説明

表面処理銅箔、その製造方法及び銅張積層基板

【課題】ポリイミドなどの絶縁樹脂との密着性、耐熱密着性、耐薬品性、ソフトエッチング性を満足し、工業的に優れた表面処理銅箔を提供する。更に、絶縁樹脂と銅箔との接着強度が強く、回路形成にあたっては耐薬品性を有し、レーザー加工によるビア形成後にも良好なソフトエッチング性を有する表面処理銅箔の製造方法を提供する。
【解決手段】母材銅箔に対して、表面粗さRzが1.1μm以下となる粗化処理が施され、該粗化処理表面にNi−Zn合金層が施され、前記粗化処理は、粗化処理面における幅が0.3〜0.8μm、高さが0.6〜1.8μmで、アスペクト比が1.2〜3.5で、先端が尖った凸部形状となる粗化処理で、前記母材銅箔の表面粗さRzが0.05〜0.3μm増加する範囲で施され、前記Ni−Zn合金層は、Zn含有率(wt%)が6〜30%、Zn付着量が0.08mg/dm以上である表面処理銅箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁樹脂との初期密着性、耐熱密着性、耐薬品性に優れ、回路加工性も良好であり、かつソフトエッチング処理が容易な表面処理銅箔及びその製造方法、該表面処理銅箔を用いた銅張積層基板(以下、CCLと記載することがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CCL用銅箔は、銅箔を絶縁樹脂に接合させるにあたり、その接着強度を向上させ、プリント配線板としての所要の電気特性、エッチング性、耐熱性、耐薬品性を満足させる必要がある。そのため、製箔後の銅箔(以後未処理銅箔と云うことがある)の絶縁樹脂と接合する接合表面に粗化処理を施し、更には該粗化処理を施した表面上に亜鉛(Zn)めっきやニッケル(Ni)めっき等を施し、また更には該ZnめっきやNiめっき等を施された表面上にクロメート処理等を施す等、種々の工夫が施されている。
パソコン、携帯電話やPDAの表示部である液晶ディスプレイを駆動するIC実装基板においては近時高密度化が進み、その製造過程においては正確な回路構成と、高温処理での熱安定性が要求されている。
【0003】
この要求に対応するために、正確な導電回路を形成する電解銅箔と高温で使用可能な絶縁樹脂を接着したCCLの提供の検討がなされているが、ここでの課題の一つは、銅箔と絶縁樹脂とを数百度の高温で熱接着するために、高温での銅箔と絶縁樹脂との接着強度の向上である。この課題を解決する手段として、未処理銅箔表面をZn含有合金で粗化処理する技術が例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
また、銅箔を絶縁樹脂と高温接着する手段として、絶縁樹脂と接着する未処理銅箔の表面に、モリブデンと、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンの内の少なくとも1種を含有する電解液で表面処理し、更にこのめっき層の上にNiめっき層又はZnめっき層若しくはNiめっき層+Znめっき層を設けた表面処理銅箔が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
前記特許文献1及び2に記載のZn層を含む粗化処理層は、高温において銅箔と絶縁樹脂との間で接着強度を向上させる点では効果がある。しかし、銅箔を絶縁樹脂に接着後、酸溶液によるエッチング処理で配線回路を形成し回路基板とすると、亜鉛は酸に溶け易いために銅箔と絶縁樹脂との間を接着しているZn層までが溶け出し、回路形成後の銅箔と絶縁樹脂との接着強度が極端に落ち、回路基板の使用中に配線回路(銅箔)が絶縁樹脂から剥がれる懸念がある。このような懸念を防ぐために、エッチング時間を短くし、Zn層の溶解流出を最小限に留めているが、エッチング処理に高度の技術と管理体制を必要とし、回路基板の生産性を落とすと共にコスト高を招く不利益となっている。
【0006】
このように、前記特許文献1、2に開示の粗化処理では、前記したように絶縁樹脂との接着強度、耐薬品性、エッチング性を全て満足することができず、これら特性を満す表面処理銅箔は提供されていないのが現状である。
そのため、接着強度、耐薬品性、エッチング性を全て満足するCCLは提供されていなかった。
【0007】
また、特許文献3には、銅箔の表面処理として、めっき浴にピロリン酸浴を使用してNi−Zn合金めっきを施し、該表面処理銅箔とポリイミドフィルムとからなるCCLが提案されており、ピロリン酸浴を用いることにより膜厚均一性に優れたNi−Zn合金層が得られ、回路形成後の端子部に錫めっきを行っても回路とポリイミド基材との界面に錫の潜り込み現象が起こりにくいとの開示がなされている。
しかしながら、ピロリン酸浴を用いためっきにおいては、めっき皮膜中へPが共析し、共析したPによりめっき皮膜の溶解性が高くなることが知られている。
めっき皮膜の溶解性が高くなるとエッチングによる回路形成に大きく影響し、銅箔をエッチングで回路形成した回路において端子部に錫メッキを行うと、錫めっき液の潜り込み現象(耐薬品性の劣化)を十分に防止できず、錫めっき液により表面処理層が劣化され、配線回路の密着性に悪影響を及ぼす不具合が生ずる。
【0008】
近年は回路のファインピッチ化が進んで配線回路幅が細くなっており、回路と絶縁樹脂との接合面積が減少している。このようなファインピッチの回路において錫めっき液の潜り込み現象が発生すると、回路の密着性が低下して信頼性の問題が生じるため、この錫めっき液の潜り込み現象を抑制できる銅箔が望まれている。
【0009】
