説明

薄膜製造方法および形成された薄膜を有する基材

大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に放電ガスを供給して励起し、前記励起した放電ガスのエネルギーを薄膜形成ガスに伝えて励起し、基材を、前記励起した薄膜形成ガスに晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガスを供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガスに晒す第2の工程とを有することを特徴とする薄膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は大気圧プラズマ処理法による薄膜の製造方法および該製造方法により形成された薄膜を有する基材に関する。
【背景技術】
希ガスと薄膜形成性ガスの混合ガスを用いて、大気圧プラズマ放電処理を行うことにより、基材上に薄膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
従来のこの方法では、放電ガスとして希ガス以外の安価なガス、例えば、空気成分中の酸素ガス、窒素ガスや二酸化炭素等を使用するには放電を開始する電界の強さ(以下、電界強度とも言う)が高く、従来の高周波電界のもとでは安定な放電が得られず、安定な薄膜を形成することがやや困難な場合も有った。
また、アルゴンを放電ガスとして、パルス化された高周波電界と、パルス化された直流電界とを重畳することによって安定な放電状態を達成でき、安定した薄膜が形成できるという方法が開示(例えば、特許文献2参照。)されている。
しかしながら、これらの従来技術では、金属酸化物からなる薄膜を生産速度を速くした時に品質の高い薄膜を安定して形成するという点で不十分な場合もあった。例えば、支持体上にTiO2やSiO2のような金属酸化物の薄膜を形成した場合に支持体との接着性が経時的に劣化する場合があったり、又、金属をドープした金属酸化物による透明導電膜を形成した場合には、十分低い電気抵抗が得られにくい場合もあり、エッチング処理速度もやや遅い薄膜となることが判明した。
更に、放電する際にアルゴンガス等の希ガスを用いると生産コストが高くなるという課題を有していた。
【特許文献1】特開2000−303175号公報
【特許文献2】特開2002−110397号公報
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、
1.生産速度を速くしても品質の高い薄膜を形成すること、
2.低コストで薄膜を形成すること、
の少なくとも1つを達成することができる薄膜形成方法および該薄膜形成方法を用いて製造された基材を提供することにある。
【発明の開示】
本発明の上記目的は、以下の構成により解決することができた。
(1) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に放電ガスを供給して励起し、前記励起した放電ガスのエネルギーを薄膜形成ガスに伝えて励起し、基材を、前記励起した薄膜形成ガスに晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程(P1)と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガスを供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガスに晒す第2の工程(P2)とを有することを特徴とする薄膜形成方法。
(2) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に放電ガスを供給して励起し、前記励起した放電ガスと薄膜形成ガスとを接触させ、基材を、前記接触させた薄膜形成ガスに晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程(P1)と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガスを供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガスに晒す第2の工程(P2)とを有することを特徴とする薄膜形成方法。
(3) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に薄膜形成ガスを含有するガス1を供給して励起し、基材を、前記励起した薄膜形成ガスを含有するガス1に晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程(P1)と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガスを供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガス2に晒す第2の工程(P2)とを有することを特徴とする薄膜形成方法。
(4) 前記高周波電界Aが、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、ガス1が、前記薄膜形成ガスの他に、放電ガスの50体積%以上の窒素、および、還元性ガスを含有するガスであることを特徴とする前記3に記載の薄膜製造方法。
(5) 前記還元性ガスが水素であることを特徴とする前記4に記載の薄膜製造方法。
(6) 前記第1の工程の放電空間が、対向する第1電極と第2電極で構成され、前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする前記3〜5のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(7) 前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIV1との関係が、
V1≧IV1>V2またはV1>IV1≧V2を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする前記3〜6のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(8) 前記高周波電界Bが、第3の高周波電界および第4の高周波電界を重畳したものであることを特徴とする前記7に記載の薄膜製造方法。
(9) 前記第2の工程の放電空間が、対向する第3電極と第4電極とで構成され、前記第3の高周波電界を前記第3電極に印加し、前記第4の高周波電界を前記第4電極に印加することを特徴とする前記8に記載の薄膜製造方法。
(10) 前記第1電極と第3電極が同一の電極であることを特徴とする前記3〜9のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(11) 前記第3の高周波電界の周波数ω3より前記第4の高周波電界の周波数ω4が高く、前記第3の高周波電界の強さV3、前記第4の高周波電界の強さV4および放電開始電界の強さIV2との関係が、
V3≧IV2>V4またはV3>IV2≧V4を満たし、
前記第4の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする前記8または9に記載の薄膜製造方法。
(12) 前記薄膜が金属酸化物薄膜であることを特徴とする前記3〜11のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(13) 前記薄膜が透明導電性薄膜であることを特徴とする前記3〜12のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(14) 前記薄膜形成ガスが、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)から選ばれる少なくとも一つの金属原子を含有する有機金属化合物であることを特徴とする前記3〜13のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(15) 前記第1の工程と前記第2の工程を交互に複数回行うことを特徴とする前記3〜14のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(16) 前記第1の工程で形成される薄膜の1回当たりの堆積膜厚が10nm以下であることを特徴とする前記3〜15のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(17) 大気圧もしくはその近傍下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガス1を供給し、前記放電空間に高周波電界Aを印加することにより前記ガス1を励起し、基材を励起したガス1に晒すことにより基材上に薄膜を形成する第1の工程を少なくとも行う薄膜製造方法において、前記高周波電界Aが、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIV1との関係が、V1≧IV1>V2またはV1>IV1≧V2を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であり、前記ガス1が、前記薄膜形成ガスの他に、放電ガスの50体積%以上の窒素、および、還元性ガスを含有するガスであり、前記薄膜形成ガスが有機チタン化合物を含有するガスであり、前記第1の工程の後に、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に酸化性ガスを含有するガス2を供給し、前記放電空間に高周波電界Bを印加することにより前記ガス2を励起し、ガス1により形成された薄膜を有する基材を励起したガス2に晒す第2の工程を行うことを特徴とする薄膜製造方法。
(18) 前記還元性ガスが水素であることを特徴とする前記17に記載の薄膜製造方法。
(19) 前記第1の工程の放電空間が、対向する第1電極と第2電極で構成され、前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする前記17または18に記載の薄膜製造方法。
(20) 前記高周波電界Bが、第3の高周波電界および第4の高周波電界を重畳したものであることを特徴とする前記17〜19のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(21) 前記第2の工程の放電空間が、対向する第3電極と第4電極とで構成され、前記第3の高周波電界を前記第3電極に印加し、前記第4の高周波電界を前記第4電極に印加することを特徴とする前記20に記載の薄膜製造方法。
(22) 前記第1電極と第3電極が同一の電極であることを特徴とする前記17〜21のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(23) 前記第3の高周波電界の周波数ω3より前記第4の高周波電界の周波数ω4が高く、前記第3の高周波電界の強さV3、前記第4の高周波電界の強さV4および放電開始電界の強さIV2との関係が、
V3≧IV2>V4またはV3>IV2≧V4を満たし、
