説明

薄膜堆積用分子線源用坩堝

【課題】板等の固体の成膜面に蒸着により薄膜を形成する場合に蒸着用材料の加熱に使用され、加熱により溶融、蒸発させる蒸着用材料の溶融物の耐濡れ性に優れた分子線源用坩堝を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム焼結体により構成され、且つ、少なくとも内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体が、アルミニウム以外の金属元素の総濃度が500質量ppm以下であり、且つ、酸素濃度が1.0質量%以下である、薄膜堆積用分子線源用坩堝10。坩堝10は、窒化アルミニウム焼結体のバルクを製造した後、この窒化アルミニウム焼結体のバルクを非酸化性雰囲気下で、冷却しながら切削加工して坩堝10の形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板等の固体の成膜面に蒸着により薄膜を形成する場合に蒸着用材料の加熱に使用される新規な薄膜堆積用分子線源用坩堝(以下、単に「分子線源用坩堝」ともいう)に関する。詳しくは、該分子線源用坩堝中に収容され、加熱により溶融、蒸発させる蒸着用材料の溶融物の耐濡れ性に優れた分子線源用坩堝を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の薄膜素子が作成され、各分野で注目されている。これらの薄膜素子は、真空中にて材料を加熱し、その蒸気を基板上に吹き付け、冷却することで固体化し、基板上に薄膜として堆積させることによって形成される。上記方法において、材料の加熱は、耐熱性窒化硼素やタングステン等の高融点材料にて作成された坩堝、即ち、分子線源用坩堝を使用し、該分子線源用坩堝周囲をヒーターで加熱することにより行われる。
【0003】
しかし、このような分子線源用坩堝からの材料の蒸発において問題となるのは、蒸着用材料がアルミニウムのように坩堝の壁面に対して濡れ性が良い材料の場合、それを加熱、溶融したとき、その溶融した材料が坩堝の内壁面に沿って上昇し、坩堝からあふれ出る、いわゆる這い上がり現象が生じることである。
【0004】
材料が坩堝からあふれ出ると、場合によっては加熱用ヒーターに触れ、電気的短絡を生じ、蒸発源を壊すおそれがあった。また、上記現象は、蒸着用金属がアルミニウムである場合、特に顕著であった。
この対策として例えば、溶融した材料が坩堝からあふれ出ないように、坩堝の途中に冷却部を設け、ここで材料を固体化して這い上がりをとめる事が試みられてきた。
【0005】
しかし、坩堝途中で材料が固化することで、蒸気の噴出が均一にならず、基板に堆積する膜の厚みが均一になりにくいという欠点があった。さらに這い上がりを起こす場合、材料は坩堝壁面と非常に密接に付着している。この状態で、温度を下げると材料の熱収縮量と坩堝の熱収縮量が異なるため、坩堝に大きなストレスがかかり、繰り返し使用すると坩堝が壊れてしまうなどの欠点があった。
【0006】
そこで、特開2005−53729号公報においては、蒸着用材料の這い上がり現象が生じにくくするため、坩堝の材料にアルミニウム等の溶融蒸着用材料に対して濡れ性が悪い結晶性の炭化珪素を用いることが提案されている。また同号公報には、坩堝の材料として無機セラミック材料を用いるが、壁面に垂直方向に結晶軸を配向させることで、蒸着用材料が坩堝の壁体の面方向に展開し難くすることも記載されている。
【0007】
前記の結晶性の炭化珪素を使用した坩堝は、CVD法(化学的気相成長法)等の手段で作られる。例えば、坩堝10の外形に対応する内面を有する成形用の型を用意し、CVD法等の手段で、この型の外面上に炭化水素の結晶を成長させ、薄い窒化珪素の坩堝を成形する。このとき、窒化珪素の結晶軸が膜の厚さ方向に成長するよう成形することで、坩堝の壁体の結晶軸はその壁体の厚み方向に成長する。
【0008】
しかしながら、このようなCVD法(化学的気相成長法)等の手段で作られた結晶性の炭化珪素からなる坩堝は、アルミニウム等の溶融蒸着用材料に対して耐濡れ性が高く、蒸着用材料の這い上がり現象が起こりにくくなるものの、十分満足のいくものではなかった。しかも熱衝撃等による応力に弱く、ストレスによる破壊がされやすいという課題も残っている。
【特許文献1】特開平9−100195号
【特許文献2】特開平9−186087号
