表示装置の製造方法
【課題】これまで高分子発光化合物の塗り分け工程には必須であった絶縁層の存在が原因で引き起こされる装置の劣化や性能低下を回避すること。
【解決手段】複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を塗布することにより各電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、前記組成物を塗布することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【解決手段】複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を塗布することにより各電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、前記組成物を塗布することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、この方法により製造される有機エレクトロルミネッセンス表示装置及びこれを用いた電子機器に関する。より具体的には、複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成して、対応する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子からなる表示装置を製造する方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、有機エレクトロルミネッセンス層(発光層)を形成する有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、この方法により製造される有機エレクトロルミネッセンス表示装置及びこれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス装置は、将来的に究極の薄型、軽量、小型、低消費電力などを実現する表示装置として、近年注目されている。この有機エレクトロルミネッセンス装置は、今後広汎に用いられるようになると期待されている。特に、低温多結晶シリコン薄膜トランジスタと組み合わせることにより、一層の薄型化、軽量化、小型化が実現できる。低温多結晶シリコン薄膜トランジスタ駆動有機エレクトロルミネッセンス装置は、理想的な装置のひとつとなり得る(T.Shimoda, M.Kimura, et al., Proc. AsiaDisplay 98, 217(1998), M.Kimura, et al., IEEE Trans. Elec. Dev., to bepublished;非特許文献1)。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としては、真空プロセスと、液相プロセスがある。一般に、低分子系の有機エレクトロルミネッセンス素子(本明細書においては、表示パネルを構成する画素のひとつひとつを有機エレクトロルミネッセンス素子と呼ぶ。)には、蒸着法、スパッタ法等の真空プロセスが用いられる。
【0004】
一方、高分子系の有機エレクトロルミネッセンス素子には、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷、あるいは無版印刷法が用いられる。無版印刷法では、スピンコート法、スキージ塗布法、インクジェット法、ノズルコート法等のウェットプロセスが用いられる。
中でも特にインクジェット法は、成膜と色の塗りわけのパターニングを同時に行うことが可能で、有望な方法であると言われている。
【0005】
ただし、インクジェット法は塗布により同一基板上に特性の異なる薄膜をパターン形成する方法であり、基板上で異なる薄膜材料が混合し、吐出された液体材料が隣接する画素に流出するなどの問題が生じるために、各画素間にこの素子を分離する構造である絶縁層を設けることが必要になる(特開2002−305077;特許文献1)。なお、ここでいう絶縁層とは、各画素間に設けられ、各画素の有機エレクトロルミネッセンス素子を分離する構造をさす。
しかし、この絶縁層を形成して有機エレクトロルミネッセンス装置を作製する方法には以下に記載するような問題点がある。
【0006】
絶縁層としては、Proc. Asia Display 98, 217(1998),IEEE Trans. Elec. Dev.(非特許文献2)に記載されているような第1の絶縁層および第2の絶縁層を備えた構造が用いられている。そのような従来の有機エレクトロルミネッセンス装置の断面図を図1に示し、図2(a)〜(d)にその製造方法(工程)を示す。
【0007】
本従来例の有機エレクトロルミネッセンス装置は、陽極(3)上に、第1の絶縁層(1)と、第(2)の絶縁層(2)を備えている。これら第1の絶縁層(1)と第2の絶縁層(2)が形成された後に、インクジェット法などにより、各色に対応して異なる化合物で形成される有機エレクトロルミネッセンス層(4)が成膜され、その上に陰極(5)が成膜され、有機エレクトロルミネッセンス装置が完成する。
第2の絶縁層(2)は、適当な表面処理により、撥液性に制御される。これにより、有機エレクトロルミネッセンス層(4)がインクジェットプロセスなどにより各画素に塗布される際の混色が抑制される。
【0008】
しかしながら、第2の絶縁層(2)を撥液性に制御することにより、第2の絶縁層(2)のエッジの周辺で、有機エレクトロルミネッセンス層(4)が薄くなる領域(6)が発生してしまい、均一に成膜することが困難になる。
この(6)の部分に陽極(3)および陰極(5)が存在すると、短絡が発生し、リーク電流が著しく増加してしまう。そこで、第2の絶縁層(2)のエッジの周辺では、短絡が発生しないように、第1の絶縁層(1)が設けられている。
【0009】
図2に示す工程では、陽極(3)はITOで形成され、第1の絶縁層(1)は珪酸エチル(tetraethoxy silane:TEOS)のプラズマ化学気相成長法(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:PECVD)によりSiO2で形成され、第2の絶縁層(2)はポリイミドのスピンコート法により形成されている。
【0010】
本従来例では、ITOで形成された陽極(3)上に、第1の絶縁層(1)が成膜され(図2(a))、そのあと、陽極(3)上の発光させたい部分に開口部がくるようにパターニングされる(図2(b))。次に、液相プロセスにより、第2の絶縁層(2)が成膜され(図2(c))、陽極(3)上の発光させたい部分に開口部がくるようにパターニングされる(図2(d))。
【0011】
図2からわかるように、第1の絶縁膜(1)にはかなり厚い薄膜が使用されているので、第2の絶縁層(2)の、第1の絶縁層(1)の開口部での厚さは、他の部分より大幅に厚くなっている。
このため、第2の絶縁層(2)をエッチングする際に、薄い部分に合わせてエッチング時間を設定すれば、厚い部分でエッチング残渣が発生する恐れがある。図2(d)中の(7)は、こうして発生した開口部のエッチング残渣である。また、厚い部分に合わせてエッチング時間を設定すれば、薄い部分で大きなサイドエッチが発生する恐れがある。
【0012】
また、第1の絶縁層(1)は真空プロセスにより形成されているため、第1の絶縁層(1)の表面は平坦でない。すなわち、陽極(3)の有無により、表面に起伏が存在している。そして、この表面の起伏に対応して、第2の絶縁層(2)の膜厚不均一性が存在し、この膜厚不均一性に起因して、第2の絶縁層(2)のエッチング残渣が発生する恐れがある。図2(d)中の(8)は、こうして発生した表面起伏部のエッチング残渣である。この表面起伏部のエッチング残渣(8)を完全に除去しようと思うと、他の場所で大きなサイドエッチが発生する恐れがあるなど、残渣や表面凹凸が原因で生じる有機エレクトロルミネッセンス装置の性能低下は大きな問題である。
【0013】
また、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の発光特性を向上させるためには、有機エレクトロルミネッセンス化合物を成膜する表面の清浄さ、凹凸に加え、仕事関数などを化合物に応じて最適値に制御する必要がある(特開2004−63210公報;特許文献2)。そのため、有機エレクトロルミネッセンス化合物を塗布しようとする表面を液体洗浄したり、酸素プラズマ処理などにより基板表面に付着している有機物などの不純物を取り除いたりするなどの工程が必要になるが、前述の絶縁層が存在する基板表面を完全に洗浄したり、表面処理を均一に行うのは非常に困難である(特開2001−126867号公報;特許文献3)。
【0014】
このように欠点を伴うにも関わらず、相変わらず絶縁層を設けて有機エレクトロルミネッセンス装置を作製しなくてはならないのは、従来の高分子有機エレクトロルミネッセンス化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス装置の構成においては、陽極/正孔注入層/有機エレクトロルミネッセンス層/陰極という積層構成が基本であり、陽極と有機エレクトロルミネッセンス層との間には、正孔注入層を設けなければ実用に耐える有機エレクトロルミネッセンス装置を作成することが出来なかったためである(特許公表2000−516760号公報;特許文献4)。
【0015】
正孔注入層としては、陽極から正孔を効率よく有機エレクトロルミネッセンス層に注入する働きを有するものであれば化合物の種類は問わないが、従来、水溶性の導電性ポリマー(スタルクヴィテック社のバイトロン(登録商標))が広く用いられている。正孔注入層に必要な条件としては、その上に塗布積層する有機エレクトロルミネッセンス化合物によって、正孔注入層が再溶解しないということが挙げられる。
また、有機エレクトロルミネッセンス化合物は有機溶媒に溶解して塗布するため、正孔注入層は有機溶剤に不溶性(すなわち、水溶性)であることが望ましい。
【0016】
つまり、正孔注入層を必要とする有機エレクトロルミネッセンス化合物を用いて、有機エレクトロルミネッセンス装置を作成する工程としては、まず陽極表面に水溶性の正孔注入層を塗布する必要があるが、陽極表面が撥水性では正孔注入層がはじかれてしまい、塗布することが出来ない。
そのため、正孔注入層を形成したい電極表面部分は親水性に保ち、形成したくない電極間部分にはいわば堤防状の撥水性の絶縁層を形成するようにパターンニングを行う必要があり、このために絶縁層の形成は必須であった。
【0017】
【特許文献1】特開2002−305077号公報
【特許文献2】特開2004−63210号公報
【特許文献3】特開2001−126867号公報
【特許文献4】特許公表2000−516760号公報
【非特許文献1】T.Shimoda, M.Kimura, et al., Proc. AsiaDisplay 98, 217(1998), M.Kimura, et al., IEEE Trans. Elec. Dev., to bepublished
【非特許文献2】Proc. Asia Display 98, 217(1998),IEEE Trans. Elec. Dev.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明の課題は、有機エレクトロルミネッセンス装置の特性向上に必要な素子表面の清浄さ、平滑性を損なう絶縁層を形成しない状態、または絶縁層を遙かに薄い状態にしても安定かつ高性能な有機エレクトロルミネッセンス装置を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来高分子有機エレクトロルミネッセンス発光化合物の塗布成膜に必要とされていた絶縁層を形成しない、または絶縁層が遙かに薄い状態でエレクトロルミネッセンス発光化合物を塗布することが可能であり、絶縁層由来の装置の性能低下を回避できる有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を見出した。
すなわち、有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む層の塗布面である基板の表面に撥水性の薄膜を形成するなどして撥水性を付与することにより、絶縁層を形成しない状態、または絶縁層が遙かに薄い状態でも有機エレクトロルミネッセンス化合物層をパターニング成膜することが可能であり、しかも有機エレクトロルミネッセンス特性も良好な有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明は、以下の構成からなる。
1.複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を塗布することにより各電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、前記組成物を塗布することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
2.前記撥水処理が、撥水性の薄膜の形成を含む前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
3.撥水性の薄膜が、厚さ0.2〜30nmである前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
4.撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜3000nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜80度の絶縁層を設ける前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
5.撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜500nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜30度の絶縁層を設ける前記4に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
6.有機エレクトロルミネッセンス層が高分子有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む層である前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
7.撥水性の薄膜を形成する方法が、基板の表面にフッ化膜を形成する処理である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
8.フッ化膜がフルオロカーボン系化合物を反応ガスとするプラズマ処理によって形成されるものである前記7記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
9.撥水性の薄膜の表面粗さがRa値で1nm以下である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
10.撥水性の薄膜の表面突起高さが10nm以下である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
11.撥水性の薄膜を、気体状有機化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により有機薄膜として形成することを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
12.陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、薄膜を成膜した後に最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
13.陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、気体状化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により薄膜を形成し、次いで最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
14.撥水性の薄膜の形成方法が、基板表面をスパッタ法により処理し、SiO2の薄膜を形成する方法である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
15.最適化処理が溶剤による洗浄処理である前記12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
16.陽極の表面粗さ及び突起の高さを調整するため、酸素、アルゴン、フルオロカーボンから選ばれる1または2種以上を含むガス中で高周波プラズマ処理を行う前記12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
17.撥水性の薄膜に対する水の接触角が30°以上である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
18.有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷または無版印刷法で複数の電極上に塗布する前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
19.有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、インク噴射による無版印刷法により塗布する前記18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
20.有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、ノズルコート法により塗布する前記18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
21.有機エレクトロルミネッセンス化合物が燐光発光性高分子化合物である前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
22.有機エレクトロルミネッセンス化合物が蛍光発光性高分子化合物または非共役系燐光発光性高分子である前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
23.前記1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置。
24.前記1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法に含まれる方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置用基板。
25.前記23に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えている電子機器。