ここで、ポリイミド等の薄い絶縁樹脂の両面に銅箔が設けられた銅張積層基板(以下、単に積層基板ともいう。)にサブトラクティブ法により配線パターンを形成する工程の一例を簡単に説明する。
先ず、積層基板の一方の銅箔表面(表面側)に、感光性フィルム(レジスト)を貼り付け、該感光性フィルム面に露光マスクを装着した露光装置を用い、露光光の照射によって露光マスクのパターンを感光性フィルム上に転写(投影)し、感光性フィルムのうち露光されていない部分を現像プロセスにて除去しフィルムレジストパターン(エッチングレジスト)を形成する。
次いで、フィルムレジストパターンで覆われていない(露出している)部分の銅箔をエッチング工程にて除去(蝕刻)して、表面側の配線を形成する。その後、エッチング工程で使用済みのフィルムレジストパターンを、例えばアルカリ水溶液を用いて配線(銅箔)上から除去する。
【0010】
上記と同様の工程でもう一方の面(裏面側)の銅箔にも所定の配線を施す。
上述したように表裏面に配線を形成した後、表面側配線(銅箔)と裏面側配線(銅箔)とを導通するためのブラインドビアホールを穿設する。
ブラインドビアホールの穿設は表面側に露出した絶縁樹脂にCOレーザー等のレーザーで穴を開ける。このレーザーでの穴あけ工程では穴の底(裏面側配線)に絶縁樹脂の滓(スミア)が残る。この滓を除去するために過マンガン酸カリウム溶液等の酸化性の薬剤を用いて滓を除去する(デスミア処理を行う)。
【0011】
次に、表裏の銅箔を導通させるため、形成した穴に無電解めっきや電解めっきで銅の膜(導通層)を形成する。このための前処理として、穴の底部(裏面側配線)を過酸化水素系のソフトエッチング液にて処理し、銅箔の表面処理金属を除去する。最後にソフトエッチング処理を行った穴の底部(裏面側配線)と穴あけされた銅箔(表面側配線)を電解銅めっきで導通させ、配線基板を完成させる。
なお、裏面側の銅箔に配線を形成する工程はブラインドビアホールを穿設した後に行うことも可能である。
しかしながらかかる前記工程において、スミアの除去が不十分であったり、ソフトエッチング処理時に穴の底部にめっき成分とは異なる金属が残存していると、ブラインドビアホールに施す銅めっきでの導通が不十分となったり、銅めっきが均一にされないといった不具合が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−269637号公報
【特許文献2】特開平11−256389号公報
【特許文献3】特開2005−344174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この問題につき発明者等は鋭意検討した結果、裏面側銅箔と無電解めっきで形成するブラインドビアホール内の導通層との間に問題があるとの認識に到達し、本発明に到った。
本発明の目的は、表面処理した銅箔とポリイミドなどの絶縁樹脂との初期及び熱履歴を受けた後での密着性(以下耐熱密着性ということがある)、耐薬品性に優れ、ブラインドビアホールを形成後のソフトエッチング処理におけるエッチング性を満足し、工業的に優れた表面処理銅箔を提供することである。
また、本発明の他の目的は、前記表面処理銅箔と絶縁樹脂、特にポリイミドとの接着強度が強く、回路形成にあたっては耐薬品性を有し、ソフトエッチング性を満足する銅張積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の表面処理銅箔は、母材銅箔(未処理銅箔)の少なくとも片面に対して、表面粗さRzが1.1μm以下となる粗化処理が施され、該粗化処理表面にNi−Zn合金層が施された表面処理銅箔であって、
前記粗化処理は、粗化処理面における幅が0.3〜0.8μm、高さが0.6〜1.8μmで、アスペクト比[高さ/幅]が1.2〜3.5で、先端が尖った凸部形状となる粗化処理で、前記母材銅箔の表面粗さRzが0.05〜0.3μm増加する範囲で施され、
前記Ni−Zn合金層は、式1で表される含有率(wt%)でZnが6〜30%含有し、Zn付着量が0.08mg/dm以上である。
式1 Zn含有率(wt%)=Zn付着量/(Ni付着量+Zn付着量)×100
【0015】
また、本発明の表面処理銅箔は、前記粗化処理表面の二次元表面積に対するレーザーマイクロスコープによる三次元表面積の比が3倍以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の表面処理銅箔の前記Ni−Zn合金層におけるNi付着量は、0.45〜3mg/dmであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の表面処理銅箔における前記母材銅箔(未処理銅箔)の表面粗さRaは、0.3μm以下、Rzは0.8μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の表面処理銅箔の製造方法は、母材銅箔(未処理銅箔)の少なくとも片面に対して、表面粗さRzが1.1μm以下となる粗化処理で粗化処理表面を形成し、該粗化処理表面にNi−Zn合金層を設ける表面処理銅箔の製造方法であって、
前記粗化処理面は、粗化処理面における幅が0.3〜0.8μm、高さが0.6〜1.8μmで、アスペクト比[高さ/幅]が1.2〜3.5で、先端が尖った凸部形状となる粗化処理で、前記母材銅箔の表面粗さRzが0.05〜0.3μm増加する範囲に形成し、
前記Ni−Zn合金層は、式1で表される含有率(wt%)でZnが6〜30%含有し、Zn付着量が0.08mg/dm以上となる層に形成する
製造方法である。
式1 Zn含有率(wt%)=Zn付着量/(Ni付着量+Zn付着量)×100
【0019】
