薄膜堆積のための銅前駆体
【課題】ALD法又はCVD法において、金属銅の成長速度を大きくすることができる銅前駆体並びにその製造及び使用方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表されるケイ素化合物の銅錯体を前駆体として使用し、基材上に銅膜及び銅合金を堆積させることができる。
(式中、Xは酸素及びNR5を、R1、R2、R3及びR5は水素又はアルキル基等を、R4はOCHMeCH2基等を、Lはビニルジメチルシリル基等を表す)
【解決手段】式(I)で表されるケイ素化合物の銅錯体を前駆体として使用し、基材上に銅膜及び銅合金を堆積させることができる。
(式中、Xは酸素及びNR5を、R1、R2、R3及びR5は水素又はアルキル基等を、R4はOCHMeCH2基等を、Lはビニルジメチルシリル基等を表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、銅薄膜を堆積するのに用いられる銅前駆体に関する。より具体的には、本発明は、揮発性で熱的に安定であり、例えば、原子層堆積(ALD)法又は化学気相成長(CVD)法を利用した銅薄膜の堆積に使用できる非フッ素化銅前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業では、金属含有配線(例えば銅(Cu))が電子デバイス(例えば現在のマイクロプロセッサ)で利用されている。金属含有配線は、埋め込まれた細い金属線にすることが可能であり、三次元グリッドを形成する。その三次元グリッド上でマイクロプロセッサの心臓部にある数百万個のトランジスタが互いに通信し、複雑な計算を実施することができる。このような用途や他の用途では、銅又は銅合金が、他の金属(例えばアルミニウム)よりも多く選択されるであろう。なぜなら銅はより優れた導電体であるため、より大きな電流を運ぶことのできるより高速の配線を提供するからである。
【0003】
電子デバイスの内部における配線(IC)経路は、一般に、ダマシン・プロセスで形成される。この方法では、誘電性絶縁体の中にフォトリソグラフィでパターニングしてエッチングしたトレンチとビアは、拡散障壁材料からなる同じ形状の薄層で覆われる。一般に、拡散障壁層は、金属層又は銅層が集積回路の他の部分と相互作用すること、又は金属層又は銅層が集積回路の他の部分に拡散することによって起こる好ましくない効果を阻止するため、その金属層又は銅層と組み合わせて用いられる。障壁材料の例として、チタン、タンタル、タングステン、クロム、モリブデン、ジルコニウム、ルテニウム、バナジウム、パラジウム、白金のほか、これらの材料の炭化物、窒化物、炭窒化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、ケイ素炭窒化物や、これらの材料を含む合金などが挙げられる。いくつかの方法では、例えば配線に銅が含まれている場合、拡散障壁層を銅からなる薄い「種」層又は「ストライク」層で覆った後、凹部を純粋な銅で完全に満たすことができる。さらに別の場合には、銅からなる種層の代わりに類似したコバルト又は同様の導電性のある薄膜「接着」層にすること、又は銅からなる種層に加えて類似したコバルト又は同様の導電性のある薄膜「接着」層を用いることができる。その後、化学的機械的研磨処理によって過剰な銅を除去することができる。埋めるべき最も小さな凹部は幅が0.2ミクロン未満で深さが1ミクロンを超える可能性があるため、銅からなる種層、銅からなる接着層、及び/又は拡散障壁層は、空隙を残すことなく凹部を一様に満たすことのできるメタライゼーション技術を利用して堆積させることが好ましい。空隙があると、完成品に電気的な故障が生じる可能性がある。
【0004】
シリコン・チップの中に配線経路を形成するための上記の方法に加え、近年になって急に出現した三次元(3D)パッケージングという方法もある。この方法では、TSV(シリコン貫通ビア)として知られる相対的に規模がより大きな配線を形成する必要がある。TSVは、導電性が比較的大きなビアを意味し、薄くしたIC、メモリ、微小電気機械(MEMS)シリコン・チップの中をビアが貫通するときにそのビアを積層させて互いに接続し、フットプリントが小さなエネルギー高効率デバイスにすることができる。3Dパッケージングの方法は多数存在している。「ビアファースト」法は、最初にシリコン・ウエハにビアをエッチングし、そのビアを銅で満たした後、ウエハの頂部で相補型金属酸化膜半導体(CMOS)処理又はバック・エンド・オブ・ライン(BEOL)処理を行なう。次にウエハの下側を薄くし、そこから多数のチップを積層させて接合する。「ビアラスト」法には2通りある。第1の方法は、BEOLの後にビアをエッチングして満たし、次いで薄くし、デバイスを積層させて互いに接合する操作を伴う。第2の方法は、完成した複数のウエハを用意し、それらを薄くし、積層させ、接合した後、その積層体を貫通するビアをエッチングし、ビアに銅を満たす操作を伴う。3Dパッケージングのための各方法には独自の利点と欠点がある。例えば「ビアラスト」法では、TSVの上方に何らかの信号経路が存在することが相変わらず可能であるのに対し、「ビアファースト」法では、薄くしていない(即ち力学的に丈夫な)ウエハにTSVビアを形成することができる。どの場合にも、TSVビアは比較的深い。なぜなら薄くしたシリコン・ウエハの厚さ全体にわたる必要があるからである。その厚さは100ミクロンを超えることがしばしばある。配線の密度は、シリコンの表面積1mm2につきビアが104個程度になる可能性がある。複数のチップを積層させて揃えた後、さまざまな方法でビアを融合させて連続的な導電線を形成することにより、チップを互いに「結線する」。
【0005】
TSVがますます重要性になってさかんに研究されていることの裏には多くの理由がある。デバイスの密度と、その結果として得られるチップ間の短い導電経路は、コンパクトで、高性能で、エネルギー消費が少ないシステムに直接つながる。このようなシステムは、小型化とバッテリーの寿命が非常に重要な急成長している携帯電話の市場(例えばカメラ付き電話、i−フォン、パーソナル・データ・アシスタント(PDA)デバイス、全地球測位システム(GPS)など)にとって極めて重要である。3Dパッケージングに向かう別の非常に重要な1つの因子は、TSVビアだと他のパッケージング技術(例えばパッケージ上のパッケージ(PoP)、パッケージ内のシステム(SiP)、チップ上のシステム(SoC))を利用するときに遭遇する典型的なチップ間の配線の長さよりも3桁短くなるため、得られるパッケージのクロックの速度は、より細かい幾何学的構造で製造されたデバイスのクロックの速度に匹敵する、又は等しくなる可能性がある。したがってTSVは、CMOSの縮小曲線上に留まる必要がないため強力な経済的促進因子である。例えば積層型メモリを有するICは、水平な配線と比べて信号の遅延と電力消費が小さくなることにより、速度が1000倍になり、電力消費が1/100になる。
【0006】
多数の方法(イオン化金属プラズマ(IMP)、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、サイクリック化学気相成長(CCVD)、プラズマ支援化学気相成長(PACVD)、プラズマ促進化学気相成長(PECVD)、電気メッキ、無電解メッキ)を利用して金属含有層(例えばメタライゼーション層、拡散障壁層、及び/又は他の層)が堆積されてきた。これらのうちで、1種類以上の有機金属前駆体を用いるCVD法とALD法が、最も有望な方法である。なぜならこれらの方法だと優れた段差被覆が提供されて、アスペクト比の大きな構造と優れたビア充填特性になるからである。典型的なCVD法では、望む金属を含む揮発性有機金属前駆体の蒸気を基材の表面に導入するとその表面で化学反応が起こり、その金属を化合物又は純粋な元素として含む薄膜が基材上に堆積される。金属は一般に蒸気の形態で揮発性前駆体から供給されるため、鉛直面と水平面の両方に近づくことができて均一に分布された薄膜となる。典型的なALD法では、揮発性有機金属前駆体と試薬ガスが交互にパルス状に反応装置の中に入るため、自己制限式の前駆体/試薬の単層が交互になって基材上に堆積され、その単層が互いに反応して薄膜又は金属含有膜を形成する。その後その金属含有膜は還元されて金属にされるか、そのまま使用される。例えばALD法において銅有機金属前駆体が適切な酸化剤と反応するのであれば、得られる酸化第一銅又は酸化第二銅の単層又は多層を半導体の用途で使用すること、又は還元して金属銅にすることができよう。
【0007】
銅薄膜に関しては、CVDその他の堆積法に適した前駆体のうちのいくつかは、ALD前駆体として用いるのにも適している。いくつかの用途では、前駆体は、非常に揮発性のある銅堆積膜で、実質的に純粋であるもの(即ち、銅の純度が約95%、又は約99%、又はそれ以上)、及び/又は汚染物質が反応チャンバーの中に導入されたり拡散障壁又は下にある他の層の上に導入されたりする可能性ができるだけ少ないものが好ましかろう。さらに、こうした用途では、銅膜が拡散障壁層にうまく付着することが好ましかろう。なぜなら付着力が弱いと、特に化学的機械的研磨の間に銅膜が剥離する可能性があるからである。
【0008】
上記の方法(特にCVD法又はALD法)で電気的抵抗率の小さな銅膜を堆積させるため、いくつかの有機金属前駆体が開発されている。しばしば用いられている銅有機金属前駆体のうちでこれまで精力的に研究されてきた2つのファミリーは、Cu(I)前駆体とCu(II)前駆体である。一般に用いられている1つのCu(I)前駆体は、式「Cu(I)(hfac)(W)」を有する前駆体であり、「hfac」は1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート・アニオンを表し、(W)は中性の安定化配位子(例えばオレフィン、アルキン、トリアルキルホスフィン)を表す。上記の式を有するCu(I)前駆体の1つの特定の例は、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナト−銅(I)トリメチルビニルシラン(今後はCu(hfac)(tmvs)と呼ぶ)であり、本出願の譲受人であるエア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社(アレンタウン、ペンシルヴェニア州)からCUPRASELECT(登録商標)という商品名で販売されている。このCu(I)前駆体は、不均化反応によって膜として堆積させることができる。この反応では、2分子の前駆体が加熱された基材面と反応し、金属銅と、2分子の遊離した配位子(W)と、揮発性の副生成物Cu(+2)(hfac)2が得られる。反応式(1)は、不均化反応の一例である。
(1) 2Cu(+1)(hfac)W → Cu+Cu(+2)(hfac)2+2W
【0009】
CVD堆積では、反応式(1)に示した不均化反応は、一般に、約200℃の温度で実施されるが、どの堆積法であるかに応じて他の温度も利用できる。反応式(1)からわかるように、Cu(+2)(hfac)2は、この反応の副生成物であり、反応チャンバーから除去する必要があろう。
【0010】
さらに別のタイプのCu(I)前駆体は、式「(Y)Cu(Z)」を有する前駆体である。これらの特定のCu(I)前駆体において、「Y」は有機アニオンであり、「Z」は中性の安定化配位子(例えばトリアルキルホスフィン)である。このような前駆体の一例は、CpCuPEt3である(式中、Cpはシクロペンタジエニルであり、PEt3はトリエチルホスフィンである)。典型的なCVD条件では、2分子のこれら前駆体がウエハの表面と反応することで、2つの安定化トリアルキルホスフィンZ配位子が銅中心から解離し、2つの(Y)配位子が互いにカップルし、銅(I)中心が還元されて金属銅になる。この反応の全体を、以下に反応式(2)として示す。
(2) 2(Y)Cu(Z) → 2Cu+(Y−Y)+2(Z)
しかしいくつかの場合には、このタイプの化合物は問題を起こす可能性がある。なぜなら放出されたトリアルキルホスフィン配位子が反応チャンバーを汚染させ、望ましくないN型シリコン・ドーパントとして機能する可能性があるからである。
【0011】
すでに説明したように、銅含有膜の堆積に用いられるさらに別のタイプの前駆体は、Cu(II)前駆体である。Cu(II)前駆体は、Cu(I)前駆体とは異なり、不純物がほとんどない銅膜を堆積させるのに外部還元剤(例えば水素又はアルコール)を必要とする。典型的なCu(II)前駆体の一例は、化学式Cu(II)(Y)2(式中、(Y)は有機アニオンである)を有する。このタイプの前駆体の例として、Cu(II)ビス(β−ジケトネート)化合物、Cu(II)ビス(β−ジイミン)化合物、Cu(II)ビス(β−ケトイミン)化合物などがある。反応式(3)は堆積反応の一例であり、水素が還元剤として用いられている。
(3) Cu(II)(Y)2+H2 → Cu+2YH
Cu(II)前駆体は一般に固体であり、膜を堆積させるのに必要な温度は一般に200℃を超える。
【0012】
上記の銅前駆体に加え、本出願の譲受人に譲渡された特許文献1(その内容は、参考として本明細書に組み込まれているものとする)には、金属薄膜をALD又はCVDで堆積させるのに適した非フッ素化金属前駆体とフッ素化金属前駆体が記載されている。
【0013】
いくつかの用途(例えば3Dパッケージング)では、コスト的に有効で迅速な銅メタライゼーション法を利用することが望ましい。凹部を満たすのに銅の電気メッキを利用するには、まず最初に、銅からなる種層でTSVの凹部の内側を覆う必要がある。現在、物理気相成長(PVD)による銅がこの目的で利用されているが、この見通し線法は、一般に、鉛直な側壁を被覆する能力しか持たない。これは比較的深いTSVビアにとって特に問題である。さらに、3Dパッケージングが進化するにつれ、単位面積当たりのTVSの密度を大きくし、そのことによってビアの直径に対する深さの比をより大きくして利用されるチップの表面積を最小にしている。アスペクト比のこの増大により、側壁がうまく被覆された状態で銅からなる十分に一定の形状の種層をPVDによって提供することが一層難しくなっている。これらの理由により、CVDによる銅は、側壁をうまく被覆する優れた技術であり、おそらくは1工程でTSV構造全体を銅で満たす手段である。したがってCVD用の優れた銅前駆体は、熱に対して安定でありながら前駆体の大きな蒸気圧と銅の大きな成長速度がそれぞれ可能な化学的反応性を持つ必要がある。
【0014】
【特許文献1】米国特許第7,205,422号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、ALD法又はCVD法において、熱に対する安定性、化学的反応性、揮発性という性質のうちの少なくとも1つを示す銅前駆体が当技術分野で必要とされている。このような銅前駆体があると、金属銅の成長速度を大きくすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
揮発性の銅前駆体、特には非フッ素化銅前駆体、その製造方法、及び例えば、堆積プロセスにおける前駆体としてのその使用方法が本明細書で説明される。1つの態様では、式(I)、即ち、
【化1】
で表される銅前駆体であって、式中、
Xが酸素及びNR5から選択され、
R1、R2、R3及びR5がそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、
R4が、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4が、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合し、
Lが、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、アリール、ビニル又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素、1〜20個の炭素原子を含むアルキル又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLが、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合し、
MとLの間の有機金属結合が2つの単結合又は1つの単結合から選択される、銅前駆体が提供される。
【0017】
1つの実施態様では、前駆体は、上記の式(I)を有する化合物であって、R1とR3の両方がアルキル基のメチルであり、R2が水素原子であり、Xが酸素原子であり、配位子Lが、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はMe基を含む)を有するシリルアルケンであり、R4がアルコキシ基を含み、LとR4が、LからMe基を取り去り、R4からHを取り去ることで互いに結合した化合物を含む。この又は他の実施態様では、R4はアルコキシ基OCH2CH2である。さらなる実施態様では、R4はアルコキシ基OCHMeCH2である。
【0018】
別の態様では、基材を上記の式(I)を有する銅前駆体と接触させる接触工程を含み、該接触工程が前記前駆体を反応させて膜を形成させるのに十分な条件下で行われる、銅を含む膜を基材上に堆積させる方法が提供される。
【0019】
さらなる態様では、銅を含む膜を有する電子デバイスであって、該膜が、上記の式(I)を有する銅前駆体とギ酸を含む還元剤とを用いて、化学気相成長及び原子層堆積から選択される方法によって堆積される、電子デバイスが提供される。
【0020】
さらに別の態様では、上記の式(I)(式中、Xは酸素である)を有する銅前駆体を製造する方法であって、式H2NR4L(式中、R4及びLは上で説明したのと同じものである)を有する第一級アミンを調製する工程、該第一級アミンを式R1C(O)CHR2C(O)R3を有するβ−ジケトンと凝縮させ、式R1C(O)CHR2C(NR4L)R3を有するβ−ケトイミン中間生成物を形成する工程(式中、R1、R2、R3、R4及びLは上で説明したのと同じものである)、並びに該β−ケトイミン中間生成物を金属源の存在下で塩基を用いて脱プロトン化し銅前駆体を形成する工程を含む、方法が提供される。
【0021】
さらなる態様では、上記の式(I)(式中、Xは酸素である)を有する銅前駆体を製造する方法であって、式H2NR4を有するアミンを式R1C(O)CHR2C(O)R3を有するβ−ジケトンと凝縮させ、式R1C(O)CHR2C(NR4)R3を有する第1中間体のβ−ケトイミン生成物を形成する工程(式中、R1、R2、R3及びR4は上で説明したのと同じものである)、配位子(L)を該第1中間体のβ−ケトイミン生成物のR4に結合させ、式R1C(O)CHR2C(NR4L)R3(式中、R1、R2、R3、R4及びLは上で説明したのと同じものである)を有する第2中間体のβ−ケトイミン生成物を提供する工程、並びに該第2中間体のβ−ケトイミン生成物を金属源の存在下で塩基を用いて脱プロトン化し銅前駆体を形成する工程を含む、方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
銅前駆体、特に銅(I)錯体と、その製造法及びその利用法を本明細書で説明する。銅前駆体は、例えば、さまざまな堆積法(例えばCVD法やALD法)によって金属膜又は金属含有膜を堆積させるための前駆体として使用できる。
【0023】