前記第4の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする前記20〜22のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(24) 前記第1の工程と前記第2の工程を交互に複数回行うことを特徴とする前記17〜23のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(25) 前記第1の工程で形成される薄膜の1回当たりの堆積膜厚が20nm以下であることを特徴とする前記17〜24のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
(26) 前記3〜25のいずれか1項に記載の薄膜製造方法により形成された薄膜を有することを特徴とする基材。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に用いられる平板電極型の大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略構成図である。
第2(a)図は本発明に好ましく用いられる遮蔽羽根を有する薄膜形成装置の概略構成図の平面図である。
第2(b)図は本発明に好ましく用いられる遮蔽羽根を有する薄膜形成装置の概略構成図の正面図である。
第3図は本発明に用いられるロール回転電極型の大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略構成図である。
第4図はロール回転電極型の大気圧プラズマ処理装置を2台直列に配置した大気圧プラズマ処理装置を示す図である。
第5図はロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
第6図は角型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
第7図は放電ガスと薄膜供給ガスを分離して供給する例を表す装置の概略構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のポイントは、第1の工程により、薄膜形成ガスの大気圧プラズマ処理により薄膜の形成を行い、続いて第2の工程により、酸化性雰囲気下の大気圧プラズマ処理により、良質の薄膜を形成することができたものであり、更に下記の諸要件を満たすことにより、高速で低コストの製膜形成が可能となったものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、大気圧もしくはその近傍下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガス1を供給し、前記放電空間に高周波電界Aを印加することにより前記ガス1を励起し、基材を励起した前記ガス1に晒すことにより基材上に薄膜を形成する第1の工程を少なくとも行う薄膜製造方法において、
前記第1の工程の後に、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に酸化性ガスを含有するガス2を供給し、前記放電空間に高周波電界Bを印加することにより前記ガス2を励起し、薄膜を有する基材を励起したガス2に晒す第2の工程を行うことで生産速度を速くしても良質の薄膜を形成することができることを見いだしたものである。
更に、本発明は、大気圧もしくはその近傍下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガス1を供給し、前記放電空間に高周波電界Aを印加することにより前記ガス1を励起し、基材を励起した前記ガス1に晒すことにより基材上に薄膜を形成する第1の工程を少なくとも行う薄膜製造方法において、
前記高周波電界Aが、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さがIV1との関係が、
V1≧IV1>V2またはV1>IV1≧V2を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であり、
前記ガス1が、前記薄膜形成ガスの他に、還元性ガスと50体積%以上の窒素とを含有するガスであり、
前記薄膜形成ガスが有機チタン化合物を含有するガスであり、
前記第1の工程の後に、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に酸化性ガスを含有するガス2を供給し、前記放電空間に高周波電界Bを印加することにより前記ガス2を励起し、ガス1により形成された薄膜を有する基材を励起したガス2に晒す第2の工程を行うことで、低コストであり、かつ、生産速度を速くしても良質な薄膜を形成することができることを見いだしたものである。
本発明において、プラズマ放電処理は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で行われるが、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20kPa〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPa〜104kPaが好ましい。
本発明の薄膜製造方法の第1の工程において、対向電極間(放電空間)に供給するガス1は、少なくとも、電界により励起する放電ガスと、そのエネルギーを受け取ってプラズマ状態あるいは励起状態になり薄膜を形成する薄膜形成ガスを含んでいる。
本発明の薄膜製造方法では、ヘリウムやアルゴン等の希ガスの放電ガスでは、薄膜を形成する際の生産コストが放電ガスのコストに依存するところが大きく、本発明においては、放電ガスとして50体積%以上の窒素を含有することが好ましく、更に好ましくは80体積%以上の窒素を含有するものである。また、ガス1には還元性ガスを含有することが薄膜形成速度を向上することができ好ましい。
本発明においては、第1の工程に続いて、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に酸化性ガスを含有するガス2を供給し、前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガス2を励起し、薄膜を有する基材を励起されたガス2に晒す第2の工程を行うことが必要である。
ガス2には、放電ガスを含有することが好ましく、放電ガスとして好ましくは窒素を50体積%以上含有することがコストの面から好ましい。
本発明の1態様に示されているように、工程で放電空間に放電ガスを供給し、励起した放電ガスと薄膜形成ガスを接触させる例として図7の形態をとることができる。
第1の工程と第2の工程を交互に繰り返して処理することが好ましく、第1の工程と第2の工程間を基材が往復して処理される方法であっても、第1の工程と第2の工程が交互に連続して設置されており、基材がそれらを通過して連続処理されるものであってもよい。
第1の工程、第2の工程の電極間には、特に限定されないが、各工程でのガスが混合することを抑えるためのしゃへい板や排気手段を設けることができる。
以下、本発明を更に詳しく説明する。
先ず、第1の工程について説明する。
高周波電界Aは、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであることが好ましく、放電空間が、対向する第1電極と第2電極で構成され、前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加する方法が好ましい。
前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIV1との関係が、
V1≧IV1>V2またはV1>IV1≧V2を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることが好ましい。
重畳する高周波電界が、ともにサイン波である場合は、第1の高周波電界の周波数ω1と該周波数ω1より高い第2の高周波電界の周波数ω2とを重ね合わせた成分となり、その波形は周波数ω1のサイン波上に、それより高い周波数ω2のサイン波が重なった鋸歯状の波形となる。
本発明において、放電開始電界の強さとは、実際の薄膜形成方法に使用される放電空間(電極の構成など)および反応条件(ガス条件など)において放電を開始することの出来る最低電界の強さのことを指す。放電開始電界の強さは、放電空間に供給されるガス種や電極の誘電体種または電極間距離などによって多少変動するが、同じ放電空間においては、放電ガスの放電開始電界の強さに支配される。
上記で述べたような高周波電界を放電空間に印加することによって、薄膜形成可能な放電を起こし、薄膜形成に必要な高密度プラズマを発生することが出来ると推定される。
上記ではサイン波の連続波の重畳について説明したが、これに限られるものではなく、両方パルス波であっても、一方が連続波でもう一方がパルス波であってもよい。また、更に第3の電界を有していてもよい。
ここで、本発明でいう高周波電界の強さ(印加電界強度)と放電開始電界の強さは、下記の方法で測定されたものをいう。
高周波電界の強さV1及びV2(単位:kV/mm)の測定方法:
各電極部に高周波電圧プローブ(P6015A)を設置し、該高周波電圧プローブの出力信号をオシロスコープ(Tektronix社製、TDS3012B)に接続し、電界の強さを測定する。
放電開始電界の強さIV(単位:kV/mm)の測定方法:
電極間に放電ガスを供給し、この電極間の電界の強さを増大させていき、放電が始まる電界の強さを放電開始電界の強さIVと定義する。測定器は上記高周波電界の強さ測定と同じである。
このような放電条件をとることにより、例え窒素ガスのように放電開始電界の強さが高い放電ガスでも、放電を開始し、高密度で安定なプラズマ状態を維持出来、高速に薄膜形成を行うことが出来るのである。
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電界の強さIV(1/2Vp−p)は3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の高周波電界の強さを、V1≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることが出来る。
ここで、第1電源の周波数としては、200kHz以下が好ましく用いられる。またこの電界波形としては、連続波でもパルス波でもよい。下限は1kHz程度が望ましい。
一方、第2電源の周波数としては、800kHz以上が好ましく用いられる。この第2電源の周波数が高い程、プラズマ密度が高くなり、緻密で良質な薄膜が得られる。上限は200MHz程度が望ましい。
このような2つの電源から高周波電界を印加することは、第1の高周波電界によって高い放電開始電界の強さを有する放電ガスの放電を開始するのに必要であり、また第2の高周波電界の高い周波数および高い出力密度によりプラズマ密度を高くして緻密で良質な薄膜を形成することが本発明の重要な点である。
また、第1の高周波電界の出力密度を高くすることで、放電の均一性を維持したまま、第2の高周波電界の出力密度を向上させることができる。これにより、更なる均一高密度プラズマが生成でき、更なる製膜速度の向上と、膜質の向上が両立出来る。
上述のように、対向電極の間で放電させ、前記対向電極間に導入した薄膜形成ガスを含有するガス1をプラズマ状態とし、前記対向電極間に静置あるいは電極間を移送される基材を励起されたガス1に晒すことによって、該基材上に先ず薄膜を形成させるものである。
次に、第2の工程について説明する。
本発明においては、基材上に薄膜を形成する前記第1の工程に続いて、酸化性ガスを含有するガス2を大気圧プラズマにより励起し、励起された前記ガス2に前記薄膜を晒す第2の工程を行うことが必要である。これにより、生産速度を速くしても高性能な薄膜を形成することができる。
