板材が用いられる。蓋板3は、ケース本体2の上端開口部に嵌め込まれてレーザ溶接等により密閉固定される。
【0028】
発電要素4は、図4(c)に示す如く、正極5及び負極6を、セパレータ7を介在させつつ円筒形に巻回した後、この円筒形の側面を両側から圧迫することにより、長円筒形に押し潰して変形させたものである。より詳しくは、発電要素4は、内側から、セパレータ7、負極6、セパレータ7、正極5の順となるよう、これらを積層したものを円筒形に巻回した後、この円筒形の側面を両側から圧迫することにより、長円筒形に押し潰して変形させたものである。あるいは、発電要素4は、内側から、セパレータ7、負極6、セパレータ7、正極5の順となるよう、これらを積層したものを長円筒形状に巻回したものであってもよい。
【0029】
正極5は、同図(a)に示す如く、帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体50の表面片面に正極活物質塗料を塗工し、乾燥させた後、正極集電体50の反対面に同じく正極活物質塗料を塗工し、乾燥させる等して、正極集電体50の表面両面に正極活物質層(正極活物質塗工部)51を備える。正極活物質塗料は、例えば、LixMOy(Mは、少なくとも一種の遷移金属を表す)である複合酸化物(LixCoO2、LixNiO2、LixMn24、LixMnO3、LixNiyCo(1-y)2、LixCoyNizMn(1-x-y)2等)あるいはLiMePO4(Meは、例えばFe、Mn、Co、Cr)で表されるオリビン構造の化合物と、カーボンブラック等の導電性物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤(バインダ)とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶剤で分散混練して調製したものが用いられる。
【0030】
負極6は、同図(b)に示す如く、帯状の銅箔からなる負極集電体60の表面片面に負極活物質塗料を塗工し、乾燥させた後、負極集電体60の反対面に同じく負極活物質塗料を塗工し、乾燥させる等して、負極集電体60の表面両面に負極活物質層(負極活物質塗工部)61を備える。負極活物質塗料は、例えば、リチウムをドープ及び脱ドープ可能な、熱分解炭素類;ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類;グラファイト類;ガラス状炭素類;フェノール樹脂、フラン樹脂等を焼成した有機高分子化合物焼成体;炭素繊維、活性炭等の炭素質材料;ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性高分子材料と、カーボンブラック等の導電性物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤(バインダ)とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶剤とで分散混練して調製したものが用いられる。
【0031】
より詳しくは、正極5は、正極集電体50の幅方向における一端部を除いて表面両面に正極活物質塗料を塗工する等して、該一端部を除いた正極集電体50の表面両面に正極活物質層51を備える。また、そのため、該一端部は、正極集電体50(アルミニウム箔)が露出した部分(正極活物質層非形成部(正極活物質未塗工部)52)となっている。一方、負極6は、負極集電体60の幅方向における一端部を除いて表面両面に負極活物質塗料を塗工する等して、該一端部を除いた負極集電体60の表面両面に負極活物質層61を備える。また、そのため、該一端部は、負極集電体60(銅箔)が露出した部分(負極活物質層非形成部(負極活物質未塗工部)62)となっている。
【0032】
また、正極5は、正極集電体50の表面に所定幅の多孔質層53を備える。より詳しくは、正極5は、正極集電体50の表面両面に所定幅の多孔質層53を備える。多孔質層53は、後に詳述するが、ケース本体2の底部に貯留された電解液を吸い上げて、該電解液を巻回された正極5及び負極6間に供給する電解液吸い上げ層として機能するものである。多孔質層53は、電解液の供給能力を高めるために、正極活物質層51と接するように形成される。多孔質層53としては、電池の充放電に関与せず、電気化学的に安定であり、圧縮等の応力で変形しにくい材質が選ばれる。例えば、多孔質層53は、アルミナ、チタニア、マグネシア等の酸化物又は炭酸リチウムやリン酸リチウム等のリチウム塩と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤(バインダ)とを含有する多孔質体である。但し、多孔質層53の材質はこれに限定されるものではない。
【0033】