26.電子機器が、面発光光源、装置用バックライト、装置、照明装置、インテリア、またはエクステリアである前記25に記載の電子機器。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、陽極基板表面に絶縁層を形成しない状態、または絶縁層が遙かに薄い状態でも有機エレクトロルミネッセンス発光化合物を塗布することが可能であり、安定で高性能な有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について、添付図面(図3〜図20)を参照しつつより詳細に説明する。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、有機エレクトロルミネッセンス発光化合物を、表面に撥水性の薄膜を形成するなどして撥水性を付与した基板上に所定のパターン形状に、好ましくはノズルコート法により塗布成膜して有機エレクトロルミネッセンス装置を製造する方法である。
【0023】
[有機エレクトロルミネッセンス装置の構成]
まず、有機エレクトロルミネッセンス装置の構成について説明する。先ず、平板状の基板(図8のS)の表面上に陽極材料からなる膜(3)を成膜する。ここで、基板の例としては、ガラス基板が挙げられるが、これに限らず、発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板であれば使用できる。あるいはTFT(thin film transistor:薄膜トランジスター)付きの基板上でも構わない。またPET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネートを始めとする透明プラスチックなどの既知のフレキシブルな材料も使用できる。
【0024】
[陽極について]
基板に成膜する陽極は、ITO(インジウム錫酸化物)に代表される導電性で光透過性の層が最も一般的である。有機発光を基板を通して観察する場合には、陽極と基板の光透過性は必須であるが、有機発光をトップエミッション、すなわち上部の電極を通して観察する用途では陽極の透過性は必要なく、仕事関数が4.1eVよりも高い金属あるいは金属化合物のような適当な任意の材料を陽極として用いることができる。
【0025】
例えば、金、ニッケル、マンガン、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金などを組み合わせて、あるいは単一で用いることが可能である。この陽極は、金属の酸化物、窒化物、セレン化物及び硫化物からなる群より選ぶこともできる。また、光透過性の良好なITOの表面に、光透過性を損なわないように1〜3nmの薄い膜として、上記の金属を成膜したものも陽極として用いることができる。これらの陽極材料表面への成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法、真空蒸着法などを用いることができる。陽極の厚さは2〜300nmが好ましい。
【0026】
[撥水層について]
本発明においては、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用する。撥水処理を電極間に施すことにより堤防状の絶縁層が不要となり、また、撥水処理を電極表面に施すことにより、正孔注入層が不要になる。いずれかの撥水処理を行った基板を用いる方法も本発明に含まれるが、好ましくは電極間及び電極表面に撥水処理を施す。
【0027】
陽極としてITOを用いた構成を例として、撥水処理を更に具体的に説明する。
この基板上に成膜されたITO膜を、フォトリソグラフィー技術を用いて、所定の形状の電極にパターニング形成する。このようにして、基板の表面上には、各色の有機エレクトロルミネッセンス化合物を塗布すべき形状のITO電極が複数、形成されている。
【0028】
次に、ITOを形成した基板に撥水性を付与する表面処理を施す。典型的には撥水性の薄膜(以下、撥水層と記載することもある)を形成する。撥水性の薄膜を成膜する方法は、溶剤に溶解して塗布するウェットプロセスによる方法と、高周波プラズマ処理やスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、真空蒸着、レーザー転写法または酸素プラズマ処理法などのドライプロセスによる方法に大きく分けることができ、どちらも一般に用いられている成膜方法を単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0029】
形成される撥水性の薄膜の厚さは0.2〜30nmが好ましく、0.2〜10nmがより好ましい。薄膜を形成する有機物の組成や化学構造は特に限定されないが、薄膜形成後の性質として、上層に積層される発光化合物に対して適切な膜厚と塗布形状を与える適切な撥水性を有することが要求される。さらに、上層に積層される発光性化合物の塗布により再溶解しないこと、塗布工程時の物理的衝撃により飛散、拡散しないこと、発光性化合物と良好な付着性を有すること、適切なイオン化ポテンシャルを有することが挙げられる。これらの性質を陽極基板に付与する化合物であれば種類は問わない。
【0030】
発光性化合物と良好な付着性を有する化合物の例としては、発光性化合物と強固な相互作用を有する部分構造を有する化合物が望ましい。部分構造としては、例えば、特に疎水性相互作用が期待できる芳香環、アルキル鎖、フッ素などを適宜含んでいるものが望ましい。また、必ずしも有機物である必要はなく、金属フッ化物、金属酸化物などの無機物でもよい。また、SiO2などケイ素を含む化合物を金属表面にスパッタし、薄膜を形成する方法も有効である。
また、撥水性の薄膜表面の適切なイオン化ポテンシャルとしては、用いる有機エレクトロルミネッセンス化合物の種類にも依るが、4.5〜6.0eVが好ましく、4.8〜5.5eVが更に好ましい。
【0031】
撥水性の薄膜をウェットプロセスにて塗布して作製する場合には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などを用いて成膜した後に、最適化処理を行う。すなわち、膜の特性を改良または変更するために発光性化合物成分を溶解し得る溶剤で表面を洗浄することにより得ることができる。溶剤による洗浄工程は、撥水性の薄膜を塗布した工程と同様、スピンコート法、インクジェット法、ディップ法などを用いることができる。すなわち、溶剤で表面を洗浄することにより、新たに発光性化合物を上層に積層する際の工程で発生する飛散や拡散する成分を除去することができ、また基板表面に存在する凹凸や突起を完全に被覆しつくした後に、溶剤で表面を洗浄する回数を調整することにより、表面に付着している余分な遊離成分が除けるばかりではなく、表面平滑性を保持した撥水性の薄膜を具現することが可能となる。また、表面を溶剤で処理することにより表面エネルギーを調整することも可能である。成膜直後を基本にして、新たな洗浄処理を加えることで、水に対する接触角が5〜140°まで変化するので、積層する発光性化合物の極性によって表面エネルギーを調節することが可能である。そのほか、薄膜に、各種雰囲気下でアニール処理を施すこと、あるいはイオン注入やUV照射、UVオゾン照射のような輻射線処理または追加の酸素、窒素あるいは水素プラズマ処理などを施すことにより同様の効果を得ることができる。
【0032】
上記ウェットプロセスによる成膜で用い得る化合物は、陽極表面とその上層に含まれる発光性化合物に良好な付着性を有した化合物であれば特に制限はないが、これまで一般に用いられてきた陽極バッファーを適用することがより好ましい。例えば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。さらに、これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーでもよい。前記界面活性剤としては、例えばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、及び第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0033】
また、撥水性の薄膜は、高周波(RF)プラズマ処理などのドライプロセスによって成膜することも可能である。特に、有機物ガスにグロー放電を当てることによって有機物ガスが固層上に固体として析出する高周波プラズマ処理によれば、密着性に優れ、耐久性の高い膜が得られる。例えば、気体状のフルオロカーボンをRFプラズマ内でグロー放電させ、基板を接触させることにより、基板上にフルオロカーボンから成る薄膜を成膜することができる。フルオロカーボン薄膜は、RF装置庫内において気体状フルオロカーボンをプラズマ処理することによって形成できるが、気体状のフルオロカーボンは、CF4、C3F8,C4F10、CHF3、C2F4及びC4F8からなる群より選ぶことができる。
【0034】
プラズマの発生は、装置庫内に適切なパワーレベルで高周波(RF)電圧を印加(出力)することにより行われる。反応温度は、出力とガス流量、処理時間などのパラメータに依存して変化するが、装置庫内に温度調整機能を設けて適宜膜厚を再現性よく調整することが好ましい。このようにして得られる薄膜、特にフッ化物を含む薄膜を表面に成膜した陽極基板表面の接触角は、30°〜170°まで制御することが可能である。その後に引き続く有機エレクトロルミネッセンス化合物の塗布を良好に行う為には、40°〜150°が好ましく、60°〜120°がさらに好ましい。このようにして、各色の有機エレクトロルミネッセンス化合物の塗布を受ける状態にある陽極基板を製造する。
【0035】
また、高周波プラズマ処理によるドライプロセスによって撥水性の薄膜を形成する際には、プラズマの発生条件をコントロールすることにより陽極表面のエッチングを行うことも可能である。すなわち、高周波プラズマ処理により陽極表面のエッチング作用を利用した表面平滑化と、成膜を同時に行うことが可能である。上述のように、例えば、ケイ素化合物をスパッタリングにより薄膜状に形成しても良い。
【0036】
得られた薄膜は、前述の塗布法による撥水性の薄膜と同様に最適化することができる。すなわち、さらに表面処理してその特性を改良または変更して一層適切なものとすることができる。具体的には、溶剤で洗浄することにより膜の平滑性と膜厚を適切な範囲とし、耐久性の向上を図ることができる。ここで膜の平滑性とは、表面粗さ(Ra値)が1nm以下、表面突起高さが10nm以下の状態を意味し、適切な膜厚とは0.2〜30nmを意味する。また、同様に表面エネルギーを調整することも可能である。さらに、薄膜に、各種雰囲気下でアニール処理を施すこと、あるいはイオン注入やUV照射、UVオゾン照射のような輻射線処理または追加の酸素、窒素あるいは水素プラズマ処理などを施すことによっても同様の効果を得ることができる。
【0037】
必要に応じて、撥水性の薄膜の成膜時に陽極表面を前もって処理することによりオーバーコートされる撥水性の薄膜の性能(陽極基板との密着性、仕上がり平滑性、ホール注入障壁の低減化など)を改善することもできる。前もって処理する方法には高周波プラズマ処理を始めとしてスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、または酸素プラズマ処理などがある。
【0038】
[絶縁層について]
本発明においては、電極間の絶縁層(上記撥水処理により形成される撥水層以外のものを言う)は設けなくともよいが、これを設ける事も可能である。絶縁層は、前記したように、各画素の有機エレクトロルミネッセンス素子を分離するために各画素間に設けられる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、基板の清浄度を保つために、従来よりも遙かに薄い絶縁層を用いる。具体的には、基板表面からの厚さが0〜500nmのものであり、特に0〜200nmのものが好ましい。0nmの場合は絶縁層を用いない状態を示す。
【0039】
また、図9(a)に示す絶縁層の傾きは陽極表面から縁に向かってなだらかであればあるほどよい。この場合の望ましい角度は0〜30度であり、特に2〜10度が好ましい。ここで、0度の状態は、図9(b)に示すように絶縁層がITOと同じ高さで接しており、ITOの縁を完全にカバーしている状態である。また、図9(c)のようにITO間を絶縁層が一続きで満たしていてもよい。
このように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置では、従来技術よりも遙かに薄い絶縁層を用いるのが好ましい。従来技術では、絶縁層の高さが充分でないと発光層の塗布ができなかったが、本発明では基板表面に撥水性の薄膜を形成することにより、発光層を好適に塗布することができる。
絶縁層を形成する化合物としては、フルオロカーボン、SiO2薄膜などが挙げられる。
【0040】
[有機エレクトロルミネッセンス化合物を形成する工程]
陽極基板に、有機エレクトロルミネッセンス化合物層を形成する工程について説明する。本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の有機エレクトロルミネッセンス層を形成するのに用いる有機エレクトロルミネッセンス化合物としては、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている低分子発光化合物及び高分子発光化合物などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化される点で高分子系発光化合物が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物がさらに好ましい。
【0041】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層として使用される燐光発光性高分子化合物としては、室温で燐光を発する高分子化合物であればその構造は特に限定はされない。具体的な高分子構造の例としては、ポリ(p−フェニレン)類、ポリ(p−フェニレンビニレン)類、ポリフルオレン類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリピロール類、ポリピリジン類などの共役系高分子構造を骨格とし、これに燐光発光部位(代表的なものとしては、後述の遷移金属錯体または希土類金属錯体の一価基または二価基を例示できる。)が結合した高分子構造を挙げることができる。これらの高分子構造において、燐光発光部位は主鎖に組み込まれていても側鎖に組み込まれていてもよい。
【0042】
燐光発光性高分子化合物の高分子構造の別の例としては、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン類、ポリトリフェニルアミン類などの非共役系高分子構造を骨格とし、これに燐光発光部位が結合した高分子構造を挙げることができる。これらの高分子構造において、燐光発光部位は主鎖に組み込まれていても側鎖に組み込まれていてもよい。
燐光発光性高分子化合物の高分子構造のさらに別の例としては、燐光発光部位を有するデンドリマーを挙げることができる。この場合、燐光発光部位はデンドリマーの中心核、分岐部分、末端部分のいずれの部分に組み込まれていてもよい。
【0043】
また、上記の高分子構造においては、共役系または非共役系の骨格に結合した燐光発光部位から燐光が発するが、共役系または非共役系の骨格自体から燐光が発するものでもよい。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる燐光発光性高分子化合物としては、材料設計に自由度がある点、燐光発光を得ることが比較的容易な点、合成が容易な点、溶媒への溶解性が高く塗布溶液の調製が容易な点などから、非共役系高分子構造を骨格とし、これに燐光発光部位が結合した高分子(以下、非共役系燐光発光性高分子と呼ぶ。)が好ましい。
【0044】
非共役系燐光発光性高分子は、燐光発光性部位とキャリア輸送性部位から構成されるが、代表的な高分子構造として、燐光発光性部位とキャリア輸送性部位の結合状態によって、(1)燐光発光性部位とキャリア輸送性部位とが共に高分子の主鎖内にある場合、(2)燐光発光性部位は高分子の側鎖にありキャリア輸送性部位は高分子の主鎖内にある場合、(3)燐光発光性部位は高分子の主鎖内にあり、キャリア輸送性部位は高分子の側鎖にある場合、(4)燐光発光性部位とキャリア輸送性部位が共に高分子の側鎖にある場合を例示することができる。
【0045】
また、上記の高分子構造は架橋構造を有していてもよいし、あるいは正孔輸送化合物、電子輸送化合物、発光化合物がそれぞれ結合せず独立した単一高分子(ホモポリマー)あるいは二種類の化合物が重合した高分子でもよい。さらに、高分子化されている化合物は、正孔輸送化合物、電子輸送化合物、及び発光化合物の3つから選ばれる1以上でよく、残りの化合物は低分子でも構わない。
【0046】
上記の非共役系燐光発光性高分子は、燐光発光性部位として2種類以上のものを有していてもよく(それぞれ主鎖内にあっても側鎖にあってもよい。)、また、キャリア輸送性部位として2種類以上のものを有していてもよい(それぞれ主鎖内にあっても側鎖にあっても、あるいは結合していなくてもよい。)。
上記の非共役系燐光発光性高分子の分子量は、重量平均分子量で1000〜1000000が好ましく、10000〜500000がより好ましい。
【0047】
上記の燐光発光性部位としては、室温で燐光を発光する化合物の一価基または二価基以上の多価基を用いることができるが、遷移金属錯体または希土類金属錯体の一価基または二価基が好ましい。上記の遷移金属錯体に使用される遷移金属は、周期律表の第一遷移元素系列、すなわち原子番号21のScから30のZnまで、第二遷移元素系列、すなわち原子番号39のYから48のCdまで、第三遷移元素系列、すなわち原子番号72のHfから80のHgまでを含む。また、上記の希土類金属錯体に使用される希土類金属は、周期律表のランタノイド系列すなわち原子番号57のLaから71のLuまでを含む。
【0048】
また、上記の遷移金属錯体及び希土類金属錯体に使用できる配位子としては、G. Wilkinson(Ed.),Comprehensive Coordination Chemistry(Plenum Press,1987)、山本明夫「有機金属化学−基礎と応用−」(裳華房,1982)に記載の配位子などを例示することができる。中でも、ハロゲン配位子、含窒素ヘテロ環配位子(フェニルピリジン系配位子、ベンゾキノリン系配位子、キノリノール系配位子、ビピリジル系配位子、ターピリジン系配位子、フェナントロリン系配位子等)、ジケトン配位子(アセチルアセトン配位子、ジピバロイルメタン配位子等)、カルボン酸配位子(酢酸配位子等)、リン配位子(トリフェニルホスフィン系配位子等、亜リン酸エステル系配位子等)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、及びシアノ配位子が好ましい。金属錯体は、1つの錯体に複数の配位子を含んでいてもよい。また、金属錯体として、二核錯体あるいは多核錯体を使用することもできる。
【0049】
上記のキャリア輸送性部位として、ホール輸送性、電子輸送性、またはホール及び電子の両方を輸送するバイポーラー性の一価基または二価基以上の多価基を用いることができる。ホール輸送性のキャリア輸送部位としては、カルバゾール、トリフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)の一価基または二価基などを例示することができる。また、電子輸送性のキャリア輸送性部位としては、トリスアルミニウムキノリノール(Alq3)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体の一価基または二価基、ホウ素系化合物などを例示することができる。また、バイポーラー性のキャリア輸送部位としては、4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)の一価基または二価基などを例示することができる。
