説明

薄膜形成装置

【課題】本発明の目的は、薄膜形成装置において、当該装置の品質・稼動に支障をきたすことなく、排気経路の内壁等の容器近傍の排気経路まで広がったプラズマにさらされる内壁に付着しているダストを容易に清掃可能とすることである。
【解決手段】本発明の薄膜形成装置は、容器1を収容する外部電極4と、容器の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給管5と、容器の口部の上方に絶縁部材6を介して外部電極と対向して配置され、容器の内部ガスを排気する排気配管7と、排気配管と接続された排気手段8と、外部電極に接続された電磁波発生手段10と、を有するプラズマCVD法によって容器の表面に薄膜を成膜する薄膜形成装置であり、容器1の外部でプラズマと接触する内壁部分よりも排気手段8寄りにセンサー18類・圧力開放弁20等の配管分岐箇所を設置し、かつ、容器1の外部でプラズマと接触する内壁を入れ子構造21とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器の表面に薄膜を成膜する薄膜形成装置に係り、特にプラスチック製の飲料・食品容器の表面にガスバリアを有する薄膜をプラズマCVD法によって形成する薄膜形成装置に係る。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器に薄膜を形成する複数の技術が公知となっている(例えば特許文献1又は2を参照。)が、多くはプラズマCVD法を用いて容器の内部に薄膜原料を含むガスをプラズマ状態に励起することによって、薄膜が形成される。この際、通常の方式においては、原料となるガスは容器内部に通じる細い管状の部材から供給され、プラズマ発生に必要な真空を維持するための排気は、真空ポンプによって容器の口部から排気経路を経て真空ポンプに向かう方向で行なわれる。
【0003】
このとき、例えば特許文献2は、原料ガス供給管を兼ねた内部電極に付着するダストがプラズマの着火及び放電を不安定にさせることを指摘しており、その対策としてダストが付着し難い構造の口側電極を提供することを課題としている。
【0004】
【特許文献1】特開平8‐53117号公報
【特許文献2】特開2003‐341673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そして、前記の通常の方式においては、特許文献2で指摘されている原料ガス供給管へのダスト付着の問題のほか、次の類似問題が生じている。つまり、プラズマは通常、容器の内部だけでなく、容器近傍の排気経路にも広がって分布し、容器の外部でこれら排気経路の内壁にも薄膜が形成される。そして、排気経路の内壁に形成された薄膜は、堆積が続くと、いずれは容器の表面に成膜した薄膜の品質や装置の安定した稼動に悪影響を与えることとなる。そこで、定期的に排気経路の内壁に形成された薄膜の除去作業が必要となる。
【0006】
しかし、プラスチック容器にガスバリア性の向上の目的で形成される炭素膜や酸化珪素膜は金属部品との密着性が比較的高く、清掃は必ずしも容易でない。
【0007】
原料ガス供給管に関しては、取り外して洗浄することは比較的容易である。しかし、排気経路の内壁は洗浄が難しく、分解洗浄するほかなく、煩雑な作業が必要である。清掃に労力がかかる結果として、装置使用者の装置メンテナンスに対する負担が大きいものとなっていた。特に、従来のこのような装置においては、各種センサー類や大気圧開放弁のために、ダストが付着する領域の排気系が複雑に分岐しがちであり、結果、ダストの堆積が局所的に増加し、上記装置の稼動の悪影響を引き起こし易くなったり、清掃に必要な労力・時間が増大したりしていた。このような背景として、成膜するボトル近傍にセンサー等を配置することは、できるだけ、ボトル内で発生する現象をモニタリング等するうえで、好ましい装置構成と考えられていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、薄膜形成装置において、当該装置の品質・稼動に支障をきたすことなく、排気経路の内壁等の容器近傍の排気経路まで広がったプラズマにさらされる内壁に付着しているダスト(薄膜成分)を容易に清掃可能とすることである。