より詳しくは、多孔質層53は、正極集電体50の表面片面であって、正極活物質層非形成部52のうち、正極活物質層51に接する所定幅領域に、アルミナ、チタニア、マグネシア等の酸化物又は炭酸リチウムやリン酸リチウム等のリチウム塩と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤(バインダ)とを分散混練して調製した塗料を塗工し、乾燥させた後、正極集電体50の反対面に同じくかかる塗料を塗工し、乾燥させる等して形成したものである。
【0034】
そして、負極6も同じく、多孔質層63を備える。多孔質層63は、電解液の供給能力を高めるために、負極活物質層61と接するように形成される。多孔質層63としては、電池の充放電に関与せず、電気化学的に安定であり、圧縮等の応力で変形しにくい材質が選ばれる。例えば、多孔質層63は、アルミナ、チタニア、マグネシア等の酸化物又は炭酸リチウムやリン酸リチウム等のリチウム塩と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤(バインダ)とを含有する多孔質体である。但し、多孔質層63の材質はこれに限定されるものではない。
【0035】
多孔質層53,63において、電池の充放電に関与せず、電気化学的に安定であることはもちろん、圧縮等の応力で変形しにくいことも非常に重要な要素である。上述したとおり、発電要素4は、振動や衝撃などの外力や活物質の膨張・収縮による内部応力により変形するものである。特に、発電要素4を後述の集電部材8,9で吊り下げる形態を採る本実施形態に係る電池では、振動や衝撃などの外力が発電要素4と集電部材8,9との溶接部に集中しやすい。そのため、多孔質層53,63は、これら環境要因の影響をできるだけ受けないようにする必要がある。
【0036】
そこで、多孔質層53,63は、JIS R 1602に基づいて測定されるヤング率(弾性率)が、0.01GPa以上、より好ましくは0.1GPa以上であって、300GPa以下、より好ましくは200GPa以下の範囲になるよう設定される。電池寿命末期の電池内圧は、下限値の0.01GPaよりも十分小さいため、電解液の吸い上げ性能を確保することができるのである。尚、多孔質層53,63のヤング率は、前記バインダの割合を増やせば下げることができ、前記酸化物又はリチウム塩(無機粒子)の割合を増やせば上げることができる。
【0037】
その場合、多孔質層53におけるバインダの質量比率は、正極活物質層51におけるバインダの質量比率よりも高いのが好ましく、また、多孔質層63におけるバインダの質量比率は、負極活物質層61におけるバインダの質量比率よりも高いのが好ましい。例えば、多孔質層53,63におけるバインダの質量比率は、26質量%以上、より好ましくは、40質量%以上であって、80質量%以下、より好ましくは60質量%以下の範囲になるのが好ましい。多孔質層53,63におけるバインダの質量比率が高いほど、多孔質層53,63が吸い上げる電解液の量が増える。これにより、多孔質層53,63におけるバインダの質量比率が高いほど、電解液の供給効率を高めることができる。尚、多孔質層53,63におけるバインダの質量比率が上記のとおりであり、多孔質層53,63におけるバインダの質量比率が活物質層51,61におけるバインダの質量比率よりも高いことを前提として、正極活物質層51におけるバインダの質量比率は、2〜8質量%が好ましく、負極活物質層61におけるバインダの質量比率は、2〜8質量%が好ましい。
【0038】
また、多孔質層53の多孔度は、正極活物質層51の多孔度よりも高いのが好ましく、多孔質層63の多孔度は、負極活物質層61の多孔度よりも高いのが好ましい。例えば、多孔質層53,63の多孔度は、42%以上であって、73%以下の範囲になるのが好ましい。多孔質層53,63の多孔度が高いほど、多孔質層53,63における空隙が多くなる。これにより、多孔質層53,63の多孔度が高いほど、多孔質層53,63に電解液が浸透しやすくなり、浸透速度が向上する。その結果、電解液の供給効率を高めることができる。多孔度は、以下の式(1)、(2)により求めることができる。
多孔度(%)=100−{(塗布密度/真密度)×100}…式(1)
塗布密度(g/cm3)=塗布重量(g/cm2)/活物質層の厚み(cm)…式(2)
また、水銀ポロシメータを用いた水銀圧入法により測定することもできる。
【0039】
また、多孔質層53,63は、本来、多孔質層53,63がなかったとした場合の発電要素4の厚みよりも厚みが増えないようにするために、正極活物質層51や負極活物質層61の厚み以下(例えば、数十〜数百μm)とする。
【0040】
セパレータ7は、同図(c)に示す如く、正極5と負極6とを物理的に隔離し、電解液を保持する役割を果たすものである。材質として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の微多孔質膜が用いられる。
【0041】
