説明

薄膜半導体基板の製造方法

【課題】より微細な気泡によって気泡層を形成することが可能で、これによりTATおよび歩留まりの向上を図ることが可能な薄膜半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体基板1の全面において深さを一定に制御してイオンIを注入するイオン注入工程と、半導体基板1の加熱により半導体基板1に注入したイオンを気化させて気泡層7を形成する気泡層形成工程と、半導体基板1に絶縁性基板11を張り合わせる張り合わせ工程と、気泡層7を劈開面15として半導体基板1を劈開し、絶縁性基板11側に半導体基板1を劈開させた半導体薄膜1aを設ける劈開工程とを行う。特に気泡層形成工程においては、半導体基板1を1000℃〜1200℃の温度で10μ秒〜100m秒間加熱する。このような加熱は、例えば光ビームhνのようなエネルギービームの照射によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜半導体基板の製造方法に関し、特にはイオン注入剥離法を適用した薄膜半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SOI(silicon on insulator)基板に代表される薄膜半導体基板は、絶縁性基板上に単結晶シリコンなどの単結晶性の半導体薄膜を設けてなる。このような薄膜半導体基板を用いて作製される半導体装置は、深さ方向に対する素子の絶縁分離が十分である。このため、高集積化および高機能化が進んだ半導体装置を作製するための基板として注目されている。
【0003】
薄膜半導体基板を作製する方法の1つにイオン注入剥離法(いわゆるスマートカット法:登録商標)がある。この方法は、先ず単結晶シリコンからなる活性層用ウエハの所定深さに水素などの軽元素イオンを注入する。次に、活性層用ウエハにおけるイオン注入側の面に、絶縁性基板を張り合わせる。その後、400℃〜700℃の温度での加熱処理を行うことにより、活性層用ウエハに導入したイオンに微小な空洞の体積変化を起こさせて気泡を発生させる。これにより、活性層用ウエハの所定深さに気泡層を形成する。この状態で、気泡層を分離面として活性層用ウエハを劈開し、絶縁性基板側に薄い活性層用ウエハからなる半導体薄膜(単結晶シリコン薄膜)を設けた薄膜半導体基板を得る(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−158943号公報(特に段落0039−0041)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、薄膜半導体基板上に高密度に素子を形成して高集積化する場合、活性層用ウエハからなる半導体薄膜には、膜厚の均一性および劈開面によって構成される表面の平坦性が要求される。このため、薄膜半導体基板に対する素子の形成は、研磨によって半導体薄膜の表面(すなわち劈開面)を平坦化処理した後に行われる。
【0006】
しかしながら、上述したイオン注入剥離法では、活性層用ウエハに気泡層を形成する際の400℃〜700℃の温度での加熱処理の間に気泡の結合が進み、気泡層を構成する各気泡の径が10nm程度にまで拡大する。このため、各気泡の内壁に追従する面形状を有する劈開面は、凹凸の大きい面となる。特に、ある程度の厚い膜厚の半導体薄膜を得たい場合には、活性層用ウエハ中のある程度の深さにイオンを導入する必要性からイオン注入における注入エネルギーが大きくなり、軽元素イオンの注入分布が大きく広がる。このため、気泡層の厚みが増加し、劈開面の凹凸はさらに大きく不均一になる。
【0007】
以上のような劈開面における凹凸の拡大は、劈開面を平坦化するための研磨量を増大させ、TAT(turn-around time)の長時間化および歩留まりの低下を招く要因となっている。
【0008】
そこで本発明は、より微細な気泡によって気泡層を形成することが可能で、これによりTATおよび歩留まりの向上が図られた薄膜半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するための本発明の薄膜半導体基板の製造方法は、半導体基板の全面において深さを一定に制御してイオンを注入するイオン注入工程と、半導体基板の加熱により当該半導体基板に注入したイオンを気化させて気泡層を形成する気泡層形成工程と、半導体基板に絶縁性基板を張り合わせる張り合わせ工程と、気泡層を劈開面として半導体基板を劈開し、絶縁性基板側に当該半導体基板を劈開させた半導体薄膜を設ける劈開工程とを行う方法であって、特に気泡層形成工程においては、半導体基板を1000℃〜1200℃の温度で10μ秒〜100m秒間加熱する。このような加熱は、例えば光ビームhνのようなエネルギービームの照射によって行う。