また、清掃が必要となっている薄膜形成装置を短時間の作業で支障なく稼動復帰にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記センサー等をダストが堆積しない排気系の領域内に配置しても、成膜の品質をモニタリングでき、品質及び稼動に事実上影響しないことを明らかにし、ダストの清掃すべき領域の排気系の構造を単純化する装置構成を見出し、さらに、排気経路まで広がったプラズマにさらされる内壁を覆うように入れ子構造の薄膜形成装置とすることで、内壁に付着しているダストを容易に清掃でき、また、短時間の作業で支障なく薄膜形成装置の稼動復帰ができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明に係る薄膜形成装置は、容器を収容する外部電極と、前記容器の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給管と、前記容器の口部の上方に絶縁部材を介して前記外部電極と対向して配置され、前記容器の内部ガスを排気する排気配管と、該排気配管と接続された排気手段と、前記外部電極に接続された電磁波発生手段と、を有し、プラズマCVD法によって容器の表面に薄膜を成膜する薄膜形成装置において、前記容器の外部でプラズマと接触する内壁部分よりも前記排気手段寄りにセンサー類・圧力開放弁等の配管分岐箇所を設置し、かつ、前記容器の外部でプラズマと接触する内壁を入れ子構造としたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記配管分岐箇所が、前記容器の口部から容器高以上の距離を離して設置されていることが好ましい。成膜品質を維持しやすい。
【0011】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記入れ子構造よりも前記排気手段寄りに圧力変異機構を設け、前記配管分岐箇所が前記圧力変異機構よりも前記排気手段寄りに設置されていることが好ましい。圧力開放弁等の配管分岐箇所には、配管内壁に凹凸が生じるが、当該箇所にダストが生じると、清掃が非常に手間のかかる作業となる。このような凹凸が生じる箇所をプラズマと接触しない箇所まで排気配管の下流に設けることで、清掃の手間を大幅に低減できる。ここで、圧力変異機構を設けることによって当該機構よりも下流側でのプラズマの拡がりを止め、凹凸が生じる箇所とプラズマとの接触を確実に避けることができる。
【0012】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記容器の外部でプラズマと接触する内壁は、前記絶縁部材の内壁及び前記圧力変異機構手前までの前記排気配管の内壁である場合が含まれる。
【0013】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記排気配管の形状が円筒形状であり、かつ、前記入れ子が円筒形状であることが好ましい。排気配管と入れ子の形状が円筒形状であると、入れ子の内壁には隅部分がないため、清掃がしやすく、また、装置からの取り出しが容易となる。
【0014】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記圧力変異機構が、金属ハニカム体を排気経路内に設置した構造であるか、前記排気経路をエルボー形状とした構造であるか、前記排気経路の配管径を縮径した構造であるか或いは、前記排気経路の材質を上流側と下流側とで変更した構造であることが好ましい。いずれの構造も単純な構造で、当該機構よりも下流側でのプラズマの拡がりを止めることができる。
【0015】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記入れ子が樹脂で形成されていることが好ましい。ダストの付着力を弱めることができ、また、研削等の手段によって容易に洗浄面を露出させることができるので清掃しやすい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の薄膜形成装置は、当該装置の品質・稼動に支障をきたすことなく、排気経路の内壁等の容器近傍の排気経路まで広がったプラズマにさらされる内壁に付着しているダストを容易に清掃できる。また、清掃が必要となっている薄膜形成装置を短時間の作業で支障なく稼動復帰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0018】