尚、負極6の負極活物質層61は、デンドライトの析出等を考慮して、正極5の正極活物質層51よりも幅広に塗工される。また、セパレータ7は、絶縁を担保するため、正極5の正極活物質層51及び負極6の負極活物質層61よりも幅広である。但し、セパレータ7は、幅方向に突出した正極5の正極活物質層非形成部52及び負極6の負極活物質層非形成部62を覆わないような幅とされる。
【0042】
正極5及び負極6が幅方向で左右にずらして巻回されることにより、図5(a)に示す如く、発電要素4の一端部側では、負極6の側端から正極5の正極活物質層非形成部52が突出する一方、発電要素4の他端部側では、正極5の側端から負極6の負極活物質層非形成部62が突出している。
【0043】
同図(b)に示す如く、発電要素4の一端部側で突出する巻回された正極5の正極活物質層非形成部52が互いに密接させられ、当該部位と、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる正極集電部材8とが接合される。また、発電要素4の他端部側で突出する巻回された負極6の負極活物質層非形成部62が互いに密接させられ、当該部位と、例えば銅又は銅合金からなる負極集電部材9とが接合される。
【0044】
ここで、発電要素4の一端部側の正極活物質層非形成部52は、集電部材8との接合にあたって互いに密接させられることにより、正極活物質層51から、該正極活物質層51とは(発電要素4の巻回軸長方向に)離間した位置に配置される正極集電部材8に向かって収束し、傾斜部となっている。また、発電要素4の他端部側の負極活物質層非形成部62は、集電部材9との接合にあたって互いに密接させられることにより、負極活物質層61から、該負極活物質層61とは(発電要素4の巻回軸長方向に)離間した位置に配置される負極集電部材9に向かって収束し、同じく傾斜部となっている。そして、これら傾斜部では、隣り合う正極活物質層非形成部52,52間に間隙が形成され、隣り合う負極活物質層非形成部62,62間に間隙が形成される。
【0045】
電解液吸い上げ層53,63は、かかる間隙に配置されている。そのため、電解液の保持力が高められ、電解液の吸い上げ性能がさらに高められる。これにより、高い電解液の供給能力、安定した電解液の供給能力が期待される。しかも、多孔質層53,63は、上述の如く、正極活物質層51や負極活物質層61に接するように設けられることに加え、セパレータ7にも接するように設けられる。そのため、電解液の供給能力がさらに高められる。
【0046】
尚、図5は、巻回の様子を分かりやすくするために、正極5及び負極6の巻回回数を少なく示している。しかし、実際にはさらに多数の回数で巻回される。また、発電要素4の一端部と正極集電部材8との接合及び発電要素4の他端部と負極集電部材9との接合は、超音波接合、抵抗溶接、レーザ溶接、カシメ等様々な手段によって行うことができる。但し、正極活物質層や負極活物質層への熱影響、スパッタ、接合部における通電抵抗、作業性等を総合的に考慮すれば、超音波接合によって行うのが望ましい。
【0047】
正極集電部材8は、同図(b)及び図3に示す如く、発電要素4の一端部の内部空間に挿入される。正極集電部材8は、該一端部の内周面(即ち、巻回された正極5の正極活物質層非形成部52の最内周面)のうち、長円筒形の平坦部の一部(本実施形態においては、中央部)に当接する当接部81を備える本体80と、巻回された正極活物質層非形成部52を挟んで本体80の当接部81に対向配置される当て板82とを含む。この当て板82が本体80の当接部81に向けて押圧され、当接部81と当て板82との間における正極活物質層非形成部52が圧縮される。その結果、当該部位と、当接部81と、当て板82とが互いに密着して接合される。負極集電部材9についても同じである。
【0048】
端子構造10は、蓋板3の左右の端部に形成された貫通孔3aをそれぞれ内外で挟むようにして配置された、絶縁部材(封止機能も有する場合は、絶縁封止部材)としての樹脂プレート11及び絶縁封止部材としてのガスケット12と、該樹脂プレート11及びガスケット12を介して貫通孔3aに挿通され、正極集電部材8や負極集電部材9と電気的に接続されるリベット13と、ガスケット12を介して蓋板3の外部に配置された外部端子14と、該外部端子14とリベット12とを電気的に接続する接続板15とで構成される。これにより、ケース1内の発電要素4と外部端子14とが電気的に接続される。
【0049】
以上、本実施形態においては、発電要素4は、その巻回軸がケース本体2の底部と平行あるいは略平行となるように、横向きにしてケース本体2内に収容される。そして、本実施形態に係る電池は、ケース本体2の底部が下、ケース本体2の上端開口部が上となるようにして、装置に設置される。これにより、図6に示す如く、横向きにされた発電要素4の一端部側の正極活物質層非形成部52と、他端部側の負極活物質層非形成部62とに、それぞれ下端から上端にかけて連続して電解液吸い上げ層53,63が設けられる。そのため、ケース本体2の底部に貯留された電解液Xが矢印に沿って吸い上げられ、巻回された正極5,5間及び巻回された負極6,6間に供給される。従って、優れた電解液の吸い上げ性能が発揮される。