更に本発明の表面処理銅箔の製造方法において、前記母材銅箔表面に施す粗化処理の粗化量(粗化処理で付着する重量)は、1mあたり3.56〜8.91g(厚さ換算:0.4〜1.0μm)であることが好ましい。
【0020】
本発明の銅張積層板は、絶縁樹脂層の片面又は両面に前記表面処理銅箔、又は前記製造方法で製造した表面処理銅箔を張り合わせてなるものである。
銅張積層板を構成する前記絶縁樹脂はポリイミドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の表面処理銅箔は、ポリイミドなどの絶縁樹脂との密着性、耐熱密着性、耐薬品性、ソフトエッチング性を満足し、工業的に優れた表面処理銅箔である。
更に本発明の銅張積層板によれば、絶縁樹脂、特にポリイミドと銅箔との接着強度が強く、回路形成にあたっては耐薬品性を有し、エッチング性を満足することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、表面処理を施す母材銅箔(未処理銅箔)は、電解銅箔、圧延銅箔何れでもよい。なお、特にこれらを区別する必要がないときは、単に銅箔または母材銅箔(未処理銅箔)と表現することがある。未処理銅箔の厚みは5μm〜35μmが好適である。銅箔の厚みが5μmより薄いと製造時に例えばシワなどが入り、薄い銅箔の製造にコストがかかり現実的ではないためである。
また、箔厚が35μmより厚い場合は、パソコン、携帯電話やPDAの表示部である液晶ディスプレイを駆動するIC実装基板等薄型・小型化の仕様から外れるため好ましくない。
【0023】
母材銅箔の表面は、絶縁樹脂(例えばポリイミド)との密着性を改善するために粗化処理と、その上に防錆を目的とした防錆処理との表面処理がなされる。本発明では表面処理として、主として銅又は銅合金からなる粗化処理と、Ni−Zn合金被膜からなる粗化処理と、その上にCr、Si等の防錆処理が施される。
銅箔とポリイミドなどの絶縁樹脂との密着性を向上させる粗化処理は、粗化粒子を粗くするほど、すなわち表面の凹凸を粗くするほど密着性は向上するが、ソフトエッチング処理でのエッチング性が悪くなる傾向にある。
【0024】
本発明では、母材銅箔(未処理銅箔)の表面に先ずRzが0.05〜0.30μm増加する粗化処理を銅又は銅合金で施し、粗化処理後のRzが1.1μm以下とした表面処理銅箔とする。ここで、表面粗さRaで表される粗化処理を0.02〜0.05μm増加する範囲で行い、粗化処理後のRaを0.35μm以下とすることが好ましい。粗化処理後の表面粗さが上記範囲に満たないと、絶縁樹脂との密着性が悪くなる一方、上記範囲を超え表面が粗くなると後述するソフトエッチング性が悪くなる。
本発明において特に、表面粗さRzが1.1μm以下とするのは、これ以上表面粗さが粗くなると後述するソフトエッチング性を悪くするためである。すなわち、表面処理銅箔の粗化処理後の表面粗さRzを1.1μm以下とすることで、ポリイミドとの密着性に優れ、ソフトエッチング性に優れた表面処理銅箔とすることができる。
なお、表面粗さRa、RzはJIS−B−0601の規定に準じて測定される値である。
【0025】
また、本発明では銅箔の粗化面は、粗化を形成する凸状の大きさが、幅0.3〜0.8μm、高さ0.6〜1.8μmの先端が尖っている形状とする。このような形状とすることで絶縁樹脂と張付ける際に絶縁樹脂に粗化処理した凹凸が食い込み易く(アンカー効果)、良好な密着性を得ることができるためである。なお、凸状の大きさにおける幅は箔表面の付け根部分を測定した長さであり、高さは箔表面から頂きまでの長さである。
また、本発明では、粗化処理面における凸部形状のアスペクト比[高さ/幅]は1.2〜3.5とする。アスペクト比[高さ/幅]を1.2〜3.5とする理由は、1.2未満では絶縁樹脂との密着性が十分でなく、アスペクト比が3.5より大きいと、粗化した凸状部分が銅箔より欠落する可能性が高くなり好ましくないからである。
【0026】
本発明において、粗化処理銅箔の少なくとも片面にNi−Zn合金を、下記の式1で示すZn含有率(wt%)が6%〜30%で、かつ、Znを0.08mg/dm以上付着させる。
式1 Zn含有率(wt%)=Zn付着量/(Ni付着量+Zn付着量)×100
【0027】
Znの付着量を規定するのは、銅箔と絶縁樹脂との耐熱密着性と銅箔の耐薬品性を改善するためであり、Ni−Zn合金中のZn含有率(wt%)が6%未満では耐熱密着性が改善されず、30%より多いと耐薬品性が悪くなり好ましくないためである。
また、Znを0.08mg/dm以上付着させる。Znを0.08mg/dm以上付着させる理由は耐熱密着性を改善するためで、0.08mg/dm未満では耐熱密着性の効果が期待できないためである。
【0028】
本発明においては、表面粗さRzが0.8μm以下の母材銅箔(未処理銅箔)に、Rzで0.05〜0.30μm増加するように粗化処理する。ここで、好ましくは母材銅箔のRaは0.03〜0.30μmのものを用い、Raが0.02〜0.05μm増加する粗化処理を施すことが好ましい。
ここで表面粗さを規定するのは、母材銅箔(未処理銅箔)のRzが0.8μmを超えると銅箔表面に対して均一に凹凸(粗化処理)が形成されず、また、増加粗化処理の範囲を規定するのは、上記範囲を外れるとソフトエッチング性に悪影響を及ぼすためである。
【0029】
また本発明では、二次元表面積に対してレーザーマイクロスコープによる三次元表面積が3倍以上となる粗化処理を施すことが好ましい。
二次元表面積に対してレーザーマイクロスコープによる三次元表面積が3倍以上となる粗化処理を施すのは、3倍未満ではソフトエッチング液が銅箔表面と接触する面積が少なく、エッチング速度が遅くなってしまうためであり、また絶縁樹脂との接触面積が少なくなることによる密着力低下が起こるためである。