高周波電界Bも、第3の高周波電界および第4の高周波電界を重畳したものであることが好ましく、放電空間が、対向する第3電極と第4電極で構成され、前記第3の高周波電界を前記第3電極に印加し、前記第4の高周波電界を前記第4電極に印加する方法が好ましい。これにより緻密で良質な薄膜が得られる。
前記第3の高周波電界の周波数ω3より前記第4の高周波電界の周波数ω4が高く、前記第3の高周波電界の強さV3、前記第4の高周波電界の強さV4および放電開始電界の強さIV2との関係が、
V3≧IV2>V4またはV3>IV2≧V4を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることが良質な薄膜が得られる点で好ましい。
第3の高周波電界および第4の高周波電界を供給する第3電源、第4電源及び第3電極、第4電極、その他印加方法等は、前記第1の工程の第1の高周波電界、第2の高周波電界において用いたものと同様の方法が適用できる。
〈電極間ギャップ〉
対向する第1電極と第2電極及び第3電極と第4電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言い、双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界の強さ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1〜5mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2mmである。
〈容器〉
本発明に用いられる大気圧プラズマ処理装置は、外気の影響を避けるため、全体を1つの容器に納めるか、或いは第1の工程及び第2の工程を別々の容器に納めることが好ましい。容器としてはパイレックス(R)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けても良く、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。
〈電源〉
本発明に用いられる大気圧プラズマ処理装置に設置する第1電源(高周波電源)および第3電源(高周波電源)としては、
メーカー 周波数 製品名
神鋼電機 3kHz SPG3−4500
神鋼電機 5kHz SPG5−4500
春日電機 15kHz AGI−023
神鋼電機 50kHz SPG50−4500
ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
パール工業 200kHz CF−2000−200k
パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することが出来る。
また、第2電源(高周波電源)及び第4電源(高周波電源)としては、
メーカー 周波数 製品名
パール工業 800kHz CF−2000−800k
パール工業 2MHz CF−2000−2M
パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
パール工業 27MHz CF−2000−27M
パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用出来る。
なお、上記電源のうち、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。それ以外は連続サイン波のみ印加可能な高周波電源である。
〈電力〉
本発明において、対向する電極間に印加する電界の、第2電極(第2の高周波電界)および第4電極(第4の高周波電界)の出力密度は、1W/cm以上を印加し、プラズマを発生させ、エネルギーをガス1又はガス2に与える。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm、より好ましくは20W/cmである。下限値は、好ましくは1.2W/cmである。なお、放電面積(cm)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
また、第1電極(第1の高周波電界)および第3電極(第3の高周波電界)にも、出力密度が1W/cm以上の電界を印加することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることが出来る。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成出来、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立出来る。好ましくは5W/cm以上である。第1電極および第3電極に印加する出力密度の上限値は、好ましくは50W/cmである。
〈電流値〉
このとき、第1の高周波電界の電流I1と第2の高周波電界の電流I2との関係は、I1<I2となることが好ましい。I1は好ましくは0.3mA/cm〜20mA/cm、さらに好ましくは1.0mA/cm〜20mA/cmであり、I2は、好ましくは10mA/cm〜1000mA/cm、さらに好ましくは20mA/cm〜500mA/cmである。
また、第3の高周波電界の電流I3と第4の高周波電界の電流I4との関係はI3<I4となることが好ましい。I3は、好ましくは0.3mA/cm〜20mA/cm、さらに好ましくは1.0mA/cm〜20mA/cmである。また、第4の高周波電界の電流I4は、好ましくは10mA/cm〜1000mA/cm、さらに好ましくは20mA/cm〜500mA/cmである。
〈波形〉
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
〈電極〉
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10−6/℃以下、更に好ましくは5×10−6/℃以下、更に好ましくは2×10−6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項または2項および5〜8項が好ましく、特に1項が好ましい。
本発明において、金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、また誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが出来る。
本発明に有用な電極の金属質母材は、チタンを70質量%以上含有するチタン合金またはチタン金属である。本発明において、チタン合金またはチタン金属中のチタンの含有量は、70質量%以上であれば、問題なく使用出来るが、好ましくは80質量%以上のチタンを含有しているものが好ましい。本発明に有用なチタン合金またはチタン金属は、工業用純チタン、耐食性チタン、高力チタン等として一般に使用されているものを用いることが出来る。工業用純チタンとしては、TIA、TIB、TIC、TID等を挙げることが出来、何れも鉄原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、水素原子等を極僅か含有しているもので、チタンの含有量としては、99質量%以上を有している。耐食性チタン合金としては、T15PBを好ましく用いることが出来、上記含有原子の他に鉛を含有しており、チタン含有量としては、98質量%以上である。また、チタン合金としては、鉛を除く上記の原子の他に、アルミニウムを含有し、その他バナジウムや錫を含有しているT64、T325、T525、TA3等を好ましく用いることが出来、これらのチタン含有量としては、85質量%以上を含有しているものである。これらのチタン合金またはチタン金属はステンレススティール、例えばAISI316に比べて、熱膨張係数が1/2程度小さく、金属質母材としてチタン合金またはチタン金属の上に施された後述の誘電体との組み合わせがよく、高温、長時間での使用に耐えることが出来る。
一方、誘電体の求められる特性としては、具体的には、比誘電率が6〜45の無機化合物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等がある。この中では、後述のセラミックスを溶射したものやガラスライニングにより設けたものが好ましい。特にアルミナを溶射して設けた誘電体が好ましい。
または、上述のような大電力に耐える仕様の一つとして、誘電体の空隙率が10体積%以下、好ましくは8体積%以下であることで、好ましくは0体積%を越えて5体積%以下である。なお、誘電体の空隙率は、BET吸着法や水銀ポロシメーターにより測定することが出来る。後述の実施例においては、島津製作所製の水銀ポロシメーターにより金属質母材に被覆された誘電体の破片を用い、空隙率を測定する。誘電体が、低い空隙率を有することにより、高耐久性が達成される。このような空隙を有しつつも空隙率が低い誘電体としては、後述の大気プラズマ溶射法等による高密度、高密着のセラミックス溶射被膜等を挙げることが出来る。更に空隙率を下げるためには、封孔処理を行うことが好ましい。
上記、大気プラズマ溶射法は、セラミックス等の微粉末、ワイヤ等をプラズマ熱源中に投入し、溶融または半溶融状態の微粒子として被覆対象の金属質母材に吹き付け、皮膜を形成させる技術である。プラズマ熱源とは、分子ガスを高温にし、原子に解離させ、更にエネルギーを与えて電子を放出させた高温のプラズマガスである。このプラズマガスの噴射速度は大きく、従来のアーク溶射やフレーム溶射に比べて、溶射材料が高速で金属質母材に衝突するため、密着強度が高く、高密度な被膜を得ることが出来る。詳しくは、特開2000−301655号に記載の高温被曝部材に熱遮蔽皮膜を形成する溶射方法を参照することが出来る。この方法により、上記のような被覆する誘電体(セラミック溶射膜)の空隙率にすることが出来る。
また、大電力に耐える別の好ましい仕様としては、誘電体の厚みが0.5〜2mmであることである。この膜厚変動は、5%以下であることが望ましく、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。
誘電体の空隙率をより低減させるためには、上記のようにセラミックス等の溶射膜に、更に、無機化合物で封孔処理を行うことが好ましい。前記無機化合物としては、金属酸化物が好ましく、この中では特に酸化ケイ素(SiOx)を主成分として含有するものが好ましい。
封孔処理の無機化合物は、ゾルゲル反応により硬化して形成したものであることが好ましい。封孔処理の無機化合物が金属酸化物を主成分とするものである場合には、金属アルコキシド等を封孔液として前記セラミック溶射膜上に塗布し、ゾルゲル反応により硬化する。無機化合物がシリカを主成分とするものの場合には、アルコキシシランを封孔液として用いることが好ましい。
ここでゾルゲル反応の促進には、エネルギー処理を用いることが好ましい。エネルギー処理としては、熱硬化(好ましくは200℃以下)や、紫外線照射などがある。更に封孔処理の仕方として、封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、よりいっそう無機質化が向上し、劣化の無い緻密な電極が出来る。
本発明に係る誘電体被覆電極の金属アルコキシド等を封孔液として、セラミックス溶射膜にコーティングした後、ゾルゲル反応で硬化する封孔処理を行う場合、硬化した後の金属酸化物の含有量は60モル%以上であることが好ましい。封孔液の金属アルコキシドとしてアルコキシシランを用いた場合には、硬化後のSiOx(xは2以下)含有量が60モル%以上であることが好ましい。硬化後のSiOx含有量は、XPS(X線光電子分光法)により誘電体層の断層を分析することにより測定する。