【0010】
このような本発明の製造方法では、気泡層形成工程においての半導体基板の加熱条件を、1000℃〜1200℃の温度で、10μ秒〜100m秒間といった極めて短時間とした。これにより、当該気泡層形成工程においてイオンが気化して超微細な気泡が形成された後、これらの気泡同士の結合が抑制され、超微細な気泡で構成された気泡層を形成することができる。したがって、超微細な気泡を配列してなる気泡層で劈開させた半導体薄膜の表面(すなわち劈開面)を、凹凸の小さな面とすることができる。このため、半導体薄膜の表面を平坦化する際の研磨を少量とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、気泡層を構成する気泡の微細化を図ることが可能なことから、気泡層で劈開させた劈開面の凹凸を小さくすることができる。これにより、劈開面を平坦化する際の研磨を少量とすることが可能となる。この結果、薄膜半導体基板の製造におけるTATの向上および歩留まりの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の製造方法を示す断面工程図(その1)である。
【図2】第1実施形態の製造方法を示す断面工程図(その2)である。
【図3】第2実施形態の製造方法の特徴部を示す断面工程である。
【図4】半導体基板における水素分子イオン注入面の光反射率スペクトルである。
【図5】図4の光反射スペクトルの数値解析によって得られた半導体基板の結晶化率の深さプロファイルである。
【図6】光ビーム照射後の半導体基板における水素分子イオン注入面の光反射率スペクトルである。
【図7】図6の光反射スペクトルの数値解析によって得られた半導体基板の結晶化率の深さプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて、次に示す順に実施の形態を説明する。
【0014】
≪第1実施形態≫
図1は、本発明の第1実施形態の薄膜半導体基板の製造方法を示す断面工程図であり、以下この図に基づいて第1実施形態の製造方法を説明する。
【0015】
先ず、図1(a)に示すように、活性層用ウエハとなる半導体基板1を用意する。この半導体基板1は、単結晶シリコンや、他の単結晶性の半導体材料からなる基板であることとする。ここでは例えば単結晶シリコン基板を用いることとする。
【0016】
次に、半導体基板1の表面に、後の工程で行うイオン注入の際の保護膜となる酸化膜3を形成する。この酸化膜3は、例えば熱処理によって形成した熱酸化膜であることとする。尚、酸化膜3は、必要に応じて形成すれば良く、イオン注入の際の保護膜が必要なければ形成しなくても良い。
【0017】
次いで、半導体基板1の表面側からのイオン注入により、半導体基板1の所定深さにイオン注入層5を形成するイオン注入工程を行う。イオン注入層5の形成深さdは、ここで作製する薄膜半導体基板に要求される半導体薄膜の膜厚に対応する深さdである。この深さdは、用いるイオンによって注入エネルギーを調整することで制御される。このようなイオン注入には、水素イオンや水素分子イオン、他の軽元素イオンが用いられる。軽元素イオンとしては、ヘリウムイオンが用いられる。軽元素イオンを用いることにより、半導体基板に重大な損傷を与えることなくイオン注入を実現することができる。例えば、水素分子イオンを用いた場合には、注入エネルギーを60keV程度に保ったイオン注入を行うことで、深さd=250nm付近にイオン注入層5が形成される。
【0018】
またここでは、例えば、水素分子イオンを用いた場合には、3×1016個/cm程度のドーズ量に設定される。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、半導体基板1中のイオン注入層5を構成するイオンが気化するよりも低い温度で、半導体基板1を加熱する。これにより、半導体基板1中に注入したイオンを最大注入濃度付近に析出させ、イオン注入層5の深さ方向の幅、すなわちイオンの深さ方向の分布を狭くする。一例として、水素分子イオンのイオン注入によってイオン注入層5を形成した場合であれば、400℃以下の加熱温度、例えば300℃での加熱処理を行う。尚、この工程は、必要に応じて行えばよく、イオン注入時のイオン分布が狭く、イオンの分布を調整する必要ない場合には省略しても良い。