本明細書に記載した銅前駆体は、その特異な構造のために1つ以上の有利な特性を提供する。本明細書に記載した銅前駆体は、従来の他の有機金属前駆体と比べて高温でより安定であり、化学反応性がより大きく、揮発性がより大きいため、CVD法とALD法にとって望ましい可能性がある。CVDシステムでは、前駆体の反応は、蒸気の供給中及び/又は処理チャンバーの中ではなく、加熱された基材の表面だけで起こることが望ましい。ALDシステムでは、金属前駆体が特定の部位で反応する一方で、蒸気の供給中及び/又は処理チャンバーの中では望まない熱分解が起こらないことが望ましい。
【0024】
本明細書に記載した非フッ素化銅前駆体は、化学的・物理的特性が予想外かつ非常に望ましい組み合わせになっている。そのような特性の例として、比較的高温で熱に対して安定であるため、前駆体の安定な蒸気を大きな蒸気圧で放出させてALD又はCVDの反応装置に供給できることが挙げられる。例えば本明細書に記載した前駆体の1つの実施態様、即ち、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体に関しては、この前駆体は、1気圧で窒素を流すという雰囲気下において10℃/分という勾配で加熱したとき、250℃までの温度で一定の気化を示すことがTGAで確認された。同じ前駆体に関する追加の実験では、サンプルを170℃と150℃に維持すると、それぞれ50分後と160分後に完全に気化したことがわかった。反応装置の内部では、蒸気が適切な還元剤と接触するとその還元剤は低温(例えば50〜400℃の範囲の温度)で前駆体の蒸気と反応して銅膜又は銅合金を堆積させる。いくつかの実施態様では、低温処理(例えば125℃以下)が、例えば銅からなる連続的な極薄の種層を拡散障壁(例えばルテニウム)の上に大きな成長速度(例えば約50オングストローム(Å)/分以下、又は約30Å/分以下)で堆積させる上で特に有利であろう。このようにすると、銅膜が凝集して不連続な膜になることが避けられる。本明細書に記載した前駆体は熱に対して安定であることから高温にできるため、大きな蒸気圧にすることが容易にできる。そのためそれに伴って銅の大きな成長速度を実現できる。これは、例えば3Dパッケージングで用いられるTSVの凹部に銅のメタライゼーションを施す操作が含まれるため銅が大きな成長速度になることが望ましい実施態様にとって望ましかろう。この又は他の実施態様では、本明細書に記載した前駆体の蒸気圧が大きいため、特に低い堆積温度で銅の核密度を大きくして例外的に薄くて連続な銅膜を作ることもできる。
【0025】
すでに説明したように、本明細書に記載した前駆体は、フッ素化されていない。いくつかの実施態様では、銅の堆積中にフッ素が放出されて障壁層及び/又は他の層に侵入することで最終的にデバイスの性能に影響が及ぶのを避けるため、非フッ素化前駆体を、フッ素化された前駆体の上に用いることが好ましい。このような非フッ素化前駆体の製造が難しいのは、フッ素化前駆体は、一般に、フッ素化されていない場合よりもはるかに安定であり、より揮発性があるからである。これら2つの特性は相乗的である。なぜならこの分子は比較的低温で蒸発するため、高温になる前にすべてが気化するからである。逆に、非フッ素化分子は、一般に、揮発性がより小さく、より不安定である。これは、非フッ素化分子は蒸発させて蒸気にするのにより強く加熱する必要があることと、そのような高温で分解を始めることを意味している。したがって前駆体からの蒸気流は揮発性の前駆体分解生成物で汚染される傾向があり、残る不揮発性分解生成物が前駆体の容器内に蓄積する。本明細書に記載した非フッ素化前駆体は極めて安定かつ揮発性であるためにALDとCVDに非常に適しているだけでなく、化学的に反応するためCVD法又はALD法によって銅膜が成長するというのは、驚くべきこと、かつ予想外のことである。非フッ素化銅前駆体は、加熱されたときにクリーンに気化し、あとに残留物がほとんど残らない。したがってこの非フッ素化前駆体は、フッ素なしでもフッ素化前駆体と同じ一般的な利点を有する。
【0026】
本明細書に記載した銅前駆体は、熱に対する安定性が比較的大きいため、安定な蒸気としてCVD又はALDの反応容器の中に供給することができる。その関連で、配位子Lはケトイミン配位子又はジイミン配位子に直接結合するため、配位子Lを十分に解離させるのに一般には十分であろう低圧かつ低温の条件下で金属中心(M)から容易に解離して自由な分子になることはできず、配位子Lは金属中心に配位し続ける傾向があると考えられている。これは、Lが金属中心にだけ結合した同様の錯体とは対照的である。別の実施態様では、ケトイミン配位子又はジイミン配位子を配位子Lと結合させる置換基R4を化学的に操作し、正しい処理条件下でこの結合が破壊又は分離されて配位子Lが効果的に放出されるようにできる。本明細書では、「結合」という用語は、ケトイミン配位子又はジイミン配位子を配位子Lとつなげることを意味し、その中には、化学結合(例えば共有結合、水素結合など)、静電引力、ルイス酸−ルイス塩基相互作用、及び/又は他の手段などが含まれる。これらの実施態様では、そして配位子Lを放出させるのに十分なある処理条件下では、例えば錯体を不均化して金属膜又は金属含有膜にすることができる。さらに、R4が配位子Lと解離すると前駆体が分子量のより小さなユニットになり、例えばCVD又はALDの反応装置内での処理中により脱着しやすくなる。例えば前駆体が水と完全に反応すると、解離の結果は、銅酸化物の成長と、加水分解した小分子量の揮発性配位子の断片の放出になろう。例えば銅前駆体であるCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2NMeSiMe2(C2H3)Me(錯体内のC2H3基はビニル基を表す)が水と反応すると、固体酸化第一銅MeC(O)CH2C(NCH2CH2NMeH)Meと、C2H3Me2SiOHが生成する。後者はカップルしてテトラメチルジビニルジルシロキサンとなる。
【0027】
これらの錯体の別のユニークな特徴は、前駆体の1つの面上に立体的により露出した金属中心を提供できることである。典型的なβ−ケトイミンオレフィン化合物又はβ−ジケトンオレフィン化合物は平坦な分子であり、配位するジケトネート・アニオン又はケトイミネート・アニオンと、金属中心と、オレフィンとがすべて同じ平面内に存在している。それとは異なり、本明細書に記載した錯体は、錯体の配位面が凸状に湾曲しているため金属中心が錯体のより下側に向かって押される。そのため金属中心を表面により露出した状態にして試薬分子がより近づきやすくすることが可能になる。例えば銅前駆体の一例であるCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Meでは、銅とオレフィンからなる配位三角形からβ−メトイミネート・キレート環が約7°傾いているため、銅が分子の下側からより多く露出している。このように露出していること、したがって立体的によりアクセスしやすいことは、ある種のALD法とCVD法にとって重要である可能性がある。なぜならそうなっていると、中に含まれる銅原子が基材の表面に吸着されるからである。さらに、配位子Lと結合するR4の性質と長さを制御することにより、コンホメーションの中に比較的変形した金属前駆体を開発して露出した金属中心を提供することができる。R4と配位子Lのリンクを化学的に破壊すること、又は分離することによってこの変形状態を解除すると、比較的大きな反応性が得られる。言い換えるならば、この前駆体の構造を調節することで、内部変形のある錯体を構成することが可能になるはずである。背部変形はR4の結合を破壊することによって解除でき、その結果として分子が分解されて小さな揮発性有機単位になることが促進されると同時に、金属中心が立体的に露出するために表面の反応性が大きくなって金属が多く堆積される。
【0028】
本明細書に記載した銅前駆体は、例えば米国特許第7,205,422号明細書及び同第7,034,169号明細書(これら特許文献の開示内容は、参考としてその全体が本明細書に組み込まれているものとする)に記載されているものと関係がある。1つの実施態様では、本明細書に記載した銅前駆体は、以下の式(I)を有する。
【化2】
式(I)において、金属原子Mは銅である。式(I)において、Xは酸素原子であることができ、それによってケトイミネート錯体を形成することができるか、あるいはまたXはNR5であることができ、それによってジイミネート錯体を形成することができる。式(I)において、置換基R1、R2、R3及びR5はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択される。式(I)において、置換基R4は、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4は、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合する。さらに、式(I)において、Lは、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、ビニル、アリール又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLは、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合する。
【0029】
本明細書では、「アルキル」という用語に、1〜20個の炭素原子又は1〜10個の炭素原子を含む直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、環式アルキル基が含まれる。アルキル基の例として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、t−アミル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどがある。「アルキル」という用語は、他の基(例えばハロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル)に含まれるアルキル部分にも適用される。本明細書では、「アリール」という用語に、芳香族の性質を持つ6〜12員の炭素環が含まれる。アリール基の例として、フェニル基やナフチル基などがある。「アルキル置換のアリール」という用語は、アルキルで置換されたアリール部分に適用される。アルキル置換のアリール基の例として、トリル基やキシリル基などがある。「ハロ」と「ハロゲン」という用語には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が含まれる。いくつかの実施態様では、本明細書で説明した基のいくつかは、1個以上の他の元素(例えばハロゲン原子や、O、N、Si、Sといった他のヘテロ原子)で置換されていてもよい。
【0030】
式(I)において、置換基R4は、配位子Lと結合することができるように選択する。さらに、配位子Lは、置換基R4と結合することができるように選択する。配位子Lと置換基R4の両方から水素、原子又は基が取り去られるとR4とLが結合し、錯体のケトイミン配位子又はジイミン配位子が配位子Lと接続すると考えられる。この関連で、Lがシリルアルケンだと、そのシリルアルケンの持つ1つの結合を利用してR4と結合する。1つの典型的な実施態様を図4に示してあり、これはCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Meである。この実施態様では、Xは酸素であり、Lは化学式H2C=CHSiMe2を持ち、R4はOCH2CH2であり、R3は水素であり、R1とR2は両方ともメチル基である。XがNR5である別の実施態様では、R5とLが結合することができる。この実施態様では、配位子Lと置換基R5の両方から水素、原子又は基が取り去られると、R4とLが結合するのと同様にしてR5とLが結合する。
【0031】
いくつかの実施態様では、置換基R4は、置換基R1、R2及び/又はR3と結合することもできる。この実施態様では、置換基R1、R2及び/又はR3が水素原子でもなく、ハロゲン原子でもなく、ニトロ基NO2でもないとき、置換基R4は、置換基R1、R2及び/又はR3とだけ結合することができる。
【0032】
いくつかの実施態様では、置換基R1、R2及び/又はR3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基である。1つの特定の実施態様では、置換基R1とR3は、同じアルキル基でも異なるアルキル基でもよく、それぞれ独立してメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、イソブチル、t−ブチル、又はこれらの組み合わせである。この又は他の実施態様では、Xは酸素原子である。この又は他の実施態様では、R2は水素原子である。この又は他の実施態様では、配位子Lは、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はアルキル基のメチル即ちMeを含み、R4は、LからMe基を取り去り、R4からH原子を取り去ることでLとR4が互いに結合した式を含むアルコキシ基を含む)を有するシリルアルケンを含む。この又は他の実施態様では、R4は式OCHMeCH2又はOCH2CH2を有するアルコキシを含む。
【0033】
本明細書に記載した錯体のいくつかの実施態様では、XはNR5であり、R5は、R1、R2又はR3に関して上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である。これらの実施態様では、配位子(L)、又は追加の配位子(L)(上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である)は、置換基R5と置換基R4に付加することもできる。これらの実施態様では、少なくとも1つの配位子Lは、例えばR5と結合するのに利用できる1つの結合価を持つため、錯体のジイミン配位子が配位子Lと結合されると考えられる。この又は他の実施態様では、置換基R5は、置換基R1、R2、R3及び/又はR4のうちの任意の1つ又はすべてと結合させて環式構造を形成することもできる。最後の実施態様では、置換基R1、R2及び/又はR3が水素原子でもなく、ハロゲン原子でもなく、ニトロ基NO2でもないときだけ、又は置換基R5が水素原子であるとき、置換基R5は、置換基R1、R2及び/又はR3に結合する。
【0034】
いくつかの実施態様では、置換基R4、及び/又は場合によっては置換基R5は、XがNR5の場合には、配位子Lが自らの金属中心ではなく隣の錯体の金属中心と配位するように調節することができる。これらの実施態様では、他の錯体(例えば二量体錯体、三量体錯体、四量体錯体)を形成することができる。
【0035】
いくつかの実施態様では、置換基R1、R2、R3のうちの任意の1つ又は全部は、独立に結合して環式構造を形成することができる。いくつかの実施態様では、R1とR2及び/又はR2とR3は、独立に結合して環式構造を形成することができる。
【0036】
1つの実施態様では、式(I)中の配位子Lは、アルキルニトリル(例えばCH2CN又はMe2CH2CCN)が可能である。Lに関するこの及び先の実施態様では、配位子Lに関して定義した基は、水素原子を取り去るとR4と結合することができる。別の実施態様では、式(I)中の配位子Lはシリルニトリルであることができ、その例としてMe2CH2SiCNなどがある。さらなる実施態様では、式(I)中の配位子Lはアルキンであることができ、例えばCH2CCMeやCH2CCHなどがある。別の実施態様では、式(I)中の配位子Lはアルケンであることができ、例えばMe3CCHCH2やMe(CH2)2CHCH2などがある。さらに別の実施態様では、式(I)中の配位子Lは式(R9)3SiCCR10又は(R11)3SiCCSi(R11)3を有するシリルアルキンであることができ、例えばMe3SiCCH、Me2CH2SiCCSiMe3、(MeO)2CH2SiCCH、(EtO)2CH2SiCCHなどがある。なおさらなる実施態様では、式(I)中の配位子Lは、アレン、例えば、限定されないがCHCCCH2又はMeCCCMe2であることができる。別の実施態様では、式(I)中の配位子Lはアルキルイソシアニドであることができ、例えばMeCHNCなどがある。上記の式と本明細書全体を通じ、「Me」という記号はメチル基を示し、「Et」はエチル基を示す。「Pr」はn−プロピル基を示し、「i−Pr」はイソプロピル基を示す。
【0037】
上記の式(I)において、金属中心と配位子(L)の間の有機金属結合は、2つの単結合又は1つの単結合である。
【0038】
1つの実施態様では、本明細書に記載した金属ケトイミネート錯体においてXが酸素であるものは、L基で機能化したアミンをβ−ジケトン化合物と反応させてβ−ケトイミン中間生成物を形成することによって合成できる。アミンは、例えば式H2NR4L(式中、R4とLは、上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である)を有する第一級アミンが可能である。上記の式を有する第一級アミンの例として、H2NCH2CH2OSiMe2(C2H3)などがある。β−ジケトンは、式R1C(O)CHR2C(O)R3(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である)を有する化合物が可能である。上記の式を有するβ−ジケトン化合物の例は、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオンなどである。一例として、H2NCH2CH2OSiMe2(C2H3)というアミンを2,4−ペンタンジオンと反応させるとMeC(O)CH2C(NCH2OSiMe2(C2H3))Meというβ−ケトイミン中間体が形成されるであろう。このβ−ケトイミン中間生成物が調製されると、それを脱プロトン化し(即ち酸性プロトンを除去し)、次いで塩基の存在下で金属源と錯体化して上記の式(I)を有する錯体を得る。
【0039】
別の実施態様では、本明細書に記載した金属ジイミネート錯体においてXが上で説明したNR5であるものは、上で説明したようにしてβ−ケトイミン中間生成物を最初に調製した後、それをアルキル化剤(例えばテトラフルオロホウ酸トリエチルオキソニウム又は硫酸ジメチル)で処理し、次いでその得られた化合物をR5NH2(式中、R5は上で説明したものである)と反応させて第2の中間生成物としてのβ−ジイミン塩[R1C(R5NH)CHR2C(NR4L)R3]+[V]-(式中、Vはアルキル化剤の共役塩基であり、テトラフルオロホウ酸トリエチルオキソニウムを用いる場合にはVはテトラフルオロホウ酸塩アニオンである)を得ることによって合成できる。基R5には基Lが結合していてもいなくてもよい。得られるβ−ジイミン塩配位子は2回脱プロトン化された後、金属源と錯体化されて上記の式(I)を有する錯体を得る。
【0040】
アミンとβ−ジケトン化合物の反応は、溶媒の存在下で実施することができる。適切な溶媒として、エーテル(例えばジエチルエーテル(EtO2)、テトラヒドロフラン(「THF」)、ジ−n−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル);ニトリル(例えばCH3CN);芳香族化合物(例えばトルエン)などがあり、単独で、又は混合して用いられる。いくつかの実施態様では、溶媒はTHFである。反応温度は、−78℃から溶媒の沸点までの範囲が可能である。反応時間は、約0時間又は瞬間的から約48時間の範囲、又は約4〜約12時間が可能である。いくつかの実施態様では、中間生成物は、標準的な手続き(例えば蒸留、昇華クロマトグラフィ、再結晶化、及び/又は粉砕)で精製することができる。しかしいくつかの場合には、アミンとβ−ジケトン化合物の反応は、溶媒なしで実施することもできる。それは特に、得られるβ−ケトイミン中間生成物が液体の場合である。