本実施形態に係る薄膜形成装置について、図1〜図4を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る薄膜形成装置を説明するための断面概略図である。図2は、本実施形態に係る薄膜形成装置を説明するための外観斜視図である。図3は、本実施形態に係る薄膜形成装置の他形態を説明するための断面概略図である。図4は、本実施形態に係る薄膜形成装置の圧力変異機構の他形態を示す断面概略図であり、(a)は排気経路の配管径を縮径した構造、(b)は金属ハニカム体を排気経路内に設置した構造を示す。
【0019】
図1又は図2に示すように、本実施形態に係る薄膜形成装置100は、容器1を収容する外部電極4と、容器1の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給管5と、容器1の口部の上方に絶縁部材6を介して外部電極4と対向して配置され、容器1の内部ガスを排気する排気配管7と、排気配管7と接続された排気手段8と、外部電極4に接続された電磁波発生手段10と、を有し、プラズマCVD法によって容器1の表面に薄膜を成膜する薄膜形成装置であり、容器1の外部でプラズマと接触する内壁部分よりも排気手段8寄りにセンサー18類・圧力開放弁20等の配管分岐箇所を設置し、かつ、容器1の外部でプラズマと接触する内壁を入れ子構造21としている。
【0020】
容器1は、例えば飲料用又は食品用の容器であり、その蓋も含まれる。具体的に例示すれば、炭酸飲料若しくは果汁飲料若しくは清涼飲料等の飲料、並びに医薬品、農薬品、又は吸湿を嫌う乾燥食品である。容器の材質は、ガスバリア性の改善が要求されるプラスチック樹脂であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマ樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂を例示することができる。この中で、PETが特に好ましい。
【0021】
外部電極4は、金属等の導電材で中空に形成されており、コーティング対象の容器1、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂製の容器であるPETボトルを収容する。図1で示した外部電極4の内部空間の内壁は、容器1の外壁面にほぼ接する形状に形成されている。外部電極4は、上部外部電極3と下部外部電極2とからなり、上部外部電極3の下部に下部外部電極2の上部がO−リング22を介して着脱自在に取り付けられるよう構成されている。上部外部電極3から下部外部電極2を脱着することで容器1を装着することができる。外部電極4は、絶縁部材6と外部電極4との間に配置されたO−リング(不図示)並びに上部外部電極3と下部外部電極2の間に配置されたO−リング22によって外部から密閉されている。
【0022】
絶縁部材6は、外部電極4と排気配管7との間に配置され、容器1の口部の上方の位置に相当する箇所に開口部6aが形成されている。開口部6aは、外部電極4と排気配管7とを空気的に連通する。絶縁部材6は、ガラスやセラミックス等の無機材料、或いは耐熱性樹脂で形成されることが好ましい。好ましくは、ポリ四フッ化エチレン、四フッ化エチレン・バーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド又はポリエーテルエーテルケトンである。
【0023】
排気配管7は、金属等の導電材で中空に形成されており、絶縁部材6の上方で、外部電極4と対向する位置に配置される。原料ガス供給管5とともに内部電極の役割を果たす。排気配管7と絶縁部材6との間は不図示のO−リングによってシールされている。そして、外部電極4の内部空間と排気配管7の内部空間とを空気的に連通させるために、開口部6aに対応してほぼ同形状の開口部7aが排気配管7の下部の側壁面に設けられている。排気配管7は、配管26、真空バルブ25等からなる排気経路を介して排気手段8に接続されており、排気経路全体が排気される。
【0024】
排気配管7の形状、特に排気配管7の内壁面の形状は、入れ子の内壁面に隅部分を作らないために、円筒形状であることが好ましい。このとき入れ子も円筒形状とすることができる。また排気配管7の横断面が楕円形状の筒形状でも良い。排気配管の形状が円筒形状であれば、入れ子も円筒形状とすることができ、入れ子の内壁面に隅部分がないため、清掃がしやすく、また、装置からの取り出しが容易となり、しかも一般的に製作費が低いので、好ましい。
【0025】
絶縁部材6の上に排気配管7が配置されることによって外部電極4についての蓋を形成して、外部電極43を密封し、密閉可能な真空チャンバが組み上がることとなる。
【0026】