【0020】
以上の後、図1(c)に示す本発明に特徴な気泡層形成工程を行う。ここでは、半導体基板1の全面にエネルギービームとして光ビームhνを照射することにより半導体基板1を加熱し、半導体基板1に注入したイオンを気化させて気泡Aを発生させる。この気泡Aは、イオン注入層5に対応する深さd’に配列形成される。これにより、気泡Aを所定深さd’(≒d)に配列してなる気泡層7が形成される。なお、半導体基板1の加熱にあたっては、光吸収層として設けておき、当該光吸収層を介して半導体基板1を加熱するように構成しておいても良い。このような構成を用いると、半導体基板1の加熱をより短時間に行うことが出来る。光吸収層を構成する材料には、カーボンの他、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)等の金属も用いることができる。
【0021】
ここで用いる光ビームhνは、半導体基板1で吸収される波長を有していることとする。このような光ビームhνとしては、半導体レーザや固体レーザなど、発振装置には制限されないレーザ光を用いることができる。レーザ光は、単一波長である必要はなく、上述した波長範囲の光を含む複数波長で構成されていても良い。例えば半導体基板1が単結晶シリコンからなる場合であれば、波長300nm〜1000nm程度の光ビームが用いられ、一例として、赤外半導体レーザが用いられる。
【0022】
このような光ビームhνの照射による半導体基板1の加熱は、半導体基板1における気泡層7に近い側の酸化膜3の形成面に対して光ビームhνを走査させることで行う。これにより、半導体基板1の全面に対して光ビームhνを照射する。この際、光ビームhνとしてラインビームを用いることにより、半導体基板1の表面に対する光ビームhνの走査回数を減らすことができ、工程を短縮化することができる。
【0023】
光ビームhνの照射は、半導体基板1中に導入したイオンが気化する温度に半導体基板1が加熱されるように、光ビームhνの出力や照射時間(走査速度)を調整して行われる。例えば、単結晶シリコンからなる半導体基板1に水素分子イオンを注入した場合であれば、半導体基板1が1000℃〜1200℃程度の温度で、10μ秒〜100m秒間の時間加熱されるように光ビームhνの照射を行う。このような極短時間での高温加熱は、光ビームhνの照射による加熱に特徴的であり、ランプ加熱やファーネス加熱では不可能である。
【0024】
尚、以上のような光ビームhνの照射は、半導体基板1における気泡層7に近い面に対して行うこととした。しかしながら、用いる光ビームhνの波長によっては半導体基板1を透過するため、図示したと逆の面から光ビームhνを照射してもよい。
【0025】
次に、図1(d)に示すように、半導体基板1に絶縁性基板11を張り合わせる張り合わせ工程を行う。ここでは、半導体基板1における気泡層7に近い酸化膜3の形成面に対して、絶縁性基板11を張り合わせる。
【0026】
ここで用いる絶縁性基板11は、半導体基板1に対する張り合わせ面側の絶縁性が保たれていれば良い。このような絶縁性基板11としては、単結晶シリコンのような半導体基板の表面を酸化膜で覆ってなる基板、ガラス基板やプラスチック基板、さらには金属基板を絶縁膜でラミネートした基板等が用いられる。
【0027】
次に、図1(e)に示すように、気泡層7を劈開面15として半導体基板1を劈開する劈開工程を行う。これにより、絶縁性基板11側に半導体基板1を劈開させた半導体薄膜1aを設ける。この劈開工程では、半導体基板1を加熱するか、または物理的な衝撃を与えることにより、気泡層7において半導体基板1を劈開させる。加熱による劈開を行う場合には、絶縁性基板11と半導体薄膜1aとの熱膨張係数の違いによる応力の発生と、これによる半導体薄膜1aのクラック発生を防止するため、短時間での加熱を行うことが好ましい。
【0028】