【0041】
いくつかの実施態様では、β−ケトイミン中間生成物又はβ−ジイミン中間生成物を最終的な銅前駆体にしたものとして、以下の式(II)、(III)、(IV)のいずれかを有する以下の3種類の互変異性体のうちの1つ以上のものが可能である。
【化3】
上記の式において、変数R1、R2、R3、R4、X、配位子(L)は、それぞれ独立して本明細書に記載した原子又は基のうちの任意のものが可能である。
【0042】
β−ケトイミン中間生成物は、アミン又はアンモニアと反応させてβ−ジイミンを得る前に活性化させる必要があろう。例えばβ−ケトイミン中間生成物は、最初にテトラフルオロホウ酸トリエチルオキソニウム又は硫酸ジメチルによってアルキル化させる必要があろう。
【0043】
式(IV)は、本明細書に記載した金属ケトイミネート錯体又はCu(I)ケトイミネート錯体の調製に関する1つの実施態様の一例を示している。この実施態様では、Cu(I)錯体は、1種類以上の塩基を用い、アミンとβ−ジケトン化合物の反応によるβ−ケトイミン中間生成物を脱プロトン化するか、β−ケトイミン中間生成物とアミン又はアンモニアの反応によるβ−ジイミン中間生成物を脱プロトン化し、次いでCu(I)をキレート化してβ−ケトイミン錯体又はβ−ジイミン錯体を得ることによって調製される。この反応の一例を、以下の反応式(4)に示してある。この反応式は、β−ケトイミンCu(I)錯体の調製を示している。
【化4】
反応式(4)において、β−ケトイミン中間生成物(式(VI)の化合物)を塩基(水素化ナトリウム)及び銅(I)源(塩化銅)と反応させ、式(I)を有するCu(I)錯体と塩化ナトリウムを形成する。上記の反応で使用できるであろう他の塩基として、水素化リチウム、n−ブチルリチウム、水素化カリウム、ナトリウムビス(トリメチルシリルアミド)、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムt−ブトキシドなどがある。上記の反応で使用できるであろう他の銅(I)源として、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、トリフルオロ酢酸銅(I)、トリフルオロメチルスルホン酸銅(I)ベネキセン付加物、銅(I)アルコキシド、銅(I)アミド、酢酸銅(I)、銅(I)フェノキシド、銅(I)アセトアミド、銅(I)アルコキシドなどがある。他の金属前駆体又は銅前駆体混合物を調製する実施態様では、金属源は、望む金属Mを含む1種類以上の金属塩である。金属錯体又はCu(I)錯体の予想収率は、理論収率の約5%〜約95%の範囲になろう。いくつかの実施態様では、最終生成物又は銅前駆体(例えばCu(I)錯体)は、標準的な手続き(蒸留、昇華、クロマトグラフィ、再結晶化、及び/又は粉砕)で精製することができる。
【0044】
あるいは、本開示の銅前駆体は、まずそれと類似した金属ビス(ケトイミン)化合物と金属ビス(ジイミン)化合物を合成し、次いでそれらを金属源と反応又は金属源で還元することによって調製できる。これらの前駆体を合成する別の経路も可能であり、以下の例において限定的でないケースによって例示される。
【0045】
別の実施態様では、β−ケトイミン中間生成物を金属源(銅(I)アリール(例えば銅メシチレン)や銅アルコキシド(例えば[CuOt−Bu]4)など)と直接反応させて金属錯体又はCu(I)錯体を形成することができる。さらに別の実施態様では、銅前駆体は、その前駆体を構成している部分から、即ち、β−ケトイミン中間生成物と金属原子から適切な電気化学的方法で調製することができる。その同じ合成経路を利用して金属ジイミネート錯体を合成することができる。
【0046】
この方法のさらに別の例は、エタノールアミン(H2NCH2CH2OH)を2,4−ペンタンジオンと反応させて第1のβ−ケトイミン中間生成物(MeC(O)CH2C(NCH2CH2OH)Me)を得るというものである。この第1のβ−ケトイミン中間生成物(MeC(O)CH2C(NCH2CH2OH)Me)をクロロジメチルビニルシランと反応させ、第2のβ−ケトイミン中間生成物(MeC(O)CH2C(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Me)を得る。この第2のβ−ケトイミン中間生成物の脱プロトン化を実施し、銅との錯体にすると、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Me錯体が得られる。
【0047】
すでに説明したように、本明細書に記載した銅前駆体は、銅含有膜を基材上に堆積させるための前駆体として使用することができる。適切な基材の例として、特に限定されないが、半導体材料、例えば、ガリウムヒ素(「GaAs」)、窒化ホウ素(「BN」)シリコン、シリコンを含む組成物、例えば、結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファス・シリコン、エピタキシャル・シリコン、二酸化ケイ素(「SiO2」)、炭化ケイ素(「SiC」)、シリコンオキシカーバイド(「SiOC」)、窒化ケイ素(「SiN」)、炭窒化ケイ素(「SiCN」)、有機ケイ酸塩ガラス(「OSG」)、有機フルオロケイ酸塩ガラス(「OFSG」)、フルオロケイ酸塩ガラス(「FSG」)、及び他の適切な基材、又はそれらの混合物が挙げられる。基材はさらに、膜を付着させるさまざまな層を含むことができる。それは例えば、反射防止コーティング、フォトレジスト、有機ポリマー、多孔性有機材料、多孔性無機材料、金属(例えば銅やアルミニウム)、拡散障壁層(例えばルテニウム、タンタル、チタン、又はこれらの組み合わせ)である。銅前駆体は、本明細書に記載した任意の方法、又は当技術分野で公知の任意の方法を利用して堆積させることができる。堆積法の例として、化学気相成長(CVD)、サイクリック化学気相成長(CCVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ支援化学気相成長(PACVD)、プラズマ促進化学気相成長(PECVD)などがある。いくつかの実施態様では、錯体を用い、CVD又はALDで適切な試薬と反応させることによって金属又はその合金の薄膜を成長させることができる。別の実施態様では、銅前駆体を不均化反応を通じて反応させて金属膜又は金属含有膜を提供することができる。さらに別の実施態様では、銅前駆体を還元剤の存在下で反応させて金属膜又は金属含有膜を提供することができる。1つの特定の実施態様では、ギ酸を含む還元剤の存在下でCVD法により銅前駆体Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)を反応させて銅膜を堆積させる。理論に束縛されることを意図するものではないが、ALD又はCVDで他の還元剤(例えばカルボン酸、カルボン酸エステル)を水蒸気、アルコール、水素、シラン、ボラン、アラン、アンモニア、又はこれらの組み合わせと組み合わせて使用することもできる。さらに、いくつかの実施態様では、還元剤のプラズマ活性化を利用して低温で銅膜を実現することもできる。
【0048】
例えば、1つの実施態様では、ハロゲン源試薬との反応によってハロゲン化金属の薄膜を形成できるのに対し、別の実施態様では、適切な酸化剤(例えば水蒸気)との反応によって金属酸化物の膜が得られる。さらに別の実施態様では、酸化剤との反応の後に還元剤(例えば水素)と反応させて金属膜又は金属/金属酸化物混合膜を形成することができる.あるいは銅前駆体を、プラズマで活性化したガス試薬と、直接に、又はプラズマ源から離れた下流で反応させることができる。本明細書に記載した銅前駆体は、他の金属前駆体とある組み合わせで混合して用い、金属膜、金属含有膜、及び/又は合金膜を形成することもできる。膜は、堆積されたままで使用すること、又は適切な還元剤を用いて還元して望む金属にすることができよう。
【0049】
いくつかの実施態様では、銅前駆体は、CVD法又はALD法を利用して基材の上に堆積させる。Cu(I)錯体の堆積は、400℃以下、又は200℃以下、又は100℃以下の温度で実施することができる。典型的なCVD堆積プロセスでは、式(I)を有する銅前駆体を反応チャンバー(例えば真空チャンバー)に導入する。いくつかの実施態様では、銅前駆体を導入する前、その間及び/又はその後に、銅前駆体以外の化学試薬を導入することができる。エネルギー源(例えば熱源、プラズマ源、これら以外のエネルギー源)によって銅前駆体と、場合によっては存在する化学試薬とにエネルギーが与えられ、基材の少なくとも一部の上に膜が形成される。
【0050】
すでに説明したように、いくつかの実施態様では、化学試薬は、銅前駆体を反応チャンバーに導入する前、その間及び/又はその後に導入することができる。化学試薬の選択は、得ることを望む膜の組成によって異なるであろう。例えば、1つの実施態様では、ハロゲン含有化学試薬との反応によってハロゲン化金属の膜を形成できるのに対し、別の実施態様では、酸化剤との反応によって金属酸化物膜が生じるであろう。化学試薬の例として、酸化剤(例えばO2、NO、NO2、O3、CO、CO2);水;ハロゲン化物;ハロゲン含有シラン(例えばアルキルクロロシラン、アルキルブロモシラン、アルキルヨードシラン);ハロゲン化ケイ素化合物(例えば四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素);ハロゲン化スズ化合物(例えばアルキルクロロスタンナン、アルキルブロモスタンナン、アルキルヨードスタンナン);ゲルマン化合物(例えばアルキルクロロゲルマン、アルキルブロモゲルマン、アルキルヨードゲルマン);三ハロゲン化ホウ素化合物(例えば三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素);ハロゲン化アルミニウム化合物(例えば塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム);ハロゲン化アルキルアルミニウム;ハロゲン化ガリウム化合物(例えば三塩化ガリウム、三臭化ガリウム、三ヨウ化ガリウム);又はこれらの組み合わせがある。上記の化合物の誘導体も使用することが考えられる。化学試薬は、ガスとして反応チャンバーに直接供給すること、気化した液体又は昇華した固体として反応チャンバーの中に供給すること、及び/又は不活性なキャリアガスによって反応チャンバーの中に輸送することができる。不活性なキャリアガスの例として、窒素、水素、アルゴン、キセノンなどがある。
【0051】
いくつかの実施態様では、金属膜は、不均化反応によって基材の表面に形成することができる。例えばCu(I)錯体に関する不均化反応を以下の反応式(5)に示す。
【化5】
【0052】
別の実施態様では、金属膜は、還元剤の存在下で基材の表面に堆積させることができ、例えばその膜を還元して金属にする。式(I)を有する銅前駆体は、1種類以上の還元剤とともにCVD又はALDの反応装置の中に導入することができる。適切な還元剤の例として、水素ガス、カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、ステアリン酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、グルトン酸など)、アルコール、水素プラズマ、カルボン酸エステル、リモート水素プラズマ、シラン(例えばジエチルシラン、エチルシラン、ジメチルシラン、フェニルシラン、シラン、ジシラン、アミノシラン)、ボラン(例えばボラン、ジボラン)、アラン、ゲルマン、ヒドラジン、アンモニア、又はこれらの混合物などがある。1つの特定の実施態様では、還元剤としてギ酸を用いる。いくつかの実施態様では、還元剤はガスの形態で導入することができる。この又は他の実施態様では、式(I)を有する銅前駆体を適切な有機溶媒に溶かして溶液にし、得られた溶液を液体蒸発装置の中で気化して蒸気にしてCVD又はALDの反応装置の中に供給する。すると反応装置の中でその蒸気が1種類以上の還元剤と接触することによって還元される。
【0053】
1つの特定の実施態様では、ギ酸を還元剤として用い、比較的低い堆積温度かつ有用な堆積速度で比較的滑らかな銅膜を得る。この実施態様では、膜の表面粗さ、即ち、Ra(単位はÅ)は、ギ酸を含むカルボン酸を用いて堆積させなかった同等な銅膜と比べて著しく低下した。特に、得られた銅膜の表面粗さは、200Å以下、又は100Å以下、又は50Å以下、又は20Å以下であった。この又は他の実施態様では、1種類以上の銅前駆体(例えばCu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)を用いてALD又はCVDによって成長させた銅膜の滑らかさは、銅前駆体とカルボン酸(例えばギ酸)の相対的な比率によって制御することができ、酸:前駆体の比が大きいほどより滑らかな銅膜になる。
【0054】
いくつかの実施態様では、水蒸気そのものを用い、又は水蒸気を本明細書に記載した還元剤に加えて用い、銅膜の堆積を促進することもできる。
【0055】
いくつかの実施態様では、ALD堆積法によって金属膜を式(I)のCu(I)錯体から堆積させる。典型的なALDプロセスの間、1種類以上のガス状前駆体又は気化した前駆体を、1回の処理サイクル中に交互にパルス状にして、基材が収容された処理チャンバーの中に導入する。各処理サイクルでは、吸着又は化学吸着(後者が好ましい)によって材料の単層がほぼ1つよりも多くは形成されないことが好ましい。層を成長させるのに用いる処理サイクルの数は、望む厚さによって異なるが、一般に1,000サイクルを超えるであろう。半導体デバイスでは、二重ダマシン構造内の障壁層又は種層が望む機能を発揮するのに十分な厚さになるまで処理サイクルを繰り返す。
【0056】
ALDプロセスの間、基材は、化学吸着を促進する温度に維持する。即ち、吸着された種と下にある基材の間の結合を完全なままに維持するのに十分な低温だが、前駆体の凝縮を回避し、各処理サイクルにおいて表面での望む反応のための十分な活性化エネルギーを提供するには十分な高温に維持する。処理チャンバーの温度は、0℃〜400℃、又は0℃〜300℃、又は0℃〜275℃の範囲が可能である。ALDプロセスの間の処理チャンバー内の圧力は、0.1〜1000Torr、又は0.1〜15Torr、又は0.1〜10Torrの範囲が可能である。しかし個々のALDプロセスに関する温度と圧力は、関係する1種類以上の前駆体が何であるかに応じて異なるであろう。
【0057】
本明細書に記載した任意の膜形成法と、当技術分野で公知の他の膜形成法を、単独で又は組み合わせて利用することができる。例えば、1つの実施態様では、混合組成の銅含有膜は、銅酸化物の膜を堆積させた後、金属銅の膜を堆積させる操作を行ない、次いでその多層を還元して純粋な銅膜を得ることによって形成できる。
【0058】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載した銅前駆体を適切な溶媒(例えばアミン(例えばトリエチルアミン)、エーテル(例えばTHF)、芳香族(例えばトルエン)、又は本明細書に開示した他の任意の溶媒)に溶かして溶液にすることができる。得られた溶液は、直接液体注入(DLI)システムの中でフラッシュ気化し、ALD又はCVDの反応チャンバーに蒸気として供給することができる。別の実施態様では、本明細書に記載した錯体を安定化用の液体(例えばオレフィンやアルキン)に溶かした後、DLIシステムに導入することができる。
【実施例】
【0059】
以下の例では、HP−5MSを備えるHewlett Packard 5890シリーズ11 G.C.と5972シリーズの質量選択的検出器でG.C.M.S.スペクトルを得た。これらの例のNMR分析は、500MHzで動作するBruker AMX 500スペクトロメータで実施した。化学シフトは、1HではC6D6から7.16ppm、13CではC6D6から128.39ppmに設定した。X線分析は、APEX CCD検出器とKryoflexクライオスタットを備えるBruker D8プラットフォーム回折装置で実施した。
【0060】
[例1:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体の合成]
[ステップ1:MeC(O)CHC(HNCH2CHMeOH)Me又はケトイミン中間体の形成]
乾燥剤である硫酸ナトリウムを200g含む1.0リットルのヘキサン溶媒の中で200g(2.0モル)の2,4−ペンタンジオンに150g(2.0モル)の1−アミノ−2−プロパノールを添加し、1時間にわたって撹拌した。次にヘキサンをデカントによって除去し、500mlのテトラヒドロフラン(THF)溶媒を添加して粗生成物をすべて溶かした。次にこの溶液を、200gの新鮮な硫酸ナトリウムを含む新しいフラスコにデカントし、1時間にわたって撹拌した。次に、このTHF溶液をデカントによって除去し、冷凍機の中に一晩保管して結晶化させた。上清をデカントによって除去し、残った固形物をポンピングによって乾燥させた。次に、粗固形物を真空下で130℃にして融かし、揮発物を、ポンプにより、液体窒素で冷却した真空トラップへと導いた。収量=197.5g(63%)。生成物に関するGCMSの結果から99%超の純度であることがわかり、質量スペクトルにおいて157muに親イオンの断片が見られることから、望む生成物であることが明らかになった。
【0061】
[ステップ2:MeC(O)CHC(HNCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me又はシリル化されたケトイミン中間体の形成]
163.4g(1.04モル)のMeC(O)CHC(NHCH2CHMeOH)Meを1.5リットルのTHFに溶かした溶液を、窒素ブランケットのもとで、27.5g(1.14モル)の水素化ナトリウムを30mlのTHFに懸濁させた懸濁液に添加した。水素の発生が停止した後、混合物をさらに1時間にわたって撹拌した。次に、151g(1.25モル、即ち20%過剰)のクロロジメチルビニルシランを1時間かけて添加し、得られた混合物を1時間にわたって撹拌した。次にこの混合物を濾過し、THFと過剰な試薬を除去すると、粗生成物が得られた。それを今度は100℃で真空蒸留すると、最終生成物が得られた。収量=209g(83%)。GCMSで241muに親イオンの断片が見られることから、この生成物が同定された。この生成物に関するNMRの結果は以下のとおりであった。1H NMR:(500MHz,C6D6):δ=0.21(s,3H)、δ=1.9(s,3H)、δ=0.88(d,3H)、δ=1.49(s,3H)、δ=2.05(s,3H)、δ=2.6(m,1H)、δ=2.76(m,1H)、δ=3.54(m,1H)、δ=4.9(bs,1H)、δ=5.74(dd,1H)、δ=5.9(dd,1H)、δ=6.2(dd,1H)、δ=11.27(bs,1H);13C NMR:(500MHz,C6D6):δ=−1.42(s,1C)、δ=−1.15(s,1C)、δ=19.1(s,1C)、δ=21.7(s,1C)、δ=29.3(s,1C)、δ=50.8(s,1C)、δ=68.9(s,1C)、δ=68.9(s,1C)、δ=96.0(s,1C)、δ=133.6(s,1C)、δ=138.5(s,1C)、δ=162.3(s,1C)、δ=194.7(s,1C)。
【0062】
[ステップ3:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)銅前駆体の合成]