【0030】
本発明において、銅箔に粗化処理を施す粗化量(粗化処理で付着する粗化粒子の重量)は、1mあたり3.56〜8.91g(厚さ換算:0.4〜1.0μm)であることが好ましい。
粗化量を1mあたり3.56〜8.91gとするのは、母材銅箔(未処理銅箔)に、Rzが0.05〜0.30μm、又はRaが0.02〜0.05μm増加する粗化粒子を付着させるのに最適な範囲となるからである。
本発明において、粗化処理銅箔の少なくとも片面にNi−Zn合金を、Ni付着量が0.45〜3mg/dm付着させることが好ましい。Niの付着量を規定するのは、耐熱密着性の改善とソフトエッチング性に影響があるためであり、Ni付着量が0.45mg/dm未満では耐熱密着性の改善がそれほど期待できず、3mg/dmより多いとソフトエッチング性に悪影響を及ぼすことが懸念されるためである。
【0031】
上記の本発明において、粗化粒子の形状およびその表面粗さ、表面積を制御することにより、表面積の増加やアンカー効果による密着性の増加、耐熱密着性の改善につながり、またレーザー加工によりブラインドビアホールを形成後、ビア底部へのデスミア処理時の粗化部への樹脂残りを低減させ、かつ表面積増加による単位あたりの防錆金属量の低減と狭い管理幅での制御が可能になり、良好なソフトエッチング性をもたらす効果が発現する。
【0032】
本発明における絶縁樹脂は特に限定されるものではないが、耐熱性や寸法安定性の観点からポリイミドであることが好ましい。ポリイミド層を構成するポリイミドは、一般的に下記一般式(化1)で表され、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。
【0033】
【化1】

【0034】
ここで、Arは芳香族環を1個以上有する4価の有機基であり、Arは芳香族環を1個以上有する2価の有機基である。即ち、Arは酸二無水物の残基であり、Arはジアミンの残基である。
【0035】
酸二無水物としては、例えば、O(CO)−Ar−(CO)Oによって表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記(化2)芳香族酸無水物残基をArとして与えるものが例示される。
【0036】
【化2】

【0037】
酸二無水物は単独で又は2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、及び4,4'−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)から選ばれるものを使用することが好ましい。
【0038】
ジアミンとしては、例えば、HN−Ar−NHによって表される芳香族ジアミン
が好ましく、下記(化3)芳香族ジアミン残基をArとして与える芳香族ジアミンが例示される。
【0039】
【化3】

【0040】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2’−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド(MABA)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、パラフェニレンジアミン(P−PDA)、1、3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、及び2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)が好適なものとして例示される。
【0041】
重合に用いる溶媒については、例えばジメチルアセトアミド、n-メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン等を挙げることができ、これらについては1種若しくは2種以上を併用して使用することもできる。また、重合して得られたポリアミド酸(ポリイミド前駆体)の樹脂粘度については、500cps〜35000cpsの範囲とするのが好ましい。
【0042】
本発明の銅張積層板のポリイミド層は、単層からなるものであっても複数層からなるものであってもよいが、フレキシブル銅張積層板の寸法安定性や、銅箔との接着強度を優れたものとするためには、複数層とすることが好ましい。
【0043】
ポリイミド層を複数層とする場合、線膨張係数(CTE)が30×10−6[1/K]以下、好ましくは1×10−6〜30×10−6[1/K]の範囲の低線膨張係数の樹脂層を主たるポリイミド層(1)とし、その片面又は両面にガラス転移温度が330℃以下のポリイミド層(2)を設けることが好ましい。
【0044】
前記ポリイミド層(2)は、線膨張係数(CTE)が30×10−6[1/K]を超え、ガラス転移温度が330℃以下にあるものを用いることが好ましく、より好ましくは、ポリイミド層(2)は、線膨張係数が30×10−6〜60×10−6[1/K]で、ガラス転移温度が200〜330℃の範囲にあるものである。
【0045】
ポリイミド層(1)のCTEが30×10−6/Kより大きいと、銅張積層板を形成した際のカールが激しくなるおそれがあり、また、寸法安定性が低下するため製品として好ましくない。ポリイミド層(1)の厚みは、全ポリイミド層の厚みの50%以上、好ましくは70〜95%であることが好ましい。
上記ポリイミド層(2)の厚みは銅箔の表面粗度(Rz)の1.2〜2.5倍の範囲が好ましい。Rzの値が1.2倍より小さいと、ポリイミド層の銅箔への充填性が不十分なため良好な接着性や信頼性が得られない。また、Rzの値が2.5倍より大きいと、ポリイミド層内での凝集破壊が発生し、接着性が低下するため好ましくない。