原料ガス供給管5は、容器1の内部に原料ガス発生源23から供給される原料ガスを導入する。すなわち、原料ガス供給管5の基端15には、配管24の一方側が接続されており、この配管24の他方側は真空バルブ16を介してマスフローコントローラー17の一方側に接続されている。マスフローコントローラー17の他方側は原料ガス発生源23に接続されている。この原料ガス発生源23は、ガスバリア性を有する薄膜の原料、例えばDLC薄膜であれば、アセチレンなどの炭化水素ガス系原料ガスを発生させるものである。原料ガス供給管5の基端15は、排気配管7に固定されており、この結果、原料ガス供給管5は排気配管7に支持されている。原料ガス供給管5は、排気配管7の入れ子12の開口部12aと排気配管7の開口部7aと絶縁部材6の開口部6aに挿入され、さらに容器1の口部に挿入される。原料ガス供給管5の先端には吹き出し口5aが設けられており、原料ガスが容器1の内部に供給される。原料ガス供給管5は、表面にダストが付着しやすいため、その表面の一部にテープを被覆しておき、一定時間間隔で、交換することとしても良い。
【0027】
原料ガスとしては、例えば、DLC膜を成膜する場合、常温で気体又は液体の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類などが使用される。特に炭素数が6以上のベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサン等が望ましい。食品等の容器に使用する場合には、衛生上の観点から脂肪族炭化水素類、特にエチレン、プロピレン又はブチレン等のエチレン系炭化水素、又は、アセチレン、アリレン又は1−ブチン等のアセチレン系炭化水素が好ましい。これらの原料は、単独で用いても良いが、2種以上の混合ガスとして使用するようにしても良い。さらにこれらのガスをアルゴンやヘリウムの様な希ガスで希釈して用いる様にしても良い。また、ケイ素含有DLC膜を成膜する場合には、Si含有炭化水素系ガスを使用する。
【0028】
本発明でいうDLC膜とは、iカーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H)
と呼ばれる膜のことであり、硬質炭素膜も含まれる。またDLC膜はアモルファス状の炭素膜であり、SP結合も有する。このDLC膜を成膜する原料ガスとしては炭化水素系ガス、例えばアセチレンガスを用い、Si含有DLC膜を成膜する原料ガスとしてはSi含有炭化水素系ガスを用いる。このようなDLC膜をプラスチック容器の内表面に形成することにより、炭酸飲料や発泡飲料等の容器としてワンウェイ、リターナブルに使用可能な容器を得る。
【0029】
また、ケイ素含有DLC膜を成膜する場合には、Si含有炭化水素系ガスを使用する。珪化炭化水素ガス又は珪化水素ガスとしては、四塩化ケイ素、シラン(SiH)、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これらの材料以外にも、アミノシラン、シラザンなども用いられる。
【0030】
SiO膜(珪素酸化物膜)を成膜する場合には、例えば、シランと酸素の混合ガス、又は、HMDSOと酸素の混合ガスを原料ガスとする。
【0031】
原料ガスを例示したが、ダストは原料ガスの分解物が堆積したものであり、原料ガスの種類によってその成分が異なる。ガスバリア性を有する薄膜がDLC薄膜である場合は、ダストの主な構成元素は炭素と水素であり、SiO膜である場合は、ダストの主な構成元素は珪素と酸素である。
【0032】
排気手段8は、外部電極4の内部ガスを排気する。すなわち、排気配管7の一端に真空バルブ25が接続され、真空バルブ25は配管を介して排気手段(真空ポンプ)8に接続されている。この排気手段8はさらに排気ダクト(不図示)に接続されている。排気手段8を作動させることによって、容器1の内部ガス並びに外部電極4の内部ガスが開口部6a,7a,12aを介して排気配管7の内部に移動し、さらに排気配管7の内部ガスは下流の排気経路を通して排気手段8に送られる。
【0033】
電磁波発生手段10は、100kHz〜100MHzの電磁波、例えば、13.56MHzなどの周波数の電磁波電力を外部電極4に供給することで、容器1の内部の原料ガスをプラズマ化させるものである。電磁波発生手段10は、電磁波発生電源であり、マッチングボックス11を介して、外部電極4に接続される。電磁波発生手段10で発生させた電磁波電力を、原料ガス供給管5と排気配管7(この二つが内部電極の役割をなす)及び外部電極4との間に印加することによって容器1の内部に供給された原料ガスがプラズマ化する。