以上のようにして、絶縁性基板11上に、半導体薄膜1aを設けてなる薄膜半導体基板13が得られる。このようにして得られた薄膜半導体基板13においては、半導体薄膜1aの表面が、気泡層7を構成する気泡Aの内壁に追従した形状となる。
【0029】
そこで、このような薄膜半導体基板13を用いて半導体装置を作製する場合には、図2に示すように、薄膜半導体基板13における半導体薄膜1aの表面(劈開面15)を、研磨によって平坦化する平坦化工程を行う。ここでは、例えばCMP(chemical mechanical polishing)を行うことにより、半導体薄膜1aの表面(劈開面15)を平坦化すると共に、必要に応じて半導体薄膜1aを所定の膜厚にまで減膜する。
【0030】
次に、イオン注入によって低下した半導体薄膜1aの結晶性を回復させるために、加熱による再結晶化工程を行う。ここでは、光レーザの全面照射、またはランプ加熱やファーネス加熱を行う。この際、絶縁性基板11と半導体薄膜1aとの熱膨張係数の違いによる応力の発生、これによる半導体薄膜1aのクラック発生を防止するため、短時間での加熱を行うことが好ましい。
【0031】
以上の後、半導体薄膜1aに、素子分離領域を形成し、素子分離領域で分離された活性領域に半導体素子を形成する。この素子分離領域は、半導体薄膜1aの膜厚深さにわたって形成する。これにより、各活性領域に形成した半導体素子間の分離を確実とすることができる。
【0032】
以上説明した第1実施形態の製造方法によれば、図1(c)を用いて説明した気泡層形成工程において、光ビームhνの照射による半導体基板1の加熱が行われる。このため、極めて短時間での半導体基板1の高温加熱によって、イオンを気化させて気泡Aを形成することができる。これにより、気泡Aの形成過程において、気泡A同士が結合して大径化することが防止され、超微細な気泡Aで構成された気泡層7を形成することが可能である。またこのように超微細な気泡Aからなる気泡層7において半導体基板1を劈開させて得た半導体薄膜1aの表面(つまり劈開面15)は、超微細な気泡Aの内径に沿った凹凸の小さな面となる。
【0033】
特に、図1(a)を用いて説明したイオン注入工程においては、注入エネルギーが高いほど、半導体基板1中における深さ方向のイオン分布が大きく広がり、幅の広いイオン注入層5が形成されることになる。しかしながら、本第1実施形態の方法では、気泡層形成工程における初期の段階でイオン注入層5の最大注入濃度付近で気泡Aが形成された後、これらの気泡Aが結合することがない。このため、半導体基板1の深い位置にも、均一な深さに超微細な気泡Aを配列してなる気泡層7を形成することができる。このため、気泡層7において半導体基板1を劈開させて得た半導体薄膜1aが、ある程度の厚みを有するものであっても、その表面(つまり劈開面15)は超微細な気泡Aの内径に沿った凹凸の小さな面となる。
【0034】
したがって、半導体薄膜1aの表面(すなわち劈開面15)を平坦化する際の研磨を少量とすることが可能となり、この結果、薄膜半導体基板13を用いた半導体装置の製造におけるTATの向上および歩留まりの向上を図ることが可能になる。またこの効果は、半導体基板1aがある程度の厚みを有するものであっても、同様に得ることができる。
【0035】
また、図1(c)を用いて説明した気泡層形成工程においては、超短時間で高温に半導体基板1が加熱される。このため、この気泡層形成工程においては、イオン注入によって結晶性が低下した半導体基板1の結晶性をある程度回復させることができる。したがって、半導体薄膜1aの再結晶化工程では、熱履歴を抑えた処理によって、十分な再結晶化を図ることが可能になる。これにより、絶縁性基板11と半導体薄膜1aとの熱膨張係数の違いによる応力の発生と、これによる半導体薄膜1aのクラック発生を防止ことが可能である。
【0036】
≪第2実施形態≫
図3は、本発明の第2実施形態の薄膜半導体基板の製造方法における特徴部を示す断面工程図である。この図に示す第2実施形態の製造方法が、上述した第1実施形態と異なるところは、光ビームhνの照射による気泡層形成工程と、絶縁性基板11の張り合わせ工程とを逆に行うところにあり、他の工程は同様である。
【0037】
すなわち第2実施形態の製造方法では、先ず第1実施形態において図1(a)〜図1(b)を用いて説明したと同様の工程を行う。これにより、半導体基板1の表面に酸化膜3を形成し、次いでイオン注入層5を形成し、さらに必要に応じた加熱処理によってイオン注入層5の深さ方向の幅を狭くする。