窒素ブランケットのもとで、45g(0.45モル、即ち10%過剰)の塩化銅を、81g(0.8モル)のトリメチルビニルシランを含む50mlのTHFに添加し、30分間にわたって撹拌すると、透明な溶液が得られた。これに、44g(0.45モル)のナトリウムt−ブトキシドを100mlのTHFに溶かした溶液を添加し、得られた混合物を30分間にわたって撹拌した。この混合物にステップ2の生成物102g(0.4モル)を一滴ずつ30分間かけて添加し、得られた混合物を一晩にわたって撹拌した。次に溶媒を真空下で除去し、得られた粗材料を真空下で140℃に加熱して揮発性の銅錯体を液体として追い出し、それを冷却して固化させた。次にこの固形物を真空昇華によって精製すると、最終生成物が無色の三角柱として得られた。収量=105g(85%)。この生成物に関するNMRの結果は以下のとおりであった。1H NMR:(500MHz,C6D6):δ=0.10(m,6H)、δ=1.03(m,3H)、δ=1.57(d,3H)、δ=2.1(s,3H)、δ=3.4〜4.2(mm,5H)、δ=5.0(d,1H)。この生成物に関するGCMSの結果において303muに強い親イオンの断片が見られることから、それが何であるかが確認された。
【0063】
[例2:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いたCVDによる銅膜の堆積]
壁面が熱い実験室用CVD反応装置の中で、以下の表1に記載した条件を利用し、還元剤としてギ酸を用いることにより、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いて銅膜を窒化チタン(TiN)基材の上に堆積させた。純粋な銅膜が約5ミクロンの厚さに成長した。厚さは、図6に示したように二次イオン質量分析(SIMS)によって測定した。この図6は、検出可能な量の炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素が存在していないことを示しており、銅膜の純度が99.99原子%超であることを意味する。深さプロファイルは、銅膜の底面に達する前に終わっていることに注意されたい。
【0064】
【表1】
【0065】
[例3:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いたCVDによる銅膜の堆積]
壁面が熱い実験室用CVD反応装置の中で、以下の表2に記載した条件を利用し、還元剤としてギ酸を用いることにより、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用い、パターニングされた窒化タンタル(TaN)基材の上に銅膜を堆積させた。銅膜は、大きなスケールのトレンチの中にそれと同じ形状の層として堆積させた。銅膜のサイズは、TSV/3Dパッケージングで一般に見られるサイズであった。そのことが、銅膜のトレンチ、上面、底面、側壁をそれぞれ示す4枚の走査電子顕微鏡写真(SEM)である図7、図8、図9、図10からわかる。
【0066】
【表2】
【0067】
[例4:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いたCVDによる銅膜の堆積]
壁面が熱い実験室用CVD反応装置の中で、以下の表3に記載した条件を利用し、還元剤としてギ酸を用いることにより、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用い、ルテニウム基材の上に銅膜を堆積させた。純粋な銅膜が約1000オングストロームの厚さ(Decktak針式粗面計を用いて測定)に成長した。純度はEDXで確認し、図11に示してある。
【0068】
【表3】
【0069】
[例5:追加のギ酸による銅膜の滑らかさの増大]
例4の実験を繰り返したが、今度はギ酸供給源の温度を25℃に上昇させ、表4に示した追加の堆積条件を利用した。その結果、より滑らかな銅膜になった。そのことは、ヴィーコ社が製造したDecktak針式粗面計を用いて測定した表面粗さRa(単位はオングストローム(Å))の値が低下したことからわかる。
【0070】
【表4】
【0071】
[例6:銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)と比べた銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の熱安定性]
銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)、即ち、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体の熱安定性を、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の熱安定性と比べた。図1のTGAから、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)は、TGA実験においてほぼ完全に蒸発し(点線)、揮発性残留物は1.22%であることがわかる。この値はこの方法の実験誤差の範囲である。図1にはさらに、DSC(実線)も示してある。このDSCは、蒸発による滑らかな吸熱だけで、熱分解が起こっているであろうことを意味する発熱の挙動がないことを示している。これは、熱分解が原因となって無関係のガス相の種が前駆体から放出されることで、ALD又はCVDの反応装置に供給される蒸気流が汚染される可能性がないことを意味する。重量損失が250℃で急に停止しているのが観察される。これは、前駆体が熱分解した結果である揮発性がより小さな種が蒸発皿の中に残留物としてほとんど存在していないという事実と合っている。前駆体が残っていれば、温度がさらに上昇すると重量が失われ続けるであろう。さらに、重量損失は、前駆体の容器内に不揮発性残留物が蓄積しないことも示している。
【0072】
図2は、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)のTGAであり、図1と明らかに異なっているのは、最終的な不揮発性残留物が17.6重量%とかなり多いことと、重量損失が約260℃で突然変化した後、サンプルの熱分解によって生じる揮発性がより小さな新しい残留種からのよりゆっくりとした重量損失が続いて最終的に残留物が15.8%になることである。さらに、図2のDSCからは、蒸発によるわずかな初期吸熱の後に、約230℃での分解による発熱が続くことがわかる。したがって図1と図2を比較すると、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)は、分解することなくクリーンに蒸発することのできる熱的に安定な分子であることが、同じ条件下で熱分解する銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)と比べて明らかである。銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体は230℃未満では熱に対して安定であるため、この温度未満では前駆体として使用することができる。しかし銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)には優れていて予想外の熱安定性が加わっているため、ある堆積条件のもとではより望ましい前駆体となる。
【0073】
銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)と銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の構造上の唯一の違いは、後者の銅前駆体が、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の水素原子の代わりにメチル基を有することである。銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)のその水素原子の位置がメチル基で置換されていることで、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)が得られ、炭素原子が、シリコン原子と結合した酸素に結合する。図3と図4に、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体(即ちCu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me))と銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体(即ちCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2C2H3)Me))の構造をそれぞれ示してある。図5にはこれら前駆体の構造を示してあり、後者の分子のどこにメチル基が同じ位置の水素原子と置換されて付加されているかがわかる。ある堆積条件下では、水素原子をメチル基で単に置き換えるだけで、これら2種類の前駆体の間で熱安定性に著しくかつ完全に予想外の増大が生じると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体、即ち、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体(式中、「Me」は、本明細書ではメチル基を表す)の蒸発に関する熱重量分析(TGA)を与える。図1は、点線で示されるように、この前駆体の示差走査熱量測定(DSC)も与える。
【図2】銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体、即ち、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2C2H3)Me)前駆体の蒸発に関するTGAを与える。図2は、点線で示されるように、この前駆体の示差走査熱量測定(DSC)も与える。
【図3】本明細書に記載の銅前駆体の1つ、即ち、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の典型的な構造を与える。
【図4】本明細書に記載の銅前駆体の1つ、即ち、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の典型的な構造を与える。
【図5】銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体と銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体の構造の比較を与え、メチル基が銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体に付加されているところを明らかにしている。
【図6】例2による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用いて窒化チタン上にCVDによって堆積した銅膜の二次イオン質量分析(SIMS)のプロファイルを与える。
【図7】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図8】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図9】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図10】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図11】例4に従ってCVDによりルテニウム障壁層上に堆積した銅膜のエネルギー分散X線(EDX)を与える。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、銅薄膜を堆積するのに用いられる銅前駆体に関する。より具体的には、本発明は、揮発性で熱的に安定であり、例えば、原子層堆積(ALD)法又は化学気相成長(CVD)法を利用した銅薄膜の堆積に使用できる非フッ素化銅前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業では、金属含有配線(例えば銅(Cu))が電子デバイス(例えば現在のマイクロプロセッサ)で利用されている。金属含有配線は、埋め込まれた細い金属線にすることが可能であり、三次元グリッドを形成する。その三次元グリッド上でマイクロプロセッサの心臓部にある数百万個のトランジスタが互いに通信し、複雑な計算を実施することができる。このような用途や他の用途では、銅又は銅合金が、他の金属(例えばアルミニウム)よりも多く選択されるであろう。なぜなら銅はより優れた導電体であるため、より大きな電流を運ぶことのできるより高速の配線を提供するからである。
【0003】
電子デバイスの内部における配線(IC)経路は、一般に、ダマシン・プロセスで形成される。この方法では、誘電性絶縁体の中にフォトリソグラフィでパターニングしてエッチングしたトレンチとビアは、拡散障壁材料からなる同じ形状の薄層で覆われる。一般に、拡散障壁層は、金属層又は銅層が集積回路の他の部分と相互作用すること、又は金属層又は銅層が集積回路の他の部分に拡散することによって起こる好ましくない効果を阻止するため、その金属層又は銅層と組み合わせて用いられる。障壁材料の例として、チタン、タンタル、タングステン、クロム、モリブデン、ジルコニウム、ルテニウム、バナジウム、パラジウム、白金のほか、これらの材料の炭化物、窒化物、炭窒化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、ケイ素炭窒化物や、これらの材料を含む合金などが挙げられる。いくつかの方法では、例えば配線に銅が含まれている場合、拡散障壁層を銅からなる薄い「種」層又は「ストライク」層で覆った後、凹部を純粋な銅で完全に満たすことができる。さらに別の場合には、銅からなる種層の代わりに類似したコバルト又は同様の導電性のある薄膜「接着」層にすること、又は銅からなる種層に加えて類似したコバルト又は同様の導電性のある薄膜「接着」層を用いることができる。その後、化学的機械的研磨処理によって過剰な銅を除去することができる。埋めるべき最も小さな凹部は幅が0.2ミクロン未満で深さが1ミクロンを超える可能性があるため、銅からなる種層、銅からなる接着層、及び/又は拡散障壁層は、空隙を残すことなく凹部を一様に満たすことのできるメタライゼーション技術を利用して堆積させることが好ましい。空隙があると、完成品に電気的な故障が生じる可能性がある。
【0004】
シリコン・チップの中に配線経路を形成するための上記の方法に加え、近年になって急に出現した三次元(3D)パッケージングという方法もある。この方法では、TSV(シリコン貫通ビア)として知られる相対的に規模がより大きな配線を形成する必要がある。TSVは、導電性が比較的大きなビアを意味し、薄くしたIC、メモリ、微小電気機械(MEMS)シリコン・チップの中をビアが貫通するときにそのビアを積層させて互いに接続し、フットプリントが小さなエネルギー高効率デバイスにすることができる。3Dパッケージングの方法は多数存在している。「ビアファースト」法は、最初にシリコン・ウエハにビアをエッチングし、そのビアを銅で満たした後、ウエハの頂部で相補型金属酸化膜半導体(CMOS)処理又はバック・エンド・オブ・ライン(BEOL)処理を行なう。次にウエハの下側を薄くし、そこから多数のチップを積層させて接合する。「ビアラスト」法には2通りある。第1の方法は、BEOLの後にビアをエッチングして満たし、次いで薄くし、デバイスを積層させて互いに接合する操作を伴う。第2の方法は、完成した複数のウエハを用意し、それらを薄くし、積層させ、接合した後、その積層体を貫通するビアをエッチングし、ビアに銅を満たす操作を伴う。3Dパッケージングのための各方法には独自の利点と欠点がある。例えば「ビアラスト」法では、TSVの上方に何らかの信号経路が存在することが相変わらず可能であるのに対し、「ビアファースト」法では、薄くしていない(即ち力学的に丈夫な)ウエハにTSVビアを形成することができる。どの場合にも、TSVビアは比較的深い。なぜなら薄くしたシリコン・ウエハの厚さ全体にわたる必要があるからである。その厚さは100ミクロンを超えることがしばしばある。配線の密度は、シリコンの表面積1mm2につきビアが104個程度になる可能性がある。複数のチップを積層させて揃えた後、さまざまな方法でビアを融合させて連続的な導電線を形成することにより、チップを互いに「結線する」。
【0005】
TSVがますます重要性になってさかんに研究されていることの裏には多くの理由がある。デバイスの密度と、その結果として得られるチップ間の短い導電経路は、コンパクトで、高性能で、エネルギー消費が少ないシステムに直接つながる。このようなシステムは、小型化とバッテリーの寿命が非常に重要な急成長している携帯電話の市場(例えばカメラ付き電話、i−フォン、パーソナル・データ・アシスタント(PDA)デバイス、全地球測位システム(GPS)など)にとって極めて重要である。3Dパッケージングに向かう別の非常に重要な1つの因子は、TSVビアだと他のパッケージング技術(例えばパッケージ上のパッケージ(PoP)、パッケージ内のシステム(SiP)、チップ上のシステム(SoC))を利用するときに遭遇する典型的なチップ間の配線の長さよりも3桁短くなるため、得られるパッケージのクロックの速度は、より細かい幾何学的構造で製造されたデバイスのクロックの速度に匹敵する、又は等しくなる可能性がある。したがってTSVは、CMOSの縮小曲線上に留まる必要がないため強力な経済的促進因子である。例えば積層型メモリを有するICは、水平な配線と比べて信号の遅延と電力消費が小さくなることにより、速度が1000倍になり、電力消費が1/100になる。
【0006】
多数の方法(イオン化金属プラズマ(IMP)、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、サイクリック化学気相成長(CCVD)、プラズマ支援化学気相成長(PACVD)、プラズマ促進化学気相成長(PECVD)、電気メッキ、無電解メッキ)を利用して金属含有層(例えばメタライゼーション層、拡散障壁層、及び/又は他の層)が堆積されてきた。これらのうちで、1種類以上の有機金属前駆体を用いるCVD法とALD法が、最も有望な方法である。なぜならこれらの方法だと優れた段差被覆が提供されて、アスペクト比の大きな構造と優れたビア充填特性になるからである。典型的なCVD法では、望む金属を含む揮発性有機金属前駆体の蒸気を基材の表面に導入するとその表面で化学反応が起こり、その金属を化合物又は純粋な元素として含む薄膜が基材上に堆積される。金属は一般に蒸気の形態で揮発性前駆体から供給されるため、鉛直面と水平面の両方に近づくことができて均一に分布された薄膜となる。典型的なALD法では、揮発性有機金属前駆体と試薬ガスが交互にパルス状に反応装置の中に入るため、自己制限式の前駆体/試薬の単層が交互になって基材上に堆積され、その単層が互いに反応して薄膜又は金属含有膜を形成する。その後その金属含有膜は還元されて金属にされるか、そのまま使用される。例えばALD法において銅有機金属前駆体が適切な酸化剤と反応するのであれば、得られる酸化第一銅又は酸化第二銅の単層又は多層を半導体の用途で使用すること、又は還元して金属銅にすることができよう。
【0007】