【0034】
容器1の外部でプラズマと接触する薄膜形成装置の内壁を入れ子構造とする。排気配管7の内壁のうち、プラズマと接触して薄膜成分のダストが付着する領域がある。この内壁部分を被覆するように、排気配管7の内側に、排気配管の内壁と接する入れ子12が挿入されている。ここで、排気配管7は、排気配管7の一端に開口部7bを設け、開口部7bから入れ子12を挿入する構造とすることが好ましい。入れ子12を完全に挿入した後、蓋13をすることによって、排気配管7が密封される。蓋13は、へルール等の簡易なクランプ機構を備えた蓋とすることで、入れ子12の出し入れを容易に行なうことができる。なお、入れ子12の挿入時は、予め基端15から原料ガス供給管5を抜き出しておき、入れ子12の挿入後に原料ガス供給管5を挿入することが好ましい。
【0035】
また、絶縁部材6の開口部6aの内壁もプラズマと接触することから、同様に薄膜成分のダストが付着する領域である。この内壁部分を被覆するように、絶縁部材6の開口部6aの内側内壁に、その内壁と接する入れ子14を挿入する。入れ子14は入れ子12を入れる前に挿入することが好ましい。入れ子12,14を挿入して入れ子構造21とすることで、清掃時に入れ子12,14を取り出すことで容易に清掃作業を行なうことができる。また、交換用の入れ子12,14を別途用意しておけば、清掃が必要になったときに、入れ子12,14を交換して、薄膜形成装置を再稼動できる。このため、清掃による装置の稼動低下を低減することができる。ダストの付着は入れ子12,14の内壁のみに生じているため、入れ子12,14が取り出されれば、装置内に付着したダストが装置外に除去できる。ダストの付着した入れ子12,14は、装置外で各種の化学的・物理的な方法によって洗浄することができる。入れ子12,14は、金属等の導電体又はプラスチック樹脂やセラミックス、ガラス等の誘電体のどちらでも良いが、フッ化樹脂等のプラスチック樹脂で作製すると、ダストが強く結合していても樹脂ごとブラスト処理などの研削手段で容易に洗浄できる。ここで、入れ子12,14は、清掃のし易さからプラスチック樹脂、金属等の材質の円筒体であることが好ましい。ただし、入れ子12,14は、円筒体の形態ほか、排気配管7の内壁に配置し、かつ、取り出すことができる他形態として、テープ状であっても良い。さらに、食品グリース、真空グリース等の塗布層であっても良い。なお、入れ子は必ずしもダストを清掃すべき領域すべてを覆う必要もないし、2個よりさらに分割しても構わない。これらは稼動の安定と清掃の労力等を考慮して、適宜調整すべきものだからである。また、入れ子12,14を挿入しても、排気抵抗が実質大きくならない設計を選択すれば、或いは、含有水分によって真空度の確保が難しくなるような樹脂材料を選択しなければ、容器に成膜するガスバリア性を有する薄膜の品質には影響しない。
【0036】
なお、入れ子12,14の取り出し方は次のとおりである。まず、原料ガス供給管5を抜き出す。次に蓋13を開ける。次に入れ子12を開口部7bから抜き出す。次に入れ子14を開口部6aから排気配管7内に取り出し、続いて開口部7bから取り出す。入れ子12,14の入れ方はこの逆の手順とすれば良い。
【0037】
図3に示した他の実施形態に係る薄膜形成装置200は、別形態の入れ子構造33を用いた場合を示す図である。入れ子構造33は2つの入れ子31,32からなる。入れ子32は、絶縁部材の開口部6aに嵌るとともに原料ガス供給管5の上部(容器1の口部よりも上方)まで延びた長さの円筒形状を有している。そして、入れ子32には、排気配管7内の通路を塞がないための開口部32aが円筒の側面に設けられている。一方、入れ子31には、入れ子32を通すための開口部31aが設けられている。また、排気配管7には、入れ子32を原料ガス供給管5とともに装置の外部に抜き出すための開口部7cと蓋34が設けられている。
【0038】
図3において、このような構造にすることによって、入れ子31,32を次のとおり出し入れできる。まず、蓋13を開けることで排気配管7の開口部7bから入れ子31を挿入する。次に入れ子32を排気配管7の開口部7cから挿入し、入れ子32の先端を絶縁部材6の開口部6aに嵌め込む。次に原料ガス供給管5を挿入し、排気配管7の開口部7に蓋34をする。入れ子31,32を取り出す時はこの逆の手順を行なう。
【0039】