【0050】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層は、上記の燐光発光性高分子化合物あるいは共役系高分子のみで形成することができる。また、燐光発光性高分子化合物あるいは共役系高分子のキャリア輸送性を補うために他のキャリア輸送性化合物を混合した組成物として発光層を形成することもできる。すなわち、燐光発光性高分子化合物がホール輸送性の場合には電子輸送性化合物を混合することができ、燐光発光性高分子化合物が電子輸送性の場合にはホール輸送性化合物を混合することができる。ここで、燐光発光性高分子化合物に混合するキャリア輸送性化合物は低分子化合物及び高分子化合物のいずれでもよい。
【0051】
上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる低分子のホール輸送性化合物としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)などのトリフェニルアミン誘導体を始めとする既知のホール輸送化合物を例示することができる。また、上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる高分子のホール輸送性化合物としては、ポリビニルカルバゾール、トリフェニルアミン系の低分子化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物などを例示することができる。
【0052】
一方、上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる低分子の電子輸送性化合物としては、トリスアルミニウムキノリノール(Alq3)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体などを例示することができる。また、上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる高分子の電子輸送性化合物としては、上記の低分子の電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどを例示することができる。
【0053】
また、上記の燐光発光性高分子化合物を成膜して得られる膜の物性等を改良する目的で、燐光発光性高分子化合物の発光特性に直接は関与しない高分子化合物を混合して組成物とし、これを発光化合物として用いることもできる。一例を挙げると、得られる膜に柔軟性を付与するために、ポリメチルメタクリレ−ト(PMMA)やポリカーボネートを混合することができる。
【0054】
発光層の厚さは1nm〜1μmが好ましく、5nm〜300nmがより好ましく、10nm〜100nmがより一層好ましい。
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、エレクトロルミネッセンス層は上記発光層単独でもよいが、ホール転送層、電子輸送層と組み合わせてもよい。
【0055】
ホール輸送層を形成するホール輸送化合物としては、N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)などのトリフェニルアミン誘導体、ポリビニルカルバゾールなどの既知の低分子系ホール輸送化合物を例示することができる。
【0056】
また、高分子系ホール輸送化合物も使用することができ、トリフェニルアミン系の低分子化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、さらにポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどの高分子化合物を例示することができる。これらのホール輸送化合物は単独で用いることもできるが、異なるホール輸送化合物と混合または積層して用いてもよい。ホール輸送層の厚さは1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmがより一層好ましい。
【0057】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、電子輸送層を形成する電子輸送化合物としては、トリスアルミニウムキノリノール(Alq3)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体などの既知の低分子系電子輸送化合物を例示することができる。また、高分子系電子輸送化合物も使用することができ、上記の低分子の電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどを例示することができる。これらの電子輸送化合物は単独で用いることもできるが、異なる電子輸送化合物と混合または積層して用いてもよい。電子輸送層の厚さとしては1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmがより一層好ましい。
【0058】
上記の発光層に用いられる燐光発光性高分子化合物、ホール輸送層に用いられるホール輸送化合物及び電子輸送層に用いられる電子輸送化合物は、それぞれ単独で各層を形成するほかに、高分子化合物をバインダとして各層を形成することもできる。これに使用される高分子化合物としては、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイドなどを例示することができる。
【0059】
上述のように、従来法では堤防状その他、電極表面のレベルから突出した絶縁層を電極間に設ける必要があったが、本発明によれば、絶縁層を設けずに、または電極表面レベルと実質的に同程度以下の高さの絶縁層を設けるだけで上記有機エレクトロルミネッセンス層をそれぞれの電極上に互いに分離された状態で設けることができる。
【0060】
上記の発光層(必要であればホール輸送層及び電子輸送層法)は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、インクジェット法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法、ノズルコート法などの塗布方法により形成することが可能である。低分子化合物の場合は主として抵抗加熱蒸着法及び電子ビーム蒸着法が用いられ、高分子化合物の場合は主にインクジェット法、スピンコート法、ノズルコート法などの塗布方法が用いられる。
このように、本発明は主として塗布法で画素を形成する際に特に有効であるが、従来の絶縁層形成法に由来する画素欠陥を回避できるなどの点で、低分子蒸着法も大いに有効である。
【0061】
なお、本明細書中でインク噴射法とは、主に、塗布液を液滴状として噴射するインクジェット法と、塗布液を液柱状として吐出して塗布するノズルコート法を指す。以下にこれらの具体的な方法を記載する。
【0062】
インクジェット法は、塗布装置に取り付けた吐出ノズル先端部のノズル孔から材料(本発明の場合、有機エレクトロルミネッセンス材料)を含む溶液を微少な液滴状として基板上に噴射し、当該材料を含む層を形成する方法である。
【0063】
図4は、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程(インクジェットによる発光層塗布工程)を示す断面図である。この図に示すように、基板(S)よりも小さいインクジェット塗布装置ヘッド部(11)を用い、このヘッド部(11)を基板(S)に対して上方に配置する。ヘッド部(11)の下部に配置されたノズル(液体吐出口)(15)から塗布溶液(12)を微少液滴状として精度良く吐出し、陽極(3)上に着弾させる。液滴は着弾後、液滴の体積に従って陽極状を濡れ広がる。液滴を大きくすることで、陽極全面を覆うように着弾させることも可能である。
このようなインクジェット法は、材料として高分子系材料を用いる場合に、微細かつ容易にパターニングができることから従来よりよく用いられている。
【0064】
ノズルコート法は、塗布装置に取り付けた吐出ノズル先端部のノズル孔から材料(本発明の場合、有機エレクトロルミネッセンス材料)を含む溶液を連続吐出させて基板上に塗布し、当該材料層を含む層を形成する方法である。
【0065】
該吐出ノズルは、ノズル本体とノズル孔を有する先端部材とを備えており、先端部材の着脱は自在である。このため、予め異なる直径のノズル孔を有する先端部材を複数種類用意しておけば、塗布溶液中の有機エレクトロルミネッセンス材料の濃度、または溶媒の種類や濃度により塗布溶液の流動性が変化したり、溶液を塗布する基板の幅の寸法などにより吐出溶液の最適流量が変化したりした場合でも、ノズル本体に装着されている先端部材を取り外して塗布条件に合った直径のノズル孔を持つ先端部材に交換するだけで、ノズル孔より吐出される溶液が液滴になったり必要以上に大流量になったりすることなく、図10に示すようにヘッド部(11)より塗布溶液(12)を常に連続的な液柱状の状態に保ったまま、基板(S)と陽極(3)上に均一な状態で塗布することができる。
【0066】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法においては、このような吐出ノズル(15)を一個もしくは複数個備えた塗布ヘッドを用意し、図11に示すように吐出ノズル(15)からストライプ状に塗布液を吐出させながら、塗布ヘッドをITO基板に対して長軸方向(X軸方向)に移動させることで、ITO基板上に有機エレクトロルミネッセンス層を塗布する。
【0067】
塗布ヘッドが基板の長軸方向(X軸方向)の端まで移動したら、塗布ヘッドをITO基板に対して短軸方向(Y軸方向)に送り、折り返しの方向に塗布ヘッドを移動させる。この作業を繰り返して基板上のITO基板に順次有機エレクトロルミネッセンス材料を塗布する。
【0068】
この構成によれば、例えば、後述する参考例2のようにITO基板の幅が140μmの時にノズル孔の直径を15μmとするなど、基板の幅よりもノズル孔の直径を小さくすることで、ノズル及び基板の位置決めの際に余裕ができるので、塗布液が陽極基板上からはみ出すことなく、基板上にエレクトロルミネッセンス材料が良好な状態で吐出される。
【0069】
また、塗布装置には入力装置と表示装置とを備えていてもよい。入力装置に塗布条件を入力することにより、入力された情報に基づきノズル孔の適正直径を適宜決定し、最適なノズル直径を前記表示装置に表示するためのものである。
また、記憶装置を備えていてもよく、塗布条件と、その条件に対応したノズル孔直径の適正サイズの対応関係の情報を記憶させておくことにより、前記入力装置に塗布条件を入力するだけで、その条件に合ったノズル孔の適正直径を選択し、表示装置に表示するようにセットすれば、適正直径が容易に決定できる。
【0070】
また、ホールが発光層を通過することを抑え、発光層内で電子と効率よく再結合させる目的で、発光層の陰極側に隣接してホールブロック層を設けてもよい。このホールブロック層には発光化合物より最高被占軌道(HOMO)準位の深い化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0071】
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、発光層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には発光化合物より励起三重項エネルギーの大きな化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0072】
このようにして有機エレクトロルミネッセンス層を陽極基板上に形成した有機エレクトロルミネッセンス装置の断面模式図の例を図5に示す。従来型の絶縁層付で、かつ正孔注入層がある有機エレクトロルミネッセンス装置を図12に示した。本発明によれば絶縁層を形成することなく有機エレクトロルミネッセンス層のパターンニングを行うことが出来る。このパターンニングが有機エレクトロルミネッセンス装置の製造上、有効である理由は主として3つある。
【0073】
第一に、基板表面の撥水性を調整することで、塗布した有機エレクトロルミネッセンス化合物が不必要に濡れ広がらず隣接したパターンと重なり合わないということ、第二に、水溶性の正孔注入層を用いなくても有機エレクトロルミネッセンス化合物の単層塗布のみで発光することが出来る表面処理であること、第三に、塗布した高分子化合物が乾燥して膜になる場合、塗布した縁の部分が厚膜になる傾向が強いという性質を生かせることである。これらの性質を利用することにより、ITOのエッジ部分に成膜された有機エレクトロルミネッセンス層をより厚膜にすることが可能である。
【0074】
[陰極について]
次に、有機エレクトロルミネッセンス層に積層する陰極(図6中の5)について詳しく述べる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金などの既知の陰極材料を例示することができるが、化学的安定性を考慮すると仕事関数は2.9eV以上であることが好ましい。これらの陰極材料の成膜方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0075】
また、陰極から有機層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極バッファー層として、陰極より仕事関数の低い金属層を陰極と陰極に隣接する有機層の間に挿入してもよい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)を、アルカリ土類金属(Sr、Ba)を、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)等を挙げることができる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金または金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファー層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法などを用いることができる。陰極バッファー層の厚さは0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜10nmがより一層好ましい。
【0076】
さらに、陰極バッファー層は、上記の低仕事関数の物質と電子輸送化合物の混合物として形成することもできる。なお、ここで用いられる電子輸送化合物としては前述の電子輸送層に用いられる有機化合物を用いることができる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、本発明によるノズルコート法の他、全面塗布を行うのであれば、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレー法、などのさまざまな成膜方法を用いても良い。この場合の陰極バッファー層の厚さは0.1〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがより一層好ましい。
【0077】
このようにして完成された有機エレクトロルミネッセンス装置を図6に、従来法の装置を図13に示した。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成は図5の例に限定されず、陽極と陰極の間に順次、1)発光性高分子化合物層/電子輸送層、2)正孔輸送部位と発光部位からなる発光性高分子化合物層/電子輸送層、3)正孔輸送化合物、発光化合物、電子輸送化合物を含む発光性高分子化合物層、3)正孔輸送化合物、発光化合物を含む層、4)発光化合物、電子輸送化合物を含む層を設けた素子構成などを挙げることができる。また、図4に示した有機エレクトロルミネッセンス層は1層であるが、発光層を2層以上有していてもよい。また本明細書中においては、特に断りのない限り、電子輸送部位、正孔輸送部位、発光部位の全てあるいは一種類以上が重合してなる化合物、あるいは正孔輸送化合物、電子輸送化合物、発光化合物の全てあるいは一種類以上が混合してなる化合物を発光性高分子化合物、また層を発光性化合物層と呼ぶこととする。
【0078】
本発明は、以上に説明したような有機エレクトロルミネッセンス装置に関するものであり、また、この有機エレクトロルミネッセンス装置を備えている面発光光源、装置用バックライト、装置、照明装置、インテリア、またはエクステリア等の電子機器を含む。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げ本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。なお、以下の例においては説明の簡略化のため、材料およびそれらより形成された層を以下のように略記する。
ITO:インジウム錫酸化物(陽極)、
ELP:燐光発光性高分子(ポリ((ジ[4−(3,5−ジメチルビフェニル)]−2,6−ジメチル−4−スチリルフェニルボラン−co−N,N,N’−トリス(3−メチルフェニル)−N’−(4−ビニルフェニル)−1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル−4,4’ジアミン−co−(2−(4−ビニルフェニル)ピリジン)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)))。
【0080】
参考例1:
図3に示すように、基板(S)上にITO(酸化インジウム錫)付きの透明電極(3)をストライプ状にパターニングした。以下この基板を陽極基板と呼ぶ。陽極基板のITOのサイズは30μm、高さは1300Åであり、これらの画素が80μmピッチで連続的に配置されている。
【0081】
[基板の表面処理]
まず陽極基板の液体洗浄を行った。すなわち、市販の洗剤で超音波洗浄をし、超純水で流水洗浄を行い、陽極基板(A)を作製した。陽極基板(A)の水に対する接触角は10°であった。
液体洗浄後、乾燥させた陽極基板(A)をプラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を150Wとし、酸素プラズマを30秒間ITO基板に照射する処理を行った。
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力を300Wとし、10秒間基板を処理した。処理後の陽極基板は撥水性を示し、水に対する接触角は80°であった。こうして作製した撥水性を有する陽極基板を陽極基板(B)とした。
【0082】
下記の(1)〜(3)の各溶液をインクジェット法により陽極基板(A)及び(B)上にそれぞれ滴下し、ITO周囲への溶液の濡れ広がり状態を観察した。
(1)バイトロン:正孔注入化合物であるバイトロン(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(バイエル社製))をイソプロピルアルコールにより1:1に希釈した溶液。
(2)ELP−H:発光性化合物層を形成するための塗布溶液としてELP60mgを、アニソール(和光純薬工業製、特級)1940mgに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過した溶液。