【特許文献3】特開平2005−53729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来の坩堝が有する課題に鑑み、坩堝の材料として機械的強度が高い材料で、しかも蒸着用材料を加熱し、溶融、蒸発させるときに、蒸着用材料が坩堝の内壁を這い上がる、いわゆる這い上がり現象が生じ難いものとすることで、より効果的に破損が起こりにくい坩堝を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような本発明の目的を達成するため、本発明者らは、坩堝の材料として、窒化アルミニウム焼結体を使用することに着目した。即ち、一般に、窒化アルミニウムは溶融アルミニウム焼結体に対して耐濡れ性が高く、しかも、強度の強い材料であるとされていた。しかし、本発明者らの確認によれば、該窒化アルミニウム焼結体よりなるバルクを機械加工して工業的に得られた坩堝は、意外にも溶融アルミニウムに対して耐濡れ性が低下するという知見を得た。
そして、更に研究を重ねた結果、上記耐濡れ性の添加の原因として、機械加工時の不純物の付着や表面の酸化により、得られる分子線源用坩堝の内壁面が汚染や変質され、これにより、溶融アルミニウム等の溶融物に対する耐濡れ性が低下することを確認した。
【0011】
即ち、従来の焼結体を坩堝の形状に機械加工(主として切削加工)して得られる窒化アルミニウム焼結体よりなる坩堝は、加工面である内壁面を観察すると、酸素濃度が意外にも高く、また、アルミニウム以外の金属元素(以下、不純物金属元素ともいう。)の存在量が多いものとなっていた。特に、金属不純物に関しては、焼結体の原料として使用する窒化アルミニウム粉末の不純物金属元素の濃度が特に高いものであった。
【0012】
そして、かかる知見に基づき、分子線源用坩堝の内壁を構成する窒化アルミニウム焼結体について、アルミニウム以外の金属元素濃度と、酸素濃度を特定の値より低くすることにより、前記課題が全て解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、蒸着用材料を加熱するための坩堝であって、窒化アルミニウム焼結体により構成され、且つ、少なくとも内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体が、アルミニウム以外の金属元素の総濃度が500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下であり、且つ、酸素濃度が1.0質量%以下であることを特徴とする薄膜堆積用分子線源用坩堝である。
【0013】
さらに本発明において、このような坩堝を製造する方法は、窒化アルミニウム焼結体のバルクを製造した後、この窒化アルミニウム焼結体のバルクを非酸化性雰囲気下で、冷却しながら切削加工して坩堝の形状とする。これにより、窒化アルミニウム焼結体の内壁面が酸化されない工程を経て坩堝形状を形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分子線源用坩堝は、少なくとも内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体のアルミニウム以外の金属元素の総濃度を500ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下とすることにより、蒸着用材料を加熱、溶融する際、内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体より溶出した、蒸着用材料との親和性が高い金属を媒体として、坩堝壁体への付着が起こる現象を効果的に防止できる。また、かかる金属不純物の酸化により窒化アルミニウム焼結体中の酸素濃度を上昇させるということも生じない。
【0015】
また、併せて、前記内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体の酸素濃度を1.0%以下とすることにより、蒸着用材料の酸化反応が起こり、酸素を介して、坩堝壁体への付着が起きることもなくなる。
そして、これらの相互作用により、該窒化アルミニウム焼結体の坩堝の中でアルミニウム等の蒸着用材料、特に、アルミニウムを溶融した場合でも、溶融した蒸着材料が坩堝壁体を濡らさないため、加熱して分子線を発生させている間において、溶融物が坩堝の内壁面を這い上がる現象が防止できると共に、冷却時に蒸着用材料の収縮による坩堝壁体への応力が発生することが無く、分子線源用坩堝の破損をも効果的に防止することができる。
【0016】
さらに、窒化アルミニウム焼結体よりなる坩堝は、耐熱衝撃性も高く、温度の昇降温を繰り返し行っても熱衝撃により破壊に至ることはない。
後述の実施例にも示すように、前記のような本発明の分子線源用坩堝を使用し、アルミニウムを1200℃にて蒸発したところ、蒸着用材料這い上がりが見られず、材料が外に漏れださないことがわかった。また、繰り返し蒸発操作を行っても坩堝が破損することはなかった。
【0017】