本発明の薄膜形成方法に係る電極においては、電極の少なくとも基材と接する側のJIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が10μm以下になるように調整することが、本発明に記載の効果を得る観点から好ましいが、更に好ましくは、表面粗さの最大値が8μm以下であり、特に好ましくは、7μm以下に調整することである。このように誘電体被覆電極の誘電体表面を研磨仕上げする等の方法により、誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことが出来、放電状態を安定化出来ること、更に熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、且つ、高精度で、耐久性を大きく向上させることが出来る。誘電体表面の研磨仕上げは、少なくとも基材と接する側の誘電体において行われることが好ましい。更にJIS B 0601で規定される中心線平均表面粗さ(Ra)は0.5μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。
本発明に使用する誘電体被覆電極において、大電力に耐える他の好ましい仕様としては、耐熱温度が100℃以上であることである。更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。また上限は500℃である。なお、耐熱温度とは、大気圧プラズマ処理で用いられる電圧において絶縁破壊が発生せず、正常に放電出来る状態において耐えられる最も高い温度のことを指す。このような耐熱温度は、上記のセラミックス溶射や、泡混入量の異なる層状のガラスライニングで設けた誘電体を適用したり、上記金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差の範囲内の材料を適宜選択する手段を適宜組み合わせることによって達成可能である。
次に、放電空間に供給するガスについて説明する。
〈ガス1〉
第1の工程に供給するガス1は、少なくとも放電ガスおよび薄膜形成ガスを含有する。放電ガスと薄膜形成ガスは混合して供給してもよいし、別々に供給してもかまわない。
放電ガスとは、薄膜形成可能なグロー放電を起こすことの出来るガスである。放電ガスとしては、窒素、希ガス、空気、水素ガス、酸素などがあり、これらを単独で放電ガスとして用いても、混合して用いてもかまわない。本発明において、放電ガスとしてコストの点で好ましいのは窒素である。放電ガスの50〜100体積%が窒素ガスであることが好ましい。このとき、放電ガスとして窒素以外の放電ガスとしては、希ガスを50体積%未満含有することが好ましい。また、放電ガスの量は、放電空間に供給する全ガス量に対し、90〜99.9体積%含有することが好ましい。
更に、ガス1は還元性ガスを含有することが好ましく、還元性ガスとしては、水素、アンモニア等が挙げられるが、特に好ましくは水素である。放電空間に供給する全ガス量中、還元性ガスを0.01〜10.0体積%含有することが好ましい。これにより製膜速度を向上することができる。
〈薄膜形成ガス〉
薄膜形成ガスとは、それ自身が励起して活性となり、基材上に化学的に堆積して薄膜を形成する原料のことである。
本発明に使用する薄膜形成ガスとしては、有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等を挙げることが出来る。
薄膜形成ガスに使用する有機金属化合物、金属ハロゲン化物、金属水素化合物の金属として、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を挙げることが出来る。
本発明に有用な有機金属化合物は下記の一般式(I)で示すものが好ましい。
一般式(I)
xMRyR
式中、Mは上記金属を表し、Rはアルキル基、Rはアルコキシ基、Rはβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることが出来る。Rのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等を挙げることが出来る。またアルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。Rのβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基としては、β−ジケトン錯体基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンともいう)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸エステル錯体基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等を挙げることが出来、またケトオキシとして、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等を挙げることが出来る。これらの基の炭素原子数は、上記例有機金属示化合物を含んで、18以下が好ましい。また例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
本発明において取り扱いの問題から、爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも一つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとしてRのアルコキシ基を少なくとも一つを含有する有機金属化合物、またRのβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する金属化合物が好ましい。
本発明において、特に好ましい金属化合物の金属としては、上記のうちSi(珪素)、Ti(チタン)、Sn(錫)、Zn(亜鉛)、In(インジウム)及びAl(アルミニウム)であり、これらの金属と結合する金属化合物のうち、上記一般式(I)で示した有機金属化合物が好ましい。
〈ガス2〉
第2の工程の放電空間に供給するガス2には、酸化性ガスを含有することが必要であり、放電ガスを含有することが好ましい。本発明は第2の工程を行うことにより、優れた性能を有する薄膜を形成することができたものである。酸化性ガスとしては、酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素等を挙げることが出来るが、酸素、オゾンおよび一酸化炭素等が好ましく、これらから選択される成分を放電ガスと混合させるのが好ましい。酸化性ガスの含有量はガス全量に対して0.0001〜30体積%含有させることが好ましく、更に0.001〜15体積%、特に0.01〜10体積%含有させることが好ましい。また、透明導電膜を形成する場合は5体積%以下含有させることが好ましく、それによって緻密で良質な薄膜を形成することが出来る。
〈機能性薄膜と化合物〉
本発明の薄膜製造方法においては、上記のような有機金属化合物、金属ハロゲン化物、金属水素化合物等の金属化合物を、好ましくは放電ガスと共に使用して、第1の工程の薄膜形成を行い、更に第2の工程のプラズマで励起された酸化処理を施すことにより様々な高機能性の薄膜を得ることが出来る。本発明の薄膜の例を以下に示すが、本発明はこれらに限られるものではない。
誘電体保護膜:SiO2、SiO、Al2O3、Al2O3、Y2O3
透明導電膜:In2O3、SnO2
エレクトロクロミック膜:WO3、IrO2、MoO3、V2O5
磁気記録膜:γ−Fe2O3、Co、Fe3O4、SiO2、AlO3
選択性透過膜:In2O3、SnO2
反射防止膜:SiO2、TiO2、SnO2
尚、酸化物の酸化度はあくまでも一例であり、金属との組成比は適宜変化して良い。また、薄膜には、上記金属化合物以外に、炭素化合物、窒素化合物、水素化合物等の不純物が含有されてもよい。
〈反射防止膜〉
ここで、上記の高機能膜のうち反射防止膜(層)及び反射防止膜を積層した反射防止フィルム及び透明導電フィルムについて詳細に説明する。
本発明に有用な高機能膜のうちの反射防止フィルムの反射防止層は中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層それぞれの薄膜が積層されたものである。
本発明に係る反射防止層薄膜形成性用のガス材料において、高屈折率層を形成するチタン化合物、中屈折率層を形成する錫化合物、低屈折率層を形成する珪素化合物について述べる。反射防止層を有する反射防止フィルムは、各屈折率層を基材上に直接または他の層を介して積層して得られるものであるが、積層は、例えば、第3図のような大気圧プラズマ処理装置を、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に3層を積層するために、直列に3基並べて連続的に処理することが出来る。この連続的積層処理は品質の安定や生産性の向上等から本発明の薄膜の形成に適している。本発明において、反射防止層の上に防汚層を設ける場合には、上記のプラズマ処理装置を更にもう1基続けて4基並べて、最後に防汚層を積層してもよい。また、反射防止層を設ける前に、基材の上に予めハードコート層や防眩層を塗布によって設けてもよく、また、その裏側に予めバックコート層を塗布によって設けてもよい。
本発明に有用な反射防止フィルムの反射防止層薄膜形成ガスには、適切な屈折率を得ることの出来る化合物であれば制限なく使用出来るが、本発明において、高屈折率層薄膜形成ガスとしてはチタン化合物を、中屈折率層薄膜形成ガスとしては錫化合物またはチタン化合物と珪素化合物の混合物(または高屈折率形成用のチタン化合物で形成した層と低屈折率層を形成する珪素化合物で形成した層を積層してもよい)を、また低屈折率層薄膜形成ガスとしては珪素化合物、フッ素化合物、あるいは珪素化合物とフッ素化合物の混合物を好ましく用いることが出来る。これらの化合物を屈折率を調節するために、何れかの層の薄膜形成ガスとして2種以上混合して使用してもよい。
本発明に有用な中屈折率層薄膜形成ガスに用いる錫化合物としては、有機錫化合物、錫水素化合物、ハロゲン化錫等であり、有機錫化合物としては、例えば、ジブチルジエトキシ錫、ブチル錫トリス(2,4−ペンタンジオナート)、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、エチルエトキシ錫、メチルメトキシ錫、イソプロピルイソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、ジブチリロキシ錫、ジエチル錫、テトラブチル錫、錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫(2,4−ペンタンジオナート)、ジメチル錫ジ(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタート錫、ジアセトキシ錫、ジブトキシジアセトキシ錫、ジアセトオキシ錫ジアセトアセトナート等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等を挙げることが出来、何れも本発明において、好ましく用いることが出来る。また、これらの薄膜形成ガスを2種以上同時に混合して使用してもよい。なお、このようにして、形成された酸化錫層は表面比抵抗値を1×1011Ω/cm以下に下げることが出来るため、帯電防止層としても有用である。