【0050】
そして、発電要素4の一端部側の正極活物質層非形成部52と正極集電部材8との接合部位及び発電要素4の他端部側の負極活物質層非形成部62と負極集電部材9との接合部位、即ち、集電部材8,9との接合のために正極活物質層非形成部52や負極活物質層非形成部62が束ねられる部位は、横向きにされた発電要素4の下端よりも上方位置、正確には上端と下端の中間位置である。これは、発電要素4の一端部側の正極活物質層非形成部52、他端部側の負極活物質層非形成部62のそれぞれ下端部が接合部位から離れていて接合による拘束をほとんど受けていないため、端部が僅かな間隙を有して開放されていることを意味する。そのため、ケース本体2の底部に貯留された電解液Xは、横向きにされた発電要素4の下端部において、正極活物質層非形成部52,52間の間隙並びに負極活物質層非形成部62,62間の間隙に容易に入り込み、浸透する。電解液吸い上げ層53,63は、この電解液に常時浸漬される状態となる。従って、この点でも、優れた電解液の吸い上げ性能が発揮される。
【0051】
さらに、電解液吸い上げ層63が、負極活物質層非形成部62の端部を束ねることにより形成される傾斜部における三角形状空間に配置されること、正極活物質層51や負極活物質層61と接するように配置されること、あるいは、セパレータ7と接するように配置されることで、電解液の供給効率が高められる。
【0052】
そして、電解液吸い上げ層53,63は、圧縮等の応力で変形しにくい材質が用いられる。そのため、振動や衝撃などの外力や活物質の膨張・収縮による内部応力等の環境要因に左右されにくくなっている。従って、電池の使用に伴う経年変化に関わらず、高い電解液の吸い上げ性能が維持される。
【0053】
尚、本発明に係る電池は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
例えば、前記実施形態においては、巻回型の電池について言及した。しかしながら、枚葉シート状の正極、セパレータ、負極及びセパレータがこの順で積層されていく積層型の電池も本発明の意図するところである。
【0055】
また、前記実施形態においては、正極集電体50の(正極活物質層非形成部52の)表面両面、負極集電体60の(負極活物質層非形成部62の)表面両面に電解液吸い上げ層53,63が設けられる。しかしながら、電解液吸い上げ層は、片面にだけ設けられるようにしてもよい。
【0056】
また、前記実施形態においては、正極5、負極6の長手方向に沿って電解液吸い上げ層53,63が設けられる。しかしながら、電解液吸い上げ層は、断続的、局所的、部分的、散点的に設けられるようにしてもよい。要は、電解液吸い上げ層は、電解液の液面に浸る位置から発電要素の上部に至るまでの範囲で形成されていればよい。また、電解液吸い上げ層は、正負極両方に形成されてもよいし、正極のみ又は負極のみに形成されてもよいことは言うまでもない。
【0057】
また、前記実施形態においては、上述の如く、負極活物質層61が正極活物質層51よりも幅広にされている。そのため、正極活物質層非形成部52は、全てが負極6(負極活物質層61)の側端から突出するわけではない。そのため、正極5側の電解液吸い上げ層53は、正極活物質層非形成部52の端部を束ねることにより形成される傾斜部に位置していない。しかしながら、正極活物質層非形成部52の全てが負極6(負極活物質層61)の側端から突出するようにすることで、正極5側の電解液吸い上げ層53を傾斜部に位置させることは可能である。但し、本発明において、電解液吸い上げ層53,63が傾斜部に設けられることは必須ではない。
【0058】
また、前記実施形態においては、集電部材8,9との接合にあたって巻回された正極活物質層非形成部52や巻回された負極活物質層非形成部62が左右それぞれ片側ずつ束ねられるようにした。しかしながら、左右が一緒に束ねられるようにしてもよい。
【0059】
また、前記実施形態においては、ケース1内に発電要素4が一つだけ収容されるようにしている。しかしながら、発電要素が横並びにして複数収容されるようにしてもよい。
【0060】
また、前記実施形態においては、集電体50,60の表面に活物質を担持させる方法として、塗工が用いられる。しかしながら、これ以外に、例えば吹き付けや浸漬によっても担持させることができる。
【0061】
また、前記実施形態においては、発電要素4の巻回軸がケース本体2の底部に平行になるように発電要素4をケース本体2に収納した電池において、ケース本体2の底部が下、ケース本体2の上端開口部が上となるようにして、電池が装置に設置されることにより、発電要素4の端部の突出方向が水平方向又は略水平方向となっている。しかしながら、これに限定されるものではない。発電要素4の巻回軸がケース本体2の底部に垂直になるように発電要素4をケース本体2に収納した場合であっても、発電要素4の端部の突出方向が水平方向又は略水平方向となるように、電池を装置に設置することができる。このように設置することで、電解液の吸い上げ性能を発揮することができる。尚、この場合、端子構造は電池の側面に配置されることになる。