また、本発明において、窒化アルミニウム焼結体のバルクを製造した後、この窒化アルミニウム焼結体のバルクを非酸化性雰囲気下で、冷却しながら切削加工して坩堝の形状とすることによって坩堝を製造することにより、加工時の窒化アルミニウム焼結体の内壁面の酸素濃度を低く抑えることが出来る。これにより、前記の酸素濃度1.0%以下を容易に実現することが出来る。すなわち、窒化アルミニウム焼結体の内壁面が酸化されない工程とすることが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の分子線源用坩堝は、窒化アルミニウム焼結体より構成され、且つ、少なくとも内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体が、アルミニウム以外の金属元素の総濃度が500質量ppm以下、好ましくは、400質量ppm以下であり、且つ、酸素濃度が1.0質量%以下、好ましくは、0.9質量%以下であることを特徴とするものである。
【0019】
従来、窒化アルミニウム焼結体より構成される分子線源用坩堝の製造は、窒化アルミニウム焼結体の塊状物を切削して製造されるのが一般的であった。しかし、上記方法によって得られる坩堝は、表面が切削加工時に発生する熱により酸化され、酸素濃度が異常に高いものであった。しかも、金属不純物濃度が管理されていなかったため、アルミニウム以外の金属元素の総濃度も高く、これらの要因により、蒸着用材料の這い上がりが起こる。
【0020】
本発明においては、アルミニウム以外の金属元素の総濃度及び酸素濃度を従来の分子線源用坩堝では達成されなかった前記範囲に抑えることにより、蒸着用材料の這い上がりを防止したものである。
また、本発明の分子線源用坩堝は、前記のように、窒化アルミニウム焼結体より成る構造体により構成されているため、従来のCVD法等の手段により、他の材質の内面に耐濡れ性の高い皮膜を形成する場合に比べて、蒸着用材料の加熱、溶融、冷却時における蒸着用材料収縮に伴う、坩堝の破壊の虞が無く、安定して使用することができる。
【0021】
本発明の分子線源用坩堝を構成する窒化アルミニウム焼結体の他の構成は特に制限されるものではないが好適な物性を例示すれば、焼結体の密度は、アルキメデス法による相対密度で98%以上であることが強度の面で好ましく、焼結体の熱伝導率は、50W/cm・K以上であることが加熱時の均熱性の面で好ましい。
【0022】
また、本発明の分子線源用坩堝の形状は、分子線源用坩堝として公知の形状が特に制限なく採用される。例えば、カップ状、試験管状などの標準タイプの他、後述する図面に示すような形状を採用することができる。また、その肉厚は、0.2〜3.0mm、特に、0.5〜2.0mmが好適である。
【0023】
本発明の分子線源用坩堝の製法は、前記特徴的要件を満足するものが得られる方法であれば、特に限定されるものではないが、基本的には、(A)原料として、金属不純物の含有量が少ない原料、例えば、高純度の窒化アルミニウム粉末を使用すること、及び(B)得られる焼結体の表面が酸化されない工程を経て坩堝を得ること、を満足する製造方法が採用される。
【0024】
上記(A)の要件に対しては、窒化アルミニウム粉末として、アルミニウム以外の金属元素の総濃度が、500質量ppm以下、好ましくは、400質量ppm以下を満足するものを使用することが好ましい。また、窒化アルミニウム粉末中の酸素は、1.0重量%以下を使用することが好ましいが、1.0重量%以上の酸素濃度粉末を使用する場合は、焼成の際にカーボンのような還元性ガスの存在下で焼成することにより酸素濃度を低減させることができる。
成形体を作るためのスラリー用原料組成は、焼結助剤を添加しない助剤無添加の組成が好ましいが、焼結助剤を添加することもできる。
【0025】
焼結助剤を使用する場合、Mg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属の酸化物や、Y等の希土類元素の酸化物などを焼結助剤として添加することもできる。かかる焼結助剤の添加量は、通常、1重量%以下、特に0.5重量%以下であることが好ましい。
尚、焼結助剤を使用すると窒化アルミニウムに対して金属濃度および酸素濃度は一時的に高くなるが、焼成の際に雰囲気を制御、例えば、還元焼成することにより、その濃度を低くすることができる。
【0026】
また、前記(B)の要件に対しては、窒化アルミニウム焼結体のバルクを製造した後、非酸化性雰囲気下で、必要に応じて、非酸化性ガスにより冷却しながら切削加工して坩堝の形状とする方法、窒化アルミニウム粉末を焼結前に、坩堝の形状に成形し、これを公知の方法により焼成する方法などが挙げられる。
【0027】
本発明においては、特に、後者の方法が確実に本発明の分子線源用坩堝を得ることができるため、好適である。その場合、窒化アルミニウム粉末を焼結前に坩堝の形状に成形する態様としては、窒化アルミニウム粉末、焼結助剤及び有機バインダーを主成分とするグリーン体のバルクを切削加工して坩堝の形状とする態様、窒化アルミニウム粉末、焼結助剤及びバインダーを主成分とするペーストにより、射出成形、鋳込み成形等の成形法により成形する方法などが挙げられる。