本実施形態に係る薄膜形成装置では、図1〜図3に示すように、入れ子構造21,33よりも排気手段8寄りに圧力変異機構Xを設け、圧力開放弁20等の配管分岐箇所が圧力変異機構Xよりも排気手段8寄りに設置されていることが好ましい。従来の装置では外部電極4の上方にマニホールドと呼ばれる、圧力開放弁20、プラズマ着火の確認用のセンサー18及び圧力計19を搭載するための、外部電極と排気配管の間を構成する空間を設けるための部材を設置していた。このマニホールドは、圧力開放弁20、センサー18及び圧力計19等の配管分岐箇所を有することとなり、当該分岐箇所において配管内壁に凹凸が生じていた。当該分岐箇所は複雑な形状を有するため、ダストが生じると清掃が非常に手間のかかる作業となる。そこで、本実施形態に係る薄膜形成装置100,200では、マニホールドを設けず、圧力開放弁20、センサー18及び圧力計19等の配管分岐箇所を、入れ子構造21,33及び圧力変異機構Xよりも排気手段8寄りに設置することとした。このような凹凸が生じる箇所を、プラズマと接触しない箇所まで排気配管の下流に設けることで、清掃の手間を大幅に低減できる。
【0040】
圧力変異機構Xは、排気経路において圧力段差を設けることで、それよりも下流側(排気手段8側)でのプラズマの拡がりを止める役割をなす。すなわち、圧力開放弁20、センサー18及び圧力計19等の配管分岐箇所の様に、凹凸が生じる箇所とプラズマとの接触を確実に避けることができる。図1及び図2に示した薄膜形成装置の圧力変異機構Xは、排気経路をエルボー形状とした構造である。また、図4(a)に示すように、圧力変異機構Xは、排気経路の配管径を縮径した構造であっても良い。エルボー形状とした構造と同様に排気抵抗を当該箇所で高めることができるので、プラズマの拡がりを阻止できる。さらに図4(b)に示すように圧力変異機構Xは、金属ハニカム体27を排気経路内に設置した構造であっても良い。金属ハニカム体27は金属網も含む。さらに、圧力変異機構Xは、排気経路の材質を上流側と下流側とで変更した構造(不図示)であっても良い。例えば、上流側が金属部材の排気経路とし、下流側が絶縁体からなる排気経路とする。いずれの構造も単純な構造で、当該機構よりも下流側でのプラズマの拡がりを止めることができる。圧力変異機構Xでプラズマの拡がりを止めることができるため、本実施形態に係る薄膜形成装置100,200では、容器1の外部でプラズマと接触する内壁は、絶縁部材6の内壁及び圧力変異機構X手前までの排気配管7の内壁となる。よってその内壁のみを被覆すればよいため、当該内壁を覆うように入れ子12,14,31,32を設置する。なお、圧力変位機構Xは、経験的に、容器1の口部から容器1の高さに相当する距離よりも排気手段8寄りに設置することが好ましい。圧力変位機構Xを容器1寄りに設置しすぎると、成膜品質を維持できない傾向があり、また、不要に排気手段8よりに設置すると、ダストを清掃すべき領域を必要以上に拡大させることになるためである。なお、圧力変位機構Xより排気手段8側は高真空領域となるが、プラズマ密度が低下し、ダストの堆積が事実上生じなくなる。さらに、成膜の条件さえあえば、圧力変位機構Xを特に設けなくとも、ダストの堆積領域が限定されるため、配管分岐箇所はそれより排気手段8よりに設置することでもよい。
【0041】
なお、圧力開放弁20、センサー18及び圧力計19等の配管分岐箇所は、図4(a)(b)に示すように圧力変異機構Xよりも排気手段8寄りにあることが好ましいが、図1又は図3に示すように圧力変異機構X上にあっても良い。
【0042】
入れ子を設置し、その排気手段寄りに配管分岐箇所を設置しても、稼動・品質に影響しない事例を示す。従来の上述したマニホールド(ボトル口部近傍の排気系)から分岐して圧力計を設置した場合と、排気経路のエルボー下流に圧力計を設置した場合を比較すると、成膜工程におけるボトル内部の真空引きの過程では、両者に圧力差は事実上存在しない。その後、原料ガスを導入すると、後者の方が前者よりも圧力が低めになる。その差は、例えば、原料ガス100sccmを500mlのPETボトル内部に供給した場合において、1Pa〜3Paで、その差はボトル形状・圧力計の配置位置によって、一定である。排気速度に差はないため、後者のように圧力計を配置しても、ボトル内の圧力をモニタリングすることに稼動上・品質管理上の問題は生じない。成膜したボトルの酸素バリア性は、両者ともに、例えば、500mlの29gのPETボトルの場合の酸素透過率が、0.0025cc/日・本で変わりはない。その他、大気開放に至る時間や、プラズマ着火のモニタリングに、両者で事実上の差がないかたちに装置の構成・運転が可能である。