(3)ELP−L:発光性化合物層を形成するための塗布溶液としてELP30mgを、アニソール(和光純薬工業製、特級)1970mgに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過した溶液。
【0083】
各溶液を滴下後、真空中(1torr)、室温、30分の条件で溶媒を除去した。乾燥後、成膜した膜の形状をPL顕微鏡にて観察した。図4中の(13)で示されるITO電極間の距離を1とした場合の膜の広がる距離を上記(1)〜(3)の溶液を使用した場合を比較し、結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、親水性の陽極基板(A)では上記3種類の溶液(1)〜(3)が全て濡れ広がり、隣接したITO陽極に塗布した溶液の裾野部分と接触してしまった。特に、(1)の親水性のバイトロンは隣接したITO陽極表面にまで濡れ広がり、ELPを塗布した場合では、濃度が薄い(2)のELP−Lで特にその傾向が顕著であった。
一方、撥水処理化した陽極基板(B)では、(1)の親水性のバイトロンはITO表面に球状に踏みとどまり、濡れ広がらなかった。ELPを塗布した場合では、(2)及び(3)のどちらの膜の裾の長さもピッチ間隔内に収まり、隣接したITOに塗布した溶液の裾野と接触することはなかった。
【0086】
実施例1及び比較例1:
図7に、ITO(3)がパターニングされた陽極基板(S)上に、フォトリソグラフィーによりポリイミド層をエッチングして絶縁層(14)を形成したものを示す。絶縁層の開口は30μmで、これらの画素が80μmピッチで連続的に配置されている。この基板を液体洗浄後、乾燥させ、プラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を50Wとし、酸素プラズマを5秒間ITO基板に照射する処理を行った。
【0087】
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力を300Wとし、10秒間基板を処理した。
別に用意した撥水処理せずにポリイミドを形成した基板と比較した所、処理後の絶縁層を構成するポリイミド層は水に対して95°の接触角を示すことを確認した。
こうして作製した撥水性の絶縁層を有する陽極基板を陽極基板(C)とした。
【0088】
陽極基板(C)に、参考例1に示した溶液(1)をインクジェット法により塗布し、室温にて20分間乾燥後、さらに150℃にて1時間非大気下で乾燥した。その後、参考例1に示した溶液(3)をインクジェット法により塗布し、(1)の層に積層させた。このように発光層を形成した陽極基板(C)を蒸着装置内に載置し、カルシウムを蒸着速度0.01nm/sで10nmの厚さに蒸着させた。続いて、陰極としてアルミニウムをスパッタで150nmの厚さに成膜し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0089】
同様の方法で、参考例1で作製した陽極基板(B)に、参考例1に示した溶液(3)を塗布し発光層を形成後、陰極を形成した。こうして各陽極基板(C)、(B)により作製した装置を有機エレクトロルミネッセンス装置(C),有機エレクトロルミネッセンス装置(B)とした。
各有機エレクトロルミネッセンス装置に並列して作製されている画素100個に対し、短絡などの欠陥が観察された画素の割合は、有機エレクトロルミネッセンス装置(C)では約32個、有機エレクトロルミネッセンス装置(B)では約7個であった。
【0090】
有機エレクトロルミネッセンス装置(C)及び(B)の画素を発光させて発光スペクトルを測定した結果を図14に示す。この結果から分かるように、どちらも良好な緑色発光を示した。
また、図15に有機エレクトロルミネッセンス装置(C)及び(B)の画素点灯耐久性時間を比較したグラフを示す。これらの結果は、絶縁層と正孔注入層を用いずに作成した有機エレクトロルミネッセンス装置(B)のほうが、絶縁層と正孔注入層を用いて作成した有機エレクトロルミネッセンス装置(C)に比べ、歩留まりや耐久性の向上が見込まれることを示している。
【0091】
参考例2:
図3に示すように、基板(S)上にITO(酸化インジウム錫)付きの透明電極(3)をストライプ状にパターニングした。以下この基板を陽極基板(2)と呼ぶ。陽極基板(2)のITOのサイズは巾140μm、高さは1300Åであり、これらの画素が130μmピッチで連続的に配置されている。
【0092】
[基板の表面処理]
まず陽極基板の液体洗浄を行った。すなわち、市販の洗剤で超音波洗浄をし、超純水で流水洗浄を行い、陽極基板(2A)を作製した。陽極基板(2A)の水に対する接触角は10°であった。液体洗浄後、乾燥させた陽極基板(2A)を、プラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を150Wとし、酸素プラズマを30秒間ITO基板に照射する処理を行った。
【0093】
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力300Wとし、10秒間基板を処理した。処理後の陽極基板は撥水性を示し、水に対する接触角は80°であった。こうして作製した撥水性を有する陽極基板を陽極基板(2B)とした。
【0094】
陽極基板(2A)と(2B)に発光性化合物層を形成するための塗布溶液として、参考例1で調整した溶液(3)、すなわちELP60mgを、アニソール(和光純薬工業製、特級)1940mgに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過した溶液を調製した。この溶液を陽極基板(2A)及び(2B)上にノズルコート法にて塗布した。ノズルコート法の条件は、ノズル径15um、流量180ul/min、走査速度は3m/secとし、陽極基板(2A)のみITOを一本置きに塗布した。塗布後、100℃にて15分加熱して乾燥させ、膜厚を測定したところ、膜厚は800Åであった。
【0095】
発光層溶液塗布後の基板(2A)及び(2B)に340nmの光を照射し、ELPを発光させて表面の状態をPL顕微鏡にて観察した結果を図16および図17に示す。陽極基板(2A)(図16)では明らかにELPが不均一に濡れ広がり、隣接したITOにも跨っているのに対し、陽極基板(2B)(図17)では、良好な直線状態でELP膜が形成できた。
【0096】
また、表面段差計(TENCOR社製)にて、ELP塗布後の陽極基板(2B)の表面形状をITOのストライプと直行する方向から測定した結果を図18に示した。これによると、隣接したITO間でELP層は重なり合っておらず、明らかに断線しており、またITOの縁付近では膜厚となり縁部での短絡を抑制する効果が期待できた。
【0097】
実施例2及び比較例2:
図19に、陽極基板(S)上にストライプ状にパターニングされたITO(3)の両脇に平行になるよう、フォトリソグラフィーによりポリイミド層をエッチングして絶縁層(14)を形成した。
絶縁層の開口は80μmであり、これらの画素が80μmピッチで連続的に配置されている。この基板を液体洗浄し、乾燥させてプラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を50Wとし、酸素プラズマを5秒間ITO基板に照射する処理を行った。
【0098】
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力300Wとし、10秒間基板を処理した。
別に用意した撥水処理せずにポリイミドを形成した基板と比較した所、処理後の絶縁層を構成するポリイミド層は水に対して95°の接触角を示すことを確認した。
こうして作製した撥水性の絶縁層を有する陽極基板を陽極基板(2C)とした。この陽極基板(2C)に、参考例1で調整した溶液(2)をノズルコート法により塗布した。このように発光層を形成した陽極基板を蒸着装置内に載置し、カルシウムを蒸着速度0.01nm/sで10nmの厚さに蒸着し、続いて、陰極としてアルミニウムをスパッタで150nmの厚さに成膜し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0099】
同様の方法で、参考例2で作成した陽極基板(2B)に参考例1で調整した溶液(2)を塗布し発光層を形成後、陰極を形成した。
こうして各陽極基板(2C)、(2B)により作製した装置をそれぞれ有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)、有機エレクトロルミネッセンス装置(2B)とした。各有機エレクトロルミネッセンス装置に並列して作製されている画素100個に対し、短絡などの欠陥が観察された画素の割合は、有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)では約20個、(2B)では約3個であった。図20は、有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)の発光写真であるが、発光部の幅が不均一であることがわかる。
【0100】
実施例3:スパッタ法によるSiO2の塗布
DCスパッタ装置(アネルバ社製)にITO陽極基板をセットし、基板表面を1分間スパッタした。この時の条件は、ターゲットにSiO2、投入電力は0.3kw、ガスには窒素を用いてスパッタ時の圧力は1Paとした。この撥水性を有する陽極基板を陽極基板(3)とする。スパッタ処理後の陽極表面(3)の水に対する接触角は70度であった。
実施例2と同様の方法でELPをノズルコート法により塗布した後、陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス装置(3)を作成した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の方法によれば、従来法では必須であった陽極基板表面に絶縁層を形成しなくても有機エレクトロルミネッセンス発光化合物を塗布することが出来、安定で高性能な有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】第1の絶縁層および第2の絶縁層を有する従来の有機エレクトロルミネッセンス装置の断面図である。
【図2】(a)〜(d)は図1の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法(工程)を示す。
【図3】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置に用いる基板の概略断面図である
【図4】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程(インクジェット法による発光層の塗布)を示す断面図である。
【図5】撥水処理基板を用いて有機エレクトロルミネッセンス化合物を塗布する本発明の方法により得られた基板の一部分の概略断面図である。
【図6】本発明の方法によって製造された有機エレクトロルミネッセンス装置の一部分の概略断面図である。
【図7】従来の方法による有機エレクトロルミネッセンス装置に用いられる基板の概略断面図である。
【図8】無撥水処理基板を用いる従来方法(比較例)によって有機エレクトロルミネッセンス化合物を基板に塗布して得られた基板の一部分の概略断面図である。
【図9】本発明の絶縁層の構造を表す概略断面図である。
【図10】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程(ノズルコート法による発光層の塗布)を示す断面図である。
【図11】有機エレクトロルミネッセンス化合物をノズルコート法にて塗布する際の塗布方法の概略図である。
【図12】従来の方法によって有機エレクトロルミネッセンス化合物が塗布された基板の一部分の断面を示す概略断面図である。
【図13】従来の方法によって製造された有機エレクトロルミネッセンス装置の一部分の概略断面図である。
【図14】本発明及び従来の製造方法で作製された有機エレクトロルミネッセンス装置(実施例装置B及び比較例装置C)から得られた発光スペクトルを示す。
【図15】本発明及び従来の製造方法で作製された有機エレクトロルミネッセンス素子(実施例装置B及び比較例装置C)の耐久性を示すグラフである。
【図16】本参考例2で作成した陽極基板(2A)の表面状態を表すPL顕微鏡写真。
【図17】本参考例2で作成した陽極基板(2B)の表面状態を表すPL顕微鏡写真。
【図18】本参考例2で作成した陽極基板(2B)の表面形状を表面段差計にて測定した結果。
【図19】本実施例2で作成した陽極基板(2C)の概略断面図である。
【図20】本比較例2で作成した有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)の発光写真。
【符号の説明】
【0103】
1 第1の絶縁層
2 第2の絶縁層
3 陽極
4 発光層
5 陰極
6 発光層が薄い領域
7 開口部のエッチング残渣
8 表面起伏部のエッチング残渣
9 正孔注入層
10a 赤色の有機エレクトロルミネッセンス化合物
10b 緑色の有機エレクトロルミネッセンス化合物
10c 青色の有機エレクトロルミネッセンス化合物
11 インクジェット塗布装置ヘッド部
12 塗布溶液
13 ITO間隔
14 絶縁層
15 吐出ノズル
B 本発明による有機エレクトロルミネッセンス装置
C 従来法による有機エレクトロルミネッセンス装置
S 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、この方法により製造される有機エレクトロルミネッセンス表示装置及びこれを用いた電子機器に関する。より具体的には、複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成して、対応する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子からなる表示装置を製造する方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、有機エレクトロルミネッセンス層(発光層)を形成する有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造方法、この方法により製造される有機エレクトロルミネッセンス表示装置及びこれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス装置は、将来的に究極の薄型、軽量、小型、低消費電力などを実現する表示装置として、近年注目されている。この有機エレクトロルミネッセンス装置は、今後広汎に用いられるようになると期待されている。特に、低温多結晶シリコン薄膜トランジスタと組み合わせることにより、一層の薄型化、軽量化、小型化が実現できる。低温多結晶シリコン薄膜トランジスタ駆動有機エレクトロルミネッセンス装置は、理想的な装置のひとつとなり得る(T.Shimoda, M.Kimura, et al., Proc. AsiaDisplay 98, 217(1998), M.Kimura, et al., IEEE Trans. Elec. Dev., to bepublished;非特許文献1)。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としては、真空プロセスと、液相プロセスがある。一般に、低分子系の有機エレクトロルミネッセンス素子(本明細書においては、表示パネルを構成する画素のひとつひとつを有機エレクトロルミネッセンス素子と呼ぶ。)には、蒸着法、スパッタ法等の真空プロセスが用いられる。
【0004】
一方、高分子系の有機エレクトロルミネッセンス素子には、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷、あるいは無版印刷法が用いられる。無版印刷法では、スピンコート法、スキージ塗布法、インクジェット法、ノズルコート法等のウェットプロセスが用いられる。
中でも特にインクジェット法は、成膜と色の塗りわけのパターニングを同時に行うことが可能で、有望な方法であると言われている。
【0005】
ただし、インクジェット法は塗布により同一基板上に特性の異なる薄膜をパターン形成する方法であり、基板上で異なる薄膜材料が混合し、吐出された液体材料が隣接する画素に流出するなどの問題が生じるために、各画素間にこの素子を分離する構造である絶縁層を設けることが必要になる(特開2002−305077;特許文献1)。なお、ここでいう絶縁層とは、各画素間に設けられ、各画素の有機エレクトロルミネッセンス素子を分離する構造をさす。
しかし、この絶縁層を形成して有機エレクトロルミネッセンス装置を作製する方法には以下に記載するような問題点がある。
【0006】
絶縁層としては、Proc. Asia Display 98, 217(1998),IEEE Trans. Elec. Dev.(非特許文献2)に記載されているような第1の絶縁層および第2の絶縁層を備えた構造が用いられている。そのような従来の有機エレクトロルミネッセンス装置の断面図を図1に示し、図2(a)〜(d)にその製造方法(工程)を示す。
【0007】
本従来例の有機エレクトロルミネッセンス装置は、陽極(3)上に、第1の絶縁層(1)と、第(2)の絶縁層(2)を備えている。これら第1の絶縁層(1)と第2の絶縁層(2)が形成された後に、インクジェット法などにより、各色に対応して異なる化合物で形成される有機エレクトロルミネッセンス層(4)が成膜され、その上に陰極(5)が成膜され、有機エレクトロルミネッセンス装置が完成する。
第2の絶縁層(2)は、適当な表面処理により、撥液性に制御される。これにより、有機エレクトロルミネッセンス層(4)がインクジェットプロセスなどにより各画素に塗布される際の混色が抑制される。
【0008】
しかしながら、第2の絶縁層(2)を撥液性に制御することにより、第2の絶縁層(2)のエッジの周辺で、有機エレクトロルミネッセンス層(4)が薄くなる領域(6)が発生してしまい、均一に成膜することが困難になる。
この(6)の部分に陽極(3)および陰極(5)が存在すると、短絡が発生し、リーク電流が著しく増加してしまう。そこで、第2の絶縁層(2)のエッジの周辺では、短絡が発生しないように、第1の絶縁層(1)が設けられている。
【0009】
図2に示す工程では、陽極(3)はITOで形成され、第1の絶縁層(1)は珪酸エチル(tetraethoxy silane:TEOS)のプラズマ化学気相成長法(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:PECVD)によりSiO2で形成され、第2の絶縁層(2)はポリイミドのスピンコート法により形成されている。
【0010】
本従来例では、ITOで形成された陽極(3)上に、第1の絶縁層(1)が成膜され(図2(a))、そのあと、陽極(3)上の発光させたい部分に開口部がくるようにパターニングされる(図2(b))。次に、液相プロセスにより、第2の絶縁層(2)が成膜され(図2(c))、陽極(3)上の発光させたい部分に開口部がくるようにパターニングされる(図2(d))。
【0011】
図2からわかるように、第1の絶縁膜(1)にはかなり厚い薄膜が使用されているので、第2の絶縁層(2)の、第1の絶縁層(1)の開口部での厚さは、他の部分より大幅に厚くなっている。
このため、第2の絶縁層(2)をエッチングする際に、薄い部分に合わせてエッチング時間を設定すれば、厚い部分でエッチング残渣が発生する恐れがある。図2(d)中の(7)は、こうして発生した開口部のエッチング残渣である。また、厚い部分に合わせてエッチング時間を設定すれば、薄い部分で大きなサイドエッチが発生する恐れがある。