【0046】
ポリイミド層を形成する方法については特に限定されないが、例えば、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の樹脂溶液を、表面処理された銅箔の表面に直接塗布し、樹脂溶液に含まれる溶剤を150℃以下の温度である程度除去した後、更に、100〜450℃、好ましくは300〜450℃の温度範囲で5〜40分間程度の熱処理を行って、溶媒の乾燥及びイミド化を行うことがよい。2層以上にポリイミド層を設ける場合は、第一のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥したのち、第二のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥し、以下同様にして第三以下のポリアミド酸の樹脂溶液を順次、塗布、乾燥したのち、まとめて300〜450℃の温度範囲で5〜40分間程度の熱処理を行って、イミド化を行うことがよい。熱処理の温度が100℃より低いとポリイミドの脱水閉環反応が十分に進行せず、反対に450℃を超えると、ポリイミド層及び銅箔が酸化等により劣化するおそれがあり好ましくない。
【0047】
ポリイミド層の厚さは、6〜60μmの範囲であるのがよく、好ましくは9〜40μmの範囲である。絶縁層の厚みが6μmに満たないと、銅張積層板製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、反対に60μmを超えると銅張積層板の製造時の寸法安定性や屈曲性等において問題が生じるおそれがある。なお、複数層でポリイミド層を形成する場合には、その合計の厚みが上記範囲内になるようにすればよい。
【0048】
本発明の銅張積層板は、ポリイミド層の片面側のみに銅箔を有する片面銅張積層板であってもよいことはもちろんのこと、ポリイミド層の両面に銅箔を有する両面銅張積層板でもよい。なお、両面銅張積層板を得るためには、片面銅張積層板を形成した後、互いにポリイミド層を向き合わせて熱プレスによって圧着し形成することや、片面銅張積層板のポリイミド層に銅箔を加熱圧着し形成すること等により得ることができる。
【0049】
本発明により提供される銅張積層板は、銅箔とポリイミド層との密着性が優れ、またCOガス(炭酸ガス)レーザー等のレーザーで容易にビア形成加工できることから、エッチング、穴空け、デスミア、ソフトエッチング、めっき等の加工をおこなっても、剥がれ等の問題はなく、電子部品として高密度実装加工が可能である。
【0050】
本発明により提供される銅張積層板は、例えば、ポリイミド面から、エネルギー50〜150mJ/cm、好ましくは100〜120mJ/cmのCOレーザーを直接照射してブラインドビアホールを形成する。なお上記レーザー種等の加工条件および照射エネルギー量は上述したものに限定されるものではなく、樹脂厚みや樹脂種類により適宜、最適化した条件を選択する。また銅張積層板への穴形成方法および、穴形成後のビア底部に残存するポリイミド層の除去(デスミア処理)方法、またその後の銅メッキによる導通を取るため銅箔の防錆層および粗化層を除去するソフトエッチング処理方法については後述する実施例で説明する。
【0051】
なおブラインドビアホールとは、プリント配線板の片側のみが開口しているビアであり、社団法人日本プリント回路工業会編「プリント回路用語」等に記載されている。
【実施例】
【0052】
本発明表面処理銅箔を実施例により詳細に説明する。
(1)製箔工程
下記のめっき浴及びめっき条件で未処理電解銅箔を製造した。
(めっき浴及びめっき条件)
硫酸銅:銅濃度が50〜80g/L
硫酸濃度:30〜70g/L
塩素濃度:0.01〜30ppm
液温:35〜45℃
電流密度:20〜50A/dm
(2)粗化処理工程
下記めっき浴、めっき条件で、粗化めっき1 → 粗化めっき2 の順で表面処理し、先端が尖った凸部形状となる粗化処理を施した。
【0053】
(粗化めっき1)
硫酸銅:銅濃度が5〜10g/dm
硫酸濃度:30〜120g/dm
液温:20〜60℃
電流密度:10〜60A/dm
(粗化めっき2)
硫酸銅:銅濃度が20〜70g/dm
硫酸濃度:30〜120g/dm
液温:20〜65℃
電流密度:5〜65A/dm
【0054】
(3)Ni−Zn合金層形成工程
下記のめっき浴及びめっき条件でNi−Zn合金めっきを施した。
(Ni−Zn合金めっき浴及びめっき条件)
硫酸ニッケル:ニッケル濃度が0.1g/L〜200g/L、好ましくは20g/L〜60g/L
硫酸亜鉛:亜鉛濃度が0.01g/L〜100g/L、好ましくは0.05g/L〜50g/L
硫酸アンモニウム:0.1g/L〜100g/L、好ましくは0.5g/L〜40g/L
液温:20〜60℃
pH:2〜7
電流密度:0.3〜10A/dm
【0055】
(4)防錆処理
(Crめっき)
Ni−Zn合金めっき後、該合金層表面にCr処理、シランカップリング処理を施した。
Cr処理としては無水クロム酸を用い、該無水クロム酸を0.1g/L〜100g/Lとなる浴で、液温:20〜50℃、電流密度:0.1〜20A/dmとして処理を行った。
【0056】
(5)シラン処理
シランカップリング処理としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、0.1g/L〜10g/Lの浴とし、液温:20〜50℃にて浸漬もしくはスプレー等の方法により処理を行った。
【0057】
(6)ポリアミド層
(ポリアミド酸樹脂の重合)
合成例1.