【0043】
本実施形態に係る成膜形成装置によれば、従来の装置が分解洗浄で半日以上要していたところ、30分程度の作業で稼動復帰とすることができる。交換用入れ子を準備しておけば、部品交換の作業のみで済むため、5分程度の作業で稼動復帰とすることができる。また入れ子を例えばテフロン(登録商標)樹脂で作製しておけば、上記のように、真空引き、成膜安定性に影響なく、膜質その他稼動上・品質上の悪影響は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る薄膜形成装置を説明するための断面概略図である。
【図2】本実施形態に係る薄膜形成装置を説明するための外観斜視図である。
【図3】本実施形態に係る薄膜形成装置の他形態を説明するための断面概略図である。
【図4】本実施形態に係る薄膜形成装置の圧力変異機構の他形態を示す断面概略図であり、(a)は排気経路の配管径を縮径した構造、(b)は金属ハニカム体を排気経路内に設置した構造を示す。
【符号の説明】
【0045】
1 容器
2 下部外部電極
3 上部外部電極
4 外部電極
5 原料ガス供給管
5a 吹き出し口
6 絶縁部材
6a 開口部
7 排気配管
7a,7b,7c 開口部
8 排気手段
10 電磁波発生手段
11 マッチングボックス
12,14,31,32 入れ子
31a,32a 開口部
21,33 入れ子構造
13,34 蓋
15 原料ガス供給管の基端
16,25 真空バルブ
17,マスフローコントローラー
18,センサー
19,圧力計
20 圧力開放弁
22 O‐リング
23 原料ガス発生源
24,26 配管
27 金属ハニカム体
X 圧力変異機構
100,200 薄膜形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を収容する外部電極と、前記容器の内部に原料ガスを供給する原料ガス供給管と、前記容器の口部の上方に絶縁部材を介して前記外部電極と対向して配置され、前記容器の内部ガスを排気する排気配管と、該排気配管と接続された排気手段と、前記外部電極に接続された電磁波発生手段と、を有し、プラズマCVD法によって容器の表面に薄膜を成膜する薄膜形成装置において、
前記容器の外部でプラズマと接触する内壁部分よりも前記排気手段寄りにセンサー類・圧力開放弁等の配管分岐箇所を設置し、かつ、前記容器の外部でプラズマと接触する内壁を入れ子構造としたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記配管分岐箇所が、前記容器の口部から容器高以上の距離を離して設置されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記入れ子構造よりも前記排気手段寄りに圧力変異機構を設け、前記配管分岐箇所が前記圧力変異機構よりも前記排気手段寄りに設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記容器の外部でプラズマと接触する内壁は、前記絶縁部材の内壁及び前記圧力変異機構手前までの前記排気配管の内壁であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記排気配管の形状が円筒形状であり、かつ、前記入れ子が円筒形状であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記圧力変異機構が、金属ハニカム体を排気経路内に設置した構造であるか、前記排気経路をエルボー形状とした構造であるか、前記排気経路の配管径を縮径した構造であるか或いは、前記排気経路の材質を上流側と下流側とで変更した構造であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
前記入れ子が樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6に記載の薄膜形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−230686(P2008−230686A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76599(P2007−76599)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】