【0062】
また、上記実施形態においては、リチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、電池の種類や大きさ(容量)は任意である。
【0063】
また、本発明は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではない。本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタにも適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…ケース、2…ケース本体、3…蓋板、3a…貫通孔、4…発電要素、5…正極(電極)、50…正極集電体(集電体)、51…正極活物質層(活物質層)、52…正極活物質層非形成部(活物質層非形成部)、53…多孔質層、6…負極(電極)、60…負極集電体(集電体)、61…負極活物質層(活物質層)、62…負極活物質層非形成部(活物質層非形成部)、63…多孔質層、7…セパレータ、8…正極集電部材(集電部材)、80…本体、81…当接部、82…当て板、9…負極集電部材(集電部材)、90…本体、91…当接部、92…当て板、10…端子構造、11…樹脂プレート、12…ガスケット、13…リベット、14…外部端子、15…接続板、X…電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ集電体の一端部を除いた表面に活物質層が形成された正極及び負極が、セパレータを介在させつつ巻回もしくは積層された発電要素であって、正極及び負極の少なくとも一方の一端部が、活物質層非形成部として、極の異なる電極の側端から突出した発電要素と、
該発電要素が前記一端部の突出方向を横向きにして収容されたケースと、
該ケース内に貯留された電解液とを備え、
前記活物質層非形成部は、多孔質である電解液吸い上げ層であって、前記一端部の突出方向と直交する方向に沿って形成された電解液吸い上げ層を有する
蓄電素子。
【請求項2】
前記電解液吸い上げ層のヤング率は、0.01〜300GPaである
請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記活物質層非形成部は、活物質層から離間した部位を束ねることにより、当該部位に向かって収束する傾斜部となっており、
前記電解液吸い上げ層は、該傾斜部に形成される
請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
前記電解液吸い上げ層は、活物質層に接するように形成される
請求項1〜3の何れか1項に記載の蓄電素子。
【請求項5】
前記電解液吸い上げ層は、セパレータに接するように形成される
請求項1〜4の何れか1項に記載の蓄電素子。
【請求項6】
前記活物質層及び前記電解液吸い上げ層は、それぞれバインダを含み、
前記電解液吸い上げ層における前記バインダの質量比率は、前記活物質層における前記バインダの質量比率よりも高い
請求項1〜5の何れか1項に記載の蓄電素子。
【請求項7】
前記電解液吸い上げ層における前記バインダの質量比率は、26〜80質量%である
請求項6に記載の蓄電素子。
【請求項8】
前記電解液吸い上げ層における前記バインダの質量比率は、40〜60質量%である
請求項6に記載の蓄電素子。
【請求項9】
前記電解液吸い上げ層の多孔度は、前記活物質層の多孔度よりも高い
請求項1〜8の何れか1項に記載の蓄電素子。
【請求項10】
前記電解液吸い上げ層の多孔度は、42〜73%である
請求項9に記載の蓄電素子。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の蓄電素子を、前記発電要素の前記一端部の突出方向が水平方向又は略水平方向となるようにして、設置する
蓄電素子の設置方法。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載の蓄電素子を、前記発電要素の前記一端部の突出方向が水平方向又は略水平方向となるようにして、設置した状態で備える
装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−209252(P2012−209252A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51754(P2012−51754)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】