熱電対及び攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を入れた。この反応容器に2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、ジアミン成分と等モルのピロメリット酸二無水物(PMDA)を加え、その後、約3時間撹拌を続けて重合反応を行い、固形分濃度15重量%、溶液粘度が3000cpsのポリアミド酸aの樹脂溶液を得た。ポリアミド酸aを用いてポリイミドフィルムを作成し、そのガラス転移温度を測定したところ280℃であり、線膨張係数を測定したところ55×10−6[1/K]であった。
【0058】
合成例2.
熱電対及び攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、DMAcを入れた。この反応容器に2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、ジアミン成分と等モルのピロメリット酸二無水物(PMDA)を加えその後、約3時間撹拌を続けて重合反応を行い、固形分濃度15重量%、溶液粘度が20000cpsのポリアミド酸bの樹脂溶液を得た。ポリアミド酸bを用いてポリイミドフィルムを作成し、その線膨張係数を測定したところ13×10−6[1/K]であった。
【0059】
試験片の作成
製箔した未処理銅箔に上記ポリアミド酸樹脂を各実施例に示す方法で施し試験片とした。
【0060】
測定手段、測定条件
(1)金属付着量の測定
蛍光X線((株)リガク製ZSXPrimus、分析径:35φ)にて分析した。
(2)表面粗さの測定
接触式表面粗さ測定機((株)小坂研究所製SE1700)にて測定した。
【0061】
(3)アスペクト比の算出
粗化断面(FIBやウルトラミクロトーム等にて加工)の幅・高さをSEMにて、幅は箔の付け根の部分の長さを、高さは箔の付け根から頂きまでの長さを計測し、[高さ/幅]をアスペクト比を算出した。
(4)表面積の算出
レーザーマイクロスコープ((株)キーエンス製VK8500)にて測定し、「表面積比=三次元表面積/二次元表面積」を算出した。
【0062】
(5)初期密着性の測定
テンシロンテスター(東洋精機製作所製)を使用して、幅1mmの配線を形成し、樹脂側を両面テープによりステンレス板に固定し、銅配線を90度方向に50mm/分の速度で剥離して求めた。判定基準(算出方法)は表1に示す。
【0063】
(6)耐熱密着性(熱処理後の密着強度)の測定
ポリイミドと接着後の試験片を、150℃で168時間加熱処理した後の密着性を測定した。熱処理後の密着性の判定基準は初期密着性の90%以上を合格とした。
なお、判定基準(算出方法)は表1に示す。
(7)耐薬品性(酸処理後の密着性)の測定
ポリイミドと接着後の試験片を、水:塩酸=1:1の塩酸溶液に常温で1時間浸漬し、
その後の密着性を測定した。判定基準(算出方法)は表1に示す。
【0064】
(8)ソフトエッチング性
各評価試料作成方法により作成した銅張積層板を、以下の条件によりブラインドビアホールを作成した。その後作成したビアホールの形状を100倍の光学顕微鏡で観察してビア形状および底部までの貫通状態を確認した。その後、ビア底部に残った樹脂層を以下の条件にてデスミア処理を実施し残樹脂層を除去し、銅箔表面を以下の条件でソフトエッチング処理して防錆層および粗化処理層を除去し、銅層を露出させた。銅層が露出したかどうかについてはSEM、EDXにて確認した。判定基準(算出方法)は表1に示す。
【0065】
ブラインドビアホール形成:
装置:COガスレーザー加工機(澁谷工業株式会社製)
ビア径:400μmφ
波長:9.6μm
エネルギー:約115J/cm
【0066】
デスミア処理:
膨潤:アルカリ性エチレングリコール溶液(浸漬時間3分)
エッチング:アルカリ性KMnO4水溶液(浸漬時間6分)
還元:2wt%硫酸水溶液(浸漬時間5分)
【0067】
ソフトエッチング処理:
薬液:CPE−920(三菱ガス化学株式会社製 10倍希釈)
温度:25℃
処理時間:60s、90s
【0068】
[実施例1]
表面粗さ(Ra)0.08μm、(Rz)0.58μmの母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に粗化形成後の増加粗化量が0.03μm(Ra)、0.15μm(Rz)になるような微細粗化処理を施した。このときの粗化のアスペクト比は1.4で表面積比は3.7であった。この表面にNi−Znからなる表面処理とクロメート処理層を形成し、3アミノプロピルトリメトキシシラン処理層を形成した。そのときの銅箔表面のニッケル量は0.91mg/dm、亜鉛量は0.17mg/dmであった。この銅箔上に、前記合成例1で製造したポリアミド酸aを用いて硬化後の厚みが2μmとなるように熱可塑性ポリイミド層を形成し、その上に前記合成例2で製造したポリアミド酸bを用いて硬化後の厚みが21μmとなるように低熱膨張性樹脂層を、更にその上に前記ポリアミド酸aを用いて硬化後の厚みが2μmとなるようにポリイミド層を形成し、フレキシブル片面銅張積層板を得た。
得られた銅張積層板の初期密着性は1.2kN/mであり、150℃、168h後の耐熱密着性は1.1kN/mであった。また耐薬品性試験後の密着性は1.2kN/mであった。