【0038】
その後、図3(a)に示すように、半導体基板1に絶縁性基板11を張り合わせる張り合わせ工程を行う。ここでは、半導体基板1におけるイオン注入層5に近い酸化膜3の形成面に対して、絶縁性基板11を張り合わせる。ここで用いる絶縁性基板11は、次の工程で用いる光ビームに対する透過性が十分に大きい光透過性材料からなる基板を用いることとする。また、絶縁性基板11は、このような光透過性材料で構成される基板であって、かつ半導体基板1に対する張り合わせ面側の絶縁性が保たれていれば良い。このような絶縁性基板11としては、ガラス基板やプラスチック基板等が用いられる。
【0039】
次に、図3(b)に示す本発明に特徴な気泡層形成工程を行う。ここでは、半導体基板1の全面にエネルギービームとして光ビームhνを照射することにより半導体基板1を加熱し、半導体基板1に注入したイオンを気化させて気泡Aを発生させ、気泡Aを所定深さd’(≒d)に配列してなる気泡層7を形成する。
【0040】
この際、特に本第2実施形態で特徴的なところは、光透過性材料からなる絶縁性基板11側から、当該絶縁性基板11を介して光ビームhνを半導体基板1に照射する点にある。半導体基板1に対する光ビームhνの照射は、第1実施形態で説明したと同様である。
【0041】
以上の後には、先の第1実施形態において図1(e)を用いて説明したと同様の劈開工程を行い、気泡層7を劈開面として半導体基板1を劈開する。これにより、気泡層7において半導体基板1を劈開させ、絶縁性基板11上に半導体薄膜1aを設けてなる薄膜半導体基板13を得る。
【0042】
このようにして得られた薄膜半導体基板13は、第1実施形態と同様に半導体薄膜1aの表面(すなわち劈開面15)が、気泡層7を構成する気泡Aの内壁に追従した形状となる。このため、第1実施形態において図2を用いて説明したと同様に、薄膜半導体基板13における半導体薄膜1aの表面(劈開面)を、例えばCMPなどの研磨によって平坦化する平坦化工程を行い、必要に応じて半導体薄膜1aを所定の膜厚にまで減膜する。次に、イオン注入によって低下した半導体薄膜1aの結晶性を回復させるために、加熱による再結晶化工程を行う。
【0043】
以上の後、半導体薄膜1aに素子分離領域を形成し、素子分離領域で分離された活性領域に半導体素子を形成する。この素子分離領域は、半導体薄膜1aの膜厚深さにわたって形成する。これにより、各活性領域に形成した半導体素子間の分離を確実とすることができる。
【0044】
以上説明した第2実施形態の製造方法であっても、図3(b)を用いて説明した気泡層形成工程において、光ビームhνの照射による半導体基板1の加熱が行われる。このため、第1実施形態と同様に、超微細な気泡Aで構成された気泡層7を形成することが可能となり、半導体基板1を劈開させて得た劈開面15の凹凸を小さくし、半導体薄膜1aの表面(劈開面15)を平坦化する際の研磨を少量にでき、薄膜半導体基板13を用いた半導体装置の製造におけるTATの向上および歩留まりの向上を図ることが可能になる。
【0045】
また第1実施形態と同様に、気泡層形成工程において、イオン注入によって結晶性が低下した半導体基板1の結晶性をある程度回復させることができるため、半導体薄膜1aの再結晶化工程においての熱履歴を小さくして半導体薄膜1aのクラック発生を防止ことが可能である。
【0046】
また特に、図3(b)を用いて説明した気泡層形成工程において、光ビームhνの照射による半導体基板1の加熱が行われるため、半導体基板1と絶縁性基板11との間の熱膨張係数の差による応力発生が抑制され、半導体基板1や絶縁性基板11の損傷を防止することができる。したがって、絶縁性基板11を張り合わせた後に、半導体基板1の加熱による気泡層7の形成工程を行うことが可能になる。
【0047】
尚、以上説明した第1実施形態および第2実施形態では、気泡層形成工程において光ビームhνの照射によって半導体基板1を加熱する方法を説明した。気泡層形成工程においては、できるだけ径の小さい気泡を形成することが重要である。このため、気泡層形成工程においては、光ビームhνを走査させながらの照射による半導体基板の短時間加熱が有効である。さらに、1000℃〜1200℃の温度で極短時間だけ半導体基板を加熱できる他の加熱方法を採用することもできる。例えば先に述べたように、単結晶シリコンからなる半導体基板1に水素分子イオンを注入した場合であれば、半導体基板1が1000℃〜1200℃程度の温度で、10μ秒〜100m秒の時間加熱される方法であれば良い。