【0012】
また、第1の絶縁層(1)は真空プロセスにより形成されているため、第1の絶縁層(1)の表面は平坦でない。すなわち、陽極(3)の有無により、表面に起伏が存在している。そして、この表面の起伏に対応して、第2の絶縁層(2)の膜厚不均一性が存在し、この膜厚不均一性に起因して、第2の絶縁層(2)のエッチング残渣が発生する恐れがある。図2(d)中の(8)は、こうして発生した表面起伏部のエッチング残渣である。この表面起伏部のエッチング残渣(8)を完全に除去しようと思うと、他の場所で大きなサイドエッチが発生する恐れがあるなど、残渣や表面凹凸が原因で生じる有機エレクトロルミネッセンス装置の性能低下は大きな問題である。
【0013】
また、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の発光特性を向上させるためには、有機エレクトロルミネッセンス化合物を成膜する表面の清浄さ、凹凸に加え、仕事関数などを化合物に応じて最適値に制御する必要がある(特開2004−63210公報;特許文献2)。そのため、有機エレクトロルミネッセンス化合物を塗布しようとする表面を液体洗浄したり、酸素プラズマ処理などにより基板表面に付着している有機物などの不純物を取り除いたりするなどの工程が必要になるが、前述の絶縁層が存在する基板表面を完全に洗浄したり、表面処理を均一に行うのは非常に困難である(特開2001−126867号公報;特許文献3)。
【0014】
このように欠点を伴うにも関わらず、相変わらず絶縁層を設けて有機エレクトロルミネッセンス装置を作製しなくてはならないのは、従来の高分子有機エレクトロルミネッセンス化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス装置の構成においては、陽極/正孔注入層/有機エレクトロルミネッセンス層/陰極という積層構成が基本であり、陽極と有機エレクトロルミネッセンス層との間には、正孔注入層を設けなければ実用に耐える有機エレクトロルミネッセンス装置を作成することが出来なかったためである(特許公表2000−516760号公報;特許文献4)。
【0015】
正孔注入層としては、陽極から正孔を効率よく有機エレクトロルミネッセンス層に注入する働きを有するものであれば化合物の種類は問わないが、従来、水溶性の導電性ポリマー(スタルクヴィテック社のバイトロン(登録商標))が広く用いられている。正孔注入層に必要な条件としては、その上に塗布積層する有機エレクトロルミネッセンス化合物によって、正孔注入層が再溶解しないということが挙げられる。
また、有機エレクトロルミネッセンス化合物は有機溶媒に溶解して塗布するため、正孔注入層は有機溶剤に不溶性(すなわち、水溶性)であることが望ましい。
【0016】
つまり、正孔注入層を必要とする有機エレクトロルミネッセンス化合物を用いて、有機エレクトロルミネッセンス装置を作成する工程としては、まず陽極表面に水溶性の正孔注入層を塗布する必要があるが、陽極表面が撥水性では正孔注入層がはじかれてしまい、塗布することが出来ない。
そのため、正孔注入層を形成したい電極表面部分は親水性に保ち、形成したくない電極間部分にはいわば堤防状の撥水性の絶縁層を形成するようにパターンニングを行う必要があり、このために絶縁層の形成は必須であった。
【0017】
【特許文献1】特開2002−305077号公報
【特許文献2】特開2004−63210号公報
【特許文献3】特開2001−126867号公報
【特許文献4】特許公表2000−516760号公報
【非特許文献1】T.Shimoda, M.Kimura, et al., Proc. AsiaDisplay 98, 217(1998), M.Kimura, et al., IEEE Trans. Elec. Dev., to bepublished
【非特許文献2】Proc. Asia Display 98, 217(1998),IEEE Trans. Elec. Dev.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明の課題は、有機エレクトロルミネッセンス装置の特性向上に必要な素子表面の清浄さ、平滑性を損なう絶縁層を形成しない状態、または絶縁層を遙かに薄い状態にしても安定かつ高性能な有機エレクトロルミネッセンス装置を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来高分子有機エレクトロルミネッセンス発光化合物の塗布成膜に必要とされていた絶縁層を形成しない、または絶縁層が遙かに薄い状態でエレクトロルミネッセンス発光化合物を塗布することが可能であり、絶縁層由来の装置の性能低下を回避できる有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を見出した。
すなわち、有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む層の塗布面である基板の表面に撥水性の薄膜を形成するなどして撥水性を付与することにより、絶縁層を形成しない状態、または絶縁層が遙かに薄い状態でも有機エレクトロルミネッセンス化合物層をパターニング成膜することが可能であり、しかも有機エレクトロルミネッセンス特性も良好な有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明は、以下の構成からなる。
1.複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を塗布することにより各電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、前記組成物を塗布することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
2.前記撥水処理が、撥水性の薄膜の形成を含む前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
3.撥水性の薄膜が、厚さ0.2〜30nmである前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
4.撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜3000nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜80度の絶縁層を設ける前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
5.撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜500nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜30度の絶縁層を設ける前記4に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
6.有機エレクトロルミネッセンス層が高分子有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む層である前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
7.撥水性の薄膜を形成する方法が、基板の表面にフッ化膜を形成する処理である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
8.フッ化膜がフルオロカーボン系化合物を反応ガスとするプラズマ処理によって形成されるものである前記7記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
9.撥水性の薄膜の表面粗さがRa値で1nm以下である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
10.撥水性の薄膜の表面突起高さが10nm以下である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
11.撥水性の薄膜を、気体状有機化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により有機薄膜として形成することを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
12.陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、薄膜を成膜した後に最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
13.陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、気体状化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により薄膜を形成し、次いで最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
14.撥水性の薄膜の形成方法が、基板表面をスパッタ法により処理し、SiO2の薄膜を形成する方法である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
15.最適化処理が溶剤による洗浄処理である前記12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
16.陽極の表面粗さ及び突起の高さを調整するため、酸素、アルゴン、フルオロカーボンから選ばれる1または2種以上を含むガス中で高周波プラズマ処理を行う前記12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
17.撥水性の薄膜に対する水の接触角が30°以上である前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
18.有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷または無版印刷法で複数の電極上に塗布する前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
19.有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、インク噴射による無版印刷法により塗布する前記18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
20.有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、ノズルコート法により塗布する前記18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
21.有機エレクトロルミネッセンス化合物が燐光発光性高分子化合物である前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
22.有機エレクトロルミネッセンス化合物が蛍光発光性高分子化合物または非共役系燐光発光性高分子である前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
23.前記1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置。
24.前記1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法に含まれる方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置用基板。
25.前記23に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えている電子機器。
26.電子機器が、面発光光源、装置用バックライト、装置、照明装置、インテリア、またはエクステリアである前記25に記載の電子機器。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、陽極基板表面に絶縁層を形成しない状態、または絶縁層が遙かに薄い状態でも有機エレクトロルミネッセンス発光化合物を塗布することが可能であり、安定で高性能な有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について、添付図面(図3〜図20)を参照しつつより詳細に説明する。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、有機エレクトロルミネッセンス発光化合物を、表面に撥水性の薄膜を形成するなどして撥水性を付与した基板上に所定のパターン形状に、好ましくはノズルコート法により塗布成膜して有機エレクトロルミネッセンス装置を製造する方法である。
【0023】
[有機エレクトロルミネッセンス装置の構成]
まず、有機エレクトロルミネッセンス装置の構成について説明する。先ず、平板状の基板(図8のS)の表面上に陽極材料からなる膜(3)を成膜する。ここで、基板の例としては、ガラス基板が挙げられるが、これに限らず、発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板であれば使用できる。あるいはTFT(thin film transistor:薄膜トランジスター)付きの基板上でも構わない。またPET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネートを始めとする透明プラスチックなどの既知のフレキシブルな材料も使用できる。
【0024】
[陽極について]
基板に成膜する陽極は、ITO(インジウム錫酸化物)に代表される導電性で光透過性の層が最も一般的である。有機発光を基板を通して観察する場合には、陽極と基板の光透過性は必須であるが、有機発光をトップエミッション、すなわち上部の電極を通して観察する用途では陽極の透過性は必要なく、仕事関数が4.1eVよりも高い金属あるいは金属化合物のような適当な任意の材料を陽極として用いることができる。
【0025】
例えば、金、ニッケル、マンガン、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金などを組み合わせて、あるいは単一で用いることが可能である。この陽極は、金属の酸化物、窒化物、セレン化物及び硫化物からなる群より選ぶこともできる。また、光透過性の良好なITOの表面に、光透過性を損なわないように1〜3nmの薄い膜として、上記の金属を成膜したものも陽極として用いることができる。これらの陽極材料表面への成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法、真空蒸着法などを用いることができる。陽極の厚さは2〜300nmが好ましい。
【0026】
[撥水層について]
本発明においては、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用する。撥水処理を電極間に施すことにより堤防状の絶縁層が不要となり、また、撥水処理を電極表面に施すことにより、正孔注入層が不要になる。いずれかの撥水処理を行った基板を用いる方法も本発明に含まれるが、好ましくは電極間及び電極表面に撥水処理を施す。
【0027】
陽極としてITOを用いた構成を例として、撥水処理を更に具体的に説明する。
この基板上に成膜されたITO膜を、フォトリソグラフィー技術を用いて、所定の形状の電極にパターニング形成する。このようにして、基板の表面上には、各色の有機エレクトロルミネッセンス化合物を塗布すべき形状のITO電極が複数、形成されている。
【0028】
次に、ITOを形成した基板に撥水性を付与する表面処理を施す。典型的には撥水性の薄膜(以下、撥水層と記載することもある)を形成する。撥水性の薄膜を成膜する方法は、溶剤に溶解して塗布するウェットプロセスによる方法と、高周波プラズマ処理やスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、真空蒸着、レーザー転写法または酸素プラズマ処理法などのドライプロセスによる方法に大きく分けることができ、どちらも一般に用いられている成膜方法を単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0029】
形成される撥水性の薄膜の厚さは0.2〜30nmが好ましく、0.2〜10nmがより好ましい。薄膜を形成する有機物の組成や化学構造は特に限定されないが、薄膜形成後の性質として、上層に積層される発光化合物に対して適切な膜厚と塗布形状を与える適切な撥水性を有することが要求される。さらに、上層に積層される発光性化合物の塗布により再溶解しないこと、塗布工程時の物理的衝撃により飛散、拡散しないこと、発光性化合物と良好な付着性を有すること、適切なイオン化ポテンシャルを有することが挙げられる。これらの性質を陽極基板に付与する化合物であれば種類は問わない。
【0030】
発光性化合物と良好な付着性を有する化合物の例としては、発光性化合物と強固な相互作用を有する部分構造を有する化合物が望ましい。部分構造としては、例えば、特に疎水性相互作用が期待できる芳香環、アルキル鎖、フッ素などを適宜含んでいるものが望ましい。また、必ずしも有機物である必要はなく、金属フッ化物、金属酸化物などの無機物でもよい。また、SiO2などケイ素を含む化合物を金属表面にスパッタし、薄膜を形成する方法も有効である。
また、撥水性の薄膜表面の適切なイオン化ポテンシャルとしては、用いる有機エレクトロルミネッセンス化合物の種類にも依るが、4.5〜6.0eVが好ましく、4.8〜5.5eVが更に好ましい。
【0031】
撥水性の薄膜をウェットプロセスにて塗布して作製する場合には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などを用いて成膜した後に、最適化処理を行う。すなわち、膜の特性を改良または変更するために発光性化合物成分を溶解し得る溶剤で表面を洗浄することにより得ることができる。溶剤による洗浄工程は、撥水性の薄膜を塗布した工程と同様、スピンコート法、インクジェット法、ディップ法などを用いることができる。すなわち、溶剤で表面を洗浄することにより、新たに発光性化合物を上層に積層する際の工程で発生する飛散や拡散する成分を除去することができ、また基板表面に存在する凹凸や突起を完全に被覆しつくした後に、溶剤で表面を洗浄する回数を調整することにより、表面に付着している余分な遊離成分が除けるばかりではなく、表面平滑性を保持した撥水性の薄膜を具現することが可能となる。また、表面を溶剤で処理することにより表面エネルギーを調整することも可能である。成膜直後を基本にして、新たな洗浄処理を加えることで、水に対する接触角が5〜140°まで変化するので、積層する発光性化合物の極性によって表面エネルギーを調節することが可能である。そのほか、薄膜に、各種雰囲気下でアニール処理を施すこと、あるいはイオン注入やUV照射、UVオゾン照射のような輻射線処理または追加の酸素、窒素あるいは水素プラズマ処理などを施すことにより同様の効果を得ることができる。
【0032】