銅薄膜に関しては、CVDその他の堆積法に適した前駆体のうちのいくつかは、ALD前駆体として用いるのにも適している。いくつかの用途では、前駆体は、非常に揮発性のある銅堆積膜で、実質的に純粋であるもの(即ち、銅の純度が約95%、又は約99%、又はそれ以上)、及び/又は汚染物質が反応チャンバーの中に導入されたり拡散障壁又は下にある他の層の上に導入されたりする可能性ができるだけ少ないものが好ましかろう。さらに、こうした用途では、銅膜が拡散障壁層にうまく付着することが好ましかろう。なぜなら付着力が弱いと、特に化学的機械的研磨の間に銅膜が剥離する可能性があるからである。
【0008】
上記の方法(特にCVD法又はALD法)で電気的抵抗率の小さな銅膜を堆積させるため、いくつかの有機金属前駆体が開発されている。しばしば用いられている銅有機金属前駆体のうちでこれまで精力的に研究されてきた2つのファミリーは、Cu(I)前駆体とCu(II)前駆体である。一般に用いられている1つのCu(I)前駆体は、式「Cu(I)(hfac)(W)」を有する前駆体であり、「hfac」は1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート・アニオンを表し、(W)は中性の安定化配位子(例えばオレフィン、アルキン、トリアルキルホスフィン)を表す。上記の式を有するCu(I)前駆体の1つの特定の例は、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナト−銅(I)トリメチルビニルシラン(今後はCu(hfac)(tmvs)と呼ぶ)であり、本出願の譲受人であるエア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社(アレンタウン、ペンシルヴェニア州)からCUPRASELECT(登録商標)という商品名で販売されている。このCu(I)前駆体は、不均化反応によって膜として堆積させることができる。この反応では、2分子の前駆体が加熱された基材面と反応し、金属銅と、2分子の遊離した配位子(W)と、揮発性の副生成物Cu(+2)(hfac)2が得られる。反応式(1)は、不均化反応の一例である。
(1) 2Cu(+1)(hfac)W → Cu+Cu(+2)(hfac)2+2W
【0009】
CVD堆積では、反応式(1)に示した不均化反応は、一般に、約200℃の温度で実施されるが、どの堆積法であるかに応じて他の温度も利用できる。反応式(1)からわかるように、Cu(+2)(hfac)2は、この反応の副生成物であり、反応チャンバーから除去する必要があろう。
【0010】
さらに別のタイプのCu(I)前駆体は、式「(Y)Cu(Z)」を有する前駆体である。これらの特定のCu(I)前駆体において、「Y」は有機アニオンであり、「Z」は中性の安定化配位子(例えばトリアルキルホスフィン)である。このような前駆体の一例は、CpCuPEt3である(式中、Cpはシクロペンタジエニルであり、PEt3はトリエチルホスフィンである)。典型的なCVD条件では、2分子のこれら前駆体がウエハの表面と反応することで、2つの安定化トリアルキルホスフィンZ配位子が銅中心から解離し、2つの(Y)配位子が互いにカップルし、銅(I)中心が還元されて金属銅になる。この反応の全体を、以下に反応式(2)として示す。
(2) 2(Y)Cu(Z) → 2Cu+(Y−Y)+2(Z)
しかしいくつかの場合には、このタイプの化合物は問題を起こす可能性がある。なぜなら放出されたトリアルキルホスフィン配位子が反応チャンバーを汚染させ、望ましくないN型シリコン・ドーパントとして機能する可能性があるからである。
【0011】
すでに説明したように、銅含有膜の堆積に用いられるさらに別のタイプの前駆体は、Cu(II)前駆体である。Cu(II)前駆体は、Cu(I)前駆体とは異なり、不純物がほとんどない銅膜を堆積させるのに外部還元剤(例えば水素又はアルコール)を必要とする。典型的なCu(II)前駆体の一例は、化学式Cu(II)(Y)2(式中、(Y)は有機アニオンである)を有する。このタイプの前駆体の例として、Cu(II)ビス(β−ジケトネート)化合物、Cu(II)ビス(β−ジイミン)化合物、Cu(II)ビス(β−ケトイミン)化合物などがある。反応式(3)は堆積反応の一例であり、水素が還元剤として用いられている。
(3) Cu(II)(Y)2+H2 → Cu+2YH
Cu(II)前駆体は一般に固体であり、膜を堆積させるのに必要な温度は一般に200℃を超える。
【0012】
上記の銅前駆体に加え、本出願の譲受人に譲渡された特許文献1(その内容は、参考として本明細書に組み込まれているものとする)には、金属薄膜をALD又はCVDで堆積させるのに適した非フッ素化金属前駆体とフッ素化金属前駆体が記載されている。
【0013】
いくつかの用途(例えば3Dパッケージング)では、コスト的に有効で迅速な銅メタライゼーション法を利用することが望ましい。凹部を満たすのに銅の電気メッキを利用するには、まず最初に、銅からなる種層でTSVの凹部の内側を覆う必要がある。現在、物理気相成長(PVD)による銅がこの目的で利用されているが、この見通し線法は、一般に、鉛直な側壁を被覆する能力しか持たない。これは比較的深いTSVビアにとって特に問題である。さらに、3Dパッケージングが進化するにつれ、単位面積当たりのTVSの密度を大きくし、そのことによってビアの直径に対する深さの比をより大きくして利用されるチップの表面積を最小にしている。アスペクト比のこの増大により、側壁がうまく被覆された状態で銅からなる十分に一定の形状の種層をPVDによって提供することが一層難しくなっている。これらの理由により、CVDによる銅は、側壁をうまく被覆する優れた技術であり、おそらくは1工程でTSV構造全体を銅で満たす手段である。したがってCVD用の優れた銅前駆体は、熱に対して安定でありながら前駆体の大きな蒸気圧と銅の大きな成長速度がそれぞれ可能な化学的反応性を持つ必要がある。
【0014】
【特許文献1】米国特許第7,205,422号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、ALD法又はCVD法において、熱に対する安定性、化学的反応性、揮発性という性質のうちの少なくとも1つを示す銅前駆体が当技術分野で必要とされている。このような銅前駆体があると、金属銅の成長速度を大きくすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
揮発性の銅前駆体、特には非フッ素化銅前駆体、その製造方法、及び例えば、堆積プロセスにおける前駆体としてのその使用方法が本明細書で説明される。1つの態様では、式(I)、即ち、
【化1】
で表される銅前駆体であって、式中、
Xが酸素及びNR5から選択され、
R1、R2、R3及びR5がそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、
R4が、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4が、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合し、
Lが、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、アリール、ビニル又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素、1〜20個の炭素原子を含むアルキル又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLが、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合し、
MとLの間の有機金属結合が2つの単結合又は1つの単結合から選択される、銅前駆体が提供される。
【0017】
1つの実施態様では、前駆体は、上記の式(I)を有する化合物であって、R1とR3の両方がアルキル基のメチルであり、R2が水素原子であり、Xが酸素原子であり、配位子Lが、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はMe基を含む)を有するシリルアルケンであり、R4がアルコキシ基を含み、LとR4が、LからMe基を取り去り、R4からHを取り去ることで互いに結合した化合物を含む。この又は他の実施態様では、R4はアルコキシ基OCH2CH2である。さらなる実施態様では、R4はアルコキシ基OCHMeCH2である。
【0018】
別の態様では、基材を上記の式(I)を有する銅前駆体と接触させる接触工程を含み、該接触工程が前記前駆体を反応させて膜を形成させるのに十分な条件下で行われる、銅を含む膜を基材上に堆積させる方法が提供される。
【0019】
さらなる態様では、銅を含む膜を有する電子デバイスであって、該膜が、上記の式(I)を有する銅前駆体とギ酸を含む還元剤とを用いて、化学気相成長及び原子層堆積から選択される方法によって堆積される、電子デバイスが提供される。
【0020】
さらに別の態様では、上記の式(I)(式中、Xは酸素である)を有する銅前駆体を製造する方法であって、式H2NR4L(式中、R4及びLは上で説明したのと同じものである)を有する第一級アミンを調製する工程、該第一級アミンを式R1C(O)CHR2C(O)R3を有するβ−ジケトンと凝縮させ、式R1C(O)CHR2C(NR4L)R3を有するβ−ケトイミン中間生成物を形成する工程(式中、R1、R2、R3、R4及びLは上で説明したのと同じものである)、並びに該β−ケトイミン中間生成物を金属源の存在下で塩基を用いて脱プロトン化し銅前駆体を形成する工程を含む、方法が提供される。
【0021】
さらなる態様では、上記の式(I)(式中、Xは酸素である)を有する銅前駆体を製造する方法であって、式H2NR4を有するアミンを式R1C(O)CHR2C(O)R3を有するβ−ジケトンと凝縮させ、式R1C(O)CHR2C(NR4)R3を有する第1中間体のβ−ケトイミン生成物を形成する工程(式中、R1、R2、R3及びR4は上で説明したのと同じものである)、配位子(L)を該第1中間体のβ−ケトイミン生成物のR4に結合させ、式R1C(O)CHR2C(NR4L)R3(式中、R1、R2、R3、R4及びLは上で説明したのと同じものである)を有する第2中間体のβ−ケトイミン生成物を提供する工程、並びに該第2中間体のβ−ケトイミン生成物を金属源の存在下で塩基を用いて脱プロトン化し銅前駆体を形成する工程を含む、方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
銅前駆体、特に銅(I)錯体と、その製造法及びその利用法を本明細書で説明する。銅前駆体は、例えば、さまざまな堆積法(例えばCVD法やALD法)によって金属膜又は金属含有膜を堆積させるための前駆体として使用できる。
【0023】
本明細書に記載した銅前駆体は、その特異な構造のために1つ以上の有利な特性を提供する。本明細書に記載した銅前駆体は、従来の他の有機金属前駆体と比べて高温でより安定であり、化学反応性がより大きく、揮発性がより大きいため、CVD法とALD法にとって望ましい可能性がある。CVDシステムでは、前駆体の反応は、蒸気の供給中及び/又は処理チャンバーの中ではなく、加熱された基材の表面だけで起こることが望ましい。ALDシステムでは、金属前駆体が特定の部位で反応する一方で、蒸気の供給中及び/又は処理チャンバーの中では望まない熱分解が起こらないことが望ましい。
【0024】
本明細書に記載した非フッ素化銅前駆体は、化学的・物理的特性が予想外かつ非常に望ましい組み合わせになっている。そのような特性の例として、比較的高温で熱に対して安定であるため、前駆体の安定な蒸気を大きな蒸気圧で放出させてALD又はCVDの反応装置に供給できることが挙げられる。例えば本明細書に記載した前駆体の1つの実施態様、即ち、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体に関しては、この前駆体は、1気圧で窒素を流すという雰囲気下において10℃/分という勾配で加熱したとき、250℃までの温度で一定の気化を示すことがTGAで確認された。同じ前駆体に関する追加の実験では、サンプルを170℃と150℃に維持すると、それぞれ50分後と160分後に完全に気化したことがわかった。反応装置の内部では、蒸気が適切な還元剤と接触するとその還元剤は低温(例えば50〜400℃の範囲の温度)で前駆体の蒸気と反応して銅膜又は銅合金を堆積させる。いくつかの実施態様では、低温処理(例えば125℃以下)が、例えば銅からなる連続的な極薄の種層を拡散障壁(例えばルテニウム)の上に大きな成長速度(例えば約50オングストローム(Å)/分以下、又は約30Å/分以下)で堆積させる上で特に有利であろう。このようにすると、銅膜が凝集して不連続な膜になることが避けられる。本明細書に記載した前駆体は熱に対して安定であることから高温にできるため、大きな蒸気圧にすることが容易にできる。そのためそれに伴って銅の大きな成長速度を実現できる。これは、例えば3Dパッケージングで用いられるTSVの凹部に銅のメタライゼーションを施す操作が含まれるため銅が大きな成長速度になることが望ましい実施態様にとって望ましかろう。この又は他の実施態様では、本明細書に記載した前駆体の蒸気圧が大きいため、特に低い堆積温度で銅の核密度を大きくして例外的に薄くて連続な銅膜を作ることもできる。
【0025】
すでに説明したように、本明細書に記載した前駆体は、フッ素化されていない。いくつかの実施態様では、銅の堆積中にフッ素が放出されて障壁層及び/又は他の層に侵入することで最終的にデバイスの性能に影響が及ぶのを避けるため、非フッ素化前駆体を、フッ素化された前駆体の上に用いることが好ましい。このような非フッ素化前駆体の製造が難しいのは、フッ素化前駆体は、一般に、フッ素化されていない場合よりもはるかに安定であり、より揮発性があるからである。これら2つの特性は相乗的である。なぜならこの分子は比較的低温で蒸発するため、高温になる前にすべてが気化するからである。逆に、非フッ素化分子は、一般に、揮発性がより小さく、より不安定である。これは、非フッ素化分子は蒸発させて蒸気にするのにより強く加熱する必要があることと、そのような高温で分解を始めることを意味している。したがって前駆体からの蒸気流は揮発性の前駆体分解生成物で汚染される傾向があり、残る不揮発性分解生成物が前駆体の容器内に蓄積する。本明細書に記載した非フッ素化前駆体は極めて安定かつ揮発性であるためにALDとCVDに非常に適しているだけでなく、化学的に反応するためCVD法又はALD法によって銅膜が成長するというのは、驚くべきこと、かつ予想外のことである。非フッ素化銅前駆体は、加熱されたときにクリーンに気化し、あとに残留物がほとんど残らない。したがってこの非フッ素化前駆体は、フッ素なしでもフッ素化前駆体と同じ一般的な利点を有する。
【0026】
本明細書に記載した銅前駆体は、熱に対する安定性が比較的大きいため、安定な蒸気としてCVD又はALDの反応容器の中に供給することができる。その関連で、配位子Lはケトイミン配位子又はジイミン配位子に直接結合するため、配位子Lを十分に解離させるのに一般には十分であろう低圧かつ低温の条件下で金属中心(M)から容易に解離して自由な分子になることはできず、配位子Lは金属中心に配位し続ける傾向があると考えられている。これは、Lが金属中心にだけ結合した同様の錯体とは対照的である。別の実施態様では、ケトイミン配位子又はジイミン配位子を配位子Lと結合させる置換基R4を化学的に操作し、正しい処理条件下でこの結合が破壊又は分離されて配位子Lが効果的に放出されるようにできる。本明細書では、「結合」という用語は、ケトイミン配位子又はジイミン配位子を配位子Lとつなげることを意味し、その中には、化学結合(例えば共有結合、水素結合など)、静電引力、ルイス酸−ルイス塩基相互作用、及び/又は他の手段などが含まれる。これらの実施態様では、そして配位子Lを放出させるのに十分なある処理条件下では、例えば錯体を不均化して金属膜又は金属含有膜にすることができる。さらに、R4が配位子Lと解離すると前駆体が分子量のより小さなユニットになり、例えばCVD又はALDの反応装置内での処理中により脱着しやすくなる。例えば前駆体が水と完全に反応すると、解離の結果は、銅酸化物の成長と、加水分解した小分子量の揮発性配位子の断片の放出になろう。例えば銅前駆体であるCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2NMeSiMe2(C2H3)Me(錯体内のC2H3基はビニル基を表す)が水と反応すると、固体酸化第一銅MeC(O)CH2C(NCH2CH2NMeH)Meと、C2H3Me2SiOHが生成する。後者はカップルしてテトラメチルジビニルジルシロキサンとなる。
【0027】
これらの錯体の別のユニークな特徴は、前駆体の1つの面上に立体的により露出した金属中心を提供できることである。典型的なβ−ケトイミンオレフィン化合物又はβ−ジケトンオレフィン化合物は平坦な分子であり、配位するジケトネート・アニオン又はケトイミネート・アニオンと、金属中心と、オレフィンとがすべて同じ平面内に存在している。それとは異なり、本明細書に記載した錯体は、錯体の配位面が凸状に湾曲しているため金属中心が錯体のより下側に向かって押される。そのため金属中心を表面により露出した状態にして試薬分子がより近づきやすくすることが可能になる。例えば銅前駆体の一例であるCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Meでは、銅とオレフィンからなる配位三角形からβ−メトイミネート・キレート環が約7°傾いているため、銅が分子の下側からより多く露出している。このように露出していること、したがって立体的によりアクセスしやすいことは、ある種のALD法とCVD法にとって重要である可能性がある。なぜならそうなっていると、中に含まれる銅原子が基材の表面に吸着されるからである。さらに、配位子Lと結合するR4の性質と長さを制御することにより、コンホメーションの中に比較的変形した金属前駆体を開発して露出した金属中心を提供することができる。R4と配位子Lのリンクを化学的に破壊すること、又は分離することによってこの変形状態を解除すると、比較的大きな反応性が得られる。言い換えるならば、この前駆体の構造を調節することで、内部変形のある錯体を構成することが可能になるはずである。背部変形はR4の結合を破壊することによって解除でき、その結果として分子が分解されて小さな揮発性有機単位になることが促進されると同時に、金属中心が立体的に露出するために表面の反応性が大きくなって金属が多く堆積される。
【0028】
本明細書に記載した銅前駆体は、例えば米国特許第7,205,422号明細書及び同第7,034,169号明細書(これら特許文献の開示内容は、参考としてその全体が本明細書に組み込まれているものとする)に記載されているものと関係がある。1つの実施態様では、本明細書に記載した銅前駆体は、以下の式(I)を有する。
【化2】
式(I)において、金属原子Mは銅である。式(I)において、Xは酸素原子であることができ、それによってケトイミネート錯体を形成することができるか、あるいはまたXはNR5であることができ、それによってジイミネート錯体を形成することができる。式(I)において、置換基R1、R2、R3及びR5はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択される。式(I)において、置換基R4は、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4は、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合する。さらに、式(I)において、Lは、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、ビニル、アリール又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLは、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合する。