【0048】
このような加熱方法の具体例としては、以下(1)〜(4)の方法が例示される。
(1)1200℃以上に加熱したカーボン発熱体を半導体基板1に接触させずに、半導体基板1の表面近くに配置して高速移動させて半導体基板を加熱する。カーボン発熱体の加熱は、光エネルギーの照射によって行うことができる(以上特開2007-115926号公報参照)。また、カーボン発熱体は、半導体基板1におけるイオン注入面に近接配置して高速移動させる。
(2)半導体基板1上に電極を形成し、電極に電流を流して半導体基板に電流ジュール熱を発生させる(Applied Physics A73,p.419-p.423参照)。この場合、半導体基板1におけるイオン注入面上に、クロム膜を介して電極を形成し、この電極に電流を流す。
(3)エネルギービームとして熱プラズマをビーム照射して半導体基板を加熱する(Japanese Journal of Applied Physics Vol.45,No.5B,(2006),p.4313-4320参照)。この場合、半導体基板1におけるイオン注入面に対して熱プラズマを走査させながら照射する。
(4)エネルギービームとして電子ビームを照射して半導体基板を加熱する。この場合、半導体基板1におけるイオン注入面に対して熱プラズマを走査させながら照射する。
【実施例】
【0049】
単結晶シリコンからなる半導体基板1の表面に、熱処理によって膜厚100nmの酸化膜3を形成した。酸化膜3側から半導体基板1に対して、注入エネルギー60keV、ドーズ量3×1016個/cmのイオン注入によって水素分子イオンを注入し、半導体基板1の所定深さにイオン注入層5を形成した。
【0050】
その後、イオン注入による半導体基板1の結晶性の変化を知るため、半導体基板1における水素分子イオン注入面の光反射率スペクトルを測定した。ここでは、酸化膜5を剥離して半導体基板1の単結晶シリコン面を露出させ、この露出させた面において光反射率スペクトルの測定を行った。この結果を図4に実験値として示す。図4の実験値に示すように、測定した光反射スペクトルには、波長450nm以上の可視近赤外域に緩やかな振動波形が見られた。
【0051】
次に、図4に示した光反射スペクトルの実験値の数値解析により、結晶化率の深さプロファイルを図5のように算出した。尚、光反射率スペクトルからの結晶化率の深さプロファイルの算出は、以下のように行った。
【0052】
すなわち、光反射スペクトルの測定を行った半導体基板1を、複数の層からなる積層構造であると仮定し、コンピュータを用いた計算により、光反射率スペクトルを算出する。この際、上記仮定した積層構造を構成する各層の結晶化率および膜厚を変化させ、光干渉効果を考慮に入れたフレネル係数法により、光反射率スペクトルを算出する。この計算値を、上記測定によって実測された光反射率スペクトルに一致させるように、各層の結晶化率と膜厚を入力する(以上、特開2008−124083号公報参照)。尚、図4には、このようにして算出した光反射スペクトルを、計算値として鎖線で示した。
【0053】
以上のようにして算出された図5のプロファイルに示すように、表面から約240nmの深さに渡ってシリコンの結晶化率が低下していることがわかった。この結晶化率が低下した領域は、水素分子イオンの注入領域に一致しており、水素分子イオン注入時のダメージによって結晶が部分的に破壊されたものと考えられる。
【0054】
またさらに、上記の半導体基板1の全面に対して、光ビームhνとして波長940nmの赤外半導体レーザを照射することにより、半導体基板1を1050℃で1m秒間加熱し、気泡層7の形成工程を行った。
【0055】
その後、光ビームhνの照射による半導体基板1の結晶性の変化を知るため、先の図4の測定と同様に半導体基板1における水素分子イオン注入面の光反射率スペクトルを測定した。この結果を図6に実験値として示す。図6の実験値に示すように、ここで測定した光反射スペクトルは、先の図4の光反射スペクトルに対して大きく変化し、波長450nm以上の可視近赤外域の振動波形が著しく大きく拡大されていることがわかる。
【0056】