本発明に有用な高屈折率層薄膜形成ガスに使用するチタン化合物としては、有機チタン化合物、チタン水素化合物、ハロゲン化チタン等があり、有機チタン化合物としては、例えば、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、トリエチルチタン、トリイソプロピルチタン、トリブチルチタン、テトラエチルチタン、テトライソプロピルチタン、テトラブチルチタン、テトラジメチルアミノチタン、ジメチルチタンジ(2,4−ペンタンジオナート)、エチルチタントリ(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(アセトメチルアセタート)、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン等、ジブチリロキシチタン、チタン水素化合物としてはモノチタン水素化合物、ジチタン水素化合物等、ハロゲン化チタンとしては、トリクロロチタン、テトラクロロチタン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。またこれらの薄膜形成ガスを2種以上を同時に混合して使用することが出来る。
本発明に有用な低屈折率層薄膜形成ガスに使用する珪素化合物としては、有機珪素化合物、珪素水素化合物、ハロゲン化珪素化合物等を挙げることが出来、有機珪素化合物としては、例えば、テトラエチルシラン、テトラメチルシラン、テトライソプロピルシラン、テトラブチルシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルシランジ(2,4−ペンタンジオナート)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等、珪素水素化合物としては、テトラ水素化シラン、ヘキサ水素化ジシラン等、ハロゲン化珪素化合物としては、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジエチルジクロロシラン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。また、前記フッ素化合物を使用することが出来る。これらの薄膜形成ガスを2種以上を同時に混合して使用することが出来る。また、屈折率の微調整にこれら錫化合物、チタン化合物、珪素化合物を適宜2種以上同時に混合して使用してもよい。
上記の有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物は、取り扱い上の観点から金属水素化合物、アルコキシ金属が好ましく、腐食性、有害ガスの発生がなく、工程上の汚れなども少ないことから、アルコキシ金属が好ましく用いられる。また、上記の有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物を放電空間である電極間に導入するには、両者は常温常圧で、気体、液体、固体何れの状態であっても構わない。気体の場合は、そのまま放電空間に導入出来るが、液体、固体の場合は、加熱、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用される。有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物を加熱により気化して用いる場合、テトラエトキシ金属、テトライソプロポキシ金属などの常温で液体で、沸点が200℃以下である金属アルコキシドが反射防止膜の形成に好適に用いられる。上記アルコキシ金属は、溶媒によって希釈して使用されても良く、この場合、希ガス中へ気化器等により気化して混合ガスに使用すればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。
薄膜形成ガスは、放電プラズマ処理により基材上に均一な薄膜を形成する観点から、ガス1中の含有率は、0.01〜10体積%で有することが好ましいが、更に好ましくは、0.01〜1体積%である。
〈反射防止層の屈折率〉
なお、中屈折率層については、上記珪素化合物、上記チタン化合物または上記錫化合物を、目標とする屈折率に合わせて適宜混合することによっても得ることが出来る。
なお、各屈折率層の好ましい屈折率と膜厚は、例えば、中屈折率層の酸化錫層では屈折率として1.6〜1.8、また膜厚として50〜70nm程度、高屈折率層の酸化チタン層では屈折率として1.9〜2.4、また膜厚として80〜150nm程度、低屈折率層の酸化珪素層では屈折率として1.3〜1.5、また膜厚として80〜120nm程度である。
〈透明導電膜〉
次に、本発明に有用な高機能膜の他の例として透明導電膜を有する薄膜の形成について説明する。
前述の反射防止層を形成する際に使用する有機金属化合物の金属成分がインジウム等の透明性と導電性を有する薄膜を形成すると言う点が若干異なるが、有機基についてはほぼ同じような成分が用いられる。
透明導電膜を形成する好ましい有機金属化合物の金属は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)から選ばれる少なくとも1種の金属である。
得られる透明導電膜は、例えば、SnO2、In2O3、ZnOの酸化物膜、またはSbドープSnO2、FドープSnO2(FTO)、AlドープZnO、SnドープIn2O3(ITO)等ドーパントによるドーピングした複合酸化物を挙げることが出来、これらから選ばれる少なくとも一つを主成分とするアモルファス膜が好ましい。
本発明において、好ましい有機金属化合物の例としては、インジウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)、インジウムトリス(ヘキサフルオロペンタンジオナート)、インジウムトリアセトアセタート、トリアセトキシインジウム、ジエトキシアセトキシインジウム、トリイソポロポキシインジウム、ジエトキシインジウム(1,1,1−トリフルオロペンタンジオナート)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)インジウム、エトキシインジウムビス(アセトメチルアセタート)、ジ(n)ブチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジ(n)ブチルジアセトキシ錫、ジ(t)ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラ(i)ブトキシ錫、ビス(2,4−ペンタンジオナート)亜鉛等を挙げることが出来る。これらの有機金属化合物は一般に市販(例えば、東京化成工業(株)等から)されている。
〈ドーピング〉
本発明においては、上記分子内に少なくとも1つの酸素原子を有する有機金属化合物の他に、該有機金属化合物から形成された透明導電膜の導電性を更に高めるために該透明導電膜をドーピングすることが好ましく、薄膜形成ガスとしての該有機金属化合物とドーピング用有機金属化合物ガスを同時に混合して用いることが好ましい。ドーピングに用いられる有機金属化合物またはフッ素化合物の薄膜形成ガスとしては、例えば、トリイソプロポキシアルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナート)ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナート)マンガン、イソプロポキシボロン、トリ(n)ブトキシアンチモン、トリ(n)ブチルアンチモン、ジ(n)ブチルビス(2,4−ペンタンジオナート)錫、ジ(n)ブチルジアセトキシ錫、ジ(t)ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、テトラブチル錫、亜鉛ジ(2,4−ペンタンジオナート)、六フッ化プロピレン、八フッ化シクロブタン、四フッ化メタン等を挙げることが出来る。
前記透明導電膜を形成するに必要な有機金属化合物と上記ドーピング用の薄膜形成ガスの比は、製膜する透明導電膜の種類により異なるが、例えば、酸化インジウムに錫をドーピングして得られるITO膜においては、InとSnの比の原子数比が100:0.1〜100:15の範囲になるように薄膜形成ガス量を調整することが必要である。好ましくは、100:0.5〜100:10になるよう調整する。酸化錫にフッ素をドーピングして得られる透明導電膜(FTO膜という)においては、得られたFTO膜のSnとFの比の原子数比が100:0.01〜100:50の範囲になるよう薄膜形成ガスの量比を調整することが好ましい。In2O3−ZnO系アモルファス透明導電膜においては、InとZnの比の原子数比が100:50〜100:5の範囲になるよう薄膜形成ガスの量比を調整することが好ましい。In:Sn比、Sn:F比及びIn:Zn比の各原子数比はXPS測定によって求めることが出来る。
本発明において、透明導電膜形成ガスは、混合ガスに対し、0.01〜10体積%含有させることが好ましい。
〈基材〉
本発明に用いられる基材としては、板状、シート状またはフィルム状の平面形状のもの、あるいはレンズその他成形物等の立体形状のもの等の薄膜をその表面に形成出来るものであれば特に限定はない。基材が静置状態でも移送状態でもプラズマ状態の混合ガスに晒され、均一の薄膜が形成されるものであれば基材の形態または材質には制限ない。形態的には平面形状、立体形状でもよく、平面形状のものとしては、ガラス板、樹脂フィルム等を挙げることが出来る。材質的には、ガラス、樹脂、陶器、金属、非金属等様々のものを使用出来る。具体的には、ガラスとしては、ガラス板やレンズ等、樹脂としては、樹脂レンズ、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板等を挙げることが出来る。
樹脂フィルムは本発明に係る大気圧プラズマ放電処理装置の電極間または電極の近傍を連続的に移送させて透明導電膜を形成することが出来るので、スパッタリングのような真空系のバッチ式ではないので、大量生産に向き、連続的な生産性の高い方式として好適である。
樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂レンズ、樹脂成形物等成形物の材質としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリメチルアクリレート、アクリレートコポリマー等を挙げることが出来る。
これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することも出来る。中でもゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカ(株)製)などの市販品を好ましく使用することが出来る。更に、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルフォン及びポリエーテルスルフォンなどの固有複屈折率の大きい素材であっても、溶液流延製膜、溶融押し出し製膜等の条件、更には縦、横方向に延伸条件等を適宜設定することにより使用することが出来るものを得ることが出来る。
これらのうち光学的に等方性に近いセルロースエステルフィルムが本発明の光学素子に好ましく用いられる。セルロースエステルフィルムとしては、上記のようにセルローストリアセテートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられるものの一つである。セルローストリアセテートフィルムとしては市販品のコニカタックKC4UX等が有用である。