上記ウェットプロセスによる成膜で用い得る化合物は、陽極表面とその上層に含まれる発光性化合物に良好な付着性を有した化合物であれば特に制限はないが、これまで一般に用いられてきた陽極バッファーを適用することがより好ましい。例えば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。さらに、これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーでもよい。前記界面活性剤としては、例えばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、及び第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0033】
また、撥水性の薄膜は、高周波(RF)プラズマ処理などのドライプロセスによって成膜することも可能である。特に、有機物ガスにグロー放電を当てることによって有機物ガスが固層上に固体として析出する高周波プラズマ処理によれば、密着性に優れ、耐久性の高い膜が得られる。例えば、気体状のフルオロカーボンをRFプラズマ内でグロー放電させ、基板を接触させることにより、基板上にフルオロカーボンから成る薄膜を成膜することができる。フルオロカーボン薄膜は、RF装置庫内において気体状フルオロカーボンをプラズマ処理することによって形成できるが、気体状のフルオロカーボンは、CF4、C3F8,C4F10、CHF3、C2F4及びC4F8からなる群より選ぶことができる。
【0034】
プラズマの発生は、装置庫内に適切なパワーレベルで高周波(RF)電圧を印加(出力)することにより行われる。反応温度は、出力とガス流量、処理時間などのパラメータに依存して変化するが、装置庫内に温度調整機能を設けて適宜膜厚を再現性よく調整することが好ましい。このようにして得られる薄膜、特にフッ化物を含む薄膜を表面に成膜した陽極基板表面の接触角は、30°〜170°まで制御することが可能である。その後に引き続く有機エレクトロルミネッセンス化合物の塗布を良好に行う為には、40°〜150°が好ましく、60°〜120°がさらに好ましい。このようにして、各色の有機エレクトロルミネッセンス化合物の塗布を受ける状態にある陽極基板を製造する。
【0035】
また、高周波プラズマ処理によるドライプロセスによって撥水性の薄膜を形成する際には、プラズマの発生条件をコントロールすることにより陽極表面のエッチングを行うことも可能である。すなわち、高周波プラズマ処理により陽極表面のエッチング作用を利用した表面平滑化と、成膜を同時に行うことが可能である。上述のように、例えば、ケイ素化合物をスパッタリングにより薄膜状に形成しても良い。
【0036】
得られた薄膜は、前述の塗布法による撥水性の薄膜と同様に最適化することができる。すなわち、さらに表面処理してその特性を改良または変更して一層適切なものとすることができる。具体的には、溶剤で洗浄することにより膜の平滑性と膜厚を適切な範囲とし、耐久性の向上を図ることができる。ここで膜の平滑性とは、表面粗さ(Ra値)が1nm以下、表面突起高さが10nm以下の状態を意味し、適切な膜厚とは0.2〜30nmを意味する。また、同様に表面エネルギーを調整することも可能である。さらに、薄膜に、各種雰囲気下でアニール処理を施すこと、あるいはイオン注入やUV照射、UVオゾン照射のような輻射線処理または追加の酸素、窒素あるいは水素プラズマ処理などを施すことによっても同様の効果を得ることができる。
【0037】
必要に応じて、撥水性の薄膜の成膜時に陽極表面を前もって処理することによりオーバーコートされる撥水性の薄膜の性能(陽極基板との密着性、仕上がり平滑性、ホール注入障壁の低減化など)を改善することもできる。前もって処理する方法には高周波プラズマ処理を始めとしてスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、または酸素プラズマ処理などがある。
【0038】
[絶縁層について]
本発明においては、電極間の絶縁層(上記撥水処理により形成される撥水層以外のものを言う)は設けなくともよいが、これを設ける事も可能である。絶縁層は、前記したように、各画素の有機エレクトロルミネッセンス素子を分離するために各画素間に設けられる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、基板の清浄度を保つために、従来よりも遙かに薄い絶縁層を用いる。具体的には、基板表面からの厚さが0〜500nmのものであり、特に0〜200nmのものが好ましい。0nmの場合は絶縁層を用いない状態を示す。
【0039】
また、図9(a)に示す絶縁層の傾きは陽極表面から縁に向かってなだらかであればあるほどよい。この場合の望ましい角度は0〜30度であり、特に2〜10度が好ましい。ここで、0度の状態は、図9(b)に示すように絶縁層がITOと同じ高さで接しており、ITOの縁を完全にカバーしている状態である。また、図9(c)のようにITO間を絶縁層が一続きで満たしていてもよい。
このように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置では、従来技術よりも遙かに薄い絶縁層を用いるのが好ましい。従来技術では、絶縁層の高さが充分でないと発光層の塗布ができなかったが、本発明では基板表面に撥水性の薄膜を形成することにより、発光層を好適に塗布することができる。
絶縁層を形成する化合物としては、フルオロカーボン、SiO2薄膜などが挙げられる。
【0040】
[有機エレクトロルミネッセンス化合物を形成する工程]
陽極基板に、有機エレクトロルミネッセンス化合物層を形成する工程について説明する。本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の有機エレクトロルミネッセンス層を形成するのに用いる有機エレクトロルミネッセンス化合物としては、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている低分子発光化合物及び高分子発光化合物などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化される点で高分子系発光化合物が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物がさらに好ましい。
【0041】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層として使用される燐光発光性高分子化合物としては、室温で燐光を発する高分子化合物であればその構造は特に限定はされない。具体的な高分子構造の例としては、ポリ(p−フェニレン)類、ポリ(p−フェニレンビニレン)類、ポリフルオレン類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリピロール類、ポリピリジン類などの共役系高分子構造を骨格とし、これに燐光発光部位(代表的なものとしては、後述の遷移金属錯体または希土類金属錯体の一価基または二価基を例示できる。)が結合した高分子構造を挙げることができる。これらの高分子構造において、燐光発光部位は主鎖に組み込まれていても側鎖に組み込まれていてもよい。
【0042】
燐光発光性高分子化合物の高分子構造の別の例としては、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン類、ポリトリフェニルアミン類などの非共役系高分子構造を骨格とし、これに燐光発光部位が結合した高分子構造を挙げることができる。これらの高分子構造において、燐光発光部位は主鎖に組み込まれていても側鎖に組み込まれていてもよい。
燐光発光性高分子化合物の高分子構造のさらに別の例としては、燐光発光部位を有するデンドリマーを挙げることができる。この場合、燐光発光部位はデンドリマーの中心核、分岐部分、末端部分のいずれの部分に組み込まれていてもよい。
【0043】
また、上記の高分子構造においては、共役系または非共役系の骨格に結合した燐光発光部位から燐光が発するが、共役系または非共役系の骨格自体から燐光が発するものでもよい。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる燐光発光性高分子化合物としては、材料設計に自由度がある点、燐光発光を得ることが比較的容易な点、合成が容易な点、溶媒への溶解性が高く塗布溶液の調製が容易な点などから、非共役系高分子構造を骨格とし、これに燐光発光部位が結合した高分子(以下、非共役系燐光発光性高分子と呼ぶ。)が好ましい。
【0044】
非共役系燐光発光性高分子は、燐光発光性部位とキャリア輸送性部位から構成されるが、代表的な高分子構造として、燐光発光性部位とキャリア輸送性部位の結合状態によって、(1)燐光発光性部位とキャリア輸送性部位とが共に高分子の主鎖内にある場合、(2)燐光発光性部位は高分子の側鎖にありキャリア輸送性部位は高分子の主鎖内にある場合、(3)燐光発光性部位は高分子の主鎖内にあり、キャリア輸送性部位は高分子の側鎖にある場合、(4)燐光発光性部位とキャリア輸送性部位が共に高分子の側鎖にある場合を例示することができる。
【0045】
また、上記の高分子構造は架橋構造を有していてもよいし、あるいは正孔輸送化合物、電子輸送化合物、発光化合物がそれぞれ結合せず独立した単一高分子(ホモポリマー)あるいは二種類の化合物が重合した高分子でもよい。さらに、高分子化されている化合物は、正孔輸送化合物、電子輸送化合物、及び発光化合物の3つから選ばれる1以上でよく、残りの化合物は低分子でも構わない。
【0046】
上記の非共役系燐光発光性高分子は、燐光発光性部位として2種類以上のものを有していてもよく(それぞれ主鎖内にあっても側鎖にあってもよい。)、また、キャリア輸送性部位として2種類以上のものを有していてもよい(それぞれ主鎖内にあっても側鎖にあっても、あるいは結合していなくてもよい。)。
上記の非共役系燐光発光性高分子の分子量は、重量平均分子量で1000〜1000000が好ましく、10000〜500000がより好ましい。
【0047】
上記の燐光発光性部位としては、室温で燐光を発光する化合物の一価基または二価基以上の多価基を用いることができるが、遷移金属錯体または希土類金属錯体の一価基または二価基が好ましい。上記の遷移金属錯体に使用される遷移金属は、周期律表の第一遷移元素系列、すなわち原子番号21のScから30のZnまで、第二遷移元素系列、すなわち原子番号39のYから48のCdまで、第三遷移元素系列、すなわち原子番号72のHfから80のHgまでを含む。また、上記の希土類金属錯体に使用される希土類金属は、周期律表のランタノイド系列すなわち原子番号57のLaから71のLuまでを含む。
【0048】
また、上記の遷移金属錯体及び希土類金属錯体に使用できる配位子としては、G. Wilkinson(Ed.),Comprehensive Coordination Chemistry(Plenum Press,1987)、山本明夫「有機金属化学−基礎と応用−」(裳華房,1982)に記載の配位子などを例示することができる。中でも、ハロゲン配位子、含窒素ヘテロ環配位子(フェニルピリジン系配位子、ベンゾキノリン系配位子、キノリノール系配位子、ビピリジル系配位子、ターピリジン系配位子、フェナントロリン系配位子等)、ジケトン配位子(アセチルアセトン配位子、ジピバロイルメタン配位子等)、カルボン酸配位子(酢酸配位子等)、リン配位子(トリフェニルホスフィン系配位子等、亜リン酸エステル系配位子等)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、及びシアノ配位子が好ましい。金属錯体は、1つの錯体に複数の配位子を含んでいてもよい。また、金属錯体として、二核錯体あるいは多核錯体を使用することもできる。
【0049】
上記のキャリア輸送性部位として、ホール輸送性、電子輸送性、またはホール及び電子の両方を輸送するバイポーラー性の一価基または二価基以上の多価基を用いることができる。ホール輸送性のキャリア輸送部位としては、カルバゾール、トリフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)の一価基または二価基などを例示することができる。また、電子輸送性のキャリア輸送性部位としては、トリスアルミニウムキノリノール(Alq3)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体の一価基または二価基、ホウ素系化合物などを例示することができる。また、バイポーラー性のキャリア輸送部位としては、4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)の一価基または二価基などを例示することができる。
【0050】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層は、上記の燐光発光性高分子化合物あるいは共役系高分子のみで形成することができる。また、燐光発光性高分子化合物あるいは共役系高分子のキャリア輸送性を補うために他のキャリア輸送性化合物を混合した組成物として発光層を形成することもできる。すなわち、燐光発光性高分子化合物がホール輸送性の場合には電子輸送性化合物を混合することができ、燐光発光性高分子化合物が電子輸送性の場合にはホール輸送性化合物を混合することができる。ここで、燐光発光性高分子化合物に混合するキャリア輸送性化合物は低分子化合物及び高分子化合物のいずれでもよい。
【0051】
上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる低分子のホール輸送性化合物としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)などのトリフェニルアミン誘導体を始めとする既知のホール輸送化合物を例示することができる。また、上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる高分子のホール輸送性化合物としては、ポリビニルカルバゾール、トリフェニルアミン系の低分子化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物などを例示することができる。
【0052】
一方、上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる低分子の電子輸送性化合物としては、トリスアルミニウムキノリノール(Alq3)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体などを例示することができる。また、上記の燐光発光性高分子化合物に混合することができる高分子の電子輸送性化合物としては、上記の低分子の電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどを例示することができる。
【0053】
また、上記の燐光発光性高分子化合物を成膜して得られる膜の物性等を改良する目的で、燐光発光性高分子化合物の発光特性に直接は関与しない高分子化合物を混合して組成物とし、これを発光化合物として用いることもできる。一例を挙げると、得られる膜に柔軟性を付与するために、ポリメチルメタクリレ−ト(PMMA)やポリカーボネートを混合することができる。
【0054】
発光層の厚さは1nm〜1μmが好ましく、5nm〜300nmがより好ましく、10nm〜100nmがより一層好ましい。
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、エレクトロルミネッセンス層は上記発光層単独でもよいが、ホール転送層、電子輸送層と組み合わせてもよい。
【0055】
ホール輸送層を形成するホール輸送化合物としては、N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)、4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)などのトリフェニルアミン誘導体、ポリビニルカルバゾールなどの既知の低分子系ホール輸送化合物を例示することができる。
【0056】
また、高分子系ホール輸送化合物も使用することができ、トリフェニルアミン系の低分子化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、さらにポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどの高分子化合物を例示することができる。これらのホール輸送化合物は単独で用いることもできるが、異なるホール輸送化合物と混合または積層して用いてもよい。ホール輸送層の厚さは1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmがより一層好ましい。
【0057】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、電子輸送層を形成する電子輸送化合物としては、トリスアルミニウムキノリノール(Alq3)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体などの既知の低分子系電子輸送化合物を例示することができる。また、高分子系電子輸送化合物も使用することができ、上記の低分子の電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどを例示することができる。これらの電子輸送化合物は単独で用いることもできるが、異なる電子輸送化合物と混合または積層して用いてもよい。電子輸送層の厚さとしては1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmがより一層好ましい。
【0058】
上記の発光層に用いられる燐光発光性高分子化合物、ホール輸送層に用いられるホール輸送化合物及び電子輸送層に用いられる電子輸送化合物は、それぞれ単独で各層を形成するほかに、高分子化合物をバインダとして各層を形成することもできる。これに使用される高分子化合物としては、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイドなどを例示することができる。
【0059】
上述のように、従来法では堤防状その他、電極表面のレベルから突出した絶縁層を電極間に設ける必要があったが、本発明によれば、絶縁層を設けずに、または電極表面レベルと実質的に同程度以下の高さの絶縁層を設けるだけで上記有機エレクトロルミネッセンス層をそれぞれの電極上に互いに分離された状態で設けることができる。
【0060】
上記の発光層(必要であればホール輸送層及び電子輸送層法)は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、インクジェット法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法、ノズルコート法などの塗布方法により形成することが可能である。低分子化合物の場合は主として抵抗加熱蒸着法及び電子ビーム蒸着法が用いられ、高分子化合物の場合は主にインクジェット法、スピンコート法、ノズルコート法などの塗布方法が用いられる。
このように、本発明は主として塗布法で画素を形成する際に特に有効であるが、従来の絶縁層形成法に由来する画素欠陥を回避できるなどの点で、低分子蒸着法も大いに有効である。
【0061】
なお、本明細書中でインク噴射法とは、主に、塗布液を液滴状として噴射するインクジェット法と、塗布液を液柱状として吐出して塗布するノズルコート法を指す。以下にこれらの具体的な方法を記載する。