次に、上述したと同様に図6に示した光反射スペクトルの実験値を数値解析し、結晶化率の深さプロファイルを図7のように算出した。尚、図6には、このようにして算出した光反射スペクトルを、計算値として鎖線で示した。
【0057】
図7に示すように、光ビーム照射による半導体基板1の加熱を行うことで、深さ270nmまでの表面領域の結晶化率が向上し、結晶性が回復することが確認された。また270nmの深さに、幅4nmの薄い屈折率がほぼ1の領域、即ち空隙が形成されていることが分かった。これは水素分子イオン注入端に超微細な気泡が稠密に形成されたことを示している。またこの状態で気泡の径を測定したところ、4nm程度であった。これに対して、気泡層形成工程を400℃〜700℃の温度での加熱処理によって行う従来方法では、気泡の径10nmであった。このため、本発明方法を適用することで、気泡の径を2/5に微細化できることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1…半導体基板、1a…半導体薄膜、7…気泡層、11…絶縁性基板、13…薄膜半導体基板、15…劈開面、d,d’…深さ、hν…光ビーム、I…イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の全面において深さを一定に制御してイオンを注入するイオン注入工程と、
前記半導体基板の加熱により当該半導体基板に注入したイオンを気化させて気泡層を形成する気泡層形成工程と、
前記半導体基板に絶縁性基板を張り合わせる張り合わせ工程と、
前記気泡層を劈開面として前記半導体基板を劈開することにより前記絶縁性基板側に当該半導体基板を劈開させた半導体薄膜を設ける劈開工程とを行い、
前記気泡層形成工程においては、前記半導体基板を1000℃〜1200℃の温度で10μ秒〜100m秒間加熱する
薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記気泡層形成工程では、エネルギービームの照射によって前記半導体基板を加熱する
請求項1記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記気泡層形成工程では、前記半導体基板の表面に対して前記エネルギービームを走査させることにより、当該半導体基板の全面に前記エネルギービームを照射する
請求項2に記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記気泡層形成工程では、前記エネルギービームとして前記半導体基板で吸収される波長の光ビームを用いる
請求項2または3記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記エネルギービームは、ラインビームである
請求項3または4記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記気泡層形成工程の前に、前記半導体基板中のイオンが気化するよりも低い温度で当該半導体基板を加熱する
請求項1〜5の何れかに記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記劈開工程の後、前記半導体薄膜の劈開面を研磨によって平坦化する平坦化工程を行う
請求項1〜6の何れかに記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記劈開工程の後、前記半導体薄膜を加熱して当該半導体薄膜を構成する半導体材料の結晶化を進める再結晶化工程を行う
請求項1〜7の何れかに記載の薄膜半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記張り合わせ工程では、前記半導体基板に対して光透過性材料からなる前記絶縁性基板を張り合わせた後、
前記気泡層形成工程では、前記絶縁性基板側から前記半導体基板に前記エネルギービームを照射することにより前記気泡層を形成する
請求項2〜8の何れかに記載の薄膜半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−69817(P2012−69817A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214417(P2010−214417)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】