【0029】
本明細書では、「アルキル」という用語に、1〜20個の炭素原子又は1〜10個の炭素原子を含む直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、環式アルキル基が含まれる。アルキル基の例として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、t−アミル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどがある。「アルキル」という用語は、他の基(例えばハロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル)に含まれるアルキル部分にも適用される。本明細書では、「アリール」という用語に、芳香族の性質を持つ6〜12員の炭素環が含まれる。アリール基の例として、フェニル基やナフチル基などがある。「アルキル置換のアリール」という用語は、アルキルで置換されたアリール部分に適用される。アルキル置換のアリール基の例として、トリル基やキシリル基などがある。「ハロ」と「ハロゲン」という用語には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が含まれる。いくつかの実施態様では、本明細書で説明した基のいくつかは、1個以上の他の元素(例えばハロゲン原子や、O、N、Si、Sといった他のヘテロ原子)で置換されていてもよい。
【0030】
式(I)において、置換基R4は、配位子Lと結合することができるように選択する。さらに、配位子Lは、置換基R4と結合することができるように選択する。配位子Lと置換基R4の両方から水素、原子又は基が取り去られるとR4とLが結合し、錯体のケトイミン配位子又はジイミン配位子が配位子Lと接続すると考えられる。この関連で、Lがシリルアルケンだと、そのシリルアルケンの持つ1つの結合を利用してR4と結合する。1つの典型的な実施態様を図4に示してあり、これはCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Meである。この実施態様では、Xは酸素であり、Lは化学式H2C=CHSiMe2を持ち、R4はOCH2CH2であり、R3は水素であり、R1とR2は両方ともメチル基である。XがNR5である別の実施態様では、R5とLが結合することができる。この実施態様では、配位子Lと置換基R5の両方から水素、原子又は基が取り去られると、R4とLが結合するのと同様にしてR5とLが結合する。
【0031】
いくつかの実施態様では、置換基R4は、置換基R1、R2及び/又はR3と結合することもできる。この実施態様では、置換基R1、R2及び/又はR3が水素原子でもなく、ハロゲン原子でもなく、ニトロ基NO2でもないとき、置換基R4は、置換基R1、R2及び/又はR3とだけ結合することができる。
【0032】
いくつかの実施態様では、置換基R1、R2及び/又はR3は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基である。1つの特定の実施態様では、置換基R1とR3は、同じアルキル基でも異なるアルキル基でもよく、それぞれ独立してメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、イソブチル、t−ブチル、又はこれらの組み合わせである。この又は他の実施態様では、Xは酸素原子である。この又は他の実施態様では、R2は水素原子である。この又は他の実施態様では、配位子Lは、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はアルキル基のメチル即ちMeを含み、R4は、LからMe基を取り去り、R4からH原子を取り去ることでLとR4が互いに結合した式を含むアルコキシ基を含む)を有するシリルアルケンを含む。この又は他の実施態様では、R4は式OCHMeCH2又はOCH2CH2を有するアルコキシを含む。
【0033】
本明細書に記載した錯体のいくつかの実施態様では、XはNR5であり、R5は、R1、R2又はR3に関して上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である。これらの実施態様では、配位子(L)、又は追加の配位子(L)(上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である)は、置換基R5と置換基R4に付加することもできる。これらの実施態様では、少なくとも1つの配位子Lは、例えばR5と結合するのに利用できる1つの結合価を持つため、錯体のジイミン配位子が配位子Lと結合されると考えられる。この又は他の実施態様では、置換基R5は、置換基R1、R2、R3及び/又はR4のうちの任意の1つ又はすべてと結合させて環式構造を形成することもできる。最後の実施態様では、置換基R1、R2及び/又はR3が水素原子でもなく、ハロゲン原子でもなく、ニトロ基NO2でもないときだけ、又は置換基R5が水素原子であるとき、置換基R5は、置換基R1、R2及び/又はR3に結合する。
【0034】
いくつかの実施態様では、置換基R4、及び/又は場合によっては置換基R5は、XがNR5の場合には、配位子Lが自らの金属中心ではなく隣の錯体の金属中心と配位するように調節することができる。これらの実施態様では、他の錯体(例えば二量体錯体、三量体錯体、四量体錯体)を形成することができる。
【0035】
いくつかの実施態様では、置換基R1、R2、R3のうちの任意の1つ又は全部は、独立に結合して環式構造を形成することができる。いくつかの実施態様では、R1とR2及び/又はR2とR3は、独立に結合して環式構造を形成することができる。
【0036】
1つの実施態様では、式(I)中の配位子Lは、アルキルニトリル(例えばCH2CN又はMe2CH2CCN)が可能である。Lに関するこの及び先の実施態様では、配位子Lに関して定義した基は、水素原子を取り去るとR4と結合することができる。別の実施態様では、式(I)中の配位子Lはシリルニトリルであることができ、その例としてMe2CH2SiCNなどがある。さらなる実施態様では、式(I)中の配位子Lはアルキンであることができ、例えばCH2CCMeやCH2CCHなどがある。別の実施態様では、式(I)中の配位子Lはアルケンであることができ、例えばMe3CCHCH2やMe(CH2)2CHCH2などがある。さらに別の実施態様では、式(I)中の配位子Lは式(R9)3SiCCR10又は(R11)3SiCCSi(R11)3を有するシリルアルキンであることができ、例えばMe3SiCCH、Me2CH2SiCCSiMe3、(MeO)2CH2SiCCH、(EtO)2CH2SiCCHなどがある。なおさらなる実施態様では、式(I)中の配位子Lは、アレン、例えば、限定されないがCHCCCH2又はMeCCCMe2であることができる。別の実施態様では、式(I)中の配位子Lはアルキルイソシアニドであることができ、例えばMeCHNCなどがある。上記の式と本明細書全体を通じ、「Me」という記号はメチル基を示し、「Et」はエチル基を示す。「Pr」はn−プロピル基を示し、「i−Pr」はイソプロピル基を示す。
【0037】
上記の式(I)において、金属中心と配位子(L)の間の有機金属結合は、2つの単結合又は1つの単結合である。
【0038】
1つの実施態様では、本明細書に記載した金属ケトイミネート錯体においてXが酸素であるものは、L基で機能化したアミンをβ−ジケトン化合物と反応させてβ−ケトイミン中間生成物を形成することによって合成できる。アミンは、例えば式H2NR4L(式中、R4とLは、上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である)を有する第一級アミンが可能である。上記の式を有する第一級アミンの例として、H2NCH2CH2OSiMe2(C2H3)などがある。β−ジケトンは、式R1C(O)CHR2C(O)R3(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、上で説明した基又は原子のうちの任意のものが可能である)を有する化合物が可能である。上記の式を有するβ−ジケトン化合物の例は、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオンなどである。一例として、H2NCH2CH2OSiMe2(C2H3)というアミンを2,4−ペンタンジオンと反応させるとMeC(O)CH2C(NCH2OSiMe2(C2H3))Meというβ−ケトイミン中間体が形成されるであろう。このβ−ケトイミン中間生成物が調製されると、それを脱プロトン化し(即ち酸性プロトンを除去し)、次いで塩基の存在下で金属源と錯体化して上記の式(I)を有する錯体を得る。
【0039】
別の実施態様では、本明細書に記載した金属ジイミネート錯体においてXが上で説明したNR5であるものは、上で説明したようにしてβ−ケトイミン中間生成物を最初に調製した後、それをアルキル化剤(例えばテトラフルオロホウ酸トリエチルオキソニウム又は硫酸ジメチル)で処理し、次いでその得られた化合物をR5NH2(式中、R5は上で説明したものである)と反応させて第2の中間生成物としてのβ−ジイミン塩[R1C(R5NH)CHR2C(NR4L)R3]+[V]-(式中、Vはアルキル化剤の共役塩基であり、テトラフルオロホウ酸トリエチルオキソニウムを用いる場合にはVはテトラフルオロホウ酸塩アニオンである)を得ることによって合成できる。基R5には基Lが結合していてもいなくてもよい。得られるβ−ジイミン塩配位子は2回脱プロトン化された後、金属源と錯体化されて上記の式(I)を有する錯体を得る。
【0040】
アミンとβ−ジケトン化合物の反応は、溶媒の存在下で実施することができる。適切な溶媒として、エーテル(例えばジエチルエーテル(EtO2)、テトラヒドロフラン(「THF」)、ジ−n−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル);ニトリル(例えばCH3CN);芳香族化合物(例えばトルエン)などがあり、単独で、又は混合して用いられる。いくつかの実施態様では、溶媒はTHFである。反応温度は、−78℃から溶媒の沸点までの範囲が可能である。反応時間は、約0時間又は瞬間的から約48時間の範囲、又は約4〜約12時間が可能である。いくつかの実施態様では、中間生成物は、標準的な手続き(例えば蒸留、昇華クロマトグラフィ、再結晶化、及び/又は粉砕)で精製することができる。しかしいくつかの場合には、アミンとβ−ジケトン化合物の反応は、溶媒なしで実施することもできる。それは特に、得られるβ−ケトイミン中間生成物が液体の場合である。
【0041】
いくつかの実施態様では、β−ケトイミン中間生成物又はβ−ジイミン中間生成物を最終的な銅前駆体にしたものとして、以下の式(II)、(III)、(IV)のいずれかを有する以下の3種類の互変異性体のうちの1つ以上のものが可能である。
【化3】
上記の式において、変数R1、R2、R3、R4、X、配位子(L)は、それぞれ独立して本明細書に記載した原子又は基のうちの任意のものが可能である。
【0042】
β−ケトイミン中間生成物は、アミン又はアンモニアと反応させてβ−ジイミンを得る前に活性化させる必要があろう。例えばβ−ケトイミン中間生成物は、最初にテトラフルオロホウ酸トリエチルオキソニウム又は硫酸ジメチルによってアルキル化させる必要があろう。
【0043】
式(IV)は、本明細書に記載した金属ケトイミネート錯体又はCu(I)ケトイミネート錯体の調製に関する1つの実施態様の一例を示している。この実施態様では、Cu(I)錯体は、1種類以上の塩基を用い、アミンとβ−ジケトン化合物の反応によるβ−ケトイミン中間生成物を脱プロトン化するか、β−ケトイミン中間生成物とアミン又はアンモニアの反応によるβ−ジイミン中間生成物を脱プロトン化し、次いでCu(I)をキレート化してβ−ケトイミン錯体又はβ−ジイミン錯体を得ることによって調製される。この反応の一例を、以下の反応式(4)に示してある。この反応式は、β−ケトイミンCu(I)錯体の調製を示している。
【化4】
反応式(4)において、β−ケトイミン中間生成物(式(VI)の化合物)を塩基(水素化ナトリウム)及び銅(I)源(塩化銅)と反応させ、式(I)を有するCu(I)錯体と塩化ナトリウムを形成する。上記の反応で使用できるであろう他の塩基として、水素化リチウム、n−ブチルリチウム、水素化カリウム、ナトリウムビス(トリメチルシリルアミド)、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムt−ブトキシドなどがある。上記の反応で使用できるであろう他の銅(I)源として、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、トリフルオロ酢酸銅(I)、トリフルオロメチルスルホン酸銅(I)ベネキセン付加物、銅(I)アルコキシド、銅(I)アミド、酢酸銅(I)、銅(I)フェノキシド、銅(I)アセトアミド、銅(I)アルコキシドなどがある。他の金属前駆体又は銅前駆体混合物を調製する実施態様では、金属源は、望む金属Mを含む1種類以上の金属塩である。金属錯体又はCu(I)錯体の予想収率は、理論収率の約5%〜約95%の範囲になろう。いくつかの実施態様では、最終生成物又は銅前駆体(例えばCu(I)錯体)は、標準的な手続き(蒸留、昇華、クロマトグラフィ、再結晶化、及び/又は粉砕)で精製することができる。
【0044】
あるいは、本開示の銅前駆体は、まずそれと類似した金属ビス(ケトイミン)化合物と金属ビス(ジイミン)化合物を合成し、次いでそれらを金属源と反応又は金属源で還元することによって調製できる。これらの前駆体を合成する別の経路も可能であり、以下の例において限定的でないケースによって例示される。
【0045】
別の実施態様では、β−ケトイミン中間生成物を金属源(銅(I)アリール(例えば銅メシチレン)や銅アルコキシド(例えば[CuOt−Bu]4)など)と直接反応させて金属錯体又はCu(I)錯体を形成することができる。さらに別の実施態様では、銅前駆体は、その前駆体を構成している部分から、即ち、β−ケトイミン中間生成物と金属原子から適切な電気化学的方法で調製することができる。その同じ合成経路を利用して金属ジイミネート錯体を合成することができる。
【0046】
この方法のさらに別の例は、エタノールアミン(H2NCH2CH2OH)を2,4−ペンタンジオンと反応させて第1のβ−ケトイミン中間生成物(MeC(O)CH2C(NCH2CH2OH)Me)を得るというものである。この第1のβ−ケトイミン中間生成物(MeC(O)CH2C(NCH2CH2OH)Me)をクロロジメチルビニルシランと反応させ、第2のβ−ケトイミン中間生成物(MeC(O)CH2C(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Me)を得る。この第2のβ−ケトイミン中間生成物の脱プロトン化を実施し、銅との錯体にすると、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2(C2H3)Me錯体が得られる。
【0047】
すでに説明したように、本明細書に記載した銅前駆体は、銅含有膜を基材上に堆積させるための前駆体として使用することができる。適切な基材の例として、特に限定されないが、半導体材料、例えば、ガリウムヒ素(「GaAs」)、窒化ホウ素(「BN」)シリコン、シリコンを含む組成物、例えば、結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファス・シリコン、エピタキシャル・シリコン、二酸化ケイ素(「SiO2」)、炭化ケイ素(「SiC」)、シリコンオキシカーバイド(「SiOC」)、窒化ケイ素(「SiN」)、炭窒化ケイ素(「SiCN」)、有機ケイ酸塩ガラス(「OSG」)、有機フルオロケイ酸塩ガラス(「OFSG」)、フルオロケイ酸塩ガラス(「FSG」)、及び他の適切な基材、又はそれらの混合物が挙げられる。基材はさらに、膜を付着させるさまざまな層を含むことができる。それは例えば、反射防止コーティング、フォトレジスト、有機ポリマー、多孔性有機材料、多孔性無機材料、金属(例えば銅やアルミニウム)、拡散障壁層(例えばルテニウム、タンタル、チタン、又はこれらの組み合わせ)である。銅前駆体は、本明細書に記載した任意の方法、又は当技術分野で公知の任意の方法を利用して堆積させることができる。堆積法の例として、化学気相成長(CVD)、サイクリック化学気相成長(CCVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ支援化学気相成長(PACVD)、プラズマ促進化学気相成長(PECVD)などがある。いくつかの実施態様では、錯体を用い、CVD又はALDで適切な試薬と反応させることによって金属又はその合金の薄膜を成長させることができる。別の実施態様では、銅前駆体を不均化反応を通じて反応させて金属膜又は金属含有膜を提供することができる。さらに別の実施態様では、銅前駆体を還元剤の存在下で反応させて金属膜又は金属含有膜を提供することができる。1つの特定の実施態様では、ギ酸を含む還元剤の存在下でCVD法により銅前駆体Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)を反応させて銅膜を堆積させる。理論に束縛されることを意図するものではないが、ALD又はCVDで他の還元剤(例えばカルボン酸、カルボン酸エステル)を水蒸気、アルコール、水素、シラン、ボラン、アラン、アンモニア、又はこれらの組み合わせと組み合わせて使用することもできる。さらに、いくつかの実施態様では、還元剤のプラズマ活性化を利用して低温で銅膜を実現することもできる。
【0048】
例えば、1つの実施態様では、ハロゲン源試薬との反応によってハロゲン化金属の薄膜を形成できるのに対し、別の実施態様では、適切な酸化剤(例えば水蒸気)との反応によって金属酸化物の膜が得られる。さらに別の実施態様では、酸化剤との反応の後に還元剤(例えば水素)と反応させて金属膜又は金属/金属酸化物混合膜を形成することができる.あるいは銅前駆体を、プラズマで活性化したガス試薬と、直接に、又はプラズマ源から離れた下流で反応させることができる。本明細書に記載した銅前駆体は、他の金属前駆体とある組み合わせで混合して用い、金属膜、金属含有膜、及び/又は合金膜を形成することもできる。膜は、堆積されたままで使用すること、又は適切な還元剤を用いて還元して望む金属にすることができよう。
【0049】
いくつかの実施態様では、銅前駆体は、CVD法又はALD法を利用して基材の上に堆積させる。Cu(I)錯体の堆積は、400℃以下、又は200℃以下、又は100℃以下の温度で実施することができる。典型的なCVD堆積プロセスでは、式(I)を有する銅前駆体を反応チャンバー(例えば真空チャンバー)に導入する。いくつかの実施態様では、銅前駆体を導入する前、その間及び/又はその後に、銅前駆体以外の化学試薬を導入することができる。エネルギー源(例えば熱源、プラズマ源、これら以外のエネルギー源)によって銅前駆体と、場合によっては存在する化学試薬とにエネルギーが与えられ、基材の少なくとも一部の上に膜が形成される。
【0050】