【0062】
インクジェット法は、塗布装置に取り付けた吐出ノズル先端部のノズル孔から材料(本発明の場合、有機エレクトロルミネッセンス材料)を含む溶液を微少な液滴状として基板上に噴射し、当該材料を含む層を形成する方法である。
【0063】
図4は、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程(インクジェットによる発光層塗布工程)を示す断面図である。この図に示すように、基板(S)よりも小さいインクジェット塗布装置ヘッド部(11)を用い、このヘッド部(11)を基板(S)に対して上方に配置する。ヘッド部(11)の下部に配置されたノズル(液体吐出口)(15)から塗布溶液(12)を微少液滴状として精度良く吐出し、陽極(3)上に着弾させる。液滴は着弾後、液滴の体積に従って陽極状を濡れ広がる。液滴を大きくすることで、陽極全面を覆うように着弾させることも可能である。
このようなインクジェット法は、材料として高分子系材料を用いる場合に、微細かつ容易にパターニングができることから従来よりよく用いられている。
【0064】
ノズルコート法は、塗布装置に取り付けた吐出ノズル先端部のノズル孔から材料(本発明の場合、有機エレクトロルミネッセンス材料)を含む溶液を連続吐出させて基板上に塗布し、当該材料層を含む層を形成する方法である。
【0065】
該吐出ノズルは、ノズル本体とノズル孔を有する先端部材とを備えており、先端部材の着脱は自在である。このため、予め異なる直径のノズル孔を有する先端部材を複数種類用意しておけば、塗布溶液中の有機エレクトロルミネッセンス材料の濃度、または溶媒の種類や濃度により塗布溶液の流動性が変化したり、溶液を塗布する基板の幅の寸法などにより吐出溶液の最適流量が変化したりした場合でも、ノズル本体に装着されている先端部材を取り外して塗布条件に合った直径のノズル孔を持つ先端部材に交換するだけで、ノズル孔より吐出される溶液が液滴になったり必要以上に大流量になったりすることなく、図10に示すようにヘッド部(11)より塗布溶液(12)を常に連続的な液柱状の状態に保ったまま、基板(S)と陽極(3)上に均一な状態で塗布することができる。
【0066】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法においては、このような吐出ノズル(15)を一個もしくは複数個備えた塗布ヘッドを用意し、図11に示すように吐出ノズル(15)からストライプ状に塗布液を吐出させながら、塗布ヘッドをITO基板に対して長軸方向(X軸方向)に移動させることで、ITO基板上に有機エレクトロルミネッセンス層を塗布する。
【0067】
塗布ヘッドが基板の長軸方向(X軸方向)の端まで移動したら、塗布ヘッドをITO基板に対して短軸方向(Y軸方向)に送り、折り返しの方向に塗布ヘッドを移動させる。この作業を繰り返して基板上のITO基板に順次有機エレクトロルミネッセンス材料を塗布する。
【0068】
この構成によれば、例えば、後述する参考例2のようにITO基板の幅が140μmの時にノズル孔の直径を15μmとするなど、基板の幅よりもノズル孔の直径を小さくすることで、ノズル及び基板の位置決めの際に余裕ができるので、塗布液が陽極基板上からはみ出すことなく、基板上にエレクトロルミネッセンス材料が良好な状態で吐出される。
【0069】
また、塗布装置には入力装置と表示装置とを備えていてもよい。入力装置に塗布条件を入力することにより、入力された情報に基づきノズル孔の適正直径を適宜決定し、最適なノズル直径を前記表示装置に表示するためのものである。
また、記憶装置を備えていてもよく、塗布条件と、その条件に対応したノズル孔直径の適正サイズの対応関係の情報を記憶させておくことにより、前記入力装置に塗布条件を入力するだけで、その条件に合ったノズル孔の適正直径を選択し、表示装置に表示するようにセットすれば、適正直径が容易に決定できる。
【0070】
また、ホールが発光層を通過することを抑え、発光層内で電子と効率よく再結合させる目的で、発光層の陰極側に隣接してホールブロック層を設けてもよい。このホールブロック層には発光化合物より最高被占軌道(HOMO)準位の深い化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0071】
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、発光層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には発光化合物より励起三重項エネルギーの大きな化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0072】
このようにして有機エレクトロルミネッセンス層を陽極基板上に形成した有機エレクトロルミネッセンス装置の断面模式図の例を図5に示す。従来型の絶縁層付で、かつ正孔注入層がある有機エレクトロルミネッセンス装置を図12に示した。本発明によれば絶縁層を形成することなく有機エレクトロルミネッセンス層のパターンニングを行うことが出来る。このパターンニングが有機エレクトロルミネッセンス装置の製造上、有効である理由は主として3つある。
【0073】
第一に、基板表面の撥水性を調整することで、塗布した有機エレクトロルミネッセンス化合物が不必要に濡れ広がらず隣接したパターンと重なり合わないということ、第二に、水溶性の正孔注入層を用いなくても有機エレクトロルミネッセンス化合物の単層塗布のみで発光することが出来る表面処理であること、第三に、塗布した高分子化合物が乾燥して膜になる場合、塗布した縁の部分が厚膜になる傾向が強いという性質を生かせることである。これらの性質を利用することにより、ITOのエッジ部分に成膜された有機エレクトロルミネッセンス層をより厚膜にすることが可能である。
【0074】
[陰極について]
次に、有機エレクトロルミネッセンス層に積層する陰極(図6中の5)について詳しく述べる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金などの既知の陰極材料を例示することができるが、化学的安定性を考慮すると仕事関数は2.9eV以上であることが好ましい。これらの陰極材料の成膜方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0075】
また、陰極から有機層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極バッファー層として、陰極より仕事関数の低い金属層を陰極と陰極に隣接する有機層の間に挿入してもよい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)を、アルカリ土類金属(Sr、Ba)を、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)等を挙げることができる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金または金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファー層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法などを用いることができる。陰極バッファー層の厚さは0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜10nmがより一層好ましい。
【0076】
さらに、陰極バッファー層は、上記の低仕事関数の物質と電子輸送化合物の混合物として形成することもできる。なお、ここで用いられる電子輸送化合物としては前述の電子輸送層に用いられる有機化合物を用いることができる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、本発明によるノズルコート法の他、全面塗布を行うのであれば、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレー法、などのさまざまな成膜方法を用いても良い。この場合の陰極バッファー層の厚さは0.1〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがより一層好ましい。
【0077】
このようにして完成された有機エレクトロルミネッセンス装置を図6に、従来法の装置を図13に示した。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成は図5の例に限定されず、陽極と陰極の間に順次、1)発光性高分子化合物層/電子輸送層、2)正孔輸送部位と発光部位からなる発光性高分子化合物層/電子輸送層、3)正孔輸送化合物、発光化合物、電子輸送化合物を含む発光性高分子化合物層、3)正孔輸送化合物、発光化合物を含む層、4)発光化合物、電子輸送化合物を含む層を設けた素子構成などを挙げることができる。また、図4に示した有機エレクトロルミネッセンス層は1層であるが、発光層を2層以上有していてもよい。また本明細書中においては、特に断りのない限り、電子輸送部位、正孔輸送部位、発光部位の全てあるいは一種類以上が重合してなる化合物、あるいは正孔輸送化合物、電子輸送化合物、発光化合物の全てあるいは一種類以上が混合してなる化合物を発光性高分子化合物、また層を発光性化合物層と呼ぶこととする。
【0078】
本発明は、以上に説明したような有機エレクトロルミネッセンス装置に関するものであり、また、この有機エレクトロルミネッセンス装置を備えている面発光光源、装置用バックライト、装置、照明装置、インテリア、またはエクステリア等の電子機器を含む。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げ本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。なお、以下の例においては説明の簡略化のため、材料およびそれらより形成された層を以下のように略記する。
ITO:インジウム錫酸化物(陽極)、
ELP:燐光発光性高分子(ポリ((ジ[4−(3,5−ジメチルビフェニル)]−2,6−ジメチル−4−スチリルフェニルボラン−co−N,N,N’−トリス(3−メチルフェニル)−N’−(4−ビニルフェニル)−1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル−4,4’ジアミン−co−(2−(4−ビニルフェニル)ピリジン)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)))。
【0080】
参考例1:
図3に示すように、基板(S)上にITO(酸化インジウム錫)付きの透明電極(3)をストライプ状にパターニングした。以下この基板を陽極基板と呼ぶ。陽極基板のITOのサイズは30μm、高さは1300Åであり、これらの画素が80μmピッチで連続的に配置されている。
【0081】
[基板の表面処理]
まず陽極基板の液体洗浄を行った。すなわち、市販の洗剤で超音波洗浄をし、超純水で流水洗浄を行い、陽極基板(A)を作製した。陽極基板(A)の水に対する接触角は10°であった。
液体洗浄後、乾燥させた陽極基板(A)をプラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を150Wとし、酸素プラズマを30秒間ITO基板に照射する処理を行った。
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力を300Wとし、10秒間基板を処理した。処理後の陽極基板は撥水性を示し、水に対する接触角は80°であった。こうして作製した撥水性を有する陽極基板を陽極基板(B)とした。
【0082】
下記の(1)〜(3)の各溶液をインクジェット法により陽極基板(A)及び(B)上にそれぞれ滴下し、ITO周囲への溶液の濡れ広がり状態を観察した。
(1)バイトロン:正孔注入化合物であるバイトロン(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(バイエル社製))をイソプロピルアルコールにより1:1に希釈した溶液。
(2)ELP−H:発光性化合物層を形成するための塗布溶液としてELP60mgを、アニソール(和光純薬工業製、特級)1940mgに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過した溶液。
(3)ELP−L:発光性化合物層を形成するための塗布溶液としてELP30mgを、アニソール(和光純薬工業製、特級)1970mgに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過した溶液。
【0083】
各溶液を滴下後、真空中(1torr)、室温、30分の条件で溶媒を除去した。乾燥後、成膜した膜の形状をPL顕微鏡にて観察した。図4中の(13)で示されるITO電極間の距離を1とした場合の膜の広がる距離を上記(1)〜(3)の溶液を使用した場合を比較し、結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、親水性の陽極基板(A)では上記3種類の溶液(1)〜(3)が全て濡れ広がり、隣接したITO陽極に塗布した溶液の裾野部分と接触してしまった。特に、(1)の親水性のバイトロンは隣接したITO陽極表面にまで濡れ広がり、ELPを塗布した場合では、濃度が薄い(2)のELP−Lで特にその傾向が顕著であった。
一方、撥水処理化した陽極基板(B)では、(1)の親水性のバイトロンはITO表面に球状に踏みとどまり、濡れ広がらなかった。ELPを塗布した場合では、(2)及び(3)のどちらの膜の裾の長さもピッチ間隔内に収まり、隣接したITOに塗布した溶液の裾野と接触することはなかった。
【0086】
実施例1及び比較例1:
図7に、ITO(3)がパターニングされた陽極基板(S)上に、フォトリソグラフィーによりポリイミド層をエッチングして絶縁層(14)を形成したものを示す。絶縁層の開口は30μmで、これらの画素が80μmピッチで連続的に配置されている。この基板を液体洗浄後、乾燥させ、プラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を50Wとし、酸素プラズマを5秒間ITO基板に照射する処理を行った。
【0087】
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力を300Wとし、10秒間基板を処理した。
別に用意した撥水処理せずにポリイミドを形成した基板と比較した所、処理後の絶縁層を構成するポリイミド層は水に対して95°の接触角を示すことを確認した。
こうして作製した撥水性の絶縁層を有する陽極基板を陽極基板(C)とした。
【0088】
陽極基板(C)に、参考例1に示した溶液(1)をインクジェット法により塗布し、室温にて20分間乾燥後、さらに150℃にて1時間非大気下で乾燥した。その後、参考例1に示した溶液(3)をインクジェット法により塗布し、(1)の層に積層させた。このように発光層を形成した陽極基板(C)を蒸着装置内に載置し、カルシウムを蒸着速度0.01nm/sで10nmの厚さに蒸着させた。続いて、陰極としてアルミニウムをスパッタで150nmの厚さに成膜し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0089】
同様の方法で、参考例1で作製した陽極基板(B)に、参考例1に示した溶液(3)を塗布し発光層を形成後、陰極を形成した。こうして各陽極基板(C)、(B)により作製した装置を有機エレクトロルミネッセンス装置(C),有機エレクトロルミネッセンス装置(B)とした。
各有機エレクトロルミネッセンス装置に並列して作製されている画素100個に対し、短絡などの欠陥が観察された画素の割合は、有機エレクトロルミネッセンス装置(C)では約32個、有機エレクトロルミネッセンス装置(B)では約7個であった。
【0090】
有機エレクトロルミネッセンス装置(C)及び(B)の画素を発光させて発光スペクトルを測定した結果を図14に示す。この結果から分かるように、どちらも良好な緑色発光を示した。
また、図15に有機エレクトロルミネッセンス装置(C)及び(B)の画素点灯耐久性時間を比較したグラフを示す。これらの結果は、絶縁層と正孔注入層を用いずに作成した有機エレクトロルミネッセンス装置(B)のほうが、絶縁層と正孔注入層を用いて作成した有機エレクトロルミネッセンス装置(C)に比べ、歩留まりや耐久性の向上が見込まれることを示している。
【0091】
参考例2:
図3に示すように、基板(S)上にITO(酸化インジウム錫)付きの透明電極(3)をストライプ状にパターニングした。以下この基板を陽極基板(2)と呼ぶ。陽極基板(2)のITOのサイズは巾140μm、高さは1300Åであり、これらの画素が130μmピッチで連続的に配置されている。
【0092】
[基板の表面処理]
まず陽極基板の液体洗浄を行った。すなわち、市販の洗剤で超音波洗浄をし、超純水で流水洗浄を行い、陽極基板(2A)を作製した。陽極基板(2A)の水に対する接触角は10°であった。液体洗浄後、乾燥させた陽極基板(2A)を、プラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を150Wとし、酸素プラズマを30秒間ITO基板に照射する処理を行った。
【0093】
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力300Wとし、10秒間基板を処理した。処理後の陽極基板は撥水性を示し、水に対する接触角は80°であった。こうして作製した撥水性を有する陽極基板を陽極基板(2B)とした。
【0094】
陽極基板(2A)と(2B)に発光性化合物層を形成するための塗布溶液として、参考例1で調整した溶液(3)、すなわちELP60mgを、アニソール(和光純薬工業製、特級)1940mgに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過した溶液を調製した。この溶液を陽極基板(2A)及び(2B)上にノズルコート法にて塗布した。ノズルコート法の条件は、ノズル径15um、流量180ul/min、走査速度は3m/secとし、陽極基板(2A)のみITOを一本置きに塗布した。塗布後、100℃にて15分加熱して乾燥させ、膜厚を測定したところ、膜厚は800Åであった。
【0095】
発光層溶液塗布後の基板(2A)及び(2B)に340nmの光を照射し、ELPを発光させて表面の状態をPL顕微鏡にて観察した結果を図16および図17に示す。陽極基板(2A)(図16)では明らかにELPが不均一に濡れ広がり、隣接したITOにも跨っているのに対し、陽極基板(2B)(図17)では、良好な直線状態でELP膜が形成できた。
【0096】
また、表面段差計(TENCOR社製)にて、ELP塗布後の陽極基板(2B)の表面形状をITOのストライプと直行する方向から測定した結果を図18に示した。これによると、隣接したITO間でELP層は重なり合っておらず、明らかに断線しており、またITOの縁付近では膜厚となり縁部での短絡を抑制する効果が期待できた。
【0097】
実施例2及び比較例2:
図19に、陽極基板(S)上にストライプ状にパターニングされたITO(3)の両脇に平行になるよう、フォトリソグラフィーによりポリイミド層をエッチングして絶縁層(14)を形成した。