この銅張積層板の樹脂面に前記と同様の銅箔をラミネートプレスし、両面銅張積層板を作成し、ラミネートした銅箔面に所定のパターンを形成した後、開口部に前記のレーザー加工およびその後のデスミア処理、ソフトエッチング処理を実施した。その結果、ビア底部の樹脂残り及び防錆金属、粗化部の残渣はなく良好なビア底部性状が得られた。
これらの評価結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2〜9]
実施例1で用いたものと同じ母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に、表1に示す増加粗化量になるように微細粗化処理を施した。このときのアスペクト比、表面積比を表1に示す。この表面に表1に示す付着量のNi−Znからなる表面処理層とクロメート処理層を形成し、実施例1と同様のシラン処理層を形成した。その銅箔表面に実施例1と同様の方法でポリイミド層を形成し、その後、両面銅張積層板を得た。得られた銅張積層板の初期密着性、150℃、168h後の耐熱密着性、耐薬品性試験後の密着性、ソフトエッチング後のビア底部観察結果を表1に併記する。
【0070】
[実施例10]
表面粗さ(Ra)0.20μm、(Rz)0.85μmの母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に、表1に示す増加粗化量になるように微細粗化処理を施した。このときのアスペクト比、表面積比を表1に示す。この表面に表1に示す付着量のNi−Znからなる表面処理層とクロメート処理層を形成し、実施例1と同様のシラン処理層を形成した。その銅箔表面に実施例1と同様の方法でポリイミド層を形成し、その後、両面銅張積層板を得た。得られた銅張積層板の初期密着性、150℃、168h後の耐熱密着性、耐薬品性試験後の密着性、ソフトエッチング後のビア底部観察結果を表1に併記する。
【0071】
[比較例1]
実施例1で用いたものと同じ母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に、実施例1と同様のクロメート処理層、シラン処理層を形成した。その銅箔表面に実施例1と同様の方法でポリイミド層を形成し、その後、両面銅張積層板を形成した。得られた銅張積層板の初期密着性、150℃、168h後の耐熱密着性、耐薬品性試験後の密着性、ソフトエッチング後のビア底部観察結果を表1に併記する。
【0072】
[比較例2]
実施例1で用いたものと同じ母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に、表1に示す付着量のNi−Znからなる表面処理層とクロメート処理層を形成し、実施例1と同様のシラン処理層を形成した。その銅箔表面に実施例1と同様の方法でポリイミド層を形成し、その後、両面銅張積層板を得た。得られた銅張積層板の初期密着性、150℃、168h後の耐熱密着性、耐薬品性試験後の密着性、ソフトエッチング後のビア底部観察結果を表1に併記する。
【0073】
[比較例3〜7]
実施例1で用いたものと同じ母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に、表1に示す増加粗化量になるように微細粗化処理を施した。このときのアスペクト比、表面積比を表1に示す。この表面に表1に示す付着量のNi−Znからなる表面処理層とクロメート処理層を形成し、実施例1と同様のシラン処理層を形成した。その銅箔表面に実施例1と同様の方法でポリイミド層を形成し、その後、両面銅張積層板を得た。得られた銅張積層板の初期密着性、150℃、168h後の耐熱密着性、耐薬品性試験後の密着性、ソフトエッチング後のビア底部観察結果を表1に併記する。
【0074】
[比較例8]
実施例10で用いたものと同じ母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面に、表1に示す増加粗化量になるように微細粗化処理を施した。このときのアスペクト比、表面積比を表1に示す。この表面に表1に示す付着量のNi−Znからなる表面処理層とクロメート処理層を形成し、実施例1と同様のシラン処理層を形成した。その銅箔表面に実施例1と同様の方法でポリイミド層を形成し、その後、両面銅張積層板を得た。得られた銅張積層板の初期密着性、150℃、168h後の耐熱密着性、耐薬品性試験後の密着性、ソフトエッチング後のビア底部観察結果を表1に併記する。
【0075】
【表1】



表1に示す判断基準は各評価において、◎:良好、○:基準内、×:基準外である。
各評価項目における判断基準は以下のとおりである。
初期密着性(kN/m)
◎:1.0以上、○:0.8以上、1.0未満、×:0.8未満
耐熱密着性〔耐熱性試験後密着性(kN/m)〕
◎:0.9以上、○:0.72以上0.9未満、×:0.72未満
耐薬品性〔耐薬品試験後密着性(kN/m)〕
◎:1.0以上、○:0.8以上1.0未満、×:0.8未満
ソフトエッチング性(ソフトエッチング後のビア底部観察結果)
◎:処理時間60sで除去、○:処理時間90sで除去、×:処理時間90sで除去不可
【0076】
表1に示すように、実施例1〜実施例4は、合金組成、粗化箔粗さ、増加粗化量、アスペクト比、表面積が範囲内であるため、各評価項目が良好な範囲であった。(総合評価◎)
実施例5は、アスペクト比、表面積が基準内であるが小さめのため、ソフトエッチング性がやや劣った。(総合評価○)
【0077】