すでに説明したように、いくつかの実施態様では、化学試薬は、銅前駆体を反応チャンバーに導入する前、その間及び/又はその後に導入することができる。化学試薬の選択は、得ることを望む膜の組成によって異なるであろう。例えば、1つの実施態様では、ハロゲン含有化学試薬との反応によってハロゲン化金属の膜を形成できるのに対し、別の実施態様では、酸化剤との反応によって金属酸化物膜が生じるであろう。化学試薬の例として、酸化剤(例えばO2、NO、NO2、O3、CO、CO2);水;ハロゲン化物;ハロゲン含有シラン(例えばアルキルクロロシラン、アルキルブロモシラン、アルキルヨードシラン);ハロゲン化ケイ素化合物(例えば四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素);ハロゲン化スズ化合物(例えばアルキルクロロスタンナン、アルキルブロモスタンナン、アルキルヨードスタンナン);ゲルマン化合物(例えばアルキルクロロゲルマン、アルキルブロモゲルマン、アルキルヨードゲルマン);三ハロゲン化ホウ素化合物(例えば三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素);ハロゲン化アルミニウム化合物(例えば塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム);ハロゲン化アルキルアルミニウム;ハロゲン化ガリウム化合物(例えば三塩化ガリウム、三臭化ガリウム、三ヨウ化ガリウム);又はこれらの組み合わせがある。上記の化合物の誘導体も使用することが考えられる。化学試薬は、ガスとして反応チャンバーに直接供給すること、気化した液体又は昇華した固体として反応チャンバーの中に供給すること、及び/又は不活性なキャリアガスによって反応チャンバーの中に輸送することができる。不活性なキャリアガスの例として、窒素、水素、アルゴン、キセノンなどがある。
【0051】
いくつかの実施態様では、金属膜は、不均化反応によって基材の表面に形成することができる。例えばCu(I)錯体に関する不均化反応を以下の反応式(5)に示す。
【化5】
【0052】
別の実施態様では、金属膜は、還元剤の存在下で基材の表面に堆積させることができ、例えばその膜を還元して金属にする。式(I)を有する銅前駆体は、1種類以上の還元剤とともにCVD又はALDの反応装置の中に導入することができる。適切な還元剤の例として、水素ガス、カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、ステアリン酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、グルトン酸など)、アルコール、水素プラズマ、カルボン酸エステル、リモート水素プラズマ、シラン(例えばジエチルシラン、エチルシラン、ジメチルシラン、フェニルシラン、シラン、ジシラン、アミノシラン)、ボラン(例えばボラン、ジボラン)、アラン、ゲルマン、ヒドラジン、アンモニア、又はこれらの混合物などがある。1つの特定の実施態様では、還元剤としてギ酸を用いる。いくつかの実施態様では、還元剤はガスの形態で導入することができる。この又は他の実施態様では、式(I)を有する銅前駆体を適切な有機溶媒に溶かして溶液にし、得られた溶液を液体蒸発装置の中で気化して蒸気にしてCVD又はALDの反応装置の中に供給する。すると反応装置の中でその蒸気が1種類以上の還元剤と接触することによって還元される。
【0053】
1つの特定の実施態様では、ギ酸を還元剤として用い、比較的低い堆積温度かつ有用な堆積速度で比較的滑らかな銅膜を得る。この実施態様では、膜の表面粗さ、即ち、Ra(単位はÅ)は、ギ酸を含むカルボン酸を用いて堆積させなかった同等な銅膜と比べて著しく低下した。特に、得られた銅膜の表面粗さは、200Å以下、又は100Å以下、又は50Å以下、又は20Å以下であった。この又は他の実施態様では、1種類以上の銅前駆体(例えばCu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)を用いてALD又はCVDによって成長させた銅膜の滑らかさは、銅前駆体とカルボン酸(例えばギ酸)の相対的な比率によって制御することができ、酸:前駆体の比が大きいほどより滑らかな銅膜になる。
【0054】
いくつかの実施態様では、水蒸気そのものを用い、又は水蒸気を本明細書に記載した還元剤に加えて用い、銅膜の堆積を促進することもできる。
【0055】
いくつかの実施態様では、ALD堆積法によって金属膜を式(I)のCu(I)錯体から堆積させる。典型的なALDプロセスの間、1種類以上のガス状前駆体又は気化した前駆体を、1回の処理サイクル中に交互にパルス状にして、基材が収容された処理チャンバーの中に導入する。各処理サイクルでは、吸着又は化学吸着(後者が好ましい)によって材料の単層がほぼ1つよりも多くは形成されないことが好ましい。層を成長させるのに用いる処理サイクルの数は、望む厚さによって異なるが、一般に1,000サイクルを超えるであろう。半導体デバイスでは、二重ダマシン構造内の障壁層又は種層が望む機能を発揮するのに十分な厚さになるまで処理サイクルを繰り返す。
【0056】
ALDプロセスの間、基材は、化学吸着を促進する温度に維持する。即ち、吸着された種と下にある基材の間の結合を完全なままに維持するのに十分な低温だが、前駆体の凝縮を回避し、各処理サイクルにおいて表面での望む反応のための十分な活性化エネルギーを提供するには十分な高温に維持する。処理チャンバーの温度は、0℃〜400℃、又は0℃〜300℃、又は0℃〜275℃の範囲が可能である。ALDプロセスの間の処理チャンバー内の圧力は、0.1〜1000Torr、又は0.1〜15Torr、又は0.1〜10Torrの範囲が可能である。しかし個々のALDプロセスに関する温度と圧力は、関係する1種類以上の前駆体が何であるかに応じて異なるであろう。
【0057】
本明細書に記載した任意の膜形成法と、当技術分野で公知の他の膜形成法を、単独で又は組み合わせて利用することができる。例えば、1つの実施態様では、混合組成の銅含有膜は、銅酸化物の膜を堆積させた後、金属銅の膜を堆積させる操作を行ない、次いでその多層を還元して純粋な銅膜を得ることによって形成できる。
【0058】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載した銅前駆体を適切な溶媒(例えばアミン(例えばトリエチルアミン)、エーテル(例えばTHF)、芳香族(例えばトルエン)、又は本明細書に開示した他の任意の溶媒)に溶かして溶液にすることができる。得られた溶液は、直接液体注入(DLI)システムの中でフラッシュ気化し、ALD又はCVDの反応チャンバーに蒸気として供給することができる。別の実施態様では、本明細書に記載した錯体を安定化用の液体(例えばオレフィンやアルキン)に溶かした後、DLIシステムに導入することができる。
【実施例】
【0059】
以下の例では、HP−5MSを備えるHewlett Packard 5890シリーズ11 G.C.と5972シリーズの質量選択的検出器でG.C.M.S.スペクトルを得た。これらの例のNMR分析は、500MHzで動作するBruker AMX 500スペクトロメータで実施した。化学シフトは、1HではC6D6から7.16ppm、13CではC6D6から128.39ppmに設定した。X線分析は、APEX CCD検出器とKryoflexクライオスタットを備えるBruker D8プラットフォーム回折装置で実施した。
【0060】
[例1:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体の合成]
[ステップ1:MeC(O)CHC(HNCH2CHMeOH)Me又はケトイミン中間体の形成]
乾燥剤である硫酸ナトリウムを200g含む1.0リットルのヘキサン溶媒の中で200g(2.0モル)の2,4−ペンタンジオンに150g(2.0モル)の1−アミノ−2−プロパノールを添加し、1時間にわたって撹拌した。次にヘキサンをデカントによって除去し、500mlのテトラヒドロフラン(THF)溶媒を添加して粗生成物をすべて溶かした。次にこの溶液を、200gの新鮮な硫酸ナトリウムを含む新しいフラスコにデカントし、1時間にわたって撹拌した。次に、このTHF溶液をデカントによって除去し、冷凍機の中に一晩保管して結晶化させた。上清をデカントによって除去し、残った固形物をポンピングによって乾燥させた。次に、粗固形物を真空下で130℃にして融かし、揮発物を、ポンプにより、液体窒素で冷却した真空トラップへと導いた。収量=197.5g(63%)。生成物に関するGCMSの結果から99%超の純度であることがわかり、質量スペクトルにおいて157muに親イオンの断片が見られることから、望む生成物であることが明らかになった。
【0061】
[ステップ2:MeC(O)CHC(HNCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me又はシリル化されたケトイミン中間体の形成]
163.4g(1.04モル)のMeC(O)CHC(NHCH2CHMeOH)Meを1.5リットルのTHFに溶かした溶液を、窒素ブランケットのもとで、27.5g(1.14モル)の水素化ナトリウムを30mlのTHFに懸濁させた懸濁液に添加した。水素の発生が停止した後、混合物をさらに1時間にわたって撹拌した。次に、151g(1.25モル、即ち20%過剰)のクロロジメチルビニルシランを1時間かけて添加し、得られた混合物を1時間にわたって撹拌した。次にこの混合物を濾過し、THFと過剰な試薬を除去すると、粗生成物が得られた。それを今度は100℃で真空蒸留すると、最終生成物が得られた。収量=209g(83%)。GCMSで241muに親イオンの断片が見られることから、この生成物が同定された。この生成物に関するNMRの結果は以下のとおりであった。1H NMR:(500MHz,C6D6):δ=0.21(s,3H)、δ=1.9(s,3H)、δ=0.88(d,3H)、δ=1.49(s,3H)、δ=2.05(s,3H)、δ=2.6(m,1H)、δ=2.76(m,1H)、δ=3.54(m,1H)、δ=4.9(bs,1H)、δ=5.74(dd,1H)、δ=5.9(dd,1H)、δ=6.2(dd,1H)、δ=11.27(bs,1H);13C NMR:(500MHz,C6D6):δ=−1.42(s,1C)、δ=−1.15(s,1C)、δ=19.1(s,1C)、δ=21.7(s,1C)、δ=29.3(s,1C)、δ=50.8(s,1C)、δ=68.9(s,1C)、δ=68.9(s,1C)、δ=96.0(s,1C)、δ=133.6(s,1C)、δ=138.5(s,1C)、δ=162.3(s,1C)、δ=194.7(s,1C)。
【0062】
[ステップ3:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)銅前駆体の合成]
窒素ブランケットのもとで、45g(0.45モル、即ち10%過剰)の塩化銅を、81g(0.8モル)のトリメチルビニルシランを含む50mlのTHFに添加し、30分間にわたって撹拌すると、透明な溶液が得られた。これに、44g(0.45モル)のナトリウムt−ブトキシドを100mlのTHFに溶かした溶液を添加し、得られた混合物を30分間にわたって撹拌した。この混合物にステップ2の生成物102g(0.4モル)を一滴ずつ30分間かけて添加し、得られた混合物を一晩にわたって撹拌した。次に溶媒を真空下で除去し、得られた粗材料を真空下で140℃に加熱して揮発性の銅錯体を液体として追い出し、それを冷却して固化させた。次にこの固形物を真空昇華によって精製すると、最終生成物が無色の三角柱として得られた。収量=105g(85%)。この生成物に関するNMRの結果は以下のとおりであった。1H NMR:(500MHz,C6D6):δ=0.10(m,6H)、δ=1.03(m,3H)、δ=1.57(d,3H)、δ=2.1(s,3H)、δ=3.4〜4.2(mm,5H)、δ=5.0(d,1H)。この生成物に関するGCMSの結果において303muに強い親イオンの断片が見られることから、それが何であるかが確認された。
【0063】
[例2:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いたCVDによる銅膜の堆積]
壁面が熱い実験室用CVD反応装置の中で、以下の表1に記載した条件を利用し、還元剤としてギ酸を用いることにより、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いて銅膜を窒化チタン(TiN)基材の上に堆積させた。純粋な銅膜が約5ミクロンの厚さに成長した。厚さは、図6に示したように二次イオン質量分析(SIMS)によって測定した。この図6は、検出可能な量の炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素が存在していないことを示しており、銅膜の純度が99.99原子%超であることを意味する。深さプロファイルは、銅膜の底面に達する前に終わっていることに注意されたい。
【0064】
【表1】
【0065】
[例3:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いたCVDによる銅膜の堆積]
壁面が熱い実験室用CVD反応装置の中で、以下の表2に記載した条件を利用し、還元剤としてギ酸を用いることにより、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用い、パターニングされた窒化タンタル(TaN)基材の上に銅膜を堆積させた。銅膜は、大きなスケールのトレンチの中にそれと同じ形状の層として堆積させた。銅膜のサイズは、TSV/3Dパッケージングで一般に見られるサイズであった。そのことが、銅膜のトレンチ、上面、底面、側壁をそれぞれ示す4枚の走査電子顕微鏡写真(SEM)である図7、図8、図9、図10からわかる。
【0066】
【表2】
【0067】
[例4:Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用いたCVDによる銅膜の堆積]
壁面が熱い実験室用CVD反応装置の中で、以下の表3に記載した条件を利用し、還元剤としてギ酸を用いることにより、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体を用い、ルテニウム基材の上に銅膜を堆積させた。純粋な銅膜が約1000オングストロームの厚さ(Decktak針式粗面計を用いて測定)に成長した。純度はEDXで確認し、図11に示してある。
【0068】
【表3】
【0069】
[例5:追加のギ酸による銅膜の滑らかさの増大]
例4の実験を繰り返したが、今度はギ酸供給源の温度を25℃に上昇させ、表4に示した追加の堆積条件を利用した。その結果、より滑らかな銅膜になった。そのことは、ヴィーコ社が製造したDecktak針式粗面計を用いて測定した表面粗さRa(単位はオングストローム(Å))の値が低下したことからわかる。
【0070】
【表4】
【0071】
[例6:銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)と比べた銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の熱安定性]
銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)、即ち、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体の熱安定性を、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の熱安定性と比べた。図1のTGAから、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)は、TGA実験においてほぼ完全に蒸発し(点線)、揮発性残留物は1.22%であることがわかる。この値はこの方法の実験誤差の範囲である。図1にはさらに、DSC(実線)も示してある。このDSCは、蒸発による滑らかな吸熱だけで、熱分解が起こっているであろうことを意味する発熱の挙動がないことを示している。これは、熱分解が原因となって無関係のガス相の種が前駆体から放出されることで、ALD又はCVDの反応装置に供給される蒸気流が汚染される可能性がないことを意味する。重量損失が250℃で急に停止しているのが観察される。これは、前駆体が熱分解した結果である揮発性がより小さな種が蒸発皿の中に残留物としてほとんど存在していないという事実と合っている。前駆体が残っていれば、温度がさらに上昇すると重量が失われ続けるであろう。さらに、重量損失は、前駆体の容器内に不揮発性残留物が蓄積しないことも示している。
【0072】
図2は、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)のTGAであり、図1と明らかに異なっているのは、最終的な不揮発性残留物が17.6重量%とかなり多いことと、重量損失が約260℃で突然変化した後、サンプルの熱分解によって生じる揮発性がより小さな新しい残留種からのよりゆっくりとした重量損失が続いて最終的に残留物が15.8%になることである。さらに、図2のDSCからは、蒸発によるわずかな初期吸熱の後に、約230℃での分解による発熱が続くことがわかる。したがって図1と図2を比較すると、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)は、分解することなくクリーンに蒸発することのできる熱的に安定な分子であることが、同じ条件下で熱分解する銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)と比べて明らかである。銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体は230℃未満では熱に対して安定であるため、この温度未満では前駆体として使用することができる。しかし銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)には優れていて予想外の熱安定性が加わっているため、ある堆積条件のもとではより望ましい前駆体となる。
【0073】
銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)と銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の構造上の唯一の違いは、後者の銅前駆体が、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の水素原子の代わりにメチル基を有することである。銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)のその水素原子の位置がメチル基で置換されていることで、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)が得られ、炭素原子が、シリコン原子と結合した酸素に結合する。図3と図4に、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体(即ちCu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me))と銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体(即ちCu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2C2H3)Me))の構造をそれぞれ示してある。図5にはこれら前駆体の構造を示してあり、後者の分子のどこにメチル基が同じ位置の水素原子と置換されて付加されているかがわかる。ある堆積条件下では、水素原子をメチル基で単に置き換えるだけで、これら2種類の前駆体の間で熱安定性に著しくかつ完全に予想外の増大が生じると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体、即ち、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)前駆体(式中、「Me」は、本明細書ではメチル基を表す)の蒸発に関する熱重量分析(TGA)を与える。図1は、点線で示されるように、この前駆体の示差走査熱量測定(DSC)も与える。