尚、分子線源用坩堝の形状が、上記の射出成形、鋳込み成形等の成形法においては、成形が困難な形状を成している場合は、複数に分割して成形後、公知の方法により、焼結と同時に接合することによって、最終的に坩堝の形状とすることも可能である。
【0028】
前記有機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、一般に、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、酸化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリアクリル酸などが使用される。このような有機バインダーは、その種類によっても異なるが、一般に、窒化アルミニウム粉末100重量部当り、0.1〜30重量部の量で使用される。また、成形用材料の調整にあたっては、必要により、長鎖炭化水素エーテルなどの分散剤、トルエン、エタノールなどの溶剤、及びフタル酸などの可塑剤を適宜の量で用いることもできる。
【0029】
上述の方法において、焼成前の成形体が有機バインダーを含有する場合、脱バインダーは、一般に、成形体を空気中で300〜900℃程度に加熱することにより行うことが好ましい。また、窒化アルミニウムの焼結のための焼成は、窒素雰囲気中等の不活性雰囲気中において1600〜2000℃の温度に加熱することにより行われる。特に焼結助剤無添加の窒化アルミニウム成形体を焼成する場合、1800〜2000℃の温度で行うことが好ましい。また、焼結助剤を添加した窒化アルミニウム成形体を焼成する場合は、焼結助剤の種類によって適宜上記範囲から選ぶことができる。焼成時間は、前記密度となるまでの時間に設定すればよい。
【0030】
勿論、窒化アルミニウム粉末を成形、焼結する工程においても、不純物金属によって汚染されない環境を選択することが好ましい。また、蒸着用材料が接する内壁面以外の部分については、焼結後公知の切削加工を行うことができることはいうまでもない。
坩堝10の壁体の全体をこのような窒化アルミニウム焼結体により形成してもよいが、蒸着用材料を収容する部分、すなわち、坩堝10の内面のみを窒化アルミニウム焼結体により形成してもよい。例えば、坩堝10の外形に従って予め窒化アルミニウムで坩堝10の外形部分を作っておき、前記の窒化アルミニウムスラリを坩堝10の外形部分の内面上に塗布して成型する。その後、前記と同様にして内面側の成型体を脱バインダーし、焼成する。
【0031】
得られたるつぼの金属濃度については、公知の分析方法によって求められる。例えば、電子線マイクロプローブアナライザー、蛍光X線分析法や誘導結合プラズマ発光分光分析法などを用いることができる。また、内壁面の酸素濃度は電子線マイクロプローブアナライザーやエネルギー分散型X線分析による測定などを用いることができる。
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の分子線源用坩堝を蒸着に使用する場合の実施例について、具体的且つ詳細に説明する。
図1と図2は、蒸着用材料aを蒸発し、その分子を放出する分子線源セル1を示す断面図であり、図1は蒸着用材料aを蒸発している状態を示している。
坩堝10は、焼結窒化アルミニウムを主成分とする無機物からなる容器状のものである。図示の実施例では、坩堝10は、前述した蒸着用材料aを収納する蒸着用材料収納部11と、この蒸着用材料収納部11より放出口14側にあって、一部内径及び外形が細くなった括れ部12と、この括れ部12から放出口14に至るテーパガイド部13とを有する。
【0033】
蒸着用材料aを収納する蒸着用材料収納部11は、有底の円筒形であり、その上部の放出口14側は先が細くなるようなテーパが形成され、その先に内径が最も細くなった括れ部12を有する。この括れ部12から先の放出口14に至る部分は、内径及び外径が次第に広くなるようなテーパが形成されたテーパガイド部13となっている。このテーパガイド部13の先に放出口14が開口している。
【0034】
この坩堝10は、ヒーター15、16で囲まれている。図示の例では、坩堝10を囲むヒーター15、16が二つのヒーター15、16からなっている。第一のヒーター15は、坩堝10の蒸着用材料収納部11の周囲に配置され、その蒸着用材料収納部11を加熱する。また、第二のヒーター16は、坩堝10の蒸着用材料収納部11の上部から括れ部12及びテーパガイド部13を経て放出口14に至る部分の周囲に配置され、その部分を加熱する。
【0035】
これらにヒーター15、16による坩堝10の加熱による、蒸着用材料aが溶融蒸発され、前記放出部14から基板33に向けて放出され、基板33上に蒸着用材料aの膜が堆積する。
蒸着用材料収納部11の底部の周面に設けられたバンド状の熱電対は、坩堝10の温度を測定するためのもので、前記第一のヒーター15による温度制御のために使用される。