これらの樹脂の表面にゼラチン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂等を塗設したものも使用出来る。またこれら樹脂フィルムの薄膜側に防眩層、クリアハードコート層、バリア層、防汚層等を設けてもよい。また、必要に応じて接着層、アルカリバリアコート層、ガスバリア層や耐溶剤性層等を設けてもよい。
また、本発明に用いられる基材は、上記の記載に限定されない。フィルム形状のものの基材膜厚としては10〜1000μmが好ましく、より好ましくは40〜200μmである。
以下、図をもって本発明に用いられる大気圧プラズマ処理装置を説明する。
第1図は、本発明に好ましく用いられる平板電極型の大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略構成図である。第1の工程(図中、一点鎖線で囲まれた領域、P1と表す、以下同様である)では、移動架台電極(第1電極)8と角形電極(第2電極)7により対向電極(放電空間)が形成され、該電極間に高周波電界が印加され、放電ガス11及び薄膜形成ガス12を含有するガス1がガス供給管15を通して供給され、角形電極7に形成されたスリット5を通り放電空間に流出し、ガス1を放電プラズマにより励起し、移動架台電極8上に置かれた基材4の表面を励起されたガス1(図中、37)に晒すことにより、基材表面に薄膜が形成される。第1の工程で発生する高周波電界を総称して高周波電界Aと表す。
次に、基材4は移動架台電極8と共に第2の工程(図中、二点鎖線で囲まれた領域、P2と表す、以下同様である)に除々に移動する。第1図においては、第1の工程の第1電極と第2の工程の第3電極が共通電極となり、第1の工程の第1電源と第2の工程の第3電源が共通電源となる。
第2の工程では、移動架台電極(第3電極)8と角形電極(第4電極)3とにより対向電極(放電空間)が形成され、該対向電極間に高周波電界が印加され、放電ガス13及び酸化性ガス14を含有するガス2がガス供給管16を通して供給され、角形電極3に形成されたスリット6を通り放電空間に流出し、放電プラズマにより励起され、移動架台電極8上に置かれた基材4の表面を励起されたガス2(図中、38)に晒すことにより、基材表面の薄膜が酸化処理される。移動架台電極8には支持台9上を定速で移動、停止することが可能な移動手段(不図示)を有している。第2の工程で発生する高周波電界を総称して高周波電界Bと表す。
また、ガス2の温度を調整するため、供給パイプ16の途中に温度調節手段17を有することが好ましい。
この第1の工程の薄膜形成と第2の工程の酸化処理工程間を移動架台で往復することにより、所望の膜厚を有する薄膜を形成することができる。
第1電極(移動架台電極)8には第1電源31が接続され、第2電極7には第2電源33が接続され、それらの電極と電源の間には各々第1フィルター32と第2フィルター34が接続されている。第1フィルター32は第1電源31からの周波数の電流を通過しにくくし、第2電源33からの周波数の電流を通過し易くし、また、第2フィルター34はその逆で、第2電源33からの周波数の電流を通過しにくくし、第1電源31からの周波数の電流を通過し易くするというそれぞれの機能が備わったフィルターを使用する。
第1図の大気圧プラズマ処理装置の第1の工程では、第1電極8と第2電極7から構成され対向電極間に、第1電極8には第1電源31からの周波数ω1、電界の強さV1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第2電極7には第2電源33からの周波数ω2、電界の強さV2、電流I2の第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源31は第2電源33より高い高周波電界の強さ(V1>V2)を印加出来、また第1電源8の第1の周波数ω1は第2電源33の第2の周波数ω2より低い周波数を印加出来る。
同様に、第2の工程では第3電極8(第1電極と共通)と第4電極3から構成されている対向電極間に、第1電極8からは第1電源31からの周波数ω1、電界の強さV1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第4電極3からは第4電源35からの周波数ω4、電界の強さV4、電流I4の第4の高周波電界が印加されるようになっている。
第1電源31は第4電源35より高い高周波電界の強さ(V1>V4)を印加出来、また第1電源8の第1の周波数ω1は第4電源35の第2の周波数ω4より低い周波数を印加出来る。
また、第1図に前述の高周波電界の強さ(印加電界強度)と放電開始電界の強さの測定に使用する測定器を示した。25及び26は高周波電圧プローブであり、27及び28はオシロスコープである。
上述の様に、対向電極を形成する角形電極7と移動架台電極8には周波数の異なる2種の高周波電圧を印加することにより、窒素ガスのような安価なガスを用いても良好なプラズマ放電を形成することが可能であり、その後速やかに酸化雰囲気での処理を施すことにより、優れた性能を有する薄膜を形成することが可能である。尚、本装置はガラス等の平板基材を用いた枚葉の薄膜形成に適しており、特に導電性が高く、エッチング処理が容易な透明導電膜の形成に適するものである。
本発明においては、透明導電膜を形成する際には、第2図に示すような遮蔽羽根を有する薄膜形成装置を用いることが更に好ましい。第2図(a)は薄膜形成装置の平面図であり、同図(b)は正面図である。第1の工程においては、2枚の電極板と2個のスペース材44により中央にガスを通すスリット55を形成した角形電極(第2電極)41と移動架台電極(第1電極)42とで対向電極を構成している。供給パイプから供給されたガス1は、スリット55の出口から放電空間に吹き出され、角形電極(第2電極)41底面と移動架台電極(第1電極)42の間隙で形成される放電空間でプラズマにより励起される。移動架台電極42上の基材4は励起されたガス1(図中、37′)に晒され薄膜が形成される。移動架台電極42は基材4を載せたまま徐々に移動し、基材4上に形成された薄膜を第2の工程へ移動して行く。酸化性ガスの供給パイプから供給されたガス2は、同様に放電空間において励起され、第1の工程で形成した薄膜を励起されたガス2(図中、38′)に晒す。上記装置は、角形電極41、43の両側に遮蔽羽根48、49を設けたものであり、透明導電膜の製膜においては、第2の工程の酸化雰囲気は極少量の酸素を必要とするもので、大気中の酸素は過剰量を含有しており、大気の影響を抑制し、制御された酸素濃度を基材表面に供給するのに適している。
第1の工程で形成される薄膜の1回当たりの堆積膜厚は10nm以下であることが好ましく、第1の工程および第2の工程を複数回繰り返すことが好ましく、形成される薄膜の膜厚は50nm以上1μm以下であることが好ましい。
基材上に形成された薄膜を透明導電膜として、各種ディスプレイ素子の電極として用いる場合、基材上に回路を描くパターニング工程は必須なものであり、パターニングが容易に行うことが出来るかどうかが工程適性上重要な課題である。一般に、パターニングはフォトリソグラフ法により行われることが多く、導通を必要としない部分はエッチングにより溶解、除去するため、該不要部分のエッチング液による溶解の速さ及び残渣が残らないことが重要な課題であり、本発明の薄膜製造方法によって得られる透明導電膜はエッチング性が非常に良好である。
第3図は本発明に有用なロール回転電極型の大気圧プラズマ処理装置の一例を示す概略図である。
第3図に示される大気圧プラズマ処理装置は、第1の工程の薄膜形成を行うプラズマ発生部位と第2の工程の酸化性ガスをプラズマ励起する部位が、ロール回転電極(第1電極)70の回転方向に直列に配置された構造を有する装置であり、第1の工程の第1電極と第2の工程の第3電極が共通のロール電極となる構造を有するものである。
第1の工程のロール回転電極(第1電極)70と角型電極(第2電極)50との対向電極間(放電空間)に、ガス供給管60によりガス1が供給され、該ガス1はプラズマ放電により励起され、基材F上に薄膜を形成し、更にロール回転電極上に隣接して設置された第2の工程の、ロール回転電極(第3電極と第1電極が共通)70と角型電極(第4電極)51との対向電極間(放電空間)に、ガス供給管61により酸化性のガス2が供給され、該ガス2はプラズマ放電により励起され、第1の工程で形成された薄膜の表面を酸化処理する構造となっている。
第1の工程の、ロール回転電極(第1電極)70には第1電源71から周波数ω1、電界の強さV1、電流I1の第1の高周波電界を、また角型電極(第2電極)50には第2電源73から周波数ω2、電界の強さV2、電流I2の第2の高周波電界を印加するようになっている。
ロール回転電極(第1電極)70と第1電源71との間には、第1フィルタ72が設置されており、第1フィルタ72は第1電源71から第1電極70への電流を通過しやすくし、第2電源73からの電流をアースして、第2電源73から第1電源71への電流を通過しにくくするように設計されている。また、角型電極(第2電極)50と第2電源73との間には、第2フィルタ74が設置されており、第2フィルター74は、第2電源73から第2電極50への電流を通過しやすくし、第1電源71からの電流をアースして、第1電源71から第2電源73への電流を通過しにくくするように設計されている。
更に、第2の工程においては、ロール回転電極(第3電極は第1電極と共通)70と角型電極(第4電極)51との間の放電空間(対向電極間)に、ロール回転電極70には第3電源(第1電源と共通)71から周波数ω3、電界の強さV3、電流I3の第3の高周波電界を、また角型電極(第4電極)51には第4電源75から周波数ω4、電界の強さV4、電流I4の第4の高周波電界を印加するようになっている。
基材Fは、図示されていない元巻きから巻きほぐされて搬送されて来るか、または前工程から搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極70に接触したまま巻き回しながら角型電極50との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)70と角型電極(第2電極)50との対向電極間(放電空間)でプラズマを発生させる。基材Fはロール回転電極70に接触したまま巻き回され、ガス1はプラズマにより励起され、励起されたガス1(図中、57)により基材F上に薄膜を形成する。続いて基材Fは、第2の工程に移動し酸化性ガスを含有するガス2は励起され、励起されたガス2(図中、58)に薄膜表面が晒されることにより酸化処理が行われる。更にガイドロール67を経て排出される。
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)70及び角型電極(第2電極)50、(第4電極)51を加熱または冷却するために、電極温度調節手段(不図示)で温度を調節した媒体を、送液ポンプで両電極に送り、電極内側から温度を調節することが好ましい。
排出された基材Fは巻き取られるか次工程に移送される。巻き取られた基材Fは更に前記と同様の処理を繰り返し行ってもよい。
また、第4図は、第3図に示したロール回転電極型の処理装置を2個直列に配置した大気圧プラズマ処理装置を示す。これにより基材Fを2段処理することができ、更に、段数を増やして多段処理を行うこともできる。又、各処理装置毎に処理条件を変えて、積層した薄膜を形成してもよい。