絶縁層の開口は80μmであり、これらの画素が80μmピッチで連続的に配置されている。この基板を液体洗浄し、乾燥させてプラズマ生成装置内に装着し、装置内の圧力を1Pa、投入電力を50Wとし、酸素プラズマを5秒間ITO基板に照射する処理を行った。
【0098】
次いで、導入するガスの種類を酸素からCHF3ガスに切り替え、流量を制御して圧力を7Paとした。PEモードで投入電力300Wとし、10秒間基板を処理した。
別に用意した撥水処理せずにポリイミドを形成した基板と比較した所、処理後の絶縁層を構成するポリイミド層は水に対して95°の接触角を示すことを確認した。
こうして作製した撥水性の絶縁層を有する陽極基板を陽極基板(2C)とした。この陽極基板(2C)に、参考例1で調整した溶液(2)をノズルコート法により塗布した。このように発光層を形成した陽極基板を蒸着装置内に載置し、カルシウムを蒸着速度0.01nm/sで10nmの厚さに蒸着し、続いて、陰極としてアルミニウムをスパッタで150nmの厚さに成膜し、最後にエポキシ樹脂により封止を行った。
【0099】
同様の方法で、参考例2で作成した陽極基板(2B)に参考例1で調整した溶液(2)を塗布し発光層を形成後、陰極を形成した。
こうして各陽極基板(2C)、(2B)により作製した装置をそれぞれ有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)、有機エレクトロルミネッセンス装置(2B)とした。各有機エレクトロルミネッセンス装置に並列して作製されている画素100個に対し、短絡などの欠陥が観察された画素の割合は、有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)では約20個、(2B)では約3個であった。図20は、有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)の発光写真であるが、発光部の幅が不均一であることがわかる。
【0100】
実施例3:スパッタ法によるSiO2の塗布
DCスパッタ装置(アネルバ社製)にITO陽極基板をセットし、基板表面を1分間スパッタした。この時の条件は、ターゲットにSiO2、投入電力は0.3kw、ガスには窒素を用いてスパッタ時の圧力は1Paとした。この撥水性を有する陽極基板を陽極基板(3)とする。スパッタ処理後の陽極表面(3)の水に対する接触角は70度であった。
実施例2と同様の方法でELPをノズルコート法により塗布した後、陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス装置(3)を作成した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の方法によれば、従来法では必須であった陽極基板表面に絶縁層を形成しなくても有機エレクトロルミネッセンス発光化合物を塗布することが出来、安定で高性能な有機エレクトロルミネッセンス装置を製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】第1の絶縁層および第2の絶縁層を有する従来の有機エレクトロルミネッセンス装置の断面図である。
【図2】(a)〜(d)は図1の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法(工程)を示す。
【図3】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置に用いる基板の概略断面図である
【図4】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程(インクジェット法による発光層の塗布)を示す断面図である。
【図5】撥水処理基板を用いて有機エレクトロルミネッセンス化合物を塗布する本発明の方法により得られた基板の一部分の概略断面図である。
【図6】本発明の方法によって製造された有機エレクトロルミネッセンス装置の一部分の概略断面図である。
【図7】従来の方法による有機エレクトロルミネッセンス装置に用いられる基板の概略断面図である。
【図8】無撥水処理基板を用いる従来方法(比較例)によって有機エレクトロルミネッセンス化合物を基板に塗布して得られた基板の一部分の概略断面図である。
【図9】本発明の絶縁層の構造を表す概略断面図である。
【図10】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程(ノズルコート法による発光層の塗布)を示す断面図である。
【図11】有機エレクトロルミネッセンス化合物をノズルコート法にて塗布する際の塗布方法の概略図である。
【図12】従来の方法によって有機エレクトロルミネッセンス化合物が塗布された基板の一部分の断面を示す概略断面図である。
【図13】従来の方法によって製造された有機エレクトロルミネッセンス装置の一部分の概略断面図である。
【図14】本発明及び従来の製造方法で作製された有機エレクトロルミネッセンス装置(実施例装置B及び比較例装置C)から得られた発光スペクトルを示す。
【図15】本発明及び従来の製造方法で作製された有機エレクトロルミネッセンス素子(実施例装置B及び比較例装置C)の耐久性を示すグラフである。
【図16】本参考例2で作成した陽極基板(2A)の表面状態を表すPL顕微鏡写真。
【図17】本参考例2で作成した陽極基板(2B)の表面状態を表すPL顕微鏡写真。
【図18】本参考例2で作成した陽極基板(2B)の表面形状を表面段差計にて測定した結果。
【図19】本実施例2で作成した陽極基板(2C)の概略断面図である。
【図20】本比較例2で作成した有機エレクトロルミネッセンス装置(2C)の発光写真。
【符号の説明】
【0103】
1 第1の絶縁層
2 第2の絶縁層
3 陽極
4 発光層
5 陰極
6 発光層が薄い領域
7 開口部のエッチング残渣
8 表面起伏部のエッチング残渣
9 正孔注入層
10a 赤色の有機エレクトロルミネッセンス化合物
10b 緑色の有機エレクトロルミネッセンス化合物
10c 青色の有機エレクトロルミネッセンス化合物
11 インクジェット塗布装置ヘッド部
12 塗布溶液
13 ITO間隔
14 絶縁層
15 吐出ノズル
B 本発明による有機エレクトロルミネッセンス装置
C 従来法による有機エレクトロルミネッセンス装置
S 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を塗布することにより各電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、前記組成物を塗布することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記撥水処理が、撥水性の薄膜の形成を含む請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
撥水性の薄膜が、厚さ0.2〜30nmである請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜3000nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜80度の絶縁層を設ける請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜500nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜30度の絶縁層を設ける請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
有機エレクトロルミネッセンス層が高分子有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む層である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
撥水性の薄膜を形成する方法が、基板の表面にフッ化膜を形成する処理である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項8】
フッ化膜がフルオロカーボン系化合物を反応ガスとするプラズマ処理によって形成されるものである請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
撥水性の薄膜の表面粗さがRa値で1nm以下である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
撥水性の薄膜の表面突起高さが10nm以下である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
撥水性の薄膜を、気体状有機化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により有機薄膜として形成することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項12】
陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、薄膜を成膜した後に最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項13】
陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、気体状化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により薄膜を形成し、次いで最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項14】
撥水性の薄膜の形成方法が、基板表面をスパッタ法により処理し、SiO2の薄膜を形成する方法である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項15】
最適化処理が溶剤による洗浄処理である請求項12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項16】
陽極の表面粗さ及び突起の高さを調整するため、酸素、アルゴン、フルオロカーボンから選ばれる1または2種以上を含むガス中で高周波プラズマ処理を行う請求項12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項17】
撥水性の薄膜に対する水の接触角が30°以上である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項18】
有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷または無版印刷法で複数の電極上に塗布する請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項19】
有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、インク噴射による無版印刷法により塗布する請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項20】
有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、ノズルコート法により塗布する請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項21】
有機エレクトロルミネッセンス化合物が燐光発光性高分子化合物である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項22】
有機エレクトロルミネッセンス化合物が蛍光発光性高分子化合物または非共役系燐光発光性高分子である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項24】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法に含まれる方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置用基板。
【請求項25】
請求項23に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えている電子機器。
【請求項26】
電子機器が、面発光光源、装置用バックライト、装置、照明装置、インテリア、またはエクステリアである請求項25に記載の電子機器。
【請求項1】
複数の電極上に有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を塗布することにより各電極上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成する有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、電極間および/または電極の表面に撥水処理を施した基板を使用し、前記組成物を塗布することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
前記撥水処理が、撥水性の薄膜の形成を含む請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
撥水性の薄膜が、厚さ0.2〜30nmである請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜3000nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜80度の絶縁層を設ける請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
撥水層を形成した複数の電極の周囲に、基板表面からの厚さが0〜500nmで、電極上面から見込んだ角度が0〜30度の絶縁層を設ける請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
有機エレクトロルミネッセンス層が高分子有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む層である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
撥水性の薄膜を形成する方法が、基板の表面にフッ化膜を形成する処理である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項8】
フッ化膜がフルオロカーボン系化合物を反応ガスとするプラズマ処理によって形成されるものである請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
撥水性の薄膜の表面粗さがRa値で1nm以下である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項10】
撥水性の薄膜の表面突起高さが10nm以下である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項11】
撥水性の薄膜を、気体状有機化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により有機薄膜として形成することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項12】
陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、薄膜を成膜した後に最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項13】
陽極(表面)を高周波プラズマ処理した後、気体状化合物の高周波(RF)プラズマ処理法により薄膜を形成し、次いで最適化処理して撥水性の薄膜を形成することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項14】
撥水性の薄膜の形成方法が、基板表面をスパッタ法により処理し、SiO2の薄膜を形成する方法である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項15】
最適化処理が溶剤による洗浄処理である請求項12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項16】
陽極の表面粗さ及び突起の高さを調整するため、酸素、アルゴン、フルオロカーボンから選ばれる1または2種以上を含むガス中で高周波プラズマ処理を行う請求項12または13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項17】
撥水性の薄膜に対する水の接触角が30°以上である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項18】
有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷または無版印刷法で複数の電極上に塗布する請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項19】
有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、インク噴射による無版印刷法により塗布する請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項20】
有機エレクトロルミネッセンス化合物を含む組成物を、ノズルコート法により塗布する請求項18に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項21】
有機エレクトロルミネッセンス化合物が燐光発光性高分子化合物である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項22】
有機エレクトロルミネッセンス化合物が蛍光発光性高分子化合物または非共役系燐光発光性高分子である請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項24】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の製造方法に含まれる方法により製造した有機エレクトロルミネッセンス装置用基板。
【請求項25】
請求項23に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えている電子機器。
【請求項26】
電子機器が、面発光光源、装置用バックライト、装置、照明装置、インテリア、またはエクステリアである請求項25に記載の電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
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【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−332036(P2006−332036A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120158(P2006−120158)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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