実施例6は、Ni付着量が基準内であるがやや多めのため、ソフトエッチング性がやや劣った。(総合評価○)
【0078】
実施例7は、実施例6よりNi付着量が多めのため、実施例6よりソフトエッチング処理の時間がややかかった。(総合評価○)
【0079】
実施例8は、Ni付着量が少なめのため、耐熱密着性がやや劣った。(総合評価○)
【0080】
実施例9は、増加粗化量、アスペクト比が範囲内であるが大きめであるため、ソフトエッチング性がやや劣った。(総合評価○)
【0081】
実施例10は、母材銅箔(未処理電解銅箔)の表面粗さが大きめであるため、ソフトエッチング性がやや劣った。(総合評価○)
【0082】
比較例1は、粗化処理を行わず、またNi−Zn合金層を設けていないため、ソフトエッチング性は良好であるが、他の評価項目は基準外であった。(総合評価×)
【0083】
比較例2は、Ni−Zn合金層を設けたが粗化処理を行っていないため、ソフトエッチング性が基準外であった。(総合評価×)
【0084】
比較例3は、Zn付着量が0.08mg/dm以下であるため、耐熱密着性が基準外であった。(総合評価×)
【0085】
比較例4は、Zn含有率が基準以下であるため、耐熱密着性が基準外であった。(総合評価×)
【0086】
比較例5は、Zn含有率が基準以上であるため、耐薬品性が基準外であった。(総合評価×)
【0087】
比較例6は、増加粗化量が少なく、粗化幅、粗化高さ、アスペクト比も小さいため、ソフトエッチング性が基準外であった。(総合評価×)
【0088】
比較例7は、増加粗化量、粗化幅、粗化高さが基準以上であり、ソフトエッチング性が基準外であった。(総合評価×)
【0089】
比較例8は、粗化箔粗さが基準以上であるため、ソフトエッチング性が基準外であった。(総合評価×)
【0090】
上述したように、本発明の表面処理銅箔はポリイミドとの初期密着性、耐熱密着性、耐薬品性、ソフトエッチング性を満足し、工業的に優れた表面処理銅箔である。
また、本発明の表面処理銅箔の製造方法によれば、ポリイミドとの密着性に優れ、耐薬品性、ソフトエッチング性を工業的に満足する優れた表面処理銅箔を製造することができる。
更に、本発明の銅張積層板によれば、絶縁樹脂、特にポリイミドと銅箔との接着強度が強く、回路形成にあたっては耐酸性を有し、エッチング性を満足するといった優れた効果を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材銅箔(未処理銅箔)の少なくとも片面に対して、表面粗さRzが1.1μm以下となる粗化処理が施され、該粗化処理表面にNi−Zn合金層が施された表面処理銅箔であって、前記粗化処理は、粗化処理面における幅が0.3〜0.8μm、高さが0.6〜1.8μmで、アスペクト比[高さ/幅]が1.2〜3.5で、先端が尖った凸部形状となる粗化処理で、前記母材銅箔の表面粗さRzが0.05〜0.3μm増加する範囲で施され、
前記Ni−Zn合金層は、式1で表される含有率(wt%)でZnが6〜30%含有し、Zn付着量が0.08mg/dm以上である
表面処理銅箔。
式1 Zn含有率(wt%)=Zn付着量/(Ni付着量+Zn付着量)×100
【請求項2】
粗化処理表面の二次元表面積に対するレーザーマイクロスコープによる三次元表面積の比が、3倍以上である請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記Ni−Zn合金層におけるNi付着量が0.45〜3mg/dmである請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
母材銅箔(未処理銅箔)の表面粗さRaが0.3μm以下、Rzが0.8μm以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
母材銅箔(未処理銅箔)の少なくとも片面に対して、表面粗さRzが1.1μm以下となる粗化処理で粗化処理表面を形成し、該粗化処理表面にNi−Zn合金層を設ける表面処理銅箔の製造方法であって、
前記粗化処理面は、粗化処理面における幅が0.3〜0.8μm、高さが0.6〜1.8μmで、アスペクト比[高さ/幅]が1.2〜3.5で、先端が尖った凸部形状となる粗化処理で、前記母材銅箔の表面粗さRzが0.05〜0.3μm増加する範囲に形成し、
前記Ni−Zn合金層は、式1で表される含有率(wt%)でZnが6〜30%含有し、Zn付着量が0.08mg/dm以上となる層に形成する
表面処理銅箔の製造方法。
式1 Zn含有率(wt%)=Zn付着量/(Ni付着量+Zn付着量)×100
【請求項6】
母材銅箔表面に施す粗化処理の粗化量(粗化処理で付着する重量)が、1mあたり3.56〜8.91g(厚さ換算:0.4〜1.0μm)である請求項5に記載の表面処理銅箔の製造方法。
【請求項7】
絶縁樹脂層の片面又は両面に請求項1乃至4のいずれかに記載の表面処理銅箔、又は請求項5又は6に記載の製造方法で製造した表面処理銅箔を張り合わせてなる銅張積層板。
【請求項8】
絶縁樹脂層がポリイミドからなる請求項7に記載の銅張積層板。

【公開番号】特開2011−149067(P2011−149067A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12244(P2010−12244)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】