このようなロール回転電極型のプラズマ処理装置により形成される薄膜としては、フィルム基材を用いた薄膜の形成に適しており、前述の種々の薄膜を形成することが可能である。特に透明導電膜や、比較的膜厚を厚く形成できる有機金属化合物を用いた、反射防止用フィルムや防眩用フィルム、絶縁膜フィルム等の形成に適している。
第5図は、第3図に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
第5図において、ロール電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。プラズマ放電処理中の電極表面温度を制御するため、温度調節用の媒体(水もしくはシリコンオイル等)が循環できる構造となっている。
第6図は、第1〜3図の移動架台電極や角型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
第6図において、角型電極36は導電性の金属質母材36Aに対し、第5図同様の誘電体36Bの被覆を有しており、該電極の構造は金属質の角パイプになっていて、それがジャケットとなり、放電中の温度調節が行えるようになっている。
第5及び6図において、ロール電極35a及び角型電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A、36Aの上に誘電体35B、36Bとしてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度の被覆があればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
第7図に、工程で放電空間に放電ガスを供給し、励起した放電ガスと薄膜形成ガスを接触させる装置の例を示す。図の各部の名称は以下の通りである。
701 基材
702a、702b 印加電極
703a、703b、707 金属母体
704a、704b、706 誘電体
705 アース電極
708 高周波電源
709 アース
710 ガス導入部
711 薄膜形成ガス通路
712a、712b 放電ガス通路
713a、713b 保温制御システム
714a、714b 薄膜形成ガス通路壁
715a、715b 放電ガス通路壁
【実施例】
本発明を実施例により詳述するが、これらに限定されない。
[実施例1]
〔サンプル11の作製:本発明〕
第1図に示した大気圧プラズマ処理装置を用い、基材として無アルカリガラス(コーニング社製、コーニング7059、厚さ0.5mm)を用い、透明導電膜の膜厚が100nmとなるように以下の方法で作製した。
ここで第1電極の移動架台電極及び第2電極と第4電極の角形電極は、角状の中空のチタンパイプに対し、誘電体としてセラミック溶射加工を行い、片肉で1mm被覆で製作した。
以下に各工程の条件を記すが、ωは電界の周波数、Vは電界の強さ、Iは電流を表し、その後に続く数値は各電界の引数を表す。また、IVは放電開始電界の強さを表し、その後に続く数値は工程の引数を表す。
〔第1の工程:製膜工程〕
(電源条件)
重畳する電源:
第1電源(ハイデン研究所インパルス高周波電源):ω1:100kHz、V1:6kV、I1:8mA/cm、出力密度:16W/cm
第2電源(パール工業製高周波電源):ω2:13.56MHz、V2:750V、I2:150mA、出力密度:11W/cm
IV1:3.5kV
電極間ギャップ:1.5mm
(ガス1条件)
Inアセチルアセトナート気化用N2ガス:10L/min、170℃
ジブチルスズジアセトナート気化用N2ガス:1.0L/min、170℃
放電ガス N2:40L/min
還元性ガス H2:1.0L/min
〔第2の工程:酸化工程〕
(電源条件)
重畳する電源:
第3電源(第1電源と共通):ω3:100kHz、V3:6kV、I3:8mA、出力密度:16W/cm
第4電源(パール工業製高周波電源):ω4:13.56MHz、V4:750V、I4:150mA/cm、出力密度:11W/cm
IV2:3.5kV
(ガス2条件)
放電ガス N2:10L/min
酸化性ガス O2:0.01L/min
サンプル11の場合、30分、700回の往復処理で100nmの薄膜形成を行った。
〔サンプル12の作製:本発明〕
サンプル11の作製において、第1の工程の放電ガスをArとし、還元ガスは用いず、電源としては、第1電源は用いず第2電源のみとし、第2の工程の放電ガスをArとし、電源としては、第3電源は用いず第4電源のみを用いた以外はサンプル11と同様の条件で製膜し、膜厚100nmのサンプル12を形成した。
〔サンプル13の作製:比較例〕
サンプル11の作製において、ガス1とガス2を混合して第1の工程に入れて製膜し、第2の工程は窒素ガスのみを用いた以外はサンプル11と同様の条件で製膜し、膜厚100nmのサンプル13を形成した。
〔サンプル14の作製:比較例〕
サンプル13の作製において、第2電源の条件を下記の様に変更した以外はサンプル13と同様の条件で製膜し、膜厚100nmのサンプル14を形成した。
第2電源(パール工業製高周波電源):ω2:13.56MHz、V2:1.5kV、I2:300mA、出力密度:22W/cm
〔サンプル15の作製:本発明〕
サンプル11の作製において、第1の工程で10nm堆積させてから第2の工程で酸化処理を行い、これを10回繰り返して膜厚100nmのサンプル15を形成した。
〔サンプル16の作製:本発明〕
サンプル11の作製において、第1の工程で20nm堆積させてから第2の工程の酸化処理を行い、これを5回繰り返して膜厚100nmのサンプル16を形成した。
得られた各サンプルを下記項目で評価した。評価結果を表1に示す。
〔評価項目〕
《透過率》
JIS−R−1635に従い、日立製作所製分光光度計U−4000型を用いて550nmにおける透過率を測定した。
《体積抵抗率》
JIS−R−1637に従い、四端子法により求めた。なお、測定には三菱化学製ロレスターGP、MCP−T600を用いた。
《エッチング性》
各サンプルの透明導電膜上にフォトリソグラフ用感光液を塗布、乾燥し、パターン露光を行い、現像処理後、下記組成のエッチング液(30℃)に浸漬し、エッチング処理を行った。エッチング時間は30秒、45秒、60秒、120秒、180秒でサンプリングした。続いて水洗、乾燥を行い、乾燥後の試料についてエッチング部と非エッチング部との境界部分の断面を電子顕微鏡により観察し、また膜の除去の具合を目視によって評価した。
〈エッチング液組成〉
水、濃塩酸及び40質量%第二塩化鉄溶液を質量比で85:8:7で混合したものをエッチング液とした。
〈エッチングパターンの評価レベル〉
A:30秒で透明導電膜が除去出来、エッチングパターンの境界部分が頗る良好なもの
B:45秒で透明導電膜が除去出来、エッチングパターンの境界部分が頗る良好なもの
C:60秒で透明導電膜は除去出来、エッチングパターンの境界部分が頗る良好なもの
D:120秒で透明導電膜は除去出来たが、エッチングパターンの境界部分があまり良好でない
E:180秒を超しても透明導電膜が若干残っている部分があり、エッチングパターンの境界部分がギザギザ(凸凹)していた
F:180秒を超しても透明導電膜が島状に残っている。
得られた結果を表1に示す。
【表1】

本発明の試料は、製膜後に酸化処理を施すことで優れた薄膜が得られることが分かる。サンプル13、14のデータから、ガス1とガス2を混合して第1の工程に入れて製膜したものは、体積抵抗率が高く、エッチング性も劣り、好ましい透明導電膜は得られなかった。又、第1の工程を長くして製膜量を厚くするとその効果は低下する傾向にあり、1回当たりの堆積量は10nm以下であることがより好ましい。
[実施例2]
第2図に示す遮蔽羽根を有する薄膜形成装置を用い、実施例1におけるサンプル11に相当する条件で実施したところ、以下の様な良好な結果が得られた。
透過率:97%
体積抵抗率:1.5×10−4Ω・cm
エッチング性:A
[実施例3]
第3図に示すロール回転電極型大気圧プラズマ処理装置を用い、基材として厚さ100μm、ロール状PETフィルムを用い、実施例1と同様にして、透明導電膜を作製した。
ここでロール電極に対し誘電体はセラミック溶射加工を行い片肉で1mm被覆で製作した。角形電極も、角状の中空のチタンパイプに対し同様の加工を行い、ロール電極上に電極間ギャップを1mmとし、第1の工程の薄膜形成用と第2の工程の酸化処理用として2本設置した。更にロール電極側は、冷却水による冷却機能を有するステンレス製ジャケットロール母材を使用した。放電中は保温水による熱交換を行いながら実施した。ロール電極は、モータドライブにて回転させた。
ガス1,2及び電源条件は実施例1におけるサンプル11に相当する条件とし、1パスで製膜される膜厚を10nmとし、10パスで100nm製膜した以外はサンプル11と同様の条件で行った。
ロール回転電極を用いた装置でも、実施例1と同様に、低抵抗で、透過率が高く、エッチング性に優れた透明導電膜が得られた。これに比し、ガス1とガス2を混合して第1の工程に導入した条件(実施例1のサンプル13、14に相当)のものは高抵抗でエッチング性が低い透明導電膜となった。
[実施例4]
〔サンプル21の作製:本発明〕
基材として厚さ100μmのロール状PETフィルムを用い、実施例3で用いた第3図に示すロール回転電極型プラズマ処理装置を用いて、TiO2薄膜を形成した。
ロール電極及び角形電極の作製条件は実施例3と同様である。
ここで使用する電源は、ロール電極(第1電極)に応用電機製高周波電源(80kHz)を接続し、角形電極(第2電極及び第4電極)には各々パール工業製高周波電源(13.56MHz)を接続し、下記の条件で製膜を行った。
1パスで付く膜厚を20nmとし、5パスで100nm製膜した。
《第1の工程:製膜工程》
(電源条件)
重畳する電源:
第1電源(応用電機製高周波電源):ω1:80kHz、V1:6kV、I1:8mA/cm、出力密度:16W/cm
第2電源(パール工業製高周波電源):ω2:13.56MHz、V2:750V、I2:130mA、出力密度:10W/cm
IV1:3.5kV
〈ガス1〉
放電ガス:N2
還元性ガス:H2(全ガス量に対し3%)
反応ガス:テトライソプロポキシチタン蒸気0.3%
(リンテックス社製気化器にて窒素ガス中へ気化)
《第2の工程:酸化工程》
重畳する電源:
第3電源(第1電源と共通):ω3:80kHz、V3:6kV、I3:8mA/cm、出力密度:16W/cm
第4電源(パール工業製高周波電源):ω4:13.56MHz、V4:800V、I4:180mA、出力密度:15W/cm
IV2:3.5kV
〈ガス2〉
放電ガス:N2
酸化性ガス:O2(全ガス量に対して10%)。
1回での製膜速度を50nm/secとした。
〔サンプル22〜28の作製〕
サンプル21の作製において、第2の工程の酸化性ガスを表2に記載の添加ガスに変えて各サンプル22〜28を作製した。尚、サンプル27は第2の工程において添加ガスを加えず、放電ガスのみとしたものであり、サンプル28は第2の工程を行わず、第1の工程のみで製膜を行ったものである。
〈屈折率:膜の緻密度の評価〉
ポーラス構造をとり緻密さに欠ける場合、孔部に空気が入るため、屈折率が低下することより、屈折率でその緻密度を代用評価した。