【図2】銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体、即ち、Cu(MeC(O)CHC(NCH2CH2OSiMe2C2H3)Me)前駆体の蒸発に関するTGAを与える。図2は、点線で示されるように、この前駆体の示差走査熱量測定(DSC)も与える。
【図3】本明細書に記載の銅前駆体の1つ、即ち、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の典型的な構造を与える。
【図4】本明細書に記載の銅前駆体の1つ、即ち、銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)の典型的な構造を与える。
【図5】銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体と銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)エチル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体の構造の比較を与え、メチル基が銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体に付加されているところを明らかにしている。
【図6】例2による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用いて窒化チタン上にCVDによって堆積した銅膜の二次イオン質量分析(SIMS)のプロファイルを与える。
【図7】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図8】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図9】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図10】例3による銅(N(2(ビニルジメチルシロキシ)プロピル)−2−イミノ−4−ペンテノエート)前駆体を用い、パターニングされたTaN基材上にCVDによって堆積した銅膜の走査電子顕微鏡写真(SEM)を与え、膜のトレンチ、上面、底面及び側壁を示している。
【図11】例4に従ってCVDによりルテニウム障壁層上に堆積した銅膜のエネルギー分散X線(EDX)を与える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長又は原子層堆積によって膜を堆積するための銅前駆体であって、式(I)、即ち、
【化1】
で表され、式中、
Xが酸素及びNR5から選択され、
R1、R2、R3及びR5がそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、
R4が、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4が、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合し、
Lが、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、アリール、ビニル又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素、1〜20個の炭素原子を含むアルキル又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLが、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合し、
MとLの間の有機金属結合が2つの単結合又は1つの単結合から選択される、銅前駆体。
【請求項2】
R1及びR3がMe基を含み、R2がHを含み、XがOを含み、Lが式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はMe基を含む)を有するシリルアルケンを含み、R4がアルコキシ基を含み、LとR4が、LからMe基を取り去り、R4からHを取り去ることで互いに結合した、請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
R4がOCHMeCH2を含む、請求項2に記載の前駆体。
【請求項4】
R4がOCH2CH2を含む、請求項2に記載の前駆体。
【請求項5】
Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)。
【請求項6】
Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHEtOSiMe2C2H3)Me)。
【請求項7】
Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHPrOSiMe2C2H3)Me)。
【請求項8】
銅膜を含む電子デバイスであって、該膜が、MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Meと還元剤を含む反応混合物から、原子層堆積又は化学気相成長から選択されるプロセスによって堆積され、該還元剤が、水素、カルボン酸、アルコール、カルボン酸エステル、シラン、ボラン、アラン、ゲルマン、ヒドラジン、アンモニア、又はこれらの混合物から選択される少なくとも1種を含む、電子デバイス。
【請求項9】
前記還元剤がカルボン酸を含む、請求項8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記カルボン酸がギ酸を含む、請求項9に記載の電子デバイス。
【請求項11】
拡散障壁層の少なくとも一方の表面を提供する工程、並びに
以下の式(I)、即ち、
【化2】
を有する銅前駆体であって、式中、
Xが酸素及びNR5から選択され、
R1、R2、R3及びR5がそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、
R4が、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4が、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合し、
Lが、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、アリール、ビニル又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素、1〜20個の炭素原子を含むアルキル又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLが、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合し、
MとLの間の有機金属結合が2つの単結合又は1つの単結合から選択される、銅前駆体を用いて、化学気相成長法又は原子層堆積法により前記表面の少なくとも一部の上に銅膜を形成する形成工程
を含む、拡散障壁層の少なくとも一方の表面に銅膜を形成する方法。
【請求項12】
R1及びR3がMe基を含み、R2がHを含み、XがOを含み、Lが式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はMe基を含む)を有するシリルアルケンを含み、R4がアルコキシ基を含み、LとR4が、LからMe基を取り去り、R4からHを取り去ることで互いに結合している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
R4がOCHMeCH2を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
R4がOCH2CH2を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記形成工程が、カルボン酸を含む還元剤を導入する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記カルボン酸がギ酸を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記銅膜が20Å以下の表面粗さ(Ra)を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記拡散障壁層がルテニウムを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記拡散障壁層がチタンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記拡散障壁層がタンタルを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
化学気相成長又は原子層堆積によって膜を堆積するための銅前駆体であって、式(I)、即ち、
【化1】
で表され、式中、
Xが酸素及びNR5から選択され、
R1、R2、R3及びR5がそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、
R4が、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4が、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合し、
Lが、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、アリール、ビニル又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素、1〜20個の炭素原子を含むアルキル又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLが、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合し、
MとLの間の有機金属結合が2つの単結合又は1つの単結合から選択される、銅前駆体。
【請求項2】
R1及びR3がMe基を含み、R2がHを含み、XがOを含み、Lが式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はMe基を含む)を有するシリルアルケンを含み、R4がアルコキシ基を含み、LとR4が、LからMe基を取り去り、R4からHを取り去ることで互いに結合した、請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
R4がOCHMeCH2を含む、請求項2に記載の前駆体。
【請求項4】
R4がOCH2CH2を含む、請求項2に記載の前駆体。
【請求項5】
Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Me)。
【請求項6】
Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHEtOSiMe2C2H3)Me)。
【請求項7】
Cu(MeC(O)CHC(NCH2CHPrOSiMe2C2H3)Me)。
【請求項8】
銅膜を含む電子デバイスであって、該膜が、MeC(O)CHC(NCH2CHMeOSiMe2C2H3)Meと還元剤を含む反応混合物から、原子層堆積又は化学気相成長から選択されるプロセスによって堆積され、該還元剤が、水素、カルボン酸、アルコール、カルボン酸エステル、シラン、ボラン、アラン、ゲルマン、ヒドラジン、アンモニア、又はこれらの混合物から選択される少なくとも1種を含む、電子デバイス。
【請求項9】
前記還元剤がカルボン酸を含む、請求項8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記カルボン酸がギ酸を含む、請求項9に記載の電子デバイス。
【請求項11】
拡散障壁層の少なくとも一方の表面を提供する工程、並びに
以下の式(I)、即ち、
【化2】
を有する銅前駆体であって、式中、
Xが酸素及びNR5から選択され、
R1、R2、R3及びR5がそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、式NO2を有するニトロ基、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール基、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(CH2)nO(CmH2m+1)(式中、n及びmは独立して1〜20の数である)を有するエーテル、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルであるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、
R4が、式CnH2n+1(式中、nは1〜20の数である)を有するアルキル、式(R6)3Si(式中、R6はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するアルキルシラン、6〜12個の炭素原子を含むアリール、6〜12個の炭素原子を含むアルキル置換のアリール、式(R7)3SiO(式中、R7はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル基であるか又は6〜12個の炭素原子を含むアリール基である)を有するシリルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、及び1〜20個の炭素原子を含むアミドから選択され、かつR4が、水素、原子又は基を取り去ることによってLと結合し、
Lが、2〜20個の炭素原子を含むアルキルニトリル、式(R8)3SiCN(式中、R8はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドである)を有するシリルニトリル、1〜20個の炭素原子を含むアルキン、式(R9)3SiCCR10(式中、R9はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシであり、R10は水素、1〜20個の炭素原子を含むアルコキシ、アミド又はアルキルである)を有するシリルアルキン、式(R11)3SiCCSi(R11)3(式中、R11はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するシリルアルキン、1〜20個の炭素原子を含むアルケン、ジエン又はトリエン、式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ、アリール、ビニル又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素、1〜20個の炭素原子を含むアルキル又は6〜12個の炭素原子を含むアリールである)を有するシリルアルケン、式(R14)3SiCR13CR13Si(R14)3(式中、R14はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アルコキシ又はアミドであり、R13はそれぞれ独立して水素原子又は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するビス(シリル)アルケン、3〜20個の炭素を含むアレン、式(R15)2CCC(R15)2(式中、R15はそれぞれ独立して水素原子又は式(R16)3Si(式中、R16はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アミド又はアルコキシである)を有するアルキルシランである)を有するアレン、式R17NC(式中、R17は1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するアルキルイソシアニド、式(R18)3SiNC(式中、R18はそれぞれ独立して1〜20個の炭素原子を含むアルキルである)を有するシリルイソシアニド、及び6〜12個の炭素原子を含むアリール基から選択された配位子であり、かつLが、水素、原子又は基を取り去ることによってR4と結合し、
MとLの間の有機金属結合が2つの単結合又は1つの単結合から選択される、銅前駆体を用いて、化学気相成長法又は原子層堆積法により前記表面の少なくとも一部の上に銅膜を形成する形成工程
を含む、拡散障壁層の少なくとも一方の表面に銅膜を形成する方法。
【請求項12】
R1及びR3がMe基を含み、R2がHを含み、XがOを含み、Lが式(R12)3SiCR13C(R13)2(式中、R12はビニル基を含み、R13はMe基を含む)を有するシリルアルケンを含み、R4がアルコキシ基を含み、LとR4が、LからMe基を取り去り、R4からHを取り去ることで互いに結合している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
R4がOCHMeCH2を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
R4がOCH2CH2を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記形成工程が、カルボン酸を含む還元剤を導入する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記カルボン酸がギ酸を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記銅膜が20Å以下の表面粗さ(Ra)を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記拡散障壁層がルテニウムを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記拡散障壁層がチタンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記拡散障壁層がタンタルを含む、請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−161512(P2009−161512A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−284616(P2008−284616)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284616(P2008−284616)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】
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