【実施例】
【0036】
尚、実施例において、坩堝内表面のAl以外の金属濃度、酸素濃度は下記の方法によって測定した。
試料の坩堝より15mm角の試料を切り出し、坩堝内表面が上になるように試料台に載せ、日本電子(株)製電子線マイクロプローブアナライザーJXA−8621Mで、加速電圧10kV及び20kVでAl以外の金属濃度を加速電圧10kVにて酸素濃度を測定した。
【0037】
実施例1
窒化アルミニウム粉末((株)トクヤマ製、Hグレード、Ca濃度230ppm、Si濃度40ppm、酸素濃度0.8wt%)100重量部にアクリル酸メチルエステル4重量部加え、さらに分散剤としてエタノール36重量部、トルエン62重量部を加えた混合物をボールミルで混合した後、スプレードライヤーにて平均粒子径70μmの顆粒を得た。
この顆粒をCIP成形機でφ70×180mmの丸棒状に成形してグリーン体とした後、坩堝の内壁形状をボールエンドミル加工にて形成した。得られた成形体を、空気雰囲気下580℃、3時間加熱し脱バインダーした後、窒素雰囲気下1850℃、7時間加熱し、窒化アルミニウム焼結体を得た。さらに該窒化アルミニウム焼結体の外周部を加工し坩堝を得た。得られた坩堝のAl以外の金属濃度はCa濃度150ppm、Si濃度30ppmであった。また坩堝内壁面の酸素濃度は0.7%であった。
【0038】
この坩堝をアルミニウム分子放出用の分子線源用坩堝として使用し、坩堝内に収納したアルミニウムを加熱、溶融し、分子線を放出する試験を行った。この結果、坩堝の表面は溶融したアルミニウムに対して濡れ性が極めて小さく、溶融したアルミニウムの坩堝の内壁面に沿う、いわゆる這い上がり現象は生じなかった。従って、坩堝は繰り返し使用が可能である。
【0039】
比較例1
成形時に坩堝内部の加工を行わない以外は実施例1と同じ条件で得た窒化アルミニウム焼結体を加工部冷却媒体として水を用い、マシニングセンターにて坩堝内部および外周部を加工して坩堝を得た。得られた坩堝のAl以外の金属濃度はCa濃度150ppm、Si濃度30ppmであった。また坩堝内壁面の酸素濃度は1.2%であった。
【0040】
この坩堝をアルミニウム分子放出用の分子線源用坩堝として使用し、坩堝内に収納したアルミニウムを加熱、溶融し、分子線を放出する試験を行った。この結果、坩堝の表面は溶融したアルミニウムに対して濡れ性が大きく、溶融したアルミニウムの坩堝の内壁面に沿う、いわゆる這い上がり現象が生じた。そのため早期の坩堝の割れが生じる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の分子線源用坩堝の使用例を示す成膜状態の概略縦断側面図である。
【図2】本発明の分子線源用坩堝の一態様の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 分子線源セル
10 坩堝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着用材料を加熱するための坩堝であって、窒化アルミニウム焼結体により構成され、且つ、少なくとも内壁面を構成する窒化アルミニウム焼結体が、アルミニウム以外の金属元素の総濃度が500質量ppm以下であり、且つ、酸素濃度が1.0質量%以下であることを特徴とする薄膜堆積用分子線源用坩堝。
【請求項2】
窒化アルミニウム焼結体のアルミニウム以外の金属元素の総濃度が400質量ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜堆積用分子線源用坩堝。
【請求項3】
蒸着用材料がアルミニウムである請求項1または2に記載の薄膜堆積用分子用坩堝。
【請求項4】
前記請求項1〜3の何れかに記載の蒸着用材料を加熱するための坩堝を製造する方法であって、窒化アルミニウム焼結体のバルクを製造した後、この窒化アルミニウム焼結体のバルクを非酸化性雰囲気下で、冷却しながら切削加工して坩堝の形状とすることを特徴とする薄膜堆積用分子線源用坩堝の製造方法。
【請求項5】
窒化アルミニウム焼結体の内壁面が酸化されない工程を経て坩堝形状が形成されたことを特徴とする請求項4に記載の薄膜堆積用分子線源用坩堝の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−327125(P2007−327125A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160966(P2006−160966)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(591097632)長州産業株式会社 (19)
【出願人】(397010974)株式会社日本ビーテック (8)
【Fターム(参考)】