屈折率の評価に当たっては、前記薄層の分光反射率を分光光度計1U−4000型(日立製作所製)を用いて、5度正反射の条件にて反射率の測定を行った。測定は、基材の薄膜形成の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーを用いて光吸収処理を行い、フィルム裏面での光の反射を防止して、波長400nm〜700nmにおける反射率の測定を行った。該スペクトルのλ/4値より光学膜厚を算出し、それを基に屈折率を算出した。ここでは、最も高い屈折率を該薄膜の屈折率として採用した。評価した結果を表2に示す。
【表2】

製膜速度を50nm/secと非常に速くしても、良質の薄膜を形成することができ、本発明の構成とすることにより、屈折率が2.1以上と高い膜質を得ることが出来た。
[実施例5]
実施例4で使用した大気圧プラズマ処理装置を2台直列に配置した、第4図に示す大気圧プラズマ処理装置を用いて、薄膜を形成した。ここでは、電源条件は実施例4と同様にし、フィルムの搬送速度を2倍に上げて、1台当たりの1パスで付く膜厚を1/2の10nmとした。
これにより得られた膜質は、屈折率で2.31と更に膜質を向上させることが出来た。
これは、同じ膜厚の薄膜を形成する場合には、1回当たりの膜厚を薄くし、第1の工程の製膜条件と第2の工程の酸化条件を交互に回数を増やして行った方が膜質は向上することを示している。
[実施例6]
〔サンプル31,32の作製〕
更に実施例5で用いた大気圧プラズマ処理装置連続製膜装置を用い、1台目でTiO2膜22nmを製膜し、更に2段目でその上へ、SiO2膜を120nm積層して、反射防止機能膜(サンプル31:本発明)を作製した。本発明のサンプル31の作製において、1段目及び2段目の各第2の工程の酸化工程を除いて第1の工程のみで製膜したものをサンプル32とした。
下記のようにして反射防止機能膜の高温高湿耐性を評価した。環境条件としては、80℃、90%RHの条件下で24hr放置し、基材との膜付性を評価した。
〈膜付評価〉
形成された薄膜に、90°の角度で剃刀を入刀し、ニチバン製セロテープ(R)を貼り付け、勢い良く引き離すピール試験法により行った。その結果を表3に示す。
【表3】

本発明の試料は、連続高速製膜条件においても、高温高湿下で劣化しない薄膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、生産速度を速くしても品質の高い薄膜が得られ、低コストで薄膜を形成することが可能となった。
【図1】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に放電ガスを供給して励起し、前記励起した放電ガスのエネルギーを薄膜形成ガスに伝えて励起し、基材を、前記励起した薄膜形成ガスに晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガスを供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガスに晒す第2の工程とを有することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に放電ガスを供給して励起し、前記励起した放電ガスと薄膜形成ガスとを接触させ、基材を、前記接触させた薄膜形成ガスに晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガスを供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガスに晒す第2の工程とを有することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項3】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、高周波電界Aを発生させた第1の放電空間に薄膜形成ガスを含有するガス1を供給して励起し、基材を、前記励起した薄膜形成ガスを含有するガス1に晒すことにより、前記基材上に薄膜を形成する第1の工程と、高周波電界Bを発生させた第2の放電空間に酸化性ガスを含有するガス2を供給して励起し、前記第1の工程で形成された前記薄膜を、前記励起した酸化性ガスを含有するガス2に晒す第2の工程とを有することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項4】
前記高周波電界Aが、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、ガス1が、前記薄膜形成ガスの他に、放電ガスの50体積%以上の窒素、および、還元性ガスを含有するガスであることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記還元性ガスが水素であることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程の放電空間が、対向する第1電極と第2電極で構成され、前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIV1との関係が、
V1≧IV1>V2またはV1>IV1≧V2を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
前記高周波電界Bが、第3の高周波電界および第4の高周波電界を重畳したものであることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の薄膜製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程の放電空間が、対向する第3電極と第4電極とで構成され、前記第3の高周波電界を前記第3電極に印加し、前記第4の高周波電界を前記第4電極に印加することを特徴とする請求の範囲第8項に記載の薄膜製造方法。
【請求項10】
前記第1電極と第3電極が同一の電極であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項11】
前記第3の高周波電界の周波数ω3より前記第4の高周波電界の周波数ω4が高く、前記第3の高周波電界の強さV3、前記第4の高周波電界の強さV4および放電開始電界の強さIV2との関係が、
V3≧IV2>V4またはV3>IV2≧V4を満たし、
前記第4の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の薄膜製造方法。
【請求項12】
前記薄膜が金属酸化物薄膜であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項13】
前記薄膜が透明導電性薄膜であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項14】
前記薄膜形成ガスが、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、アンチモン(Sb)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)から選ばれる少なくとも一つの金属原子を含有する有機金属化合物であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項15】
前記第1の工程と前記第2の工程を交互に複数回行うことを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項16】
前記第1の工程で形成される薄膜の1回当たりの堆積膜厚が10nm以下であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法。
【請求項17】
大気圧もしくはその近傍下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガス1を供給し、前記放電空間に高周波電界Aを印加することにより前記ガス1を励起し、基材を励起したガス1に晒すことにより基材上に薄膜を形成する第1の工程を少なくとも行う薄膜製造方法において、
前記高周波電界Aが、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIV1との関係が、
V1≧IV1>V2またはV1>IV1≧V2を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であり、
前記ガス1が、前記薄膜形成ガスの他に、放電ガスの5.0体積%以上の窒素、および、還元性ガスを含有するガスであり、
前記薄膜形成ガスが有機チタン化合物を含有するガスであり、
前記第1の工程の後に、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に酸化性ガスを含有するガス2を供給し、前記放電空間に高周波電界Bを印加することにより前記ガス2を励起し、ガス1により形成された薄膜を有する基材を励起したガス2に晒す第2の工程を行うことを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項18】
前記還元性ガスが水素であることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の薄膜製造方法。
【請求項19】
前記第1の工程の放電空間が、対向する第1電極と第2電極で構成され、前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする請求の範囲第17項に記載の薄膜製造方法。
【請求項20】
前記高周波電界Bが、第3の高周波電界および第4の高周波電界を重畳したものであることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の薄膜製造方法。
【請求項21】
前記第2の工程の放電空間が、対向する第3電極と第4電極とで構成され、前記第3の高周波電界を前記第3電極に印加し、前記第4の高周波電界を前記第4電極に印加することを特徴とする請求の範囲第20項に記載の薄膜製造方法。
【請求項22】
前記第1電極と第3電極が同一の電極であることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の薄膜製造方法。
【請求項23】
前記第3の高周波電界の周波数ω3より前記第4の高周波電界の周波数ω4が高く、前記第3の高周波電界の強さV3、前記第4の高周波電界の強さV4および放電開始電界の強さIV2との関係が、
V3≧IV2>V4またはV3>IV2≧V4を満たし、
前記第4の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする請求の範囲第20項に記載の薄膜製造方法。
【請求項24】
前記第1の工程と前記第2の工程を交互に複数回行うことを特徴とする請求の範囲第17項に記載の薄膜製造方法。
【請求項25】
前記第1の工程で形成される薄膜の1回当たりの堆積膜厚が20nm以下であることを特徴とする請求の範囲第17項に記載の薄膜製造方法。
【請求項26】
請求の範囲第3項に記載の薄膜製造方法により形成された薄膜を有することを特徴とする基材。

【国際公開番号】WO2005/007927
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511837(P2005−511837)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010085
【国際出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】